A.第1実施例:
図1,図2は本発明の一実施例としての燃料電池の構成を示す概略図である。図1は、燃料電池100が組み立てられた状態を示す概略図であり、図2は、燃料電池100の各構成部を分解して示した概略図である。なお、図2では、単セル110の各構成部を一体的に組み付ける際に設けられる接着層60の図示が省略されている。
燃料電池100は、第1と第2の反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池100は、発電モジュールである単セル110が複数個積層されたスタック構造を有する。単セル110は、膜電極接合体10と、ガス拡散部材20と、第1と第2のセパレータ30,40と、ガス通路部材50と、を備える。
膜電極接合体10は、電解質膜1の両面に第1と第2の電極2,3を配置した発電体である。単セル110では、膜電極接合体10が、第1と第2のセパレータ30,40に狭持される。第1と第2のセパレータ30,40は、金属板などの導電性を有する板状部材によって構成される。そして、第1と第2のセパレータ30,40は、プレス加工により、その外表面に、反応ガスや冷媒のための流路溝が形成されている。第1と第2のセパレータ30,40の流路溝の構成については後述する。
ガス拡散部材20は、膜電極接合体10と、第2のセパレータ40との間に介挿される、導電性を有する多孔質な板状部材であり、酸素を、膜電極接合体10の第2の電極3の全体に拡散して行き渡らせるためのガス拡散流路として機能する。なお、本実施例の燃料電池100では、ガス拡散部材20は、その外周端部の位置が、第2の電極3の外周端部の位置と、ほぼ揃うように配置されている。本実施例におけるガス拡散部材20の詳細な構成については後述する。
ここで、単セル110では、膜電極接合体10の外周全体に接着剤を配置して接着層60を設けることにより、膜電極接合体10と、第1と第2のセパレータ30,40とが、ガス拡散部材20を含めて一体化される(図1)。なお、接着層60は、単セル110において、流体の漏洩を防止するためのシール層として機能し、第1と第2のセパレータ30,40の間を電気的に絶縁する絶縁層としても機能する。単セル110における接着層60の具体的な構成については後述する。
また、単セル110には、反応ガスや冷媒のためのマニホールドMが、膜電極接合体10を囲む外周領域に、第1と第2のセパレータ30,40および接着層60を、厚み方向(積層方向)に貫通する貫通孔として形成されている。具体的に、マニホールドMとしては、水素の供給用および排出用マニホールドM1,M2、酸素の供給用および排出用マニホールドM3,M4、酸素の供給用および排出用マニホールドM5,M6が設けられる。各マニホールドM1〜M8の具体的な形成位置については後述する。
ガス通路部材50は、単セル110において、反応ガスのためのマニホールドMと、膜電極接合体10の発電領域(第1と第2の電極2,3)との間を連通するガス通路を構成する部材である。ガス通路部材50は、第1と第2のセパレータ30,40の間において、マニホールドMの近傍に配置される。単セル110では、ガス通路部材50として、水素用のガス通路部材51と、酸素用のガス通路部材52とが、それぞれの反応ガスのマニホールドM1〜M4に対応して配置される。各通路部材51,52の詳細な構成については後述する。
さらに、燃料電池100では、各単セル110の間に、マニホールドMからの流体の漏洩を防止するためのシール部材70が配置される。シール部材70は、例えば、略円形断面の無端枠状の樹脂部材によって構成できる。なお、シール部材70によって形成されるシールラインについては後述する。
このように、本実施例の燃料電池100では、接着層60によって一体的に構成された単セル110が、シール部材70を狭持した状態で積層されている。この構成により、本実施例の燃料電池100は、複数の単セル110のうち、一部の単セル110のみに不具合が生じた場合であっても、当該一部の単セル110と、シール部材70の交換によって復旧させることが可能である。また、本実施例の燃料電池100であれば、以下に説明する構成を有することにより、小型化され、劣化などの不具合の発生が抑制されている。
図3は、膜電極接合体10の詳細な構成を説明するための概略図である。電解質膜1は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す高分子薄膜である。電解質膜1としては、例えば、フッ素樹脂系のイオン交換膜を用いることができる。第1と第2の電極2,3はそれぞれ、触媒層2c,3cと、ガス拡散層2g,3gとが積層された構成を有する。
触媒層2c,3cは、燃料電池反応を促進するための触媒(例えば白金(Pt)など)が担持された層である。触媒層2c,3cは、触媒担持カーボンを、電解質膜1の外表面に付着させることにより形成することができる。
ガス拡散層2g,3gは、第1または第2の電極2,3の全体に反応ガスを拡散させて行き渡らせるための層である。ガス拡散層2g,3gは、炭素繊維や黒鉛繊維など、導電性およびガス透過性・ガス拡散性を有する多孔質の繊維基材を、触媒層2c,3cの上に重ねて配置し、ホットプレスすることにより形成することができる。
なお、本実施例の燃料電池100では、膜電極接合体10の第1の電極2が、第1の反応ガスである水素の供給を受けてアノードとして機能し、第2の電極3が、第2の反応ガスである酸素の供給を受けてカソードとして機能する。以後、本明細書では、第1と第2の電極2,3をそれぞれ「アノード2」および「カソード3」とも呼ぶ。
ここで、本実施例の膜電極接合体10では、アノード2とカソード3とが異なるサイズで構成されている。具体的には、アノード2は、電解質膜1とほぼ同じサイズで構成され、アノード2の外周端部と電解質膜1の外周端部とがほぼ揃った状態となっているのに対し、カソード3は、電解質膜1よりも小さいサイズで構成され、カソード3の外周端部は、電解質膜1の外周端部より内側に位置している。
即ち、膜電極接合体10では、カソード3の外周において電解質膜1の外表面が露出しており、カソード3の外周端部と電解質膜1の外表面とで、段差部4が形成される。こうした構成により、燃料電池100では、アノード2の端部とカソード3の端部とを離間させ、反応ガスが電気化学反応に用いられることなく、供給された側とは反対の側の電極の側へと移動してしまうクロスリークを抑制する。なお、本実施例の燃料電池100では、膜電極接合体10に、この段差部4が設けられていることにより、後述する第1の接着部61の形成が容易化されている。
図4(A)〜(C)は、本実施例におけるガス拡散部材20の構成を説明するための概略図である。図4(A)は、ガス拡散部材20の全体を示す概略斜視図であり、図4(B)は、ガス拡散部材20の構成要素である波板部23を示す概略斜視図である。なお、図4(A),(B)にはそれぞれ、三次元方向を示す矢印x,y,zが互いに対応するように図示されている。図4(C)は、単セル110にガス拡散部材20が組み付けられたときの状態を示す概略断面図である。図4(C)では、紙面右側を酸素供給用マニホールドM3側とし、紙面左側を酸素排出用マニホールドM4側として図示してある。
本実施例の燃料電池100では、ガス拡散部材20として、1枚の金属板を、切削加工および折り加工により網目状に加工した、いわゆるエキスパンドメタルを用いている。このガス拡散部材20は、複数の波板部23がz方向に並列に配置された構成を有する(図4(A))。各波板部23は、互いに連続する第1ないし第4の壁部21a,21b,21c,21dが繰り返しx方向に順に配置された構成を有する(図4(B))。
波板部23では、第1と第3の壁部21a,21cは、それらの壁面が、互いに上下にオフセットされるとともに略平行となるように配列されている。また、第1と第3の壁部21a,21cを連結する第2と第4の壁部21b、21dは、その壁面が第1と第3の壁部21a,21cの壁面に対して斜面を構成している。
そして、互いに隣り合って配列された波板部23の、それぞれの第1の壁部21aと第3の壁部21cとは、互いに連結されて、連続する壁部21e(以後、「連結壁部21e」とも呼ぶ)を構成する(図4(A))。これによって、ガス拡散部材20では、隣り合う波板部23の間に、各壁部21a〜21dの壁面を辺とする略六角形の貫通孔25が規則的に配列された状態で形成される。
単セル110では、ガス拡散部材20は、連結壁部21eの互いに対向し合う2辺がそれぞれ、膜電極接合体10のカソード3の外表面と、第2のセパレータ40の外表面とに接するように配置される(図4(C))。そして、連結壁部21eの壁面は、カソード3の外表面に対して、酸素供給用マニホールドM3側(紙面右側)が鋭角となる傾斜角を形成するように配置される。ガス拡散部材20に流入した酸素は、各貫通孔25をすり抜けて、酸素の供給側から酸素の排出側へと流れつつ、カソード3の電極面に沿った方向に拡散する。
なお、本明細書では、便宜上、ガス拡散部材20を単セル110に組み付けたときに、酸素用のマニホールドM3,M4と対向する、ガス拡散部材20の側端部側をそれぞれ、「ガス拡散部材20の入口側面側/出口側面側」と呼ぶ。また、ガス拡散部材20のカソード3の電極面と対向し合う側を「ガス拡散部材20の正面側」と呼び、第2のセパレータ40の外表面と対向し合う側を「ガス拡散部材20の背面側」と呼ぶ。
図5,図6は、第1のセパレータ30の構成を説明するための概略図である。ここで、第1のセパレータ30において、単セル110を構成したときに、膜電極接合体10が配置される側の面を「第1の面S1」と呼び、その反対側の面を「第2の面S2」と呼ぶ。図5には、第1のセパレータ30における第2の面S2側の構成を図示してある。図6には、図5に示すA−A切断における第1のセパレータ30の概略断面を図示してある。
なお、図5には、単セル110を構成したときに膜電極接合体10が配置される領域を示す膜電極接合体10の外周輪郭投影線MPLを一点鎖線で図示してある。また、図5には、燃料電池100を構成したときに、シール部材70(図1,図2)が配置されて形成されるシールラインSLを二点鎖線で図示してある。
第1のセパレータ30には、マニホールドM1〜M6を構成するための貫通孔が、膜電極接合体10の外周を囲むように配列して形成されている。なお、本明細書では、以後、燃料電池においてマニホールドを構成するために各構成部に設けられた貫通孔や流路についても、単に「マニホールド」と呼び、マニホールドと同様な符号を付すものとする。第1のセパレータ30において、各マニホールドM1〜M6は、以下のように配列されている。
水素と冷媒のそれぞれの供給用マニホールドM1,M5は互いに隣り合うように配列され、水素と冷媒のそれぞれの排出用マニホールドM2,M6も互いに隣り合うように配列されている。そして、水素と冷媒の供給用マニホールドM1,M5の組と、水素と冷媒の排出用マニホールドM2,M6の組とはそれぞれ、膜電極接合体10の互いに対向する外周二辺に沿って配列されている。酸素の供給用及び排出用マニホールドM3,M4はそれぞれ、膜電極接合体10の残余の外周二辺に沿って配列されている。
なお、水素の供給用マニホールドM1と排出用マニホールドM2とは、膜電極接合体10の発電領域を挟んで互いに対角する位置に形成されている。また、酸素用のマニホールドM3,M4は、対応する膜電極接合体10の外周二辺と同程度の幅を有する長方形形状で形成されている。各マニホールドM1〜M6の開口形状や配列は、他の構成であっても良い。
ここで、第1のセパレータ30では、各マニホールドM1〜M6の形成領域が、第1のセパレータ30の外周端部32の外表面よりも低くなるように、第1の面S1側(図6の紙面右側)に窪み、シール部材70を配置するためのシール部材配置部31を形成している。また、第1のセパレータ30では、シール部材配置部31に囲まれた中央の領域が、シール部材配置部31よりも第2の面S2側に突出し、アノード2を収容して配置するためのアノード配置部33を形成している。
さらに、アノード配置部33の第1の面S1側には、水素のための複数の並列な流路溝35(以後、「水素流路溝35」と呼ぶ)が、アノード配置部33の板面を凹凸させることにより形成されている。水素流路溝35は、水素供給用マニホールドM1側(図5の紙面左側)から水素排出用マニホールドM2側(図5の紙面右側)に向かって延びる直線状の溝として形成されている。
なお、水素流路溝35の反対側の面(第2の面S2側の面)は、第1のセパレータ30の外周端部32の外表面と同一の仮想平面上に存在しており、単セル110を構成したときに、第2のセパレータ40の板面と接触する。そして、第1のセパレータ30の第1の面S1側に水素流路溝35を形成したことにより第2の面S2側に形成される複数の並列な溝36は、燃料電池100を構成したときに冷媒のための流路として機能する。
第1のセパレータ30のシール部材配置部31には、前記したとおり、シール部材70(図1,図2)が配置される。燃料電池100が構成されたときに、シール部材70は、反応ガスのマニホールドM1〜M4のそれぞれを囲むように配置される。そして、シール部材70は、冷媒用のマニホールドM4,M5とアノード配置部33とを囲むように配置される。これによって、各単セル110同士の間には冷媒の流路空間が形成される。
このように、本実施例の燃料電池100では、シール部材70の配置空間を、第1のセパレータ30を窪ませて形成している。従って、シール部材70を配置することにより、積層方向に燃料電池100が大型化してしまうことが抑制されている。なお、シール部材70によるシール性を向上させるために、シール部材配置部31は、シールラインSLが同一の仮想平面上に存在するように平坦に形成されていることが好ましい。
図7,図8は、第2のセパレータ40の構成を説明するための概略図である。ここで、第1のセパレータ30と同様に、第2のセパレータ40において、単セル110を構成したときに膜電極接合体10が配置される側の面を「第1の面S1」と呼び、その反対側の面を「第2の面S2」と呼ぶ。
図7には、第2のセパレータ40における第1の面S1側の構成を図示してある。図8には、図7に示すA−A切断における第2のセパレータ40の概略断面を図示してある。なお、図7には、ガス拡散部材20が配置される領域EMAを一点鎖線で図示してあり、ガス通路部材50である水素通路部材51および酸素通路部材52のそれぞれが配置される領域PMA1,PMA2を二点鎖線で図示してある。
第2のセパレータ40には、反応ガスおよび冷媒のためのマニホールドM1〜M6が、第1のセパレータ30と同様な構成で形成されている。また、第2のセパレータ40の第1の面S1側には、酸素用のマニホールドM3,M4のそれぞれに並列に延びる2本の溝部41が、第2のセパレータ40の板面を凹凸させることにより形成されている。即ち、第2のセパレータ40の第2の面S2側では、流路溝41の形成部位が突出している。
これらの溝部41は、酸素用マニホールドM3,M4と平行な、ガス拡散部材20の配置領域EMAの外周二辺と重なる位置に形成されており、ガス拡散部材20に酸素を流入させるためのガス流路溝として機能する。以後、第2のセパレータ40に形成された溝部41を「酸素流路溝41」とも呼ぶ。
ここで、第2のセパレータ40の第1の面S1側には、ガス通路部材50である水素通路部材51と酸素通路部材52とが配置される。水素通路部材51は、領域PMA1として図示した位置、即ち、水素用のマニホールドM1,M2と膜電極接合体10との間であって、水素用のマニホールドM1,M2の膜電極接合体10側の端部に隣接する位置に配置される。
また、酸素通路部材52は、領域PMA2として図示した位置、即ち、酸素用のマニホールドM3,M4と膜電極接合体10との間の領域に配置される。なお、酸素通路部材52の膜電極接合体10側の一方の端部は、酸素用のマニホールドM3,M4のそれぞれの端部に隣接して配置され、他方の端部は、酸素流路溝41に重なるように配置される。
図9は、ガス通路部材50の構成を説明するための概略図である。図9(A)は、水素通路部材51の構成を示す概略斜視図であり、図9(B)は、水素通路部材51が単セル110において第1と第2のセパレータ30,40に狭持された状態を示す概略断面図である。また、図9(C)は、酸素通路部材52の構成を示す概略斜視図であり、図9(D)は、酸素通路部材52が単セル110において第1と第2のセパレータ30,40に狭持された状態を示す概略断面図である。なお、図9(B),(D)の概略断面図はそれぞれ、図8に示すX−X切断およびY−Y切断に相当する切断面を示している。
水素通路部材51および酸素通路部材52はそれぞれ、板状部材をプレス加工して、波上に凹凸させることにより形成されている(図9(A),(C))。水素通路部材51および酸素通路部材52は、単セル110に組み付けられたときに、各マニホールドM1〜M4の端部において、貫通方向に沿って突出する壁部53を形成する(図9(B),(D))。そして、各マニホールドM1〜M4と膜電極接合体10との間の複数の並列なガス通路を形成する。
ところで、水素通路部材51は、その上面51tと底面51bとが第1と第2のセパレータ30,40の両方に直接的に接触して配置される(図9(B))。従って、水素通路部材51は、第1と第2のセパレータ30,40の間の短絡を防止するために、非導電性部材で構成されることが好ましい。あるいは、水素通路部材51は、絶縁コーティングされた導電性板状部材(例えば金属板)によって形成されるものとしても良い。また、水素通路部材51を導電性板状部材で構成し、水素通路部材51と第1または第2のセパレータ30,40との間に絶縁部材を介挿・配置するものとしても良い。
一方、酸素通路部材52は、第2のセパレータ40とは直接的に接触するように配置されるが、酸素通路部材52と第1のセパレータ30との間には接着層60が形成される(図9(D))。従って、酸素通路部材52は、導電性部材によって構成されるものとしても良い。この場合には、接着層60によって、第1と第2のセパレータ30,40の間の短絡が防止される。なお、酸素通路部材52は、水素通路部材51と同様な非導電性部材によって構成されるものとしても良い。
このように、本実施例の燃料電池100では、各単セル110における反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部にガス通路部材50が配置されている。このガス通路部材50によって、各マニホールドM1〜M4の端部には、各マニホールドM1〜M4の貫通方向に沿って突出する通路壁部53が形成され、その通路壁部53が各マニホールドM1〜M4の端部を補強する支持部材として機能する。そのため、単セル110が薄型化された場合であっても、各マニホールドM1〜M4の端部の変形に起因する、反応ガスの通路入口/通路出口の閉塞や、第1と第2のセパレータ30,40同士の短絡の発生が抑制される。
図10は、単セル110に形成される接着層60の形成領域を説明するための模式図である。図10には、模式的に線画として図示された第2のセパレータ40の第1の面S1に、接着層60が形成される領域をハッチングを付して示してある。ここで、接着層60は、それぞれ接着領域と機能とが異なる第1〜第3の接着部61〜63を有する。図10では、第1〜第3の接着部61〜63の形成領域をそれぞれ異なる種類のハッチングを付して図示してある。
なお、図10には、図7と同様に、ガス通路部材50の配置領域PMA1,PMA2を二点鎖線で図示し、ガス拡散部材20の配置領域EMAを一点鎖線で図示してある。さらに、図10には、膜電極接合体10の外周輪郭投影線MPLを一点鎖線で図示してある。
接着層60のうち、第1の接着部61は、水素のマニホールドM1,M2とアノード2との間に形成される水素通路の一部を構成する部位である。第1の接着層61は、水素がカソード3へと流入することを抑制するとともに、膜電極接合体10と第2のセパレータ40とを接着する。第1の接着部61は、ガス拡散部材20の配置領域EMAの外周端と、膜電極接合体10の外周輪郭投影線MPLとの間であって、第1のセパレータ30に設けられた水素流路溝35の入口端部および出口端部が配置される領域に形成される。
第2の接着部62は、酸素のマニホールドM3,M4とカソード3との間に形成される酸素通路に酸素が流入することを抑制するとともに、膜電極接合体10と第1のセパレータ30とを接着する部位である。第2の接着部62は、酸素通路部材52の配置領域PMA2において、酸素通路部材52と、第1のセパレータ30と、膜電極接合体10の端部とを接着するように形成される。
第3の接着部63は、第1と第2のセパレータ30,40を互いに接着するとともに、単セル110の外部への流体の漏洩を防止するとともに、膜電極接合体10の端部においてクロスリークが発生することを抑制する部位である。第3の接着部63は、第1と第2の接着部61,62の形成領域と、水素通路部材51の配置領域PMA1を除く各マニホールドM1〜M6の外周の領域に形成される。
なお、第1の接着部61と第3の接着部63との間には、水素通路部材51の開口部と、第1のセパレータ30の水素流路溝35とを連結する通路を形成するための空隙部65が形成されている。また、第3の接着部63は、膜電極接合体10の四隅の表面を被覆するように形成されており、水素の流路と酸素の流路とを分離する。
図11(A),(B)は、燃料電池100における水素の流れを説明するための模式図である。図11(A),(B)にはそれぞれ、図10に示すA−A切断およびB−B切断に相当する切断面における燃料電池100の概略断面と、水素の流れを示す矢印とを図示してある。なお、水素供給用マニホールドM1および水素排出用マニホールドM2における水素の流れは、図11(A),(B)に図示された方向とは反対の方向であっても良い。
水素供給用マニホールドM1に供給された水素は、各単セル110の水素通路部材51によって形成された水素通路へと分岐流入し、水素通路部材51から接着層60における空隙部65へと流れる(図11(A))。そして、水素は、膜電極接合体10のカソード3及びガス拡散部材20の端部を閉塞するように形成された第1の接着部61の外表面に沿って流れ、第1のセパレータ30に設けられた水素流路溝35に流入する。
水素は、水素流路溝35を介して膜電極接合体10のアノード2へと流れ、発電反応に用いられる。発電反応に用いられることのなかった水素を含む排ガスは、水素流路溝35に沿って下流側へと流れ、接着層60の空隙部65を経て、水素通路部材51の流路へと流入し、水素排出用マニホールドM2へと排出される。(図11(B))。
図12(A),(B)は、燃料電池100における酸素の流れを説明するための模式図である。図12(A),(B)にはそれぞれ、図10に示すC−C切断およびD−D切断に相当する切断面における燃料電池100の概略断面と、酸素の流れを示す矢印とを図示してある。なお、酸素供給用マニホールドM3および酸素排出用マニホールドM4における酸素の流れは、図12(A),(B)に図示された方向とは反対の方向であっても良い。
酸素供給用マニホールドM3に供給された酸素は、各単セル110の酸素通路部材52によって形成された酸素通路へと分岐流入する(図12(A))。そして、酸素通路部材52の酸素は、ガス拡散部材20の入口側面側からガス拡散部材20へと流入するとともに、第2のセパレータ40に形成された酸素流路溝41を介して、第2のセパレータ40側である背面側からガス拡散部材20へと流入する。
酸素は、ガス拡散部材20において、膜電極接合体10のカソード3の電極面に沿った方向に拡散しつつ下流側へと流れるとともに、カソード3へと流入して発電反応に用いられる。発電反応に用いられることのなかった酸素や、発電反応によって生じた水分を含む排ガスは、ガス拡散部材20を介して、酸素排出用マニホールドM4側へと流れる(図12(B))。なお、ガス拡散部材20の排ガスは、出口側面側から直接、酸素通路部材52へと流出するか、または、背面側から酸素流路溝41を介して酸素通路部材52へと流出する。
図13(A),(B)は、第2のセパレータ40に設けられた酸素流路溝41の機能を説明するための模式図である。図13(A)には、本実施例における他の構成例として、酸素流路溝41が省略された第2のセパレータ40と、カソード3とにガス拡散部材20が狭持された状態を図示してある。一方、図13(B)には、本実施例と同様な構成例として、酸素流路溝41が設けられた第2のセパレータ40と、カソード3とにガス拡散部材20が狭持された状態を図示してある。
第2のセパレータ40において酸素流路溝41が省略された場合には、酸素は、ガス拡散部材20に対して、その入口側面側からのみ流入することになる(図13(A))。しかし、ガス拡散部材20は、連結壁部21eの壁面が、その酸素の流入方向に面するように配置されている。そのため、この構成例では、酸素がガス拡散部材20に流入する際の圧力損失が比較的高くなる。これは、ガス拡散部材20の出口側についても同様である。
これに対して、第2のセパレータ40に酸素流路溝41が設けられている場合には、酸素は、ガス拡散部材20に対して、酸素流路溝41を介して、その背面側からも流入可能となる(図13(B))。ここで、ガス拡散部材20の貫通孔25を囲む壁面は、第2のセパレータ40の外表面に対して傾斜角を有して配置されており、ガス拡散部材20は、第2のセパレータ40の外表面側に向かって開口するように配置されているものと解釈することができる。
即ち、第2のセパレータ40に酸素流路溝41が設けられていれば、ガス拡散部材20に対して、酸素を、その入口側面側からの導入に加えて、その開口方向に沿った方向から導入することが可能となる。従って、この構成例の場合には、酸素がガス拡散部材20に流入する際の圧力損失を低くすることができる。これは、ガス拡散部材20の出口側についても同様である。
このように、本実施例の燃料電池100では、第2のセパレータ40に酸素流路溝41が設けられているため、燃料電池100内における酸素の圧力損失を低下させることができる。従って、燃料電池100におけるカソード3への酸素の供給効率を向上させることができるとともに、カソード3側における排水性を向上させることができる。
また、本実施例の燃料電池100では、第2のセパレータ40の酸素流路溝41は、燃料電池100を構成したときに、第1のセパレータ30の水素流路溝35と互いに勘合し合うように形成されている。即ち、本実施例の燃料電池100では、その積層方向に垂直な方向に沿ってみたときに、水素/冷媒の流路溝と、酸素の流路溝とが互いに重なり合う。さらに、燃料電池100では、それら流体の流路溝と、シール部材70の配置される空間とが互いに重なり合う。このように、本実施例の燃料電池100では、単セル110同士の間に形成される空間が、流体流路やシール部材の配置領域として効率的に利用されており、そのサイズが積層方向に大型化してしまうことが抑制されている。
図14(A)〜(F)は、本実施例の単セル110の組み立て工程を説明するための模式図である。本実施例の単セル110は、膜電極接合体10を第1と第2のセパレータ30,40で狭持して、接着層60によって一体化した後に、打ち抜き工程によって、各マニホールドM1〜M8を形成する。具体的には、単セル110は、以下のように組み立てられる。
なお、図14(A)〜(F)には、水素と酸素の供給用マニホールドM1,M3側の端部領域を図示してあり、以下では、その領域における工程について説明する。しかし、図示されていない水素と酸素の排出用マニホールドM2,M4側の端部領域についても、工程の内容は同様である。また、図14(A)〜(D)では、後続する打ち抜き工程によってマニホールドM1,M3が形成される領域を破線で図示してある。
第1工程では、第2のセパレータ40の外表面上にガス拡散部材20と膜電極接合体10とを積層配置し、カソード3の側端面と、ガス拡散部材20の側端部に、速乾性の液状接着剤を塗布して、第1の接着部61を形成する(図14(A))。即ち、この工程では、第2のセパレータ40と、膜電極接合体10と、ガス拡散部材20とが一体化される。そして、水素通路部材51を所定の位置に配置するとともに、酸素通路部材52を所定の位置に配置する(図14(B))。
なお、この際に、水素通路部材51および酸素通路部材52は、それぞれの端部が、マニホールドM1〜M4の形成領域内に配置されることが好ましい。このように配置することによって、マニホールドMの打ち抜き工程の際に、第1と第2のセパレータ30,40の端部が変形してしまうことを、より確実に抑制することができる。
第2工程では、第2と第3の接着部62,63の形成領域に速乾性の液状接着剤を塗布しつつ、第1のセパレータ30を膜電極接合体10の上に積層配置する(図14(C),(D))。なお、このとき、第3の接着部63を形成するための接着剤は、マニホールドMの形成領域まで、はみ出して塗布されることが好ましい。これによって、マニホールドMの外周領域には、第1と第2のセパレータ30,40の間に確実に接着層60が配置されることになるため、短絡を抑制できる。第3工程では、接着剤が乾燥した後に、各マニホールドM1〜M8を打ち抜き工程により形成する(図14(E),(F))。
なお、本実施例の単セル110の組み立て工程は、上記の工程に限定されるものではない。例えば、マニホールドM1〜M6は、上記のような打ち抜き工程によって形成されなくとも良い。具体的には、マニホールドM1〜M6を構成する貫通孔が予め形成された第1と第2のセパレータ30,40を準備しておき、それら第1と第2のセパレータ30,40によって膜電極接合体10を狭持した後に、接着層60を形成するものとしても良い。
ここで、本実施例の燃料電池100では、上述したように、各マニホールドM1〜M8の打ち抜き工程において第1と第2のセパレータ30,40の端部が変形してしまうことが、当該端部に配置されたガス通路部材50によって抑制される。また、本実施例の燃料電池100であれば、以下に説明する参考例の燃料電池100aの製造工程において、各マニホールドM1〜M8を上述したのと同様な打ち抜き工程によって形成する場合に発生する可能性のある不具合が抑制される。
図15(A),(B)は、参考例としての燃料電池100aの構成を説明するための概略図である。図15(A)は、水素供給用マニホールドM1とアノード2との間における水素通路の構成を示す、図11(A)と同様な概略断面図である。図15(B)は、酸素供給用マニホールドM3とカソード3との間における酸素通路の構成を示す、図12(A)と同様な概略断面図である。
参考例の燃料電池100aは、複数の単セル110aが積層された積層構造を有する。各単セル110aの構成は、マニホールドMと膜電極接合体10との間に形成されるガス通路の構成が異なる点以外は、本実施例の単セル110の構成とほぼ同様である。なお、参考例の燃料電池100aでは、排出側のガス通路の構成は、以下に説明する供給側のガス通路の構成と同様であるため、その図示および説明は省略する。
参考例の燃料電池100aでは、水素供給用マニホールドM1とアノード2との間の水素通路は、板状部材である第1のシーリングプレート55(「水素シーリングプレート55」とも呼ぶ)によって形成される(図15(A))。水素シーリングプレート55は、膜電極接合体10のアノード2側とカソード3側とを分離するとともに、水素通路の底面を構成する。
水素シーリングプレート55は、一方の端部の外表面が、電解質膜1の端部におけるカソード3側の外表面と面接触し、他方の端部の端面が水素供給用マニホールドM1の壁面を構成するように、第2のセパレータ40の表面と並行に配置される。また、水素シーリングプレート55は、カソード3の端部から突出した電解質膜1の外表面の一部が第1の接着部61aと直接的に接触するように、カソード3から離間して配置される。
なお、第1のセパレータ30のシール部材配置部31には、水素の流路空間が確保されるように、水素シーリングプレート55を保持する保持部37が、水素シーリングプレート55側に突出した複数の凸部として形成されている。保持部37は、シール部材70が配置位置からずれた位置において第1のセパレータ30をプレス加工することにより形成される。
水素シーリングプレート55と第2のセパレータ40との間には、第1の接着部61aが形成される。第1の接着部61aは、ガス拡散部材20の端部とカソード3の端面とをシールするシール部として機能する。また、第1の接着部61aの側面は、水素供給用マニホールドM1の壁面の一部を構成する。
水素供給用マニホールドM1から供給された水素は、水素シーリングプレート55と第1のセパレータ30との間の空隙として形成された水素通路に分岐流入する。そして、保持部37をすり抜けて、第1のセパレータ30に設けられた水素流路溝35を介して、アノード2へと供給される。なお、アノード2側の排ガスは、水素シーリングプレート55によって、供給側と同様に形成された水素通路を介して、水素排出用マニホールドM2へと排出される(図示は省略)。
参考例の燃料電池100aでは、酸素供給用マニホールドM3とカソード3との間の酸素通路は、板状部材である第2のシーリングプレート56(「酸素シーリングプレート56」とも呼ぶ)と、ガス拡散部材20とによって形成される(図15(B))。なお、この参考例の燃料電池100aでは、第2のセパレータ40に酸素流路溝41は設けられていない。
参考例の燃料電池100aでは、ガス拡散部材20の配置領域は、カソード3の外周端を超えて、第1と第2のセパレータ30,40の酸素供給用マニホールドM3まで延長されている。即ち、ガス拡散部材20の入口側面側の端部が、酸素供給用マニホールドM3と直接的に接続されている。
酸素シーリングプレート56は、その端面がカソード3の端面と面接触するように配置される。また、酸素シーリングプレート56は、ガス拡散部材20のカソード3の外周端部より突出した正面側を被覆するように配置される。ただし、酸素シーリングプレート56の酸素供給用マニホールドM3側の一辺は、第1と第2のセパレータ30,40の酸素供給用マニホールドM3より内側(膜電極接合体10側)に位置している。これによって、ガス拡散部材20の酸素供給用マニホールドM3側の端部は、その正面側が酸素供給用マニホールドM3に向かって露出する。
酸素シーリングプレート56と第1のセパレータ30との間には、第2の接着部62aが形成される。第2の接着部62aは、酸素供給用マニホールドM3の酸素がアノード2へと流入しないように、膜電極接合体10の端面をシールするように形成される。
酸素供給用マニホールドM3に供給された酸素は、酸素供給用マニホールドM3内に露出しているガス拡散部材20の端部に、その入口側面側および正面側から流入し、カソード3へと供給される。ところで、この参考例の燃料電池100aでは、酸素は、酸素供給用マニホールドM3に、膜電極接合体10のカソード3側(図15(B)の紙面下側)から供給されることが好ましい。これによって、ガス拡散部材20への酸素の流入量を増大させることができる。カソード3側の排ガスは、ガス拡散部材20の端部から直接的に、酸素排出用マニホールドM4へと排出される(図示は省略)。
図16(A)〜(F)は、参考例の単セル110aの組み立て工程を説明するための模式図である。参考例の単セル110aは、本実施例の単セル110と同様に、膜電極接合体10と第1と第2のセパレータ30,40とを接着層60によって一体化した後の打ち抜き工程によって、各マニホールドM1〜M6が形成される。具体的には、単セル110aは、以下のように組み立てられる。
なお、図16(A)〜(F)には、水素と酸素の供給用マニホールドM1,M3側の端部領域を図示してあり、以下では、その領域における工程について説明する。しかし、図示されていない水素と酸素の排出用マニホールドM2,M4側の端部領域についても、工程の内容は同様である。また、図16(A)〜(D)では、後続する打ち抜き工程によってマニホールドM1,M3が形成される領域を破線で図示してある。
第1工程では、第2のセパレータ40の外表面上にガス拡散部材20と膜電極接合体10とを積層配置するとともに、膜電極接合体10の上に第1のセパレータ30を積層配置する(図16(A),(B))。このときに、各シーリングプレート55,56も所定の位置に配置しておく。第1または第2のセパレータ30,40と各シーリングプレート55,56の間には、各シーリングプレート55,56を保持するための部材が配置されるものとしても良い。
なお、水素供給用マニホールドM1側の端部では、水素シーリングプレート55は、その一辺が水素供給用マニホールドM1の形成領域内に配置されることが好ましい。また、酸素供給用マニホールドM3側の端部では、ガス拡散部材20の端部が、酸素供給用マニホールドM3の形成領域内にまで突出して配置されていることが好ましい。
第2工程では、速乾性の液状接着剤によって接着層60を形成する。水素供給用マニホールドM1側の端部では、水素シーリングプレート55と、第2のセパレータ40との間(第1の接着部61aの形成領域)から接着剤を充填する(図16(C))。そして、そのまま連続して、水素供給用マニホールドM1の形成領域も含む第1と第2のセパレータ30,40の間の空間に接着剤を充填する。
また、酸素供給用マニホールドM3側の端部では、酸素シーリングプレート56と第1のセパレータ30との間(第2の接着部62aの形成領域)に接着剤を充填する(図16(D))。そして、第1と第2のセパレータ30,40の間(第3の接着部63の形成領域)にも、接着剤を充填する。なお、このとき、接着剤は、酸素供給用マニホールドM3の形成領域にはみ出して塗布されることが好ましい。
第3工程では、接着剤が乾燥した後に、各マニホールドM1〜M8を打ち抜き工程により形成する(図16(E),(F))。こうした一連の工程によって、参考例の単セル110aを組み立てることができる。しかし、この参考例の単セル110aの組み立て工程では、接着層60を形成するための接着剤の塗布工程において、以下のような不具合が発生してしまう可能性がある。
図17(A)〜(D)は、参考例の単セル110aの組み立て工程において生じる不具合を説明するための模式図である。なお、図17(A)〜(D)にはそれぞれ、重力方向を示す矢印Gを図示してある。なお、以下の説明では、水素および酸素の供給用マニホールドM1,M3側の端部についてそれぞれ説明するが、排出用マニホールドM2,M4側の端部についても同様の不具合が生じる可能性がある。
図17(A)は、第2のセパレータ40側を重力方向下側として、水素供給用マニホールドM1側の端部に接着層60を形成する際に不具合が生じた状態を模式的に示している。また、図17(B),(C)はそれぞれ、第1のセパレータ30側を重力方向下側として、水素供給用マニホールドM1側の端部に接着層60を形成する際に不具合が生じるメカニズムを段階的に示している。
図16(C)で説明したように、水素供給用マニホールドM1側の端部では、水素シーリングプレート55と第2のセパレータ40の間の空間と、第1と第2のセパレータ30,40の間の空間に連続して接着剤が塗布・充填される。このとき、第2のセパレータ40を重力方向下側とした場合には、第1と第2のセパレータ30,40の間に接着剤を充填する際に、水素シーリングプレート55と第1のセパレータ30との間の空間に接着剤が流入してしまう可能性がある(図17(A))。即ち、水素供給用マニホールドM1とアノード2との間の水素通路の入口が接着剤によって狭小化または閉塞されてしまう可能性がある。
また、第1のセパレータ30を重力方向下側として接着剤を充填する場合には、水素シーリングプレート55と第1のセパレータ30との間の段差において、接着剤が途切れてしまう可能性がある(図17(B))。接着剤が途切れてしまった後に、続けて接着剤を充填していくと、接着剤の一部が、水素シーリングプレート55と第1のセパレータ30との間の空間に流入するとともに、第2のセパレータ40側に空隙が生じてしまう可能性がある。即ち、この場合には、水素通路入口の狭小化または閉塞とともに、第2のセパレータ40と接着層60との間に生じた空隙を起点とした水素の漏洩経路が生じてしまう可能性がある。
図17(D)は、第2のセパレータ40側を重力方向下側として、酸素供給用マニホールドM3側の端部に接着層60を形成する際に不具合が生じた状態を模式的に示している。図16(D)で説明したように、酸素供給用マニホールドM3側の端部では、酸素シーリングプレート56と第1のセパレータ30の間の空間に接着剤が充填される。このとき、酸素シーリングプレート56の面上から、ガス拡散部材20へと接着剤が流動してしまう可能性がある。この場合には、ガス拡散部材20の正面側端部が接着剤によって閉塞されてしまうため、単セル110aを構成したときに、ガス拡散部材20の入口における酸素の圧力損失が増大してしまう。
しかし、本実施例の単セル110であれば、参考例の単セル110aの場合ほど接着剤を連続的に長い距離で塗布・充填したりする部位がない(図14)。また、ガス流路の入口を構成する段差を介して連続して接着剤を塗布する部位もない。そのため、本実施例の単セル110であれば、接着層60を形成するための接着剤の塗布量を低減するとともに、その塗布工程をより簡易化することができ、図17で説明したような接着剤による不具合が生じることを抑制することができる。
このように、本実施例の燃料電池100であれば、単セル110やシール部材70が交換可能に構成されているため、そのメンテナンス性が向上している。また、凹凸加工によって流体流路が形成された単層のセパレータ30,40を用いることにより、単セル110が薄型化されている。さらに、燃料電池100では、その積層方向に垂直な方向に沿ってみたときに、ガス流路や冷媒流路、シール部材の配置空間が互いに重なり合うように構成されており、その全体のサイズが小型化されている。
そして、本実施例の燃料電池100では、各単セル110の反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部に、補強部としても機能する壁部を有するガス通路部材50が配置されている。このガス通路部材50によって、第1と第2のセパレータ30,40の端部の変形が抑制され、反応ガスの流路入口や流路出口の閉塞や、短絡の発生が抑制される。また、本実施例の燃料電池100であれば、接着層60を形成するための接着剤の塗布量が低減され、接着剤の塗布工程を簡易化することができる。
B.第2実施例:
図18,図19は本発明の第2実施例としての燃料電池100Aに用いられる第2のセパレータ40Aの構成を説明するための概略図である。図18には、第2のセパレータ40Aにおける第1の面S1側を図示してある。また、図19(A),(B)にはそれぞれ、図18に示すA−A切断およびB−B切断における第2のセパレータ40Aの概略断面を図示してある。なお、図18には、ガス拡散部材20が配置される領域EMAを一点鎖線で図示してある。
ここで、第2実施例の燃料電池100Aは、以下に説明する点以外は、第1実施例で説明した燃料電池100と同様な構成である。燃料電池100Aでは、第2のセパレータ40に換えて、第2のセパレータ40Aが用いられ、反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部には、ガス通路部材50に換えて、シーリングプレート55,56が配置される。そして、接着層60における接着剤の塗布領域が異なる。
第2のセパレータ40Aは、以下に説明する点以外は、第1実施例で説明した第2のセパレータ40(図7)と同様な構成であり、反応ガスや冷媒のためのマニホールドM1〜M6が貫通孔として形成されるとともに、酸素流路溝41が形成されている。また、第2のセパレータ40Aには、プレス加工により、第1の面S1側に突出させた部位が以下のように形成されている。
第2のセパレータ40Aでは、水素の供給用および排出用マニホールドM1,M2のそれぞれと膜電極接合体10の配置領域との間に、水素通路を構成する並列な水素通路壁42が形成されている。また、酸素の供給用および排出用マニホールドM3,M4のそれぞれと膜電極接合体10の配置領域との間には、酸素通路を構成する並列な酸素通路壁43が形成されている。
さらに、第2のセパレータ40Aには、接着層60を形成するために接着剤を塗布する領域を突出させた接着剤塗布部44が形成されている。接着剤塗布部44は、第2のセパレータ40Aの第1の面S1において、以下の領域を囲むように形成されている。接着剤塗布部44は、水素の供給用および排出用のマニホールドM1,M2のそれぞれの形成領域を、水素通路壁42の形成領域を含めて囲むように形成されている。
また、接着剤塗布部44は、酸素用のマニホールドM3,M4の形成領域と、酸素通路壁43の形成領域と、ガス拡散部材20の配置領域EMAとを一つの領域として囲むように形成されている。さらに、接着剤塗布部44は、冷媒の供給用および排出用マニホールドM5,M6の形成領域をそれぞれ囲むように形成されている。
なお、接着剤塗布部44の各通路壁42,43の形成領域と隣り合う端部には、各通路壁42,43の上に配置されるシーリングプレート55,56(後述)を係止して配置するために窪ませた段差部45が設けられている。また、第2のセパレータ40Aには、第1実施例の単セル110の接着層60に形成されていた空隙部65(図10)に相当する部位に、水素のための流路溝46が、接着剤塗布部44に挟まれた溝部として形成されている。
ここで、接着剤塗布部44は、第2のセパレータ40Aにおける第1の面S1側の面(以後、「接着剤塗布部44の上面」と呼ぶ)全体が、同一の仮想平面上に存在するように形成されている(図19)。また、各通路壁42,43の高さは、それらの上に配置されるシーリングプレート55,56の厚みの分だけ、接着剤塗布部44より低く形成されている。
また、第2実施例における第2のセパレータ40Aには、第1の面S1側に、通路壁42,43や接着剤塗布部44が凸部として設けられたことにより、第2の面S2側に形成された凹部に樹脂部材47が充填されている。これによって、第2のセパレータ40Aの第2の面S2側は、酸素流路溝41のために突出している部位以外は、平坦な面となるように構成されている。
なお、燃料電池100Aでは、各単セル110Aの間に配置されるシール部材70は、この樹脂部材47によって平坦化された面と、第1のセパレータ30のシール部材配置部31の底面とに狭持される。従って、第2のセパレータ40Aの基材に上述した凹凸部が形成されることによって、燃料電池100Aにおけるシール性が低下してしまうことが抑制されている。
図20,図21は、第2実施例の燃料電池100Aの構成を説明するための概略図である。図20(A)は、図18に示すX−X断面に相当する部位における燃料電池100Aの概略断面図である。また、図20(B)は、図20(A)に示すB−B切断における燃料電池100Aの概略断面図である。
図21(A)は、図18に示すY−Y断面に相当する部位における燃料電池100Aの概略断面図である。また、図21(B)は、図21(A)に示すB−B切断における燃料電池100Aの概略断面図である。
燃料電池100Aでは、第2のセパレータ40Aに設けられた水素通路壁42および酸素通路壁43の上にそれぞれ、板状部材である水素シーリングプレート55および酸素シーリングプレート56が架設配置される。各シーリングプレート55,56は、その端部が、接着剤塗布部44に設けられた段差部45に係止されることにより、その外表面が接着剤塗布部44の上面と連続した一平面を形成する。
そして、燃料電池100Aでは、各シーリングプレート55の外表面と、接着剤塗布部44の上面とにそれぞれ接着剤が塗布されて接着層60が形成される。これによって、第1と第2のセパレータ30,40Aと、膜電極接合体10とが一体化される。なお、接着塗剤布部44に設けられ段差部45によって、接着剤の塗布工程の際に、接着剤塗布部44の上面とシーリングプレート55,56との境界から、ガス通路内に接着剤が流入してしまうことが抑制されている。
ここで、水素供給用マニホールドM1に供給された水素は、水素通路壁42と水素シーリングプレート55によって形成された水素通路に流入する。そして、第2のセパレータ40Aに設けられた流路溝46を介して、第1のセパレータ30の水素流路溝35へと流れて、アノード2に供給される(図20(A))。アノード2側の排ガスは、第1のセパレータ30の水素流路溝35から第2のセパレータ40Aの流路溝46を経て、水素通路壁42と水素シーリングプレート55によって形成された水素通路へと流れて、水素排出用マニホールドM2から排出される(図示せず)。
一方、酸素供給用マニホールドM3に供給された酸素は、酸素通路壁43と酸素シーリングプレート56によって形成された酸素通路に流入する。そして、ガス拡散部材20へと流入し、カソード3に供給される(図21(A))。カソード3側の排ガスは、ガス拡散部材20から、酸素通路壁43と酸素シーリングプレート56によって形成された酸素通路を介して、酸素排出用マニホールドM4から排出される(図示せず)。
このように、第2実施例の燃料電池100Aであれば、第2のセパレータ40Aをプレス加工することにより、反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部の補強部としても機能する通路壁42,43が形成されている。従って、第1と第2のセパレータ30,40Aにおける反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部の変形が抑制される。
また、第2実施例の燃料電池100Aでは、第2のセパレータ40Aの接着剤塗布部44が突出している分だけ接着層60の厚みが、第1実施例の場合より低減されている。また、接着剤が塗布される接着剤塗布部44の上面と、シーリングプレート55,56の外表面とが、単一の仮想平面上にあり、接着剤の塗布が、より容易になっている。さらに、第2実施例の燃料電池100Aでは、第2のセパレータ40Aの第2の面S2側の凹部に樹脂部材47が充填されることにより、第2のセパレータ40Aの第1のシール面の平滑性が確保されている。
C.参考例:
図22は、参考例として、第1実施例で説明したガス通路部材50の他の形成方法を説明するための模式図である。この参考例では、以下に説明する工程により、単セル110の製造工程において、第1のセパレータ30を構成する基材の一部を用いて水素通路部材51が形成される。なお、以下の説明では、水素供給側の水素通路部材51の形成方法について説明するが、水素排出側の水素通路部材51についても同様に形成することが可能である。また、酸素通路部材52についても、同様な工程により形成することが可能である。
第1工程(図22(A))では、単セル110に組み付けられる前の第1のセパレータ30の基材に対して、水素供給用マニホールドM1の形成領域(破線で図示)の外周輪郭線を構成する4辺のうちの連続する3辺に沿って切れ込み(厚み方向に貫通する切断線)を入れる。なお、図22(A)では、当該切れ込みによって形成された切断線を実線で示してある。
ここで、水素供給用マニホールドM1の外周輪郭線のうちで、切れ込みを入れられなかった一辺は、後の工程で水素通路部材51が配置される領域に隣接する一辺である。上記の切断線の形成により、第1のセパレータ30の基材には、水素用マニホールドM1の形成領域に折り曲げ可能な板片部90が形成される。この参考例に工程では、この板片部90によって、水素通路部材51を形成する。
第2工程(図22(B))では、板片部90に、プレス加工により波板状に凹凸する凹凸部位91を形成する。この凹凸部位91が、水素通路部材51における水素の流路溝を構成する。
第3工程(図22(C))では、板片部90を、水素通路部材51の配置領域に向かって折り曲げる。このとき、板片部90と、第1のセパレータ30の外表面との間には、絶縁性部材92を介挿する。なお、絶縁性部材92に換えて、板片部90の外表面に絶縁皮膜を形成するものとしても良い。
第4工程(図22(D))では、第1と第2のセパレータ30,40によって膜電極接合体10およびガス拡散部材20が狭持された状態(図示は省略)で接着層60を形成する。そして、各マニホールドMを形成するための打ち抜き工程によって、板片部90の折り曲げ部を切除する。これによって、水素用マニホールドM1が形成されるとともに、水素用マニホールドM1に連通する水素通路部材51が形成され、単セル110が完成する。
図23は、参考例として、第2実施例で説明した、反応ガスのマニホールドM1〜M4と、膜電極接合体10の発電領域とを連通するガス通路の他の形成方法を説明するための模式図である。この参考例では、以下に説明する工程により、単セル110Aの製造工程において、第2のセパレータ40Aを構成する基材の一部を用いて水素シーリングプレート55が形成される。なお、以下の説明では、水素供給側の水素通路の形成方法について説明するが、水素排出側の水素通路についても同様に形成することが可能である。また、酸素通路についても、同様な工程により形成することが可能である。
第1工程(図23(A))では、プレス加工により通路壁42,43や接着剤塗布部44が形成された第2のセパレータ40Aの基材を準備する。そして、図22(A)で説明した第1工程と同様に、第2のセパレータ40Aの基材において、水素供給用マニホールドM1の形成領域の外周輪郭線に沿った切断線を形成して、板片部90を形成する。なお、図23では、接着剤塗布部44についての図示は省略してある。
第2工程(図23(B))では、板片部90を、水素通路壁42側へと折り返して、各水素通路壁42の上に架設・配置させる。即ち、この参考例では、この板片部90によって水素シーリングプレート55が形成される。
第3工程(図23(C))では、板片部90の外表面および接着剤塗布部44(図示は省略)の上に接着剤を塗布して、第1と第2のセパレータ30,40Aによって膜電極接合体10およびガス拡散部材20(図示は省略)を狭持する。そして、各マニホールドMを形成するための打ち抜き工程によって、板片部90の折り曲げ部を切除する。これによって、水素用マニホールドM1が形成されるとともに、水素シーリングプレート55が配置された水素通路が形成され、単セル110Aが完成する。
このように、図22,図23で説明した方法によれば、第1実施例および第2実施例で説明した単セル110,110Aを効率的に形成することが可能である。
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
D1.変形例1:
上記実施例にでは、第1と第2のセパレータ30,40(40A)の間には、反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部に、ガス通路部材50や通路壁42,43によって、複数の並列なガス通路が形成されていた。しかし、反応ガスのマニホールドM1〜M4の端部に形成されるガス通路は、他の構成を有する通路が形成されるものとしても良い。例えば、複数の略円柱状または略半球状の突起部が配列された、いわゆるディンプル形状のガス通路が形成されるものとしても良い。ガス通路は、反応ガスのマニホールドM1〜M4との接続部において、反応ガスのマニホールドM1〜M4の貫通方向に沿って突出する通路壁を有していれば良い。
D2.変形例2:
上記実施例では、水素用および酸素用のそれぞれのマニホールドM1〜M4と膜電極接合体10との間に、マニホールドM1〜M4の貫通方向に沿って突出する壁部53や通路壁42,43が配置されていた。しかし、水素用または酸素用のガス通路のうち、いずれか一方において、それらの通路壁は省略されるものとしても良い。
D3.変形例3:
上記実施例では、ガス拡散部材20としてエキスパンドメタルが用いられていた。しかし、ガス拡散部材20は省略されるものとしても良い。また、ガス拡散部材20としては、エキスパンドメタルに限らず、他の多孔質な導電性部材によって構成されるものとしても良い。ガス拡散部材20としては、例えば、発泡金属や、いわゆるパンチングメタルなどの多孔質に加工された金属板によって構成されるものとしても良い。なお、第2のセパレータ40には、第1のセパレータ20と同様な酸素のための流路溝が形成されるものとしても良い。
D4.変形例4:
上記実施例において、第2のセパレータ40,40Aには酸素流路溝41が形成されていた。しかし、酸素流路溝41は省略されるものとしても良い。ただし、図13で説明したように、酸素流路溝41が設けられていた方が、燃料電池100,100Aにおける酸素の圧力損失を低減できるため好ましい。
D5.変形例5:
上記実施例では、第1のセパレータ30の水素流路溝35は、複数の並列な直線流路溝として構成されていた。しかし、水素流路溝35は他の構成の流路溝として構成されるものとしても良い。例えば、水素流路溝35は、供給側の入口端部と排出側の出口端部とが、蛇腹状の往復流路溝によって連結された、いわゆるサーペンタイン状の流路溝として形成されるものとしても良い。また、水素流路溝35は、ディンプル状の流路を構成するように形成されても良い。第1のセパレータ30の水素流路溝35は、省略されるものとしても良い。この場合には、第1のセパレータ30とアノード2との間に、ガス拡散部材20が介挿・配置されるものとしても良い。
D6.変形例6:
上記実施例では、第1の電極2がアノードとして機能し、第2の電極3がカソードとして機能していた。しかし、燃料電池100,100Aでは、第1の電極2をカソードとして機能させ、第2の電極3をアノードとして機能させるものとしても良い。
D7.変形例7:
上記実施例において、膜電極接合体10は、アノード2よりカソード3の方が小さいサイズで形成されていた。しかし、膜電極接合体10では、カソード3の方がアノード2より小さいサイズで形成されるものとしても良いし、アノード2とカソード3とが、ほぼ同じサイズで構成されるものとしても良い。なお、アノード2とカソード3とを同じサイズで構成する場合には、電解質膜1の外周端部がアノード2またはカソード3の外周端部から突出されるように構成されることが好ましい。これによって、膜電極接合体10の端部におけるクロスリークの発生を抑制することができる。また、上記実施例では、各電極2,3がガス拡散層2g,3gを有していた。しかし、ガス拡散層2g,3gは省略されるものとしても良い。
D8.変形例8:
上記実施例では、燃料電池100,100Aを、その積層方向に垂直な方向(側面方向)に沿って見たときに、水素流路溝35と重なり合う空間にシール部材70が配置されていた。しかし、シール部材70を配置するための空間は、燃料電池100,100Aを、その側面方向に沿って見たときに、水素流路溝と重なり合う位置に形成されていなくとも良い。ただし、上記実施例のようにシール部材70を配置するための空間を形成することにより、燃料電池100,100Aの小型化が可能である。
D9.変形例9:
上記実施例において、各単セル110,110Aの境界にはシール部材70が配置されていた。しかし、各単セル110,110Aの境界には、シール部材70に換えて、単セル110,110A同士を接着するとともに、当該境界位置のシール性を確保するための接着部が形成されるものとしても良い。ただし、この場合には、一部の単セル110,110Aの交換性が低下するため、燃料電池100,100Aのメンテナンス性が低下する可能性がある。