JP5664945B2 - モータ制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置に関する。ブラシレスモータは、たとえば、車両用操舵装置の駆動源として使用可能である。車両用操舵装置の一例は、電動パワーステアリング装置である。
ブラシレスモータを駆動制御するためのモータ制御装置は、一般に、ロータの回転角を検出するための回転角センサの出力に応じてモータ電流の供給を制御するように構成されている。回転角センサとしては、一般的には、ロータ回転角(電気角)に対応した正弦波信号および余弦波信号を出力するレゾルバが用いられる。しかし、レゾルバは、高価であり、配線数が多く、また、設置スペースも大きい。そのため、ブラシレスモータを備えた装置のコスト削減および小型化が阻害されるという課題がある。
そこで、回転角センサを用いることなくブラシレスモータを駆動するセンサレス駆動方式が提案されている。センサレス駆動方式は、ロータの回転に伴う誘起電圧を推定することによって、磁極の位相(ロータの電気角)を推定する方式である。ロータ停止時および極低速回転時には、誘起電圧を推定できないので、別の方式で磁極の位相が推定される。具体的には、ステータに対してセンシング信号を注入し、このセンシング信号に対するモータの応答が検出される。このモータ応答に基づいて、ロータ回転位置が推定される。
特開2007-267549号公報
上記のセンサレス駆動方式は、誘起電圧やセンシング信号を用いてロータの回転位置を推定し、その推定によって得られた回転位置に基づいてモータを制御するものである。しかし、この駆動方式は、いずれの用途にも適しているわけではなく、たとえば、車両の舵取り機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置の駆動源として用いられるブラシレスモータの制御に適用するための手法は未だ確立されていない。そのため、別の方式によるセンサレス制御の実現が望まれている。
そこで、この発明の目的は、回転角センサを用いない新たな制御方式でモータを制御することができるモータ制御装置を提供することである。
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備え、車両の舵取り機構(2)に駆動力を付与するためのモータ(3)を制御するためのモータ制御装置であって、前記車両の操向のために操作される操作部材(10)に加えられる操舵トルクを検出するトルク検出手段(1)と、指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段(21)と、前記ロータの回転角を検出するための回転角センサの検出値を用いずに演算される制御上の回転角である制御角(θC)に従う回転座標系の軸電流値(Iγ *を生成し、この軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段(31〜36)と、所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角(α)
を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段(26)と、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクと前記トルク検出手段によって検出される操舵トルクとの偏差に対する比例積分演算を行うことによって前記加算角を演算する加算角演算手段(22,23)と、前記軸電流値に応じて前記比例積分演算におけるゲインを変更することによって、前記制御角演算手段の特性を変更するための特性変更手段(21b,30,30A)とを含む、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
この構成によれば、制御角に従う回転座標系(γδ座標系。以下「仮想回転座標系」といい、この仮想回転座標系の座標軸を「仮想軸」という。)の軸電流値(以下「仮想軸電流値」という。)によってモータが駆動される一方で、制御角は、演算周期毎に加算角を加算することによって更新される。これにより、制御角を更新しながら、すなわち、仮想回転座標系の座標軸(仮想軸)を更新しながら、仮想軸電流値でモータを駆動することによって、必要なトルクを発生させることができる。こうして、回転角センサを用いることなく、モータから適切なトルクを発生させることができる。前記加算角は、たとえば、モ
ータが発生すべきトルクまたは前記仮想軸電流値に対する前記モータの応答に対応する値とされる。
また、この発明によれば、指示操舵トルクが設定され、この指示操舵トルクと操舵トルク(検出値)との偏差に対する比例積分演算によって前記加算角が演算される。これにより、操舵トルクが当該指示操舵トルクとなるように加算角が定められ、それに応じた制御角が定められることになる。したがって、指示操舵トルクを適切に定めておくことによって、モータから適切な駆動力を発生させて、これを舵取り機構に付与することができる。すなわち、ロータの磁極方向に従う回転座標系(dq座標系)の座標軸と前記仮想軸とのずれ量(負荷角)が指示操舵トルクに応じた値に導かれる。その結果、適切なトルクがモ
ータから発生され、運転者の操舵意図に応じた駆動力を舵取り機構に付与できる。
さらに、この発明では、制御角演算手段の特性が特性変更手段によって変更されるようになっている。これにより、状況に応じて制御角の演算特性を変化させることができるので、モータからより適切なトルクを発生させることができる。
具体的には、この発明によれば、モータ電流に応じて制御角の演算特性が変化するので、モータ電流に応じた適切なトルクをモータから発生させることができる。より具体的には、制御角をフィードバック制御(加算角をフィードバック制御)する際における比例積分演算のゲイン(比例ゲイン、積分ゲイン)がモータ電流に応じて変化させられる。さらに具体的には、モータ電流の絶対値が大きいほど、フィードバック制御のゲインを小さくするようにしてもよい。これにより、モータ電流値の変化に応じてゲインを変化させることができるので、制御が振動的になることを抑制して、モータを円滑に駆動することができる。
請求項2記載の発明は、前記特性変更手段は、さらに、前記モータの回転角速度に応じて前記比例積分演算におけるゲインを変更する、請求項1に記載のモータ制御装置である。
この構成では、前記特性変更手段は、モータの回転角速度に応じて前記特性を変更する。これにより、モータの回転角速度に応じて制御角の演算特性が変化するので、回転角速度に応じた適切なトルクをモータから発生させることができる。具体的には、回転角速度が大きいほど、モータ発生トルクが小さくなるように制御角演算特性を変化させるようにしてもよい。これにより、車両の舵取り機構に転舵力を付与するための駆動源としてのモータから、操舵速度に応じた力が舵取り機構に与えられるので、操舵時に良好な手応え感が得られ、いわゆるダンピング制御を実現することができる。また、回転角速度が大きいほど応答が鈍くなるように制御角演算特性を変化させてもよい。これにより、素速く操舵したときに良好な手応え感が得られるとともに、操舵角中点付近での収斂性を向上できる。
請求項3記載の発明は、前記特性変更手段は、さらに、前記モータの回転角速度に応じて前記指示操舵トルク設定手段によって設定される前記指示操舵トルクを変更する、請求項1または2に記載のモータ制御装置である
前記モータ制御装置は、前記加算角を制限するための制限手段(24)をさらに含んでいてもよい。この構成によれば、加算角に適切な制限を加えることによって、実際のロータの回転に比して過大な加算角が制御角に加算されることを抑制できる。より具体的には、ロータの回転速度範囲に対して妥当な範囲内で加算角が設定されるように制限を加えることによって、より適切にモータを制御することができる。
前記制限手段は、たとえば、加算角の絶対値を次式の制限値以下に制限するものであってもよい。ただし、次式における「最大ロータ角速度」とは、電気角でのロータ角速度の最大値である。
制限値=最大ロータ角速度×演算周期
たとえば、モータの回転を所定の減速比の減速機構を介して車両用操舵装置の操舵軸に伝達している場合には、最大ロータ角速度は、最大操舵角速度(操舵軸の最大回転角速度)×減速比×極対数で与えられる。「極対数」とは、ロータが有する磁極対(N極とS極との対)の数である。
操作部材と舵取り機構とが機械的に結合された車両用操舵装置(たとえば、電動パワーステアリング装置)では、仮想軸電流値に対するモータの応答(モータが発生するトルク)は、検出操舵トルクの変化となって現れる。したがって、このような車両用操舵装置においては、検出操舵トルクに応じて加算角を演算することは、仮想軸電流値に対するモータの応答に応じて加算角を演算することになると言うこともできる。
前記モータ制御装置は、前記操作部材の操舵角を検出する操舵角検出手段(4)をさらに含み、前記指示操舵トルク設定手段は、前記操舵角検出手段によって検出される操舵角に応じて指示操舵トルクを設定するものであることが好ましい。この構成によれば、操作部材の操舵角に応じて指示操舵トルクが設定されるので、操舵角に応じた適切なトルクをモータから発生させることができ、運転者が操作部材に加える操舵トルクを操舵角に応じた値へと導くことができる。これにより、良好な操舵感を得ることができる。
前記指示操舵トルク設定手段は、前記車両の車速を検出する車速検出手段(6)によって検出される当該車速に応じて指示操舵トルクを設定するものであってもよい。この構成によれば、車速に応じて指示操舵トルクが設定されるので、いわゆる車速感応制御を行うことができる。その結果、良好な操舵感を実現できる。たとえば、車速が大きいほど、すなわち、高速走行時ほど指示操舵トルクを小さく設定することより、すぐれた操舵感が得られる。
参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。 モータの構成を説明するための図解図である。 前記電動パワーステアリング装置の制御ブロック図である。 図4Aは操舵角に対する指示操舵トルクの特性例を示す図であり、図4Bは操舵角速度に対する指示操舵トルクのゲインの特性例を示す図である。 操舵角速度に対するトルクフィードバック制御(加算角制御)の特性変更例を示す図である。 図6Aは操舵トルクに対するγ軸指示電流値の設定例を示す図であり、図6Bは操舵角に対するγ軸指示電流値のゲイン特性の一例を示す図である。 操舵角速度に対する電流フィードバック制御の特性変更例を示す図である。 この発明の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。 図9Aはγ軸指示電流値に対する比例ゲインの設定例を示す図であり、図9Bはγ軸指示電流値に対する積分ゲインの設定例を示す図である。 参考形態に係る電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。 電流制御器における制御の連続性を説明するためのブロック図である。 図12Aはレゾルバが正常なときの電流制御に関する構成を示すブロック図であり、図12Bはレゾルバ故障時の電流制御に関する構成を示すブロック図である。
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置の一例)の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両を操向するための操作部材としてのステアリングホイール10に加えられる操舵トルクTを検出するトルクセンサ1と、車両の舵取り機構2に減速機構7を介して操舵補助力を与えるモータ3(ブラシレスモータ)と、ステアリングホイール10の回転角である操舵角を検出する舵角センサ4と、モータ3を駆動制御するモータ制御装置5と、当該電動パワーステアリング装置が搭載された車両の速度を検出する車速センサ6とを備えている。
モータ制御装置5は、トルクセンサ1が検出する操舵トルク、舵角センサ4が検出する操舵角および車速センサ6が検出する車速に応じてモータ3を駆動することによって、操舵状況および車速に応じた適切な操舵補助を実現する。
モータ3は、たとえば、三相ブラシレスモータであり、図2に図解的に示すように、界磁としてのロータ50と、このロータ50に対向するステータ55に配置されたU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53とを備えている。モータ3は、ロータの外部にステータを対向配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを対向配置したアウターロータ型のものであってもよい。
各相のステータ巻線51,52,53の方向にU軸、V軸およびW軸をとった三相固定座標(UVW座標系)が定義される。また、ロータ50の磁極方向にd軸(磁極軸)をとり、ロータ50の回転平面内においてd軸と直角な方向にq軸(トルク軸)をとった二相回転座標系(dq座標系。実回転座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ50とともに回転する回転座標系である。dq座標系では、q軸電流のみがロータ50のトルク発生に寄与するので、d軸電流を零とし、q軸電流を所望のトルクに応じて制御すればよい。ロータ50の回転角(ロータ角)θは、U軸に対するd軸の回転角である。dq座標系は、ロータ角θに従う実回転座標系である。このロータ角θを用いることによって、UVW座標系とdq座標系との間での座標変換を行うことができる。
一方、制御上の回転角を表す制御角θCが導入される。制御角θCは、U軸に対する仮想的な回転角である。この制御角θCに対応する仮想的な軸をγ軸とし、このγ軸に対して90°進んだ軸をδ軸として、仮想二相回転座標系(γδ座標系。仮想回転座標系)を定義する。制御角θCがロータ角θMに等しいとき、仮想回転座標系であるγδ座標系と実回転座標系であるdq座標系とが一致する。すなわち、仮想軸としてのγ軸は実軸としてのd軸と一致し、仮想軸としてのδ軸は実軸としてのq軸と一致する。γδ座標系は、制御角θCに従う仮想回転座標系である。UVW座標系とγδ座標系との座標変換は、制御角θCを用いて行うことができる。
制御角θとロータ角θとの差を負荷角θ(=θ−θ)と定義する。
制御角θに従ってγ軸電流Iγをモータ3に供給すると、このγ軸電流Iγのq軸成分(q軸への正射影)がロータ50のトルク発生に寄与するq軸電流Iとなる。すなわち、γ軸電流Iγとq軸電流Iとの間に、次式(1)の関係が成立する。
=Iγ・sinθ …(1)
再び図1を参照する。モータ制御装置5は、マイクロコンピュータ11と、このマイクロコンピュータ11によって制御され、モータ3に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)12と、モータ3の各相のステータ巻線に流れる電流を検出する電流検出部13とを備えている。
電流検出部13は、モータ3の各相のステータ巻線51,52,53に流れる相電流I,I,I(以下、総称するときには「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。これらは、UVW座標系における各座標軸方向の電流値である。
マイクロコンピュータ11は、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、指示操舵トルク設定部21と、トルク偏差演算部22と、PI(比例積分)制御部23と、リミッタ24と、制御角演算部26と、操舵角速度演算部27と、制御ゲイン設定部30と、指示電流値生成部31と、電流偏差演算部32と、PI制御部33と、γδ/UVW変換部34と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部35と、UVW/γδ変換部36とが含まれている。
指示操舵トルク設定部21は、基本値設定部21aと、ゲイン設定部21bと、乗算器21cとを有している。基本値設定部21aは、舵角センサ4によって検出される操舵角と、車速センサ6によって検出される車速とに基づいて、指示操舵トルク基本値T を設定する。たとえば、図4Aに示すように、たとえば、操舵角が正の値(右方向へ操舵した状態)のとき指示操舵トルク基本値T は正の値(右方向へのトルク)に設定され、操舵角が負の値(左方向へ操舵した状態)のとき指示操舵トルク基本値T は負の値(左方向へのトルク)に設定される。そして、操舵角の絶対値が大きくなるに従って、その絶対値が大きくなるように(図4Aの例では非線型に大きくなるように)指示操舵トルク基本値T が設定される。また、指示操舵トルク基本値T は、車速が大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定される。すなわち、車速感応制御が行われる。
ゲイン設定部21bは、操舵角速度演算部27によって求められる操舵角速度に基づいてゲインGSを設定する。操舵角速度は、たとえば、ステアリングホイール10が右方向に回転するときに正の値をとり、ステアリングホイール10が左方向に回転するときに負の値をとる。ゲインGSは、たとえば、図4Bに示すように、操舵角速度が零の近傍の所定範囲ΔS内の値であれば、所定の一定値C(たとえば「1」)に設定される。操舵角速度が当該所定範囲ΔS外では、ゲインGSは、操舵角速度の絶対値の増加に伴って前記一定値Cから単調に(たとえばリニアに)増加する特性で設定される。ただし、ゲインGSは、所定の上限値GS_limit以下に設定される。
このゲイン設定部21bによって設定されるゲインGが、乗算器21cで指示操舵トルク基本値T に乗じられることによって、指示操舵トルクT(=T ×G)が求められる。ただし、指示操舵トルクTは、所定の上限値(正の値。たとえば、+6Nm)および下限値(負の値。たとえば−6Nm)の範囲内で設定されるようになっている。
トルク偏差演算部22は、指示操舵トルク設定部21によって設定される指示操舵トルクTとトルクセンサ1によって検出される操舵トルクT(以下、区別するために「検出操舵トルクT」という。)との偏差(トルク偏差)ΔTを求める。PI制御部23は、このトルク偏差ΔTに対するPI演算を行う。すなわち、トルク偏差演算部22およびPI制御部23によって、検出操舵トルクTを指示操舵トルクTに導くためのトルクフィードバック制御手段が構成されている。PI制御部23は、トルク偏差ΔTに対するPI演算を行うことで、制御角θに対する加算角αを演算する。
PI制御部23は、比例要素23aと、積分要素23bと、加算器23cとを備えている。ただし、KPaは比例ゲイン、KIaは積分ゲイン、1/sは積分演算子である。比例要素23aおよび積分要素23bの演算結果が加算器23cで加算されることによって、加算角αが求められる。比例要素23aのゲイン(比例ゲイン)KPaと、積分要素23bのゲイン(積分ゲイン)KIaとは、制御ゲイン設定部30によって可変設定される。すなわち、制御ゲイン設定部30は、操舵角速度演算部27によって求められる操舵角速度に応じて、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを可変設定し、これにより、PI制御部23の周波数特性を変更する。より具体的には、制御ゲイン設定部30は、図5に示すように、操舵角速度が大きいほど遮断周波数の小さな周波数特性が得られるように、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを可変設定する。一般には、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを小さくすることにより、遮断周波数が低くなる。
リミッタ24は、PI制御部23によって求められた加算角αに対して制限を加える制限手段である。より具体的には、リミッタ24は、所定の上限値UL(正の値)と下限値LL(負の値)との間の値に加算角αを制限する。上限値ULおよび下限値LLは、最大操舵角速度に基づいて定められる。最大操舵角速度とは、ステアリングホイール10の操舵角速度として想定され得る最大値であり、たとえば、800deg/sec程度である。
最大操舵角速度のときのロータ50の電気角の変化速度(電気角での角速度。最大ロータ角速度)は、次式(2)のとおり、最大操舵角速度と、減速機構7の減速比と、ロータ50の極対数との積で与えられる。極対数とは、ロータ50が有する磁極対(N極とS極との対)の個数である。操舵角速度は、モータの回転角速度に対応する。
最大ロータ角速度=最大操舵角速度×減速比×極対数 …(2)
制御角θの演算間(演算周期)におけるロータ50の電気角変化量の最大値(ロータ角変化量最大値)は、次式(3)のとおり、最大ロータ角速度に演算周期を乗じた値となる。
ロータ角変化量最大値=最大ロータ角速度×演算周期
=最大操舵角速度×減速比×極対数×演算周期 …(3)
このロータ角変化量最大値が一演算周期間で許容される制御角θの最大変化量である。そこで、前記ロータ角変化量最大値をωmax(>0)と表すと、加算角αの上限値ULおよび下限値LLは、それぞれ次式(4)(5)で表すことができる。
UL=+ωmax …(4)
LL=−ωmax …(5)
リミッタ24は、PI制御部23によって求められた加算角αを上限値ULと比較し、加算角αが上限値ULを超えている場合には、上限値ULを加算角αに代入する。したがって、制御角θに対して上限値UL(=+ωmax)が加算されることになる。一方、PI制御部23によって求められた加算角αが下限値LL未満であれば、下限値LLを加算角αに代入する。したがって、制御角θに対して下限値LL(=−ωmax)が加算されることになる。PI制御部23によって求められた加算角αが下限値LL以上上限値UL以下であれば、その加算角αがそのまま制御角θへの加算のために用いられる。
このようにして、加算角αを上限値ULと下限値LLとの間に制限することができるので、制御の安定化を図ることができる。より具体的には、電流不足時や制御開始時に制御不安定状態(アシスト力が不安定な状態)が発生しても、この状態から安定な制御状態へと速やかに遷移させることができる。これにより、操舵感を向上することができる。
この制限処理後の加算角αが、制御角演算部26の加算器26Aにおいて、制御角θの前回値θ(n-1)(nは今演算周期の番号)に加算される(Z−1は信号の前回値を表す)。ただし、制御角θの初期値は予め定められた値(たとえば零)である。
制御角演算部26は、制御角θの前回値θ(n-1)にリミッタ24から与えられる加算角αを加算する加算器26Aを含む。すなわち、制御角演算部26は、所定の演算周期毎に制御角θを演算する。そして、前演算周期における制御角θを前回値θ(n-1)とし、これを用いて今演算周期における制御角θである今回値θ(n)を求める。
操舵角速度演算部27は、舵角センサ4によって検出される操舵角に基づいて、ステアリングホイール10の操舵角速度を演算する。具体的には、舵角センサ4が検出する操舵角が所定のサンプリング周期毎に繰り返しサンプリングされる。そして、操舵角がサンプリングされたときに、1サンプリング時間前の操舵角との差分が求められる。この差分に対しては、必要に応じて、移動平均フィルタやローパスフィルタ等の信号処理が施される。そして、信号処理後の差分をサンプリング時間で除することによって、操舵角速度が求まる。前記信号処理は、必要に応じて行えばよく、場合によっては省かれてもよい。
指示電流値生成部31は、制御上の回転角である前記制御角θに対応する仮想回転座標系であるγδ座標系の座標軸(仮想軸)に流すべき電流値を指示電流値として生成するものである。具体的には、γ軸指示電流値Iγ およびδ軸指示電流値Iδ (以下、これらを総称するときには「二相指示電流値Iγδ という。)を生成する。指示電流値生成部31は、γ軸指示電流値Iγ を有意値とする一方で、δ軸指示電流値Iδ を零とする。より具体的には、指示電流値生成部31は、トルクセンサ1によって検出される検出操舵トルクTに基づいてγ軸指示電流値Iγ を設定する。
検出操舵トルクTに対するγ軸指示電流値Iγ の設定例は、図6Aに示されている。検出操舵トルクTが零付近の領域には不感帯NRが設定されている。γ軸指示電流値Iγ は、不感帯NRの外側の領域で急峻に立ち上がり、所定のトルク以上でほぼ一定値となるように設定される。これにより、運転者がステアリングホイール10を操作していないときには、モータ3への通電が停止され、不必要な電力消費が抑制される。
また、図6Bに示すように、舵角センサ4によって検出される操舵角に応じて、γ軸指示電流値Iγ *が可変設定されるようになっている。図6Bには、図6Aの特性に従って設定されるγ軸指示電流値Iγ *に乗じるべき電流ゲインの設定例が示されている。すなわち、指示電流値生成部31は、図6Aの特性に従うγ軸指示電流値Iγ *に対して図6Bの特性に従う電流ゲインを乗じることによって、最終的なγ軸指示電流値Iγ *を設定する。図6Bの例では、操舵角中点付近の所定の操舵角範囲ΔθSの範囲内では、電流ゲインが零とされ、したがって、γ軸指示電流値Iγ *=0となる。この操舵角範囲ΔθS外においては、操舵角絶対値の増加に応じて所定の上限値まで単調に(たとえばリニア)に
電流ゲインが増加するようになっている。操舵角中点付近では、操舵補助力は不要である。そこで、操舵角中点付近の操舵角範囲ΔθSにおいてγ軸指示電流値Iγ *=0とすることにより、省エネルギー性の向上が図られる。
電流偏差演算部32は、指示電流値生成部31によって生成されるγ軸指示電流値Iγ に対するγ軸検出電流Iγの偏差Iγ −Iγと、δ軸指示電流値Iδ (=0)に対するδ軸検出電流Iδの偏差Iδ −Iδとを演算する。γ軸検出電流Iγおよびδ軸検出電流Iδは、UVW/γδ変換部36から偏差演算部32に与えられるようになっている。
UVW/γδ変換部36は、電流検出部13によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相検出電流I、V相検出電流IおよびW相検出電流I)をγδ座標系の二相検出電流IγおよびIδ(以下総称するときには「二相検出電流Iγδ」という。)に変換する。これらが電流偏差演算部32に与えられるようになっている。UVW/γδ変換部36における座標変換には、制御角演算部26で演算される制御角θが用いられる。
PI制御部33は、電流偏差演算部32によって演算された電流偏差に対するPI演算を行うことにより、モータ3に印加すべき二相指示電圧Vγδ (γ軸指示電圧Vγ およびδ軸指示電圧Vδ )を生成する。この二相指示電圧Vγδ が、γδ/UVW変換部34に与えられる。
PI制御部33は、比例要素33aと、積分要素33bと、加算器33cとを備えている。ただし、KPiは比例ゲイン、KIiは積分ゲイン、1/sは積分演算子である。比例要素33aおよび積分要素33bの演算結果が加算器33cで加算されることによって、二相指示電圧Vγδが求められる。比例要素33aのゲイン(比例ゲイン)KPiと、積分要素33bのゲイン(積分ゲイン)KIiとは、制御ゲイン設定部30によって可変設定される。すなわち、制御ゲイン設定部30は、操舵角速度演算部27によって求められる操舵角速度に応じて、比例ゲインKPiおよび積分ゲインKIiを可変設定し、これにより、PI制御部33の周波数特性を変更する。より具体的には、制御ゲイン設定部30は、図7に示すように、操舵角速度が大きいほど遮断周波数の小さな周波数特性が得られるように、比例ゲインKPiおよび積分ゲインKIiを可変設定する。一般には、比例ゲインKPiおよび積分ゲインKIiを小さくすることにより、遮断周波数が低くなる。
γδ/UVW変換部34は、二相指示電圧Vγδ に対して座標変換演算を行うことによって、三相指示電圧VUVW を生成する。三相指示電圧VUVW は、U相指示電圧V 、V相指示電圧V およびW相指示電圧V からなる。この三相指示電圧VUVW は、PWM制御部35に与えられる。
PWM制御部35は、U相指示電圧V 、V相指示電圧V およびW相指示電圧V にそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路12に供給する。
駆動回路12は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部35から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相指示電圧VUVW に相当する電圧がモータ3の各相のステータ巻線51,52,53に印加されることになる。
電流偏差演算部32およびPI制御部33は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、モータ3に流れるモータ電流が、指示電流値生成部31によって設定される二相指示電流値Iγδ に近づくように制御される。
図3は、前記電動パワーステアリング装置の制御ブロック図である。ただし、説明を簡単にするために、リミッタ24の機能は省略してある。
指示操舵トルクTと検出操舵トルクTとの偏差(トルク偏差)に対するPI制御によって、加算角αが生成される。この加算角αが制御角θの前回値θ(n-1)に対して加算されることによって、制御角θの今回値θ(n)=θ(n-1)+αが求められる。このとき、制御角θとロータ50の実際のロータ角θとの偏差が負荷角θ=θ−θとなる。
したがって、制御角θに従うγδ座標系(仮想回転座標系)のγ軸(仮想軸)にγ軸指示電流値Iγ に従ってγ軸電流Iγが供給されると、q軸電流I=Iγsinθとなる。このq軸電流Iがロータ50の発生トルクに寄与する。すなわち、モータ3のトルク定数Kをq軸電流I(=Iγsinθ)に乗じた値が、アシストトルクT(=K・Iγsinθ)として、減速機構7を介して、舵取り機構2に伝達される。このアシストトルクTを舵取り機構2からの負荷トルクTから減じた値が、運転者がステアリングホイール10に与えるべき操舵トルクTである。この操舵トルクTがフィードバックされることによって、この操舵トルクTを指示操舵トルクTに導くように系が動作する。つまり、検出操舵トルクTを指示操舵トルクTに一致させるべく、加算角αが求められ、それに応じて制御角θが制御される。
このように制御上の仮想軸であるγ軸に電流を流す一方で、指示操舵トルクTと検出操舵トルクTとの偏差ΔTに応じて求められる加算角αで制御角θを更新していくことにより、負荷角θが変化し、この負荷角θに応じたトルクがモータ3から発生するようになっている。これにより、操舵角および車速に基づいて設定される指示操舵トルクTに応じたトルクをモータ3から発生させることができるので、操舵角および車速に対応した適切な操舵補助力を舵取り機構2に与えることができる。すなわち、操舵角の絶対値が大きいほど操舵トルクが大きく、かつ、車速が大きいほど操舵トルクが小さくなるように、操舵補助制御が実行される。
このようにして、回転角センサを用いることなくモータ3を適切に制御して、適切な操舵補助を行うことができる電動パワーステアリング装置を実現できる。これにより、構成を簡単にすることができ、コストの削減を図ることができる。
さらに、操舵角速度の絶対値が大きいほど、指示操舵トルクの絶対値が大きく定められる(図4B参照)。したがって、ステアリングホイール10の回転が速いときには、指示操舵トルクの絶対値が大きくなる。これにより、いわゆるダンピング制御を実現することができ、ステアリングホイール10を切り込むときに良好な手応え感が得られるとともに、ステアリングホイール10が中立位置に戻るときに、ステアリングホイール10の回転を減速して、収斂性を向上することができる。こうして、優れた操舵感を実現できる。
さらにまた、加算角αを求めるためのPI制御部23(トルクフィードバック制御部)および二相指示電圧Vγδ *を求めるためのPI制御部33(電流フィードバック制御部)の周波数特性が操舵角速度に応じて可変設定され、操舵角速度が大きいときほど、遮断周波数が低くなるようにされている。これにより、ステアリングホイール10が速く回転しているときには、トルクフィードバック制御および電流フィードバック制御の応答が鈍化されることになる。このような働きによって、より優れたダンピング制御が実現されており、操舵時の手応え感および中立位置への復帰時の収斂性を向上して、すぐれた操舵感を達成できる。
このように、操舵角速度に応じて指示操舵トルクおよびPI制御部23のゲインを変更することによって、加算角αの演算特性が変更され、したがって制御角θCの演算特性が変更されている。これにより、優れたダンピング特性を実現している。そして、さらに、PI制御部33のゲインの変更によって、γ軸指示電流値Iγ *の特性を操舵角速度に応じて変更しており、これによって、ダンピング特性の一層の向上が図られている。
なお、この参考形態では、操舵角速度に応じて、(a)指示操舵トルクの変更、(b)トルクフィードバック制御のゲイン変更、および(c)電流フィードバック制御のゲイン変更のすべてが行われているが、これらの(a)(b)(c)のうちの1つのみまたは2つの組み合わによっても、ダンピング制御を実現できる。
図8は、この発明の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図8において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、図1の場合と同一の参照符号を付して示す。
この実施形態では、加算角αを求めるためのPI制御部23におけるゲインがγ軸指示電流値Iγ に応じて可変設定されるようになっている。すなわち、制御ゲイン設定部30Aは、指示電流値生成部31が生成するγ軸指示電流値Iγ に応じて、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを可変設定する。より具体的には、図9Aおよび図9Bに示すように、Iγ =0を含む所定範囲ΔIにおいては、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaは、各上限値KPa_uplimit,KIa_uplimitに設定される。所定範囲ΔI外の領域では、γ軸指示電流値Iγ の絶対値の増加に伴って各下限値KPa-_downlimit,KIa_downlimitまで単調に(この実施形態ではリニアに)減少する特性に従って、比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaが定められる。
この構成によって、γ軸電流Iγが大きいときには角度フィードバック制御のゲインが抑制されるので、加算角αの変化が抑制される。そのため、操舵トルクの変動が抑制されることになるので振動を抑制することができ、優れた操舵感を実現することができる。
図8には、制御ゲイン設定部30Aがγ軸指示電流値Iγ に基づいて比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを可変設定し、操舵角速度に基づくゲインの変更は行わない例を示してある。しかし、制御ゲイン設定部30Aによって、γ軸指示電流値Iγ および操舵角速度の両方に基づいて比例ゲインKPaおよび積分ゲインKIaを可変設定する構成としてもよい。
また、この実施形態では、前述のとおり、操舵角および操舵トルクに応じてγ軸指示電流値Iγ を可変設定しているが(図6Aおよび図6B参照)、さらに車速センサ6によって検出される車速に応じてγ軸指示電流値Iγ を可変設定する構成としてもよい。この場合にも、γ軸指示電流値Iγ の変動によらずに、ステアリングホイール10の振動を抑制できるので、優れた操舵感を実現できる。電流値が異なると、指示操舵トルクおよび検出操舵トルクに基づいて加算角αを設定するトルクフィードバック制御のゲインの最適値が異なる。そこで、γ軸指示電流値Iγ に応じてPI制御部23のゲインを適切に定めることによって、操舵感を向上できる。
図10は、参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両のステアリングホイールに加えられる操作トルクを検出するトルクセンサ67と、車両の速度を検出する車速センサ68と、車両の舵取り機構63に操舵補助力を与えるモータ61と、このモータ61を駆動制御するモータ制御装置70とを備えている。モータ制御装置70は、トルクセンサ67が検出する操舵トルクおよび車速センサ68が検出する車速に応じてモータ61を駆動することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。モータ61は、たとえば、三相ブラシレスモータであり、前述の図2に示したモータ3と同様の構成を有している。以下、必要に応じて、図2を併せて参照する。
モータ制御装置70は、電流検出部71、信号処理部としてのマイクロコンピュータ72、および駆動回路73を有する。このモータ制御装置70に、モータ61内のロータの回転角を検出するレゾルバ62(回転角センサ)とともに、前述のトルクセンサ67および車速センサ68が接続されている。
電流検出部71はモータ61のステータ巻線51,52,53(図2参照)を流れる電流を検出する。より具体的には、電流検出部71は、3相(U相、V相およびW相)のステータ巻線51,52,53における相電流をそれぞれ検出する電流検出器を有する。
マイクロコンピュータ72は、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値演算部75と、dq軸目標電流値演算部76Aと、αβ軸目標電流値演算部76Bと、PI(比例積分)制御部77と、γδ/αβ座標変換部78と、αβ/UVW座標変換部79と、PWM制御部80と、UVW/αβ座標変換部81と、αβ/γδ座標変換部82と、偏差演算部83と、回転角算出部84と、センサ故障判定部85と、第1スイッチ91と、第2スイッチ92と、第3スイッチ93とを備えている。
基本目標電流値演算部75は、トルクセンサ67により検出される操舵トルクと、車速センサ68により検出される車速とに基づいて、モータ61の基本目標電流値Iを演算する。基本目標電流値Iは、たとえば、操作トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
dq軸目標電流値演算部76Aは、基本目標電流値Iに基づいて、モータ61のロータ磁極方向に沿うd軸電流成分の目標値(d軸目標電流値I )と、d軸に直交するq軸電流成分の目標値(q軸目標電流値I )とを生成する。以下、これらをまとめていうときには、「目標電流値Idq 」という。
αβ軸目標電流値演算部76Bは、基本目標電流値Iに基づいて、二相固定座標系(α−β)におけるα軸電流成分の目標値(α軸目標電流値Iα )と、α軸に直交するβ軸電流成分の目標値(β軸目標電流値Iβ )とを生成する。以下、これらをまとめていうときには、「目標電流値Iαβ 」という。二相固定座標系(α−β)とは、ロータ50の回転中心を原点として、ロータ50の回転平面内にα軸(たとえば、U軸と一致する座標軸)およびこれに直交するβ軸を定めた固定座標系である。
第1スイッチ91は、2つの目標電流値演算部76A,76Bによって求められる目標電流値のいずれかを選択して、PI制御部77に入力する。
電流検出部71は、モータ61のU相電流I、V相電流IおよびW相電流Iを検出する(以下、これらをまとめていうときには「三相検出電流IUVW」という)。その検出値は、UVW/αβ座標変換部81に与えられる。
UVW/αβ座標変換部81は、三相検出電流IUVWを、二相固定座標系(α−β)上での電流IαおよびIβ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iαβ」という。)に座標変換する。座標変換された二相検出電流Iαβは、αβ/γδ座標変換部82および第2スイッチ92に与えられる。
αβ/γδ座標変換部82は、二相検出電流Iαβを、制御上のロータ回転角θ^(以下、「制御回転角θ^」という。)に従う二相回転座標系(γ−δ)上での電流IγおよびIδ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iγδ」という。)に座標変換する。二相回転座標系(γ−δ)は、制御回転角θ^にロータ50がある場合に、ロータ磁極方向に沿うγ軸と、このγ軸に直交するδ軸とによって規定される回転座標系である。制御回転角θ^に誤差がなく、実際のロータ回転角と一致しているとき、二相回転座標系(d−q)と二相回転座標系(γ−δ)とは一致する。制御回転角θ^は、回転角算出部84によって演算されたロータ回転角である。
第2スイッチ92は、二相検出電流Iαβまたは二相検出電流Iγδのいずれかを選択して偏差演算部83に与えるようになっている。
偏差演算部83は、第1スイッチ91から与えられる目標電流値Idq ,Iαβ と、第2スイッチ92から与えられる検出電流Iγδ,Iαβとの偏差を演算する。より具体的には、第1スイッチ91が目標電流値Idq を選択し、第2スイッチ92が二相検出電流Iγδを選択するとき、偏差演算部83は、d軸目標電流値I に対するγ軸検出電流Iγの偏差、およびq軸目標電流値I に対するδ軸検出電流Iδの偏差を演算する。また、第1スイッチ91が目標電流値Iαβ を選択し、第2スイッチ92が二相検出電流Iαβを選択するとき、偏差演算部83は、α軸目標電流値Iα に対するα軸検出電流Iαの偏差、およびβ軸目標電流値Iβ に対するβ軸検出電流Iβの偏差を演算する。これらの偏差がPI制御部77に与えられてそれぞれPI演算処理を受ける。そして、これらの演算結果に応じて、γ軸電圧指令値Vγ およびδ軸電圧指令値Vδ (以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vγδ 」という。)、またはα軸電圧指令値Vα およびβ軸電圧指令値Vβ (以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vαβ 」という。)が生成される。
第3スイッチ93は、PI制御部77が生成する二相電圧指令値(Vγδ )をγδ/αβ座標変換部78に入力する状態と、PI制御部77が生成する二相電圧指令値(Vαβ)を(γδ/αβ座標変換部78をバイパスして)αβ/UVW座標変換部79に入力する状態とのいずれかに制御される。
γδ/αβ座標変換部78は、γ軸電圧指令値Vγ およびδ軸電圧指令値Vδ を、二相固定座標系(α−β)の電圧指令値であるα軸電圧指令値Vα およびβ軸電圧指令値Vβ (二相電圧指令値Vαβ )に座標変換する。この二相電圧指令値Vαβ は、αβ/UVW座標変換部79に与えられる。
αβ/UVW座標変換部79は、α軸電圧指令値Vα およびβ軸電圧指令値Vβ を三相固定座標系の電圧指令値、すなわち、U相、V相およびW相の電圧指令値V ,V ,V (以下、これらをまとめていうときには「三相電圧指令値VUVW 」という。)に変換する。
PWM制御部80は、三相の電圧指令値V ,V ,V に応じて制御されたデューティ比の駆動信号を生成して駆動回路73に与える。これにより、モータ61の各相には、該当する相の電圧指令値V ,V ,V に応じたデューティ比で電圧が印加されることになる。
このような構成によって、舵取り機構63に結合された操作部材としてのステアリングホイール(図示せず)に操舵トルクが加えられると、これがトルクセンサ67によって検出される。そして、その検出された操舵トルクおよび車速に応じた目標電流値Idq ,Iαβ が目標電流値演算部76A,76Bによって生成される。この目標電流値Idq ,Iαβ と二相検出電流Iγδ,Iαβとの偏差が偏差演算部83によって求められ、この偏差をゼロに導くようにPI制御部77によるPI演算が行われる。この演算結果に対応した二相電圧指令値Vγδ ,Vαβ が三相電圧指令値VUVW に変換される。そして、PWM制御部80の働きによって、その三相電圧指令値VUVW に応じたデューティ比で駆動回路73が動作することによって、モータ61が駆動され、目標電流値Idq ,Iαβ に対応したアシストトルクが舵取り機構63に与えられることになる。こうして、操舵トルクおよび車速に応じて操舵補助を行うことができる。電流検出部71によって検出される三相検出電流IUVWは、座標変換部81,82によって、二相回転座標系(γ−δ)で表された二相検出電流Iγδに変換される。
回転座標系と固定座標系との間での座標変換のためには、ロータ50の回転角(位相角、すなわち電気角)θが必要である。この回転角を表す制御回転角θ^が、レゾルバ62の出力を用いて回転角算出部84で生成される。この制御回転角θ^が、αβ/γδ座標変換部82およびγδ/αβ座標変換部78に与えられるようになっている。
センサ故障判定部85は、レゾルバ62の故障の有無を判定する。たとえば、センサ故障判定部85は、レゾルバ62の信号線62aに導出される信号を監視することによって、レゾルバ62の故障、信号線62aの断線故障、信号線62aの接地故障を検出することができる。
第1〜第3スイッチ91〜93は、センサ故障判定部85による判定結果に応じて切り換わるようになっている。これらのスイッチ91〜93は、ソフトウェア処理によるスイッチ機能であってもよいし、アナログスイッチやリレー等のハードウェアスイッチであってもよい。
センサ故障判定部85がレゾルバ62の故障が生じていないと判定している通常時には、第1スイッチ91はdq軸目標電流値演算部76Aが出力するdq軸目標電流値Idq を選択して偏差演算部83に入力し、第2スイッチ92はαβ/γδ座標変換部82が出力する二相検出電流Iγδを選択して偏差演算部83に入力し、第3スイッチ93はPI制御部77が出力する二相電圧指令値Vγδ をγδ/αβ座標変換部78に入力する。したがって、偏差演算部83は、dq軸目標電流値Idq に対する二相検出電流Iγδの偏差Δdq(=Idq −Iγδ)を求めてPI制御部77に入力する。よって、PI制御部77は、電流偏差Δdqを零に導くように二相電圧指令値Vγδ を演算する。この二相電圧指令値Vγδ がγδ/αβ座標変換部78に入力されて二相電圧指令値Vαβ に座標変換される。
一方、センサ故障判定部85がレゾルバ62の故障が生じていると判定している故障時には、第1スイッチ91はαβ軸目標電流値演算部76Bが出力するαβ軸目標電流値Iαβ を選択して偏差演算部83に入力し、第2スイッチ92はUVW/αβ座標変換部81が出力する二相検出電流Iαβを選択して偏差演算部83に入力し、第3スイッチ93はPI制御部77が出力する二相電圧指令値Vαβ をαβ/UVW座標変換部79に入力する。したがって、偏差演算部83は、αβ軸目標電流値Iαβ に対する二相検出電流Iαβの偏差Δαβ(=Iαβ −Iαβ)を求めてPI制御部77に入力する。よって、PI制御部77は、電流偏差Δαβを零に導くように二相電圧指令値Vαβ を演算する。この二相電圧指令値Vαβ がγδ/αβ座標変換部78を迂回してαβ/UVW座標変換部79に入力される。
図11は、電流制御器としてのPI制御部77における制御の連続性を説明するためのブロック図である。電流制御器(PI制御部77に対応)の前段には、座標変換行列Θ1で表される座標変換部(αβ/γδ座標変換部82に対応)が設けられ、電流制御器の後段には座標変換行列Θ1_invで表される座標変換部(γδ/αβ座標変換部78に対応)が設けられている。3軸→2軸変換部はUVW/αβ座標変換部81に対応し、2軸→3軸座標変換部はαβ/UVW座標変換部79に対応している。
電流制御器は、たとえば、下記式(6)(7)に示す状態方程式による線形表現が可能である。
x1(n+1)=A1・x1(n)+B1・ε(n) ……(6)
u1(n)=C1・x1(n)+D1・ε(n) ……(7)
ただし、x1は、演算特性の切換え(この参考形態では二相電圧指令値Vγδ を演算する状態と二相電圧指令値Vαβ を演算する状態との間の切換え)前の電流制御器の内部状態を表す変数(内部変数)である。また、u1は切換え前の電流制御器の出力である。A1,B1,C1,D1は、切換え前の電流制御器の特性を決める行列である。εは、電流制御器への入力(この参考形態ではΔγδまたはΔαβ)である。
一方、演算特性を切り換えた後の電流制御器が、次式(8)(9)で表されるものとする。
x2(n+1)=A2・x2(n)+B2・ε(n) ……(8)
u1(n)=C2・x2(n)+D2・ε(n) ……(9)
ただし、x2は、切換え後の電流制御器の内部状態を表す変数(内部変数)である。また、u2は切換え後の電流制御器の出力である。A2,B2,C2,D2は、切換え後の電流制御器の特性を決める行列である。
切換えの前後で電圧指令値が連続するためには、切換え時刻nにおいて、次式(10)が成立すればよい。ただし、切換え後における電流制御器の前段および後段の座標変換行列をそれぞれΘ2,Θ2_invと表すものとする。
Θ1_inv×u1(n0)=Θ2_inv×u2(n0) ……(10)
これより、次式(11)のように切換え後の内部変数x2(n0)を決定すればよいことが分かる。
x2(n0)=C2−1×{Θ2_inv −1×Θ1_inv×u1(n0)−D2×Θ2×Θ1−1×ε(n0)} ……(11)
ただし、上付添え字「−1」は、逆行列を表す。モータの2軸を独立に制御したいので、C2、Θ2_inv、Θ1は、いずれも正則である。
図12Aおよび図12Bは、図10に示した構成の場合における第1〜第3スイッチ91〜93の切換え前後の変化を示す図である。図12Aにレゾルバ62が正常なときの構成を示す。この構成は、図10において実線で示すスイッチ91〜93の状態に対応する。また、図12Bにレゾルバ62の故障時の構成を示す。この構成は、図10において破線で示すスイッチ91〜93の状態に対応する。
PI制御部77は、比例要素77aと、積分要素77bと、加算器77cとを含み、比例要素77aおよび積分要素77bでの演算結果が加算器77cで加算されるようになっている。KP1は切換え前の比例ゲイン、KI1は切換え前の積分ゲイン、KP2は切換え後の比例ゲイン、KI2は切換え後の積分ゲインである。切換え前の二相電圧指令値Vαβ (=V)と切換え後の二相電圧指令値Vαβ (=V)とが等しくなるためには、積分要素77bにおける切換え後の内部変数sを次式(12)に従って定めればよい。
=KI2 −1(V−KP2×e) ……(12)
ただし、eは電流誤差(Δαβ=Iαβ −Iαβ)である。
このようにして、電流制御器としてのPI制御部77の出力の連続性を保ちながら、PI制御部77での演算特性を切り換えることができ、レゾルバ62の故障時においても、スムーズに制御内容を変更することができる。すなわち、レゾルバ62が正常なときには、検出される回転角を用いてモータ61の制御を行うことができ、レゾルバ62の故障時には、回転角を用いずに、二相固定座標系での目標電流値Iαβ に従ってモータ61を制御できる。そして、切換えの前後で制御の連続性が保持されるので、切換えに伴って電流制御系やシステム全体に与える悪影響を抑制することができる。
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、回転角センサを備えずに、専らセンサレス制御によってモータ3を駆動する構成について説明したが、レゾルバ等の回転角センサを備え、この回転角センサの故障時に前述のようなセンサレス制御を行う構成としてもよい。これにより、回転角センサの故障時にもモータ3の駆動を継続できるから、操舵補助を継続できる。すなわち、たとえ回転角センサを備えていても、その回転角センサの検出値を用いずにモータを制御する構成が備えられている場合には、この発明の範囲に属する
この場合、回転角センサを用いるときには、指示電流値生成部31において、操舵トルクおよび車速に応じて、所定のアシスト特性に従ってδ軸指示電流値Iδ を発生させるようにすればよい。
回転角センサの出力信号を用いる場合には、ロータ角θが求まるので制御角θを導入する必要がなく、制御角θに従う仮想回転座標系を用いる必要がない。つまり、d軸電流およびq軸電流を制御すればよい。しかし、γδ軸に従って電流制御を行うγδ電流制御部と、dq軸に従って電流制御を行うdq電流制御部との両方を備えると、マイクロコンピュータ11においてプログラムを記憶するためのメモリ(ROM)の多くの領域を使用することになる。そこで、角度変数を共用化することによって、γδ電流制御部とdq電流制御部との共通化を図ることが好ましい。具体的には、共通化した電流制御部の角度変数を、回転角センサが正常なときにはdq座標用角度として用い、回転角センサの故障時にはγδ座標用角度として用いるように切り換えればよい。これにより、メモリの使用量を抑制できるから、それに応じてメモリ容量を削減でき、コストダウンを図ることができる。
さらに、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置にこの発明が適用された例について説明したが、この発明は、電動ポンプ式油圧パワーステアリング装置のためのモータの制御や、パワーステアリング装置以外にも、ステア・バイ・ワイヤ(SBW)システム、可変ギヤレシオ(VGR)ステアリングシステムその他の車両用操舵装置に備えられたブラシレスモータの制御のために用いることができる
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
この明細書および添付図面の記載から抽出され得る特徴を以下に記す。
A1.ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(3)を制御するためのモータ制御装置であって、
制御上の回転角である制御角(θ )に従う回転座標系の軸電流値(I γ )で前記モータを駆動する電流駆動手段(31〜36)と、
所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角(α)を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段(26)と、
前記制御角演算手段の特性を変更するための特性変更手段(21b,30,30A)とを含む、モータ制御装置。
なお、括弧内の英数字は前述の参考形態または実施形態における対応構成要素等を表す。以下同じ。
この構成によれば、制御角に従う回転座標系(γδ座標系。以下「仮想回転座標系」といい、この仮想回転座標系の座標軸を「仮想軸」という。)の軸電流値(以下「仮想軸電流値」という。)によってモータが駆動される一方で、制御角は、演算周期毎に加算角を加算することによって更新される。これにより、制御角を更新しながら、すなわち、仮想回転座標系の座標軸(仮想軸)を更新しながら、仮想軸電流値でモータを駆動することによって、必要なトルクを発生させることができる。こうして、回転角センサを用いることなく、モータから適切なトルクを発生させることができる。前記加算角は、たとえば、モータが発生すべきトルクまたは前記仮想軸電流値に対する前記モータの応答に対応する値とされる。
さらに、上記の構成では、制御角演算手段の特性が特性変更手段によって変更されるようになっている。これにより、状況に応じて制御角の演算特性を変化させることができるので、モータからより適切なトルクを発生させることができる。
A2.前記特性変更手段は、モータの回転角速度に応じて前記特性を変更するものである、A1記載のモータ制御装置。
この構成によれば、モータの回転角速度に応じて制御角の演算特性が変化するので、回転角速度に応じた適切なトルクをモータから発生させることができる。具体的には、回転角速度が大きいほど、モータ発生トルクが小さくなるように制御角演算特性を変化させるようにしてもよい。これにより、たとえば、モータを車両の舵取り機構に転舵力を付与するための駆動源として用いる場合に、操舵速度に応じた力が舵取り機構に与えられるので、操舵時に良好な手応え感が得られ、いわゆるダンピング制御を実現することができる。また、回転角速度が大きいほど応答が鈍くなるように制御角演算特性を変化させてもよい。これにより、素速く操舵したときに良好な手応え感が得られるとともに、操舵角中点付近での収斂性を向上できる。
A3.前記特性変更手段は、モータ電流に応じて前記特性を変更するものである、請求項1記載のモータ制御装置。
この構成によれば、モータ電流に応じて制御角の演算特性が変化するので、モータ電流に応じた適切なトルクをモータから発生させることができる。具体的には、制御角をフィードバック制御(加算角をフィードバック制御)する際のゲインをモータ電流に応じて変化させるようにしてもよい。より具体的には、モータ電流の絶対値が大きいほど、フィードバック制御のゲインを小さくするようにしてもよい。これにより、モータ電流値の変化に応じてゲインを変化させることができるので、制御が振動的になることを抑制して、モータを円滑に駆動することができる。
前記モータ制御装置は、前記加算角を制限するための制限手段(24)をさらに含んでいてもよい。この構成によれば、加算角に適切な制限を加えることによって、実際のロータの回転に比して過大な加算角が制御角に加算されることを抑制できる。より具体的には、ロータの回転速度範囲に対して妥当な範囲内で加算角が設定されるように制限を加えることによって、より適切にモータを制御することができる。
前記制限手段は、たとえば、加算角の絶対値を次式の制限値以下に制限するものであってもよい。ただし、次式における「最大ロータ角速度」とは、電気角でのロータ角速度の最大値である。
制限値=最大ロータ角速度×演算周期
たとえば、モータの回転を所定の減速比の減速機構を介して車両用操舵装置の操舵軸に伝達している場合には、最大ロータ角速度は、最大操舵角速度(操舵軸の最大回転角速度)×減速比×極対数で与えられる。「極対数」とは、ロータが有する磁極対(N極とS極との対)の数である。
前記モータは、車両の舵取り機構(2)に駆動力を付与するものであってもよい。この場合に、前記モータ制御装置が、前記車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクを検出するトルク検出手段(1)と、指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段(21)とをさらに含み、加算角演算手段が、前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクと前記トルク検出手段によって検出される操舵トルクとの偏差に応じて前記加算角を演算するもの(22,23)であることが好ましい。
この構成によれば、指示操舵トルクが設定され、この指示操舵トルクと操舵トルク(検出値)との偏差に応じて前記加算角が演算される。これにより、操舵トルクが当該指示操舵トルクとなるように加算角が定められ、それに応じた制御角が定められることになる。したがって、指示操舵トルクを適切に定めておくことによって、モータから適切な駆動力を発生させて、これを舵取り機構に付与することができる。すなわち、ロータの磁極方向に従う回転座標系(dq座標系)の座標軸と前記仮想軸とのずれ量(負荷角)が指示操舵トルクに応じた値に導かれる。その結果、適切なトルクがモータから発生され、運転者の
操舵意図に応じた駆動力を舵取り機構に付与できる。
操作部材と舵取り機構とが機械的に結合された車両用操舵装置(たとえば、電動パワーステアリング装置)では、仮想軸電流値に対するモータの応答(モータが発生するトルク)は、検出操舵トルクの変化となって現れる。したがって、このような車両用操舵装置においては、検出操舵トルクに応じて加算角を演算することは、仮想軸電流値に対するモータの応答に応じて加算角を演算することになると言うこともできる。
前記モータ制御装置は、前記操作部材の操舵角を検出する操舵角検出手段(4)をさらに含み、前記指示操舵トルク設定手段は、前記操舵角検出手段によって検出される操舵角に応じて指示操舵トルクを設定するものであることが好ましい。この構成によれば、操作部材の操舵角に応じて指示操舵トルクが設定されるので、操舵角に応じた適切なトルクをモータから発生させることができ、運転者が操作部材に加える操舵トルクを操舵角に応じた値へと導くことができる。これにより、良好な操舵感を得ることができる。
前記指示操舵トルク設定手段は、前記車両の車速を検出する車速検出手段(6)によって検出される当該車速に応じて指示操舵トルクを設定するものであってもよい。この構成によれば、車速に応じて指示操舵トルクが設定されるので、いわゆる車速感応制御を行うことができる。その結果、良好な操舵感を実現できる。たとえば、車速が大きいほど、すなわち、高速走行時ほど指示操舵トルクを小さく設定することより、すぐれた操舵感が得
られる。
1…トルクセンサ、3…モータ、4…舵角センサ、5…モータ制御装置、11…マイクロコンピュータ、21…指示操舵トルク設定部、23…PI制御部、26…制御角演算部、33…PWM制御部、50…ロータ、51,52,52…ステータ巻線、55…ステータ

Claims (3)

  1. ロータと、このロータに対向するステータとを備え、車両の舵取り機構に駆動力を付与するためのモータを制御するためのモータ制御装置であって、
    前記車両の操向のために操作される操作部材に加えられる操舵トルクを検出するトルク検出手段と、
    指示操舵トルクを設定する指示操舵トルク設定手段と、
    前記ロータの回転角を検出するための回転角センサの検出値を用いずに演算される制御上の回転角である制御角に従う回転座標系の軸電流値を生成し、この軸電流値で前記モータを駆動する電流駆動手段と、
    所定の演算周期毎に、制御角の前回値に加算角を加算することによって制御角の今回値を求める制御角演算手段と、
    前記指示操舵トルク設定手段によって設定される指示操舵トルクと前記トルク検出手段によって検出される操舵トルクとの偏差に対する比例積分演算を行うことによって前記加算角を演算する加算角演算手段と、
    前記軸電流値に応じて前記比例積分演算におけるゲインを変更することによって、前記制御角演算手段の特性を変更するための特性変更手段と
    を含む、モータ制御装置。
  2. 前記特性変更手段は、さらに、前記モータの回転角速度に応じて前記比例積分演算におけるゲインを変更する、請求項1に記載のモータ制御装置。
  3. 前記特性変更手段は、さらに、前記モータの回転角速度に応じて前記指示操舵トルク設定手段によって設定される前記指示操舵トルクを変更する、請求項1または2に記載のモータ制御装置。
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