JP5653021B2 - 腐食疲労強度に優れるばね用鋼、及びばね - Google Patents
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Description
そこで、本発明は、高強度であっても腐食疲労強度に優れるばね用鋼及びばねを提供することを目的とする。
以下の式(1)及び(2):
3.20%≦C(%)+Si(%)+Mn(%)+Cr(%)≦3.70%・・式(1)
1.20%≦Si(%)−0.46C(%)−1.08Mn(%)・・・式(2)
を充足することを特徴とする、ばね用鋼が提供される。
159C(%)−Si(%)+8Mn(%)+12Cr(%)≦84%・・・式(3)
6C(%)−Si(%)−0.3Mn(%)+1.4Cr(%)≦1.2%・・式(4)
のいずれかを充足していてもよい。
3.35%≦C(%)+Si(%)+Mn(%)+Cr(%)≦3.65%・・式(5)
1.35%≦Si(%)−0.46C(%)−1.08Mn(%)・・・式(6)
を充足していてもよい。
また、本ばね用鋼は、さらに、以下の式(7)及び(8):
159C(%)−Si(%)+8Mn(%)+12Cr(%)≦82% ・・・式(7)
6.0C(%)−Si(%)−0.3Mn(%)+1.4Cr(%)≦1.0% ・・・式(8)
のいずれかを充足していてもよい。
(1)腐食耐久回数が40000回以上(好ましくは、45000回以上)
(2)シャルピー衝撃値が70J/cm2以上(好ましくは80J/cm2以上)
(3)遅れ破壊強度が800MPa以上(好ましくは、910MPa以上)
を充足するものであってもよい。
本発明のばね用鋼は、質量%で、C:0.35%以上0.55%以下、Si:1.60%以上3.00%以下、Mn:0.20%以上1.50%以下、Cr:0.10%以上1.50%以下を含有している。
Cは、0.35%以上0.55%以下含有することが好ましい。本ばね用鋼において、Cがこの範囲であると、焼入れ焼戻しにより良好な強度のばね用鋼を得ることができる。0.35%未満であると、焼入れ焼戻しにより良好な強度のばね用鋼を得ることができない。また、0.55%を超えると靭性が低下して、水焼入れ時に焼割れが生じる可能性がある。さらに、疲労強度や腐食疲労強度が低下するおそれがある。他の合金成分との関係もあるが、好ましくは、Cは、0.45%以上0.50%以下である。この範囲であると、良好な強度を実現しやすいとともに、他の合金成分との関係でも式(1)〜式(8)のうちの1又は2以上を適宜充足して良好な腐食疲労強度を初めとする耐久性を得られやすくなる。より好ましくは、上限は、0.49%であり、さらに好ましくは0.48%である。また下限は好ましくは0.46%であり、より好ましくは0.47%である。
Siは、1.60%以上3.00%以下であることが好ましい。本ばね用鋼において、Siがこの範囲であると、耐へたり性、焼戻し特性及び腐食疲労強度の向上に有効である。この範囲において、Siが多いほど、腐食疲労強度が向上される。1.60%未満では、これらにつき十分な効果が得られにくく、3.00%を超えると、靭性も低下しやすくなり、圧延時及び熱処理(焼入れ)時の脱炭が助長される。本ばね用鋼においては、腐食疲労強度等の観点から、好ましくは、下限は2.00%であり、より好ましくは2.10%である。また、好ましくは、上限は、2.50%である。さらに好ましくは2.40%である。
Mnは、0.20%以上1.50%以下であることが好ましい。本ばね用鋼において、Mnがこの範囲であると、良好な腐食疲労強度を得ることができる。Mnが1.50%を超えると、腐食疲労強度が低下する傾向にあり、Mnが0.20%未満であると、強度や焼入れ性が不足する傾向があり、圧延時に割れやすくなる傾向がある。本ばね用鋼では、これらの観点から、より好ましくは上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.50%以下である。また、より好ましくは、下限は0.40%である。
Crは、0.10%以上1.50%以下であることが好ましい。本ばね用鋼において、Crがこの範囲であると強度確保や焼入れ性向上に有用である。Crが0.10%未満であると、こうした効果が不十分であり、また、1.50%を超えると、焼戻し組織が不均一になり、耐へたり性を阻害するおそれが生じやすくなる。好ましくは、上限は0.30%である。また、好ましくは、下限は0.20%である。
Niは0.40%以上3.00%以下であることが好ましい。本ばね用鋼においては、Niがこの範囲であると耐腐食性の向上に効果がある。0.40%未満であると、その効果が不十分であり、3.00%を超えると、耐腐食性向上効果が飽和する傾向がある。より好ましくは、上限は1.00%であり、さらに好ましくは、0.60%である。本ばね用鋼は、Ni、Mo及びVのうち、少なくともNiを含有していることが好ましい。
Moは、0.05%以上0.50%以下であることが好ましい。本ばね用鋼においては、Moがこの範囲であると、腐食疲労強度を向上させることができる。0.05%未満であると、この効果が不十分であり、0.50%を超えると、効果が飽和する傾向がある。好ましくは、0.20%以下である。より好ましくは0.10%以下である。
Vは、0.05%以上0.50%以下であることが好ましい。本ばね用鋼においてVがこの範囲であると、結晶粒の微細化、析出硬化に効果的である。0.05%未満であると、その効果が不十分であり、0.50%を超えると、炭化物が鋼表面において腐食ピットを形成して、亀裂破壊の起点となるおそれがある。また、靭性が低下する。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは、0.20%以下である。一層好ましくは、0.10%以下である。
式(1)の下限値は、焼入れ焼戻しによって所望の強度を得るための下限値を示し、当該数値未満では、十分な強度を得ることができない。また、式(1)の上限値は、所望の強度を得るための上限値を示し、当該数値を超えると、圧延後にばね用鋼が硬化しすぎ、ばね用鋼を線引きするときに断線、表面疵等が発生するおそれがある。式(1)の範囲は、ロックウェル硬さHRC53以上HRC56以下の範囲を得るのに好ましい。上記下限値は3.35(%)であることが好ましく、上記上限値は3.65(%)であることが好ましい。すなわち、下記式(5)を充足することが好ましい。
式(5):3.35%≦C(%)+Si(%)+Mn(%)+Cr(%)≦3.65%
なお、上記下限値が3.60%であり、上記上限値が3.63%であることが特に好ましい。また、式(1)が意図する強度は、ロックウェル硬さHRCであることが好ましい。
式(2)は、本ばね用鋼の合金成分から、C、Si及びMnを選択し、腐食疲労強度をパラメータとして得られた式であり、腐食疲労強度の優れたばね用鋼を得るための式である。上記下限値未満であるとき、十分な腐食疲労強度を得ることができない。好ましくは、上記下限値は、1.30%であり、より好ましくは1.35%である。すなわち、下記式(6)を充足することが好ましい。
式(6):1.35%≦Si(%)−0.46C(%)−1.08Mn(%)
なお、上記下限値が1.40%であることが特に好ましく、一層好ましくは1.45%である。より一層好ましくは、1.50%である。また、式(2)及び(6)では特に上限は規定していないが、強度及び脱炭抑制を図る観点からは、好ましくは、1.90%であり、より好ましくは、1.75%であり、さらに好ましくは1.70%である。なお、式(2)が意図する腐食疲労強度は、後述する実施例記載の試験方法によって得られるものであることが好ましい。
式(3)は、本ばね用鋼の合金成分から、C、Si、Mn及びCrを選択し、シャルピー衝撃値をパラメータとして得られた式であり、靭性に関連し、良好なシャルピー衝撃値のばね用鋼を得るための式である。上記下限値未満であるとき、十分なシャルピー衝撃値(靭性)を得ることができない。好ましくは、上記上限値は、82%である。すなわち、下記式(7)を充足することが好ましい。
式(7):159C(%)−Si(%)+8Mn(%)+12Cr(%)≦82%
なお、さらに好ましくは、上記上限値は81%である。また、式(3),(7)では特に下限を規定していないが、好ましくは、60%であり、より好ましくは70%である。なお、式(3)が意図するシャルピー衝撃値は、後述する実施例記載の試験方法によって得られるものであることが好ましい。
式(4)は、本ばね用鋼の合金成分から、C、Si、Mn及びCrを選択し、遅れ破壊強度をパラメータとして得られた式であり、耐久性に関連し、良好な遅れ破壊強度を有するばね用鋼を得るための式である。上記上限値を超えるとき、十分な遅れ破壊強度を得ることができない。好ましくは、上記上限値は、1.0%である。すなわち、下記式(8)を充足することが好ましい。
式(8):6.0C(%)−Si(%)−0.3Mn(%) +1.4Cr(%)≦1.0%
なお、さらに好ましくは、上記上限値は0.95%である。また、式(4),(8)では特に下限は規定していないが、強度及び脱炭抑制の観点からは、好ましくは、0.65%であり、より好ましくは0.68%であり、さらに好ましくは0.70%である。なお、式(4)が意図する遅れ破壊強度は、後述する実施例記載の試験方法によって得られるものであることが好ましい。
(1)鋼を高炉又は電炉で量産相当で溶製して得た鋼塊を分塊圧延し、その後、線材圧延した。
(2)鋼を真空溶解炉で2トン溶解後、分塊圧延し、その後 線材圧延した。
1.腐食疲労試験
(1)試験片の調製
試験片は、各鋼の線材を、表面研削後、焼入れ加熱し、その後熱間成形し、焼入れ(油冷)し、焼戻しすることにより、コイルばねとした。なお、焼入れ加熱条件は、高周波誘導加熱990℃とし、ばね硬さ(焼戻し後硬さ)は、HRC55に調整した。得られたコイルばねの概要を以下の表2に示す。
得られたばねに人工的にピットを付与し、腐食環境中で疲労試験(JASOC604)を実施した。ピットは、主応力振幅が最大となる箇所(コイル端末から3.1巻)におけるばねの外側表面に小さな穴のあいたマスキングをし、電解研磨により直径600μm、深さ300μmの半球状の穴(人工ピット)を付与した。このピットによるねじり負荷における垂直応力(主応力)の応力集中係数は,有限要素法解析によると2.2である。電解液としては、塩化アンモニウム水溶液を用いた。腐食環境は、腐食液として5%NaCl水溶液を用いて、噴霧装置にて人工ピット部のみを16時間腐食させた後、5%NaCl水溶液を含ませた脱脂綿で人工ピット部周辺を覆い、その周りをエチレンラップで包んで乾燥を防いだ状態とした。この状態で疲労試験を実施し、折損までの繰返し回数を評価した。疲労試験は、繰返し速度2Hzとし、フラットな座を使用して平行圧縮で加振した。試験高さは人工ピット付与位置における人工ピットがない状態での主応力条件が507±196MPaとなる条件(最大荷重(4031N)時高さ220mm、最小荷重(2079N)時高さ270mm)とした。結果を表3に併せて示す。また、表3には、化学組成に基づく式(1)〜(4)の数値及び各式に対する充足性を併せて示す。
(1)試験片の調製
参照例、実施例及び比較例につき、ハーフサイズ試験片(5×10mm断面、長さ55mm角柱の中央部に2mm(幅)×2mm(深さ)×R1(U状底部)のUノッチを形成したもの)とした。
(2)焼入れ加熱条件:
参照例1、2及び比較例1、2については、900℃×30分とし、比較例5については高周波誘導加熱960℃とし、実施例3,4については高周波誘導加熱990℃とした。
(3)試験片硬さ
焼戻し後の硬さは、HRC55に調整した。
(4)試験方法
試験温度は、常温とし、JIS Z2242に基づき試験を実施した。結果を表3に示す。
(実施例3,4及び比較例5,8)
試験片は、引張試験片(深さ1mm環状切欠き付き)を用いた。また、試験方法は、定荷重負荷−水素チャージ法を用いた。具体的には、pH3のH2SO4溶液中で電流密度1.0mA/cm2で試験片に水素をチャージしながら定荷重で負荷を与え破断するまでの時間をカウントした。200時間以上破断しない最大負荷応力を遅れ破壊強度として評価した。
(焼入れ加熱条件)
上記試験片に対する焼入れ加熱条件は以下のとおりとした。すなわち、実施例3,4については高周波誘導加熱990℃とし、比較例5については高周波誘導加熱960℃とし、比較例8については900℃×30分とした。結果を表3に併せて示す。
Claims (11)
- 質量%で、C:0.45%以上0.50%以下、Si:1.60%以上3.00%以下、Mn:0.20%以上1.50%以下、Cr:0.10%以上0.30%以下、Ti:0.005%以上0.030%以下、B:0.0015%以上0.0025%以下を含み、
さらに、Ni:0.40%以上3.00%以下、Mo:0.05%以上0.50%以下及びV:0.05%以上0.50%以下からなる群から選択される少なくともNiを含む1種又は2種以上を含み、
残部がFe及び不可避不純物からなるとともに、
以下の式(1)及び(2):
3.20%≦C(%)+Si(%)+Mn(%)+Cr(%)≦3.70%・・式(1)
1.20%≦Si(%)−0.46C(%)−1.08Mn(%)・・・式(2)
を充足することを特徴とする、ばね用鋼。 - Crが0.20%以上0.30%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のばね用鋼。
- さらに、以下の式(3)及び(4);
159C(%)−Si(%)+8Mn(%)+12Cr(%)≦84%・・・式(3)
6.0C(%)−Si(%)−0.3Mn(%)+1.4Cr(%)≦1.2% ・・・式(4)
のいずれかを充足することを特徴とする、請求項1又は2に記載のばね用鋼。 - さらに、以下の式(5)及び(6);
3.35%≦C(%)+Si(%)+Mn(%)+Cr(%)≦3.65%・・式(5)
1.35%≦Si(%)−0.46C(%)−1.08Mn(%)・・・式(6)
を充足することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のばね用鋼。 - さらに、以下の式(7)及び(8):
159C(%)−Si(%)+8Mn(%)+12Cr(%)≦82%・・・式(7)
6.0C(%)−Si(%)−0.3Mn(%)+1.4Cr(%)≦1.0% ・・・式(8)
のいずれかを充足することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のばね用鋼。 - Siが2.00%以上2.50%以下、Mnが0.40%以上0.50%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のばね用鋼。
- Ni、Mo及びVを含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のばね用鋼。
- 焼入れ焼戻し処理後において、以下の(1)〜(3)のいずれかの特性:
(1)腐食耐久回数が45000回以上
(2)シャルピー衝撃値が80J/cm2以上
(3)遅れ破壊強度が910MPa以上
を充足する、請求項1〜7のいずれかに記載のばね用鋼。 - ロックウェル硬さがHRC53以上HRC56以下であることを特徴する、請求項1〜8のいずれかに記載のばね用鋼。
- 請求項1〜9のいずれかに記載のばね用鋼よりなるばねであって、
ロックウェル硬さHRC53以上HRC56以下である、ばね。 - 腐食耐久回数が40000回以上である、請求項10に記載のばね。
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