第1の実施の形態.
<回転子の構成>
図1は回転子1の回転軸Pに垂直な断面を示す。ここに例示されるように、回転子1は回転子用コア10と複数の永久磁石20とを備えている。
複数の永久磁石20は例えば希土類磁石(例えばネオジム、鉄、ホウ素を主成分とした希土類磁石)であって、回転軸Pの周りで環状に並んで配置される。図1の例示では、各永久磁石20は直方体状の板状形状を有している。各永久磁石20は、回転軸Pを中心とした周方向(以下、単に周方向と呼ぶ)における自身の中央において、その厚み方向が、回転軸Pを中心とした径方向(以下、単に径方向と呼ぶ)に沿う姿勢で配置されている。なお、各永久磁石20は必ずしも図1に示す形状で配置される必要はない。各永久磁石20は、例えば回転軸Pに沿う方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)に見て、回転軸Pとは反対側(以下、外周側とも呼ぶ)若しくは回転軸P側(以下、内周側とも呼ぶ)へと開口するV字形状、又は外周側若しくは内周側へと開口する円弧状の形状を有していてもよい。
また周方向で隣り合う任意の一対の永久磁石20は外周側へと互いに異なる極性の磁極面20aを向けて配置される。これにより各永久磁石20は、図示せぬ固定子へと界磁磁束を供給する、いわゆる界磁磁石として機能する。
なお図1の例示では4つの永久磁石20(いわゆる4極の回転子1)が例示されているが、回転子1は2個の永久磁石20を有していてもよく、6個以上の永久磁石20を有していてもよい。また図1の例示では、4つの永久磁石20の各々が一つの界磁磁極を構成しているが、例えば一つの界磁磁極が複数の永久磁石20によって構成されていてもよい。言い換えれば、例えば図1における各永久磁石20がそれぞれ複数の永久磁石に分割されていてもよい。
回転子用コア10は軟磁性体(例えば鉄)で構成されている。図1の例示では、回転子用コア10は例えば回転軸Pを中心とした略円柱状の形状を有している。
回転子用コア10には複数の永久磁石20が格納される複数の磁石格納孔12が穿たれている。各磁石格納孔12は各永久磁石20の形状及び配置に合わせた形状を有している。図1の例示では、4つの磁石格納孔12が穿たれている。
回転子用コア10の外周面11には、各永久磁石20によって2p(pは自然数であっていわゆる極対数、図1の例示では2)個の磁極面が形成される。2p個の磁極面は周方向において交互に異なる極性を有する。図1の例示では、正極の磁極面20aを呈する2つの永久磁石20がそれぞれ外周面11に正極の磁極面を形成し、負極の磁極面20aを呈する2つの永久磁石20がそれぞれ外周面11に負極の磁極面を形成する。よって図1の例示では外周面11には4つの磁極面が形成される。
回転子用コア10は例えば軸方向に積層された電磁鋼板で構成されてもよい。これにより回転子用コア10の軸方向における電気抵抗を高めることができ、以って回転子用コア10を流れる磁束に起因した渦電流の発生を低減することができる。また回転子用コア10は、意図的に電気的絶縁物(例えば樹脂)を含んで形成される圧粉磁心によって構成されてもよい。絶縁物が含まれているので圧粉磁心の電気抵抗は比較的高く、以って渦電流の発生を低減できる。
回転子用コア10には例えば回転軸Pを中心とした略円柱状のシャフト用貫通孔19が設けられていてもよい。シャフト用貫通孔19を形成する側面は、外周面11に対して内周面と把握できる。かかるシャフト用貫通孔19に不図示のシャフトを嵌合させて回転子用コア10とシャフトとが固定される。またシャフト用貫通孔19が設けられない場合は、例えば軸方向における回転子用コア10の両側に端板(不図示)を設け、当該端板にシャフトを取り付ければよい。
回転子用コア10には空隙13が穿たれている。空隙13は、外周面11に形成される磁極面同士の境界たる極間の近傍において、永久磁石20と外周面11との間に配置される。また空隙13は2p回対称であり、空隙13は周方向において所定の角度範囲に渡って広がっている。図1の例示では、例えば紙面下側に位置する空隙13が第1角度範囲R1に渡って広がっている。
なお、図2に例示するように、空隙13の各々は周方向において複数個の空隙要素に分離していても良い。図2の例示では、各空隙13は2つの空隙要素131と、2つの空隙要素132とに分離している。空隙要素131は永久磁石20の周方向における端から外周面11へと延在している。かかる空隙要素131は永久磁石20の磁極面20a,20bが磁気的に短絡することを抑制することができる。図2の例示では、極間を挟んで周方向で隣り合う空隙要素131同士の間には回転子用コア10の一部(以下ではリブ部15と呼ぶ)が介在する。このリブ部15はいわゆるq軸リラクタンスを向上することができる。よって、d軸リラクタンスとq軸リラクタンスとの差を増大でき、ひいてはリラクタンストルクを向上できる。なお図1,2の例示では空隙13(空隙要素131)は永久磁石20の端へと繋がっているが、これに限らず、当該端と離間していても構わない。
空隙要素132は空隙要素131に対して極間とは反対側に配置される。空隙要素132の径方向における幅は極間側から磁極面の周方向における中心(極中心)側へと向かうに従って小さくなっている。これによって外周面11上の磁束密度を正弦波に近づけることができる。また空隙要素131,132の間には回転子用コア10の一部が介在するので、回転子用コア10の機械的強度を向上することができる。
図1,2の例示では、空隙13(空隙要素131,132)の外周側には、回転子用コア10の一部としての連結部16が設けられる。連結部16は、周方向における空隙13同士の間のコアを連結する。これにより、回転子用コア10の強度を向上することができる。
なお図2の例示では、連結部16の径方向における厚みは、当該連結部16を通る磁束によって容易に磁気飽和する程度に小さいことが望ましい。これにより、永久磁石20の磁極面20a,20bの間で磁束が、永久磁石20の外周側のコア部、連結部16、リブ部15、及び永久磁石20の内周側のコア部(回転子用コア10の一部)を経由して短絡することを防止できる。
回転子用コア10には磁気障壁部17が設けられている。磁気障壁部17は永久磁石20に対して外周面11側に設けられる。図1の例示では磁気障壁部17は外周面11に形成された溝部171として示されている。磁気障壁部17の周方向における位置については後に詳述する。
本回転子1に対して、径方向においてエアギャップを介して外周面11と対面するように固定子(不図示)を配置することで回転電機を実現できる。
<振れ回りに起因する電磁力>
次に、振れ回りに起因する磁束密度について説明する。回転子1は理想的には回転軸Pを中心とした回転動作を行うものの、実際には例えば回転子1の中心と固定子の中心との間に差が生じることにより、回転子1は回転軸Pを中心とした振れ回りも並行して行う。ここでいう回転動作とは回転軸Pを中心とした回転子1の自転動作であり、振れ回りとは回転子1の中心が回転軸Pを中心として回転する公転動作をいう。
そして、この振れ回りにより回転子1と固定子との間のエアギャップが変動する。例えば図3に示すように、回転子1の中心Q1が固定子の中心Q2よりも紙面下方向にずれている場合のエアギャップについて考察する。なお、図3においては回転子1をより簡略化して示し、また固定子の回転子1に対向する面を破線で示している。また回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とのずれは実際には0.1mm程度であるものの、かかるずれを誇張して示している。
図3に示すように、エアギャップは紙面上側で最も大きく、紙面下側で最も小さい。また、紙面左右方向におけるエアギャップは、回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とが一致した際のエアギャップとほぼ一致する。
次に、回転子1が回転する場合に、例えば紙面最上に位置する点Aを通る位置でのエアギャップの変化について考察する。初期的には、点Aにおけるエアギャップは最大値を採る。そして、回転子1が例えば反時計回りに振れ回りを伴って回転することにより、点Aにおけるエアギャップは減少する。そして回転角で90度回転したときに、図4に示すように、点Aにおけるエアギャップは、回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とが互いに一致したときのエアギャップと略一致する。
続く回転によっても点Aにおけるエアギャップは減少する。そして回転角で180度回転したときに、図5に示すように、点Aにおけるエアギャップは最小値を採る。続く回転によって点Aにおけるエアギャップは増大する。そして回転角で270度回転したときに、図6に示すように、点Aにおけるエアギャップは回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とが互いに一致したときのエアギャップと略一致する。続く回転によっても点Aにおけるエアギャップが増大し、回転角で360度、回転したときに再び最大値を採る。
かかる点Aにおけるエアギャップの変動から理解できるように、点Aにおけるエアギャップは回転角で360度を1周期とする余弦波成分を多く有する。
またエアギャップが増大するに従って磁気抵抗が増大することに鑑みると、回転子1の振れ回りに起因してパーミアンスはエアギャップの変動と同様に変動する。したがって、点Aにおけるエアギャップの変動を余弦波成分で把握すると、点Aを通るパーミアンスRmを次式で表すことができる。
Rm=1+a・cosθ ・・・(1)
ただし、回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とが一致している場合のパーミアンスを1に規格化している。またaは回転子の中心Q1と固定子の中心Q2とのずれに起因する値である。aは回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とのずれが大きいほど大きくなる。
回転子1の中心Q1と固定子の中心Q2とが一致している場合の、回転動作に起因する起磁力B1は次式で表される。
B1=cos(pθ) ・・・(2)
なお、簡単のためにパーミアンスRmと、起磁力B1との位相差をゼロとしている。また起磁力B1は磁束密度の振幅を1に規格化して把握されている。
そして、点Aにおいて回転子1と固定子との間を流れる磁束密度B2は、回転動作に起因する起磁力B1と、振れ回りに起因して変動するパーミアンスRmとの積で表される。
B2=Rm・B1
=(1+a・cosθ)cos(pθ)
=cos(pθ)
+a/2・{cos(p+1)θ+cos(p−1)θ} ・・・(3)
式(3)の右辺で示すcos(pθ)は回転動作に起因する磁束密度である。式(3)の右辺で示すa{cos(p+1)θ+cos(p−1)θ}は振れ回りに起因する磁束密度である。回転子1が定常的に回転しているとき、回転子と固定子とのそれぞれの対称性から、値aは角度θに依存せずに一定値を採ると考えられるので、磁束密度B2には振れ回りに起因して、回転角360度を1周期とする余弦波を基本波とする(p±1)次の高調波成分が生じる。
なお、ここではパーミアンスRmと起磁力B1との位相差をゼロと仮定したが、この位相差をφとして計算したとしても磁束密度B2には(p±1)次の高調波成分が生じることが導ける。
また式(2)に示すように振れ回りに起因するパーミアンスRmをcosθで表したが、実際には複数の次数の高調波成分を有する。しかしながら、式(2)のようにパーミアンスRmの変動の主な成分はcosθで表すことができる。よって磁束密度B2は(p±1)次の高調波成分を他の次数の高調波成分に比べてより多く含む。なお、cos(pθ)はトルクに寄与する成分であり、磁束密度B2は他の高調波成分に比べてp次の高調波成分を最も多く含む。
電磁力は磁束密度B2の2乗で表されるところ、次式のように電磁力はcos(pθ)とcos(p+1)θとの積を含む。
B22=[cos(pθ)+a/2・{cos(p+1)θ+cos(p-1)θ}]2
=cos2(pθ)+a2/4・cos2(p+1)θ+a2/4・cos2(p-1)θ+a・cos(pθ)cos(p+1)θ
+a2/2・cos(p+1)θcos(p-1)θ+a・cos(pθ)cos(p-1)θ ・・・(4)
式(1)において値aは1よりも小さいと考えられるから、a2を係数に持つ項を無視し、上式はcos2(pθ)+a・{cos(pθ)cos(p+1)θ+cos(pθ)cos(p-1)θ}で近似される。更に三角関数の積和の公式を適用すれば、電磁力は下式のように近似される。
B22=1/2+cos(2pθ)/2+a/2{cos(2p+1)θ+cos(2p-1)θ+2cosθ}・・・(5)
換言すれば、電磁力は(2p±1)次の高調波成分を含む。これは上述したように、磁束密度B2はp次、(p±1)次の高調波成分を他の次数の高調波成分に比べてより多く含むからである。しかも電磁力の(2p+1)次の高調波成分は他の次数の電磁力の高調波成分に比べて振動を招きやすい。よって、電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減することが望まれていた。
<振動の低減>
図7は回転子1のうち一の界磁磁極に相当する部分を示している。ただし、ここで考慮する回転子1においては、図1の例示と異なって、一つのみの磁気障壁部17が設けられている。かかる回転子1において磁気障壁部17の位置を周方向に移動させて、電磁力の(2p+1)次の高調波成分の振幅の、磁気障壁部17の位置依存性をシミュレートする。まず磁気障壁部17の位置を定義する。外周面11に生じる磁極同士の境界(極間)の一つを0度に設定し、回転軸Pを中心として反時計回り方向を正の方向に設定する。そして、磁気障壁部17の周方向における両端17a,17bのうち、周方向において正の方向に位置する一端17aまでの角度を角度θとする。かかる角度θを磁気障壁部17の周方向における位置として把握する。
次に、電磁力の(2p+1)次の高調波成分を評価するパラメータを導入する。ここでは、磁気障壁部17を有さない回転子と、図7の回転子1とを比較するパラメータを導入する。即ち、磁気障壁部17を有さない回転子に発生する電磁力の(2p+1)次の高調波成分の振幅に対する、図7の回転子1に発生する電磁力の(2p+1)次の高調波成分の振幅の比を当該パラメータとして設定する。よって、当該比が100%よりも小さければ、磁気障壁部17によって電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減できる。
図8は当該比と角度θとの関係を示している。図8の例示では、磁気障壁部17の周方向における両端17a,17bがなす角度(磁気障壁部17の幅)が6度であるときの当該関係を実線で示し、磁気障壁部17の幅が8度であるときの当該関係を破線で示している。図8に例示するように、角度θが40度から70度付近までは、磁気障壁部17によって電磁力の(2p+1)次の高調波成分が低減していることが分かる。一方、角度θが70度を超えた付近から電磁力の(2p+1)次の低減効果が減少する。
図9は図8のグラフを曲線で近似し、近似した当該比の逆数を表している。つまり、かかる逆数は、磁気障壁部17を設けることによる電磁力の(2p+1)次の高調波成分の低減効果と把握することができる。図9の曲線から見て取れるように、この低減効果は角度値α1を超えたときから急激に低減する。よって、磁気障壁部17の一端17aが角度値α1から90度(極間)までの角度範囲に位置する場合には磁気障壁部17を設けないことが望ましい。なお図7を参照して、角度値α1は、磁気障壁部17の一端17aと、90度付近に位置する空隙13の磁気障壁部17側の一端13aとが、周方向で互いに一致するときの角度θである。
次に、回転子用コア10の対称性を考慮して、角度θが40度以下である範囲についても考察する。ここでは、磁気障壁部17の両端17a,17bのうち周方向において負の方向に位置する一端17bの角度を角度θと把握する。角度θが、当該一端17bと、0度付近に位置する空隙13の磁気障壁部17側の一端13bとが周方向において互いに一致する角度値α2を、下回れば、電磁力の低減効果が急激に減少することが、回転子用コア10の対称性から理解できる。したがって、磁気障壁部17の一端17bが零度(極間)から角度値α2までの角度範囲に位置する場合には、磁気障壁部17を設けないことが望ましい。換言すると、磁気障壁部17は空隙13と径方向において対面しないことが望ましい。
さて、本実施の形態にかかる回転子用コア10においては、磁気障壁部17が少なくとも一つの空隙13と協働して電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減することを企図する。図1,2の例示では、紙面下側に位置する空隙13と、磁気障壁部17とが協働する。かかる協働を実現し、しかも上述した(2p+1)次の高調波成分の低減効果の減少を回避すべく、磁気障壁部17は以下に説明する範囲に位置している。
図1を参照して、第2角度範囲R12〜R16はそれぞれ第1角度範囲R1を360・N(Nは1以上(2(p+1))未満の自然数)/(2(p+1))度回転させて得られる範囲である。第3角度範囲R22〜R24は第1角度範囲R1をそれぞれ360・M(Mは1以上(2p−1)以下の自然数)/2p度回転させて得られる範囲である。言い換えれば第3角度範囲R22〜R24はそれぞれ紙面右側、紙面上側、紙面左側の各空隙13が周方向で広がる範囲である。第4角度範囲R2〜R5は、第2角度範囲R12〜R16のうち第3角度範囲R22〜R24を除いた範囲である。
磁気障壁部17は第4角度範囲R2〜R5のいずれかに配置される。図1の例示では、2つの磁気障壁部17がそれぞれ第4角度範囲R3,R5に配置されている。なお、磁気障壁部17の2つが設けられている必要はなく、少なくとも一つが第4角度範囲R2〜R5のいずれかに配置されていれば良い。図10の例示では、第4角度範囲R2〜R3の各々に磁気障壁部17が配置されている。
ここで、磁気障壁部17が第4角度範囲に配置されることを次のように説明する。即ち、磁気障壁部17が第4角度範囲に配置されるとは、磁気障壁部17の周方向における両端のうち、第2角度範囲から除かれた第3角度範囲側の一端が、当該第4角度範囲に位置することを意味する。より詳細に、図1の例示において各磁気障壁部17について説明する。まず第4角度範囲R3に位置する磁気障壁部17について説明する。第4角度範囲R3は第2角度範囲R13から第3角度範囲R22を除かれた範囲である。よって、磁気障壁部17の両端のうち、第2角度範囲R13から除かれる第3角度範囲R22側に位置する一端17bが、第4角度範囲R3内に位置すればよい。
これによって、第1角度範囲R1に存する空隙13と、第4角度範囲R3に存する磁気障壁部17とが、磁束密度B2の(p+1)次の高調波成分の周期(山又は谷)に対応する2つの箇所の近傍にそれぞれ位置する。したがって、磁束密度B2の(p+1)次の高調波成分を効果的に低減できる。磁束密度B2の(p+1)次の高調波成分は上述したように電磁力の(2p+1)次の高調波成分の因子となるので、電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減することができる。しかも、この第4角度範囲R3と隣接する第3角度範囲R22には磁気障壁部17が設けられない。したがって、空隙13と磁気障壁部17とが径方向で対面することによる電磁力の高調波成分の低減効果の減少(図9参照)を回避しつつ、空隙13と磁気障壁部17とが協働して電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減することができる。電磁力の(2p+1)次の高調波成分は上述したように他の次数の電磁力の高調波成分に比べて振動を招きやすいところ、本回転子1を用いた回転電機によればかかる振動を効率的に低減することができる。
第4角度範囲R5に位置する磁気障壁部17については、その両端のうち、第2角度範囲R16から除かれた第3角度範囲R24側に位置する一端17bが、第4角度範囲R5内に位置している。この磁気障壁部17が奏する作用・効果も上述した通りである。
なお図1の例示では、(2p+1)箇所(5箇所)の第2角度範囲R12〜R16の各々には、空隙13および磁気障壁部17の少なくともいずれか一方が配置されている。したがって、磁束密度B2の(p+1)次の高調波成分の周期に対応する2(p+1)箇所の近傍にそれぞれ空隙13又は磁気障壁部17が存在する。したがって、磁束密度B2の(p+1)次の高調波成分をより効率的に低減することができ、ひいては電磁力の(2p+1)次の高調波成分をより効果的に低減することができる。
また磁束密度B2の(p−1)次の高調波成分に着目すれば、上述した第2角度範囲を次のように読み替えても良い。即ち、第2角度範囲は、第1角度範囲R1を、360・M(ただし、Mは1から(2(p−1))未満の自然数)/2(p−1)度回転させて求まる角度範囲と把握しても良い。ただし、pは3以上の自然数である。
少なくとも一つの磁気障壁部17は第2角度範囲を読み替えて求められる第4角度範囲のいずれかに、上述の意味で位置する。これによって、磁気障壁部17と空隙13とが協働して、磁束密度B2の(p−1)次の高調波成分を効率的に低減することができる。磁束密度B2の(p−1)次の高調波成分は上述したように電磁力の(2p+1)次の高調波成分の因子となるので、電磁力の(2p+1)次の高調波成分を効率的に低減することができる。また(2p−3)箇所の第2角度範囲の各々は、空隙13および磁気障壁部17の少なくともいずれか一方が配置されることが望ましい。これによって、磁束密度B2の(p−1)次の高調波成分の周期に対応する2(p−1)箇所の近傍にそれぞれ空隙13又は磁気障壁部17が存在する。したがって、磁束密度B2の(p−1)次の高調波成分をより効率的に低減することができ、ひいては電磁力の(2p+1)次の高調波成分をより効果的に低減することができる。
第2の実施の形態.
図1,2に例示するように、磁石格納孔12は2p回対称に設けられ、空隙13は2p回対称に設けられ、永久磁石20は2p回対称に設けられる。一方、図10の例示では、磁気障壁部17は回転軸Pに対して回転対称に設けられない。したがってこの場合、磁気障壁部17を形成することによって回転子1の質量についてバランスが崩れる。そこで、第2の実施の形態では回転子1のバランスを向上することを目的とする。
図11は第2の実施の形態にかかる回転子用コア10の概念的な構成を示している。ただし図面の簡略化のために、空隙13(空隙要素131,132)については図示を省略した。この点は、第2の実施の形態において後に参照する他の図においても同様であるため、繰り返しの説明は省略する。
磁気障壁部17の密度は回転子用コア10の密度よりも小さい。図11では、磁気障壁部17として溝部171が例示されている。なお、磁気障壁部17として溝部171を埋める非磁性体が設けられていてもよい。一方、非磁性体が設けられていない場合、溝部171の密度は例えば空気の密度であると把握することができる。これは軟磁性体で構成される回転子用コア10の密度よりも小さい。
本回転子用コア10には、回転軸Pと永久磁石20との間において、回転軸Pを支点として磁気障壁部17と釣り合う孔18が穿たれている。つまり、磁気障壁部17を設けたことによって、その位置において回転子用コア10の重量が低下し、以ってバランスの低下を招くところ、磁気障壁部17と釣り合う孔18を設けることで全体としてバランスを向上している。これによって、回転子1が回転軸Pを中心として回転するときのバランスを向上することができる。
しかも孔18は回転軸Pと永久磁石20との間に配置されている。したがって、孔18によって各永久磁石20から固定子へと供給される磁束が阻害されることを回避できる。
以下、図11を参照して、孔18の一例について詳細に説明する。なお、図11では孔18は円形状の断面を有しているが、これに限らず、任意形状の孔であってよい。
次に孔18の位置および体積について、磁気障壁部17との関連に着目しつつ詳細に説明する。まず各磁気障壁部17について次のようにベクトルMRを規定する。磁気障壁部17についてのベクトルMRの方向を、回転軸Pから磁気障壁部17の質量中心へと向う方向と定義する。なお図11の例示では、磁気障壁部17は溝部171として例示されており、ここでいう溝部171の質量中心とは次のように定義される。即ち、まず磁気障壁部17が形成されていない外周面11同士を繋ぐ円弧と、溝部171とによって囲まれる部分(以下、溝部分とも呼ぶ)に仮想的な均一の物質が充填されたと仮定する。かかる物質の質量中心が溝部171の質量中心である。
そして磁気障壁部17についてのベクトルMRの大きさを次のように定義する。即ち、ベクトルMRの大きさを、質量差Mと距離Rとを乗算した値と定義する。ここでいう距離Rとは回転軸Pから磁気障壁部17の質量中心までの距離である。質量差Mとは、磁気障壁部17を設けたことによる回転子用コア10の質量減少量である。つまり質量差Mとは、磁気障壁部17が形成された部分(例えば溝部分)に相当する回転子用コア10の質量と、磁気障壁部17の質量との差である。なお、磁気障壁部17を充填する物質が空気であるときには、磁気障壁部17の質量は零と把握すればよい。
図11においては、3つの磁気障壁部17が例示されており、各磁気障壁部17についてのベクトルMRをベクトルMR1〜MR3として示している。
次に、孔18について次のようにベクトルmrを規定する。孔18についてのベクトルmrの方向として、回転軸Pから孔18の質量中心へと向う方向を定義する。孔18の質量中心とは、孔18を充填する仮想的な均一の物質の質量中心である。また孔18についてのベクトルmrの大きさを、質量差mおよび距離rを乗算して求まる値と定義する。ここでいう距離rとは、回転軸Pから孔18の質量中心までの距離である。また、ここでいう質量差mとは、孔18を設けることによる回転子用コア10の質量減少量である。つまり、質量差mは孔18が形成された部分に相当する回転子用コア10の質量である。
図11においては、1つの孔18が例示されており、孔18についてのベクトルをベクトルmrとして示している。
そして、磁気障壁部17についてのベクトルMR1〜MR3の総和たるベクトルMR’と、孔18についてのベクトルmrの総和たるベクトルmr’(図11の例示では孔18は一つであるのでベクトルmrと等しい)とが次式を満たすように、孔18の体積および位置が決定される。
|MR’+mr’|<|MR’| ・・・(6)
式(6)において左辺の大きさは、磁気障壁部17と孔18とが形成された回転子用コア10のバランスを表す指標である。かかる指標が大きいほどバランスが崩れる。式(6)において右辺の大きさは、磁気障壁部17が形成され孔18が形成されていない回転子用コア10のバランスを表す指標である。式(6)により、孔18によって回転子1のバランスを改善することができる。なお、ベクトルMR’,mr’の大きさが互いに等しく、ベクトルMR’,mr’の方向が互いに反対であれば、理想的にはバランスの低下を解消できる。
なお本回転子1を有する電動機を、冷媒を圧縮する圧縮機に搭載することができる。この詳細な一例は他の実施の形態で詳述する。特定の種類の圧縮機においては気体状態の冷媒は電動機を回転軸方向に通過する必要がある。かかる回転子1において孔18が回転子用コア10を軸方向で貫通していれば、気体状態の冷媒は孔18を通過して回転軸方向で電動機を通過することができる。したがって、孔18はバランスを改善する機能と冷媒が通過する通路としての機能の両方を実現することができる。この点は後述する他の態様であっても適用されるので、繰り返しの説明を避ける。
図12は回転子1の概念的な他の一例を示している。図12の回転子1は孔18の個数という点で図11の回転子1と相違している。図12の回転子用コア10には複数の孔18が形成されており、図12の例示では孔18の個数は2個である。2つの孔18についてのベクトルmr1,mr2の総和たるベクトルmr’は式(6)を満足する。これによっても、磁気障壁部17を設けることによる回転子1のバランスの低下を改善することができる。
図13は回転子1の概念的な他の一例を示している。図13の回転子1は磁気障壁部17の個数および孔18の個数という点で図11の回転子1と相違している。図13の回転子用コア10には複数の孔18が形成されており、図13の例示では孔18の個数は3個である。一方、図13の例示では磁気障壁部17の個数は2個である。これら2つの磁気障壁部17は第4角度範囲R4,R5に位置している(図1も参照)。そして図13の例示では、2つの孔18についてのベクトルmr1,mr2の方向はそれぞれ磁気障壁部17についてのベクトルMR1,MR2の方向とは反対である。これによって、ベクトルMR1,mr1の和の大きさ、及びベクトルMR2,mr2の和の大きさはそれぞれベクトルMR1,MR2の大きさよりも小さくすることができる。したがって、ベクトルMR’,mr’の和の大きさはベクトルMR’の大きさよりも小さく、言い換えれば式(6)を満たす。したがって、磁気障壁部17を設けることによる回転子1のバランスの低下を改善することができる。
図14は回転子1の概念的な他の一例を示している。図14の回転子1は孔18の個数という点で図11の回転子1と相違している。図14の回転子用コア10には複数の孔18が形成されており、図14の例示では孔18の個数は4個である。また孔18は回転軸Pの周りで環状に配置されている。図14の例示では、各孔18は回転軸Pに垂直な断面において円形状を有しており、当該円の中心は周方向において略等間隔に配置されている。また孔18は軸方向に沿って回転子用コア10を貫通している。かかる孔18は冷媒通路用の孔として用いられる。
一方で、図14の例示においても、孔18は式(6)を満たすように設けられる。より具体的には、孔18の断面積を他の孔18の断面積と異ならせることで式(6)を満足させる。例えば図14においては、ベクトルMR’が紙面左からわずかに上方に傾いた方向に沿っている。回転子用コア10には紙面上方、紙面下方、紙面右側、紙面左側にそれぞれ孔18が設けられている。そして、4つの孔18のうち紙面右側に位置する孔18の断面積が他の孔18の断面積に比べて最も大きく、回転軸Pに対して紙面上側に位置する孔18の断面積がその次に大きい。他の2つの断面積は互いに同程度の面積を有している。これにより、4つの孔18についてのベクトルmrの総和たるベクトルmr’は紙面右からわずかに下方に傾いた方向に沿う。したがって、ベクトルMR’,mr’の和の大きさを、ベクトルMR’の大きさよりも小さくできる。換言すれば式(6)を満足する。
これによって、磁気障壁部17を設けることによる回転子1のバランスの低下を改善することができる。しかも、複数の孔18が設けられているので、冷媒は回転子用コア10を通過しやすい。
また磁気障壁部17が軸方向における回転子用コア10の中心に対して軸方向において対称に設けられる場合、孔18も同様に軸方向で対称に設けられることが望ましい。図15,16は本回転子1の概念的な構成の一例を示す斜視図である。例えば図15では、2つの孔18が回転子用コア10に形成されており、図16では一つの孔18が形成されている。これによって、軸方向のバランスをも向上できる。
第3の実施の形態.
図17に示す回転子1は、図2に示す回転子1と比較して磁気障壁部17が相違している。
磁気障壁部17は孔172として示されている。孔172はその内部を流体、例えば空気や冷媒が充填されているので磁気障壁として機能することができる。孔172は、回転子用コア10の外周面11と永久磁石20との間(より具体的には、永久磁石20を通る円環と外周面11との間)に設けられる。なお磁気障壁部17は孔172に限らず、孔172に非磁性体が充填されていてもよい。非磁性体が充填されていれば回転子1の強度を向上できる。
図17の例示では、磁気障壁部17(孔172)は軸方向に沿って見て長尺状の形状を有し、その長辺が周方向に接するように配置されている。
かかる磁気障壁部17であっても第1の実施の形態と同様に回転子1の振れ回りに起因する電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減することができる。
なお磁気障壁部17はその径方向における位置が外周面11に近い方が好ましい。図18は、回転子1の中心Q2から磁気障壁部17までの距離と、磁束密度B2のトルクに寄与する成分(2次高調波成分)に対する3次高調波成分の比との関係を示している。図18においては、回転子1の中心に対する外周面11の半径が29.8mmである回転子1についての結果である。なおグラフにおいて中心と磁気障壁部17との距離が29.8mmとして示された比は磁気障壁部17が設けられない回転子1についての比と把握することができる。
図18に示すように、磁気障壁部17は外周面11に近いほど3次高調波成分を低減できる。そして、磁気障壁部17が永久磁石20の外接円R1と外周側から接する位置(回転子1の中心と磁気障壁部17との距離が外接円R1の半径)であるときの、トルクに寄与する成分に対する3次高調波成分は、磁気障壁部17が設けられないときのそれと一致している。よって、磁気障壁部17は永久磁石20の外接円R1と外周面11との間に位置することが要求される。
また本磁気障壁部17は外周面11と永久磁石20との間に設けられるので、外周面11には溝が形成される必要がない。よって、外周面11の周方向のいずれの位置においてもエアギャップを測定することができる。換言すれば、磁気障壁部17がエアギャップの測定を阻害しない。よって、エアギャップ測定の作業性を向上することができる。
図19に示す回転子1は、図2に示す回転子1と比較して磁気障壁部17が相違している。
回転子用コア10は軸方向に積層された複数の電磁鋼板により構成されている。複数の電磁鋼板は、それぞれに設けられた凹凸が軸方向で嵌合しあって相互に固定される。かかる凹凸は、軸方向に沿って所定の部材を電磁鋼板に押し込むことで一方の面に凹部を形成するとともに同じ位置の他方の面に凸部を形成して、設けられる。このように凹凸は電磁鋼板の変形によって形成される。よって凹凸の磁気特性は劣化する。また、一の電磁鋼板の凸部とこれと軸方向で接する凹部とは完全に連続しないので、この境界でも磁気特性が劣化する。
かかる磁気特性の劣化を考慮して、図19に示す回転子1では、磁気障壁部17として電磁鋼板を相互に固定する凹凸173を採用している。凹凸173は、その周方向における位置が第1の実施の形態で説明したように設けられる。また、その径方向における位置は回転子用コア10の外周に近いことが望ましい。より詳細には、磁気障壁部17は永久磁石20の外接円R1と外周面11との間に位置することが望ましい。
これにより、電磁力の(2p+1)次の高調波成分を低減できるとともに、エアギャップ測定の作業性を向上することができる。しかも、磁気障壁部17は複数の電磁鋼板同士を固定する機能と、振動低減のための磁気障壁の機能とを発揮するので、それぞれの機能を発揮する専用の固定部、磁気障壁部を設ける場合に比べて、製造コストを低減できる。
なお第1乃至第3の実施の形態における技術は任意に組み合わせることが可能である。
第4の実施の形態.
第1乃至第3の実施の形態で説明した回転子1は例えば密閉型圧縮機用のモータに用いられる。図20は、上記のモータが適用される圧縮機の縦断面図である。図20に示された圧縮機は高圧ドーム型のロータリ圧縮機であって、その冷媒には例えば二酸化炭素が採用される。なお図19においてはアキュムレータK100も図示されている。
この圧縮機は、密閉容器K1と、圧縮機構部K2と、モータK3とを備えている。圧縮機構部K2は密閉容器K1内に配置されている。モータK3は密閉容器K1内かつ圧縮機構部K2の上側に配置される。ここで、上側とは密閉容器K1の中心軸が水平面に対して傾斜しているか否かに関わらず、密閉容器K1の中心軸に沿った上側をいう。
モータK3は回転シャフトK4を介して圧縮機構部K2を駆動する。モータK3は回転子1と固定子3とを備えている。
密閉容器K1の下側側方には吸入管K11が接続され、密閉容器K1の上側には吐出管K12が接続される。アキュムレータK100からの冷媒ガス(図示省略)が吸入管K11を経由して密閉容器K1へと供給され、圧縮機構部K2の吸込側に導かれる。このロータリ圧縮機は縦型であって、少なくともモータK3の下部に油溜めを有する。
固定子3は、回転シャフトK4に対して回転子1よりも外周側に配置され、密閉容器K1に固定されている。
圧縮機構部K2は、シリンダ状の本体部K20と、上端板K8および下端板K9を備える。上端板K8および下端板K9はそれぞれ本体部K20の上下の開口端に取り付けられる。回転シャフトK4は、上端板K8および下端板K9を貫通し、本体部K20の内部に挿入されている。回転シャフトK4は上端板K8に設けられた軸受K21と、下端板K9に設けられた軸受K22により回転自在に支持されている。
回転シャフトK4には本体部K20内でクランクピンK5が設けられる。ピストンK6はクランクピンK5に嵌合されて駆動される。ピストンK6と、これに対応するシリンダとの間には圧縮室K7が形成される。ピストンK6は偏芯した状態で回転し、または、公転運動を行い、圧縮室K7の容積を変化させる。
次に、上記ロータリ圧縮機の動作を説明する。アキュムレータK100から吸入管K11を経由して圧縮室K7に冷媒ガスが供給される。モータK3により圧縮機構部K2が駆動されて、冷媒ガスが圧縮される。圧縮された冷媒ガスは冷凍機油(図示省略)と共に、吐出孔K23を経由して圧縮機構部K2から圧縮機構部K2の上側へ運ばれ、更にモータK3を経由して吐出管K12から密閉容器K1の外部に吐出される。
冷媒ガスは冷凍機油と共にモータK3の内部を上側へと移動する。冷媒ガスはモータK3よりも上側に導かれるが、冷凍機油は回転子1の遠心力で密閉容器K1の内壁へと向かう。冷凍機油は密閉容器K1の内壁に微粒子の状態で付着することで液化した後、重力の作用によって、モータK3の冷媒ガスの流れの上流側に戻る。
かかる密閉型圧縮機において、モータK3の回転子1として第1乃至第3の実施の形態で説明した回転子1を採用することで、回転子1の振動ひいては密閉型圧縮機の振動を低減することができる。