JP5707940B2 - ノルボルネン系開環重合体水素化物 - Google Patents

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Description

本発明は、近年の情報分野、食品分野、医療分野、土木分野等において要求される、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等に優れる、ノルボルネン系開環重合体水素化物に関する。
結晶性を有する(融点を有する)ノルボルネン系開環重合体水素化物は、水蒸気バリア性、耐熱性、耐油性、機械的特性、透明性、加工性等に優れることから、医療用や電子材料用、食品用の包装フィルムとしての利用が提案されている。
結晶性樹脂では、その結晶化度や結晶核の大きさによって性能が異なるために、特許文献1では、核剤を入れることによって、水蒸気バリア性や透明性を制御している。しかしながら、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物単独では、機械的強度が必ずしも十分ではない。
特許文献2では、結晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物に非晶性脂環構造含有重合体を配合することで、水蒸気バリア性や透明性に優れた樹脂組成物を得ている。この方法では、樹脂を配合するために混練を行うので、熱による樹脂の分解や添加剤の揮発を招き、樹脂本来の性能を損なう可能性がある。
ノルボルネン系開環重合体水素化物の強度を向上させるために、特許文献3では、融点を持つ結晶性セグメントと非晶質重合体セグメントとが結合したブロック共重合体を用いる方法が示されている。この方法は、透明な非晶質重合体に、耐熱性と耐油性を向上させる目的で、具体的に開示されている共重合体は、結晶性セグメントの割合が、50重量%以下のものである。
また非特許文献1には、ノルボルネンとエチリデンノルボルネンとのメタセシス開環ブロック共重合体の水素化物が報告されており、ノルボルネン系開環重合体水素化物セグメントが結晶性である旨記載されている。しかしながら、エチリデンノルボルネン開環重合体水素化物セグメントは、ガラス転移温度(Tg)が室温以下のゴム状重合体である。
特開2009−84332号公報 国際公開WO2009/066511号 特開2007−023202号公報
Macromolecules,2004年,第37巻,7278−7284
本発明の課題は、優れた水蒸気バリア性、透明性及び十分な機械的強度を有するノルボルネン系開環重合体水素化物の提供である。
本発明者らは鋭意研究を進めた結果、結晶性の重合体を与えうるノルボルネン系単量体(A)をメタセシス開環重合する工程(1)と、非晶性の重合体を与えうるノルボルネン系単量体(B)をメタセシス開環重合する工程(2)とからなる開環重合工程を経た後、得られた開環重合体を水素添加する工程を経て得られた、特定範囲の融点と特定範囲のガラス転移温度とを有するノルボルネン系開環重合体水素化物を用いれば、水蒸気バリア性と透明性とを維持しつつ、十分な機械的強度のある成形体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、異なる組成のノルボルネン系単量体を二段階に分けて共重合することにより得られたものである。この水素化物は、優れた水蒸気バリア性、透明性及び十分な機械的強度を有するので、食品包装分野、医薬品包装分野、医療用器材などの用途に有用である。
かくして本発明によれば、メタセシス重合触媒を用いて下記ノルボルネン系単量体(A)を開環重合する工程(1)と、メタセシス重合触媒を用いて下記ノルボルネン系単量体(B)を開環重合する工程(2)とからなる開環重合工程を経た後、得られた開環重合体を水素添加する工程を経て得られた、融点が110〜145℃、ガラス転移温度が40〜300℃のノルボルネン系開環重合体水素化物が提供される。
前記ノルボルネン系単量体(A)は、2−ノルボルネンを90〜100重量%含有するノルボルネン系単量体である。
前記ノルボルネン系単量体(B)は、ガラス転移温度が50〜300℃のである非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与えるノルボルネン系単量体である。
全ノルボルネン系単量体に対して、前記ノルボルネン系単量体(A)の割合は60〜99重量%、前記ノルボルネン系単量体(B)の割合は1〜40重量%である。
前記メタセシス重合触媒が、遷移金属化合物触媒成分と金属化合物助触媒成分との組み合わせからなるものであるのが好ましい。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、110〜145℃の融点と、40〜300℃のガラス転移温度とを有する。融点は、好ましくは120〜145℃、より好ましくは130〜145℃である。上記の範囲にあると、フィルムの耐熱性に優れるため好ましい。また、温度が高すぎると成形性が悪くなる。ガラス転移温度は好ましくは50℃〜300℃、より好ましくは60℃〜250℃である。これらの温度以下であると強度や水蒸気バリア性に劣る。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、メタセシス重合触媒を用いて前記ノルボルネン系単量体(A)を開環重合する工程(1)と、メタセシス重合触媒を用いて前記ノルボルネン系単量体(B)を開環重合する工程(2)とからなる開環重合工程を経た後、得られた開環重合体を水素添加する工程を経て得られる。
ノルボルネン系単量体(A)を開環重合する工程と、ノルボルネン系単量体(B)を開環重合する工程との順番は特に制限されず、どちらの単量体を先に開環重合させても構わないが、一方の単量体の開環重合の次に他方の単量体の開環重合を行うに当たっては、先に開環重合した単量体の重合転化率は90%〜100%、好ましくは95%〜100%の時点で、後に開環重合する単量体の添加を開始するのが好ましい。重合転化率がこの範囲の時に次の単量体の開環重合を開始すると得られるノルボルネン系開環重合体水素化物の融点が高くなり、水蒸気バリア性や耐熱性に優れるので好ましい。
重合転化率とは、用いた単量体の重量から未反応の単量体の重量を引いた値を、用いた単量体の重量で除した値である。重合転化率は、重合反応液をガスクロマトグラフィーにより分析することで、測定することができる。
また、ノルボルネン系単量体(A)とノルボルネン系単量体(B)の割合は、両者の合計に対して、ノルボルネン系単量体(A)が60〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、より好ましくは60〜90重量%であり、ノルボルネン系単量体(B)が1〜40重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜40重量%である。ノルボルネン系単量体(A)の割合が少なすぎると得られる樹脂が結晶化せず、水蒸気バリア性や耐熱性に劣るという問題があり、逆にノルボルネン系単量体(B)の割合が少なすぎると透明性や機械的強度に劣るという問題があり、いずれも好ましくない。
2−ノルボルネンは公知の化合物であり、例えば、シクロペンタジエンとエチレンとを反応させることにより得ることができる。
本発明の開環重合体水素化物の原料である、2−ノルボルネン以外のノルボルネン系単量体は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物である。2−ノルボルネン系誘導体のほか、縮合した環を有するノルボルネン化合物も、本発明の開環重合体水素化物の原料である「ノルボルネン系単量体」に含まれる。
このようなノルボルネン系誘導体としては、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−メチル−2−ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−エチリデン−2−ノルボルネン)、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロペンテニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−フェニル−2−ノルボルネン)等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン)、5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、2−メチルプロピオン酸5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、2−メチルオクタン酸5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシイソプロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−カルボキシ−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−カルボキシ−5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
縮合した環を有するノルボルネン化合物とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン単量体である。その具体例としては、下記に示す式(1)又は式(2)で示される単量体が挙げられる。
Figure 0005707940
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
Figure 0005707940
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
式(1)で示される単量体としては、具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:2−ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等を挙げることができる。
また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンとも言う)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンとも言う)等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
式(2)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類等が挙げられる。
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等の無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン等の芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類等が挙げられる。
これらのノルボルネン単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、ノルボルネン系単量体(A)に由来する融点と、ノルボルネン系単量体(B)に由来するガラス転移温度を示す。即ち、結晶性と非晶性両方の性質を有する。結晶性を有するかどうかは、示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、結晶の融解熱によるピークが観測されることで確認することができる。
ノルボルネン系単量体(A)の組成は、通常2−ノルボルネンが90〜100重量%、好ましくは95〜100重量%、より好ましくは97〜100重量%である。2−ノルボルネンが上記の範囲以下だと、結晶性を発現せず、水蒸気バリア性が低下する。2−ノルボルネン以外のノルボルネン系単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ノルボルネン系単量体(B)の組成は、上記単量体(A)の組成以外のノルボルネン系単量体であって、ガラス転移温度が50〜300℃のである非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物(融点を有さず、ガラス転移温度を有する)を与えるノルボルネン系単量体である。ノルボルネン系単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。2−ノルボルネンとジシクロペンタジエンとは、それぞれ単独で結晶性の開環重合体水素化物を与える単量体であるが、いずれも、単独でその含有割合が低下する(90重量%未満)と非晶性の開環重合体水素化物を与えるようになる。また、ノルボルネン系単量体(B)から得られる非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物のガラス転移温度は、単独で重合、水素化を行った場合に、示差走査熱量分析計を用いて測定を行うと、2−ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)は−40℃、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エンは95℃、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンは160℃、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエンは155℃、5−エチリデン−2−ノルボルネンは15℃となる。このように単独重合した時のガラス転移温度を元に、単量体の混合比から計算することができる。
本発明においては、ノルボルネン系単量体(A)及び(B)には、それぞれの単量体に由来する結晶性と非晶性と失わない範囲において、上記した2−ノルボルネン及びノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体を併用することもできる。
共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン系単量体(A)及び(B)を開環重合するのに用いるメタセシス重合触媒は、同一であっても異なるものであっても良い。用いるメタセシス重合触媒としては、(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなる一般のメタセシス重合触媒、シュロック型重合触媒やグラブス触媒等のリビング開環メタセシス触媒;等が挙げられるが、引張伸びの高い成形体が得られることから、遷移金属化合物触媒成分と金属化合物助触媒成分からなるメタセシス重合触媒が好ましい。
(a)遷移金属化合物触媒成分は、デミングの周期律表第IVB、VB、VIB、VIIB、又はVIII族の遷移金属の化合物である。例えば、これらの遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体、アセトニトリル錯体、ヒドリド錯体、これらの誘導体、これら又はこれらの誘導体のP(C等の錯化剤による錯化物が挙げられる。
(a)遷移金属化合物触媒成分としては、TiCl、TiBr、VOCl、WBr、WCl、WOCl、MoCl、MoOCl、WO、HWOなどが挙げられ、なかでも、重合活性等の点から、W、Mo、Ti、又はVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、又はアルコキシハロゲン化物が好ましい。
(b)金属化合物助触媒成分は、デミングの周期律表第IA、IIA、IIIA、IVA、IIB、IIIB族金属の化合物で少なくとも一つの金属元素−炭素結合、又は金属元素−水素結合を有するものである。例えば、Al、Sn、Li、Na、Mg、Zn、Cd、B等の有機化合物等が挙げられる。
(b)金属化合物助触媒成分としては、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ化合物;n−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムイオジド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素等の有機ホウ素化合物;などが挙げられ、これらの中でも、IIIB族金属の化合物が好ましく、特にアルミニウムの有機化合物が好ましい。
また、前記(a)成分、(b)成分の他に第三成分を加えて、メタセシス重合活性を高めることができる。触媒の第三成分としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、分子状酸素、アルコール、エーテル、過酸化物、カルボン酸、酸無水物、酸クロリド、エステル、ケトン、含窒素化合物、含ハロゲン化合物、その他のルイス酸などが挙げられる。
これらの成分の配合比は、(a)成分:(b)成分が金属元素のモル比で1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:10の範囲である。また、(a)成分:第三成分がモル比で1:0.005〜1:50、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
ノルボルネン系単量体(A)及び(B)に対する重合触媒の使用割合は、いずれも(重合触媒中の遷移金属):(ノルボルネン系単量体)のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:1,000〜1:20,000、より好ましくは1:5,000〜1:8,000である。触媒量が多すぎると重合反応後の触媒除去が困難となり、分子量分布が広がるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
開環重合は無溶媒で行うこともできるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒は、重合体及び重合体水素化物が所定の条件で溶解もしくは分散し、かつ、重合及び水素化反応に影響しないものであれば特に限定されず、工業的に汎用されている溶媒が好ましい。
このような有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類等の溶媒を使用することができる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類が好ましい。
重合を有機溶媒中で行う場合、溶液中のノルボルネン系単量体(A)及び(B)の濃度は、いずれも1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。ノルボルネン系単量体の濃度が1重量%より小さいと生産性が低くなるおそれがあり、50重量%より大きいと重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となるおそれがある。
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することが好ましい。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。
分子量調整剤としては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン、又は1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられ、特にα−オレフィン類が好ましい。
分子量調節剤の添加量は、所望の分子量を持つ重合体を得るに足る量であればよく、(分子量調節剤):(ノルボルネン系単量体)のモル比で、通常1:50〜1:1,000,000、好ましくは1:100〜1:5,000、より好ましくは1:300〜1:3,000である。
重合反応は、ノルボルネン系単量体と重合触媒を混合することにより開始される。重合温度は、特に限定されないが、通常−20〜+100℃、好ましくは、10〜80℃、さらに好ましくは、30〜60℃である。重合温度が低すぎると反応速度が低下し、重合温度が高すぎると副反応により、分子量分布が広がるおそれがある。重合時間は、特に制限されないが、通常1分間〜100時間である。圧力条件も特に限定されないが、通常、0〜1MPaの加圧下で重合を行う。
反応終了後においては、通常の後処理操作により目的とするノルボルネン系開環重合体を単離することができる。
得られたノルボルネン系開環重合体は、次の水素化反応工程へ供される。
開環重合を行った反応溶液に水素化触媒を添加して、ノルボルネン系開環重合体を単離することなく、連続的に水素化反応を行うこともできる。
ノルボルネン系開環重合体の水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の主鎖に存在する炭素−炭素二重結合に水素添加する反応である。この水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の不活性溶媒溶液に水素化触媒を添加し、反応系内に水素を供給して行う。
用いる水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば、均一系触媒、不均一系触媒のいずれも使用することができる。得られる重合体中の残留金属の除去等を考慮すると、不均一系触媒が好ましい。
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
不均一触媒としては、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒系が挙げられる。
使用する触媒使用量としては、ノルボルネン系開環重合体100重量部に対し、通常0.05〜10重量部である。
水素化反応に用いる不活性有機溶媒としては、前述したノルボルネン系単量体の開環重合において用いることができる有機溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
水素化反応の温度は、使用する水素化触媒系によって適する条件範囲が異なるが、水素化温度は、通常−20℃〜+300℃、好ましくは0℃〜+250℃、より好ましくは100℃〜220℃である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅くなるおそれがあり、高すぎると副反応が起こる可能性がある。
水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。水素圧力が低すぎると水素添加速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となるので好ましくない。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、重合体中の主鎖二重結合の水素添加率が通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。上記の範囲にあると、成形体の樹脂焼けに起因する着色が抑えられ好ましい。
水素化反応終了後は、反応溶液から水素添加触媒等を濾別し、濾別後の重合体溶液から溶媒等の揮発成分を除去することにより、目的とする本発明の開環重合体水素化物を得ることができる。水素添加反応液に、必要に応じて酸化防止剤(安定剤)、核剤、発泡剤、難燃剤、熱可塑性樹脂や軟質重合体等のその他の重合体、滑剤等の配合剤や、染料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、ワックス等の樹脂工業分野で通常使用されるその他の配合剤を添加してから、必要に応じて加熱してから、濾別を行うこともできる。
溶媒等の揮発成分を除去する方法としては、凝固法や直接乾燥法等公知の方法を採用することができる。
凝固法は、重合体溶液を重合体の貧溶媒と混合することにより、重合体を析出させる方法である。用いる貧溶媒としては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;等の極性溶媒が挙げられる。
凝固して得られた粒子状の成分は、たとえば真空中又は窒素中若しくは空気中で加熱して乾燥させて粒子状にするか、さらに必要に応じて溶融押出機から押し出してペレット状にすることができる。
直接乾燥法は、重合体溶液を減圧下加熱して溶媒を除去する方法である。この方法には、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、掻面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置等の公知の装置を用いて行うことができる。真空度や温度はその装置によって適宜選択され、限定されない。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、その重量平均分子量(Mw)が、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算で、通常50,000〜200,000、好ましくは70,000〜180,000、より好ましくは80,000〜150,000である。Mwが上記範囲より小さいと、機械強度に乏しくなり、上記範囲より大きいと、高粘度で取り扱いが困難となり好ましくない。
得られるノルボルネン系開環重合体水素化物の融点は、通常110〜145℃、好ましくは120〜145℃、より好ましくは130〜145℃である。上記の範囲にあると、フィルムの耐熱性に優れるため好ましい。また、温度が高すぎると成形性が悪くなる。
得られるノルボルネン系開環重合体水素化物のガラス転移温度は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上である。これらの温度以下であると強度や水蒸気バリア性に劣る。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、融点を有する重合体、すなわち結晶構造を形成する重合体であるので、本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する樹脂組成物を成形したフィルム及びシートは内部に結晶部を有し、これと非晶部とが相俟って成形品の引張り破断伸び等の機械的特性が向上し、それでいて、結晶が大きくないので、本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する樹脂組成物を成形したフィルム及びシートの透明性は高い。
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物は、例えば、光ディスクやレンズのように射出成形によって得られるもの、チューブや棒状に溶融押出成形したもの、溶融押出しロールで巻き取ったシートやフィルム、材料の塊を熱プレスによりシート状に成形したもの、適当な溶剤に溶解し溶液をキャストして得られるフィルム、さらにフィルムやシートを延伸したものなど、様々な成形品に利用される。
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部又は%は、特に断りがない限り、重量基準である。
各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)ノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、トルエンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
測定装置として、GPC−8020シリーズ(DP8020、SD8022、AS8020、CO8020、RI8020、東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2,630、10,200、37,900、96,400、427,000、1,090,000、5,480,000のものの計8点、東ソー社製)を用いた。
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、測定試料をトルエンに溶解後、カートリッジフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(東ソー社製)を2本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
(2)ノルボルネン系開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、140℃にて測定試料を1,2,4−トリクロロベンゼンに加熱溶解させて調製した。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが988、2,580、5,910、9,010、18,000、37,700、95,900、186,000、351,000、889,000、1,050,000、2,770,000、5,110,000、7,790,000、20,000,000のものの計16点、東ソー社製)を用いた。
測定装置として、HLC8121GPC/HT(東ソー社製)を用いた。
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(20)HT(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量300μml、カラム温度140℃の条件で行った。
(3)水素添加率は、溶媒に重クロロホルムを用い、H−NMRにより測定して求めることができる。
(4)融点は、示差走査熱量分析計(製品名「DSC6220SII」、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K 7121に基づき、試料を融点より30℃以上に加熱した後、冷却速度10℃/minで室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/minで測定した。
(5)ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(製品名「DSC6220SII」、ナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K 6911に基づいて測定した。
(6)水蒸気バリア性評価試験は、JIS K 7129(A法)に基づいて温度40℃、湿度90%RHの条件下の水蒸気透過度を水蒸気透過度テスター(製品名「L80−5000型」、LYSSY社製)で測定した。水蒸気透過度(g/(m・24h))が小さいほど、水蒸気バリア性が良好であることを示す。
(7)ヘイズの測定は厚さ100μmのフィルムサンプルを作製し、ヘイズメータ(製品名「NDH2000」、日本電色工業社製)を用いて測定した。ヘイズ(%)が小さいほど、透明性が良好であることを示す。
(8)引張強度、引張伸びは、ISO 527に基づき、フィルムから作成した形状1B型の試験片を、引張速度200mm/分の条件でオートグラフ(製品名「AGS−5kNH」、島津製作所製)により測定した。
(実施例1)
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.55部、ジイソプロピルエーテル0.30部、トリイソブチルアルミニウム0.20部、及びイソブチルアルコール0.075部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、単量体(A)として2−ノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン)(以下、「2−NB」という。)150部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液9部を、反応器温度を55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加した。
添加終了後、ノルボルネン系単量体(A)の重合転化率が97%となった時点(ここまでが一段階目の重合)で、ノルボルネン系単量体(B)として2−NBとトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(以下、「DCP」という。)とテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、「TCD」という。)との混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40;ガラス転移温度(計算値)111℃のノルボルネン系開環重合体水素化物を与える単量体)100部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液6部を、反応器温度を55℃に保ちながら、1時間かけて連続的に添加し、二段階目の重合を行った。
得られたノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量(Mw)は、79,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0であった。ノルボルネン系単量体(A)とノルボルネン系単量体(B)の合計の重合転化率は、ほぼ100%であった。
(水素添加反応)
上記で得た重合反応液を耐圧の水素添加反応器に移送し、そこへ、ケイソウ土担持ニッケル触媒(製品名「T8400」;ニッケル担持率58%、ズードヘミー触媒社製)0.6部を加え、200℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。
(重合体物性)
得られたノルボルネン系開環重合体水素化物の水素添加率は99%、重量平均分子量(Mw)は、80,700、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、融点は123℃、Tgは105℃であった。
(樹脂組成物の調製)
水素添加反応液に、重合体固形分100部当り、酸化防止剤(テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;製品名「イルガノックス(登録商標)1010」、チバガイギー社製)0.1部、及び結晶核剤(日本タルク社製;食添タルクMS;長径15μm)0.5重量部を加え、溶解させた。
(乾燥)
この溶液を金属ファイバー製フィルター(孔径0.5μm、ニチダイ社製)にて濾過した後、濾液を「ゼータプラス(登録商標)フィルター30S」(孔径0.5〜1μm、キュノ社製)で濾過し、さらに、金属ファイバー製フィルター(孔径0.2μm、ニチダイ社製)で濾過して異物を除去した。得られた濾液を予備加熱装置で200℃に加熱し、圧力3MPaで薄膜乾燥機(日立製作所社製)に連続的に供給した。薄膜乾燥機の運転条件は、圧力13.4kPa下、内部の濃縮された重合体溶液の温度を240℃とした(第一段階乾燥)。
次に、濃縮された溶液を、薄膜乾燥機から連続的に導出し、さらに同型の薄膜乾燥機に温度240℃を保ったまま、圧力1.5MPaで供給した。運転条件は、圧力0.7kPa、温度240℃とした(第二段階乾燥)。
(ペレット化)
溶融状態の重合体を、薄膜乾燥機から連続的に導出し、クラス100のクリーンルーム内でダイから押し出し、水冷後、ペレタイザー(製品名「OSP−2」、長田製作所社製)でカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
(フィルム化)
得られた樹脂組成物のペレットを、スクリュー径50mmφ、圧縮比2.5、L/D=30のスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するハンガーマニュホールドタイプのTダイ式フィルム溶融押出成形機を使用して、以下の成形条件でTダイ成形を行い単層フィルム(1)(厚さ100μm)を得た。
ダイリップ:0.8mm
溶融樹脂温度:210℃
Tダイ幅:300mm
冷却ロール:40℃
キャストロール:40℃
得られた単層フィルム(1)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例2)
第一段階目の重合において、ノルボルネン系単量体(A)を2−NB 200部とし、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を12部とし、これらの滴下時間を1時間30分とし、ノルボルネン系単量体(A)の重合転化率が99%の段階で、第二段階の重合を開始し、第二段階の重合において、ノルボルネン系単量体(B)を2−NBとDCPとの混合物(重量比:2−NB/DCP=20/80;ガラス転移温度(計算値)68℃のノルボルネン系開環重合体水素化物を与える単量体)50部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を3部、これらの滴下時間を30分とした他は実施例1と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=81,600、Mw/Mn=3.0、融点=135℃、Tg=64℃)を得、単層フィルム(2)(厚さ100μm)を得た。
得られた単層フィルム(2)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例3)
第二段階目の重合において、ノルボルネン系単量体(B)を2−NBとDCPとTCDとの混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40)50部としたほかは実施例2と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=80,200、Mw/Mn=3.0、融点=135℃、Tg=107℃)を得、単層フィルム(3)(厚さ100μm)を得た。
得られた単層フィルム(3)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例4)
第二段階目の重合において、ノルボルネン系単量体(B)をテトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(以下、「MTF」という;ガラス転移温度(計算値)155℃のノルボルネン系開環重合体水素化物を与える単量体)50部にしたほかは実施例2と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=84,100、Mw/Mn=3.2、融点=135℃、Tg=148℃)を得、単層フィルム(4)(厚さ100μm)を得た。
得られた単層フィルム(4)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表1に示す。
(実施例5)
第一段階目の重合において、ノルボルネン系単量体(A)を2−NB 225部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を13.5部とし、これらの滴下時間を1時間30分とし、ノルボルネン系単量体(A)の重合転化率が98%の段階で、第二段階の重合を開始し、第二段階の重合において、ノルボルネン系単量体(B)を2−NBとDCPとTCDとの混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40)25部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を1.5部とし、これらの滴下時間を30分としたほかは実施例1と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=81,200、Mw/Mn=3.0、融点=140℃、Tg=107℃)を得、単層フィルム(5)(厚さ100μm)を得た。評価結果を表1に示す。
(実施例6)
第一段階目の重合において、ノルボルネン系単量体(B)を2−NBとDCPとTCDとの混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40)50部とし、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を3部とし、これらの滴下時間を30分とし、ノルボルネン系単量体(B)の重合転化率が96%の段階で、第二段階の重合を開始し、第二段階の重合において、ノルボルネン系単量体(A)を2−NB 200部、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を12部、これらの滴下時間を1時間とした他は実施例1と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=82,300、Mw/Mn=2.9、融点=135℃、Tg=107℃)を得、単層フィルム(6)(厚さ100μm)を得た。
得られた単層フィルム(6)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表1に示す。
Figure 0005707940
(比較例1)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.55部、ジイソプロピルエーテル0.30部、トリイソブチルアルミニウム0.20部、及びイソブチルアルコール0.075部を室温で反応器に入れ混合した。そこへ、2−NB 250部及び六塩化タングステン1.0%トルエン溶液15部を、55℃に保ちながら、2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。
重合以降は、実施例1と同様にして、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=82,200、Mw/Mn=2.9、融点=140℃)を得、単層フィルム(7)を得た。
得られた単層フィルム(7)の、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度を評価した。評価結果を表2に示す。
(比較例2)
第一段階の重合において、2−NB 100部のノルボルネン系単量体(A’)を、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を7.5部とし、これらの滴下時間を1時間とし、第二段階の重合において、2−NBとDCPとTCDとの混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40)100部のノルボルネン系単量体(B’)を、六塩化タングステン1.0%トルエン溶液の量を7.5部とし、これらの滴下時間を1時間としたほかは実施例1と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=85,000、Mw/Mn=3.2、融点=118℃、Tg=103℃)を得、単層フィルム(8)を得た。
得られた単層フィルム(8)を評価した。評価結果を表2に示す。
(比較例3)
第二段階目の重合において、2−NBとDCPとの混合物(重量比:2−NB/DCP=40/60;ガラス転移温度(計算値)41℃のノルボルネン系開環重合体水素化物を与える単量体)のノルボルネン系単量体(B’)の量を50部としたほかは実施例2と同様に行い、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=80,200、Mw/Mn=2.9、融点=133℃、Tg=30℃)を得、単層フィルム(9)(厚さ100μm)を得た。
得られた単層フィルム(9)を評価した。評価結果を表2に示す。
(比較例4)
撹拌機付きガラス製反応器に、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルを0.060部とシクロヘキサン1.0部を入れ、ここに、ジエチルアルミニウムエトキシド0.047部をヘキサン0.50部に溶解した溶液を添加して、これを室温にて30分撹拌した。得られた混合物に、DCP 7.5部、シクロヘキサン27.0部、1−オクテン5.0部を添加し、50℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。3時間撹拌後、反応液に大量のイソプロピルアルコールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥してノルボルネン系開環重合体を714部得た。得られたノルボルネン系開環重合体のMnは3,800、Mwは13,000であった。
次いで、撹拌機付きガラス製反応器に、得られたノルボルネン系開環重合体3部、トルエン24.0部及びMTF 3.0部を入れ、ここに、ベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロトリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム0.0039部をトルエン0.1部に溶解した溶液を添加して、60℃において2時間重合反応を行った。得られたノルボルネン系開環重合体のMnは6,600、Mwは18,000であった。
水素添加反応は実施例1と同様に行い、水素化反応液を大量のイソプロピルアルコールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥して、ノルボルネン系開環重合体水素化物(Mw=18,800、Mw/Mn=2.8、融点=240℃、Tg=135℃)を3部得た。
このノルボルネン系開環共重合体水素化物を用いてフィルム化を行ったところ、樹脂の融点が高いため、フィルムを得ることが出来なかった。
(比較例5)
内部を窒素置換したガラス反応器に2,6−ジイソプロピルフェニルイミドネオフィリデンモリブデン(VI)ビス(t−ブトキサイド)0.28部を添加した後、トルエン28部を加えて溶解した。次に2−NB 2.7部及びトリフェニルホスフィン1.4部を加え、室温で1時間撹拌した。重合転化率が99%の時点で、反応液に5−エチリデン−2−ノルボルネン(ガラス転移温度(計算値)15℃のノルボルネン系開環重合体水素化物を与える単量体)0.3部を添加して室温で1日間放置した。得られたノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量(Mw)は、80,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.1、融点は140℃、Tgは14℃であった。
その後の操作は実施例1と同様に行い、単層フィルム(10)を得た。
得られた単層フィルム(10)を評価した。評価結果を表2に示す。


Figure 0005707940
(比較例6)
窒素で置換した反応器に、2−NB、DCP及びTCDとの混合物(重量比:2−NB/DCP/TCD=7/53/40)700部とシクロヘキサン1600部を加え、トリイソブチルアルミニウム0.55部とイソブチルアルコール0.21部、反応調整剤としてジイソプロピルエーテル0.84部、及び分子量調節剤として1−ヘキセン3.94部を添加した。ここに、シクロヘキサンに溶解させた0.65%の六塩化タングステン溶液63部を添加して、55℃で1時間30分かけて連続的に添加し重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
得られた開環重合体(D)の重量平均分子量は20,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
その後は実施例1と同様に行い、樹脂組成物のペレットを得た。ガラス転移温度(Tg)は111℃であった。
この樹脂組成物のペレット30部と、比較例1で得た樹脂組成物のペレット70部をブレンダーで混合した。次いで、二軸混練機(製品名「TEM−35B」、東芝機械社製)により、以下の混練条件でペレットを混練し、押し出し、重合体組成物(D)のペレットを得た。
スクリュー径:37mm、L/D=32
スクリュー回転数:250rpm
樹脂温度:200℃
フィードレート:15kg/時間
フィルム化は実施例1と同様に行い、単層フィルム(11)を得た。単層フィルム(11)の透湿度は0.36g/m2・day、ヘイズは18%、引張強度は30MPa、引張り伸びは8%だった。
(考察)
本発明のノルボルネン系開環重合体水素化物を用いて得られたフィルムは、水蒸気バリア性が良好で、透明性に優れ、かつ引張強度、引張伸びが高いことが判る(実施例1〜5)
それに対し、2−ノルボルネン単独開環重合体水素化物(比較例1)や単量体(A)の量が少ないもの(比較例2)、請求項1の要件のいくつかを満足していてもガラス転移温度が40℃よりも低いルボルネン系開環重合体水素化物(比較例3、5)では、水蒸気バリア性、透明性または引張強度が劣ることがわかる。
2−ノルボルネン単独開環重合体水素化物と非晶性のノルボルネン系開環重合体水素化物との混練品は引張り伸びに劣る。
ノルボルネン系開環重合体水素化物の単量体(A)にあたる組成がDCP100%で、融点が240℃と本発明よりも100℃高温のものでは、フィルムを作製することができなかったため、水蒸気バリア性、ヘイズ及び引張強度の評価ができなかった(比較例4)。
2−ノルボルネン単独開環重合体水素化物と非晶性のノルボルネン系開環重合体水素化物との混練品では水蒸気バリア性、透明性または引張強度は変わらないものの、引張り伸びに劣ることがわかる(比較例6)。

Claims (2)

  1. メタセシス重合触媒を用いて下記ノルボルネン系単量体(A)を開環重合する工程(1)と、メタセシス重合触媒を用いて下記ノルボルネン系単量体(B)を開環重合する工程(2)とからなる開環重合工程を経た後、得られた開環重合体を水素添加する工程を経て得られた、融点が110〜145℃、ガラス転移温度が40〜300℃のノルボルネン系開環重合体水素化物であって、
    前記ノルボルネン系単量体(A)は、2−ノルボルネンを90〜100重量%含有するノルボルネン系単量体であり、
    前記ノルボルネン系単量体(B)は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物であって、2−ノルボルネン系誘導体、及び/又は、縮合した環を有するノルボルネン化合物のうち、単独で、開環重合、水素化を行って、得られたノルボルネン系開環重合体水素化物について測定したガラス転移温度を元に、単量体の混合比から計算したガラス転移温度が50〜300℃である非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物を与えるノルボルネン系単量体であり、かつ、
    全ノルボルネン系単量体に対して、前記ノルボルネン系単量体(A)の割合は60〜99重量%、前記ノルボルネン系単量体(B)の割合は1〜40重量%である
    ノルボルネン系開環重合体水素化物
  2. メタセシス重合触媒が、遷移金属化合物触媒成分と金属化合物助触媒成分との組み合わせからなるものである請求項1に記載のノルボルネン系開環重合体水素化物。
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