図1は、本発明の一実施形態である記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送
方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図3参照)。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かり易くするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホ
ールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように液体吐出孔8を投影すると、図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5a繋がっている4つの液体吐出孔8、つまり全部で16個の液体吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する駆動電極35がそれぞれ形成されている。駆動電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる駆動電極35を有している。駆動電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。駆動電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて接続電極36が形成されている。接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、駆動電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、駆動電極35からなる電極群を避ける位置に駆動電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の駆動電極35と同様に、FPC上の別の電極と接続されている。
図5に示されるように、共通電極34と駆動電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける駆動電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、駆動電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この駆動電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、駆動電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
多数の駆動電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC
上のコンタクトおよび配線を介して、個別にアクチュエータ制御手段に電気的に接続されている。
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21の液体吐出時の駆動方法の一例を、駆動電極35に供給される駆動電圧(駆動信号)に関して説明する。駆動電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、駆動電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により駆動電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
まず、従来の駆動方法として、引き打ちの駆動とそれにより生じる駆動劣化について、図6(a)、(b)および図7を用いて説明する。図6(a)は図5に示した変位素子50付近の部分断面図である。ただし、接続電極36につながる駆動電極34の引出し部分のない断面である。
圧電セラミック層21bのうちの、共通電極34と駆動電極35とに挟まれた圧電体は、共通電極34と駆動電極35との間に電圧を加えた場合、その電圧によって直接的に変形する圧電体であり、以下でこの部分の圧電体を駆動部51と呼ぶ。圧電セラミック層21aの駆動部51以外の圧電体は、共通電極34と駆動電極35との間に電圧を加えても、直接的には変形しない圧電体で、以下で非駆動部52と呼ぶ。
非駆動部52の分極の状態は、特に分極処理をしていなければ分極されていない状態、すなわちドメインの方向はランダムになっている。また、非駆動部52が駆動部51を分極処理する際に、駆動部51と同じ方向に分極されていれば、ドメインのC軸が厚み方向にそろうように分極されていることになる。
図6(b)における変位は、図5あるいは図7において変位素子50が上に変位する変位であり、液体加圧室10の体積を大きくする変位である。分極方向は図7の上から下への方向(駆動電極35から共通電極34に向かう方向)であり、加える電圧は、生じる電界の方向が図7の上から下への方向であるものを正としている。なお、正の電圧を加えると変位素子50が図7の下に向かって変位する。
まず、予め電圧V1V(以下で単位Vを省略することがある)の駆動電圧を与えた状態で待機をする。電圧V1により駆動部51は圧電アクチュエータユニット21の平面方向に縮み、積層されている圧電セラミック層21aよりも短くなるため変位素子50の断面は図7(c)のように下側に凸に変形する。つまり、変位d1m(以下で単位mを省略することがある)は負で、液体加圧室10は、電圧が加わっていない状態よりも体積が小さ
くなる。次に、電圧V2の駆動電圧を与えると、変位はd2になり、液体加圧室10の体積は大きくなって、図7(b)の状態となる。これにより、流路内の液体には液体吐出孔8からしぼり12に向かう方向の圧力波が生じる。次にこの圧力波がしぼり12で反射して帰ってくるタイミングに合うように、電圧V3の駆動電圧が加えられる。これにより、変位はd3になり、液体加圧室10は、体積が小さくなって図7(c)の状態となる。この変形により生じた圧力波が前述の反射してきた圧力波と合わさって液体吐出孔8に向かい、液滴が吐出される。なお、図6(a)の駆動信号は単純にするため、V1=V3、V2=0であるものを示した。
また、吐出させる際などに液体加圧室10を含む流路において、マニホールド5(正確には液体加圧室10からマニホールド5に向かうまでの間で狭くなっているしぼり12の端)から液体吐出孔8までの液体の固有振動周期の圧力波が生じる。この周期の1/2、別の言い方をすれば、圧力波が、マニホールド5から液体吐出孔8へ伝播する時間をAL(Acoustic Length)という。一度生じた圧力波は、流路内の液体を2ALの固有振動周
期で振動させながら減衰していく。上述の圧力波がしぼり12で反射して帰ってくるタイミングに合うように電圧V3を加えるとは、電圧V2を加えてから電圧V3を加えるまでの時間が約ALであること示している。以下においても、圧力波の状態に合わせて、電圧を加えるには、圧力波が2ALの周期振動していることを利用して、タイミングを合わせればよい。なお、ALは、流路の形状および液体の物性値から計算することもできるし、上述の引き打ちを行なった場合に、吐出される液滴の速度が最も速くなるのが、電圧V2を加えている時間がALである場合であることなどを利用して、実験的に求めることもできる。上述のような液体吐出ヘッド2では、ALは、各部の寸法によっても変わるが、5〜10μ秒程度である。
図7(c)の状態では変位素子50が変位することにより、非駆動部52には、積層方向に直交する方向で変位素子50に向かう方向に引張り応力が加わっている。上述のような駆動信号を加え続けると、図7(b)と図7(c)の状態を繰り返すことになり、繰り返し加わる引張り応力により、非駆動部52のドメインのC軸が駆動部51の方向に向かう強弾性ドメインスイッチングが起き、非駆動部52はしだいに引き伸ばされた状態に変形していく。
なお、強弾性ドメインスイッチング(省略してドメインスイッチングと言うことがある)とは、圧電体が外部からの応力印加によりその応力を緩和するようにドメインがスイッチングする現象である。ここで取り上げている強弾性ドメインスイッチングは、ドメインの形状変化をともなうドメインスイッチングである90°ドメインスイッチングである。
図7(d)は非駆動部52が変形して引き伸ばされた状態の変位素子50であり、電圧が加わっていない状態である。電圧が加わっていないにもかかわらず、非駆動部52が変形して伸びているため、変位素子が下側に変形してしまっている。このような状態になると、電圧が加わらない状態にしても図7(b)に示したような変位が0の状態にはならなくなり、駆動信号の電圧V1から電圧V2への変化時の変位の量(d2−d1)が小さくなる。その結果、同じ駆動信号を加えても、液滴の吐出速度が遅くなったり、液適量が少なくなったりする。これが駆動劣化である。
次に、従来の駆動方法として、バイポーラ駆動とそれにより生じる圧電体の分極の変動を、図6(c)、(d)、図7を用いて説明する。
まず、予め電圧を加えない状態で待機をする。このとき変位素子50の変位はない。次に駆動部51に負の電圧を加えると、駆動部51は平面方向に伸び、断面は図7(e)のように上側に凸に変形し、液体加圧室10は、電圧が加わっていない状態よりも体積が大
きくなる。これにより、流路内の液体には液体吐出孔8からしぼり12に向かう方向の圧力波が生じる。次にこの圧力波がしぼり12で反射して帰ってくるタイミングに合うように、次に前述の負の電圧と絶対値が同じで正の電圧の駆動電圧を与えると、変位は負になり、液体加圧室10の体積は小さくなって、図7(c)の状態となる。この変形により生じた圧力波が前述の反射してきた圧力波と合わさって液体吐出孔8に向かい、液滴が吐出される。
バイポーラ駆動においても、非駆動部の52には応力が加わるが、図7(c)の状態の引張応力と、図7(e)の圧縮応力が概ね相殺されるため、その影響は少ない。バイポーラ駆動では、分極方向と逆方向の電界を加えるため、その際に脱分極が起きるおそれがある。分極方向と逆方向の電界を加えたあと、分極方向と同じ方向の電界を加えるので、ある程度再分極はされるものの、駆動回数を非常に多くなってくると、駆動部51の分極状態の、当初の状態からの変動が大きくなる。脱分極がすすんでしまうと、同じ電圧を加えても、変位量は少なくなるため、液滴の吐出速度が低くなったり、吐出量が少なくなるなどの吐出特性の変動が生じる。
以上のような引き打ち駆動およびバイポーラ駆動の駆動方法に対して、本発明の一実施例に係る駆動方法は、図8(a)(b)に示す駆動信号を与えて、以上のような、駆動劣化および脱分極の影響が生じ難くする。
まず、予め電圧を加えない状態で待機をする。このとき変位素子50の変位はない。ここで、まず第1の駆動信号を与え、次に第2の駆動信号を与える待機状態に戻る。以下では、第1の駆動信号により液滴を吐出し、第2の駆動信号で吐出しない例を示すが、第1の駆動信号では液滴を吐出せず、第2の駆動信号で吐出したり、第1の駆動信号と第2の駆動信号の両方で吐出してもよい。第1の駆動信号と第2の駆動信号の両方で吐出する場合、飛翔中に液滴がくっついたり、記録媒体上で広がって1つの画素になるように着弾するようにすれば、階調表現に使用することができる。
第1の駆動信号は次のようなものである。駆動部51に負の電圧を加えると、駆動部51は平面方向に伸び、断面は図7(e)のように下側に凸に変形し、液体加圧室10は、電圧が加わっていない状態よりも体積が大きくなる。これにより、流路内の液体には液体吐出孔8からしぼり12に向かう方向の圧力波が生じる。次にこの圧力波がしぼり12で反射して帰ってくるタイミングに合うように、次に前述の負の電圧と絶対値が同じで正の電圧の駆動電圧を与えると、変位は負になり、液体加圧室10の体積は小さくなって、図7(c)の状態となる。この変形により生じた圧力波が前述の反射してきた圧力波と合わさって液体吐出孔8に向かい、液滴が吐出される。
この過程において、非駆動部52に加わる応力は、引張と圧縮の両方があり相殺される。また、詳細は後述するが、ここで電圧が加えられる時間は10μ秒程度以下であるため、そもそも駆動劣化は生じ難い。
第2の駆動信号は次のようなものである。駆動部51に電圧を加えない状態の後、流路内の液体に液体吐出孔8からしぼり12に向かう圧力波が生じている間(具体的には、電圧を加え始めるのは、駆動部51に電圧を加えない状態にした後から0〜ALの間であり、AL/2で残留振動を相殺する効果が高くなる)で正の電圧を加えると、駆動部51は平面方向に縮み、断面は図7(c)のように上に凸に変形し、液体加圧室10は、電圧が加わっていない状態よりも小さくなる。これにより、第1の駆動信号で生じた圧力波の残留振動が低減され、次の吐出動作を行なう際に流路内に残っている残留振動が大きいことによる、吐出時の液体の振動の状態が、液体が静止している場合と異なることによる吐出特性の変動を少なくすることができる。この後、電圧は、待機状態に戻すために電圧を加
えない状態にされる。
この際、液体加圧室10の体積は大きくなるので、第2の駆動信号により生じる残留振動を小さくするために、第2の駆動信号の最初に加えた正の電圧変化から電圧0への電圧変化までの時間は、(2n+1)AL(nは0以上の整数)を外した時間にすればよい。また、この時間が長くなると、次の吐出信号までの時間が短くなり、結果的に残留振動が大きくなるので、この時間はAL以下で、ALからできるだけ小さくする。実際には、駆動部51に電圧が加わるまでには電気的な遅延などのあるため、AL/10〜AL/3、より好ましくは、AL/6〜AL/4とされる。また、第2の駆動信号は、第1の駆動信号により液体吐出孔8から吐出され、まだ液柱の状態で流路内の液体と繋がっている液体の後ろの部分を切り離す役割をさせることもできる。その意味でも上述の範囲に設定するのが好ましい。
また、駆動信号において、正の電圧を加えている時間の合計が、負の電圧を加えている時間の合計より多くすることで、駆動部51の脱分極を、より起こり難くすることができる。
図8(c)(d)は、本発明の一実施例に係る示す駆動信号およびその駆動信号による変位である。第1の駆動信号と第2の駆動信号との間に第3の駆動信号が送られている。この例では、第3の駆動信号は、1つ送られているだけであるが、複数の第3の駆動信号を送ってもよい。第3の駆動信号の1つで液滴が吐出される。この液滴と第1の駆動信号あるいは第2の駆動信号で吐出された液滴が飛翔中にくっついたり、記録媒体上で広がって1つの画素になるように着弾するようにすれば、階調表現に使用することができる。
第3の駆動信号は、第1の駆動信号が送られた後、まず、駆動部51に電圧を加えない状態とするか、駆動部51に負の電圧を加えた状態とする。第1の駆動信号の最後は電圧が正の状態なので、前述の電圧を加えると、液体加圧室10の体積は増加し、液体吐出孔8からしぼり12に向かう圧力波が生じる。続いて、この圧力波がしぼり12で反射するタイミングで駆動部51に正の電圧を加えることで、液体加圧室10の体積が減少し、液体吐出孔8から液滴が吐出される。
第3の駆動電圧を加えるタイミングは、第1の駆動電圧により生じている圧力波に重ね合わせるようにすることで、吐出速度を速くしたり、吐出量を多くできるので好ましい。
以上の駆動信号の説明において、圧力波に合わせるなどと説明は、周期2ALで生じて入れる振動に合わせるということである。理論的には、駆動信号の電圧を加える時間はALとするのがもっとよいということになるが、実際には、吐出速度や液適量を調整するため、あるいは、ALにすると吐出した液滴が複数の液滴に分かれてしまうときなどに、それをさけるために、ALからずらしてもよい。ずらす量は多くても±25%以内、より好ましくは±20%以内、特に15%以内とする。
図9(a)(b)は、本発明の一実施例に係る示す駆動信号およびその駆動信号による変位である。ここで、圧電セラミック層21bに分域回転歪が生じる抗電界をEcV/m(以下で単位V/mを省略することがある)である。図9(a)の駆動電圧では、第1の駆動信号は、最低電圧−0.8Ec、最高電圧0.8Ecとしている。各電圧の保持時間はALであり、第1の駆動信号により液滴が吐出される。最低電圧は、分極反転が大きくすすまないように、−0.8Ec以上とするのが好ましい。変位素子50の変位を大きくするには最低電圧は−0.2Ec以下にするのが好ましい。より好ましい最低電圧は、−0.5Ec〜−0.8Ecである。最高電圧は、電圧が加えられる時間が10μ秒程度以下の短時間であれば、Ecを超えてもかまわないが、10μ秒を超えて電圧を加える場合
、駆動部51の状態に変化を与えないようにするために、電圧はEc以下にするのが好ましい。変位素子50の変位を大きくするには最高電圧は0.5以上にするのが好ましい。
図9(a)の駆動電圧では、第3の駆動電圧は、最低電圧−0.8Ec、最高電圧0.8Ecとしている。各電圧の保持時間はALであり、第3の駆動信号により液滴が吐出される。第3の駆動信号の最低電圧および最高電圧の好適範囲は、第1の駆動信号と同じである。第1の駆動信号の電圧差と第3の駆動信号の電圧差とをほぼ同じにすることで、第1の駆動信号により吐出される液滴の速度や量が、第3の駆動信号により吐出される液滴の速度や量とほぼおなじにできる。実際には、残留振動の影響などで速度や量が変動する点、飛翔中に液滴をくっつけたり、記録媒体上で近い場所に着弾させるために後の液滴の速度を少し速くするほうがよい場合がある点などのために、電圧差を調整してもよく、電圧差は±20%以内、特に±10%以内がよい。
図9(a)の駆動信号では、第2の駆動電圧は、最低電圧0、最高電圧0.8Ecとしている。最低電圧での保持時間はAL/2、最高電圧での保持時間はAL/5であり、第2の駆動信号は、キャンセル信号として働き、液滴は吐出されない。第2の駆動信号の最高電圧の好適範囲は、第1の駆動信号と同じである。
図9(c)(d)は、本発明の一実施例に係る示す駆動信号およびその駆動信号による変位である。図9(c)の駆動電圧では、第1の駆動信号は、最低電圧−0.6Ec、最高電圧0.6Ecとしている。各電圧の保持時間はALであり、第1の駆動信号により液滴が吐出される。ここでも第1の駆動信号の最低電圧および最高電圧の好適範囲は、図9(a)の第1の駆動信号と同じである。
図9(c)の駆動電圧では、第3の駆動電圧は、最低電圧0、最高電圧1.2Ecとしている。各電圧の保持時間はALであり、第3の駆動信号により液滴が吐出される。第3の駆動信号の最低電圧および最高電圧の好適範囲は、第1の駆動信号と同じである。第1の駆動信号の電圧差と第3の駆動信号の電圧差とをほぼ同じにすることで、第1の駆動信号により吐出される液滴の速度や量が、第3の駆動信号により吐出される液滴の速度や量とほぼおなじにできる。電圧差は±20%以内、特に±10%以内がよい。
図9(a)の駆動電圧では、第2の駆動電圧は、最低電圧0、最高電圧1.2Ecとしている。第2の駆動信号の最低電圧の好適範囲は、第1の駆動信号と同じである。最高電圧は、電圧が加えられる時間が10μ秒以下、より好ましくは7μ秒であれば、最高電圧はEcを超えてもよい。最高電圧は2Ecまで加えてもかまわない。このようにすることで電位差を大きくでき、吐出速度を速くしたり、吐出量を多くできる。
図9(a)の駆動信号では、第2の駆動電圧は、最低電圧0、最高電圧1.2Ecとしている。最低電圧での保持時間はAL/2、最高電圧での保持時間はAL/5であり、第2の駆動信号は、キャンセル信号として働き、液滴は吐出されない。第2の駆動信号の最高電圧の好適範囲は、第1の駆動信号と同じである。
以上説明してきたが、駆動劣化について補足する。駆動劣化が生じるのは、非駆動部52が変形した状態である程度長い時間保持された場合で、保持時間が短いと応力は、変形というよりは、非駆動部52に伝わる圧力波のようなものになる。そして、アクチュエータに用いられるチタン酸ジルコン酸鉛としては、結晶軸のc/a=1.0095程度の高変位圧電材料では10μ秒程度の保持時間では、ドメインスイッチングはほとんど生じない。
まず、評価用の液体吐出ヘッドを作製した。評価用の液体吐出ヘッドの基本的な構造は図2〜5に示したものと同じであるが、液体加圧室10がプレート31まで開口しており、実際に液体を吐出することはできないが、プレート31側からレーザードップラー変位計により、変位素子50の変位が測定できるようにしたものである。
圧電セラミック層に用いる圧電材料をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)とし、PZTを用いたスラリーを作成し、このスラリーから、成形方法としてロールコーター法を採用して、グリーンシートを作製した。
次いで、金型打ち抜きによって、100μm径の貫通孔をグリーンシートに形成した。その後、Ag−Pd合金を含む導体ペーストを用いたスクリーン印刷法により、各グリーンシートの表面に、共通電極となる電極パターンを形成した。
また、Ag−Pd合金に対して、圧電体粉末をフィラー剤として30体積%添加してビア導体ペーストを作製し、これをスクリーン印刷にて、グリーンシートに形成した貫通孔の内部に充填し、ビア電極を形成した。
次いで、このグリーンシートを2層積層して、内部に共通電極及びビア電極を備えた積層成形体を作製した。その後、この積層成形体を1020℃の温度で焼成して圧電焼結体を作製した。得られた圧電焼結体は1層あたり約20μmであった。
この圧電焼結体の表面に、変位素子を構成する部分の共通電極に相対するように主成分Auを含む導体ペーストを用いたスクリーン印刷により、マトリックス状に駆動電極を形成し、しかる後に、800℃の熱処理によって駆動電極を形成して圧電アクチュエータユニットを作製した。
流路部材の上に、圧電アクチュエータユニットを、開口部にそれぞれの変位素子が位置するように接着し、電圧を加えて駆動部を厚み方向に分極して、評価用の液体吐出ヘッド作製した。なお、この際、非駆動部は分極しておらず、非駆動部のドメインはランダムな方向になっている。さらに、液体吐出ヘッドの動作を制御するドライバーICを含む制御部を接続し、記録装置に相当する試験装置を作製した。
なお、用いた圧電体の抗電界は1.34×10−6V/mであり、この電界が生じる共通電極と駆動電極との電位差は26.8Vであった。
得られた試験装置を用いて、まず駆動劣化を生じさせ、その再生の試験を行なった。まず、駆動電圧を与えて、グラフテック社製のレーザードップラー変計を用いて、初期変位量A(nm)を測定した。次に、2kHzに相当する駆動周期で駆動信号を100億サイクル加えて、変位の変化を測定した。評価結果を表1に示す。
駆動信号は、図7(a)の引き打ち駆動、図7(c)のバイポーラ駆動、本発明の範囲内の図8(a)の駆動信号を評価した。引き打ち駆動では駆動劣化のため徐々に変位が少なくなっていった。バイポーラ駆動では、比較的早い段階で、駆動部51が逆バイアスにより分極の状態が変化したことにより、変位量が低下したが、駆動劣化は生じないので、その劣化した変位で比較的安定した変位となった。図8(a)の駆動信号では、駆動劣化も、分極状態の変化による変位劣化もほとんど生じず、安定して変位を続けた。