JP7054067B2 - 高強度冷延鋼板、その製造方法、および水処理剤 - Google Patents
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鋼板の高強度化には、Si、Mn等の固溶強化元素の添加が有効である。しかし、これらの元素はFeよりも易酸化性であるため、これらを多量に含有する高強度鋼板の製造において、以下のような問題が生じる。
特許文献1には、鋼板をFe酸化雰囲気中で400℃以上に加熱して鋼板表面にFe酸化膜を形成させた後、これをFe還元雰囲気中で還元することにより、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する方法が提案されている。
特許文献2には、鋼板をFe酸化雰囲気中で酸化処理した後、所定の還元雰囲気で焼鈍する方法であって、酸化処理後におけるFe酸化量及び最終的に表面に形成される還元Feの被覆面積率を制御することにより、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する方法が提案されている。
特許文献3には、鋼板内部にSi酸化物を形成させ、最終的な鋼板表面におけるSi酸化物形成を抑制することで、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善するようにした技術が提案されている。
特許文献1、2の方法は、鋼板をFe酸化雰囲気中で加熱するための設備が必要であり、そのような設備の新設には多大なコストがかかる。また、鋼板のSi含有量が多い場合(例えば0.5質量%以上の場合)、Fe酸化雰囲気中で加熱する際にSiが優先的に酸化され、生成したSi系酸化物がFeの酸化を阻害することによりFe酸化物の生成量が減少する。この結果、Fe還元雰囲気中での加熱時に生成する還元Feの減少及び表面Si系酸化物の生成を招き、十分な化成処理性を得られない場合がある。
また、特許文献3の技術は、熱間圧延時に高温巻き取りを行うことにより、巻き取り後の鋼板内部でのSi酸化物形成を促進するものであるが、巻き取られたコイルの内外周で冷却速度に差が生じるため、コイル全長において均一な表面品質を得るのが難しいという問題がある。
[1]Si又は/及びMnを含有する高強度冷延鋼板の製造方法であって、
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板の表面に付着させる溶液処理工程と、
該溶液処理工程を経た鋼板を、H2濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、化成処理用の高強度冷延鋼板を製造することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[3]上記[1]又は[2]の製造方法において、鋼板が、質量%で、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程に導入することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[6]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を加熱処理した後、焼鈍工程に導入することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[7]上記[1]~[6]のいずれかの製造方法において、連続焼鈍ラインにおいて、溶液処理工程と焼鈍工程が連続して行われることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[9]上記[8]の製造方法において、鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[10]上記[8]又は[9]の製造方法において、鋼板が、さらに、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[12]上記[11]の製造方法において、化成処理工程では、鋼板をリン酸塩処理することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[13]上記[11]の製造方法において、化成処理工程では、鋼板を黒染め処理することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[14]Si又は/及びMnを含有する高強度冷延鋼板であって、
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板表面に付着させる溶液処理工程と、該溶液処理工程を経た鋼板をH2濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を経ることにより生成した還元鉄により、鋼板表面が覆われていることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[16]上記[14]又は[15]の高強度冷延鋼板において、鋼板表面を覆う還元鉄のFe付着量が0.1~10.0g/m2であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[17]上記[14]~[16]のいずれかの高強度冷延鋼板において、鋼板が、質量%で、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[18]上記[17]の高強度冷延鋼板において、鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[20]上記[14]~[19]のいずれかの高強度冷延鋼板において、鋼板表面を覆う還元鉄の上部に化成処理皮膜を有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[21]上記[20]の高強度冷延鋼板において、化成処理皮膜がリン酸塩皮膜であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[22]上記[20]の高強度冷延鋼板において、化成処理皮膜が黒染め処理によるFe3O4皮膜であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[23]化成処理用鋼板の化成処理性改善のための溶液処理に用いる水性処理剤であって、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなることを特徴とする溶液処理用の水性処理剤。
なお、本発明により製造される高強度冷延鋼板の好ましい成分組成などについては、後に詳述する。
この溶液処理工程(A)は、必要に応じて鋼板表面を公知の方法で脱脂、洗浄した後に実施する。この溶液処理工程(A)において鋼板表面に付着させる水溶液(x)は、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体(以下、説明の便宜上、単に「Fe錯体」という場合がある。)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液であり、鋼板表面に付着した水溶液(x)に含まれるFe分(Fe錯体)は、続く焼鈍工程(B)の加熱初期などにおいて鋼板表面に形成させるFe酸化物皮膜の主たる鉄源となる。
なお、上記のように硝酸は鋼板表面を溶解させるため、鋼板由来のFeイオンが皮膜中に含まれる場合がある。すなわち、鋼板表面に形成されるFe酸化物皮膜の主たるFe源は水溶液(x)中のFe錯体であるが、水溶液(x)中の硝酸成分により鋼板表面のFeが酸化され、このFe酸化物が皮膜の一部として含まれる場合がある。
この水溶液(x)は、水溶液中において、アセチルアセトン及びその誘導体は分子内に有する2つの酸素原子部位でFe原子をキャップする形で結合し、形成したFe錯体は反応性の低い炭素骨格が外側になることから分子間重合反応を生じにくく、スラッジ発生等の観点から浴管理も比較的容易である。
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体のFe換算での濃度が0.1質量%未満では、加熱過程で形成されるFe酸化物量が不十分となり、良好な化成処理性が得られない。また、以上の観点から、より好ましいFe錯体の濃度(Fe換算)は1.0質量%以上である。
ここで、水溶液(x)でのFe錯体の濃度(Fe換算)は、ICP質量分析法により測定されたものである。
硝酸は、本発明の水溶液(x)において液膜がゲル化する際の重合反応の触媒的役割を果たす成分であり、その濃度が0.5質量%未満では、ゲル化が安定的に生じず、良好な化成処理性が得られない場合がある。また、以上の観点から、より好ましい硝酸の濃度は5.0質量%以上である。
一方、各成分の上限は特になく、コスト的な不利を生じないように効果が飽和する濃度を上限とすればよいが、一般的には、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体はFe換算での濃度が20質量%程度で、硝酸は20質量%程度で、それぞれ効果が飽和するので、これらを上限としてもよい。また、酢酸は主に溶媒としての役割であることから、単独での上限はなく、Fe錯体及び硝酸の下限濃度によって上限が決まる。
なお、このFe付着量は、水溶液(x)中のFe錯体濃度、鋼板表面での水溶液(x)の付着量を変えることにより調整することができる。
表2に示す条件(a)~(d)のうち、(b)、(d)は本発明条件を満足する水溶液で溶液処理を行った試験例、(a)、(c)は硝酸を含まない水溶液(本発明条件を満足しない水溶液)で溶液処理を行った試験例であり、この(a)、(c)では、水溶液が硝酸を含まないため加熱初期における液膜のゲル化は生じない。また、(a)~(b)のうち、(a)、(b)は溶液処理後の加熱処理を鋼板温度が400℃になった時点で停止、急冷したものであり、(c)、(d)は鋼板温度が800℃になった時点で加熱を停止、急冷したものである。
水溶液(x)を鋼板表面に付着させる方法は特に限定されず、例えば、バーコータ―、スプレー、浸漬、スピンコート、ロールコーターなどの方法を用いることができる。
したがって、例えば、連続焼鈍ラインにおいて溶液処理工程(A)と焼鈍工程(B)が連続して行われる場合には、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)(液膜)が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程(B)に導入してもよいし、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)が付着した鋼板を適当な加熱手段で加熱処理した後、焼鈍工程(B)に導入してもよい。
焼鈍工程(B)では、溶液処理工程(A)を経た鋼板を、H2濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理し、その後、所定の温度まで冷却する。この焼鈍工程(B)では、上述したように加熱初期の比較的低温域(例えば400℃程度)において水溶液(x)の液膜を皮膜化し、鋼板表面にFe酸化物皮膜を形成させることができるが、続く最高到達温度までの加熱においてFe酸化物皮膜を還元して還元鉄とする。この焼鈍工程(B)では、鋼板表面に均質かつ均一な厚さで形成されたFe酸化物皮膜が最終的に還元されるので、未還元のFe酸化物が残存することなく、鋼板表面全体が還元鉄で均一に覆われた状態となる。
還元性雰囲気の露点は10℃未満、好ましくは0℃以下とする。露点が10℃以上ではFeの酸化が生じる懸念がある。なお、露点の下限は特にないが、工業的に-60℃未満の露点は実施が難しいことから、-60℃程度が実質的な下限となる。
焼鈍工程(B)後の鋼板の冷却条件は特に制限はなく、材質設計等の必要に応じて冷却速度や冷却停止温度を決めればよい。
本発明の製造方法は、さらに、焼鈍工程(B)を経た鋼板を化成処理する化成処理工程(C)を有することができる。この化成処理工程(C)では、さきに述べた理由により、化成処理皮膜の生成反応が適正化され、優れた化成処理性が得られる。
化成処理の種類は特に制限はないが、リン酸亜鉛処理などのリン酸塩処理が代表的なものとして挙げられる。また、その他にも、例えば、鋼板表面に黒色皮膜であるFe3O4皮膜を形成させる黒染め処理などを適用することもできる。
なお、本発明の製造方法は、上述したように全部の工程を連続設備(例えば、連続焼鈍ライン)で実施してもよいし、各工程を別々の独立した設備でそれぞれ単独で実施し、或いは一部の工程を独立した設備で単独で実施してもよい。
本発明が製造の対象とする高強度冷延鋼板は、固溶強化元素としてSi又は/及びMnを含有する鋼板であり、一般に引張強さTSが340MPa以上の高強度鋼板である。また、そのなかでも、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有する鋼板が焼鈍時にSi、Mnの選択酸化を生じやすいので、そのような成分組成の鋼板を対象とすることが好ましい。
Cはオーステナイト安定化元素であり、強度と延性の向上に有効な元素である。このような効果を得るために、C含有量は0.040%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.500%を超えると、溶接性の劣化が著しく、また、過度に硬質化したマルテンサイト相によって優れた強度-伸びバランスが得られない場合がある。このためC含有量は0.500%以下とすることが好ましい。
・Si:0.10~3.00%
Siはフェライト安定化元素であり、また、鋼の固溶強化に有効であり、強度と伸びのバランスを向上させる元素である。このような効果を得るために、Si含有量は0.10%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が3.00%を超えると、本発明を適用しても焼鈍中に鋼板表面でSiが酸化物を形成し、化成処理時に局所的な未反応部(以下、これを「スケ」という)が発生することで化成処理性を劣化させるおそれがある。このためSi含有量は3.0%以下とすることが好ましい。
Mnは、オーステナイト安定化元素であり、焼鈍板の強度確保に有効な元素である。この強度確保のためには、Mn含有量は0.50%以上とすることが好ましい。ただし、Mn含有量が5.00%を超えると、本発明を適用しても焼鈍中に鋼板表面で多量の酸化物を形成し、化成処理時にスケが発生することで化成処理性を劣化させるおそれがある。このためMn含有量は5.00%以下とすることが好ましい。
・P:0.100%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、含有量が多すぎると粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させるおそれがある。このためP含有量は0.100%以下とすることが好ましい。なお、鋼の強化の観点からは、P含有量は0.001%以上であることが好ましい。
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となる。このため、S含有量は極力低い方がよく、0.0100%以下とすることが好ましい。
・Al:0.100%以下
Alの過剰な添加は、酸化物系介在物の増加による表面性状や成形性の劣化を招き、また、コスト高にもつながる。このためAl含有量は0.100%以下とすることが好ましく、0.050%以下とすることがより好ましい。
・N:0.0100%以下
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素であるので、N含有量は少ないほど好ましく、0.0100%以下とすることが好ましい。
Tiは鋼板中でCやNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.100%を超えるとこの効果が飽和するので、Ti含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
・Nb:0.010~0.100%
Nbは固溶強化や析出強化により強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、Nb含有量は0.010%以上とすることが好ましい。一方、Nbの含有量が0.100%を超えると鋼板の延性を低下させ、加工性が劣化する場合があるので、Nb含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
・B:0.0001~0.0050%
Bは焼入れ性を高め、鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Bを過剰に含有すると延性の低下を招き、加工性が劣化する場合がある。また、Bの過剰な含有はコストアップの原因ともなる。このためB含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。
Moは、鋼の焼入れ性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するので、焼鈍板の強度確保に有効な元素である。強度確保の観点から、Mo含有量は0.01%以上とすることが好ましい。一方、Moは合金コストが高いため、添加量が多いとコストアップの要因になるので、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
・Cr:1.00%以下
Crは、鋼の焼入れ性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するので、焼鈍板の強度確保に有効な元素であるが、添加量が多すぎると化成処理性を劣化させる場合がある。このためCr含有量は1.00%以下とすることが好ましい。
Ni、Cu、Vは鋼の強化に有効な元素であるが、過剰に添加すると著しい強度上昇による延性の低下が生じる場合があり、また、これらの元素の過剰な添加は、コストアップの要因にもなる。このため、これらの元素を添加する場合には、Ni含有量は0.50%以下、Cu含有量は1.00%以下、V含有量は0.500%以下とすることが好ましい。なお、鋼を強化するためには、Ni含有量は0.05%以上、Cu含有量は0.05%以上、V含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
・Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下
SbとSnには、鋼板表面付近の窒化を抑制する作用があるが、過剰に添加しても効果が飽和する。このため、これらの元素を添加する場合には、Sb含有量は0.10%以下、Sn含有量は0.10%以下とすることが好ましい。なお、窒化の抑制のためには、Sb含有量は0.005%以上、Sn含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
Caには、MnSなど硫化物の形状制御によって延性を向上させる効果があるが、過剰に添加しても上記効果は飽和するため、Ca含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Ca含有量は0.0010%以上とすることが好ましい。
・REM:0.010%以下
REM(レアアースメタル:希土類金属)は、硫化物系介在物の形態を制御し、加工性の向上に寄与するが、過剰に添加すると介在物の増加を引き起こし、加工性を劣化させる場合があるので、REM含有量は0.010%以下とすることが好ましい。なお、加工性向上の効果を得るためには、REM含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
以上述べた基本成分および任意添加成分以外の残部はFe及び不可避的不純物である。
本発明の溶液処理工程(A)において使用される水溶液(x)は、化成処理用鋼板の化成処理性改善のための溶液処理に用いる水性処理剤であり、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなる水性処理剤である。この水性処理剤の好ましい組成などは、さきに水溶液(x)について述べた通りである。
表3に示す成分組成を有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を溶製してスラブとした。このスラブを1200℃まで加熱して熱間圧延し、巻き取りを実施した。この熱延板を酸洗し、圧下率50%で冷間圧延を行った。得られた冷延鋼板について、表4~表6に示す条件にて溶液処理工程と焼鈍工程を順次実施した。
溶液処理工程では、ロールコーターにより鋼板表面に水溶液を塗布した。Fe付着量は水溶液中のFe濃度、またはロールギャップ及びロール周速を調整して液膜厚さを変えることにより制御した。なお、Fe付着量は水溶液を塗布した後、乾燥させた鋼板の蛍光X線分析により定量した。
焼鈍工程は、雰囲気調整が可能な炉において実施し、溶液処理工程で水溶液が塗布された鋼板を、そのまま液膜を有する状態で炉に入れ、焼鈍を行った。
鋼板から70mm×150mmサイズの試験片を採取し、脱脂剤(日本ペイント(株)製「サーフクリーナーEC90」(商品名))で脱脂し、水洗した後、表面調整剤(日本ペイント(株)製「5N-10」(商品名))で30秒間表面調整を行い、しかる後、リン酸亜鉛処理液(日本ペイント(株)製「サーフダインEC1000」(商品名))に浸漬して温度40℃で90秒の処理を行い、水洗・乾燥した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、化成皮膜を倍率1000で無作為に5視野を観察し、リン酸亜鉛結晶で覆われている面積率(被覆率)を評価した。また、視野内のリン酸亜鉛結晶を無作為に10個選び、平均結晶サイズを求めた。得られた結果を元に、化成処理性を下記の判定基準に従い3段階で評価した。
◎:特に良好(被覆率100%、平均結晶サイズ3μm以下)
○:良好(被覆率100%、平均結晶サイズ3μm超)
×:不十分(被覆率100%未満)
表4~表6によれば、本発明例の高強度冷延鋼板は、いずれも化成処理性に優れていることが判る。これに対して比較例の高強度冷延鋼板は、化成処理性が劣っている。
実施例1と同様の条件で得られた冷延鋼板に、表7及び表8に示す条件にて溶液処理工程と焼鈍工程を順次実施した。溶液処理工程と焼鈍工程の実施方法、溶液処理によるFe付着量の定量方法は[実施例1]と同様とした。
以上のようにして得られた冷延鋼板について、以下に示す方法で化成処理を施し、化成処理性を評価した。
鋼板から70mm×150mmサイズの試験片を採取し、脱脂剤(日本ペイント(株)製「サーフクリーナーEC90」(商品名))で脱脂し、水洗した後、鉄黒染め剤(メルテックス(株)製「エボノール S-34」(商品名))に浸漬し、液温140℃で1200秒の処理を行い、水洗・乾燥した。
◎:特に良好(Lave:30未満、Lmax-Lmin:10未満)
○:良好(Lave:30未満、Lmax-Lmin:10以上)
×:不十分(Lave:30以上)
表7及び表8によれば、本発明例の高強度冷延鋼板は、いずれも化成処理性に優れていることが判る。これに対して比較例の高強度冷延鋼板は、化成処理性が劣っている。
Claims (13)
- 化成処理して使用される冷延鋼板であって、Si又は/及びMnを含有する引張強さTSが340MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法であり、
トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板の表面に付着させる溶液処理工程と、
該溶液処理工程を経た鋼板を、H2濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。 - 鋼板が、質量%で、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 溶液処理工程で付着した水溶液による鋼板表面のFe付着量が0.1~10.0g/m2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程に導入することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を加熱処理した後、焼鈍工程に導入することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 連続焼鈍ラインにおいて、溶液処理工程と焼鈍工程が連続して行われることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 鋼板が、質量%で、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項7に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 鋼板が、さらに、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- さらに、焼鈍工程を経た鋼板を化成処理する化成処理工程を有することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 化成処理工程では、鋼板をリン酸塩処理することを特徴とする請求項10に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 化成処理工程では、鋼板を黒染め処理することを特徴とする請求項10に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
- 請求項1~12のいずれかに記載の製造方法における溶液処理工程で用いる水溶液であって、
トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなることを特徴とする溶液処理用の水性処理剤。
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