JP5644680B2 - 電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
一般的な電磁鋼板は、鋼中不純物を極力減らすことで、結晶粒の成長性を高め、履歴損の低減化を図っている。
一般に、Siを3質量%以上含む電磁鋼板は、高温に加熱してもオーステナイト相(γ相)となることはなく、液相が生じるまでフェライト相(α相)となっている。従って、上述した浸珪処理は全てα相中で行われている。
また、鋼板の比抵抗を高める元素としてSi、Al、Cr、Mnが知られており、一般的な電磁鋼板は、主としてSiを添加することにより比抵抗を高めている。ただし、Si濃度が4質量%を超えると材料は著しく脆化し、冷間圧延が困難となる。従って、通常はSi添加の上限は4質量%前後であり、さらに比抵抗を高めるためには、1〜4質量%のAl、Crが加えて添加される。
また、高周波用のコア材においても、励磁電流に一定の大きさの直流成分が含まれることや、瞬間的に流れる高電流によって材料が磁気飽和してしまうことを想定して材料設計されることが多いが、このような材料の飽和磁束密度の低下を補うためには、コアの大型化を伴うという問題がある。
しかしながら、実際に鉄心として使用するには、材料の6.5質量%Si鋼板に対して、さらにスリット、プレスまたは曲げ加工などを施す必要があり、その際に、割れや欠けが生じることが多かった。また、飽和磁束密度が1.80T程度と低くなる問題も有していた。
しかしながら、この技術では、Siが気相から鋼板表層に浸透すると同時に鋼板内部へ速く拡散していくため、特に、板厚の薄い0.1mm以下の鋼板においては、表層のSi濃度を6.5質量%まで高める間にSiが板厚中央層にまで拡散し、鋼板全体のSi濃度が上がってしまうという問題があった。
ここで、低Si濃度の素材は高温でγ相となるが、特許文献4の技術においては、1000℃を超える高温のγ相で浸珪すると表層のγ/α変態の界面で割れが生じてしまう。そのため、γ相が殆ど生成しない900〜1000℃の温度域で浸珪処理を行っている。
しかしながら、このような浸珪処理は、従来のα相での浸珪処理の延長であり、渦電流損を低減する効果も予想の範囲内でしかない。
例えば、磁化曲線で磁化力800A/mに相当する磁束密度B8は0.75T程度でしかない。実際のコア材の寸法は、磁化曲線の微分透磁率が急激に減少し始める磁束密度、いわゆるBH曲線の肩の高さで決められるが、その指標としてB8の値が用いられることも多い。従って、例え飽和磁束密度が高かったとしても、直流磁気特性が悪くB8が低い材料は、実質的にコアの小型化には不向きである。
まず、板厚中央層の微細な変態組織が直流磁気特性を著しく劣化させているものと考え、C量が0.0030%未満の極低炭素鋼を素材として浸珪したサンプルを作製した。浸珪用試料は、Si:0.1質量%の極低炭素鋼板を板厚:0.1mmまで圧延したものを用いた。
電磁鋼板は、プレス加工や曲げ加工を経て使われる場合が多いため、曲げることで鋼材が剥離するような材料では使用に堪えない。そこで、その防止策について以下検討した。
また、本発明のように、オーステナイト/フェライト変態(以下、γ/α変態という)を利用する場合、粒界ばかりでなく変態界面で不純物が濃化する傾向がある。さらに変態界面には、応力が集中するため、曲率半径の小さなロールに巻き付けると、その変態界面で容易に割れや剥離が生じてしまう傾向にある。
試料の板厚は0.1mmとした。N2雰囲気で室温から1175℃まで試料を加熱し、炉内にSiCl4ガスを供給して浸珪処理を施した後、SiCl4ガスを止めてN2雰囲気中で均熱処理し、次いで10℃/sの冷却速度で400℃以下まで冷却した。ここで、SiCl4ガスから鋼中にSiを浸透させる量(浸珪量)は2.5質量%とし、板厚中央層の未浸珪部分(Si濃度が実質的に素材と同じである部分)は板厚の50%程度となるように、浸珪時間および均熱時間を調整した。これらは、浸珪処理後の試料における断面組織の写真観察およびEPMAを用いた元素分析によって確認した。
また、浸珪処理後の試料を片面から板厚中央層まで化学研磨して、板の反り量から表層にかかる引張応力を計算したところ、90〜140MPaであることが分かった。
これらの測定結果をそれぞれ図1に示す。
この曲げ半径:5mm以下というのは、鋼板表面が塑性変形する領域であり、ここで割れや剥離が生じないことは、実用材料としての利用可能性が有るものと考えられる。
C量が0.02質量%以下では直流磁化曲線の形は殆ど変わらないが、0.04質量%では曲線の傾きが急激に低下している。
このように、γ/α変態を利用した浸珪処理材において、実用材料として必要な加工性を保持しつつ良好な直流磁気特性を得るためには、C量が0.0030質量%以上0.02質量%未満の範囲であることが必要といえる。
表1に、表層にかかる張力と0.05T;20kHzにおける渦電流損との関係を示す。
本発明は、以上のような検討の結果から完成したものである。
1.C:0.0030質量%以上0.02質量%未満、Si:2質量%以下、Mn:0.05〜0.5質量%、P:0.01質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.002〜0.01質量%およびN:0.01質量%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を満足し、かつオーステナイト相となる温度まで加熱され、このオーステナイト相の状態から室温まで冷却して得られた組織になる板厚中央層と、C:0.0030〜0.02質量%、Si:2質量%超7.5質量%以下、Mn:0.05〜0.5質量%、P:0.01質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.002〜0.01質量%およびN:0.01質量%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を満足し、かつフェライト単相となる表層よりなるクラッド型の電磁鋼板であって、該表層が内部応力として50〜150MPaの面内引張応力を有することを特徴とする電磁鋼板。
まず、鋼板の構造、成分組成等の限定理由について述べる。なお、鋼板成分における%表示は、以下、特に断らない限り質量%を表す。
C量は、本発明で最も重要な要素の1つである。Siが2%以下の鋼板を、オーステナイト相(以下、γ相という)となる温度まで加熱して浸珪・拡散処理を施し、表層が高Si濃度のフェライト相(以下、α相という)かつ板厚中央層が低Si濃度のγ相の状態から、所定の冷却速度で冷却することによって得られる鋼板において、C量が0.0030%未満の場合は、表層と板厚中央層の界面で割れや剥離が生じ、一方C量が0.02%以上となる場合は板厚中央層がパーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の微細な変態組織となり、直流磁気特性を著しく劣化させる。従って、表層と板厚中央層の界面で割れ・剥離を生じることなく、かつ比較的良好な直流磁気特性を得るためには、C量を0.0030%以上0.02%未満の範囲とすることが必要である。
高温状態において、浸珪によりγ相からα相に変態した表層の部分は、冷却した後もそのままα相となる。一方、高温状態においてγ相のままであった板厚中央層を、冷却過程でα相へと変態させる。よって、本発明の鋼板は、Si濃度が2%以下の表層部分とSi濃度が2%超の板厚中央部とが、共にフェライト相ではあるが、板厚中心層は冷却時の変態の影響が残った組織となる。この組織はおそらく、冷却時の変態による歪みが残存しているものと考えられる。
上記の限界曲げ半径が5mm以下であれば実使用上で問題はない。しかしながら、5mm超の径に巻き付けて、鋼板が割れたり、表層と板厚中央層が剥離したりするほど脆い場合は、二次加工を必要とするコア用の電磁鋼板としては不向きである。よってその上限は5mmが好ましい。
ここに、鋼板の固有抵抗はSi濃度とともに増加する。そのため、鋼板の表層の平均Si濃度は2%超とする必要がある。一方、製品板の曲げ加工や打ち抜き加工時の表面割れ防止のため、鋼板の表層の平均Si濃度は7.5%以下とする必要がある。なお、鋼板表層である鋼板表面から板厚深さ10%までの平均Si濃度を5.0%以上とすることは、渦電流損の低減効果をより高める点で好ましい。一方、表層での平均Si濃度が6.5%を超えると、磁歪定数が負に転じ、表層での面内引張応力が透磁率を低下させるおそれが生じる。よって、表層Si濃度の上限は6.5%とすることが好ましい。
成分中、Siに関し、製品においては、上述したとおり、表層で2%超7.5%以下、板厚中央層で2%以下にする必要があり、他方、素材においては、高温でγ相を生じさせ、効果的に渦電流損を低減するためには素材全体で2.0%以下とする必要がある。その他の成分については、表層および板厚中央層の両層共に同じか、またはSiとFeの相互拡散に伴う不可避的な濃度差があっても良い。なお、表層のSi量は、上述したように5.0〜6.5%の範囲が好ましい。
C:0.0030%以上0.02%未満
前述したとおり、Cが0.0030%未満の場合は、表層と板厚中央層の界面で割れや剥離が生じ、Cが0.02%以上となる場合は板厚中央層がパーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の微細な変態組織となって、直流磁気特性を著しく劣化させてしまう。よって、良好な加工性と直流磁気特性を同時に得るためには0.003%以上0.02%未満とすることが必要である。
Mnは、MnSとして析出することで、鋼中Sの粒界偏析を抑制することができる。0.05%未満ではその添加効果が薄く、一方、0.5%を超えて添加してもその添加効果は飽和してそれ以上の効果は望めない。よって、Mnは0.05〜0.5%の範囲とする。
Pは、脆化元素であり、鋼板の表層と板厚中央層の界面で割れが生じやすくなるため、極力低減化することが望ましいが、0.01%までは許容できる。
Sは、熱間脆性の原因となる元素であり、濃度が増すと生産性が低下するため、極力低減化することが望ましいが、0.005%までは許容できる。
Alは、0.002%未満に制限した場合、種々の粒径が混在した組織となりやすく、鉄損を劣化させる。一方、0.01%を超えて添加した場合は直流磁気特性を劣化させる。よって、Alは0.002〜0.01%の範囲とする。
Nは、0.01%を超えて添加した場合、履歴損の増大を招いてしまうので、0.01%以下とする。
浸珪処理を施す前の電磁鋼板の製造方法について、特に制限はなく、従来公知の方法いずれもが好適に使用することができる。例えば、前記した鋼板の板厚中央層の成分組成になるスラブを、加熱し、熱間圧延を施して、冷間圧延または1回もしくは2回以上の中間焼鈍を挟む冷間圧延を繰り返して所定の板厚の鋼板とすれば良い。また、必要に応じ仕上げ焼鈍を施しても良い。
このようなプロセスにおいて、浸珪処理を1100℃未満で行うと、表層に十分な引張応力を付与することができずに、渦電流の低減効果は限定的となってしまう。一方、1250℃を超えた温度で浸珪処理を行うと、表層の最もSi濃度の高い部分で液相が生じてしまい、鋼板の破断や皺、反りの発生原因となる。よって、浸珪処理の温度は1100〜1250℃の範囲とする。
C:0.0025〜0.025%、Si:0.1〜1.3%、Mn:0.05%、P:0.008%、S:0.005%、Al:0.005%およびN:0.003%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を1150℃まで加熱して浸珪処理し、表層のSi濃度が6%前後のα相、板厚中央層がSi濃度2%以下のγ相の状態から表2に示す冷却速度で400℃以下まで冷却したサンプルについて、断面のSi濃度、表層の引張応力、限界曲げ半径、直流磁気測定によるB8をそれぞれ測定した。
それらの測定結果を表2に示す。
また、冷却速度が30℃/sを超えているものは、引張応力が大きくなって限界曲げ半径が10mmと割れ易くなり、B8も大幅に低下していることがわかる。
C:0.007%、Si:0.2%および0.8%、Mn:0.05%、P:0.008%、S:0.005%、Al:0.005%ならびにN:0.003%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を1150℃まで加熱して浸珪処理し、表層のSi濃度が4.6%〜7.2%のα相、板厚中央層がSi濃度2%以下のγ相の状態から冷却速度10℃/sで400℃以下まで冷却したサンプルについて、断面のSi濃度、表層の引張応力および0.05T;20kHzの渦電流損を測定した。
その結果を表3に示す。
C:0.016%、Si:0.2%、Mn:0.05%、P:0.008%、S:0.005%、Al:0.005%およびN:0.003%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を950〜1200℃の温度範囲に加熱して浸珪処理し、表層のSi濃度が6.0%のα相、板厚中央層がSi濃度:0.2%のγ相の状態から冷却速度を2〜50℃/sの範囲で変えて400℃以下まで冷却した。
得られた試料の渦電流損およびB8を表4に示す。
Claims (5)
- C:0.0030質量%以上0.02質量%未満、Si:2質量%以下、Mn:0.05〜0.5質量%、P:0.01質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.002〜0.01質量%およびN:0.01質量%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を満足し、かつオーステナイト相となる温度まで加熱され、このオーステナイト相の状態から室温まで冷却して得られた組織になる板厚中央層と、C:0.0030〜0.02質量%、Si:2質量%超7.5質量%以下、Mn:0.05〜0.5質量%、P:0.01質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.002〜0.01質量%およびN:0.01質量%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を満足し、かつフェライト単相からなる表層よりなるクラッド型の電磁鋼板であって、該表層が内部応力として50〜150MPaの面内引張応力を有することを特徴とする電磁鋼板。
- 表面から板厚10%深さまでの平均Si濃度を5.0〜6.5質量%としたことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板。
- 直流磁化力800A/mで磁化したときの磁束密度B8が1.3T以上、限界曲げ半径が5mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁鋼板。
- 前記電磁鋼板の板厚が0.03〜0.20mmであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の電磁鋼板。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の電磁鋼板を製造する方法であって、C:0.0030質量%以上0.02質量%未満、Si:2質量%以下、Mn:0.05〜0.5質量%、P:0.01質量%以下、S:0.005質量%以下、Al:0.002〜0.01質量%およびN:0.01質量%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板に、1100〜1250℃の温度域で浸珪処理を施して、表層を平均Si濃度が2質量%を超えるフェライト相、板厚中央層をSi濃度が2質量%以下のオーステナイト相の状態とし、その後、冷却速度:5〜30℃/sで400℃以下まで冷却することを特徴とする電磁鋼板の製造方法。
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