JP5660757B2 - Snめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材 - Google Patents

Snめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材 Download PDF

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Description

本発明は、主として嵌合型端子用として用いられる、耐熱信頼性に優れるSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材に関する。
従来、自動車の電装品は自動車室内に設置されていたが、電装化が進み電装品の数が増加してきたため、設置箇所がエンジンルーム内へ移行している。その為、電線の接続に用いられるコネクタの設置箇所もエンジンルーム内へ移行している。自動車等の電線の接続に用いられるコネクタには、銅合金にSnめっきを施したオス端子とメス端子の組み合せからなる嵌合型端子が使用されている。
電装品の設置箇所が室内からエンジンルーム内への移行が進展し、エンジンルームでの雰囲気温度は最大150℃程度に到達するため、端子表面に施されているSnめっき中にCu又はCu合金母材からCu及び合金元素が拡散する。その際、SnめっきとCu又はCu合金母材の界面にカーケンダルボイドが形成され、母材とめっきの界面が剥離し、端子の接触抵抗が増加する問題が顕在化する。接触抵抗が増加すると、電子制御機器の誤作動が懸念される。
一方、自動車の電装化による電装品の小型化、高機能化が進み、コネクタ端子の多極化、小型化が進んでいる。コネクタの多極化が進むと、コネクタを嵌合する際の力(挿入力)が高くなる問題が発生し、挿入力を下げるために、「端子の接圧を低くする」、「接点部を小さくする」や「Snめっき厚さを薄くする」などの工夫を行っている。しかし、これらの工夫は、コネクタ用端子として本来必要とされる電気的信頼性、耐食性、はんだ濡れ性を低下させる、という反面を持っている。
CuとSnの耐熱剥離に関する研究は古くから行われており、非特許文献1では、剥離はカーケンダルボイドによるものであり、母材中のPが影響していることが示され、非特許文献2では、Cu下地めっきの影響に言及しており、Cu下地めっきを0.5〜3.0μm施すと剥離しやすくなり、0.2μm程度で剥離時間を延長させる効果があることが示されている。
非特許文献3では、Cu−Ni−Si系合金にZnを添加することで、カーケンダルボイドを抑制しSnめっきの耐熱剥離性が向上することが示されている。また、特許文献1にも、Cu−Ni−Si系合金に0.1〜2質量%のZnを添加することで、Snめっきの耐熱剥離性が改善することが示されている。一方、非特許文献4では、Znを含有するCu−Ni−Si系合金のはんだめっき(Sn合金めっき)の耐熱剥離性が、溶体化処理を行った材料において溶体化処理を行わないものより低下することが示されている。
また、特許文献2では、母材表面にNiめっき層、Cu−Sn合金層、さらにSnめっき層からなる多層めっき層を形成することにより、材料組成によらず、母材からのCuの拡散をNiめっき層で押さえることで、カーケンダルボイドの発生を抑制し耐熱剥離性の向上を実現している。
伸銅技術研究会誌,24(1985),P.119〜125 伸銅技術研究会誌,25(1986),P.162〜170 伸銅技術研究会誌,26(1987),P.51〜56 銅と銅合金,41(2002),P.299〜304 特開2006−307336号公報 特許第4090302号公報
非特許文献3及び特許文献1に示されるように、Cu−Ni−Si系合金にZnを添加することで、Snめっきの耐熱剥離性が改善されることから、Snめっきの信頼性が必要とされる場合にはCu−Ni−Si系合金にZnを添加している。しかし、非特許文献4に記載されているように、Cu−Ni−Si系合金板材の曲げ加工性を向上させるため、冷間圧延途中で溶体化処理を行った場合、溶体化処理を行わない場合に比べて、Snめっきの耐熱剥離性が低下する。特に、このCu−Ni−Si系合金板材をプレス加工して例えば嵌合型端子を成形し、これを高温雰囲気で長時間使用する場合などに、その耐熱剥離性は十分とはいえなかった。
なお、特許文献2に示されるように、多層めっきにより耐熱剥離性は向上するが、従来には無かったNiめっき層が必要であり、従来使用していた設備をそのまま使用できず、また、Niめっきを追加するためコストアップにつながるという問題がある。
本発明は、Znを含有するCu−Ni−Si系合金板材に関する上記問題点に鑑みてなされたもので、Niめっき層を有することなく、安定して優れた耐熱剥離性を有するSnめっき用Cu−Ni−Si系合金板材を提供することを目的とする。
本発明者らは、溶体化処理したZn含有Cu−Ni−Si系合金板材において、Snめっきの耐熱剥離性が低下する理由について研究を重ねた結果、ZnはCuに比べると酸化しやすい金属であるため、高温での溶体化処理のとき雰囲気より板材に拡散する酸素によって優先的に酸化されやすく、表面近傍の金属状態のZn濃度が極度に薄くなり、このためSnめっき後の板材(母材)のSnめっき層との界面近傍においてカーケンダルボイドの生成を防止するZnが不足し、これによりSnめっきの耐熱剥離性が低下することを見出した。続いて、Zn含有Cu−Ni−Si系合金板材の表面近傍の金属Zn濃度を適正に保つことにより、Snめっきの耐熱剥離性が向上することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜0.9質量%及びZn:0.1〜2.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、再結晶を伴う溶体化処理及び時効処理が施されたSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材において、表面から0.2μmスパッタリングしたときの金属Zn濃度がオージェ電子分光法で0.1質量%以上であることを特徴とする。
上記Cu−Ni−Si系銅合金は、必要に応じて、さらに、(1)Sn:0.05〜2.0質量%、Mg:0.001〜0.2質量%、Mn:0.01〜0.1質量%、及びCr:0.001〜0.1質量%のうち1種以上を、合計で2.0質量%以下含有し、又は/及び(2)Co:0.01〜1.0質量%を含有する。
また、本発明においてSnめっきはSn合金めっきを含む。必要に応じて下地Cuめっきを行うことができる。望ましいSnめっきとしてリフローSnめっき及び光沢Snめっきが挙げられる。
本発明に係るSnめっき用Cu−Ni−Si系合金板材は、Snめっきの耐熱剥離性が優れ、かつ安定している。特にこのSnめっき付き板材をプレス加工して嵌合型端子を成形し、これを高温雰囲気で長時間使用する場合等にも、優れた耐熱剥離性を示す。
以下、本発明に係るSnめっき用Cu−Ni−Si系合金板材について詳細に説明する。(合金組成)
はじめに合金組成について説明する。なお、この組成自体は公知のものである。
Ni;
NiはSiと共に、銅合金の強度及び耐熱性の向上に寄与する元素である。即ち、NiとSiは金属間化合物を形成することにより、銅合金の強度及び耐熱性を向上させる。しかし、Niの含有量が1.0質量%未満では、その効果は少なく、また、Niが4.0質量%を超えて含有されると、強度及び耐熱性は向上するものの、導電率が低下する。また、熱間加工時に割れが発生し、製品にすることが困難な場合がある。従って、Ni含有量は1.0〜4.0質量%とし、望ましくは1.2〜3.5質量%、より望ましくは1.5〜3.3質量%とする。
Si;
前述の如く、SiはNiと共に添加されて、強度及び耐熱性を向上させる元素である。しかし、Si含有量が0.2質量%未満ではその効果は少なく、また、0.9質量%を超えて含有されると、強度及び耐熱性が向上するものの、導電率が低下し、また熱間加工性及び半田の耐剥離性も劣化する。よって、Si含有量は0.2〜0.9質量%とし、望ましくは0.24〜0.8質量%、より望ましくは0.3〜0.7質量%とする。する。
Zn;
ZnはSnめっきの耐剥離性を向上させる元素である。しかし、Zn含有量が0.1質量%未満ではその効果は少なく、また、2.0質量%を超えて添加しても、その効果は飽和する一方、耐熱後のめっき表面が白化する問題点がある。従って、Znの含有量は0.1〜2.0質量%とし、望ましくは0.2〜1.5質量%、より望ましくは0.5〜1.5質量%とする。
Sn,Mg,Mn,Cr
Snは材料強度を向上させる元素である。しかし、Sn含有量が2.0質量%を超えて含有すると導電率が低下するという問題がある。また、少なすぎると強度向上の効果が少ないため、0.05質量%以上含有することが好ましい。従って、Snの含有量は0.05〜2.0質量%とし、望ましくは0.07〜0.3質量%とする。
Mgは材料強度を向上させるだけでなく、耐応力緩和特性を向上させる元素である。しかし、Mg含有量が0.001質量%未満では効果が少なく、0.2質量%を超えて含有すると著しく導電率が低下すという問題がある。従って、Mgの含有量は0.001〜0.2質量%とする。
Mnは熱間加工性を向上させる元素である。しかし、含有量0.1質量%を超えてMnを添加すると、造塊時の湯流れ性が悪化して造塊歩留が低下する。また、添加しなくても熱間加工は可能であるが、0.01質量%以上添加させることで加工性が著しく向上する。従って、Mnの含有量は0.01〜0.1質量%とする。
Crは鋳塊の粒界を強化して、熱間加工性を高める元素である。Crの含有量が0.001質量%未満ではその効果は少なく、また、0.1質量%を超えてCrが含有されると溶湯が酸化し、鋳造性が劣化する。従って、Crの含有量は0.001〜0.1質量%とする。
また、Sn、Mg、Mn、Crを合計で2.0質量%を超えて添加すると導電率が低下するため、これらの合計は2.0質量%以下とする。
Co
CoはNiと同様に、Siと金属間化合物を形成することにより、銅合金の強度及び耐熱性を向上させる。しかし、Coの含有量が0.01質量%未満では、その効果は少なく、また、Coが1.0%を超えて含有されると、強度及び耐熱性は向上するものの、コストが高く、また導電率が低下する。従って、Co含有量は0.01〜1.0質量%とし、望ましくは0.05〜0.5質量%とする。
(表面近傍の金属Zn濃度)
Cu−Ni−Si系合金にZnを添加し、表面から0.2μmスパッタリング時の金属状態のZnをオージェ電子分光法で0.1質量%以上に管理することで、Snめっきの耐熱剥離性が向上することが実験的に確認された。従って、表面から0.2μmスパッタリング時の金属状態のZn濃度は0.1質量%以上とする。望ましくは0.5質量%以上、より望ましくは0.7質量%以上とする。この位置の金属Zn濃度は合金中のZn含有量と同レベル又はそれ以下である。
金属Zn濃度の基準位置を表面から0.2μmの位置とし、その位置での金属状態のZn濃度を上記のとおり規定することで、本発明に係るZn含有Cu−Ni−Si系合金板材は、溶体化処理した従来の一般的なZn含有Cu−Ni−Si系合金板材と明確に区別することができる。
なお、リフローSnめっき材は、Snめっき後のリフロー処理により、銅合金母材とSnめっき層の界面に0.2〜0.5μm程度のCu−Sn合金層を形成する。その際、銅合金母材の表面の約0.1〜0.2μm程度がSnめっき中に拡散してCu−Sn合金層になる(銅合金母材の表面がその分後退する)。光沢Snめっき材はリフロー処理を行わないが、Snめっき組織中へのCuの拡散は通常の金属組織間の拡散に比べて非常に早いため、めっき直後からCu−Sn合金が形成され始め、めっき後常温放置で数日から数週間のうちに同程度にリフローSnめっき材と同程度のCu−Sn合金層が形成される。従って、銅合金母材表面から0.2μmの位置において金属Znが所定濃度で存在していれば、母材のSnめっき層との界面近傍において金属Znが所定濃度で存在することになり、これによりSnめっきの耐熱剥離性が改善されるものと推測される。
(製造方法)
Snめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材は、一般に、Cu−Ni−Si系銅合金鋳塊に対し熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理(650〜900℃)、必要に応じて15〜75%程度の冷間圧延,及び時効処理(350〜550℃)を行なうことで製造される。時効処理前の冷間圧延は、時効処理の効果を高めることから望ましいが、この冷間圧延工程は設けなくてもよい。また、時効処理後の冷間圧延を行う場合には、その後更に歪み取り焼鈍を行ってもよい。なお、この一連の工程自体は公知のものである。
上記溶体化処理は、Ni、Siを固溶させ、圧延組織を再結晶組織とするためであり、溶体化処理温度が650℃未満の場合は、Ni、Siの固溶、及び短時間の加熱により再結晶しないため、強度が向上せず、曲げ加工性が良好とならない。一方、溶体化処理温度が900℃を超えると、再結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が良好とならない。なお、溶体化処理した板材の結晶粒径が5〜30μm程度となるように、前記溶体化処理温度における加熱時間を定めることが望ましい。時効処理は、NiとSiとの金属間化合物を析出させ、材料を析出硬化させるためである。時効処理温度が350℃未満の場合は、この効果が十分でなく、また、550℃を超える場合にはNiとSiとの金属間化合物が粗大化し、強度が低下する。
Snめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材の製造において、従来、溶体化処理の雰囲気ガスとして一般にDXガス(窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素の混合ガス)が用いられていた。これは、雰囲気に少量の酸素が含まれる場合でも、溶体化処理時間が短いため、板材表面が内部酸化することはないと考えられていたからである。ところで、DXガスの露点は一般に5℃程度と高い。溶体化処理温度は高温で行われるため、板材中の元素の拡散速度は急激に増大する。また、雰囲気の露点が高いほど、雰囲気から板材に取り込まれる酸素の濃度が大きくなる。そのため、露点の高いDXガス雰囲気で溶体化処理を行うと、加熱時間が短時間であっても、板材表面近傍のZnが優先的に酸化され、表面近傍の金属Zn濃度が薄くなっていた。なお、溶体化処理において一度薄くなった表面近傍の金属Zn濃度は、以降の工程で回復することはない。
このため、本発明材の溶体化処理では、窒素ガス、還元ガス(水素、窒素の混合ガス)など用いて雰囲気ガスの露点を管理することが重要であり、露点を−20℃以下、好ましくは−40℃以下で管理することが必要である。窒素(100%)ガスの露点は−40℃程度であり、本発明材の溶体化処理に使用できるが、溶体化処理温度が高温であり、Znが若干ではあるが酸化するため、還元ガスを用いることが好ましい。また、仮にDXガスで溶体化処理したため表面のZnが酸化し、表面近傍の金属Zn濃度が0.1質量%未満になった場合でも、化学的又は機械的に金属Zn濃度が希薄な表面層を除去することで同様の効果が得られる。具体的には酸洗時にエッチングしたり、機械的に研磨を行って表面層を除去すればよい。
一方、時効処理の処理温度は溶体化処理に比べて低く、酸素の拡散速度が小さくなるため、雰囲気ガスとしてDXガスを用いても表面近傍の金属Zn濃度はほとんど変化しないが、溶体化処理と同様に露点が−20℃以下の還元ガスを用いることが望ましい。また、時効処理後、冷間圧延した板材に歪み取り焼鈍を行う場合も、同様な理由で露点が−20℃以下の還元ガスを用いることが望ましい。
(Snめっき)
SnめっきがSn合金からなる場合、Sn合金のSn以外の構成成分としては、Pb、Bi、Zn、Ag、Cuなどが挙げられる。Pbについては50質量%未満、他の元素については10質量%未満が望ましい。
Cu−Ni−Si系銅合金の場合、Snめっきの下地としてCuめっきを形成しなくてもめっき皮膜特性には影響しないが、必要に応じてCuめっきを形成しても良い。Cuめっきを形成することにより、めっき前母材の表面状態の影響を軽減することが可能であり、リフロー処理後のめっきムラを軽減し、光沢を良くすることが可能である。Cuめっき厚さは、0.05μm以上形成するとムラ軽減効果が見られる。
表1,2のNo.1〜20に示す組成のCu−Ni−Si系合金鋳塊を半連続鋳造法によって製造し、この鋳塊に対し均熱処理、熱間圧延後急冷、面削、冷間圧延、連続熱処理ラインによる雰囲気ガス中での溶体化処理、硫酸による酸洗(No.1、3〜17、19)又は硫酸+過酸化水素によるエッチングを伴う酸洗(No.2,18)若しくはこれらに加えて機械的な研磨(No.2,3,517,18)、及び冷間圧延を行って厚さ0.25mmの条材とした後、露点が−20〜−50℃の還元雰囲気(H−N雰囲気、H体積比5〜100%)中で時効(析出)処理し、さらに硫酸による酸洗を行った後、所定の材料幅に幅切りを行った。ただし、No.20は熱間圧延中に割れが生じたため、以後の工程を行わなかった。なお、表1,表2において、H−N雰囲気のH体積比は5〜30%、露点は−25〜−50℃、DXガスの露点は5℃である。
一方、No.21〜23は溶体化処理を省き、均熱処理、熱間圧延後急冷、面削、冷間圧延、還元雰囲気中で時効(析出)処理、硫酸による酸洗、及び冷間圧延を行って、厚さ0.25mmの条材とした後、歪み取り焼鈍し、所定の材料幅に幅切りを行った。
Figure 0005660757
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次いで、表1,2に示すSn又はSn合金めっきを施した。No.1〜23のSnめっき厚さは0.9〜1.1μmの範囲内であった(蛍光X線膜厚計(セイコー電子工業株式会社;型式SFT156A)を用いて測定)。また、表1,2に示すCu−Ni−Si系合金の組成は、めっき前の薄板をサンプリングし、ICP−発光分光法で分析した。
溶体化処理の有無及び雰囲気ガスの種類、溶体化処理後の表面処理の種類(○印を付した処理を行った)を表1,2に併せて示し、各工程の温度条件を表3に、エッチングを伴う酸洗及び機械的研磨の条件を表4に、めっき条件を表5に示す。
Figure 0005660757
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めっき前の材料(幅切り後)を用い、下記要領で耐力、導電率、曲げ加工特性、耐応力緩和特性、及び表面から0.2μmエッチング後のZn濃度を測定し、Snめっき後の材料についてSnめっきの耐熱剥離特性を調査した。その結果を表6に示す。
<耐力>板材からL.D.(圧延方向に対して平行)方向にJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に記載の方法に準じて引張試験を行い、応力−歪み曲線を得た。この曲線よりオフセット法で0.2%耐力(永久伸び0.2%)を求めた。
<導電率>JISH0505に記載の方法に準じた。電気抵抗の測定はダブルブリッジを用いた。
<曲げ加工性>板材からT.D.(圧延方向に対して直角)両方向に幅10mmの試験片を採取し、JISH3130に記載の方法に準じ、R=0.125mmにて9.8×10N(1000kgf)の荷重をかけてW曲げを施した。W曲げ試験後、50倍の倍率で光学顕微鏡にて曲げ外側を外観観察して、割れの有無を判定し、割れ無しを○、割れ有りを×で表した。
<応力緩和特性>図1及び図2に示すように、幅10mmの試験片1を片持ち梁式にて、長さ(l)80mmの位置に試験片の耐力の80%の曲げ応力を付加し、応力を付加した状態で150℃で1000時間保持した後応力を除去した。応力を負荷したときの負荷点での試験片のたわみ量(δ:10mm)と応力を除去したときの変位量(ε1)を測定し、次式によって応力緩和率を測定した。各試料から試験片を10個ずつ採取し、それらの測定値の平均値を測定結果として用いた。
応力緩和率(%)=(ε1/δ)×100
なお、曲げ応力(σ)は次式によって算出される。
σ=(3×E×t×δ)/(2×l2
ただし、σ:曲げ応力=試験片の耐力×0.8
E:試験片のヤング率(N/mm2
t:試験片の板厚=0.25mm
<表面から0.2μmエッチング後のZn濃度>
めっき前試料をアセトン中で超音波脱脂した後、FE−AES(電界放射型オージェ電子分光装置)により、Cu、Ni、Si、Zn、C、Oの深さ方向分析を行った。Znについては、各測定点の分析チャートより金属ZnとZn酸化物を分離した濃度プロファイルデータを作成し、金属Zn濃度を求めた。金属Zn濃度プロファイルの一例(No.1,4)を図3に示す。図3に示すように、溶体化処理を従来のDXガスで行ったNo.4は、表面近傍の金属Zn濃度が低下し、一方、N−Hガスで行ったNo.1は表面近傍の金属Zn濃度が低下していない。
FE−AES測定条件は次の通りである。
・装置:電界放射型オージェ電子分光装置(PHI−670:PHI社製)
・Beam:10eV,415.5nA
・Ar sput.(3000eV,60s/cycle),rate:20.0nm/min
<Snめっきの耐熱剥離性>
幅10mm、長さ30mmの試験片を0.5mmRで90°曲げた後、160℃オーブン中で下記所定の時間加熱した後、平板に曲げ戻し、曲げ部においてめっきの剥離の有無を実体顕微鏡(40倍)で観察した。曲げ戻し及び観察は120hr、250hr、500hr、1000hr加熱後に行い、120hr加熱後剥離しないものを合格とし、剥離が観察されなかった最も長い加熱時間を表6に記載した。また、120hr加熱後剥離したものに×標記した。
なお、この試験では、一般的なSnめっき付きCu−Ni−Si系銅合金板材の実際の使用形態(プレス加工して例えば嵌合型端子を成形し、これを高温雰囲気で長時間使用する)に即して、試験片に対し加熱前に曲げ加工を行い、所定時間加熱後に曲げ戻しを行っている。この試験方法では、Snめっきに曲げによるせん断歪みが入った状態で加熱を行うので、実際の使用形態に即しているだけでなく、通常の耐熱剥離試験(平板のまま加熱し、加熱後曲げ及び曲げ戻しを行う)に比べて、より厳しい条件での試験ということができる。
Figure 0005660757
表1,2に示すように、No.1,6,7,9〜12,14〜16、19は、合金中のZn含有量が規定範囲内で、溶体化処理をN−Hガスで行っているため表面近傍の金属Zn濃度が低下せず、いずれも0.2μmエッチング後の金属Zn濃度が0.1%以上となっている。No.2,3,5,17,18は、合金中のZn含有量が規定範囲内で、溶体化処理はDXガスで行っているが、このうちNo.3,5,17は金属Zn濃度が低下した表面層を研磨により除去し、No.2,18は酸洗時に硫酸に過酸化水素を加えて金属Zn濃度が低下した表面層をエッチングし、さらに研磨により表面層を除去しているため、いずれも0.2μmエッチング後の金属Zn濃度が0.1%以上となっている。No.21,22は、合金中のZn含有量が規定範囲内で、溶体化処理を行っていないため、表面近傍の金属Zn濃度が低下せず、いずれも0.2μmエッチング後の金属Zn濃度が0.1%以上となっている。
その結果、No.1〜3,5〜7,9〜12,14〜19,21,22は、160℃×120hr加熱後でもめっき剥離が発生せず耐熱剥離性に優れている。特に0.2μmエッチング後の金属Zn濃度が高いNo.2,11は耐熱剥離性に優れ、さらに金属Zn濃度が高いNo.1,5,6,9.10,14〜16,18,19,21はさらに耐熱剥離性が優れる。
ただし、No.6は合金中のZn含有量が過剰のため、耐熱後めっき面が白化し、No.16は合金中のNi含有量が少ないため、強化元素であるCoを添加しても相応の強度が得られず、No.18は合金中のNi,Si含有量が少ないため強度が不足し、No.21,22は溶体化処理を行っていないため、曲げ加工性が劣り、いずれも端子材料には不向きである。
一方、No.4,13は、合金中のZn含有量が規定範囲内であるが、溶体化処理をDXガスで行っているため表面近傍の金属Zn濃度が低下し、No.8,23は合金中のZn含有量が少なく、いずれも0.2μmエッチング後の金属Zn濃度が0.1%未満となっている。その結果、No.4,8,13,23は、160℃×120hr加熱後にめっき剥離が発生し耐熱剥離性に劣る。
応力緩和 特性を評価する方法を説明するための斜視図である。 その側面図である。 実施例のNo.1とNo.4の板材について、金属Zn濃度と表面からの深さの関係を示すグラフである。
符号の説明
1 試験片

Claims (7)

  1. Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜0.9質量%及びZn:0.7〜2.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、再結晶を伴う溶体化処理及び時効処理が施されたCu−Ni−Si系銅合金板材において、表面から0.2μmスパッタリングしたときの金属Zn濃度がオージェ電子分光法で0.7質量%以上であることを特徴とするSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材。
  2. さらにMn:0.01〜0.1質量%、Cr:0.001〜0.1質量%のうち1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載されたSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材。
  3. さらにSn:0.05〜2.0質量%、Mg:0.001〜0.2質量%のうち1種又は2種を、Sn、Mg、Mn、Crの含有量の合計が2.0質量%以下となるように含有することを特徴とする請求項2に記載されたSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板材。
  4. さらにCo:0.01〜1.0質量%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板。
  5. さらにSn:0.05〜2.0質量%、Mg:0.001〜0.2質量%のうち1種又は2種と、Co:0.01〜1.0質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載されたSnめっき用Cu−Ni−Si系銅合金板。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載されたCu−Ni−Si系銅合金板材を母材とし、母材表面にリフローSnめっきが形成されためっき付きCu−Ni−Si系銅合金板材。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載されたCu−Ni−Si系銅合金板材を母材とし、母材表面に光沢Snめっきが形成されためっき付きCu−Ni−Si系銅合金板材。
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