JP5655627B2 - 耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼 - Google Patents

耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用懸架ばねの材料などに好適に用いることができる耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼に関するものである。
自動車や産業機械の高性能化、軽量化に伴って、自動車用懸架ばねの高強度化や、耐遅れ破壊特性および耐腐食疲労破壊特性の向上が求められている。しかし、一般に、ばねの強度が高くなるにつれて、耐水素脆化特性が劣化して耐遅れ破壊特性および耐腐食疲労破壊特性が劣化する。水素脆化は、ばねの表面に施された塗装の損傷などにより、表面に腐食が生じ、腐食を起点として孔食が発生し、孔食から侵入した水素が鋼を脆化させることによって生じる。
従来、ばね鋼およびばねの耐水素脆化特性を向上させる技術としては、大型介在物の個数、あるいは大型介在物の体積率を制御する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、旧オーステナイト結晶粒を従来よりも大幅に微細化することによって高強度化による延性、靭性、耐遅れ破壊特性の低下を防止する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平10−1746号公報 特開2004−143482号公報
しかしながら、従来の技術では、高強度ばね用鋼の耐水素脆化特性が不十分であるため、耐遅れ破壊特性および耐腐食疲労破壊特性が不十分であった。このため、高い強度を有し、なおかつ、優れた耐水素脆化特性を有する高強度ばね用鋼を提供することが要求されていた。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、高強度で優れた耐水素脆化特性を有する高強度ばね用鋼を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した。その結果、高強度ばね用鋼の表面におけるMnのミクロ偏析が大きいと、環境から侵入した水素に起因する水素脆化(遅れ破壊、腐食疲労、内部疲労破壊)が生じやすいことを見出した。特に、Mnのミクロ偏析によって硬化した部分では、遅れ破壊および疲労破壊が生じ易くなる。これは、ばねの焼入れ・焼戻し後、Mnのミクロ偏析部の硬さが周辺に比べて高くなり、同時に、粒界を脆化させるPもMnのミクロ偏析部に偏析しており、水素の影響を非常に受けやすくなっているためであると考えられる。
また、非拡散性水素量の増加によって、介在物を起点として生じる内部疲労破壊の頻度が増加することから、内部疲労破壊は介在物以外に非拡散性水素も影響することが明確になった。すなわち、ばね鋼に繰り返し応力が負荷された場合は、拡散性水素に起因する遅れ破壊や腐食疲労に加えて、介在物の近傍にトラップされた非拡散性水素による内部疲労破壊が発生することがわかった。
次に、本発明者は、高強度ばねの表面に発生する、水素の侵入する孔食について調べ、通常、孔食の深さは100μm〜200μmの範囲であることを確認した。本発明者は、更に検討を進め、孔食の深さに比べて十分に深い位置、具体的には高強度ばね用鋼の表面から1mmまでの深さにおけるMnのミクロ偏析を低減させることで、遅れ破壊および腐食疲労を抑制できることを見出した。
更に、Mnがミクロ偏析した部分では、オーステナイトが安定になるため変態温度が低下し、非拡散性水素量が増加しやすくなる。このため、Mnのミクロ偏析を低減させることが、非拡散性水素に起因する内部疲労破壊の防止にも有効であることを見出した。
そこで、本発明者は、高強度ばね用鋼の表面から1mmまでの深さにおけるMnのミクロ偏析を低減させるべく、検討を重ねた。その結果、所定成分からなり、表面から1mmまでの深さにおけるMnの最大濃度と最小濃度の比(以下、Mnミクロ偏析度)が1.5以下であり、更に非拡散性水素量が0.3ppm未満の高強度ばね用鋼とすることで、高い強度を有する高強度ばね用鋼であっても、表面におけるMnのミクロ偏析を十分に低減でき、優れた耐水素脆化特性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)熱間圧延線材に焼入れ処理及び焼戻し処理を施して製造される引張強さが1800MPa以上の高強度ばね用鋼であって、質量%で、C:0.40〜0.65%、Si:1.8〜3.0%、Mn:0.1〜0.5%、P:0.010%以下、S:0.015%以下、Cr:0.5%以下、V:0.01〜0.5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるとともに、表面から1mmまでの深さにおけるMnの最大濃度と最小濃度の比が1.5以下であり、非拡散性水素量が0.3ppm未満であることを特徴とする耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
(2) 質量%で、Mo:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜0.5%、B:0.0001〜0.005%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
(3) 質量%で、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.07%、Zr:0.001〜0.07%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
本発明の高強度ばね用鋼は、所定成分からなり、表面から1mmまでの深さにおけるMnミクロ偏析度が1.5以下であり、更に非拡散性水素量が0.3ppm未満であるので、引張強さが1800MPa以上の高い強度を有し、なおかつ、鋼の表面におけるMnのミクロ偏析を十分に低減でき、優れた耐水素脆化特性が得られる。
したがって、本発明の高強度ばね用鋼は、自動車用懸架ばねの材料として好適に用いることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の高強度ばね用鋼の成分について説明する。
本発明の高強度ばね用鋼は、質量%で、C:0.40〜0.65%、Si:1.8〜3.0%、Mn:0.1〜0.5%、P:0.010%以下、S:0.015%以下、Cr:0.5%以下、V:0.01〜0.5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものである。
C:Cは強度を得るために必要な元素であるため0.40%以上含有させる。しかし、0.65%を超えてCを含有させると靭性が低下する。このため、Cの含有量を0.40〜0.65%の範囲にする。Cの含有量の好適範囲は0.45〜0.60%である。
Si:Siは高強度ばね用鋼の強度やへたり特性を高めるために有効な元素であるので1.8%以上含有させる。しかし、3.0%を超えてSiを含有させると圧延や熱処理時の脱炭が助長されて、疲労特性が低下する。このためSiの含有量を1.8〜3.0%の範囲にする。Siの含有量の好ましい下限は2.0%、好ましい上限は2.8%である。
Mn:Mnは焼入れ性を向上するのに有効な元素であるとともに高強度ばね用鋼中のSをMnSとして固定することによって熱間脆性を防止する効果があるため0.1%以上含有させる。しかし、0.5%を超えてMnを含有させると、Mnのミクロ偏析を助長して、表面から1mmまでの深さにおけるMnミクロ偏析度を大きくするため、耐水素脆化特性が不十分になるとともに、靭性が低下する。このため、Mnの含有量を0.1〜0.5%の範囲にする。Mnの含有量の好ましい下限は0.2%、好ましい上限は0.45%である。
また、本発明の高強度ばね用鋼は、表面から1mmまでの深さにおけるMnミクロ偏析度が1.5以下であるものである。上記の比が1.5を超えると、高強度ばね用鋼の表面におけるMnのミクロ偏析が大きくなり、耐水素脆化特性が不十分となる。Mnミクロ偏析度の好適範囲は、1.25以下である。高強度ばね用鋼のMnミクロ偏析度を低減するには、熱間圧延前に鋼片のMnのミクロ偏析を抑制しておくことが必要である。
P:PはMnの偏析部に共偏析して粒界を脆化させ、耐水素脆化特性を顕著に低下させる効果があるので含有量を0.010%以下に制限する必要があり、極力含有量を少なくすることが好ましい。Pの含有量の好適範囲は0.008%以下である。
S:Sは旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、耐水素脆化特性を顕著に低下させる効果があるので0.015%以下に制限する必要があり、極力含有量を少なくすることが好ましい。Sの含有量の好適範囲は0.010%以下である。
Cr:Crは焼入れ性を向上するのに有効な元素であり、かつ高強度ばね用鋼に焼戻し軟化抵抗を付与する効果があるため0.01%以上が含有されていてもよいが、含有量が0.5%を超えると、高強度ばね用鋼に侵入する水素が多くなり、耐水素脆化特性、特に疲労破壊特性が不十分となるので0.5%以下にする必要がある。Crの含有量の好適範囲は0.45%未満であり、0.40%以下がより好ましい。
V:Vは高強度ばね用鋼中での水素の拡散・集積を抑制して、耐水素脆化特性を向上させるとともに、高強度ばね用鋼のへたり特性を高めるために有効な元素であるので0.01%以上含有させる。しかし、0.5%を超えてVを含有させると、非拡散性水素量が増加し、疲労特性が劣化する。このため、Vの含有量を0.01〜0.5%の範囲にする。Vの含有量の好ましい下限は0.05%、より好ましい下限は0.10%である。Vの含有量の好ましい上限は0.4%、より好ましい上限は0.35%である。
また、本発明の高強度ばね用鋼は、質量%で、Mo:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜0.5%、B:0.0001〜0.005%の1種又は2種以上を含有していてもよい。
Mo:Moは焼入れ性を向上するのに有効な元素であり、かつ焼戻し時に微細な炭化物として析出することによって高強度ばね用鋼に強度を付与する効果があるため0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、1.0%を超えてMoを含有させてもその効果は飽和するため、1.0%以下含有させることが好ましい。したがって、Moの含有量は0.01〜1.0%であることが好ましい。Moの含有量のより好ましい下限は0.15%、より好ましい上限は0.5%である。
Ni:Niは焼入れ性を向上するのに有効な元素であり、かつ高強度ばね用鋼の靭性や耐食性を向上する効果があるため0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、1.0%を超えてNiを含有させると残留オーステナイト量が増加し、高強度ばね用鋼の強度が低下するため1.0%以下含有させることが好ましい。したがって、Niの含有量は0.01〜1.0%にすることが好ましい。Niの含有量のより好ましい下限な0.15%、より好ましい上限は0.5%である。
Cu:Cuは高強度ばね用鋼の耐食性を向上する効果があるため0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、0.5%を超えてCuを含有させると、熱間延性が低下し、熱間圧延時の割れ、疵の発生を助長し、高強度ばね用鋼の製造性を損なうため0.5%以下含有させることが好ましい。したがって、Cuの含有量は0.01〜0.5%であることが好ましい。Cuの含有量のより好ましい下限は0.15%、より好ましい上限は0.3%である。
B:Bは高強度ばね用鋼の焼入れ性を向上するのに有効な元素であるため0.0001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.005%を超えてBを含有させると、高強度ばね用鋼の靭性が低下するため0.005%以下含有させることが好ましい。したがって、Bの含有量は0.0001〜0.005%にすることが好ましい。Bの含有量のより好ましい下限は0.0015%、より好ましい上限は0.003%である。
さらに、本発明の高強度ばね用鋼は、質量%で、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.07%、Zr:0.001〜0.07%の1種又は2種以上を含有していてもよい。
Al:Alは脱酸および結晶粒の微細化に有効な元素であるため、0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.1%を超えてAlを含有させると、高強度ばね用鋼中にアルミナ系の介在物が多く生成されて、介在物に起因する疲労破壊が生じやすくなる。このため、Alの含有量を0.001〜0.1%にすることが好ましい。Alの含有量のより好ましい下限は0.005%、より好ましい上限は0.03%である。
Ti:Tiの含有量は、高強度ばね用鋼中の結晶粒内および粒界に微細な介在物である炭窒化物を析出し、介在物が水素脆性の原因となる水素をトラップして耐水素脆化特性を向上させるとともに、靭性およびへたり特性を向上させるため0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.05%を超えてTiを含有させると、炭窒化物の大きさが大きくなるとともに炭窒化物の個数が多くなり、炭窒化物に起因する疲労破壊が生じやすくなるため0.05%以下含有させることが好ましい。したがって、Tiの含有量は0.001〜0.05%にすることが好ましい。Tiの含有量のより好ましい下限は0.005%、より好ましい上限は0.02%である。
Nb:Nbは高強度ばね用鋼中の結晶粒の微細化に有効な元素であるため0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.07%を超えてNbを含有させてもその効果は飽和するため0.07%以下含有させることが好ましい。したがって、Nbの含有量は0.001〜0.07%にすることが好ましい。Nbの含有量のより好ましい下限は0.005%、より好ましい上限は0.02%である。
Zr:ZrはSと結合してZrSあるいはZrSを主成分とする硫化物を生成し、耐水素脆化特性を向上させる効果がある。更に、結晶粒の微細化に有効な元素であるため0.001%以上含有させることが好ましい。しかし、0.07%を超えてZrを含有させてもその効果は飽和するため0.07%以下含有させることが好ましい。したがって、Zrの含有量は0.001〜0.07%にすることが好ましい。Zrの含有量のより好ましい下限は0.005%、より好ましい上限は0.02%である。
NおよびOは不可避的不純物であり、特に上限は規定しない。
ただし、Nが過剰に含まれる場合、ばね用鋼の靭性が低下し、冷間でのばね成形時に折損が起こり易くなることがあるため、上限を制限することが好ましい。N量の好ましい上限は0.01%、より好ましい上限は0.007%、更に好ましい上限は0.0050%である。
また、O量が増加すると、介在物量が増加し、内部疲労破壊が起こり易くなることがあるため、O量も上限を制限することが好ましい。O量の好ましい上限は0.005%、より好ましい上限は0.003%、更に好ましい上限は0.002%である。
また、本発明の高強度ばね用鋼は、非拡散性水素量が0.3ppm未満のものであることが好ましい。非拡散性水素は、高強度ばね用鋼中の結晶粒内および粒界に存在する介在物にトラップされている水素であり、介在物を起点に発生する内部疲労破壊を促進するものである。非拡散性水素量が0.3ppm未満である場合、より一層優れた耐水素脆化特性が得られるとともに、優れた内部疲労破壊特性が得られる。より好適な非拡散性水素量は、0.2ppm未満である。非拡散性水素量は、製鋼時の脱ガス処理、介在物のサイズおよび数の低減、連続鋳造時の冷却速度の低下、熱間圧延の加熱温度の上昇、保持時間の増加、熱間圧延後の冷却速度の低下、焼戻し温度の上昇、等によって低減することができる。
次に、本発明の高強度ばね用鋼の製造方法について説明する。
本発明の高強度ばね用鋼を製造するには、上記の化学成分を有する鋼を溶製し、鋳造して鋼片とする工程と、鋼片を熱間圧延して冷却し、熱間圧延線材とする工程と、熱間圧延線材を焼入れ・焼戻しする工程とを行う。鋳造後の鋼片の断面のサイズが大きい場合には、熱間圧延の前に熱間加工(分塊圧延)を実施し、断面のサイズを調整してもよい。
本発明の高強度ばね用鋼のMnミクロ偏析度を1.5以下にするには、熱間圧延前に鋼片のMnのミクロ偏析度を1.8以下に低減しておくことが必要である。鋼片のMnミクロ偏析度が1.8を超えると、最適な熱間圧延を行っても熱間圧延後のMnミクロ偏析度を1.5以下にすることが困難になる。Mnミクロ偏析度が1.8以下の鋼片を製造する方法として、以下のX、Yの一方または両方の処理を行うことが好ましい。
X:連続鋳造時に電磁撹拌または軽圧下、若しくは両方の処理を行う。
Y:鋼片に1100℃以上で3時間以上保持する均熱処理を行う。均熱処理の好ましい温度は1200℃以上、好ましい保持時間は5時間以上、より好ましくは10時間以上である。均熱処理温度の好ましい上限は、加熱炉の能力や損傷を考慮すると、1300℃以下である。均熱処理の保持時間の上限は特に制限されるものではないが、生産性の観点から、30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。
また、熱間圧延は、真歪みで圧下率が4以上となるように行う。圧下率を上記範囲とすることで、表面から1mmまでの深さにおけるMnミクロ偏析度を1.5以下とすることができる。ここで、真歪みは、ln(鋼片の断面積/熱間圧延線材の断面積)である(lnは自然対数)。圧下率が上記範囲未満であると、Mnミクロ偏析度を1.5以下に制御することが困難となる。
また、本発明の高強度ばね用鋼の非拡散性水素量を0.3ppm未満とするには、以下のA〜Fのうち、2以上の方法を行うことが好ましい。
A:製鋼時の溶鋼中の水素量を脱ガス処理によって2.5ppm以下に低減する。より好ましくは、2.0ppm以下に低減する。
B:MnS、Al、SiOなど硫化物、酸化物およびこれらの複合の介在物サイズの低減および介在物数を低減する。特に好ましい条件は介在物サイズの低減であり、最大厚みを30μm以下にする。介在物サイズおよび介在物数を低減するためには、Sが0.01%以下、Oが0.0030%以下にすることが好ましい条件である。
C:連続鋳造時の凝固後の冷却速度を低下させる。特に、800〜400℃の平均冷却速度を300℃/時間未満とするのが好ましい条件である。
D:熱間圧延の際の鋼片加熱温度を高温にし、更に加熱保持時間を長くする。好ましい条件は、加熱温度が1100℃以上、保持時間が30分以上である。加熱温度及び保持時間の好ましい上限は、組織の粗大化を抑制するという観点から、それぞれ、1250℃以下及び2時間以下である。
E:熱間圧延後の鋼材の冷却速度を低下させる。特に、パーライト変態後の冷却速度、具体的には500〜100℃の平均冷却速度を10℃/秒以下とする。
F:焼入れ後の焼戻し温度を450℃以上にする。
「実施例」
以下に示す製造方法により、No.1〜No.33の高強度ばね用鋼を製造し、以下に示すように評価した。
すなわち、鋼片は表1に示す化学成分を有する鋼(S1〜S27)を溶製し、表2に示す製造条件で、鋼片の製造、熱間圧延を行うことにより熱間圧延線材とした後、焼入れ・焼戻し処理を行って、No.1〜No.33の高強度ばね用鋼を製造した。焼入れ温度は975℃、焼戻し温度は350〜480℃で行い、引張強さを調整した。
なお、表2に示す製造条件に示す、X、Yは、上述したMnミクロ偏析度が1.8以下の鋼片を製造する処理であり、A〜Fは、上述した高強度ばね用鋼の非拡散性水素量を0.3ppm未満とする方法である。
Figure 0005655627
Figure 0005655627
このようにして得られたNo.1〜No.33の高強度ばね用鋼について、以下に示す方法により鋼片および高強度ばね用鋼の「表面から1mmまでの深さにおけるMnの偏析度(Mnミクロ偏析度)」「非拡散性水素量」を求め、表2に示した。更に、以下に示す方法により「耐水素脆化特性」「内部疲労破壊特性」を評価した。その結果を引張強さとともに表3に示す。なお、冷間でのばね成形を行って、折損が発生した高強度ばね用鋼については、「耐水素脆化特性」及び「内部疲労破壊特性」の評価を行わなかった。
Figure 0005655627
表面から1mmまでの深さにおけるMnの偏析度の測定方法は、以下の通りである。熱間圧延線材を用いて、焼入れ・焼戻し処理したばね用鋼を長手方向に切断、鏡面研磨を行い、Mnミクロ偏析度の調査用試料を作製した。調査用試料を用いて、表層部から1mmの深さまでMnのライン分析を行い、Mnの定量分析を行った。分析に用いた機器は、X線マイクロアナライザーである。なお、最表層部はMnの分析が困難なため、より詳細には、表層部から0.1〜1.0mmまでの範囲をライン分析した。ライン分析は3箇所で測定し、ライン分析で得られたMn濃度の最大値と最小値を求め、その比をMnミクロ偏析度とした。
なお、鋼片のMnミクロ偏析度は、鋼片表層部から0.1〜20mmまでの深さまで3箇所のライン分析を行い、ライン分析で得られたMn濃度の最大値と最小値を求め、その比をMnミクロ偏析度とした。
非拡散性水素量の測定方法は、以下の通りである。熱間圧延後に焼入れ・焼戻しを行った試料を100mmに切断し、鋼材表層のスケールをエメリー紙で除去した後、ガスクロマトグラフを用いた昇温水素分析装置で測定する。より具体的には、
(i)鋼材を室温から800℃まで100℃/hrの昇温速度で加熱し、鋼材から放出される水素量を測定し、
(ii)上記(i)で昇温した鋼材を昇温水素分析装置内で室温まで冷却し、再び、室温から800℃まで100℃/hrの昇温速度で加熱し、放出される水素量、すなわち、「バックグラウンドの水素量」を測定し、
(iii)上記(i)の水素量から上記(ii)の水素量を引いた値を鋼材中に含まれる「非拡散性水素量」として求めた。
耐水素脆化特性は、試験片に水素チャージを行って、耐遅れ破壊特性と耐腐食疲労特性について評価を行った。
遅れ破壊試験は、焼入れ・焼戻し後に孔食を模擬するために応力集中係数が3.5の円周切欠き遅れ破壊試験片を用いて行った。遅れ破壊試験片に陰極水素チャージで0.5ppmの拡散性水素をチャージし、その後、引張破断荷重さ×0.3の定荷重を付与して、遅れ破壊試験を行った。10本の遅れ破壊試験を行い、遅れ破壊しない場合、耐遅れ破壊特性は良好(○印)であると判定した。1本でも遅れ破壊が起きた場合は、耐遅れ破壊特性が不良(×印)であると判定した。
疲労特性は、遅れ破壊試験と同様に、焼入れ・焼戻し後に孔食を模擬するために応力集中係数が3.5の切欠き疲労試験片を作製し、最大繰返し数107回の疲労限度σを求めた。また、切欠き疲労試験片に陰極水素チャージで0.5ppmの拡散性水素をチャージし、最大繰返し数107回の疲労限度σHを求めた。σとσHの比(=σH/σ)が0.9以上であれば、疲労における耐水素脆化特性が良好であると判定した。
内部疲労損傷特性の評価は、以下の条件で行った。焼入れ・焼戻し後に平滑の疲労試験片を製作し、疲労試験を行った。疲労試験で繰返し数が10回の条件での疲労限度を求めた。疲労限度が引張強さの0.4以上であれば、内部疲労損傷特性が良好であると判定した。
表3に示すように、本発明例であるNo.1〜No.17では、引張強さが1800MPa以上の高強度ばね用鋼になっており、表2に示すように、Mnミクロ偏析度は1.5以下、非拡散性水素量は0.3ppm未満となっている。この結果、表3に示すように、耐遅れ破壊特性および疲労特性が良好であり、優れた耐水素脆化特性を有する高強度ばね用鋼が実現できている。更に、内部疲労破壊特性に対しても良好な高強度ばね用鋼になっている。
これに対して、本発明の比較例であるNo.18〜No.29は、いずれも化学成分が不適切な例である。すなわち、No.18、19は、いずれもSi含有量が低すぎるために、焼入れ・焼戻し処理の引張強さが1800MPaに到達しなかった例である。No.20、21は、いずれもMnの含有量が多すぎてMnミクロ偏析度が高くなり、これに伴い、非拡散性水素量が増加し、耐水素脆化特性および内部疲労破壊特性が劣化した例である。
No.22はS含有量が多すぎ、No.23はP含有量が多すぎて、いずれも耐水素脆化特性が劣化した例である。No.24はMn含有量およびP含有量が多すぎたため、Mnミクロ偏析度および非拡散性水素量が高くなり、耐水素脆化特性および内部疲労破壊特性が悪化した例である。
No.25はCr含有量が多すぎたために、耐水素脆化特性の疲労破壊特性が低下した例である。No.26はV含有量が多すぎたために、非拡散性水素量が増加し、内部疲労破壊特性が劣化した例である。No.27はSi含有量が多すぎたために、熱間圧延と焼入れ・焼戻し処理の製造工程で著しい脱炭が生じた。この結果、介在物を起点とした内部疲労破壊は生じなかったものの疲労破壊特性が劣化した例である。
No.28は、鋳造時に電磁撹拌及び軽圧下を行わず、鋼片に均熱処理を施さなかった例であり、鋼片のMnミクロ偏析度が高くなっている。この結果,ばね用鋼のMnミクロ偏析度が高くなり、耐水素脆化特性および内部疲労破壊特性が低下している。No.29は、熱間圧延の圧下率が低すぎたためにMnミクロ偏析度が高くなり、耐水素脆化特性および内部疲労破壊特性が劣化した例である。
No.30は,Mnの含有量が低すぎるため、No.31はCの含有量が低すぎるために、引張強さが低下した例である。No.32はCの含有量が高すぎるために靭性が低下し、この結果、冷間でのばね成形時に折損が発生した例である。No.33はVの添加量が低すぎるために、耐水素脆化特性が向上しなかった例である。

Claims (3)

  1. 熱間圧延線材に焼入れ処理及び焼戻し処理を施して製造される引張強さが1800MPa以上の高強度ばね用鋼であって、質量%で、
    C:0.40〜0.65%、
    Si:1.8〜3.0%、
    Mn:0.1〜0.5%、
    P:0.010%以下、
    S:0.015%以下、
    Cr:0.5%以下、
    V:0.01〜0.5%、
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるとともに、表面から1mmまでの深さにおけるMnの最大濃度と最小濃度の比が1.5以下であり、非拡散性水素量が0.3ppm未満であることを特徴とする耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
  2. 質量%で、
    Mo:0.01〜1.0%、
    Ni:0.01〜1.0%、
    Cu:0.01〜0.5%、
    B:0.0001〜0.005%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
  3. 質量%で、
    Al:0.001〜0.1%、
    Ti:0.001〜0.05%、
    Nb:0.001〜0.07%、
    Zr:0.001〜0.07%
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼。
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