JP5685002B2 - 制振材用エマルション及び制振材組成物 - Google Patents

制振材用エマルション及び制振材組成物 Download PDF

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本発明は、制振材用エマルション及び制振材組成物に関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つための制振材の材料として有用な制振材用エマルション及び制振材組成物に関する。
制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。このような制振材に用いられる材料としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状成形体やシート状成形体等の成形加工品が使用されているが、振動や音響の発生箇所の形状が複雑な場合には、これらの成形加工品を振動発生箇所に適用することが困難であるため、作業性を改善して制振性を充分に発揮させるための手法が種々検討されている。例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要があるため、作業性等の改善が望まれ、制振材を形成する組成物や重合体等の検討がなされている。
そこで、このような成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており、例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することによって形成される塗膜により、振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。しかしながら、これらの従来品をもってしても未だ、制振性能が充分に満足できるレベルにあるとはいえず、更に充分に制振性能を発揮できるようにする技術が求められている。
塗布型制振材に使用される材料としては、例えば、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体成分を重合してなるエマルションと、架橋剤として多価金属酸化物とを含む制振材用エマルション(特許文献1参照。)や、α,β−不飽和カルボン酸又はその無水物を共重合成分として含有する共重合体に、塩基性アルカリ金属化合物を含有せしめてなる振動減衰制振金属板用樹脂組成物(特許文献2参照。)が開示されている。
また成形シートに使用される材料として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位、ジエン系単位及びラジカル重合性不飽和カルボン酸単位からなる共重合体に1価又は2価の金属カチオンを付加して共重合体中のカルボキシル基をイオン架橋したイオン架橋物からなる粒子と、可塑剤とを含有するアクリル酸エステル系共重合体プラスチゾルが開示されている(特許文献3参照。)。
特開2003−193025号公報(第2、3頁) 特開平2−150445号公報(第1〜3頁) 特開平6−145454号公報(第2頁)
上記のように、各種材料が種々検討されている。まず特許文献1に記載の制振材用エマルションは、不飽和カルボン酸単量体を重合してなるエマルションに酸化亜鉛等の多価金属酸化物を組み合わせることにより、加熱乾燥時にエマルションの粒子間が架橋され、膨れや割れが抑制された乾燥塗膜が得られるという技術である。この制振材用エマルションは、加熱乾燥性と制振性との両立を実現できるものであるため、水系制振材を形成する材料として極めて有用なものであるが、より制振性を向上させて、各種構造体に更に好適に適用するための工夫の余地があった。
特許文献2には、共重合体中のカルボキシル基を、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の1価塩基である塩基性アルカリ金属化合物によってイオン架橋させることにより、接着強度や耐熱性を高めるとともに、制振性能のピーク温度を調整しようとする旨が記載されている。しかしながら、このような樹脂組成物では、制振材に要求される制振性能や塗膜性能等が高いレベルにあるとはいえないため、改善の余地があった。また、特許文献3のプラスチゾルは、成形シート用途に用いることを前提にしたものであり、制振材に好適に適用できるものではない。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、制振性に著しく優れ、加熱乾燥性と制振性とを両立できるうえ、各種構造体の制振材の材料として極めて有用な制振材用エマルション、及び、このような制振材用エマルションを含む制振材組成物を提供することを目的とするものである。
本発明者等は、制振材組成物に用いられる原材料を種々検討したところ、水系制振材を与えるエマルションが作業性等の点で優れることにまず着目し、このようなエマルションを、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなるものとし、更に、そのエマルション中のカルボキシル基を多価金属塩基で一定量中和すると、制振性が著しく向上されることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。このような制振材用エマルションでは、中和剤として使用される多価金属塩基により、表面部では粒子内金属架橋が生じるが、内部には未架橋部分が残存するため、エマルション中の架橋部分と非架橋部分との運動性の違いから摩擦が生じ、その摩擦により振動の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて制振材の制振機能が発揮されるものと推測される。このような多価金属塩基の中和反応に起因した粒子内金属架橋は、特許文献1のように加熱乾燥等で水が揮散する際に起こる粒子間架橋と技術上相違することは明らかである。また、このような制振材用エマルションを含む制振材組成物が、格段に優れた制振性を発揮し、各種構造体の制振材として極めて有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなる制振材用エマルションであって、上記エマルションは、M(OH)(式中、Mは、2価以上の金属元素を表す。nは、2以上の整数を表す。)で表される多価金属塩基によって中和されたカルボキシル基を有し、上記中和カルボキシル基を有する構成単位は、上記エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対し、0.5〜5モル%である制振材用エマルションである。
本発明はまた、上記制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を含み、固形分含有量が70〜90質量%である制振材組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
本発明の制振材用エマルションは、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなる重合体から構成されるものであるが、該重合体は、1種又は2種以上であってもよい。このような重合体は、通常、媒体中に分散された形態で存在することになる。すなわち、上記制振材用エマルションは、媒体と、媒体中に分散された重合体とから構成されるものである。
上記媒体としては、水性媒体であることが好ましく、例えば、水や、水と混じりあう溶媒と水との混合溶媒等が挙げられる。中でも、本発明の制振材用エマルションを含む組成物を塗布する際の安全性や環境への影響を考慮すると、水性媒体100質量%中、水が50質量%以上であることが好適である。より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは100質量%、すなわち水を媒体として用いることである。
上記制振材用エマルションを形成する単量体成分としては、不飽和カルボン酸単量体と、不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の不飽和単量体とを必須とする。不飽和カルボン酸単量体を必須とすることにより、制振材用エマルションを含む制振材組成物において無機粉体等の充填剤の分散性が向上して制振性がより向上されるとともに、その他の共重合可能な不飽和単量体を含むことにより、制振材用エマルションの酸価やガラス転移点(Tg)、物性等を調整しやすくなる。また、これらの単量体から形成される構成単位の相乗効果により、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とをより充分に発揮できることになる。中でも、単量体成分の総量100モル%に対し、不飽和カルボン酸単量体を0.1〜20モル%、その他の共重合可能な不飽和単量体を80〜99.9モル%含むことが好適である。不飽和カルボン酸単量体が0.1モル%未満又は20モル%より多いと、いずれの場合も、上記制振材用エマルションをより安定的に製造することができないおそれがある。より好ましくは、不飽和カルボン酸単量体を1〜10モル%、その他の共重合可能な不飽和単量体を90〜99モル%含むことである。
上記不飽和カルボン酸単量体としては、分子中に不飽和結合とカルボキシル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、制振性をより向上させるためには、エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことが好適である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の他、これらの塩等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、(メタ)アクリル酸又はその塩(以下、「(メタ)アクリル酸系単量体」とも称する。)が好適である。
上記塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が好適である。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適であり、また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては、上記不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないが、例えば、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体(以下、「(メタ)アクリル系単量体」ともいう。)、芳香環を有する不飽和単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体、官能基を有する不飽和単量体等が好ましく挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、少なくとも(メタ)アクリル系単量体を用いることが好ましい。
上記(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等の他、これらの塩やエステル化物等が挙げられる。
なお、上記塩としては、上述した(メタ)アクリル酸系単量体の塩と同様の形態であることが好ましい。
上記単量体成分としては、上述したように、(メタ)アクリル酸系単量体や(メタ)アクリル系単量体のような(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体を含むことが好適である。すなわち、上記単量体成分の少なくとも1種が、C(R )=CH−COOR、又は、C(R )=C(CH)−COOR(R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基を表す。)で表される単量体であることが好適である。中でも、(メタ)アクリル酸系単量体を必須とすることが好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体及び(メタ)アクリル系単量体との両方を含むことがより好ましい。このように、上記単量体成分が、不飽和カルボン酸単量体として(メタ)アクリル酸を含み、その他の共重合可能な不飽和単量体として(メタ)アクリル系単量体を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。
なお、上記単量体成分中の(メタ)アクリロイル基を有する不飽和単量体、すなわち上述した(メタ)アクリル酸系単量体や(メタ)アクリル系単量体の含有量としては、これらの合計量が、全単量体成分100質量%中、20質量%以上となることが好適である。これにより、制振性がより向上されることになる。より好ましくは30質量%以上である。
上記芳香環を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられる。中でも、スチレンが好適である。
上記芳香環を有する不飽和単量体の割合としては、全単量体成分100質量%中、0〜40質量%であることが好適である。
上記窒素原子を有する不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記窒素原子を有する不飽和化合物の割合としては、全単量体成分100質量%中、0〜40質量%であることが好適である。
上記ホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体を含むことにより、幅広い温度領域での制振性が更に向上する。このような重合性単量体は、1種以上用いることが好適であるが、2種以上用いることがより好ましい。また、多段重合により制振材用エマルションを得る場合は、その各工程において使用される単量体成分が、各々当該重合性単量体を1種以上含むことが好適である。
なお、本明細書中、ホモポリマーのガラス転移温度とは、ホモポリマーの硬化物のガラス転移温度(Tg)を意味し、例えば、JIS K−7121−1987「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて測定可能であり、「POLYMER HANDBOOK」を参照することができる。
上記ホモポリマーのガラス転移温度が0℃以下の重合性単量体としては、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、このように上記単量体成分が、ブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレートを含んでなる形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。より好ましくは、ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートの両方を含むことである。
上記単量体成分がブチルアクリレートを含む場合、ブチルアクリレートの含有量は、全単量体成分100質量%に対して、10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、20〜50質量%である。
また上記単量体成分が2−エチルヘキシルアクリレートを含む場合、2−エチルヘキシルアクリレートの含有量は、全単量体成分100質量%に対して、5〜55質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜50質量%である。
更に上記単量体成分がブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートの両方を含むものである場合、これらの合計量は、全単量体成分100質量%に対して、20〜70質量%であることが好ましい。より好ましくは、30〜60質量%である。
上記官能基を有する不飽和単量体において、官能基としては、上記制振材用エマルションを重合により得る際に架橋することができる官能基であればよい。このような官能基の作用により、上記制振材用エマルションの成膜性や加熱乾燥性がより向上される。具体的には、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジニル基、イソシアネート基、メチロール基、ビニルエーテル基、シクロカーボネート基、アルコキシシラン基等が挙げられ、1分子中にこれらの1種又は2種以上を有していてもよい。
上記官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−i−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性不飽和単量体類;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有不飽和単量体類等が挙げられる。中でも、官能基を2個以上有する不飽和単量体(多官能性不飽和単量体)を用いることが好ましい。
上記官能基を有する不飽和単量体の含有量は、全単量体成分100質量%に対して10質量%未満であることが好適であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。
上記制振材用エマルションは、多価金属塩基によって中和されたカルボキシル基(以下、「中和カルボキシル基」ともいう。)を有するが、このような制振材用エマルションは、上記単量体成分を重合した後、多価金属塩基を添加して得ることができる。
上記多価金属塩基は、M(OH)(式中、Mは、2価以上の金属元素を表す。nは、2以上の整数を表す。)で表される化合物である。式中、nは、Mの価数により決定される数値であり、Mは、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra等のアルカリ土類金属;Cr、Mn、Fe、Cu等の遷移金属;Al等の卑金属等が挙げられる。中でも、アルカリ土類金属であることが好ましい。なお、多価金属塩基は、1種又は2種以上を使用することができる。
上記中和カルボキシル基(すなわち、多価金属塩基で金属結合したカルボキシル基)の含有量は、当該基を含む構成単位の含有割合として、上記エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対し、0.5〜5モル%であることが適当である。ここでいう構成単位とは、単量体に由来する単位を意味する。すなわち、上記制振材用エマルションを得るために使用される単量体成分の総量100モル%中、0.5〜5モル%の不飽和カルボン酸単量体が、重合後に上記多価金属塩基により中和されることが好適である。0.5モル%未満又は5モル%を超える場合には、いずれの場合も充分な制振性能を発揮することができないおそれがある。これは、エマルション中の架橋部分と非架橋部分との運動性に充分な差異を与えることができず、これらの摩擦によるエネルギー変換が充分に行われないためであると考えられるが、0.5〜5モル%の範囲内に設定することにより、制振性能が著しく向上され、しかも優れた加熱乾燥性能を発揮するものとなる。より好ましくは、全構成単位100モル%に対し、0.8〜4.5モル%であり、更に好ましくは1.0〜4.0モル%である。
上記多価金属塩基の量は、中和カルボキシル基を有する構成単位が上述した範囲内となるように(すなわち、上述した量の不飽和カルボン酸単量体に由来するカルボキシル基が中和されるように)、調整することになる。また、このように中和カルボキシル基を有する本発明の制振材用エマルションのpHは、例えば、25℃において、2〜10となることが好適である。より好ましくは3〜9、更に好ましくは7〜8である。エマルションのpHは、上述した多価金属塩基の他、必要に応じてアンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等の通常使用される中和剤を添加することによって調整することができる。
上記pHは、pHメーター(例えば、堀場製作所社製「F−23」)を用いて測定することができる。
上記制振材用エマルションはまた、ガラス転移温度(Tg)が−20〜30℃であることが好適である。これにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発揮させることが可能になる。より好ましくは−20〜25℃であり、更に好ましくは−15〜20℃である。なお、全ての重合工程で用いた単量体組成から算出したTg(トータルTg)として上述した範囲となることが好適である。
上記Tgは、エマルションを構成する各単量体のホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(Tgn)を用いて、下記Foxの式より計算することができる(単位:K)。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
(式中、Wnは、全単量体成分に対する単量体nの質量分率(質量%)を表す。Tgnは、単量体nからなるホモポリマーのガラス転移温度(単位:K、絶対温度)を表す。)
ここで、上記制振材用エマルションが2種以上の重合体を含む場合には、Tgが異なるものを用いることが好適である。すなわち、上記制振材用エマルションは、Tgが異なる2種以上の重合体から構成されるものであることが好適である。Tgに差を設けることにより、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性が格段に向上されることとなる。
なお、3種以上の重合体を含む場合には、このうちの少なくとも2種の重合体のTgが異なればよく、残りの1種以上については、当該2種の重合体のいずれかとTgが同じであってもよい。
上記2種以上の重合体のTgは、Tgが最も高い重合体においては、−10〜30℃であることが好適である。これにより、本発明の制振材用エマルションを含む塗料を用いて形成された制振材塗膜の乾燥性がより良好なものとなり、塗膜表面の膨張やクラックが更に充分に抑制されることになる。すなわち、格段に優れた制振性を有する制振材が形成されることとなる。より好ましくは−5〜20℃、更に好ましくは0〜15℃、特に好ましくは10℃以下である。また、Tgが最も低い重合体においては、−50〜10℃であることが好適であり、これにより、優れた制振性を有する制振材を与えることが可能になる。より好ましくは、−30〜10℃である。
またTgが最も高い重合体とTgが最も低い重合体とのTg差は、10〜60℃であることが好適である。差が10℃未満であったり、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがある。より好ましくは15〜55℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
上記制振材用エマルションはまた、重量平均分子量が2万〜40万であることが好適である。分子量が、2万未満や、40万を超えると、加熱乾燥時の塗膜表面状態が不良となり、結果として良好な制振性を示さない。より好ましくは3万〜35万であり、更に好ましくは4万〜30万である。
上記重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件下、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
上記制振材用エマルションはまた、エマルション粒子の平均粒子径が100〜400nmであることが好適である。平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を制振材に用いることにより、制振材に要求される基本性能を充分なものとしたうえで、制振性をより優れたものとすることができる。
上記平均粒子径(体積平均粒子径)は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)で測定することにより求めることができる。
上記平均粒子径を有するエマルション粒子は、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)で定義される粒度分布が40%以下であることが好ましい。粒度分布が40%を超えると、エマルション粒子の粒子径分布の幅が非常に広いものとなり、一部に粗大粒子を含むものとなるために、そのような粗大粒子の影響で制振材用エマルションが充分な加熱乾燥性を発揮することができないおそれがある。より好ましくは、30%以下である。
上記制振材用エマルションの特に好ましい形態としては、ガラス転移点が−20〜30℃、重量平均分子量が2万〜40万である形態であり、このような形態では、加熱乾燥性により優れるとともに、制振性能がより充分に発揮されるため、制振材用途に特に好適なものとなる。最も好ましくは、ガラス転移点が−20〜30℃、重量平均分子量が2万〜40万、エマルション粒子の平均粒子径が100〜400nmである形態である。
上記制振材用エマルションはまた、上述したように2種以上の重合体から構成されるものであってもよいが、この場合、2種以上の重合体が混合された混合物である場合に限られず、コア・シェル構造を有する場合も含まれる。中でも、上記制振材用エマルションの粒子がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子であることが好ましい。これにより、実用温度範囲内の幅広い範囲における制振性に優れることになる。特に高温域においても、他の形態の制振材組成物と比較して優れた制振性を発揮し、その結果、実用温度範囲内において、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って制振性能を発揮することができる。
なお、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子において、不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体は、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれに含まれていてもよく、これらの両方に用いられるものであってもよい。
上記コア部とシェル部とを有するエマルション粒子において、コア部を形成する重合体と、シェル部を形成する重合体とは、例えば、重量平均分子量やガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、重量平均分子量、ガラス転移温度の少なくとも1つで差を有するものであることが好適である。
例えば、コア部を形成する単量体成分とシェル部を形成する単量体成分とのガラス転移温度(Tg)の差が10〜60℃であることが好ましい。Tgの差が10℃未満である場合や、60℃より大きい場合には、幅広い温度領域(20℃〜60℃)にわたっての制振性が得られないおそれがある。より好ましくはTgの差が15〜55℃、更に好ましくは、20〜50℃である。また、コア部を形成する単量体成分のTgは、シェル部を形成する単量体成分のTgよりも高いほうが好ましい。すなわち、コア部とシェル部とを有するエマルションを製造する場合、コア部のエマルションを形成した後、シェル部のエマルションを形成する多段重合により製造されることになるが、前段工程で使用される単量体成分のTgは、後段工程で使用される単量体成分のTgよりも高いほうが好ましい。エマルションが3段階以上の工程で製造される場合も同様に、後の工程で使用される単量体成分のTgは、その直前の工程で使用される単量体成分のTgよりも低いものであることが好ましい。
上記コア部とシェル部とを有するエマルション粒子は、後述する乳化重合法(多段重合)を用いて得ることができる。
上記コア部とシェル部とを有する形態では、コア部とシェル部とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるコア・シェル複合構造やミクロドメイン構造であってもよい。中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。
上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
本発明の制振材用エマルションの製造方法としては、乳化剤の存在下で乳化重合法により単量体成分を重合することになるが、乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中に単量体成分及び重合開始剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いることが好ましい。
なお、上記制振材用エマルションの粒子がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合には、乳化剤及び/又は保護コロイドの存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させてコア部を形成した後、該コア部を含むエマルションに更に単量体成分を乳化重合させてシェル部を形成する多段重合により得ることが好ましい。
上記乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、両性乳化剤及び高分子乳化剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記アニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(モノ、ジ、トリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルコハク酸ジ塩;ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等のアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等が挙げられる。
上記アニオン性乳化剤の好ましい具体例としては、例えば、ラテムルWX、ラテムル118B、ペレックスSS−H、エマルゲンA−60、B−66、レベノールWZ(花王社製)、ニューコール707SF、ニューコール707SN、ニューコール714SF、ニューコール714SN、AB−26S、ABEX−2010、2020、2030、DSB(ローディア日華社製)等が挙げられる。また、これらのノニオンタイプに相当する乳化剤も使用することができる。
上記アニオン性乳化剤としてはまた、反応性乳化剤として、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成社製)、アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−30(ADEKA社製)等のスルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤;ラテムルASK(商品名、花王社製)等のアルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤等の1種又は2種以上を用いることができる。また、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等も用いることができる。
上記アニオン性乳化剤としては更に、反応性乳化剤として、炭素数3〜5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1〜4)エステル塩型界面活性剤を用いることができる。このような界面活性剤として具体的には、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤等が挙げられる。
上記ノニオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、花王社製「エマルゲン1118S」等);ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル;グリセロールのモノラウレート等の脂肪族モノグリセライド;ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。また、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、ADEKA社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等の反応性を有するノニオン性乳化剤も用いることができる。これらは1種又は2種以上用いることができる。
上記カチオン性乳化剤としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、エステル型ジアルキルアンモニウム塩、アミド型ジアルキルアンモニウム塩、ジアルキルイミダゾリニウム塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記両性乳化剤としては特に限定されず、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記高分子乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性物;(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル系水溶性高分子;ポリビニルピロリドン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上述した乳化剤の中でも、環境面からは、非ノニルフェニル型の乳化剤を用いることが好適である。
上記乳化剤の使用量としては、用いる乳化剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。更に好ましくは、1〜3重量部である。
上記保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、保護コロイドは単独で使用されてもよいし、界面活性剤と併用されてもよい。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
上記水性媒体としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水を用いることが好ましい。なお、水性媒体の使用量は、得ようとするエマルションの所望の樹脂固形分を考慮して適宜設定すればよい。
上記重合開始剤としては、熱によって分解し、ラジカル分子を発生させる物質であれば特に限定されないが、水溶性開始剤が好適に使用される。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解系開始剤;過酸化水素とアスコルビン酸、t−ブチルヒドロパーオキサイドとロンガリット、過硫酸カリウムと金属塩、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス系重合開始剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
上記重合開始剤にはまた、乳化重合を促進させるため、必要に応じて還元剤を併用することができる。還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
上記重合連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メルカプト酢酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、メルカプトピロピオン酸トリデシルエステル等のメルカプトカルボン酸アルキルエステル;メルカプト酢酸メトキシブチルエステル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチルエステル等のメルカプトカルボン酸アルコキシアルキルエステル;オクタン酸2−メルカプトエチルエステル等のカルボン酸メルカプトアルキルエステルや、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、アニソール、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類を用いることが好ましい。重合連鎖移動剤の使用量としては、例えば、上記単量体成分の総量100重量部に対して、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下である。
上記乳化重合においては、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
上記製造方法における乳化重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、40〜95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適で、より好ましくは、5〜10時間である。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
上記製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、必要に応じて、多価金属塩基以外の中和剤によりエマルションを中和してもよい。中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、本発明では、多価金属塩基によりエマルション中のカルボキシル基を中和するため、多価金属塩基のみで中和しても、更に上記中和剤により中和しても、効果は同じであると考えられる。つまり、多価金属塩基で金属結合したカルボキシル基の数(モル数)が一定の範囲内であれば、効果は発現されると考えられる。
上記制振材用エマルションの粘度としては、特に限定されないが、例えば、1〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、5〜300mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
本発明の制振材用エマルションは、多価金属塩基での中和によって金属架橋を形成する代わりに、該エマルションに感熱ゲル化性を付加することによっても、優れた制振性を実現することができる。本発明の制振材用エマルションを感熱ゲル化性を有するものとすると、加温により該エマルションを構成する重合体粒子が凝集し、重合体粒子間に強度が発現することから、振動の運動エネルギーを粒子間摩擦の熱エネルギーに変換することが可能となり、優れた制振性を発揮することとなる。
上記制振材用エマルションに感熱ゲル化性を付加する方法としては、エマルションに感熱ゲル化剤を添加して感熱ゲル化剤のゲル化温度以上に加温することや、エマルションの製造を、曇点を持つノニオン性乳化剤を用いて行い、曇点以上に加温すること等が挙げられる。曇点を持つノニオン性乳化剤としては、上述したノニオン性乳化剤を用いることができる。
このような、感熱ゲル化剤を含み、感熱ゲル化性を有する制振材用エマルションや、エマルションの製造を、曇点を持つノニオン性乳化剤を用いて行い、感熱ゲル化性を有する制振材用エマルションもまた、本発明の1つである。
これらの中でも、エマルションに感熱ゲル化剤を添加することによって感熱ゲル化性を付加した制振材用エマルションがより好ましい。
上記感熱ゲル化剤としては、炭酸アンモニウム亜鉛錯体、硫酸アンモニウム亜鉛錯体等の金属錯体、酸化亜鉛と無機または有機アンモニウム塩とから得られる亜鉛錯体、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム等のケイフッ化物、ニトロパラフィン、有機エステル類、ポリビニルメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルポリホルマール、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキルフェノールホルマリン縮合物のアルキレンオキサイド付加物、官能性ポリシロキサン、水溶性変性シリコーン油、シリコーングリコール共重合体、水溶性ポリアミド、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、たんぱく質、ポリリン酸あるいは曇点を有するノニオン系乳化剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。
なお、感熱ゲル化剤を2種以上混合して用いることは、ゲル化温度の制御を容易にするために好適な方法であり、ニトロパラフィン、有機エステル類等は酸化亜鉛との併用が効果的である。
上記感熱ゲル化剤の添加量は、上記エマルションの固形分100重量部に対し、1〜10重量部であることが好適である。10重量部を超えると、エマルションの安定性が低下するおそれがあり、1重量部未満では、充分な感熱ゲル化効果が得られない。より好ましくは1〜8重量部であり、更に好ましくは2〜8重量部である。
上記感熱ゲル化剤のゲル化温度としては、10〜98℃であることが好ましい。10℃より低いと、エマルションと感熱ゲル化剤とを混合した後のポットライフや保存安定性が充分なものとならないおそれがあり、98℃より高いと、ゲル化よりも水の飛散の速度のほうが大きくなり、エマルションを用いて得られる膜の均一性が充分なものでなくなるおそれがある。
なお、「感熱ゲル化」とは、ゲル化温度以上に加温することによってゲル化反応の進行が著しく促進されることを意味し、常温で全くゲル化が進行しないことを意味するものではない。
本発明の制振材用エマルションは、必要に応じて他成分とともに、制振材組成物を構成することができる。このような制振材組成物は、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮できる水系制振材を形成することができるものである。このように、上記制振材用エマルションを含む制振材組成物もまた、本発明の好適な形態の1つである。
上記制振材組成物は、本発明の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を少なくとも含むものであることが好ましく、これらの成分及び必要に応じて含まれる他の成分を、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて混合して得ることができる。
上記制振材組成物はまた、固形分含有量が70〜90質量%であることが好適である。固形分含有量とは、制振材組成物の総量100質量%に対する固形分の含有量を意味するが、このように、上記制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を含み、固形分含有量が70〜90質量%である制振材組成物(制振材配合物ともいう。)もまた、本発明の1つである。固形分含有量としてより好ましくは、80〜90質量%である。
また上記制振材組成物のpHは、25℃において、7〜11であることが好適である。より好ましくは、7〜9である。このpHもまた、上述した制振材用エマルションのpHと同様にして測定することができる。
上記制振材組成物において、本発明の制振材用エマルションの含有量としては、制振材組成物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10〜60質量%となるように設定することが好適である。より好ましくは、15〜55質量%である。
上記制振材組成物はまた、本発明の制振材用エマルションとともに、他のエマルション樹脂とを含むものであってもよい。他のエマルション樹脂としては、ウレタン樹脂、SBR樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−エチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂等のエマルション樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。この場合、本発明の制振材用エマルションと他のエマルション樹脂との質量比(本発明の制振材用エマルション/他のエマルション樹脂)は、100〜50/0〜50であることが好適である。
上記制振材組成物において、顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機又は無機の着色剤等の着色剤;リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等の防錆顔料等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
上記顔料の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
上記発泡剤としては、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。加熱膨張カプセルとしては、例えば、マツモトマイクロスフィアーF−30、F−50(松本油脂社製);エクスパンセルWU642、WU551、WU461、DU551、DU401(日本エクスパンセル社製)等が挙げられ、有機発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等が挙げられ、無機発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、シリコンハイドライド等が挙げられる。
上記発泡剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、0.5〜5重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1〜3重量部である。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1.5重量部であり、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
上記制振材組成物はまた、溶媒;水系架橋剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;充填剤;分散剤;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の添加剤の他、多価金属化合物を含んでいてもよい。これらの成分は、各々1種又は2種以上を使用することができる。
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、制振材組成物中の制振材用エマルションの固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
上記水系架橋剤としては、例えば、エポクロスWS−500、WS−700、K−2010、2020、2030(いずれも商品名、日本触媒社製)等のオキサゾリン化合物;アデカレジンEMN−26−60、EM−101−50(いずれも商品名、ADEKA社製)等のエポキシ化合物;サイメルC−325(商品名、三井サイテック(株)製)等のメラミン化合物;ブロックイソシアネート化合物;AZO−50(商品名、50質量%酸化亜鉛水分散体、日本触媒社製)等の酸化亜鉛化合物等が好適である。水系架橋剤の配合量は、例えば、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜20重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.15〜15重量部、更に好ましくは0.5〜15重量部であり、制振材用エマルションに添加してよいし、制振材組成物として他の成分を配合するときに同時に添加してもよい。
上記制振材用エマルション又は制振材組成物に架橋剤を混合することにより、樹脂の強靱性が向上し、その結果、高温領域で充分な高制振性が発現する。中でもオキサゾリン化合物を用いることが好ましい。
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、クレー等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。充填剤の配合量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
上記制振材組成物としては更に、多価金属化合物を含んでもよい。この場合、多価金属化合物により、制振材組成物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材組成物から形成される制振材の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。多価金属化合物の形態としては、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材組成物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、上記制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、0.05〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
上記制振材組成物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記制振材組成物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、3.0〜6.0mmである。
また、乾燥時(後)の塗膜の面密度が1.0〜7.0kg/mとなるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。なお、本発明の制振材組成物を使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。
このように、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるように塗工し、乾燥する制振材組成物の塗工方法や、乾燥後の塗膜の面密度が2.0〜6.0kg/mとなるように塗工し、乾燥する制振材組成物の塗工方法もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。また、上記制振材組成物の塗工方法によって得られた制振材もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。
上記制振材組成物を塗布した後、乾燥して塗膜を形成させる条件としては、加熱乾燥してもよく、常温乾燥してもよいが、本発明における制振材組成物は、加熱乾燥性に優れることから、効率性の点で加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥の温度としては、80〜210℃とすることが好ましい。より好ましくは、110〜180℃、更に好ましくは、120〜170℃である。
本発明の制振材用エマルションは、上述のような構成であるので、加熱乾燥性と制振性とを両立できるうえ、制振性に著しく優れ、各種構造体の制振材の材料として極めて有用なものである。このような制振材用エマルションを含む制振材組成物は、自動車の室内床下の他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等の工業的な用途に好適に適用できるものである。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、下記の製造例において、pH、粘度、平均粒子径、粒度分布及び重量平均分子量については、上述した方法等にて求めたが、他の物性等は以下のように評価した。
<ガラス転移温度(Tg)>
各段で用いた単量体組成から、上述したFoxの式を用いて算出した。なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
Foxの式により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示す。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン:100℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
アクリル酸(AA):95℃
アクリロニトリル(AN):96℃
<不揮発分(N.V.)>
得られた水性樹脂分散体約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
製造例1
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水300部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇湿した。一方、上記滴下ロートに、スチレン200部、メチルメタクリレート95部、2−エチルヘキシルアクリレート190部、アクリル酸15部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの8部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。20分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持した。
次いで、滴下ロートにスチレン100部、メチルメタクリレート95部、ブチルアクリレート290部、アクリル酸15部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、予め20%水溶液に調整したレベノールWZ(商品名、花王社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、120分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後90分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、25%アンモニア水6部を添加し、不揮発分55%、pH7.0、粘度420mPa・s、平均粒子径230nm、粒度分布22%、重量平均分子量170000、1段目のTg10℃、2段目のTg−10℃、トータルTg0℃のエマルション(1)を得た。
製造例2〜8
表1に示す配合で、表1に示すモノマー及び重合連鎖移動剤を用いる他は、製造例1と同様にして、エマルション(2)〜(8)を得た。得られたエマルションのTg及びスペックを、表1に示す。
Figure 0005685002
製造例9
酸化亜鉛、炭酸水素アンモニウム及びアンモニアを、モル比で1:1:3となるようにガラス容器に仕込み、スターラーで30分撹拌して、下記式で表される反応により亜鉛の炭酸アンミン錯体を得た。
ZnO+NHHCO+3NH→[Zn(NH]CO
実施例1〜8、13、比較例1〜3、9〜12
製造例1〜8で得たエマルション100部に、表2に示す配合量で、表2に示す多価金属塩基又は製造例9で得た金属錯体(亜鉛の炭酸アンミン錯体)を添加し、本発明の制振材用エマルション及び比較用制振材用エマルションを得た。
この制振材用エマルション又は比較用制振材用エマルションを下記のとおり配合し、制振材組成物(制振材配合物)として、下記試験方法にて、加熱乾燥時の塗膜表面状態及び制振性を評価した。結果を表2に示す。
制振材用エマルション又は比較用制振材用エマルション 359部
炭酸カルシウム(NN#200※1) 620部
分散剤(アクアリックDL−40S※2) 6部
増粘剤(アクリセットWR−650※3) 4部
消泡剤(ノプコ8034L※4) 1部
発泡剤(F−30※5) 6部
※1:日東粉化工業社製 充填剤
※2:日本触媒社製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
※3:日本触媒社製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
※4:サンノプコ社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
※5:松本油脂社製 発泡剤
<乾燥塗膜表面状態>
鋼板(商品名 SPCC−SD 75mm幅×150mm長さ×0.8mm厚み:日本テストパネル社製)の上に、作製した制振材組成物をその塗布厚みが3mmとなるように塗布した。その後、熱風乾燥機を用いて、150℃で30分間加熱し、得られた乾燥塗膜の表面状態を以下の基準で評価した。
○:異常なし
△:表面や界面に亀裂、表面に凸凹あり
×:塗膜形状を維持できない
<制振性試験>
得られた制振材組成物を冷間圧延鋼板(SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて、それぞれの温度(20℃、40℃、60℃)における損失係数を共振法(3dB法)により測定した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、40℃、60℃での損失係数の和)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
Figure 0005685002
表2中、「中和カルボン酸(モル%)」とは、各実施例等で使用された多価金属塩基により中和されたカルボキシル基の割合、すなわち、制振材用エマルションを構成する重合体の全構成単位(単量体由来の単位)100モル%に対する、中和されたカルボキシル基を有する構成単位(不飽和カルボン酸単量体由来の単位)の割合を意味する。
表2より、制振材用エマルションとして、多価金属塩基により中和されたカルボキシル基を、該中和カルボキシル基を有する構成単位が、該エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対して0.5〜5モル%となるように(すなわち、制振材用エマルションを得るために使用される単量体成分100モル%中、0.5〜5モル%の不飽和カルボン酸単量体が中和されるように)含む形態のものを用いることによって、制振性が著しく向上されることが確認された。
特に多価金属塩基を用いることによる技術的意義は、実施例1〜4と比較例3とを比較すれば明らかである。実施例1〜4と比較例3とは、使用した金属塩基が多価塩基であるか又は1価塩基(NaOH)であるかの点で相違する他は、ほぼ同じ条件で実施した例であるが、各温度の損失係数の合計で表される制振性は、実施例1〜4では0.346〜0.367となったのに対し、比較例3では0.302と著しく劣っており、多価金属塩基を用いることにより制振性が飛躍的に向上することが分かる。
また中和カルボキシル基を有する構成単位の割合を特定したことによる技術的意義に関し、当該割合の下限値(0.5モル%)の技術的意義については、実施例3が0.65モル%で下限値をやや上回る例であり、その下限値を下回る比較例2(0.48モル%)と比較すると明らかである。実施例3と比較例2とは、中和カルボキシル基を有する構成単位の割合の点でのみ相違する例であるが、各温度の損失係数の合計で表される制振性は、実施例3では0.346となったのに対し、比較例2では0.312と著しく劣る。また、上限値(5モル%)の技術的意義については、実施例6が4.6モル%で上限値をやや下回る例であり、その上限値を上回る比較例1(5.2モル%)と比較すると明らかである。実施例6と比較例1とは、中和カルボキシル基を有する構成単位の割合の点でのみ相違する例であるが、各温度の損失係数の合計で表される制振性は、実施例6では0.329となったのに対し、比較例1では0.298と著しく劣る。したがって、中和カルボキシル基を有する構成単位の割合を上記範囲に特定することによって、制振性に著しく優れた制振材組成物を得ることができるという有利な効果が発揮されることが確認された。
更に実施例1〜8、比較例9〜12の制振材用エマルションの中でも、ガラス転移温度(トータルTg)が−20〜30℃、かつ重量平均分子量(Mw)が2万〜40万であるエマルション(1)〜(4)を用いた実施例1〜8では、乾燥塗膜の表面状態がより良好で、かつ制振性能も高いため、特に好適なものであることが分かった。
また、多価金属塩基による中和を行う代わりに、金属錯体(亜鉛の炭酸アンミン錯体)を感熱ゲル化剤として添加した場合(実施例13)にも、制振材用エマルションの制振性が著しく向上することが確認された。これにより、感熱ゲル化剤の添加によって感熱ゲル化性を付加した制振材用エマルションもまた、優れた制振性を発揮することがわかった。

Claims (5)

  1. 不飽和カルボン酸単量体及びその他の共重合可能な不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなる制振材用エマルションであって、
    該エマルションの粒子は、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子であり、
    該エマルションは、M(OH)(式中、Mは、2価以上の金属元素を表す。nは、2以上の整数を表す。)で表される多価金属塩基によって中和されたカルボキシル基を有し、
    該中和カルボキシル基を有する構成単位は、該エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対し、0.5〜5モル%であり、
    該エマルションは、単量体成分を重合した後、多価金属塩基を添加して得られたものであり、ガラス転移点が−20〜30℃、重量平均分子量が2万〜40万であることを特徴とする制振材用エマルション。
  2. 前記制振材用エマルションは、エマルション粒子の平均粒子径が100〜400nmである
    ことを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション。
  3. 前記単量体成分は、前記不飽和カルボン酸単量体として(メタ)アクリル酸を含み、前記その他の共重合可能な不飽和単量体として(メタ)アクリル系単量体を含む
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制振材用エマルション。
  4. 前記中和カルボキシル基を有する構成単位は、該エマルションを構成する重合体の全構成単位100モル%に対し、0.8〜5モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制振材用エマルション。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を含み、固形分含有量が70〜90質量%である
    ことを特徴とする制振材組成物。
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