JP5692847B2 - 常温成形性と強度を改善したマグネシウム合金板材及びその作製方法 - Google Patents

常温成形性と強度を改善したマグネシウム合金板材及びその作製方法 Download PDF

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本発明は、優れた常温成形性と強度を有する易成形性マグネシウム合金板材、並びにその製造方法、及び易成形性マグネシウム合金板材を用いて作製したプレス成形体及びその部材に関するものであり、更に詳しくは、Zn、Ca、Sr、Zr、Mnを適当量添加したマグネシウム合金圧延材を、所定の条件で,圧延・焼鈍することにより、常温(30℃)で、アルミニウム合金(5000系もしくは6000系相当)に匹敵する成形性を付与し、更に、優れた強度(降伏応力)を付与することを可能とする、マグネシウム合金板材、その製造方法、そのプレス成形体及びその部材に関するものである。本発明は、宇宙・航空材料・電子機器材料、自動車部材等、幅広い分野で利用することが可能なマグネシウム合金製部材及び筐体に関する新技術・新製品を提供するものである。
マグネシウムは、実用構造金属材料中、最も低密度(=1.7g/cm)であり、金属材料特有の易リサイクル性を有し、資源も豊富に存在することから、次世代の構造用軽量材料として注目されている。
塑性加工プロセス、特に、板材のプレス成形は、高い歩留まりを保持しつつ、精密成形品・大型成形品を作製するための重要な手段であり、更に、成形と同時に、高強度・高靭性化を図ることができることから、この種のプロセスは、需要拡大の有効な手段と言える。マグネシウム合金製板材から、プレス成形により、成形体を作製する場合、薄肉、かつ高比強度な成形体を、安価なプロセスで作製することができ、家電製品筐体等の分野において、多くの需要が予測できる。
金属の塑性変形の基本となる転位の運動性は、すべり面間隔/原子間距離の比に影響されることが知られている。したがって、最密六方晶であるマグネシウム合金の場合、a軸長さとc軸長さの比(c/a比)が大きく(c/a=1.6236)、底面すべりと非底面すべりでは、転位の運動性に大きな違いが生じる。
そのため、マグネシウム合金の非底面すべりの臨界分解せん断応力(CRSS)は、常温において、他のすべり系と比較して、非常に大きく、常温成形性は、必然的に低い。更に、マグネシウム合金板材には、(0002)面が板面に対して平行に配向する、集合組織が形成されるため、塑性変形時の板厚方向の歪みが期待できず、そのことが、常温成形性を低める一因となっている。
現在、幅広い分野で利用されているアルミニウム合金の常温成形性(エリクセン値)は、上記のマグネシウム合金よりも高く、5000系合金であると、8.3(5083−O材)、6000系合金であると、9.2(6061−T4材)、1000系合金であると、11.0(1100−O材)である(非特許文献1)。一方、従来の商用マグネシウム合金の常温成形性(エリクセン値)は、せいぜい2.0〜5.0である(非特許文献2)。
したがって、マグネシウム合金に関しても、今後、マグネシウム合金板材の著しい需要を見込むためには、アルミニウム合金板材に相当する常温成形性(常温でのエリクセン値が、少なくとも7.0以上)を付与することが必要であり、当技術分野においては、優れた易成形性を有する新しいマグネシウム合金板材の製造技術及びその製品を開発することが強く要請されている。
成形性に乏しいマグネシウム合金を、常温でプレス成形する手法としては、集合組織を制御したマグネシウム合金板材を利用することが挙げられる。近年、マグネシウム合金の集合組織を改質する手法として、マグネシウム合金板材に繰り返し曲げ加工を施す手法が提案されている。
本手法は、主に汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn−Mn系合金)を対象とし、その常温成形性を、アルミニウム合金並み(エリクセン値:6.5以上)に高めるものである(特許文献1)。しかし、本手法は、圧延プロセスにおいて、繰り返し曲げ加工を行う必要があり、既存の圧延設備を直接利用することができないという問題がある。
近年、本発明者らは、マグネシウム合金の集合組織を改質する他の手法として、例えば、汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn−Mn系合金)を、所定の試料温度、すなわち490℃〜566℃まで、短時間、好ましくは5分未満で昇温し、圧延率5%以上、好ましくは5〜50%の範囲で、熱間圧延を行い、圧延後に、焼鈍を行う手法を開発している(特許文献2)。
また、本発明者らは、汎用マグネシウム合金に対し、固相線温度より50℃低い温度から固相線温度までの温度範囲に加熱した試料を、一回又は複数回で圧延し、その後、温間、すなわち150〜300℃で、仕上げ圧延を実施し、圧延後に、焼鈍を行う手法を開発している(特許文献3)。
更に、本発明者らは、汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn−Mn系合金)に、微量、すなわち0.01〜0.5質量%のカルシウムを添加した合金を、所定の試料温度、すなわち450〜566℃まで昇温し、圧延率5%以上の熱間圧延を行い、圧延後に、焼鈍を行う手法を開発している(特許文献4)。
上記手法により作製される圧延材は、いずれも、アルミニウム合金並みの常温成形性を示す。しかし、本手法は、圧延時に、試料を450℃以上に加熱する必要があり、試料の発火及び試料の酸化に関する問題があり、そのことが、実用化に際しての問題となっている。
一方、汎用マグネシウム合金とは異なる組成を有するマグネシウム合金に関しては、本発明者らは、規定量の軽希土類元素、Zn、Mn、Zrを添加したマグネシウム合金、もしくは規定量のCa、Zn、Al、Mn、Zrを添加したマグネシウム合金を、特定の条件で、熱間・温間圧延し、特定の条件で、焼鈍する手法を開発している。
本手法により作製した板材の(0002)面集合組織には、板幅方向(TD方向)に、約35度傾いた極が現れ、アルミニウム合金並みの成形性(エリクセン値8.0以上)が発現する(特許文献5)。
しかし、本手法により得られる圧延材の(0002)面集合組織は、TD方向に、約35°傾いた極を有するため、圧延方向(RD方向)には、変形しにくいが、TD方向には、変形し易く、TD方向の強度(降伏応力)が低いことが、実用化に向けた課題となっている。
従来、アルミニウム合金並みの常温成形性を有するマグネシウム合金板材を作製する手段として、繰り返し曲げ加工を行う手法、汎用マグネシウム合金(Mg−Al−Zn−Mn系合金)を、高温で、圧延する手法、特定元素を微量添加したマグネシウム合金を、熱間加工する手法等、様々な方法が提案されている。しかし、いずれの手法も、1)既存の圧延機を用いて、2)試料の発火や酸化を心配する必要のない圧延温度で、3)圧延材に高い常温成形性と強度(降伏応力)を同時に付与すること、を、同時に満足することは困難であり、そのことが、マグネシウム合金板材の実用化に向けての課題となっていた。
特開2005−298885号公報 特開2010−133005号公報 特開2010−202897号公報 特願2010−044795 特開2010−013725号公報
アルミニウムハンドブック(第4版),軽金属協会編(軽金属協会発行,東京,1989),p.98 Y.Chino,H.Iwasaki and M.Mabuchi:Mater.Sci.Eng.A,Vol.466(2007),p.90
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、既存の圧延機を利用する技術であり、また、発火や酸化が懸念される450℃を超えて試料を加熱する必要の無い技術であり、かつ、作製された板材に優れた常温成形性(エリクセン値で、7.0以上)と、強度(TD方向の降伏応力が、90MPa以上)を付与する技術、を開発することを目標として鋭意研究開発を重ねた結果、マグネシウムに、特定量のZn、Ca(もしくはCaとSr)、及び、必要により、Zr、Mnを添加した合金を、適当な条件で圧延し、更に、適当な熱処理に供することにより、既存の圧延機を用い、試料温度450℃以下の圧延で、優れた常温成形性と、強度(降伏応力)を有する、マグネシウム合金板材を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は、優れた常温成形性と、強度(降伏応力)を有する、易成形性マグネシウム合金板材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該易成形性マグネシウム合金を成形して、複雑形状を有するマグネシウム合金製プレス成形体、及びそのマグネシウム合金製部材を常温で作製することを可能とする、当該マグネシウム合金プレス成形体の製造方法及びその製品を提供することを目的とするものである。
上記技術課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)質量%で、Znを2.61〜6.20%含有し、Caを0.〜0.%含有し、あるいは、これらの成分に加え、更に、Sr、Zr、Mnの1種以上をそれぞれSr0.5%以下、Zr0.3%以下、Mn0.3%以下の範囲で含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなるMg合金を、試料表面温度50〜450℃まで加熱した状態で、少なくとも圧延率20%以上の圧延を施し、圧延後に、300〜450℃にて、10分以上の焼鈍条件で焼鈍を行う工程により、板幅方向に対して、平行に引張り変形を行う準静的室温引張り試験において、得られる0.2%耐力が、90MPa以上である圧延材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(2)質量%で、S0.0.5%付加したMg合金を用いる、前記(1)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(3)質量%で、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.%付加したMg合金を用いる、前記(1)又は(2)に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(4)上記Mg合金を、試料表面温度50〜420℃まで加熱した状態で圧延する、前記(1)から(3)のいずれか一項に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
(5)質量%で、Znを2.61〜6.20%含有し、Caを0.01〜0.5%含有し、あるいは、これらの成分に加え、更に、Sr、Zr、Mnの1種以上をそれぞれSr0.5%以下、Zr0.3%以下、Mn0.3%以下の範囲で含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなるMg合金圧延材であり、常温におけるエリクセン値が、少なくとも7.0以上であ板幅方向に対して、平行に引張り変形を行う準静的室温引張り試験において、得られる0.2%耐力が、90MPa以上であることを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材。
(6)質量%で、S0.0.5%付加したMg合金である、前記(5)に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
(7)質量%で、Zr及び/又はMnを0.01〜0.%付加したMg合金である、前記(5)又は(6)に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
(8)XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に極を有する、前記(5)から(7)のいずれか一項に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
)前記(5)から()のいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製プレス成形体。
(10)前記()に記載のマグネシウム合金製プレス成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製部材。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、常温(30℃)で、エリクセン値が、7.0以上の優れた成形性を有し、かつTD方向の引張り降伏応力が90MPa以上の、優れた強度を有する、易成形性マグネシウム合金板材を製造する方法であって、Znの総量が、2.61〜6.20mass%(以下、質量%をmass%と記載する。)であり、Caの総量が、0.1〜0.mass%であり、もしくは、Caを、0.1〜0.mass%含有した上で、Srを、0.0.5mass%含有し、必要に応じて、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.mass%含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなる組成を有するマグネシウム合金板材を、150〜450℃、より好ましくは、150〜420℃の試料温度まで昇温した上で、圧延率20%以上の圧延行い、圧延後に、焼鈍を行うことを特徴とするものである。
また、本発明は、Znの総量が、2.61〜6.20mass%であり、Caの総量が、0.1〜0.mass%であり、もしくは、Caを、0.1〜0.mass%含有した上で、Srを、0.0.5mass%含有し、必要に応じて、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.mass%含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなる組成を有するマグネシウム合金板材であって、XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織のTD方向に極を有し、エリクセン値で、少なくとも7.0以上の常温成形性を示し、更に、TD方向の室温引張り試験において、90MPa以上の降伏応力(0.2%耐力)を示すことを特徴とするものである。
更に、本発明は、上述の製造方法で作製した易成形性マグネシウム合金板材の成形体であって、上記のエリクセン値と、上記の降伏応力を示す、マグネシウム合金製プレス成形体、及び該マグネシウム合金製プレス成形体からなるマグネシウム合金部材の点に、特徴を有するものである。
本発明者らは、以前の研究において、Mg−Zn系合金に、微量の軽希土類元素(Ce、La、Nd、Pr、Y等)を添加した合金、もしくは、Mg−Zn系合金に、微量のCaを添加した合金を、熱間圧延に供し、更に、熱処理を行うと、エリクセン値8.0以上の優れた常温成形性が発現することを明らかにした。
図1の(1)及び(2)は、Mg−1.5mass%Zn合金試料、及びMg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金試料を、試料温度450℃で、1パスあたりの圧下率を20%/パスとし、厚み5mmから1mmまで圧延した試料の、焼鈍後の(0002)面集合組織と常温エリクセン試験の結果である。
なお、図1(1)及び(2)は、後に示す[比較例1]及び[比較例2]に相当する。図1(1)には、汎用マグネシウム合金圧延材に特有の集合組織が観察される。すなわち、ND方向(垂直方向)に対して平行な位置に、(0002)面のピークが現れる。
一方、図1(2)には、ND方向からTD方向に、約35°回転した付近に、(0002)面の極が現れる。TD方向に広がりを持った集合組織を示すMg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金圧延材は、汎用マグネシウム合金よりも、ランダムな集合組織を有し、常温成形性は、著しく向上する。
TD方向に、約35°回転した付近に、(0002)面の極が現れる集合組織は、c/a比の低いHCP金属(ZrやαTi)を、圧延した際に得られる集合組織と同じである。それゆえに、Mg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金圧延材に現れた特異な集合組織の形成は、Znと特定元素(軽希土類元素もしくはカルシウム)を添加した合金について、特定の条件で、圧延を行うと、c/a比が低くなった際に現れる効果と同様の効果(非底面すべりの活発化等)が発現し、それが、集合組織形成に影響を及ぼした結果であると考えることができる。
上述した以前の研究で作製された圧延材は、優れた常温成形性を示すが、TD方向に、約35°傾いた位置に、(0002)面の極を有するため、TD方向には変形し易いが、RD方向には変形しにくい欠点がある。ここで、下記の表1に、各種Mg合金の常温引張り特性を示す。表1の(1)と(2)は、Mg−1.5mass%Zn合金とMg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金の結果である。それぞれ、図1の(1)と(2)、もしくは[比較例1]と[比較例2]と同じ試料の結果である。
Mg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金圧延材の結果に注目すると、RD方向に対して、0°の方向に引張り変形を加えた場合は、Mg−1.5mass%Zn合金よりも高い降伏応力を示すが、圧延方向に対して、45°、90°方向に引張り変形を加えた場合の降伏応力は、Mg−1.5mass%Zn合金よりも、著しく低い値を示す。この降伏応力の低下の原因は、(0002)面の極のTD方向への傾きに起因する。このような機械的特性の異方性を改善すること、すなわち、TD方向の降伏応力低下を抑制することが、当該マグネシウム合金圧延材を実用化する上での課題となっている。
そこで、本発明者らは、鋭意研究開発の結果、上記の圧延材に、高い常温成形性と優れた強度を同時に付与する手段として、マグネシウムに、高濃度のZnを固溶させることにより発現する固溶強化を積極的に利用することに着目した。
本発明者らは、詳細かつ系統的な実験を試みた結果、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に限定し、微量添加する元素を、Ca(もしくはCaとSr)に限定した上で、所定濃度のCa(もしくはCaとSr)を添加し、必要に応じて、所定濃度のZr及び/又はMnを添加した合金試料を、試料表面温度150〜450℃で圧延し、焼鈍を行うと、優れた常温成形性と、優れた強度(降伏応力)が、同時に発現することを見出した。
ここで、図1の(3)に、Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca合金を350℃で圧延した試料の、焼鈍後の(0002)面集合組織とエリクセン試験結果を示す。図1の(3)は、後に示す[実施例2]に該当する。図1の(3)の(0002)面集合組織は、図1の(2)と同様に、ND方向からTD方向に、約35°回転した付近に、(0002)面の極を有し、TD方向に広がりを持った集合組織を示すため、アルミニウム合金並みの優れた常温成形性(エリクセン値:8.1)が発現する。
Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca合金圧延材[図1の(3)]が、特異な集合組織を示したのは、前述の通り、Mg−Zn合金に、微量のCaを添加することにより、c/a比が低まる時に発現する効果(非底面すべりの活発化)と同じ効果が発現し、それが、圧延時の材料変形メカニズムに影響を及ぼしたためと考えることができる。
本発明者らは、更に、Caの他に、Srを付加的に添加すると、Caを単独で添加した時と同様に、もしくは相対的に、優れた常温成形性が発現することを見出した。図1の(4)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca−0.1mass%Sr合金を、350℃で、圧延した試料の、焼鈍後の(0002)面集合組織とエリクセン試験の結果である。
図1の(4)は、後に示す[実施例8]に該当する。図1の(4)に示す通り、Srを0.1mass%添加した合金は、Srを添加しない合金[図1の(3)]よりも、優れた常温成形性を示す。なお、図1の(3)、及び図1の(4)からは、Sr添加の有無に伴う底面集合組織の変化は確認できない。それゆえに、Srを添加することにより、常温成形性が向上する理由としては、Sr添加により、相対的に微細な結晶粒が得られたことが挙げられる。
表1の(3)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca合金を、350℃で圧延した試料の室温引張り試験の結果である。表1の(3)の試料は、図1の(3)の試料([実施例1])に該当する。表1の(3)の試料は、表1の(2)の試料よりも、高い降伏応力(0.2%耐力)を示し、圧延方向に対して、90°の引張り変形を加えた場合でも、94MPaの降伏応力を示す。
Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca合金圧延材[表1の(3)]が、相対的に高い降伏応力を示す理由としては、高濃度の亜鉛を添加することにより発現する固溶硬化が挙げられる。すなわち、高濃度の亜鉛添加により、母相(マグネシウム)内部に、単範囲規則格子が形成され、顕著な材料硬化が発現したと考えられる。この単範囲規則格子の形成による材料硬化は、後に示す実施例に示す通り、Srを添加しても発現する。
なお、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に限定し、微量添加する元素をCa(もしくはCaとSr)に限定した上で、所定濃度のCa(もしくはCaとSr)を添加したMg合金を、図1の(2)([比較例2])と同じ条件で、圧延を行っても、優れた圧延材を作製することはできない。
ここで、各種Mg合金圧延材の圧延後の外観を、図2にまとめて示す。図2の(1)は、Mg−3.0mass%Zn合金試料の試料表面を350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料であり、(2)は、Mg−3.0mass%Zn合金試料の試料表面を、400℃まで加熱した後に、圧延を行った試料であり、(3)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、480℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。
図2の(4)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、300℃まで加熱した後に、圧延を行った試料であり、(5)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料であり、(6)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、400℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。
上記図2の(3)を除き、総圧延率80%(1パスあたりの圧延率20%)で、厚み5mmから1mmまでの圧延を行ったものである。図2の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)は、それぞれ、後に示す[比較例3]、[比較例4]、[比較例5]、[実施例1]、[実施例2]、[実施例3]に該当する。
マグネシウム合金は、一般的に、試料を、250℃以上に加熱すると、非底面すべりの活動が活発化し、その圧延特性は、著しく向上する。図2の(1)及び(2)に示す通り、Mg−3.0mass%Zn合金試料に関しても、試料温度を、350℃から400℃に高めることにより、耳割れの無い圧延材を作製することができる。この傾向は、亜鉛濃度の低いMg−Zn−Ca合金(Mg1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金[比較例2])においても、現れる。
一方、Mg−Zn−Ca系合金(Mg−Zn−Ca−Sr系合金)のZn濃度を、2.61mass%以上に設定すると、上記と異なる圧延特性が発現する。図2の(4)及び(5)に示すように、合金試料の圧延温度が、300℃ないし350℃までの場合、試料温度を、300℃から350℃に高めることにより、耳割れの無い圧延材を作製することができる。
一方、図2の(6)に示すように、合金試料の試料表面温度を、400℃以上に設定すると、圧延特性は劣化し、試料端部に耳割れが発生する。更に、試料表面温度を、450℃を超える高温に設定すると、わずかな圧下を加えただけで、破壊が生じる。
例えば、合金試料を試料表面温度480℃で圧延を行うと、20%の圧下を加えただけで、板材は、破壊してしまう[図2の(3)]。このように、高濃度の亜鉛を添加したMg−Zn−Ca系合金(Mg−Zn−Ca−Sr系合金)の圧延特性は、公知のマグネシウム合金とは、逆の温度依存性を示す。
高濃度の亜鉛を添加したMg−Zn−Ca系合金(Mg−Zn−Ca−Sr系合金)が、特異な圧延特性(圧延特性の逆温度依存性)を示す理由は、現在調査中であるが、推測される理由の一つとして、析出する金属間化合物の融点を挙げることができる。Ca−Zn合金の金属間化合物の融点は、比較的低く、CaZnやCaZnは、380〜420℃で融解してしまう。そのため、高濃度のZnを添加すると、低融点の金属間化合物が過度に析出し、見かけ上、特異な圧延特性(圧延特性の逆温度依存性)が発現したものと推測できる。
結果として、高濃度の亜鉛を含有したMg−Zn−Ca系合金を圧延するためには、圧延時の試料表面温度を、50〜450℃、より好ましくは、50〜420℃に設定し、圧延を行う必要がある。結果として、試料の発火及び試料の酸化を懸念する必要のない圧延温度で圧延を行っても、優れた常温成形性と強度(降伏応力)を有する高性能マグネシウム合金板材を作製することが可能である。
以上の知見より、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に限定し、微量添加する元素を、Ca(もしくは、Ca+Sr)に限定した上で、所定濃度のCa(もしくは、Ca+Sr)を添加し、必要に応じて、所定の濃度のZr及び/又はMnを添加した合金試料を、試料表面温度50〜450℃、より好ましくは、50〜420℃で圧延し、焼鈍を行うことにより、エリクセン値7.0以上の優れた常温成形性と、優れた強度(TD方向の降伏応力が90MPa以上)を同時に示す、高性能マグネシウム合金板材を創製した。
本発明のマグネシウム合金板材の成分及び作製条件の限定理由を説明すると、本発明の製造方法に適用されるマグネシウム合金は、Zn:2.61〜6.20mass%、Ca:0.1〜0.mass%を含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなる成分組成を有するものであり、もしくは、Znを2.61〜6.20mass%、Caを0.1〜0.mass%含有し、更に、S、0.0.5mass%含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなる成分組成を有するものである。また、必要に応じて、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.mass%付加した成分組成を有するものである。
Znの含有量は、有意の固溶硬化を達成するために、2.61〜6.20mass%の範囲内で添加されていることが好ましい。なお、2.61mass%以上のZnを添加すると、比較的融点の低いCa−Zn系金属間化合物が析出する可能性があるため、試料温度450℃以下で圧延を行う必要がある。なお、Znの添加量が6.20mass%を超えると、微細析出層が形成され、板材の強度は著しく向上するが、常温成形性が著しく劣化するため、6.20mass%を超える亜鉛添加は、避けるべきである。
Caの含有量は、0.1〜0.mass%の範囲で添加されることが好ましく、0.1mass%未満であると、集合組織形成に有意の変化が現れなくなる。一方、0.mass%を超えるカルシウムを添加すると、MgCa等の粗大な金属間化合物が、粒内・粒界に析出し、熱間加工性、常温成形性に悪影響を及ぼすため、避けるべきである。
Caの他に、Srを付加的に添加すると、Caを単独で添加した時と同様に、もしくはCaを単独添加した時よりも、優れた強度と成形性が発現する。CaとSrを同時に添加する場合は、MgCa等の粗大な金属間化合物の析出を抑制しつつ、有意の集合組織変形を起こすために、Caの含有量を、0.1〜0.mass%と限定し、更に、Srの含有量を、0.0.5mass%と限定することが望ましい。
Mn、Zrの添加は、マグネシウム合金板材の結晶粒径を微細にするため、材料強化に有効である。一方、Mn、Zrを一定以上添加すると、粗大なMn、Zr相、もしくはMn、Zr基金属間化合物相が内部に形成され、材料の成形性・延性が劣化する。それゆえに、Mn、Zrの添加量は、0.01〜0.mass%と設定すべきである。
上述の通り、合金試料の圧延に際しては、試料表面温度を50〜450℃、より好ましくは、50〜420℃に設定した上で、圧延を行うと、耳割れ無い圧延材を作製することができる。なお、圧延前の試料加熱時間は、Ca(もしくは、Ca及びSr)を微量添加した商用マグネシウム合金板材の集合組織形成には、大きな影響を及ぼさないので、試料加熱時間は、任意に設定することができる。
試料に、目的の集合組織を造りこむためには、熱間圧延中に、十分な塑性変形を板材に付与する必要がある。具体的には、全圧延プロセスにおいて、少なくとも所定の試料温度で、20%以上の圧下を行うことが望ましい。
熱間圧延後の試料内部には、高密度の転位が蓄積されているため、板材の常温成形を行う前に、熱処理(完全焼き鈍し)を行うことが望ましい。具体的には、300〜450℃にて、10分以上の熱処理に供した後に、プレス成形に供することが望ましい。
上記の発明要素を駆使して作製されたマグネシウム合金板材は、常温(30℃)で、アルミニウム合金に相当する成形性(エリクセン値で、少なくとも7.0以上)を示す。ここでは、マグネシウム合金板材の成形性を表す指標として、エリクセン値を採用した。エリクセン試験は、JIS B7729及びJIS Z2274に準ずる試験を指す。
上記の発明要素を駆使して作製されたマグネシウム合金板材は、相対的に高い強度(降伏応力)を示す。ここでは、高い強度(降伏応力)を示す指標値として、準静的常温引張り試験により得られる0.2%耐力を採用し、圧延方向と引張り方向が90°の条件で得られる、0.2%耐力を降伏応力と定義し、指標値とした。準静的引張り試験とは、引張り試験を実施する時の初期ひずみ速度が10−4〜10−1(s−1)の引張り試験を指す。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に限定し、微量添加する元素を、Ca(もしくは、CaとSr)に限定した上で、Caを、0.1〜0.mass%(もしくは、Caを、0.1〜0.5mass%添加し、更に、Srを、0.05〜0.5mass%)添加し、必要に応じて、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.mass%添加した合金を、試料表面温度150〜450℃、より好ましくは、150〜420℃で圧延し、焼鈍を行うことにより、優れた常温成形性と強度を有するマグネシウム合金板材を作製することができる。
(2)本発明を利用すると、試料表面温度150〜450℃、より好ましくは、150〜420℃の圧延により、優れた常温成形性と強度を有するマグネシウム合金板材を作製することができ、圧延時の試料の発火を懸念することなく、圧延を行うことができ、更に、試料表面の酸化を懸念することなく、圧延を行うことができる。
(3)得られた板材は、優れた常温成形性(エリクセン値7.0以上)を示し、更に、優れた強度(圧延方向と引張り方向が90°の条件で得られる降伏応力が、90MPa以上)を示すマグネシウム合金板材であり、幅広い用途に適用可能なマグネシウム合金板材を提供することができる。
(4)本発明を利用すると、既存の圧延装置を利用して、優れた常温成形性と優れた強度を示す板材を作製することが可能であり、低コストで板材を作製することができる。
(5)上記マグネシウム合金板材を、常温成形することにより、マグネシウム合金製プレス成形体を作製し、提供することができる。
(6)上記マグネシウム合金製プレス成形体からなる筐体等のマグネシウム合金製部材を作製し、提供することができる。
マグネシウム合金圧延材の(0002)面集合組織とエリクセン試験の結果を示す。図中、(1)は、Mg−1.5mass%Zn合金を、450℃のマッフル炉に、20分間保持した後に、圧延を行った試料である。(2)は、Mg−1.5mass%Zn−0.1mass%Ca合金を、450℃のマッフル炉に、20分間保持した後に、圧延を行ったものである。(3)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca合金試料の試料表面を、350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。(4)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1mass%Ca−0.1mass%Sr合金試料の試料表面を、350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。いずれの試料の総圧延率も、80%(1パスあたりの圧延率20%)であり、厚み5mmから1mmの圧延を行ったものであり、圧延後に、350℃(90分)の焼鈍に供したものである。 図2は、マグネシウム合金圧延材の外観を示す。図中、(1)は、Mg−3.0mass%Zn合金試料の試料表面を、350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。(2)は、Mg−3.0mass%Zn合金試料の試料表面を、400℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。(3)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、480℃まで加熱した後に、圧延を行った試料であり、圧延率20%の圧延を1回行っただけで、試料は破断した。(4)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、300℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。(5)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、350℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。(6)は、Mg−3.0mass%Zn−0.1Ca合金試料の試料表面を、400℃まで加熱した後に、圧延を行った試料である。上記(3)以外の試料は、総圧延率80%(1パスあたりの圧延率20%)で、厚み5mmから1mmまでの圧延を行ったものである。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例では、以下に示す試験方法により、試料を作製し、評価を行った。すなわち、高周波炉を用いて、純Mgを溶解した後、Zn、Ca、Sr、Zr、Mnを、適宜添加することにより、Mg合金を作製した。上記Mg合金のインゴット(50×30×50mm)を、熱間押出し(押出し温度:300℃、押出し速度:5mm/min、押出し比:6)に供し、押出し板材(断面積:50×5mm)を作製した。得られた押出し板材より、60mm×50mm×5mmの試験片を切出し、それらの試験片を、圧延に供した。
圧延に際しては、後に示す[比較例1]及び[比較例2]に関しては、450℃に保持したマッフル炉に、試料を、20分間保持した後、この試料を、圧延速度5m/min、1パス毎の圧下率20%の圧延に供した。この圧延を、繰り返すことにより、厚み5mmから1mmまで、圧延を行った。最後に、得られた圧延材を、350℃で、90分の熱処理に供した。
他の試料ついては、目的とする試料温度よりも、20℃高めに設定したマッフル炉内に、試料を挿入し、この試料が、所定の温度に到達した時点で、該試料を、圧延速度5m/min、1パス毎の圧下率20%の圧延に供した。各試料の圧延時の試料表面温度を、後に示す表2に記載した。
この圧延を、繰り返すことにより、厚み5mmから1mmまで、圧延を行った。最後に、得られた圧延材を、350℃で、90分の熱処理に供した。なお、ロール直径は152mmであり、ロール温度は90℃とした。ロールと試料の潤滑剤として、エステル系の熱間圧延用潤滑剤を用いた。
なお、後に示す[比較例5]に関しては、1回目の圧延において、試料が破壊してしまったため、それ以上の圧延は、実施しなかった。
作製したマグネシウム合金板材の、常温成形性を評価するために、エリクセン試験を実施した。エリクセン試験は、JIS B7729及びJIS Z2247に準拠して実施した。なお、ブランクの形状は、板材形状の都合上、φ60mm(厚み1mm)とした。金型(試料)温度は、30℃とし、成形速度は、5mm/minとし、しわ押さえ力は、10kNとした。潤滑剤には、グラファイトグリスを利用した。
作製したマグネシウム合金板材の強度(降伏応力)を調査するために、常温引張特性を実施した。試験片の平行部長さは、10mm、平行部幅は、5mm、平行部厚みは、1.0mmとした。圧延方向と引張り方向の角度が90°となる引張り試験片を、圧延材から切り出し、引張り試験を行い、0.2%耐力を測定し、降伏応力とした。引張り試験を実施する際の、初期ひずみ速度は、1.7×10−3−1とした。
上記マグネシウム合金板材の(0002)面集合組織を、XRD法(シュルツの反射法)により測定した。測定に際しては、圧延材より、20mm×20mm×1mmの板材を切り出し、RD−TD面を、厚み0.5mmまで面削した上で、#4000のSiC研磨紙で、表面研磨を実施した試料を利用した。測定データを、ランダムデータ(粉末データ)で規格化した後に、TD方向の極の有無を確認した。
各試料のエリクセン値、引張り試験の結果、集合組織測定の結果を、下記の表2にまとめて示す。
[実施例1]〜[実施例6]
実施例1〜6では、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に設定し、Ca添加量を、0.01〜0.9mass%に設定した合金試料を、試料表面温度150〜450℃まで加熱して、圧延した。請求項に規定した合金組成で、所定の圧延を実施すると、優れた常温成形性と、優れた強度が同時に発現した。
[実施例7]〜[実施例19]
実施例7〜19では、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に設定し、Caを0.01〜0.9mass%含有し、また、CaとSrの総量が0.01〜1.5mass%になるようにSrを含有した合金試料を、試料表面温度150〜450℃まで加熱して、圧延した。請求項に規定した合金組成で、所定の圧延を実施すると、優れた常温成形性と、優れた強度が同時に発現した。
[実施例20]〜[実施例21]
実施例20〜21では、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に設定し、Caを0.01〜0.9mass%含有し、また、CaとSrの総量が0.01〜1.5mass%になるようにSrを含有し、更に、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.7mass%含有した合金試料を、試料表面温度150〜450℃まで加熱して、圧延した。請求項に規定した合金組成で、所定の圧延を実施すると、優れた常温成形性と、優れた強度が同時に発現した。
[比較例1]及び[比較例2]
比較例1、2では、Zn添加量を、2.61mass%未満に設定した。Caを添加していない[比較例1]の(0002)面集合組織は、TD方向の極を持たないため、低いエリクセン値を示した。また、[比較例2]の(0002)面集合組織には、TD方向の極が確認できるため、優れた常温成形性が発現した。しかし、Zn濃度が低いため、降伏応力は、低い値を示した。
[比較例3]及び[比較例4]
比較例3、4では、Zn添加量を、2.61mass%以上に設定したが、Caは、添加していない。いずれも、圧延材の0.2%耐力は、90MPa以上の高い強度を示した。一方、[比較例3]及び[比較例4]の(0002)面集合組織には、TD方向の極が発現しないため、低いエリクセン値を示した。
[比較例5]
比較例5では、Zn添加量を、2.61mass%以上に設定し、Caを0.1mass%添加した合金試料を、請求項で規定した圧延温度よりも高温で、圧延した。450℃を超える温度で圧延を実施すると、わずかな圧下を加えただけで、試料は、破壊してしまい、圧延材を作製することはできなかった。
[比較例6]及び[比較例7]
比較例6、7では、Zn添加量を、2.61mass%以上に設定し、Caを0.9mass%以上(1.0mass%)添加し、Srを所定量(0.1mass%)添加した合金試料を、それぞれ、試料温度300℃及び350℃で、圧延した。いずれの試料も、厚み5mmから1mmの圧延を実施すると、激しい耳割れが起こり、試料評価を行うための圧延材を作製することができなかった。このように、請求項に規定したCa添加量よりも、高濃度のCaを添加すると、圧延中に、試料に激しい耳割れが発生し、圧延を行うことは困難であった。
[比較例8]
比較例8では、Zn添加量を、2.61mass%以上に設定し、Caを0.8mass%、Srを0.8mass%添加した合金試料を、それぞれ、試料温度350℃で、圧延した。[比較例8]の(0002)面集合組織は、TD方向の極を有するが、圧延材のエリクセン値は、低い値を示した。このように、請求項に規定したCaとSrの添加量よりも、高濃度のCaとSrを添加すると、圧延材内部に、粗大な金属間化合物が形成され、常温成形性が、著しく劣化してしまうことが分かった。
以上詳述したように、本発明は、常温成形性と強度を改善したマグネシウム合金板材及びその作製方法に係るものであり、本発明により、Zn添加量を、2.61〜6.20mass%に限定し、Caを0.1〜0.mass%添加し、もしくはCaとSrを、Ca濃度を0.1〜0.mass%に限定した上で、S濃度が0.0.5mass%になるように添加し、必要に応じて、0.01〜0.mass%のZr及び/又はMnを添加した合金試料を、試料表面温度50〜450℃、より好ましくは50〜420℃で圧延し、焼鈍を行うことからなる易成形性マグネシウム合金板材の作製方法及びその製品を提供することができる。作製された板材は、アルミニウム合金並の常温成形性(エリクセン値7.0以上)と優れた強度(TD方向の降伏応力が90MPa以上)を示す。本発明を利用すると、アルミニウム合金に匹敵する成形性と、優れた強度を有するマグネシウム合金板材を、既存の圧延機を用い、試料の発火や酸化を懸念せずに作製することが可能であり、成形性と強度を同時に改善したマグネシウム合金板材を作製することができる。また、本発明は、デジタルカメラ・ノートパソコン・PDA等の、主に家電製品のプレス成形体を中心として、積極的に適用することが可能な易成形性マグネシウム合金板材を提供するものとして有用である。

Claims (10)

  1. 質量%で、Znを2.61〜6.20%含有し、Caを0.〜0.%含有し、あるいは、これらの成分に加え、更に、Sr、Zr、Mnの1種以上をそれぞれSr0.5%以下、Zr0.3%以下、Mn0.3%以下の範囲で含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなるMg合金を、試料表面温度50〜450℃まで加熱した状態で、少なくとも圧延率20%以上の圧延を施し、圧延後に、300〜450℃にて、10分以上の焼鈍条件で焼鈍を行う工程により、板幅方向に対して、平行に引張り変形を行う準静的室温引張り試験において、得られる0.2%耐力が、90MPa以上である圧延材を製造することを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
  2. 質量%で、S0.0.5%付加したMg合金を用いる、請求項1に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
  3. 質量%で、Zr及び/又はMnを、0.01〜0.%付加したMg合金を用いる、請求項1又は2に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
  4. 上記Mg合金を、試料表面温度50〜420℃まで加熱した状態で圧延する、請求項1から3のいずれか一項に記載の易成形性マグネシウム合金板材の製造方法。
  5. 質量%で、Znを2.61〜6.20%含有し、Caを0.01〜0.5%含有し、あるいは、これらの成分に加え、更に、Sr、Zr、Mnの1種以上をそれぞれSr0.5%以下、Zr0.3%以下、Mn0.3%以下の範囲で含有し、残部が、Mg及び不可避不純物からなるMg合金圧延材であり、常温におけるエリクセン値が、少なくとも7.0以上であ板幅方向に対して、平行に引張り変形を行う準静的室温引張り試験において、得られる0.2%耐力が、90MPa以上であることを特徴とする易成形性マグネシウム合金板材。
  6. 質量%で、S0.0.5%付加したMg合金である、請求項5に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
  7. 質量%で、Zr及び/又はMnを0.01〜0.%付加したMg合金である、請求項5又は6に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
  8. XRD法(シュルツの反射法)による測定で、(0002)面集合組織の板幅方向に極を有する、請求項5から7のいずれか一項に記載の易成形性マグネシウム合金板材。
  9. 請求項5からのいずれかに記載の易成形性マグネシウム合金板材の成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製プレス成形体。
  10. 請求項に記載のマグネシウム合金製プレス成形体からなることを特徴とするマグネシウム合金製部材。
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