<本発明の実施の形態>
以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施の形態における燃料噴射装置100の構成を示す図である。燃料噴射装置100は、内燃機関102に接続されて、内燃機関102に燃料を噴射して供給する。また、制御部104は、燃料噴射装置100及び内燃機関102を制御し、内燃機関102への燃料の供給、燃料の切り替え、燃料の燃焼タイミング等のシステムの制御を行う。
内燃機関102は、陸舶産業用内燃機関、例えばディーゼル機関とすることができる。本実施の形態では、内燃機関102は、船舶用ディーゼル機関として説明するが、これに限定されるものではなく、他の移動体、例えば鉄道車両、自動車等の内燃機関、また陸上に設置された例えば発電システム用の内燃機関等についても本発明を適用することができる。また、内燃機関102は、ディーゼル機関以外の間欠燃焼を行う機関(直噴式のオットー機関等)としてもよい。
内燃機関102は、複数の気筒が直列に配置されて構成される。各気筒にはピストン10が設けられる。ピストン10は、シリンダライナ12の円筒内周面に沿って摺動しつつ往復運動し、この往復運動が連接棒を介してクランク軸14の回転運動に変換される。シリンダライナ12は、エンジンフレームに支持され、シリンダライナ12とエンジンフレームの間には冷却水の流れる水ジャケットを設けてもよい。
エンジンフレームの上部には、シリンダヘッド16がヘッドボルトにより締結されており、これによりシリンダヘッド16がシリンダライナ12の上部の開口に当接し、密着させられている。ピストン10の頭頂面と、これに対向するシリンダヘッド16の下面と、シリンダライナ12の内周面により燃焼室が形成される。シリンダヘッド16の燃焼室の中央にあたる部分に、内燃機関102に対する燃料噴射弁30が設けられている。燃料噴射弁30の配置は、噴射される燃料の噴霧の拡がり方など、燃焼状況により適切に定められればよく、中央以外の部分に設けられてもよい。シリンダヘッド16には、燃焼室に通じる吸気ポートおよび排気ポートが形成されており、さらに、これらのポートの燃焼室に対する開口を開閉するための吸気弁、排気弁が配置される。吸気ポートは吸気管18に連通しており、排気ポートは排気管20に連通している。内燃機関102にはクランク軸14により駆動されるカム軸が設けられており、カム軸に設けられたカムによって吸気弁及び排気弁が駆動される。すなわち、クランク軸14に連動するカム軸の回転によりカムが動かされ、カムに動きに応じたタイミングで吸気弁および排気弁が駆動され、吸気及び排気が行われる。なお、カムに連動して、後述の高圧ポンプを駆動してもよい。
また、内燃機関102には、排気ガス再循環システム(EGR)22を設けてもよい。EGR22は、吸気管18と排気管20とをEGR通路22aによりEGR制御弁22cを介して連通させた構成とする。また、EGR通路22aに過給機22bを設けた構成としてもよい。また、過給機の後にEGR通路22aを設ける構成のみならず、吸気管18と排気管20とを連通させる構成であればEGR通路22aはどこに設けてもよい。これにより、燃焼後の排気ガスの一部を排気管20から取り出し、吸気管18へ導いて燃焼室内に再度吸気させることができる。EGR22により、排気ガス中のNOxの低減や部分負荷時の燃費を向上させることができる。EGR22による環流量(EGR率)は、一般的に15%程度であるが、最大で40%程度まで増加させてもよい。なお、EGR22aを設けない構成としてもよい。
また、シリンダヘッド16には、インジケータコック(計測用コック)を設け、インジケータコックにシリンダライナ12の内部の圧力等を計測するための圧力センサ24を設けてもよい。なお、燃焼圧を計測できるのであれば、シリンダライナ12に穴を開けて圧力センサ24を設けてもよいし、その他の態様で設けてもよい。圧力センサ24は、燃焼室内の圧力を検出し、後述の制御部104へ出力する。
圧力センサ24は、より簡易な方法として、後付け、または外付けのセンサとしてもよい。例えば、圧力センサ24は、燃焼室内の燃焼圧がシリンダヘッドボルトに作用する力に基づくセンサとしてもよい。より具体的には、シリンダヘッド16をエンジンフレームに対して締結するシリンダヘッドボルトに圧力センサ24を設けてもよい。この場合、シリンダヘッドボルトのボルトのナットとシリンダヘッド16の間に、圧力センサ24であるロードワッシャを配置する。ロードワッシャには、シリンダヘッド16の締め付け時に加えられる軸力と、気筒内圧を受けて発生する軸力が作用する。このロードワッシャに作用する力は、気筒内圧と良好な相関を有することが分かっており、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けたロードワッシャにより気筒内圧を測定することが可能である。
また、圧力センサ24としての歪みゲージを用いてもよい。圧力センサ24として用いる歪みゲージは、シリンダヘッドボルトの軸部に装着することが好適である。歪みゲージは、エンジンフレームとシリンダヘッド16の間の隙間に対応して装着される。しかし、シリンダヘッドボルトの延びを適切に検出できる位置であれば、どこに装着されてもよく、例えばシリンダヘッド16内のボルト軸部に装着されてもよい。シリンダヘッドボルトの伸びに作用する力は、気筒内圧と良好な相関を有していることが分かっており、気筒内圧を直接測定するのではなく、気筒の外部に設けた歪みゲージにより気筒内圧を測定することが可能である。ロードワッシャ型、歪みゲージ型のいずれも、気筒の外部に装着可能であるため、副燃料系としてコモンレールシステムを後付けする場合や、故障時や寿命時の取り替えがボルトの脱着だけで簡単にできる。また、ボルトの緩みや締め付けトルクが不足した場合に、異常が検出可能となる。
圧力センサ24は、内燃機関102の各気筒に設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。気筒配置がV型の機関であれば、左右のバンクにそれぞれ1つの圧力センサ24を設けることができる。気筒ごとに圧力センサ24を設けた場合、噴射条件の制御も気筒ごとに行うことができる。また、V型のバンクごとなど、いくつかの気筒ごとに圧力センサ24を設けた場合、バンクごと、その気筒群ごとに噴射制御を行うこともできる。
また、排気ガスの温度を測定するための温度センサや内燃機関102の出力を測定するための出力センサを設けてもよい。出力センサは、内燃機関102からの出力軸のねじれ等から出力値(パワー値)を計測するようにすればよい。これらのセンサの出力値は、制御部104へ出力される。
また、排気管20に、排気ガスの性状を計測する排気ガスセンサ26を設けてもよい。排気ガスセンサ26は、内燃機関102から排出される排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)及びスモークの濃度を測定する。スモークは、排気ガス中の粒子状物質(PM)の量を測定すればよい。これらは個別に設けることも組み合わせて設けることもできる。排気ガスセンサ26は、排気管20以外に各気筒に設けることができ、また代表となる1つまたは複数の気筒に対応して設けることもできる。排気ガスセンサ26からの出力信号は制御部104へ送られ、排気ガスの性状に応じて内燃機関102の運転状態を設定するために用いられる。さらに、給気側のEGR22の後段にEGR率を検出するための排気ガスセンサ28を設けてもよい。排気ガスセンサ28は、酸素(O2)センサ又は二酸化炭素(CO2)センサとすればよい。排気ガスセンサ28での計測結果は、制御部104に出力され、EGR率を求めるために用いられる。
燃料噴射装置100は、内燃機関102に燃料を供給するために設けられる。燃料噴射装置100は、燃料噴射弁30、一般燃料タンク32、エマルジョン燃料タンク34、燃料切替弁36、高圧ポンプ38、逆止弁40、一般燃料タンク42、エマルジョン燃料タンク44、燃料切替弁46、加圧ポンプ48、コモンレール50、副燃料供給弁52及び逆止弁54を含んで構成される。
燃料噴射装置100は、一般燃料とエマルジョン燃料とを切り替えて燃料噴射弁30から内燃機関102の燃焼室内に燃料を噴射するためのシステムとして設けられる。
燃料噴射弁30には、主燃料供給系と副燃料供給系の2つの燃料供給系が接続される。主燃料供給系は高圧ポンプ38を備え、このポンプは一般燃料タンク32又はエマルジョン燃料タンク34内の燃料を加圧して、逆止弁40を備えた燃料供給管を介して燃料噴射弁30に供給する。副燃料供給系は、燃料噴射弁30に供給される副燃料を蓄える一般燃料タンク42、エマルジョン燃料タンク44、副燃料を加圧し送る加圧ポンプ48、加圧ポンプ48により送られる加圧された燃料を蓄える蓄圧部としてのコモンレール50を含む。コモンレール50内に蓄えられた加圧燃料が、副燃料供給弁52及び逆止弁54を有する燃料供給管を介して燃料噴射弁30に送出される。
以下、主燃料系に含まれる一般燃料タンク32又はエマルジョン燃料タンク34から供給される燃料を主燃料として以下説明する。また、副燃料供給系に含まれる一般燃料タンク42又はエマルジョン燃料タンク44から供給される燃料を副燃料として説明する。
ここで、一般燃料は、炭化水素を主成分とする燃料であり、エマルジョン化していない燃料である。一般燃料は、少なくともエマルジョン燃料よりも着火性や燃焼性が高い燃料のことを意味する。例えば、一般燃料としては、水等により乳化されていないA重油、C重油、軽油、廃食油、菜種油等が挙げられる。
エマルジョン燃料は、一般燃料に水あるいは水と界面活性剤等を添加し、燃料に水を分散させた燃料である。エマルジョン燃料は、一般燃料と水の容積比(以下、エマルジョン率)でその性状が異なる。エマルジョン率は、例えば、燃料:水の容積比で70:30(EF30)、80:20(EF20)等が一般的であるが、条件に応じて50:50(EF50)程度まで増加させてもよい。エマルジョン燃料は、含有する水分の影響で燃焼温度が比較的低温になることから、さらに、NOxや粒子状物質(PM)を含むスモークの発生を抑える効果が期待できる。
なお、主燃料として一般燃料タンク32に蓄えられる一般燃料と副燃料として一般燃料タンク42に蓄えられる一般燃料は同種としてもよいし、異種の燃料を組み合わせてもよい。また、主燃料としてエマルジョン燃料タンク34に蓄えられるエマルジョン燃料と副燃料としてエマルジョン燃料タンク44に蓄えられるエマルジョン燃料は同種としてもよいし、異種の燃料を組み合わせてもよい。また、それぞれエマルジョン率(燃料と水の容積比)を同じにしてもよいし、異ならせてもよい。一般燃料が同種の場合、一般燃料タンク32と一般燃料タンク42とは兼ねることができ、エマルジョン燃料が同種の場合、エマルジョン燃料タンク34とエマルジョン燃料タンク44も兼ねることができる。
一般燃料タンク32は、一般燃料を貯蔵する容器である。エマルジョン燃料タンク34は、エマルジョン燃料を貯蔵する容器である。一般燃料タンク32とエマルジョン燃料タンク34は、燃料切替弁36によって切り替えられて配管に接続される。燃料切替弁36は、燃料切替手段に相当し、後述する燃料切替設定手段64により切り替えの制御がされる。配管に供給された燃料(一般燃料又はエマルジョン燃料)は、高圧ポンプ38により加圧されて逆止弁40を介して燃料噴射弁30に送られる。高圧ポンプ38は、機械式ポンプ又は電子式ポンプとすることができる。例えば、高圧ポンプ38は、ピストン10に連動するカムによって燃料を加圧して出力する機械式燃料噴射ポンプとしてもよい。なお、逆止弁40より下流へ送り出された主燃料は、逆止弁40によって高圧ポンプ38側へ逆流することが防がれている。また、逆止弁40を合流部Xの近傍に設けることにより、燃料注入により加圧される部分の容積を小さくし、燃料圧の高圧化とその応答性(加圧速度)を向上させて燃料を噴射させることができる。また、逆止弁40は、デリバリバルブとしてもよい。
一般燃料タンク42は、一般燃料を貯蔵する容器である。エマルジョン燃料タンク44は、エマルジョン燃料を貯蔵する容器である。一般燃料タンク42とエマルジョン燃料タンク44は、燃料切替弁46によって切り替えられて配管に接続される。燃料切替弁46は、燃料切替手段に相当し、後述する燃料切替設定手段64により切り替えの制御がされる。配管に供給された燃料(一般燃料又はエマルジョン燃料)は、加圧ポンプ48で加圧、送出され、圧力が高い状態でコモンレール50に蓄えられる。加圧ポンプ48は、機械式ポンプ又は電子式ポンプとすることができる。コモンレール50から副燃料供給弁52に送られる。副燃料供給弁52は、燃料噴射手段に相当する。副燃料供給弁52を開放することによって、合流部Xより下流に副燃料が供給される。副燃料供給弁52は、電気的に制御される電気制御式とすることが好適であるが、これに限定されるものではなく、機械制御式としてもよい。ただし、副燃料供給弁52として電気的に制御できるものを付加することにより、後述するように自動車用のコモンレールシステムの導入が容易となる。また、副燃料供給弁52を電気制御式とすることで、噴射条件(燃料噴射タイミング、燃料噴射期間(噴射量)、噴射圧力、噴射パターン等)を高精度で制御可能となり、制御の自由度が拡大する。特に、副燃料のプレ噴射を主噴射のタイミングに合わせて高い精度で制御する必要がある場合に有利である。また、副燃料供給弁52は、単なる開閉機能のみを有した構成とし、副燃料の噴射タイミングや噴射条件等は燃料噴射弁30や他の手段に委ねることもできる。
なお、逆止弁54より下流へ送り出された燃料は、逆止弁54によって副燃料供給弁52側へ逆流することが防がれている。また、逆止弁40により高圧ポンプ38側に流出することが防がれている。また、逆止弁40や逆止弁54を合流部Xの近傍に設けることにより、燃料注入により加圧される部分の容積を小さくし、燃料圧の高圧化とその応答性(加圧速度)を向上させて燃料を噴射させることができる。
コモンレール50を含む副燃料系は、自動車用のシステムを転用することができる。自動車用の需要は、船舶用のそれよりも多く、量産効果により副燃料系導入のコストを抑制することができる。また、副燃料系に軽油を用いるのであれば、自動車用のシステムを導入するための改造が少なくなり、耐久性も維持でき、更に導入コストの抑制が期待できる。また、自動車用のシステムが、船舶用としては容量が不足する場合には、システムを複数備え、1気筒に複数のコモンレールシステムから燃料を噴射するようにできる。また、燃料噴射量を増加するために、コモンレール50の容積を増加して対応してもよい。
このように、主燃料系においては、燃料の加圧は、燃料噴射のたびにそれぞれ独立して行われるのに対し、副燃料系においては、燃料は予め加圧されて、加圧された状態で蓄えられており、燃料噴射のタイミングで予め加圧されていた燃料が供給される。主燃料系においては、燃料噴射の初期においては、圧力が低く、噴射される燃料の粒子が比較的大きい。一方、副燃料系においては、燃料は予め加圧されているので、噴射期間の初期から高い圧力で噴射することが可能であり、副燃料供給弁52により噴射のタイミングも制御し易く、噴射時の燃料の噴射量や噴射圧力も制御が容易となる。また、主燃料より高い噴射圧力で副燃料を噴射することにより、副燃料の粒子は主燃料より微細な状態で噴射される。これにより、副燃料の着火性や燃焼性を高めることができる。特に、副燃料系の副燃料供給弁52の制御により起動時や低負荷時の着火性の悪化を改善することができる。同種の燃料を副燃料系により噴射しても、十分な着火性を得られない場合に、主、副燃料に異種の燃料を使用することもできる。この場合、副燃料に着火性の良い燃料を使用し、副燃料を火種として、着火性の悪い燃料を燃焼させるようにすることができる。例えば、主燃料をエマルジョン燃料とし、副燃料を一般燃料とする。
また、コモンレール50内の圧力は、変更することが容易である。具体的には、例えば、加圧ポンプ48に電気式のポンプを採用した場合は、ポンプを駆動するモータの回転速度を変更して、コモンレール50内圧力を調整することができる。また、加圧ポンプ48として機械式のポンプを用いる場合には、コモンレール50から一般燃料タンク42又はエマルジョン燃料タンク44に副燃料を戻すリターン経路に調圧弁を設け、この調圧弁が開放する圧力を変更して、コモンレール50内圧力を調整することができる。
なお、逆止弁40は、高圧ポンプ38から合流部Xまでの間の配管の半分の位置よりも合流部Xに近い位置に配置することが好適である。また、逆止弁54は、副燃料供給弁52から合流部Xまでの間の配管の半分の位置よりも合流部Xに近い位置に配置することが好適である。特に、副燃料はコモンレール50(蓄圧部)によって予備的に加圧された状態で燃料噴射弁30へと導入され、燃料噴射弁30から気筒内へ主燃料よりも高い圧力で噴射されるが量が少ないので、逆止弁40及び逆止弁54の位置による圧力低下の影響を受け易い。したがって、コモンレール50のような蓄圧部を用いた燃料供給系を有する場合には、逆止弁40及び逆止弁54を上記のように配置することによる効果が顕著となる。
燃料噴射弁30は、内燃機関102の燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射手段である。燃料噴射弁30は、後述する燃料噴射制御手段66によって制御され、燃料の噴射タイミング(噴射時期)、噴射期間(噴射量)を制御しつつ燃料を内燃機関102に供給することを可能とする。
なお、燃料噴射弁30は、燃料の噴射タイミング(噴射時期)、噴射期間(噴射量)を制御できるものであれば電気制御式燃料噴射弁又は機械制御式燃料噴射弁のいずれでもよいが、電気制御式燃料噴射弁とすることが好適である。電気制御式燃料噴射弁は、気筒内に燃料を噴射する噴射弁として機能すると共に、主燃料及び副燃料の供給を制御する燃料制御弁としても機能する。電気制御式燃料噴射弁は、制御信号を受けて、噴射ノズルから制御信号で示される噴射量の燃料を噴射する。噴射された燃料は、細かな粒子(液滴)となってシリンダ内を拡がり、ピストン10による圧縮で気筒内の温度が上昇すると自己着火して燃焼する。
制御部104は、運転設定手段60、内燃機関制御手段62、燃料切替設定手段64、燃料噴射制御手段66及びEGR率調整手段68を含んで構成される。なお、制御部104は、主として内燃機関102を制御する制御部と、主として燃料噴射を制御する制御部に分けることも可能である。
運転設定手段60は、船舶の操作者から、燃料噴射装置100及び内燃機関102が搭載された船舶の運航条件の入力を受け付ける。運転設定手段60には、内燃機関102の運転開始・停止を行う運転スイッチ、出力レベルを制御するスロットルレバー等が備えられ、また燃料の種類や搭載量、排気ガス等に関する規制値、運転モードを入力する条件設定部を備える。運転設定手段60を用いて、一般燃料及びエマルジョン燃料の代表的な性状が予め入力及び記憶される。主燃料系と副燃料系に対してどの種類の一般燃料及びエマルジョン燃料とを選定するかも設定することができる。また、排気ガス規制値(NOx規制、CO規制、スモーク規制)等の設定をすることができる。さらに、環境を重視する設定(環境モード)とするか、燃費を重視する設定(エコモード)とするかの運転モードの選択も行うことができる。
また、GPSを搭載し、GPS(全地球測位システム)情報、レーダ情報等に基づき現在の位置を取得し、これも合わせて運航条件を算出してもよい。GPSまたはレーダにより、陸からの距離、目的地からの方位や距離、航行時の目標物との位置関係を取得することができ、これらに応じた運航条件を算出することができる。例えば、現在位置が港湾内、陸地から近い位置であれば、排気ガス浄化を優先した運転モード(環境モード)とし、外洋であれば、燃費を優先した運転モード(エコモード)とするようにできる。さらに、船速度を計測する手段を設け、船速度に応じた制御を可能としてもよい。同様に、内燃機関102の機関回転数を計測する手段を設け、機関回転数に応じた制御を可能としてもよい。
例えば、所定の条件としてGPSにより船舶が港に近づいたと判定されたとき、又は、船速度或いは機関回転数が低下して船舶が停止する可能性が高いと判定されたときに、主燃料系及び副燃料系の燃料をエマルジョン燃料から一般燃料に切り替える制御を行うことができる。これについては後述する。
内燃機関制御手段62は、運転設定手段60により設定された運転条件、圧力センサ24、排気ガスセンサ26等のセンサからの計測値を受け、これらの条件に適した内燃機関102に対する制御を行う。内燃機関制御手段62は、内燃機関102に対して、後述の燃料切替設定手段64、燃料噴射制御手段66及びEGR率調整手段68で行われる制御以外の制御を行う。
燃料切替設定手段64は、運転設定手段60により設定された運転条件、圧力センサ24、排気ガスセンサ26等のセンサからの計測値を受け、これらに基づき燃料切替弁36及び燃料切替弁46の切り替え制御を行う。燃料切替設定手段64により、主燃料系において一般燃料タンク32からの一般燃料の供給とエマルジョン燃料タンク34からのエマルジョン燃料の供給とが切り替えられる。また、副燃料系において一般燃料タンク42からの一般燃料の供給とエマルジョン燃料タンク44からのエマルジョン燃料の供給とが切り替えられる。なお、燃料切替設定手段64は、運転設定手段60で設定された運転条件とは独立して、例えば手動で燃料の切り替えを設定することも可能である。
EGR率調整手段68は、運転設定手段60により設定された運転条件、圧力センサ24、排気ガスセンサ26等のセンサからの計測値を受け、これらに基づきEGR22によるEGR率を設定する。
燃料噴射制御手段66は、運転設定手段60により設定された運転条件、圧力センサ24、排気ガスセンサ26等のセンサからの計測値、さらに燃料切替設定手段64による燃料の切り替え設定及びEGR率調整手段68によるEGR率の設定値を受けて、これらに基づき燃料の噴射タイミング、噴射量等の噴射条件の制御を行う。
以下、制御部104による燃料噴射装置100及び内燃機関102の制御について説明する。
まず、内燃機関102においてEGR22を使用した場合、エマルジョン燃料及びEGR22を使用した場合、並びに、エマルジョン燃料、EGR22及びプレ噴射を行った場合の燃焼状態について説明する。
内燃機関102の燃焼試験では、内燃機関102の筒内圧力P、燃料噴射圧力Pfuel及び熱発生率dQ/dθ(ただし、熱量Q、クランク角度θ)を測定した。ここで、実験に使用した内燃機関102は、小型高速4サイクルディーゼル機関(単気筒、無過給、最大出力12kw/2600rpm、ALV製)である。
図2は、内燃機関102においてEGR22を使用し、EGR率を変化させたときの燃焼解析の結果を示す。燃料切替設定手段64によって燃料切替弁36を一般燃料タンク32側に切り替えて、主燃料として一般燃料を選択した。また、燃料噴射制御手段66によって副燃料供給弁52から副燃料を供給しないようにして、主燃料のみを使用して燃焼試験を行った。一般燃料は軽油とした。また、EGR率調整手段68によってEGR率を0、10%、20%及び30%に調整した。
図2では、EGR22を使用しなかったときを太実線、EGR率10%のときを破線、20%のときを細実線、30%のときを点線で示した。図2に示されるように、EGR率を高めるにつれて内燃機関102の着火タイミングが遅れ、燃焼状態が悪化した。
図3は、内燃機関102においてエマルジョン燃料を選択し、EGR率を変化させたときの燃焼解析の結果を示す。燃料切替設定手段64によって燃料切替弁36を切り替えて主燃料としてエマルジョン燃料を選択した。ここでは、エマルジョン燃料は、軽油と水を容積比で70:30(EF30と示す)とした。また、燃料噴射制御手段66によって副燃料供給弁52から副燃料を供給しないようにして、主燃料のみを使用して燃焼試験を行った。また、EGR率調整手段68によってEGR率を0、10%、20%及び30%に調整した。
図3では、比較のために一般燃料(軽油)を選択し、EGR22を使用しなかったときを太実線で示した。また、エマルジョン燃料(EF30)を選択し、EGR22を使用しなかったときを太破線で示した。また、エマルジョン燃料(EF30)を選択し、EGR率を10%にしたときを細実線、20%にしたときを点線、30%にしたときを細破線で示した。図3に示されるように、主燃料してエマルジョン燃料を使用することによって、一般燃料を使用したときに比べて内燃機関102の着火タイミングが大きく遅れ、燃焼状態が悪化した。また、エマルジョン燃料を使用したときにEGR率を高めるにつれて内燃機関102の燃焼速度が遅くなり、燃焼状態はさらに悪化した。
図4は、内燃機関102においてエマルジョン燃料を選択してメイン噴射に加えてプレ噴射を行い、EGR率を変化させたときの燃焼解析を行った結果を示す。燃料切替設定手段64によって燃料切替弁36を切り替えて主燃料としてエマルジョン燃料を選択した。エマルジョン燃料は、軽油と水を容積比で80:20(EF20と示す)とした。また、燃料をメイン噴射する前に少量のエマルジョン燃料を噴射するプレ噴射を行った。さらに、また、EGR率調整手段68によってEGR率を0、10%、20%及び30%に調整した。
ここで、プレ噴射とは、内燃機関102において主な燃焼に使用される燃料を噴射するメイン噴射を行う前に少量の燃料を予め噴射することをいう。具体的には、プレ噴射とは、図5の燃料噴射のタイミングチャートに示すように、メイン噴射の前であって、繰り返し行われるメイン噴射の半周期(T/2)より短い時間だけ前に燃料を噴射することをいう。プレ噴射は、パイロット噴射とも呼ばれる。なお、プレ噴射は、主噴射による燃料の供給と一部が重なるタイミングでおこなってもよい。また、プレ噴射は、複数回行ってもよい。
また、プレ噴射は、一般燃料としてもよいし、エマルジョン燃料としてもよい。ここで、本実施の形態では、主燃料系と副燃料系が別系統として設けられており、主燃料として一般燃料及びエマルジョン燃料が選択でき、副燃料として主燃料とは独立して一般燃料及びエマルジョン燃料が選択できる。したがって、主燃料を一般燃料又はエマルジョン燃料としたメイン噴射と副燃料を一般燃料又はエマルジョン燃料としたプレ噴射とを適宜組み合わせることができる。
特に、コモンレール50、副燃料供給弁52及び逆止弁54を備えた副燃料系とすることによって、内燃機関102に噴射する燃料を少量ずつ素早く切り替えることができる。したがって、主燃料を一般燃料としたメイン噴射と副燃料をエマルジョン燃料としたプレ噴射を組み合わせたり、主燃料をエマルジョン燃料としたメイン噴射と副燃料を一般燃料としたプレ噴射を組み合わせたりすることが可能となる。
プレ噴射は、内燃機関102の上死点前25°〜15°(クランク角度では−25°〜−15°)で行うことが好適である。予め燃料の着火性(例えば、一般燃料と水の容積比を示すエマルジョン率等)が判明している場合は、その性状に合わせてプレ噴射の燃料噴射量や燃料噴射のタイミングを設定するようにしてもよい。例えば、エマルジョン率が低く、着火性の良い燃料の場合はクランク角度の上死点から15°前にプレ噴射を行い、エマルジョン率が高く、着火性がより悪い燃料の場合は上死点から25°前のプレ噴射を行うことが好適である。また、主噴射のタイミングを変えてもよい。燃焼解析では、メイン噴射を上死点前7度に行い、プレ噴射を上死点前17度において行った。
図4では、比較のために一般燃料(軽油)を選択し、EGR22及びプレ噴射を使用しなかったときを太実線で示した。また、エマルジョン燃料(EF20)を選択し、プレ噴射を行ったときを太破線で示した。また、エマルジョン燃料(EF20)を選択し、プレ噴射を行い、EGR率10%のときを細実線、20%のときを点線、30%のときを細破線で示した。図4に示されるように、主燃料をエマルジョン燃料としてメイン噴射を行った場合であっても、プレ噴射を行うことによって内燃機関102の着火タイミングの遅れを改善することができ、プレ噴射を行わない場合(図3)に比べて燃焼状態が良好化した。また、プレ噴射を行った場合であっても、エマルジョン燃料を使用したときにEGR率を高めるにつれて内燃機関102の燃焼速度が遅くなり、燃焼状態が悪化した。
図6〜図9は、内燃機関102の燃焼試験から得られた排気ガス中のNOx、スモーク、COの濃度及び熱効率の変化割合を示す。
図6は、内燃機関102のEGR率の変化に対する排気ガス中のNOxの濃度の変化を測定した結果を示す。図6において、黒丸+実線は一般燃料(軽油)によるメイン噴射のみを行った場合、黒三角+点線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射のみを行った場合、黒四角+破線はエマルジョン燃料(EF30)によるメイン噴射のみを行った場合、白菱形+一点鎖線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射及びプレ噴射を行った場合を示している。
EGR率が高くなるにつれて、いずれの条件においてもNOxは低減する効果があった。また、EGR率が20%以下の範囲では燃料のエマルジョン率が高くなるにつれてNOxは低減したが、EGR率が20%を超えるとエマルジョン率を高めてもNOxの低減効果は低くなった。また、エマルジョン燃料を用いた場合、メイン噴射とプレ噴射を組み合わせたとしてもNOxの低減効果に大きな違いはなかった。
図7は、内燃機関102のEGR率の変化に対する排気ガス中のスモークの濃度の変化を測定した結果を示す。図7において、黒丸+実線は軽油によるメイン噴射のみを行った場合、黒三角+点線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射のみを行った場合、黒四角+破線はエマルジョン燃料(EF30)によるメイン噴射のみを行った場合、白菱形+一点鎖線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射及びプレ噴射を行った場合を示している。
一般燃料(軽油)によるメイン噴射を行った場合、EGR率が高くなるにつれてスモークの濃度が増加した。一方、エマルジョン燃料によるメイン噴射のみを行った場合、エマルジョン率(EF20,EF30)によらず、一般燃料のメイン噴射のみを行った場合に比べてスモークの濃度は低減された。このとき、EGR率を増加させてもスモークの濃度の増加はみられなかった。エマルジョン燃料を用いた場合、メイン噴射に加えてプレ噴射を行うと、プレ噴射を行わない場合に比べてスモークの濃度は増加した。このとき、EGR率を増加させるとスモークの濃度が増加した。
図8は、内燃機関102のEGR率の変化に対する排気ガス中のCOの濃度の変化を測定した結果を示す。図8において、黒丸+実線は軽油によるメイン噴射のみを行った場合、黒三角+点線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射のみを行った場合、黒四角+破線はエマルジョン燃料(EF30)によるメイン噴射のみを行った場合、白菱形+一点鎖線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射及びプレ噴射を行った場合を示している。
一般燃料(軽油)によるメイン噴射を行った場合、EGR率が10%まではCOは大きく増加しないが、10%を超えるとCOの濃度が急激に増加した。また、エマルジョン燃料によるメイン噴射のみを行った場合、エマルジョン率(EF20,EF30)が増加するにつれてCOの濃度は増加した。また、このときもEGR率を増加させるとCOの濃度も増加した。エマルジョン燃料を用いた場合、メイン噴射に加えてプレ噴射を行うと、プレ噴射を行わない場合に比べてCOの濃度は減少した。このときも、EGR率を増加させるとCOの濃度も増加した。
図9は、内燃機関102のEGR率の変化に対する熱効率の変化割合の関係を示す。図9において、黒丸+実線は軽油によるメイン噴射のみを行った場合、黒四角+破線はエマルジョン燃料(EF30)によるメイン噴射のみを行った場合、白菱形+一点鎖線はエマルジョン燃料(EF20)によるメイン噴射及びプレ噴射を行った場合を示している。
一般燃料(軽油)によるメイン噴射を行った場合、EGR率を増加させると熱効率が僅かに低下した。一方、エマルジョン燃料によるメイン噴射のみを行った場合、EGR率を増加させるにつれて熱効率は大きく低下した。一方、エマルジョン燃料を選択し、メイン噴射に加えてプレ噴射を行った場合、EGR率の増加に伴う熱効率の低下は抑制された。
本実施の形態における燃料噴射装置100では、図6〜図9に示す関係に基づいて、燃料の選択、EGR率、プレ噴射の有無・噴射タイミング等の内燃機関102の運転条件を設定する。
例えば、内燃機関102の運転モードが環境を重視してNOx濃度を排出目標値以下とする設定(環境モード)にされた場合について説明する。一般燃料を用いた場合、EGR率を高めることによって排気ガス中のNOxの濃度を低減させることができるが、排気ガス中のスモークの濃度が増加してしまう。そこで、エマルジョン燃料とEGRを組み合わせることによって、スモークの濃度を増加させずに、NOxを大幅に低減することができる。しかしながら、COの濃度が増加すると共に、運転時の着火遅れが大きくなり、内燃機関102の運転が不安定となる。そこで、エマルジョン燃料とEGRを組み合わせると共に、メイン噴射に加えて少量の燃料のプレ噴射を行うことによって、スモークの濃度の多少の増加はみられるが、NOxを大幅に低減したまま、COの増加を抑制しつつ、着火遅れを無くし、着火時期を改善することが可能である。
具体的には、図10のフローチャートに示すように制御を行うことが好適である。ここでは、内燃機関102を起動して安定運転状態となった後にNOx低減モードに移行する一例について説明する。
ステップS10では、運転設定手段60で運転開始が設定され内燃機関102が起動される。内燃機関102の起動時には、着火特性の悪いエマルジョン燃料を用いると運転が不安定となるので、メイン噴射を一般燃料とする。燃料切替設定手段64は、燃料切替弁36に制御信号を出力し、主燃料系の一般燃料タンク32から一般燃料が高圧ポンプ38へ供給されるように燃料切替弁36を切り替える。燃料噴射制御手段66は、所定のクランク角度において燃料噴射弁30を開状態とし、内燃機関102の燃焼室に一般燃料をメイン噴射させる。これにより、内燃機関102の燃焼室内で一般燃料の燃焼が行われる。
このとき、副燃料系の一般燃料タンク42及びエマルジョン燃料タンク44からの燃料の供給は行わなくてもよいし、メイン噴射に加えてプレ噴射を行ってもよい。プレ噴射をして内燃機関102を起動してもよく、主燃料系の燃料が着火性が悪い燃料であるときは起動がし易くなる。プレ噴射は、内燃機関102の燃焼室内での着火性を高めるためには一般燃料を用いて行うことが好ましいが、エマルジョン燃料を用いて行ってもよい。プレ噴射を行う場合、燃料切替設定手段64によって燃料切替弁46に制御信号を出力し、副燃料系の一般燃料タンク42又はエマルジョン燃料タンク44を選択する。加圧ポンプ48により燃料は加圧されてコモンレール50に蓄積される。燃料噴射制御手段66は、所定のクランク角度において副燃料供給弁52及び燃料噴射弁30を開状態とすることによって副燃料系の燃料をプレ噴射させる。プレ噴射の噴射タイミングは、クランク角度において、例えば、上死点から−25°〜−15°の角度範囲で行うことが好適である。
なお、副燃料供給弁52が電気制御式燃料噴射弁である場合、エマルジョン燃料をプレ噴射させると燃料中の水分によって故障が生じ易くなる。そこで、プレ噴射に一般燃料を用いることによって副燃料供給弁52の故障の発生を抑制することができる。特に、一般燃料として良質の軽油やA重油を用いることによって、副燃料供給弁52の故障の発生をより抑制することができる。なお、軽油やA重油に代えて、GTL(Gas To Liquid)やBDF(登録商標)(バイオディーゼル燃料)等のセタン価が高い燃料することも好適である。
また、エマルジョン燃料を副燃料系に使用する場合、コモンレール50、燃料噴射制御手段66及び逆止弁54を有する構成であるので燃料噴射弁30の近くでエマルジョン燃料を供給することが可能である。これにより、エマルジョン燃料に含まれる燃料と水とが分離する前に内燃機関102の燃焼室内に噴射させることができる。また、一般燃料とエマルジョン燃料の切り替えも迅速に行うことができる。なお、水100%を副燃料系から供給して、主燃料系から供給される一般燃料又はエマルジョン燃料と合流させ、エマルジョン化して噴射することも可能である。
また、内燃機関102の起動時においてもNOxを低減したい場合、EGR22を使用してもよい。EGR22を使用する場合、EGR率調整手段68は、設定されたEGR率となるようにEGR22を制御する。ここで、EGR率は、運転設定手段60で設定された条件に応じて設定することが好適である。例えば、内燃機関102の起動時におけるNOxの排出量の目標値が設定されている場合、EGR率調整手段68は、排気ガスセンサ26によって計測される排気ガス中のNOxの濃度が目標値以下となるようにEGR率を設定する。また、運転設定手段60に含まれるGPSにより得られる現在位置から、その地域に対して規制上限として定められているNOxの濃度の目標値以下となるようにEGR率を設定してもよい。これらの内燃機関102の起動処理を自動制御化してもよい。
ステップS12では、内燃機関102が起動し、安定運転状態となったか否かが判定される。内燃機関制御手段62は、内燃機関102が安定運転状態となっていればステップS14に制御を移行させ、そうでなければ安定運転状態となるまで待機する。内燃機関102の燃焼が安定か否かは、圧力センサ24による圧力の計測値が安定した燃焼パターンを示しているか否かにより判定することができる。
ステップS14では、排気ガス中のNOxの濃度を低減させた環境モードの運転に移行する。内燃機関102はすでに安定運転状態となっているので、メイン噴射を着火特性の悪いエマルジョン燃料に切り替えても運転が不安定となる可能性は低いので、メイン噴射をエマルジョン燃料に切り替える。なお、燃料切替設定手段64は、手動でも切り替え可能である。燃料切替設定手段64は、燃料切替弁36に制御信号を出力し、主燃料系のエマルジョン燃料タンク34からエマルジョン燃料が高圧ポンプ38へ供給されるように燃料切替弁36を切り替える。燃料噴射制御手段66は、所定のクランク角度において燃料噴射弁30を開状態とし、内燃機関102の燃焼室にエマルジョン燃料をメイン噴射させる。これにより、内燃機関102の燃焼室内でエマルジョン燃料の燃焼が行われる。
さらに、EGR22を使用してNOxの低減を行う。EGR率調整手段68は、排気ガスセンサ26によって計測される排気ガス中のNOxの濃度が運転設定手段60で環境モードにおけるNOxの濃度として設定された目標値以下となるようにEGR率を設定する。そして、EGR率調整手段68は、設定したEGR率となるようにEGR22を制御する。なお、運転設定手段60に含まれるGPSにより得られる現在位置から、その地域に対して環境モードにおける規制上限として定められているNOxの濃度の目標値以下となるようにEGR率を設定してもよい。
これにより、排気ガス中のNOxの濃度を環境モードに応じた目標値以下とすることができる。また、排気ガス中のスモークの濃度も低減することができる。
このとき、排気ガス中のCOの濃度が増加すると共に、内燃機関102の燃焼における着火遅れが増大し、熱効率が低下するので、メイン噴射に加えてプレ噴射を行うことが好適である。この場合も、プレ噴射は、内燃機関102の燃焼室内での着火性を高めるためには一般燃料を用いて行うことが好ましいが、エマルジョン燃料を用いて行ってもよい。プレ噴射を行う場合、燃料切替設定手段64によって燃料切替弁46に制御信号を出力し、副燃料系の一般燃料タンク42又はエマルジョン燃料タンク44を選択する。加圧ポンプ48により燃料は加圧されてコモンレール50に蓄積される。燃料噴射制御手段66は、所定のクランク角度において副燃料供給弁52及び燃料噴射弁30を開状態とすることによって副燃料系の燃料をプレ噴射させる。プレ噴射の噴射タイミングは、クランク角度において、例えば、上死点から−25°〜−15°の角度範囲で行うことが好適である。プレ噴射は、燃料噴射弁30が機械制御式燃料噴射弁である場合は、副燃料供給弁52のみで制御ができる。
このとき、一般燃料を主燃料系から噴射させている状態とエマルジョン燃料を主燃料系から噴射させている状態ではプレ噴射の噴射条件(噴射タイミング、噴射量等)を異ならせることが好適である。すなわち、エマルジョン燃料をメイン噴射させている状態は一般燃料をメイン噴射させている状態よりも着火特性が悪くなるので、一般燃料を用いている場合に比べてプレ噴射の噴射タイミングをより早くすることが好適である。また、プレ噴射の噴射量をより多くすることが好適である。ただし、これらの制御に限定されるものではない。
このようにプレ噴射を行うことによって、エマルジョン燃料とEGRを組み合わせた場合であっても、内燃機関102の着火遅れを抑制し、熱効率を低下させることなく、排気ガス中のCOの濃度の増加を抑えつつ、排気ガス中のNOxの濃度を環境モードに応じた目標値以下とすることができる。なお、プレ噴射は、主燃料系と副燃料系を有さない単数の燃料系であっても燃焼性の改善に有効である。
なお、内燃機関102の負荷状況や熱効率(着火時期)の変化、排気ガス中のNOx、スモーク、COの濃度の変化等に応じて、EGR率、主燃料系の燃料種・噴射タイミング・噴射量、副燃料系の燃料種・噴射タイミング・噴射量は適宜調整することが好適である。
例えば、排気ガス中のNOxの濃度が増加した場合、EGR率を現在よりも高くするとよい。このとき、内燃機関102の熱効率が低下するので、プレ噴射の噴射タイミングを早くしたり、噴射量を多くするように制御してもよい。また、排気ガス中のスモークの濃度やCOの濃度が増加した場合、EGR率を現在よりも低くするとよい。このとき、内燃機関102の熱効率は改善するので、プレ噴射の噴射タイミングを遅くしたり、噴射量を少なくするように制御してもよい。
なお、排気ガス中のCOの濃度をさらに低減させるためには、メイン噴射よりも遅れて燃料を噴射するアフター噴射を行うことにより、燃料の再燃焼を引き起こすようにしてもよい。アフター噴射は、メイン噴射の後であって、繰り返し行われるメイン噴射の半周期(T/2)より短い時間だけ後に燃料を噴射することをいう。なお、アフター噴射は、主噴射による燃料の供給と一部が重なるタイミングでおこなってもよい。また、アフター噴射は、複数回行ってもよい。
また、排気管に酸化触媒を設けてCOをCO2に変換させて、排気ガス中のCOの濃度を低減させてもよい。
ステップS16では、内燃機関102を停止するか否かを判定する。内燃機関制御手段62は、内燃機関102を停止するのであればステップS18に制御を移行させ、そうでなければ環境モードによる運転状態を維持する。例えば、内燃機関102を停止させる所定時間前(1時間前など)に停止を判定し停止準備に入るようにすればよい。この停止の判定は、操縦者が行ってもよい。また、GPSにより得られる現在位置から港に近づいてきたとき、船速度が所定の速度以下となったとき、機関回転数が所定の回転数以下となったとき等に所定の数値的条件に基づいて内燃機関102を停止させる状態となったと判定してもよい。
ステップS18では、内燃機関102の運転停止の準備に移行する。燃料噴射装置100の配管内及び内燃機関102の燃焼室内に水分を多く含んだエマルジョン燃料が残ったまま内燃機関102を停止させるとフィルターがつまったり、燃料配管等の錆の発生等に繋がったりする可能性がある。そこで、燃料切替設定手段64は、燃料切替弁36に制御信号を出力し、主燃料系の一般燃料タンク32から一般燃料が高圧ポンプ38へ供給されるように燃料切替弁36を切り替える。これにより、内燃機関102の燃焼が一般燃料に切り替えられると共に、燃料噴射装置100の配管内及び内燃機関102の燃焼室内の燃料が水分の少ない一般燃料に置換される。
このとき、メイン噴射に加えてプレ噴射を行ってもよいが、副燃料系も一般燃料に切り替えてプレ噴射を行うことが好ましい。燃料切替設定手段64によって燃料切替弁46に制御信号を出力し、副燃料系の一般燃料タンク42を選択する。これにより、一般燃料を用いたプレ噴射に切り替えられる。
このように、内燃機関102の運転停止前に燃料を一般燃料に切り替えることによって、燃料噴射装置100の配管内及び内燃機関102の燃焼室内に水分を多く含んだ状態で停止状態となることを避けることができ、フィルターのつまりや燃料配管等の錆の発生等を抑制することができる。以上のように、一般燃料からエマルジョン燃料に内燃機関102の運転中に燃料切替設定手段64の設定にしたがって切り替えることが可能であること、またエマルジョン燃料から一般燃料への切り替えが可能であることが、内燃機関102の様々な運転状況の中で排気ガス中の成分を良好な状態に保ち、熱効率を維持しつつ、燃焼を安定させ、かつ耐久性も確保することを可能としている。また、これらの内燃機関102の停止準備処理を自動制御化してもよい。
<変形例1>
図11は、燃料噴射装置100の変形例となる燃料噴射装置106の構成を示す。本変形例における燃料噴射装置106は、燃料噴射装置100における副燃料系を備えない構成となっている。
一般燃料タンク32とエマルジョン燃料タンク34は、燃料切替弁36によって切り替えられて配管に接続される。エマルジョン燃料タンク34は、性状の異なるものが複数あってもよい。配管に供給された燃料(一般燃料又はエマルジョン燃料)は、高圧ポンプ38により加圧されて圧力が高い状態でコモンレール50に蓄えられる。コモンレール50に蓄えられた燃料は、逆止弁40を介して燃料噴射弁30に送られる。
本変形例においても、上記実施の形態と同様に制御を行うことができる。ただし、燃料噴射制御手段66により燃料噴射弁30を開状態とするタイミングを制御することによりプレ噴射及びメイン噴射の噴射タイミングや噴射量を制御することになる。また、メイン噴射及びプレ噴射は同じ燃料種(一般燃料又はエマルジョン燃料)で行われることになる。
<変形例2>
図12は、燃料噴射装置100の変形例となる燃料噴射装置108の構成を示す。本変形例における燃料噴射装置108は、一般燃料タンク32、水タンク70及び乳化部72を含むエマルジョン燃料性状調整手段を備える。
本変形例においても、上記実施の形態と同様に制御を行うことができる。ただし、主燃料系としてエマルジョン燃料を使用する場合、一般燃料タンク32から供給される一般燃料と水タンク70から供給される水とを乳化部72において乳化させてエマルジョン燃料を生成したうえで供給する。乳化部72は攪拌機等を備えており、燃料切替設定手段64によって乳化部72を制御することで、エマルジョン燃料に含まれる燃料と水との容積比(エマルジョン率)や水の粒径を調整することができる。攪拌機等は、プロペラの向きが逆のものを組み合わせて利用することによりミキシング効果を高めることができる。これらの装置は後付けが可能である。
また、エマルジョン率を含むエマルジョン燃料の性状は燃料噴射制御手段66に入力され、燃料噴射制御手段66によるメイン噴射及びプレ噴射の制御に用いられる。すなわち、排気ガス中のNOx、スモーク、COの濃度に応じてEGR率調整手段68にてEGR22のEGR率を変更した場合、それに応じて燃料噴射制御手段66によりエマルジョン燃料の性状(エマルジョン率や水の粒径)を変更することが好適である。例えば、排気ガス中のNOxの濃度が増加した場合、NOxを低減させるためにEGR率を増加させる。このとき、EGR率の増加と共にスモークの濃度が増加するので、エマルジョン燃料のエマルジョン率を上げることによってスモークの濃度の増加を抑制するとよい。また、エマルジョン燃料のエマルジョン率が増加すると内燃機関102の着火遅れが増大し、熱効率が低下するので、プレ噴射の噴射タイミングや噴射量を変更して熱効率を改善するとよい。EGR率を増加させてスモークの濃度が増加したとき、エマルジョン率を増加しても排気ガス中のスモークの濃度が下がらない場合はEGR率を下げて内燃機関102を安全に運転してもよい。EGR率を低くした場合、着火遅れが小さくなるため、プレ噴射を止めてもよい。また、メイン噴射のタイミングを変更してもよい。また、排気ガス中のNOxの濃度が低下した場合には、逆の制御を行ってもよい。
なお、水タンク70は、船舶に備えられた造水機で作られた水を利用してもよい。造水機からの水は不純物が少ない利点がある。
また、本変形例では、副燃料系として一般燃料タンク42のみを備えた構成としている。したがって、副燃料系から供給された燃料によりプレ噴射を行う場合、一般燃料のみが使用可能となっている。ただし、図1に示したように、一般燃料タンク42、エマルジョン燃料タンク44及び燃料切替弁46を備えた副燃料系に置き換えてもよい。
<変形例3>
図13は、燃料噴射装置108の変形例となる燃料噴射装置110の構成を示す。本変形例における燃料噴射装置110は、EGR22へ外部の装置から排気ガスを環流するための外部排気環流手段74を備える。
船舶には、船舶を航行させるための主機関である内燃機関102に加えて、補助エンジンやガス機関等の補機関が設けられていることが多い。このような補機関では、軽油やA重油のような良質の燃料が用いられることが多く、内燃機関102に比べてスモークや硫黄成分が少ない良質な排気となる。そこで、外部排気環流手段74を介して補機関からの排気ガスを環流させてEGR22に利用することによって、内燃機関102の吸気系統や燃焼室、また排気系統の汚損を低減し、排気ガス中のNOxの濃度をより低減させることができる。また、ガス機関は、排気ガス中に温暖化問題に影響するメタンを多く含むが、これをEGR22に利用することで再燃焼させることが可能である。
また、主機関である内燃機関102の排気ガスをスートフィルターやDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)又は水スクラバに通して、スモークや硫黄成分が少ない状態としてEGR22に環流させる構成としてもよい。