JP5671374B2 - 成形性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

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Description

本発明は、ストレッチャーストレインマークの発生が少なく、成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理の施されたアルミニウム合金板を言う。また、以下、アルミニウムをAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮の観点から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車パネル、特にフード、ドア、ルーフなどの大型ボディパネル(アウタパネル、インナパネル)の材料として、鋼板等の鉄鋼材料にかえてアルミニウム材料の適用が検討されている。
Al−Mg系のJIS5052合金やJIS5182合金等の5000系アルミニウム合金板(以下、Al−Mg系合金板とも言う)は、延性および強度に優れることから、従来から、プレス成形されるこれら大型ボディパネル用の素材として使用されている。
しかし、特許文献1などに開示される通り、Al−Mg系合金について引張試験を行なえば、応力−歪曲線上の降伏点付近で降伏伸びが生じる場合があり、また降伏点を越えた比較的高い歪量(例えば引張伸び2%以上)で応力−歪曲線に鋸歯状もしくは階段状のセレーション(振動)が生じる場合がある。これらの応力−歪曲線上の現象は、実際のプレス成形時においていわゆるストレッチャーストレイン(以下SSマークとも記す)の発生を招き、成形品である前記大型ボディパネル、特に外観が重要なアウタパネルにとって大きな問題となる。
前記SSマークは、公知のように、歪量の比較的低い部位で発生する火炎状の如き不規則な帯状模様のいわゆるランダムマークと、歪量の比較的高い部位で引張方向に対し約50°をなすように発生する平行な帯状模様のパラレルバンドとに分けられる。前者のランダムマークは降伏点伸びに起因し、また後者のパラレルバンドは段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーション(振動)に起因することが知られている。
従来から、Al−Mg系合金におけるSSマークを解消する方法が種々提案されている。例えば、通常、Al−Mg系合金板の結晶粒度が微細なほど、SSマークは顕著に観察される。そこでSSマークの解消のための方法の一つとして、結晶粒をある程度粗大に調整する方法が従来から知られている。この方法は、SSマークのうちでも、特に、前記降伏伸びに起因するランダムマークの低減に有効とされている。
ただ、このような結晶粒の調整方法は、致命的には、SSマークのうちでも、段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーションに起因する、前記パラレルバンドの発生防止には余り有効ではない。また、結晶粒が粗大になり過ぎれば、プレス成形によって表面に肌荒れが発生するなどの別の問題が生じる。このような表面の肌荒れの防止は、SSマークの発生防止と同時に行うことが実際には非常に困難である。
また、SSマークの解消のための従来の方法として、Al−Mg系合金板のO材(軟質材)もしくはT4処理材などの調質材に、前記大型ボディパネルへのプレス成形前に、予めスキンパス加工あるいはレベリング加工等の若干の加工(予加工)による歪み(予歪み)を与えておくことが知られている。この方法はSSマークのうちでも、特に、前記降伏伸びに起因するランダムマークの低減に有効とされている。前記予加工によって、予め多くの変形帯を形成しておけば、Al−Mg系合金板のプレス成形の際に、これらの多数の変形帯が降伏の起点として機能する。このため、降伏時における急激かつ不均一な変形が
生じなくなる。すなわち、これら急激かつ不均一な変形による降伏伸びが発生しなくなり、ランダムマークも抑制される。
一般にAl−Mg系合金中では、Mgがコットレル雰囲気を形成して転位を固着しているため、プレス成形の際に降伏を生ぜしめるためには、余分な応力を必要とする。これに対して、プレス成形の際に、一旦ある箇所で降伏が開始されれば、応力の増加を伴わなくても、その箇所から雪崩的に変形が伝播し、その結果、Al−Mg系合金板内で不均一な変形が急激に生じることになる。このように応力の増加を伴わずに、変形が急激に進むため、応力−歪曲線上で降伏伸びが現れ、またその急激な変形が不均一であるため、プレス成形時には火炎状等のランダムマークが発生することになる。
ただ、このような予加工を与えることによって降伏伸びの発生を抑制し、特にランダムマークの発生を防止する方法でも、応力−歪曲線上のセレーションに起因する、前記パラレルバンドの発生防止には限界がある。即ち、予加工の加工度が高くなりすぎた場合には、この予加工を行なったAl−Mg系合金板の引張試験を行なえば、応力−歪曲線上で歪ピッチの長い階段状のセレーションが生じやすくなる。このようなセレーションは、実際のプレス成形時においても、幅の広い明瞭なパラレルバンドの発生につながりやすく、前記予加工の加工度には、自ずと制約がある。
これに対して、予加工の加工度を小さくしても、ある程度は降伏伸びを抑制することができるが、逆に、安定して確実に、前記ランダムマークの方の発生を防止することができなくなる。特に、元々ランダムマークが発生しやすい結晶粒の微細なAl−Mg系合金板の場合には、低加工度の予加工を行っても、前記ランダムマークが顕著に発生してしまう。また低加工度の予加工では、板内の場所による元板の厚さのわずかな変動が加工度のばらつきに大きな影響を与えてしまい、ランダムマークの発生を安定かつ確実に防止し得ない一因となる。したがって、予加工を与える方法では、応力−歪曲線上のセレーションに
起因する前記パラレルバンドの発生防止と、前記ランダムマーク発生防止との最適加工度が相反するために、これら両者を同時に防止することができない。
なお、SSマークのうちのパラレルバンドに関して、例えば機械式プレスによる金型成形時など、プレス成形時における歪速度が速い場合には、成形速度に留意すればパラレル
バンドの発生が少なくなることが従来から知られている。しかし、成形速度がより小さい
油圧プレス機等による成形では、特に、前述のような歪みピッチの大きい階段状セレーシ
ョンが生じるようなAl−Mg系合金板材料では、幅の広い明瞭なパラレルバンドの発生
を免れ得なかった。
これに対して、前記した特許文献1では、前記降伏伸びに起因するランダムマークの発
生とともに、前記応力−歪曲線上での階段状の幅の広いセレーションに関連する広幅のパ
ラレルバンドの発生も抑制した、SSマークの発生が少ないAl−Mg系合金板が提案さ
れている。具体的には、Al−Mg系合金の圧延板に、急速冷却を伴なう特定条件での溶
体化処理・焼入れを施し、その後特定条件での予加工としての冷間加工を行ない、さらに
特定条件での最終焼鈍を施す。そして、平均結晶粒径が55μm以下でかつ150μm以
上の粗大結晶粒が実質的に存在しない最終板を得るものである。
また、Al−Mg系合金板において、板の融解過程における熱的変化を示差熱分析(D
SC)により測定して得られた固相からの加熱曲線の50〜100℃の間の吸熱ピーク高
さによって、プレス成形性向上の指標とすることも公知である。例えば、特許文献2では
、双ロール式連続鋳造によって製造された、Mgが8質量%を超える高MgのAl−Mg
系合金板において、前記吸熱ピーク高さを50.0μW以上として、プレス成形性を向上
させている。これは、前記DSCの50〜100℃の間の吸熱ピーク高さが、Al−Mg
系合金板組織中のβ相と称せられるAl−Mg系金属間化合物の存在形態(固溶、析出状
態の安定性)を示していることを根拠としている。
特開平7−224364号公報 特開2006−249480号公報 特開2001−116706号公報 特開2004−28849号公報
軽金属第56巻第11号(2006)、629−634頁、「陽電子でみるアルミニウム合金中の原子空孔の挙動」 2009年7月1日発行の「つうしん」第4頁、「SMT業務紹介」
しかし、前記特許文献1では、階段状のセレーションを軽微にできるだけであり(特許
文献1の実施例の階段状セレーション評価の説明に記載)、そのためSSマークの一つで
あるパラレルバンドは完全には抑制できない。これに対し、最近の前記大型ボディパネル
、特に外観が重要なアウタパネルでは表面性状の要求レベルが更に厳しくなってきており
、これら特許文献1、2では、SSマーク発生の抑制策としては不十分になってきている
。なお、特許文献3、4、非特許文献1、2については、後の「発明を実施するための形
態」の欄で説明する。
このような課題に鑑み、本発明の目的は、前記降伏伸びに起因するランダムマークの発
生とともに、パラレルバンドの発生を同時に抑制でき、SSマークを抑制して、自動車パ
ネルへのプレス成形などの成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板を提供するこ
とである。
この目的を達成するために、本発明の成形性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.5〜7.0%、Zn:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板を溶体化処理および焼入れ処理を行った後の試料で陽電子線源をサンドイッチする方式の陽電子消滅法により測定された陽電子消滅寿命値が190ps以上、210ps以下であることとする。
Al−Mg系アルミニウム合金板では、Znを含有するとSSマークの発生抑制効果が
あるものの、同じZn含有量のAl−Mg系アルミニウム合金板であっても、SSマーク
の発生抑制効果には大きな差がある。このことから、単に、Znを含むだけではなく、Z
nを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の組織状態の違いが、SSマークの発生状態に
大きく影響しているものと考えられる。
Al−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形の際に生じるSSマーク、特に、応力−
歪曲線上のセレーション(振動)に起因するパラレルバンドは、アルミマトリックス中に
固溶しているフリーMg原子の転位への固着と離脱の繰り返しによって生じると推定され
る。以下、応力−歪曲線上のセレーション(振動)に起因するパラレルバンドのSSマー
クのことを、単にSSマークか、SSマーク(セレーション)とも言う。
これに対して、もしも、新規な超微細MgZnクラスタがAl−Mg系アルミニウム合
金板の組織中に存在すれば、前記プレス成形による変形の際の、フリーMg原子の転位へ
の移動を妨げ、SSマーク(セレーション)発生の抑制効果があるのではないかと推測さ
れる。しかし、10万倍のFE−TEM(透過型電子顕微鏡)を用いた組織観察によって
も、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板については、SSマーク抑制に効果があ
るとみられる、前記した新規な微細MgZnクラスタを知見できなかった。このため、S
EMやTEMの分析方法では、Znを含有するAl−Mg系アルミニウム合金板の組織を
特定することはできなかった。
これを踏まえて、本発明者らは、この微細MgZnクラスタに代えて、SSマーク(セ
レーション)発生の原因となっているMg原子の転位への固着頻度の方がより直接的に測
定できるのではないか、と考えた。すなわち、前記プレス成形による変形の際のフリーM
g原子の転位への固着と離脱(移動)の繰り返しにおいて、理論上は、Mg、Znの両原
子の拡散速度は非常に小さい。したがって、これら両原子とも、Al−Mg系アルミニウ
ム合金板を溶体化処理後に急冷(焼入れ)した際に生成する、凍結空孔(材料中に凍結さ
れた原子空孔、以下、単に原子空孔とも言う)を介して拡散すると考えられる。
つまり、凍結空孔の濃度が高い場合は、Mg原子による転位への固着頻度が高くなるた
め、セレーションが起きやすいと言える。一方、凍結空孔濃度が低い場合は、Mgが拡散
しにくいため、セレーションが発生しにくいと言える。また、MgZnクラスタは凍結空
孔のあるところから優先的に生成し、凍結空孔を消滅させる。そのため、MgZnクラス
タの生成量が増加すると、凍結空孔の濃度が下がり、セレーションが発生しにくくなる。
それゆえ、Znを含有するAl−Mg系アルミニウム合金板の凍結空孔(原子空孔)の濃
度を測定すれば、SSマーク(セレーション)発生の原因となっているMg原子の転位へ
の固着頻度、すなわちSSマーク性が評価できることとなる。
そして、このようなZnを含有するAl−Mg系アルミニウム合金板の凍結空孔(原子
空孔)の濃度は、陽電子消滅法による原子空孔計測によって、直接的に測定できる。
陽電子消滅法は、金属、半導体、化合物等の材料中に存在する原子空孔、空孔集合体、
あるいは転位のような結晶格子の欠陥などの、ナノ構造欠陥の種類や量などを、きわめて
敏感に検出する公知の方法である。この方法は、陽電子を材料に入射し、その寿命を計測
したり、発生するγ線を計測することにより、前記ナノ構造欠陥の種類や量などをきわめ
て正確に検出することができる。
この陽電子消滅法による原子空孔計測で、特に、アルミニウム合金板の試料で陽電子線
源をサンドイッチする方式(サンドイッチ法)により測定された、陽電子消滅寿命値(単
位:ps、ピコセカンド、10-12 秒)が、Znを含有するAl−Mg系アルミニウム合
金板の凍結空孔(原子空孔)の濃度を示している。
このため、他の材料条件に互いに差が無い、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金
板同士のSSマーク抑制性の優劣を、この陽電子消滅寿命値によって測定される凍結空孔
の濃度によって、プレス成形する前に、予め評価することができる。すなわち、この陽電
子消滅寿命値が規定する値よりも小さいほど、凍結空孔の濃度が低く、Mgが拡散しにく
いため、セレーションが発生しにくく、SSマーク性に優れる。ここで、他の材料条件に
差が無いとは、SSマーク性(SSマーク抑制)の優劣が相異なるアルミニウム合金板の
、互いの成分組成は勿論、通常のTEMやSEMなどの組織観察、あるいは抽出残渣法や
X線回折などの分析によっても、互いに差が無いことを意味する。
因みに、本発明で言う凍結空孔あるいは原子空孔の濃度は、現時点で、この陽電子消滅
法以外には、通常のTEMやSEMなどの組織観察や他の分析方法によっては、正確に測
定することができない。
もし、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の凍結空孔自体を無くすことができ
れば、Mg原子の転位への固着ができずに、Mgが拡散しにくい板組織とできる。しかし
、凍結空孔自体を無くすことはできないため、本発明では、その凍結空孔濃度の許容量を
陽電子消滅寿命値にて規定する。
本発明は、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の組織をナノ構造欠陥のレベル
で制御でき、凍結空孔の濃度を低くして、Mgが拡散しにくい組織とできるため、セレー
ションが発生しにくく、SSマーク性に優れさせることができる。
以下に、本発明の実施の形態につき、各要件ごとに具体的に説明する。
陽電子消滅法:
本発明における陽電子消滅法は、例えば、前記先行技術文献の欄に記載した非特許文献
1などで、実際に、時効硬化に影響するアルミニウム合金中の原子空孔の挙動の測定や評
価に用いられていることが記載されている。より具体的に、この非特許文献1では、時効
硬化するAl−4mass%Cu二元系アルミニウム合金について、時効中の熱平衡原子
空孔の濃度や、本発明のような、溶体化処理によって生成し、その後の急冷によって合金
中に閉じ込められた熱平衡原子空孔、すなわち凍結空孔の濃度を測定している。
この陽電子消滅法における陽電子消滅寿命値の測定方法や装置は、前記先行技術文献の
欄に記載した、特許文献3などにも具体的に記載され、特に、特許文献4や非特許文献2
には、アルミニウム合金板の試料で陽電子線源をサンドイッチする方式(サンドイッチ法
)による、陽電子消滅寿命値の測定方法や装置が具体的に記載されている。
陽電子とは、電子と同じ質量を有し、電子と全く同じ絶対値のプラスの電荷を持った素
粒子の一つであり、特定の放射性同位元素の崩壊過程で発生する。この陽電子(β+)は
、アルミニウム合金などの材料の中に入射すると、短時間で入射の運動エネルギーをなく
し、その後の挙動は通常の電子と同じ熱運動となる。金属、半導体、化合物等の材料は、
プラスの電荷を有する核の周りにマイナスの電荷を持つ電子が取り囲んだ構造である、原
子の集合体からできており、これらの材料の多くは、その集合体を構成する原子が、3次
元空間に規則正しく立体的な格子状配列をした結晶体の形態を取っている。例えばアルミ
ニウム合金などの金属などの結晶では、プラスの電荷を持つイオンの配列からできている
ので、その中に入った陽電子は、イオンとは同符号同志のため反発しあって結晶格子間に
広がり、動き回っている電導電子などと衝突し合体して消滅する。
しかし、空孔や転位など原子の不足した結晶格子の欠陥は、相対的にマイナスに帯電し
ているので、プラスの陽電子はその部分にまず捕獲され、やがては電子と衝突して合体消
滅する。この陽電子が電子と衝突して合体消滅するとき、エネルギーが511keVの、
方向がほぼ正反対の2本のγ線を放出する。陽電子が材料(アルミニウム合金)に入射し
てから、電子と衝突して消滅するまでの時間は、欠陥のない部分にある場合と、欠陥に捉
えられた場合とでは異なり、欠陥の形によっても異なる。そこで、陽電子の入射より消滅
までの時間変化を解析すれば、欠陥の状態を把握することができる。また、陽電子と電子
との衝突消滅から発生するγ線は、電子の運動によるドップラー効果で波長のずれを生じ
、さらに正反対の方向に放出されるγ線の相対角度も、その電子の持つ運動量によってず
れを生じる。これらを解析することにより、さらに詳しく欠陥の情報を知ることができ、
材料の状態をより精密に評価できる。
サンドイッチ法による測定方法:
陽電子は、前述のようにβ+壊変型放射性同位体の崩壊過程で発生するので、一般的に
は、線源としてこの放射性同位体を用い、線源と被測定材とを密着させて計測される。た
とえば、22Naは半減期が長く、入手しやすく取り扱いが容易で、NaClなどの形を
していて化学的にも安定であり、通常Ni箔などのカプセルに封入されて線源として使用
される。この22Naはβ+崩壊の際、1.28MeVのγ線を放出するので、線源を被測
定材料(アルミニウム合金)にて挟む形にして密着させておき(サンドイッチ法)、シン
チレーションカウンターなどの検出器を用意して、1.28MeVのγ線を感知後、51
1keVのγ線線が検出されるまでの時間を計測する。すなわち、線源と材料との距離が
きわめて近いので、1.28MeVのγ線が放出された時が陽電子の材料に入射したスタ
ート時刻であり、511keVのγ線が検出された時が、陽電子の消滅した時刻とするこ
とができる。このようにして、両者の時間差を測定して、陽電子寿命スペクトルを得、陽
電子消滅寿命値(単位:ps、ピコセカンド、10-12 秒)を得る。
サンドイッチ法による測定装置:
前記した各文献にも記載されている通り、サンドイッチ法による陽電子消滅法の測定装
置は、同一軸上に、陽電子線源、電磁レンズ、アバランチェフオトダイオードなどの陽電
子検出器、被測定材料の順に配列される。この被測定材料の近傍に、通常のγ線計測に用
いられるシンチレーションカウンタなどの放射線検出器を設置する。
前記線源から被測定材料までの陽電子の飛翔経路は、真空に排気でき、電磁レンズが置
かれる部分が非磁性材料とされた容器中に置かれる。陽電子は大気中を飛翔するとき、空
気の分子と衝突し、エネルギーの減少や散乱を生じるので、線源、陽電子検出器、被測定
試料等を、圧力が1×10-4Torrを下回る真空に排気できる容器の中に入れ、線源から被
測定材料までの陽電子の飛翔経路が真空に保たれるようにする。これによって、被測定試
料に入射する陽電子数が増し、感度の向上や時間の短縮が可能になる。
ここで、サンドイッチ法の名前は、効率よく陽電子寿命を測定するために、上記した装
置において、1円玉程度の大きさのアルミニウム合金試料を2枚準備し、これら2枚の試
料で陽電子線源をサンドイッチすることからきている。因みに、このサンドイッチ法をγ
−γ同時計測方法とも言う。
この陽電子線源から放出された陽電子線は、前記電磁レンズで集束され、前記陽電子検
出器を通って、前記2枚の被測定材料に各々入射され、この被測定材料内で陽電子は電子
と衝突して消滅し、γ線を各々放出する。この際、陽電子が前記陽電子検出器を通過する
ときの電圧パルスをスタート信号とし、陽電子が消滅するときに、被測定材料より放出さ
れるγ線(511KeV)の感知をストップ信号として、この間の時間を計測すれば、陽電子
の寿命(陽電子消滅寿命値)を知ることができる。
因みに、前記電磁レンズは、中心軸の周りに同軸状に置かれた導磁性軟鉄の枠と巻線と
からなり、巻線に電流を通じて励磁された磁極と磁極との間のギャップに生じる磁束の漏
洩磁場により、レンズ磁場を構成する。したがって、レンズの有効磁場は、磁極のコーナ
ー部以内に限定される。この有効磁場は、線源あるいは容器の大きさにもよるが、直径2
0〜150mm、高さ20〜150mm程度の空間内にて、十分な磁束密度の垂直方向磁
場が得られる。磁場の強さは、レンズ中心位置にて0.1〜0.3T程度得ることができ
れば、十分に陽電子を収束できる。
陽電子消滅寿命値:
本発明では、このように計測される、Znを含有するAl−Mg系アルミニウム合金板
の陽電子消滅寿命値を210ps(ピコセカンド、10-12 秒)以下と規定する。板製造
後に調質処理として溶体化処理および急冷された後の、Znを含むAl−Mg系アルミニ
ウム合金板の組織を、このような陽電子消滅寿命値とすることによって、ナノ構造欠陥の
レベルでの組織制御ができる。すなわち、凍結空孔(原子空孔)の濃度を低くして、Mg
が拡散しにくい板組織とできる。このため、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板
を、プレス成形する際のセレーションが発生しにくく、SSマーク性に優れた成形材料と
することができる。
先の段落0030に記載した通り、もし、凍結空孔(原子空孔)自体を無くすことがで
きれば、Mg原子の転位への固着ができずに、Mgが拡散しにくい板組織とでき、Znを
含有するAl−Mg系アルミニウム合金板をSSマーク性に優れた成形材料とできる。し
かし、このアルミニウム合金板の製造限界上、凍結空孔自体を無くすことはとてもできな
い(現実的ではない)。したがって、本発明では、その凍結空孔濃度のSSマーク性から
の許容量を、陽電子消滅寿命値にて規定するものである。
すなわち、この陽電子消滅寿命値が210psを超えた場合、溶体化処理および急冷後
の、Znを含有するAl−Mg系アルミニウム合金板の凍結空孔(原子空孔)の濃度が高
くなる。このため、プレス成形の際の、Mg原子による転位への固着頻度が高くなるため
、セレーションが起きやすくなり、SSマーク性が低下する。因みに、Znを含むAl−
Mg系アルミニウム合金板の陽電子消滅寿命値の制御(凍結空孔の濃度の制御)は、後の
製造方法の説明において詳述する通り、溶体化処理後の急冷過程を制御して行う。この陽電子消滅寿命値は、凍結空孔(原子空孔)の濃度を低くして、Mgが拡散しにくい板組織とするためには小さいほど良く、本発明では陽電子消滅寿命値の下限は特に規定しない。ただ、製造限界からすると、陽電子消滅寿命値の下限は概ね190ps程度である。
ランダムマークの発生防止:
本発明では、凍結空孔(原子空孔)の濃度を低くして、Mgが拡散しにくい板組織とで
きるため、SSマークのうち、前記降伏伸びの発生によるランダムマークの発生も防止で
きる。したがって、このランダムマークの発生防止のために、従来の予歪み(予加工)を
与える対策も不要となる。言い換えると、従来の予歪み(予加工)を与えずとも、前記歪
量の比較的低い部位で発生するランダムマークと、前記歪量の比較的高い部位で発生する
パラレルバンドとの、両方のストレッチャーストレインマーク(SSマーク)の発生を十
分に抑制できる。
したがって、本発明は、自動車パネル用素材板として、特に外観が重要なアウタパネル
での表面性状の要求レベルが更に厳しくなった場合でも、前記降伏伸びに起因するランダ
ムマークの発生とともに、前記応力−歪曲線上でのセレーションに関連するパラレルバン
ドの発生を、同時に抑制できる。この結果、自動車パネル用素材板の性能を大きく向上で
きる。
(化学成分組成)
本発明アルミニウム合金熱延板の化学成分組成は、基本的に、Al−Mg系合金である
JIS 5000系に相当するアルミニウム合金とする。なお、各元素の含有量の%表示
は全て質量%の意味である。
本発明は、特に、自動車パネル用素材板として、プレス成形性、強度、溶接性、耐食性
などの諸特性を満足する必要がある。このため本発明熱延板は、5000系アルミニウム
合金の中でも、質量%で、Mg:0.5〜7.0%、Zn:0.1〜4.0%を含み、残
部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板とする。
また、このAl−Mg系アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:1.0%以下
、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下
、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下、の内から選ばれる一種
また二種以上を含有することを許容する。なお、元素含有量は全て質量%である。
Mg:0.5〜7.0%
Mgは、加工硬化能を高め、自動車パネル用素材板としての必要な強度や耐久性を確保
する。また、材料を均一に塑性変形させて破断割れ限界を向上させ、成形性を向上させる
。また、微細なMgZnクラスタを形成して、プレス成形の際のSSマークの発生を抑制
するものと推測される。Mgの含有量が0.5%未満では、強度や耐久性が不十分となる
一方、Mgの含有量が7.0%を越えると、板の製造が困難となり、しかもプレス成形
時に、却って粒界破壊が発生しやすくなり、プレス成形性が著しく低下する。したがって
、Mgの含有量は0.5〜7.0%、好ましくは1.5〜6.5%の範囲とする。
Zn:0.1〜4.0%
Znは、微細なMgZnクラスタを形成させるために必要である。MgZnクラスタの
形成によって凍結空孔(原子空孔)濃度が低下し、プレス成形の際のSSマークの発生が
抑制されるものと推測される。Znが0.1%未満と少なすぎる場合は、このような効果
が不十分となる。
一方、Znの含有量が4.0質量%を越えれば、耐食性が低下してしまうから、Znの
含有量は4.0%以下で、前記0.1〜4.0%の範囲内が望ましい。更に好ましくは1
.0〜3.5%の範囲内である。
因みに、Al−Mg系アルミニウム合金板において、通常、添加元素であるZnは、C
uとともに、析出強化によって強度を向上させる有効な元素と認識されている。また、前
記特許文献1では、ZnがSSマークの抑制にも有効な元素と認識されている。しかし、
本発明のように、後述する製造条件との組み合わせによって、プレス成形の際のSSマー
クの発生を抑制する点については必ずしも公知では無い。
その他の元素:
本発明では、その他の元素として、更に、Fe、Si、Mn、Cr、Zr、V、Ti、
Cuの内から選ばれる一種また二種以上を含有することを許容する。これらの元素は、溶
解原料としてアルミニウム合金スクラップ量(アルミニウム地金に対する割合)が増すほ
ど含有量が多くなる不純物元素である。即ち、Al合金板のリサイクルの観点から、溶解
原料として、高純度アルミニウム地金だけではなく、5000系合金やその他のAl合金
スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用した場合には、これら元素の混
入量(含有量)が必然的に多くなる。そして、これら元素を例えば検出限界以下などに低
減すること自体がコストアップとなり、ある程度の含有の許容が必要となる。
また、これら元素には、少量だけ含有された場合には、結晶粒の微細化効果もある。A
l−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形時の肌荒れは、板の平均結晶粒径が50μm
を超えるなど、結晶粒径が大きい場合に発生しやすく、板の結晶粒径は小さいほど好まし
い。また、これらの元素は、同じく少量の含有で、成形性限界を向上させる効果もある。
ただ、一方で、これらの元素の含有量が多くなると、やはり、これら元素の弊害として
、これらの元素に起因する粗大な晶出物や析出物が多くなり、破壊の起点になりやすく、
却ってプレス成形性を低下させる。さらに、結晶粒径も微細になりすぎ、25μm未満に
なるとSSマークも出やすくなる。したがって、これらの元素を含有する場合には、各々
、Fe:1.0%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下
、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Cu:1.0%以下の
範囲とする。
(製造方法)
本発明の板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
本発明では、溶体化処理前までの圧延工程までは、5182、5082、5083、5
056などのMgを4.5%程度含む、成形用Al−Mg系合金の通常の製造工程による
製造方法で製造可能である。即ち、鋳造(DC鋳造法や連続鋳造法)、均質化熱処理、熱
間圧延の通常の各製造工程を経て製造され、板厚が1.5〜5.0mmであるアルミニウ
ム合金熱延板とされる。この段階で製品板としても良く、また冷間圧延前もしくは冷間圧
延の中途において1回または2回以上の中間焼鈍を選択的に行ないつつ、更に冷延して、
板厚が1.5mm以下の冷延板の製品板としても良い。
溶体化処理(最終焼鈍):
本発明の組織を有する板とするためには、以上のようにして得られた所要の板厚のこれ
ら熱延板あるいは冷延板に対して、最終焼鈍として、急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・
焼入れ処理を行う。このような溶体化・焼入れ処理を行った材料、いわゆるT4処理材は
、比較的緩やかな加熱や冷却を伴うバッチ焼鈍材と比較して、強度と成形性とのバランス
に優れる。また、溶体化処理に続く焼入れ処理時には凍結空孔(原子空孔)が導入される
ここで、溶体化処理温度の適正値は、具体的な合金組成によって異なるが、400℃以
上570℃以下の範囲内とする必要がある。また、この溶体化処理温度での保持は180
秒(3分)以内とする必要がある。溶体化処理温度が400℃未満では合金元素の固溶が
不十分となって強度・延性等が低下する恐れがある。一方、溶体化処理温度が570℃を
越えれば、結晶粒が過度に粗大化して成形性の低下や成形時の肌荒れの発生が問題となる
。また溶体化処理温度での保持時間が180秒を越えれば、結晶粒の過度の粗大化による
、成形性の低下や成形時の肌荒れ発生などの問題が生じる。
焼入れ処理:
本発明の陽電子消滅寿命値の規定を満たし、凍結空孔(原子空孔)の濃度を低くして、
Mgが拡散しにくい板組織とするために、溶体化処理後の焼入れ処理条件が重要となる。
すなわち、溶体化処理後の焼入れ処理時は、通常の条件である低温域までの急冷に対して
、高温域と低温域では各々緩冷、その中間の温度域では急冷と、大きく3段階に分けた冷
却速度にする必要がある。
先ず、高温域の緩冷では、板の温度が溶体化温度から325〜375℃の温度範囲まで
は、2〜5℃/秒の速度で冷却する。冷却速度が2℃/秒未満では、この時点で粗大な析
出物が生成し、以降に生成するクラスタの量が不足して、凍結空孔濃度が高くなり、SS
マークが発生する恐れがある。逆に、5℃/秒を超えると、溶体化温度で多く存在してい
る原子空孔がそのまま凍結されて、凍結空孔濃度が高くなる。
続いて、前記325〜375℃の温度範囲で中間温度域での急冷に切り替える。この中
間温度域での急冷では、板の温度が上記高温域での緩冷を終了した温度(前記切り替え温
度範囲内)から125〜75℃の温度範囲までを、冷却速度を5℃/秒以上の大きな冷却
速度とする。ここでの冷却速度が5℃/秒未満では、冷却中に粗大な析出物が生成して、
以降に生成するクラスタの量が不足して、凍結空孔濃度が高くなり、SSマークが発生し
やすくなる。
そして、前記125〜75℃の温度範囲で、更に低温域の緩冷に切り替える。上記急冷
に続く、この低温域の緩冷では、上記中間温度域での急冷を終了した温度(前記切り替え
温度範囲内)から室温までの冷却速度を1℃/秒未満の小さな冷却速度とする。このよう
な緩冷とするために、冷却速度の下限値は特に決めないが、生産効率や処理設備の限界を
考慮すると、0.01℃/分以上であることが好ましい。この冷却速度が1℃/秒以上で
あれば、SSマークの発生を確実に防止できる量だけのクラスタが生成せずに、凍結空孔
濃度が高くなると推測される。
このような冷却を伴う溶体化・焼入れ処理は、連続焼鈍ライン(CAL)等を用いて連
続的に行って、強制空冷やミスト冷却を組み合わせても各域の冷却速度を制御しても良い
。また、加熱にソルトバス等を、冷却に、水焼入れ、油焼入れ、強制空冷やミスト冷却等
を組み合わせて用いたバッチ式で行っても良い。因みに、前記CALを用いた溶体化処理
・焼入れを実施した場合、室温〜溶体化処理温度までの、一般的な加熱および冷却の速度
はともに5〜100℃/秒程度である。
このような溶体化処理条件と、続く3段階冷却という特殊な焼入れ処理条件との組み合
わせによって、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板を、本発明の陽電子消滅寿命
値の規定を満たし、凍結空孔(原子空孔)の濃度を低くして、Mgが拡散しにくい板組織
とすることができる。これによって、Znを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の限界
ひずみ量増大効果を高めて、前記応力−歪曲線上のセレーションを抑制し、これに起因す
る前記パラレルバンドを抑制して、ストレッチャーストレインマークの発生を抑制できる
。また、SSマークのうち、前記降伏伸びの発生によるランダムマークの発生も防止でき
る。
なお、この溶体化処理・焼入れ処理後に、板の形状制御や残留応力除去のために、スキ
ンパスを行ったり、テンションレベラー通板を行ってもよい。その後の付加焼鈍あるいは
時効処理は、SSマーク発生抑制効果からして不要であり、本発明では行わない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例
によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加
えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す発明例、比較例の各組成のAl−Mg系
合金板を製造し、表2(表1の続き)に示す条件で調質、製造した後、この調質後の板の
組織、機械的な特性を各々測定、評価した。これらの結果も表2に示す。なお、表1にお
ける元素含有量の「−」表記は、その元素の含有量が検出限界以下であることを示す。
熱延板や冷延板の各製造方法(条件)は、各例とも同じ共通条件で行った。即ち、ブッ
クモールド鋳造によって鋳造した50mm厚の鋳塊を、480℃で8時間の均質化熱処理
を行い、その後400℃にて熱間圧延を開始した。板厚は、3.5mmの熱延板とした。
この熱延板を、1.35mmの板厚まで冷間圧延を行った後に、硝石炉にて400℃、1
0秒の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延して1.0mm厚の冷延板とした。
これら冷延板を、表2に示す通り、各々異なる条件で溶体化処理および焼入れ処理を行
った。この溶体化処理および焼入れ処理は、連続焼鈍ライン(CAL)等を用いて連続的
に行い、強制空冷やミスト冷却を使い分け、板のライン速度とこれらの風量を各温度域で
制御して、焼入れ処理時の冷却速度を制御した。これによって、各例の凍結空孔(原子空
孔)の濃度あるいは陽電子消滅寿命値を制御した。
なお、この溶体化処理および焼入れ処理後の、予歪みを与える冷間加工としてのスキン
パスや、その後の室温時効処理、人工時効処理などは、各例とも一切行わなかった。
これら溶体化処理および焼入れ処理後の板から試験片(1mm厚み)を切り出し、この
試験片(調質後の板)の、陽電子消滅寿命値、SSマーク特性、機械的な特性を各々測定
、評価した。
(陽電子消滅寿命値測定)
前記した測定方法と装置とにより、溶体化処理および焼入れ処理後のアルミニウム合金
板の試験片(試料)で、陽電子線源をサンドイッチする方式の陽電子消滅法により、各試
験片の陽電子消滅寿命値を測定した。なお、これらの実際の測定は、前記非特許文献2に
記載の測定装置を保有し、測定ノウハウを有する住友金属テクノロジー株式会社(関西事
業部)に委託した。
(機械的特性)
前記板の機械的特性の調査として、上記各試験片の引張試験を行い、引張強さ(MPa
)、伸び(%)を各々測定した。試験条件は、圧延方向に対して直角方向のJISZ22
01の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、引張試験を行った。引張試
験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃
で試験を行った。この際、クロスヘッド速度は5mm/分として、試験片が破断するまで
一定の速度で行った。
(SSマーク発生評価)
同時に、前記板のプレス成形性としてのSSマーク発生評価のために、前記引張試験時
における、降伏伸び(%)と、前記応力−歪曲線上の鋸歯状のセレーションが発生する歪
み量(臨界歪み:%)を調べた。SSマーク発生を抑制するための目安としては、この臨界歪みが8%以上あることで、この臨界歪みは高いほど良く、本発明ではその上限は特に規定しない。ただ、製造限界からすると、この臨界歪みの上限は概ね20%程度である。
(プレス成形性評価)
また、アウタパネルで問題となる張出成形性の評価として、張出成形試験を行った。
張出成形試験は、直径101.6mmの球頭張出ポンチを用い、長さ180mm、幅1
10mmの試験片に潤滑剤としてR−303Pを塗布し、成形速度4mm/S、しわ押さ
え荷重200kNで張出成形試験を行い、成形品の割れの発生状態を目視観察した。そして、割れの大きさに関わらず、割れが全く発生していないものを○、割れが少しでも発生しているものを×として評価した。
表1の通り、発明例1〜7は、本発明のAl−Mg系アルミニウム合金組成規定を満足
し、かつ、焼入れ処理の冷却速度条件が前記3段階であるような、溶体化および焼入れ処
理の好ましい製造条件で製造されている。この結果、測定された陽電子消滅寿命値が21
0ps以下であり、凍結空孔濃度が低く、Mgが拡散しにくく、セレーションが発生しに
くい組織となっている。
これによって、各発明例は、アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生
の臨界歪みが8%以上であり、高いものは10%、あるいは15%以上である。そして、
前記張出成形試験でも割れは発生していない。しかも、これらの優れたSSマーク特性あるいは張出成形性(表2ではプレス成形性と表示)を、JIS5052合金やJIS5182合金等の5000系アルミニウム合金板の有する引張強さや伸びなどの、優れた機械的な特性を低下させることなく達成できている。
一方、比較例8〜12は、発明例1と同じ合金組成でありながら、表2の通り、調質条
件が好ましい範囲から各々外れている。
比較例8は溶体化処理温度が低すぎ、焼入れ処理で前記3段階の冷却ができていない。
比較例9は焼入れ処理で高温域の緩冷における冷却速度が2℃/秒未満である。
比較例10は焼入れ処理で高温域の緩冷における冷却速度が5℃/秒を超えている。
比較例11は焼入れ処理で中間温度域での急冷における冷却速度が5℃/秒未満である。
比較例12は焼入れ処理で低温域の緩冷における冷却速度が1℃/秒を超えている。
この結果、比較例8〜12は、測定された陽電子消滅寿命値が共通して210psを超
え、凍結空孔の濃度が高い場合は、Mg原子による転位への固着頻度が高くなるため、セ
レーションが起きやすい組織となっている。この結果、これら比較例は、強度や伸びなど
の機械的な特性は発明例と大差ないものの、アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレ
ーション発生の臨界歪みが8%未満と低い。このため、SSマーク特性あるいは張出成形性が発明例に比して著しく低い。
比較例13、14は、表1、2の通り、調質条件は好ましい範囲ではあるが、合金組成
が発明範囲を外れている。比較例13はZn含有量が少なすぎる。比較例14はMg含有
量が多すぎる。
この結果、比較例13は、測定された陽電子消滅寿命値が210psを超え、セレーシ
ョンが起きやすい組織となっており、前記セレーション発生の臨界歪みが8%未満と低く
、SSマーク特性は発明例に比して著しく低い。また強度も低い。また、比較例14は、測定された陽電子消滅寿命値は210ps以下であり、SSマーク特性は発明例と大差ないものの、伸びが低く、張出成形性が発明例に比して著しく低い。
以上の実施例から、本発明各要件あるいは好ましい製造条件などの、SSマーク特性や
張出成形性あるいは機械的特性などを兼備するための、臨界的な意義が裏付けられる。
以上説明したように、本発明によればSSマークの発生が少なく、プレス成形性に優れ
たZnを含むAl−Mg系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、板をプレス成形
して使用される、前記した自動車などの多くの用途へのAl−Mg系アルミニウム合金板
の適用を広げるものである。

Claims (2)

  1. 質量%で、Mg:0.5〜7.0%、Zn:0.1〜3.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板を溶体化処理および焼入れ処理を行った後の試料で陽電子線源をサンドイッチする方式の陽電子消滅法により測定された陽電子消滅寿命値が190ps以上、210ps以下であることを特徴とする成形性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板の成形性を示す指標として、前記アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%以上である請求項1に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
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