以下、本発明の一実施形態に係る透過型表示装置が図面を参照して説明される。尚、以下に説明される実施形態において、同様の構成要素に対して同様の符号が付されている。また、説明の明瞭化のため、必要に応じて、重複する説明は省略される。図面に示される構成、配置或いは形状並びに図面に関連する記載は、単に、以下の実施形態の原理を容易に理解させることを目的とするものであり、以下の様々な実施形態を通じて説明される原理は、これらに何ら限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態として例示されるHUD(ヘッドアップディスプレイ)の構成図である。本実施形態のHUDのホログラムコンバイナの入射角は、表面反射問題を解決するために、回折角よりも大きく設計されている。この結果、表示される画像の画質が向上される。
図1に示されるHUD300は、車体301のダッシュボードの内部に配設されるHUD光学ユニット310を備える。HUD光学ユニット310は、表示要素320及び補正要素330を収容する。また、HUD光学ユニット310には、開口部313が形成されている。開口部313を通じて、表示要素320が作り出した表示光L1が射出される。本実施形態において、HUD光学ユニット310は、表示ユニットとして例示される。
表示要素320は、ドライバDRに対して運転情報(スピードメータや地図情報)を含む画像を表示するための表示光L1を生成並びに出射する。本実施形態において表示要素320は、レーザ光源からの出力ビームを表示スクリーン上で二次元走査し、ドライバDRに表示するための像を形成する。
図2は、表示要素320の構成図である。図1及び図2を用いて、表示要素320が説明される。
HUD300は、表示要素320内に配設された赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343を備える。本実施形態において、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343は、それぞれ、光源として例示される。尚、光源は、ドライバDRに表示される像を表す表示光L1を生成できるならば、レーザ光源に限らず、他の種類の光源であってもよい。
表示要素320は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343から出射されるレーザ光線の光路上にそれぞれ配設されるコリメータ321と、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343から出射されたレーザ光線を合波するダイクロイックミラー322と、を備える。本実施形態において、表示要素320が備えるこれらの様々な要素は、表示素子として例示される。
赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343から出射されたレーザ光線は、コリメータ321をそれぞれ通過する。その後、ダイクロイックミラー322は、これらのレーザ光線を合波し、レーザ光Lとして出力する。赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343の出力は、適切に変調される。この結果、所望の色のレーザ光Lがダイクロイックミラー322から出力される。
本実施形態において、赤色レーザ光源341は、赤色(R)の半導体レーザ光源であり、青色レーザ光源342は、青色(B)の半導体レーザ光源であり、緑色レーザ光源343は、緑色(G)の半導体レーザ光源である。代替的に、緑色レーザ光源は、赤外線を出力する半導体レーザ光源と、赤外線を緑色に変換するSHG(Second-Harmonic Generation:第2次高調波発生)素子の組合せであってもよい。更に、代替的に、赤色レーザ光源、青色レーザ光源及び緑色レーザ光源は、固体レーザ光源、液体レーザ光源、ガスレーザ光源或いは発光ダイオード光源であってもよい。
本実施形態において、レーザ光Lの変調は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれに対する出力調整により達成される。代替的に、レーザ光源と、レーザ光源から出力された光を変調するための光学要素とを用いて、レーザ光が変調されてもよい。
表示要素320は、走査要素323と表示スクリーン324とを更に備える。走査要素323は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からのレーザ光線の合波によって得られたレーザ光Lを、表示スクリーン324上で2次元走査する。本実施形態において、走査要素323は、レーザ光Lの光路に対する角度を2次元的に偏向することができる単板小型ミラーを備える。例えば、走査要素323として、MEMS(Micro-Electro-Mechanical-System)マイクロミラーが好適に用いられる。
図3は、走査要素323の動作を概略的に示す。図3を用いて、走査要素323が更に説明される。
走査要素323は、単板小型ミラー325を備える。単板小型ミラー325は、X軸に沿って延びる回転軸RAx及びX軸に直交するY軸に沿って延びる回転軸RAy周りに回転することができる。走査要素323は、単板小型ミラー325を、回転軸RAx及び回転軸RAyの方向に振動させ、単板小型ミラー325に入射するレーザ光Lを2次元方向に走査する。
本実施形態において、走査要素323は、1つの単板小型ミラー325を2次元方向に振動させる。代替的に、走査要素は、一次元方向に振動する2枚のミラーを組み合わせて、レーザ光を2次元方向に走査してもよい。走査要素が、一次元方向にのみ振動するミラーを振動させるならば、ミラーそれぞれの角度の制御が比較的簡素化される。
図1及び図2を再度用いて、表示要素320が説明される。
走査要素323は、上述の如く、レーザ光Lを表示スクリーン324の背面(表示要素320の内部に現れる面)上で二次元走査され、表示像(画像)を形成する。表示スクリーン324上で結像された画像は、表示スクリーン324の表面(表示要素320の外部に現れる面)から、補正要素330に向けて出力される。
本実施形態において、表示要素320は、表示スクリーン324に対して、背面投影を行う。代替的に、表示要素は、表示スクリーンに前面投影を行ってもよい。
図4は、前面投射を行う表示要素の構成を示す。尚、図4中、図2に関連して説明された要素と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。また、図2に関連して説明された要素と同様の要素に関する説明は、省略される。図4に示される表示要素は、図2に関連して説明された表示要素320に代えて、HUD300に好適に用いられる。図1、図2及び図4を用いて、前面投射を行う表示要素が説明される。
前面投射を行う表示要素320Aは、図2に関連して説明された光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)、コリメータ321、ダイクロイックミラー322、走査要素323に加えて、偏光要素326と表示スクリーン324Aとを備える。本実施形態において、表示要素320Aが備えるこれらの様々な要素は、表示素子として例示される。
偏光要素326は、ダイクロイックミラー322から出力されたレーザ光Lを偏光し、所望の色のレーザ光Lを生成する。偏光要素326から出力されたレーザ光Lは、走査要素323に向かう。
表示スクリーン324Aは、表示要素320Aの内部に傾斜するように配設される。表示スクリーン324Aの前面は、走査要素323に略対向する。走査要素323は、偏光要素326から出力されたレーザ光を表示スクリーン324Aの前面上で走査する。
表示要素320Aは、好ましくは、拡散効率の高いフライアイミラーやビーズスクリーンであってもよい。フライアイミラーやビーズスクリーンを利用した表示要素320Aは、ドライバDRに、比較的高い輝度の画像を提供することができる。
本実施形態において、表示要素320,320Aは、表示スクリーン324,324Aをそれぞれ備える。代替的に、表示要素は、表示スクリーンを備えず、後述されるコンバイナ上に直接的にレーザ光を投影してもよい。この結果、ドライバDRの網膜に直接的に光が投影され、ドライバDRは、一層鮮明な画像を知覚することができる。
本実施形態において、表示要素320,320Aは、走査要素323を用いて、レーザ光Lを走査する。代替的に、表示要素は、液晶素子とバックライト装置と、を備えてもよい。例えば、液晶素子は、図2又は図4に示された走査要素323に代えて用いられる。図2又は図4に示されたダイクロイックミラー322と液晶素子との間に、液晶素子を照明する光学系(バックライト装置)が配設される。バックライト装置として、レーザ光源が使用されてもよい。代替的に、LEDや他の適切な光源が、バックライト装置として用いられてもよい。
図5は、液晶素子を用いた表示要素の構成を示す。尚、図5中、図2に関連して説明された要素と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。また、図2に関連して説明された要素と同様の要素に関する説明は、省略される。図5に示される表示要素は、図2に関連して説明された表示要素320に代えて、HUD300に好適に用いられる。図1、図2及び図5を用いて、液晶素子を用いた表示要素が説明される。
表示要素320Bは、図2に関連して説明された光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)、コリメータ321、ダイクロイックミラー322及び表示スクリーン324に加えて、照明光学素子327と、液晶素子328と、折り返しミラー329と、を備える。液晶素子328及び折り返しミラー329は、図2に関連して説明された走査要素323の代わりに用いられる。本実施形態において、表示要素320Bが備えるこれらの様々な要素は、表示素子として例示される。
光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342,緑色レーザ光源343)及びダイクロイックミラー322を用いて生成されたレーザ光Lは、照明光学素子327によって、拡散される。その後、拡散されたレーザ光Lは、液晶素子328に照射され、ドライバDRに情報を伝達するための表示光L1となる。表示光L1は、その後、折り返しミラー329によって、表示スクリーン324に向けて反射される。この結果、表示光L1によって表される像が、表示スクリーン324上に現れる。
表示要素320Bは、図2に関連して説明された走査要素323に代えて、液晶素子328を用いて、表示像を形成し、表示スクリーン324上に結像させる。代替的に、走査要素に代えて、液晶素子が表示像の形成に用いられるならば、表示要素は、折り返しミラーや表示スクリーンを備えなくともよい。例えば、液晶素子から出力される表示光は、直接的に、表示要素から出力されてもよい。折り返しミラーや表示スクリーンを介さず、表示要素から表示光が直接的に出射されるならば、表示要素は、一層小型化される。
図1及び図2を再度用いて、HUD300が更に説明される。
HUD300は、ホログラムコンバイナ350を更に備える。表示要素320,320A又は320Bは、補正要素330に向けて表示光L1を出射する。補正要素330は、表示光L1の向きを変え、ホログラムコンバイナ350へ入射させる。本実施形態において、補正要素330は、偏向要素として例示される。
図1に示される如く、表示光L1は、補正要素330に対して入射角α1で入射し、回折角β1で出射される。本実施形態において、補正要素330として用いられるホログラムミラーは、入射角α1が回折角β1よりも小さくなるように設計される。補正要素330として、好適には、フォトポリマを利用したリップマン体積ホログラム或いはブレーズドホログラムが用いられる。代替的に、回折作用を有する液晶素子や他の光学素子が、補正要素に用いられてもよい。
補正要素330によって向きを代えられた表示光L1は、ホログラムコンバイナ350へ入射角α2で入射する。ホログラムコンバイナ350は、表示光L1を入射角β2で出射する。
本実施形態において、図1に示される如く、水平線に対する補正要素330の傾きの方向が、水平線に対するホログラムコンバイナ350の傾きの方向と等しくされる(図1において、補正要素330及びホログラムコンバイナ350はともに、ドライバDRに向けて上方に傾斜している)。この結果、ホログラムコンバイナ350への入射角α2が回折角β2よりも大きいときに発生する収差が低減され、ドライバDRに表示される画像の画質が向上する。
補正要素330は、拡大ミラーの性能を有していてもよい。補正要素330が拡大ミラーの性能を有するならば、表示要素320,320A又は320Bから補正要素330までの光路長が短縮され、HUD光学ユニット310が小型に設計される。
尚、補正要素330とホログラムコンバイナ350とのそれぞれの入射角・回折角の関係は後に詳述される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350は、補正要素330から入射される表示光L1の向きをドライバDRの眼に向かう方向へ反射する透過反射要素として例示される。ホログラムコンバイナ350は、表示要素320,320A,320Bから出射された表示光L1に含まれる波長の光をドライバDR(使用者)に向けて反射する一方で、その他の波長の光を透過させる。この結果、ドライバDRは、表示光L1によって表示される画像とともに、車体301外の景色を視覚的に把握することができる。
車体301に取り付けられたフロントガラス302の内面(車体301の室内の境界を形成する面)には、例えば、フォトポリマ層が形成される。ホログラムコンバイナ350は、フォトポリマ層に形成されたリップマン体積ホログラムであってもよい。ホログラムコンバイナ350は、補正要素330から入射角α2で入射された表示光L1を、回折角β2でドライバDRに向かって反射するように製作される。
本実施形態において、フォトポリマ層に形成されたホログラムコンバイナ350は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からの光成分をそれぞれ反射する3つのホログラムを含んでもよい。これらのホログラムは、多重露光によって形成される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350は、RGBの3色の光成分を多重露光して形成された1つの層のホログラムである。代替的に、ホログラムコンバイナは、RGBの3色の光成分それぞれに対応する3層のホログラムであってもよい。積層された3層のホログラムを含むホログラムコンバイナに用いられるホログラム材料の屈折率変調の数値は、3色の光成分(RGB)それぞれに対して適切に設定されるので、ホログラム材料の屈折率変調の数値がRGBの光成分に分配される場合(1つの層のホログラムが用いられる場合)と較べて、3色の光成分(RGB)それぞれに対する回折効率が向上する。
ホログラムコンバイナ350は、拡大ミラーの性能を有していてもよい。ホログラムコンバイナ350が拡大ミラーの性能を有するならば、表示要素320,320A又は320Bからからホログラムコンバイナ350までの光路長が短縮され、HUD光学ユニット310が小型に設計される。本実施形態において、ホログラムコンバイナ350は、2.0倍の拡大ミラーの性能を有する。代替的に、ホログラムコンバイナは、他の光学性能(例えば、他の拡大倍率)を有してもよい。
本実施形態において、HUD300は、ホログラムコンバイナ350への入射角α2が回折角β2よりも少なくとも10度以上大きくなるように設計される。この結果、表面反射問題が適切に解消される。
上述のホログラムコンバイナ350は、フロントガラス302の内面のフォトポリマ層に形成される。代替的に、HUD300は、フロントガラス302中に配設されたホログラムコンバイナを透過反射要素として用いてもよい。
図6は、フロントガラス302中に配設されたホログラムコンバイナを概略的に示す。図1、図6及び図48を用いて、フロントガラス302中に配設されたホログラムコンバイナが説明される。
フロントガラス302は、車体301の室内の境界を形成する内ガラス板303と、車体301の外側に現れる外ガラス板304と、を備える。透過反射要素として用いられるホログラムコンバイナ350Aは、内ガラス板303と外ガラス板304との間に配設される。ホログラムコンバイナ350Aは、例えば、HOE(Holographic Optical Element)であってもよい。内ガラス板303は、表示光L1が最初に入射する要素であり、本実施形態において、前側透明部材として例示される。また、内ガラス板303と反対側に配設された外ガラス板304は、内ガラス板303と協働して、ホログラムコンバイナ350Aを挟持する。本実施形態において、外ガラス板304は、後側透明部材として例示される。本実施形態において、HOEを用いて形成されるホログラムコンバイナ350Aは、回折素子として例示される。
ホログラムコンバイナ350Aは、入射角α2で入射した表示光L1を回折角β2で回折し、ドライバDRへ出射する。一方、内ガラス板303からの表示光L1の反射光RL1と外ガラス板304からの表示光L1の反射光RL2は、入射角α2と同じ大きさの出射角α2で出射される。ホログラムコンバイナ350Aからの回折光DLは、反射光RL1,RL2とは異なる方向に伝播するので、ドライバDRは回折光DLのみを視認することができる。
図48に関連して説明された如く、ホログラムコンバイナ201への入射角IAと、ホログラムコンバイナ201からの回折角DAとの差異が大きく、且つ、光源の波長幅が大きいとき、ホログラムコンバイナ201に起因する像ボケの影響は大きくなる。この結果、ドライバDRに表示される画像の画質は悪化する。
図7は、上述の像ボケの影響を受けたときのドライバDRの網膜上のスポット径を概略的に示す。図7及び図48を用いて、像ボケの影響が説明される。
図7は、緑色の波長の光を照射する緑光源204から照射され、その後、ドライバDRの網膜上で結像したスポットの形状(スポット形状)を示す。図7は、緑光源204の中心波長の光が網膜上で結像したスポットSP2と、緑光源204が出力する光のうち最大の波長の光が網膜上で結像したスポットSP3と、緑光源204が出力する光のうち最小の波長の光が網膜上で結像したスポットSP1と、を概略的に示す。スポットSP2は、画面VSの略中央に位置し、スポットSP1及びスポットSP3は、スポットSP2に対してそれぞれ上下に隣接している。図7において、画面VSの中央の画素に対応して描画する緑光源204からの光の網膜上での大きさは、記号「SD」で表される。
図7に示される如く、ホログラムコンバイナ201への入射角IAと、ホログラムコンバイナ201からの回折角DAとの差異が大きく、且つ、光源の波長幅が大きいとき、光源(緑光源204)の出力波長に応じて、網膜上での結像位置は変動する。したがって、ドライバDRは、ホログラムコンバイナ201からの回折光DLによって表される像をボケたように知覚する。
緑光源204からの光の網膜上での大きさSDが大きいほど、像ボケの程度は大きくなる。緑光源204の波長幅が大きく、且つ、ホログラムコンバイナ201に対する入射角IAと回折角DAの差が大きいほどホログラムコンバイナ201に起因する像ボケの影響は大きくなる。例えば、緑光源204から出射される光の波長幅が2nm、入射角IAが65度、回折角DAが55度であり、補正要素205の入射角と回折角が等しいならば(図48中、入射角及び回折角は、「α」である)、緑光源204からの光の網膜上での大きさSDの値は約20μmになる。一般に、「1.0」の視力のドライバが2m先に表示された画像を視認するとき、網膜上で6.2μmの画素まで視認することが可能である。20μmの緑光源204からの光の網膜上での大きさSDでは、ドライバDRは、HUDが表示する像をボケた画像として知覚する。
像ボケの課題は、緑光源204が特有に引き起こすものではなく、赤色の波長の光を照射する赤光源や青色の波長の光を照射する青光源にも共通する。以下の説明において、画面中心の画素に対応して描画する緑色レーザ光源343からの光を用いて、様々な説明がなされる。これらの説明に含まれる原理や効果は、他の光源或いは他の画素に対しても、同様に適用される。
図1を再度用いて、ホログラムコンバイナ350,350Aに起因する像ボケの影響の低減手法が説明される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350,350Aに起因する像ボケの影響を低減するために、補正要素330は、ホログラムを用いて形成され、補正要素330への入射角α1は、回折角β1よりも小さく設定される。この結果、ホログラムコンバイナ350,350Aで発生する像ボケの影響は、補正要素330で発生する像ボケの影響によって相殺され、網膜上の画素のスポット径が小さくなる。
以下の説明において、ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2と回折角β2との差は、「コンバイナ角度差」と称される。また、補正要素330の入射角α1と回折角β1との差は、「補正角度差」と称される。
補正角度差をコンバイナ角度差よりも大きくすると、ホログラムコンバイナ350,350Aに起因する像ボケの影響は、一層適切に補正される。
図8は、補正角度差(補正要素330の入射角α1と回折角β1との差)とコンバイナ角度差との差が網膜上のスポット径の大きさに与える影響を概略的に示すグラフである。図1、図2及び図8を用いて、補正角度差が網膜上のスポット径の大きさに与える影響が説明される。
緑色レーザ光源343から出射されるレーザ光Lの波長幅は2nmである。ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2は、65度に設定されている。また、ホログラムコンバイナ350,350Aからの回折角β2は、55度に設定されている(即ち、コンバイナ角度差は、10度に設定されている)。ホログラムコンバイナ350,350A及び補正要素330はともに、2.0倍の拡大ミラーとしての性能を有する。
図8に示されるグラフの横軸は、補正角度差とコンバイナ角度差との差を示し、縦軸は、画像の中心の画素を描画する緑色レーザ光源343の光の網膜上スポット径を示す。
図8に示される如く、補正角度差がコンバイナ角度差よりも大きく設定されると(図8に示されるグラフにおいて、補正角度差がコンバイナ角度差よりも10度大きいとき)、画素の網膜上のスポット径が最小化される。
図9は、補正角度差がコンバイナ角度差よりも10度大きいときの網膜上の画素のスポット径を概略的に示す。図1、図7乃至図9を用いて、補正角度差の調整による像ボケの解消が説明される。
図8に示されるグラフにしたがって、補正角度差がコンバイナ角度差よりも10度大きくなるように、補正要素330の入射角α1及びβ1が適切に設定されると、波長幅に起因する網膜上のスポットSP1,SP2,SP3の結像位置の差が低減される。この結果、網膜上の画素のスポット径(緑色レーザ光源343からの光の網膜上での大きさSD)が低減される(図7及び図9参照)。
図8に示される如く、補正角度差がコンバイナ角度差に対して、過度に大きく設定されると、像ボケの影響は、逆に大きくなる。
図10は、補正角度差がコンバイナ角度差に対して、過度に大きく設定されたときの画素のスポット径を概略的に示す。図1、図7乃至図10を用いて、補正角度差の調整による像ボケの解消が説明される。
図7と図10とを比較すると明らかであるが、波長の大きい光によって得られたスポットSP1及び波長の小さなスポットSP3の位置関係が反転している。このことは、補正要素330の入射角α1と回折角β1との差異が大きすぎると、ホログラムコンバイナ350,350Aで発生する像ボケの影響よりも、補正要素330で発生する像ボケの影響が大きくなり、網膜上における画素のスポット径(緑色レーザ光源343からの光の網膜上での大きさSD)が大きくなる。したがって、補正要素330の入射角α1と回折角β1は、光源波長幅及びホログラムコンバイナ350,350Aの光学設定に応じて適切に設定される必要がある。図8に示されるグラフにしたがうと、緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が2nm、ホログラムコンバイナ350,350A及び補正要素330の光学倍率が2.0倍であるならば、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差は、5度から15度程度の範囲に収まることが望ましい。また、緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が大きくなるにつれて、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差は、大きく設定されることが好ましいので、緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が2nm以上であるならば、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差は、5度以上に設定される。
緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が小さいほど、図7、図9及び図10に示される波長の大きい光によって得られたスポットSP1及び波長の小さなスポットSP3の間の距離は短くなる。したがって、緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が2nmよりも小さいならば、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差の範囲が一層小さく設定されることが好ましい。逆に、緑色レーザ光源343が出力するレーザ光Lの波長幅が2nmよりも大きいならば、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差の範囲が一層大きく設定されることが好ましい。かくして、ドライバDRに表示される画像の画質が向上される。
尚、補正角度差とコンバイナ角度差との間の最適な差異は、ホログラムコンバイナ350,350A及び補正要素330の光学倍率にも依存する。
図11は、ホログラムコンバイナ350,350A及び補正要素330の光学倍率を変更したときの補正角度差と網膜上スポット径の大きさとの関係を示す。図1、図8及び図11を用いて、補正角度差と網膜上スポット径の大きさとの関係が更に説明される。
図11に示されるグラフの横軸は、補正角度差とコンバイナ角度差との差を示し、縦軸は、画像の中心の画素を描画する緑色レーザ光源343の光の網膜上のスポット径を示す。
ホログラムコンバイナ350,350Aの光学倍率は、2.6倍に設定されている。補正要素330の光学倍率は、1.5倍に設定されている。他の設定は、図8に関連して説明された設定に従う。
図11に示されるグラフにしたがえば、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差が15〜30度の間に設定されるとき、緑色レーザ光源343の光の網膜上のスポット径は、比較的小さくなる。
図8に示されるグラフと図11に示されるグラフとの対比から明らかな如く、ホログラムコンバイナ350,350Aの光学倍率が高く設定されるほど、補正角度差とコンバイナ角度差との差は大きく設定されることが好ましい。
図1を再度用いて、ドライバDRのアイボックスEBと、補正要素330及びホログラムコンバイナ350,350Aの角度設定との関係が説明される。
図1には、アイボックスEBが示される。アイボックスEBは、ホログラムコンバイナ350,350Aによって反射された表示光L1を視認することができる範囲として光学的に規定される。例えば、アイボックスEBは、ドライバDRの眼から約1m離れた位置において、ドライバDRが表示光L1を視認することができる範囲として規定されてもよい。
本実施形態において、説明の明瞭化のために、ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351は、表示光L1が入射する領域の上端部分として例示される。尚、表示光L1が入射する領域の上端部分は、ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351と一致していなくともよい。表示光L1が入射する領域の上端部分は、ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351の下方に位置してもよい。
図1には、ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351と光学的に定められるアイボックスEBの下端とを結ぶ直線Gが示されている。また、図1には、直線Gと交差する水平線H及び直線Gと水平線Hとの挟角γが示されている。
上述の光学的設定(表示要素320,320A,320Bに対する補正要素330の位置及び角度、補正要素330の入射角α1及び回折角β1の設定、ホログラムコンバイナ350,350Aの位置及び角度、ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2及び回折角β2の設定)に規定される挟角γは、ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2と回折角β2との間の差異(即ち、コンバイナ角度差)よりも小さく設定される。例えば、コンバイナ角度差が10度に設定されるならば、挟角γは10度を下回るように設定される。
上述の実施形態において、補正要素330の入射角α1は、第1の入射角として例示される。また、補正要素330の回折角β1は、第1の出射角として例示される。また、ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2は、第2の入射角として例示される。ホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2は、第2の出射角として例示される。
上述の実施形態において、補正要素330の入射角α1と補正要素330の回折角β1との差異として規定される補正角度差は、第1の角度差として例示される。ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2とホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2との差異として規定されるコンバイナ角度差は、第2の角度差として例示される。
第1実施形態に関連して説明された原理にしたがって、フロントガラス302からの反射光の影響及び光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342、緑色レーザ光源343)からのレーザ光Lの波長幅の影響は適切に低減される。したがって、第1実施形態にしたがうHUD300は、像ボケの影響の小さい高画質の画像をドライバDRに表示することができる。
(第2実施形態)
図12は、第2実施形態に係る透過型表示装置として例示されるHUDを概略的に示す。第1実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図1及び図12を用いて、第1実施形態との相違点が説明され、第1実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態に係る説明が好適に援用される。
第2実施形態にしたがうHUDのホログラムコンバイナへの入射角は、第1実施形態と異なり、ホログラムコンバイナの回折角よりも小さく設定される。この結果、表面反射問題が解消され、ドライバに表示される画像の画質が向上する。
HUD300Cは、車体301のフロントガラス302に配設されたホログラムコンバイナ350又は350Aと、車体301のダッシュボードの内部に配設されたHUD光学ユニット310Cと、を備える。HUD光学ユニット310Cは、第1実施形態と同様に、補正要素330と、表示要素320,320A又は320Bと、を備えるが、補正要素330と表示要素320,320A,320Bとの間の位置関係は、第1実施形態のHUD300が備えるHUD光学ユニット310と相違する。
補正要素330は、水平線Hに対して、ドライバDRに向かって下方に傾斜するのに対して、ホログラムコンバイナ350,350Aは、水平線Hに対して、ドライバDRに向かって、上方に傾斜する。補正要素330の傾斜方向とホログラムコンバイナ350,350Aの傾斜方向との間の相違は、収差を低減し、ドライバDRに表示される画像の画質を向上させる。
図1と図12との比較から明らかであるが、第1実施形態に関連して説明されたように、ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2がホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2よりも大きいならば、補正要素330は、ホログラムコンバイナ350,350Aと同方向に傾斜される。一方、第2実施形態のHUD300Cのように、ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2がホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2よりも小さいならば、補正要素330は、ホログラムコンバイナ350,350Aとは異なる方向に傾斜される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2が、ホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2よりも少なくとも15度以上小さくなるように、HUD300Cは設計される。本実施形態においても、説明の明瞭化のために、ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351は、表示光L1が入射する領域の上端部分として例示される。ホログラムコンバイナ350,350Aの上縁351と光学的に定められるアイボックスEBの下端とを結ぶ直線Gと水平線Hとの挟角γは、ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2とホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2との差異(コンバイナ角度差)よりも小さく設定される。
図13は、フロントガラス302の内ガラス板303と外ガラス板304とに挟持されたホログラムコンバイナ350A(HOD:Holographic Optical Element)を示す。図12及び図13を用いて、ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2とホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2との差異がもたらす効果が説明される。
表示光L1は、入射角α2でホログラムコンバイナ350Aに入射する。ホログラムコンバイナ350Aは、回折角β2で表示光L1を回折し、アイボックスEBへ向かう回折光DLを作り出す。
表示光L1は、内ガラス板303に入射角α2で入射する。内ガラス板303は、表示光L1を反射し、入射角α2と等しい出射角α2で出射する反射光RL1を作り出す。同様に、表示光L1は、外ガラス板304に入射角α2で入射する。外ガラス板304は、表示光L1を反射し、入射角α2と等しい出射角α2で出射する反射光RL2を作り出す。反射光RL1,RL2は、アイボックスEBから逸れて伝播する。回折光DLと反射光RL1,RL2の伝播方向が相違するので、ドライバDRは、回折光DLのみを視認する。
第1実施形態と同様に、補正要素330は、ホログラムを用いて形成される。補正要素330への入射角α1は、補正要素330の回折角β1よりも小さく設定される。この結果、ホログラムコンバイナ350,350Aに起因する像ボケの影響が低減される。補正要素330が生じさせる像ボケの影響は、第1実施形態と同様に、ホログラムコンバイナ350,350Aで発生する像ボケの影響を相殺する。かくして、網膜上における画素のスポット径が小さくなる。
本実施形態においても、ホログラムコンバイナ350,350Aの入射角α2と回折角β2との間の差異は、「コンバイナ角度差」と称される。また、補正要素330の入射角α1と回折角β1との間の差異は、「補正角度差」と称される。補正角度差がコンバイナ角度差よりも大きく設定されると、ホログラムコンバイナ350,350Aに起因する像ボケの影響は適切に補正される。
図14は、補正要素330の入射角α1と回折角β1との間の差異として規定される補正角度差とコンバイナ角度差との間の差異が、網膜上のスポット径の大きさに与える影響を示す概略的なグラフである。図12及び図14を用いて、補正角度差が、網膜上のスポット径の大きさに与える影響が説明される。
表示光L1を作り出すための光源の波長幅は、2nmに設定されている。ホログラムコンバイナ350,350Aへの入射角α2は、40度に設定されている。ホログラムコンバイナ350,350Aの回折角β2は、55度に設定されている(即ち、コンバイナ角度差は、15度に設定される)。第1実施形態と同様に、補正要素330及びホログラムコンバイナ350,350Aはともに、2.0倍の拡大ミラーとしての性能を有する。
図14に示されるグラフの縦軸は、画像の中心の画素を描画する緑色レーザ光源からの光の網膜上のスポット径を示す。図14に示されるグラフの横軸は、補正角度差とコンバイナ角度差との間の差を示す。
図14に示される如く、補正角度差がコンバイナ角度差よりも大きく設定されると、網膜上の画素のスポット径が低減される。図14に示されるグラフによれば、補正角度差がコンバイナ角度差よりも10度大きいとき、網膜上の画素のスポット径は最小になる。
一方で、図14に示される如く、補正角度差がコンバイナ角度差よりも過度に大きく設定されると、像ボケの影響が逆に大きくなる。したがって、補正要素330の入射角α1及び出射角β1の設定は、光源の波長幅やホログラムコンバイナ350,350Aの光学設定に応じて適切に設定される必要がある。図14に示されるグラフにしたがうと、光源波長幅が2nmであり、且つ、ホログラムコンバイナ350,350A及び補正要素330の光学倍率が2.0倍であるとき、補正角度差とコンバイナ角度差の差は、好ましくは、5度から15度程度の範囲に設定される。
第2実施形態の原理にしたがうと、フロントガラス302からの反射光の影響及び光源の大きな波長幅に起因する像ボケの影響をほとんど受けず、高画質な画像をドライバDRに表示することができるHUD300Cが提供される。
(第3実施形態)
図15は第3実施形態に係る透過型表示装置として例示されるHUDを概略的に示す。第2実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図15を用いて、第2実施形態との相違点が説明され、第1実施形態及び/又は第2実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態及び/又は第2実施形態に係る説明が好適に援用される。
第3実施形態にしたがうHUDのホログラムコンバイナへの入射角は、第2実施形態と同様に、ホログラムコンバイナの回折角よりも小さく設定される。この結果、表面反射問題が解消され、ドライバに表示される画像の画質が向上する。
HUD300Dは、第2実施形態のHUD300Cが備えるHUD光学ユニット310Cに加えて、車体301のフロントガラス302Dに配設されたホログラムコンバイナ350Dを備える。
図16は、フロントガラス302Dに取り付けられたホログラムコンバイナ350Dを示す。図13、図15及び図16を用いて、ホログラムコンバイナ350Dが説明される。
フロントガラス302Dは、車体301の室内の境界を規定する内面305を含む内ガラス板303Dと、車体301の外面に現れる外面306を含む外ガラス板304Dとを備える。本実施形態において、内面305及び外面306は、車体301内外の空気と接する空気接触面として例示される。内ガラス板303Dと外ガラス板304Dとの間には、境界面307が形成される。境界面307は、内ガラス板303Dの内面305及び外ガラス板304Dの外面306に対して傾斜している(即ち、平行ではない)。
ホログラムコンバイナ350Dは、境界面307に沿って配設され、内ガラス板303Dと外ガラス板304Dとによって挟持される。ホログラムコンバイナ350Dは、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aと同様に、HOEを用いて形成される。
図16には、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aが点線で示されている。第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aは、内ガラス板303Dの内面305及び外ガラス板304Dの外面306に平行であるのに対して、本実施形態のHUD300Dが備えるホログラムコンバイナ350Dは、内ガラス板303Dの内面305及び外ガラス板304Dの外面306に対して傾斜している。
図16には、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aに対するホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度θ(即ち、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対するホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度)が示されている。本実施形態において、ホログラムコンバイナ350Dは、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aと同一の光学的特性を有する。
図16には、ホログラムコンバイナ350Dに対する表示光L1の入射角α2a並びに内ガラス板303D及び/又は外ガラス板304Dへの入射角α2が示されている。ホログラムコンバイナ350Dに対する表示光L1の入射角α2aは、ホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度θと内ガラス板303D及び/又は外ガラス板304Dへの入射角α2との加算値に略等しい。その一方で、ホログラムコンバイナ350Dの回折角β2aは、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aの回折角β2(図13参照)よりも、傾斜角度θだけ小さくなる。尚、内ガラス板303Dの内面305は、入射角α2で入射された表示光L1を反射し、入射角α2と等しい出射角α2で出射する反射光RL1を作り出す。外ガラス板304Dの外面306は、入射角α2で入射された表示光L1を反射し、入射角α2と等しい出射角α2で出射する反射光RL2を作り出す。
第2実施形態に関連して説明された如く、ホログラムコンバイナ350Aは、入射角α2で入射された表示光L1を、入射角α2よりも大きな回折角β2で回折し、回折光DLを作り出す。ホログラムコンバイナ350Aと同一の光学的特性を有するホログラムコンバイナ350Dが傾斜角度θだけ傾斜されると(即ち、ホログラムコンバイナ350Dの上縁351が外ガラス板304Dの外面306に近づき、ホログラムコンバイナ350Dの下縁352が内ガラス板303Dの内面305に近づくように、ホログラムコンバイナ350Dが傾斜されると)、ホログラムコンバイナ350Dに対する入射角α2aとホログラムコンバイナ350Dの回折角β2aとの差が低減される。したがって、収差の原因となる光源の波長幅が大きいほど、ホログラムコンバイナ350Dに対する入射角α2aとホログラムコンバイナ350Dの回折角β2aとの差が小さくなるようにホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度θが設定されることが好ましい。
ホログラムコンバイナ350Aが入射光(表示光L1)に対して与える収差の影響は、入射角α2aの値と回折角β2aの値が近いほど、小さくなる。したがって、フロントガラス302D内で、ホログラムコンバイナ350Dが傾斜されると、表面反射問題が解消されるだけでなく、収差の影響も低減される。したがって、HUD300Dは、ドライバDRに表示される画像の画質を向上させることができる。
比較的大きなホログラムコンバイナ350Dが使用されるとき、ホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度θの傾きは、フロントガラス302Dの厚さの増大に帰結する。したがって、収差の影響を比較的受けやすいと予測される部分(例えば、画面の端部に対応するホログラムコンバイナ350Dの部分)を内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対して傾斜させてもよい。
図17は、表示画面の上半分の画質を改善するホログラムコンバイナを示す。図15乃至図17を用いて改善されたホログラムコンバイナが説明される。
HUD300Dは、ホログラムコンバイナ350Dに代えて、ホログラムコンバイナ350Eを備えてもよい。ホログラムコンバイナ350Eは、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対して傾斜する第1部分353と、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対して略平行な第2部分354と、を含む。
図17には、図16と同様に、点線で、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aが示されている。また、図17には、図16と同様に、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aに対するホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度θ(即ち、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対するホログラムコンバイナ350Dの傾斜角度)が示されている。
第1部分353は、図16に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Dと同様に、上縁351が外ガラス板304Dの外面306に近づくように、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対して傾斜する。一方、第2部分354は、第2実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aと同様に、内ガラス板303Dの内面305及び/又は外ガラス板304Dの外面306に対して略平行に配設される。本実施形態において、第1部分353は、傾斜領域として例示される。
第1部分353に入射した表示光L1の入射角α2aと回折角β2aとの差は、第2部分354に入射した表示光L1の入射角α2と回折角β2との差よりも小さくなる。したがって、第1部分353に対応する画像領域の収差は、比較的小さくなり、画質が向上する。また、フロントガラス302Dに対して傾斜している部分の面積が小さくなるので、フロントガラス302Dの厚さの過度の増大が防がれる。
上述のホログラムコンバイナ350D,350Eは、平面形状である。代替的に、ホログラムコンバイナは、自由曲面形状に形成されてもよい。自由曲面形状を有するホログラムコンバイナを用いても、フロントガラスの厚さの過度の増大が防止される。
図18は、画像の上部及び下部の画質を改善するホログラムコンバイナを示す。図15及び図18を用いて、画像の上部及び下部の画質を改善するホログラムコンバイナが説明される。
本実施形態のHUD300Dは、ホログラムコンバイナ350D,350Eに代えて、ホログラムコンバイナ350Fを備えてもよい。ホログラムコンバイナ350Fは、ホログラムコンバイナ350D,350Eと同様に、HOEを用いて形成される。
ホログラムコンバイナ350Fは、画像の上部に対応するする上側部分355と、画像の下部に対応する下側部分357と、上側部分355と下側部分357との間の中間部分356と、を含む。上側部分355及び下側部分357は、フロントガラス302Dの内面305及び/又は外面306に対して傾斜する一方で、中間部分356は、フロントガラス302Dの内面305及び/又は外面306に対して平行である。上側部分355と中間部分356との境界部分並びに下側部分357と中間部分356との境界部分は曲面をなし、ホログラムコンバイナ350Fは、全体として、1つ以上の曲率を有する自由曲面形状をなす。本実施形態において、上側部分355及び下側部分357は、傾斜領域として例示される。
上側部分355は、ホログラムコンバイナ350Fの上縁351がフロントガラス302Dの外面306に近づくように傾斜する。また、下側部分357は、ホログラムコンバイナ350Fの下縁352がフロントガラス302Dの内面305に近づくように傾斜する。上側部分355には、画像の上端部を描画するための表示光L1が入射する。下側部分357には、画像の下端部を描画するための表示光L1が入射する。上側部分355及び下側部分357の曲率は、ホログラムコンバイナ350Fへ入射する表示光L1の入射角とホログラムコンバイナ350Fの回折角との差が小さくなるように定められる。
上側部分355及び下側部分357は、図16に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Dの原理にしたがって、表示される画像の上部及び下部における収差をそれぞれ低減させる。一方、画像の上部及び下部と較べて、収差の影響を受けにくい画像の中央領域に対応する中間部分356は、フロントガラス302Dの内面305及び/又は外面306に対して平行であるので、フロントガラス302Dの厚さは不必要に増大されない。したがって、ホログラムコンバイナ350Fは、フロントガラス302Dに対して傾斜した比較的狭い領域(上側部分355及び下側部分357)を用いて、画像の上部及び下部の画質を向上させることができる。
本実施形態において、上側部分355は、下側部分357に対して、略平行である。代替的に、上側部分は、下側部分の傾斜角度とは異なる角度で、フロントガラスに対して傾斜してもよい。上側部分及び/又は下側部分の傾斜角度は、HUD光学ユニットからの表示光が表す画像の特性に応じて、独立に設定されてもよい。上側部分及び/又は下側部分の傾斜角度が独立して設定されるので、画像の上部及び下部における画質が、より適切に調整される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350Fは、上側部分355、中間部分356及び下側部分357に分けられている。代替的に、ホログラムコンバイナは、3を超える数の領域に分割されてもよい。また、これらの分割領域は、それぞれ異なる傾斜角度を有してもよい。この結果、画像の各領域の画質は更に向上される。
(第4実施形態)
図19は第4実施形態に係る透過型表示装置として例示されるHUDを概略的に示す。第1実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図19を用いて、第1実施形態との相違点が説明され、第1実施形態及び/又は第3実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態及び/又は第3実施形態に係る説明が好適に援用される。
第4実施形態にしたがうHUDのホログラムコンバイナへの入射角は、第1実施形態と同様に、ホログラムコンバイナの回折角よりも大きく設定される。この結果、表面反射問題が解消され、ドライバに表示される画像の画質が向上する。
HUD300Gは、第1実施形態のHUD300が備えるHUD光学ユニット310に加えて、車体301のフロントガラス302Gに配設されたホログラムコンバイナ350Gを備える。
図20は、フロントガラス302Gに取り付けられたホログラムコンバイナ350Gを示す。図16、図19及び図20を用いて、ホログラムコンバイナ350Gが説明される。
フロントガラス302Gは、車体301の室内の境界を規定する内面305を含む内ガラス板303Gと、車体301の外面に現れる外面306を含む外ガラス板304Gとを備える。内ガラス板303Gと外ガラス板304Gとの間には、境界面307Gが形成される。境界面307Gは、内ガラス板303Gの内面305及び外ガラス板304Gの外面306に対して傾斜している(即ち、平行ではない)。
ホログラムコンバイナ350Gは、境界面307Gに沿って配設され、内ガラス板303Gと外ガラス板304Gとによって挟持される。ホログラムコンバイナ350Gは、第1実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aと同様に、HOEを用いて形成される。
図20には、第1実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aが点線で示されている。第1実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aは、内ガラス板303Gの内面305及び外ガラス板304Gの外面306に平行であるのに対して、本実施形態のHUD300Gが備えるホログラムコンバイナ350Gは、内ガラス板303Gの内面305及び外ガラス板304Gの外面306に対して傾斜している。
図20には、第1実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aに対するホログラムコンバイナ350Gの傾斜角度θ(即ち、内ガラス板303Gの内面305及び/又は外ガラス板304Gの外面306に対するホログラムコンバイナ350Gの傾斜角度)が示されている。本実施形態において、ホログラムコンバイナ350Gは、第1実施形態に関連して説明されたホログラムコンバイナ350Aと同一の光学的特性を有する。
図16に示されるホログラムコンバイナ350Dと比較すると明らかであるが、ホログラムコンバイナ350Aに対するホログラムコンバイナ350Gの傾斜方向は、ホログラムコンバイナ350Dとは反対方向である。即ち、ホログラムコンバイナ350Gの上縁351が、フロントガラス302Gの内面305に近づき、ホログラムコンバイナ350Gの下縁352が、フロントガラス302Gの外面306に近づくように、ホログラムコンバイナ350Gは設定される。
ホログラムコンバイナ350Gは、ホログラムコンバイナ350Gへの入射角α2aが、ホログラムコンバイナの回折角α2bよりも小さく設定されるとき、図16に関連して説明された原理にしたがって、ホログラムコンバイナ350Gへの入射角α2aとホログラムコンバイナの回折角α2bとの差異を小さくし、収差を改善することができる。
したがって、HUD300Gは、フロントガラス302Gによる反射光の影響及び光源の大きな波長幅に起因する像ボケの影響を低減し、高画質の画像をドライバDRに表示することができる。
(第5実施形態)
図21は第5実施形態に係る透過型表示装置として例示されるHUDを概略的に示す。第1実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図2,図4、図5及び図21を用いて、第1実施形態との相違点が説明され、第1実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態に係る説明が好適に援用される。
図21に示されるHUD300Hは、車体301のダッシュボードの内部に配設されるHUD光学ユニット310Hを備える。HUD光学ユニット310Hは、表示要素320及び補正要素330Hを備える。また、HUD光学ユニット310Hには、開口部313が形成されている。
本実施形態において、図2に関連して説明された表示要素320が用いられる。代替的に、表示要素320に代えて、他の表示装置(例えば、図4に関連して説明された表示要素320Aや図5に関連して説明された表示要素320B)が用いられてもよい。
表示要素320は、ドライバDRに対して運転情報(スピードメータや地図情報)を含む画像を表示するための表示光L1を生成並びに出射する。本実施形態において表示要素320は、レーザ光源からの出力ビームを表示スクリーン324上で二次元走査し、ドライバDRに表示するための像を形成する。
HUD300Hは、コンバイナ350Hを更に備える。表示要素320は、補正要素330Hに向けて表示光L1を出射する。補正要素330Hは、表示光L1の向きを変え、コンバイナ350Hへ入射させる。本実施形態において、補正要素330Hは、偏向要素として例示される。
本実施形態において、コンバイナ350Hは、補正要素330Hから入射される表示光L1の向きをドライバDRの眼に向かう方向へ反射する透過反射要素として例示される。コンバイナ350Hは、表示要素320から出射された表示光に含まれる波長の光をドライバDR(使用者)に向けて反射する一方で、その他の波長の光を透過させる。この結果、ドライバDRは、表示光L1によって表示される画像とともに、車体301外の景色を視覚的に把握することができる。
車体301に取り付けられたフロントガラス302の内面(車体301の室内の境界を形成する面)には、例えば、フォトポリマ層が形成される。コンバイナ350Hは、フォトポリマ層に形成されたリップマン体積ホログラムであってもよい。ホログラムを用いて形成されたコンバイナ350Hは、補正要素330Hから入射角α2で入射された表示光L1を、回折角β2の角度でドライバDRに向かって反射するように製作される。
本実施形態において、フォトポリマ層に形成されたコンバイナ350Hは、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からの光成分をそれぞれ反射する3つのホログラムを含んでもよい。これらのホログラムは、多重露光によって形成される。
本実施形態において、コンバイナ350Hは、RGBの3色の光成分を多重露光して形成された1つの層のホログラムである。代替的に、コンバイナは、RGBの3色の光成分それぞれに対応する3層のホログラムであってもよい。積層された3層のホログラムを含むホログラムコンバイナに用いられるホログラム材料の屈折率変調の数値は、3色の光成分(RGB)それぞれに対して適切に設定されるので、ホログラム材料の屈折率変調の数値がRGBの光成分に分配される場合(1つの層のホログラムが用いられる場合)と較べて、3色の光成分(RGB)それぞれに対する回折効率が向上する。
コンバイナ350Hは、拡大ミラーの性能を有し、表示要素320からの表示光L1によって表される画像を拡大し、ドライバDRに表示する。
図22は、コンバイナ350Hを用いた表示像(画像)の拡大原理を示す。図21及び図22を用いて、表示像の拡大原理が説明される。
図22は、HUD300Hによって表示される虚像VとドライバDRとの位置関係を示す。ドライバDRは、フロントガラス302から距離Laだけ離れていた位置において、虚像Vが存在すると知覚する。
図22に示される距離Lbは、表示要素320からの表示光L1によって表される表示像Iとコンバイナ350Hとの間の距離を示す。尚、図22において、説明の明瞭化のため、補正要素330Hといった光路を折り返す要素は示されておらず、コンバイナ350H及び表示像Iとの距離は、直線の長さで表現されている。
コンバイナ350Hの光学倍率は、図22に示される距離Laと距離Lbとの比で表現される。例えば、距離Laが1mであり、距離Lbが0.5mであるとき、コンバイナ350Hの光学倍率は2倍と表現される。虚像Vの表示位置が一定であるならば、コンバイナ350Hの光学倍率が大きいほど、コンバイナ350Hから表示像Iまでの光路長(距離Lb)は小さくなる。したがって、図21で示されるHUD光学ユニット310Hは、より小型に設計可能となる。光学系を小型化するためには、コンバイナ350Hの大きな光学倍率が望まれるが、一般的に、コンバイナの光学倍率を大きくするほど、コンバイナによって発生する収差の量が増大する。この結果、大きな光学倍率のコンバイナが用いられると、表示像の解像度が悪化しがちである。
図21に示される如く、表示光L1は、補正要素330Hに対して入射角α1で入射し、回折角β1で出射される。その後、表示光L1は、コンバイナ350Hに対して、入射角α2で入射し、回折角β2で出射される。
以下の説明において、記号「φ」で示される「コンバイナ角度」との用語は、水平に対するフロントガラス302及びコンバイナ350Hの角度であり、コンバイナ角度φの値が大きいほど、フロントガラス302及びコンバイナ350Hは垂直に近くなる。
本実施形態において、入射角α1,α2及び回折角β1,β2が適切に設定され、光学系の収差が低減され、且つ、小型の光学系が提供される。以下に、入射角α1,α2及び回折角β1,β2に関する4つの設定手法が説明される。
<第1の設定手法:ホログラムコンバイナの回折角の調整>
光学系の大きさを低減させるための第1の設定手法として、コンバイナ350Hの回折角β2の低減が挙げられる。コンバイナ350Hの回折角β2が小さいほど、コンバイナ350Hにおいて発生する収差が小さくなる。したがって、比較的大きな倍率のコンバイナ350HのHUD300Hへの適用は、収差の観点から、許容されることとなる。したがって、比較的大きな倍率のコンバイナ350Hを用いて、HUD300Hの光学系が小型に設計される。
コンバイナ350Hの回折角β2は、コンバイナ角度φ及びドライバDRが表示像Iを見下ろす角度(以下、見下ろし角と称される)によって、規定される。
図23は、コンバイナ350Hの回折角β2と、コンバイナ角φと、見下ろし角との間の関係を概略的に示す。図21及び図23を用いて、コンバイナ350Hの回折角β2と、コンバイナ角φと、見下ろし角との間の関係が説明される。
図23には、コンバイナ350Hの回折角β2、コンバイナ角φ、見下ろし角β2c(ドライバDRが、HUD300Hが表示する画像を見下ろす角度)及び角度β2bが示されている。角度β2bは、90度からコンバイナ角度φの値を減じた大きさである。コンバイナ350Hの回折角β2は、見下ろし角β2cと角度β2bとの加算値に相当する。したがって、コンバイナ角度φの値が大きく設定されるほど、コンバイナ350Hの回折角β2は小さくなる。したがって、収差を低減させ、且つ、HUD300Hを小型化するためには、大きなコンバイナ角度φ及びコンバイナ350Hの大きな光学倍率の設定が好ましい。
図24は、コンバイナ350Hの回折角β2とコンバイナ350Hの光学倍率の設定値とを例示する。図21乃至図24を用いて、回折角β2及び光学倍率の設定が説明される。
図24に示される設定値は、いずれの条件においても、コンバイナ350Hの入射角α2は20度に設定されている。また、HUD300Hが表示する画像の解像度は、ドライバDRが虚像Vを視認するときの一画素当たりの画素の広がりが1分以下(1/60度以下:「1.0」の視力を有する人間の視力分解能に相当)となるように設定されている。或いは、HUD300Hが表示する画像の解像度は、ドライバDRが虚像Vを視認したときにおけるドライバDRの網膜上に写る虚像Vの一画素の大きさが6.2μm以下となるように設定されている。
図24に示される如く、コンバイナ350Hの回折角β2が小さくなるほど、解像度の観点から許容されるコンバイナ350Hの光学倍率は増大する。コンバイナ350Hの回折角β2が45度から65度の範囲に設定されるならば、コンバイナ350Hの光学倍率は3倍から4倍の範囲(図24においては、3.75から3.00度の範囲が示されている)が好ましい。尚、HUD300Hが搭載される車体301の設計時において、フロントガラス302の角度が垂直に近くなるように設定され、コンバイナ角度φが増加されてもよい。代替的に、コンバイナ350Hとフロントガラス302が別体に形成され、フロントガラス302の設置角度の変更を伴うことなく、コンバイナ350Hの角度が増加され、コンバイナ角度φが増加されてもよい。
図24に示されるデータは、20度に設定されたコンバイナ350Hの入射角α2の下、得られている。しかしながら、コンバイナ350Hの入射角α2は、20度に限られるものではない。コンバイナ350Hの入射角α2は、好ましくは、20度から25度の範囲に設定される。
<第2の設定手法:ホログラムコンバイナへの入射角の調整>
コンバイナ350Hがフロントガラス302に貼り付けられている場合には、コンバイナ角度φは、自由に変更できないこともある。結果として、コンバイナ350Hの回折角β2の値が大きくなり、コンバイナ350Hの大きな光学倍率が、収差の観点から許容されないこともある。しかしながら、コンバイナ350Hへの入射角α2が適切に設定されると、コンバイナ角度φの変更を伴うことなく、収差の観点から許容される大きな光学倍率を有するコンバイナ350Hを用いることが可能となる。コンバイナ350Hへの入射角α2の変化に伴って、コンバイナ350Hによって発生される収差の量が変化する。
図25は、コンバイナ350Hへの入射角α2の変化に伴う表示解像度の変化を光学シミュレーションソフトウェアで計算した結果を示すグラフである。尚、光学シミュレーションソフトウェアの計算において、コンバイナ角度φは、30度に設定され、コンバイナ350Hの光学倍率は、2.5倍に設定されている。図21、図22及び図25を用いて、コンバイナ350Hへの入射角α2の変化に伴う表示解像度の変化が説明される。
図25に示されるグラフの横軸は、コンバイナ350Hへの入射角α2の値を示し、縦軸はドライバDRが虚像Vを見たときに、ドライバDRの網膜に映る一画素あたりの大きさを示す。図25に示されるグラフに示されるように、コンバイナ350Hの回折角β2及びコンバイナ350Hの光学倍率が一定であっても、コンバイナ350Hへの入射角α2を変化させると、コンバイナ350Hによって発生される収差の値は変化する。この結果、ドライバDRの網膜に映る一画素当たりスポット径が変化する。
図25に示される如く、コンバイナ350Hへの入射角α2が、20度付近に設定されると、収差の影響が最も小さくなる。この結果、ドライバDRの網膜に映る一画素当たりのスポット径も小さくなり、ドライバDRは高解像度の画像を視認することができる。
本実施形態において、コンバイナ350Hへの入射角α2は、好ましくは、0〜25度に設定され、コンバイナ350Hの回折角β2は、50度以下に設定され、光学系倍率は、2.5〜3.5倍に設定される。このような設定範囲の下、HUD光学ユニット310Hは十分に小型化され、小型車といった車体301にも搭載可能なHUD300Hが提供される。
<第3の設定手法:コンバイナ距離の調整>
図21において、コンバイナ350HとHUD光学ユニット310Hとの間のコンバイナ距離は、記号「D」で示されている。コンバイナ距離Dを大きくすると、HUD光学ユニット310Hは、好適に小型化される。
図22に示される距離Lbは、コンバイナ350Hの光学倍率と、コンバイナ350Hと虚像Vとの間の距離Laとに基づいて決定される。コンバイナ350HとHUD光学ユニット310Hとの間のコンバイナ距離Dが短いとき、HUD光学ユニット310Hは、距離Lbとコンバイナ距離Dとの減算値に相当する光路長Lcを内部に含む必要がある。光路長Lcの値が大きいほど、HUD光学ユニット310Hのサイズは大きくなる。したがって、大きなコンバイナ距離Dが設定されると、HUD光学ユニット310Hは、好適に、小型化される。HUD光学ユニット310Hの開口部313の位置が車内側に設置されると、コンバイナ距離Dは増大し、HUD光学ユニット310Hは小型化される。
図26は、コンバイナ350Hへの入射角α2、コンバイナ350Hの回折角β2、コンバイナ350Hの光学倍率及びコンバイナ距離Dの変更に伴うHUD光学ユニット310Hの容積を例示する。図21及び図26を用いて、HUD光学ユニット310Hの容積の変動が説明される。
図26に示される如く、コンバイナ350Hの回折角β2が大きく、且つ、コンバイナ350Hの光学倍率の増大ができなくとも、コンバイナ距離Dが長く設定されると、HUD光学ユニット310Hは、好適に、小型化される。逆に、コンバイナ350Hの回折角β2が小さいほど、コンバイナ350Hの光学倍率の増大は画質に影響を与えにくいので、コンバイナ距離Dが短くとも、小型のHUD光学ユニット310Hが設計される。
<第4の設定手法:補正要素に対する拡大機能の付加>
上述の第1の設定手法1及び第2の設定手法は、表示要素320中の光源の波長幅が十分に小さいとき(例えば、0.1nm以下)に有効である。しかしながら、表示要素320の光源の波長幅が大きく、且つ、コンバイナ350Hとしてホログラムコンバイナを使用されると、光源の波長幅に起因する像ボケの問題が発生するので、第1の設定手法1及び第2の設定手法は、充分に改善された解像度の画像を提供することはできない。
上述の或いは後述の説明で使用される「光源の波長幅」との用語は、所定の波長を出力するように設計された光源から出力される光の波長の変動幅を意味する。例えば、図2に関連して説明された緑色レーザ光源343が532nmの波長のレーザ光を出力するように設計されていても、実際には、緑色レーザ光源343は、532nm周囲の数nmの変動幅で波長が変動したレーザ光の出力を行う。例えば、緑色レーザ光源343の波長幅が1nmであるとき、緑色レーザ光源343は、531.5〜532.5nmの範囲のレーザ光を出力する。
ホログラムコンバイナは、ある波長の光が特定の入射角で入射したとき、特定の回折角で光が出射するように設計される。図21に示されるコンバイナ350H(ホログラムコンバイナ)は、入射角α2で入射した光(R、G、Bに対応する波長の光)に対して、回折角β2で光を出力するように設計される。しかしながら、上述の如く、光源の波長が所定の波長幅を持っているならば、コンバイナ350Hは、想定している出射角β2とは異なる角度で、ホログラムの設計波長(例えば、532nm)からずれた波長の光(例えば、531.5nm)を、回折する。また入射角α2と回折角β2の差が大きいほど、設計波長からずれた波長の光に対する回折角β2は、想定された回折角β2から大きく逸脱しがちである。
図27は、光源の波長幅及びコンバイナ350Hへの入射角α2の変動に伴う回折角β2の誤差(想定しているコンバイナ350Hの回折角β2と、コンバイナ350Hから実際に出射された光の回折角β2との間の差)を示すグラフである。図2、図21、図22及び図27を用いて、回折角β2の誤差が説明される。
図27のグラフは、コンバイナ350Hの設計上の回折角β2が60度に設定されているときの回折角β2の誤差を示す。図27のグラフの横軸は、コンバイナ350Hへの入射角α2の値を示し、縦軸は回折角β2の誤差の値を示す(単位は分(1/60度))。
図27に示される曲線群において、下方の曲線ほど、波長幅が小さい光源から得られたデータを示す(図27に示される最も下方の曲線は、0.1nmの波長幅に設計された光源から得られたデータを示す)。また、上方の曲線ほど、波長幅が大きい光源から得られたデータを示す(図27に示される最も上方の曲線は、波長幅10nmに設計された光源から得られたデータを示す)。
図27のグラフに示される如く、光源の波長幅が大きくなるほど、且つ、コンバイナ350Hへの入射角α2とコンバイナ350Hの回折角β2との差が大きいほど、回折角β2の誤差は大きくなる。光源の波長幅は、図2に示されるレーザ光源(赤色レーザ光源341,青色レーザ光源342,緑色レーザ光源343)の性能に依存するので、光学系に対する設計で回折角β2の誤差を小さくするためには、入射角α2の値と設計上の回折角β2の値とが近い値に設定される必要がある。つまり、図27に示されるコンバイナ350Hの設計上の回折角β2が60度であるならば、入射角α2の値も60度に近似される必要がある。
しかしながら、上述の如く、入射角α2が15〜25度の範囲から大きく逸脱すると、コンバイナ350Hによって発生される収差は増大する。この結果、ホログラムの設計波長(例えば、532nm)の光がコンバイナ350Hに入射しても、ドライバDRが虚像Vを見るときの網膜上の一画素あたりのスポット径が大きくなり、高い解像度の画像(情報)が表示されにくくなる。特に、コンバイナ角度φが小さい車体301にHUD300Hが搭載されると、コンバイナ350Hの回折角β2の値は大きくなるため、回折角β2の誤差の低減のためには、入射角α2の値も大きく設定される。かくして、コンバイナ350Hによって発生される収差は、一層増大する。
コンバイナ350Hの光学倍率の低減は、コンバイナ350Hによって発生される収差の低減に帰結する。しかしながら、図22に示されるコンバイナ350Hと表示像Iまでの距離Lbが長くなるため、光学系が大きくなる。例えば、コンバイナ角度φが約40度程度であるとき、2倍程度にまで下げられたコンバイナ倍率の下、ドライバDRが虚像Vを見たときにおいて、網膜に映る一画素当たりのスポット径は、6.2μm以下にまで低減される一方で、HUD光学ユニット310Hの大きさは、4L程度にまで増大する。このように大型化したHUD光学ユニット310Hを備えるHUD300Hは、小型車への搭載には不向きである。
上述の課題は、拡大性能を有する凹面ミラーを用いて形成された補正要素330Hと、低減された光学倍率を有するコンバイナ350Hと、によって適切に解消される。コンバイナ350Hだけでなく補正要素330Hも、表示像Iを拡大する。この結果、コンバイナ350Hの光学倍率は、比較的小さな値に設定されてもよく、コンバイナ350Hに起因する収差は減少する。尚、補正要素330Hの光学倍率は、コンバイナ350Hの光学倍率よりも小さく設定されてもよい。また、コンバイナ350Hの光学倍率が大きいほど、補正要素330Hの光学倍率は、好ましくは、より大きな値に設定される。
本実施の形態において、コンバイナ350Hで発生する非点収差の方向と、補正要素330Hで発生する非点収差の方向とが異なる向きになるように、表示要素320から補正要素330Hへの入射角α1の値は設定される。
図28は、コンバイナ350Hで発生する非点収差の方向を例示する。図21及び図28を用いて、コンバイナ350Hで発生する非点収差の方向が説明される。
図28は、HUD300Hが表示した虚像Vを視認したドライバDRの網膜上における画素の形状に関する光学シミュレーションソフトウェアを用いた計算結果を示す。図28は、表示画面の画面中央及び画面周辺部(右上領域、右領域、右下領域、上領域、下領域、左上領域、左領域、左下領域)の画素の網膜上における大きさ(スポット径)及び形状を示している。図28に示されるように、画面中央の画素に比べ、画面端の画素の形状は、画面の外側に引き伸ばされている。このことは、コンバイナ350Hが、画面中央から放射状に伸びる方向に非点収差を引き起こしていることを意味する。
本実施形態において用いられる補正要素330Hによる非点収差の発生方向が、コンバイナ350Hによる非点収差の発生方向と異なるように、補正要素330Hへの入射角α1の値が設定される。
図29は、補正要素330Hが表示像Iに与える収差の影響を例示する。図21、図22、図28及び図29を用いて、補正要素330Hが表示像Iに与える収差の影響が説明される。
図29は、表示像Iが補正要素330Hによる収差の影響のみを受けたときにおけるドライバDRの網膜上に映る画面中央及び画面周辺部分の画素の形状を示す。図29に示される如く、補正要素330Hによる非点収差は、画面の円周方向に発生している。補正要素330Hによる非点収差は、図28に示されるコンバイナ350Hによる非点収差の方向とは異なる。
凹面ミラーを用いて形成された補正要素330Hによる非点収差の発生方向は、補正要素330Hへの入射角α1の変更により、調節される。表示要素320から下方の補正要素330Hに向けて照射された表示光L1は、図29に示される非点収差を以て、上方に向けて伝播し、コンバイナ350Hに入射する。コンバイナ350Hは、図28に示される収差の特性を用いて、図29に示される非点収差を相殺する。本実施形態において、図21に示される如く、表示光L1が車体301の前方側から入射するように、補正要素330Hへの入射角α1は、設定される。補正要素330Hへの入射角α1は、好ましくは、15度から25度の間で設定される。コンバイナ350Hと、補正要素330Hとによって発生される収差の方向が相違するので、コンバイナ350H及び補正要素330Hそれぞれが拡大性能を有しても、ドライバDRに表示される画像の解像度は、ほとんど悪化しない。
図30は、コンバイナ350H及び補正要素330Hによって拡大された表示像Iを視聴したドライバDRの網膜上に映る表示像Iの画素の形状及び大きさを例示する。図21、図22及び図28乃至図30を用いて、ドライバDRの網膜上に映る表示像Iの画素の形状及び大きさが説明される。
図30に示される各画素の形状は、図28及び図29に示される画素の形状より円形に近似している。コンバイナ350Hによる収差と、補正要素330Hによる収差が合わさった結果、各画素の面積自身は大きくなる一方で、非点収差の発生方向の相違に起因して、各画素の直径自体は増大しない。結果として、ドライバDRに表示される解像度は、高く保たれる。
コンバイナ350Hの光学倍率が、2〜3倍の範囲に設定され、補正要素330Hの光学倍率が、1.2倍〜2倍(より好ましくは、1.25〜2倍)の範囲に設定され、補正要素330Hへの入射角α1及び補正要素330Hの回折角β1の値が、15〜25度の範囲に設定されると、図21に示されるHUD光学ユニット310Hは、1L程度の大きさにまで小型化され、ドライバDRが虚像Vを視認したときの網膜上の各画素の大きさが6.2μm以下(「1.0」の視力での分解能以下)に低減される。
より好ましくは、コンバイナ350Hの光学倍率が、2.65倍に設定され、補正要素330Hの光学倍率が、1.75倍に設定され、補正要素330Hへの入射角α1及び補正要素330Hの回折角β1の値が20度に設定されると、光学系のより好適な小型化が達成される。
コンバイナ350Hへの入射角α2は、コンバイナ350Hの回折角β2と必ずしも同一である必要は無く、例えば、コンバイナ350Hへの入射角α2は、コンバイナ350Hの回折角β2に比べて、6度以上小さな値に設定されてもよい。例えば、垂直方向に10cm、水平方向に10cmのアイボックスEBが光学的に定められるならば、表示要素320の表面で反射した外光といった外乱因子は、ドライバDRに直接視認されにくくなる。
コンバイナ350Hへの入射角α2は、コンバイナ350Hの回折角β2に比べて、6度以上かつ8度以下の範囲で、小さな値に設定されてもよい。この場合、表示要素320の表面で反射した外光といった外乱因子は、ドライバDRに直接視認されにくくなるとともに、非点収差の影響が低減される。
補正要素330Hの凹面ミラーの焦点距離は、好ましくは、補正要素330Hからコンバイナ350Hまでの距離より短くなるように設定される。この結果、フロントガラス302を通じて入射した日光といった光成分は、凹面ミラーで反射しても、コンバイナ350H上で集光しにくくなる。コンバイナ350H上での集光が抑制されるので、HUD300Hの安全性は向上する。
補正要素330Hは、拡大機能を有するので、表示要素320から補正要素330Hまでの表示光L1の光路長は、必要に応じて、補正要素330Hからコンバイナ350Hまでの表示光L1の光路長よりも長く設定されてもよい。
第4の設定手法によれば、比較的大きな波長幅の光源を用いても、HUD300Hは、高画質の画像をドライバDRに提供することができる。光源の波長幅が、1nm以下であるならば、特に高画質の画像が表示される。
(第6実施形態)
第6実施形態に係る透過型表示装置が解決しようとする課題が以下に説明される。
コンバイナとして、ホログラムコンバイナが用いられると、表示素子からの光の波長が変化したとき、ドライバに表示される画像の輝度が低下する。本実施形態のHUDは、このような画像の輝度低下の問題を好適に解消する。
HUDに一般的に用いられるホログラムコンバイナとして、体積反射型のホログラムが用いられる。体積反射型のホログラムは、波長選択性が高く、特定の波長の光だけを高い効率で反射させることができる。このような性質を有する体積反射型のホログラムを用いて、表示素子に含まれる光の波長のみを反射し、その他の波長の光を透過するホログラムコンバイナが形成される。
以下の説明で用いられる「波長範囲δλ」との用語は、あるホログラムコンバイナが高い効率で反射できる光の波長の範囲を意味する。また、ホログラムコンバイナに入射した光の強さは、記号「Sa」で表される。また、ホログラムコンバイナが反射した光の強さは、記号「Sb」で表される。「ホログラムコンバイナの回折効率η」との用語は、ホログラムコンバイナが反射した光の強さSbを、ホログラムコンバイナに入射した光の強さSaで除算して得られた値を意味する。例えば、あるホログラムコンバイナに、200mWの光が入射し、当該ホログラムコンバイナからの反射光が100mWであるならば、ホログラムコンバイナの回折効率ηは0.5となる。尚、ホログラムコンバイナの回折効率ηは、波長によって異なる値を示す。ホログラムコンバイナの回折効率ηは、ホログラムの波長範囲δλに含まれる光に対しては、比較的高い値となる。HUDに用いられる表示素子からの光が、ホログラムコンバイナの波長範囲δλに含まれるとき、ドライバは、高い透過率で透過した外界からの光によって、車外の景色を視認できるとともに、ホログラムコンバイナによって高い回折効率ηで反射された表示光によって、高い輝度の画像を視認することができる。
しかしながら、表示素子からの光の波長がホログラムの波長範囲δλから外れると、体積ホログラムの高い波長選択性に起因して、表示素子からの光に対するホログラムの回折効率ηは、大きく低下する。この結果、ドライバが視認する映像の輝度は、大きく低下する。
例えば、HUDが、波長λaから波長λbまでの波長範囲δλに含まれる波長の光を高い効率で反射するように設計されたホログラムコンバイナを備えるならば、この波長範囲δλに含まれない波長の光(例えば、波長がλaより小さい、又は、波長がλbより大きい)に対する回折効率ηは著しく低下する。表示素子の光源として、レーザ光源といった光源が用いられるならば、光源の波長は、温度に応じて変化する。
図31は、レーザ光源の温度と波長との関係を概略的に示すグラフである。図31を用いて、レーザ光源の温度と波長との関係が説明される。
図31に示されるグラフによれば、レーザ光源の温度が低いほど、レーザ光源から出力されるレーザ光の波長は短くなり、レーザ光源の温度が高いほど、レーザ光の波長が長くなる。レーザ光源の温度がC1からC2の範囲で変動するとき、レーザ光源から出力されるレーザ光の波長は、λ1からλ2の間で変動する。HUDが使用される車内の環境、特に、光源の周辺温度は、HUDが使用される地域、季節、日時、天気といった様々な条件に応じて、大きく変化しがちである。光源の周辺温度の変化に応じて、光源自身の温度も大きく変動する。したがって、レーザ光源からの波長の大きな変動が予想される。使用温度といった条件よって、光源の波長がホログラムの波長範囲δλから外れるならば、ドライバに高い輝度の映像を表示することができなくなる。
コンバイナに用いられるホログラムの厚さTの低減は、上述の課題の解消に有効である。以下に示される数式は、体積ホログラムの厚みTとホログラムコンバイナの波長範囲δλとの間の関係を示す。
上記の数式に示されるように、ホログラムの厚さT及び波長範囲δλの大きさは反比例の関係にある。つまり、ホログラムの厚さTが低減されると、ホログラムは、より大きな波長範囲δλを有することとなる。ホログラムの厚さTの低減は、ホログラムが高い効率で反射できる波長範囲δλを拡大に帰結する。この結果、使用温度といった環境の変化に応じて、光源の波長が変化しても、ドライバに対する表示の輝度の低減が防止される。
以下に示される数式は、ホログラムの回折効率ηに関する。
上記の数式中、「δn」は、ホログラム材料が有する屈折率変調の値である。上記の数式2で示されるように、ホログラムの回折効率ηの増加ためには、ホログラム材料の屈折率変調δnの値の増大、又は、ホログラムの厚さTの増大が要求される。光源の波長変動に対応するために、上述の如く、ホログラムの厚さTを低減させ、波長範囲δλを増加させると、上記の数式2に示されるように、回折効率ηの値が低下する。つまり、波長範囲δλを大きくするために、ホログラムの厚みTが低減されると、光源の波長変動に起因するドライバへの表示輝度の低下は抑制される一方で、表示素子からの表示光を高い輝度でドライバに向けて反射することが困難になる。光源の波長がホログラムの波長範囲δλに含まれていても、明るい画像の表示が困難になる。HUDや後述されるHMDに代表される透過型表示装置は、日中の屋外といった環境で利用される場合が多く、表示輝度の低減によって、使用者は、太陽光といった外乱因子の影響を受け、表示される情報を視認しにくくなる。
以下、表示素子からの光の波長の変化に伴うドライバへの映像の輝度低下の課題を解消するための透過型表示装置が説明される。
図32は、ドライバへの映像の輝度低下の課題を解消するための透過型表示装置として例示されるHUDを概略的に示す。第1実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図32を用いて、第1実施形態との相違点が説明され、第1実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態に係る説明が好適に援用される。
図32に示されるHUD300Iは、フロントガラス302に取り付けられたホログラムコンバイナ350Iと、車体301のダッシュボードの内部に配設されるHUD光学ユニット310Iを備える。HUD光学ユニット310Iは、表示要素320I、補正要素330I及び制御要素360を収容する。また、HUD光学ユニット310Iには、開口部313が形成されている。開口部313を通じて、表示要素320Iが作り出した表示光L1が射出される。
表示要素320Iは、ドライバDRに対して運転情報(スピードメータや地図情報)を含む画像を表示するための表示光L1を生成並びに出射する。本実施形態において表示要素320Iは、レーザ光源からの出力ビームを表示スクリーン上で二次元走査し、ドライバDRに表示するための像を形成する。
図33は、表示要素320Iの概略的な構成を示す。図32及び図33を用いて、表示要素320Iが説明される。
図33に示される如く、表示要素320Iは、第1実施形態に関連して説明された表示要素320と同様に、レーザ光源(赤色レーザ光源341,青色レーザ光源342,緑色レーザ光源343)、コリメータ321、ダイクロイックミラー322、走査要素323及び表示スクリーン324を備える。表示要素320Iは、これら様々な要素に加えて、温度検出要素361を備える。
温度検出要素361は、レーザ光源(赤色レーザ光源341,青色レーザ光源342,緑色レーザ光源343)の温度を検出するために用いられる。温度検出要素361によって、レーザ光源(赤色レーザ光源341,青色レーザ光源342,緑色レーザ光源343)から出力されるレーザ光Lの波長がリアルタイムで推定される。温度検出要素361が検出した温度に基づく波長の推定方法は、後述される。
本実施形態において、表示要素320Iは、表示スクリーン324を備える。代替的に、表示要素は、表示スクリーンを備えず、レーザ光が、後述されるホログラムコンバイナに直接的に投影されてもよい。この結果、ドライバの網膜に直接的にレーザ光が投影されるので、一層鮮明な画像がドライバに表示される。
本実施形態において、表示要素320Iは、レーザ光Lを走査する走査要素323を備える。代替的に、上述の第1実施形態乃至第5実施形態と同様に、液晶素子及びバックライト光源を備えてもよい。尚、バックライト光源として、レーザ光源が用いられてもよいし、LEDといった他の光源が用いられてもよい。
図32に示される如く、ホログラムコンバイナ350Iは、下側コンバイナ358と上側コンバイナ359とを含む。補正要素330Iは、表示要素320Iから出力された表示光L1の向きを変え、ホログラムコンバイナ350Iへ入射させる。本実施形態において、補正要素330Iは、ミラーを用いて形成される。補正要素330Iのミラーの傾きが変更されると、ホログラムコンバイナ350Iへ入射する表示光L1の位置が変化する。図32に示される補正要素330Iは、ミラーの傾きを変更し、補正要素330Iによって反射された表示光L1の光路を、実線で示される光路OP1と点線で示される光路OP2との間で切り換える。補正要素330Iによる光路の切換は、後述される。
ホログラムコンバイナ350Iは、補正要素330Iから入射される表示光L1の向きをドライバDRの眼に向かう方向へ反射する透過反射要素として例示される。
車体301に取り付けられたフロントガラス302の内面(車体301の室内の境界を形成する面)には、例えば、フォトポリマ層が形成される。ホログラムコンバイナ350Iは、フォトポリマ層に形成されたリップマン体積ホログラムであってもよい。ホログラムコンバイナ350Iは、補正要素330Iからの表示光L1を、ドライバDRに向かって反射するように製作される。
本実施形態において、フォトポリマ層に形成されたホログラムコンバイナ350Iは、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からの光成分をそれぞれ反射する3つのホログラムを含んでもよい。これらのホログラムは、多重露光によって形成される。3つのホログラムには、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からの光成分に対応する波長範囲δλr、δλg、δλbがそれぞれ設定されている。尚、波長範囲δλrは、赤色の光に対する波長範囲を示す。また、波長範囲δλgは、緑色の光に対する波長範囲を示す。波長範囲δλbは、青色の光に対する波長範囲を示す。3つのホログラムは、これらの波長範囲に含まれる波長の光を高い回折効率でそれぞれ反射することができる。
本実施形態において、下側コンバイナ358の波長範囲δλr、δλg、δλbの値が、上側コンバイナ359の波長範囲δλr、δλg、δλbの値とそれぞれ異なるように、ホログラムコンバイナ350Iは設計される。以下の説明において、下側コンバイナ358の波長範囲δλr、δλg、δλbは、「δλr1」,「δλg1」,「δλb1」と表記される。また、上側コンバイナ359の波長範囲δλr、δλg、δλbは、「δλr2」,「δλg2」,「δλb2」と表記される。
図34は、HUD300Iにおいて想定される光源(赤色レーザ光源341)の温度変化と、光源の温度変化に伴う波長の変化を概略的に示すグラフである。図32乃至図34を用いて、下側コンバイナ358の赤色レーザの波長範囲δλr1と上側コンバイナ359の赤色レーザの波長範囲δλr2との関係が説明される。
図34のグラフに従うと、HUD300Iの使用環境において、赤色レーザ光源341の温度は、C1からC2までの間で変化する。この結果、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lの波長は、λ1からλ2の間で変動する。図34に示されるグラフ中、HUD300Iの使用環境において、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lの波長が変化する範囲は、「δλrmax」と表記されている。
下側コンバイナ358の赤色レーザの波長範囲δλr1及び上側コンバイナ359の赤色レーザの波長範囲δλr2は、「δλrmax」中において、異なる波長範囲をカバーするように設定されている。下側コンバイナ358の赤色レーザの波長範囲δλr1は、上側コンバイナ359の赤色レーザの波長範囲δλr2よりも短い波長範囲をカバーしているので、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lの波長が短い(即ち、赤色レーザ光源341の温度が低い)とき、下側コンバイナ358は、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lを高い回折効率ηで反射する。一方、上側コンバイナ359の赤色レーザの波長範囲δλr2は、下側コンバイナ358の赤色レーザの波長範囲δλr1よりも長い波長範囲をカバーしているので、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lの波長が長い(即ち、赤色レーザ光源341の温度が高い)とき、上側コンバイナ359は、赤色レーザ光源341から出力されるレーザ光Lを高い回折効率ηで反射する。
フロントガラス302に配設されたホログラムコンバイナ350Iは、波長範囲が異なる2枚のコンバイナ(下側コンバイナ358(波長範囲δλr1),上側コンバイナ359(波長範囲δλr2))を備えるので、δλrmaxの波長範囲の一葉のホログラムコンバイナよりも厚く形成される。この結果、下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359は、比較的高い回折効率ηをそれぞれ有することとなる。
温度変化といった環境変化に起因して、光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342、緑色レーザ光源343)から出力されるレーザ光Lの波長が変化すると、後述される如く、補正要素330Iの向きが変更される。この結果、表示光L1の入射対象は、下側コンバイナ358と上側コンバイナ359との間で切り換えられる。表示光L1の波長に対応した波長範囲を有するコンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)で表示光L1が反射されるので、光源波長の変化にかかわらず、輝度の低減を生ずることなく、ドライバDRに対して画像の表示が継続される。
青色レーザの波長範囲δλb1、δλb2並びに緑色レーザの波長範囲δλr1、δλr2の関係は、上述の赤色レーザの波長範囲の関係と同様であるので、これらに対する説明は省略される。
本実施形態において、ホログラムコンバイナ350Iは、RGBの3色の光成分を多重露光して形成された1つの層のホログラムである。代替的に、ホログラムコンバイナは、RGBの3色の光成分それぞれに対応する3層のホログラムであってもよい。積層された3層のホログラムを含むホログラムコンバイナに用いられるホログラム材料の屈折率変調δnの数値は、3色の光成分(RGB)それぞれに対して適切に設定されるので、ホログラム材料の屈折率変調の数値がRGBの光成分に分配される場合(1つの層のホログラムが用いられる場合)と較べて、3色の光成分(RGB)それぞれに対する回折効率が向上する。
本実施形態において、下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359は、RGBそれぞれに対して異なる波長範囲を有する。代替的に、下側コンバイナ及び上側コンバイナは、RGBのうち1つ或いは2つの色相の光に対してのみ、異なる波長範囲を有するように設計されてもよい。例えば、R(赤)について、下側コンバイナ及び上側コンバイナは、異なる波長範囲を有する一方で、G(緑)及びB(青)の色相については、下側コンバイナ及び上側コンバイナは、同一の波長範囲(δλgmax、δλbmax)を有してもよい。青色及び/又は緑色レーザ光源の温度変動に起因する波長変動の幅が、赤色レーザ光源の温度変動に起因する波長変動の幅より小さいならば、赤色レーザ光源に対する波長変動に対する調整のみで、ドライバに対する表示輝度が維持される。また、下側コンバイナ及び上側コンバイナに対する青色光及び緑色光の露光が同一の設定でなされてもよいので、ホログラムコンバイナの製造が簡略化される。
制御要素360は、HUD310Iの様々な要素を制御するための集積回路を備える。制御要素360は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342、緑色レーザ光源343及び補正要素330Iの動作を制御する。また、制御要素360は、ドライバDRに表示する内容(情報)を決定するための要素を備える。
図35は、HUD300Iの概略的なブロック図である。図32及び図35を用いて、制御要素360が説明される。
制御要素360は、波長判定部362、入射制御部363及び表示変更部364を備える。波長判定部362、入射制御部363及び表示変更部364の動作は、後述される。
尚、制御要素360は、携帯電話といった周辺機器と無線接続して、映像音声信号を受信する通信部を備えてもよい。また、制御要素360は、ドライバDRに提示すべき画像を格納するメモリを備えてもよい。或いは、制御要素360は、無線を通じて、外部機器からドライバDRに提示すべき画像を取得してもよい。
図36は、表示要素320I中の赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342、緑色レーザ光源343から出力されるレーザ光Lの波長が変化したときの制御要素360による処理を概略的に示すフローチャートである。図31乃至図33並びに図35及び図36を用いて、制御要素360による処理が説明される。
本実施形態において、制御要素360は、図36に示されるステップS361,S362,S363及びS364を実行する。
<ステップS361:光源波長判定>
ステップS361において、波長判定部362は、表示要素320I中の赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343からそれぞれ出力されるレーザ光Lの波長を判定する。波長判定部362は、表示要素320I中に設置された温度検出要素361から赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343の温度に関する情報を取得する。波長判定部362は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれについて、図31に関連して説明されたような温度と波長との関係を表すデータを予め格納している。温度検出要素361から取得した赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれの温度の情報に基づいて、波長判定部362は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれから出力されるレーザ光Lの波長を判定する。波長判定部362は、予め格納している温度と波長との関係を表すデータを用いて推定されたレーザ光Lの波長に関するデータを入射制御部363へ出力する。
本実施形態において、波長判定部362は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれの温度に基づき、レーザ光Lの波長を推定する。代替的に、表示要素は、赤色レーザ光源、青色レーザ光源及び緑色レーザ光源それぞれから出力されるレーザ光の波長を直接的に測定するための測定要素を備えてもよい。レーザ光の波長が直接的に測定されるので、レーザ光の波長に関するより正確なデータが入射制御部へ出力される。
本実施形態において、波長判定部362は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343から出力されるレーザ光Lそれぞれの波長を判定する。代替的に、波長判定部は、RGBのうち1色又は2色のレーザ光の波長を判定してもよい。温度変化に対して波長変動が小さい色相のレーザ光の波長の判定が省略されるので、波長判定のための要素の数や処理工程が少なくなり、制御要素の製造コストが低廉になる。
<ステップS362:入射位置判定>
ステップS362において、入射制御部363は、波長判定部362から出力された赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343から出力されるレーザ光Lの波長の判定結果に基づいて、表示要素320Iからの表示光L1が入射されるコンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)を決定する。
入射制御部363は、赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343それぞれに対して、図34に示されるようなホログラムコンバイナ350Iの波長範囲に関するデータを予め保持する。入射制御部363は、光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)から出力されたレーザ光Lの現在の波長に対応する波長範囲を有するコンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)を選択する。本実施形態において、光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)から出力されたレーザ光Lの波長が短いならば、短い波長に対応するδλr1を有する下側コンバイナ358が選択される。また、光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)から出力されたレーザ光Lの波長が長いならば、長い波長に対応するδλr2を有する上側コンバイナ359が選択される。以下の説明において、下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359のうち選択されたコンバイナは、表示コンバイナと称される。
図34に示される如く、下側コンバイナ358の波長範囲δλr1は、上側コンバイナ359の波長範囲δλr2に部分的に重なり合う。波長判定部362から出力されたデータが示す波長の値が、波長範囲δλr1及び波長範囲δλr2の両方に該当するならば、入射制御部363は、下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359のうちいずれか一方を表示コンバイナとして決定してもよい。既に、画像の表示がなされているならば、下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359のうち使用されているコンバイナが表示コンバイナとして決定され、継続して、画像の表示に用いられてもよい。
下側コンバイナ358の波長範囲δλr1と上側コンバイナ359の波長範囲δλr2との部分的な重畳は、光源(赤色レーザ光源341、青色レーザ光源342及び緑色レーザ光源343)から出力されたレーザ光Lの波長の一時的な変動に起因する表示輝度の低下を好適に抑制する。環境温度や供給電流といった環境因子の変動に起因して予想以上に変動したレーザ光Lの実際の波長は、下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359の波長範囲から外れることもある。下側コンバイナ358の波長範囲δλr1と上側コンバイナ359の波長範囲δλr2との重畳が存在しないならば、この結果、表示輝度が低減する。下側コンバイナ358の波長範囲δλr1及び上側コンバイナ359の波長範囲δλr2を比較的広く設定し、これらを部分的に重畳させる結果、表示輝度の低下が好適に抑制される。
入射制御部363は、表示コンバイナを決定すると、表示要素320Iからの表示光L1が実際に入射するコンバイナを変更するためのステップS364の処理を実行する。
<ステップS363:入射制御>
ステップS363において、入射制御部363は、先行のステップS362で決定された表示コンバイナに表示要素320Iからの表示光L1を入射させるための処理を行う。入射制御部363は、補正要素330Iの角度を変更し、表示要素320Iからの表示光L1が入射するコンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)の切り替えを行う。
図37及び図38は、コンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)の切り替え制御を概略的に示す。図37は、上側コンバイナ359へ表示光L1を入射させる補正要素330Iを示す。図38は、下側コンバイナ358へ表示光L1を入射させる補正要素330Iを示す。図32、図35、図37及び図38を用いて、コンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)の切り替え制御が説明される。
入射制御部363は、補正要素330Iの角度を変更し、表示光L1の光路を、光路OP1と光路OP2との間で切り替える。入射制御部363が、表示光L1が光路OP1に沿って伝播するように補正要素330Iの角度を調整すると、補正要素330Iによって反射された表示光L1は、上側コンバイナ359に投影される。入射制御部363が、表示光L1が光路OP2に沿って伝播するように補正要素330Iの角度を調整すると、補正要素330Iによって反射された表示光L1は、下側コンバイナ358に投影される。かくして、ステップS362において決定された表示コンバイナに向けて表示光L1が投影される。
本実施形態において、入射制御部363は、補正要素330Iの傾斜角度を変更し、表示光L1が入射するコンバイナ(下側コンバイナ358又は上側コンバイナ359)の選択を行う。代替的に、表示要素がホログラムコンバイナ全体に表示光を入射させるとともに表示領域の切り替えを行ってもよい。
図39は、表示領域の切り替えを行う表示要素を備える他のHUDを概略的に示す。図39を用いて、表示領域の切り替えを行う表示要素を備える他のHUDが説明される。
HUD300Jは、HUD300Iに関連して説明されたホログラムコンバイナ350Iを備える。HUD300Iは、更に、表示領域の切り替えを行う表示要素320Jと、表示要素320Jを制御する制御要素360Jと、表示要素320Jから出力された表示光L1をホログラムコンバイナ350Iへ偏向する補正要素330Jと、を備える。制御要素360Jは、表示要素320Jを制御し、表示領域の切り替えを行う。表示要素320Jが表示領域の切り替えを行うので、補正要素330Jの角度は一定に保たれてもよい。
図39に示される点線は、下側コンバイナ358と上側コンバイナ359との境界(ホログラムコンバイナ350Iの中心位置)に対応する。表示要素320Jは、下側コンバイナ358と上側コンバイナ359とに表示光L1を同時に照射する。説明の明瞭化のため、ホログラムコンバイナ350Iに向けた表示要素320Jの画像の表示領域は、ホログラムコンバイナ350Iの全体領域と一致している。補正要素330Jの傾きは、表示要素320Jから出力される画像の上下方向における中心位置が、下側コンバイナ358と上側コンバイナ359との境界に一致するように調整されている。
図40は、HUD300Jの概略的なブロック図である。図39及び図40を用いて、制御要素360Jが説明される。
制御要素360Jは、上述の制御要素360に関連して説明された入射制御部363及び表示変更部364に加えて、入射制御部363Jを備える。入射制御部363Jは、表示要素320Jを制御し、表示領域の切り替えを行う。
図41は、表示要素320Jが表示する画像領域を示す。図32、図36、図39乃至図41を用いて、表示領域の切り替えが説明される。
画像領域IMAは、上側コンバイナ359に対して入射する表示光L1によって描画される上側領域UAと、下側コンバイナ358に対して入射する表示光L1によって描画される下側領域LAと、を含む。下側コンバイナ358が表示コンバイナとして選択されているならば、入射制御部363Jは、表示要素320Jに対して、下側領域LAにのみ情報の表示を行うための制御信号を出力する。上側コンバイナ359が表示コンバイナとして選択されているならば、入射制御部363Jは、表示要素320Jに対して、上側領域UAにのみ情報の表示を行うための制御信号を出力する。上述の如く、補正要素330Jの傾斜角度は一定に保たれるので、可動式の補正要素330Iを備えるHUD300Iと較べて、HUD300Jの製造は簡素化される。
<ステップS364:表示内容制御(表示位置判定)>
ステップS364において、表示変更部364は、ドライバDRに対して表示される画像の内容や画像の位置を変更する。
図42は、ドライバDRに対して表示される画像を概略的に示す。図35乃至図42を用いて、表示内容の制御が説明される。
図42には、運転中のドライバの視野VF、上側コンバイナ359からの反射光によって表示される情報が表されるドライバDRの視野VF中の上部領域UA1及び下側コンバイナ358からの反射光によって表示される情報が表されるドライバDRの視野VF中の下部領域LA1が示されている。図42に示される視野VF中の下部領域LA1において、下側コンバイナ358からの反射光が、ドライバDRに情報を表示している。上側コンバイナ359からの反射光がドライバDRに与えるべき情報を表すならば、当該情報は、視野VF中の上部領域UA1に表示される。
先行するステップS363において、表示コンバイナの変更が行われると、ドライバDRに対して与えられる情報の表示位置が上下に変動する。情報の表示位置の上下の変動は、ドライバDRに違和感を潜在的に与える。
表示変更部364は、ドライバDRが受ける違和感を緩和するように、表示コンバイナを用いて、情報の表示位置の調整を行ってもよい。
図43は、ドライバDRに対して表示される画像を概略的に示す。図35乃至図43を用いて、情報の表示位置の調整が説明される。
図42に示される如く、下側コンバイナ358からの反射光を用いて情報が表現されているとき、下部領域LA1の上側部分に情報が表示されるように、表示変更部364は情報の表示位置を調整する。また、図43に示される如く、上側コンバイナ359からの反射光を用いて情報が表現されているとき、上部領域UA1の下側部分に情報が表示されるように、表示変更部364は情報の表示位置を調整する。このような情報の表示位置の調整により、表示コンバイナの切り替えに伴う情報(例えば、スピードメータ)の表示位置の上下動幅が低減され、ドライバDRが受ける違和感が緩和される。
本実施形態において、図36に示されるステップS361乃至S364は、順次、実行される。代替的に、これらのステップの一部は同時に実行されてもよい。例えば、ステップS363及びステップS364は、同時に、実行され、表示コンバイナの変更処理が高速に実行されてもよい。
本実施形態の原理にしたがうと、比較的短い波長範囲を有する複数のホログラムコンバイナを用いて画像が表示されるので、ホログラムコンバイナそれぞれの回折効率は比較的高く設定される。したがって、ドライバDRに比較的明るい画像を提示することが可能となる。更に、温度変化といった使用環境の変化に伴って、光源からの光の波長が変動しても、画像の輝度の低減が抑制される。
本実施形態において、HUD300I,300Jは、2つのホログラムコンバイナ(下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359)を備える。代替的に、HUDは、2を超える数のホログラムコンバイナを備えてもよい。ホログラムコンバイナそれぞれの波長範囲が小さく設定される結果、ホログラムコンバイナの回折効率が向上し、一層明るい画像の表示が達成される。
本実施形態において、HUD300I,300Jは、上下に整列した2つのホログラムコンバイナ(下側コンバイナ358及び上側コンバイナ359)を備える。代替的に、HUDは、左右に配列された複数のホログラムコンバイナを備えてもよい。この場合、表示コンバイナの変更に伴って、ドライバの視界中の表示像(情報)の表示位置は左右に変動する。一般的に、人間の眼、上下方向の動きよりも左右方向の動きに追従しやすいので、ドライバにとって、より違和感の小さな表示コンバイナの切り替えが達成される。
本実施形態において、HUD300I,300Jは、表示要素320I,320Jから出力されるレーザ光Lの波長を判定し、自動的に表示コンバイナを切り替える。代替的に、ドライバからの指示に基づき、表示コンバイナの切り替えがなされてもよい。ドライバが、画像の表示輝度が十分でないと感じるならば、ドライバは、例えば、運転席に備え付けられたユーザインターフェースを操作し、表示コンバイナの切り替えを行ってもよい。この場合、上述の温度検出要素といった要素が不要となるので、HUDの製造コストが低廉化される。
(第7実施形態)
図44は、第7実施形態に係る透過型表示装置として例示されるヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDと称される)を概略的に示す平面図である。図45は、図44に示されるHMDを概略的に示す右側面図である。第1実施形態及び/又は第6実施形態と同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられている。図44及び図45を用いて、第1実施形態及び/又は第6実施形態との相違点が説明され、第1実施形態及び/又は第6実施形態と同様の要素に関する説明は省略される。尚、以下において説明されない要素に対し、第1実施形態及び/又は第6実施形態に係る説明が好適に援用される。
本実施形態のHMDは、第6実施形態と同様に、コンバイナとして用いられるホログラムコンバイナへ入射する表示素子からの光の波長の変化に伴う映像の輝度の低下の課題を解消する。
HMD300Kは、全体として、視力矯正用の眼鏡と同様の形状をなす。HMD300Kは、使用者の左耳から延びる左フレーム部411と右耳から延びる右フレーム部412とを備える。HMD300Kは、使用者の左眼前に配設される左コンバイナ358Kと、右眼前に配設される右コンバイナ359Kと、を更に備える。左コンバイナ358K及び右コンバイナ359Kは、異なる波長範囲を有する。
HMD300Kは、左フレーム部411内に配設された表示要素320L及び補正要素330Lを更に備える。表示要素320Lは、補正要素330Lに向けて、左眼で視認される表示光L1を出力する。補正要素330Lは、表示要素320Lからの表示光L1を左眼前に配設された左コンバイナ358Kに向けて反射させる。
HMD300Kは、右フレーム部412内に配設された表示要素320R及び補正要素330Rを更に備える。表示要素320Rは、補正要素330Rに向けて、右眼で視認される表示光L1を出力する。補正要素330Rは、表示要素320Rからの表示光L1を右眼前に配設された右コンバイナ359Kに向けて反射させる。
HMD300Kは、左フレーム部411内に配設された制御要素360Lと、右フレーム部412内に配設された制御要素360Rと、を更に備える。制御要素360Lは、例えば、左フレーム部411内の表示要素320Lを制御する。制御要素360Rは、例えば、右フレーム部412内の表示要素320Rを制御する。
左コンバイナ358K及び右コンバイナ359Kは、異なる波長範囲を有するので、使用環境の変化(光源の温度の変化)に応じて、表示光L1の波長が変化したときでも、使用者が視認する画像の輝度はほとんど低下しない。人間は、左右の眼からそれぞれ知覚された画像情報を合成し、1つの画像として知覚する(融像効果)。したがって、左コンバイナ358Kからの反射光によって表示される画像の輝度及び右コンバイナ359Kからの反射光によって表示される画像の輝度のうち一方が維持されていると、使用者は、画像の輝度の低下をほとんど知覚しない。左コンバイナ358K及び右コンバイナ359Kは、異なる波長範囲を有するので、左眼で視認される画像の輝度及び右眼で視認される画像の輝度のうち一方は維持される。したがって、表示要素320L,320Rの光源の波長が変化しても、使用者は画像の輝度の変動をほとんど知覚しない。
以上の一連の実施形態は、透過型表示装置を例示するにすぎず、上述の様々な実施形態に包含される原理を逸脱しない範囲で、様々な変更や改良がなされてもよい。
上述された実施形態は、以下の構成を主に備える。
上述の実施形態の一局面に係る透過型表示装置は、光を出力する光源と、該光源からの前記光を受けて、画像を表す表示光を生成する表示要素と、該表示要素から射出された前記表示光の向きを変える偏向要素と、前記表示要素から射出された前記表示光に含まれる波長の光を使用者に向けて反射し、それ以外の波長の光を透過する透過反射要素と、を備え、前記透過反射要素に前記表示光が入射する領域の上端部分と使用者が前記透過反射要素によって反射された前記表示光を視認可能な範囲として規定されるアイボックスの下部とを結ぶ直線が水平に対してなす角度は、前記透過反射要素における前記表示光の出射角と入射角との間の差より小さいことを特徴とする。
上記構成によれば、表示要素は、光源から出力された光を受けて、画像を表す表示光を生成する。偏向要素は、表示要素から射出された表示光の向きを変える。透過反射要素は、表示要素から射出された表示光に含まれる波長の光を使用者に向けて反射し、それ以外の波長の光を透過する。アイボックスは、使用者が透過反射要素によって反射された表示光を視認可能な範囲として規定される。透過反射要素に表示光が入射する領域の上端部分と、アイボックスの下部とを結ぶ直線が水平に対してなす角度は、透過反射要素における表示光の出射角と入射角との間の差よりも小さいので、透過反射要素以外の面で反射した反射光は、使用者にほとんど視認されない。
上記構成において、前記偏向要素に入射する前記表示光の第1の入射角と、前記偏向要素から出射される前記表示光の第1の出射角と、前記透過反射要素に入射する前記表示光の第2の入射角と、前記透過反射要素から出射される前記表示光の第2の出射角と、の関係において、前記第1の入射角と前記第1の出射角との間の大きさの差として規定される第1の角度差は、前記第2の入射角と前記第2の出射角との間の大きさの差として規定される第2の角度差よりも大きく、且つ、前記第1の入射角は、前記第1の出射角よりも小さいことが好ましい。
上記構成によれば、偏向要素に第1の入射角で入射した表示光は、偏向要素から第1の出射角で出社される。その後、表示光は、透過反射要素に第2の入射角で入射し、第2の出射角で透過反射要素から出射される。第1の角度差は、第1の入射角と第1の出射角との間の大きさの差として規定される。第2の角度差は、第2の入射角と第2の出射角との間の大きさの差として規定される。第1の角度差は、第2の角度差よりも大きく設定される。また、第1の入射角は第1の出射角よりも小さく設定される。この結果、透過反射要素は、透過反射要素以外の面で反射した反射光は、使用者にほとんど視認されないだけでなく、表示光が表す画像のボケの影響が低減される。
上記構成において、前記光源から出射される前記光の波長幅が大きいほど、前記第1の角度差と前記第2の角度差との間の差は大きく設定されることが好ましい。
上記構成によれば、光源から出射される光の波長幅が大きいほど、第1の角度差と第2の角度差との間の差は大きく設定されるので、光源の波長幅に応じて、表示光が表す画像のボケが適切に低減される。
上記構成において、前記光源から出射される前記光の前記波長幅が2nm以上の場合には、前記第1の角度差は、前記第2の角度差よりも5度以上大きいことが好ましい。
上記構成によれば、第1の角度差は、第2の角度差よりも5度以上大きいので、光源から出射される光の波長幅が2nm以上であっても、表示光が表す画像のボケが適切に低減される。
上記構成において、前記透過反射要素の光学倍率が大きいほど、前記第1の角度差と前記第2の角度差との間の差は、大きく設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素の光学倍率が大きいほど、第1の角度差と第2の角度差との間の差は、大きく設定されるので、透過反射要素の光学倍率に応じて、より適切に像ボケの影響を抑えることが可能になる。
上記構成において、前記表示要素から前記偏向要素までの前記表示光の光路長は、前記偏向要素から前記透過反射要素までの前記表示光が通過する光路長よりも長いことが好ましい。
上記構成によれば、表示要素から偏向要素までの表示光の光路長は、偏向要素から透過反射要素までの表示光が通過する光路長よりも長いので、透過反射要素によって発生される収差が低減される。この結果、使用者は、改善された画質の画像を視認することができる。
上記構成において、前記第2の入射角と、前記第2の出射角と、の大小関係に応じて、水平線に対する前記偏向要素の傾き方向が異なることが好ましい。
上記構成によれば、第2の入射角と、第2の出射角と、の大小関係に応じて、水平線に対する偏向要素の傾き方向が異なるので、透過反射要素への入射角に応じた収差の補正がなされる。この結果、使用者は、改善された画質の画像を視認することができる。
上記構成において、前記第2の入射角が、前記第2の出射角よりも大きい場合には、前記偏向要素の前記傾き方向は、前記水平線に対する前記透過反射要素の傾き方向と同方向に設定されることが好ましい。
上記構成によれば、第2の入射角が、第2の出射角よりも大きい場合には、偏向要素の傾き方向は、水平線に対する透過反射要素の傾き方向と同方向に設定されるので、透過反射要素によって発生される収差が適切に低減される。
上記構成において、前記透過反射要素は、前記表示光の向きを偏向する回折素子と、前記回折素子を保持するように形成され、前記表示光が前記透過反射要素に入射する側に配置される前側透明部材と、前記前側透明部材とは反対側に配設され、前記前側透明部材とともに前記回折素子を挟持する後側透明部材と、を備え、前記前側透明部材及び前記後側透明部材のうち少なくとも一方は、空気と接する空気接触面を含み、前記回折素子は、前記空気接触面に対して傾きを有することが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素は、表示光の向きを偏向する回折素子と、回折素子を保持するように形成された前側透明部材を備える。前側透明部材は、表示光が透過反射要素に入射する側に配設される。透過反射要素は、前側透明部材とは反対側に配設され、前側透明部材とともに回折素子を挟持する後側透明部材を更に備える。前側透明部材は、空気と接する空気接触面を含む。回折素子は、空気接触面に対して傾きを有するので、回折素子における入射角及び反射角は、前側透明部材における表示光の入射角及び回折角とそれぞれ異なるように設定可能となる。
上記構成において、前記回折素子に入射する前記表示光の入射角と前記回折素子から出射される前記表示光の出射角との差が小さくなるように、前記回折素子は、前記空気接触面に対して傾けられていることが好ましい。
上記構成によれば、回折素子は、空気接触面に対して傾けられ、回折素子に入射する表示光の入射角と回折素子から出射される表示光の出射角との差が低減される。この結果、回折素子によって発生される収差が低減される。
上記構成において、前記回折素子は、前記空気接触面に対して傾きを有する少なくとも1つの傾斜領域を含むことが好ましい。
上記構成によれば、空気接触面に対して傾きを有する少なくとも1つの傾斜領域を含むので、傾斜領域に入射する表示光の入射角と回折素子から出射される表示光の出射角との差が低減される。この結果、傾斜領域において、回折素子によって発生される収差が低減される。傾斜領域は、収差の低減が求められる部分に設けられればよいので、透過反射要素の厚さは不必要に増大しない。
上記構成において、前記少なくとも1つの傾斜領域は、前記画像の端部を描画するための前記表示光が入射する領域を含むことが好ましい。
上記構成によれば、少なくとも1つの傾斜領域は、画像の端部を描画するための表示光が入射する領域を含むので、比較的大きな収差が発生しがちな画像の端部の画質の改善が図られる。
上記構成において、前記回折素子は、少なくとも1つの曲率を有する自由曲面を含むことが好ましい。
上記構成によれば、回折素子は、少なくとも1つの曲率を有する自由曲面を含むので、回折素子に対する入射角及び出射角に対する設定は、回折素子の領域ごとに変更可能である。回折素子の光学的な性能は、回折素子の領域に応じて可変となるので、画像の画質が適切に改善される。
上記構成において、前記画像の端部を描画するための前記表示光が入射する領域の曲率は、前記回折素子への前記表示光の前記入射角と前記回折素子から出射される前記表示光の前記出射角との差が小さくなるように定められていることが好ましい。
上記構成によれば、画像の端部を描画するための表示光が入射する領域の曲率は、回折素子への表示光の入射角と回折素子から出射される表示光の出射角との差が小さくなるように定められる。この結果、比較的大きな収差が発生しがちな画像の端部の画質の改善が図られる。
上記構成において、前記透過反射要素への前記表示光の前記入射角と前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角との差が6度以上であることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素への表示光の入射角と透過反射要素からの表示光の出射角との差が6度以上であるので、表示要素で反射した外光が使用者に視認されにくくなる。
上記構成において、前記透過反射要素は、前記表示要素によって作り出された表示像を拡大する拡大機能を有し、前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角が小さいほど、前記拡大機能の拡大倍率が大きく設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素は、表示要素によって作り出された表示像を拡大する拡大機能を有する。拡大機能の拡大倍率は、透過反射要素からの表示光の前記出射角が小さいほど大きく設定されるので、表示要素から透過反射要素までの光路長が短縮される。この結果、小型の透過型表示装置が提供される。
上記構成において、前記透過反射要素への前記表示光の前記入射角は、20度から25度の間であることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素への表示光の入射角は、20度から25度の間に設定されるので、透過反射要素によって引き起こされる収差が低減される。この結果、表示される画像の解像度が向上する。
上記構成において、前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角が45度から65度の範囲であるとき、前記拡大機能の前記拡大倍率は、3倍から4倍の範囲であることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素からの表示光の出射角が45度から65度の範囲であるとき、拡大機能の拡大倍率は、3倍から4倍の範囲に設定されるので、透過反射要素の拡大機能に起因する収差が低減される。この結果、透過型表示装置の小型化と表示される画像の解像度の向上がともに達成される。
上記構成において、前記透過反射要素は、ホログラムによって構成されるコンバイナであり、前記表示要素は、表示素子を備え、前記光源の波長幅は、1nm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素は、ホログラムによって構成されるコンバイナであるので、使用者は、外界の景色を好適に視認することができる。また、光源の波長幅は、1nm以下であるので、表示装置の小型化が好適に達成される。
上記構成において、前記表示要素を収容する表示ユニットを更に備え、表示ユニットには、前記表示光が射出される開口部が形成され、前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角が小さいほど、前記透過反射要素と前記開口部との距離は、短いことが好ましい。
上記構成によれば、透過型表示装置は、表示光が射出される開口部が形成された表示ユニットを更に備える。透過反射要素からの表示光の出射角が小さいほど、透過反射要素と開口部との距離は短く設定されるので、表示ユニットが小型化される。したがって、表示ユニットの収容が容易になる。
上記構成において、前記透過反射要素は、ホログラムによって構成されるコンバイナであって、前記表示要素は、前記光源からの光を受けて前記表示光を生成ための表示素子を備え、前記光源の波長幅が大きいほど、前記透過反射要素への前記表示光の前記入射角と前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角との差は小さいことが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素は、ホログラムによって構成されるコンバイナである。表示要素は、光源からの光を受けて表示光を生成ための表示素子を備える。光源の波長幅が大きいほど、透過反射要素への表示光の入射角と透過反射要素からの表示光の出射角との差は小さく設定されるので、光源の波長幅及びホログラムでの回折によって引き起こされる表示像のボケが低減される。
上記構成において、前記透過反射要素への前記表示光の前記入射角と前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角との差は、8度以下であることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素への表示光の入射角と透過反射要素からの表示光の出射角との差は、8度以下に設定されるので、光源の波長幅及びホログラムでの回折によって引き起こされる表示像のボケが低減される。
上記構成において、前記光源は、赤色、青色、緑色にそれぞれ対応する波長のレーザ光を出力するレーザ光源を含み、該レーザ光源それぞれから出力される前記レーザ光の波長幅は、1nm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、光源は、赤色、青色、緑色にそれぞれ対応する波長のレーザ光を出力するレーザ光源を含むので、カラー画像が表示される。レーザ光源それぞれから出力されるレーザ光の波長幅は、1nm以下であるので、光源の波長幅に起因する表示像のボケが低減される。
上記構成において、前記透過反射要素からの前記表示光の前記出射角が50度以下であり、前記拡大倍率は、2倍から3.5倍の範囲で設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素からの前記表示光の前記出射角が50度以下に設定される。透過反射要素からの出射角が比較的小さく設定されるので、拡大倍率は、2倍から3.5倍の範囲で設定される。したがって、透過反射要素の拡大機能に起因する収差が低減される。
上記構成において、前記偏向要素は、拡大倍率をもつ凹面ミラーで構成されることが好ましい。
上記構成によれば、偏向要素は、拡大倍率をもつ凹面ミラーで構成される。透過反射要素だけでなく偏向要素も表示像を拡大するので、表示要素から透過反射要素までの光路長が短縮される。
上記構成において、前記偏向要素の前記拡大倍率は、前記透過反射要素の拡大倍率よりも小さく設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素の拡大倍率は、偏向要素の拡大倍率より高く設定されるので、表示画面の下部の画素の収差の増大が抑制される。
上記構成において、前記透過反射要素の前記拡大倍率が大きいほど、前記偏向要素の前記拡大倍率は大きく設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素の拡大倍率が大きいほど、偏向要素の拡大倍率は大きく設定されるので、透過反射要素による収差の大きさと偏向要素による収差の大きさとの間の差異が低減され、使用者に表示される画素の形状が略円形となる。
上記構成において、前記表示光の前記偏向要素に対する入射角は、前記偏向要素によって発生する非点収差の方向が前記透過反射要素により発生する非点収差の方向とは異なるように設定されることが好ましい。
上記構成によれば、表示光の偏向要素に対する入射角は、偏向要素によって発生する非点収差の方向が透過反射要素により発生する非点収差の方向とは異なるように設定されるので、使用者に表示される画素は、略円形に保たれる。したがって、解像度の低下はほとんど生じない。
上記構成において、前記表示光の前記偏向要素に対する入射は、前記表示光が前記透過反射要素に入射する方向とは逆方向から行われることが好ましい。
上記構成によれば、表示光の偏向要素に対する入射は、表示光が透過反射要素に入射する方向とは逆方向から行われるので、使用者に表示される画素は、略円形に保たれる。したがって、解像度の低下はほとんど生じない。
上記構成において、前記表示光の前記偏向要素への入射角は、15度から25度の間で設定されることが好ましい。
上記構成によれば、表示光の偏向要素への入射角は、15度から25度の間で設定されるので、透過反射要素による収差の方向は、偏向要素による収差の方向と相違することとなる。したがって、使用者に表示される画素は、略円形に保たれ、解像度の低下はほとんど生じない。
上記構成において、前記透過反射要素の前記拡大倍率は2倍から3倍の範囲に設定され、前記偏向要素の前記拡大倍率は、1.2倍〜2倍の範囲に設定されることが好ましい。
上記構成によれば、透過反射要素の拡大倍率は2倍から3倍の範囲に設定され、且つ、偏向要素の拡大倍率は、1.2倍〜2倍の範囲に設定されるので、収差が低減される。したがって、使用者は、高解像度の画像を視認することができる。
上記構成において、前記偏向要素の有する焦点距離は、前記偏向要素から前記透過反射要素までの距離よりも短いことが好ましい。
上記構成によれば、偏向要素の有する焦点距離は、偏向要素から透過反射要素までの距離よりも短いので、偏向要素によって反射された光は、透過反射要素上で集中しにくくなる。したがって、透過反射要素の損傷は生じにくくなる。
上記構成において、前記透過反射要素は、第1波長領域の波長を他の波長の光をより多く反射するように形成された第1透過反射要素と、前記第1波長領域とは異なる第2波長領域の波長の光をより多く反射するように形成された第2透過反射要素と、を含み、前記偏向要素は、前記光源からの前記光の波長に応じて、前記表示光の前記向きを、前記第1透過反射要素へ向かう第1方向と、前記第2反射透過要素へ向かう第2方向との間で切り替えることが好ましい。
上記構成によれば、光源の光の波長変化にかかわらず、高輝度の画像が使用者に提供される。
上記構成において、前記表示要素を制御する制御部を更に備え、前記透過反射要素は、第1波長領域の波長を他の波長の光をより多く反射するように形成された第1透過反射要素と、前記第1波長領域とは異なる第2波長領域の波長の光をより多く反射するように形成された第2透過反射要素と、を含み、前記制御部は、前記光源からの前記光の波長に応じて、前記画像の表示位置を前記第1透過反射要素に対応する位置と前記第2透過反射要素に対応する位置との間で切り替えるように前記制御部を制御することが好ましい。
上記構成によれば、光源の光の波長変化にかかわらず、高輝度の画像が使用者に提供される。
上記構成において、前記透過反射要素は、第1波長領域の波長を他の波長の光をより多く反射するように形成された第1透過反射要素と、前記第1波長領域とは異なる第2波長領域の波長の光をより多く反射するように形成された第2透過反射要素と、を含み、前記第1透過反射要素は、使用者の一方の眼前に配設され、前記第2透過反射要素は、使用者の他方の眼前に配設されることが好ましい。
上記構成によれば、光源の光の波長変化にかかわらず、高輝度の画像が使用者に提供される。