JP5704087B2 - 水素吸蔵合金 - Google Patents
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Description
水素吸蔵合金は、金属格子内に水素を原子として蓄えることができ、コンパクトな水素貯蔵物質である。これまで希土類元素を用いたLaNi5系合金、TiやZrを使ったラーベス相合金など様々な合金が開発されてきた。最近では、体心立方晶を有するTi−Cr−V合金が高水素吸蔵量を持つとして注目されている。しかしながら、Ti−Cr−V合金は、水素吸蔵・放出の繰り返しにおける劣化が問題になっている。
例えば、特許文献1には、
(a)Ti:V:Cr:Nb=0.35:0.20:0.41:0.04となるように配合された原料をメカニカルアロイング(MA)処理し、
(b)得られた粉体を不活性ガス雰囲気下において、800℃で1分間熱処理する
ことにより得られる水素吸蔵合金が開示されている。
同文献には、
(a)得られた合金の水素吸蔵量が2.40wt%である点、及び、
(b)得られた合金の加熱・冷却を50回繰り返しても、合金の平均粒径はほとんど変化しない(すなわち、合金の微粉化が生じにくい)点
が記載されている。
同文献には、
(a)このような方法により、低圧プラトー領域又は低圧プラトーの下部プラトー領域における合金中の吸蔵水素の安定性が低下し、より多くの水素を放出することが可能となる点、及び、
(b)V40Ti25Cr35Nb3合金に対してこのような方法を適用すると、有効水素量が増大する点
が記載されている。
同文献には、Fe、Si及び/又はAlの添加によって、サイクル耐性が向上する点が記載されている。
さらに、特許文献2では、Ti−Cr−V系合金にNbを添加することが述べられている。しかしながら、同文献では、Nbはbcc固溶体を形成する傾向の強い元素(すなわち、有効水素量を増大させるための元素)として添加されており、Nbの耐久性に関する効果は述べられていない。また、同文献で開示されている組成では、室温付近での使用を考えた場合、平衡圧が低すぎる。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、有効水素吸蔵量が多く、かつ、低コストな水素吸蔵合金を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、サイクル耐性に優れた水素吸蔵合金を提供することにある。
TixCryVzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、2≦v≦8、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
[1. 水素吸蔵合金]
本発明に係る水素吸蔵合金は、次の(1)式で表される組成を有するbcc構造相を主相とする。
TixCryVzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、1≦v≦10、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
[1.1.1. y/x]
本発明において、「最大水素量」とは、理論的に取り出すことが可能な水素量の最大値をいう。また、本発明において、「有効水素量」とは、0.01〜10MPaの範囲で可逆的に吸蔵放出することが可能な水素量をいう。また、本発明において、「初期有効水素量」とは、有効水素量の初期値をいう。
y/x比が小さくなる(すなわち、Ti量が多くなる)ほど、最大水素量が多くなる。しかしながら、y/xが小さくなりすぎると、平衡圧が低下する。平衡圧が過度に低下すると、水素を取り出すために減圧が必要となるので、有効水素量が少なくなる。従って、y/xは、1.5以上である必要がある。y/xは、さらに好ましくは、1.6以上、さらに好ましくは、1.7以上、さらに好ましくは、1.8以上である。
zは、合金中に含まれるV量(at%)を表す。Vは高価であるため、zが小さくなる(すなわち、V量が少なくなる)ほど、製造コストを低減することができる。しかしながら、zが小さくなりすぎると、サイクル耐性が低下する。製造コストを増大させることなくサイクル耐性を向上させるためには、zは、15at%以上である必要がある。zは、さらに好ましくは、20at%以上、さらに好ましくは、25at%以上である。
一方、V量が過剰になると、高コスト化するだけでなく、初期有効水素量が少なくなる。従って、zは、65at%未満である必要がある。zは、さらに好ましくは、50at%以下である。
vは、合金中に含まれるNb量(at%)を表す。所定の組成を有するTi−Cr−V合金に対して、さらにNbを添加すると、サイクル耐性が向上する。このような効果を得るためには、vは、1at%以上である必要がある。vは、さらに好ましくは、1.5at%以上、さらに好ましくは、2.0at%以上である。
一方、Nb量が過剰になると、かえってサイクル耐性が低下する。また、Nbの過剰添加は、初期有効水素量の低下をもたらす。従って、vは、10at%以下である必要がある。vは、さらに好ましくは、9.0at%以下、さらに好ましくは、8.0at%以下である。
wは、合金中に含まれるFe量(at%)を表す。Feは、必ずしも必要な元素ではないが、所定の組成を有するTi−Cr−V系合金に対して、Nbに加えてさらにFeを添加すると、サイクル耐性を向上させることができる。また、最大水素量を大きく低下させることなく、平衡圧を高くすることができる。wは、さらに好ましくは、0.1at%以上、さらに好ましくは、0.5at%以上である。
一方、wが大きくなりすぎると、有効水素量が極端に低下する。従って、wは、5at%未満である必要がある。wは、さらに好ましくは、3at%以下、さらに好ましくは、2at%以下である。
上述した組成が得られるように原料を配合し、溶解鋳造すると、(1)式で表されるbcc構造相を主相とする水素吸蔵合金が得られる。水素吸蔵合金は、bcc構造相のみからなるのが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。不可避的不純物としては、例えば、純Ti、TiCr2(ラーベス相)などがある。水素吸蔵放出特性に悪影響を及ぼす不可避的不純物は、少ないほど良い。
本発明において、「bcc構造相を主相とする」とは、水素吸蔵合金に含まれるbcc構造相の体積割合が80vol%以上であることをいう。bcc構造相の体積割合は、さらに好ましくは、90vol%以上である。
水素吸蔵合金の粒径は、水素の吸蔵・放出特性に影響を与える。一般に、粒径が小さくなりすぎると、表面積が増加する。その結果、表面の酸化層が増大し、水素貯蔵量が減少する。また、粒径を小さくするために長時間の粉砕処理を行うと、水素吸蔵合金に歪が導入される。その結果、水素貯蔵量が減少し、あるいは、プラトー平坦性が低下する。従って、水素吸蔵合金の粒径は、活性化処理前において、1.0mm以上が好ましい。
一方、水素吸蔵合金の粒径が大きくなりすぎると、表面積が小さくなる。そのため、活性化処理に長時間、高温及び/又は高圧が必要となる。従って、水素吸蔵合金の粒径は、活性化処理前において、5mm以下が好ましい。
ここで、「水素吸蔵合金の粒径」とは、ふるい(メッシュ)による分級試験で用いられるふるい目の大きさをいう。
本発明に係る水素吸蔵合金の製造方法は、溶解・鋳造工程と、熱処理工程と、活性化工程とを備えている。
溶解・鋳造工程は、(1)式で表される組成となるように配合された原料を溶解・鋳造する工程である。なお、(1)式の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
TixCryVzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、1≦v≦10、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
原料の溶解・鋳造は、多量の酸素混入による合金特性の悪化を防ぐために、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気、真空下(1×10-1〜1×10-6Torr(13.3〜1.33×10-4Pa))などの非酸化雰囲気下で行うのが好ましい。溶解温度及び溶解時間は、特に限定されるものではないが、均一な溶湯が得られる温度及び時間であれば良い。
熱処理工程は、溶解・鋳造工程で得られた鋳塊を熱処理する工程である。
一般に、TiCrV系合金のbcc構造相は、高温平衡相である。溶解・鋳造時に形成される各成分の凝固偏析(特に、Ti成分とV成分のデンドライト状の凝固偏析)を解消して均質化するためには、bcc構造相の安定な高温域での熱処理(均質化熱処理)が必要となる。また、均質化熱処理を行うと、プラトーの平坦性が増し、水素吸蔵・放出特性を向上させることができる。
一方、合金の部分的溶融を抑制するためには、熱処理温度は、合金の融点以下が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、融点より20〜100℃低い温度である。
一方、必要以上の熱処理は、効果が飽和するので、実益がない。従って、熱処理時間は、24時間以下が好ましい。
活性化工程は、熱処理された鋳塊に水素を吸蔵・放出させる処理を少なくとも1回行う工程である。
活性化処理は、鋳塊を所定の温度に加熱した状態で減圧し、次いで鋳塊を加圧した水素に接触させることにより行う。
活性化処理の温度が低すぎると、水素を吸蔵させるのが困難となる。従って、活性化処理の温度は、300℃以上が好ましい。
一方、活性化処理の温度が高くなりすぎると、均質化した組織が不均一になるおそれがある。従って、活性化処理の温度は、450℃以下が好ましい。
従来のTi−Cr−V系合金は、水素放出の平衡圧力が低いものや耐久性の低いものが多い。これに対し、Ti−Cr−V系合金の内、V量の多いものは、水素吸蔵・放出に対する耐久性があると言われている。しかしながら、Vは高価であるため、V量の増加は、製造コストの増大を招く。また、V量が相対的に少ないTi−Cr−V系合金において、耐久性を向上させる方法が提案された例は、従来にはない。
[1. 試料の作製]
Ti、Cr、V、Nb及びFeの純粋金属を準備し、これらを所定の組成になるように、かつ、総量で10〜15gとなるように秤量した。秤量された原料から、プラズマボタン溶解炉にてボタンインゴットを溶製した。溶解前に、炉内を真空排気し、アルゴンガスによる雰囲気ガス置換を3〜4回繰り返した。
次に、得られたボタンインゴットを反転させ、上記と同様のアルゴンガス置換及びボタンインゴットの再溶製を行った。このような反転−アルゴンガス置換−再溶製を、3〜4回繰り返した。
得られた試料を用いて、水素吸蔵特性評価、及び、10サイクルまでの水素吸蔵・放出繰り返し試験を行った。評価は、雰囲気温度:0〜30℃、水素圧:0〜10MPaの範囲で行った。さらに、初期有効水素量及び10サイクル後の有効水素量から、保持率(=10サイクル目の有効水素量×100/初期有効水素量(%))を算出した。
表1に、評価結果をまとめて示す。なお、表1には、各試料の組成も併せて示した。また、図1に、Nb添加量と10サイクル後の有効水素量の保持率との関係を示す。図2に、Nb添加量と初期有効水素量との関係を示す。さらに、図3に、Cr/Ti比と初期有効水素量との関係を示す。
(1)Nbを含まない場合、及び/又は、Cr/Ti比が適切でない場合、保持率が低下する。また、組成によっては、室温近傍における初期有効水素量が著しく低下する。
(2)Nb添加量を1〜10at%とすると、保持率は88%以上となる。Nb添加量を1.5〜8.5at%とすると、保持率は91%以上となる。Nb添加量を2〜8at%とすると、保持率は93%以上となる。さらに、Nb添加量を2.5〜6%とすると、保持率は94%以上となる。
(3)Nb添加量が10at%を超えると、初期有効水素量が低下する。
Claims (2)
- 次の(1)式で表される組成を有するbcc構造相を主相とする水素吸蔵合金。
TixCryVzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、2≦v≦8、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。 - 1.6≦y/x≦2.8
である請求項1に記載の水素吸蔵合金。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2012025584A JP5704087B2 (ja) | 2012-02-08 | 2012-02-08 | 水素吸蔵合金 |
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