JP5677158B2 - 塗装ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、耐キズ付き性に優れ、かつせん断加工を行っても、塗膜の浮きおよび剥離が発生しにくい塗装ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
ステンレス鋼板は、耐食性や意匠性、強度などに優れているため、電気製品や携帯機器などの広範な用途で使用されている。ステンレス鋼板は、意匠性をさらに向上させたり、絶縁性を付与したりするために、塗装されることがある。
塗装ステンレス鋼板を各種用途に用いる際、塗装ステンレス鋼板に打ち抜き加工を含むせん断加工を施すことが多い。塗装ステンレス鋼板をせん断加工すると、せん断端部近傍において塗膜の浮きが生じることがあり、さらには「エナメルヘア」と称される塗膜の剥離が生じることもある。塗膜に浮きまたは剥離が生じてしまうと、製品の外観が悪くなるだけでなく、加工の歩留まりが低下してしまう。また、加工時に剥離した塗膜がプレス金型に付着し、製品に打痕がついてしまうおそれもある。その結果、プレス金型の清掃などを行う必要が新たに生じ、プレス作業の効率が低下してしまうことになる。
以上のことから、せん断加工を行っても、塗膜の浮きおよび剥離が生じにくい塗装ステンレス鋼板が望まれていた。
一方、ステンレス鋼板表面を脱脂した後にクリア塗膜を形成することで、塗膜密着性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、クリア塗膜に顔料およびワックスを配合することで、意匠性および加工性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献1,2に記載の技術では、アクリル樹脂をイソシアネート化合物で架橋することでクリア塗膜を形成している。また、クリア塗膜の耐キズ付き性を向上させるために、硬化剤としてイソシアネート化合物に加えてメラミン化合物を使用してもよいとされている。
特開2008−149607号公報 特開2008−149608号公報
上述のように、従来の塗装ステンレス鋼板は、せん断加工を行うと、塗膜の浮きまたは剥離が発生することがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、耐キズ付き性に優れ、かつせん断加工を行っても塗膜の浮きおよび剥離が発生しにくい塗装ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、主樹脂として柔軟性に優れたポリエステル樹脂を使用し、かつ硬化剤としてイソシアネート化合物とメラミン化合物を所定の比率で組み合わせて使用することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の塗装ステンレス鋼板に関する。
[1]ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された、メラミン化合物およびイソシアネート化合物により架橋されたポリエステル樹脂を含む塗膜とを有し;前記ポリエステル樹脂に対する前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量の割合は、10〜40質量%の範囲内であり;前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量に対する前記イソシアネート化合物の割合は、20〜80質量%の範囲内である、塗装ステンレス鋼板。
[2]前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000〜40000の範囲内である、[1]に記載の塗装ステンレス鋼板。
[3]前記塗膜の膜厚は、3〜30μmの範囲内である、[1]または[2]に記載の塗装ステンレス鋼板。
また、本発明は、以下の塗装ステンレス鋼板の製造方法に関する。
[4]ステンレス鋼板を準備するステップと、架橋性官能基を有するポリエステル樹脂、メラミン化合物およびイソシアネート化合物を含む塗料を塗布し、乾燥させて、塗膜を形成するステップとを有し;前記ポリエステル樹脂に対する前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量の割合は、10〜40質量%の範囲内であり;前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量に対する前記イソシアネート化合物の割合は、20〜80質量%の範囲内である、塗装ステンレス鋼板の製造方法。
[5]前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000〜40000の範囲内である、[4]に記載の塗装ステンレス鋼板の製造方法。
本発明によれば、耐キズ付き性に優れ、かつせん断加工を行っても、塗膜の浮きおよび剥離が発生しにくい塗装ステンレス鋼板を提供することができる。たとえば、本発明の塗装ステンレス鋼板は、せん断端部が外部から見える状態で使用されるプレコートステンレス鋼板として有用である。
本発明者らが行ったせん断加工実験の様子を示す模式図である。 塗装ステンレス鋼板のせん断過程を示す断面模式図である。図2Aは、パンチ押し込み初期の様子を示す断面模式図である。図2Bは、パンチ押し込み中期の様子を示す断面模式図である。図2Cは、せん断後の様子を示す断面模式図である。 せん断加工を行っている時のせん断端部におけるステンレス鋼板および塗膜の挙動を示す断面模式図である。図3Aは、パンチ押し込み初期の様子を示す断面模式図である。図3Bは、パンチ押し込み中期から後期の様子を示す断面模式図である。図3Cは、せん断後の様子を示す断面模式図である。 実施例で行った打ち抜き加工の打ち抜き穴の形状を示す模式図である。
1.塗膜の浮きおよび剥離の発生メカニズム
本発明の塗装ステンレス鋼板およびその製造方法は、本発明者らにより解明された、せん断加工時の塗膜の浮きおよび剥離の発生メカニズムの知見に基づいてなされたものである。そこで、本発明の塗装ステンレス鋼板およびその製造方法について説明する前に、本発明者らが解明した、塗膜の浮きおよび剥離の発生メカニズムについて説明する。
本発明者らは、従来の塗装ステンレス鋼板に対してせん断加工を繰り返し行い、せん断端部を詳細に調べるとともに、各種シミュレーションを行うことでせん断加工時の塗膜の浮きおよび剥離の発生メカニズムを解明した。
図1は、本発明者らが行ったせん断加工実験の様子を示す模式図である。図1に示されるように、プレス機に固定されたせん断金型のダイ200上に従来の塗装ステンレス鋼板100を置き、パンチガイド210を用いて8kNの板押さえ力で塗装ステンレス鋼板100を固定した。この状態で、直径20mmのパンチ220を降下させてせん断加工を行った(加工速度:100spm)。
図2は、塗装ステンレス鋼板のせん断過程を示す断面模式図である。図2Aは、パンチ押し込み初期の様子を示す断面模式図である。図2Bは、パンチ押し込み中期の様子を示す断面模式図である。図2Cは、せん断後の様子を示す断面模式図である。図2Aに示されるように、塗装ステンレス鋼板100は、ステンレス鋼板110とおよび塗膜120を有する。
図2A〜Cを参照して、せん断加工を行っている時のせん断端部の様子を順に説明する。まず、パンチ押し込み初期(押し込み量40μm程度)で、ダレ部300が形成される(図2A参照)。次いで、パンチ押し込み中期(押し込み量200μm程度)で、ダレ部300が拡大するとともに、せん断面310が形成され始める(図2B参照)。さらにパンチ220を押し込むと、せん断面310および破断面320が形成され、せん断が終了する(図2C参照)。
図3は、せん断加工を行っている時のせん断端部におけるステンレス鋼板および塗膜の挙動を示す断面模式図である。図3Aは、パンチ押し込み初期の様子を示す断面模式図である。図3Bは、パンチ押し込み中期から後期の様子を示す断面模式図である。図3Cは、せん断後の様子を示す断面模式図である。
図3A〜Cを参照して、せん断端部におけるステンレス鋼板および塗膜の挙動を詳細に説明する。まず、押し込み初期のダレ部先端では、ステンレス鋼板110および塗膜120が圧縮応力を受ける(図3A参照)。押し込み中期から後期のダレ部では、ステンレス鋼板110には押し込み方向の引張応力が作用する。一方、塗膜120では、さらに圧縮応力が増大する。その結果、塗膜120の一部が浮いてしまい、浮部330が生じる(図3B参照)。この状態でさらにパンチ220を押し込むと、塗膜の浮部330が剥離して、エナメルヘア340が発生する(図3C参照)。
以上のように、せん断加工時の塗膜の浮きおよび剥離は、塗膜に加わる圧縮応力によって生じることが、本発明者らの詳細な解析により判明した。
この知見に基づき、本発明者らは、せん断加工時に塗膜に加わる圧縮応力を緩和できる柔軟性に優れた塗膜を形成することで、せん断加工時の塗膜の浮きおよび剥離を防ぐことができると考え、本発明の塗装ステンレス鋼板およびその製造方法を完成させた。以下、本発明の塗装ステンレス鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
2.本発明の塗装ステンレス鋼板およびその製造方法
本発明の塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板(塗装原板)と、ステンレス鋼板の表面に形成された塗膜とを有する。本発明の塗装ステンレス鋼板は、1)塗膜を構成する主樹脂として柔軟性に優れたポリエステル樹脂を使用すること、および2)ポリエステル樹脂を硬化させる硬化剤としてメラミン化合物とイソシアネート化合物を所定の比率で組み合わせて使用すること、を主たる特徴とする。
以下、本発明の塗装ステンレス鋼板の各構成要素について説明する。
[塗装原板]
塗装原板としては、耐食性および意匠性に優れるステンレス鋼板が使用される。ステンレス鋼板の鋼種や表面仕上げの種類、硬さなどは、特に限定されない。塗装原板としては、板厚が0.2mm以下で、SUS304またはSUS301からなる、硬さが1/2H〜EHの高強度ステンレス鋼板がよく用いられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、塗装原板は、フェライト系ステンレス鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼の焼鈍材または時効処理材であってもよい。
ステンレス鋼板の表面には、塗膜密着性を向上させる塗装前処理皮膜が形成されていてもよい。塗装前処理皮膜の種類(組成)は、特に限定されず、クロムを含むものであってもよいし、クロムを含まないものであってもよい。塗装前処理皮膜の例には、有機樹脂単独皮膜や有機−無機複合皮膜などが含まれる。
たとえば、塗装前処理皮膜は、有機樹脂と、フッ素化合物と、チタン化合物および/またはジルコニウム化合物とを含有する有機−無機複合皮膜である。有機樹脂の種類は、塗膜密着性の観点から水酸基を多く有する樹脂が好ましい。そのような有機樹脂の例には、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸、ポリアクリル酸などが含まれる。また、フッ素化合物の種類は、塗膜密着性および耐食性の観点からフルオロ酸が好ましい。フルオロ酸の例には、HTiF、HZrF、HHfF、HSiF、HFなどが含まれる。フッ素化合物に対する有機樹脂の質量比は、1〜5の範囲内が好ましい。チタン化合物の例には、チタン酸、酸化チタンなどのチタン酸塩や、フッ化チタン酸ナトリウム、フッ化チタンなどのフッ化チタン酸塩が含まれる。また、ジルコニウム化合物の例には、酸化ジルコニウム、ジルコニウム酸ナトリウムなどのジルコニウム酸塩や、フッ化ジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム酸ナトリウムなどのフッ化ジルコニウム酸塩が含まれる。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
塗装前処理皮膜の膜厚は、塗膜密着性を向上させることができれば特に限定されない。たとえば、前述の有機−無機複合皮膜の場合、Ti換算付着量およびZr換算付着量の総和が0.5〜30mg/mとなるように、塗装前処理皮膜の付着量を調整すればよい。
塗装前処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機樹脂などを含む塗装前処理液をステンレス鋼板の表面に塗布し、水洗することなく乾燥させればよい。塗装前処理液の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。
[塗膜]
塗膜は、ステンレス鋼板の表面に形成されている。ステンレス鋼板の表面に塗装前処理皮膜が形成されている場合は、塗膜は塗装前処理皮膜の上に形成される。一方、ステンレス鋼板の表面に塗装前処理皮膜が形成されていない場合は、塗膜はステンレス鋼板の表面に直接形成される。塗膜は、ステンレス鋼板の片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
塗膜は、主として、メラミン化合物およびイソシアネート化合物により架橋されたポリエステル樹脂から構成される。主樹脂として柔軟性に優れるポリエステル樹脂を使用し、かつ硬化剤として加工性および塗膜密着性に優れるイソシアネート化合物を使用することで、せん断加工時の圧縮応力を吸収することができる、密着性に優れた塗膜とすることができる。また、硬化剤としてメラミン化合物も使用することで、耐キズ付き性に優れた塗膜とすることができる。
耐キズ付き性は、JIS K5600−5−4に準拠して測定される鉛筆硬度で評価されうる。電子機器または携帯機器の部品への加工およびこれらの機器の部品として扱われる際に十分な耐キズ付き性を確保する観点からは、塗膜の鉛筆硬度は、F以上であることが好ましい。
主樹脂として用いるポリエステル樹脂は、架橋性官能基を有するポリエステル樹脂である。架橋性官能基の例には、ヒドロキシ基やカルボキシ基、アルコキシシラン基などが含まれる。ポリエステル樹脂は、これらの架橋性官能基を1分子あたり2個以上有することが好ましい。
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、圧縮応力緩和の観点および加工性の観点からは10000〜40000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が10000未満の場合、分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、圧縮応力を十分に緩和することができない。その結果、せん断加工時に塗膜の浮きおよび剥離が発生してしまうおそれがある。一方、数平均分子量が40000超の場合、分子間の架橋密度が小さくなりすぎ、塗膜の耐キズ付き性および耐汚染性が低下してしまうおそれがある。また、数平均分子量が40000超のポリエステル樹脂は、塗料を調製するのが困難である。
硬化剤として用いるメラミン化合物の種類は、特に限定されない。硬化剤として用いられるメラミン化合物の例には、メチル化メラミン化合物やn−ブチル化メラミン化合物、イソブチル化メラミン化合物、混合アルキル化メラミン樹脂などが含まれる。これらのメラミン化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
硬化剤として用いるイソシアネート化合物の種類は、特に限定されないが、塗料のポットライフの観点から、ブロック剤でイソシアネート基が封鎖されたブロックイソシアネート化合物が好ましい。イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、これらのポリイソシアネートのビューレットタイプの付加物またはイソシアヌル環タイプの付加物などが含まれる。これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ブロック剤の例には、フェノール類やオキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類などが含まれる。
硬化前のポリエステル樹脂に対する硬化剤(メラミン化合物およびイソシアネート化合物の合計量)の割合は、10〜40質量%の範囲内であることが好ましい。ポリエステル樹脂に対する硬化剤の割合が10質量%未満の場合、分子間の架橋密度が小さくなりすぎ、耐キズ付き性および耐汚染性が低下してしまう。また、ポリエステル樹脂に対する硬化剤の割合が40質量%超の場合、分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、圧縮応力を十分に緩和することができない。その結果、せん断加工時に塗膜の浮きおよび剥離が発生してしまうおそれがある。
硬化剤(メラミン化合物およびイソシアネート化合物)の合計量に対するイソシアネート化合物の割合は、20〜80質量%の範囲内であることが好ましく、40〜60質量%の範囲内であることが特に好ましい。イソシアネート化合物の割合が20質量%未満の場合、圧縮応力を十分に緩和することができない。その結果、せん断加工時に塗膜の浮きおよび剥離が発生してしまうおそれがある。また、イソシアネート化合物の割合が80質量%超の場合、耐キズ付き性が低下してしまう。
塗膜には、防錆顔料を配合してもよい。環境負荷を低減するという観点からは、塗膜に配合する防錆顔料としては、六価クロムを含有しない防錆顔料が好ましい。そのような防錆顔料の例には、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。
また、塗膜には、着色顔料や、パール顔料、メタリック顔料、体質顔料を配合してもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、コバルトグリーン、アニリンブラック、フタロシアニンブルーなどが含まれる。メタリック顔料の例には、アルミやステンレス、ニッケルなどの金属粉が含まれる。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどが含まれる。
さらに、塗膜には、塗膜硬度および耐摩耗性を向上させる観点または塗膜表面に凹凸を付与し外観を向上させる観点から、鱗片状無機質添加材や無機質繊維、粒状または塊状の有機骨材、粒状または塊状の無機骨材、つや消し材などを配合してもよい。ただし、顔料の粒径が過剰に大きい場合、または顔料の添加量が過剰量の場合は、せん断加工時の塗膜の応力緩和機能が低下し、塗膜の浮きや剥離が生じやすくなるおそれがある。したがって、応力緩和機能を損なわないように顔料の粒径および添加量を設定する必要がある。
鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、硫酸バリウムフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレーク、雲母状酸化鉄(MIO)などが含まれる。無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。有機骨材の例には、アクリルビーズ、ポリアクリロニトリルビーズなどが含まれる。無機骨材、つや消し剤の例には、ガラスビース、シリカ粉などが含まれる。
塗膜の膜厚は、特に限定されず、用途に応じて必要とされる特性(意匠性や絶縁性など)に応じて適宜設定すればよい。通常、塗膜の膜厚は、3〜30μmの範囲内である。
塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、ポリエステル樹脂、メラミン化合物およびイソシアネート化合物を含む塗料をステンレス鋼板の表面に塗布し、焼き付ければよい。塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。焼き付け条件は、例えば、在炉時間(加熱時間)30〜90秒間で、到達板温200〜260℃とすればよい。
以上のように、本発明の塗装ステンレス鋼板は、1)塗膜を構成する主樹脂として柔軟性の高いポリエステル樹脂を使用すること、および2)ポリエステル樹脂を硬化させる硬化剤としてメラミン化合物とイソシアネート化合物を所定の比率で組み合わせて使用すること、を主たる特徴とする。本発明の塗装ステンレス鋼板は、耐キズ付き性に優れるだけでなく、圧縮応力を塗膜がある程度吸収できるため、せん断加工を行っても塗膜の浮きおよび剥離がほとんど発生しない。
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.塗装ステンレス鋼板の作製
塗装原板として、板厚0.2mmのステンレス鋼板(SUS304−CSP;1/2H)を準備した。ステンレス鋼板の表面に液温60℃のアルカリ脱脂水溶液を20秒間スプレーした後に湯洗して、ステンレス鋼板の表面を脱脂した。脱脂したステンレス鋼板の表面に、表1に示す組成の塗装前処理液をバーコーターで塗布し(20℃)、到達板温100℃、在炉時間50秒間の条件で加熱乾燥して、塗装前処理皮膜を形成した。塗装前処理皮膜の付着量は、Ti換算で9mg/mであった。
Figure 0005677158
次いで、塗装前処理を施したステンレス鋼板の表面に、硬化剤(メラミン化合物およびイソシアネート化合物)を添加したポリエステル樹脂塗料(顔料未配合)をバーコーターで塗布し、到達板温230℃、在炉時間50秒間の条件で焼き付けて、乾燥膜厚10μmのクリア塗膜を形成した。
塗料中のポリエステル樹脂の数平均分子量は、14000である。メラミン化合物は、ブチル化メラミン樹脂(SUPER BECKAMINE J-820-60;DIC株式会社)を使用した。イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート(BURNOCK D-500;DIC株式会社)を使用した。ポリエステル樹脂と硬化剤(メラミン化合物およびイソシアネート化合物の合計量)との質量比は、100:30とした。メラミン化合物とイソシアネート化合物との比率を表2に示す。
Figure 0005677158
2.評価試験
作製した各塗装ステンレス鋼板について、JIS K5600−5−4に準拠して鉛筆硬度を測定し、耐キズ付き性を評価した。また、打ち抜き加工を行い、塗膜の浮きおよび剥離が発生するかどうかを調べた。打ち抜き加工は、2000kNサーボプレス機を用いて行った。打ち抜き穴の形状を図4に示す。打ち抜きのクリアランスは7%とし、打ち抜きパンチのRは0mmとした。
打ち抜き加工の後に、打ち抜き端面における塗膜剥離の有無を目視により観察した。また、打ち抜き端面の断面観察により、塗膜の浮き幅を計測した。さらに、打ち抜き端部においてテープ剥離試験を行い、塗膜剥離の割合を測定した。塗膜剥離の割合(%)は、以下の式により算出した。

塗膜剥離の割合(%)=(塗膜が剥離した端面の長さ/打ち抜き端面の全長)×100
各塗料(塗膜)についての、鉛筆硬度、打ち抜き加工後の塗膜の浮きおよび剥離の発生の有無を表3に示す。
Figure 0005677158
表3に示されるように、硬化剤中のイソシアネート化合物の割合が20質量%未満の場合(塗料No.1,2)、塗膜が剥離してしまい、塗膜の浮き幅も大きかった。また、硬化剤中のイソシアネート化合物の割合が80質量%超の場合(塗料No.10,11)、鉛筆硬度がHBとなってしまい、加工の際にまたは電子機器や携帯機器などとして使用される際に必要な耐キズ付き性を確保することができなかった。
これに対し、硬化剤としてメラミン化合物およびイソシアネート化合物を使用し、さらに硬化剤中のイソシアネート化合物の割合を20〜80質量%とした場合(塗料No.3〜9)、十分な耐キズ付き性を有し、かつ塗膜剥離はまったく生じなくなり、塗膜の浮き幅も顕著に減少した。
以上の結果から、本発明の塗装ステンレス鋼板は、電子機器や携帯機器などとして適用可能な耐キズ付き性を有し、かつせん断加工を行ってもエナメルヘアがほとんど発生しないことがわかる。
本発明の塗装ステンレス鋼板は、耐キズ付き性に優れ、かつせん断加工を行っても塗膜の浮きおよび剥離がほとんど発生しないため、せん断端部が見える状態で使用されるプレコートステンレス鋼板として有用である。たとえば、本発明の塗装ステンレス鋼板は、携帯型のIT機器で使用されるプレコートステンレス鋼板として有用である。
100 塗装ステンレス鋼板
110 ステンレス鋼板
120 塗膜
200 ダイ
210 パンチガイド
220 パンチ
300 ダレ部
310 せん断面
320 破断面
330 塗膜の浮部
340 エナメルヘア

Claims (5)

  1. ステンレス鋼板と、
    前記ステンレス鋼板の表面に形成された、メラミン化合物およびイソシアネート化合物により架橋されたポリエステル樹脂を含む塗膜と、を有する1コートの塗装ステンレス鋼板であって
    前記ポリエステル樹脂に対する前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量の割合は、10〜40質量%の範囲内であり、
    前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量に対する前記イソシアネート化合物の割合は、20〜80質量%の範囲内である、
    塗装ステンレス鋼板。
  2. 前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000〜40000の範囲内である、請求項1に記載の塗装ステンレス鋼板。
  3. 前記塗膜の膜厚は、3〜30μmの範囲内である、請求項1に記載の塗装ステンレス鋼板。
  4. ステンレス鋼板を準備するステップと、
    架橋性官能基を有するポリエステル樹脂、メラミン化合物およびイソシアネート化合物を含む塗料を前記ステンレス鋼板の表面に塗布し、乾燥させて、前記ステンレス鋼板の表面に塗膜を形成するステップと、を有する1コートの塗装ステンレス鋼板の製造方法であって
    前記ポリエステル樹脂に対する前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量の割合は、10〜40質量%の範囲内であり、
    前記メラミン化合物および前記イソシアネート化合物の合計量に対する前記イソシアネート化合物の割合は、20〜80質量%の範囲内である、
    塗装ステンレス鋼板の製造方法。
  5. 前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000〜40000の範囲内である、請求項4に記載の塗装ステンレス鋼板の製造方法。
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