JP7054067B2 - 高強度冷延鋼板、その製造方法、および水処理剤 - Google Patents

高強度冷延鋼板、その製造方法、および水処理剤 Download PDF

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Description

本発明は、リン酸塩処理や黒染め処理などの化成処理を施して使用される高強度冷延鋼板の製造方法、特に、リン酸塩処理などの化成処理を施した後、塗装して使用される自動車部材用途に好適な高強度冷延鋼板の製造方法に関する。
近年、CO排出量の削減のために自動車の燃費改善が強く求められている。これに伴い、車体部品の薄肉化による車体軽量化の動きが活発となってきており、車体部品材料である鋼板の高強度化ニーズが高まっている。
鋼板の高強度化には、Si、Mn等の固溶強化元素の添加が有効である。しかし、これらの元素はFeよりも易酸化性であるため、これらを多量に含有する高強度鋼板の製造において、以下のような問題が生じる。
通常、高強度鋼板を製造する場合、冷延鋼板を非酸化性雰囲気又は還元性雰囲気中において600~900℃程度の温度で加熱焼鈍することによって材質調整を行う。この加熱焼鈍において、鋼中のSi、Mn等の易酸化性元素は、一般的に用いられる非酸化性雰囲気や還元性雰囲気中においても選択酸化され、鋼板表面に濃化して酸化物を形成する。一般に自動車部材用途の鋼板には、塗装前処理としてリン酸塩処理などの化成処理が施されるが、上記酸化物は化成処理による化成処理皮膜の生成反応を阻害し、化成処理性を著しく劣化させる。冷延鋼板の化成処理は、塗装後耐食性を確保するための重要な処理の一つであることから、高強度冷延鋼板における化成処理性の改善は重量な課題である。
従来、高強度鋼板の化成処理性を改善するために、例えば、以下のような提案がなされている。
特許文献1には、鋼板をFe酸化雰囲気中で400℃以上に加熱して鋼板表面にFe酸化膜を形成させた後、これをFe還元雰囲気中で還元することにより、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する方法が提案されている。
特許文献2には、鋼板をFe酸化雰囲気中で酸化処理した後、所定の還元雰囲気で焼鈍する方法であって、酸化処理後におけるFe酸化量及び最終的に表面に形成される還元Feの被覆面積率を制御することにより、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善する方法が提案されている。
特許文献3には、鋼板内部にSi酸化物を形成させ、最終的な鋼板表面におけるSi酸化物形成を抑制することで、高強度冷延鋼板の化成処理性を改善するようにした技術が提案されている。
特開2006-45615号公報 国際公開第2011/078412号 特許第3386657号公報
しかしながら、上述した従来技術には、それぞれ以下のような問題がある。
特許文献1、2の方法は、鋼板をFe酸化雰囲気中で加熱するための設備が必要であり、そのような設備の新設には多大なコストがかかる。また、鋼板のSi含有量が多い場合(例えば0.5質量%以上の場合)、Fe酸化雰囲気中で加熱する際にSiが優先的に酸化され、生成したSi系酸化物がFeの酸化を阻害することによりFe酸化物の生成量が減少する。この結果、Fe還元雰囲気中での加熱時に生成する還元Feの減少及び表面Si系酸化物の生成を招き、十分な化成処理性を得られない場合がある。
また、特許文献3の技術は、熱間圧延時に高温巻き取りを行うことにより、巻き取り後の鋼板内部でのSi酸化物形成を促進するものであるが、巻き取られたコイルの内外周で冷却速度に差が生じるため、コイル全長において均一な表面品質を得るのが難しいという問題がある。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、固溶強化元素としてSi、Mnが添加された高強度冷延鋼板を製造する方法において、加熱焼鈍におけるSi、Mnの選択酸化を効果的に抑制し、冷延鋼板の化成処理性を改善することができる製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を解決すべく、鋭意検討及び研究を重ねた結果、事前に鋼板に対して、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子として有するFe錯体、酢酸及び硝酸を所定の濃度で含有する水溶液を付着させる溶液処理を施した後、Fe還元性雰囲気中で加熱焼鈍することにより、この加熱焼鈍におけるSi、Mnの選択酸化が効果的に抑制され、化成処理性に優れた高強度冷延鋼板が得られることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]Si又は/及びMnを含有する高強度冷延鋼板の製造方法であって、
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板の表面に付着させる溶液処理工程と、
該溶液処理工程を経た鋼板を、H濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、化成処理用の高強度冷延鋼板を製造することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[3]上記[1]又は[2]の製造方法において、鋼板が、質量%で、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[4]上記[1]~[3]のいずれかの製造方法において、溶液処理工程で付着した水溶液による鋼板表面のFe付着量が0.1~10.0g/mであることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程に導入することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[6]上記[1]~[4]のいずれかの製造方法において、溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を加熱処理した後、焼鈍工程に導入することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[7]上記[1]~[6]のいずれかの製造方法において、連続焼鈍ラインにおいて、溶液処理工程と焼鈍工程が連続して行われることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれかの製造方法において、鋼板が、質量%で、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[9]上記[8]の製造方法において、鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[10]上記[8]又は[9]の製造方法において、鋼板が、さらに、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[11]上記[1]~[10]のいずれかの製造方法において、さらに、焼鈍工程を経た鋼板を化成処理する化成処理工程を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[12]上記[11]の製造方法において、化成処理工程では、鋼板をリン酸塩処理することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[13]上記[11]の製造方法において、化成処理工程では、鋼板を黒染め処理することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
[14]Si又は/及びMnを含有する高強度冷延鋼板であって、
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板表面に付着させる溶液処理工程と、該溶液処理工程を経た鋼板をH濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を経ることにより生成した還元鉄により、鋼板表面が覆われていることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[15]上記[14]の高強度冷延鋼板において、鋼板が、質量%で、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[16]上記[14]又は[15]の高強度冷延鋼板において、鋼板表面を覆う還元鉄のFe付着量が0.1~10.0g/mであることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[17]上記[14]~[16]のいずれかの高強度冷延鋼板において、鋼板が、質量%で、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[18]上記[17]の高強度冷延鋼板において、鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[19]上記[17]又は[18]の高強度冷延鋼板において、鋼板が、さらに、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[20]上記[14]~[19]のいずれかの高強度冷延鋼板において、鋼板表面を覆う還元鉄の上部に化成処理皮膜を有することを特徴とする高強度冷延鋼板。
[21]上記[20]の高強度冷延鋼板において、化成処理皮膜がリン酸塩皮膜であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[22]上記[20]の高強度冷延鋼板において、化成処理皮膜が黒染め処理によるFe皮膜であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
[23]化成処理用鋼板の化成処理性改善のための溶液処理に用いる水性処理剤であって、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなることを特徴とする溶液処理用の水性処理剤。
本発明によれば、易酸化性元素であるSi、Mnを含有する高強度冷延鋼板の製造において、加熱焼鈍におけるSi、Mnの選択酸化を効果的に抑制し、化成処理性に優れた鋼板を製造することができる。本発明により製造された高強度冷延鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することで車体軽量化による燃費改善を図ることができる。
表2に示す条件(a)~(d)で溶液処理及び加熱処理を行った鋼板の表面外観の拡大写真
本発明は、易酸化性元素であるSi又は/及びMnを含有する高強度冷延鋼板の製造方法であって、鋼板の表面に、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体と硝酸と酢酸を所定の濃度で含有する水溶液(x)を付着させる溶液処理工程(A)と、この溶液処理工程(A)を経た鋼板を還元性雰囲気中において加熱処理する焼鈍工程(B)を有する。
なお、本発明により製造される高強度冷延鋼板の好ましい成分組成などについては、後に詳述する。
・溶液処理工程(A)
この溶液処理工程(A)は、必要に応じて鋼板表面を公知の方法で脱脂、洗浄した後に実施する。この溶液処理工程(A)において鋼板表面に付着させる水溶液(x)は、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体(以下、説明の便宜上、単に「Fe錯体」という場合がある。)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液であり、鋼板表面に付着した水溶液(x)に含まれるFe分(Fe錯体)は、続く焼鈍工程(B)の加熱初期などにおいて鋼板表面に形成させるFe酸化物皮膜の主たる鉄源となる。
本発明において、上記のような特定の成分と濃度の水溶液(x)を用いるのは、ゾル-ゲル法と呼ばれる手法で皮膜形成させることにより、均質かつ均一な厚さのFe酸化物皮膜を形成するためである。すなわち、鋼板表面に付着した水溶液(x)の液膜(ゾル)は、時間経過及び温度上昇に伴って溶媒が蒸発・分解するが、その際に、単に液膜中の溶媒が蒸発して溶質が析出するのではなく、液膜中成分の凝集や重合によって液膜全体が次第に流動性を失い、Fe化合物を含有した皮膜(ゲル)となり、このゲル状皮膜となる過程を経て皮膜(Fe酸化物皮膜)形成がなされるので、均質かつ均一な厚さのFe酸化物皮膜を形成することができ、Fe付着量制御も比較的容易に行うことができる。このようなゲル状皮膜となる過程を経てFe酸化物皮膜を形成するには、焼鈍工程(B)での加熱初期の温度を利用することができるが、その皮膜形成の一部又は全部が、焼鈍工程(B)の前に行われる加熱処理でなされるようにしてもよい。以上の結果、焼鈍工程(B)において、鋼板全面に亘ってSi、Mnの選択酸化が適切に抑制されるとともに、均質かつ均一な厚さのFe酸化物皮膜の還元で生成した還元鉄で鋼板表面が覆われることにより、リン酸塩処理や黒染め処理などの化成処理時の反応性を向上させることができる。
また、上述したような一連の皮膜形成が焼鈍工程(B)内でなされる場合には、まず、焼鈍工程(B)の初期加熱において、鋼板表面に付着した水溶液(x)の液膜(ゾル)がゲル状皮膜化し、さらにこのゲル状皮膜の分解が生じることにより、鋼板全面に亘って均質かつ均一な厚さのFe酸化物皮膜が形成され、その後の焼鈍過程において、このFe酸化物皮膜の還元が生じる。このようにFe酸化物皮膜の形成とその還元が連続的に生じるため、焼鈍工程(B)におけるSi、Mnの選択酸化の抑制と、鋼板表面を覆う均質かつ均一な厚さの還元鉄皮膜の生成がより確実になされ、鋼板の化成処理性を向上させることができる。
ここで、溶液処理用の水溶液(x)の成分について説明すると、まず、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体は、焼鈍工程(B)において生成するFe酸化物の鉄及び酸素源となる。このFe錯体は、Fe原子1つに対して配位子のアセチルアセトン3分子が配位した構造を持ち、また、アセチルアセトンは全てO原子でFeと結合している。したがって、例えば、焼鈍工程(B)においてFe酸化物皮膜が形成される場合を考えると、上記ゲル状皮膜中の炭化水素部分は分解するが、Fe-O結合部分が残るため、Fe還元性雰囲気中であってもFe酸化物皮膜が生成するものと考えられる。また、酢酸と硝酸はいずれも皮膜形成過程において液膜を安定的にゲル化させるのに寄与するものと考えられる。さらに、硝酸はFeに対する酸化剤としても作用し、鋼板表面を溶解させるため、鋼板表面が活性となり、ゲル状皮膜の密着性安定化に寄与する。したがって、水溶液(x)はこれら3成分を所定の濃度で含有することが重要である。
なお、上記のように硝酸は鋼板表面を溶解させるため、鋼板由来のFeイオンが皮膜中に含まれる場合がある。すなわち、鋼板表面に形成されるFe酸化物皮膜の主たるFe源は水溶液(x)中のFe錯体であるが、水溶液(x)中の硝酸成分により鋼板表面のFeが酸化され、このFe酸化物が皮膜の一部として含まれる場合がある。
水溶液(x)に含まれるFe錯体が配位子として有するアセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体とは、分子内に2,4-ペンタンジオン骨格を有する化合物であり、金属イオンに対して二座配位子として振る舞い、非常に安定な金属錯体を形成する。本発明で使用されるアセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子とするFe錯体の種類は、工業的に利用可能なものであれば特に限定されないが、水溶性や後の焼鈍工程における不純物低減の観点から比較的低分子量のものが好ましく、例えば、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ヘキサンジオナト)鉄(III)、トリス(2,4-ヘプタンジオナト)鉄(III)、トリス(3,5-ヘプタンジオナト)鉄(III)などが好適であり、これらの1種以上を用いることができる。また、そのなかでも、分子量が最も低く、かつ安価な原料であるトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)が特に好適である。
水溶液(x)にFe錯体を含有させるには、Fe錯体を直接水溶液中に溶解させてもよいし、配位子とFe化合物を水中で混合してFe錯体を形成させてもよい。
この水溶液(x)は、水溶液中において、アセチルアセトン及びその誘導体は分子内に有する2つの酸素原子部位でFe原子をキャップする形で結合し、形成したFe錯体は反応性の低い炭素骨格が外側になることから分子間重合反応を生じにくく、スラッジ発生等の観点から浴管理も比較的容易である。
上述したように、鋼板表面に付着した液膜からゲル状皮膜を経て均質かつ均一な皮膜(Fe酸化物皮膜)を形成させるには、水溶液の添加成分と濃度が重要であり、このため本発明では、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液(x)を用いる。なお、Fe錯体のFe換算での質量%とは、Fe錯体に含まれるFeのみの質量%のことである。
アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体のFe換算での濃度が0.1質量%未満では、加熱過程で形成されるFe酸化物量が不十分となり、良好な化成処理性が得られない。また、以上の観点から、より好ましいFe錯体の濃度(Fe換算)は1.0質量%以上である。
ここで、水溶液(x)でのFe錯体の濃度(Fe換算)は、ICP質量分析法により測定されたものである。
酢酸は、本発明の水溶液(x)において溶媒の一部であり、その濃度が10質量%未満では、上述した液膜のゲル化が安定的に生じず、加熱過程において形成するFe酸化物皮膜が不均一となり、良好な化成処理性が得られない場合がある。また、以上の観点から、より好ましい酢酸の濃度は20質量%以上である。
硝酸は、本発明の水溶液(x)において液膜がゲル化する際の重合反応の触媒的役割を果たす成分であり、その濃度が0.5質量%未満では、ゲル化が安定的に生じず、良好な化成処理性が得られない場合がある。また、以上の観点から、より好ましい硝酸の濃度は5.0質量%以上である。
一方、各成分の上限は特になく、コスト的な不利を生じないように効果が飽和する濃度を上限とすればよいが、一般的には、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体はFe換算での濃度が20質量%程度で、硝酸は20質量%程度で、それぞれ効果が飽和するので、これらを上限としてもよい。また、酢酸は主に溶媒としての役割であることから、単独での上限はなく、Fe錯体及び硝酸の下限濃度によって上限が決まる。
また、溶液処理工程(A)で付着した水溶液(x)による鋼板表面のFe付着量は0.1~10.0g/mとすることが好ましい。水溶液(x)による鋼板表面のFe付着量が0.1g/m未満では、化成処理性を十分に向上させることができない場合がある。一方、水溶液(x)による鋼板表面のFe付着量が10.0g/mを超えると、溶液処理時の液膜厚制御が難しく、また焼鈍工程(B)の加熱初期などにおいて形成されるFe酸化物皮膜の付着量が過剰になり、焼鈍工程(B)後に未還元のFe酸化物が残存するおそれがある。また、以上の観点から、より好ましいFe付着量は0.3~5.0g/mである。
なお、このFe付着量は、水溶液(x)中のFe錯体濃度、鋼板表面での水溶液(x)の付着量を変えることにより調整することができる。
上述した液膜のゲル化の有無が加熱処理時に鋼板表面に形成されるFe酸化物皮膜の面内均一性に及ぼす影響について調べた。この試験では、表1に示す成分組成の鋼板に対して、表2に示す条件(a)~(d)で溶液処理を行った。なお、使用した水溶液の組成は、表2に示される成分以外の残部は水である。
表2に示す条件(a)~(d)のうち、(b)、(d)は本発明条件を満足する水溶液で溶液処理を行った試験例、(a)、(c)は硝酸を含まない水溶液(本発明条件を満足しない水溶液)で溶液処理を行った試験例であり、この(a)、(c)では、水溶液が硝酸を含まないため加熱初期における液膜のゲル化は生じない。また、(a)~(b)のうち、(a)、(b)は溶液処理後の加熱処理を鋼板温度が400℃になった時点で停止、急冷したものであり、(c)、(d)は鋼板温度が800℃になった時点で加熱を停止、急冷したものである。
表2の(a)~(d)による処理後の鋼板表面外観の拡大写真を図1(各写真の(a)~(d)は表2の(a)~(d)と対応している)に示す。図1に示されるように、溶液処理後の加熱処理を400℃で行った(a)、(b)では、鋼板表面に黒色のFe酸化物皮膜が形成されている。一方、溶液処理後の加熱処理を800℃で行った(c)、(d)では、400℃の加熱で形成したFe酸化物皮膜がより高温まで加熱されたことで還元され、白色を呈している。ここで、溶液処理用の水溶液が硝酸を含まないために、加熱初期における液膜のゲル化が生じない(a)と、溶液処理用の水溶液が本発明条件を満足するために加熱初期における液膜のゲル化が生じる(b)の外観を比較すると、後者の方がより均一な外観となっている。これは、(b)のFe酸化物皮膜は、(a)のFe酸化物皮膜に較べて付着量の面内分布が格段に均一であるためである。このため、(a)、(b)のFe酸化物皮膜が還元された、化成処理直前の表面状態に相当する(c)、(d)の外観は、(a)、(b)に対応する優劣関係となっている。外観が劣る(c)では黒点状模様が散在しており、これはFe酸化物の付着量が面内不均一であるため、局所的に高付着量となった部分が還元されずに残ったものと考えられ、化成処理した場合にスケ発生等の化成処理性劣化の原因となる。
以上のように、本発明条件を満足する水溶液(x)で溶液処理を行い、加熱初期における液膜のゲル化を経てFe酸化物皮膜を形成させることによって、Fe酸化物皮膜の付着量の面内均一性が改善し、優れた化成処理性を得ることが可能となることが判る。
水溶液(x)を鋼板表面に付着させる方法は特に限定されず、例えば、バーコータ―、スプレー、浸漬、スピンコート、ロールコーターなどの方法を用いることができる。
Figure 0007054067000001
Figure 0007054067000002
本発明では、上述したように鋼板表面に付着した水溶液(x)の液膜は、ゲル状皮膜を経て皮膜(Fe酸化物皮膜)となる。このような皮膜化は室温でも生じるが、必要に応じて加熱することで短時間での皮膜化が可能であり、特に本発明では、溶液処理工程(A)に続く焼鈍工程(B)での加熱初期の温度を利用して皮膜化が可能である。すなわち、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)(液膜)が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程(B)に導入することにより、焼鈍工程(B)での加熱初期の比較的低温域(例えば400℃程度)において液膜をゲル状皮膜経由で皮膜(Fe酸化物皮膜)化することができる。したがって、焼鈍工程(B)前に液膜の皮膜化を促進するための加熱処理を行うことは必須ではなく、適宜必要に応じて行えばよい。そのような加熱処理を行う場合、焼鈍工程(B)前に皮膜化を完了させてもよいし、皮膜化する途中の状態(例えば、ゲル状皮膜の状態)まで加熱し、その後は焼鈍工程(B)で加熱されることで皮膜化が完了するようにしてもよい。すなわち、その場合には、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)が付着した鋼板を適当な加熱手段で加熱処理した後、焼鈍工程(B)に導入する。
したがって、例えば、連続焼鈍ラインにおいて溶液処理工程(A)と焼鈍工程(B)が連続して行われる場合には、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)(液膜)が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程(B)に導入してもよいし、溶液処理工程(A)を経て表面に水溶液(x)が付着した鋼板を適当な加熱手段で加熱処理した後、焼鈍工程(B)に導入してもよい。
・焼鈍工程(B)
焼鈍工程(B)では、溶液処理工程(A)を経た鋼板を、H濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理し、その後、所定の温度まで冷却する。この焼鈍工程(B)では、上述したように加熱初期の比較的低温域(例えば400℃程度)において水溶液(x)の液膜を皮膜化し、鋼板表面にFe酸化物皮膜を形成させることができるが、続く最高到達温度までの加熱においてFe酸化物皮膜を還元して還元鉄とする。この焼鈍工程(B)では、鋼板表面に均質かつ均一な厚さで形成されたFe酸化物皮膜が最終的に還元されるので、未還元のFe酸化物が残存することなく、鋼板表面全体が還元鉄で均一に覆われた状態となる。
還元性雰囲気中のH濃度は、Fe酸化物を十分に還元するために、0.05vol%以上、好ましくは1.0vol%以上とする。H濃度の上限は特になく、例えば100vol%としてもよいが、H濃度が必要以上に高いとコストアップにつながるため、40.0vol%程度を上限とすることが好ましい。還元性雰囲気の残部ガスは、通常、N、HO及び不可避的不純物である。
還元性雰囲気の露点は10℃未満、好ましくは0℃以下とする。露点が10℃以上ではFeの酸化が生じる懸念がある。なお、露点の下限は特にないが、工業的に-60℃未満の露点は実施が難しいことから、-60℃程度が実質的な下限となる。
焼鈍温度(鋼板温度)は700℃以上、好ましくは750℃以上とする。焼鈍温度が700℃未満では、Fe酸化物皮膜の還元が遅くなり、完全に還元鉄とするのに長時間を要し、生産性を損なう。また、Fe酸化物皮膜の還元が不十分となって、化成処理性劣化の原因となりやすい。焼鈍温度(鋼板温度)の上限は特にないが、950℃を超えると加熱コストが上昇するため、950℃以下が好ましく、900℃以下がより好ましい。なお、焼鈍工程(B)において、鋼板を上記焼鈍温度に保持する場合、鋼板を一定の温度に保った状態で保持してもよいし、上記温度域を外れない限りは、鋼板の温度を変化させながら保持してもよい。また、保持時間は鋼板表面が十分に還元され、かつ目的とする材質が得られるように設定すれば特に制限されない。
焼鈍工程(B)後の鋼板の冷却条件は特に制限はなく、材質設計等の必要に応じて冷却速度や冷却停止温度を決めればよい。
・化成処理工程(C)
本発明の製造方法は、さらに、焼鈍工程(B)を経た鋼板を化成処理する化成処理工程(C)を有することができる。この化成処理工程(C)では、さきに述べた理由により、化成処理皮膜の生成反応が適正化され、優れた化成処理性が得られる。
化成処理の種類は特に制限はないが、リン酸亜鉛処理などのリン酸塩処理が代表的なものとして挙げられる。また、その他にも、例えば、鋼板表面に黒色皮膜であるFe皮膜を形成させる黒染め処理などを適用することもできる。
なお、本発明の製造方法は、上述したように全部の工程を連続設備(例えば、連続焼鈍ライン)で実施してもよいし、各工程を別々の独立した設備でそれぞれ単独で実施し、或いは一部の工程を独立した設備で単独で実施してもよい。
次に、本発明により製造される高強度冷延鋼板の成分組成などについて説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の単位は「質量%」であるが、便宜上「%」で示す。
本発明が製造の対象とする高強度冷延鋼板は、固溶強化元素としてSi又は/及びMnを含有する鋼板であり、一般に引張強さTSが340MPa以上の高強度鋼板である。また、そのなかでも、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有する鋼板が焼鈍時にSi、Mnの選択酸化を生じやすいので、そのような成分組成の鋼板を対象とすることが好ましい。
また、鋼板のより具体的な成分組成としては、基本成分として、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有することが好ましく、さらに必要に応じて、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することができる。以下、これらの限定理由について説明する。
・C:0.040~0.500%
Cはオーステナイト安定化元素であり、強度と延性の向上に有効な元素である。このような効果を得るために、C含有量は0.040%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.500%を超えると、溶接性の劣化が著しく、また、過度に硬質化したマルテンサイト相によって優れた強度-伸びバランスが得られない場合がある。このためC含有量は0.500%以下とすることが好ましい。
・Si:0.10~3.00%
Siはフェライト安定化元素であり、また、鋼の固溶強化に有効であり、強度と伸びのバランスを向上させる元素である。このような効果を得るために、Si含有量は0.10%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が3.00%を超えると、本発明を適用しても焼鈍中に鋼板表面でSiが酸化物を形成し、化成処理時に局所的な未反応部(以下、これを「スケ」という)が発生することで化成処理性を劣化させるおそれがある。このためSi含有量は3.0%以下とすることが好ましい。
・Mn:0.50~5.00%
Mnは、オーステナイト安定化元素であり、焼鈍板の強度確保に有効な元素である。この強度確保のためには、Mn含有量は0.50%以上とすることが好ましい。ただし、Mn含有量が5.00%を超えると、本発明を適用しても焼鈍中に鋼板表面で多量の酸化物を形成し、化成処理時にスケが発生することで化成処理性を劣化させるおそれがある。このためMn含有量は5.00%以下とすることが好ましい。
・P:0.100%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、含有量が多すぎると粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させるおそれがある。このためP含有量は0.100%以下とすることが好ましい。なお、鋼の強化の観点からは、P含有量は0.001%以上であることが好ましい。
・S:0.0100%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となる。このため、S含有量は極力低い方がよく、0.0100%以下とすることが好ましい。
・Al:0.100%以下
Alの過剰な添加は、酸化物系介在物の増加による表面性状や成形性の劣化を招き、また、コスト高にもつながる。このためAl含有量は0.100%以下とすることが好ましく、0.050%以下とすることがより好ましい。
・N:0.0100%以下
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素であるので、N含有量は少ないほど好ましく、0.0100%以下とすることが好ましい。
・Ti:0.010~0.100%
Tiは鋼板中でCやNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.100%を超えるとこの効果が飽和するので、Ti含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
・Nb:0.010~0.100%
Nbは固溶強化や析出強化により強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、Nb含有量は0.010%以上とすることが好ましい。一方、Nbの含有量が0.100%を超えると鋼板の延性を低下させ、加工性が劣化する場合があるので、Nb含有量は0.100%以下とすることが好ましい。
・B:0.0001~0.0050%
Bは焼入れ性を高め、鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Bを過剰に含有すると延性の低下を招き、加工性が劣化する場合がある。また、Bの過剰な含有はコストアップの原因ともなる。このためB含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。
・Mo:0.01~0.50%
Moは、鋼の焼入れ性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するので、焼鈍板の強度確保に有効な元素である。強度確保の観点から、Mo含有量は0.01%以上とすることが好ましい。一方、Moは合金コストが高いため、添加量が多いとコストアップの要因になるので、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
・Cr:1.00%以下
Crは、鋼の焼入れ性を向上し、ベイナイトやマルテンサイトの生成を促進するので、焼鈍板の強度確保に有効な元素であるが、添加量が多すぎると化成処理性を劣化させる場合がある。このためCr含有量は1.00%以下とすることが好ましい。
・Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下
Ni、Cu、Vは鋼の強化に有効な元素であるが、過剰に添加すると著しい強度上昇による延性の低下が生じる場合があり、また、これらの元素の過剰な添加は、コストアップの要因にもなる。このため、これらの元素を添加する場合には、Ni含有量は0.50%以下、Cu含有量は1.00%以下、V含有量は0.500%以下とすることが好ましい。なお、鋼を強化するためには、Ni含有量は0.05%以上、Cu含有量は0.05%以上、V含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
・Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下
SbとSnには、鋼板表面付近の窒化を抑制する作用があるが、過剰に添加しても効果が飽和する。このため、これらの元素を添加する場合には、Sb含有量は0.10%以下、Sn含有量は0.10%以下とすることが好ましい。なお、窒化の抑制のためには、Sb含有量は0.005%以上、Sn含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
・Ca:0.0100%以下
Caには、MnSなど硫化物の形状制御によって延性を向上させる効果があるが、過剰に添加しても上記効果は飽和するため、Ca含有量は0.0100%以下とすることが好ましい。なお、上記の効果を得るためには、Ca含有量は0.0010%以上とすることが好ましい。
・REM:0.010%以下
REM(レアアースメタル:希土類金属)は、硫化物系介在物の形態を制御し、加工性の向上に寄与するが、過剰に添加すると介在物の増加を引き起こし、加工性を劣化させる場合があるので、REM含有量は0.010%以下とすることが好ましい。なお、加工性向上の効果を得るためには、REM含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
以上述べた基本成分および任意添加成分以外の残部はFe及び不可避的不純物である。
本発明法の溶液処理工程が施される冷延鋼板の製造条件にも特別な制限はない。通常、上記成分組成からなる鋼スラブを、熱間圧延工程において粗圧延及び仕上圧延した後、酸洗工程で熱延板表層のスケールを除去し、次いで冷間圧延する。熱間圧延条件、酸洗条件、冷間圧延条件は特に限定されない。
本発明の溶液処理工程(A)において使用される水溶液(x)は、化成処理用鋼板の化成処理性改善のための溶液処理に用いる水性処理剤であり、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなる水性処理剤である。この水性処理剤の好ましい組成などは、さきに水溶液(x)について述べた通りである。
本発明法により製造される高強度冷延鋼板は、Si又は/及びMnを含有する鋼板であって、アセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体を配位子に有するFe錯体をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板表面に付着させる溶液処理工程(A)と、この溶液処理工程(A)を経た鋼板をH濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程(B)を経ることにより生成した還元鉄により、鋼板表面が覆われている高強度冷延鋼板である。この鋼板の好ましい成分組成はさきに述べたとおりである。また、鋼板表面を覆う還元鉄のFe付着量は0.1~10.0g/mであることが好ましく、その理由はさきに述べたとおりである。また、この高強度冷延鋼板は、化成処理工程(C)を経ることで、鋼板表面を覆う還元鉄の上部にリン酸塩皮膜や黒染め処理によるFe皮膜などの化成処理皮膜を有することができる。
[実施例1]
表3に示す成分組成を有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を溶製してスラブとした。このスラブを1200℃まで加熱して熱間圧延し、巻き取りを実施した。この熱延板を酸洗し、圧下率50%で冷間圧延を行った。得られた冷延鋼板について、表4~表6に示す条件にて溶液処理工程と焼鈍工程を順次実施した。
溶液処理工程では、ロールコーターにより鋼板表面に水溶液を塗布した。Fe付着量は水溶液中のFe濃度、またはロールギャップ及びロール周速を調整して液膜厚さを変えることにより制御した。なお、Fe付着量は水溶液を塗布した後、乾燥させた鋼板の蛍光X線分析により定量した。
焼鈍工程は、雰囲気調整が可能な炉において実施し、溶液処理工程で水溶液が塗布された鋼板を、そのまま液膜を有する状態で炉に入れ、焼鈍を行った。
以上のようにして得られた冷延鋼板について、以下に示す方法で化成処理を施し、化成処理性を評価した。
鋼板から70mm×150mmサイズの試験片を採取し、脱脂剤(日本ペイント(株)製「サーフクリーナーEC90」(商品名))で脱脂し、水洗した後、表面調整剤(日本ペイント(株)製「5N-10」(商品名))で30秒間表面調整を行い、しかる後、リン酸亜鉛処理液(日本ペイント(株)製「サーフダインEC1000」(商品名))に浸漬して温度40℃で90秒の処理を行い、水洗・乾燥した。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、化成皮膜を倍率1000で無作為に5視野を観察し、リン酸亜鉛結晶で覆われている面積率(被覆率)を評価した。また、視野内のリン酸亜鉛結晶を無作為に10個選び、平均結晶サイズを求めた。得られた結果を元に、化成処理性を下記の判定基準に従い3段階で評価した。
◎:特に良好(被覆率100%、平均結晶サイズ3μm以下)
○:良好(被覆率100%、平均結晶サイズ3μm超)
×:不十分(被覆率100%未満)
以上の結果を、製造条件とともに表4~表6に示す。なお、使用した水溶液の組成は、表4~表6に示される成分以外の残部は水である。
表4~表6によれば、本発明例の高強度冷延鋼板は、いずれも化成処理性に優れていることが判る。これに対して比較例の高強度冷延鋼板は、化成処理性が劣っている。
Figure 0007054067000003
Figure 0007054067000004
Figure 0007054067000005
Figure 0007054067000006
[実施例2]
実施例1と同様の条件で得られた冷延鋼板に、表7及び表8に示す条件にて溶液処理工程と焼鈍工程を順次実施した。溶液処理工程と焼鈍工程の実施方法、溶液処理によるFe付着量の定量方法は[実施例1]と同様とした。
以上のようにして得られた冷延鋼板について、以下に示す方法で化成処理を施し、化成処理性を評価した。
鋼板から70mm×150mmサイズの試験片を採取し、脱脂剤(日本ペイント(株)製「サーフクリーナーEC90」(商品名))で脱脂し、水洗した後、鉄黒染め剤(メルテックス(株)製「エボノール S-34」(商品名))に浸漬し、液温140℃で1200秒の処理を行い、水洗・乾燥した。
上記化成処理後の鋼板表面の面内から無作為に10点(箇所)を選び、1点につき6mmφの範囲でL値を測定し、10点で測定されたL値の平均値Lave及び最大値Lmaxと最小値Lminの差Lmax-Lminを求めた。本実施例における化成処理である黒染め処理は、鋼板表面にFe皮膜を形成することによって鋼板表面を黒色化させるものである。したがって、リン酸亜鉛処理の場合と同様に、鋼板未反応部が少ないほど面内均一なFe皮膜が形成され、鋼板表面の明度は小さくなる。以上を前提として、得られた結果を元に、L値の大小によって化成処理性の優劣を下記の判定基準に従い3段階で評価した。なお、化成処理前の鋼板表面のL値は60程度であった。
◎:特に良好(Lave:30未満、Lmax-Lmin:10未満)
○:良好(Lave:30未満、Lmax-Lmin:10以上)
×:不十分(Lave:30以上)
以上の結果を、製造条件とともに表7及び表8に示す。なお、使用した水溶液の組成は、表7及び表8に示される成分以外の残部は水である。
表7及び表8によれば、本発明例の高強度冷延鋼板は、いずれも化成処理性に優れていることが判る。これに対して比較例の高強度冷延鋼板は、化成処理性が劣っている。
Figure 0007054067000007
Figure 0007054067000008

Claims (13)

  1. 化成処理して使用される冷延鋼板であって、Si又は/及びMnを含有する引張強さTSが340MPa以上の高強度冷延鋼板の製造方法であり
    トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液を鋼板の表面に付着させる溶液処理工程と、
    該溶液処理工程を経た鋼板を、H濃度が0.05vol%以上、露点が10℃未満の還元性雰囲気中において700℃以上で加熱処理する焼鈍工程を有することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
  2. 鋼板が、質量%で、Si:0.10%以上又は/及びMn:0.50%以上を含有することを特徴とする請求項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  3. 溶液処理工程で付着した水溶液による鋼板表面のFe付着量が0.1~10.0g/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  4. 溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を、そのまま焼鈍工程に導入することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  5. 溶液処理工程を経て表面に水溶液が付着した鋼板を加熱処理した後、焼鈍工程に導入することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  6. 連続焼鈍ラインにおいて、溶液処理工程と焼鈍工程が連続して行われることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  7. 鋼板が、質量%で、C:0.040~0.500%、Si:0.10~3.00%、Mn:0.50~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  8. 鋼板が、さらに、質量%で、Ti:0.010~0.100%、Nb:0.010~0.100%、B:0.0001~0.0050%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  9. 鋼板が、さらに、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:1.00%以下、V:0.500%以下、Sb:0.10%以下、Sn:0.10%以下、Ca:0.0100%以下、REM:0.010%以下の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  10. さらに、焼鈍工程を経た鋼板を化成処理する化成処理工程を有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  11. 化成処理工程では、鋼板をリン酸塩処理することを特徴とする請求項10に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  12. 化成処理工程では、鋼板を黒染め処理することを特徴とする請求項10に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
  13. 請求項1~12のいずれかに記載の製造方法における溶液処理工程で用いる水溶液であって、
    トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)をFe換算で0.1質量%以上、硝酸を0.5質量%以上、酢酸を10質量%以上の濃度でそれぞれ含有する水溶液からなることを特徴とする溶液処理用の水性処理剤。
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