JP5717314B2 - 潤滑油組成物 - Google Patents
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このような、鋼−DLCからなる摺動部材用としては、従来の鋼−鋼からなる摺動部材に対して使用されるものとは異なった配合処方の潤滑油組成物が要求される。例えば、有機モリブデン(Mo)化合物と脂肪族アミン系化合物を配合して、鋼−DLCからなる摺動部に使用する低摩擦剤組成物が開示されている(特許文献1参照)。この低摩擦材組成物によれば、手動変速機におけるベアリング部や、終減速機におけるサイドギヤ背面とデフケース内面間において、低摩擦係数と耐摩耗性に優れる旨が記載されている。
そこで、本発明は、DLCコーティングを施した材料と金属との摩擦システムに使用され、低摩擦係数でかつ耐摩耗性に優れる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
(1)DLCコーティング部材と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)有機Mo化合物と、(B)過塩基性Caスルフォネートを配合してなり、前記過塩基性Caスルフォネートの過塩素酸法塩基価が250〜400mgKOH/gであり、前記(A)成分が、Mo量換算かつ組成物全量基準で50〜5000質量ppm配合され、前記(B)成分が、Ca量換算かつ組成物全量基準で300〜6000質量ppm配合され、前記(A)成分のMo量換算での配合量と、前記(B)成分のCa量換算での配合量との質量比(B/A)が2以上10以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
(2)上述の(1)に記載の潤滑油組成物において、前記DLCにおける水素含有量が20原子%以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
(3)上述の(1)または(2)に記載の潤滑油組成物において、前記(A)成分がMoDTCであることを特徴とする潤滑油組成物。
(4)上述の(1)〜(3)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、前記潤滑油基油における硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上、飽和分が90質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
(5)上述の(1)〜(4)のいずれか一つに記載の潤滑油組成物において、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤および粘度指数向上剤の中から選ばれる少なくとも一種の添加剤が配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
基材にコーティングされるDLCは、主に炭素(C)によるグラファイトのsp2結合とダイアモンドのsp3結合からなり,水素(H)を若干含むアモルファス構造である。具体的には、炭素だけから成るアモルファスカーボン、水素を含有する水素アモルファスカーボン、およびチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられる。
上記DLC部材は、水素含有量が増加すると摩擦係数が増加することから、水素含有量が20原子%以下であることが好適であり、より好ましくは10原子%以下、さらに好ましくは5原子%以下、最も好ましくは0.5原子%以下である。
水素含有量の低いDLC部材を得るには、スパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素を実質的に使用しないPVD法によってコーティングすることが好ましい。なお、DLCのコーティング時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、必要に応じて反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行うことが好ましい。
なお、上記DLC部材に用いられる基材としては、例えば浸炭鋼、焼入鋼、アルミニウム等の非鉄金属などが好適に使用できる。
本発明の潤滑油組成物に用いる基油としては、鉱物油(鉱油)および合成系基油(合成油)のうち少なくともいずれかが用いられる。鉱油や合成油としては、熱安定性の観点より硫黄分(JIS K 2541準拠)が0.03質量%以下、高温での粘度の保持性の観点より粘度指数(JIS K 2284準拠)が100以上、酸化安定性の観点より飽和分(ASTM D2140準拠、%CPと%CNの合計)が90質量%以上であることが好ましい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、100℃の動粘度が2〜30mm2/sであることが好ましく、より好ましくは3〜15mm2/s、さらにより好ましくは4〜10mm2/sである。
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分として有機Mo化合物が用いられる。この有機Mo化合物としては、例えばモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)、モリブデンアミン塩およびモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などが挙げられるが、これらの中でMoDTCが摩擦係数低減効果の点で好適である。
ここで、炭素数4〜24の炭化水素基としては、例えば、炭素数4〜24のアルキル基、炭素数4〜24のアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアリールアルキル基などが挙げられる。炭化水素基の炭素数が4以上であると基油に対する溶解性が良好であり、また炭素数24以下であると良好な効果が発揮されると共に、入手も容易となる。前記R1およびR2は、たがいに同一でも異なっていてもよい。
上記炭素数4〜24のアルキル基および炭素数4〜24のアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよく、このようなものとしては、例えばn−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種イコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、オレイル基、リノレイル基などが挙げられる。また、上記炭素数6〜24のアリール基および炭素数7〜24のアリールアルキル基は、その芳香環上にアルキル基などの置換基が1個以上導入されていてもよく、このようなものとしては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ブチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ブチルフェネチル基などが挙げられる。
本発明の潤滑油組成物においては、(B)成分として、過塩素酸法塩基価が150〜500mgKOH/gである過塩基性Ca塩が配合される。この過塩基性Ca塩としては、Caスルフォネート、CaフェネートおよびCaサリシレートの中から選ばれる少なくとも一種が用いられる。
(B)成分である過塩基性Ca塩は、従来、金属系清浄剤として内燃機関用潤滑油に添加されてきたが、本発明では耐摩耗剤として作用する。しかし、過塩基性Ca塩の塩基価が150mgKOH/g未満では、DLC部材と金属部材との摺動部分に被膜が生成しにくくなり耐摩耗性が十分発揮できない。一方、塩基価が500mgKOH/gを超えると、(A)成分の効果が十分に発揮できず、耐摩耗性がむしろ悪化する。好ましい塩基価は250mgKOH/g以上であり、特に300〜500mgKOH/gが好ましい。
極圧剤としては、リン系極圧剤と硫黄系極圧剤が挙げられる。リン系極圧剤 としては、例えばリン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルアミン塩などを挙げることができる。硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑剤基油に溶解または均一に分散して、極圧剤 や優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このようなものとしては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、チオテルペン化合物、などを挙げることができる。
好ましい配合量は、極圧剤 としての効果および経済性のバランスなどの点から、組成物全量基準で0.01〜2.0質量%程度、好ましくは0.05〜1.5質量%である。
これらの油性剤 の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.1〜5質量%の範囲が特に好ましい。
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
表1に示す配合処方の潤滑油組成物(試料油)を調製した後、以下に示す摩擦試験により摩擦特性および摩耗特性を評価した。なお、テストピース基材に対してDLCコーティングを施さないものについても同様に評価を行い、参考例とした。結果を表1に示す。
ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機(オプチモール社製、SRV型)を用い、下記の条件にて、試料油の摩擦試験を行った。
(1)テストピース:
ボール材:高炭素軸受鋼 SUJ2
ディスク(基材):SUJ2に1.2μmの膜厚でDLCコーティングを施した(水素濃度:1.0原子%)
(2)振幅:6mm
(3)振動数:2Hz
(4)荷重:10N
(5)温度:40℃
(6)試験時間:120min
(7)測定項目:120min経過後の動摩擦係数および摩耗痕幅
(8)測定方法:試験片球(鋼球)を前記テストピースの上で往復させ、動摩擦係数を測定するとともに、テストピース上の摩耗痕の広がり量を顕微鏡を用いてX(横)、Y(縦)方向を測定し、平均して摩耗幅(μm)を求めた。
1)合成炭化水素(ポリ−αオレフィン)、100℃動粘度:5.6mm2/s、粘度指数:136、硫黄分:0.001質量%以下
2)A1:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC8、C13混合)
3)A2:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC8)
4)A3:MoDTC
(アルキルモリブデンジチオカーバメイト、アルキル基はC13)
5)B1:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):400mgKOH/g)
6)B2:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):250mgKOH/g)
7)B3:過塩基性Caスルフォネート
(過塩素酸法塩基価(TBN):300mgKOH/g)
8)C1:ZnDTP
表1の結果から、本発明の潤滑油組成物である実施例1〜3の組成物は、摩擦指数が低く、耐摩耗性にも優れていることがわかる。一方、比較例1は(A)成分のみを配合した例であるが、摩擦係数は低くなるものの、耐焼付き性が不足し、摩耗巾が著しく増大している。比較例2は(B)成分のみを配合した例であり、摩耗巾は若干小さくなるものの、摩擦係数が高い。比較例3は、(B)成分は配合するものの、(A)成分に代えてZnDTPを配合した例であるが、摩擦係数が高い。比較例4は(A)成分と(B)成分をともに配合せず、(A)成分と同様の目的で配合されるZnDTPを配合した例であるが摩擦係数が高い。なお、参考例として、実施例1と同じ配合処方を用いて、鋼/鋼間で摩擦試験を行ったが、摩擦係数も高く、摩耗巾も大きい。
Claims (5)
- ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティング部材と金属部材との摺動部分に使用される潤滑油組成物であって、
潤滑油基油に、(A)有機モリブデン(Mo)化合物と、(B)過塩基性Caスルフォネートを配合してなり、
前記過塩基性Caスルフォネートの過塩素酸法塩基価が250〜400mgKOH/gであり、
前記(A)成分が、Mo量換算かつ組成物全量基準で50〜5000質量ppm配合され、
前記(B)成分が、Ca量換算かつ組成物全量基準で300〜6000質量ppm配合され、
前記(A)成分のMo量換算での配合量と、前記(B)成分のCa量換算での配合量との質量比(B/A)が2以上10以下であることを特徴とする潤滑油組成物。 - 請求項1に記載の潤滑油組成物において、
前記DLCにおける水素含有量が20原子%以下であることを特徴とする潤滑油組成物。 - 請求項1または請求項2に記載の潤滑油組成物において、
前記(A)成分がMoDTCであることを特徴とする潤滑油組成物。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
前記潤滑油基油における硫黄分が0.03質量%以下、粘度指数が100以上、飽和分が90質量%以上であることを特徴とする潤滑油組成物。 - 請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物において、
極圧剤、油性剤、酸化防止剤、分散剤および粘度指数向上剤の中から選ばれる少なくとも一種の添加剤が配合されたことを特徴とする潤滑油組成物。
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