JP5672127B2 - 溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
連続溶融めっきラインにて、特許文献1に開示される処理を行うと、基材鋼板表面に形成された酸化鉄が、その後のハースロール付近で剥離、脱落してハースロールに巻き付くという現象が生じやすい。この巻き付きが生じると、この巻き付いた酸化物が後続の鋼板表面に転写されて製品の外観疵となり、製品の歩留まりが著しく低下する。
(1)鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下およびsol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、めっき前の基材鋼板を、ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩、ならびに水中でこれらを形成可能な物質からなる群から選ばれるヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有する水系酸性液状組成物と接触させる酸処理工程と、前記酸処理工程を経た基材鋼板を、水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気中で700℃以上に加熱することを含む還元焼鈍工程と、該加熱工程に引き続き、基材鋼板に溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき工程と、を備える、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
1.酸処理工程
本発明に係る製造方法は、基材鋼板(鋼帯を含む。以下、特に断らない限り同じ。)の表面に、水系酸性液状組成物を接触させる工程を備える。本発明においてこの処理を「酸処理工程」という。なお、酸処理工程に先立って、通常は公知の方法で、基材鋼板の表面を脱脂・洗浄する。また、脱脂・洗浄の前後で基材鋼板の表面を研削してもよい。
(1)−a. ヒドロキシ酸化合物
本発明の製造方法において、「水系酸性液状組成物」とは、溶媒の主成分が水である酸性液体からなる部分を含む組成物をいい、組成物中に固体物質が分散していたり堆積していたりしてもよい。
本発明の製造方法において、水系酸性液状組成物は、FeおよびFeイオンの少なくとも一方を含む水溶性物質(以下、「水溶性Fe含有物質」ともいう。)および/または硝酸または硝酸イオンを含む物質(以下、「硝酸物質」ともいう。)を含有することが好ましい。水溶性Fe含有物質と硝酸物質とが同一の物質であってもよい。そのような物質として硝酸鉄が例示される。
本発明に係る水系酸性液状組成物における溶液部分のpHは7未満である。具体的なpHの値は、本発明の効果を安定的に得る観点から、水系酸性液状組成物が含有する成分を考慮しつつ適宜設定されるべきものである。例えば、ヒドロキシ酸化合物が酒石酸に基づく物質を含有する場合には、pHは1〜3の範囲とすることが好ましい。
接触方法は特に限定されず、浸漬、スプレー、ロールコータ等公知の手段を適宜選択できる。また、処理液の温度も特に制限されず、処理時間など他の処理条件とともに適切に管理すべきものである。例えば室温でもよいし、例えば30〜60℃くらいの領域の所定温度で管理してもよい。
(3) 不めっき改善の推定機構
ここで、Si等を含有する基材鋼板を用いた場合の酸処理工程による不めっき改善の推定機構を、実験例を用いて説明する。
酸処理工程を経た鋼板は、必要に応じ、酸化雰囲気で加熱される。CGLにおいては、還元焼鈍炉の上流側に設置されたNOF(無酸化炉)やDFF(直火炉)のような加熱炉で、鋼板(鋼帯)を加熱する工程が相当する。近年のCGLでは、NOFやDFFを備えず、鋼板(鋼帯)が還元焼鈍炉に直接入る設備もあり、このような設備では前酸化工程が省略される。すなわち、本発明の製造方法において、前酸化工程は設備の構成に基づいて実施/不実施を判断してもよい任意工程である。
本発明においては、雰囲気や温度等の条件は適宜設定されるべきものであって、めっき直前の鋼板表面が十分に還元され、そのうえで製品鋼板に求められる機械特性を満たすようすればよい。雰囲気は公知のものでよく、例えば水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気とすればよい。なお、この雰囲気における残部は窒素などの不活性気体が主体であり、若干量の水分などを含む。以下では、さらに不めっき改善の観点から、還元焼鈍工程での雰囲気の露点についての好ましい条件を中心に説明する。
加熱初期(鋼板温度が700℃に達するまで)の領域では、加熱雰囲気は、鉄にとって還元性であればよく、特に限定されない。CGLの還元焼鈍炉の気流は、通常、下流から上流側に向かうので、この領域で特に雰囲気を制御しなければ後述する高温域での雰囲気とほぼ同様となる。
この領域では、雰囲気の露点を−15℃以上+30℃以下とするのがよい。露点が低すぎると、得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観及び密着性が若干低下する。一方、極端に高すぎる必要もなく、かえって後続の冷却以降で露点を下げるうえではあまり高すぎない方が好適である。
そもそも、Si含有鋼板に不めっきが生じやすい理由は、前述したように、還元焼鈍過程で鋼板表面にSiの酸化皮膜が形成するためである。そこで、高温域で高露点とすれば、鋼中のSiは鋼板表面に達する前に表面直下の鋼板内部で酸化され、鋼板表面にはSiの酸化皮膜が形成されにくくなる。
高温域で所定温度に保持された鋼板は、その後冷却される。このとき焼鈍炉内の雰囲気は、ガスの基本的な組成(すなわち、還元性雰囲気であること)は高温域と同様でよいが、露点は冷却開始にあわせて下げることが好ましい。冷却域の具体的な露点の範囲は特に限定されないが、上限は高温域の露点とするべきであり、低温域では後述するように露点を−30℃以下に管理することから、冷却域においてもこの範囲に到達していることが好ましい。このような管理を実現する具体的な方法として、前述したように、連続溶融亜鉛めっき設備の還元焼鈍炉内の気流は通常下流から上流に向かうので、例えば、高温域終端付近で高露点ガス(あるいは水蒸気)を吹き込み、冷却帯での冷却ガスやそれ以降の領域で吹き込むガスは低露点とする方法が例示される。
当該領域は、材料の機械特性を安定化させる領域である。この領域で露点が高い場合には、得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の性能が若干劣化することが懸念される。したがって、この領域における雰囲気の露点は−30℃以下にすることが好ましい。
前記加熱工程を経た基材鋼板は、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬され、めっき浴から引き上げられたのち、ガスワイピング等で付着量が制御されて、GIとなる。GAを製造する場合にはさらに合金化処理を行う。めっき浴、鋼板温度、付着量、合金化処理等に係る諸条件は、通常の範囲内で特に制限されず、製品の仕様や要求性能に応じて適宜設定されればよい。以下、好ましい代表的な条件について説明する。
得られた溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、調質圧延されて、機械的特性や表面粗度が調整される。さらに、必要に応じ、耐食性や潤滑性の付与を目的とした後処理(例としてクロメート処理やクロムフリー耐食皮膜形成処理、リン酸塩処理等)がなされる。
次に、本発明に用いる基材鋼板について説明する。なお、鋼組成の説明における「%」は質量%を意味する。
本発明は、Si等を含有する鋼板を対象とするものであるから、まず、最も特徴的な成分であるSi、MnおよびAl(sol.Al)について説明し、続いてその他の成分について説明する。
Siは、延性を損ねず高強度な鋼板を得る上で最も効果的な元素である。Siを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためには、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。例えば引張強度を340Mpa以上とするには、0.5%以上とすればよい。一方、Siが多すぎると、十分なめっき外観が得られない、合金化処理速度が遅くなりすぎるといった不具合が生じる可能性が高まる。したがって、Si含有量は3.0%以下とすることが好ましく、1.5%以下とすればさらに好ましい。
Mnも、鋼の強度向上に寄与する元素である。Mnを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためには、Mn含有量を0.5%以上とすることが好ましい。例えば鋼板の引張強度を340MPa以上にするために0.5%以上含有させればよく、引張強度を980MPa以上にするためには、1.8%以上含有させればよい。一方、Mn含有量が多すぎると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は4.0%以下とすることが好ましく、3.0%以下とすればさらに好ましい。
Alも、鋼の強度上昇に有効な元素である。一方で、Alを含有させると、少量の含有で不めっきを生じやすい。主としてAlによって鋼の強度を高める場合でも3.0%以下とすることが好ましく、1.0%以下とすることがさらに好ましい。また、他の成分や製造条件の調整で必要な機械特性が得られるのであれば、Alは極力少ないのが好ましく、0.01%以下とするのがよい。Al含有量の下限は特に設定されない。
Cは,高強度を得る上で重要な成分である。C含有量が少なすぎると十分な強度が得られない。一方、C含有量が多すぎると靱性や溶接性が低下する。そこで、本発明では、C含有量は0.05%以上0.30%以下とするのが好ましい。
Pは,鋼板の高強度化に有効な成分であるが、反面、靱性を劣化させる。また、合金化処理速度も遅延させる。Si等他の成分の含有により必要な強度が得られるのであれば、Pは少ない方がよく0.1%以下とするのが好ましい。
Sは、鋼中でMnSとなって一般に曲げ性を劣化させる。そこで、Sは0.01%以下とするのが好ましい。
Nは、連続鋳造中に窒化物を形成してスラブのひび割れの原因となるので、N含有量は低い方が好ましい。従って、N含有量は0.01%以下とする。
Ti、NbおよびVは、還元焼鈍工程において鋼の再結晶を遅らせて結晶粒を微細化させるので、鋼の高強度化にも有効である。したがって、これらの元素の一種または二種以上を必要に応じて含有させてもよい。しかし、この効果は、Ti含有量が0.25%を超え、Nb含有量が0.25%を超え、またはV含有量が0.25%を超えると、飽和してコスト的に不利となる。そのため、Ti含有量は0.25%以下、Nb含有量は0.25%以下、V含有量は0.25%以下とする。例えば、980MPa以上の引張強度をより安定的に確保するためには、Ti、Nb、Vの何れかの元素の含有量は0.003%以上であることが好ましい。
CrおよびMoは、何れもMnと同様にオ−ステナイトを安定化することで変態強化を促進する働きがあり、鋼板の高強度化に有効であるので、必要に応じてこれらの1種または2種を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはそれぞれについて0.2%以上含有させることが好ましい。しかしながら、これらの元素の含有量の合計が1%を超えると、加工性が低下する可能性が高まる。したがって、Crおよび/またはMoを含有させる場合には、これらの元素の含有量の合計を1%以下とすることが好ましい。
CuおよびNiは、腐食抑制効果があり、表面に濃化して水素の侵入を抑え、遅れ破壊を抑制する働きがあるので、必要に応じてこれらの1種または2種を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはそれぞれについて0.2%以上含有させることが好ましい。しかし、何れの元素についても、その含有量が1%を超えるとこの効果は飽和しコスト的に不利となる。したがって、Cuおよび/またはNiを含有させる場合には、これらの元素の含有量をそれぞれ1%以下とすることが好ましい。
Ca、Mg、REMおよびZrは、いずれも鋼中の介在物の微細分散化に寄与し、曲げ性をさらに向上させるため、必要に応じてこれらの1種または2種以上を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはこれらの元素の合計含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、これらの元素を過剰に含有すると表面性状が劣化する。したがって、Ca、Mg、REMおよびZrからなる群から選ばれる1種または2種以上を含有させる場合には、これらの元素の含有量をそれぞれ0.01%以下とすることが好ましい。
Bは、粒界からの核生成を抑え、焼き入れ性を高めて高強度化に寄与する。したがって、必要に応じてBを含有させてもよい。Bを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはその含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。ただし過剰に含有しても効果が飽和する。したがって、Bを含有させる場合には、その含有量を0.01%以下とすることが好ましい。
Biは、その含有によって凝固組織が微細化し、例えば高強度化のためMnを多量に含有させても組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制される。したがって、所望の曲げ性を確保するために、含有させてもよい。Biを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはその含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。ただし、Bi含有量が0.005%を超えると曲げ加工性が飽和するため、Biを含有させる場合であっても、その含有量を0.005%以下とすることが好ましい。
基材鋼板は、熱間圧延鋼板でも冷間圧延鋼板でも構わない。また熱間圧延、冷間圧延等に係る条件も、所望の機械特性その他の性能が得られるように適宜選択されればよい。
別の観点から、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき皮膜を溶解除去した後の基材表面に占めるSi系酸化物(Siを含有する酸化物)の占有率が70面積%以下である。このような溶融亜鉛めっき鋼板は不めっきが抑制され、めっき外観が良好である。さらに、Si系酸化物の占有率を20面積%以下とすれば、良好な外観及び合金化処理性が安定して得られるので好ましい。
表3に示す組成の鋼スラブを1200℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃となるよう熱間圧延し、巻取温度550℃で巻き取った。熱延鋼板の厚みは3mmとした。次いでこの熱延鋼板を酸洗した後、これを板厚1.6mmまで冷間圧延し、この冷間圧延鋼板を本実施例の基材とした。
得られたGIのめっき面を観察し、不めっき部の存在状態により以下の基準で評価し、「△」および「○」を合格と判定した。
○(優)…最大径0.5mm以上の不めっき部が観察されない、
△(良)…最大径0.5mm以上の不めっき部が10個所未満、
×(不良)…最大径0.5mm以上の不めっき部が10か所以上。
GIを500℃の溶融塩に浸漬し、合金化度が約10質量%となる時間を測定して以下の基準で評価し、「△」および「○」を合格と判定した。
○(処理性良好):60秒間未満、
△(処理性やや良好):60秒間以上120秒間未満、
×(処理性不良):120秒間以上。
前記の溶融塩浸漬により合金化度を約10質量%としたGAサンプルを用いて、円筒絞り成形後の成形サンプル側壁のめっき剥離状況により評価した。
円筒絞り条件および評価基準(「△」および「○」を合格と判定した。)は、以下のとおりである。
(円筒絞り条件)
ブランク直径:90mm、
絞り高さ:25mm、
潤滑油:一般防錆油(Nox−Rust550HN;パーカー興産(株))
(評価基準)
○:パウダリング剥離量が50mg未満。
△:パウダリング剥離量が50mg以上100mg以下、
×:パウダリング剥離量が100mg超、
前記の溶融塩浸漬により合金化度を約10%としたGAサンプルについて、インヒビター(朝日化学工業(株) 700BK)を3ml/L含有する10%塩酸を用いて、めっき皮膜を溶解除去した。残った基材鋼板を水洗乾燥したのち、FE−SEMにてめっき除去後の基材の表面を観察(加速電圧8kV 二次電子像)し、Si系酸化物の占有率を評価した。
図2(a)および(b)は、それぞれ表5のNo.22、No.18について、めっき除去後の基材表面を観察したものである。図2で黒っぽく観察される個所をEDXで分析すると、Si系(Al、Mn等も含む)の酸化物であったことから、視野中にこのように黒っぽく観察される面積割合を、Si系酸化物の占有率とした。なお、図2(a)では占有率を95%、図2(b)では15%と評価した。
Claims (5)
- 鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下およびsol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
めっき前の基材鋼板を、ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩、ならびに水中でこれらを形成可能な物質からなる群から選ばれるヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有する水系酸性液状組成物と接触させる酸処理工程と、
前記酸処理工程を経た基材鋼板を、水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気中で700℃以上に加熱することを含む還元焼鈍工程と、
該加熱工程に引き続き、基材鋼板に溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき工程と、
を備える、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。 - 前記水系酸性液状組成物は、FeおよびFeイオンの少なくとも一方を含む水溶性物質をFe換算液中濃度として0.01質量%以上含有するものである、請求項1記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記水系酸性液状組成物は、硝酸または硝酸イオンを含む物質を硝酸換算液中濃度として0.1質量%以上含有するものである、請求項1または2記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記還元焼鈍工程において、前記鋼板が700℃以上の温度域にあるときには前記雰囲気の露点を−15℃以上とすることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により製造された溶融亜鉛めっき鋼板であって、めっき皮膜を溶解除去した後の基材表面に占めるSi系酸化物の占有率が70面積%以下である、溶融亜鉛めっき鋼板。
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