繊維、フィルムおよびビーズを含む静電処理されたフェノール樹脂材料を提供する。静電処理によって作製された繊維、繊維性マット、ビーズおよびフィルムは魅力的な材料である。何故なら、これらは、押し出し、乾式紡糸、湿式紡糸、融解紡糸などのような従来の処理技術では達成することができない高い比表面積を有するからである。
これらの静電処理されたフェノール樹脂材料の特性を静電処理後の処理によって調整することにより、目的とする用途に適した特性を有する材料を得ることができる。このような静電処理後の処理としては硬化、炭化および活性化が挙げられる。
定義
特記しない限り、本明細書および特許請求の範囲に用いている以下の用語は下記に示した意味を有する:
「ハロ」とは、フルオロ、クロロ、ブロモもしくはヨードを意味する。
「ニトロ」とは、−NO2基を意味する。
「ヒドロキシ」とは、−OH基を意味する。
「アルキル」とは、炭素原子数1乃至20、好ましくは1乃至12の直鎖飽和1価炭化水素基、もしくは炭素原子数3乃至20、好ましくは3乃至12の分枝飽和1価炭化水素基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチルなどの基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アルキレン」とは、炭素原子数1乃至20、好ましくは1乃至12の直鎖2価炭化水素基、もしくは炭素原子数3乃至20、好ましくは3乃至12の分枝2価炭化水素基を意味する。アルキレン基の例としては、メチレン、エチレン、2−メチルプロピレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アルケニル」とは、少なくとも1個の二重結合(−C=C−)を含む、炭素原子数2乃至20、好ましくは2乃至12の直鎖不飽和1価炭化水素基、もしくは炭素原子数3乃至20、好ましくは3乃至12の分枝1価炭化水素基を意味する。アルケニル基の例としては、アリル、ビニル、2−ブテニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アルキニル」とは、少なくとも1個の三重結合(C≡C)を含む、炭素原子数2乃至20、好ましくは2乃至12の直鎖1価炭化水素基、もしくは炭素原子数3乃至20、好ましくは3乃至12の分枝1価炭化水素基を意味する。アルキニル基の例としては、エチニル、プロピニル、2−ブチニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「ハロアルキル」とは、1個以上、好ましくは1乃至6個の同一もしくは異なるハロ原子で置換されているアルキルを意味する。ハロアルキル基の例としては、例えば、トリフルオロメチル、3−フルオロプロピル、2,2−ジクロロエチルなどが挙げられる。
「ヒドロキシアルキル」とは、2個のヒドロキシ基が存在する場合にこれらが同一炭素原子上にないという条件で、1個以上の−OH基で置換されているアルキルのことを意味する。ヒドロキシアルキル基の例としては、例えば、ヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
「アルキルチオ」とは、「アルキル−S−」基のことを意味し、例えば、メチルチオ、ブチルチオなどが挙げられる。
「シアノアルキル」とは、1個以上の−CN基で置換されているアルキルのことを意味する。
「アルコキシ」とは、「アルキル−O−」基のことを意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソ−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、sec−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ、1,2−ジメチルブトキシなどが挙げられる。
「アルコキシアルキル」とは、「アルキレン−O−アルキル」基のことを意味し、例えば、2−プロポキシエチレン、3−メトキシブチレンなどが挙げられる。
「アルケノキシ」とは、「アルケニル−O−」基のことを意味し、例えば、アリルオキシ、ビニルオキシ、2−ブテニルオキシなどが挙げられる。
「アルケノキシアルキル」とは、「アルケニル−O−アルキレン」基のことを意味し、例えば、3−アリルオキシ−プロピレン、2−(2−プロペニルオキシ)エチレンなどが挙げられる。
「ハロアルコキシ」とは、「ハロアルキル−S−」基のことを意味し、例えば、トリフルオロメトキシ、2,2−ジクロロエトキシなどが挙げられる。
「ハロアルキルチオ」とは、「ハロアルキル−S−」基のことを意味し、例えば、トリフルオロメチルチオ、2,2−ジフルオロプロピルチオ、3−クロロプロピルチオなどが挙げられる。
「アミノ」とは、「−NRaRb」基のことを意味し、この場合、RaおよびRbは、独立にH、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールもしくは置換ヘテロアリールである。
「カルボキシ」とは、「C(O)」基を意味する。
「アシルオキシ」とは、−C(O)R'基のことを意味し、この場合、R'はアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリールもしくは置換ヘテロアリールである。
「シクロアルキル」とは、環原子数3乃至8の環式飽和炭化水素基を意味し、この場合、1個もしくは2個のC原子が任意にカルボニル基で置換される。このシクロアルキル基は、任意に、1個、2個もしくは3個の置換基、好ましくはアルキル、アルケニル、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、ニトロ、アルコキシ、ハロアルキル、アルケニル、アルケノキシで置換される。代表的な例としては、シクロプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリール」とは、環原子数6乃至14の1価単環式もしくは二環式芳香族炭素環基を意味する。例としては、フェニル、ナフチルおよびアンスリルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このアリール環は、酸素、窒素もしくは硫黄から独立に選ばれる1個もしくは2個のヘテロ原子を任意に含む5、6もしくは7員環の単環式非芳香族環であって残りの環原子がCでありこのC原子の1個もしくは2個がカルボニルで任意に置換されている非芳香族環に、任意に縮合することができる。縮合環を有する代表的なアリール基としては、2,5−ジヒドロベンゾ[b]オキセピン、2,3−ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキソール、クロマン、イソクロマン、2,3−ジヒドロベンゾフラン、1,3−ジヒドロイソベンゾフラン、ベンゾ[1,3]ジオキソール、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、2,3−ジヒドロ−1H−インドール、2,3−ジヒドロ1H−イソインドール、ベンズイミダゾール−2−オン、2−H−ベンズオキサゾール−2−オンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「置換アリール」とは、1個以上の置換基、好ましくはアルキル、アルケニル、アルキニル、ハロ、アルコキシ、アシルオキシ、アミノ、ヒドロキシル、カルボキシ、シアノ、ニトロおよびチオアルキルからなる群から選ばれる1乃至3個の置換基によって置換されているアリール環を意味する。このアリール環は、酸素、窒素もしくは硫黄から独立に選ばれる1個もしくは2個のヘテロ原子を任意に含む5、6もしくは7員環の単環式非芳香族環であって残りの環原子がCでありこのC原子の1個もしくは2個がカルボニルで任意に置換されている非芳香族環に、任意に縮合することができる。
「ヘテロアリール」とは、N、OもしくはSから選ばれる1個、2個もしくは3個の環ヘテロ原子を含む環原子数5乃至10の1価単環式もしくは二環式芳香族基であって残りの環原子がCである芳香族基を意味する。代表的な例としては、チエニル、ベンゾチエニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、キノリニル、キノキサリニル、イミダゾリル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、イソキサゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイミダゾリル、トリアゾリル、ピラゾリル、ピロリル、インドリル、2−ピリドニル、4−ピリドニル、N−アルキル−2−ピリドニル、ピラジノニル、ピリダジノニル、ピリミジノニル、オキサゾロニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「置換ヘテロアリール」とは、1個以上の置換基、好ましくはアルキル、アルケニル、アルキニル、ハロ、アルコキシ、アシルオキシ、アミノ、ヒドロキシル、カルボキシ、シアノ、ニトロおよびチオアルキルからなる群から選ばれる1乃至3個の置換基によって置換されているヘテロアリール環を意味する。
「アリールオキシ」とは、「−O−Ar」基を意味し、この場合、Arはアリール基もしくは置換アリール基である。例としては、ベンジルオキシ、4−トリフルオロメチル−ベンジルオキシなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリールアルコキシ」とは、「−O−アルキレン−Ar」基を意味し、この場合、Arはアリール基もしくは置換アリール基である。例としては、2−(フェニル)エトキシ、3−(フェニル)プロポキシなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリールアルコキシアルキル」とは、「−アルキレン−O−アルキレン−Ar」基を意味し、この場合、ARはアリール基もしくは置換アリール基である。例としては、ベンジルオキシ−プロピレン、ベンジルオキシ−エチレンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリールカルボキシアルキル」とは、「−R'(O)R」基を意味し、この場合、R'は上記のアルキレン基であり、Rは上記のアルキル基である。
「カルボキシリック」とは、−C(O)−OH基を意味する。
「アルキルオキシカルボキシ」とは、−C(O)−OR基を意味し、この場合、Rは上記のアルキル基である。
「スルホン酸」とは、−SO3H基を意味する。
「静電処理もしくは静電的処理」とは、重合体系に電場をかけることにより重合体系から材料を形成する技術のことを意味する。静電処理は、本明細書に記載した静電紡糸および静電噴霧の技術を含む。これらの静電処理技術を用いることによりナノ繊維、マイクロ繊維、ビーズ、薄フィルム、もしくはこれらの組み合わせを作製することができる。
「静電処理された材料」とは、重合体系を静電処理することにより作製された材料のことを意味する。静電処理された材料としては、ナノ繊維、マイクロ繊維、合体してビーズとなる粒子、非相溶性溶媒から析出したビーズもしくは繊維、薄フィルム、乾式多孔フィルム、繊維性マットもしくはウェブなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
本明細書に記載した静電処理材料は、前駆体重合体系を静電紡糸および/または静電噴霧することにより作製される。この前駆体重合体系はフェノール重合体系であることが好ましい。従って、本明細書に記載した静電処理材料は、フェノール重合体系を静電的に処理することにより作製される。このフェノール重合体系は、フェノール重合体溶液もしくはフェノール重合体溶融液とすることができる。
フェノール重合体系
この溶液もしくは溶融液のフェノール重合体は、当業者に公知の技術により合成された市販のフェノール樹脂およびフェノール重合体、フェノール共重合体、フェノール重合体と他の重合体とのブレンド、添加物を含むフェノール重合体、フェノール共重合体およびブレンド、ならびにこれらの混合物を含む任意のフェノール重合体とすることができる。
このフェノール重合体中のフェニル環は、1個以上、好ましくは1個もしくは2個のヒドロキシ基で置換されている。また、これらのフェノール重合体中のフェニル環は、1個以上の官能基、例えば、ハロ、ニトロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、シアノアルキル、アルキルチオ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケノキシ、アルケノキシアルキル、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオ、アミノ、カルボキシリック、アシルオキシ、シクロアルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アリールオキシ、アリールアルコキシ、アリールアルコキシアルキル、アルキルカルボキシルアルキル、アルキルオキシカルボキシ、スルホン酸、およびこれらの組み合わせで置換することもできる。
上記のヒドロキシ基もしくは他の官能基は、反応させることによりこのフェノール重合体中に別の種類の官能基を提供することができる。例えば、このフェノール重合体のヒドロキシ基をアミノプロピルシランと反応させることにより、フェノール重合体にアミノ官能基をグラフトすることができる。これらの官能基は、上記フェノール重合体を静電的に処理した後、保持されることになる。
フェノール重合体の分子量は、このフェノール重合体を静電的に処理することができる限りにおいて、所望通りに変化させることができる。つまり、このフェノール重合体の所望の分子量は、フェノール溶液もしくはフェノール重合体溶融液を静電的に処理することができるかどうかによって変化させることができる。さらに、フェノール溶液を静電的に処理することができれば、上記分子量は、この溶液の濃度の変化に伴って変化させることができる。さらに、上記フェノール重合体の分子量は、この重合体系を静電処理するのに用いられる技術(即ち、重合体系を静電紡糸するのか静電噴霧するのか)に応じて変化させることができる。さらに、このフェノール重合体の分子量は、どのフェノール重合体を用いるかによって変化させることができる。一般的には、可能な限り直鎖状であり、この所望の直鎖性を維持しながらできる限り高い分子量を有するフェノール重合体を用いることが望ましい。
一般的には、静電処理に際して、上記フェノール重合体の分子量は、約900乃至50,000とすることができる。例えば、このフェノール重合体が静電紡糸される場合、その分子量は約9,000乃至30,000であることが好ましい。この比較的高い分子量の直鎖フェノール重合体、特にノボラックは、比較的低分子量の分枝フェノール重合体と同様な溶媒中の重量パーセント条件で紡糸させることができる。同様な濃度を有する比較的高分子量の溶液を用いると、得られるナノ繊維の強度を増大させることができる。
市販のフェノール重合体はフェノール樹脂として入手可能である。フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合生成物であり、リアクタント・レシオおよび使用触媒によって、主に2つのタイプ、ノボラックとレゾールとに区別することができる。ノボラックは、酸触媒を用いて1未満のホルムアルデヒド/フェノール(「F/P」)比で作製されるので、直鎖構造を有し、架橋剤により硬化する。レゾールは、アルカリ触媒を用いて1以上のフェノール/ホルムアルデヒド(「F/P」)比で作製されるので、硬化剤を必要とせずに単独で硬化することができる多官能性(multifunctionality)構造を有する。上記フェノール重合体は、市販ノボラック、市販レゾール、およびこれらの混合物とすることができる。ノボラック・フェノール樹脂は種々の分子量のものが市販されており、それらは全て本発明に適したものとすることができ、これらはデュレズ社(アディソン、TX)から市販されている。また、レゾール・フェノール樹脂も種々の分子量のものが市販されており、それらは全て本発明に適したものとすることができ、これらもデュレズ社(アディソン、TX)から市販されている。
また、ノボラック・フェノール樹脂から誘導された炭素材は、マスト・カーボン社(英国)からNovocarb(商標)として、またアメリカン・カイノール社(プレザントビル、NY)からNovoloid(商標)として入手可能である。また、フェノール樹脂は、ジョージア・パシフィック社(アトランタ、GA)からBakelite AG(商標)として入手可能である。さらに、フェノール樹脂は、種々のメーカー、例えばアモコ・エレクトロニック・マテリアルズ社(アルファレッタ、GA)、サイテック・ファイバーライト社(テンペ、AZ)、オクシデンタル・ケミカル社(ダラス、TX)、プラスロック社(バッファロー、NY)、プラスチックス・エンジニアリング社(オーバーンヒルズ、MI)、レジノイド・エンジニアリング社(ヘブロン、OH)、ロジャース社(ロジャーズ、CT)、アメテック/ウエストチェスター・プラスチックス社(ネスケホーニング、PA)、スケネクタディ・インターナショナル社(スケネクタディ、NY)、ソルティア社(セントルイス、MO)およびユニオン・カーバイド社(ダンベリー、CT)からも市販されている。
市販のフェノール樹脂は比較的安価な重合体であるので、ナノ繊維、マイクロ繊維、フィルムなど、およびこれらの組み合わせを含む比較的安価な静電処理材料およびこれらの静電処理材料を用いた最終使用製品が得られる。これらのフェノール樹脂は、比較的安価であることから、静電処理材料およびこの静電処理材料を含む製品の大量生産に際し、有利である。フェノール樹脂から得られる静電処理材料のその他の利点としては、化学収率や化学的純度が高く、生体適合性が良好で、毒性特性が低く、耐熱性や耐腐食性に優れ、吸着剤として使用するための活性化が容易であることが挙げられる。
これらのフェノール重合体は、市販のフェノール重合体の他に、フェノール重合体を合成するための任意の方法によって合成することができる。こうした方法としては、例えば、任意の反応性フェノールもしくは置換フェノールと反応性アルデヒドとの縮合が挙げられる。さらに、フェノール重合体を合成する方法としては、アッカラほか、「ジオキサン中におけるホースラディシュ・ペルオキシダーゼによる重合体の合成および生成重合体の特徴付け」Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry、29(1991年)p1561−1574に記載されている、酵素を用いたフェノールもしくは置換フェノールの重合が挙げられる。これらのフェノール重合体を合成するために用いることができるフェノールとしては、例えば、フェノール[C6H5OH]、クレゾール(メタ−、オルソ−、パラ−およびこれらの混合物を含む)[CH3C6H4OH]、キシレノール[(CH3)2C6H3OH]、p−フェニルフェノール[C6H5C6H4OH]、ビスフェノール[(C6H4OH)2]、レゾルシノール[C6H4(OH)2]、p−第3ブチルフェノール、アルキル置換フェノール、ジフェニロールプロパンなど、およびこれらの混合物が挙げられる。上記フェノール重合体を合成するために用いることができる反応性アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒドおよびフルフラールが挙げられる。
レゾールおよびノボラックは、ホルムアルデヒドとフェノールとの反応から合成することができる。レゾールもしくはノボラックのいずれが形成されるかは、触媒の形態(mode)およびフェノールに対するホルムアルデヒドのモル比によって決まる。例えば、Gardziella・A、Pilato・L.A.、Knop・A「Phenolic Resins:Chermistry,Applications,Standardization,Safety and Ecology」第2版、Springer−Verlag:ベルリン、2000年を参照されたい。レゾールおよびノボラック樹脂を架橋するには、通常種々の硬化条件が用いられる。レゾールの硬化は、熱処理、酸もしくは塩基、または場合によっては、硬化プロセスを促進すると報告されている他の特別な硬化系、例えば、カルボン酸エステル、無水物、アミドおよび炭酸塩によって行うことができる。例えば、Peng・W、Riedl・B、Barry・A.O.J.Appl.Polym.Sci.1993年、48:p1757を参照されたい。ノボラックを硬化するには、ホルムアルデヒドの供給源もしくは広く用いられている硬化剤ヘキサメチレンテトラミンが必要とされるが、さらに、固形レゾール、ビスメチロール・クレゾール、ビスオキサゾリンおよびビスベンズオキサジンを用いる他の方法も報告されている。例えば、Sergeev・V.A.ほか、Poly Sci.Ser B、1995年、37(5/6):p273、Cuthbertson・B.M.、Tilsa・O.、Devinney・M.L.、Tufts・TA、SAMPE、1989年、34:p2483、およびPilato・L.A.、ミクノMichno・M.J.、Advanced Composite Materials、Springer−Verlag:ベルリン、1994年を参照されたい。
また、上記フェノール重合体は、フェノール重合体と共重合性単量体との共重合体とすることもできる。この共重合性単量体としては、例えば、クレゾール(メタ−、オルソ−、パラ−およびこれらの混合物を含む)、キシレノール、p−フェニルフェノール、ビスフェノール、レゾルシノール、p−第3ブチルフェノール、アルキル置換フェノール、ジフェニロールプロパン、およびp−ビニルフェノールもしくは2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレートのようなメタクリレートなどの別の重合性官能基を有するフェノールなど、ならびにこれらの混合物が挙げられる。また、この共重合性単量体としては、ポリエステル、不飽和ポリエステル、エポキシ、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリイミド、尿素−ホルムアルデヒドなど、およびこれらの混合物も挙げられる。さらに、上記共重合性単量体としては、スチレン、フタル酸ジアリル、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエンなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
例えば、フェノール重合体(類)および共重合性単量体(類)は、フェノール共重合体を作製するための重合開始剤の存在下に有機溶媒重合メジウム中で共重合させることができる。フェノール重合体(類)および共重合すべき単量体(類)の添加ならびに重合の開始の順序は、フェノール共重合体が形成される限り、変更することができる。例えば、共重合すべき単量体類を全て反応器に加えた後、重合を開始させてもよい。あるいは、フェノール重合体(類)の一部と単量体類とを反応器に加えて重合を開始させてもよい。適切な時間内に、残りのフェノール重合体(類)および/または単量体類を加えることができ、この場合、この残余のフェノール重合体類および単量体類は、フェノール共重合体が形成される限り、全てを一度に、もしくは段階的に加えることができる。フェノール重合体(類)および共重合すべき単量体類を、最初に全て反応器に加えた後、重合を開始することが好ましい。共重合させた後の反応混合物は、冷却し、必要に応じて乾燥することにより、もろい樹脂を得ることができる。このもろい樹脂を粉砕することによって粉末状フェノール共重合体を得ることができる。
また、上記フェノール重合体は、フェノール重合体と、このフェノール重合体の溶液もしくは溶融液と混和性の任意の他の重合体系とのブレンドとすることもできる。フェノール重合体は、水素結合アクセプターである任意の重合体系と混和性であってもよい。フェノール重合体とブレンドすることができる重合体としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、酢酸セルロース、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)、ポリ乳酸、およびこれらの混合物などが挙げられる。このフェノール重合体を別の重合体系とブレンドすることにより、最終的なフェノール樹脂静電処理材料の特定の特性を得、向上させ、もしくは変化させることができる。従って、混和性の重合体系は、得るべき、もしくは向上させるべき、または変化させるべき特性に基づいて選択することができる。例えば、フェノール樹脂繊維の力学的特性を改善するには、上記フェノール重合体をポリアクリル酸とブレンドすることができる。選択されるこの混和性重合体系は、このフェノール重合体の溶液もしくは溶融液中にブレンドした後に、静電処理する。
また、上記フェノール重合体に添加剤をブレンドもしくはドープすることにより、このフェノール重合体の溶液の静電処理の特定の特性を得、向上させ、もしくは変化させることができる。さらに、添加剤を加えることにより、フェノール樹脂静電処理材料の特定の特性を得、向上させ、もしくは変化させることができ、またはこのフェノール樹脂材料のその後の処理に役立たせることができる。このフェノール重合体に用いるのに適した添加剤の例としては、例えば、種々の大きさおよび形状の分散金属、金属酸化物、金属塩、界面活性剤、硬化/架橋剤、安定剤、多孔性向上剤(porosity enhancer)、非揮発性および非相溶性溶媒、各種塩、ならびにこれらの混合物が挙げられる。これらの添加剤は炭化時に作用して炭化を安定化もしくは促進することができる。添加剤の具体的な例としては、銅ナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子、ヘキサメチレンテトラミン、PtCl2などが挙げられる。
さらに、得られた静電処理材料に対し、処理後に添加剤を注入することができる。従って、硬化フェノール樹脂材料を金属塩溶液に浸漬するか、このフェノール樹脂材料に金属を含浸させることにより、硬化フェノール樹脂材料に金属塩もしくは金属粒子を含浸させることができる。さらに、この硬化フェノール樹脂材料を塩基中に浸漬することにより、フェノキシド材料を作製することができる。このフェノキシド材料を金属塩溶液中に浸漬することにより、フェノキシド塩を作製することができる。さらに、この硬化フェノール樹脂材料はスルホン化することができる。
上記フェノール重合体は、溶液、分散液もしくは溶融液として静電処理に供することができる。フェノール重合体溶液はフェノール重合体の適切な溶媒の溶液である。また、適切な溶媒中にフェノール重合体を分散させたフェノール重合体分散液をこの処理に用いることもできる。上記溶液の溶媒は、上記フェノール重合体(フェノール重合体、共重合体、ブレンド、ならびに添加剤を含むフェノール重合体、共重合体およびブレンドを含む)が溶解可能な任意の揮発性溶媒とすることができる。この溶媒は、静電処理に悪影響を与えるものであってはならない。即ち、この溶媒は、得られるフェノール樹脂静電処理材料の物性に悪影響を与える残渣を残さないで繊維から十分蒸発させる必要がある。
有利なことに、上記フェノール重合体は、比較的扱いやすい溶媒に比較的容易に溶解し、従って可溶性である。それ故に、この重合体が可溶性である溶媒は毒性が比較的低く(即ち、LD50値を有する)、使用するのに安全であると一般に考えられている。用いることのできる溶媒としては、アルコール、ケトン、塩素化炭化水素、およびこれらの混合物が挙げられる。さらに、用いることのできる溶媒として、1種以上のアルコール、フッ素化アルコール、ケトンおよび塩基(有機塩基もしくは無機塩基)の混合物が挙げられる。これらの溶媒の具体例としては、例えば、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサフルオロプロパノール、酢酸エチル、ジクロロメタンおよびこれらの混合物、ならびにエタノール、アセトン、イソプロピルアルコールおよび水酸化アンモニウムなどの塩基のうちの1種以上の水性混合物などが挙げられる。
本プロセスへの使用に適していると考えられる上記のような溶媒は、静電処理に通常用いられている多くの溶媒よりも好適であると考えられる。何故なら、通常用いられている溶媒はかなり毒性が強い傾向があり、通常、一般的な使用に安全とはされていないからである。ポリアクリロニトリル(PAN)などの他の重合体系は、上記フェノール重合体ほど易溶性ではないので、扱いやすいとはされていない溶媒を必要とする。こうした通常の溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。本プロセスに用いることができる上記溶媒は、小規模および大規模のいずれにおいても取り扱いが容易であり、従って、大量生産にはさらに有利である。
上記フェノール重合体溶液の濃度は、このフェノール重合体溶液を静電的に処理することができる限りにおいて、所望通りに変化させることができる。つまり、このフェノール重合体溶液の所望の濃度は、フェノール溶液を静電紡糸もしくは静電噴霧することができるかどうかによって変化させることができる。さらに、このフェノール重合体溶液の濃度は、使用するフェノール重合体の分子量の変化に伴って変化させることができる。さらに、このフェノール重合体の濃度は、どのフェノール重合体を用いるかによって変化させることができる。
静電処理に際して、上記フェノール重合体溶液の濃度は、約5重量パーセント乃至90重量パーセント超のフェノール重合体系とすることができる。例えば、このフェノール重合体が静電紡糸される場合、その濃度は約40乃至60重量パーセントのフェノール重合体系であることが好ましい。この重量パーセントは、任意の共重合性単量体、他の混和性重合体系、添加剤および上記フェノール重合体を含む全フェノール重合体系に対するものである。例えば、分子量が高いフェノール重合体ほど、低い濃度で静電処理することができ、分子量が低いフェノール重合体ほど、高い濃度で静電処理することができる。
フェノール重合体系の調製
前記フェノール重合体溶液は、フェノール重合体、共重合性単量体、ブレンドすべき他の重合体、および添加剤を含む適当な量のフェノール重合体溶液成分を選択し、これらの成分を適切な溶媒中で当業者に公知の方法により十分混和することによって、作製する。例えば、これらのフェノール重合体成分は撹拌しながら溶媒に添加してもよい。さらに、これらのフェノール重合体成分を溶媒に添加し、プラットホーム・シェイカーを用いて振盪しながら撹拌してもよい。
上記フェノール重合体溶液の成分の溶媒への添加および溶解するまでの混和の順序は、フェノール重合体溶液が調製される限り、変更することができる。例えば、任意の添加剤を含むこの重合体溶液の成分の全てを一度に溶媒に添加した後、同時に溶解するまで混和することができる。あるいは、各成分を、それぞれが次の成分を添加する前に溶解するまで混和しながら順次に添加することができる。例えば、あるフェノール重合体を添加して溶解するまで混和し、この第1の成分を溶解した後、この溶液に第2のフェノール重合体を添加して溶解するまで混和し、次いで、この2種のフェノール重合体の溶液に添加剤を添加して溶解するまで混和する、などとすることができる。あるいは、この重合体溶液が2種のフェノール重合体溶液(例えば、レゾールとノボラック)の混液である場合、各フェノール重合体を個別に溶媒に添加して溶解するまで混和することにより2つの別々のフェノール重合体溶液を調製し、次いで、これら個々の溶液を混和することができる。このフェノール重合体溶液の混液に何らかの添加剤を加えたい場合には、個々のフェノール重合体溶液にこの添加剤を添加した後、これらを混和するか、これら重合体溶液の組み合わせ混液を混和することができる。
上記フェノール重合体がフェノール重合体と共重合性単量体との共重合体であれば、上記フェノール樹脂溶液を形成させる前に、このフェノール重合体と共重合性単量体とを共重合させる条件下で混和する。次いで、得られた共重合体を適切な溶媒と混和する。
あるいは、このフェノール樹脂溶液には100重量%のフェノール重合体を含ませることができ、従って、これを重合体溶融液とすることができる。フェノール重合体を含む重合体溶融液は、当業者に公知の方法により調製することができる。上記フェノール重合体溶液の成分を溶融ブレンドするには、粉末状のフェノール重合体を予混合することができる。予混合は任意の適切な手段によって達成することができる。例示的な小型混合機としてはオハイオ州クリーブランドのビタミックス社のVitamixerがある。次いで、この予混合成分を加熱した押出機に入れ、そこでこの混合物を溶融混合する。このフェノール重合体溶融液は、フェノール重合体溶液と同じ方法で静電的に処理することができる。また、このフェノール重合体溶融液は、その内容が全文引用により本明細書に組み込まれている、Larrondo・L.、St.John Manley・J.「重合体溶融液からの静電的繊維紡糸、I.繊維の形成および特性に関する実験的観察」Journal of Polymer Science、Polymer Physics編、第19巻、(1981年)p909−920に記載されている方法により静電的に処理することができる。
静電的処理
フェノール重合体および任意に添加剤を含むフェノール重合体系を調製した後、このフェノール重合体系を静電的に処理することにより、フェノール樹脂ナノ繊維、マイクロ繊維およびフィルム、またはこれらの静電紡糸フェノール樹脂材料を含む材料を作製する。例えば、このフェノール重合体系を静電的に紡糸することにより、フェノール樹脂繊維およびこの繊維を含むマットもしくはウェブを作製することができる。また、このフェノール重合体系を静電的に噴霧することによりフィルムを作製することができる。このフェノール重合体系の静電的な処理(即ち、紡糸もしくは噴霧)は、その内容が全文引用により本明細書に組み込まれている、Kenawyほか、「ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)繊維の静電紡糸」Biomaterials、第24巻(2003年)p907−913に記載されているような重合体の静電的処理用装置を用いて行うことができる。一般に直径10μm程度の繊維を作製する融解紡糸もしくは乾式紡糸などの従来の繊維形成法とは対照的に、静電処理ではナノサイズの大きさの繊維が得られる。この静電処理法は、毛細管(capillary)に高電圧をかけ、これに重合体の溶液もしくは溶融液をポンプで注入するものである。重合体のナノ繊維は、電源から少し離れて接地したターゲット上に不織布マットとして回収される。このメカニズムは電場が存在しない場合には単純であり、液は毛細管の出口で小滴を形成し、その大きさは表面張力によって決まる。電場が存在すると、これが液中に電荷を生じさせ、この電荷は速やかに表面へと減衰する。この表面電荷のカップリングおよび外部電場によって接線応力が生じる結果、小滴が円錐形(Taylor cone)に変形する。例えば、Taylor,Sir G、Proc.Roy.Soc.London A、1969年、313、453を参照されたい。一旦電場が表面張力に打ち勝つのに必要な臨界値を超えると、円錐の先端から流体ジェットが噴出する。静電的および流体力学的不安定性は、本プロセスの基本操作に役立たせることができる。これらのプロセス変量と上記重合体および流体の特性との組み合わせによって、その動作範囲が静電噴霧もしくは静電紡糸のいずれであるかが決まる。
通常、静電噴霧は、分子鎖の絡み合いが繊維フィラメントに発達するのをサポートするには十分ではないような低分子量および/または低濃度重合体溶液において、認められる。その代わり、かけられた電場が溶液の表面張力に打ち勝つので、噴出したジェットが小滴に分割される。静電紡糸は繊維形成の好ましい手段である。十分に高い濃度では、鎖の絡み合いの利点を生かして、流体不安定性により、ターゲットに到達するまでの長い路程にわたり曲がって急速に生長するにつれて細くなる連続した小径の巻き付く(whipping)フィラメントが形成される。例えば、Reneker・D.H.、Yarin・A.L.、Fong・H.、Koombhongse、S.、J.Applied Physics、2000年、87(9):p4531を参照されたい。電場強度および溶液濃度は、得られる繊維特性に影響を与える2つの重要な変量である。
一般に、静電噴霧では、静電紡糸に用いられるのと同様な実験装置が利用される。本明細書に用いている静電的処理および/または静電処理という用語は、静電紡糸および静電噴霧の技術を含む。
好ましい実施態様として、静電処理の技術では、送出手段、電場、および捕捉もしくは回収手段を含むことができる捕捉点を利用する。送出点は、単に、前記フェノール重合体系の少なくとも1滴を電場に導入もしくは暴露することができる場所である。この送出点は、電場付近の空間のどこにでも、例えば、電場の下方もしくは電場に水平方向に近接して配置することができる。捕捉点は、単に、重合体繊維もしくは小滴の流れもしくはジェットを回収することができる場所である。送出点および捕捉点は、電場をつくるのに役立つように導電性であることが好ましい。しかし、送出点および捕捉点は電場内もしくはその付近に単に位置する非導電性の点であってもよいので、この装置は上記タイプの配置もしくは構成に限定されるものではない。
電場は、上記重合体溶液への重力に打ち勝ち、この重合体系の表面張力に打ち勝つのに十分強く、間隙を介して溶液の流れもしくはジェットを形成し、電場を横切ってこの流れもしくはジェットを加速するのに十分な力をもたらすものでなければならない。当業者であれば認めるように、表面張力は多くの変量の関数である。これらの変量としては、重合体の種類、溶媒の種類、溶液濃度および温度が挙げられる。真空内ではより大きな電気力を用いることができるので、真空環境内で静電処理することは有益であると考えられる。
静電紡糸の際、前記フェノール重合体系の濃度は、溶液内の乱巻重合体分子が一体となって指向性配列の繊維を形成することができるように十分高くする必要がある。上記の静電紡糸の際には、フェノール重合体溶液を用い、このフェノール重合体溶液を40乃至60重量パーセントのフェノール重合体とすることが好ましい。
一実施態様として、この静電処理装置を、図1に例示したように構成することによって、フェノール重合体系の流れが空隙を通して水平に引っ張られるようにする。図1に示したように、注入器である送出手段10、接地した回収手段20、電場を発生させる電源30がある。上述のように、前記フェノール重合体系を静電処理するのに用いる技術では、このフェノール重合体系を電場に水平に送出する送出手段の使用を必要としない。しかしながら、この水平送出構造をこの系を一定の容積量で送出手段の先端にポンプで送り込むポンピング手段と連結して用いることにより、このフェノール重合体系が電場に送出されるときに、このフェノール重合体系の表面に時たま存在する表皮(skin)を連続的に壊すことができるので、この構造を使用することは特に有益であることが分かった。このフェノール重合体系を送出手段から滴らせることは避けるべきであることを理解されたい。これを避けるためには、送出手段の開口部の圧力をこのフェノール重合体系の表面張力に伴う圧力より低くする必要がある。別の方法でこのフェノール重合体系の電場への送出を制御することが可能であることは当業者なら理解するであろう。別の方法としては、送出手段の開口部の大きさを調節する方法、またはその空気圧を送出手段内のこのフェノール重合体系よりも高くなるように調節する方法が挙げられる。
従って、上記フェノール重合体系は、このフェノール重合体系を送出するための帯電送出装置もしくは帯電手段を介して帯電場へ誘導する。こうした装置もしくは手段には、調整された量のフェノール重合体系を送出することができる開口部が備えられる必要がある。好適な開口部は直径が約0.5乃至約1.0mmである。前述のように、このフェノール重合体系を帯電場へ水平に送出することによって、重力により過剰量のフェノール重合体が帯電場に導入されないようにすることが好ましい。一例として(図1に示したように)、フェノール重合体系は水平に取り付けた注入器(10)を介して帯電場に送出する。別の例として、鋼線などの導電性部分を含むピペットを用いてもよい。また、当業者なら、調整された量のフェノール重合体系を帯電場に送出することができる別の装置もしくは手段を容易に選択することができよう。フェノール樹脂繊維は1滴の溶液から作製することができるので、静電的処理を行うのに送出手段は必要ではない。また、静電処理は、溶液入りビーカー、溶液入り時計皿、もしくはある量のフェノール重合体系を収容できる任意のデバイスから実施することができる。
上記フェノール重合体系からの繊維の流れは、回収もしくは捕捉器(20)、または繊維の流れもしくはフィルムを捕捉するための手段へ送出することが好ましい。捕捉器もしくは捕捉するための手段の例としては、金網、ポリマーメッシュ、回転円筒、金属グリッド、金属箔、紙、注射針、分解性重合体繊維などの分解性基材、静電紡糸基材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者なら、繊維が電場を通って移動する時にこの繊維を捕捉するのに用いることができる別の器具もしくは手段を容易に選択することができよう。回収もしくは捕捉器は、帯電フェノール樹脂繊維を引き付けるために接地されていることが好ましい。捕捉器は、フェノール樹脂材料の使用目的に基づいて選択することができる。静電紡糸された基材上に紡糸することにより、静電紡糸材料の積層品を作製することができる。
回収もしくは捕捉器は、種々の形態もしくは形状のものとすることができ、静電的に作製した繊維もしくはフィルムは、乾燥するとこれらの種々の形状を獲得することができる。具体的な形状の例としては、単層のウェブ、多層膜、異なる原料の交絡繊維、中空管などが挙げられる。
当業者なら認めるであろうが、空隙を通して繊維の流れを作り出すのに必要な帯電場は上記の送出手段もしくは捕捉手段を帯電させることにより得ることができる。送出手段を帯電させる場合、(図1に示したように)捕捉手段は接地させることになり、捕捉手段を帯電させる場合には送出手段を接地させることになる。
一実施態様として、フェノール重合体の約40乃至約60重量パーセントエタノール溶液を室温および常圧で、約0.5乃至約5kV/cmの電場を用いて静電紡糸する。別の実施態様として、レゾールの約40乃至約60重量パーセントエタノール溶液およびノボラックの約40乃至約60重量パーセントエタノール溶液の50/50溶液を室温および常圧で、約1乃至約2kV/cmの電場を用いて静電紡糸する。紡糸速度は、このフェノール重合体溶液の流れおよび電場を調整することにより制御することができる。
静電的紡糸とは対照的に、静電噴霧が行われるのは、フェノール重合体系が送出手段から電場を通って回収手段までスムーズに流れないで溶液の小滴もしくはクラスターを形成し、これらの小滴もしくはクラスターが別個の単位体として回収手段上に噴霧される場合である。静電紡糸繊維が回収手段上に連続的に回収されるのに対して、静電噴霧ビーズは個々の異なる小滴として回収される。
フェノール樹脂材料が静電噴霧もしくは静電紡糸のいずれによって形成されるかについては、上記重合体系の成分および/または印加電圧、ターゲットまでの距離、容積流量などの変化するプロセス・パラメータを調節することにより制御することができる。さらに、溶液が静電紡糸されるか静電噴霧されるかについては、濃度変更、溶媒選択、重合体分子量、重合体が分枝しているなどのフェノール重合体系の物性を変えることによって制御することができる。
こうした材料は、静電処理された時点で、繊維性マットもしくはフィルムとして回収することができる。ひとたび回収したこの静電処理材料は、これを硬化した後、炭化するのが特に有益であることが分かった。炭化後の静電処理フェノール樹脂材料は、必要に応じて、活性化することができる。
この静電処理フェノール樹脂材料の特性を静電処理後の処理により調整することによって、使用目的に適した特性を有する材料を得ることができる。こうした静電処理後の処理としては、硬化、炭化および活性化が挙げられる。
静電処理フェノール樹脂ビーズ
また、市販のフェノール樹脂を用いて比較的安価な静電処理ビーズを提供することができる。例えば、フェノール重合体および任意に添加剤を含むフェノール重合体系を調製した後、このフェノール重合体系を静電的に処理することにより、フェノール樹脂ビーズを作製することができる。例示的実施態様として、フェノール重合体系を静電的に噴霧することによりビーズを作製することができる。このフェノール重合体系の静電的な処理(即ち、噴霧)は、その内容が全文引用により本明細書に組み込まれている、ケナウィーほか、「ポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)繊維の静電紡糸」Biomaterials、第24巻(2003年)p907−913に記載されているような重合体の静電的処理用装置を用いて行うことができる。
フェノール樹脂ビーズは1滴の溶液から作製することができるので、静電的処理を行う際に、送出手段は必要ではない。
静電処理により生成したフェノール重合体系からのビーズの流れは、回収もしくは捕捉器(20)、または、例えば、種々の形状および構造の容器などのビーズの流れを捕捉するための手段へ送出することが好ましい。捕捉器もしくは捕捉するための手段の例としては、金網、ポリマーメッシュ、回転円筒、金属グリッド、金属箔、紙、注射針、分解性重合体繊維などの分解性基材、静電紡糸基材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者なら、ビーズが電場を通って移動する時にこのビーズを捕捉するのに用いることができる別の器具もしくは手段を容易に選択することができよう。回収もしくは捕捉器は、帯電フェノール樹脂ビーズを引き付けるために接地されていることが好ましい。捕捉器は、フェノール樹脂材料の使用目的に基づいて選択することができる。
当業者なら認めるであろうが、空隙を通してビーズの流れを作り出すのに必要な帯電場は上記の送出手段もしくは捕捉手段を帯電させることにより得ることができる。送出手段を帯電させる場合、(図1に示したように)捕捉手段は接地させることになり、捕捉手段を帯電させる場合には送出手段を接地させることになる。
静電噴霧法の回収もしくは捕捉器は、液体回収浴もしくは基板であることが好ましい。液体回収浴を用いる場合、後に個々の粒子として固化することができるビーズが形成される。基板への噴霧の場合、ビーズを基板上に噴霧することによりフィルムを生成させることができる。あるいは、ビーズを基板上に噴霧することによりビーズの個々の相異なる形状を保持させることができる。次いで、この基板上のビーズを固化する(即ち、残余の溶媒を蒸発させる)ことにより、個々の粒子が作製される。通常、基板上に噴霧してフィルムを作製する場合、ビーズに残余の溶媒を保持させてフィルムの生成を促す。
液状回収浴を用いる場合、この液体は、非相溶性溶媒である液体とする必要があり、このようなものとしては、例えば、水、(90度エタノールなどの)水とアルコールとの混合液、植物油、ピーナッツ油、シリコーン油などの油、およびこれらの混合液が挙げられる。液状回収浴は、その中にフェノール樹脂ビーズを静電噴霧することが可能な非相溶性溶媒を収容するのに適した任意の器具を用いて作製することができる。例えば、この浴は、トレー、平鉢(pan)、ビーカーなどを用いて形成することができる。静電噴霧では、非溶剤液中への噴霧により均一な重合体ビーズもしくは小滴が得られる。このビーズは、例えば、濾過などの適当な手段によりこの液状回収浴から分離、回収する。得られる静電噴霧フェノール樹脂ビーズは、直径が数nm乃至数百μm、好ましくは100nm乃至10μm、さらにより好ましくは50nm乃至5μmである。
このビーズは静電処理した時点で、回収することができる。ひとたび回収したこの静電処理ビーズは、これを硬化した後、炭化するのが特に有益であることが分かった。炭化後の静電処理フェノール樹脂ビーズは、必要に応じて、活性化することができる。
この静電処理フェノール樹脂ビーズの特性を静電処理後の処理により調整することによって、使用目的に適した特性を有するビーズを得ることができる。こうした静電処理後の処理としては、硬化、炭化および活性化が挙げられる。
硬化工程
従って、静電処理材料は回収した後、硬化工程の対象とすることができる。この硬化工程は、この静電処理フェノール樹脂材料を20乃至180℃まで0.1乃至5℃/分の昇温速度で加熱して遂行することが好ましい。この硬化工程の静電処理フェノール樹脂材料は上記硬化温度で2乃至8時間維持することが好ましい。硬化は十分ゆっくりと行うことにより、静電処理フェノール樹脂材料が硬化して、溶融しないようにする必要がある。あるいは、このフェノール樹脂は、ビーズの形をとる場合、120乃至180℃の温度の油を含む容器内で直接紡糸することにより、急速に硬化させることができる。炭化工程の前にこのフェノール樹脂材料を硬化させると、有利なことに、この材料が炭化時に溶融して凝固塊を形成するのを防止できることが見出された。
得られた硬化フェノール樹脂材料は、この硬化フェノール樹脂材料を金属塩溶液に浸漬するか、このフェノール樹脂材料に金属を含浸させることにより、金属塩もしくは金属粒子を含浸させることができる。さらに、この硬化フェノール樹脂材料を塩基中に浸漬することにより、フェノキシド材料を作製することができる。このフェノキシド材料を金属塩溶液中に浸漬することにより、フェノキシド塩を作製することができる。さらに、この硬化フェノール樹脂材料はスルホン化することができる。
静電処理フェノール樹脂繊維の炭化
この静電処理フェノール樹脂繊維は硬化させた時点で、炭化することができる。従って、得られた硬化静電処理フェノール樹脂繊維は炭化工程の対象とすることができる。
炭化工程は、このフェノール樹脂静電処理繊維を700乃至2,000℃まで1乃至25℃/分の昇温速度で不活性雰囲気下に加熱し、この硬化温度を2乃至8時間維持することによって遂行することが好ましい。この不活性雰囲気は、窒素下、アルゴン下などとすることができる。低温炭化は、不活性雰囲気中約1,100℃までの温度で行うことができる。約1,200℃乃至約2,000℃での炭化は、不活性/真空炉内で実施することができる。
フェノール樹脂前駆体から得られる炭素繊維は、通常「非黒鉛化(non−graphitizing)」炭素と呼ばれており、これは、3,000℃までの十分高い温度で規則(ordered)結晶子領域が「非規則(non−ordered)」構造内に形成される「ランダム層構造」のことを意味するフランクリンにより付けられた呼称である。例えば、Franklin・R.、Acta.Cryst.1951年、4:p253を参照されたい。カワムラとジェンキンスは、2,500℃の温度のフェノール樹脂繊維の表面に関して同様な知見を報告した。例えば、Kawamura・K.、Jenkins・G.M.、J.Mat.Sci.、1970年、5:p262を参照されたい。マスターズとマッケナニーはセルロース炭素について研究し、その支配的な特徴は炭素層の絡み合った網様構造(「リボン」)であることを見出した。例えば、Masters・K.J.、McEnaney・B.、"The development of the structure of microporous carbons" in Characterization of Porous Solids、Gregg・S.J.、Sing・K.S.W.、Stoeckli・H.F.編、Society of Chemical Industry:ロンドン、1979年を参照されたい。カワムラとジェンキンスは、こうした炭素について六方晶系配列(hexagonal array)内に主としてsp2炭素原子を含むものと説明し、温度を上げると、格子面間隔が900℃の3.85Åから1,600℃の3.66Åまで減少することを明らかにした。彼らはこうした物質が非黒鉛化炭素であると報告し、検討された最高の温度においてもミクロ細孔が存在することを見出した。透過電子顕微鏡法およびX線回折は、この物質の微細構造を研究するのに用いられた重要な特性決定手段であった。
これに対して、本明細書に開示した方法によれば、前記静電処理フェノール樹脂繊維を熱処理(即ち、炭化)すると、その構造が変化し、高度に規則的な結晶質黒鉛を形成させることができ、この黒鉛では芳香族層のC−C結合長は1.42Åであり、面間の間隔は3.35Åである。例えば、Oberlin・A.、Bonnamy・S.、「Carbonization and Graphitization in Graphite and Precursors,World of Carbon」第1巻、Delhaes・P.編、Gordon and Breach Science Publishers:フランス、2001年を参照されたい。従って、炭化処理によって、この静電処理フェノール樹脂繊維の微細構造の転位をもたらすことができる。炭化工程の温度が上昇するに伴って、微細構造の転位が大きくなることにより高度に黒鉛状のシートを得ることができる。
例えば、レゾールとノボラックとの1:1のブレンドからなるフェノール重合体系を1μm未満のサイズの繊維に静電紡糸した後、800℃乃至2,000℃の温度で硬化し炭化することによりナノサイズの炭素繊維が形成された。アルゴン吸着データから、800℃乃至1,400℃で形成させた炭化静電紡糸繊維は、1,600℃乃至2,000℃で熱分解した非多孔性の静電紡糸繊維に比し、大部分がミクロ細孔性であることが明らかとなった。熱処理の結果、繊維内に構造転位が生じることにより温度の上昇に伴って規則性の増大がもたらされた。この構造転位は、透過電子顕微鏡法により、低温でグラフェン・シートのランダムに配置された(oriented)「リボン」が示されたことで証明された。このリボンは、温度の上昇に伴い、リボンの原因となるグラフェン・シートの数が増加することによって厚さが増大した。X線回折では、温度の上昇に対応した層間間隔の減少が示された。繊維の縁に沿ったHRTEMによって、グラフェン・シートが繊維の長手方向に平行な配列を部分的に示し始めることが明らかとなった。また、粒子の一部は、上記の整列した(aligned)シート上で核となったと考えられる結晶質黒鉛の生長を示した。低温の熱処理は、微孔性およびグラフェン・シートの不規則性と符合した。ところが、高い温度では、シートのアラインメントが増大し、これに対応して吸着データによる多孔性が低減することが示された。グラフェン・シートのパケットの湾曲性、繊維を不浸透性の層で覆うシートのアラインメント、およびその表面、場合によっては炭素繊維の大部分における黒鉛の出現。
高分解能透過電子顕微鏡法およびX線回折は、物質の微細構造を研究するのに用いる重要な特性決定手段である。
炭化の過程で硬化フェノール樹脂静電処理繊維が熱分解することにより縮合反応もしくは揮散する生成物が形成され、これらの工程間の競合によって炭素収量が決まる。炭素残分は、多核芳香族化合物間の縮合および側鎖基の排除によって形成される。しかしながら、多くの炭素材は、かなりの濃度のヘテロ原子、特に窒素および酸素、ならびに鉄、セラミックなどの鉱物質を保持している(B.McEnaney、Carbon、26(3):p267−274(1988年))。上記炭化工程では、少なくとも40乃至75パーセントの炭素収率(この炭素収率は、生成物がほぼ100パーセント炭素であると仮定した場合の炭化工程のパーセント収量である)を得ることができる。走査電子顕微鏡(SEM)では、静電紡糸工程で生成した繊維形態は硬化および炭化の全体を通じて保持されることが裏付けられた。
前記重合体系に酸化鉄ナノ粒子を加えて静電処理することにより、通常見出され、もしくは考えられているものよりはるかに低い温度で静電処理繊維内に黒鉛を形成させることができる。例えば、10w/w%のPAN/DMF溶液に3w/w%の酸化鉄(30nm)粒子を分散させ、蒸着(deposition)距離を15cmとして18.5kVで静電紡糸する実験を行った。この繊維を、先ず、サーモライン(Thermolyne)2110管状炉内において窒素を0.2L/分で連続的に流しながら800℃まで温度を上げて炭化した。次いで、この炭化繊維をR.D.2.5レッドデビル高温不活性/真空炉に移し、1,000℃および1,200℃まで温度を上げて炭化した(2つの別の工程)。黒鉛はこの炭化繊維および炭化鉄の両者において認められた。図18は、酸化鉄ナノ粒子をPAN繊維に加えて1,200℃で炭化した場合に得られた静電紡糸材料のSEMを示す。
静電処理フェノール樹脂ビーズの炭化
この静電処理フェノール樹脂ビーズは硬化させた時点で、炭化することができる。従って、硬化静電処理フェノール樹脂ビーズは炭化の対象とすることができる。
炭化工程は、このフェノール樹脂静電処理ビーズを700乃至2,000℃まで1乃至25℃/分の昇温速度で不活性雰囲気下に加熱し、この硬化温度を2乃至8時間維持することによって遂行することが好ましい。この不活性雰囲気は、窒素下、アルゴン下などとすることができる。低温炭化は、約1,100℃までの温度で行うことができる。約1,200℃乃至約2,000℃での炭化は、不活性/真空炉内で実施することができる。
フェノール樹脂前駆体から得られる炭素ビーズは、通常「非黒鉛化(non−graphitizing)」炭素と呼ばれており、これは、3,000℃までの十分高い温度で規則(ordered)結晶子領域が「非規則(non−ordered)」構造内に形成される「ランダム層構造」のことを意味するフランクリンにより付けられた呼称である。例えば、Franklin・R.、Acta.Cryst.1951年、4:p253を参照されたい。カワムラとジェンキンスは、2,500℃の温度のフェノール樹脂繊維の表面に関して同様な知見を報告した。例えば、Kawamura・K.、Jenkins・G.M.、J.Mat.Sci.、1970年、5:p262を参照されたい。マスターズとマッケナニーはセルロース炭素について研究し、その支配的な特徴は炭素層の絡み合った網様構造(「リボン」)であることを見出した。例えば、Masters・K.J.、McEnaney・B.、"The development of the structure of microporous carbons" in Characterization of Porous Solids、Gregg・S.J.、Sing・K.S.W.、Stoeckli・H.F.編、Society of Chemical Industry:ロンドン、1979年を参照されたい。カワムラとジェンキンスは、こうした炭素について六方晶系配列(hexagonal array)内に主としてsp2炭素原子を含むものと説明し、温度を上げると、格子面間隔が900℃の3.85Åから1,600℃の3.66Åまで減少することを明らかにした。彼らはこの物質が非黒鉛化炭素であると報告し、検討された最高の温度においてもミクロ細孔が存在することを見出した。透過電子顕微鏡法およびX線回折は、この物質の微細構造を研究するのに用いられた重要な特性決定手段であった。
これに対して、本明細書に開示した方法によれば、静電処理フェノール樹脂ビーズを熱処理(即ち、炭化)すると、その構造が変化し、高度に規則的な結晶質黒鉛を形成させることができ、この黒鉛では芳香族層のC−C結合長は1.42Åであり、面間の間隔は3.35Åである。例えば、Oberlin・A.、Bonnamy・S.、Carbonization and Graphitization in Graphite and Precursors,World of Carbon」第1巻、Delhaes・P.編、Gordon and Breach Science Publishers:フランス、2001年を参照されたい。従って、炭化処理によって、静電処理フェノール樹脂ビーズの微細構造の転位をもたらすことができる。炭化工程の温度が上昇するに伴って、微細構造の転位が大きくなることにより高度に黒鉛状のシートを得ることができる。
高分解能透過電子顕微鏡法およびX線回折は、物質の微細構造を研究するのに用いる重要な特性決定手段である。
炭化の過程で硬化フェノール樹脂静電処理ビーズが熱分解することにより縮合反応もしくは揮散する生成物が形成され、これらの工程間の競合によって炭素収量が決まる。炭素残分は、多核芳香族化合物間の縮合および側鎖基の排除によって形成される。しかしながら、多くの炭素材は、かなりの濃度のヘテロ原子、特に窒素および酸素、ならびに鉄、セラミックなどの鉱物質を保持している(B.McEnaney、Carbon、26(3):p267−274(1988年))。上記炭化工程では、少なくとも40乃至75パーセントの炭素収率(この炭素収率は、生成物がほぼ100パーセント炭素であると仮定した場合の炭化工程のパーセント収量である)を得ることができる。走査電子顕微鏡(SEM)では、静電噴霧工程で生成した繊維形態は硬化および炭化の全体を通じて保持されることが裏付けられた。
前記重合体系に酸化鉄ナノ粒子を加えて静電処理することにより、通常見出され、もしくは考えられているものよりはるかに低い温度で静電処理ビーズ内に黒鉛を形成させることができる。
活性化工程
上記炭化フェノール樹脂材料の吸着能は、一部の用途に対しては所望の能力より低くてもよく、またはこの炭化フェノール樹脂材料のポア径は特定の用途に対しては最適化しなくてもよい。その分、活性化工程(即ち、その炭素を酸化気体(例えば、H2OもしくはCO2)と反応させること)によりこの炭化フェノール樹脂材料の多孔性を向上させることができる。この活性化工程では、炭素構造をエッチングすることにより、(無孔部分に)新しいポア、もしくは(活性化前の材料に存在するポアよりも)さらに大きなポアを生じさせ、または既存のポアを拡大させる。活性化は、任意選択的な工程であり、炭化フェノール樹脂材料が活性化しなくても大きな孔容積を有する場合に、さらに多孔性を増大させるために利用することができる。
通常、活性化反応は水蒸気もしくはCO2を用いて行う。代表的な活性化反応の反応方程式は次の通りである:
C(s)+H20(g)→ CO(g)+H2(g)(水蒸気による活性化)温度範囲:750乃至950℃
C(s)+CO2(g)→ 2CO(g)(CO2による活性化)温度範囲:850乃至1,000℃
活性化工程は、酸化気体および不活性雰囲気の混合気体下に前記炭化フェノール樹脂材料を700乃至1,000℃の温度まで加熱することにより遂行することが好ましい。この活性化工程の炭化フェノール樹脂材料は、所望の活性化の程度に応じて20分乃至5時間、上記活性化温度に維持することが好ましい。上記の酸化気体および不活性雰囲気の混合気体は、二酸化炭素と窒素もしくはアルゴンとの混合体、水蒸気と窒素もしくはアルゴンとの混合体などとすることができる。活性化時間を変更することによって細孔径分布を変え、表面積を増大させることができる。上記炭化フェノール樹脂材料はミクロ細孔を含むので、活性化はミクロ細孔を増大させるために利用することができる。また、活性化を行うことによってより大きなポア、即ち、メソ細孔(20乃至500Åのポア)を生じさせることができる。メソ細孔は、活性化フェノール樹脂材料を含む材料を特定の用途に対してより選択的もしくは好適なものにするためのある種の用途において所望されると考えられる。
静電処理材料の特性
繊維およびフィルムを含む上記静電処理フェノール樹脂材料ならびにこの静電処理材料から作製される材料は、極めて有益な特性を有することが分かった。繊維およびフィルムを含むこの静電処理フェノール樹脂材料は、以下の方法の全てもしくは一部を用いて特性を決定することができる:走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)、高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、X線回析法(XRD)、ラマン分光法など。
これらの静電処理されたフェノール樹脂材料の特性を静電処理後の処理によって調整することにより、目的とする用途に適した特性を有する材料を得ることができる。このような静電処理後の処理としては硬化、炭化および活性化が挙げられる。
吸着等温線により固体の多孔性構造に関する大量の情報が得られる。何故なら、これは、一定温度における、吸着された材料の量とバルク流体相内の圧力もしくは濃度との平衡関係であるからである。固体(吸着材)を気体もしくは蒸気(吸着質)に曝すと、固体はその表面もしくはポア内にこの気体を吸着し始める。吸着は、この固体と気体分子との間に作用する力のために生じる。ブルノーエル、エメットおよびテラー(BET)によりその制約にもかかわらず開発された理論は、物理的吸着の普遍的な理論を打ち立てる最初の試みであった。例えば、Brunauer・S.、Emmett・P.H.、Teller・E.、J.Am.Chem.Soc.1983年、60:p309を参照されたい。
ブルノーエル、エメット、デミング、デミングおよびテラーによる分類(BDDTもしくはBET分類)により、5つのタイプの等温線に対するIUPACの分類が導かれた。例えば、Brunauer・S.、Deming・L.S.、Deming・W.S.、Teller・E.、J.Am.Chem.Soc.1983年、60:p309、およびSing・K.S.W.、Everett・D.H.、Haul・R.A.W.、Moscow・L.、Pierotti、R.A.、Rouquerol・T.、Siemieniewska・T.、Appl.Chem.1985年、57:p603を参照されたい。タイプIはミクロ細孔性固体への気体の物理的吸着によって認められる。ミクロ細孔性炭素の内部構造について最も一般的に用いられている特性は、細孔径分布である。しかしながら、固体表面および孔隙内への気体の吸着は質量およびエネルギーの相互作用ならびに相変化を含む複雑な現象であり、この場合、ポアの大きさおよび形状が均一であることはまれである。さらに、構造およびエネルギーの不均質性による個々の影響は分離することができない。例えば、Jaroniec・M.、Madey・R.「不均質固体への物理的吸着」Studies in Physical and Theoretical Chemistry、59、Elsevier Science、ニューヨーク、1933年を参照されたい。こうした狭隙およびポア内の気体もしくは液体の物理的吸着の現象を数学的に説明するための種々のモデルが長年をかけて開発されてきた。これらは、実験的証拠、密度関数理論などの熱力学的および統計的力学的原理に基づいている。例えば、Valladares・D.L.、Reinoso・F.R.、Zgrablich・G.、カーボン、1998年、36(10):p1491;Webb・P.A.、Orr・C.および協力者Camp・R.W.、Olivier・J.P.、Yunes・Y.S.、Analytical Methods in Fine Particle Technology、Micromeritics Instrument Corporation、Norcross、GA、1997年;Tarazona・P.、Phys.Rev.1985年、31:p2672;Tarazona・P.、Marconi・U.M.B.;Evans・R.、Mol.Phys.1987年、60:p543;Tarazona・P.、Mol.Phys.1984年、52:p847;Seaton・N.A.、Walton・J.P.R.B.、Quirke・N.、Carbon、1989年、27:p853;Peterson・B.K.、WaltonJ.P.R.B.、Gubbins・K.E.、J.Chem.Soc、1896年、82:p1789を参照されたい。
これらの種々の方法は、不均質性の主要な特性の計算を可能にする関係式を得るために、種々の仮定に依存している。密度関数理論(DFT)は、流体−流体および流体−固体相互作用エネルギー・パラメータ、ポア径、ポア形状、ならびに用いられた温度を含む前記系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論である。
DFTは、87.29Kのアルゴン吸着等温線から細孔径分布を計算するのに用いることができる。この結果から炭化温度が炭素繊維の細孔径分布に影響を与えることが説明される。1,400℃までの炭化温度では、前記静電炭化フェノール樹脂繊維は、IUPAC分類のタイプI等温線を示し、平均ポア幅が6Å未満の狭い細孔径分布を有する。1,600℃以上の炭化温度では、この炭素繊維は非多孔性である。炭化温度が上昇するに伴って、全孔容積は減少し、平均ポア幅も減少する。X線回析および高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)は、さらに微細構造をとらえるために利用される。上記温度が上昇するに伴って、増大するポア径の分布(DFTにより算出)は、800℃で5Åの最大で狭い分布から1,400℃を超える温度での検出不能なミクロ細孔へシフトする。この細孔径分布のシフトは、X線回析データからの2θ≒26℃におけるd−格子面間隔の減少および高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)により観察されるグラフェン・シートのスタック高さの増加によって明らかなように、炭素構造内の規則性の増大と符合する。
特に、ナノ繊維およびマイクロ繊維を含むフェノール樹脂繊維は、得ることができる繊維の直径が小さいために極めて有利であることが分かった。静電紡糸フェノール樹脂繊維の直径は、10μm乃至50nmであることが好ましく、5μm乃至50nmであることがより好ましい。この繊維の直径のばらつきは、静電紡糸過程における流速、電圧および蒸着距離のばらつきによることがある。こうした直径のため、このフェノール樹脂繊維を用いることにより、多くの用途に使用できるナノ材料を形成することができる。このフェノール樹脂繊維の直径は、SEMを用いて測定することができる。
ナノ繊維、マイクロ繊維およびフィルムを含む上記静電処理フェノール樹脂材料は、前述のようにして硬化した後、炭化することが好ましい。この炭化したフェノール樹脂材料は、極めて有利な特性を有することが分かった。前述のように、この炭化工程は40乃至70パーセントの収率を有することが好ましい。さらに、この炭化フェノール樹脂材料は、高度に規則的な黒鉛シートを含むことができる。このフェノール樹脂材料をさらに高温、例えば、1,200乃至3,000℃で炭化すると、得られる炭化材料の黒鉛比率を増加させることができる。こうした高度に規則的な黒鉛シートは、炭化フェノール樹脂材料に、例えば、高い導電性などの望ましい特性を付与する。この導電性、C−H含量および黒鉛含量との間には関連性がある。さらに、この規則的な黒鉛構造の比率が増加するのに伴って、ポア径の分布をさらに小さくすることができる。従って、炭化温度を最適化することによって所望の特性を得ることができる。例えば、高度に規則的な黒鉛構造が所望される場合、炭化温度を上げることができ、規則性の少ない構造が所望される場合、炭化温度を下げることができる。従って、目的とする用途向けに、得られる材料を合わせることができる。
炭化フェノール樹脂ナノ繊維およびマイクロ繊維の直径は10μm乃至50nm、好ましくは3μm乃至100nmである。さらに、これらの炭化フェノール樹脂材料は、望ましいブルノーエル、エメットおよびテラー(BET)表面積、細孔容積、ならびに細孔径分布を有する。静電処理フェノール樹脂材料の表面積および細孔径分布はアルゴンの吸着により測定することができ、この材料の熱特性は、熱重量分析法(TGA)および示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定することができる。吸着特性を測定するには、逆ガスクロマトグラフィー法、および質量分析法との併用によるガスクロマトグラフィー法を用いることができる。
静電処理フェノール樹脂材料、硬化静電処理フェノール樹脂材料および非静電紡糸炭化フェノール樹脂材料と比べて、炭化静電処理フェノール樹脂材料はBET表面積が比較的大きく、ミクロ細孔の細孔径分布が狭い。
容積に対する外部表面積の比が高く、多孔性特性が均一であることにより、炭化静電処理フェノール樹脂材料に望ましい性質が付与される。当該分野では容易に理解されることであるが、外部表面積は粒径に反比例する。上記炭化フェノール樹脂材料はナノ−もしくはマイクロ−サイズの大きさであるので、この炭化フェノール樹脂材料は大きな外部表面積を有する。
静電処理により作製した炭化フェノール樹脂材料は比較的大きなBET表面積を有する。例えば、この炭化フェノール樹脂材料は少なくとも400乃至800m2/gのBET表面積を有する。このBET表面積はMicromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができる。
静電処理および硬化フェノール樹脂材料の内部表面積はごく小さいが、炭化静電処理フェノール樹脂材料の内部表面積は比較的大きい。この炭化フェノール樹脂材料には0.2乃至0.4cm3/gのミクロ細孔容積を付与することができる。また、この炭化フェノール樹脂材料には驚くほど均一な細孔容積分布を付与することができる。この炭化フェノール樹脂材料は、ミクロ細孔を70%超、好ましくは90%超、より好ましくは98%超、さらに好ましくはほぼ100%含む。ミクロ細孔は20Åより小さい。細孔容積および細孔容積分布は、Micromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができ、ポア径を含むこの系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論を用いて計算される。この計算法は、当該分野では公知であり、Webb・Paul・A、Clyde・Orr「セクション3.3.7密度関数理論」Analytical Methods in Fine Particle Technology(1997年)p81−87に記載されている通りである。上記炭化フェノール樹脂材料の全容積は、少なくとも約0.2乃至0.5cm3/gである。
従って、この炭化フェノール樹脂材料は、一応満足できる多孔性を得るために多くの材料で必要とされるような活性化という任意選択的な処理工程を行わなくても、かなりの程度の多孔性もしくは細孔容積を有する。しかしながら、この炭化フェノール樹脂材料に対して活性化を行うことにより、さらに多くのポアを生じさせることができ、また、活性化前の材料中のポアより大きなポアを生じさせることができる。活性化したフェノール樹脂材料は、ミクロ細孔、もしくはミクロ細孔とメソ細孔との混成を含むことができる。メソ細孔は20乃至500Åのものである。従って、活性化フェノール樹脂材料は、前記炭化フェノール樹脂材料よりも広い細孔径分布を有すると考えられる。この活性化フェノール樹脂材料は、ミクロ細孔を100%もしくは約99乃至100%含むことができる。メソ細孔は、活性化フェノール樹脂材料を含む材料を特定の用途に対してより選択的もしくは好適なものにするためのある種の用途において所望されると考えられる。
活性化フェノール樹脂ナノ繊維およびマイクロ繊維の直径は5μm乃至100nm、好ましくは1μm乃至50nmである。さらに、これらの活性化フェノール樹脂材料は、望ましいブルノーエル、エメットおよびテラー(BET)表面積、細孔容積、ならびに細孔径分布を有する。静電処理フェノール樹脂材料の表面積および細孔径分布はアルゴンの吸着により測定することができ、この材料の熱特性は、熱重量分析法(TGA)および示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定することができる。吸着特性を測定するには、逆ガスクロマトグラフィー法、および質量分析法との併用によるガスクロマトグラフィー法を用いることができる。
容積に対する外部表面積の比が高く、多孔性特性が均一であることにより、活性化静電処理フェノール樹脂材料に望ましい性質が付与され、従って、こうした活性化静電処理フェノール樹脂材料は吸着材として有用と考えられる。当該分野では容易に理解されることであるが、外部表面積は粒径に反比例する。上記活性化フェノール樹脂材料はナノ−もしくはマイクロ−サイズの大きさであるので、この活性化フェノール樹脂材料は大きな外部表面積を有する。
静電処理により作製した活性化フェノール樹脂材料は比較的大きなBET表面積を有する。例えば、この活性化フェノール樹脂材料は1,000m2/g以上のBET表面積を有する。このBET表面積はMicromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができる。
例示的実施態様として、約800℃乃至約1,250℃の温度で活性化したフェノール樹脂材料は、少なくとも約800m2/gのBET表面積を有し、約7Å未満のポア幅をもつミクロ細孔を少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約65%有することになる。さらに、別の例示的実施態様として、少なくとも約1,400℃の温度で活性化したフェノール樹脂材料は、少なくとも約800m2/gのBET表面積を有し、約7Å未満のポア幅をもつミクロ細孔を少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約45%有することになる。
静電処理および硬化フェノール樹脂材料の内部表面積はごく小さいが、活性化静電処理フェノール樹脂材料の内部表面積は比較的大きい。この活性化フェノール樹脂材料には0.2乃至0.4cm3/gのミクロ細孔容積を付与することができる。また、この活性化フェノール樹脂材料には驚くほど均一な細孔容積分布を付与することができる。この活性化フェノール樹脂材料は、ミクロ細孔を70%超、好ましくは80%超、より好ましくは90%超、さらに好ましくは98%超、さらに好ましくはほぼ100%含む。ミクロ細孔は20Åより小さい。細孔容積および細孔容積分布は、Micromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができ、ポア径を含むこの系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論を用いて計算される。この計算法は、当該分野では公知であり、Webb・Paul・A、Clyde・Orr「セクション3.3.7密度関数理論」Analytical Methods in Fine Particle Technology(1997年)p81−87に記載されている通りである。上記活性化フェノール樹脂材料の全容積は、少なくとも約0.2乃至0.6cm3/gである。
静電処理ビーズの特性
前記静電処理材料から作製される静電処理フェノール樹脂ビーズは、極めて有益な特性を有することが分かった。この静電処理フェノール樹脂ビーズは、以下の方法の全てもしくは一部を用いて特性を決定することができる:走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)、高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、X線回析法(XRD)、ラマン分光法など。
これらの静電処理されたフェノール樹脂材料の特性を静電処理後の処理によって調整することにより、目的とする用途に適した特性を有する材料を得ることができる。このような静電処理後の処理としては硬化、炭化および活性化が挙げられる。
吸着等温線により固体の多孔性構造に関する大量の情報が得られる。何故なら、これは、一定温度における、吸着された材料の量とバルク流体相内の圧力もしくは濃度との平衡関係であるからである。固体(吸着材)を気体もしくは蒸気(吸着質)に曝すと、固体はその表面もしくはポア内にこの気体を吸着し始める。吸着は、この固体と気体分子との間に作用する力のために生じる。ブルノーエル、エメットおよびテラー(BET)によりその制約にもかかわらず開発された理論は、物理的吸着の普遍的な理論を打ち立てる最初の試みであった。例えば、Brunauer・S.、Emmett・P.H.、Teller・E.、J.Am.Chem.Soc.1983年、60:p309を参照されたい。
ブルノーエル、エメット、デミング、デミングおよびテラーによる分類(BDDTもしくはBET分類)により、5つのタイプの等温線に対するIUPACの分類が導かれた。例えば、Brunauer・S.、Deming・L.S.、Deming・W.S.、Teller・E.、J.Am.Chem.Soc.1983年、60:p309、およびSing・K.S.W.、Everett・D.H.、Haul・R.A.W.、Moscow・L.、Pierotti、R.A.、Rouquerol・T.、Siemieniewska・T.、Pure Appl.Chem.1985年、57:p603を参照されたい。タイプIはミクロ細孔性固体への気体の物理的吸着によって認められる。ミクロ細孔性炭素の内部構造について最も一般的に用いられている特性は、細孔径分布である。しかしながら、固体表面および孔隙内への気体の吸着は質量およびエネルギーの相互作用ならびに相変化を含む複雑な現象であり、この場合、ポアの大きさおよび形状が均一であることはまれである。さらに、構造およびエネルギーの不均質性による個々の影響は分離することができない。例えば、Jaroniec・M.、Madey・R.「不均質固体への物理的吸着」Studies in Physical and Theoretical Chemistry、59、Elsevier Science、ニューヨーク、1933年を参照されたい。こうした狭隙およびポア内の気体もしくは液体の物理的吸着の現象を数学的に説明するための種々のモデルが長年をかけて開発されてきた。これらは、実験的証拠、密度関数理論などの熱力学的および統計的力学的原理に基づいている。例えば、Valladares・D.L.、Reinoso・F.R.、Zgrablich・G.、Carbon、1998年、36(10):p1491;Webb・P.A.、Orr・C.および協力者Camp・R.W.、Olivier・J.P.、Yunes・Y.S.、Analytical Methods in Fine Particle Technology、Micromeritics Instrument Corporation、Norcross、GA、1997年;Tarazona・P.、Phys.Rev.1985年、31:p2672;Tarazona・P.、Marconi・U.M.B.;Evans・R.、Mol.Phys.、1987年、60:p543;Tarazona・P.、Mol.Phys.1984年、52:p847;Seaton・N.A.、Walton、J.P.R.B.、Quirke・N.、Carbon、1989年、27:p853;Peterson・B.K.、Walton・J.P.R.B.、Gubbins・K.E.、J.Chem.Soc1896年、82:p1789を参照されたい。
これらの種々の方法は、不均質性の主要な特性の計算を可能にする関係式を得るために、種々の仮定に依存している。密度関数理論(DFT)は、流体−流体および流体−固体相互作用エネルギー・パラメータ、ポア径、ポア形状、ならびに用いられた温度を含む前記系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論である。
DFTは、87.29Kのアルゴン吸着等温線から細孔径分布を計算するのに用いることができる。この結果から炭化温度が炭素ビーズの細孔径分布に影響を与えることが説明される。
上記静電処理フェノール樹脂ビーズは、前述のようにして硬化した後、炭化することが好ましい。この炭化したフェノール樹脂ビーズは、極めて有利な特性を有することが分かった。前述のように、この炭化工程は40乃至70パーセントの収率を有することが好ましい。さらに、この炭化フェノール樹脂ビーズは、高度に規則的な黒鉛シートを含むことができる。このフェノール樹脂材料をさらに高温、例えば、1,200乃至3,000℃で炭化すると、得られる炭化材料の黒鉛比率を増加させることができる。こうした高度に規則的な黒鉛シートは、炭化フェノール樹脂材料に、例えば、高い導電性などの望ましい特性を付与する。この導電性、C−H含量および黒鉛含量との間には関連性がある。さらに、この規則的な黒鉛構造の比率が増加するのに伴って、孔径の分布をさらに小さくすることができる。従って、炭化温度を最適化することによって所望の特性を得ることができる。例えば、高度に規則的な黒鉛構造が所望される場合、炭化温度を上げることができ、規則性の少ない構造が所望される場合、炭化温度を下げることができる。従って、目的とする用途向けに、得られる材料を合わせることができる。
静電処理フェノール樹脂材料、硬化静電処理フェノール樹脂材料および非静電噴霧炭化フェノール樹脂材料と比べて、炭化静電処理フェノール樹脂ビーズはBET表面積が比較的大きく、ミクロ細孔の細孔径分布が狭い。
容積に対する外部表面積の比が高く、多孔性特性が均一であることにより、炭化静電処理フェノール樹脂材料に望ましい性質が付与される。当該分野では容易に理解されることであるが、外部表面積は粒径に反比例する。上記炭化フェノール樹脂材料はナノ−サイズもしくはマイクロ−サイズの大きさであるので、この炭化フェノール樹脂材料は大きな外部表面積を有する。
静電処理により作製した炭化フェノール樹脂ビーズは比較的大きなBET表面積を有する。例えば、この炭化フェノール樹脂材料は少なくとも400乃至800m2/gのBET表面積を有する。このBET表面積はMicromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができる。
静電処理および硬化フェノール樹脂ビーズの内部表面積はごく小さいが、炭化静電処理フェノール樹脂ビーズの内部表面積は比較的大きい。この炭化フェノール樹脂ビーズには0.2乃至0.4cm3/gのミクロ細孔容積を付与することができる。また、この炭化フェノール樹脂ビーズには驚くほど均一な細孔容積分布を付与することができる。この炭化フェノール樹脂ビーズは、ミクロ細孔を70%超、好ましくは90%超、より好ましくは98%超、さらに好ましくはほぼ100%含む。ミクロ細孔は20Åより小さい。細孔容積および細孔容積分布は、Micromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができ、孔径を含むこの系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論を用いて計算される。この計算法は、当該分野では公知であり、Webb・Paul・A、Clyde・Orr「セクション3.3.7密度関数理論」Analytical Methods in Fine Particle Technology)(1997年)p81−87に記載されている通りである。上記炭化フェノール樹脂材料の全容積は、少なくとも約0.2乃至0.5cm3/gである。
従って、この炭化フェノール樹脂ビーズは、一応満足できる多孔性を得るために多くの材料で必要とされるような活性化という任意選択的な処理工程を行わなくても、かなりの程度の多孔性もしくは細孔容積を有する。しかしながら、この炭化フェノール樹脂ビーズに対して活性化を行うことにより、さらに多くのポアを生じさせることができ、また、活性化前の材料中のポアより大きなポアを生じさせることができる。活性化したフェノール樹脂ビーズは、ミクロ細孔、もしくはミクロ細孔とメソ細孔との混成を含むことができる。メソ細孔は20乃至500Åのものである。従って、活性化フェノール樹脂材料は、前記炭化フェノール樹脂材料よりも広い細孔径分布を有すると考えられる。この活性化フェノール樹脂材料は、ミクロ細孔を100%もしくは約99乃至100%含むことができる。メソ細孔は、活性化フェノール樹脂材料を含む材料を特定の用途に対してより選択的もしくは好適なものにするためのある種の用途において所望されると考えられる。
容積に対する外部表面積の比が高く、多孔性特性が均一であることにより、活性化静電処理フェノール樹脂ビーズに望ましい性質が付与され、従って、こうした活性化静電処理フェノール樹脂ビーズは吸着材として有用と考えられる。当該分野では容易に理解されることであるが、外部表面積は粒径に反比例する。上記活性化フェノール樹脂ビーズはナノ−もしくはマイクロ−サイズの大きさであるので、この活性化フェノール樹脂ビーズは大きな外部表面積を有する。
静電処理により作製した活性化フェノール樹脂ビーズは比較的大きなBET表面積を有する。例えば、この活性化フェノール樹脂ビーズは800m2/g以上のBET表面積を有する。このBET表面積はMicromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができる。
例示的実施態様として、約800℃乃至約1,250℃の温度で活性化した静電噴霧フェノール樹脂ビーズは、少なくとも約800m2/g以上のBET表面積を有し、約7Å未満のポア幅をもつミクロ細孔を少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約65%有することになる。さらに、別の例示的実施態様として、静電フェノール樹脂ビーズは、少なくとも約1,400m2/gのBET表面積を有し、約7Å未満のポア幅をもつミクロ細孔を少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約45%有する。
静電処理および硬化フェノール樹脂ビーズの内部表面積はごく小さいが、活性化静電処理フェノール樹脂ビーズの内部表面積は比較的大きい。この活性化フェノール樹脂ビーズには0.2乃至0.6cm3/gのミクロ細孔容積を付与することができる。また、この活性化フェノール樹脂ビーズには驚くほど均一な細孔容積分布を付与することができる。この活性化フェノール樹脂材料は、ミクロ細孔を70%超、好ましくは80%超、より好ましくは90%超、さらに好ましくは98%超、さらに好ましくはほぼ100%含む。ミクロ細孔は20Åより小さい。細孔容積および細孔容積分布は、Micromeritics ASAP 2010機器を用いて測定することができ、ポア径を含むこの系の顕微鏡的特性に対して吸着等温線を関係づける分子ベースの統計的熱力学的理論を用いて計算される。この計算法は、当該分野では公知であり、Webb・Paul・A、Clyde・Orr「セクション3.3.7密度関数理論」Analytical Methods in Fine Particle Technology(1997年)p81−87に記載されている通りである。上記活性化フェノール樹脂材料の全容積は、少なくとも約0.2乃至0.6cm3/gである。
静電処理材料の用途
前記の炭化静電処理フェノール樹脂材料および活性化材料は、これらの材料を種々の有益な目的のために使用することを可能にする極めて有利な特性を有する。この炭化フェノール樹脂材料の容積に対する外部表面の比が高いことにより、触媒もしくは燃料電池用途の触媒担持体、炭素繊維/重合体複合体、炭素繊維/炭素複合体などの高表面積複合体および高表面積濾過用途に適切な特性を有する上記材料が得られる。また、この炭化フェノール樹脂材料の多孔性が均一であることにより、選択的濾過用途および燃料電池用途に適切な特性を有する上記材料が得られる。炭化フェノール樹脂材料および活性化フェノール樹脂材料のいずれにおいても結合性、強度および導電性を向上させることができる。
繊維、繊維性マット、ビーズおよびフィルムを含むこれらの静電処理フェノール樹脂材料の潜在的な用途は数多く、また多種多様である。フェノール重合体を静電処理して作製した材料では種々の用途において有望な結果が示されており、このような用途としては、例えば、組織骨格、防護衣、薬物放出、膜、ナノマシン、センサー、ナノ複合強化材、実験および化学工学機材、電気化学過程の電極、医用および歯科用挿入物、濾過用吸着材、触媒担持体、耐燃性安全用品、複合材料、各種生物医学的用途、補強材、電気伝導充填材、人工筋肉、電界エミッタ、バッテリー、燃料電池などのガスおよび電気化学エネルギー貯蔵マトリクスなどが挙げられる。さらに、静電処理フェノール樹脂材料は、これをナノエレクトロニクス、ナノ工学および複合材料の分野の用途に適したものにする特性を有する。直径が約1マイクロメートル未満のナノ繊維を作製する別の利点は、繊維をその物理的および化学的特性の多くについて分析することができることにある。
上記フェノール樹脂材料の別の利点は、この材料の特性を目的とする最終用途に応じて容易に調整することができることにある。当業者なら種々の方法でこうした特性を容易に調整することができる。例えば、このフェノール重合体系の組成を調整することによって所望の特性を得ることができる。さらに、このフェノール重合体溶液を静電処理する条件を調整することによって特定の特性を得ることができる。また、硬化、炭化および必要に応じて活性化を含む静電処理後の処理の条件を調整することによって所望の特性を得ることができる。
活性化により繊維内に「調整可能な」多孔性を持たせることによって選択的な吸着材を作製することができるようにすることが好ましい。(通常、非官能化炭素は広範囲にわたる吸着を示す。)こうした選択的な吸着材は、濾過のために吸着材を必要とするあらゆる用途に用いることができる。
静電紡糸法を用いてこの繊維に配向性を付与することで、「黒鉛化していない」前駆体内に黒鉛類似物質を生じさせることにより、材料の選択肢を拡大し約2,500℃を超える温度の使用に伴うエネルギー・コストを低減できることが好ましい。普通は黒鉛化していない炭素内の黒鉛の割合が高いと、電気的特性が向上し、従って、燃料電池、バッテリー内の、およびスーパーコンデンサ(super capacitor)としてのその機能性を拡大させることができる。静電紡糸前駆体からのナノサイズ炭素繊維の特性を向上させることは、特定用途向けのナノチューブの使用に代わる手段とすることができよう。
喫煙製品における使用
一実施態様として、前記静電処理材料は喫煙製品に用いることができる。好ましい喫煙製品はシガレットである。例示的な実施態様として、この静電処理材料は、活性化静電処理材料とすることができる。この静電処理活性化材料はフィルター内に配置することができる。例示的な実施態様として、この喫煙製品は、約10mg乃至約200mg、好ましくは約25mg乃至約100mgの静電処理活性化繊維および/またはビーズを含む。
特定の実施態様として、この活性化静電処理繊維および/またはビーズはシガレット・フィルター内に用いることができる。このシガレット・フィルターは、約10mg乃至約200mg好ましくは約25mg乃至約100mgの静電処理活性化繊維および/またはビーズを含む。さらに別の実施態様として、上記の静電処理活性化繊維および/またはビーズを含む切断された充填用組成物を提供する。
上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは濾過剤として用いることができる。特に、この活性化静電処理繊維および/またはビーズは喫煙製品のフィルターとして使用することにより主流煙から灯用ガスを除去することができる。この灯用ガスは、メタン、一酸化炭素、酸化窒素、ホルムアルデヒド、酸アルデヒドなど、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。「主流」煙という用語には、たばこ棒を通り、フィルター端から出るガスの混合物、即ち、喫煙製品を喫煙中に喫煙製品の口端部から出たり吸い込まれる煙の量が含まれる。この主流煙は、恐らく紙ラッパーから吸い込まれる空気により希釈された、喫煙製品の火の付いた部分から吸い込まれる煙を含む。
上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは、フェノール重合体系を静電処理してフェノール樹脂繊維および/またはビーズを得、このフェノール樹脂繊維および/またはビーズを硬化し、この硬化フェノール樹脂繊維および/またはビーズを炭化し、この炭化繊維および/またはビーズを活性化して活性化静電処理繊維を得る前述の方法により作製する。
この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、灯用ガスの良好な吸着材であり、従って、喫煙製品用の良好な吸着材である。一般的な吸着材としては、その表面に他の物質の分子を濃縮もしくは保持する能力を有する任意の物質が挙げられる。理論によって拘束されたくはないが、吸着は、主として、分子間に存在する一種のファン・デル・ワールス力であるロンドンの分散力によって引き起こされる。こうした力は、極めて短い距離内で作用し、互いに相加的である。ガス相の吸着では、分子は、この活性化炭素のポア内のバルク相から濃縮される。吸着に対して駆動力となるのは、分圧と化合物の蒸気圧との比率である。液相もしくは固相の吸着では、分子は、バルク相から離れて半液体もしくは固体状態のポア内に吸着される。
木炭および黒鉛を含む通常の吸着材はある程度の分子吸着能を有するが、本明細書に開示した活性化静電処理繊維および/またはビーズは喫煙製品用の好適な吸着材である。何故なら、この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、物理的吸着力がより強く、灯用ガスに対する吸着ポアの容積がより高いからである。意外なことに、この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、静電処理により形成されていない活性炭と比較して、物理的吸着力が強く、灯用ガスに対する吸着ポアの容積がより高いことが分かった。
この活性化静電処理材料は顆粒、ビーズ、モノリス、断片、粉末もしくは繊維の形で喫煙製品内に含ませることができる。例示的な実施態様として、通常の吸着材の代わりに活性化静電処理繊維および/またはビーズを喫煙製品に用いることができる。あるいは、他の炭素、シリカゲル、活性炭粒子、アルミナ、ポリエステル樹脂、ゼオライトおよびゼオライト類似物質ならびにこれらの混合物と併用してこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを喫煙製品に用いることができる。例示的な実施態様として、上記活性炭粒子の平均粒径は約6メッシュ乃至300メッシュとすることができる。例示的な実施態様として、この活性化静電処理繊維および/またはビーズの下流に芳香剤を配置することもできる。この組み合わせは主流煙からの所望の成分の除去をコンプリメント(compliment)することができる。
好ましい実施態様として、上記活性炭のポアは、ミクロ細孔を少なくとも80%、好ましくは90%超含む。全ポアに対するミクロ細孔の比率は、硬化、炭化および活性化を含む静電処理後の処理の条件を調整することによって変更することができる。また、全ポアに対するミクロ細孔の比率は、標的とされ、除去されることになる主流たばこ煙からの特定の灯用ガスに応じて変更することができる。従って、本明細書に記載したように、ポアのサイズおよびポアの分布は、目的とする用途の必要に応じて適宜に調整することができる。
上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは、シガレットの煙からの灯用ガスを選択的に吸着するのに十分な表面積を有する。
この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、喫煙製品、切断された充填用組成物およびシガレット・フィルターを含む種々の用途に用いることができる。従って、一実施態様として、この活性化静電処理繊維および/またはビーズを含む喫煙製品を提供する。この喫煙製品は、シガレット、パイプ、葉巻および特殊なシガレットなどの、喫煙可能な物質を含む任意の製品とすることができる。特殊なシガレットとしては、例えば、同一出願人による米国特許第6,026,820号、5,988,176号、5,915,387号、5,692,526号、5,692,525号、5,666,976号および5,499,636号に開示されているような電気喫煙システム用シガレットが挙げられる。上記活性化静電処理繊維および/またはビーズはフィルター内に配置することができる。この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、通常の吸着材の代わりとして喫煙製品内に用いることができる。あるいは、他の炭素、シリカゲルなどの別の吸着材と併用してこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを喫煙製品に用いることができる。この組み合わせは主流煙からの所望の成分の除去をコンプリメント(compliment)することができる。
主流煙中の1種以上の特定灯用ガスを除去もしくはその量を低下させるのに有効な量の活性化静電処理繊維および/またはビーズを用いる。代表的な喫煙製品はこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを約10mg乃至約200mg、好ましくは約25mg乃至約100mgを含むことになるが、その必要量はルーチンの実験により容易に決定することもでき、および/または適宜に調整することもできる。
また、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズを含むシガレット・フィルターを提供する。任意の従来型もしくは改良型フィルターにこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを組み入れることができる。一実施態様として、シガレットのフィルター部分に沿って配置されている紙(例えば、ティッピング紙)などの担持体中もしくは担持体上にこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを組み入れることができる。当業者なら認めるであろうが、このような紙は、例えば、そのシガレットのフィルター部分のラッパーもしくはライナーとして使用することができる。また、この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、シガレット・フィルターの中空部分内に挿入された軽くもしくはきっちりと折り畳まれた紙などの担持体上にロードすることもできる。この担持体は、クレープ紙、フィルター巻紙もしくはティッピング紙などのシート材料の形をとることが好ましい。しかしながら、有機もしくは無機のシガレット適合性材料などの他の適した担持体材料を用いることもできる。
図2Aは、たばこ棒31、フィルター部分32および吸い口のフィルタープラグ33を有するシガレット30を示す。図のように、フィルター部分32のフリーフロー・スリーブ35形成部分の内部などの空洞に挿入された折り畳み紙34上に表面修飾吸着材をロードすることができる。
図2Bは、たばこ棒31およびフィルター部分32を有し、折り畳み紙34が吸い口フィルター33と第1のフリーフロー・スリーブ37との間に配置された第2のフリーフロー・スリーブ36の空洞内に配置されているシガレット30を示す。上記の紙34は、折り畳みシート以外の形態で用いることができる。例えば、この紙34は、1枚以上の個々の細片、巻取ロールなどとして配置することができる。どの形態においても、この紙の単位面積当たりに被覆する表面修飾吸着材の量および/またはフィルターに用いる被覆紙の総面積を調整することによって、シガレット・フィルター部分に所望の量の表面修飾吸着材を設けることができる(例えば、より大きな被覆紙片を用いるだけで、より大量の表面修飾吸着材を設けることができる)。図2Aおよび図2Bに示したシガレットでは、たばこ棒31とフィルター部分32とはティッピング紙38でつなぎ合わされている。いずれのシガレットも、フィルター部分32はフィルター・オーバーラップ39によって結合されている。
上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは、いくつかの方法でフィルター巻紙中に組み入れることができる。例えば、この活性化静電処理繊維および/またはビーズを水と混合してスラリーを形成させることができる。次いで、このスラリーを予備成形したフィルター巻紙にコーティングして乾燥させることができる。次に、このフィルター巻紙を、図2Aおよび図2Bに示したようにシガレットのフィルター部分に組み込むことができる。あるいは、上記乾燥巻紙をプラグ状に巻き、シガレットのフィルター部分に挿入することができる。例えば、上記乾燥巻紙をプラグ状に巻き、ポリプロピレンもしくは酢酸セルロース・スリーブなどのフリーフロー・フィルター要素の内部にプラグとして挿入することができる。別の実施態様として、この巻紙はこのようなフリーフロー・フィルター要素の内側ライナーを構成することができる。
あるいは、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは、フィルター巻紙に対してこの巻紙作製工程中に加えることができる。例えば、この活性化静電処理繊維および/またはビーズをバルクのセルロースと混合してセルロースパルプ混合物を形成させることができる。次いで、当該分野で公知の方法により、この混合物をフィルター巻紙に成形することができる。
別の実施態様として、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズをシガレット・フィルター部分自体の繊維性材料中に組み入れる。このようなフィルター材料としては、紙、酢酸セルロース繊維、ポリプロピレン繊維などの繊維性フィルター材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この実施態様は、たばこ棒31と、吸い口フィルター33、プラグ40およびスペース41を有するプラグ−スペース−プラグ・フィルターの形をとるフィルター部分32とからなるシガレット30を示す図2Cに例示した。このプラグ40は、ポリプロピレンもしくは酢酸セルロース繊維などのチューブもしくは中実の材料片を含む。たばこ棒31とフィルター部分32とはティッピング紙38で結合されている。フィルター部分32にはフィルター・オーバーラップ39を設けることができる。通常の繊維性フィルター材料および表面修飾吸着材を含むフィルター・オーバーラップ39は、フィルター・オーバーラップ39内もしくはその上に被覆するなどして取り込ませることができる。あるいは、上記活性化静電処理繊維を吸い口フィルター33、プラグ40および/またはスペース41に取り込ませることができる。さらに、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズをシガレットのフィルター部分の任意の要素に取り込ませることができる。例えば、このフィルター部分は吸い口フィルター33のみからなるものとすることができ、この活性化静電処理繊維および/またはビーズを吸い口フィルター33および/またはティッピング紙38中に組み入れることができる。
この活性化静電処理繊維および/またはビーズをフィルター繊維その他の基材担持体に塗布するには種々の方法を用いることができる。例えば、この活性化静電処理繊維および/またはビーズを、フィルター・カートリッジ、例えば、シガレットの吸い口に成形する前のフィルター繊維に加えることができる。この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、当該分野で公知の方法により、例えば、乾燥粉末もしくはスラリーの形でフィルター繊維に加えることができる。この活性化静電処理繊維および/またはビーズを(例えば、吸着物上に有機含浸物が残ることを可能にする溶媒を用いて)スラリーの形で塗布する場合、上記繊維は、カートリッジに成形する前に乾燥させる。
別の好ましい実施態様として、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズをシガレット・フィルターの中空部分内で用いる。例えば、一部のシガレット・フィルターは、プラグが繊維性フィルター材料を含み、スペースが単に2つのフィルター・プラグ間の空隙であるプラグ/スペース/プラグ構造を有する。この空隙に本明細書に開示した活性化静電処理繊維および/またはビーズを充填することができる。この実施態様の例は図2Cに示した。この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、顆粒状とすることができ、または適切な担持体にロードすることができる。
別の実施態様として、その全内容が引用により本明細書に組み込まれている米国特許第5,692,525号に記載の喫煙具を用いて使用するためのシガレットのフィルター部分に、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズを用いる。図2Dは、電気喫煙具を用いて使用することができるシガレット100の構造の1種を示すものである。図に示すように、シガレット100は、ティッピング紙64によって継いだたばこ棒60とフィルター部分62とを含む。フィルター部分62は、管状のフリーフロー・フィルター要素102および吸い口フィルター・プラグ104を有することが好ましい。フリーフロー・フィルター要素102および吸い口フィルター・プラグ104は、プラグ・ラップ112と組み合わせたプラグ110として結合させることができる。たばこ棒60は、以下の単位体のうちの1つ以上を内蔵する種々の形態を有することができる:オーバーラップ71、別の管状フリーフロー・フィルター要素74、好ましくはプラグ・ラップ84に包まれた円筒型たばこプラグ80、ベースウェブ68およびたばこ香料物質70を含むたばこウェブ66、ならびに空きスペース91。フリーフロー・フィルター要素74は構造上の定義(structural definition)を提供し、たばこ棒60の切り欠き端部72において支えとなる。たばこ棒60の自由端78において、たばこウェブ66はオーバーラップ71と共に円筒型たばこプラグ80のまわりに巻かれている。活性化静電処理繊維および/またはビーズが添合されているこのようなシガレットのフィルターの配置に対しては種々の変形例があり得る。
このようなシガレットに対して、その中の管状フリーフロー・フィルター要素102の通路に組み込まれる紙その他の基板物質にロードすることによるなど種々の方法で上記活性化静電処理繊維および/またはビーズを組み入れることができる。また、これは、管状フリーフロー・フィルター要素102の内部のライナーもしくはプラグとして配置することができる。あるいは、管状フリーフロー・フィルター要素102自体の繊維性壁部分にこの活性化静電処理繊維および/またはビーズを組み入れることができる。例えば、管状フリーフロー・フィルター要素、即ちスリーブ102はポリプロピレンもしくは酢酸セルロース繊維などの適切な材料でできていてもよく、上記活性化静電処理繊維および/またはビーズは、このスリーブの形成工程の前もしくはその一部として、このような繊維と混合することができる。
別の実施態様として、この活性化静電処理繊維および/またはビーズは、要素102内ではなく吸い口フィルター・プラグ104中に組み入れることができる。しかしながら、これまでに説明した実施態様の場合と同様に、活性化静電処理繊維および/またはビーズは、吸い口フィルター・プラグ104および管状フリーフロー・フィルター要素102内に組み入れるなど、フィルター部分の2つ以上のコンポーネントに組み入れることができる。
また、図2Dのフィルター部分62を改造して空洞をつくり、これに前記表面修飾吸着材を挿入してもよい。
以上のように、活性化静電処理繊維および/またはビーズは種々の担持体材料に組み入れることができる。この活性化静電処理繊維をフィルター巻紙中に用いる場合、この繊維の平均直径は5μm乃至100nm、好ましくは1μm乃至500nmとすることができる。例示的な実施態様として、活性化静電処理繊維の平均長さは、例えば、喫煙製品のプラグ部に用いる場合、約1/10mm乃至約12mm、好ましくは約1/2mm乃至約6mmとすることができる。
フィルター巻紙および/またはフィルター繊維などの適切な担持体に組み入れることによりシガレット・フィルターに用いる活性化静電処理繊維および/またはビーズの量は、たばこ煙中の灯用ガスの量および除去したい灯用ガスの量によって決まる。例えば、フィルター巻紙および/またはフィルター繊維は、重量で10%乃至50%の上記活性化静電処理繊維および/またはビーズを含むことができる。
実施態様は、シガレット・フィルターを作製する方法であって、(i)上述の活性化静電処理繊維を提供する工程と、(ii)この活性化静電処理繊維および/またはビーズをシガレット・フィルター中に組み入れる工程と、を含む方法に関する。この活性化静電処理繊維および/またはビーズの添合には任意の従来法もしくは修正法を用いることができる。
別の実施態様は、シガレット・フィルターを作製する方法であって、(i)シガレット製造機に切断された充填用の葉を供給してタバコ棒を形成させる工程と、(ii)このタバコ棒に紙ラッパーを巻く工程と、(iii)上述の活性化静電処理繊維および/またはビーズを含むシガレット・フィルターを提供する工程と、(iv)このシガレット・フィルターを上記たばこ棒に取り付けてシガレットを形成させる工程とを含む方法に関する。さらに別の実施態様として、シガレットを作製する方法を提供する。この方法は、(i)上述の活性化静電処理繊維および/またはビーズを切断された充填用の葉に加える工程と、(ii)この活性化静電処理繊維および/またはビーズを含む切断された充填用の葉をシガレット製造機に供給してタバコ棒を形成させる工程と、(iii)このタバコ棒に紙ラッパーを巻いてシガレットを形成させる工程とを含む。
別の実施態様として、静電処理炭化繊維を含む喫煙製品ラッパーを提供する。例示的実施態様として、この静電処理炭化繊維は活性化炭化繊維である。
別の実施態様として、静電処理炭化ビーズを含む喫煙製品ラッパーを提供する。例示的実施態様として、この静電処理炭化ビーズは活性化炭化ビーズである。
用いることのできる適切な種類のたばこ材料の例としては、黄色種、バレー種、メリーランド種もしくはオリエンタル種のたばこ、希少もしくは特製たばこ、およびこれらのブレンドが挙げられる。このたばこ材料は、たばこラミナ、増量もしくは膨化たばこなどの加工たばこ材料、切断−圧延(cut−rolled)もしくは切断−膨化幹などの加工たばこ幹、再構成たばこ材料、もしくはこれらのブレンドの形で提供することができる。また、本発明は、たばこ代用品を用いて実施することもできる。
シガレットの製造に当たっては、たばこは、通常、切断された充填用の葉の形、即ち、約1/10インチ乃至約1/20インチ、場合によっては1/40までの幅に切断した小片もしくは束の形で用いられる。この束の長さは、約0.25インチ乃至約3.0インチである。さらに、シガレットには、当該分野で公知の1種以上の芳香剤その他の添加剤(例えば、燃焼(burn)添加剤、保湿剤、燃焼改善(combustion modifying)剤、着色剤、結合剤など)を加えることができる。
シガレットの製造技術は当該分野で公知であり、前記表面修飾吸着材を組み入れるのに用いることができる。得られるシガレットは、標準的もしくは改良型シガレット製造技術および装置を用いて任意の所望の仕様に製造することができる。本発明のシガレットは、長さを約50mm乃至約120mmとすることができる。一般に、定型的シガレットの長さは約70mm、「キングサイズ」の長さは約85mm、「スーパーキングサイズ」の長さは約100mm、「ロング」の長さは通常約120mmである。周径は約15mm乃至約30mm、好ましくは約25mmである。充填密度は、通常約100mg/cm3乃至約300mg/cm3、好ましくは150mg/cm3乃至約275mg/cm3である。
さらに別の実施態様として、上述の活性化静電処理繊維および/またはビーズを含む喫煙製品の喫煙方法を提供する。この方法は、喫煙製品に点火して煙を形成させ、その煙を吸入することを含み、このシガレットの喫煙中に、メタン、一酸化炭素、酸化窒素、ホルムアルデヒド、酸アルデヒドなど、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる灯用ガスがこの活性化静電処理繊維および/またはビーズによって主流煙から除去されることを特徴とする。
シガレットの「煙をだすこと(smoking)」とは、シガレットを加熱もしくは燃焼して煙を形成し、この煙を吸入し得ることを意味する。一般に、シガレットの煙をだすことは、シガレットの一端に点火し、その中に含まれるたばこが燃焼反応を行っている間に、シガレットの口側端からシガレットの煙を吸入することを含む。しかしながら、シガレットは他の手段によっても煙をだすことができる。例えば、シガレットを加熱し、および/または同一出願人による米国特許第6,053,176号、5,934,289号、5,934,289号、5,591,368号もしくは5,322,075号に開示されているような電気ヒータ手段を用いて加熱することにより、シガレットの煙をだすことができる。
以下の実施例は例示的なものであり、限定的なものではない。
材料:市販のフェノール樹脂、レゾール、および6.5wt%ヘキサメチレン−テトラミン含有ノボラックはデュレズ社から寛大な提供を受けた。ポリアクリロニトリル(PAN)およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)99%[D15855−0]はアルドリッチ・ケミカル社から購入した。エチルアルコール(標準強度200度、アクロス・オーガニクス社)およびDMFは、それぞれフェノール樹脂およびPANの溶媒として用いた。市販のフェノール樹脂、レゾール(平均分子量9,700g/モル)、および6.5wt%ヘキサメチレン−テトラミン含有ノボラック(ノボラックとして平均分子量13,200g/モル)はデュレズ社から寛大な提供を受けた。エチルアルコール(標準強度200度、アクロス・オーガニクス社)は溶媒として用いた。
静電紡糸の構成:最終生成物の生成量が少なく、その後の処理および特性決定には充分量の材料が必要なため、PANおよびフェノール樹脂に対する静電紡糸の複数の実験は同じロットの原料を用いて実施した。
[実施例1]
レゾール/ノボラック重合体溶液からのフェノール樹脂ナノ繊維の合成
レゾール(平均MW=9,300)の40%wtエタノール溶液を、レゾールの乾燥粉末とエタノールとを125mlのナルゲン(Nalgene)ボトル中で混合することにより調製した。この溶液は、完全に溶解させるため、プラットホーム・シェーカーで少なくとも24時間撹拌した。別の6.5wt%ヘキサメチレンテトラミン含有ノボラック(ノボラックとして分子量13,000)の50%wtエタノール溶液を、このノボラックの乾燥粉末とエタノールとを125mlのナルゲンボトル中で混合することにより調製した。この溶液は、完全に溶解させるため、プラットホーム・シェーカーで少なくとも24時間撹拌した。各溶液を完全に溶解させた後、この40%wtレゾールと50%wtノボラックとの1:1混液を調製した。
次に、この複合溶液を、ステインレス・スティール製の先端の丸い2"(インチ)18−ゲージ・ピペット採取針を装着した10mlのBecton&Dickinson(B&D)ポリプロピレン注入器に移した。この溶液は、KDサイエンティフィック社製モデル100シリンジ・ポンプを用いて8乃至13ml/hrの流速で送出したが、必要な場合、より低く(5乃至5ml/hr)またはこの特定の装置ではより高く(最高20ml/hr)することができよう。しかしながら、この流速を高くし過ぎると、上記の針先端に液だれが生じた。この針に15乃至17キロボルト(kV)の電圧をかけることによって静電紡糸条件が得られたので、本実験の大部分ではこの電圧を15kVに設定した。電圧は、スペルマン・ハイ・ボルテージ・エレクトロニクス・コーポレーション社製モデルSL10高圧電源(出力0乃至60キロボルト/166マイクロアンペア)に接続したワニ口クリップを介して上記針にかけた。電圧をかけた時点で、1ミリアンペア未満のごくわずかな電流が取り出された(drawn)。静電紡糸繊維の回収ターゲットは、注入器の針先端(ソース)から15乃至20cmのところに配置され、寸法が長さ、直径とも3インチの回転円筒型アルミニウム製ドラムで構成された。
静電紡糸工程において、エタノールがほぼ完全に蒸発することにより、乾燥不織布静電紡糸繊維性マットが得られた。エタノールがほぼ完全に除去されるようにするために、静電紡糸繊維は、回転ドラムからこのマットを取り出す前の約5乃至10分間、このドラムに残留させておいた。この静電紡糸工程が完了した後、得られた不織布静電紡糸繊維性マットをドラムから取り出し、秤量して石英ボートに移し、次いで、この静電紡糸繊維を含む石英ボートをサーモライン(Thermolyne)21100管状炉に入れた。硬化前の静電紡糸繊維の全質量は11.1680gであった。
この管状炉を用いて上記静電紡糸マットを、窒素流量0.20L/分、昇温速度0.1℃/分で160℃まで加熱することにより硬化させた。この硬化工程は、炉温度が架橋を確実にする160℃に達した時点から2乃至8時間継続した。硬化した繊維は、この繊維への影響が極微である上記の160℃および窒素流速0.2L/分の条件下であれば、48時間炉に入れたままにしておくことができると考えられる。この硬化繊維を長期間この硬化条件さらしておいても主観的な相違は認められなかった。この硬化工程では0.1℃/分の昇温速度が有効であったが、この昇温速度は最大1乃至2℃/分とすることができる。硬化温度は溶融温度より高いので、繊維形態を維持することができる唯一の方法は、この材料を極めてゆるやかな温度上昇にさらすことにより、この重合体のガラス転移温度に達する前に架橋が開始するようにすることである。
硬化後の試料質量は11.1575gであった。この硬化繊維性材料を石英ボートに載せ、サーモライン21100管状炉に入れて、昇温速度10℃/分および窒素流速0.5L/分で、温度を800℃まで上昇させた。温度が800℃に達した時点から、この炉を2時間定温に維持した。試料は、炭化した後、室温まで冷却し、この炭化繊維の質量を記録したところ、6.2998gであった。この特定の試料では、炭素収率は56.46%であった。
ノボラックの50wt%エタノール溶液とレゾールの40wt%エタノール溶液との1:1の比率の混液から作製した静電紡糸、硬化および炭化繊維についてJMS−840(JEOL)走査電子顕微鏡(SEM)により特徴付けを行うことにより、この繊維の構造が静電紡糸後処理を通じて完全な状態のままであるかどうかを明らかにした。レゾールの40wt%エタノール溶液とノボラック(ノボラックとして6.5%ヘキサメチレンテトラミン含有)の50wt%エタノール溶液との1:1ブレンドのSEM画像を、静電、硬化および炭化繊維についてそれぞれ図3A、図3Bおよび図3Cに示した。炭化繊維の直径は50nmと小さく、最大で約3.5μmであった。この繊維の直径のばらつきは、静電紡糸工程における流速、電圧および蒸着距離のばらつきによるものであった。(図3A、図3Bおよび図3C参照)。
この繊維性材料の表面積および全細孔容積を測定するのに、Micromeritics ASAP 2010機器を用いた。粒径と外部表面積との関係に詳しい人々には、反比例関係が存在すると理解されている。静電紡糸繊維は、繊維の直径がナノサイズおよびマイクロサイズであるため、大きな外部表面積を有する。また、この繊維の内部表面積についても測定した。
これらの静電紡糸繊維、硬化繊維および炭化繊維は、その表面積および全細孔容積測定のために個々に用意した(全細孔容積および細孔容積分布は密度関数理論から算出する)。各試料をガラス管に入れ、水分および大気中の蒸気を除去した。硬化繊維および炭化繊維はこの除去工程中150℃の温度に曝したが、静電紡糸繊維は、溶融による繊維形態の変化を避けるために、除去の過程でこの温度に曝さなかった。除去は、各試料について2時間かけて行った。ガラス管および試料入りのガラス管を秤量して試料の質量を求めた。
各試料の入ったガラス管は、各実験材料の質量を求めた後、表面積を測定するためにホルダーに入れた。この測定にはアルゴンを用いた。測定の結果から静電紡糸および硬化繊維の内部表面積は2乃至3m2/gとごく小さいことが明らかとなり、そのために、炭化繊維の表面積は2つ組の試料で約600m2/gと比較的高いことが分かった。この炭素繊維は、図4に表されるように、タイプIの等温線を示す。静電紡糸フェノール樹脂繊維、硬化繊維および炭化フェノール樹脂繊維のBET表面積、ミクロ細孔容積および全細孔容積の測定結果については図5の表Iにまとめた。
炭化静電紡糸繊維の全細孔容積に関して、細孔径分布は主に5Åのミクロ細孔で構成された。実施例1の炭化静電紡糸繊維の細孔径分布については図6に示した。
[実施例2]
比較例−非静電紡糸フェノール樹脂材料の合成
先行の静電紡糸工程を行わないで前述のノボラック/レゾールブレンドから同じ内部表面積が得られるかどうかを明らかにするために、静電紡糸に用いたのと同じ重合体溶液の一部を石英管に入れて、(繊維性マットを作製するための静電紡糸を行わないで)前記の条件で硬化させた。溶媒の除去および硬化を遂行した後、この試料を秤量し、この試料の一部を表面積測定のために保存した。
この硬化非静電紡糸材料を管状炉に入れ、前述の炭化条件下に置いた。次いで、この試料を冷却し、秤量した。6.5%ヘキサメチレンテトラミン含有50wt%ノボラックおよび40wt%レゾールの1:1比率の硬化非静電紡糸および炭化非静電紡糸試料を調製して上記のように表面積を測定した。これら硬化および炭化非静電紡糸試料についての測定結果は、前述の静電紡糸および硬化繊維の場合と同様な結果を示した(即ち、内部表面積は無視できるほど小さい)。従って、非静電紡糸試料を炭化しても、炭化静電紡糸繊維の場合のような高い内部表面積は得られなかった。それ故、静電紡糸工程は、内部表面積の高い炭素繊維を作製するのに効果的である。
非静電紡糸試料、硬化非静電紡糸試料および炭化非静電紡糸試料のBET表面積、ミクロ細孔容積および全細孔容積の測定結果については図5の表IIにまとめた。
[実施例3]
フェノール樹脂繊維の黒鉛含量の測定
実施例1の硬化繊維の一部を、昇温速度10℃/分および窒素流速0.5乃至0.6L/分で、炭化温度1,000℃に曝した。炭素収率は54.65%であった。透過電子顕微鏡を用いてこの炭化繊維の特性を決定することにより、この繊維が不規則な炭素構造を有する配列を示すのか、黒鉛の特徴を有する配列を示すのかを明らかにした。フィリップス社製(Philips)Tecnai器(TEM)を用いて高倍率でこの試料を調べた。炭化試料(1,000℃)では、顕微鏡レベルの組織的なアラインメントからも明らかなように、繊維の一部に規則性の向上が認められた。不規則的構造に対する規則的構造の割合については定量しなかったが、規則的構造の割合は、熱分解時の温度を(最高2,000℃まで)上昇させることにより、次第に増加させることができると考えられる。この温度上昇により、不規則的構造に対する規則的構造の割合がシフトするので、材料の特性が変化すると考えられる。実施例1の硬化繊維の試料は、高温炉ウェブ25レッド・デビル(Web 25 Red Devil)を用い、アルゴンの不活性雰囲気中で1,200℃、1,500℃、1,600℃、1,800℃および2,000℃の温度に曝した。
また、透過電子顕微鏡を用いて、800℃で炭化した炭化繊維を特徴付けることにより、この繊維が不規則な炭素構造を有する配列を示すのか、黒鉛の特徴を有する配列を示すのかを明らかにした。フィリップス社製Tecnai器(TEM)を用いて高倍率でこの試料を調べた。この炭化試料(800℃)では、有意な程度の可観測結晶化度は認められなかった。
図7は、(a)1,000℃、(bおよびc)部分アラインメントを示す1,600℃、(d)1,600℃の黒鉛、ならびに(eおよびf)1,800℃における炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維のHRTEM画像を示す。図8Aは、(a)1,000℃、(b)1,200℃、(c)1,400℃、(d)1,600℃、(e)1,800℃および(f)2,000℃における炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維のXRDを示す。図8Bは、試料ホルダ―のXRDを示す。
[実施例4]
銅ナノ粒子によるドーピング
実施例1の変形形態として、20乃至30nmの銅ナノ粒子をレゾールの40wt%エタノール溶液中に分散させた。このレゾール溶液をノボラック溶液と混合し、実施例1に記載した通りの調製を行った。この混合溶液を実施例1に記載したようにして静電紡糸した。次いで、得られたフェノール樹脂繊維を前述のようにして硬化し、炭化した。
上記銅ナノ粒子はこの溶液の導電性を高めることにより、えい糸性を向上させる。また、この銅ナノ粒子は、最終的な炭化フェノール樹脂繊維の電気特性を改善し、従って、この繊維をより広範囲の用途に適したものにする。
[実施例5]
静電噴霧
フェノール樹脂レゾール(平均MW=9,700)の20乃至35wt%エタノール溶液、フェノール樹脂ノボラック(平均MW=13,000)の20乃至35wt%エタノール溶液、およびフェノール樹脂ノボラック(平均MW=29,295)の15乃至35wt%エタノール溶液を、上記実施例1で説明したようにして調製した。これらのフェノール樹脂溶液に対して、個別に、静電紡糸ではなく静電噴霧を行った。静電噴霧工程では、ビーカー内の非溶剤液をターゲットとして用いる。
ターゲットとして非溶剤液を用いた場合、静電噴霧工程により均一な重合体の球体(ビーズ)が得られた。このビーズは非溶剤液のビーカーから分離、回収する。得られたビーズは、上記実施例1で説明したようにして処理(即ち、硬化および炭化)する。
フェノール樹脂ノボラック(平均MW=29,295)の15wt%エタノール溶液から得られたビーズをSEMによって分析した。図9は、その後の任意の処理の前のビーズのSEMを示す。ビーズの直径は100nm乃至5μmと測定された。
[実施例6]
フェノール重合体ブレンド
ポリアクリル酸および酢酸セルロースを含むフェノール重合体ブレンドを調製し、次いで静電紡糸した。実施例1に記載した方法で作製した40wt%ノボラック(平均MW=13,000)を用いて、フェノール重合体対ポリアクリル酸(平均MW=1500,000)が12対1および9対1のブレンドを調製した。さらに、実施例1に記載した方法で作製したレゾールとノボラックとの50/50混合物を用いて、フェノール重合体対ポリアクリル酸が12対1および9対1のブレンドを調製した。
得られたこれらの溶液を、上記実施例1で説明したようにして静電紡糸した。また上記実施例1で説明したようにして、得られたこれらのフェノール樹脂ナノ繊維を硬化した後、炭化した。次いで、これらの炭化フェノール樹脂ナノ繊維の力学的特性を引っ張り強さおよび弾性に関して試験した。
また、酢酸セルロースを含むフェノール重合体ブレンドを調製した。酢酸セルロース溶液およびノボラック溶液の50/50ブレンドを調製した。この酢酸セルロース溶液は、アセトンとジメチルアミドとの2:1混液に溶かした酢酸セルロース(平均MW=30,000)の15wt%溶液とした。ノボラック溶液は、実施例1に記載した方法で作製した、ノボラック(平均MW=13,000)の50wt%エタノール溶液とした。さらに、フェノール重合体溶液と酢酸セルロース溶液との3/1ブレンドを調製した。このフェノール重合体溶液は、実施例1に記載した方法で作製した、レゾールおよびノボラックのエタノール溶液の50/50混液とした。酢酸セルロース溶液は、酢酸セルロース(平均MW=50,000)の12wt%アセトン溶液とした。
得られたこれらの溶液を、上記実施例1で説明したようにして静電紡糸した。また上記実施例1で説明したようにして、得られたこれらのフェノール樹脂ナノ繊維を硬化した後、炭化した。次いで、これらの炭化フェノール樹脂ナノ繊維の力学的特性を引っ張り強さおよび弾性に関して試験した。
[実施例7]
フェノール樹脂静電紡糸繊維の作製
フェノール樹脂の静電紡糸:レゾールの50w/w%エチルアルコール(EtOH)溶液、および6.5wt%ヘキサメチレンテトラミン含有ノボラックの50w/w%EtOH溶液を用いて、1:1のレゾールとノボラックとの均一なブレンドを調製した。得られた重合体溶液を、ステインレス・スティール製の先端の丸い2インチ18−ゲージ・ステンレススチール針を装着した10mlのポリプロピレン注入器に吸い込ませた。この重合体溶液を充填した注入器および装着したステインレス・スティール針をKDサイエンティフィック社製(モデル100)シリンジ・ポンプに取り付け、高圧電源(スペルマン・ハイ・ボルテージ・エレクトロニクス・コーポレーション社製モデルSL10)により帯電させた時に接地アルミニウム・ターゲットへ10ml/hrの溶液を送出するように設定した。印加電圧を16乃至17キロボルト(kV)、針先端から接地回収器までの距離を15cmとした。接地回収器は、取り外し可能なアルミニウム箔を積層した直径3インチの回転アルミニウム・シリンダで構成した。この研究に用いた静電紡糸実験装置の概略図を図1に示した。さらに、ノボラックの50w/w%EtOH溶液およびレゾールの50w/w%EtOH溶液を、前述の条件を用いて静電紡糸した。
フェノール樹脂の硬化:上記のフェノール樹脂静電紡糸繊維性マットおよび「非静電紡糸」重合体溶液を硬化させることによって、炭化前の不融性架橋材料を形成した。この静電紡糸材料の硬化工程は、静電紡糸工程で得られた繊維形態を維持するために極めて重要であった。静電紡糸繊維との比較のために、上記レゾール/ノボラック重合体溶液の一部をそのまま硬化させた。予め秤量した硬化用材料を石英ボートに入れ、これをサーモライン(Thermolyne)21110管状炉の石英管の中心に入れた。温度を160℃まで上昇させていき、次いで、0.2L/分の連続的な窒素によるパージを行いながら、少なくとも2時間定温に維持した。
フェノール樹脂の炭化:上記の硬化静電紡糸繊維および硬化バルクフェノール樹脂材料を、サーモライン21110管状炉を用いて800℃および1,000℃の温度で炭化した。各炭化実験では、予め秤量した上記材料を石英ボートに入れ、これを上記管状炉内の同じ中心位置に滑り込ませた。炭化サイクルでは、温度を設定値まで10℃/分で上昇させていき、次いで、窒素を0.5L/分で連続的に流しながら、2時間定温に維持した。
1,000℃を超える温度で炭化する場合は、R.D.2.5レッドデビル高温真空/不活性ガス炉を用いた。静電紡糸試料は、先ず、前述の炭化サイクルにより、サーモライン21110管状炉内で炭化させた。この工程を800℃もしくは1,000℃で完了した後、この試料を秤量し、グラファイト・カップに入れ、これをレッドデビル内の数層の黒鉛およびセラミック断熱材の下に入れた。圧力は、真空ポンプを用いて50トル未満まで低下させた後、陽圧が得られるまでアルゴンを用いてパージした。この系からの酸素および水分の除去を確実にするために、それぞれさらに高い温度の炭化サイクルを開始する前に、このパージ・サイクルを3回繰り返した。炭化では、温度を所定の設定値まで10℃/分の速度で上げていき、次いで、アルゴンを0.5L/分で連続的に流しながら、2時間定温に維持した。低温炭化と高温炭化との主要な相違点は、不活性環境として窒素の代わりにアルゴンを用いることであった。
[実施例8]
フェノール樹脂静電紡糸繊維とPAN静電紡糸繊維との比較
フェノール樹脂静電紡糸繊維:フェノール樹脂静電紡糸繊維は、上記実施例7で説明したようにして作製した。
PANの静電紡糸:PANの8wt%および10wt%DMF溶液を調製した。所定の濃度のPANのDMF溶液を満たしたフラスコを鉱物油浴に入れて熱板上に置き、これにより溶液の温度を70℃未満に維持することによって均一な溶液を形成させた。フェノール樹脂の静電紡糸において説明した前述の方法をPANに対しても用いた。種々の処理条件を検討することによって、その後の炭化のための繊維を作製するのに最も適した条件を決定した。検討した工程変量は、印加電圧、体積流量および蒸着距離であった。PANのために選択した静電紡糸条件は、印加電圧、体積流量および蒸着距離がそれぞれ18.5kV、10ml/hrおよび15cmであった。また、ターゲットには、繊維性マットの除去が容易となるようにアルミニウム箔を積層した。繊維性マットは、静電紡糸フェノール樹脂に対して説明した方法と同様に、この箔から取り出して保存した。
PANの安定化:静電紡糸PAN繊維は、フィッシャー・サイエンティフィック・アイソテンプ(Fisher Scientific Isotemp)プログラム制御可能炉(モデル495A)を用いて安定化させた。繊維性マットは、アルミニウム箔に載せ、一定の気流があり、以下の加熱サイクル・プログラムを有する上記炉に入れた;勾配加熱速度1、2および3:1℃/分、温度1、2および3:それぞれ200℃、250℃および300℃、ならびに滞留時間1、2および3:120分。ついで、この炉は、それぞれ3つの工程で、より速い速度およびより短い滞留時間で室温まで下げていった。安定化サイクルが完了すると、この繊維性材料を秤量した。炭化研究には、DMFに溶かした10wt%PANからなる溶液を使用した。
熱分解/炭化:上記PAN材料を、サーモライン21100管状炉を用いて800℃乃至1,000℃の温度で炭化した。各炭化実験では、予め秤量した上記材料を石英ボートに入れ、これを上記管状炉内の同じ中心位置に滑り込ませた。800℃乃至1,000℃の炭化温度の場合、10℃/分の昇温速度および0.5L/分の連続窒素体積流量を用いた。温度が設定値に達した後、この材料は2時間定温に維持した。冷却工程は、このフェノール樹脂の硬化工程で説明したのと同様とした。800℃でのこのフェノール樹脂の炭化収率は、PANの40%に対し、約50%であった。800℃を超える温度では有意な重量減少は生じない。
1,000℃を超える温度での炭化の場合は、R.D.ウェブ25レッドデビル(R.D.Webb 25 Red Devil)高温真空/不活性ガス炉を用いた。上記の静電紡糸試料を、先ず、前述のサイクルにより、サーモライン21110管状炉内で炭化させた。この工程を800℃もしくは1,000℃で完了した後、この試料を秤量し、グラファイト・カップに入れ、これをレッドデビル内の数層の黒鉛およびセラミック断熱材の下に入れた。圧力は、真空ポンプを用いて50トル未満まで低下させた後、陽圧が得られるまでアルゴンを用いてパージした。この系からの全ての酸素および水分の除去を確実にするために、それぞれさらに高い温度の炭化サイクルを開始する前に、このパージ・サイクルを3回繰り返した。より高い温度での炭化の場合、800℃および1,000℃の場合と同様なサイクルを用い、昇温速度を10℃/分、連続アルゴン体積流量を0.5L/分、定温滞留時間を2時間とした。定温サイクルが完了すると、温度を室温条件の温度まで下げていった。低温炭化と高温炭化との主要な相違点は、不活性環境として窒素の代わりにアルゴンを用いることであった。各サイクルの完了時には試料の秤量を行った。
走査電子顕微鏡:フェノール樹脂のEtOH溶液およびPANのDMF溶液の静電紡糸、中間架橋もしくは安定化および炭化繊維性材料を走査電子顕微鏡JEOL JMS−840を用いて特徴付けることにより、繊維の直径分布、形態および複数処理工程の影響についての定量的測度を得た。特に重要なことは、この繊維性材料が硬化および炭化の高温に曝されても繊維の形態が確実に維持されることであった。分析の前に、これらの試料が導電性となるように、これらをアルミニウム製試料プラグ上に置き、パラジウム/金合金の薄層でスパッタ被覆した。
吸着:Micromeritics ASAP 2010機器(ノークロス(Norcross)、GA)を用いて上記材料の吸着等温線および表面積を測定し、その増分(incremental)および細孔径分布をこの機器に付属しているソフトウェアを用いて密度関数理論(DFT)により算出し、これらを表1にまとめた。測定の前に、各硬化および炭化試料を、外径1.27cmの試料管に入れてSealFritで密封した後、ガス抜きを、150℃の温度で、分析器のガス抜きポートを20トル未満の減圧として2時間行った。ガス抜き工程が完了した後、この試料管アセンブリを分析ポートへ移した。プローブ分子としてはアルゴンを選択した。何故なら、アルゴンは球形、単原子および非極性であり、微孔質の研究には窒素より好ましいからである。相対圧が0.01未満の場合、液体アルゴン10cm3/gの一定の容積ドーズを用いたが、0.01の相対圧以上の相対圧の場合、アルゴンの容積ドーズ量は、約0.9の相対圧以下の十分な所定相対圧に基づいて算出した。
走査電子顕微鏡を用いることによって繊維の直径および形態に関する情報を確認した。上記静電紡糸繊維は硬化/安定化および炭化処理を通じてその形態を保持した。処理過程で有意な重量減少が生じたが、繊維の直径の全体的なばらつきのために、SEM顕微鏡写真から繊維の直径の減少パーゼントを求めることは困難であった。図10Aおよび図10Bは、それぞれ、1,000℃で作製した炭化フェノール樹脂およびPAN静電紡糸繊維のSEM顕微鏡写真を示したものであり、これにより、実験の項ではこの特定の静電紡糸について説明した。この炭化フェノール樹脂繊維(図10A)の直径は約250nm乃至2−3μmであったのに対し、上記炭化PAN繊維(図10B)の直径は約150nm乃至500nmであった。直径が75乃至100nmと小さいPAN炭素繊維は、低濃度、特に8wt%のPAN/DMF溶液から得られた。静電紡糸炭化PAN繊維は、50nm以下と小さいことが報告されている。また、市販のPAN炭素繊維を炭化して上記静電紡糸繊維と比較した。この市販のPAN繊維の直径は約10μmであったので、上記炭化静電紡糸フェノール樹脂およびPAN繊維の両者よりも有意に大きかった。
この研究では力学的特性について測定しなかったが、上記炭化PAN繊維は破断することなく複数の処理工程に耐えるのに充分強かったのに対し、上記フェノール樹脂繊維では、破断をできるだけ少なくするために、処理工程中穏やかに取り扱うことが必要とされた。静電紡糸炭化フェノール樹脂繊維の力学的特性は、添加剤、共重合体、他の重合体系のブレンドなどを用いることにより向上させることができる。
DFTを用いたBET比表面積、ミクロ細孔容積および全細孔容積の算出結果については下記の表1に示した。このBETの算出結果から、炭化温度の上昇に伴ってこの比表面積が減少することが明らかとなった。1,600℃で炭化したフェノール樹脂繊維のBET比表面積は、炭化温度がより低い場合よりも有意に低く、上記PAN炭化繊維ではさらに典型的であった。この炭化静電紡糸PANは、1,600℃で炭化したフェノール樹脂以外の全ての炭化静電紡糸フェノール樹脂よりも有意に低いBET比表面積を示した。試料の量が少なく(約50mg)、これらの非多孔性試料の場合は実験誤差が大きいため、約100m2/g以下のBET比表面積を有する試料間の区別は殆どできないと考える必要がある。
IUPACの命名法によれば、ミクロ細孔は20Å(即ち、2nm)未満の幅を有し、メソ細孔は20乃至500Å(2nm乃至50nm)の幅を有し、巨視孔(macropore)は500Å(50nm)超の幅を有する。800℃乃至1,400℃の温度で炭化した静電紡糸フェノール樹脂では、ほぼ全てがミクロ細孔の容積である全細孔容積が示された。1,600℃で炭化した静電紡糸フェノール樹脂では、測定可能なミクロ細孔容積は認められなかった。上記炭化静電紡糸PANでは、上記の炭化静電紡糸フェノール樹脂と比較して有意に低い全細孔容積、従って、ミクロ細孔容積が認められた。
PAN/DMFおよびフェノール樹脂/EtOH重合体溶液を静電紡糸、安定化/硬化および炭化すると、明らかに異なる吸着特性を有する繊維性材料が得られる。炭化フェノール樹脂繊維は、ごくわずかな多孔性を示す炭化PAN繊維に比し、繊維をさらに活性化もしくはエッチングしなくても比較的高い微孔性を示した。その細孔容積はこの材料を次第に高い温度に曝すことにより減少させることができるので、目的とする特定の用途に細孔径分布を合わせることができる可能性が得られる。このフェノール樹脂繊維は環境に害のない溶媒を用いて作製することができ、このことが、溶媒としてDMFを使用するPANに比し、安全性の点からこの繊維を魅力的なものにしている。
特徴付け
走査電子顕微鏡(SEM):フェノール樹脂の静電紡糸、中間架橋および炭化繊維性材料を走査電子顕微鏡(JEOL JMS−840)を用いて特徴付けることにより、繊維の直径分布、形態および複数処理工程の影響についての定量的測度を得た。特に重要なことは、この繊維性材料が硬化および炭化の高温に曝されても繊維の形態が確実に維持されることであった。分析の前に、これらの試料が導電性となるように、これらをアルミニウム製試料プラグ上に置き、パラジウム/金合金の薄層でスパッタ被覆した。
図10Aは、フェノール樹脂炭化静電紡糸繊維(ノボラックの50wt%エタノール溶液とレゾールの50wt%エタノール溶液との比率1:1)を示す。SEM顕微鏡写真による結果から、静電紡糸過程で形成された繊維形態は硬化および炭化の全体を通じて保持されることが明らかとなった。この静電紡糸繊維では約200nmの繊維直径が認められたが、直径の大部分は約500nmから数μmに分布した。この静電紡糸繊維を硬化、熱分解して得られた繊維は約100nmから約1μm以下まで分布するように思われた。図12Aおよび図12Bは、レゾールの50wt%エタノール溶液およびノボラックの50wt%エタノール溶液から作製した静電紡糸繊維のSEM顕微鏡写真を示す。しかしながら、こうした繊維は十分に架橋しておらず、その後の炭化に望ましい力学的な完全性に欠けていた。ノボラックに対するレゾールの種々の比率の他に、これら個々のレゾールおよびノボラック繊維に関して、別の静電紡糸条件および硬化条件を現在検討中である。
吸着:Micromeritics ASAP 2010分析器(高機能比表面積/細孔分布測定装置、ノークロス(Norcross)、GA)を用いて、アルゴン吸着等温線を87.29Kで測定した。この実験の前に、硬化および炭化試料は、150℃の温度で20トル未満の減圧下、2時間ガス抜きを行った。比表面積ABETは、BETの式の線形部(P/Po=0.06〜0.30)から求めた。これらの試料の細孔径分布は、DFTプラス(Plus)を使用して密度関数理論(DFT)による正則化法を用いることにより算出した。例えば、Micromeritics Instrument Corporation、DFTPlus、Norcross、GA、1997年を参照されたい。相対圧が0.01未満の場合、液体アルゴン10cm3/gの一定の容積ドーズを用いたが、0.01の相対圧以上の相対圧の場合、アルゴンの容積ドーズ量は、約0.9の相対圧以下の十分な所定相対圧に基づいて算出した。
吸着されるガスの量は、吸着質の分圧(濃度)、系、吸着質および吸着材の温度の関数である。一定温度で圧力もしくは濃度に対して吸着材に吸着される化合物の量を測定すると、吸着等温線が得られる。図13は、600℃乃至2,000℃の温度で熱分解された静電紡糸フェノール樹脂繊維からのAr吸着等温線を示す。800℃乃至1,400℃の温度で作製した炭素繊維は、IUPAC分類で定義されたタイプI吸着等温線の典型例を示す。この吸着等温線は、ミクロ細孔が約10−6乃至10−5の相対圧で増量することを示す著しい垂直的上昇およびこれに続く、相対圧の増加に伴う吸着容積の穏やかな増加を特徴としている。相対圧が約0.1に達すると、更なる吸着の増大は、相対圧が0.9に近づくにつれてほぼ水平線となることから分かるように、比較的少ない。アルゴンの全吸着容積は、800℃で熱分解された炭素繊維では200cm3/g超、1,000℃および1,200℃の炭素繊維試料では190cm3/g、1,400℃で得られた繊維では約150cm3/gであった。これに対して、1,600℃乃至2,000℃の温度で熱分解された炭素繊維のアルゴン吸着等温線は、この材料が非多孔性であることを示している。10−6乃至0.9の相対圧範囲に対する全吸着容積は、1,600℃、1,800℃および2,000℃の試料で、それぞれ約25cm3/g、6cm3/gおよび1cm3/gであった。同様に、静電紡糸および硬化静電紡糸繊維の吸着挙動は、図14で全吸着容積がそれぞれ13cm3/gおよび5cm3/gとなっていることから明らかなように、これらの材料も非多孔性であることを示している。また、ノボラックおよびレゾールの各エタノール溶液の1:1のブレンドからなる重合体溶液の一部を硬化し、次いで静電紡糸により繊維に加工しないで熱分解した。そのアルゴン吸着等温線からこれらの材料が非多孔性であることが分かった。
BET比表面積:上記の静電紡糸、硬化および炭化繊維のBET比表面積を表1に示した。静電紡糸および硬化静電紡糸繊維では内部表面積は皆無に近いことが明らかとなった。800℃乃至1,400℃の温度で熱分解した静電紡糸繊維では、比BET表面積がほぼ600cm2/gから約400cm2/gの範囲にあり、最も低い炭化温度で最も高い比表面積が得られることが明らかになった。炭化温度が1,400℃超であった材料では、BET比表面積が25cm3/g未満となったので、この材料がほぼ非多孔性であることが分かった。図15は、熱処理の関数としての炭化静電紡糸繊維のBET表面積を示す。この曲線から、この材料の焼締り(densification)、リボン様平面内の欠損(defects)の消失などの変質がこの材料内に生じたことが分かる。このより高い温度で熱分解した上記炭素繊維の比表面積は、検討した温度範囲全体に対して典型的なガラス状炭素にみられる比表面積であることをよりよく示している。800℃、1,200℃および1,800℃の温度で硬化および熱分解した非静電紡糸フェノール樹脂ブレンドでは、25cm3/g未満のBET比表面積が得られた。活性化しないで800℃乃至1,400℃の温度で熱分解した静電紡糸繊維の比表面積が比較的高い理由は、部分的に、処理技術、ナノサイズの繊維の大きさ、吸着が行われる測定可能な隙間を形成する単層もしくは二重層のグラフェン・シートの不規則な(disorganized)リボン間の4Å超の層間間隙と直接関係していると想定される。理論的計算およびガス吸着から非黒鉛化炭素の微孔質は主として幅が6乃至8Åのろ過細隙(slit pores)からなることが明らかになったと報告されている。より高温で熱分解した炭素繊維については次の諸項で説明する。
X線回折:45kVおよび40mAでのCu Kα照射ならびにエクセラレータ(X'celerator)検出器を用いるフィリップス・アナリティカル(現在、パナリティカル)X'PERT PRO X線回折装置により、静電紡糸および非静電紡糸フェノール樹脂の炭化後のXRD図形を収集した。これらの試料は粉砕して粉末とし、アルミニウム・スライド上に薄層として調製した。データは、刻み幅を0.00836°、2°2θ乃至75°2θの走査速度を0.008848°2θ/sとして収集した。
上記炭化静電紡糸繊維(1,000℃乃至2,000℃)に対してXRDを行うことにより、熱処理の関数として生じる構造変化について別の理解が得られた。試料ホルダーからの反射を示す図8Aおよび図8Bから明らかなように、2θ≒26°における(00.2)平面からの反射に相当する広いバンドが認められ、これは1,200℃では強度が低く、温度を段階的に2,000℃まで上げるにつれて増大する。結晶サイズが小さく、歪み、フォールティングなどの結晶の欠陥が種々存在すると、回析図形に影響を与え、ピーク・ブロードニングを生じることがある。表2から明らかなように、熱処理による(00.2)ピークのシフトは層間間隙d(002)の減少により生じる。
1,600℃、1,800℃および2,000℃の温度では、d(00.2)の格子面間隔は、それぞれ3.37Å、3.38Åおよび3.36Åであり、このことから黒鉛の存在が明らかとなった。1,000℃、1,200℃および1,800℃の温度で熱分解した非静電紡糸フェノール樹脂ブレンドは、それぞれ3.58Å、3.48Åおよび3.46Åの格子面間隔d(00.2)を示し、このことからこの材料は規則性の程度が低いが、温度が上昇するにつれて高い規則性を有することが明らかとなった。c−方向の平均結晶子サイズLcを計算するには、シェラー(Scherrer)の式:Lc=Kλ/B(2θ)cosθを用いた。
このシェラーの式中、Kは形状係数であり、0.9の値を用いた;B(2θ)は(002)ピークについてラジアンで表した回析線の拡がり(半値全幅FWHMマイナス装置幅(instrument breadth))であり;λはX線波長(1.541874Å)であり;θは回析角である。表2に示した結果から、結晶子サイズ、即ち、グラフェン・シートのスタック高さは温度の関数として増加する傾向のあることが分かる。これらの結果は、この式が球状結晶に関して得られる時、傾向を知る目的(trending purposes)のためにのみ利用するべきであり、また、これは、非球形材料の線(peak)の拡がりに適用される場合が多いが、この場合には近似として利用するのがより適切である。
細孔径分布:密度関数理論(DFT)により算出した細孔径分布(PSD)から、800℃乃至1,400℃の温度で熱分解した炭素静電紡糸繊維のポア幅は大部分がミクロ細孔性であることが分かる。図16の曲線(a)、(b)、(c)および(d)は、これらの試料の多孔性の測定範囲である4Å(測定可能な最低値)乃至10Åのポア幅の細孔径分布曲線を示す。800℃の試料では、約5Åに中心がある比較的狭いガウス型分布が認められる。熱分解温度を1,000℃まで上昇させると、この細孔径分布は、ほぼ同じ拡がりおよび高さの2つのより小さいガウス型ピークへシフトするので、一部のポア径は減少したことが分かる。この温度を1,200℃、次いで1,400℃に上昇させると、ガウス型分布は依然認められ、その中心は約5Åにあるが、右側に尾を引くようになる。これは、リボン状網様構造(network)がさらに再配列された証拠である。加えて、4Å未満のさらにサイズの小さいポアへのシフトが認められることもあるように思われるが、この仮説を確認するには別の分析方法が必要とされる。800℃乃至1,400℃の温度で熱分解した静電紡糸繊維のミクロ細孔、メソ細孔および全容積について表3にまとめたが、これより、全容積は、それぞれ0.226cm2/gから0.165cm2/gに及ぶ容積を有するミクロ細孔で主に構成されることが分かる。
800℃乃至1,400℃の温度で熱分解した静電紡糸フェノール樹脂繊維にはミクロ細孔容積が生じるようであり、800℃では中心が5Åあたりにある最も均一な分布が認められる。この温度を2,000℃まで段階的に上昇させるに伴って、開放されたミクロ細孔容積の減少が認められる。この炭化静電紡糸繊維で認められるミクロ細孔容積は、800℃乃至1,800℃の温度範囲の場合、同じフェノール樹脂ブレンドから作製した非静電紡糸材料には存在しなかった。「黒鉛化していない」炭素および合成多結晶黒鉛は、その作製方法および前駆体材料ばかりでなく、その炭素の構造と密接に関連する多孔性をかなりの程度有する。よく分かっていないが、静電紡糸は、800℃乃至1,400℃の温度で熱分解するとミクロ細孔性のフェノール樹脂由来炭素ナノ繊維の形成をもたらす炭素前駆体作製のための手段になると考えられる。
高分解能透過電子顕微鏡法(HRTEM):上記繊維性炭素材料の微細構造に対する熱処理の効果を確認するためにHRTEM画像を獲得した。使用した機器は、200kVの加速電位で作動するフィリップス(Philips)/FEI Tecnai F20電界放射型透過電子顕微鏡であった。EDX波高分析器を有するEDAXスィン・ウィンドウ型(thin window)検出器を用いてエネルギー分散スペクトルを収集し、このデータをEmispecのTecnai画像解析(T1A)用ソフトウェアを用いて解析した。HRTEM画像は、電子エネルギー損失スペクトル(EELS)の場合と同様に、ガタン・イメージング・フィルター(Gatan imaging filter)を用いて収集した。格子像の高速フーリエ変換、この変換の解析、およびEELSスペクトルの解析は、ガタン(Gatan)のデジタル・マイログラフ・ソフトウェア(Digital micrograph software)を用いて行った。
静電紡糸しなかったフェノール樹脂ブレンドを熱分解し、HRTEMにより検討して、その炭素構造を静電紡糸により形成したものと比較した。肉眼的には、これは貝殻状断口を有するガラス状物質の塊を生じた。図17は、このガラスが織り合わされた(interwoven)線形形体のもつれ(tangle)からなることを示すガラスの破砕アリコートのHRTEM画像である。こうした線形形体は、1炭素原子の厚みを有する既述の芳香族グラフェン・シートの縁部である。これらのシートは、平行なシートの小さな束に束ねられ、正確乃至ほぼ円形の方向にねじられている。画像から分かるように、これらの束の厚さは不定であるが、通常、束当たり2から最大7シートまでにも及ぶ。このグラフェン・シート束のねじれた、もしくはほぼ円形の形状によって、BET測定に用いるガス(この場合はアルゴン)の透過性が妨げられるであろう。X線回析により検出される(00.2)間隔はシート間の厚みによって決まる。この厚みはそのまま画像で直接測定するか、高速フーリエ変換により画像全体を「平均」することができる。(00.2)間隔を意味する周波数は原点のまわりに広がったリングとして現れる。「平均」間隔であるこのリングの中心から、この画像内のグラフェン・シート間の格子面間隔は約3.79Åであることが分かった。この周波数の外側にある別のリングは、2.15Åの2−H黒鉛の{(10.0)間隔に相当する。この格子面間隔は黒鉛に関連づけられてきたが、このガラス状物質内に結晶質黒鉛と呼ぶことのできる大きな領域は存在しないことに留意されたい。上記(00.2)リングの拡散性から、この間隔は不定であり、そのリング形状はc軸のランダムなオリエンテーション、従って、グラフェン・シートを示すことが分かった。これに対して、{10.0}の強度は強く、各グラフェン・シート内のC−C間距離のばらつきがずっと少ないことが分かる。上記HRTEM画像で示された領域よりも大きな領域をサンプリングする電子回折像は、約3.47Åの平均層間(00.2)間隔と類似しているように思われる。これは、3.46ÅのX線回析により上記で測定したものとほぼ一致している。
炭化静電紡糸繊維のHRTEM画像群は、これらがグラフェン・シートからなる点で、一見極めてよく似ているように見える。炭化温度を1,000℃から1,600℃へ上昇させるに伴って、束当たりのシート数も1層から6層以上に増加した。この状態は、2,000℃までほぼ一定のまま継続するように思われる。1,600℃を超えると、この熱分解試料は、別の興味深い現象を示した。各繊維の側面に最も近いシートは、部分的にその縁に一列に並ぶ傾向がある。このことは、画像およびそのフーリエ変換の一部、ならびに電子解析像の一部で明らかである。これらの繊維の側面は、紡糸工程において、繊維の内部よりも大きな表面張力に曝されると考えられる。繊維の直径が減少するに伴って、この表面、および恐らくグラフェン・シートのアラインメントは増大することになろう。グラフェン・シートのアラインメントが増大すると、古典的黒鉛の構造により近い構造が形成されることになる。事実、1,600℃以上に加熱した静電フェノール樹脂の繊維の多くには黒鉛粒子が散在性に存在する(図7)。これらは繊維の縁によく見出されたが、これらはその領域の一列に並んだグラフェン・シート上で核となっている可能性がある。黒鉛への突然の転換が生じる応力黒鉛化と呼ばれるメカニズムが報告されている。例えば、Inagaki・M.、Meyer・R.A.、Chemishy and Physics of Carbon、Thrower・P.A.、Radovic・L.R.編、NY、第26巻、1999年を参照されたい。剪断応力は、ポアを偏平にすることにより、多孔性炭素中に歪みを生ぜしめる。例えば、Oberlin・A.、TerriereG.、Carbon、1975年、13:p367およびBustin・R.M.、Rouzaud・J.N.、ロス・J.V.、Carbon、1995年、33(5):p679を参照されたい。この現象は、最高3,000℃で炭化および黒鉛化した厚みの薄いポリイミドフィルム(カプトン、ユーピレックス、ノバックスおよびPPT)で認められている。これらは、ポア壁が破壊される2,100℃を超えると、突然黒鉛化することが分かった。例えば、Bourgerette・C.、Oberlin・A.、Inagaki・M.、J.Mater.Res.、1995年、10(4):p1024を参照されたい。
この結晶の構造は、強度(intensity)がc軸から約80°の角度で約2.08Åに現れる点で、興味深い。このことから、この強度は、炭素の多くで想定されている2−H黒鉛ではなく菱面体(3−R)黒鉛(空間群R3)の(10.1)反射を表すことが示唆された。それでも、任意の結晶のかなりの部分を解析すると、c軸の積み重なりおよびオリエンテーションの変動によって、高度に縞入りの強度が得られる。
[実施例9]
静電紡糸フェノール樹脂からの炭素繊維の活性化
フェノール樹脂静電紡糸繊維:実施例7で上述した方法により、フェノール樹脂静電紡糸繊維を作製した。この試料を1,000℃で炭化したものをその後の活性化のために選択した。
活性化:炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維を活性化工程にかけた。炭化フェノール樹脂繊維を活性化するために、試料を石英管に入れ、この石英管を管炉(サーモライン)内に入れた。この炉をN2/CO2混合ガスで置換した(N2/CO2混合ガスは100%CO2から10%CO2まで変化させることができる)。次いで、炉の温度を900乃至1,000℃まで上昇させた。この活性化工程は、温度が900乃至1,000℃に達した時点から20分乃至5時間継続させた。活性化後、この活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維のアルゴン吸着等温線を87.29Kで測定し、アルゴンの吸着容積、ならびに全細孔容積、ミクロ細孔容積およびBET表面積を算出した。
吸着:Micromeritics ASAP 2010機器を用いて上記材料の吸着等温線および表面積を測定し、その増分(incremental)および細孔径分布をこの機器に付属しているソフトウェアを用いて密度関数理論(DFT)により算出し、これらを表4にまとめた。測定の前に、各硬化および炭化試料は、外径1.27cmの試料管に入れてSealFritで密封した後、ガス抜きを150℃の温度で、分析器のガス抜きポートを20トル未満の減圧として2時間行った。ガス抜き工程が完了した後、この試料管アセンブリを分析ポートへ移した。プローブ分子としてはアルゴンを選択した。何故なら、アルゴンは球形、単原子および非極性であり、微孔質の研究には窒素より好ましいからである。相対圧が0.01未満の場合、液体アルゴン10cm3/gの一定の容積ドーズを用いたが、0.01の相対圧以上の相対圧の場合、アルゴンの容積ドーズ量は、約0.9の相対圧以下の十分な所定相対圧に基づいて算出した。
上記活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維に関する、DFTを用いたBET比表面積、ミクロ細孔容積および全細孔容積の算出結果については下記の表4に示した。IUPACの命名法によれば、ミクロ細孔は20Å(即ち、2nm)未満の幅を有し、メソ細孔は20乃至500Å(2nm乃至50nm)の幅を有し、巨視孔(macropore)は500Å(50nm)超の幅を有する。
実施例9では、表4に示した燃焼の種々のパーセンテージは、(同じ条件で処理した)元の炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維に種々の活性化時間、即ち、滞留時間を設定することにより得られた。あるいは、上記酸化気体の濃度、温度、もしくは水蒸気などの別の酸化気体によって、活性化により得られる繊維の特性を調節することができる。%燃焼が増加するに伴って比BET表面積は増大した。図19は、活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維のアルゴン吸着等温線を示す。全細孔容積およびスーパーミクロ細孔容積は、増加するパーセント燃焼の関数として増加した(スーパーミクロ細孔は7Å乃至20Åの幅を有するポアと定義されている、M.M.Dubinin、Carbon、1989年、27(3):p457−467)。このシリーズの活性化試料を作製するために用いた活性化条件下では、メソ細孔容積は生じなかった。
[実施例10]
静電紡糸PANからの炭素繊維の活性化
静電紡糸PAN:静電紡糸PANは実施例8で上述した方法により作製した。この試料を1,000℃で炭化したものをその後の活性化のために選択した。
活性化:次に、炭化静電紡糸PANを活性化工程にかけた。炭化静電紡糸PAN繊維を活性化するために、試料を石英管に入れ、この石英管を管炉(サーモライン)内に入れた。この炉をN2/CO2混合ガスで置換した(N2/CO2混合ガスは100%CO2から10%CO2まで変化させることができる)。次いで、炉の温度を900乃至1,000℃まで上昇させた。この活性化工程は、温度が900乃至1,000℃に達した時点から20分乃至5時間継続させた。活性化後、この活性化炭化PAN繊維のアルゴン吸着等温線を87.29Kで測定し、アルゴンの吸着量、ならびに全細孔容積、ミクロ細孔容積およびBET表面積を算出した。図20。
吸着:Micromeritics ASAP 2010機器を用いて上記材料の吸着等温線および表面積を測定し、その増分(incremental)および細孔径分布をこの機器に付属しているソフトウェアを用いて密度関数理論(DFT)により算出し、これらを表5にまとめた。測定の前に、各硬化および炭化試料は、外径1.27cmの試料管に入れてSealFritで密封した後、ガス抜きを150℃の温度で、分析器のガス抜きポートを20トル未満の減圧として2時間行った。ガス抜き工程が完了した後、この試料管アセンブリを分析ポートへ移した。プローブ分子としてはアルゴンを選択した。何故なら、アルゴンは球形、単原子および非極性であり、微孔質の研究には窒素より好ましいからである。相対圧が0.01未満の場合、液体アルゴン10cm3/gの一定の容積ドーズを用いたが、0.01の相対圧以上の相対圧の場合、アルゴンの容積ドーズ量は、約0.9の相対圧以下の十分な所定相対圧に基づいて算出した。
実施例10では、表5に示した燃焼の種々のパーセンテージが、(同じ条件で処理した)元の炭化静電紡糸PAN繊維に種々の活性化時間、即ち、滞留時間を設定することにより得られた。あるいは、上記酸化気体の濃度、温度、もしくは水蒸気などの別の酸化気体によって、活性化により得られる繊維の特性を調節することができる。%燃焼が増加するに伴って比BET表面積は増大した。図21は、活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維のアルゴン吸着等温線を示す。全細孔容積およびスーパーミクロ細孔容積は、増加するパーセント燃焼の関数として増加した。このシリーズの活性化試料を作製するために用いた活性化条件下で、メソ細孔容積が形成された。
[実施例11]
フェノール樹脂からの市販炭素繊維(ノボロイド(Novoloid)繊維)の活性化
硬化ノボロイド繊維はアメリカン・カイノール社(American Kynol,Inc.)(NY)から購入した。この購入した硬化繊維を、実施例9および10に記載した実験装置および条件を用いて炭化した。次いで、実施例9に記載したのと同じ工程に続いて、この炭化ノボロイド繊維を活性化した。この市販の処理ノボロイド繊維を17%燃焼で炭化および活性化したものは、873m2/gの比BET表面積を示し、これは同等の燃焼による活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維と同様であった。サーフェス・メジャーメント・システムズ社(アレンタウン、PA)製の逆ガスクロマトグラフィー(IGC)を用いて灯用ガスの吸着特性を検討した。各測定では、長さ30cm内径3mmのガラス・カラムに活性化炭素繊維試料(活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維および活性化炭化ノボロイド繊維)約25mgを充填した。このガラス・カラムの両端にはガラス・ウールを入れ、試料をその中心に収納した。キャリア・ガスとしてヘリウムを用い、モデル・ガスとしてメタンを選んだ。測定に際しては、容積比20:1のヘリウム−メタン混合ガスを20mL/分でカラムから連続的にパージし、出口のメタン濃度を水素炎イオン化検出器でモニターした。漏出曲線を作成し、吸着されたメタンの容積および吸着熱を算出した。得られた結果の比較を表6に示した。
図6から、両試料が同様な比BET表面積、%燃焼および全ミクロ細孔容積を有することが分かるが、活性化炭化静電紡糸フェノール樹脂繊維は、活性化炭化ノボロイド繊維に比し、より高い吸着メタン量および吸着発熱量(負号は「発熱」を意味し、この場合、熱力学的に好ましいことを示す)を示した。この場合、メタンをモデル・ガスとして用いたが、一酸化炭素、アセトアルデヒド、アンモニア、エタン、水素、酸素、ホルムアルデヒド、ブタンなども同様な結果を示すであろう。
[実施例12]
市販PAN繊維の活性化
ゾルテック社(Zoltek)、セントルイス、MOから安定化PAN繊維を入手した。この購入安定化繊維を、実施例9および10に記載した実験装置および条件を用いて炭化した。次いで、この炭化繊維を活性化し、実施例9および10に記載したのと同じ工程に続いて、その吸着特性を測定した。表7は、上記活性化炭素通常静電紡糸繊維の比BET表面積および(DFTを用いた)細孔径分布計算値を示す。
通常法により静電紡糸した活性化炭素繊維は、実施例10に示した活性化静電紡糸PAN繊維よりも有意に異なる特性を示した。比BET表面積、ミクロ細孔容積および全細孔容積は、この活性化炭化静電紡糸PAN繊維よりも有意に小さかった。上記活性化炭化従来処理PANの比BET表面積は、53%燃焼において103m2/gであったのに対して、活性化炭化静電紡糸PAN繊維の比BET表面積は、47%および60%燃焼において、それぞれ1,362および1,462m2/gであった。従って、この活性化静電紡糸PAN繊維は、一連の灯用ガスに対して、実施例11に記載したのと同様に、高い吸着特性を示すものと考えられる。
[実施例13]
フェノール樹脂静電紡糸混合物への金属塩添加の例
ノボラックおよびレゾール粉末の乾燥混合物(1:1の比率で混合)に金属塩ヘキサクロロ白金(IV)酸二水素(アルドリッチ社)を乾式混合した。この乾式混合物は、2.12gの白金塩および33.78gのフェノール樹脂粉末(即ち、各樹脂16.89グラム)を含有した。次いで、この乾燥混合物をエタノールに溶解して50wt%の重合体溶液を得た。この重合体溶液を、実施例1に開示した条件で静電紡糸した。得られた静電紡糸繊維を、昇温速度0.1℃/分として160℃でサーモライン管炉内で硬化させた後、定温に2時間維持した。次に、この硬化試料を、0.5L/分の連続的な窒素によるパージを行いながら、800℃で同じ炉内で炭化した。次いで、この試料をサーモライン炉から取り出し、グラファイト・カップに入れてレッドビル高温炉(RDウェブ)中に設置した。この試料を1,200℃で炭化する前に、パージ・サイクルを3回完了させてこの系から酸素および水分を除去した。昇温速度を10℃/分とし、0.5L/分の連続的なアルゴンによるパージを行いながら、炭化温度を1,200℃まで上げた。炭化温度が1,200℃に達した後、この試料をその温度に2時間維持し、次いで室温まで冷却した。図1は、白金を含むこの炭化繊維のHRTEM画像を示す。上記金属塩を白金金属に還元することにより、黒鉛形成のための核形成部位を得た。このHRTEMは結晶質黒鉛を示す。
本発明をその特定の実施態様を参照して詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更および修正を行うことができ、均等物を用いることができることは当業者にとって明らかである。
上記に特定した刊行物は全て、個々の刊行物がそれぞれ具体的、かつ個別に全体として引用により本明細書に組み込まれる場合と同程度に、全文引用により本明細書に組み込まれている。