JP5650702B2 - 圧粉磁心とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、軟磁性粉末からなる圧粉磁心およびその製造方法に関するものである。
OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源などの制御用電源には電子機器としてチョークコイルが用いられており、そのコアとして、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。これらの中で、フェライト磁心は飽和磁束密度が小さいという欠点を有している。これに対して、金属粉末を成形して作製される圧粉磁心は、軟磁性フェライトに比べて高い飽和磁束密度を持つため、直流重畳特性に優れている。
しかし、圧粉磁心は、金属粉末を有機バインダーなどと混合して高圧で圧縮成形して作製するため、粒子間の絶縁が保てず、透磁率の周波数特性の低下、コアロスの増大という欠点を有する。また、粉末粒子間の絶縁を確保するため、バインダーなどを大量に混合すると金属粉末の占積率が低下し、コアロスの増大、直流重畳特性が低下するなどの問題があった。
粉末粒子間の絶縁を確保する方法として、従来から次のようなものが知られている。
(1) 粉末の表面を絶縁性酸化物を形成し得る金属を有する有機金属カップリング剤にて被覆処理し、該処理粉末に結着剤としての合成樹脂を混合してから、加圧成形した後、熱処理を施すことによって絶縁性酸化被膜を生成せしめるもの。(特許文献1)
(2) SiO2を生成する化合物と、MgCO3またはMgOの粉末からなる混和物を圧粉成形して、熱処理することにより、磁性粉末粒子間に絶縁を確保するためのガラス層を形成し、コアロスの増加を抑制し、良好な直流重畳特性、周波数特性を有する圧粉磁芯を得る。このSiO2を生成する化合物として、シリコーン樹脂またはシランカップリング剤の少なくとも一方を用いるもの。(特許文献2,3)
(3) 鉄、珪素、アルミニウムを主体とする合金粉末を使用し、この合金粉末を酸化性雰囲気中250〜950℃の温度で熱処理し、シリコーン樹脂を混合後、圧縮成形した後、非酸化性雰囲気500〜1100℃で熱処理することにより、高透磁率でしかも高絶縁性を有する圧粉磁心を得るもの。(特許文献4)
しかしながら、特許文献1の手段においては、シランカップリング剤とエポキシ樹脂を用い絶縁破壊を防止しているが、コアロスまでは言及していない。
特許文献2では1重量%のシリコーン樹脂のみでは800℃の熱処理において絶縁低下を生じているのに対して、SiO2、MgCO3、MgO粉末をシリコーン樹脂と一緒に添加することにより、高温での絶縁劣化を防止しているが、コアロスまでは言及していない。
特許文献3では、特許文献2と同様な方法にてコアロスまで言及しているが、磁性粉末の酸素濃度が0.1〜1.0wt%に限られており、酸素濃度が0.2wt%以下からコアロスが増大している。
特許文献4では、シランカップリング剤を用いているが、軟磁性金属よりなる母相粒子表面に酸化膜を被覆してなる軟磁性粒子の集まりである原料粉末に対する方法である。
特開昭62-247004 特開2002-33211 特開2003-217919 特開2006-134958 武本 聡、藪見崇生、斎藤貴伸:電気製鋼76(2005),165
従来、圧粉磁心の絶縁破壊を防止しコアロスを低下させる方法は、充填率を上げるため樹脂バインダーを少なくするか、成形圧力を高くする方法で行われていた。しかし、この方法で充填率をあげた場合、粉末粒子間の絶縁が低下し、渦電流の増加によるコアロスの増大を招いてしまう。これを改善する方法として、従来有機金属樹脂による絶縁被膜を形成することが行なわれていた。
軟磁性粉末を作製する方法として、酸素含有量が比較的少ないガスアトマイズ法、酸素含有量が比較的多い水アトマイズ法、その中間に位置する水ガスアトマイズ法が行なわれている。(以下、これらの方法で作製された粉末を、ガスアトマイズ粉末と記す。)
上記した有機金属樹脂による絶縁被膜を形成しコアロスを低下させる方法は、水アトマイズ粉末、水ガスアトマイズ粉末には有効な方法であるが、ガスアトマイズ粉末に対しては効果がなかった。
特に、最近の電子機器に使用される圧粉磁心としては、次の(a) 〜(d) のような特性が要求されているが、前記特許文献1から特許文献4に示す従来技術においては、このような要求を全て満足する圧粉磁心を得ることは不可能であった。
(a) 最大圧力 1400MPa以上
(b) 密度比(ρ/ρ0) 91.0g/cm2
(c) 透磁率比(μ1M/μ1K) 90以上
ただし、透磁率比は、透磁率の周波数特性における1kHzと1MHzの比。
(d) コアロス(100kHz) Ph:12以下、Pe:9以下、合計:21以下
ただし、Ph:ヒステリシスロス、Pe:渦電流損。
本発明は前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、ガスアトマイズ粉末において樹脂バインダーを少なくしても粉末粒子間の絶縁が低下せず、しかも、前記のような優れた特性を満足することができ、コアロスを低減することを可能とした圧粉磁心とその製造方法とを提供することである。
本発明者等は、前記の目的を達成するために、ガスアトマイズ粉末に対して、従来の有機金属樹脂としてシリコーン樹脂に加え、シランカップリング剤により粉体表面を処理することにより、少ないシリコーン樹脂を用いた場合においても絶縁破壊をおこさず、尚かつ樹脂量を多くすることによるコアロス増大を防止し、コアロスの低い圧粉磁心を得る方法を見出した。また、同様な手法が、水アトマイズ粉末や水ガスアトマイズ粉末に対しても有効であることを確認した。
すなわち、請求項1の圧粉磁心の製造方法は、ガスアトマイズ法で得られた軟磁性粉末の表面を有機金属カップリング剤0.4〜1.0重量%の範囲にて被覆処理し、該処理粉末を有機金属樹脂0.2〜0.5重量%の範囲にて被覆処理することにより、前記軟磁性粉末に対して有機金属カップリング剤による被膜と有機金属樹脂のみからなる被膜の2層構造の被膜を形成した後、加圧成形し熱処理を施すことにより、軟磁性粉末の表面に絶縁性酸化物皮膜を形成したことを特徴とする。
請求項2の発明は、圧粉磁心の製造方法は、水アトマイズ法によって得られた軟磁性粉末の表面を有機金属カップリング剤0.05〜0.5重量%の範囲にて被覆処理し、該処理粉末を有機金属樹脂0.30〜1.0重量%の範囲にて被覆処理することにより、前記軟磁性粉末に対して有機金属カップリング剤による被膜と有機金属樹脂のみからなる被膜の2層構造の被膜を形成した後、加圧成形し熱処理を施すことにより、軟磁性粉末の表面に絶縁性酸化物皮膜を形成したことを特徴とする。
また、本発明は、以下のような特徴を有する圧粉磁心の製造方法も本発明の一態様である。
(a)処理粉末に絶縁性酸化物を形成し得る有機金属樹脂を被覆処理するに当たり、処理粉末と有機金属樹脂とを混合した後、加熱処理を行うことで軟磁性粉末と有機金属カップリング剤との間にメタロキサン結合を生成させる圧粉磁心の製造方法。
(b)加圧成型処理に当たり、前記処理粉末に潤滑剤を混合する圧粉磁心の製造方法。
(c)有機金属カップリング剤は、シランカップリング剤であり、有機金属樹脂はシリコーン樹脂である圧粉磁心の製造方法。
(d)軟磁性粉末が、珪素3.0〜6.5重量%、残部は鉄からなる組成である圧粉磁心の製造方法。
さらに、上記のいずれかの製造方法によって製造されたことを特徴とする圧粉磁心も本発明の一態様である。
本発明によれば、軟磁性粉末をシランカップリング剤に混合することにより、シランカップリング剤が空気中の水分と反応し加水分解が起こり、生じたシラノール基が軟磁性粉末表面の水酸基に吸着する。さらに加熱処理によってこれらの一部がメタロキサン結合(Si−O−M:Mは金属元素)を形成し固定化される。これに少量のシリコーン樹脂を混合し、圧縮成形した後、焼鈍することによりコアロスの低い圧粉磁心が得られる。
また、本発明は、水アトマイズ粉末や水ガスアトマイズ粉末に対しても有効であるが、特に、ガスアトマイズ法により作製された粉末であるときに効果を発揮する。ガスアトマイズ粉末は、酸素濃度が低い、形状が球状である等の理由から、絶縁処理にとっては不利な条件であり、このような粉末についてシランカップリング剤とシリコーン樹脂の2層構造とすることにより効果を発揮する。また、上記出発原料粉末は、0〜10重量%Si、残部Feの組成の合金であり、Siの重量%が少ない時に特に効果を発揮する。
以下、本発明の実施例について比較例とともに説明するが、本発明はこのような実施例にのみ限定されないことはいうまでもない。
(1)ガスアトマイズ粉末…実施例1〜3、実施例5〜7、比較例1〜6
ガスアトマイズ法で作製した、組成が珪素3.0重量%、残部は鉄からなる軟磁性粉末に、有機金属カップリング剤としてシランカップリング剤を0〜1.1重量%混合し乾燥後、シリコーン樹脂である耐熱塗装用熱硬化型シリコーンレジンを0〜1.5重量%混合し加熱乾燥後、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを添加して混合した。
これを、金型温度150℃、軟磁性粉末100℃に昇温後、プレス成形し、外径16mm、内径8mm、高さが5mmのリング状をなす圧粉磁心を作製した。そして、各圧粉磁心について空気中および窒素中にて焼鈍を行った。
ついで、各圧粉磁心に1次巻き線を施し、10kHz,0.5Vでのインダクタンスを測定し、透磁率を計算により求めた。また、1次・2次巻き線を施し100kHzで、通常の使用条件下での飽和磁束密度によるコアロスを測定した。
(2)ガスアトマイズ粉末…実施例4
ガスアトマイズ法で作製した、組成が珪素3.0重量%、残部は鉄からなる軟磁性粉末に、有機金属カップリング剤としてシランカップリング剤を1.0重量%混合し乾燥後、シリコーン樹脂である耐熱塗装用熱硬化型シリコーンレジンを0.2重量%混合し加熱乾燥後、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを添加して混合した。
これを、プレス成形機により室温成形し、外径16mm、内径8mm、高さが5mmのリング状をなす圧粉磁心を作製した。その圧粉磁心について空気中および窒素中にて焼鈍を行った。
ついで、各圧粉磁心に1次巻き線を施し、10kHz,0.5Vでのインダクタンスを測定し、透磁率を計算により求めた。また、1次・2次巻き線を施し100kHzで、通常の使用条件下での飽和磁束密度によるコアロスを測定した。
(3)ガスアトマイズ粉末…実施例と比較例の評価
表1には、前記各実施例と比較例について、その絶縁破壊を評価するため、透磁率の周波数特性における1kHzと1MHzにおける透磁率の比および、コアロスにおけるヒステリシスロス:Phと渦電流損:Peも示した。
一般的にコアロスPcはPhとPeと異常渦電流損Paeで表すことができ、Phは周波数に比例し、Peは周波数の二乗に比例するため、次のように表すことができる。
Pc=Ph+Pe+Pae=Kh・f+Ke・f2+Kae・fn
f:周波数
Kh,Ke,Kae:比例定数
さらに、渦電流損Peは、個々の粉末粒内で発生する粒内渦電流損Peintraと、粉末粒間を絶縁皮膜を介し、もしくは、絶縁皮膜を介さずにバルク的に流れる渦電流による粒間渦電流損Peinternに分けることができる。絶縁破壊が発生するとPeinternの増大によりPeが増大することが明らかになっている。(非特許文献1)
表1から明らかなように、成形圧力が1400MPaでも成形体にひび等が入らず、直流重畳特性に影響を及ぼす理論密度との比が91%以上で、絶縁破壊の指標の1つである1kHzと1MHzの透磁率の比が90%以上、コアロスPcが21W/kg以下、ヒステリシス損失Phが12W/kg以下、渦電流損Peが9W/kg以下であるシランカップリング剤とシリコーン樹脂の組み合わせの範囲は実施例の範囲であることがわかる。
これをシランカップリング剤とシリコーン樹脂のマッピングとして示したのが表2である。
(4)水アトマイズ粉末
水アトマイズ法で作製した、組成が珪素6.5重量%、残部は鉄からなる軟磁性粉末に、有機金属カップリング剤としてシランカップリング剤を0〜2.0重量%混合し乾燥後、シリコーン樹脂である耐熱塗装用熱硬化型シリコーンレジンを0〜1.0重量%混合し加熱乾燥後、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを添加して混合した。
これを、プレス成形機により室温成形し、外径16mm、内径8mm、高さが5mmのリング状をなす圧粉磁心を作製した。そして、各圧粉磁心について空気中および窒素中にて焼鈍を行った。
ついで、各圧粉磁心に1次巻き線を施し、10kHz,0.5Vでのインダクタンスを測定し、透磁率を計算により求めた。また、1次・2次巻き線を施し100kHzで、通常の使用条件下での飽和磁束密度によるコアロスを測定した。前記表1に示したような判定基準により、最大圧力・密度比・透磁率比・コアロスについてすべて判定値を満足したものを○、一部あるいは全部を満足しなかった条件を×として表3に示した。
この表から明らかなように、ガスアトマイズ粉末と違い、シリコーン樹脂単独でも判定値を満足している。すなわち、水アトマイズ粉末の場合には、有機金属カップリング剤0.05〜1.0重量%、有機金属樹脂0〜0.5重量%の範囲、または、有機金属カップリング剤0〜0.5重量%、有機金属樹脂0.3〜1.0重量%の範囲が有効である。
(5)水ガスアトマイズ粉末
水ガスアトマイズ法で作製した、組成が珪素3.5重量%、残部は鉄からなる軟磁性粉末に、有機金属カップリング剤としてシランカップリング剤を0〜1.0重量%混合し乾燥後、シリコーン樹脂である耐熱塗装用熱硬化型シリコーンレジンを0〜1.0重量%混合し加熱乾燥後、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを添加して混合した。
これを、プレス成形機により室温成形し、外径16mm、内径8mm、高さが5mmのリング状をなす圧粉磁心を作製した。そして、各圧粉磁心について空気中および窒素中にて焼鈍を行った。
ついで、各圧粉磁心に1次巻き線を施し、10kHz、0.5Vでのインダクタンスを測定し、透磁率を計算により求めた。また、1次・2次巻き線を施し100kHzで、通常の使用条件下での飽和磁束密度によるコアロスを測定した。前記表1に示したような判定基準により、最大圧力・密度比・透磁率比・コアロスについてすべて判定値を満足したものを○、一部あるいは全部を満足しなかった条件を×として表4に示した。
この表4から明らかなように、ガスアトマイズ粉末と違い、シリコーン樹脂単独でも判定値を満足している。すなわち、組成が珪素3.5重量%、残部は鉄からなる水ガスアトマイズ粉末の場合は、有機金属カップリング剤0〜0.6重量%、有機金属樹脂0.05〜0.5重量%の範囲、または、有機金属カップリング剤0.1〜0.6重量%、有機金属樹脂0〜0.5重量%の範囲が有効である。
(6)他の実施形態
なお、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、例えば、金属有機カップリング剤としては、シラン系以外に、チタン系、アルミ系、クロム系などのカップリング剤を使用できる。また、有機金属樹脂としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンレジンなどのシリコーン樹脂や有機チタンなどを使用できる。

Claims (7)

  1. ガスアトマイズ法で得られた軟磁性粉末の表面を有機金属カップリング剤0.4〜1.0重量%の範囲にて被覆処理し、
    該処理粉末を有機金属樹脂0.2〜0.5重量%の範囲にて被覆処理することにより、
    前記軟磁性粉末に対して有機金属カップリング剤による被膜と有機金属樹脂のみからなる被膜の2層構造の被膜を形成した後、
    加圧成形し熱処理を施すことにより、軟磁性粉末の表面に絶縁性酸化物皮膜を形成したことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
  2. 水アトマイズ法によって得られた軟磁性粉末の表面を有機金属カップリング剤0.05〜0.5重量%の範囲にて被覆処理し、
    該処理粉末を有機金属樹脂0.30〜1.0重量%の範囲にて被覆処理することにより、
    前記軟磁性粉末に対して有機金属カップリング剤による被膜と有機金属樹脂のみからなる被膜の2層構造の被膜を形成した後、
    加圧成形し熱処理を施すことにより、軟磁性粉末の表面に絶縁性酸化物皮膜を形成したことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
  3. 前記処理粉末に絶縁性酸化物を形成し得る有機金属樹脂を被覆処理するに当たり、前記処理粉末と有機金属樹脂とを混合した後、加熱処理を行うことで軟磁性粉末と有機金属カップリング剤との間にメタロキサン結合を生成させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
  4. 前記加圧成型処理に当たり、前記処理粉末に潤滑剤を混合することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
  5. 前記有機金属カップリング剤は、シランカップリング剤であり、有機金属樹脂はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
  6. 前記軟磁性粉末が、珪素3.0〜6.5重量%、残部は鉄からなる組成であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。
  7. 前記請求項1から請求項6のいずれかの製造方法によって製造されたことを特徴とする圧粉磁心。
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