以下、図面を参照して本発明のダイカスト装置の実施の形態を説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明に係るダイカスト装置の実施の形態1を模式的に示した斜視図である。
図示するダイカスト装置10は、主として金型キャビティKに連通する略円筒形状のスリーブ9と、このスリーブ9に嵌合されて該スリーブ9の軸心L方向へ移動自在となっている加圧ユニット5と、この加圧ユニット5をスリーブ9の軸心L方向へ駆動させる駆動手段(不図示)を備えており、前記駆動手段で加圧ユニット5を駆動させることによって加圧ユニット5の一部が金型キャビティKへ突出されるようになっている。ここで、不図示の駆動手段としては、たとえば油圧シリンダ等のアクチュエータを挙げることができる。
前記加圧ユニット5は更に、スリーブ9に嵌合されて該スリーブ9の軸心L方向へ移動自在となっている筒体からなる加圧ピン1と、この加圧ピン1に嵌合されてスリーブ9の軸心L方向へ移動自在となっている加圧ピン2と、から構成されており、前記駆動手段は、加圧ユニット5のうち加圧ピン2を駆動させるようになっている。なお、加圧ピン1、2はそれぞれ、スリーブ9の軸心Lと略同心に配置されている。
ここで、スリーブ9の内周面には段部9aが形成され、スリーブ9の内周面と摺接する加圧ピン1の外周面には前記スリーブ9の段部9aを収容し得る凹部1bが形成されており、前記スリーブ9の内周面と段部9aおよび前記加圧ピン1の凹部1bで画定される領域R1にはスリーブ9の軸心L方向へ伸縮するコイルバネ6が配置されている。このように、スリーブ9と加圧ピン1の間にコイルバネ6が配置されることによって、加圧ピン2を介して加圧ピン1へ伝達された前記駆動手段の駆動力がコイルバネ6へ伝達された際に、該コイルバネ6がスリーブ9の段部9aと加圧ピン1の凹部1bの間で前記駆動力に応じた量だけスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン1が前記駆動力に応じたコイルバネ6の収縮量だけスリーブ9に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動されて、加圧ピン1の金型キャビティK側の一部がスリーブ9から金型キャビティKへ突出される。
また、加圧ピン1の内周面には段部1aが形成され、加圧ピン1の内周面と摺接する加圧ピン2の外周面には前記加圧ピン1の段部1aを収容し得る凹部2bが形成されており、前記加圧ピン1の内周面と段部1aおよび前記加圧ピン2の凹部2bで画定される領域R2にはスリーブ9の軸心L方向へ伸縮するコイルバネ7が配置されている。このように、加圧ピン1、2同士の間にコイルバネ7が配置されることによって、加圧ピン2へ伝達された前記駆動手段の駆動力がコイルバネ7へ伝達された際に、該コイルバネ7が加圧ピン1の段部1aと加圧ピン2の凹部2bの間で前記駆動力に応じた量だけスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン2が前記駆動力に応じたコイルバネ7の収縮量だけ加圧ピン1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動されて、加圧ピン2の金型キャビティK側の一部が加圧ピン1よりもさらに金型キャビティKへ突出される。
このように、駆動手段で加圧ピン2のみを駆動させ、前記駆動手段の駆動力で加圧ピン1、2同士の間に配置されたコイルバネ7を収縮させながら加圧ピン2を加圧ピン1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動させ、加圧ピン2とコイルバネ7を介して加圧ピン1へ伝達された前記駆動手段の駆動力でスリーブ9と加圧ピン1の間に配置されたコイルバネ6を収縮させながら加圧ピン1をスリーブ9に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動させることによって、加圧ピン1の少なくとも一部をスリーブ9から金型キャビティK内へ突出させ、加圧ピン2の少なくとも一部を加圧ピン1から金型キャビティK内へ突出させ、加圧ピン1、2をスリーブ9の径方向外側から軸心Lへ向かって多段的にスリーブ9から金型キャビティKへ突出させることができる。
次に、図2を参照して、図1で示すダイカスト装置10による加圧工程を詳細に説明する。図2(a)は加圧前の状態を示した図であり、図2(b)は、図2(a)に続いて加圧ピン1、2を作動させた状態を示した図であり、図2(c)は、図2(b)に続いて加圧ピン2を作動させた状態を示した図である。なお、ダイカスト装置10の加圧ユニット5が配置される位置、加圧ユニット5によって金型キャビティK内の溶湯を加圧するタイミング、加圧ユニット5の加圧深さや加圧速度、加圧ユニット5の形状等は、予め数値解析や経験則等によって規定されている。
まず、図2(a)で示すように、ダイカスト装置10による加圧前の状態においては、金型キャビティKの内壁面と加圧ピン1、2の金型キャビティK側の端面(加圧面)とが面一となるように、加圧ユニット5の加圧ピン1、2がスリーブ9内に配置されている。ここで、スリーブ9の内周面と段部9aの金型キャビティKと離間した側の側面9abと加圧ピン1の凹部1bの金型キャビティKと離間した側の側面1bbで画定される領域R1に配置されたコイルバネ6は収縮状態にあり、加圧ピン1にはこのコイルバネ6によって金型キャビティKと離間する方向へ付勢力が付与されるものの、スリーブ9の段部9aの金型キャビティK側の側面9aaと加圧ピン1の凹部1bの金型キャビティK側の側面1baとが当接することによって、スリーブ9内における加圧ピン1の位置が規定されている。同様に、加圧ピン1の内周面と段部1aの金型キャビティKと離間した側の側面1abと加圧ピン2の凹部2bの金型キャビティKと離間した側の側面2bbで画定される領域R2に配置されたコイルバネ7は収縮状態にあり、加圧ピン2にはこのコイルバネ7によって金型キャビティKと離間する方向へ付勢力が付与されるものの、加圧ピン1の段部1aの金型キャビティK側の側面1aaと加圧ピン2の凹部2bの金型キャビティK側の側面2baとが当接することによって、スリーブ9内における加圧ピン2の位置が規定されている。
次いで、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を当該加圧ユニット5で加圧するために、駆動手段(不図示)で加圧ピン2を駆動させる。ここで、スリーブ9と加圧ピン1の間に配置されたコイルバネ6のバネ弾性係数が加圧ピン1と加圧ピン2の間に配置されたコイルバネ7のバネ弾性係数よりも相対的に小さいため、コイルバネ7が収縮する前にコイルバネ6が収縮する。これにより、図2(b)で示すように、駆動手段から加圧ピン2へ伝達された駆動力によってコイルバネ7が収縮する前に、加圧ピン2とコイルバネ7と加圧ピン1を介してコイルバネ6へ伝達された前記駆動力によってコイルバネ6がスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン1に対する加圧ピン2の相対的な位置が変化しない姿勢で加圧ピン1、2からなる加圧ユニット5が前記駆動力に応じたコイルバネ6の収縮量だけスリーブ9に対して相対的に該スリーブ9の軸心L方向へ駆動される。よって、加圧ピン1、2からなる加圧ユニット5の一部がスリーブ9から金型キャビティKへ突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に大きな面積S1(加圧ピン1、2の双方の加圧面の面積)で加圧することができる。
次に、スリーブ9と加圧ピン1の間に配置されたコイルバネ6が所定量だけ収縮した後、更に駆動手段(不図示)で加圧ピン2を駆動させると、図2(c)で示すように、コイルバネ6は更に収縮せず、駆動手段から加圧ピン2を介してコイルバネ7へ伝達された駆動力によってコイルバネ7がスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン2が前記駆動力に応じたコイルバネ7の収縮量だけ加圧ピン1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動される。よって、加圧ピン2の一部が加圧ピン1から金型キャビティKへ更に突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に小さい面積S2(加圧ピン2の加圧面の面積)で加圧することができる。
このように、コイルバネ6、7がそれぞれ異なるバネ弾性係数を有することによって、駆動手段で加圧ピン2のみを駆動させた場合であっても、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を最初に相対的に大きな面積S1で加圧し、次いで相対的に小さい面積S2で連続的に加圧することができ、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を適正なタイミングで且つ適正な面積や加圧深さ等で加圧することができるため、溶湯の内部で発生する鋳巣を効果的に排除することができる。
ところで、加圧ユニット5で金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を加圧する時間は極めて短いものの、金型キャビティK内の溶湯は非常に高温であるため、図3で示すように、スリーブ9から金型キャビティKへ突出された加圧ユニット5はその周囲の溶湯の熱によって熱膨張する。また、金型キャビティK内の溶湯の凝固が進行すると共に加圧ユニット5の周囲の溶湯は凝固収縮するため、スリーブ9から金型キャビティKへ突出された加圧ユニット5はその周囲の収縮した溶湯によって堅持される。このような加圧ユニット5の熱膨張によるアンカー効果と加圧ユニット5の周囲の溶湯の凝固収縮によって、金型キャビティK内の溶湯の内部の鋳巣を加圧した加圧ユニット5をスリーブ9側へ引き戻す際の引き戻し力は増加すると考えられる。
そこで、前記加圧ユニット5で金型キャビティK内の溶湯の内部の鋳巣を加圧した後、当該加圧ユニット5をスリーブ9側へ引き戻す際には、最初に、相対的に外形が小さく剛性の低い加圧ピン2を加圧ピン1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ移動させ、金型キャビティKへ突出された加圧ピン2の一部を加圧ピン1の内側へ引き戻す。その際、加圧ピン1の段部1aの金型キャビティK側の側面1aaと加圧ピン2の凹部2bの金型キャビティK側の側面2baとが当接することによって、加圧ピン1における加圧ピン2の位置が規定される。そして、金型キャビティKへ突出された加圧ピン2の一部を加圧ピン1の内側へ引き戻した後、加圧ピン1、2を一体とした加圧ユニット5をスリーブ1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ移動させ、金型キャビティKへ突出された加圧ユニット5の一部をスリーブ9内へ引き戻す。その際、スリーブ9の段部9aの金型キャビティK側の側面9aaと加圧ピン1の凹部1bの金型キャビティK側の側面1baとが当接することによって、スリーブ9における加圧ピン1、2の位置が規定される。
このように、金型キャビティK内の溶湯の内部の鋳巣を加圧した加圧ユニット5をスリーブ9側へ引き戻す際に、各加圧ピン1、2を多段的にスリーブ9内へ引き戻すことによって、各加圧ピン1、2をスリーブ9内へ引き戻す際の各引き戻し力を格段に低減することができる。また、相対的に外形が小さく剛性の低い加圧ピン2を最初にスリーブ9側へ引き戻すことによって、各加圧ピン1、2をスリーブ9内へ引き戻す際のかじり(軸ずれ)の発生を効果的に抑制することができる。
また、上記する実施の形態1のダイカスト装置10においては、収縮されたコイルバネ6、7の付勢力を利用して加圧ユニット5の各加圧ピン1、2をスリーブ9側へ引き戻すことができるため、各加圧ピン1、2をスリーブ9側へ引き戻す際の駆動手段による引き戻し力を効果的に低減することができる。
なお、上記する実施の形態1のダイカスト装置10においては、スリーブ9と加圧ピン1の間に配置されたコイルバネ6のバネ弾性係数が加圧ピン1と加圧ピン2の間に配置されたコイルバネ7のバネ弾性係数よりも相対的に小さく、コイルバネ7が収縮する前にコイルバネ6が収縮する形態について説明したが、スリーブ9と加圧ピン1の間に配置されたコイルバネ6のバネ弾性係数を加圧ピン1と加圧ピン2の間に配置されたコイルバネ7のバネ弾性係数よりも相対的に大きくし、コイルバネ6が収縮する前にコイルバネ7が収縮するようにしてもよい。
この場合には、駆動手段で加圧ピン2を駆動させると、コイルバネ6が収縮する前に加圧ピン2を介してコイルバネ7へ伝達された駆動力によってコイルバネ7がスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン2が前記駆動力に応じたコイルバネ7の収縮量だけ加圧ピン1に対して相対的にスリーブ9の軸心L方向へ駆動される。よって、略静止した状態の加圧ピン1から加圧ピン2の一部が金型キャビティKへ突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に小さい面積S2(加圧ピン2の加圧面の面積)で加圧することができる。また、駆動手段で加圧ピン2を更に駆動させると、コイルバネ7は更に収縮せず、加圧ピン2とコイルバネ7と加圧ピン1を介してコイルバネ6へ伝達された駆動力によってコイルバネ6がスリーブ9の軸心L方向へ収縮され、加圧ピン1に対して加圧ピン2の一部が突出した姿勢で加圧ピン1、2からなる加圧ユニット5が前記駆動力に応じたコイルバネ6の収縮量だけスリーブ9に対して相対的に該スリーブ9の軸心L方向へ駆動される。よって、加圧ピン1に対する加圧ピン2の相対的な位置を変化させない姿勢で加圧ピン1の一部がスリーブ9から金型キャビティKへ突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に大きな面積S1(加圧ピン1、2の双方の加圧面の面積)で加圧することができる。
[実施の形態2]
図4は、本発明に係るダイカスト装置の実施の形態2を模式的に示した縦断面図である。図4で示す実施の形態2のダイカスト装置10Aは、図1で示す実施の形態1のダイカスト装置10に対して主に加圧ユニットを構成する加圧ピンの基数とスリーブと加圧ユニットの間に配置される弾性体の形態が相違しており、その他の構成はほぼ同様である。したがって、実施の形態1のダイカスト装置10と同様の構成については、同様の符号を付してその詳細な説明は省略する。
具体的には、図4で示す実施の形態2のダイカスト装置10Aの加圧ユニット5Aは、スリーブ9Aに嵌合されて該スリーブ9Aの軸心LA方向へ移動自在となっている筒体からなる加圧ピン1Aと、この加圧ピン1Aに嵌合されてスリーブ9Aの軸心LA方向へ移動自在となっている加圧ピン2Aと、から構成されるとともに、前記加圧ピン2Aは更に、筒体からなる加圧ピン1Aに嵌合されてスリーブ9Aの軸心LA方向へ移動自在となっている筒体からなる加圧ピン12Aとこの加圧ピン12Aに嵌合されてスリーブ9Aの軸心LA方向へ移動自在となっている加圧ピン13Aから構成されており、不図示の駆動手段は、加圧ユニット5Aのうち最も内側に配置された加圧ピン13Aを駆動させるようになっている。なお、加圧ピン1A、12A、13Aはそれぞれ、スリーブ9Aの軸心LAと略同心に配置されている。
ここで、スリーブ9Aの内周面の金型キャビティK側の端部には段部9aAが形成され、スリーブ9Aの内周面と摺接する加圧ピン1Aの外周面の金型キャビティK側の端部には前記スリーブ9Aの段部9aAを収容し得る窪み1bAが形成されており、前記スリーブ9Aの内周面と段部9aAおよび前記加圧ピン1Aの窪み1bAで画定される領域R0Aには略大気圧の空気(空気バネ)Aが収容されている。このように、スリーブ9Aと加圧ピン1Aの間に空気Aが収容されることによって、加圧ピン3A等を介して前記駆動手段の駆動力が加圧ピン1Aへ伝達された際に、加圧ピン1Aがほぼ抵抗感無く(弾性係数が非常に小さい)スリーブ9Aに対して相対的にスリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動され、加圧ピン1Aの金型キャビティK側の一部がスリーブ9Aから金型キャビティKへ突出される。
なお、図4で示す実施の形態2のダイカスト装置10Aの加圧ユニット5Aの加圧ピン12Aと加圧ピン13Aの関係は、図1で示す実施の形態1のダイカスト装置10の加圧ユニット5の加圧ピン1と加圧ピン2の関係と同様である。
上記するように、駆動手段で加圧ユニット5Aのうち最も内側に配置された加圧ピン13Aのみを駆動させ、前記駆動手段の駆動力で加圧ピン12A、13A同士の間に配置されたコイルバネ7Aを収縮させながら加圧ピン13Aを加圧ピン12Aに対して相対的にスリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動させ、加圧ピン13Aとコイルバネ7Aを介して加圧ピン12Aへ伝達された前記駆動手段の駆動力で加圧ピン1A、12A同士の間に配置されたコイルバネ6Aを収縮させながら加圧ピン12Aを加圧ピン1Aに対して相対的にスリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動させ、加圧ピン13A、12Aとコイルバネ7A、6Aを介して加圧ピン1Aへ伝達された前記駆動手段の駆動力で加圧ピン1Aをスリーブ9Aに対して相対的にスリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動させることによって、加圧ピン1A、12A、13Aをスリーブ9Aの径方向外側から軸心LAへ向かって更に多段的に金型キャビティKへ突出させることができる。
次に、図5を参照して、図4で示すダイカスト装置10Aによる加圧工程を詳細に説明する。図5(a)は加圧前の状態を示した図であり、図5(b)は、図5(a)に続いて加圧ピン1A、12A、13Aを作動させた状態を示した図であり、図5(c)は、図5(b)に続いて加圧ピン12A、13Aを作動させた状態を示した図であり、図5(d)は、図5(c)に続いて加圧ピン13Aを作動させた状態を示した図である。
まず、図5(a)で示すように、ダイカスト装置10Aによる加圧前の状態においては、金型キャビティKの内壁面と加圧ピン1A、12A、13Aの金型キャビティK側の端面(加圧面)とが面一となるように、加圧ユニット5Aの加圧ピン1A、12A、13Aがスリーブ9A内に配置されている。ここで、スリーブ9Aの段部9aAの金型キャビティKと離間した側の側面9abAと加圧ピン1Aの窪み1bAの金型キャビティKと離間した側の側面1bbAは所定の距離(加圧ピン1Aのスリーブ9Aに対する突出量に相当)だけ離間して配置されている。
次いで、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を加圧ユニット5Aで加圧するために、駆動手段(不図示)で加圧ピン13Aを駆動させる。ここで、スリーブ9Aと加圧ピン1Aの間の空気の抵抗(空気バネの弾性係数ともいう)は、加圧ピン1Aと加圧ピン12Aの間に配置されたコイルバネ6Aや加圧ピン12Aと加圧ピン13Aの間に配置されたコイルバネ7Aのバネ弾性力よりも相対的に小さいため、図5(b)で示すように、駆動手段から加圧ピン13Aへ伝達された駆動力によってコイルバネ6A、7Aが収縮する前に、加圧ピン13A、12Aとコイルバネ7A、6Aを介して加圧ピン1Aへ伝達された前記駆動力によって、加圧ユニット5Aを構成する加圧ピン1A、12A、13Aの相対的な位置が変化しない姿勢で加圧ユニット5Aが前記所定の距離だけスリーブ9Aに対して相対的に該スリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動される。よって、加圧ピン1A、12A、13Aからなる加圧ユニット5Aの一部がスリーブ9Aから金型キャビティKへ突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に大きな面積S1A(加圧ピン1A、12A、13Aの加圧面の面積)で加圧することができる。
次に、スリーブ9Aの段部9aAの金型キャビティKと離間した側の側面9abAと加圧ピン1Aの窪み1bAの金型キャビティKと離間した側の側面1bbAとが当接した後、更に駆動手段(不図示)で加圧ピン13Aを駆動させると、加圧ピン1Aと加圧ピン12Aの間に配置されたコイルバネ6Aのバネ弾性係数が加圧ピン12Aと加圧ピン13Aの間に配置されたコイルバネ7Aのバネ弾性係数よりも相対的に小さいため、図5(c)で示すように、加圧ピン13Aとコイルバネ7Aと加圧ピン12Aを介してコイルバネ6Aへ伝達された前記駆動力によってコイルバネ6Aがスリーブ9Aの軸心LA方向へ収縮され、加圧ピン12Aに対する加圧ピン13Aの相対的な位置が変化しない姿勢で加圧ピン2Aが前記駆動力に応じたコイルバネ6Aの収縮量だけスリーブ9Aに対して相対的に該スリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動される。よって、加圧ピン12A、13Aからなる加圧ピン2Aの一部が加圧ピン1Aから金型キャビティKへ更に突出され、金型キャビティK内の溶湯を面積S2A(加圧ピン12A、13Aの双方の加圧面の面積)で加圧することができる。
そして、加圧ピン1Aと加圧ピン12Aの間に配置されたコイルバネ6Aが所定量だけ収縮した後、更に駆動手段(不図示)で加圧ピン13Aを駆動させると、図5(d)で示すように、駆動手段から加圧ピン13Aを介してコイルバネ7Aへ伝達された駆動力によってコイルバネ7Aがスリーブ9Aの軸心LA方向へ収縮され、加圧ピン2が前記駆動力に応じたコイルバネ7Aの収縮量だけ加圧ピン12Aに対して相対的にスリーブ9Aの軸心LA方向へ駆動される。よって、加圧ピン13Aの一部が加圧ピン12Aから金型キャビティKへ更に突出され、金型キャビティK内の溶湯を相対的に小さい面積S3A(加圧ピン13Aの加圧面の面積)で加圧することができる。
これにより、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を最初に相対的に大きな面積S1Aで加圧し、次いで面積S2Aで加圧し、次に相対的に小さい面積S3Aで連続的に加圧することができ、金型キャビティK内の溶湯の凝固過程で発生する鋳巣を更に多段的に加圧することができ、溶湯の内部で発生する鋳巣を加圧するタイミングや加圧面積、加圧深さ等をより精緻に調整することができるため、溶湯の内部で発生する鋳巣をより効果的に排除することができる。
なお、金型キャビティKへ突出された加圧ユニット5Aの一部をスリーブ9A側へ引き戻す際には、上記する実施の形態1と同様に、最初に最も内側に配置された加圧ピン13Aをスリーブ9Aの軸心LA方向へ加圧ピン12Aの内側へ移動させ、次いで加圧ピン12A、13Aを一体とした加圧ピン2Aをスリーブ9Aの軸心LA方向へ加圧ピン1Aの内側へ移動させ、次に加圧ピン1A、12A、13Aを一体とした加圧ユニット5Aをスリーブ9Aの軸心LA方向へスリーブ9A側へ移動させ、各加圧ピン1A、12A、13Aを多段的にスリーブ9A側へ引き戻す。
[実施の形態3]
図6は、本発明に係るダイカスト装置の実施の形態3による加圧工程を説明した縦断面図であって、図6(a)は加圧前の状態を示した図であり、図6(b)は、図6(a)に続いて加圧ピン1B、12B、13Bを作動させた状態を示した図であり、図6(c)は、図6(b)に続いて加圧ピン13Bを作動させた状態を示した図であり、図6(d)は、図6(c)に続いて加圧ピン12B、13Bを作動させた状態を示した図である。
図6で示す実施の形態3のダイカスト装置10Bは、図4、5で示す実施の形態2のダイカスト装置10Aに対して、加圧ピン同士の間に配置されたコイルバネの形態が相違しており、その他の構成はほぼ同様である。したがって、実施の形態2のダイカスト装置10Aと同様の構成については、同様の符号を付してその詳細な説明は省略する。
具体的には、実施の形態3のダイカスト装置10Bにおいては、加圧ピン1Bと加圧ピン12Bの間に配置されたコイルバネ6Bのバネ弾性係数が加圧ピン12Bと加圧ピン13Bの間に配置されたコイルバネ7Bのバネ弾性力よりも相対的に大きいため、コイルバネ6Bが収縮する前にコイルバネ7Bが収縮する。
この実施の形態3のダイカスト装置10Bにおいては、駆動手段で加圧ピン13Bを駆動させると、まず、図6(b)で示すように、駆動手段から加圧ピン13Bへ伝達された駆動力によってコイルバネ6B、7Bが収縮する前に、加圧ピン13B、12Bとコイルバネ7B、6Bを介して加圧ピン1Bへ伝達された前記駆動力によって、加圧ユニット5Bを構成する加圧ピン1B、12B、13Bの相対的な位置が変化しない姿勢で加圧ユニット5Bがスリーブ9Bに対して相対的に該スリーブ9Bの軸心LB方向へ駆動される。
次いで、更に駆動手段(不図示)で加圧ピン13Bを駆動させると、加圧ピン1Bと加圧ピン12Bの間に配置されたコイルバネ6Bのバネ弾性係数が加圧ピン12Bと加圧ピン13Bの間に配置されたコイルバネ7Bのバネ弾性係数よりも相対的に大きいため、図6(c)で示すように、加圧ピン13Bを介してコイルバネ7Bへ伝達された前記駆動力によってコイルバネ7Bがスリーブ9Bの軸心LB方向へ収縮され、加圧ピン1Bに対する加圧ピン12Bの相対的な位置が変化しない姿勢で加圧ピン13Bが前記駆動力に応じたコイルバネ7Bの収縮量だけ加圧ピン12Bに対して相対的に該スリーブ9Bの軸心LB方向へ駆動される。
次に、更に駆動手段(不図示)で加圧ピン13Bを駆動させると、図6(d)で示すように、駆動手段から加圧ピン13Bとコイルバネ7Bと加圧ピン12Bを介してコイルバネ6Bへ伝達された駆動力によってコイルバネ6Bがスリーブ9Bの軸心LB方向へ収縮され、加圧ピン12Bに対する加圧ピン13Bの相対的な位置を変化させない姿勢で加圧ピン12Bが前記駆動力に応じたコイルバネ6Bの収縮量だけ加圧ピン1Bに対して相対的にスリーブ9Bの軸心LB方向へ駆動される。
このように、加圧ピン同士の間や加圧ピンとスリーブの間に配置された弾性体の弾性力(たとえば、コイルバネのバネ弾性力や空気バネの圧力)を適宜調整することによって、複数の加圧ピンを鋳巣の状態に適合した様々な形態で金型キャビティへ突出させることができ、金型キャビティの溶湯の内部で発生する鋳巣をより効果的に排除することができる。
なお、上記する実施の形態1〜3においては、金型キャビティとそれに連通するスリーブを別体に設ける形態について説明したが、たとえば金型キャビティとスリーブを一体の形成してもよい。
[試験体による加圧ピンの引き戻し力を測定した実験とその結果]
本発明者等は、外径の異なる2種類の加圧ピンの試験体(φ12mmの円柱状の試験体1とφ15mmの円柱状の試験体2、材質:SKD61)を作製し、それぞれの試験体に対して金型キャビティ内の溶湯(材質:ADC12)への突出量を変化させた場合の引き戻し力測定を実施した。
引き戻し力の測定方法は、予め試験体を金型キャビティ内に突出させ、当該金型キャビティ内へ溶湯を充填した後、油圧シリンダを用いて試験体を金型キャビティから引き戻し時間3secで引き戻した際の引き戻し力を測定した。なお、その際のダイタイム(鋳造完了時間)は10secであった。
図7は、上記する試験体1、2による加圧ピンの金型キャビティへの突出量と引き戻し力の関係を示した図である。
図示するように、相対的に外径の小さい試験体1では、金型キャビティへの突出量が増加するに従って加圧ピンの引き戻し力が増加し、金型キャビティへの突出量が7mmを超えると引き戻し力が急激に増加することが確認された。また、相対的に外径の大きい試験体2では、相対的に外径の小さい試験体1と比較して引き戻し力が低下するものの、金型キャビティへの突出量が7.5mmを超えると引き戻し力が急激に増加することが確認された。
この実験結果より、金型キャビティの溶湯へ突出された加圧ピンは、熱膨張によるアンカー効果と溶湯の凝固収縮によって金型キャビティへの突出量が増加するに従って加圧ピンの引き戻し力が増加するものの、加圧ピンの突出量を7mm以下とすることで、一般に使用される外形を有する加圧ピンについて引き戻し力の増加を効果的に抑制できることが実証された。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。