以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、内燃機関、特に船舶用ディーゼル機関10の概略の断面図である。ディーゼル機関10は多気筒機関であり、図1の紙面を貫く方向に複数の気筒が直列に配置されている。ピストン12は、シリンダライナ14の円筒内周面に沿って摺動しつつ往復運動し、この往復運動が連接棒16を介してクランク軸18の回転運動に変換される。シリンダライナ14はエンジンフレーム20に支持され、シリンダライナ14とエンジンフレーム20の間には、冷却水の流れる水ジャケットが形成される。このエンジンフレーム20の、シリンダライナを囲みこれを支持する部分と、シリンダライナ14とでシリンダが構成される。エンジンフレーム20には、クランク軸18を支持する軸受が設けられているが、図1においては省略されている。
エンジンフレーム20の上部には、シリンダヘッド22がヘッドボルト24(図7,9参照)により締結されており、これによりシリンダヘッド22がシリンダライナ14の上部の開口に当接し、密着している。ピストン12の頭頂面と、これに対向するシリンダヘッド22の下面と、シリンダライナ14の内周面により燃焼室が形成される。シリンダヘッド22の燃焼室の中央にあたる部分に燃料噴射弁26が設けられている。燃料噴射弁の配置は、噴射される燃料の噴霧の拡がり方など、燃焼状況により適切に定められればよく、中央以外に部分に設けられてもよい。シリンダヘッド22には、燃焼室に通じる吸気ポートおよび排気ポートが形成されており、さらに、これらのポートの燃焼室に対する開口を開閉するための吸気弁28、排気弁30(図7,9参照)が配置される。吸排気弁28,30は、燃料噴射弁26の紙面奥側と手前側に配置されており、図1においては示されていない。吸気ポートは吸気管32に連通しており、排気ポートは排気管34に連通している。
シリンダの側方には、ギア、チェーンなどの伝達装置を介してクランク軸18に駆動されるカム軸36が配置される。カム軸36は、気筒の配列方向と平行に配置され、各気筒の吸気弁、排気弁に対応したカム38を備えている。カム38のカム面に接するカムフォロワ40が設けられ、さらに、カムフォロワ40に接続され、シリンダヘッド22に向けてプッシュロッド42が延びて配置される。シリンダヘッド22には、ロッカーアーム44が配置され、ロッカーアーム44の一端にはプッシュロッド42が接続し、他端は吸気弁28と排気弁30のステム端46に接続している。カム軸36の回転により、カム38がカムフォロワ40を揺動させ、この動きがプッシュロッド42を介してロッカーアーム44に伝達される。そして、ロッカーアーム44も揺動して吸気弁28および排気弁30が駆動され、吸気ポート、排気ポートの開閉が実行される。
燃料噴射弁26には、燃料供給系48により燃料が供給される。このディーゼル機関10には、二つの燃料供給系が設けられる。一つの燃料供給系は機械式燃料噴射ポンプ50を備え、このポンプは燃料タンク52内の燃料を加圧して、逆止弁51を備えた燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に供給する。この燃料供給系を主燃料供給系と記し、燃料タンク52を主燃料タンク52、燃料供給管54を主燃料供給管54、さらに主燃料供給系で供給される燃料を主燃料として以下説明する。さらに、この主燃料供給系と、主燃料を供給する燃料噴射弁を含めて主燃料系と記す。
また、燃料供給管54には安全弁53を設けてもよい。安全弁53は、燃料供給管54内の燃料の内圧が一定以上になると、スプリングの作用等により燃料を燃料タンク52へ戻して内圧が上がり過ぎることを防ぐ。
もう一つの燃料供給系を副燃料供給系と記す。副燃料供給系は、燃料噴射弁26に供給される副燃料を蓄える燃料タンク56、副燃料を加圧し送る加圧ポンプ58、加圧ポンプにより送られる加圧された燃料を蓄える蓄圧部としてのコモンレール60を含む。コモンレール60内に蓄えられた加圧燃料が、逆止弁63及び副燃料供給弁64を有する燃料供給管62を介して主燃料供給管54に送出される。主燃料供給管54に送出された燃料は、更に燃料噴射弁26に向かい、ここから燃焼室内に向けて噴射される。この副燃料タンク56から燃料噴射弁26に至る、副燃料を噴射するための系を副燃料系と記し、燃料タンク56を副燃料タンク56、燃料供給管62を副燃料供給管62として以下説明する。
また、副燃料系には安全弁61を設けてもよい。安全弁61は、例えばコモンレール60に設けられ、コモンレール60内の燃料の内圧が一定以上になると、スプリングの作用等により燃料を副燃料タンク56へ戻して内圧が上がり過ぎることを防ぐ。
したがって、この燃料供給系48においては、主、副の燃料供給管54,62の合流部65より下流においては、主、副燃料系が構成要素(例えば燃料噴射弁26)を共有している。
コモンレールを含む副燃料系は、自動車用のシステムを転用することができる。自動車用の需要は、船舶用のそれよりも多く、量産効果により副燃料系導入のコストを抑制することができる。また、副燃料系に軽油を用いるのであれば、自動車用のシステムを導入するための改造が少なくなり、更に導入コストの抑制が期待できる。また、自動車用のシステムが、船舶用としては容量が不足する場合には、システムを複数備え、1気筒に複数のコモンレールシステムから燃料を噴射するようにできる。また、燃料噴射量を増加するために、コモンレールの容積を増加して対応してもよい。
副燃料系を、既存の内燃機関に後付けする構成とした場合、外洋を航行中に、副燃料系の寿命が来たとしても、容易に取り替えることができる。さらに、副燃料系に自動車用のコモンレールシステムを用いることにより、これが船舶用の内燃機関に比べて寿命が短い場合も、経済的な負担を小さくして容易に取り替えることができる。
図2は、機械式燃料噴射ポンプ50の概略構成を示す部分断面図である。ポンプハウジング66内には、側面に流入孔68と逃がし孔70を備えたバーレル72が収められている。バーレル72の内周面は円筒となっており、この円筒内周面内に摺動可能にプランジャ74が位置する。プランジャ74は、バーレル72よりも下方に延び、その下端はカム92(図3参照)に接触し、このカムによって、往復運動する。プランジャ74は、下端が常にカムと接触するようにプランジャばね76により付勢されている。カム92は、クランク軸18に、これと同期して駆動される。プランジャ74には更にピニオン78が設けられ、これに対応してポンプハウジング66に摺動可能にラック80が設けられている。バーレル72の先端には貫通孔を有するカラー82が設けられ、貫通孔は、ばねにより付勢された吐出弁によりふさがれている。プランジャ74の先端面、バーレル72の内周面およびプランジャ先端面に対向するカラー82の面により、ポンプ室86が形成される。
プランジャ74の側面の、バーレル72内に位置する部分には、縦溝88と異形溝90が刻設されている。縦溝88は、プランジャ74の先端面から軸方向に沿って延び異形溝90に達している。異形溝90は、展開すると略三角形、または円の四分の一の扇形に類似した形状を有する。異形溝90の、プランジャ表面円周方向の幅は、プランジャの先端から離れるに従って広くなっている。
プランジャ74がカムにより押され進出すると、ポンプ室86の容積が減少し、流入孔68と逃がし弁70がプランジャ74の側面によりふさがれた後は、ポンプ室86内の燃料が逃げ場を失い、加圧される。ポンプ室86内の圧力が高まり、吐出弁84を付勢するばねの力に打ち勝つと、吐出弁84が開き、燃料が吐出される。プランジャ74が更に進出し、逃がし孔70が異形溝90にかかると、ポンプ室86内の燃料は、縦溝88から異形溝90を通して、逃がし孔70から流出する。これによりポンプ室86内の圧力が低下して、吐出弁84が閉じて燃料の吐出が停止する。つまり、プランジャ74のストロークの内、プランジャ先端が流入孔68と逃がし孔70を塞いでから、異形溝90によって逃がし孔70が開放されるまでが、燃料吐出における有効ストロークとなる。
前述のように、異形溝90の円周方向の幅は、プランジャ74先端からの距離によって異なる。したがって、プランジャ74を軸回りに回動させて、逃がし孔72の位置に対する異形溝90の位置を円周方向にずらせば、有効ストロークを変更することができる。プランジャ74を軸回りに回動させるために、前述のラック80およびピニオン78が設けられている。なお、プランジャ74は、異形溝90が逃がし孔70に係らない位置まで回動可能であり、このときには、プランジャ74が最も進出する位置まで燃料が吐出される。要求されるディーゼル機関10の出力に応じて、ラック80が進退方向に制御され、これにより燃料の吐出量が制御される。
図3は、燃料供給系48および燃料噴射弁26を示す図である。主燃料系においては、主燃料タンク52に蓄えられている主燃料は、機械式燃料噴射ポンプ50により加圧されて送出され、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。なお、逆止弁51より下流へ送り出された主燃料は、逆止弁51によって機械式燃料噴射ポンプ50側へ逆流することが防がれている。
副燃料系においては、副燃料タンク56に蓄えられた副燃料は、加圧ポンプ58で加圧、送出され、圧力が高い状態でコモンレール60に蓄えられる。コモンレール60から主燃料供給管54に向かう副燃料供給管62の途中には副燃料供給弁64が設けられており、この副燃料供給弁64を開放することによって、合流部65より下流に副燃料が供給される。副燃料供給弁64は、電気的に制御される電気制御式とする。なお、合流部65より下流へ送り出された副燃料は、逆止弁63によってコモンレール60へ逆流することが防がれている。コモンレール60に蓄えられた燃料が、主燃料供給管54を介して燃料噴射弁26に送られる。加圧ポンプ58およびコモンレール60は全気筒または複数の気筒に共通に設けられ、副燃料供給弁64が各気筒ごとに設けられる。
副燃料供給弁64として電気的に制御できるものを付加することにより、自動車用のコモンレールシステムの導入が容易となる。また、電気制御式とすることで、燃料噴射タイミングや、燃料噴射期間(噴射量)、燃料噴射パターン等が電気信号で制御可能となり、制御の自由度が拡大する。また、船舶においては、波の影響により、波の周期に関連した負荷変動を生じる場合があるが、制御の自由度が高い電気制御式を採用することで、これに好適に対応できる。
燃料噴射弁26は、燃料の噴射に電気的制御を行う電気制御式燃料噴射弁とする。電気制御式噴射弁は、気筒内に燃料を噴射する噴射弁として機能すると共に、主燃料及び副燃料の供給を制御する燃料制御弁としても機能する。電気制御式燃料噴射弁は、制御信号を受けて、電磁弁を備えた噴射ノズルから制御信号で示される噴射量の燃料を噴射する。噴射された燃料は、細かな粒子(液滴)となってシリンダ内を拡がり、ピストンによる圧縮で気筒内の温度が上昇すると自己着火して燃焼する。主燃料系は、カム92によるプランジャ74のストロークのたびに燃料が加圧される。
上述のように、主燃料系においては、燃料の加圧は、燃料噴射のたびにそれぞれ独立して行われるのに対し、副燃料系においては、燃料は予め加圧されて、加圧された状態で蓄えられており、燃料噴射のタイミングで予め加圧されていた燃料が供給される。主燃料系においては、燃料噴射の初期においては、圧力が低く、噴射される燃料の粒子が比較的大きい。一方、副燃料系においては、燃料は予め加圧されているので、噴射期間の初期から高い圧力で噴射することが可能であり、燃料の粒子はより微細となる。また、コモンレール内の圧力は、変更することができる。具体的には、例えば、加圧ポンプ58に電気式のポンプを採用した場合は、ポンプを駆動するモータの回転速度を変更して、コモンレール内圧力を調整する。また、加圧ポンプ58として機械式のポンプを用いる場合には、コモンレール60から副燃料タンク56に副燃料を戻すリターン経路に調圧弁を設け、この調圧弁が開放する圧力を変更して、コモンレール内圧力を調整する。
図4および図5には、燃料噴射圧の変化を示すイメージ図である。図4は主燃料系のみによる場合、図5は主、副燃料系により燃料噴射を行う場合を示している。また、破線は、低負荷時、実線は高負荷時の燃料圧の変化を示している。
主燃料系のみ、つまり機械式燃料噴射ポンプ50のみにより燃料の加圧、噴射を行う場合、プランジャ74のストロークに従って徐々に燃料圧Piが上昇し、燃料圧Piが噴射開始圧Poに達すると(クランク角α1)燃料噴射弁26から燃料が噴射される。高負荷時には、プランジャ74の有効ストロークが長くなるようラック80の進退が制御され、全負荷の場合には、噴射最高圧Pmaxに達する(クランク角α2)。その後、供給系の配管内等に残る圧力によりわずかに燃料が噴射されるが、基本的にはクランク角α1からα2が燃料噴射期間となる。一方、低負荷時には、プランジャの有効ストロークが短くなり、クランク角α2よりも上死点に近いクランク角α3までが燃料噴射期間となる。クランク角α3では、燃料圧は、最高圧Pmaxより低いP1にしか達していない。このため、低負荷時には燃料噴射圧が低く、噴射された燃料粒子は大きなものとなる。燃料の粒子径が大きいと着火性が悪化する。このため、機械式燃料噴射ポンプのみにより燃料供給をする場合には、低負荷時において着火性が悪化する傾向がある。
主燃料系と副燃料系の双方を用いて燃料噴射する場合、燃料噴射期間の初期に副燃料系による噴射を行う。副燃料系の噴射期間(α4〜α5)の間、主燃料系のみによる燃料圧以上の圧力で、副燃料系の燃料噴射が行われる。コモンレール60には、燃料が微細な粒子となる圧力で噴射ができるよう十分な圧力で燃料が蓄えられている。副燃料系の燃料圧は、噴射期間の最初から高く、噴射期間の間、ほぼ一定である。前述のように、機械式燃料噴射ポンプの場合、燃料圧は、次第に上昇するものであり、副燃料系の噴射期間においては、クランク角α5の時が最も高くなっている(圧力P3)。副燃料系の燃料圧P2は、この圧力P3よりも高く、主燃料系により燃料を噴射する場合よりも、燃料をより微細な粒子とすることができる。図5においては、副燃料系による燃料圧P2は、主燃料系による最高圧Pmaxより低い値で示されているが、これに限らず最高圧Pmax以上の圧力に設定されてもよい。高負荷時においては、クランク角α4にて副燃料系による燃料噴射を開始し、クランク角α5で停止する。その後は、主燃料系による圧力が上昇しているので、主燃料系のみによる噴射を行うことが好適である。副燃料系による噴射を噴射期間の初期にのみ行うのは、コモンレール60に蓄えられている燃料が多量に噴射されると、コモンレール内の圧力が低下してしまうことを防ぐためである。次の噴射の時点で、必要な燃料圧を確保するためには、コモンレール60の容量を増やす、また加圧ポンプ58の流量を増やす等の対策をしてもよい。ただし、装置の大型化を招くことに繋がる可能性がある。また多気筒機関においては、機関全体の噴射間隔は短くなるので、低下したコモンレール内の圧力をより早く回復させる必要性、またはコモンレール内の圧力を低下させないように、その容量を増やす必要性が、より高まる。燃料供給系48において、副燃料系による噴射を、主燃料系による燃料圧が低い噴射期間の初期に限定し、副燃料系の噴射量を抑制することで、小型のコモンレール、加圧ポンプを用いることが可能となる。
また、舶用等の大型の内燃機関では、燃焼室も大きく、1回当たりに噴射される燃料量が、自動車等の小型の機関のそれよりも多くなる。このため、コモンレール等の蓄圧部に蓄えられた燃料で全噴射量を賄おうとすると、蓄圧部の容積を大きくするか、ポンプ流量を増加させる必要がある。この理由からも、主燃料系と副燃料系を備え、副燃料系による噴射量が少ない構成を採ることが望ましい。
副燃料系の噴射の開始時点(α4)、終了時点(α5)については、調整することができる。例えば、着火性の悪い燃料を用いる場合には、気化する燃料を多くして着火性を改善するために、微細な粒子の割合を多くし、また気化する時間を長くするために、噴射期間を長くするようにする。噴射開始を早めてもよい。また、着火性の比較的良好な燃料を用いる場合は、副燃料系の噴射期間が短くなるようにしてよい。十分な着火性が確保されるのであれば、高負荷時においては、主燃料系のみの噴射としてもよい。これにより、副燃料の消費を抑制することができる。
低負荷時においては、図5に示すように、噴射期間(α4〜α5)において、副燃料系により噴射を行うようにする。図5の制御においては、高負荷時、低負荷時において、副燃料の噴射期間(α4〜α5)は、同じに示されているが、負荷によって噴射の期間(タイミング、長さ)を変更してもよい。
主、副燃料は、同種の燃料を用いることも、異種の燃料の組み合わせとすることもできる。同種の燃料を用いる場合であっても、前述のように、副燃料系においては、噴射初期から高い圧力で噴射でき、燃料粒子が微細となって、着火性が改善される。特に、前述の燃料噴射弁による低負荷時の着火性の悪化を改善することができる。
同種の燃料を副燃料系により噴射しても、十分な着火性を得られない場合に、主、副燃料に異種の燃料を使用することもできる。この場合、副燃料に着火性の良い燃料を使用し、副燃料を火種として、着火性の悪い燃料を燃焼させるようにすることができる。ディーゼル機関における着火性は、セタン価で評価され、この場合は、セタン価の高い燃料を副燃料として使用し、低い燃料を主燃料として使用する。主燃料に着火性の悪い燃料を使用する場合、副燃料として軽油、バイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)を使用することが好適である。主燃料として重油を使用した場合、相対的に着火性のよい菜種油等を用いてもよい。
図6は、主燃料系および副燃料系の噴射条件の制御に関する制御ブロック図である。この制御ブロック図は、主、副の燃料系において燃料噴射弁、特にそのノズルが共用される構成例を対象とした制御ブロック図である。既出の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。ディーゼル機関10の運転状態を検出するために、回転センサ100、圧力センサ102および排気ガスセンサ104が備えられる。また、燃料噴射弁26に実際に供給される主燃料および副燃料の量をそれぞれ検出する主燃料流量センサ106、副燃料流量センサ108を備えてもよい。回転センサ100は、クランク軸18の回転速度を検出するセンサである。
圧力センサ102は、燃焼室内の圧力を直接検出するセンサを用いることができるが、より簡易な方法として、後付け、または外付けのセンサにより圧力の検出を行うことができる。例えば、燃焼室内の燃焼圧がシリンダヘッドボルトに作用する力に基づくセンサを用いることができる。
図7は、ディーゼル機関10の燃焼室周囲の構成を示す概略図であり、特に圧力センサ102としてのロードワッシャの配置を示す図である。シリンダヘッド22は、エンジンフレーム20に対してシリンダヘッドボルト24により締結されている。このボルトのナットとシリンダヘッドの間に、圧力センサ102であるロードワッシャが配置される。ロードワッシャには、シリンダヘッドの締め付け時に加えられる軸力と、気筒内圧を受けて発生する軸力が作用する。
図8は、クランク角に対する(a)気筒内圧変化と、(b)ロードワッシャに作用する力(ボルトの軸力)の変化が示されている。二つの図を比較して、ロードワッシャに作用する力が気筒内圧と良好な相関を有していることが理解できる。したがって、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けたロードワッシャにより気筒内圧を測定することが可能である。
図9は、ディーゼル機関10の燃焼室周囲の構成を示す概略図であり、特に圧力センサ102としての歪みゲージの配置を示す図である。圧力センサ102としての歪みゲージは、シリンダヘッドボルト24の軸部に装着される。図の例においては、歪みゲージは、エンジンフレーム20と、シリンダヘッド22の間の隙間に対応して装着される。しかし、ボルト24の延びを適切に検出できる位置であれば、どこに装着されても良く、例えばシリンダヘッド22内のボルト軸部に装着されてよい。
図10は、クランク角に対する(a)気筒内圧変化と、(b)歪みゲージにより検出されたボルトの伸び(ボルトの軸力)の変化が示されている。二つの図を比較して、ボルトの伸びに作用する力が気筒内圧と良好な相関を有していることが理解できる。したがって、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けた歪みゲージより気筒内圧を測定することが可能である。ロードワッシャ型、歪みゲージ型のいずれも、気筒の外部に装着可能であるため、副燃料系としてコモンレールシステムを後付けする場合や、故障時や寿命時の取り替えがボルトの脱着だけで簡単にできる。また、ボルトの緩みや締め付けトルクが不足した場合に、異常が検出可能となる。
圧力センサ102は、各気筒ごとに設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。気筒配置がV型の機関であれば、左右のバンクにそれぞれ1つの圧力センサを設けることができる。気筒ごとに圧力センサを設けた場合、噴射条件の制御も気筒ごとに行うことができる。また、V型のバンクごとなど、いくつかの気筒ごとに圧力センサを設けた場合、バンクごと、その気筒群ごとに噴射制御を行うこともできる。圧力センサ102により検出された気筒内圧に基づき、エンジン状態推定部110において、内燃機関の運転状態を推定する。
排気ガスセンサ104は、内燃機関の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、粒子状物質(PM)等を検出するセンサである。排気ガスセンサ104は、各気筒ごとに設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。排気ガスセンサ104からの出力信号はエンジン状態推定部110へ送られ、エンジン状態推定部110において排気ガスの性状に応じて内燃機関の運転状態を推定する。
エンジン状態推定部110は、着火時期、図示平均有効圧、最高気筒内圧、排気ガスの性状の少なくとも一つの情報に基づき、内燃機関における燃焼状態について推定を行う。図11は、燃料噴射時期を変化させたときの、気筒内圧、熱発生量、熱発生率を示すグラフである。圧力センサ102によって気筒内圧を検出することで、最高気筒内圧、図示平均有効圧を算出でき、また気筒内圧から求めた熱発生率から、着火時期を推定することができる。熱発生率から着火時期の推定を行うに当たり、あるサイクルの最大値と最低値より定められる閾値を用いて推定を行うことができる。例えば、熱発生率の最大値と最小値の差の10%を最小値に加算した値を閾値とし、あるサイクルにおいて、この値を超えたときを、そのサイクルの着火時期とすることができる。図から理解できるように、気筒内圧、着火時期等は、燃料噴射時期を変更すると変化し、これを利用して、圧力センサ102の検出値に基づき得られた前記のパラメータが予め定めた値となるように、主、副燃料の少なくとも一方の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を制御することができる。
また、エンジン状態推定部110は、排気ガスの性状に応じて内燃機関の燃焼状態を推定する。図12(a)〜(c)に、内燃機関の負荷に対する排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)及びスモークの変化をそれぞれ示す。図12(a)〜(c)において、菱形の印が軽油、四角の印がA重油、三角の印が菜種油(バイオ燃料の代表)を示す。スモークは、排気ガス中の粒子状物質(PM)の量に対応する。すなわち、エンジン状態推定部110は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)及びスモーク(粒子状物質(PM))の測定値の少なくとも一つを排気ガスセンサ104から受けて、受け取った測定値から内燃機関の燃焼状態を推定することができる。この推定された内燃機関の燃焼状態又は窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、スモーク(粒子状物質(PM))の測定値自体に応じて、主、副燃料の少なくとも一方の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を制御することができる。
エンジン状態推定部110により推定される燃焼状態は燃料の性状を反映する。例えば、着火性の良い燃料を使用している場合は、噴射時期に対して早期に着火し、逆に着火性の悪い燃料の場合には、着火が遅れる傾向がある。また、着火性の良い燃料を使用している場合は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)が増加し、着火性の悪い燃料の場合には、一酸化炭素(CO)及びスモーク(粒子状物質(PM))が増加する。
したがって、エンジン状態推定部110は、燃料性状を検出する手段としての機能を有する。燃料性状の検出または推定は、性状が分かっている燃料と、この燃料を用いて所定の運転条件で運転したときの気筒内圧若しくは排気ガスの性状又はこれらに基づき算出されるパラメータとの関係を示すデータを予め記憶しておき、これを参照して、燃料の性状を検出または推定する。つまり、性状の分からない燃料で、所定の運転条件で運転を行い、このときの気筒内圧若しくは排気ガスの性状又はこれらに基づき算出されるパラメータを得て、前記の予め記憶していたデータを参照することにより、用いられた燃料の性状を推定する。
エンジン状態推定部110は、このようにして得られた着火時期、内燃機関の燃焼状態、燃料の性状、圧力センサ102の検出値及び排気ガスセンサ104の検出値等の運転条件に基づいて主、副燃料の少なくとも一方の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を制御するための制御信号をシステム制御部114へ出力する。
ディーゼル機関10の運転条件は、運転操作盤120に入力された条件に基づき定められ、これに基づき前述のエンジン状態推定部110および各センサによる検出値をフィードバックしてシステム制御部114によりディーゼル機関10が制御される。運転操作盤120には、ディーゼル機関10の始動・停止を行う運転スイッチ122、出力レベルを制御するスロットルレバー124が備えられ、また燃料の種類や搭載量、排気ガス等に関する規制値、運転モードを入力する条件設定部126を備える。燃料の種類としては、重油、軽油、菜種油、廃食油、パーム油やバイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等が想定されており、それぞれの代表的な性状が予め記憶されている。また、主燃料と副燃料にそれぞれにどの種類の燃料を使用するか、設定することができる。また、排気ガス規制値(NOx規制、CO規制、スモーク規制、SOx規制、CO2排出量規制)等の設定をすることができる。さらに、環境を重視する設定とするか、燃費を重視する設定とするかの運転モードの選択も行うことができる。操作者によりこれらの操作、入力がなされ、運航条件算出部128にて、これらの条件に適した、運航条件が算出される。具体的には、主、副燃料の比率、燃料の性状(セタン価、発熱量)、排気温度目標値、効率の目標値、負荷条件の算出を行う。
また、GPS130を搭載し、GPS(全地球測位システム)情報、レーダ情報等に基づき現在の位置を取得し、これも合わせて運航条件を算出してもよい。GPSまたはレーダにより、陸からの距離、目的地からの方位や距離、航行時の目標物との位置関係を取得することができ、これらに応じた運航条件を算出することができる。例えば、現在位置が港湾内、陸地から近い位置であれば、排気ガス浄化を優先した運転モードとし、外洋であれば、燃料消費率を優先した運転モードとするようにできる。航行時の目標物は、例えば灯台や、追従航行をしている場合であれば追従対象の他の船舶である。世界の国、地域、都市等の地理的位置や沿岸からの距離により排気ガス規制や環境規制等が異なる場合に、地理的条件に従った運航条件の算出ができる。また、GPS、レーダは、船舶用として一般に搭載されるものを共用することができる。
運航条件算出部128により算出された運航条件に基づき、運転条件設定部112において、ディーゼル機関10の運転条件がシステム制御部114に設定される。運転条件は、例えば、主、副燃料系ごとの燃料噴射パターン(噴射時期、噴射量)、着火時期、最高気筒内圧、図示平均有効圧、排気温度等の目標値とされる。この設定された条件に基づきシステム制御部114による制御が実行される。
また、運転条件設定部112においては、燃焼状態を示す上記パラメータ(着火時期、図示平均有効圧、最高気筒内圧)および排気温度、燃料流量等のパラメータをいくつか組み合わせて、現在使用されている燃料の性状により、一旦設定された運転条件を、現在の状況に合わせて変更するようにもできる。運転条件の変更は、例えば、主燃料と副燃料の噴射量の比を制御して行うものとできる。噴射量の比は、主燃料、副燃料の少なくとも一方の供給量を変更して制御する。また、主燃料より燃焼性または着火性のよい副燃料を用いる場合、副燃料の噴射時期を、燃焼の改善に対して効果的となるように制御するようにできる。主燃料の着火性が悪い場合は、主燃料系において、着火性の良い異種燃料を混合するようにできる。また、混合比の変更をするようにできる。異種燃料を混合するために、主燃料のタンクを複数備え、異種の燃料を別個のタンクに蓄え、必要に応じて混合して燃料噴射ポンプに供給するようにすることができる。また、更に、混合燃料を蓄えるタンクを備えるようにし、異種の燃料を所定の割合でこのタンクに供給し、ここから燃料噴射ポンプに燃料を供給してもよい。
前述したように、燃料としては重油、軽油、菜種油、廃食油、パーム油やバイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等が想定されるが、さらに異なる種類の燃料を混合した混合燃料を使用することも可能である。また、エンジン状態推定部110で燃焼状態を推定し、監視しているので、主燃料や副燃料の種類が不明であっても、燃焼状態に対応した主、副燃料系の制御を行うことで、運転可能である。例えば、着火時期が遅れ気味であると判断されたときには、副燃料の噴射量を増量したり、主、副燃料の少なくとも一方の噴射時期を早めたりすることで着火時期を適正値に制御するようにする。
システム制御部114は、エンジン状態推定部110での推定される内燃機関の運転条件、例えば着火時期、内燃機関の燃焼状態、燃料の性状、圧力センサ102の検出値及び排気ガスセンサ104の検出値等、及び運転条件設定部112において設定される内燃機関の運転条件に応じて、機械式燃料噴射ポンプ50、加圧ポンプ58、副燃料供給弁64及び燃料噴射弁26を制御することによって主燃料及び副燃料の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を調整する。副燃料の噴射時期、噴射量及び主燃料との噴射燃料比の制御は、システム制御部114により、副燃料供給弁64を制御することにより行われる。また、副燃料の燃料圧を制御するために、加圧ポンプ58の制御も行ってよい。機械式燃料噴射ポンプ50により、主燃料の噴射量及び副燃料との噴射燃料比を制御する場合には、カム92のクランク軸に対する位相を変更する機構を設ける。また、内燃機関への主燃料及び副燃料の噴射時期(タイミング)は、燃料噴射弁26の開閉制御により行うことができる。
本実施形態の燃料供給系48においては、主、副の燃料供給管54,62が、燃料噴射弁26の上流側で合流している。したがって、主燃料と副燃料とは別々に噴射することもできるし、同時に噴射することも可能である。いずれの場合にも、内燃機関の運転状態、例えば内燃機関の負荷や排気ガスの性状等に応じて、主燃料と副燃料との噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を調整することができる。
主燃料と副燃料を別々に噴射する場合、例えば、内燃機関が低負荷時の間において副燃料系において高圧の燃料供給が行われている時には、主燃料系は燃料を供給しないようにする。この場合には、燃料供給系48においては主、副の燃料系で燃料供給管54の一部および燃料噴射弁26を共有しているので、副燃料を供給しようとする際、この共有部分に前回噴射時の主燃料が残っていないこと、またはその量が少ないことが望ましい。このため、主、副の燃料供給管54,62の合流点は、燃料噴射弁26に近いことが望まれる。また、燃料噴射期間の最後に、副燃料を供給し、供給管54,62の合流点より下流の配管および燃料噴射弁26内に副燃料を満たしておき、次回の燃料噴射時においては、この燃料が噴射されるようにしてもよい。
また、副燃料と主燃料とを同時に噴射する場合、副燃料の供給量及び供給圧力を副燃料供給弁64の開閉及び開放量(開口量)により調整する。一方、主燃料の供給量及び供給圧力は機械式燃料噴射ポンプ50により調整することができる。例えば、内燃機関が低負荷の間において副燃料系において高圧の燃料供給を行いつつ、主燃料も混合して供給する場合には、主燃料の供給量及び供給圧力は機械式燃料噴射ポンプ50により調整しつつ、副燃料の供給量及び供給圧力を副燃料供給弁64の開閉又は開放量により調整することによって主燃料供給管54内の主燃料と副燃料の混合比及び圧力を調整することができる。また、内燃機関が高負荷になってきて主燃料に対する副燃料の燃料噴射比を下げるには、副燃料供給弁64の開閉時間又は開放量を小さくすればよい。なお、副燃料の供給量及び供給圧力の制御として副燃料供給弁64を用いずに、加圧ポンプ58の吐出圧すなわちコモンレール60の圧力制御と燃料噴射弁26開閉、開度調節により行うこともできる。
そして、主燃料供給管54内の主燃料と副燃料の混合比及び圧力を調整したうえで、燃料噴射弁26を電磁的に制御して開閉することによって、所望の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を得ることができる。
以下、具体的な制御の例を示す。例えば、主燃料としてバイオ燃料(菜種油)及び副燃料として軽油を用いる場合、内燃機関の負荷が低下するに伴って、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を高くする、又は噴射時期、噴射量の調整により主燃料のバイオ燃料(菜種油)の供給を止める制御を行う。特に、最大負荷(100%)の50%以下のときに、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を高くする、又は噴射時期、噴射量の調整により主燃料のバイオ燃料(菜種油)の供給を止めることが好適である。これによって、一酸化炭素(CO)及び粒子状物質(PM)を低下させることができる。一方、そのときの負荷が最大負荷(100%)の50%より大きければ、負荷が増加するに伴って、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を低くすることによって一酸化炭素(CO)及び粒子状物質(PM)を低下させることができる。このような制御により、排気ガスの性状の悪化を防ぐことができる。特に、内燃機関の負荷が50%以下になったときの急激な排気ガスの性状の悪化を防ぐことができる。
一方、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の低減に着目した場合、内燃機関の負荷が増加するに伴って、O2含有量の多い燃料に対するO2含有量の少ない燃料の噴射燃料比を高くしてもよい。例えば、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を高くする、又は噴射時期、噴射量の調整により主燃料のバイオ燃料(菜種油)の供給を止める制御を行う。特に、最大負荷(100%)の50%以下のときに、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を低くする、又は噴射時期、噴射量の調整により副燃料の軽油の供給を止めることが好適である。一方、そのときの負荷が最大負荷(100%)の50%より大きければ、負荷が増加するに伴って、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を高くすることが好適である。これによって、内燃機関の気筒内の局所的な高温部分の温度が低下し、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低下させることができる。特に、内燃機関の負荷が50%以下になったときの急激な排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の増加を防ぐことができる。
また、内燃機関の負荷に応じて、発熱量の多い燃料に対する発熱量の少ない燃料の噴射燃料比を調整してもよい。例えば、内燃機関の負荷が増加するに伴って、発熱量の多い燃料に対する発熱量の少ない燃料の噴射燃料比を高くしてもよい。例えば、主燃料を軽油やA重油及び副燃料をバイオ燃料(バイオディーゼル油、DME等)とした場合、主燃料に対する副燃料の噴射燃料比を高くする、又は噴射時期、噴射量の調整により主燃料の供給を止める制御を行う。これによって、内燃機関の気筒内の局所的な高温部分の温度が低下し、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低下させることができる。主燃料と副燃料を他の燃料とした場合でも、内燃機関の負荷に応じて、主燃料と副燃料の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を調整することによって排気ガスの性状を良好にすることができる。
また、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、粒子状物質(PM)の測定値に応じて噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を直接制御してもよい。例えば、内燃機関の負荷に対する窒素酸化物(NOx)の目標値を運航条件算出部128で算出し、運転条件設定部112によってシステム制御部114に設定する。システム制御部114は、エンジン状態推定部110から受けた窒素酸化物(NOx)の測定値と、設定された内燃機関の負荷に応じた目標値との関係に応じて、主燃料と副燃料の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を調整する。
例えば、窒素酸化物(NOx)の測定値と目標値との関係に応じて、O2含有量の多い燃料に対するO2含有量の少ない燃料の噴射燃料比を調整すればよい。例えば、主燃料としてバイオ燃料(菜種油)及び副燃料として軽油を用いる場合、最大負荷(100%)の50%以下のときには、窒素酸化物(NOx)の測定値が目標値よりも高ければ、燃焼性の変化に伴う一酸化炭素(CO)や粒子状物質(PM)の増加に配慮しつつ、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する軽油の噴射燃料比を低くする、又は噴射時期、噴射量の調整により副燃料の軽油の供給を止める制御を行う。窒素酸化物(NOx)の測定値が目標値よりも高くなければ、現在の噴射燃料比を維持する。これによって、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を目標値以下に維持するように噴射燃料比を調整できる。
また、主燃料としてバイオ燃料(菜種油)及び副燃料として軽油を用いる場合、最大負荷(100%)の50%以下のときには、一酸化炭素(CO)又は粒子状物質(PM)の測定値が目標値よりも高ければ、主燃料であるバイオ燃料(菜種油)に対する副燃料の軽油の噴射燃料比を高くする、又は噴射時期、噴射量の調整により主燃料のバイオ燃料(菜種油)の供給を止める制御を行う。一酸化炭素(CO)又は粒子状物質(PM)の測定値が目標値よりも高くなければ、現在の噴射燃料比を維持する。これによって、排気ガス中の一酸化炭素(CO)又は粒子状物質(PM)を目標値以下に維持することができる。
主燃料と副燃料を他の燃料とした場合でも、排気ガスの性状に応じて、主燃料と副燃料の噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を調整することによって排気ガスの性状を良好にすることができる。
また、主、副の燃料流量センサ106,108を設けた場合、計測された燃料流量が、そのときの負荷に応じた基準燃料より多い場合、より多くの燃料が消費されている、すなわち効率が悪いと判断し、噴射時期、噴射量及び噴射燃料比の少なくとも1つを変更してもよい。また、噴射時期、噴射量及び噴射燃料比のいずれかを変更した前後において、燃料流量が増加すれば、効率が悪くなったと判断し、変更した噴射時期、噴射量及び噴射燃料比を元に戻すか、元に戻る方向に変化させてもよい。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態では、主燃料系及び副燃料系に燃料の性状に応じて前処理を行う構成を有する。
図13は、本実施の形態における燃料供給系48および燃料噴射弁26を示す図である。本実施の形態における燃料供給系48には前処理部150,152が設けられている。なお、第1の実施の形態と同じ構成要素には図3と同じ符合を付して説明を省略する。
本実施の形態において、前処理部150は、主燃料系に設けられ、加熱ヒータ150a、フィルタ150b及び温度センサ150cを含んで構成される。また、前処理部152は、副燃料系に設けられ、加熱ヒータ152a、フィルタ152b及び温度センサ152cを含んで構成される。
加熱ヒータ150a,152aは、例えば、主燃料系及び副燃料系の配管の周囲に巻かれた、又は主燃料系及び副燃料系の配管内に挿入された抵抗加熱型ヒータとすることができる。加熱ヒータ150a,152aを抵抗加熱型ヒータとした場合、加熱ヒータ150a,152aは、ヒータ本体へ流れる電流を制御する制御回路も含むことが好適である。加熱ヒータ150a,152aの制御回路は、システム制御部114によって制御される。例えば、燃料タンク52,56から常温で供給される主燃料又は副燃料を60℃から100℃程度に加熱して燃料噴射弁26から内燃機関へ供給する。
また、加熱ヒータ150a,152aは、船舶等に搭載されたボイラの熱を利用したヒータ、又はエンジンの冷却水の排熱を利用したヒータ等としてもよい。加熱ヒータ150a,152aをこれらのヒータとした場合、加熱ヒータ150a,152aは、ボイラやエンジンから主燃料系及び副燃料系の配管へ熱を伝搬する流体の流量を制御する制御システムも含むことが好適である。加熱ヒータ150a,152aの制御装置は、システム制御部114によって制御される。
前処理部150,152は、加熱ヒータ150a,152aの温度制御を行うために温度センサ150c,152cを備えることが好適である。温度センサ150c,152cは、例えば、熱電対やサーミスタとすることができる。温度センサ150c,152cによって、加熱ヒータ150a,152aで加熱される主燃料及び副燃料の温度を測定し、その測定温度がシステム制御部114へ出力される。
また、フィルタ150b,152bは、主燃料及び副燃料に含まれる不純物や夾雑物(パーティクル等)を除去するために設けられる。フィルタ150b,152bは、対象物よりも細かい穴がたくさんあいたメッシュ状の多孔質(ろ材)を備え、主燃料及び副燃料から不純物や夾雑物を分離する。主燃料及び副燃料としてバイオ燃料や廃食油等が用いられることもあり得るので、フィルタ150b,152bを設けて燃料及び副燃料に含まれる不純物や夾雑物(パーティクル等)を除去することによって、主燃料系及び副燃料系における配管の詰まりや腐食を防ぎ、ディーゼル機関10での燃焼を安定させることができる。
図14は、本実施の形態における主燃料系および副燃料系の噴射条件の制御に関する制御ブロック図である。既出の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
システム制御部114は、温度センサ150c,152cから加熱ヒータ150a,152aによって加熱された主燃料及び副燃料の測定温度を受けて、運転条件設定部112で設定される内燃機関の運転条件、エンジン状態推定部110において推定される内燃機関における運転状態に応じて制御回路又は制御装置を制御して主燃料及び副燃料の温度を調整する。
一般的に、主燃料及び副燃料として利用される重油、軽油、菜種油、廃食油、パーム油やバイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等の燃料は、その温度が高くなるにつれて粘度が低下する性状を有する。燃料の粘度が低下すると、燃料噴射弁26からその燃料を噴射する際に燃料粒子をさらに微細にすることができ、燃料の着火性・燃焼性を向上させることができる。
そこで、システム制御部114は、燃料の基準燃料性状に応じて運転条件設定部112で設定される運転の目標値と、エンジン状態推定部110において推定される運転状態との相違に応じて、主燃料又は副燃料の温度を制御するようにしてもよい。例えば、着火性の良い燃料が使用されている場合は噴射時期に対して早期に着火し、逆に着火性の悪い燃料が使用されている場合には着火が遅れる傾向があるので、システム制御部114は、燃料の種類に応じて主燃料及び副燃料の性状に応じた温度調整を行う。具体的には、運航条件算出部128は、主燃料及び副燃料の種類又は主燃料及び副燃料の種類の組み合わせに応じて、主燃料及び副燃料に対する着火時期の目標値を決定する。例えば、これらのデータは予めメモリに登録しておけばよい。運転条件設定部112は、主燃料及び副燃料の種類又は主燃料及び副燃料の種類の組み合わせに応じた着火時期の目標値をシステム制御部114に設定する。システム制御部114は、加熱ヒータ150a,152aを制御して、主燃料及び副燃料の温度を調整する。エンジン状態推定部110は、主燃料及び副燃料の温度調整に伴う内燃機関の着火時期の変化を推定する。この推定結果をシステム制御部114へフィードバックすることによって、システム制御部114は着火時期の目標値と推定値とが一致するように主燃料及び副燃料の温度を調整する。もちろん、主燃料又は副燃料のいずれか一方のみについて、燃料の種類に応じた温度調整を行ってもよい。これによって、所望の着火時期が得られるように主燃料又は副燃料の粘度を調整することができる。
また、着火時期ではなく、主燃料及び副燃料の温度を直接の目標値として設定してもよい。具体的には、運航条件算出部128は、主燃料及び副燃料の種類又は主燃料及び副燃料の種類の組み合わせに応じて、着火時期を最適にする主燃料及び副燃料の温度の目標値を決定する。例えば、これらのデータは予めメモリに登録しておけばよい。運転条件設定部112は、主燃料及び副燃料の種類又は主燃料及び副燃料の種類の組み合わせに応じた主燃料及び副燃料の温度の目標値をシステム制御部114に設定する。システム制御部114は、加熱ヒータ150a,152aを制御して、主燃料及び副燃料の温度を調整する。主燃料及び副燃料の温度は温度センサ150c,152cによってシステム制御部114へフィードバックされる。システム制御部114は主燃料及び副燃料の温度の目標値と測定値とが一致するように主燃料及び副燃料の温度を調整する。もちろん、主燃料又は副燃料のいずれか一方のみについて、燃料の種類に応じた温度調整を行ってもよい。これによって、所望の着火時期が得られるように主燃料又は副燃料の粘度を調整することができる。
また、燃料の基準燃料性状と内燃機関の負荷に応じて、主燃料及び副燃料の温度の制御を行ってもよい。
例えば、運航条件算出部128は、主燃料及び副燃料の種類の指定に応じて、主燃料及び副燃料の種類毎に内燃機関の負荷と目標温度設定との対応データを決定する。例えば、これらのデータは予めメモリに登録しておけばよい。運転条件設定部112は、決定された主燃料及び副燃料の種類毎の内燃機関の負荷と目標温度設定との対応データをシステム制御部114に設定する。システム制御部114は、エンジン状態推定部110から内燃機関の負荷状態の推定値を受けて、その内燃機関の負荷に対応する主燃料及び副燃料の目標温度に一致するように主燃料及び副燃料の温度を加熱ヒータ150a,152aにより調整する。これにより、主燃料の性状及び副燃料の性状に応じた温度調整ができ、副燃料の粘度調整と、燃料混合又は気筒内への噴霧における主燃料と副燃料との混合の影響を配慮した制御を行うことができる。もちろん、主燃料のみを噴射する場合には主燃料の温度のみ調整し、副燃料のみを噴射する場合には副燃料の温度のみ調整してもよい。
具体的には、内燃機関が低負荷時である場合、副燃料の目標温度を現在値よりも高く設定する。この目標温度に合わせるように副燃料を加熱する制御を行うことによって、副燃料がより高温に加熱されて粘度が低下し、内燃機関における着火性・燃焼性を向上させることができる。また、内燃機関が高負荷になるにつれて、副燃料の目標温度を低下させる。この目標温度に合わせるように副燃料を加熱する制御を行うことによって、内燃機関の負荷に応じて燃料の温度調整ができ、着火性・燃焼性を最適化できる。また、燃料の加熱のための無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
このような制御を副燃料の圧力の制御や主燃料と副燃料との噴射燃料比の制御と併せて行ってもよい。これによって、内燃機関の着火性・燃焼性をより最適化できる。また、主燃料や副燃料を複数種で切り替えられる構成となっている場合、又は主燃料や副燃料を入れ替えて用いるような場合において、主燃料や副燃料の性状に応じて内燃機関の運転状態が最適となるように制御を行うことができる。
また、目標温度ではなくヒータによる目標加熱量に応じて制御を行ってもよい。この場合、運航条件算出部128は、主燃料及び副燃料の種類の指定に応じて、主燃料及び副燃料の種類毎に内燃機関の負荷と目標加熱量との対応データを決定する。例えば、これらのデータは予めメモリに登録しておけばよい。運転条件設定部112は、決定された主燃料及び副燃料の種類毎の内燃機関の負荷と目標加熱量の対応データをシステム制御部114に設定する。システム制御部114は、エンジン状態推定部110から内燃機関の負荷状態の推定値を受けて、その内燃機関の負荷に対応する主燃料及び副燃料の目標加熱量に一致するように主燃料及び副燃料の加熱ヒータ150a,152aの加熱量を調整する。もちろん、主燃料のみを噴射する場合には主燃料の加熱量のみ調整し、副燃料のみを噴射する場合には副燃料の加熱量のみ調整してもよい。
これにより、内燃機関の負荷に応じて燃料への加熱量が調整され、主燃料の性状及び副燃料の性状に応じた温度調整を素早く行うことができる。また、主燃料や副燃料を複数種で切り替えられる構成となっている場合、又は主燃料や副燃料を入れ替えて用いるような場合において、主燃料や副燃料の性状に応じて加熱制御を行うことができる。
また、主燃料と副燃料とを混合して噴射する場合、主燃料及び副燃料のいずれか一方のみを加熱した場合、主燃料と副燃料とを混合した際に燃料全体の温度が所望温度よりも低下してしまうおそれがある。そこで、主燃料の加熱処理と副燃料の加熱処理とを関連付けて行ってもよい。例えば、システム制御部114は、主燃料の加熱温度と副燃料の加熱温度を同じ温度となるように加熱ヒータ150a,152aを調整する。また、例えば、システム制御部114は、内燃機関における燃焼状況や排気ガスの性状に応じて決定される主燃料と副燃料との混合割合(噴射燃料比)に基づいて、主燃料及び副燃料の加熱温度を調整してもよい。すなわち、主燃料に対する副燃料の混合割合(噴射燃料比)が高いほど、主燃料と副燃料とを混合した際の燃料全体の温度に対する主燃料の温度の影響は小さくなるので、副燃料の加熱温度に対する主燃料の加熱温度を徐々に低くしてもよい。反対に、主燃料に対する副燃料の混合割合(噴射燃料比)が低いほど、主燃料と副燃料とを混合した際の燃料全体の温度に対する副燃料の温度の影響は小さくなるので、主燃料の加熱温度に対する副燃料の加熱温度を徐々に低くしてもよい。これによって、主燃料と副燃料とを混合した際に燃料全体としての温度を適切に調整することができる。なお、主燃料と副燃料の粘度に着目し、主燃料と副燃料の混合比(燃料噴射比)に応じて各々の加熱条件を調整してもよい。すなわち、主燃料と副燃料の混合比(燃料噴射比)に応じて、混合後の燃料が同じ粘度となるように、各々の加熱条件を関連して調整してもよい。
また、一般的に、主燃料及び副燃料として利用される重油、軽油、菜種油、廃食油、パーム油やバイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等の燃料は、燃焼性が良くなると窒素酸化物(NOx)が増加し、一酸化炭素(CO)及び粒子状物質(PM)が低下する性状を示す。そこで、システム制御部114は、排気ガスの性状の測定値と目標値との差に応じて、主燃料又は副燃料の温度を制御して燃焼性を調整し、排気ガスの性状を制御してもよい。
例えば、システム制御部114は、窒素酸化物(NOx)の測定値が目標値よりも高い場合には、現在供給されている主燃料及び副燃料の少なくとも一方の温度が現在値よりも低くなるように加熱ヒータ150a,152aを調整する。これにより、内燃機関における燃料の燃焼温度が低下して、窒素酸化物(NOx)の排出量を減少させることができる。また、システム制御部114は、一酸化炭素(CO)及び粒子状物質(PM)の測定値が目標値よりも高い場合には、現在供給されている主燃料及び副燃料の少なくとも一方の温度が現在値よりも高くなるように加熱ヒータ150a,152aを調整する。これにより、内燃機関における燃料の燃焼性が向上して、一酸化炭素(CO)及び粒子状物質(PM)の排出量を減少させることができる。
また、フィルタ150b,152bをそれぞれ加熱ヒータ150a,152aの下流側に設けることによって、フィルタ150b,152bが主燃料及び副燃料の粘度の影響を受け難くなる。これにより、フィルタ150b,152bのメンテナンスの周期を延ばすことができる。
また、フィルタ150b,152bをそれぞれ機械式燃料噴射ポンプ50及び加圧ポンプ58の上流側に設けることによって、機械式燃料噴射ポンプ50及び加圧ポンプ58が主燃料及び副燃料の粘度の影響を受け難くなる。これにより、燃料性状によらず安定した運転が可能となる。
また、フィルタメッシュをフィルタ150bよりもフィルタ152bにおいて細かく設定することによって、主燃料系よりも精密な副燃料系の構成要素の目詰まり等を効果的に抑制することができる。一方で、主燃料系のフィルタ150bが目詰まりし難くなり、フィルタ150bの交換・メンテナンスの周期を延ばし、ディーゼル機関10の運転を安定に行うことを可能とする。
なお、フィルタ152bが目詰まりした場合、主燃料系から供給される主燃料のみでディーゼル機関10の運転するものとしてもよい。これにより、燃料の着火性・燃焼性は低下するおそれがあるが、ディーゼル機関10の運転は維持することができる。
もちろん、第2の実施の形態の構成や制御は、第1の実施の形態における構成や制御と共に行ってもよい。
例えば、内燃機関の負荷に応じて主燃料と副燃料との燃料噴射比を変更する制御を行う際に、O2含有量の多い燃料を増加させる場合に、O2含有量の少ない燃料の温度をより上昇させる制御を行うとよい。これにより、燃料が膨張して体積当たりの重量が減るため、O2含有量の多い燃料の供給比が増加されて一酸化炭素(CO)又は粒子状物質(PM)を低下させることができる。
また、内燃機関の負荷の増加に伴ってO2含有量の多い燃料を減少させ、O2含有量の少ない燃料を増加させる場合や、窒素酸化物(NOx)濃度に応じて、副燃料の主燃料に対する比率を調整し窒素酸化物(NOx)濃度を下げる場合は、O2含有量の多い燃料の温度をより上昇させる制御を行うとよい。これにより、O2含有量の少ない燃料の供給比が増加し、内燃機関の気筒内の温度が低下して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低下させることができると共に、O2含有量の多い燃料の供給比の減少に伴う着火性の低下を温度の上昇により補うことができる。
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態では、主燃料系の燃料と副燃料系の燃料のいずれか供給できなくなった時に運転状態を切り換える構成又は警報を出力する構成を有する。
図15は、本実施の形態における燃料供給系48および燃料噴射弁26を示す図である。本実施の形態における燃料供給系48には、燃料タンク52,56に燃料センサ140,142がそれぞれ設けられている。なお、第1の実施の形態と同じ構成要素には図3と同じ符合を付して説明を省略する。
燃料センサ140,142は、機械式センサや光学式センサを使用して構成することができる。機械式センサとしては、例えば、燃料タンク52,56内にフロータ(浮き具)を設け、そのフロータの位置により燃料タンク52,56内の主燃料及び副燃料の液面を計測し、その位置に基づいて主燃料及び副燃料の残量を求める。光学式センサとしては、例えば、燃料タンク52,56に燃料の液面を計測するための透明窓を設け、その透明窓を通して光を燃料タンク52,56内に照射して、光の反射量や透過量を光電変換素子等で検出して主燃料及び副燃料の残量を求める。
図16は、本実施の形態における主燃料系および副燃料系の噴射条件の制御に関する制御ブロック図である。既出の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
システム制御部114は、燃料センサ140,142から主燃料及び副燃料の残量を示す信号を受けて、主燃料系及び副燃料系の運転状態を切り換える制御を行う。
例えば、燃料センサ140で得られる主燃料の残量が所定閾値以下となった場合、主燃料系の運転を停止させる。より具体的には、例えば、機械式燃料噴射ポンプ50におけるカム92とプランジャ74とが機械的に接触しないようにカム92又はプランジャ74を相対的に移動させる機構を設け、燃料センサ140で得られる主燃料の残量が所定閾値以下となった場合に機械式燃料噴射ポンプ50におけるカム92とプランジャ74とが機械的に接触しないように制御する。さらに、主燃料用の加熱ヒータ150aが設けられている場合には、加熱ヒータ150aによる加熱を停止させてもよい。これにより、主燃料系での無駄な電力消費を無くし、副燃料への気泡発生等を抑制することができる。
さらに、主燃料系における副燃料系との合流部65の手前側にバルブを設け、主燃料の残量が所定閾値以下となった場合にそのバルブを閉じることも好適である。これにより、主燃料の残量が少なくなったときに安全弁53を介して少量の主燃料の循環を維持することができ、機械式燃料噴射ポンプ50が空打されることがなくなる。したがって、機械式燃料噴射ポンプ50の損傷や劣化を防ぐことができる。
また、例えば、燃料センサ142で得られる副燃料の残量が所定閾値以下となった場合、副燃料系の運転を停止させる。より具体的には、例えば、加圧ポンプ58を停止させ及び副燃料供給弁64を閉状態とするように制御する。副燃料供給弁64の開口面積を制御できる場合には、完全に閉状態とするのではなく、副燃料の残量に応じて開口面積を小さくすることがより好適である。また、副燃料用の加熱ヒータ152aが設けられている場合には、加熱ヒータ152aによる加熱を停止させてもよい。これにより、副燃料系での無駄な電力消費を無くし、主燃料への気泡発生等を抑制することができる。
また、主燃料の圧力を高め、その噴射時間を短くしてもよい。これにより、主燃料の着火性・燃焼性を圧力の増加、すなわち主燃料の微細化で補うことができる。また、主燃料の増大を時間短縮により補うことができる。
これによって、主燃料及び副燃料のいずれか一方の残量が少なくなり、供給ができなくなった場合にも、ディーゼル機関10を残っている燃料によって引き続き運転することができる。この場合、エンジン状態推定部110における内燃機関における燃焼状態について推定及び運転条件設定部112における運転条件の設定も変更し、残っている燃料によってディーゼル機関10が適切に運転できるように制御することが好ましい。
また、主燃料及び副燃料の残量が所定閾値以下となった場合に、その燃料の供給を停止させると共に他方の燃料の温度を高める制御を行ってもよい。例えば、副燃料の供給を停止させた場合、主燃料の温度を現在より高める。これによって、残っている燃料の粘度を低下させて気化を促進させ、着火性の低下を防ぐことができる。
また、主燃料及び副燃料の残量が所定閾値以下となった場合に、その燃料の供給を停止させると共に他方の燃料の圧力を高め、噴射時間を短くする制御を行ってもよい。これによって、残っている燃料を微細化して噴射することができ、燃料の燃焼性を高め、着火性の低下を防ぐことができる。
また、システム制御部114は、燃料センサ140,142から主燃料及び副燃料の残量を示す信号を受けて、警報部144から警報を出力するものとしてもよい。この処理は、上記の他の処理と共に、又は上記の他の処理の代りに行えばよい。警報部144は、例えば、警報ランプを点灯・点滅させる発光装置や警報音を発信する音声出力装置とすることができる。また、警報部144は、有線又は無線によって警報信号を外部装置へ出力するネットワーク装置としてもよい。
例えば、燃料センサ140で得られる主燃料の残量が所定閾値以下となった場合、警報部144から主燃料が低減していることを示す警報を出力する。なお、主燃料に対する所定閾値は安全弁53の作動が保証できる燃料量の下限値とすることが好適である。これにより、燃料の補給、他の燃料への切り換えを容易に行うことができ、燃料不足による他の構成要素への悪影響を防ぐことができる。安全弁53の作動が保証できる燃料量の下限値とすることで、機械式燃料噴射ポンプ50の空打前に対処を行うことが可能となる。
また、例えば、燃料センサ142で得られる副燃料の残量が所定閾値以下となった場合、主燃料が低減していることを示す警報を出力する。これにより、ユーザや管理者は主燃料及び副燃料が低減していることを知ることができ、また警報信号によって外部装置を制御することができる。
なお、燃料センサ140,142の代わりに、流量センサ106,108を用いて主燃料及び副燃料の残量を検出するものとしてもよい。例えば、機械式燃料噴射ポンプ50を開状態にしたときに、流量センサ106で測定される流量が所定閾値以下となった場合に、システム制御部114は、主燃料系の運転を停止させる、又は警報を出力するものとしてもよい。また、例えば、加圧ポンプ58を駆動させ、副燃料供給弁64を開状態にしたときに、流量センサ108で測定される流量が所定閾値以下となった場合に、システム制御部114は、副燃料系の運転を停止させる、又は警報を出力するものとしてもよい。
また、本実施の形態では、主燃料系の燃料タンク52及び副燃料系の燃料タンク56にそれぞれ燃料センサ140,142を設ける構成としたが、いずれか一方のみを設け、主燃料又は副燃料のいずれか一方の残量に応じて運転状態を切り換える構成又は警報を出力する構成としてもよい。
上記第1から第3の実施の形態を含む本発明は、船舶用の内燃機関に適用することができる。本発明に係る燃料噴射装置を用いることにより、低質の石油系燃料や、石油系以外の、カーボンニュートラルな燃料など、着火性、発熱量等の性状の異なる様々な種類の燃料を使用可能な内燃機関を提供することができる。一つの内燃機関において、燃料の種類が変更されても、その燃料の性状に適した運転を行うことができる。燃料の種類としては、主燃料に重油、副燃料に菜種油、廃食油、パーム油等を用いることができる。また、主燃料及び副燃料に重油、軽油、菜種油、廃食油、パーム油やバイオディーゼル油、GTL(Gas To Liquid)、DME(ジメチルエーテル)等を適宜組み合わせて用いることができる。また、主、副系統とも同一の燃料を使用することもできる。船舶は、世界の多くの国、地域に航海し、寄港先で燃料を補給する必要がある。このため、幅広い性状の燃料に対応することが必要であるが、本発明によれば、それが実現できる。
副燃料系には、自動車用のコモンレールシステムを転用することができる。コモンレールの容量が不足する場合は、一つの内燃機関に対して複数のコモンレールシステムを備えるように、また1気筒に対して複数のシステムを備えるようにすることができる。
以上の燃料供給系48は、主、副の2系等の供給系を有するが、さらに副燃料供給系を複数とすることも可能である。複数の副燃料供給系は、それぞれ燃料圧が異なるようにしてもよく、またそれぞれ異なる燃料を供給するようにしてもよい。