JP5284914B2 - 制振材用樹脂組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、制振性に優れるとともに、用途に応じた特性を発揮する制振材の設計が容易で、各種構造体の制振材に有用な制振材用樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
本発明は、重量平均分子量の異なるポリマー(A)とポリマー(B)とを含むことで、それぞれのポリマー成分の性能を併せ持った樹脂組成物を得るのではなく、ポリマー(A)とポリマー(B)との運動性の差に由来する効果という、ポリマー(A)、ポリマー(B)単独では成し得ない性能を有する制振材用樹脂組成物を得るものである。
以下に本発明を詳述する。
このように本発明の制振材用樹脂組成物を、重量平均分子量の比が5以上であるポリマー(A)とポリマー(B)とを含む形態とすることにより、本発明の制振材用エマルション組成物から形成される制振材の制振性を優れたものとすることができる。
制振性が発現する理由としては、以下が考えられる。振動が制振材における共重合体(本明細書中、樹脂又はポリマーともいう)に伝播すると、ポリマー間の摩擦により熱エネルギーに変換され、制振性が発現することになる。よって、原則的には、ポリマー間の摩擦が大きいほど、振動がより熱エネルギーに変換されやすくなるため、より制振性が向上することになる。ここで、ポリマー間の摩擦を大きくするための一つの方法として、組成物中でのポリマー間の運動性に大きな差をつけるという方法が挙げられる。ポリマー間の運動性に大きな差があると、その運動性の違いに起因してポリマー間の摩擦が大きくなる。そして、高分子量のポリマーに比べ低分子量のポリマーの方が組成物中での運動性は高いことから、ポリマー間の分子量に大きな差をつけることにより、ポリマー間に運動性の差が出ることとなり、制振性に効果を有することとなる。
なお、本発明の制振材用樹脂組成物は、該ポリマー(A)及びポリマー(B)を含んでいれば特に制限されず、その他の成分を含んでいてもよい。
ポリマー(A)の重量平均分子量が2万〜80万の範囲であり、ポリマー(A)、(B)がこのようなものであると、ポリマー(A)とポリマー(B)ともに、運動性を有しながら、充分な運動性の差が出ることとなり、制振性がより充分に発揮されることになる。また、ポリマー(A)の重量平均分子量が2万〜80万の範囲にあると、制振材用樹脂組成物を塗布して焼き付けを行った場合に塗膜にワレやフクレを生じることが充分に抑制される。
ポリマー(A)の重量平均分子量としては、より好ましくは、3万〜70万であり、更に好ましくは、4万〜70万であり、特に好ましくは、4万〜60万である。
なお、重量平均分子量(Mw)は、例えば、以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
重量平均分子量は、上述した方法により測定することができる。
上記共重合割合が0.1〜5質量%であると、制振材におけるポリマー間の相互作用がより大きなものとなり、ポリマー間の摩擦がより大きくなることから、制振性がより充分に発揮されることとなる。共重合割合としては、より好ましくは、0.3〜4質量%であり、更に好ましくは、0.5〜3質量%である。
これにより、制振材におけるポリマー間の相互作用がより充分なものとなり、制振性をより優れたものとすることができる。
中でも、上記極性基がニトリル基及び/又はカルボキシル基であることがより好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば、既に得られている知見に基づいて決定されてもよいし、後述する単量体成分の種類や使用割合によって制御されてもよいが、理論上は、以下の計算式(1)より算出することができる。
また、ポリマー(A)のガラス転移温度と、ポリマー(A)のガラス転移温度とポリマー(B)のガラス転移温度との差が、ともに上記好ましい範囲であることがより好ましい。
すなわち、ポリマー(A)は、−20〜30℃のガラス転移温度を有し、ポリマー(A)のガラス転移温度とポリマー(B)のガラス転移温度との差が、40℃以内であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
ポリマー(A)とポリマー(B)との質量比が95/5を超えると、ポリマー間の相互作用が充分なものでなくなり、制振性が充分に向上しないおそれがある。60/40未満であると、制振材におけるポリマーの運動性が抑制され、制振性が低下してしまうおそれがある。上記下限は、より好ましくは65/35であり、更に好ましくは70/30である。また、上記上限は、より好ましくは90/10である。
上記いずれの形態であっても、得られたポリマー混合物のGPC測定を行った場合のGPCチャートに、ピークトップが少なくとも2つ以上あることが好ましい。そのような形態であった場合に、本発明の制振材用樹脂組成物の作用効果がより充分に発揮させることとなる。
上記ポリマー(A)にポリマー(B)を吸収させて得られる形態のものは、ポリマー(A)を合成した後、ポリマー(A)に、ポリマー(B)として液状のポリマーを吸収させることにより得ることができる。このようにポリマー(A)にポリマー(B)を吸収させると、ポリマー(A)とポリマー(B)とが均一に混ざり合ったポリマーとすることができる。液状ポリマーとしては、アクリルオリゴマー、ウレタンオリゴマー、エポキシオリゴマー等を用いることができる。
上記(2)の形態としては、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子の形態であることが好ましい。
これらの構造の中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。
コア部とシェル部とを有するエマルションは、実用温度範囲内の幅広い範囲における制振性に優れる。特に高温域においても、他の形態の制振材配合物と比較して優れた制振性を発揮し、その結果、実用温度範囲内において、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って制振性能を発揮することができる。
なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
例えば、本発明の制振材用樹脂組成物において、上記ポリマー(A)及び上記ポリマー(B)の一方がエマルション粒子のコア部を構成し、もう一方がシェル部を構成する形態が好ましい。これにより、本発明の効果をより充分に発揮することができる。ポリマーがこのような形態のものであると、本発明の制振材用樹脂組成物がより優れた効果を発揮するものとなる。
また、上記エマルション粒子が複数層を有する場合には、複数層の内の少なくとも1層がポリマー(A)であり、残りの少なくとも1層がポリマー(B)であることが好ましい。
なお、上記(2)の形態の混合物は、後述する本発明の制振材用樹脂組成物に含有されるポリマーがコア部とシェル部とを有するエマルションである場合と同様に、乳化重合法(多段重合)を用いて得ることができる。
上記ポリマー(A)及び/又はポリマー(B)がコア部とシェル部とを有するエマルション粒子の形態である場合には、コア部を形成する共重合体と、シェル部を形成する共重合体とは、例えば、重量平均分子量やガラス転移温度、SP値(溶解度係数)、使用される単量体の種類、単量体の使用割合等の各種物性のうちいずれかにおいて異なるものであればよい。中でも、重量平均分子量、ガラス転移温度の少なくとも1つで差を有するものであることが好適である。
上記コア部とシェル部とを有するエマルション粒子は、後述する乳化重合法(多段重合)を用いて得ることができる。
平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を用いることにより、制振材に要求される基本性能を充分なものとしたうえで、制振性をより優れたものとすることができる。
上記上限は、400nmであることが好ましい。より好ましくは、350nmである。エマルション粒子の平均粒子径がこのような範囲であると、本発明の制振材用樹脂組成物の作用効果がより効果的に発揮されることになる。
平均粒子径(体積平均粒子径)は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)で測定することにより求めることができる。
本明細書中、pHは、pHメーターにより測定することができる。例えば、pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)を用いて25℃での値を測定することが好ましい。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
なお、本発明の制振材用樹脂組成物に含有されるポリマーが、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体は、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれに含まれていてもよく、これらの両方に用いられるものであってもよい。
これらの中でも、(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
(メタ)アクリル系単量体とは、(メタ)アクリル酸、及び、(メタ)アクリル酸の塩や(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体を意味する。
すなわち、本発明の制振材用樹脂組成物を構成するポリマーは、アクリル共重合体であることが好ましい。
より好ましくは、全単量体成分100質量%に対して(メタ)アクリル酸系単量体を0.5〜3質量%、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を99.5〜97質量%含んでなることである。
その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体には、後述する(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、芳香環を有する不飽和化合物、(メタ)アクリル酸系単量体と共重合可能なその他の単量体が含まれる。
また、(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、及び、アリルメタクリレートの1種又は2種以上を使用することが好適である。
差が10℃未満であったり、温度差が大き過ぎると、実用的範囲での制振性がより充分なものとはならないおそれがある。
また、より好ましくは15〜55℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
また、上記アクリル共重合体(2)のガラス転移温度(Tg2)としては、−50℃以上、10℃以下が好ましい。より好ましくは、−30℃以上、−10℃以下である。
その他のエマルション樹脂としては、ウレタン樹脂、SBR樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−エチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂等のエマルション樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を含むものであってもよい。
この場合、アクリル共重合体のエマルションと他のエマルション樹脂との質量比(アクリル共重合体のエマルション/他のエマルション樹脂)が、100〜50/0〜50となるように設定することが好ましい。
乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の各種界面活性剤、及び、高分子界面活性剤の1種又は2種以上を用いることができる。
また、これらのノニオンタイプに相当する界面活性剤も使用することができる。
スルホコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルS−120、S−120A、S−180及びS−180A(いずれも商品名、花王社製)、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成社製)、アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−30(ADEKA社製)等が挙げられる。
アルケニルコハク酸塩型反応性アニオン系界面活性剤の市販品としては、ラテムルASK(商品名、花王社製)等が挙げられる。
更に、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネー卜塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等も用いることができる。
炭素数3〜5の脂肪族不飽和カルボン酸のスルホアルキル(炭素数1〜4)エステル塩型界面活性剤、例えば、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩等の(メタ)アクリル酸スルホアルキルエステル塩型界面活性剤;スルホプロピルマレイン酸アルキルエステルナトリウム塩、スルホプロピルマレイン酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩、スルホエチルフマル酸ポリオキシエチレンアルキルエステルアンモニウム塩等の脂肪族不飽和ジカルボン酸アルキルスルホアルキルジエステル塩型界面活性剤。
上記界面活性剤の使用量としては、用いる界面活性剤の種類や単量体成分の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、ポリマーを形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5重量部である。更に好ましくは、1〜3重量部である。
上記保護コロイドの使用量としては、使用条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
上記重合開始剤の使用量としては特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1重量部である。
上記還元剤の使用量としては特に限定されず、例えば、アクリル共重合体を形成するのに用いられる単量体成分の総量100重量部に対して、0.05〜1重量部であることが好ましい。
また単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
なお、上記沸点は、常圧での沸点である。
上記制振材配合物としては、例えば、制振材配合物の総量100質量%に対し、固形分を40〜90質量%含有してなることが好適であり、より好ましくは、50〜90質量%であり、更に好ましくは、60〜90質量%である。また、制振材配合物のpHは、7〜11とすることが好ましく、より好ましくは、7〜9である。
上記制振材配合物における制振材用樹脂組成物の配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用樹脂組成物の固形分が10〜60質量%となるように設定することが好ましく、より好ましくは、15〜60質量%である。
上記発泡剤の配合量としては、制振材用樹脂組成物100重量部に対し、0.5〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1.0〜3.0重量部である。
上記顔料としては、例えば、後述する着色剤や防錆顔料等の1種又は2種以上を使用することができる。上記顔料の配合量としては、制振材用樹脂組成物100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
なお、上記他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、上記制振材用樹脂組成物等と混合され得る。
上記制振材用樹脂組成物又は配合物に架橋剤を混合することにより、樹脂の強靱性が向上し、その結果、高温領域で充分な高制振性が発現する。中でもオキサゾリン化合物を用いることが好ましい。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記防錆顔料としては、例えば、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
上記多価金属化合物の形態としては、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材配合物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、制振材配合物中の固形分100重量部に対して、0.05〜5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5重量部である。
上記制振材配合物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、3.0〜6.0mmである。
また、乾燥時(後)の塗膜の面密度が1.0〜7.0kg/m2となるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/m2である。なお、本発明の制振材配合物を使用することにより、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい塗膜を得ることが可能となる。
このように、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8.0mmとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法や、乾燥後の塗膜の面密度が2.0〜6.0kg/m2となるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。また、上記制振材配合物の塗工方法によって得られた制振材もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。
損失係数は、通常ηで表され、制振材に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。上記制振材配合物から形成される膜の損失係数のピーク値として好ましくは、20%以上である。より好ましくは、21%以上であり、更に好ましくは、22%以上であり、特に好ましくは、23%以上である。
上記損失係数の測定方法としては、共振周波数付近で測定する共振法が一般的であり、半値幅法、減衰率法、機械インピーダンス法がある。本発明の制振材配合物において、制振材配合物から形成される膜の損失係数としては、片持ち梁法を用いた共振法(3dB法)により測定することが好適である。片持ち梁法を用いる測定は、例えば、株式会社小野測機製のCF−5200型FFTアナライザーを用いて行うことができる。
また、上記損失係数は、冷間圧延鋼板(SPCC−SD:250×10×1.6mm)上に200×10×3.0mmの塗膜容量で塗布し、95℃×30分乾燥後、130℃×60分焼付け乾燥することで被膜を形成して測定することが好ましい。損失係数の測定は、例えば、20℃、30℃、40℃、50℃及び60℃の各温度における損失係数を共振法(3dB法)により測定し、その中のピーク値により評価するのが好ましい。また、制振材配合物から形成される膜の実用温度範囲が通常では20〜60℃であるので、20〜60℃の各温度における損失係数を合計した値で制振性能を評価してもよく、制振材配合物から形成される膜が、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した総損失係数が0.20以上である制振材配合物もまた、本発明の1つである。そのような制振材配合物である場合に、制振材配合物から形成される膜の実用温度範囲である20〜60℃において充分な制振性を発揮しているということができる。
総損失係数としては、より好ましくは、0.27以上であり、更に好ましくは、0.30以上である。
<ガラス転移温度(Tg)>
各段で用いた単量体組成から、下記計算式(1)を用いて算出した。
上記計算式(1)により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン(St):100℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
アクリル酸(AA):95℃
メタクリル酸(MAA):130℃
アクリロニトリル(AN):96℃
得られた水性樹脂分散体約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)を用い、体積平均粒子径を測定した。
また、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)を粒度分布として算出した。
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定した。
上記制振材配合物を冷間圧延鋼板(SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0kg/m2の制振材被膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)をもちいて、それぞれの温度(20℃、40℃、60℃)における損失係数を共振法(3dB法)により測定した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、40℃、60℃での損失係数の合計)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水320部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート230部、スチレン300部、ブチルアクリレート270部、2−エチルヘキシルアクリレート180部、アクリル酸15部、メタクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン4部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩:日本乳化剤社製)180.0部及び脱イオン水194部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの10部、5%過硫酸アンモニウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。30分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を180分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸アンモニウム水溶液100部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を180分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、モノエタノールアミン5部を添加し、不揮発分55.0%、pH7.0、粘度420mPa・s、粒子径230nm、粒度分布22%、重量平均分子量67,000、Tg5.0℃のエマルションを得た。
製造例1同様の手順で、表1に示すモノマー組成により所定のエマルションポリマーを得た。得られたエマルションポリマーのスペックを表1に示す。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水320部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート120部、スチレン150部、ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート100部、アクリル酸7.5部、メタクリル酸2.5部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩:日本乳化剤社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの10部、5%過硫酸アンモニウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。30分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を90分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持した。次に、滴下ロートにメチルメタクリレート120部、スチレン150部、ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート100部、アクリル酸7.5部、メタクリル酸2.5部、t−ドデシルメルカプタン25部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、90分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸アンモニウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を90分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、モノエタノールアミン5部を添加し、不揮発分54.8%、pH7.3、粘度620mPa・s、粒子径210nm、粒度分布21%、1段目の重量平均分子量69,000、2段目の重量平均分子量8500、1段目のTg6.0℃、2段目のTg6.0℃、トータルTg6.0℃のエマルションを得た。
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水320部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート150部、スチレン150部、ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート70部、アクリル酸7.5部、メタクリル酸2.5部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、日本乳化剤社製)90.0部及び脱イオン水97部からなる第1段目の単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を80℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの10部、5%過硫酸アンモニウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。30分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を90分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を120分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持した。次に、滴下ロートにメチルメタクリレート110部、スチレン110部、ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート150部、アクリル酸7.5部、メタクリル酸2.5部、t−ドデシルメルカプタン2部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF90.0部及び脱イオン水97部からなる第2段目の単量体乳化物を仕込み、90分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸アンモニウム水溶液50部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液50部を90分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、モノエタノールアミン5部を添加し、不揮発分55.0%、PH7.2、粘度280mPa・s、粒子径240nm、粒度分布21%、重量平均分子量73000、1段目のTg17.3℃、2段目のTg−10.3℃、トータルTg2.8℃のエマルションを得た。
<制振材配合物の調製>
表2に示した制振材用エマルションを下記の通り配合し、制振材配合物として制振材塗膜を作製し、制振性を評価した。結果を表2に示す。
制振材用エマルション 359部
炭酸カルシウム(NN#200*1) 620部
分散剤(アクアリックDL−40S*2) 6部
増粘剤(アクリセットWR−650*3) 4部
消泡剤(ノプコ8034L*4) 1部
発泡剤(F−30*5) 6部
*1:日東粉化工業社製 充填剤
*2:日本触媒社製 ポリカルボン酸系分散剤(有効成分44%)
*3:日本触媒社製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
*4:サンノプコ社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
*5:松本油脂社製 発泡剤
なお、表2中、アクリルオリゴマー(1)は、アクトフローUME−1001(商品名、綜研化学社製、Tg:−22℃、Mw:1200)を表し、アクリルオリゴマー(2)は、ARUFON UP−1190(商品名、東亞合成社製、Tg:−50℃、Mw:1700)を表している。
Claims (9)
- 単量体成分を重合してなるポリマーを含有する制振材用樹脂組成物であって、
該制振材用樹脂組成物は、少なくとも2種類の重量平均分子量の異なるポリマー(A)とポリマー(B)とを含み、
該ポリマー(A)の原料となる単量体成分は、(メタ)アクリル系単量体と、該(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なその他の単量体とを含み、該(メタ)アクリル系単量体は、(メタ)アクリル酸系単量体を含み、該その他の単量体は、スチレンを含み、
該ポリマー(A)は、重量平均分子量が2万〜80万であり、
該ポリマー(B)は、重量平均分子量が500〜2万であり、
ポリマー(A)とポリマー(B)との重量平均分子量の比が5以上であることを特徴とする制振材用樹脂組成物。 - 該ポリマー(B)の原料となる単量体成分は、(メタ)アクリル系単量体と、該(メタ)アクリル系単量体と共重合可能なその他の単量体とを含むことを特徴とする請求項1記載の制振材用樹脂組成物。
- 前記ポリマー(B)の原料となる単量体成分に含まれる(メタ)アクリル系単量体は、(メタ)アクリル酸系単量体を含むことを特徴とする請求項2記載の制振材用樹脂組成物。
- 前記ポリマー(B)の原料となる単量体成分に含まれるその他の単量体は、スチレンを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の制振材用樹脂組成物。
- 前記ポリマー(A)は、極性基含有単量体の共重合割合が、単量体成分100質量%に対して0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
- 前記ポリマー(A)は、−20〜30℃のガラス転移温度を有し、ポリマー(A)のガラス転移温度とポリマー(B)のガラス転移温度との差が、40℃以内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
- 前記制振材用樹脂組成物は、ポリマー(A)とポリマー(B)との質量比が95/5〜60/40であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の制振材用樹脂組成物、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とすることを特徴とする制振材配合物。
- 前記制振材配合物から形成される膜は、20℃、40℃及び60℃における損失係数を合計した総損失係数が0.20以上であることを特徴とする請求項8に記載の制振材配合物。
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