JP5672962B2 - 4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む抗癌剤、リパーゼ阻害剤、抗肥満剤、チロシナーゼ阻害剤および美白剤 - Google Patents

4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む抗癌剤、リパーゼ阻害剤、抗肥満剤、チロシナーゼ阻害剤および美白剤 Download PDF

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Description

本発明は、4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む抗癌剤、リパーゼ阻害剤、抗肥満剤、チロシナーゼ阻害剤、美白剤、食品、医薬品、または化粧品に関するものである。
p−クマル酸は植物の二次代謝産物の一つであり、例えば樹木の主成分であるリグニンやリグナンの前駆体となるほか、フラボノイドなどの機能性成分の前駆体にもなっており、天然界に比較的多く存在する成分である。また、p−クマル酸としては、プラムをはじめとして、多くの果物の果実や果皮、プロポリスなどにも含まれていることが知られている。これらは全て食経験がある植物であるため、p−クマル酸は、人に対する安全性も高い成分である。
p−クマル酸については、その生理機能に関連した先行技術がある。例えば、p−クマル酸をはじめ、桂皮酸類を有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ剤(特許文献1)、フェルラ酸及び/又はp−クマル酸を有効成分とする皮膚改善剤(特許文献2)、クマル酸をはじめ、プロポリスの抽出物に含まれる桂皮酸類を有効成分とする血管新生抑制剤(特許文献3)が挙げられる。
また、p−クマル酸誘導体に関連した先行技術がある。例えば、クマル酸を化学合成させたリグニン類を有効成分とする抗菌剤(特許文献4)、カフェイン酸アミド誘導体又はエステル誘導体を有効成分とするアディポネクチン産生増強剤(特許文献5)、p−クマル酸二量体を原料とした抗菌剤であるベンゾフランカルボキサミド誘導体の合成方法(特許文献6)が挙げられる。
また、p−クマル酸誘導体やp−クマル酸誘導体は、植物中にも多く含まれていることから、リンゴ、ナシまたはモモの未熟果実の果実ポリフェノールとして、p−クマル酸誘導体やp−クマル酸誘導体などを含む酸化防止剤、血圧降下剤、抗変異原性作用剤、アレルギー抑制剤、抗う蝕剤及び消臭剤(特許文献7)が挙げられる。
このようにp−クマル酸やp−クマル酸誘導体は優れた有用性を示すものが多いことから、原料やリード化合物としてのp−クマル酸やp−クマル酸誘導体を効率的に製造する技術開示もなされている。例えば、組み換え体を用いた微生物によるp−ヒドロキシ桂皮酸(p−クマル酸)などの製造法方(特許文献8)が示される。
一方、4−ビニルカテコール重合化合物は構造的にはp−クマル酸誘導体の一種と考えられるが、天然界には殆ど存在しない希少成分であり、従来から生理活性に関する報告もされていない。現在のところは、合成法が示されているが、目的物質としてではなく、副生成物として微量に生成が確認又は推測されている(非特許文献1、非特許文献2)。もしくは、4−ビニルカテコール重合化合物は、合成されていても、反応系が少量なため工業化が難しい状態である(非特許文献3)。
このような状況から、有用なp−クマル酸関連化合物である4−ビニルフェノール重合化合物を容易に工業化できる効率的な生成方法の確立が望まれていた。
特開平11−106335公報 特許第3330961号 特開2007−223948号公報 特許第4395623号 特開2007−262050号公報 特開2008−189554号公報 特開2002−47196号公報 特表2005−522180号公報
Polymer Journal. 1981, 13, 563−568 J.Agric.Food Chem.1992, 40, 1666−1670 Tetrahedron 2007,63,9663−9667
本発明者らは、p−クマル酸及びp−クマル酸誘導体に関する前記の状況を鑑みて、新規な生理活性を有するp−クマル酸関連化合物の探索と、その製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、驚くべきことにp−クマル酸をアルカリ条件下で加熱処理することで、p−クマル酸関連化合物である4−ビニルフェノール重合化合物を生成できることを初めて見出し、さらに該前記4−ビニルフェノール重合化合物が原料であるp−クマル酸には認められない優れた抗癌活性等の生理活性を有することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、優れた抗癌活性等の生理活性を有する4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有する抗癌剤、リパーゼ阻害剤、抗肥満剤、チロシナーゼ阻害剤および美白剤、さらには前記4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有する食品、医薬品、または化粧品を提供することを目的とする。
4−ビニルフェノール重合化合物は、我々の研究で優れた生理活性を有することが初めて明らかになった。
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕下記式(1)
Figure 0005672962
又は式(2)
Figure 0005672962
表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる抗癌剤、
〕前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなるリパーゼ阻害剤、
〕前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる抗肥満剤
〕前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなるチロシナーゼ阻害剤、
〕前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる美白剤、
〕前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする食品、
〔7〕前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする医薬品、
〔8〕前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする化粧品、
に関する。
本発明により、前記のように生理活性に優れた前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物及びその薬学的に許容可能な塩を効率よく安全に製造することができる。
本発明に用いられる前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、p−クマル酸と比べて、抗癌活性が高いことから優れた抗癌剤を提供することができる。また、式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、リパーゼ阻害活性、チロシナーゼ阻害活性が高いことから、優れた抗肥満剤、皮膚疾患治療剤および美白剤を提供することができる。
また、前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物及びその薬学的に許容可能な塩は、前記のような生理活性に優れることに加えて、安全性にも優れることから、食品、医薬品、または化粧品に配合することができる。
図1は、実施例1で行ったHPLCの分析結果を示す。「A」「B」が4−ビニルフェノール重合化合物のピークを示す。 図2は実施例4の細胞増殖抑制試験より得られた結果を示すグラフである。 図2の縦軸は細胞生存率を、横軸は各試料の濃度を示している。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の抗癌剤における有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物は、式(1):
Figure 0005672962
式(2):
Figure 0005672962
で表される構造を有する。
本発明では、前記式(1)又は(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物は、薬学的に許容可能な塩でもよい。薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩又はそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記式(1)又は(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩(以下、本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物と略する)は、前駆体であるp−クマル酸には認められない強い抗癌活性を有する化合物である。
本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物は、p−クマル酸を含有する組成物を、アルカリ条件下で加熱処理することで、生成することができる。
本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物は、非特許文献1〜3で示されているように、化学合成できる。しかし、その合成量は、原料時点で数mgであり、大量反応を実現するためには多くの技術改良が必要になる。また、仮に化学合成で製造する場合には、有害な触媒、溶媒、反応副産物等の不純物を除去するための徹底した精製工程が必要であり、産業化する上でコスト面において大きな障害がある。これに対して、本発明の製造方法は、比較的安価に入手できるp−クマル酸をアルカリ条件下で加熱処理する工程を有する方法であるため、前記の化学合成方法のような有害な試薬や、危険な工程を必要としない効率的で安全な製造方法である。
本発明の製造方法では、本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物の前駆体としてp−クマル酸が必要である。p−クマル酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のp−クマル酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、その後の所望の反応が進み最終的に本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物が得られるから、混合物であっても問題ない。ただし、回収量の観点からは、p−クマル酸が1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、様々な果実やジュース、濃縮果汁、または、破棄されることの多い果皮の抽出物、プロポリス又はその抽出物あるいは前記特許文献8等に記載の先行技術に示されるような微生物発酵によるp−クマル酸含有培養液等が挙げられる。
本発明の製造方法では、前記p−クマル酸の純品又はp−クマル酸含有混合物を、適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであればp−クマル酸の溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類には特に制限はなく、p−クマル酸が十分に溶解する溶媒であれば良いが、メタノールやエタノールのみか、水とメタノール、水とエタノールの混合液を使用することが、安全性やコスト面から望ましい。特に、最終的な精製を十分に適用せずに得られた生成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面からエタノールや含水エタノールの使用が望ましい。
上記で得られたp−クマル酸含有溶液を、アルカリ性に調整する。例えば、p−クマル酸含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加しpHを調整しても良いし、前述のp−クマル酸含有溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。pHは最終的に7.1以上であれば生成反応が進むが、pH13.0を超えると生成反応と同時に、他の化合物の生成反応や目的化合物の分解も一方で生じるために本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物の最終的な回収量が低下する。したがって、本発明の製造方法において生成反応開始時のp−クマル酸含有溶液のpHは7.0〜13.0が望ましい。
また、p−クマル酸含有溶液中のp−クマル酸の濃度に制限はない。中でも、p−クマル酸の濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットがあるため、前記濃度は各々の溶媒に対しp−クマル酸が飽和する濃度近辺が好ましい。また、p−クマル酸を飽和する濃度以上で含有させてもよい。この場合、生成反応前の時点では、p−クマル酸は前記溶媒中に完全に溶解していなくともよい。溶解していないp−クマル酸は生成反応が進むにつれて徐々に溶解することになる。
p−クマル酸含有溶液をアルカリ性に調整するために使用できるpH調整剤としては、特に制限はないが、安全性、効率及びコスト面からは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等が望ましい。また、生成反応時のp−クマル酸含有溶液のpH変化を極力抑える場合には、緩衝溶液を用いても良い。
本発明の製造方法では、前記アルカリ性に調整されたp−クマル酸含有溶液を加熱処理する。所望の生成反応を効率的に進ませるために、p−クマル酸含有溶液の加熱温度は90℃以上が必要である。溶媒の沸点から考え、加圧加温処理を行うことが望ましい。例えば、開放容器にp−クマル酸含有溶液を入れ高温で容器を加温する、密閉容器にp−クマル酸含有溶液を入れ加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的にp−クマル酸含有溶液の温度が90℃以上に達することが必要である。また、回収効率面から、溶液温度が均一に90℃〜150℃になることがさらに好ましい。加熱温度が150℃を超えると、所望の生成反応以外の反応が行われるため、回収効率が低くなる。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の生成反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近でp−クマル酸含有溶液の加熱処理をする場合は、5分〜300分の加熱時間が望ましい。また、加熱処理の回数は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良く、効率面から回数を判断すればよい。
前記のようにしてp−クマル酸含有溶液をアルカリ条件下で加熱処理することで、本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物を含有した混合物が得られる。特に、安全な原料のみを用いて本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物が得られた場合には、前記混合物の状態で使用することが可能である。例えば、天然由来のp−クマル酸をエタノール溶媒に溶解し炭酸水素ナトリウムを加え、加熱反応させた場合には、混合物として食品原料の一つとして使用が可能である。
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記混合物を濃縮して本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物の濃度を高める、あるいは精製し純品を得ることができる。前記濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等の溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で前記混合物から本発明品中の有効成分である4−ビニルフェノール重合化合物を抽出して濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。濃縮物や精製物から最後に減圧乾燥や凍結乾燥により溶媒除去すると、粉末状の前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩の純品を得ることができる。
前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、後述のように、優れた抗癌活性を有するために、これらの化合物を有効成分として含有する抗肥満剤を提供することができる。また、前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、後述のように、優れたリパーゼ阻害活性、チロシナーゼ阻害活性を有するために、この化合物を有効成分として含有するリパーゼ阻害剤及びチロシナーゼ阻害剤を提供することができる。また、前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、リパーゼ阻害活性やチロシナーゼ阻害活性を有することから、この化合物を有効成分として含有する皮膚疾患治療剤及び美白剤を提供することができる。
また、前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又は薬学的に許容可能な塩は、所望の作用効果を目的として、液状、ペースト状、ゲル状、及び固形状の食品、医薬品、または化粧品等として使用することができる。
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤等のような食品に通常配合される原料又は素材と組み合わせて、また医薬品の場合には、担体、賦形剤、希釈剤、安定剤等と組み合わせて、前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を使用することができる。特に、前記式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩の生理活性分野を考慮すると、抗肥満効果によるメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の予防、癌予防・癌治療等の健康維持増進、さらには疾病治癒分野において用いることが好ましい。またニキビ治療や予防、美白を目的とした美容分野における化粧品などで用いることが望ましい。
前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩が持つさらなる効果効能は、得られた生理活性データより類推できる範囲で使用できる。
前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を医薬用途で使用する場合、例えば、前記化合物の摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。例えば、1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
前記式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、機能性食品、健康食品、健康志向食品等の食品に使用することができる。食品の形態としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でもよく、例えば、菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等が挙げられるが、特に限定はない。
また、前記式(1)又は前記(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を医薬品又は食品として経口から投与又は摂取する場合には、常法に基づいて、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等としてもよい。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒等は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできるし、胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、前記錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒等には、公知の可溶化処理を施すこともできるし、常法に基づいて、注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
前記化粧品としては、ローション、乳液、クリーム、パック剤、仕上げ化粧品、頭髪用化粧品、洗顔剤、浴剤、制汗剤等が挙げられる。これらの化粧品では、リパーゼ阻害効果からニキビ治癒、チロシナーゼ阻害効果から美白作用に特に効果が期待され、美白及びニキビ予防・治癒等の目的で利用することができる。
前記医薬品又は食品は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合してもよい。
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1:4−ビニルフェノール重合化合物の生成)
p−クマル酸(和光純薬工業(株)製)500mgをエタノール10mlに溶解し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(和光純薬業(株)製)10mlを加えた混合液(pH=7.5)をオートクレーブ(商品名「SANYO LABO AUTOCLAVE」、三洋電機(株)製)にて130℃、40分間加熱した。得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
得られたクロマトグラムを図1に示す。上図が生成反応前の溶液中のp−クマル酸、下図が生成反応後の溶液のクロマトグラムを示している。生成反応によりp−クマル酸が減少し、増大したピークがいくつか確認されたことから、複数の化合物が生成されていることが確認された。中でも、A、Bのピークで示された化合物は、p−クマル酸から生成されていることがわかる。
(実施例2:4−ビニルフェノール重合化合物の単離・構造決定)
実施例1で得られた反応物における図1のA、Bで示したピークに含まれる化合物を、分取HPLCにより単離した。常法に従って、乾燥したところ、Aから黄色粉末状の4−ビニルフェノール重合化合物(以下、UHA7009)が115mg、Bから黄色粉末状の4−ビニルフェノール重合化合物(以下、UHA7010)が15mg得られた。
次いで、前記UHA7009およびUHA7010の分子量を高分解能電子イオン化質量分析法(Electron Ionization−Mass Spectrometry)にて測定したところ、測定値はUHA7009:240.2973、UHA7010:360.4455であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
UHA7009
理論値C16H16O2(M+): 240.2970
分子式C16162
UHA7010
理論値C24H24O3(M+): 360.4456
分子式C24243
次に、前記UHA7009、UHA7010を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMR及び各種2次元NMRデータの解析から、UHA7009が前記式(1)で表される構造、UHA7010が前記式(2)で表される構造をそれぞれ有することを確認した。このことから、式(1)又は式(2)で表される4−ビニルフェノール重合化合物は本発明の方法で効率的に生成できることが示された。
なお、NMR測定値について、前記式(1)で表されるUHA7009、前記式(2)で表されるUHA7010の各部位を
Figure 0005672962
Figure 0005672962
とし、1H核磁気共鳴スペクトル、13C核磁気共鳴スペクトルをそれぞれ表1、表2で示す。
値はδ、ppmで、メタノール−d3で測定した値である。
Figure 0005672962
Figure 0005672962
また、UHA7009の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
黄色粉末
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
また、UHA7010の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
黄色粉末
(溶解性)
水: 不溶
メタノール: 可溶
エタノール: 可溶
DMSO: 可溶
クロロホルム: 可溶
酢酸エチル: 可溶
(実施例3:UHA7009、UHA7010の抗癌作用)
次に癌細胞に対する各化合物の効果を見るため、HL−60細胞(Human promyelocytic leokemia cells:ヒト骨髄球性白血病細胞)を用いた癌細胞増殖抑制作用について試験した。
HL−60細胞の培養には、4mMグルタミン(L−Glutamine、シグマアルドリッチジャパン(株)製)、10%FBS(ウシ胎児血清、バイオロジカルインダストリー社製)を含む高栄養培地RPMI−1690(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を使用した。試験には細胞培養用96ウェルプレート(コーニングジャパン(株)製)を用い、5×105cells/mlとなるように細胞数を調整したHL−60細胞を1ウェルあたり100μlずつ播種した。
試料は、p−クマル酸(和光純薬工業(株)製)と、本発明品であるUHA7009,UHA7010の3種類を用いた。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、HL−60細胞培養液中の最終濃度がそれぞれ6.3μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μMとなるように調整し、試験を開始した。
生存細胞数の定量は「Cell counting kit−8」(商品名、ドージンドー・モレキュラー・テクノロジー(株)製)を用いたMTT法にて行った。試験開始より24時間後、各ウェルにCell counting kit−8溶液を10μl添加し、よく攪拌した。1時間の遮光反応後にプレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行い、得られたデータをもとに細胞生存率を算出した(図2)。細胞生存率とは、溶媒であるDMSOのみを添加した培養液の生存細胞数を100%とし、各化合物の濃度下における細胞の生存細胞数を相対値として算出した値である。各化合物濃度と細胞生存率の関係から、細胞増殖を50%抑制する濃度IC50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した(表3)。これらの結果から、UHA7009、UHA7010には、強い癌細胞増殖抑制能が認められた。この効果は、p−クマル酸には全く認められず、p−クマル酸をp−クマル酸重合化合物に変換する有意性が強く示唆された。
Figure 0005672962
(実施例4:UHA7009、UHA7010のリパーゼ阻害作用)
リパーゼに対する各化合物の阻害作用を見るため、ラット腸由来リパーゼを用いての阻害作用試験を行った。
リパーゼは、ラット由来腸アセトンパウダー(シグマアルドリッチジャパン(株)製)100mgを100mMクエン酸バッファー(pH6.0)1mlに懸濁して4℃で1時間撹拌し、これを遠心分離(15000rpm、45分間、4℃)した上清を1500倍希釈したものをリパーゼ溶液として使用した。
試料は、p−クマル酸と、本発明品であるUHA7009、UHA7010、従来よりリパーゼ阻害作用が高いとされる緑茶成分のエピガロカテキンガレート(EGCg、和光純薬工業(株)製)の3種類を用いた。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、4mMに調製したものを使用した。
活性測定には「リパーゼキットS」(商品名、大日本製薬(株)製)を使用した。まず、リパーゼキットSのカタログに記載の調製法に従い発色液を調製した。発色液を70μl、エステラーゼ阻害剤を2μl、リパーゼ溶液を10μl、試料を10μl(終濃度10μM、50μM、100μM、200μM、400μM)混合した反応液を調製し、30℃で5分間プレインキュベートした後に基質溶液を8μl添加して反応を開始した。10分間の反応後、リパーゼキットSのカタログに記載の調製法に従い調製した反応停止液を150μl添加して反応を停止した。これを測定波長415nmの吸光度測定をおこなった。試料の溶媒であるDMSOのみを添加した反応液をポジティブコントロールとし、リパーゼ溶液の代わりに100mMクエン酸バッファー(pH6.0)10μlを添加したものをネガティブコントロールとした。これらから得られたデータを基に算出したリパーゼ阻害率と各化合物濃度の関係から、リパーゼ活性を50%阻害する濃度IC50(50%阻害濃度:half maximal inhibitory concentration)を算出した(表4)。これらの結果からUHA7010には高いリパーゼ阻害活性が認められた。この効果はp−クマル酸では認められず、エピガロカテキンガレートよりも高い活性を有していることからp−クマル酸を4−ビニルフェノール重合化合物に変換する有意性が強く示唆された。
Figure 0005672962
したがって、UHA7010は優れたリパーゼ阻害作用を奏することから、抗肥満剤として、さらにはメタボリックシンドローム予防剤として有用であると考えられる。また、皮膚におけるリパーゼ阻害はニキビ予防・治癒に有効であるから、ニキビ予防・治癒などの皮膚疾患治療剤としても有用であると考えられる。
(実施例5:UHA7009、UHA7010のチロシナーゼ阻害作用)
チロシナーゼに対する各化合物の阻害作用を見るため、マッシュルーム由来チロシナーゼ(シグマアルドリッチジャパン(株)製)を用いての阻害作用試験を行った。
試料は、p−クマル酸と、本発明品であるUHA7009、UHA7010の3種類を用いた。試料調製については、各々の化合物をDMSO(ジメチルスルホキシド、和光純薬工業(株)製)にて溶解し、0.25mM、1.25mM、2.5mM、3.75mM、5mMに調製したものを使用した。
測定は既存の活性検出法によって行なった。まず、L―DOPA(和光純薬工業(株)製)を100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)で2.4mMになるように調製した。また、上記の濃度で調製した試料20μlと100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)30μlを混合した。反応液には100mMリン酸ナトリウムバッファー90μl、L―DOPA溶液40μl(終濃度480μM)、試料20μl(終濃度10μM、50μM、100μM、150μM、200μM)を混合した。これを37℃で5分間加温し、同様に加温したチロシナーゼ溶液(100mMリン酸ナトリウムバッファーで調製)を50μl(10U/ml)添加し反応を開始した。10分間の反応後、メラニンの吸収波長(475nm)の吸光度を測定した。コントロールとしてチロシナーゼ溶液の代わりに100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)10μlを添加したものをネガティブコントロールとした。これらから得られたデータを基に算出したチロシナーゼ阻害率と各化合物濃度の関係から、チロシナーゼ活性を50%阻害する濃度IC50(50%阻害濃度)を算出した(表4)。これらの結果からUHA7010には高いチロシナーゼ阻害活性が認められた。この効果はp−クマル酸およびUHA7009では認められないことから、p−クマル酸をUHA7010に変換する有意性が強く示唆された。
Figure 0005672962
したがって、UHA7010は優れたチロシナーゼ作用を奏することから、メラニンの合成を抑えることによる美白剤等の化粧品として有用であると考えられる。
(実施例6:加熱温度によるUHA7009、7010の生成量の違い)
p−クマル酸50mg、エタノール1ml、5%炭酸水素ナトリウム水溶液1mlの混合溶液(pH=7.5)を、オートクレーブにて70℃、90℃、110℃、130℃の各温度条件で20分間加熱した。それぞれの温度条件で得られた反応後組成物1mlをメタノールにて50mlにメスアップし、実施例1と同様にHPLCにより分析した。
その結果、70℃以外の条件下においてUHA7009の生成が、90℃以上の条件下においてUHA7010の生成は確認できた。具体的には、p−クマル酸からUHA7009の生成比率は70℃で非生成、90℃で極微量、110℃で5重量%、130℃で22重量%であった。また、UHA7010の生成比率は、70℃、90℃では非生成、110℃では極微量、130℃で3重量%であった。すなわち、UHA7009及びUHA7010の生成には、130℃での加熱が最も効率的であった。
(実施例7:UHA7009、UHA7010含有エキスの調製)
プロポリス水抽出エキス10g、エタノール10ml、炭酸水素ナトリウム1g加えて調製した混合溶液(pH=8.5)を、オートクレーブにて130℃、60分間加熱した。得られた反応溶液を減圧加熱させて乾固し、エキスを11g得た。得られたエキス中には、実施例6と同様の手法で確認したところUHA7009が0.015g、UHA7010が0.001g含有されていた。必要に応じてこの作業を繰り返してエキスの量を増やした。
(実施例8:UHA7009、UHA7010を含有する食品)
実施例7で得られたエキス1gをあらかじめ100mLのエタノールに溶解させ、これに砂糖500g、水飴400gを混合溶解し、生クリーム100g、バター20g、練乳70g、乳化剤1.0gを混合した後、真空釜にて−550mmHg減圧させ、115℃の条件下で濃縮し、水分値3.0重量%のミルクハードキャンディを得た。本ミルクハードキャンディは、菓子として食べ易いものであることはもちろん、肥満を改善したり、肥満を予防したり、癌患者における癌の拡散のリスクを低減したり、癌の発症のリスクを低減したり、癌の予防を期待した機能性食品としても利用できるものである。
(実施例9:UHA7009、UHA7010を含有する医薬品)
実施例1及び2と同様の方法で得たUHA7009、UHA7010をエタノールに溶解し、これを微結晶セルロースに吸着させた後に、減圧乾燥させた。これを常法に従い、打錠品を得た。処方は、UHA7009、UHA7010を計10重量部(UHA7009:UHA7010=1:4)を、コーンスターチ23重量部、乳糖12重量部、カルボキシメチルセルロース8重量部、微結晶セルロース32重量部、ポリビニルピロリドン4重量部、ステアリン酸マグネシウム3重量部、タルク8重量部の通りである。本打錠品は、肥満改善や肥満防止、癌の治癒や改善を目的とする医薬品として有効に利用できる。
(実施例10:UHA7009、UHA7010を含有する化粧品)
テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット1重量部、ポリオキシエチレンステアリルエーテル0.5重量部、親油型モノステアリン酸グリセリン1重量部、ピルビン酸0.5重量部、ステアリルアルコール0.5重量部、アボガド油1重量部、実施例1及び2と同様の方法で得たUHA7009、UHA7010の計0.1重量部を、常法に従って溶解させ、これに、乳酸ナトリウム1重量部、プロピレングリコール5重量部、カルボキシビニルポリマー0.1重量部、ごく少量の香料および精製水89.3重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、乳液を得た。本乳液は、美白やニキビなどの皮膚疾患治療や予防効果をもつ薬用化粧品として有効に利用できる。

Claims (8)

  1. (1)
    Figure 0005672962
    又は式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる抗癌剤。
  2. 式(2)
    Figure 0005672962

    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなるリパーゼ阻害剤。
  3. 式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる抗肥満剤
  4. 式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなるチロシナーゼ阻害剤。
  5. 式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩からなる美白剤。
  6. 式(1)
    Figure 0005672962
    又は式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする食品。
  7. 式(1)
    Figure 0005672962
    又は式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする医薬品。
  8. 式(1)
    Figure 0005672962
    又は式(2)
    Figure 0005672962
    で表される4−ビニルフェノール重合化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含有することを特徴とする化粧品。
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