以下、本発明に係る超高周波差動回路の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の超高周波差動回路に係る第1の構成を説明するもので、本発明の基本となる1区間の単位回路を示す要部斜視図である。
図1において、一組の線路導体5A、5Bは、それぞれが等しい厚さt、幅Wおよび長さLを有する細長い長方形の導体であり、厚さdの絶縁性誘電体層(図示省略)を介して対向する線路導体対である。
一方の線路導体5Aの一端は差動入力端子11Aとなっており、他端は差動出力端子13Aとなっており、これら差動入力端子11Aおよび差動出力端子13Aが互いに線路導体5Aから逆方向に一体的に突設形成している。
他方の線路導体5Bの一端は差動入力端子11Bとなっており、他端は差動出力端子13Bとなっており、これら差動入力端子11Bおよび差動出力端子13Bが互いに線路導体5Bから逆方向に一体的に突設形成している。
しかも、線路導体5Aと5Bでは、差動入力端子11A、11Bおよび差動出力端子13A、13Bがおのおの一端、他端で逆の位置に形成されるとともに、線路導体5A、5Bの差動入力端子11Aと差動出力端子13Bが逆向き(背面)方向に突出され、線路導体5A、5Bの差動出力端子13Aと差動入力端子11Bが逆向き(背面)方向に突出されている。
これら線路導体5A、5Bによって本発明の超高周波差動回路としての1区間の単位回路3が構成されている。
単位回路3の差動入力端子11Aを差動信号の一方の極性に対する入力端子とし、差動出力端子13Aをその一方の極性の出力端子とし、単位回路3の差動入力端子11Bを差動信号の他方の極性の入力端子とし、差動出力端子13Bをその他方の極性の出力端子としている。
図2は、このような1区間の単位回路3について、以下の条件下でのシミュレーションにより得られた群遅延特性である。
すなわち、図1の構成における第1の解析例として、線路導体5A、5Bの厚さtを5μm、幅Wを20μm、長さLを600μmとし、誘電率4.6の誘電体層の厚さdを8μmとした場合、その群遅延特性は図2aのようになる。
この場合、単位回路3の特性インピーダンスは約100Ωとなり、周波数が1GHzよりも低い範囲で群遅延特性は約10.3psであり、周波数の増加とともに次第に減少し、100GHzでは最低に近い約1.9psとなる。
図1の構成における第2の解析例として、線路導体5A,5Bの長さLだけを第1の解析例と異なり300μmと短くし、厚さtおよび幅Wを同じ寸法にし、同じ誘電率4.6の誘電体層の厚みdを13μmとすると、その群遅延特性は図2bのようになる。
この場合も、単位回路3の特性インピーダンスは約100Ωとなり、周波数が1GHzよりも低い範囲では群遅延特性は約4.1psであり、周波数の増加とともに図2aと同じく次第に減少し、100GHzでは約2.2psであるが、未だ最低部には達せずに100GHz以上でも傾斜している。
図2から明らかなように、図1の構成に係る単位回路3は、いずれの解析例でも右下がりの群遅延特性を有し、線路導体5A、5Bの長さ寸法を共に変えることにより、群遅延特性の傾斜と周波数範囲が変ることが分かる。
図3および図4は、図1に示す単位回路3の等価回路図である。
図3は1区間の単位回路3をそのまま直接的に表現したものであり、一対の線路導体5A、5Bが上下対向的に配置され、差動入力端子11Aと同じ側に差動出力端子13Bがあり、差動出力端子13Aと同じ側に差動入力端子11Bが配置される。
誘電体層を介して対向する一対の線路導体5A、5B間には分布容量が存在する。この回路の機能の理解を容易にするため、例えば線路導体5A、5Bを長さ方向で5つに区分すると、線路導体5A、5Bの両端部分には分布容量Cdeが、中央部分には分布容量Cdcが、中央と両端の中間部分には分布容量Cdmが存在すると考えることが可能である。
これらの分布容量は、差動入力端子11Aから差動出力端子13Aの方向へ順次梯子状に配置されており、この構成で1区間の単位回路3が形成されている。
ここで、差動入力端子11Aから矢印の方向に差動信号が流れる場合を考えると、差動信号は線路導体5Aを通って差動出力端子13Aから矢印の方向へ流れる。他方、そのリターン電流は差動出力端子13Bに戻り、線路導体5Bを通って差動入力端子11Bから矢印の方向へ流れる。
この場合、線路導体5A、5Bを流れる電流は、互いに同じ方向に流れており、線路導体5A、5Bは差動信号に対して正結合状態となっている。
図4は、図3の等価回路を理解し易いように変換したものである。
この場合、差動入力端子11Aから矢印の方向に差動信号が流れる場合を考えると、差動信号が線路導体5Aを通って差動出力端子13Aから矢印の方向へ流れる。
そのリターン電流は差動出力端子13Bに戻り、線路導体5Bを通って差動入力端子11Bから矢印の方向へ流れる。この場合の分布容量の配置を考えると、中央の分布容量Cdcは図3と同様に梯子型の配置となっている。
しかし、線路導体5A、5B両端の分布容量Cdeおよび線路導体5A、5B中央と両端間に形成される分布容量Cdmとについて検討すると、これらは格子型回路における交差キャパシタの配置となっており、分布容量Cdcを含めても、容量的には交差キャパシタとして機能する分布容量の方が多い。その結果、図1の単位回路3は格子型回路を構成し、図2のように右下がりの群遅延特性が得られる。
従来の分布定数回路において、分布容量は梯子型に配置されると考えるのが自然であり、実際の使用方法もそのようにされてきた。その結果、従来例で説明したが、右下がりの群遅延特性を有する分布定数回路としては実用的なものが存在しなかった。
これに対し、図1に示す本発明の第1の構成としての単位回路3は、分布容量の配置が格子型となり、図2に示す右下がりの群遅延特性を得ることが可能となる。
この格子型の分布定数回路は、図4から分かるように、一対の線路導体5A、5Bによって構成されており、集中定数回路の1区間の回路構成と同様に機能する。すなわち、1区間の単位回路として機能する。
この1区間の単位回路3を応用することにより、いろいろな特性を有する超高周波差動回路1が実現可能である。以下それを説明する。
図5〜図8は、本発明の超高周波差動回路に係る第2の構成を示す要部平面図である。
この第2の構成は、図1(第1の構成)に示した単位回路3における一組の線路導体5A、5Bに集中定数的な容量電極を付加することで、群遅延特性の変化を可能にしたものである。
図5〜図8に示す構成も、一組の線路導体5A、5Bが図示しない誘電体層を介して対向することで1区間の単位回路3として機能する。理解を容易にするため、それらの図において線路導体5Aを左に、線路導体5Bを右に分離して示す。
図5は図1と同様に容量電極を付加しない構成であり、線路導体5Aの一端が差動入力端子11Aで、その他端が差動出力端子13Aとなっており、線路導体5Bにあって線路導体5Aの差動出力端子13Aと対向位置にある端部を差動入力端子11Bとし、線路導体5Aの差動入力端子11Aと対向位置にある端部を差動出力端子13Bとしている。
この図5の構成において、線路導体5A、5Bの厚さtが5μm、幅Wが15μm、長さLが1000μm、寸法xが115μm、寸法yが40μm、誘電率4.6の誘電体層の厚さdが5μmの場合、特性インピーダンスが約100オームとなる。
なお、図5の横寸法xと縦寸法yは、差動入力端子11A、11Bおよび差動出力端子13A、13Bに関係する寸法であるが、図6〜図8で説明する容量電極15にも関係する寸法なので、詳細は後述する。
図6は、本発明の超高周波差動回路の第2の構成を具体的に示すものである。
図6の線路導体5A、5Bの差動入力端子11A、11Bにおいて、これらの反対側にも電極が対称かつ一体的に突設されており、差動出力端子13A、13Bにおいて、これらの反対側にも電極が対称かつ一体的に突設されており、これらが容量電極15として機能する。
すなわち、線路導体5A、5Bを対向させると、それら容量電極15と差動入出力端子11A、13Bが重なるように対向し、容量電極15と差動入出力端子13A、11Bが重なるように対向するので、図5の構成よりも対向面積が増大する。
図5の構成と比較した場合、1つの容量電極15当たりで増大する面積は、容量電極の横寸法xの115μmと縦寸法yの40μmを掛けたものから、線路導体の幅Wの15μm部分を引いたものである。
図6の構成において、容量電極15は、線路導体5A、5Bの長さ方向の中央部を中心にして対称的に両端に付加されており、上述した図4の両端にある分布容量Cdeを増加させることを意味する。
分布容量15を設けても、図5における横寸法xおよび縦寸法yと同じ形状になっているのは、容量電極15の有無による線路導体5A、5Bのインダクタンスを可能な限り等しくするためである。
図6の構成は、図5の構成と比較すると、容量電極15で対向面積が増えるから、線路導体5A、5B間の距離dを同じに保った状態で線路間の容量を等しくするために、誘電体層の誘電率を3.4と低くすると良い。
これにより、線路導体5A、5Bのインダクタンスと結合係数を同じに保って、図6の特性インピーダンスも約100Ωとすることが可能であるし、容量電極15の有無に拘わらず群遅延特性を比較することが可能である。
そして、図7の構成は、線路導体5A、5Bの長さ方向の中心部において、容量電極15を対称的かつ中心に寄せて形成したものであり、縦寸法は2yとなっている。この構成では、図4の中央にある梯子型として寄与する分布容量Cdcを増加させることを意味する。
また、図8の構成は、線路導体5A、5Bの長さ方向の中央部から両端の中間において、容量電極15をおのおの対称に形成したものであり、図4の中間にある格子型として寄与する分布容量Cdmを増加させることを意味する。
図9〜図11はそれら図5〜図8の構成が示す群遅延特性である。図中の曲線に与えられる符号は、
図5に対する郡遅延特性が曲線a、
図6に対する郡遅延特性が曲線b、
図7に対する郡遅延特性が曲線c、
図8に対する郡遅延特性が曲線dである。
図6の構成が示す群遅延特性は、図9中の曲線bで示され、図5の構成が示す群遅延特性の曲線aと比較すると、低域のスタートは殆ど同じであるが、周波数が増加するに従って群遅延時間が減少する割合が大きい。すなわち、右下がりの傾斜が大きいと言える。
しかしながら、1個の単位回路3だけでは、グラフ上ではその違いが明確に見えないので、「表1」にこの関係を数値で示した。
「表1」において、1行目は周波数を1GHz〜30GHzまで5GHzおきに表し、第2行目以降、順に曲線a、曲線b、曲線c、曲線d上の各周波数における群遅延時間をpsで表している。
1GHzでは曲線bが21.72psとなって曲線aより0.12ps大きいが、5GHzでは逆に0.14ps小さくなり、10GHzでは0.2ps、15GHzでは0.3ps、20GHzでは0.35psと次第にその差が大きくなる。すなわち、曲線bの方が右下がりの傾斜が大きい。
このように、図6の構成では、群遅延特性における右下がり特性の低域周波数帯における直線性の改善が期待できる。
図10における、曲線aは、図5の構成が示す群遅延特性であり、曲線cは図7の構成が示す群遅延特性である。
上述した「表1」において、1GHzにおける曲線cは21.49psとなって曲線aより0.11ps小さいが、5GHzでの両曲線の差は0.09psとやや差が小さくなり、10GHzでは逆に曲線cが曲線aより0.08ps大きくなっている。15GHzでは更に0.11ps大きく、20GHzでは0.09ps大きい。
この特性は、曲線aに比較して、曲線cの方が直線性が良くなっていることを意味し、図7の構成は、群遅延特性における右下がり特性の高域周波数帯における直線性の改善が期待できる。
図11中の曲線aは図5の構成が示す群遅延特性であり、曲線dは図8の構成が示す群遅延特性であり、両者はグラフでは殆ど区別できない。
「表1」において、数値的に見れば、「表1」の曲線dは、曲線aに比べると、1GHzでは0.04ps、5GHzでは0.1ps、10GHzでは0.07ps大きいが、20GHzでは逆に0.06ps少なくなる。
しかし、この差は曲線aと曲線b、曲線aと曲線cとを各々比較しても明確でない。
線路導体5A、5Bに容量電極15付加しても曲線a〜dが殆ど変化しないことは、逆に考えれば、上述した構成は、容量電極15を付加する必要が生じた場合であって、群遅延特性を変化させたくない場合に有用である。
例えば、実際の設計においてシミュレーションした結果、特性インピーダンスが少し高くなった場合、接続導体5A、5B間の静電容量を増加する必要が生じることがある。この場合に、接続導体5A、5Bの幅を増加させると、1区間の単位回路3の特性が変化してしまう。
そこで、既に設計の目的に合致した諸特性が得られており、ただ特性インピーダンスだけを調整する必要が生じた場合には、一組の線路導体5A、5Bには少なくとも1組以上の容量電極15が互いに重なるように、かつこの容量電極15が線路導体5A、5bの長さ方向の中心部に対して対称的な形状を設ければ良い。
図12は、本発明の超高周波差動回路に係る第3の構成を示す要部斜視図である。
この第3の構成は、上述した複数個の単位線路3が接続導体7A、7Bを介して矩形状に折り返されてメアンダ状に縦続接続され、超高周波差動回路1となっている。
図1の構成と同様に、長さLおよび幅Wの線路導体5A、5Bが誘電体層(図示省略)を介して重なるように対向しており、線路導体5Aは接続導体7Aで接続され、線路導体5Bは接続導体7Bで接続されている。
一方の端(図12中の左端)にある線路導体5Aの一端には差動入力端子11Aが、他方の端(同図中の右端)にある線路導体5Aの他端には差動出力端子13Aが形成され、一方の端(同図中の左端)にある線路導体5Bの一端には差動入力端子11Bが、他方の端(同図中の右端)にある線路導体5Bの他端には差動出力端子13Bが形成されている。
接続導体7A、7Bは接続導体7B、7Aが形成されない側に分けて形成され、接続導体7A、7Bが接続導体7B、7Aを含めて他の導体や電極と互いに対面しないようになっている。
長さGおよび幅Jの接続導体7Aとこれに隣接する線路導体5A間の距離もGとなっており、長さGおよび幅Jの接続導体7Bとこれに隣接する線路導体5B間の距離もGとなっている。
この図12の構成では、接続導体7A、7Bには上下で対面する導体がなく、接続導体7A、7Bが複数の線路導体5A、5Bを接続するインダクタンスとして機能する。
従来のメアンダラインは、線路全てがグランドプレーンと対面しており、接続導体に相当する部分も分布定数回路として機能する。従って、線路導体5A、5Bに相当する幅W部分も、接続導体7に相当する幅J部分も同じように形成にするのが普通である。
ところが、本発明の第3の構成に係る超高周波差動回路1では、接続導体7A、7Bの回路素子としての主要成分はインダクタンスであり、従来のメアンダラインとは異なっている。
図13は、図12の構成において、長さLが400μm、幅Wが20μm、厚みtが5μmの線路導体5A、5Bを、誘電率4.6で厚みdが11μmの誘電体層を介して対向させた場合の特性図である。長さGが90μm、幅Jが20μmの接続導体7A、7Bによって単位回路3を図12のようにメアンダ状に接続し、超高周波差動回路1を構成すると、その特性インピーダンスが約100Ωとなり、その周波数特性が図13Aに示すようになる。Sdd21は通過特性、Sdd11は反射特性である。
通過特性Sdd21は64.5GHzまではなだらかな傾斜で、次第に減衰が増加するが、64GHzでは−1.4dB、65.5GHzで約−3dBとなる。すなわち、低域からの通過帯域が65.5GHzで遮断周波数となり、それからが減衰帯域となる。それ以降は急速な遮断特性となり、67GHzで−15.2の浅い第1の減衰極があり、80GHzでは−36.8dBの深い第2の減衰極がある。
群遅延特性GDは、図13Bに示すように、60GHz位までは比較的平坦な特性で60GHzを過ぎたあたりから急に立ち上がり、66GHzでピークになる。しかし、ピークの幅は非常に狭い。
図1に示す1区間の単位回路3は、1組だけでは右下がりの特性であるが、図12のようなメアンダ状の構成にすると、メアンダラインの右上りの特性と互いに補償しあい、超高周波差動回路1としては、図13Bのように平坦な群遅延特性が実現できる。
図13に示す超高周波差動回路1において、全ての線路導体5Aと接続導体7Aを加算して5mmにすると、群遅延特性が図13Bのようになり、1GHzの値が61.2psとなる。
これと同じように、線路幅が20μmで線路の厚みが5μmの導体と、同じ誘電率4.6を持つ誘電体で、長さ5mmで直線のストリップラインを特性インピーダンス50Ωで形成した場合、その遅延時間は1GHzで37.4psである。
すなわち、本発明の超高周波差動回路1では、線路導体と誘電体の条件を一致させた直線ストリップラインの1.64倍の実効線路長が得られ、本発明が解決する課題の1である、超高周波差動回路を構成する線路の誘電率効果で決まる物理的な長さを超える実効線路長が得られる。
その理由は、図1に示した1区間の単位回路13を構成する線路導体5A、5Bが正結合していることよることは明らかである。すなわち、本発明で得られる実効線路長の倍率は、線路の構成による結合係数により変化し、「1」よりも大きく「2」よりも小さい値の範囲となる。
このように、1区間の単位回路3が接続導体で7A、7Bを介してメアンダ状に複数縦続接続されて多区間回路構成されると、低域から100GHzを超える広い帯域における目的の周波数範囲において、差動遅延線に求められるような、平坦な群遅延特性を小型、高密度で実現可能である。
図14は、本発明の超高周波差動回路に係る第3の構成が示す別の特性図である。
この図14に示す特性は、図12の構成において、接続導体7A、7Bの幅Jを40μm、誘電体層の厚みdを14μmとし、それ以外は全て図13の特性に係る構成と同様にしたものである。
接続導体7A,7Bの幅Jを、図13の特性が得られた20μmから次第に増加すると、第1の減衰極が次第に浅くなるとともに、第2の減衰極が次第に高い周波数へ移動し、逆に、接続導体7A、7Bの幅Jを狭くすると、第1の減衰極が次第に深くなるとともに、第2の減衰極が次第に低い周波数へ移動することが、シミュレーションで確認される。
そして、接続導体7の幅Jが40μmになると、図14Aのように第1の減衰極がなくなり、第2の減衰極が95.5GHzとなる。
その構成では、接続導体7A、7Bのインダクタンスが低下し、その分だけ超高周波差動回路1の特性インピーダンスが低下するので、誘電体層の厚みdを11μmから14μmに増加することで、特性インピーダンス約100Ωを得ている。
図14Aにおいて、Sdd21は通過特性、Sdd11は反射特性であり、Sdd21が72GHzで約−3dBとなり、これが遮断周波数となる。図14の特性では、第1の減衰極がなくなり、遮断周波数以降の減衰の傾斜がなだらかになって第2の減衰極だけとなり、95.5GHzで−39.5dBとなっている。
群遅延特性GDは、図14Bに示すように、遮断周波数付近の減衰がなだらかになることで、図13で見られたピークがなくなっている。
このように、本発明に係る第3の構成においては、接続導体7A、7Bの幅をこれらに接続される線路導体5A、5Bとは異なる幅にすることにより、減衰極の周波数を調整することが可能で、通過帯域における群遅延特性のピークをなくして平坦化したい場合、又は特定の周波数における信号成分を除去したい場合に有用である。
次に、本発明の超高周波差動回路に係る第4の構成を説明する。
図15は、それを実現するための構成を示すもので、超高周波差動回路1の1区間の単位回路3を2組だけ取り出して示す部分平面図である。
図15において、線路導体5Aと接続導体7Aは実線で表現されており、線路導体5Bは線路導体5Aの下になっているので見えず、接続導体7Bは破線で表現されている。
線路導体5Aの幅Wに対し接続導体7Aの幅Jは広くなっており、その継ぎ目は単なるU字形でなく、接続導体7Aとは逆側に突出されている。
すなわち、接続導体7A、7Bは横寸法x、縦寸法yの部分が互いに対面して容量電極15を形成している。接続導体7A、7Bの幅Jは、容量電極15の縦寸法yと等しくなっている。
図16は、図15の構成による超高周波差動回路1が示す特性例である。
この第4の構成は、本発明が解決する課題3の実現するものであり、課題の1を解決して得られた線路について、低域から100GHzを超える広い帯域において、周波数の増加とともに遅延時間が減少する右下がりの特性を有し、目的に応じて周波数範囲と傾斜を選択可能である。
そのためには、1区間の単位回路3がもつ右下がりの群遅延特性の特徴を活かす必要があり、図4における分布容量Cdeが増大するように、図8に示した容量電極15を線路導体5A、5Bの両端に付加する構成としている。
さらに、図12に示した接続導体7A、7Bの幅Jを広めとし、接続導体7A、7Bのインダクタンスを小さくして、高域周波数での特性変化を少なくしている。
すなわち、図15に示した線路導体5A、5Bおよび接続導体7A、7Bからなる単位回路3を10組で構成した超高周波差動回路1において、線路導体5A、5Bの長さLを1,400μm、幅Wを20μm、接続導体7A、7Bの長さGを180μm、幅Jを60μm、両導体とも厚みtを5μmに設定した構成である。更に、容量電極15の横寸法xを140μm、縦寸法yを60μm、誘電率4.6の誘電体層の厚みdを8μmとしている。
図16Aにおいて、Sdd21は通過特性、Sdd11は反射特性であり、通過特性Sdd21の−3dBの遮断周波数は33GHzであり、特性を平坦化する補償回路として使用できる周波数範囲を十分にカバーしている。
群遅延特性GDは、図16Bに示すように、5GHzから22GHzまで非常に直線性の良い右下がり特性を有しており、この周波数範囲であれば、群遅延特性を平坦化する補償回路として使用することが可能である。
このような本発明による右下がりの補償回路は、図24に例示した従来のメアンダラインのように、直流(DC)近傍の遅延時間の上に乗った特性ではなく、基礎となる遅延時間の60%以上が補償特性として活用できる。従って、先行文献、特開平5−226901のように、超伝導薄膜を使用するとともに装置を冷却して通過帯域内の損失を減らす必要もない。
図17は、本発明の超高周波差動回路に係る第5の構成を示す要部平面図である。なお、図17は2組の単位回路3を接続する接続導体7A、7Bを取り出して示す部分平面図である。
図17において、隣合う線路導体5Aどうしを接続する接続導体7Aは実線で表現してあり、線路導体5Aの下となって見えない線路導体5Bどうしを接続する接続導体7Bは破線で表現されている。
接続導体7Aからは、幅uの延長導体9Aが隣合う線路導体5Aと僅かな間隔を置きこれらと同一平面上を平行に延びており、接続導体7Bからは、幅uの延長導体9Bが隣合う線路導体5Bと僅かな間隔を置きこれらと同一平面上を平行に延びており、それぞれの先端には横寸法x、縦寸法yの容量電極15が形成されている。すなわち、延長導体9Aは接続導体7B方向に、延長導体9Bは接続導体7A方向に延びている。
延長導体9Bに配置された容量電極15は、延長導体9Aに配置された容量電極15に誘電体層を介して重なるように対向しているので、平面図では見えない。これら一対の延長導体9A、9Bと容量電極15は、全ての接続導体7A、7Bに配置されて超高周波差動回路1が構成されている。
図18は第5の構成による超高周波差動回路1が示す特性であり、これらの基本的な寸法は図13や図14の特性図で示した構成の場合と殆ど同じである。
すなわち、1区間の単位回路3は、長さLが400μm、幅Wが20μm、厚みtが5μmの線路導体5A、5Bを誘電体層を介して対向して構成されており、誘電体層の誘電率は4.6のままであるが、その厚みdは16μmと少し厚くしたものである。
また、接続導体7A、7Bの長さGは90μmと同じであるが、幅Jを10μmと細くしてあり、1組分の単位線路3を図12のようにメアンダライン状に構成するとともに、接続導体7A、7Bから幅uが10μmの延長導体9A、9Bが線路導体5A、5Bに平行に延び、これら先端に横寸法xが50μm、縦寸法yが40μmの容量電極15を形成したものである。
図18Aは、図17の構成が示す通過特性Sdd21および反射特性Sdd11である。
通過特性Sdd21は、65.5GHzで約−3dBの遮断周波数となり、それから急峻な遮断特性を有し、70.5GHzで第1の減衰極、74.5GHzで第2の減衰極となるが、70GHzから75.5GHzの間は−35dB以上の深い減衰特性が得られる。この深い減衰特性は、延長導体9A、9Bがインダクタンスとして機能し、容量電極15と直列共振回路を構成していることによる。
すなわち、図18からは、複数の単位回路3からなる超高周波差動回路1によって平坦な群遅延特性を実現した場合に得られる減衰帯域とその減衰特性や、更に、接続導体7A、7Bを細くして第1の減衰極を深くし、強い減衰特性が得られたことが分かる。
このように、延長導体9A、9Bが、隣合う区間の線路導体5A、5B間にこれらと間隔を置いて平行に挿入されるよう各接続導体7、7Bから延長形成され、それら延長導体9A、9Bの先端部に容量電極15を配置するとともに、線路導体5A、5Bの長さ方向の中心部に当該容量電極15を位置させる構成では、通過帯域に接近した周波数部分に除去したい信号成分がある場合、有用である。
そして、延長導体9A、9Bおよび容量電極15についても、これらの一部若しくは全てに対し、長さ若しくは幅、又は長さと幅の両方を異ならせれば、目的に適合する超高周波作動回路1が得られる。
なお、遅延特性GDは、図18Bに示すように、60GHzまでは60psの平坦な特性であるが、遮断周波数付近の67GHzで約130psのピークとなる。
図19は、本発明の超高周波差動回路に係る第6の構成を示す要部平面図である。
図19では、複数の1組の単位回路3からなる超高周波差動回路1において、最も左端の線路導体5A、5Bの長さがLで最も長く、右側に行くに従って長さLが1区間当たりSだけ順に短くなっており、最も右端の線路導体5A、5Bの長さLが最も短くなっている。
接続導体7A、7Bは全て同じ寸法で、長さがGで幅がJであり、線路導体5A、5B、線路導体7A、7Bの厚みはともに同じになっている。
第6の構成における単位線路3の10組分について、最長の長さLが560μm、幅Wが20μm、厚みtが5μmであり、右側に行くに従って、1区間当たりの短くなる寸法Sが20μmの線路導体5A、5Bと、長さGが70μm、幅Jが20μm、厚みtが5μmの接続導体7A、7Bと、誘電率4.6の誘電体層の厚みdが11μmとからなる超高周波差動回路1を形成したとき、通過特性Sdd21および反射特性Sdd11が図20Aに示すように、群遅延特性GDが同図Bに示すようになる。
このように、線路導体5A、5Bの長さLを少しずつ変化させると、各線路の遮断周波数が少しずつ異なるため、Sdd21の通過帯域から遮断帯域に至る変化が緩やかとなり、それに従って群遅延特性も通過帯域から遮断帯域に至る変化も緩やかとなっている。
このように、第6の構成に係る超高周波差動回路1は、平坦な群遅延特性を実現する場合において、それら遮断特性および群遅延特性等がいろいろ選択できるので、従来の集中定数による低域濾波器と同様に、その目的に従って必要な特性を実現することが容易である。
また、本発明の超高周波差動回路に係る第6の構成では、複数の線路導体5A、5Bにおいて、全ての長さLが異なる場合で表現してあるが、実際に必要な特性に応じ、同じ長さのLと異なる長さのLとを自由に組合せることが可能であるし、長さLの異なる方向も一方的でなく、次第に短くして、中央が最も短く、右側で再び左側と同じ長さLに戻す等、その構成は自由である。
上述した第6の構成においては、線路導体5A、5Bの長さを次第に短くすると、これに応じて個々の単位回路3の特性インピーダンスも次第に低くなり、厳密には、それに応じて線路導体5A、5Bの幅Wを狭くした方がマッチングは良くなる。更に、接続導体7A、7Bの長さGと幅Jも特性インピーダンスに関係する。
よって、これらの条件を組合せれば種々の特性が得られることも明らかである。
そして、本発明のこれまでの説明では、反射特性Sdd11の表示はしているもののその改善に関しては説明していない。
しかし、本発明において、これらの諸条件を組み合わせれば、反射特性Sdd11、通過特性Sdd21および群遅延特性GDの全てにわたって、より良い特性を実現できることが予測される。
すなわち、線路導体5A、5Bの一部若しくは全てに対し、長さ若しくは幅、又は長さと幅の両方を異ならせたり、更に、接続導体5A、5Bの一部若しくは全てに対し、長さ若しくは幅、又は長さと幅の両方に違いを設ければ、一層、目的に適合する超高周波差動回路1が得られる。
上述した図1の単位線路3において、線路導体5A、5Bが長方形で、かつ平面図では完全に一体となるように対向した構成を説明した。
しかし、図3の等価回路からも明らかなように、線路導体5A、5Bが誘電体層を介して分布容量を有するように対向し、差動信号に対して線路導体5A、5B間が正結合状態になれば、本発明に係る超高周波差動回路1が成立する。そのような構成としては、図21〜図23のように、さまざまな形態で実現できる。
図21の構成は、1区間の単位回路3を形成する線路導体5A、5B自体がメアンダ状であり互いに重なるよう配置したものである。このような構成では、小さい面積で大きいインダクタンスを有する1区間の単位回路3の実現が可能である。
メアンダ状に構成した超高周波差動回路1において、図22に示すように、個々の1区間の単位回路3を形成する接続導体7A、7Bを相互に距離qだけ平面的にずらせて対面させた構成も可能である。
この構成では、線路導体5A、5B間の分布容量と結合係数が減少し、図1の構成と比較すると、誘電体層の厚みdを増大した場合の効果となる。
そして、そのような必要性は本発明では頻繁に発生する。これまで説明した本発明に係る実施形態は全て、誘電率4.6の誘電体層で特性インピーダンス100Ωを得ているが、その実現のためには誘電体層の厚みdをその都度変化させた。
さらに、本発明の種々の実施の形態を任意に複数を組合せることで、一層目的に適合した超高周波差動回路1を実現できることも例示した。
しかし、具体的な製品化に当っての実際の設計では、同じ厚みの同一誘電体層の上に、本発明に係る異なる形態を組合せて実施することが経済的である。この場合、分布容量を減らしたい場合、図22の構成が有効になるし、分布容量を増加したい場合、図8の構成が有効になる。
図23は、メアンダ状に構成した超高周波差動回路1における線路導体5A、5Bを接続導体7A、7Bを介した台形形状にした例を示している。
この構成も、線路導体5A、5B間の分布容量と結合係数が減少する。図4の等価回路で考えれば、中央の分布容量Cdcが最も大きく、順次Cdm、Cdeと小さくなる。
また、図示しないが、図23とは逆に、線路導体5A、5Bにおける端に形成される分布容量Cdeを最も大きく、順次、分布容量Cdm、分布容量Cdcの順で小さくする構成も可能である。
さらに、1区間の単位回路3において、同一線路導体5A、5Bの幅Wを次第に変化させることも可能である。
図21〜図23は本発明の1区間の単位回路3に関し、その形態にさまざまな変化が可能であることを示した例であるが、その他にも本発明の請求の範囲で、さまざまな形態が可能である。