以下、測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
最初に、測定装置1の構成について、図面を参照して説明する。
図1に示す測定装置1は、クランプセンサ2、電圧注入部3、第1信号生成部4、第2信号生成部5、電流検出部6、処理部7および出力部8を備え、測定対象回路9の抵抗(ループ抵抗)Rの純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを測定値として測定可能に構成されている。
クランプセンサ2は、一例として、図1に示すように、測定対象回路9に装着可能(クランプ可能)に構成された注入クランプ11および検出クランプ12を備えている。
注入クランプ11は、図1に示すように、分割可能に構成された環状のコア11a、並びにこのコア11aに巻回された注入コイル11b(既知のターン数:N1)および帰還コイル11cを備え、コア11aが分割されることで測定対象回路9に装着可能となっている。検出クランプ12は、図1に示すように、分割可能に構成された環状のコア12a、およびこのコア12aに巻回された検出コイル12b(既知のターン数:N2)を備え、コア12aが分割されることで測定対象回路9に装着可能となっている。また、注入クランプ11および検出クランプ12では、測定対象回路9の一部を構成する配線9aに装着された際(クランプされた)に、この配線9aは、各コア11a,12aにおいて1ターンの巻線として機能する。
電圧注入部3は、一例として、原信号生成部21、位相シフト部(90°位相シフト)22、電力増幅部23およびフィードバック部24を備えて構成されている。原信号生成部21は、一例として、階段波生成部21aおよびフィルタ21b(本例では一例としてローパスフィルタ(以下、「LPF21b」ともいう))を備え、交流電圧(交流原信号)Vaを生成して出力する。具体的には、階段波生成部21aは、所定周期T(周波数f)の三角波信号Vtを生成して出力する。この三角波信号Vtは、階段波の一例であって、同図に示すように、基準クロックCLKの周期Tcで段階的(ステップ的)に振幅が変化しつつ、全体として振幅が一定の三角波の形状となるアナログ信号である。
このような階段波生成部21aは、一例として、基準クロックCLKに同期して、アップカウント動作およびダウンカウント動作の一方を選択的に実行可能なカウンタと、このカウンタに対してアップカウント動作およびダウンカウント動作を繰り返し実行させるためのフリップフロップと、カウンタの各カウンタ出力端子から出力されるカウント値に基づいて階段波を生成するD/A変換回路と、階段波に含まれる直流成分をカットするコンデンサ(いずれも図示せず)とを備えて構成されている。LPF21bは、三角波信号Vtを入力してその基本周波数成分(周波数f)以下の周波数を通過させ、基本周波数成分(周波数f)を超える周波数成分(高調波成分)を除去することにより、交流電圧(本例では、一例として擬似正弦波電圧)Vaに変換して出力する。なお、フィルタ21bとして、上記したLPFに代えて、三角波信号Vtを入力してその基本周波数成分(周波数f)を主として通過させ、それ以外の周波数成分を減衰させることにより(基本周波数成分を選択的に通過させることにより)、交流電圧(擬似正弦波電圧)Vaに変換して出力するバンドパスフィルタ(以下、「BPF」ともいう)を使用することもできる。
位相シフト部22は、一例として、交流電圧(擬似正弦波電圧)Vaを入力すると共に予め決められた位相分だけ波形をシフトして出力する位相シフト回路(不図示)を2系統備え、各位相シフト回路での位相のシフト量の差が90°に規定されて構成されている。この構成により、位相シフト部22は、互いの位相が90°相違する(互いの位相が直交する)2種類の交流信号(本例では、一例として正弦波電圧)Va1,Va2を生成して出力する。本例では、一例として、新たな交流原信号としての正弦波電圧Va1の位相が、正弦波電圧Va2の位相に対して90°進んでいるものとする。
電力増幅部23は、本例では一例としてD級アンプとして構成されて、交流原信号としての正弦波電圧Va1をフィードバック部24によって制御される増幅率で増幅して予め規定された電圧値(本例では電圧実効値)の交流電圧(本例では一例として正弦波電圧(具体的には、擬似正弦波電圧))V1を生成すると共に、生成した正弦波電圧V1を注入クランプ11の注入コイル11bに印加する。図示はしないが、電力増幅部23は、一例として、一定周波数の鋸歯状信号を生成する信号発生回路と、この鋸歯状信号と正弦波電圧Va1とを比較して、正弦波電圧Va1の振幅に比例してパルス幅(デューティ比)が変化する所定周期のパルス信号(PWM信号)を生成するPWM信号生成回路と、このPWM信号を電力増幅するD級電力増幅回路と、D級電力増幅回路からの出力信号に対してフィルタリング処理することで正弦波電圧V1を生成するローパスフィルタ回路とで構成されている。
フィードバック部24は、帰還コイル11cに誘起される電圧V2を検出しつつ、この電圧V2が予め規定された電圧(一定の電圧)となるように、電力増幅部23の増幅率を制御する。この構成により、電力増幅部23は、正弦波電圧Va1の入力レベルや、環状のコア11aの接合具合が多少変化したとしても、常に一定の電圧値の正弦波電圧V1を生成可能となっている。
これにより、注入クランプ11を介して測定対象回路9に所定の周波数fで、かつ所定の電圧実効値の検査用交流信号Voが注入される。この場合、上記したように配線9aがコア11aにおいて1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路9に注入される検査用交流信号Voは、その電圧値が正弦波電圧V1をターン数N1で除算して得られる電圧値(Vo=V1/N1)となる。検出クランプ12は、コア12aにおいて配線9aが1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路9に流れる交流電流Ioを検出して、その検出コイル12bに検出電流(検出コイルに流れる電流)I1(=Io/N2)を出力する。
第1信号生成部4は、図1に示すように、一例として、コンパレータ4aおよびフリップフロップ(本例では一例として、D型フリップフロップ(「D型FF」ともいう))4bを備え、正弦波電圧Va1の基本波と同一周期で、かつ正弦波電圧Va1の基本波に同期した第1信号S1を生成して出力する。この第1信号生成部4では、まず、コンパレータ4aが、正弦波電圧Va1と基準電圧(ゼロボルト)とを比較することにより、正弦波電圧Va1のゼロクロスで極性が反転し、かつデューティ比が0.5の矩形波信号(一例として、正弦波電圧Va1が正のときに電圧がハイレベルとなり、負のときにゼロボルトとなる二値化信号)を出力する。次いで、D型FF4bが、この矩形波信号を基準クロックCLKに同期してサンプリングすることにより、コンパレータ4aでのコンパレート時にばらついた矩形波信号の立ち上がりおよび立ち下がりを基準クロックCLKに同期させると共に、矩形波信号に含まれている基準クロックCLKと非同期のノイズ成分を除去して(矩形波に整形して)、第1信号S1として出力する。
第2信号生成部5は、図1に示すように、コンパレータ5aおよびD型FF5bを備え、第1信号生成部4と同一の回路に構成されている。この第2信号生成部5では、コンパレータ5aが、正弦波電圧Va2と基準電圧(ゼロボルト)とを比較することにより、コンパレータ4aと同様にして、正弦波電圧Va2のゼロクロスで極性が反転し、かつデューティ比が0.5の矩形波信号を出力し、D型FF5bが、この矩形波信号を基準クロックCLKに同期してサンプリングすることにより、第2信号S2として出力する。
電流検出部6は、I−V変換(電流電圧変換)部31、反転部32、第1切替部33、第2切替部34および直流増幅部35を備え、交流電流Ioの実数成分の振幅に応じて振幅が変化する第1検出信号(検出信号)Vd1、および交流電流Ioの虚数成分の振幅に応じて振幅が変化する第2検出信号(検出信号)Vd2を出力する。この場合、I−V変換部31は、検出コイル12bの一端に接続されて、この一端に発生する検出電流I1を電流検出信号Vb1に変換して出力する。反転部32は、電流検出信号Vb1を入力すると共に極性を反転させて(言い換えれば、位相を180°シフトさせて)、反転検出信号Vb2として出力する。
第1切替部33は、図1,2に示すように、電流検出信号Vb1および反転検出信号Vb2を入力すると共に、これらの信号Vb1,Vb2のうちのいずれか一方を第1信号S1のレベルに基づいて選択して出力する(選択的に出力する)。一例として、第1切替部33は、図2に示すように、切替スイッチ(アナログスイッチ)で構成されて、第1信号S1がハイレベルのときには電流検出信号Vb1を出力し、第1信号S1がゼロボルトのときには反転検出信号Vb2を出力する。第1切替部33は、このように動作することにより、等価的に電流検出信号Vb1を第1信号S1で同期検波して、検波信号Vc1として出力する。
第2切替部34も、図1,2に示すように、第1切替部33と同様にして、電流検出信号Vb1および反転検出信号Vb2を入力すると共に、これらの信号Vb1,Vb2のうちのいずれか一方を第2信号S2のレベルに基づいて選択して出力する(選択的に出力する)。一例として、第2切替部34も第1切替部33と同様にして、図2に示すように、切替スイッチ(アナログスイッチ)で構成されて、第2信号S2がハイレベルのときには電流検出信号Vb1を出力し、第2信号S2がゼロボルトのときには反転検出信号Vb2を出力する。第2切替部34は、このように動作することにより、等価的に電流検出信号Vb1を第2信号S2(第1信号S1と位相が直交する信号)で同期検波して、検波信号Vc2として出力する。
この場合、注入コイル11bに印加される正弦波電圧V1と同位相となる正弦波電圧Va1から生成された第1信号S1に基づいて第1切替部33が同期検波して出力する検波信号Vc1は、測定対象回路9の抵抗Rの純抵抗成分Rrによって規制される電流(つまり、交流電流Ioの実数成分)の振幅に応じて振幅が変化する信号となる。一方、注入コイル11bに印加される正弦波電圧V1に対して位相が90°相違する(本例では90°遅れた)正弦波電圧Va2から生成された第2信号S2に基づいて第2切替部34が同期検波して出力する検波信号Vc2は、測定対象回路9の抵抗Rのリアクタンス成分Rxによって規制される電流(つまり、交流電流Ioの虚数成分)の振幅に応じて振幅が変化する信号となる。
直流増幅部35は、不図示の直流増幅回路を2系統有し、各検波信号Vc1,Vc2を入力すると共に各直流増幅回路において同じ増幅率でそれぞれ増幅して、第1検出信号Vd1,Vd2として処理部7へ出力する。
処理部7は、A/D変換部7a、CPU7bおよびメモリ(図示せず)を備えて構成されている。この場合、A/D変換部7aは、A/D変換回路を2系統有し、第1検出信号Vd1,Vd2を入力すると共に、各A/D変換回路においてデジタルデータDi1,Di2にそれぞれ変換して出力する。この場合、上記したように、検波信号Vc1は、交流電流Ioの実数成分の振幅に応じて振幅が変化する信号である。このため、検波信号Vc1を増幅して生成される第1検出信号Vd1についてのデジタルデータDi1は、交流電流Ioの実数成分の振幅(電流値)を示すデータ(以下、「電流データDi1」ともいう)となる。また、上記したように、検波信号Vc2は、交流電流Ioの虚数成分の振幅に応じて振幅が変化する信号である。このため、検波信号Vc2を増幅して生成される第2検出信号Vd2についてのデジタルデータDi2は、交流電流Ioの虚数成分の振幅(電流値)を示すデータ(以下、「電流データDi2」ともいう)となる。CPU7bは、基準クロックCLKを生成して出力する機能を有すると共に、抵抗値算出処理、比算出処理および測定値算出処理を実行する。出力部8は、一例として、モニタ装置などの表示部で構成されて、測定値算出処理の結果を表示する。
次に、測定装置1による測定対象回路9の測定値(純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rx)についての測定動作について説明する。
この測定装置1では、処理部7は、まず、基準クロックCLKの出力を開始する。この基準クロックCLKは、階段波生成部21a、および各信号生成部4,5の各D型FF4b,5bに出力される。これにより、電圧注入部3では、階段波生成部21aが、基準クロックCLKに同期した三角波信号Vtの生成および出力を開始し、LPF21bが三角波信号Vtを正弦波電圧(交流電圧)Vaに変換する。次いで、位相シフト部22が、この交流電圧Vaに基づいて、互いの位相が直交する(位相が90°相違する)正弦波電圧Va1,Va2の生成を開始する。本例では、正弦波電圧Va1は、その位相が正弦波電圧Va2の位相に対して90°進んでいる。
電力増幅部23は、D級増幅動作を行って、入力した正弦波電圧Va1を正弦波電圧V1に増幅して、注入クランプ11の注入コイル11bに印加する。この際に、フィードバック部24が、注入コイル11bへの正弦波電圧Va1の印加に起因して帰還コイル11cに誘起される電圧V2を検出しつつ、この電圧V2が予め規定された電圧(一定の電圧)となるように、電力増幅部23の増幅率を制御する。このため、電力増幅部23は、一定の電圧値の正弦波電圧V1を生成して注入コイル11bに印加する。これにより、注入クランプ11から測定対象回路9に検査用交流信号Vo(周波数f)が注入され、測定対象回路9には、検査用交流信号Voの注入に起因して、周波数fの交流電流Ioが流れる。
一方、第1信号生成部4では、コンパレータ4aが、正弦波電圧Va1と基準電圧とを比較することにより、正弦波電圧Va1のゼロクロスで極性が反転する矩形波信号の生成を開始し、D型FF4bが、この矩形波信号を基準クロックCLKに同期させて第1信号S1として出力する処理を開始する。また、第2信号生成部5では、コンパレータ5aが、正弦波電圧Va2と基準電圧とを比較することにより、正弦波電圧Va2のゼロクロスで極性が反転する矩形波信号の生成を開始し、D型FF4bが、この矩形波信号を基準クロックCLKに同期させて第2信号S2として出力する処理を開始する。これにより、各信号生成部4,5から電流検出部6の各切替部33,34に対して第1信号S1および第2信号S2基準信号Srの供給が開始される。
この場合、正弦波電圧Va1は、電力増幅部23において正弦波電圧V1に増幅されるため、この正弦波電圧V1と位相が一致している。したがって、第1信号生成部4において、この正弦波電圧Va1から生成される第1信号S1は、図3に示すように、正弦波電圧V1と位相が一致した状態となっている。一方、第2信号生成部5において、正弦波電圧Va1に対して位相が直交する(本例では位相が90°遅れている)正弦波電圧Va2から生成される第2信号S2は、同図に示すように、第1信号S1に対して(つまり、正弦波電圧V1に対して)位相が90°遅れた状態となっている。
この周波数fの検査用交流信号Voが測定対象回路9に注入されている状態において、電流検出部6は、交流電流Ioを検出して電流データDi1,Di2を生成する処理を実行する。具体的には、電流検出部6では、検出クランプ12が、測定対象回路9に流れる交流電流Ioを検出して、その検出コイル12bから検出電流I1を出力し、I−V変換部31が、この検出電流I1を電流検出信号Vb1に変換して出力する。また、反転部32が、電流検出信号Vb1を入力して、その極性を反転させて(位相を180°シフトさせて)、反転検出信号Vb2として出力する。この場合、測定対象回路9の抵抗Rは、上記したように、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを含んでいる。このため、電力増幅部23から注入クランプ11に印加される正弦波電圧V1と、この正弦波電圧V1に起因して測定対象回路9に流れる交流電流Ioとの間に位相差θが生じており、この結果、正弦波電圧V1と、交流電流Ioに起因して発生する検出電流I1、さらにはこの検出電流I1から生成される電流検出信号Vb1との間にも、図3に示すように位相差θが生じた状態となっている。
次いで、第1切替部33が、電流検出信号Vb1および反転検出信号Vb2を第1信号S1に同期して切り替えて出力することにより(電流検出信号Vb1を第1信号S1で同期検波することにより)、検波信号Vc1を出力し、また第2切替部34が、電流検出信号Vb1および反転検出信号Vb2を第2信号S2に同期して切り替えて出力することにより(電流検出信号Vb1を第2信号S2で同期検波することにより)、検波信号Vc2を出力する(図3参照)。また、直流増幅部35が、各検波信号Vc1,Vc2を入力すると共に増幅して、第1検出信号Vd1,Vd2として出力する。
続いて、処理部7(具体的には、A/D変換部7a)が、第1検出信号Vd1,Vd2を入力すると共に、これらを電流データDi1,Di2にそれぞれ変換して出力する。この場合、上記したように、電流データDi1は、交流電流Ioの実数成分の振幅(電流値)を示すデータであり、電流データDi2は、交流電流Ioの虚数成分の振幅(電流値)を示すデータとなる。
続いて、処理部7(具体的には、CPU7b)は、測定対象回路9の測定値(抵抗Rの純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rx)を算出する算出処理を実行する。具体的には、この算出処理において、処理部7は、最初に、測定対象回路9の抵抗Rの絶対値(測定対象回路9のインピーダンスZの絶対値|Z|)を算出する抵抗値算出処理を実行する。
この抵抗値算出処理では、処理部7は、まず、電流データDi1に基づいて検出電流I1の電流値(実数成分の電流値)を算出し、この算出した電流値と検出コイル12bのターン数(N2)とに基づいて交流電流Ioの電流値(実数成分の電流値Ior(以下、単に「実数成分Ior」ともいう))を算出する。また、処理部7は、電流データDi2に基づいて検出電流I1の電流値(虚数成分の電流値)を算出し、この算出した電流値と検出コイル12bのターン数(N2)とに基づいて交流電流Ioの電流値(虚数成分の電流値Iox(以下、単に「虚数成分Iox」ともいう))を算出する。
続いて、処理部7は、算出した実数成分Iorおよび虚数成分Ioxに基づいて、交流電流Ioの絶対値を算出する。この場合、処理部7は、実数成分Iorおよび虚数成分Ioxをそれぞれ二乗して加算し、この加算した値の平方根を算出することにより、交流電流Ioの絶対値(|Io|)を算出する。
次いで、処理部7は、交流電圧V1の電圧実効値(上記したように既知)および注入コイル11bのターン数(N1)に基づいて検査用交流信号Vxの電圧実効値を算出し、最後に、この算出した検査用交流信号Vxの電圧実効値を上記の交流電流Ioの絶対値(|Io|)で除算することにより、測定対象回路9のインピーダンスの絶対値|Z|を算出する。
続いて、処理部7は、比算出処理を実行する。この比算出処理では、処理部7は、上記の抵抗値算出処理において算出した実数成分Iorおよび虚数成分Ioxに基づいて、実数成分Iorおよび虚数成分Ioxのうちの一方に対する他方の比の値Aを算出する。本例では一例として、実数成分Iorを単位量とした虚数成分Ioxの大きさ(Iox/Ior)を比の値Aとして算出する。また、処理部7は、この比の値Aに基づいて、位相角θ(=arctan(A))を算出する。この位相角θは、測定対象回路9に注入された検査用交流信号Voと、この検査用交流信号Voに起因して測定対象回路9に流れる交流電流Ioとの位相角(位相差)でもある。
最後に、処理部7は、測定値算出処理を実行する。ここで、上記したように、算出したインピーダンスの絶対値|Z|と、測定対象回路9の抵抗Rの純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxとの間には、Rr2+Rx2=|Z|2との関係式(1)が成り立っている。また、この純抵抗成分Rrとリアクタンス成分Rxとの間には、上記した比の値Aを用いて、Rx=Rr×Aの関係式(2)が成り立っている。このため、各関係式(1),(2)に基づいて純抵抗成分Rrは、(|Z|2/(1+A2))の平方根として算出される。したがって、この測定値算出処理では、処理部7は、算出した測定対象回路9のインピーダンスの絶対値(|Z|)と比の値Aとに基づいて(|Z|2/(1+A2))の平方根を算出することにより、測定対象回路9の抵抗Rの純抵抗成分Rrを算出し、またこの算出した純抵抗成分Rrを上記関係式(2)に代入することにより、測定対象回路9の抵抗Rのリアクタンス成分Rxを算出して、これらを測定値として、出力部8に出力させる(本例では一例として表示させる)。これにより、処理部7による測定対象回路9の測定値(抵抗Rの純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rx)の算出処理が完了する。
なお、虚数成分Ioxを単位量とした実数成分Iorの大きさ(Ior/Iox)を比の値Aとして算出する構成を採用したときには、上記の関係式(2)は、Rr=Rx×Aとなることから、測定値算出処理では、処理部7は、インピーダンスの絶対値(|Z|)と比の値Aとに基づいて(|Z|2/(1+A2))の平方根を算出することにより、測定対象回路9の抵抗Rのリアクタンス成分Rxを算出し、またこの算出したリアクタンス成分Rxをこの関係式(2)(Rr=Rx×A)に代入することにより、測定対象回路9の抵抗Rの純抵抗成分Rrを算出する。
このように、この測定装置1によれば、電流検出部6が、注入クランプ11の注入コイル11bから出力される電流検出信号Vb1を、正弦波電圧V1と同位相の第1信号S1を用いて同期検波することにより、交流電流Ioの実数成分Iorの振幅に応じて振幅が変化する第1検出信号Vd1を出力すると共に、電流検出信号Vb1を第1信号S1と位相が直交する第2信号S2を用いて同期検波することにより、交流電流Ioの虚数成分Ioxの振幅に応じて振幅が変化する第2検出信号Vd2を出力し、処理部7が、この各検出信号Vd1,Vd2に基づいて、抵抗値算出処理、比算出処理および測定値算出処理を実行することにより、測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを分離して算出することができる。
また、この測定装置1では、電圧注入部3の位相シフト部22が、原信号生成部21から出力される正弦波電圧Vaに基づいて、位相が互いに直交する2つの正弦波電圧Va1および正弦波電圧Va2を生成すると共に、電力増幅部23が正弦波電圧Va1を正弦波電圧V1に増幅して注入コイル11bに印加し、第1信号生成部4が正弦波電圧V1と同位相の正弦波電圧Va1に基づいて第1信号S1を生成し、第2信号生成部5が正弦波電圧Va2に基づいて第2信号S2を生成する。
したがって、この測定装置1によれば、位相シフト部22が、測定装置1の内部に配設されて外部からの影響を受けにくい原信号生成部21から出力される正弦波電圧Vaに基づいて両正弦波電圧Va1,Va2を生成することができる。このため、この測定装置1によれば、両正弦波電圧Va1,Va2に基づいて生成される第1信号S1および第2信号S2の位相差を安定して90°に維持できる結果、第1切替部33および第2切替部34が、交流電流Ioの実数成分Iorの振幅に応じて振幅が変化する第1検出信号Vd1および交流電流Ioの虚数成分Ioxの振幅に応じて振幅が変化する第2検出信号Vd2を同期検波によって高い精度で出力することができるため、処理部7が、精度の高い各検出信号Vd1,Vd2に基づいて測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを高精度で算出することができる。
また、この測定装置1によれば、第1信号生成部4および第2信号生成部5が第1信号S1および第2信号S2を矩形波に整形してそれぞれ出力する構成を採用したことにより、電流検出部6において、電流検出信号Vb1および反転検出信号Vb2のいずれか一方を選択的に出力する第1切替部33および第2切替部34を用いて、電流検出信号Vb1に基づき第1検出信号Vd1および第2検出信号Vd2を同期検波で検出できるため、例えば、第1切替部33および第2切替部34をアナログスイッチを用いて構成することができる結果、電流検出部6の構成を簡略化することができる。
なお、上記の測定装置1では、上記したように、第1信号S1および第2信号S2の位相差が安定して90°に維持されるように、位相シフト部22が正弦波電圧Vaに基づいて互いの位相差が90°となる2つの正弦波電圧Va1,Va2を生成する構成を採用しているが、図4に示す測定装置1Aのように、入力した信号を基準として位相が90°相違する信号を生成して出力する位相シフト部22Aを備えた構成を採用することもできる。以下、この測定装置1Aについて説明する。なお、位相シフト部22に代えて位相シフト部22Aを有する点においてのみ測定装置1と相違し、他の構成要素については測定装置1と同一であるため、測定装置1と同一の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
この測定装置1Aは、クランプセンサ2、電圧注入部3A、第1信号生成部4、第2信号生成部5、電流検出部6、処理部7および出力部8を備えて構成されている。この場合、電圧注入部3Aは、測定装置1の電圧注入部3と比較して、原信号生成部21から電力増幅部23に対して正弦波電圧Vaを直接出力する構成、位相シフト部22に代えて位相シフト部22Aを備え、この位相シフト部22Aが電力増幅部23から注入コイル11bに印加される正弦波電圧V1を入力すると共にこの正弦波電圧V1を基準として位相が90°相違する信号を生成して正弦波電圧Va2として第2信号生成部5に出力する構成、および第1信号生成部4が正弦波電圧V1を正弦波電圧Va1に代えて入力して、第1信号S1を生成する構成において相違している。
この測定装置1Aにおいても、測定装置1と同様にして、電流検出部6が、注入クランプ11の注入コイル11bから出力される電流検出信号Vb1を、正弦波電圧V1と同位相の第1信号S1を用いて同期検波することにより、交流電流Ioの実数成分Iorの振幅に応じて振幅が変化する第1検出信号Vd1を出力すると共に、電流検出信号Vb1を第1信号S1と位相が直交する第2信号S2を用いて同期検波することにより、交流電流Ioの虚数成分Ioxの振幅に応じて振幅が変化する第2検出信号Vd2を出力し、処理部7が、この各検出信号Vd1,Vd2に基づいて、抵抗値算出処理、比算出処理および測定値算出処理を実行することにより、測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを分離して算出することができる。
また、上記の各測定装置1,1Aでは、電流検出部6に反転部32を設ける構成を採用して、第1切替部33および第2切替部34が、電流検出信号Vb1と、反転部32から出力される反転検出信号Vb2(電流検出信号Vb1と極性(位相)が反転する信号)とを、各第1信号S1および第2信号S2に基づいて切り替えて出力する(つまり全波整流する)ことにより、同期検波の出力である各検波信号Vc1,Vc2のレベルを高めることで、同期検波の精度をより高め得る好ましい構成としているが、図5に示す電流検出部6Aのように、反転部32を設けずに、第1切替部33および第2切替部34に対して、反転検出信号Vb2に代えて、基準電位(グランド電位)を入力する構成を採用することもできる。
この図5の構成を採用した電流検出部6Aでは、図5,6に示すように、第1切替部33が、第1信号S1の1周期中に電流検出信号Vb1を半周期分だけ出力する(つまり半波整流する)ことで検波信号Vc1を生成し、第2切替部34も同様にして、第2信号S2の1周期中に電流検出信号Vb1を半周期分だけ出力する(つまり半波整流する)ことで検波信号Vc2を生成する。したがって、上記した電流検出部6と比較して、検波信号Vc1,Vc2のレベルは半分に低下するものの、検波信号Vc1は交流電流Ioの実数成分Iorの振幅に応じて振幅が変化する信号であり、検波信号Vc2は交流電流Ioの虚数成分Ioxの振幅に応じて振幅が変化する信号であるため、処理部7が、各検波信号Vc1,Vc2から生成される各検出信号Vd1,Vd2に基づいて、抵抗値算出処理、比算出処理および測定値算出処理を実行することにより、測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxを分離して算出することができる。
また、上記の構成では、同期検波によって各検波信号Vc1,Vc2を生成する同期検波回路を第1切替部33および第2切替部34を用いて簡易に構成するため、第1信号生成部4および第2信号生成部5が矩形波である第1信号S1および第2信号S2を生成して出力する構成を採用しているが、乗算器を用いた同期検波によっても各検波信号Vc1,Vc2を生成することができる。この乗算器を用いる構成においては、第1信号生成部4および第2信号生成部5に入力していた各アナログ信号(例えば、位相シフト部22を採用する測定装置1では正弦波電圧Va1,Va2、位相シフト部22Aを採用する測定装置1Aでは正弦波電圧V1および正弦波電圧Va2)を、第1切替部33および第2切替部34に代えてそれぞれ配設した乗算器に対して直接出力する構成とすることができ、第1信号生成部4および第2信号生成部5の配設を省くことができる。また、測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxの双方を測定する構成について上記したが、このうちのいずれか一方のみを測定する構成を採用することもできる。また、測定対象回路9の純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxの双方を測定する構成においては、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxに基づいて、測定対象回路9のインピーダンスの絶対値|Z|を算出して、出力部8に出力することもできる。
また、算出したインピーダンスの絶対値|Z|などを出力する構成(具体的には表示する構成)として、出力部8は、一例として図7または図8に示す構成(表示部としての構成)を採用することができる。以下、この構成の出力部8を有する測定装置1B,1Cについて説明する。なお、上記した測定装置1,1Aの構成と同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図7に示す構成を備えた出力部8を有する測定装置1Bは、図1において破線で示すように、測定装置1の構成に加えて、操作部41を備えている。この操作部41は、例えば、タッチパネルやキーボードやマウスなどを備えて構成されて、出力部8に表示させる表示内容を選択するための選択信号Sseを操作内容に応じて生成して、処理部7(具体的には、CPU7b)に出力する。処理部7は、この選択信号Sseを入力したときには、この選択信号Sseで指定される表示内容を出力部8に表示させる。
表示部として構成された出力部8は、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)を用いて構成されて、図7に示すように、数値表示領域51、第1記号表示領域52および位相状態表示領域53を備えている。この場合、数値表示領域51は、予め規定された桁数(同図では一例として4桁)の数字を、小数点用の記号(ドット)および単位記号(「Ω」)と共に表示可能に構成されている。この数値表示領域51には、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちのいずれか1つが選択されて表示される。第1記号表示領域52には、数値表示領域51に表示されている表示内容(数値の意味)を示す記号として、インピーダンスの絶対値|Z|を示す記号「|Z|」、純抵抗成分Rrを示す記号「R」およびリアクタンス成分Rxを示す記号「x」のうちのいずれか1つが表示される。位相状態表示領域53には、純抵抗成分Rrに対するリアクタンス成分Rxの位相状態(具体的には、位相角の状態)を示す記号として、コイルの記号およびコンデンサの記号のうちのいずれか一方が選択されて表示される。
この測定装置1Bでは、操作部41に対する操作により、例えば、操作部41がインピーダンスの絶対値|Z|を表示内容として選択する旨の選択信号Sseを生成して処理部7に出力し、処理部7がこの選択信号Sseを入力したときには、処理部7は、算出したインピーダンスの絶対値|Z|を測定値として、単位記号(「Ω」)と共に出力部8の数値表示領域51に表示させる。また、処理部7は、数値表示領域51に表示させているインピーダンスの絶対値|Z|に対応した記号「|Z|」のみを第1記号表示領域52に表示させる。
また、操作部41に対する操作により、例えば、操作部41が純抵抗成分Rrを表示内容として選択する旨の選択信号Sseを生成して処理部7に出力し、処理部7がこの選択信号Sseを入力したときには、処理部7は、算出した純抵抗成分Rrを測定値として、単位記号(「Ω」)と共に出力部8の数値表示領域51に表示させる。また、処理部7は、数値表示領域51に表示させている純抵抗成分Rrに対応した記号「R」のみを第1記号表示領域52に表示させる。
また、操作部41に対する操作により、例えば、操作部41がリアクタンス成分Rxを表示内容として選択する旨の選択信号Sseを生成して処理部7に出力し、処理部7がこの選択信号Sseを入力したときには、処理部7は、算出したリアクタンス成分Rxを測定値として、単位記号(「Ω」)と共に出力部8の数値表示領域51に表示させる。また、処理部7は、数値表示領域51に表示させているリアクタンス成分Rxに対応した記号「x」のみを第1記号表示領域52に表示させる。
また、測定対象回路9の抵抗Rの純抵抗成分Rrが小さい場合には、測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが相対的に大きくなる(支配的になる)結果、純抵抗成分Rrについての測定誤差が大きくなる。このため、この測定装置1Bでは、処理部7は、算出した位相角θが予め規定された角度範囲外のときには、リアクタンス成分Rxが支配的であるとして、コイルの記号およびコンデンサの記号のうちのいずれか一方を位相状態表示領域53に表示させる。本例では、位相角θに対する角度範囲として、一例として、+45°以下−45°以上の範囲が規定されており、処理部7は、位相角θが+45°を超えて角度範囲を外れたときには、支配的となっている測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが誘導性リアクタンス成分であることを示すコイルの記号を位相状態表示領域53に表示させる。一方、処理部7は、位相角θが−45°を下回って角度範囲を外れたときには、支配的となっている測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが容量性リアクタンス成分であることを示すコンデンサの記号を位相状態表示領域53に表示させる。
なお、位相角θと比の値Aとの間には、上記したように、位相角θ=arctan(A)の関係が成り立っている。このため、上記したリアクタンス成分Rxが支配的であるか否かの判別については、位相角θに代えて、比の値Aを用いて判別する構成を採用することもできる。この構成の測定装置1Bでは、処理部7は、算出した比の値Aが予め規定された基準範囲外のときには、リアクタンス成分Rxが支配的であるとして、コイルの記号およびコンデンサの記号のうちのいずれか一方を位相状態表示領域53に表示させる。この例では、比の値A(=Rx/Rr)に対する基準範囲として、一例として、+1以下−1以上の範囲(上記した位相角θについての+45°以下−45°以上の範囲に対応する範囲)が規定されており、処理部7は、比の値Aが+1を超えて基準範囲を外れたときには、支配的となっている測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが誘導性リアクタンス成分であることを示すコイルの記号を位相状態表示領域53に表示させる。一方、処理部7は、比の値Aが−1を下回って基準範囲を外れたときには、支配的となっている測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが容量性リアクタンス成分であることを示すコンデンサの記号を位相状態表示領域53に表示させる。
このように、この測定装置1Bによれば、ユーザは操作部41を操作することにより、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちから所望の測定値(パラメータ)を選択して出力部8に表示させて、確認することができる。また、この測定装置1Bによれば、算出した位相角θが予め規定された角度範囲外となったとき(または、算出した比の値Aが予め規定された基準範囲外となったとき)に、出力部8に測定対象回路9のリアクタンス成分Rxが相対的に大きくなって(支配的になって)いることを示す記号(コイルの記号またはコンデンサの記号)が表示されるため、ユーザに対して、出力部8に表示されている純抵抗成分Rrについて誤差が大きくなっていること、つまり確度が低下していることを報知することができる。なお、位相角θが角度範囲外であるか否かを判断する手法として、位相角θの絶対値と角度範囲とを比較する手法を採用することもできる。この場合、上記の例では角度範囲は+45°以下0°以上として規定する。また、比の値Aが基準範囲外であるか否かを判断する手法として、比の値Aの絶対値と基準範囲とを比較する手法を採用することもできる。この場合、上記の例では基準範囲は+1以下0以上として規定する。
次に、図8に示す構成を備えた出力部8を有する測定装置1Cについて説明する。なお、上記した測定装置1Bと同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
表示部として構成された出力部8は、一例としてLCD(Liquid Crystal Display)を用いて構成されて、図8に示すように、主数値表示領域としての数値表示領域51、第1記号表示領域52、位相状態表示領域53、副数値表示領域54、単位表示領域55および第2記号表示領域56を備えている。この場合、数値表示領域51は、その表示面積が副数値表示領域54の表示面積よりも大きくなるように構成されて、より大きな数字を表示し得るように構成されている。また、測定装置1Bと同様にして、数値表示領域51には、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちのいずれか1つが選択されて表示され、第1記号表示領域52には、インピーダンスの絶対値|Z|を示す記号「|Z|」、純抵抗成分Rrを示す記号「R」およびリアクタンス成分Rxを示す記号「x」のうちのいずれか1つが表示され、位相状態表示領域53には、コイルの記号およびコンデンサの記号のうちのいずれか一方が選択されて表示される。
一方、副数値表示領域54は、予め規定された桁数(同図では一例として4桁)の数字を、小数点用の記号(ドット)と共に表示可能に構成されている。この副数値表示領域54には、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rr、リアクタンス成分Rx、インダクタンスL、キャパシタンスCおよび位相角θのうちのいずれか1つが選択されて表示される。単位表示領域55には、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxの単位を示す記号「Ω」と、インダクタンスLの単位を示す記号「mH」と、キャパシタンスCの端子を示す記号「μF」と、位相角θの単位を示す記号「°」のうちのいずれか1つが表示される。第2記号表示領域56には第1記号表示領域52と同様にして、インピーダンスの絶対値|Z|を示す記号「|Z|」、純抵抗成分Rrを示す記号「R」およびリアクタンス成分Rxを示す記号「x」のうちのいずれか1つが表示される。
この測定装置1Cでは、操作部41に対する操作により、操作部41が処理部7に対して、数値表示領域51の表示内容を選択すると共に、副数値表示領域54の表示内容を選択する旨の選択信号Sseを生成して出力する。本例では一例として、操作部41は、操作部41に対する操作により、図9に示す組み合わせのうちの任意の1組(2つのパラメータ)を数値表示領域51および副数値表示領域54にそれぞれ表示させる旨の選択信号Sseを生成して出力する。なお、同図では、記号Zはインピーダンスの絶対値|Z|を示し、記号Rは純抵抗成分Rrを示し、記号xはリアクタンス成分Rxを示し、記号LはインダクタンスLを示し、記号CはキャパシタンスCを示し、記号θは位相角θを示しているものとする。
処理部7は、選択信号Sseを操作部41から入力したときには、この選択信号Sseで示される数値表示領域51の表示内容に応じて、上記した測定装置1Bと同様にして、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちのいずれか1つを数値表示領域51に表示させると共に、その表示内容に対応した記号(記号|Z|,R,xのうちのいずれか)を第1記号表示領域52に表示させる。また、処理部7は、位相角θの値と予め規定された角度範囲との関係に応じて(または、比の値Aと予め規定された基準範囲との関係に応じて)、位相状態表示領域53へのコイルおよびコンデンサの各記号の表示の有無を判別すると共に、表示させる場合にはその記号の種類を決定して、その記号を位相状態表示領域53に表示させる。
また、処理部7は、選択信号Sseで示される副数値表示領域54の表示内容に応じて、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rr、リアクタンス成分Rx、インダクタンスL、キャパシタンスCおよび位相角θのうちのいずれか1つを表示させる表示状態か、または数値を何ら表示させない非表示状態のいずれかの状態に副数値表示領域54を移行させる。
具体的には、処理部7は、選択信号Sseで示される副数値表示領域54の表示内容がインピーダンスの絶対値|Z|であるときには、算出したインピーダンスの絶対値|Z|を副数値表示領域54に表示させる。また、処理部7は、インピーダンスの絶対値|Z|を示す記号「|Z|」を第2記号表示領域56に表示させると共に、インピーダンスの絶対値|Z|の単位を示す記号「Ω」を単位表示領域55に表示させる。
また、処理部7は、選択信号Sseで示される副数値表示領域54の表示内容が純抵抗成分Rrであるときには、算出した純抵抗成分Rrを副数値表示領域54に表示させる。また、処理部7は、純抵抗成分Rrを示す記号「R」を第2記号表示領域56に表示させると共に、純抵抗成分Rrの単位を示す記号「Ω」を単位表示領域55に表示させる。また、処理部7は、選択信号Sseで示される副数値表示領域54の表示内容がリアクタンス成分Rxであるときには、算出したリアクタンス成分Rxを副数値表示領域54に表示させる。また、処理部7は、リアクタンス成分Rxを示す記号「x」を第2記号表示領域56に表示させると共に、リアクタンス成分Rxの単位を示す記号「Ω」を単位表示領域55に表示させる。
また、処理部7は、選択信号Sseで示される副数値表示領域54の表示内容がインダクタンスLまたはキャパシタンスCであるときには、算出した位相角θの極性(または、比の値Aの極性)に基づいて、リアクタンス成分Rxで表されるものが、誘導性リアクタンス成分であるか容量性リアクタンス成分であるかを判別して、誘導性リアクタンス成分である場合には、リアクタンス成分Rxおよび正弦波電圧Vaの周波数fに基づいて、インダクタンスLを算出する。一方、容量性リアクタンス成分である場合には、リアクタンス成分Rxおよび正弦波電圧Vaの周波数fに基づいて、キャパシタンスCを算出する。次いで、処理部7は、算出したインダクタンスLまたはキャパシタンスCを副数値表示領域54に表示させる。また、処理部は、副数値表示領域54の表示内容に対応する単位を示す記号(記号「mH」または記号「μF」)を単位表示領域55に表示させる。この場合、処理部7は、第2記号表示領域56をいずれの記号も表示されない状態に移行させる。
このように、この測定装置1Cによれば、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちから所望の測定値を選択して出力部8の数値表示領域51に表示させて、確認することができるという測定装置1Bの効果に加えて、数値表示領域51に表示されているバラメータ以外の任意の1つのパラメータ(純抵抗成分Rr、リアクタンス成分Rx、およびインピーダンスの絶対値|Z|のうちの主数値表示領域51に表示されているもの以外のもの、インダクタンスL、キャパシタンスCおよび位相角θのうちの任意の1つのパラメータ)についても、副数値表示領域54に表示させて確認することができる。つまり、この測定装置1Cによれば、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちから所望の2つのパラメータを選択して、さらにはインピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rr、リアクタンス成分Rx、インダクタンスL、キャパシタンスCおよび位相角θのうちから所望の2つのパラメータを選択して出力部8に表示させて、同時に確認することができる。
なお、この測定装置1Cでは、インダクタンスLやキャパシタンスCなどの、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rx以外のパラメータについて算出して、副数値表示領域54に選択的に表示させる構成を採用しているが、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxだけを算出する構成においても、数値表示領域51および副数値表示領域54を有する構成を採用して、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxのうちの数値表示領域51に表示されているパラメータ以外のパラメータを副数値表示領域54に選択的に表示させる構成を採用することもできる。また、測定装置1Cの出力部8では、1つのLCD内に数値表示領域51および副数値表示領域54を配設する構成を採用しているが、数値表示領域51および副数値表示領域54を個別のLCDや7セグメント表示器で構成することもできる。
また、上記した各測定装置1B,1Cでは、出力部8が位相状態表示領域53を有して、この位相状態表示領域53にコイルの記号およびコンデンサの記号のうちのいずれかを表示させる構成を採用しているが、この位相状態表示領域53を有しない構成を採用することもできる。
また、上記した各測定装置1B,1Cは、図1に示す測定装置1をベースとして構成しているが、図4に示す測定装置1Aをベースとして、上記した操作部41を破線で示すように配設すると共に、処理部7および出力部8を各測定装置1B,1Cと同様の構成としてもよいのは勿論である。
また、図8に示す出力部8の単位表示領域55(インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxの単位を示す記号「Ω」と、インダクタンスLの単位を示す記号「mH」と、キャパシタンスCの端子を示す記号「μF」と、位相角θの単位を示す記号「°」のうちのいずれか1つが表示される表示領域)を、図7に示す出力部8の数値表示領域51に対して配設することによって図10に示す構成の出力部8として、インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rr、リアクタンス成分Rx、インダクタンスL、キャパシタンスC、および位相角θのうちのいずれか1つを数値表示領域51に表示させると共に、それに対応した単位を示す記号を単位表示領域55に表示させるように構成することもできる。
また、図8に示す出力部8の単位表示領域55(インピーダンスの絶対値|Z|、純抵抗成分Rrおよびリアクタンス成分Rxの単位を示す記号「Ω」と、インダクタンスLの単位を示す記号「mH」と、キャパシタンスCの端子を示す記号「μF」と、位相角θの単位を示す記号「°」のうちのいずれか1つが表示される表示領域)を、図8の数値表示領域51に対しても配設することによって図11に示す構成の出力部8として、図9に示す組み合わせに図12に示す組み合わせを加えて、こららの組み合わせのうちの任意の1組(2つのパラメータ)を数値表示領域51および副数値表示領域54にそれぞれ、対応する単位を示す記号をそれぞれの単位表示領域55に表示させつつ表示させるように構成することもできる。
また、上記した各測定装置1,1A,1B,1Cでは、正弦波電圧Va1の基本波と同一周期で、かつ正弦波電圧Va1の基本波に同期した第1信号S1、および第1信号S1に対して位相が90°シフトしている第2信号S2を生成する構成として、第1信号生成部4、第2信号生成部5および位相シフト部22(22A)を使用した構成を採用して、位相シフト部22(22A)が、原信号生成部21で生成した交流電圧(擬似正弦波電圧)Vaを互いの位相が90°シフトしている2種類の正弦波電圧Va1,Va2(正弦波電圧V1,Va2)を生成し、第1信号生成部4が、一方の正弦波電圧Va1(正弦波電圧V1)に基づいて基準クロックCLKに同期した第1信号S1を生成し、第2信号生成部5が、他方の正弦波電圧Va2に基づいて基準クロックCLKに同期した第2信号S2を生成する構成としているが、原信号生成部21、第1信号生成部4、第2信号生成部5および位相シフト部22(22A)を、CPUを使用したデジタル回路や、FPGA(Field Programmable Gate Array )や、CPLD(Complex Programmable Logic Device )を使用して、三角波信号Vtを交流電圧(擬似正弦波電圧)Vaに変換して出力するフィルタを除く他の構成要素を1つのデジタル回路としてまとめて、交流電圧Va、第1信号S1および第2信号S2を生成する統括信号生成部とする構成を採用することもできる。
一例として、図13,14,15を参照して、CPUを使用したデジタル回路を使用して統括信号生成部61を構成する例について説明する。
まず、統括信号生成部61の構成について説明する。統括信号生成部61は、図13に示すように、信号生成回路62とフィルタ63(本例では一例としてバンドパスフィルタ63(以下、「BPF63」ともいう))で構成されている。信号生成回路62は、CPU62a、メモリ62bおよびD/A変換回路62cを備えている。この場合、メモリ62bには、CPU62aの動作プログラムと共に、図14に示す信号生成用のデータテーブルDstが予め記憶されている。データテーブルDstには、三角波信号Vtを生成するためのデジタルデータ(本例では一例として、2ビットのデジタルデータ)DA1,DA0、第1信号S1を生成するためのデジタルデータCLK0、および第2信号S2を生成するためのデジタルデータCLK90が1ビットずつ組になって、アドレス1からアドレス12までに12組記憶されている。
次いで、統括信号生成部61の動作について説明する。統括信号生成部61では、CPU62aが、動作プログラムに従って動作して、メモリ62bに記憶されているデータテーブルDstから、アドレス1からアドレス12に記憶されている各デジタルデータDA1,DA0,CLK0,CLK90を、図15に示すように、アドレス1,2,3,・・・,11,12の順序で順次周期Tcで読み出す動作を、周期Tで繰り返し実行する。また、CPU62aは、読み出した各アドレスのデジタルデータのうちのデジタルデータDA1,DA0についてはデジタルデータDA1を上位ビットとして、またデジタルデータDA0を下位ビットとしてD/A変換回路62cに出力し、デジタルデータCLK0については、自らの出力ポートのうちの1つに出力し、デジタルデータCLK90については、自らの出力ポートのうちの他の1つに出力する。また、D/A変換回路62cは、CPU62aから出力されたデジタルデータDA1,DA0を階段波としての三角波信号Vtに順次変換して出力する。また、BPF63は、この三角波信号Vtを入力してその基本周波数成分(周波数f)を主として通過させ、それ以外の周波数成分(高調波成分も含む)を減衰させることにより(基本周波数成分を選択的に通過させることにより)、交流電圧(擬似正弦波電圧)Vaに変換して出力する。また、フィルタ63として、BPFに代えて、三角波信号Vtの基本周波数成分(周波数f)以下の周波数を通過させ、基本周波数成分(周波数f)を超える周波数成分(高調波成分)を除去するLPFを使用することもできる。
なお、上記した各測定装置1,1A,1B,1Cでは、フィルタ21b(63)を使用して階段波としての三角波信号(階段状に振幅が変化する三角波信号)Vtに含まれている高調波成分を除去することにより、正弦波に近い交流原信号Va1(Va)を生成して、この交流原信号Va1(Va)を電力増幅部23に対して出力する構成(つまり、電力増幅部23から出力される正弦波電圧V1に含まれる高周波ノイズを低減して、装置全体から発生する高周波ノイズを低減する構成)を採用しているが、階段波生成部21aやD/A変換回路62cから階段波として正弦波状の信号(階段状に振幅が変化する擬似的な正弦波)がそもそも出力される場合には、この階段波として正弦波状の信号を交流原信号Va1(Va)として、フィルタ21b(63)を介さずに電力増幅部23に出力する構成を採用することもできる。この構成によれば、フィルタ21b(63)を省くことができるため、装置構成を簡略化することができる。
これにより、D/A変換回路62cは、図15に示すように、デジタルデータDA1,DA0に応じて値が周期Tcで変化するアナログ信号を三角波信号Vtとして生成して出力し、CPU62aは、各出力ポートから、図15に示すように第1信号S1および第2信号S2を出力する。この場合、データテーブルDstに記憶されているデジタルデータCLK0は、デジタルデータDA1,DA0で示される数値が「2」,「2」と連続する期間における最初の「2」から次の「2」に移行するタイミングに同期して、「0」から「1」に変化したり、逆に「1」から「0」に変化する。このため、デジタルデータCLK0に基づいて生成される第1信号S1は、BPF63から出力される交流電圧Vaのゼロクロス点に同期して振幅が変化する信号、つまり、交流電圧Vaと位相が一致している信号となる。すなわち、CPU62aは、D/A変換回路62cおよびBPF63と共に原信号生成部として機能し、またCPU62aは、第1信号生成部として機能する。
一方、データテーブルDstに記憶されているデジタルデータCLK90は、デジタルデータDA1,DA0で示される数値が「3」,「3」,「3」,「3」と連続する期間における2番目の「3」から3番目の「3」に移行するタイミングに同期して「0」から「1」に変化し、デジタルデータDA1,DA0で示される数値が「1」,「1」,「1」,「1」と連続する期間における2番目の「1」から3番目の「1」に移行するタイミングに同期して「1」から「0」に変化する。このため、デジタルデータCLK90に基づいて生成される第2信号S2は、BPF63から出力される交流電圧Vaに対して、位相が90°シフトした信号となる。すなわち、CPU62aは、第2信号生成部としても機能する。
この統括信号生成部61のようなデジタル回路を使用し、デジタルデータDA1,DA0,CLK0,CLK90に基づいて、三角波信号Vt、第1信号S1および第2信号S2を生成する構成を採用することにより、三角波信号Vt、およびこの三角波信号Vtから生成される交流電圧Vaに対して、位相差がゼロの(位相が一致した)第1信号S1と、位相が90°シフトした第2信号S2とを、安定して、しかも容易に生成することができる。また、位相シフト部22(22A)を省略することができるため、位相シフト部22(22A)に対する位相調整作業を省くことができる結果、作業工程を簡略化することができる。
なお、一例として、三角波信号Vtを2ビットのデジタルデータDA1,DA0から生成する構成について上記したが、ビット数をより増加させて、波形が正弦波により近い信号として三角波信号Vtを生成する構成を採用してもよいのは勿論である。また、処理部7を構成するCPU7bがCPU62aを兼用して、処理部7を構成するメモリがメモリ62bを兼用する構成を採用することもできる。