以下、本技術の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.リチウムイオン二次電池用負極の構成
2.リチウムイオン二次電池の構成
2−1.第1の二次電池
2−2.第2の二次電池
2−3,第3の二次電池
<1.リチウムイオン二次電池用負極の構成>
図1は、本技術の一実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」という。)の断面構成を表している。この負極は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、対向する一対の面を有する負極集電体1と、それに設けられた負極活物質層2とを有している。この負極活物質層2は、負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料によって構成されているのが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料が挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
特に、負極集電体1を構成する材料は、電極反応物質と金属間化合物を形成しない1種あるいは2種以上の金属元素を含有しているのが好ましい。電極反応物質と金属間化合物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば二次電池の充放電時)において負極活物質層2の膨張・収縮に伴う応力の影響を受けて集電性が低下したり、負極活物質層2が負極集電体1から剥離する可能性があるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、鉄あるいはクロムなどが挙げられる。
また、負極集電体1を構成する材料は、負極活物質層2と合金化する1種あるいは2種以上の金属元素を含有しているのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するため、その負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなるからである。電極反応物質と金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層2と合金化する金属元素としては、例えば、負極活物質がケイ素を含有する場合には、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、強度および導電性の観点からも好ましい。
なお、負極集電体1は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層2と隣接する層がそれと合金化する金属材料によって構成され、隣接しない層が他の金属材料によって構成されるのが好ましい。
負極集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体1の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。この電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
この負極集電体1の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上6.5μm以下であるのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性がより高くなるからである。詳細には、十点平均粗さRzが1.5μmよりも小さいと、十分な密着性が得られない可能性があり、6.5μmよりも大きいと、負極集電体1の表面凹凸構造に由来する多数の空隙が生じて負極活物質の表面積が増大する可能性がある。
負極活物質層2は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含んでおり、その負極活物質は、ケイ素を構成元素として含有している。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が高いため、高いエネルギー密度が得られるからである。この負極活物質は、電極反応の前後において複数の細孔を有しており、その細孔の孔径は、およそ数nmから数万nmに渡る広い範囲に分布している。
ここで、3nm以上200nm以下の微小な孔径を有する細孔(以下、単に「微細孔」という。)に着目すると、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積は、0.3cm3 /g以下である。微細孔群の容積が小さくなって負極活物質の表面積が小さく抑えられるため、その負極活物質が電極反応時に高活性になる場合においても他の物質と反応しにくくなるからである。この他の物質としては、例えば、負極が二次電池に用いられる場合における電解液などが挙げられる。
この場合には、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積が0.1cm3 /g以下であるのが好ましく、0cm3 /gであるのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
上記したケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積は、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法によって測定される水銀の浸入量を置き換えたものである。この水銀の浸入量とは、水銀の表面張力および接触角をそれぞれ485mN/mおよび130°とし、細孔の孔径と圧力との間の関係を180/圧力=孔径と近似したときに測定される値である。上記した水銀圧入法によれば、複数の細孔の孔径が広範囲に分布している場合に、その細孔の容積(細孔への水銀の浸入量)を特定の孔径範囲ごとに測定可能である。このため、ケイ素の総重量(g)と、3nm以上200nm以下の孔径について測定される水銀の浸入量の総和(微細孔群の総容積:cm3 )とから、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積(cm3 /g)を算出可能である。なお、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積の範囲を規定するに当たり、3nm以上200nm以下の孔径の細孔に着目しているのは、容積は小さいが数が極めて多いため、負極活物質の表面積に大きな影響を及ぼすからである。
また、200nm以上の大きな孔径を有する細孔に着目すると、電極反応後において、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率は、200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すように分布する。大孔径の細孔の容積が微小孔径の細孔の容積に対して相対的に大きくなるため、負極活物質の表面積が小さくなるからである。また、電極反応後において後述する2次粒子を分離する溝の幅が適正に大きくなるため、その2次粒子の面積が適正に大きくなるからである。これにより、負極活物質が電極反応時に高活性で膨張・収縮する場合においても、他の物質と反応しにくくなると共に、負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなる。なお、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径を規定するに当たり、200nm以上の孔径に着目しているのは、その容積が負極活物質の表面積に大きく寄与せず、しかも膨張・収縮時における負極活物質の逃げ場(空間マージン)として適切な大きさだからである。
この場合には、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径が700nm以上12000nm以下であるのが好ましく、1000nm以上10000nm以下であるのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
上記した水銀の浸入量の変化率は、水銀ポロシメータを用いて測定可能であり、その水銀ポロシメータの測定結果から、水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すか否かを特定可能である。なお、水銀ポロシメータの測定条件は、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積について説明した場合と同様である。
なお、水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示す場合には、200nm未満あるいは15000nm超の孔径に他のピークを示してもよいし、示さなくてもよい。また、200nm以上15000nm以下の孔径におけるピークの数は、1つでもよいし、複数(2つ以上)でもよい。200nm未満あるいは15000nm超の孔径におけるピークの数についても、同様である。
この負極活物質層2は、必要に応じて、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積が上記した範囲内になるようにするために、細孔内に埋め込み材を有していてもよい。この埋め込み材としては、例えば、酸化物含有膜、電極反応物質と合金化しない金属材料、あるいはフッ素樹脂などが挙げられる。これらの酸化物含有膜等を細孔内に入り込ませることにより、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積を所望の値となるように制御可能であるからである。
酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有している。もちろん、これら以外の他の元素の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、気相法あるいは液相法などのいずれの方法によって形成されていてもよい。中でも、液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいは浸積法(ディップコーティング法)などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。細孔内に酸化物含有膜が入り込みやすいからである。
電極反応物質と合金化しない金属材料は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種を含有している。もちろん、これら以外の他の金属元素を含有していてもよい。また、単体に限らず、合金や金属化合物であってもよい。この金属材料は、気相法あるいは液相法などのいずれの方法によって形成されていてもよい。中でも、鍍金法(電解鍍金法あるいは無電解鍍金法)などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。細孔内に金属材料が入り込みやすいと共に、その金属材料の形成に要する時間が短くて済むからである。特に、負極活物質層2が細孔内に上記した金属材料を有していると、その金属材料が結着剤としても機能するため、負極活物質間の結着性が向上する。
フッ素樹脂は、例えば、エーテル結合を有している。エーテル結合を有するフッ素樹脂は、化学的安定性に優れた膜を形成可能だからである。この「エーテル結合を有するフッ素樹脂」とは、直線状の炭素鎖からなる主鎖を含む構造(側鎖はあってもなくてもよい)を有し、その構造中にエーテル結合を有すると共に置換基としてフッ素基を有する高分子化合物の総称である。この場合には、エーテル結合が主鎖あるいは側鎖のいずれにあってもよく、主鎖および側鎖の双方にあってもよい。フッ素基も同様である。もちろん、主鎖中にエーテル結合およびフッ素基の双方を有している場合には、側鎖がなくてもよい。
このフッ素樹脂としては、例えば、化1〜化6で表される高分子化合物からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられる。優れた化学的安定性を有する膜を形成可能だからである。化1〜化4に示した高分子化合物は、いわゆるパーフルオロポリエーテルであり、主鎖中にエーテル結合を有していると共に、主鎖中、あるいは主鎖中および側鎖中にフッ素基を有している。この「パーフルオロポリエーテル」とは、エーテル結合と2価のフッ化炭素基(例えば−CF2 −あるいは>CF−CF3 など)とが連結された構造を有する樹脂の総称であり、エーテル結合およびフッ化炭素基の数や結合順などは任意に設定可能である。化5に示した高分子化合物は、主鎖中にエーテル結合を有していると共に、側鎖中にフッ素基を有している。化6に示した高分子化合物は、側鎖中にエーテル結合を有していると共に、主鎖中および側鎖中にフッ素基を有している。なお、化1〜化6に示した化合物の末端は、任意に設定可能であるが、1価のフッ化炭素基(例えば−CF3 など)であるのが好ましい。中でも、フッ素樹脂としては、パーフルオロポリエーテルが好ましい。より化学的安定性に優れた膜を形成しやすいからである。もちろん、フッ素樹脂は、エーテル結合およびフッ素基を有していれば、化1〜化6に示した構造以外の他の構造を有する高分子化合物であってもよい。このフッ素樹脂の構造(高分子化合物の種類)は、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)を用いて元素の結合状態を調べることによって特定可能である。
このフッ素樹脂は、液相法などのいずれの方法によって形成されていてもよい。中でも、スプレー法あるいは浸積法などの液相法が好ましく、浸積法がより好ましい。細孔内にフッ素樹脂が入り込みやすいからである。
なお、負極活物質層2は、上記した酸化物含有膜等のうちのいずれか1つだけを有していてもよいし、それらを2つ以上組み合わせて有していてもよい。ただし、いずれか1つだけを有する場合には、酸化物含有膜が好ましい。液相析出法などの液相法によって形成された酸化物含有膜は、電解鍍金法などの液相法によって形成された金属材料や、浸積法などの液相法によって形成されたフッ素樹脂よりも、細孔内に入り込みやすいからである。
負極活物質は、ケイ素の単体、合金あるいは化合物のいずれであってもよいし、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものであってもよい。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
なお、本技術における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。もちろん、本技術における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらの2種以上が共存するものもある。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン、ゲルマニウム、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものなどが挙げられる。
ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素および炭素(C)を有するものなどが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した一連の元素の1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
この負極活物質は、例えば、負極集電体1に連結され、その負極集電体1の表面から負極活物質層2の厚さ方向に成長している。この場合には、負極活物質が気相法によって形成されており、上記したように、負極集電体1と負極活物質層2との界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質に拡散していてもよいし、負極活物質の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。電極反応時に負極活物質層2が膨張・収縮しても破損しにくくなると共に、負極集電体1と負極活物質層2との間において電子伝導性が向上するからである。
上記した気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、より具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(chemical vapor deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。
また、負極活物質は、複数の粒子状をなしていてもよい。この負極活物質は、1回の堆積工程で形成されて単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程で形成されて粒子内に多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質を形成する場合に、負極集電体1が熱的ダメージを受けることを抑制するためには、負極活物質が多層構造を有しているのが好ましい。負極活物質の堆積工程を複数回に分割して行う(負極活物質を順次形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して、負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなるからである。
特に、負極活物質は、酸素を構成元素として含有しているのが好ましい。負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるからである。この負極活物質層2では、少なくとも一部の酸素が一部のケイ素と結合しているのが好ましい。この場合には、結合の状態が一酸化ケイ素や二酸化ケイ素であってもよいし、他の準安定状態であってもよい。
負極活物質中における酸素の含有量は、3原子数%以上40原子数%以下であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、酸素の含有量が3原子数%よりも少ないと、負極活物質層2の膨張・収縮が十分に抑制されない可能性があり、40原子数%よりも多いと、抵抗が増大しすぎる可能性がある。なお、電気化学デバイスにおいて負極が電解液と共に用いられる場合には、その電解液の分解によって形成される被膜などは負極活物質に含めないこととする。すなわち、負極活物質中における酸素の含有量を算出する場合には、上記した被膜中の酸素は含めない。
酸素を含有する負極活物質は、例えば、気相法によって負極活物質を形成する際に、チャンバ内に連続的に酸素ガスを導入することによって形成可能である。特に、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に酸素の供給源として液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
また、負極活物質は、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、クロムおよびモリブデンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を構成元素として含有しているのが好ましい。負極活物質の結着性が向上し、負極活物質層2の膨張・収縮が抑制され、負極活物質の抵抗が低下するからである。負極活物質中における金属元素の含有量は、任意に設定可能である。ただし、負極が二次電池に用いられる場合には、金属元素の含有量が多くなりすぎると、所望の電池容量を得るために負極活物質層2を厚くしなければならず、負極活物質層2が負極集電体1から剥がれたり、割れる可能性がある。
上記した金属元素を含有する負極活物質は、例えば、気相法として蒸着法によって負極活物質を形成する際に、金属元素を混合させた蒸着源を用いたり、多元系の蒸着源を用いることによって形成可能である。
この負極活物質は、その厚さ方向において、酸素を有する酸素含有領域を有し、その酸素含有領域における酸素の含有量は、それ以外の領域における酸素の含有量よりも高くなっているのが好ましい。負極活物質層2の膨張・収縮が抑制されるからである。この酸素含有領域以外の領域は、酸素を有していてもよいし、有していなくてもよい。もちろん、酸素含有領域以外の領域も酸素を有している場合に、その酸素の含有量が酸素含有領域における酸素の含有量よりも低くなっていることは言うまでもない。
この場合には、負極活物質層2の膨張・収縮をより抑制するために、酸素含有領域以外の領域も酸素を有しており、負極活物質が、第1の酸素含有領域(より低い酸素含有量を有する領域)と、それよりも高い酸素含有量を有する第2の酸素含有領域(より高い酸素含有量を有する領域)とを有しているのが好ましい。この場合には、第1の酸素含有領域によって第2の酸素含有領域が挟まれているのが好ましく、第1および第2の酸素含有領域が交互に繰り返して積層されているのがより好ましい。より高い効果が得られるからである。第1の酸素含有領域における酸素の含有量は、できるだけ少ないのが好ましく、第2の酸素含有領域における酸素の含有量は、例えば、上記した負極活物質が酸素を含有する場合の含有量と同様である。
第1および第2の酸素含有領域を有する負極活物質は、例えば、気相法によって負極活物質を形成する際に、チャンバ内に断続的に酸素ガスを導入したり、チャンバ内に導入する酸素ガスの量を変化させることによって形成可能である。もちろん、酸素ガスを導入しただけでは所望の酸素含有量が得られない場合には、チャンバ内に液体(例えば水蒸気など)を導入してもよい。
なお、第1および第2の酸素含有領域の間では、酸素の含有量が明確に異なっていてもよいし、明確に異なっていなくてもよい。特に、上記した酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、酸素の含有量も連続的に変化していてもよい。第1および第2の酸素含有領域は、酸素ガスの導入量を断続的に変化させた場合には、いわゆる「層」となり、一方、酸素ガスの導入量を連続的に変化させた場合には、「層」というよりもむしろ「層状」となる。後者の場合には、負極活物質中において酸素の含有量が高低を繰り返しながら分布する。この場合には、第1および第2の酸素含有領域の間において、酸素の含有量が段階的あるいは連続的に変化しているのが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、イオンの拡散性が低下したり、抵抗が増大する可能性があるからである。
ここで、粒子状の負極活物質がその粒子内に多層構造を有する場合を例に挙げることにより、図2〜図7を参照して、負極の詳細な構成を電極反応の前後に分けて説明する。以下で説明する「電極反応後」とは、少なくとも1回の電極反応を経た状態を意味する。
図2は電極反応前における負極の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。なお、図2では、負極活物質が多層構造を有していると共に負極活物質層2が酸化物含有膜等の埋め込み材を有していない場合を示している。
電極反応前には、図2に示したように、負極活物質が複数の粒子状(負極活物質粒子201)をなしていることに伴い、その負極活物質が複数の細孔202を有している。詳細には、粗面化された負極集電体1の表面には、複数の突起部(例えば電解処理によって形成された微粒子)が存在している。この場合には、気相法などによって負極集電体1の表面に複数回に渡って負極活物質が堆積されると、上記した突起部ごとに負極活物質粒子201が厚さ方向に段階的に成長する。この複数の負極活物質粒子201の密集構造、多層構造および表面構造に伴い、複数の細孔202が生じている。
この細孔202は、例えば、発生原因に応じて分類された3種類の細孔202A〜202Cを含んでいる。細孔202Aは、負極集電体1の表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子201が成長することに伴い、各負極活物質粒子201間に生じる隙間である。細孔202Bは、負極活物質粒子201の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じる空隙である。この細孔202Bは、負極活物質粒子201の露出面の全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。細孔202Cは、負極活物質粒子201が多層構造を有することに伴い、各階層間に生じる隙間である。なお、上記したひげ状の微細な突起部は、負極活物質粒子201の形成時ごとに表面に生じるため、細孔202Bは、負極活物質粒子201の露出面(最表面)だけでなく、各階層間にも生じている。もちろん、細孔202は、上記した発生原因以外の発生原因によって生じた他の細孔も含んでいてもよい。
図3は電極反応前における負極の他の断面構造を表しており、図2に対応している。なお、図3では、負極活物質層2が埋め込み材として電極反応物質と合金化しない金属材料を有している場合を示している。図3に示したように、複数の負極活物質粒子201が形成されたのち、液相法などによって金属材料203が形成されると、その金属材料203は細孔202内に入り込む。すなわち、金属材料203は、隣接する負極活物質粒子201間の隙間(細孔202A)や、負極活物質粒子201の表面に生じたひげ状の微細な突起部間の空隙(細孔202B)や、負極活物質粒子201内の隙間(細孔202C)に入り込む。図3において、最上層の負極活物質粒子201の表面に金属材料203が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。
図2および図3に示したように、粒子状の負極活物質がその粒子内に多層構造を有している場合には、複数の細孔202は細孔202A〜202Cを含んでいる。これに対して、粒子状の負極活物質がその粒子内に多層構造を有していない(単層構造を有している)場合には、細孔202Cが生じないことから、複数の細孔202は細孔202A,202Bを含むこととなる。
ここでは具体的に図面を参照して説明しないが、金属材料に代えて、液相析出法などによって酸化物含有膜を形成した場合には、その酸化物含有膜が負極活物質粒子201の表面に沿って成長するため、細孔202B,202Cに優先的に入り込みやすい。この場合には、析出時間を長くすれば、酸化物含有膜が細孔202Aまで入り込む。また、浸積法などによってフッ素樹脂を形成した場合には、金属材料と同様に細孔202A〜202Cに入り込みやすく、浸積時間を長くすれば、細孔202B,202Cにより入り込みやすい。
図7は電極反応の前後における水銀の浸入量の変化率の分布を表す図であり、横軸は細孔202の孔径(nm)、縦軸は複数の細孔202への水銀の浸入量の変化率を示している。電極反応前において、水銀ポロシメータを用いて圧力Pを段階的に増加させながら複数の細孔202への水銀の浸入量Vを測定すると、その水銀の浸入量の変化率(ΔV/ΔP)は、図7に示した7A(破線)のように分布する。この水銀の浸入量の変化率は、水銀ポロシメータを用いて測定可能な約3nm以上100000nm以下の孔径において、2つのピークP1,P2を示すように分布する。大孔径側のピークP1は、主に細孔202Aの存在に起因して生じたものであり、そのピークP1が現れる孔径の範囲は、およそ50nm以上3000nm以下である。一方、小孔径側のピークP2は、主に細孔202B,202Cの存在に起因して生じたものであり、そのピークP2が現れる孔径の範囲は、およそ3nm以上50nm以下である。なお、図7に示した水銀の浸入量の変化率(7A)は、ピークP1における変化率を1として規格化した値である。
図4〜図6は、電極反応後における負極活物質層2の粒子構造を表している。このうち、図4および図5はそれぞれ表面および断面の粒子構造を示しており、(A)はSEM写真、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。また、図6は図4に示した粒子構造の一部を拡大して示しており、(A)は走査型イオン顕微鏡(scanning ion microscope :SIM)写真、(B)は(A)に示したSIM像の模式絵である。なお、図4〜図6では、負極活物質が単層構造を有している場合を示している。
負極活物質層2では、図4〜図6に示したように、電極反応後において複数の1次粒子204によって2次粒子205が形成されると共に、断裂粒子206が形成される。詳細には、図4(A)に示したSEM写真のうち、(B)においてハッチングを付している部分に対応する部分が2次粒子205であり、その2次粒子205中に粒状に見えているのが1次粒子204である。また、図5(A)に示したSEM写真のうち、(B)においてハッチングを付している部分に対応する部分が1次粒子204(単層構造を有する負極活物質)である。2次粒子205は、負極活物質層2の厚さ方向に深さを有する溝203によって負極活物質層2の面内方向において分離されている。この際、図5および図6に示したように、各1次粒子204は単に隣接しているのではなく、互いに少なくとも一部が接合して2次粒子205を形成しており、溝203はほぼ負極集電体1まで達している。溝203の深さは、例えば、5μm以上である。この溝203は、電極反応(負極が二次電池に用いられた場合には充放電反応)によって形成されたものであり、1次粒子204に沿って割れているのではなく、負極活物質層2の厚さ方向においてほぼ直線状に生じている。これにより、図4および図6に示したように、1次粒子204の一部は、溝203によって断裂された断裂粒子206となっている。図6(A)に示したSIM写真のうち、(B)において網掛けを付している部分に対応する部分が断裂粒子206である。
これらの粒子構造については、例えば、図4(A)および図5(A)に示したようにSEMで観察してもよいし、図6(A)に示したようにSIMで観察してもよい。また、観察する断面については、集束イオンビーム(focused ion beam:FIB)あるいはミクロトームなどで切り出すのが好ましい。
電極反応後において、電極反応前と同様に水銀ポロシメータを用いて水銀の浸入量の変化率を測定すると、その水銀の浸入量の変化率は、図7に示した7B(実線)のように分布する。この水銀の浸入量の変化率は、水銀ポロシメータを用いて測定可能な約3nm以上100000nm以下の孔径において、1つのピークP3を示すように分布する。このピークP3は、主に溝203の存在に起因して生じたものであり、そのピークP3が現れる孔径の範囲は、上記したように、200nm以上15000nm以下である。なお、図7に示した水銀の浸入量の変化率(7B)は、ピークP3における変化率を1として規格化した値である。
図7に示したように、電極反応の前後において水銀の浸入量の変化率の分布が変化するのは、電極反応を経て負極活物質層2の内部構造が変化するからである。詳細には、充放電時には、負極活物質層2の膨張・収縮に伴う応力の影響を受けて負極活物質層2の粒子構造が力学的に変化すると共に、負極が電解液と共に電気化学デバイス用いられた場合にはいわゆるSEI(Solid Electrolyte Interface )膜が形成される。これにより、細孔202A〜202Cが塞がりやすくなる。この傾向は、上記した酸化物含有膜等の埋め込み材を形成すれば、より顕著になる。また、充放電時には、複数の1次粒子204が集合して2次粒子205(断裂粒子206を含む)になるため、それに応じて細孔202Aよりも大きな孔径を有する溝203が新たに形成される。なお、上記した「SEI膜」とは、非水溶媒系の電解液中において初回の充電時に負極活物質と電解液との間で不可逆的な反応が生じることにより、負極と電解液との間に形成される膜である。このSEI膜は、負極と電解液との間に電極反応物質イオンの伝導性はあるが電子の伝導性はない安定界面を形成し、電解液の分解生成物などを含む。
この負極は、例えば、以下の手順によって製造可能である。
最初に、負極集電体1を準備したのち、必要に応じて、負極集電体1の表面に粗面化処理を施す。この場合には、あらかじめ粗面化された負極集電体1を用いてもよい。
続いて、気相法などによって負極集電体1上に負極活物質としてケイ素を堆積させて負極活物質層2を形成する。この負極活物質を堆積させる場合には、1回の堆積工程によって単層構造となるようにしてもよいし、複数回の堆積工程によって多層構造となるようにしてもよい。気相法によって負極活物質を多層構造となるように形成する場合には、蒸着源に対して負極集電体1を相対的に往復移動させながらケイ素を順次堆積させるようにしてもよい。または、蒸着源に対して負極集電体1を固定させたままでシャッターの開閉を繰り返しながらケイ素を順次堆積させるようにしてもよい。この負極活物質層2を形成する場合には、必要に応じて、液相法などによって酸化物含有膜、電極反応物質と合金化しない金属材料、あるいはフッ素樹脂などの埋め込み材を形成してもよい。
最後に、少なくとも1回の電極反応を進行させて、負極活物質層2中に溝203によって分離された複数の2次粒子205(断裂粒子206を含む)を形成する。この場合には、電極反応後において、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積が0.3cm3 /g以下になり、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すようにする。これにより、負極が完成する。
この負極を製造する場合には、例えば、以下の方法により、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積や、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径を調整可能である。
ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積を調整するためには、酸化物含有膜などの埋め込み材を形成する場合に、その形成時間を変化させる。この形成時間とは、液相析出法によって酸化物含有膜を形成する場合には析出時間であり、鍍金法によって金属材料を形成する場合には鍍金時間であり、浸積法によってフッ素樹脂を形成する場合には浸積時間である。いずれの場合においても、形成時間に応じてケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積を変化させることが可能である。
一方、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径を調整するためには、炭酸ガスや不活性ガスなどの各種ガスをチャンバ内に導入し、そのガス導入量を変化させる。また、気相法によって負極活物質を堆積させる場合には、基板温度を変化させる。さらに、気相法によって蒸着源に対して負極集電体1を相対的に移動させながら負極活物質を堆積させる場合に、その負極集電体1の移動速度を変化させる。いずれの場合においても、ガス導入量、基板温度あるいは負極集電体1の移動速度に応じて、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径を変化させることが可能である。
この負極によれば、ケイ素を含有する負極活物質が複数の細孔を有する場合に、そのケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群(3nm以上200nm以下の孔径の細孔群)の容積が0.3cm3 /g以下であり、水銀圧入法によって測定される細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すように分布する。この場合には、上記したケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積および水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径が範囲外である場合と比較して、電極反応時に負極活物質が高活性で膨張・収縮しやすい場合においても、負極活物質が他の物質と反応しにくくなると共に、負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなる。したがって、負極を用いた電気化学デバイスのサイクル特性の向上に寄与することができる。
特に、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積および水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径がそれぞれ0.1cm3 /g以下および700nm以上12000nm以下、さらに0cm3 /gおよび1000nm以上10000nm以下であれば、サイクル特性をより向上させることができる。
また、細孔内に酸化物含有膜、電極反応物質と合金化しない金属材料、あるいはフッ素樹脂などの埋め込み材を有していれば、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積が本来的に上記した範囲外である場合においても、その範囲内となるように容易に制御することができる。この場合には、酸化物含有膜が液相析出法などの液相法によって形成されており、電極反応物質と合金化しない金属材料が電解鍍金法などの液相法によって形成されており、あるいはフッ素樹脂が浸積法などの液相によって形成されていれば、それらの埋め込み材が細孔内に入り込みやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
なお、上記した埋め込み材の形成に時間を要する場合には、負極の製造時間を短縮して生産性を高めることを重視すれば、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群の容積は上記した範囲内においてできるだけ大きいのが好ましく、具体的には0.3cm3 /g以下であるのが好ましい。
特に、負極活物質が酸素を含有し、負極活物質中における酸素の含有量が3原子数%以上40原子数%以下であり、あるいは負極活物質が鉄、コバルト、ニッケル、チタン、クロムおよびモリブデンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を含有し、または負極活物質粒子がその厚さ方向において酸素含有領域(酸素を有し、酸素の含有量がそれ以外の領域よりも高い領域)を含んでいれば、サイクル特性をより向上させることができる。
また、負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が電解処理で形成された微粒子によって粗面化されていれば、負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性を高めることができる。この場合には、負極集電体1の表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上6.5μm以下であれば、サイクル特性をより向上させることができる。
<2.リチウムイオン二次電池の構成>
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例としてリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という。)を例に挙げると、負極は以下のようにして二次電池に用いられる。
<2−1.第1の二次電池>
図8および図9は第1の二次電池の断面構成を表しており、図9では図8に示したIX−IX線に沿った断面を示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する電池素子20が収納されたものである。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の電池缶11を用いた電池構造は、角型と呼ばれている。角型の外装部材とは、図9に示したように、長手方向の断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状だけでなくオーバル形状の角型電池も構成するものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図9では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウム(Al)あるいはそれらの合金を含有する材料によって構成されており、電極端子としての機能を有していてもよい。この場合には、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して二次電池の膨れを抑えるために、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられて密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に、その電池素子20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどによって構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されており、それと同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどによって構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して二次電池の内圧が一定以上になると、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aによって塞がれている。
電池素子20は、正極21と負極22とがセパレータ23を介して積層されてから巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどによって構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどによって構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されて端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、帯状の正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの材料によって構成されている。正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。また、xおよびyの値は二次電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い電池容量および優れたサイクル特性が得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な材料としては、上記した他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極22は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。この負極22では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質の充電容量が正極21の充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質として電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸メチルプロピルなどの炭酸エステル系溶媒などが挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。中でも、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒とを混合したものが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
この溶媒は、ハロゲン化炭酸エステルのいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。負極22の表面にハロゲンを含む安定な被膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。このハロゲン化炭酸エステルとしては、フッ素化炭酸エステルが好ましく、炭酸モノフルオロエチレンよりも炭酸ジフルオロエチレンが好ましい。より高い効果が得られるからである。このフッ素化炭酸エステルとしては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、炭酸ジフルオロエチレンとしては、例えば、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルのいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
また、溶媒は、スルトンのいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上すると共に、二次電池の膨れが抑制されるからである。このスルトンとしては、例えば、1,3−プロペンスルトンなどが挙げられる。
また、溶媒は、酸無水物のいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。この酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物、スルホ酪酸無水物、エタンジスルホン酸無水物、プロパンジスルホン酸無水物あるいはベンゼンジスルホン酸無水物などが挙げられる。中でも、スルホ安息香酸無水物あるいはスルホプロピオン酸無水物が好ましい。高い効果が得られるからである。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上3重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )あるいは六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )などが挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
この電解質塩は、ホウ素およびフッ素を有する化合物を含んでいるのが好ましい。サイクル特性が向上すると共に、二次電池の膨れが抑制されるからである。このホウ素およびフッ素を有する化合物としては、例えば、四フッ化ホウ酸リチウムなどが挙げられる。
溶媒中における電解質塩の含有量は、例えば、0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下である。優れた容量特性が得られるからである。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造可能である。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどによって正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
また、上記した負極の作製手順と同様の手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
次に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、正極集電体21Aに正極リード24を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード25を溶接して取り付ける。続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層させてから長手方向において巻回させたのち、扁平な形状となるように成形して電池素子20を形成する。続いて、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置する。続いて、正極リード24に正極ピン15を溶接して接続させると共に、負極リード25を電池缶11に溶接して接続させたのち、電池缶11の開放端部に電池蓋13をレーザ溶接して固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図8および図9に示した二次電池が完成する。
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、負極22が高容量化に有利なケイ素を含有する場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
特に、電池缶11が固い金属製であれば、柔らかいフィルム製である場合と比較して、負極活物質層22Bが膨張・収縮した際に負極22が破損しにくくなる。したがって、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、電池缶11がアルミニウムよりも固い鉄製であれば、より高い効果を得ることができる。
この二次電池に関する上記以外の効果は、上記した負極と同様である。
<2−2.第2の二次電池>
図10および図11は第2の二次電池の断面構成を表しており、図11では図10に示した巻回電極体40の一部を拡大して示している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、正極41と負極42とがセパレータ43を介して巻回された巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。この円柱状の電池缶31を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
電池缶31は、例えば、上記した第1の二次電池における電池缶11と同様の材料によって構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とがガスケット37を介してかしめられて取り付けられている。これにより、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料によって構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子36は、温度上昇に応じた抵抗増大によって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどによって構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどによって構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接されて電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接されて電気的に接続されている。
正極41は、例えば、帯状の正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。負極42は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bが設けられたものである。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成、ならびに電解液の組成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成、ならびに電解液の組成と同様である。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極41に吸蔵される。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造可能である。
最初に、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を溶接すると共に、負極42に負極リード46を溶接する。続いて、正極41と負極42とをセパレータ43を介して巻回させて巻回電極体40を形成したのち、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接すると共に負極リード46の先端部を電池缶31に溶接する。続いて、巻回電極体40を一対の絶縁板32,33で挟みながら電池缶31の内部に収納する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をガスケット37を介してかしめて固定する。これにより、図10および図11に示した二次電池が完成する。
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
<2−3.第3の二次電池>
図12は第3の二次電池の分解斜視構成を表しており、図13は図12に示したXIII−XIII線に沿った断面を拡大して示している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、巻回電極体50に正極リード51および負極リード52が取り付けられ、その巻回電極体50がフィルム状の外装部材60の内部に収納されたものである。このフィルム状の外装部材60を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されており、薄板状あるいは網目状になっている。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
外装部材60は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材60は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体50と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料によって構成されている。この種の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材60は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
巻回電極体50は、正極53と負極54とがセパレータ55および電解質56を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ57によって保護されている。
正極53は、例えば、帯状の正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bが設けられたものである。負極54は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、帯状の負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bが設けられたものである。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54A、負極活物質層54Bおよびセパレータ55の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質56は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質56は、高いイオン伝導率(例えば室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。この電解質56は、例えば、正極53とセパレータ55との間および負極54とセパレータ55との間に設けられている。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合における溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質56に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極53からリチウムイオンが放出され、電解質56を介して負極54に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極54からリチウムイオンが放出され、電解質56を介して正極53に吸蔵される。
このゲル状の電解質56を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順によって製造可能である。
第1の製造方法では、最初に、第1の二次電池の製造方法と同様の手順により、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極53および負極54に塗布したのちに溶剤を揮発させてゲル状の電解質56を形成する。続いて、正極集電体53Aに正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aに負極リード52を溶接する。続いて、電解質56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ57を接着させて巻回電極体50を形成する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、熱融着などによって外装部材60の外縁部同士を接着させて巻回電極体50を封入する。この場合には、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に密着フィルム61を挿入する。これにより、図12および図13に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極53および負極54にそれぞれ正極リード51および負極リード52を溶接する。続いて、正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ57を接着させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着などによって一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材60の内部に注入したのち、熱融着などによって外装部材60の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質56を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第1の製造方法と同様の手順により、巻回体を形成して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ65に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとクロロトリフルオロエチレンとを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体に加えて、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、熱融着などによって外装部材60の開口部を密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質56が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れ特性が改善される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質56中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質56との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本技術の実施例について詳細に説明する。
(実験例1−1)
以下の手順により、図12および図13に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この際、負極54の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極53を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層53Bを形成した。
次に、負極54を作製した。最初に、電解銅箔からなる負極集電体54A(厚さ=18μm,表面の十点平均粗さRz=3.5μm)を準備した。続いて、電子ビーム蒸着法によって負極集電体54Aの両面にケイ素を堆積させて複数の粒子状の負極活物質を単層構造(厚さ=7.5μm)となるように形成した。この負極活物質を形成する場合には、偏向式電子ビーム蒸着源として純度99%のケイ素を用い、チャンバ内にアルゴンガス(Ar)、二酸化炭素ガス(CO2 )あるいは酸素ガス(O2 )を導入した。この際、ガス導入量を8.335×10-8m3 /秒(=5sccm)以上833.5×10-8m3 /秒(500sccm)以下、ケイ素の堆積速度を1nm/秒以上100nm/秒以下、基板温度を−40℃以上80℃以下で変化させると共に、必要に応じて負極集電体54Aの移動速度も変化させて、水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径(以下、単に「ピークの孔径」ともいう。)を200nmとした。このピークの孔径については、Micromeritics 社製の水銀ポロシメータ(オートポア9500シリーズ)を用いて水銀の浸入量の変化率を測定したのち、その測定結果から求めた。
こののち、液相析出法によって酸化ケイ素(SiO2 )を析出させて酸化物含有膜を形成することにより、負極活物質層54Bを形成した。この酸化物含有膜を形成する場合には、ケイ素のフッ化物錯体の溶液に、アニオン補足剤としてフッ素を配位しやすい溶存種を添加して混合した。続いて、負極活物質が形成された負極集電体54Aを溶液に浸積し、フッ化物錯体から生じるフッ素アニオンを溶存種に補足させて負極活物質の表面に酸化物を析出させた。この際、酸化物の析出時間(微細孔内に入り込ませる酸化物含有膜の量)を調整して、ケイ素の単位重量当たりにおける微細孔群(3nm以上200nm以下の孔径の細孔群)の容積(以下、単に「単位容積」ともいう。)を0.1cm3 /gとした。この単位容積については、負極活物質および酸化物含有膜が形成された負極集電体54Aの総重量から負極集電体54Aおよび酸化物含有膜の重量を差し引いた値(負極活物質であるケイ素の重量)と、上記した水銀ポロシメータを用いて3nm以上200nm以下の孔径について測定した水銀の浸入量の値(微細孔群の容積)とから算出した。
次に、正極集電体53Aの一端にアルミニウム製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にニッケル製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53と、多孔性のポリプロピレンを主成分とするフィルムによって多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造のポリマーセパレータ55(厚さ=23μm)と、負極54と、上記したポリマーセパレータ55とをこの順に積層してから長手方向に巻回させた。続いて、粘着テープからなる保護テープ57で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロン(厚さ=30μm)と、アルミニウム(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレン(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入してセパレータ55に含浸させて巻回電極体50を形成した。この電解液を調製する際には、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この際、溶媒の組成を重量比でEC:DEC=50:50とし、電解質塩の濃度を1mol/kgとした。
最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
なお、水銀ポロシメータを用いて水銀の浸入量やその変化率を測定する際には、後述するサイクル試験後に二次電池をドライ雰囲気中で解体して負極54を取り出し、炭酸プロピレンおよび炭酸ジメチルで洗浄してから真空乾燥させたのち、25mm×350mmの寸法にカットして測定サンプルとした。
(実験例1−2〜1−13)
ピークの孔径を400nm(実験例1−2)、700nm(実験例1−3)、800nm(実験例1−4)、1000nm(実験例1−5)、3000nm(実験例1−6)、5000nm(実験例1−7)、7000nm(実験例1−8)、8000nm(実験例1−9)、9000nm(実験例1−10)、10000nm(実験例1−11)、12000(実験例1−12)、あるいは15000nm(実験例1−13)としたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−1〜1−4)
ピークの孔径を50nm(比較例1−1)、100nm(比較例1−2)、17000nm(比較例1−3)、あるいは20000nm(比較例1−4)としたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
これらの実験例1−1〜1−13および比較例1−1〜1−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1および図14に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、以下の手順でサイクル試験を行って放電容量維持率を求めた。最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電させたのち、再び充放電させて2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中で99サイクル充放電させて101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充放電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電したのち、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。
なお、サイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表1および図14に示したように、ピークの孔径を変化させると、その孔径が大きくなるにしたがって放電容量維持率が増加したのちに減少する傾向を示した。しかしながら、ピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例1−1〜1−13では、その孔径が範囲外である比較例1−1〜1−4よりも放電容量維持率が大幅に増加して70%以上となった。この場合には、ピークの孔径が700nm以上12000nm以下であると放電容量維持率がより増加して80%以上になり、1000nm以上10000nm以下であると放電容量維持率がさらに増加して80%台後半になった。
これらのことから、本技術の二次電池では、負極活物質の層数が1層である場合に、充放電後において、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上12000nm以下の孔径にピークを示すように分布することによりサイクル特性が向上すると共に、700nm以上12000nm以下、さらに1000nm以上10000nm以下の孔径にピークを示すようにすればサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例2−1〜2−13)
負極活物質を6層構造となるように形成したことを除き、実験例1−1〜1−13と同様の手順を経た。この負極活物質を形成する場合には、蒸着源に対して負極集電体54Aを往復移動させながらケイ素を順次堆積し、その堆積速度を10nm/秒とした。
(比較例2−1〜2−4)
実験例2−1〜2−13と同様に負極活物質を6層構造としたことを除き、比較例1−1〜1−4と同様の手順を経た。
これらの実験例2−1〜2−13および比較例2−1〜2−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2および図15に示した結果が得られた。
表2および図15に示したように、負極活物質が6層構造である場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、ピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例2−1〜2−13では、その孔径が範囲外である比較例2−1〜2−4よりも放電容量維持率が大幅に増加して70%以上になった。このことから、本技術の二次電池では、負極活物質の層数が6層である場合においてもサイクル特性が向上することが確認された。
(実験例3−1〜3−13)
負極活物質を12層構造となるように形成したことを除き、実験例1−1〜1−13と同様の手順を経た。
(比較例3−1〜3−4)
実験例3−1〜3−13と同様に負極活物質を12層構造としたことを除き、比較例1−1〜1−4と同様の手順を経た。
これらの実験例3−1〜3−13および比較例3−1〜3−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3および図16に示した結果が得られた。
表3および図16に示したように、負極活物質が12層構造である場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、ピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例3−1〜3−13では、その孔径が範囲外である比較例3−1〜3−4よりも放電容量維持率が大幅に増加して70%以上になった。このことから、本技術の二次電池では、負極活物質の層数が12層である場合においてもサイクル特性が向上することが確認された。
上記した表1〜表3および図14〜図16の結果から、本技術の二次電池では、充放電後において、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上12000nm以下の孔径にピークを示すように分布することにより、負極活物質の層数に依存せずにサイクル特性が向上することが確認された。この場合には、負極活物質の層数のみが異なる実験例1−1,2−1,3−1の比較から明らかなように、その負極活物質の層数を増加させればサイクル特性がより向上することも確認された。
ここで、上記した一連の実験例および比較例を代表して、いくつかの実験例の二次電池について諸特性を調べたところ、図17〜図20に示した結果が得られた。
図17および図18は、それぞれ充放電後における実験例2−8,2−9の二次電池について測定した水銀の浸入量の変化率の分布である。図17および図18に示したように、実験例2−8,2−9では、充放電後において、水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径に1つのピークを示した。この場合におけるピークの孔径は、実験例2−8で7000nmであり、実験例2−9で8000nmであった。
また、図19および図20は、それぞれ充放電後における実験例1−7,1−8の二次電池について観察した負極54の表面のSEM写真である。図19および図20に示したように、実験例1−7,1−8では、充放電後において、溝によって分離された複数の2次粒子が形成されている様子が観察された。この場合には、実験例1−7,1−8の間で比較すると、ピークの孔径(溝の幅)が相対的に小さい実験例1−7で2次粒子の面積が小さくなり、そのピークの孔径が相対的に大きい実験例1−8で2次粒子の面積が大きくなった。
(実験例4−1〜4−7)
単位容積を0.3cm3 /gとしたことを除き、実験例2−1,2−3,2−5,2−7,2−11〜2−13と同様の手順を経た。
(比較例4−1,4−2)
実験例4−1〜4−7と同様に単位容積を0.3cm3 /gとしたことを除き、比較例2−2,2−3と同様の手順を経た。
(実験例5−1〜5−7)
単位容積を0.05cm3 /gとしたことを除き、実験例2−1,2−3,2−5,2−7,2−11〜2−13と同様の手順を経た。
(比較例5−1,5−2)
実験例5−1〜5−7と同様に単位容積を0.05cm3 /gとしたことを除き、比較例2−2,2−3と同様の手順を経た。
(実験例6−1〜6−7)
単位容積を0cm3 /gとしたことを除き、実験例2−1,2−3,2−5,2−7,2−11〜2−13と同様の手順を経た。
(比較例6−1,6−2)
実験例6−1〜6−7と同様に単位容積を0cm3 /gとしたことを除き、比較例2−2,2−3と同様の手順を経た。
(比較例7−1〜7−9)
単位容積を0.35cm3 /gとしたことを除き、比較例2−2,実験例2−1,2−3,2−5,2−7,2−11〜2−13,比較例2−3と同様の手順を経た。
これらの実験例4−1〜4−7,5−1〜5−7,6−1〜6−7および比較例4−1,4−2,5−1,5−2,6−1,6−2,7−1〜7−9の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表4〜表7および図21に示した結果が得られた。
表4〜表7および図21に示したように、単位容積を変化させると、その単位容積が小さくなるにしたがって放電容量維持率が増加する傾向を示した。しかしながら、単位容積が0.3cm3 /g以下である実験例4−1〜4−7,5−1〜5−7,6−1〜6−7および比較例4−1,4−2,5−1,5−2,6−1,6−2では、その単位容積が範囲外である比較例7−1〜7−9よりも放電容量維持率が大幅に増加した。さらにピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例4−1〜4−7,5−1〜5−7,6−1〜6−7では、そのピークの孔径が範囲外である比較例4−1,4−2,5−1,5−2,6−1,6−2よりも放電容量維持率が大幅に増加して70%以上になった。この場合には、単位容積が0.1cm3 /g以下であると放電容量維持率がより増加し、0cm3 /gであると放電容量維持率が最大になった。
これらのことから、本技術の二次電池では、充放電後において、ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積が0.3cm3 /g以下であることによりサイクル特性が向上すると共に、0.1cm3 /g以下、さらに0cm3 /gであればサイクル特性がより向上することが確認された。
上記した表1〜表7、図14〜図21の結果から、本技術の二次電池では、充放電後において、ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積が0.3cm3 /g以下であり、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上12000nm以下の孔径にピークを示すように分布することにより、サイクル特性が向上することが確認された。
(実験例8−1〜8−3)
ゲルマニウムのフッ化物錯体の溶液を用い、酸化物含有膜として酸化ゲルマニウム(GeO2 )を形成したことを除き、実験例4−4,2−7,6−4と同様の手順を経た。
(比較例8)
実験例8−1〜8−3と同様に酸化物含有膜として酸化ゲルマニウムを形成したことを除き、比較例7−5と同様の手順を経た。
(実験例9−1〜9−3)
スズのフッ化物錯体の溶液を用い、酸化物含有膜として酸化スズ(SnO2 )を形成したことを除き、実験例4−4,2−7,6−4と同様の手順を経た。
(比較例9)
実験例9−1〜9−3と同様に酸化物含有膜として酸化スズを形成したことを除き、比較例7−5と同様の手順を経た。
これらの実験例8−1〜8−3,9−1〜9−3および比較例8,9の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表8および表9に示した結果が得られた。
表8および表9に示したように、酸化物含有膜として酸化ゲルマニウムあるいは酸化スズを形成した実験例8−1〜8−3,9−1〜9−3においても、酸化ケイ素を形成した場合と同様の結果が得られた。すなわち、単位容積が0.3cm3 /g以下であると共にピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例8−1〜8−3,9−1〜9−3では、そのピークの孔径は範囲内であるが単位容積は範囲外である比較例8,9よりも放電容量維持率が大幅に増加して70%以上になった。この場合には、酸化物含有膜の種類のみが異なる実験例4−4,8−1,9−1の比較から明らかなように、酸化ケイ素を用いた場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、酸化物含有膜の種類を変更した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、酸化ケイ素を用いればよりサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例10−1〜10−3)
酸化物含有膜の形成方法としてゾルゲル法(実験例10−1)、塗布法(実験例10−2)、あるいは浸積法(実験例10−3)を用いたことを除き、実験例2−7と同様の手順を経た。
これらの実験例10−1〜10−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。なお、表10には、実験例2−7の結果も併せて示している。
表10に示したように、ゾルゲル法等によって酸化物含有膜を形成した実験例10−1〜10−3においても、液相析出法によって酸化物含有膜を形成した実験例2−7と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、液相析出法を用いた場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、酸化物含有膜の形成方法を変更した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、液相析出法を用いればよりサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例11−1〜11−3)
酸化物含有膜に代えて、リチウムと合金化しない金属材料を形成したことを除き、実験例2−5,2−7,2−11と同様の手順を経た。この金属材料を形成する場合には、電解鍍金法によって負極集電体54Aの両面にコバルトを堆積させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 、鍍金速度を10nm/秒とし、単位容積が0.1cm3 /gとなるように鍍金時間を調整した。
(実験例11−4〜11−7)
ニッケル鍍金液(実験例11−4)、鉄鍍金液(実験例11−5)、亜鉛鍍金液(実験例11−6)、あるいは銅鍍金液(実験例11−7)を用い、金属材料としてニッケル、鉄、亜鉛あるいは銅を堆積させたことを除き、実験例11−2と同様の手順を経た。この際、電流密度として、ニッケル鍍金液を用いる場合に2A/dm2 〜10A/dm2 、鉄鍍金液を用いる場合に2A/dm2 〜5A/dm2 、亜鉛鍍金液を用いる場合に1A/dm2 〜3A/dm2 、銅鍍金液を用いる場合に2A/dm2 〜8A/dm2 とした。上記した一連の鍍金液は、いずれも日本高純度化学株式会社製である。
これらの実験例11−1〜11−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表11に示した結果が得られた。
表11に示したように、リチウムと合金化しない金属材料を形成した実験例11−1〜11−7においても、酸化物含有膜を形成した場合と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、金属材料の種類のみが異なる実験例11−2,11−4〜11−7の比較から明らかなように、コバルトを用いた場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、リチウムと合金化しない金属材料を形成した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、コバルトを用いればより高い効果が得られることが確認された。
(実験例12−1〜12−3)
酸化物含有膜に代えて、フッ素樹脂を形成したことを除き、実験例2−5,2−7,2−11と同様の手順を経た。このフッ素樹脂を形成する場合には、化1に示したパーフルオロポリエーテル(PFPE)をガルデン溶媒に溶解させて0.1重量%以上5重量%以下の溶液を調製したのち、その溶液を用いた浸積法によって負極集電体54Aの両面にPFPEを堆積させた。この際、単位容積が0.1cm3 /gとなるように浸積時間を調整した。
これらの実験例11−1〜11−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
表12に示したように、フッ素樹脂を形成した実験例12−1〜12−3においても、酸化物含有膜を形成した場合と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。このことから、本技術の二次電池では、フッ素樹脂を形成した場合においてもサイクル特性が向上することが確認された。
上記した表2、表11および表12の結果から、本技術の二次電池では、酸化物含有膜、リチウムと合金化しない金属材料、あるいはフッ素樹脂を埋め込み材として形成することにより、充放電後においてケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積が0.3cm3 /g以下となり、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、埋め込み材の種類のみが異なる実験例2−7,11−2,12−2の比較から明らかなように、酸化物含有膜を用いればサイクル特性がより向上することも確認された。
(実験例13−1〜13−6)
純度99%のケイ素と共に純度99.9%の金属元素を蒸着源として用いて、双方の元素を含有する負極活物質を形成したことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。この際、金属元素として鉄(実験例13−1)、ニッケル(実験例13−2)、モリブデン(実験例13−3)、チタン(実験例13−4)、クロム(実験例13−5)、あるいはコバルト(実験例13−6)を用い、蒸着量を調整して負極活物質中における各金属元素の含有量を5原子数%とした。
これらの実験例13−1〜13−6の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表13に示した結果が得られた。なお、表13には、実験例2−8の結果も併せて示している。
表13に示したように、負極活物質が金属元素を含有する実験例13−1〜13−6においても、その金属元素を含有しない実験例2−8と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、金属元素を含有する場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、負極活物質が金属元素を含有する場合においてもサイクル特性が向上すると共に、その金属元素を含有すればサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例14−1〜14−3)
チャンバ内に断続的に酸素ガスおよび必要に応じて水蒸気を導入しながらケイ素を堆積させて、第1の酸素含有領域とそれよりも酸素含有量が高い第2の酸素含有領域とが交互に積層されるように負極活物質を形成したことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。この際、第2の酸素含有領域中における酸素の含有量を3原子数%とし、その数を2つ(実験例14−1)、4つ(実験例14−2)、あるいは6つ(実験例14−3)とした。
これらの実験例14−1〜14−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表14および図22に示した結果が得られた。なお、表14には、実験例2−8の結果も併せて示している。
表14に示したように、負極活物質が第1および第2の酸素含有領域を有する実験例14−1〜14−3においても、それらを有しない場合と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、第2の酸素含有領域の数が多くなるにしたがって放電容量維持率が高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、負極活物質が第1および第2の酸素含有領域を有する場合においてもサイクル特性が向上すると共に、その第2の酸素含有領域の数を増やせばサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例15−1〜15−7)
負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを1μm(実験例15−1)、1.5μm(実験例15−2)、2.5μm(実験例15−3)、4.5μm(実験例15−4)、5.5μm(実験例15−5)、6.5μm(実験例15−6)、あるいは7μm(実験例15−7)としたことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。
これらの実験例15−1〜15−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表15および図23に示した結果が得られた。なお、表15には、実験例2−8の結果も併せて示している。
表15に示したように、十点平均粗さRzが異なる実験例15−1〜15−7においても、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、十点平均粗さRzが大きくなるにしたがって放電容量維持率が増加したのちに減少し、その十点平均粗さRzが1.5μm以上になるか6.5μm以下になると放電容量維持率が大幅に増加して80%以上になる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、負極集電体54Aの表面の十点平均粗さRzを変更した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、その十点平均粗さRzを1.5μm以上6.5μm以下にすればサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例16−1)
RFマグネトロンスパッタ法を用いて負極活物質(厚さ=7.5μm)を形成したことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。この際、純度99.99%のケイ素をターゲットとして用い、堆積速度を0.5nm/秒とした。
(実験例16−2)
CVD法を用いて負極活物質(厚さ=7.5μm)を形成したことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。この際、原材料および励起ガスとしてそれぞれシラン(SiH4 )およびアルゴン(Ar)を用い、堆積速度および基板温度をそれぞれ1.5nm/秒および200℃とした。
(比較例16−1,16−2)
実験例16−1と同様にRFスパッタリング法によって負極活物質を形成したことを除き、比較例2−1,2−4と同様の手順を経た。
(比較例16−3,16−4)
実験例16−2と同様にCVD法によって負極活物質を形成したことを除き、比較例2−1,2−4と同様の手順を経た。
これらの実験例16−1,16−2および比較例16−1〜16−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表16に示した結果が得られた。なお、表16には、実験例2−8および比較例2−1,2−4の結果も併せて示している。
表16に示したように、負極活物質の形成方法としてスパッタ法等を用いた場合においても、単位容積が0.3cm3 /g以下であると共にピークの孔径が200nm以上15000nm以下である実験例16−1,16−2では、その容積は範囲内であるがピークの孔径は範囲外である比較例16−1〜16−4よりも放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、負極活物質の形成方法のみが異なる実験例2−8,16−1,16−2の比較から明らかなように、電子ビーム蒸着法を用いた場合において放電容量維持率がより高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、負極活物質の形成方法を変更した場合においてもサイクル特性が向上すると共に、蒸着法を用いればサイクル特性がより向上することが確認された。
(実験例17−1)
溶媒としてECに代えて、フッ素化炭酸エステル(炭酸モノフルオロエチレン)である4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用いたことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。
(実験例17−2)
溶媒としてフッ素化炭酸エステル(炭酸ジフルオロエチレン)である4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、溶媒の組成(EC:DFEC:DEC)を重量比で25:5:70としたことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。
(実験例17−3,17−4)
電解液に溶媒として不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC:実験例17−3)あるいは炭酸ビニルエチレン(VEC:実験例17−4)を加えたことを除き、実験例17−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるVC,VECの含有量を10重量%とした。
(実験例17−5)
電解液に溶媒としてスルトンである1,3−プロペンスルトン(PRS)を加えたことを除き、実験例17−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるPRSの濃度を1重量%とした。
(実験例17−6)
電解液に電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を加えたことを除き、実験例17−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるLiBF4 の濃度を0.1mol/kgとした。
(実験例17−7,17−8)
電解液に溶媒として酸無水物であるスルホ安息香酸無水物(SBAH:実験例17−7)あるいはスルホプロピオン酸無水物(SPAH:実験例17−8)を加えたことを除き、実験例17−1と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるSBAH,SPAHの濃度を1重量%とした。
これらの実験例17−1〜17−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表17に示した結果が得られた。なお、表17には、実験例2−8の結果も併せて示している。
この際、実験例2−8,17−5の二次電池については、サイクル特性だけでなく膨れ特性も調べた。この膨れ特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で充電前の厚さを測定し、引き続き同雰囲気中で充電させて充電後の厚さを測定したのち、膨れ率(%)=[(充電後の厚さ−充電前の厚さ)/充電前の厚さ]×100を算出した。この際、充電条件としては、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
表17に示したように、溶媒がFEC等を含有する実験例17−1〜17−8においても、それらを含有しない実験例2−8と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、溶媒がFEC等を含有する場合において放電容量維持率がより高くなると共に、溶媒がPRSを含有する場合において膨れ率がより小さくなる傾向を示した。特に、フッ素化炭酸エステルを用いる場合には、FECよりもDFECにおいて放電容量維持率が高くなった。これらのことから、本技術の二次電池では、溶媒の組成や電解質塩の種類を変更してもサイクル特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒が不飽和結合を有する環状炭酸エステル、フッ素化炭酸エステル、スルトン、あるいはホウ素およびフッ素を有する電解質塩を含有し、炭酸モノフルオロエチレンよりも炭酸ジフルオロエチレンを含有すればサイクル特性がより向上すると共に、溶媒がスルトンを含有すれば膨れ特性が向上することが確認された。
(実験例18−1)
以下の手順によって図8および図9に示した角型の二次電池を製造したことを除き、実験例2−8と同様の手順を経た。
まず、正極21および負極22を作製したのち、正極集電体21Aにアルミニウム製の正極リード24を溶接すると共に負極集電体22Aにニッケル製の負極リード25を溶接した。続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層してから長手方向において巻回させたのち、扁平状に成形して電池素子20を作製した。続いて、アルミニウム製の電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置した。続いて、正極リード24を正極ピン15に溶接すると共に負極リード25を電池缶11に溶接したのち、電池缶11の開放端部に電池蓋13をレーザ溶接して固定した。最後に、注入孔19を通じて電池缶11の内部に電解液を注入し、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐことにより、角形電池が完成した。
(実験例18−2)
鉄製の電池缶11を用いたことを除き、実験例18−1と同様の手順を経た。
これらの実験例18−1,18−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表18に示した結果が得られた。なお、表18には、実験例2−8の結果も併せて示している。
表18に示したように、電池構造が角型である実験例18−1,18−2においても、ラミネートフィルム型である実験例2−8と同様に、放電容量維持率が増加して70%以上になった。この場合には、金属製の外装部材を用いた場合に放電容量維持率がより高くなり、鉄製である場合に放電容量維持率がさらに高くなる傾向を示した。これらのことから、本技術の二次電池では、電池構造を変更した場合においてもサイクル特性が向上することが確認された。この場合には、金属製の外装部材を用いればサイクル特性がより向上すると共に、鉄製であればサイクル特性がさらに向上することが確認された。
なお、ここでは具体的な実施例を挙げて説明しないが、外装部材が金属材料からなる角型の二次電池においてラミネートフィルム型の二次電池よりもサイクル特性および膨れ特性が向上した。このため、外装部材が金属材料からなる円筒型の二次電池においても同様の結果が得られることは明らかである。
以上説明したように、表1〜表18および図14〜図23の結果から明らかなように、ケイ素を含有する負極活物質が複数の細孔を有する場合に、充放電後において、ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積が0.3cm3 /g以下であり、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率が200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すように分布することにより、負極活物質の層数および組成や、電解液の組成や、電池構造などに依存せずに、サイクル特性が向上することが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の負極の用途は、必ずしも二次電池に限られず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであってもよい。この他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、細孔の埋め込み材として酸化物含有膜、電極反応物質と合金化しない金属材料、あるいはフッ素樹脂を有するようにしたが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の埋め込み材を有するようにしてもよい。もちろん、埋め込み材が負極や二次電池の性能に特別な影響を与えないものが好ましいことは言うまでもない。確認までに説明しておくと、上記したSEI膜も埋め込み材の一種であると考えることができる。
また、上記した実施の形態および実施例では、電解質として、電解液、あるいは電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。この他の種類の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、それらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、リチウムイオン二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本技術のリチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質の充電容量を正極活物質の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が角型、円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本技術のリチウムイオン二次電池は、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本技術のリチウムイオン二次電池用負極あるいはリチウムイオン二次電池におけるケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、容積が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本技術の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本技術の効果が得られるのであれば、容積が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率がピークを示す孔径や、負極集電体の表面の十点平均粗さなどについても同様である。
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極および負極と共に電解液を備え、
前記負極は、負極集電体の上に負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、ケイ素(Si)を含有すると共に複数の細孔を有する負極活物質、を含み、
ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積は0.3cm3 /g以下であり、
水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率は200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すように分布する
リチウムイオン二次電池。
(2)
前記ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積は0.1cm3 /g以下であり、
前記水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率は700nm以上12000nm以下の孔径にピークを示す、
上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池。
(3)
前記ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積は0cm3 /gであり、
前記水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率は1000nm以上10000nm以下の孔径にピークを示す、
上記(1)または(2)に記載のリチウムイオン二次電池。
(4)
前記負極活物質層は、前記細孔内に酸化物含有膜を有する、
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(5)
前記酸化物含有膜は、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも1種の酸化物を含有する、
上記(4)に記載のリチウムイオン二次電池。
(6)
前記酸化物含有膜は、液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいは浸積法によって形成されている、
上記(4)または(5)に記載のリチウムイオン二次電池。
(7)
前記負極活物質層は、前記細孔内に、リチウム(Li)と合金化しない金属材料を有する、
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(8)
前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含有する、
上記(7)に記載のリチウムイオン二次電池。
(9)
前記金属材料は、鍍金法によって形成されている、
上記(7)または(8)に記載のリチウムイオン二次電池。
(10)
前記負極活物質層は、前記細孔内にフッ素樹脂を有する、
上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(11)
前記フッ素樹脂は、エーテル結合(−O−)を有する、
上記(10)に記載のリチウムイオン二次電池。
(12)
前記フッ素樹脂は、パーフルオロポリエーテルである、
上記(10)または(11)に記載のリチウムイオン二次電池。
(13)
前記フッ素樹脂は、浸積法によって形成されている、
上記(10)ないし(12)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(14)
前記負極活物質は、複数の粒子状である、
上記(1)ないし(13)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(15)
前記複数の粒子状の負極活物質は、多層構造を有する、
上記(14)に記載のリチウムイオン二次電池。
(16)
前記負極活物質は、気相法によって形成されている、
上記(1)ないし(15)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(17)
前記負極活物質は、鉄、コバルト、ニッケル、クロム(Cr)、チタン(Ti)およびモリブデン(Mo)のうちの少なくとも1種の金属元素を含有する、
上記(1)ないし(16)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(18)
前記負極活物質は、その厚さ方向において、高酸素含有領域および低酸素含有領域を有する、
上記(1)ないし(17)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(19)
前記負極集電体の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上6.5μm以下である、
上記(1)ないし(18)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
(20)
負極集電体の上に負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、ケイ素を含有すると共に複数の細孔を有する負極活物質、を含み、
ケイ素の単位重量当たりにおける3nm以上200nm以下の孔径の細孔群の容積は0.3cm3 /g以下であり、
水銀圧入法によって測定される複数の細孔への水銀の浸入量の変化率は200nm以上15000nm以下の孔径にピークを示すように分布する
リチウムイオン二次電池用負極。