JP5636953B2 - 顔料インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法 - Google Patents

顔料インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法 Download PDF

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Description

本発明は、顔料インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法に関する。
従来、インクジェット記録用インクには、画像形成の高速化及び高品質化が強く求められている。
例えば、特許文献1には、高速出力においてもインク吐出安定性を確保し、インクの吐出時におけるサテライトの発生を抑制して画像の劣化を防止する目的で、吐出されるインクの静的表面張力と吐出によるインク液滴形成時のインクの動的表面張力(微小時間での表面張力)とを所定範囲にする、インクジェット画像記録方法が開示されている。
特開2008−1003号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示された記録方法を実施した場合、サテライトが発生する場合があるという問題が生じる。そのため、依然として、安定して画像形成の高速化及び高品質化を得ることのできるインク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法が求められている。
そこで、本発明は、サテライトの発生を抑制し、高速で高品質の画像を形成可能な顔料インク、並びにこれを用いたインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
上記課題を解決するため、本発明者らは、まずサテライトが発生するメカニズムについて詳細に検討した。
シャボン玉は、界面活性剤を水に溶かして水の表面張力を低下させることにより、水が膜になりやすくなり、結果として大きなシャボン玉ができやすくなる。インクジェット方式で吐出されるインクの尾引き(糸引き)も同様のメカニズムであると推測される。インクの表面張力が低い場合、吐出されるインクの尾引きが長くなり、この長い尾引きがインクの飛翔中に主滴とサテライト滴とからなる2つ以上の液滴に分離する。そして、これらが紙などの被記録媒体に付着する結果、画像が乱れることとなる。このように、本発明者らは、インクの表面張力が低い場合にサテライトが発生しやすくなるという関係があることを知見した。
続いて本発明者らは、上記特許文献1に開示された記録方法においてサテライトが発生する要因を検討した。
当該記録方法においては、サテライトの発生を抑制するためにインクの表面張力を高くしている。このこと自体は、上記の知見のとおり、サテライトの発生を抑制するための一つの手段である。しかし、インクの表面張力を高くすると、インクの被記録媒体への浸透性が悪くなる。浸透性が悪くなると、被記録媒体上でインクが濡れている状態が維持されるため、記録装置の媒体搬送ローラー(紙搬送ローラー)にインクが付着したり、ブリード(滲み)などの画像不良が生じたり、記録物が手に付着しやすくなったりする。
このように、上記特許文献1に開示された記録方法においてサテライトが発生する要因は、単純にインクの表面張力を高くしているだけでそれに伴う問題に対しては何ら解決手段が示されていない点にあることを知見した。
そこで、続いて本発明者らは、インクの表面張力を高くしたことにより生じる問題の解決手段を検討した。
サテライトが発生する要因として、インクの表面張力以外に、例えばインクの粘度が挙げられる。シャボン液に砂糖を添加し液体粘度(膜強度)を上げると大きなシャボン玉ができるようになる。また、はちみつや接着剤のように粘度が高い液体は、液体の動きが悪くいつまでも長く伸びるようになる。インクジェット方式で吐出されるインクの尾引きも同様のメカニズムであると推測される。インクの粘度が高い場合、インクの表面張力が低い場合と同様に、インク滴の長い尾引きがインクの飛翔中に2つ以上の液滴に分離する結果、画像が乱れることとなる。
このように、本発明者らは、インクの粘度が高い場合にもサテライトが発生しやすくなるという関係があることを知見した。
上記の知見にかんがみれば、インクの粘度を下げることが考えられる。しかし、サテライトの発生を抑制するためにインクを低粘度化することは、優れた機能を有するインクになるほど各種の添加剤を多量に含むため一層困難となる。とりわけ、高画質化の目的でインク滴を小さくしたため色材濃度が高くなり相対的に水分量が低下する場合、あるいは速乾性を良好にしたりカールを抑制したりする目的で水分量を抑制する場合に、インクの粘度は高くなってしまうからである。
このように、本発明者らは、単純にインクに優れた機能を付与しようとすると、各種の添加剤を多く加えるため、インクの粘度が高くなってしまい、これによりサテライトが発生するため、サテライトの発生を抑制することは困難であることを知見した。
また、サテライトが発生しやすい要因として、高速での記録が挙げられる。高速での記録とは、インクジェットヘッド及び被記録媒体のうち少なくとも一方が移動しながら被記録媒体にインクを吐出する際の、移動の相対速度が大きい記録(相対速度0.5m/s以上)を意味する。高速での記録時に、吐出されるインクにサテライトが発生すると、主滴とサテライト滴との間で着弾(付着)位置のずれが大きくなり、サテライトが記録物において目立つようになる。低速での記録、即ち移動の相対速度が小さい記録(相対速度0.5m/s未満)においては、サテライトが発生しても主滴及びサテライト滴の着弾位置は殆どずれることがない。そのため、低速での記録においてサテライトは特に問題とならない(記録物においてサテライトの影響が目立たない。)。だが、高速での記録における吐出されるインクの着弾精度の低下、特にサテライトの発生は、記録物において非常に目立つため大きな問題である。
このように、本発明者らは、従来のインクを用いた場合、特に高速での記録においてサテライトが発生しやすいため、着弾精度が低下し、画質の劣化は避けられないことを知見した。
以上の知見に基づき、本発明者らがさらに検討を行った結果、界面活性剤及びpH調整剤として所定の成分を含有させた顔料インクにより、上記の問題点を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
アセチレングリコールと、不飽和脂肪酸と、アミノ酸と、アルカリ金属水酸化物と、アミンと、を含む、顔料インク。
[2]
前記不飽和脂肪酸がオレイン酸を含む、[1]に記載の顔料インク。
[3]
前記アミノ酸がトリメチルグリシン及びジメチルグリシンのうち少なくともいずれかを含む、[1]又は[2]に記載の顔料インク。
[4]
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、及び水酸化リチウム(LiOH)からなる群より選択される一種以上を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の顔料インク。
[5]
前記アミンがトリエタノールアミン及びトリプロパノールアミンのうち少なくともいずれかを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の顔料インク。
[6]
前記不飽和脂肪酸及び前記アミノ酸のうち少なくともいずれかと、前記アルカリ金属水酸化物及び前記アミンのうち少なくともいずれかと、からなる酸アルカリ塩を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の顔料インク。
[7]
前記酸アルカリ塩が、オレイン酸カリウム、オレイン酸トリプロパノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン、及びアミノ酸カリウムからなる群より選択される一種以上である、[6]に記載の顔料インク。
[8]
被記録媒体に対して0.5m/s以上の相対速度で移動しながら[1]〜[7]のいずれかに記載の顔料インクを吐出するインクジェットヘッドを備えた、インクジェット記録装置。
[9]
被記録媒体に対して0.5m/s以上の相対速度で移動するインクジェットヘッドから[1]〜[7]のいずれかに記載の顔料インクを吐出する吐出工程を含む、インクジェット記録方法。
本発明の実施形態におけるプリンターの構成を示す斜視図である。 本発明の実施形態におけるインクジェットヘッドに設けられたノズルの配列を示す概略図である。 本発明の実施形態におけるインクジェットヘッドの内部構成を示す部分断面図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において、「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインクの液滴をノズルから吐出させる性質をいう。「アタック性」とは、記録装置における記録ヘッドやインク流路などを構成する材料に、溶解、膨張、割れ、又は表面の荒れなどが生じる現象をいう。
[顔料インク]
本発明の一実施形態に係る顔料インクは、アセチレングリコール及び不飽和脂肪酸を含むとともに、アミノ酸、アミン、及びアルカリ金属水酸化物を含む。
このように、本実施形態の顔料インクが上記5種類の成分を必須に含む意義について、以下説明する。
アセチレングリコールは、起泡しにくく親和性(濡れ性)に優れた界面活性剤である。その一方で、起泡しにくいアセチレングリコールを用いても、吐出されるインクの尾引きは、サテライトが発生しないほど短くはならないという不具合がある。
不飽和脂肪酸は、第1に、アセチレングリコールにおける上記の不具合を解消する目的で用いられる。不飽和脂肪酸は、分子構造上、アセチレングリコールと顕著に相違する。界面活性剤としてアセチレングリコール及び不飽和脂肪酸を併用すると、構造上の顕著な相違に起因する立体障害によって、吐出されるインク表面において界面活性剤分子間の配列が乱れるため、インクの膜強度が低下すると推測される。インクの尾引きはこの膜強度が大きいため生じることから、結果的に吐出されるインクの糸引きが短くなり、サテライトを大幅に抑制することができると推測される。
不飽和脂肪酸は、第2に、アミノ酸、アミン、及びアルカリ金属水酸化物と共にpH調整目的で用いられる。不飽和脂肪酸は酸化されやすく不安定な成分である。そこで、この不安定な不飽和脂肪酸を、当該不飽和脂肪酸自身も含めた4種類の酸アルカリによるpH緩衝効果を利用することで、長期に亘ってサテライトの発生を抑制可能な点で顔料インクの長期安定性を良好なものとする。
アミノ酸、アミン、及びアルカリ金属水酸化物は、上記のとおり、上述の不飽和脂肪酸と共に、酸アルカリとしてpH緩衝効果を発揮する成分である。
以下、当該顔料インクに含まれるか、又は所望により含まれ得る成分について、説明する。
〔顔料〕
本実施形態の顔料インクは、色材として顔料を含む。当該顔料として、以下に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド 1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット 1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー 1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16、C.I.ピグメントブラック 1,7等を用いることができる。
これらの顔料は、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基及びその塩のうち少なくともいずれか)を直接的又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させる。そして、分散剤なしに水性媒体中に分散又は溶解する自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として、あるいは、分散剤によって水性媒体中に分散させた顔料分散液として、顔料インクに配合させることが好ましい。分散剤の例としては、スチレン−アクリル酸共重合体樹脂などが挙げられ、その分子量が10,000〜150,000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
ブラック色の自己分散型顔料の市販品として、例えば、Cabot社より異なる2種類の製品として販売されている。CAB−O−JET200(スルホン化カーボンブラック)、CAB−O−JET300(カルボキシル化カーボンブラック)(以上、キャボット社(Cabot Corporation)製商品名)、Bonjet Black CW−1(オリエント化学工業社(ORIENT CHEMICAL INDUSTRIES CO., LTD.)製商品名)等が挙げられる。
また、これらの顔料は、インクの保存安定性を良好なものとし、かつ、ノズルの目詰まりを効果的に防止するため、その平均粒径が50〜250nmの範囲であることが好ましい。ここで、本明細書において、平均粒径とは、動的光散乱法による球換算50%平均粒径(d50)を意味し、以下のようにして得られる値である。
分散媒中の粒子に光を照射し、この分散媒の前方・側方・後方に配置された検出器によって、発生する回折散乱光を測定する。得られた測定値を利用して、本来は不定形である粒子を、球形であると仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を、「動的光散乱法による球換算50%平均粒径(d50)」とする。上記回折散乱光の測定装置としては、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定器 LMS−2000e(セイシン企業社(SEISHIN ENTERPRISE Co.,Ltd.)製商品名)などが挙げられる。
さらに、これらの顔料は、本実施形態の顔料インクの総質量(100質量%)に対して、2〜15質量%の範囲で含有されることが好ましい。含有量が2質量%以上であると、印字濃度が十分なものとなって発色性に優れる。また、含有量が15質量%以下であると、ノズルが目詰まりすることなく、吐出安定性にも優れる。
〔アセチレングリコール〕
本実施形態の顔料インクは、アセチレングリコールを含む。アセチレングリコールは、アセチレン基を中央に持ち、左右対称の構造をした非イオン系界面活性剤で、泡立ちにくい濡れ剤として様々な分野の水系材料に応用されている。アセチレングリコールは、濡れ、消泡、及び分散といった機能に優れている。分子構造としても非常に安定したグリコールで、分子量も小さく、水の表面張力を下げる効果があるため、インクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御できる。
アセチレングリコールの具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。
アセチレングリコールの市販品としては、例えば、サーフィノール 104(シリーズ)、420、440、465、485(以上、エアープロダクツ社(Air Products and Chemicals. Inc.)商品名)、オルフィン STG、PD−001、SPC、E1004、E1010(日信化学工業社(以上、Nissin Chemical Industry Co., Ltd.)製商品名)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(以上、川研ファインケミカル社(Kawaken Fine Chemicals Co., Ltd.)製商品名)等が挙げられる。
アセチレングリコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アセチレングリコールの含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.1〜3.0質量%が好ましく、0.3〜2.0質量%がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、光沢感及び浸透性が良好なものとなる。
〔不飽和脂肪酸〕
本実施形態の顔料インクは、不飽和脂肪酸を含む。以下、当該不飽和脂肪酸が複数の機能を併せ持つ点について説明する。
まず、本実施形態の顔料インクにおいて、上記アセチレングリコールと不飽和脂肪酸とを併用することで、以下の効果が得られることを見出した。本実施形態は、アセチレングリコール系と不飽和脂肪酸系の界面活性剤の両方を含有する。アセチレングリコールは、3次元的な立体構造を有する分子量の低い界面活性剤である。そのため、元々起泡が生じにくく、濡れ性に優れた界面活性剤である。オレイン酸は不飽和脂肪酸の直鎖状の界面活性剤であり、石鹸にも用いられる起泡が生じやすい界面活性剤である。ところがこの2つを組み合わせると、それぞれの単体よりも起泡が大幅に生じにくくなることを見出した。
そのため、吐出されるインクの尾引きが短くなり、サテライトが減少する。その理由としては、アセチレングリコールに、アセチレングリコールとは構造の大きく異なる不飽和脂肪酸系界面活性剤との組み合わせを用いることで、吐出されるインク表面への界面活性剤分子の配列を立体障害により乱し、膜強度を低下させるものと推測される。
次に、本実施形態の顔料インクは、pH調整剤として、この不飽和脂肪酸、並びに後述のアミノ酸、アルカリ金属水酸化物、及びアミンという4種類の酸アルカリを含む。一般的には酸とアルカリの2種類を含むとpH緩衝効果を持つものが多く知られているが、本実施形態では各々固有の機能を有する4種類のpH調整剤を含む。pHの調整範囲は、インクジェット記録装置の構成材料に対するインクのアタック性を有効に抑制し、目詰まり回復性を確保するため、6〜10の範囲が好ましい。
上記4種のpH調整剤の一つである不飽和脂肪酸は、酸としてのpH調整機能の他に、界面活性剤、潤滑剤、及び浸透剤としての機能も有する。不飽和脂肪酸としては上記のようにオレイン酸が好ましい。
本実施形態における4種のpH調整剤を組み合わせると、長期安定性のあるpH緩衝機能を有しながら、それ以外の上記機能をそれぞれ十分に発揮でき、相乗効果を発揮できることを見出した。
不飽和脂肪酸の中でも2重結合を1つ有する不飽和脂肪酸が好ましい。モノ不飽和脂肪酸としては、以下に限定されないが、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、及びネルボン酸が挙げられる。炭素2重結合が2つ以上ある場合、炭素2重結合に挟まれたメチレン水素が引き抜かれて容易に酸化されるからである。リノール酸やリノレイン酸がその場合に当てはまる。炭素2重結合が1つの不飽和脂肪酸は、メチレン水素がないため、酸化しづらい点で有利である。
また、顔料インクとしては液体であることが好ましい。さらに、酸化に対し安定な飽和脂肪酸は常温で固体のものが多くインク中への添加には向かないものが多い。これらの特性を全て満足するものとしてオレイン酸が挙げられる。
以上のことから、上記不飽和脂肪酸はオレイン酸であることが好ましい。
不飽和脂肪酸は精製されたものであってもよく、オレイン酸を主成分とするオリーブ油のような植物油であってもよい。
不飽和脂肪酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
不飽和脂肪酸の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.05〜3質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、優れた界面活性剤とpH調整剤(酸性側)という2つの機能バランスに優れる。
〔アミノ酸〕
本実施形態の顔料インクは、上記のとおり、アミノ酸を含む。
上記4種のpH調整剤の一つであるアミノ酸はアミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ優れたpH調整機能の他に、保湿剤や被記録媒体のカール抑制剤としての機能を有する。
アミノ酸としては化学的に安定な3級アミノ酸や4級アミノ酸が好ましい。その中でも、分子量の小さいことから、ジメチルグリシン及びトリメチルグリシンのうち少なくともいずれかが好ましい。
アミノ酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アミノ酸の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、1〜30質量%が好ましく、4〜20質量%がより好ましい。上記含有量の範囲内であると、保湿剤や被記録媒体のカール抑制剤としての機能を有する上、酸とアルカリの両性電解質としての優れたpH調整機能も有する。
〔アミン〕
本実施形態の顔料インクは、上記のとおり、アミンを含む。
上記4種のpH調整剤の一つであるアミンは、シャンプーや化粧品など人体に易しい弱アルカリ調整剤としての機能を有する。また、アミンを両親媒性とすることでインクの長期安定性に優れるため、上記アミンの中でもアルカノールアミンが好ましい。さらに、アルカノールアミンのうち沸点の高いものを用いることで目詰まりを防ぐことができるため、トリアルカノールアミンがより好ましく、中でもトリプロパノールアミン及びトリエタノールアミンのうち少なくともいずれかがさらに好ましい。
なお、アミンは、不飽和脂肪酸と沈澱を形成しやすい欠点があり、アルカリとしてアミン1種類だと安定性に劣る。そこで、アルカリとして、アミンの他に後述のアルカリ金属水酸化物なども含まれる。
アミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アミンの含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.05〜2質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。上記含有量の範囲内であると、アミン及びアルカリ金属水酸化物がアルカリ成分としての相乗効果に優れる。
〔アルカリ金属水酸化物〕
本実施形態の顔料インクは、上記のとおり、アルカリ金属水酸化物を含む。
上記4種のpH調整剤の一つであるアルカリ金属水酸化物は、優れたアルカリであるものの、金属イオンが有機溶媒や顔料に錯体のように捕獲されやすく長期安定性に劣る。アルカリ金属イオンは、アミンよりも不飽和脂肪酸と沈澱を起こしにくい性質がある。そのため、アルカリとして、アミンとアルカリ金属水酸化物とを併用することで、両者の欠点を互いに補い、特長のみを発揮させることができる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、及び水酸化リチウム(LiOH)からなる群より選択される一種以上が好ましく、NaOH及びKOHのうち少なくともいずれかがより好ましい。
アルカリ金属水酸化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルカリ金属水酸化物の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.01〜1質量%が好ましく、0.03〜0.5質量%がより好ましい。上記含有量の範囲内であると、アミン及びアルカリ金属水酸化物のアルカリ成分としての相乗効果に優れる。
ここで、上記の不飽和脂肪酸、アミノ酸、アルカリ金属水酸化物、及びアミンは、それぞれ単独の物質としてインクに含まれていてもよいし、酸アルカリ塩として含まれていてもよい。特に、顔料インクが不飽和脂肪酸及びアミノ酸のうち少なくともいずれかと、アルカリ金属水酸化物及びアミンのうち少なくともいずれかと、からなる酸アルカリ塩を含む場合、上記のpH緩衝効果が一層発揮されるため、好ましいといえる。この酸アルカリ塩として、以下に限定されないが、例えば、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸トリプロパノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン、アミノ酸カリウム、アミノ酸ナトリウム、及びアミノ酸リチウム等が挙げられる。
これらの中でも、インクへの溶解性及びpH調整機能に優れ、かつ、顔料や他のインク材料に悪影響を与えないため、オレイン酸カリウム、オレイン酸トリプロパノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン、及びアミノ酸カリウムからなる群より選択される一種以上が好ましい。
〔その他の添加剤〕
本実施形態の顔料インクは、上記の添加剤以外の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤の例を以下に示す。
(湿潤剤)
インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止する目的で、本実施形態の顔料インクは、湿潤効果のある水溶性有機溶剤を添加することが好ましい。
湿潤剤として、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、数平均分子量2,000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、並びにグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、及び尿素類等のいわゆる固体湿潤剤、並びにエタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、及びイソプロパノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、並びに2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、及びスルホラン等が挙げられる。
湿潤剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
湿潤剤の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、10〜50質量%含まれることが好ましい。含有量が上記範囲内であると、顔料インクの適正な物性値(粘度等)を確保し、記録の品質や信頼性を確保することができる。
(水)
また、本実施形態の顔料インクに含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止して顔料インクの長期保存を可能にする点で好ましい。
(酸化防止剤)
本実施形態の顔料インクに含まれ得る酸化防止剤(紫外線吸収剤)としては、例えば、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸及びその塩、並びにランタニドの酸化物などが挙げられる。これらの市販品としては、例えば、ノバルティス(Novartis International AG)社製のTinuvin 328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252、153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024などが用いられる。
酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.5質量%以下が好ましい。上記含有量の範囲内であると、インクの特性を悪化させることなく酸化を効果的に防止することができる。
(防腐剤・防黴剤)
本実施形態の顔料インクに含まれ得る防腐剤・防黴剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、3,4−イソチアゾリン−3−オン、及び4,4−ジメチルオキサゾリジンが挙げられる。これらの市販品としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2(1,2−ベンチアゾリン−3−オン)、プロキセルTN(いずれもAvecia社製商品名)等が挙げられる。
防腐剤・防黴剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
防腐剤・防黴剤の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、0.5質量%以下が好ましい。上記含有量の範囲内であると、インクの特性を悪化させることなく防腐効果及び防黴効果を良好なものとすることができる。
(浸透促進剤)
水性溶媒が被記録媒体に浸透することを促進する目的で、本実施形態の顔料インクは、浸透促進剤をさらに含むことが好ましい。水性溶媒が被記録媒体に素早く浸透することによって、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。
このような浸透剤としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類ともいう)及び1,2−アルキルジオールのうち少なくともいずれかが好ましく用いられる。多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。1,2−アルキルジオールとしては、例えば1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの他に、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、及び1,8−オクタンジオール等の直鎖炭化水素のジオール類を挙げることができる。
浸透剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
浸透剤の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、3〜20質量%が好ましい。上記含有量の範囲内であると、顔料インクの被記録媒体への浸透性を良好にすることができ、顔料インクを用いて記録した画像に滲みが発生することを防止でき、かつ、顔料インクの粘度があまり高くならないようにすることができる。
このように、本実施形態によれば、サテライトの発生を抑制し、高速で高品質の画像を形成可能な顔料インクを提供することができる。具体的には、本実施形態によれば、界面活性剤としてアセチレングリコール及び不飽和脂肪酸を組み合わせるとともに、これらを用いた場合の不具合を解消するためにpH調製剤として上記不飽和脂肪酸自身、アミノ酸、アミン、及びアルカリ金属水酸化物を組み合わせたインク組成により、高速で記録してもインク吐出時におけるサテライトの発生を抑制可能であって長期安定性に優れた顔料インクを提供することができる。
[インクジェット記録装置]
以下、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本実施形態に係るインクジェット記録装置として、インクジェットプリンター(以下、単に「プリンター」という。)を例示する。
図1は、本実施形態におけるプリンター1の構成を示す斜視図である。なお、このプリンター1は、シリアルプリンターを表している。
図1に示すように、プリンター1は、インクジェットヘッド2を搭載すると共にインクカートリッジ3を着脱可能に装着するキャリッジ4と、インクジェットヘッド2の下方に配設され被記録媒体6が搬送されるプラテン5と、キャリッジ4を被記録媒体6の媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、被記録媒体6を媒体送り方向に搬送する媒体送り機構8と、を有するものである。加えて、プリンター1は、当該プリンター1全体の動作を制御する制御装置CONTを有している。なお、上記媒体幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向)である。上記媒体送り方向とは、副走査方向(主走査方向に直交する方向)である。
インクカートリッジ3は、本実施形態のようにキャリッジ4に装着するものに限らず、これに替えて例えば、プリンター1の筐体側に装着しインク供給チューブを介してインクジェットヘッド2に供給するタイプのものであってもよい。インクカートリッジ3は、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(Bk)等、互いに異なる色のインクが収容されたものである。
キャリッジ4は、主走査方向に架設された支持部材であるガイドロッド9に支持された状態で取り付けられたものである。また、キャリッジ4は、キャリッジ移動機構7によりガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するものである。
リニアエンコーダ10は、キャリッジ4の主走査方向上における位置を信号で検出するものである。この検出された信号は、位置情報として制御装置CONTに送信されるようになっている。制御装置CONTは、このリニアエンコーダ10からの位置情報に基づいてインクジェットヘッド2の走査位置を認識し、インクジェットヘッド2による記録動作(吐出動作)などを制御するようになっている。また、制御装置CONTは、キャリッジ4の移動速度を可変制御可能な構成となっている。
図2は、本実施形態におけるインクジェットヘッド2に設けられたノズル17の配列を示す概略図である。
図2に示すように、インクジェットヘッド2は、インクを吐出する複数のノズル17が設けられたノズル形成面21Aを有する。インクの吐出面でもあるノズル形成面21Aには、複数のノズル17ごとにノズル列16が形成されている。各ノズル列16においては、例えば異なる色のインクを吐出可能になっている。本実施形態ではインクの色に対応して4列、即ちノズル列(ブラック)16(Bk)、ノズル列(マゼンタ)16(M)、ノズル列(シアン)16(C)、及びノズル列(イエロー)16(Y)が設けられている。ノズル列16の各々は、例えば180個のノズル17によって構成されている。
図3は、本実施形態におけるインクジェットヘッド2の内部構成を示す部分断面図である。
図3に示すように、インクジェットヘッド2は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22と、を備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21と、を備えると共に、共通インク室29と、インク供給口30と、圧力室31と、を形成する。さらに、流路形成ユニット22は、ダイヤフラム部として機能する島部32と、共通インク室29内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33と、を備える。ヘッド本体18には、固定部材26と共に駆動ユニット24を収容する収容空間23と、インクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28と、が形成される。
上記構成、即ちピエゾ式のインクジェットヘッド2によれば、ケーブル27を介して駆動ユニット24に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19が圧力室31に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。このため、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル17から、インクが吐出される。
図1に戻り、インクジェットヘッド2の移動範囲のうちプラテン5の外側の領域には、インクジェットヘッド2の走査起点となるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、メンテナンスユニット11が設けられている。メンテナンスユニット11は、印字動作以外でインクジェットヘッド2をキャップ部材12でキャッピングしてインクの蒸発を抑制する保湿動作と、インクジェットヘッド2の各ノズル17からインクをキャップ部材12に予備吐出させることで増粘インクによるノズル17の目詰まり防止やノズル17のメニスカスを調整してインクジェットヘッド2から正常にインクを吐出させるフラッシング動作と、キャップ部材12でインクジェットヘッド2をキャッピングした後に不図示の吸引ポンプを駆動させて各ノズル17から粘性が高くなったインクや付着したゴミ等を強制吸引してメニスカスを調整し、インクジェットヘッド2から正常にインクを吐出させる吸引動作(ヘッドクリーニング)と、インクジェットヘッド2のノズル形成面21A(図2参照)をワイプ部材13で払拭(ワイピング)することでノズル17近傍に付着したインクや増粘したインク等を除去したり、ノズル17のメニスカスを破壊してメニスカスを再調整させるパージ処理を行ったりするワイピング動作と、を実行する構成となっている。
本実施形態のプリンター1は、インクジェットヘッド2が被記録媒体6に対して0.5m/s以上の相対速度で移動しながら上記実施形態の顔料インクを吐出することで、サテライトの発生を抑制するものである。上記相対速度とは、シリアルプリンターのインクジェットヘッド2においては、キャリッジ4の主走査方向の移動速度に相当するものである。
なお、本実施形態のプリンター1は、本実施形態のシリアルプリンターの替わりに、ヘッドが固定式のラインプリンターであってもよく、このラインプリンターの場合、上記相対速度は、副走査方向の被記録媒体の移動速度に相当するものである。
本実施形態では、より高速でサテライトが発生しやすく、その影響が大きなプリンターであるほど、得られる効果は大きい。具体的には、上記相対速度が0.8m/s以上においては、サテライトの抑制効果がさらに大きなものとなる。
インクジェット方式によるインクの吐出速度は、インク滴の飛翔安定性を良好なものとするため、4〜15m/sとすることが好ましい。吐出速度が4m/s以上であると、被記録媒体上にインクを精度良く付着(着弾)させることが可能となる。また、吐出速度が15m/s以下であると、サテライト滴の発生を効果的に抑制することができる。
ここで、サテライトによる影響について、上記相対速度及び上記尾引きの長さの観点から説明する。例えば、尾引きの長さが400μmであるインク滴を7m/sで吐出する場合において、主滴とサテライト滴との着弾時間差は約60μsecとなる。したがって、この場合に、上記相対速度が0.5m/sであれば、主滴とサテライト滴との着弾位置のずれは、上記着弾時間差に基づき30μmとなる。また、同様にして、上記相対速度が1.0m/sであれば、主滴とサテライト滴との着弾位置のずれは60μmとなる。
着弾位置のずれは、得られる記録物の画質に影響を及ぼし、さらに、記録物に対する人間の目の感度は、紙と目との距離が30cmである場合に60μm以上のずれを感知しやすくなるとされていることから、主滴とサテライト滴との着弾位置のずれは好ましくは60μm以内、より好ましくは30μm以内である。
また、上記相対速度が一定である場合は、尾引きの長さが、主滴とサテライト滴との着弾位置のずれに影響を及ぼす。したがって、尾引きの長さが400μm未満となるインクが好ましい。また、尾引きの長さが400μm未満となるインクにすることで、サテライト滴の発生そのものを効果的に抑制することができる。
また、本実施形態のプリンター1は、上記のとおり不飽和脂肪酸を含むインクを用いるため、熱による不飽和脂肪酸の酸化の懸念が少ないピエゾ式のインクジェットヘッドを用いることが好ましい。なお、不飽和脂肪酸の添加量が少ない場合には、サーマル式のインクジェットヘッドを用いてもよいが、不飽和脂肪酸の酸化によるノズル詰りの懸念の少ないピエソ式であることがより好ましい。
このように、本実施形態によれば、サテライトの発生を抑制し、高速で高品質の画像を形成可能なインクジェット記録装置を提供することができる。
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記実施形態のインクジェット記録装置の項で説明したように、被記録媒体6に対して0.5m/s以上の相対速度で移動するインクジェットヘッド2から上記実施形態の顔料インクを吐出する吐出工程を含む。
このように、本実施形態によれば、サテライトの発生を抑制し、高速で高品質の画像を形成可能なインクジェット記録方法を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[使用材料]
〔顔料分散体〕
・CAB−O−JET300(キャボット社製商品名、固形分15%)
・BONJET BLACK CW−1(オリエント化学工業社製商品名、顔料分20%)
〔界面活性剤〕
・オルフィンE1010(エアープロダクツ社製商品名、アセチレングリコール)
・サーフィノール104(日信化学工業社製商品名、アセチレングリコール)
・Triton X−100(Roche Applied Science社製商品名、C1422O(CO)、直鎖型の非イオン性の界面活性剤)
〔界面活性剤及びpH調整剤〕
・オレイン酸(東京化成工業社(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.)製、モノ不飽和脂肪酸)
・リノール酸(東京化成工業社製、ジ不飽和脂肪酸)
・ステアリン酸(東京化成工業社製、飽和脂肪酸)
〔pH調整剤〕
・トリメチルグリシン(無水ベタイン、東京化成工業社製)
・ジメチルグリシン(N,N−ジメチルグリシン、東京化成工業社製)
・トリプロパノールアミン(トリイソプロパノールアミン、東京化成工業社製)
・トリエタノールアミン(東京化成工業社製)
・水酸化カリウム(関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製)
・水酸化ナトリウム(関東化学社製)
〔浸透促進剤〕
・1,2−ヘキサンジオール
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(表1中「TEGmBE」と省略)
〔湿潤剤〕
・グリセリン
・トリメチロールプロパン
〔防腐剤・防黴剤〕
・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)
・プロキセルXL−2
[実施例1〜5、比較例1〜10]
〔顔料インクの調製〕
表1に示す含有量で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過して、実施例1〜5及び比較例1〜10の各水性顔料インクを調製した。
なお、表1中に示す含有量の単位は質量%であり、表1中、顔料分散液は固形分濃度(顔料の含有量相当)で表している。また、空欄部は無添加であることを表す。また、イオン交換水の「残量」とは、インク全量が100質量%となるようにイオン交換水を加えたことを意味する。
表1に示した各顔料インクについて、以下の各評価を行った。
[尾引き長さの評価]
インクジェットプリンターPX−500(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製商品名)のカートリッジに顔料インクを充填し、インクジェット吐出観察装置Dot View(トライテック(Tritek)社製商品名)により吐出されるインクの尾引きの長さを観察した。評価基準は以下のとおりである。結果を表2に示す。
○:尾引きの長さが400μm未満であった。
×:尾引きの長さが400μm以上であった。
[インクの泡立ち評価]
直径2cm×高さ10cmの円筒状ガラス容器に顔料インク10gを封入して50回振り混ぜ、泡(気泡)と液体との界面から、泡の最高高さまでの高さ(H)を測定した。評価基準は以下のとおりである。結果を表2に示す。
○:5cm未満、
△:5cm以上8cm未満、
×:8cm以上。
[サテライトの確認評価]
作製したインクを、プリンターPX−B500(セイコーエプソン社製商品名)のインクカートリッジに入れ、印字可能状態にした。上記プリンターPX−B500は、ヘッドのキャリッジ速度が1.1m/secのプリンターであるため、キャリッジ速度を0.3〜1.1m/secまで可変できるように改造した。そして、最大キャリッジ速度を0.3、0.5、0.7、及び0.9m/secの4段階に設定して、各最大キャリッジ速度における印字速度とサテライトとの関係を調べた。サテライトは、セイコーエプソン社製スーパーファイン紙に印字した記録物を光学顕微鏡で観察し、サテライトが有るか否かを確認した。
サテライトは、全く無いのが理想であるが、吐出されるインク滴が空気中で分割するかどうかは確率の問題もあるため、どんな状況においてもサテライトが全く無いということは困難である。したがって、サテライトが発生したとしても記録物上でサテライトが観察されなければよい。すなわち、記録物の主滴とサテライトとの間隔が60μm未満であればよい。さらに、記録物に対する人間の目の感度は、紙と目の距離が30cmである場合に60μm以上のズレを感知しやすくなるとされている。
以上より、本明細書において、サテライトの有無はより実用的に以下のように判断するものとし、評価基準も同様とした。結果を表2に示す。
◎:サテライトが全く無かった。具体的には、記録物の主滴とサテライトとの間隔が0μmであった。
○:サテライトが無かった(抑制効果が有った。)。具体的には、記録物の主滴とサテライトとの間隔が60μm未満であった。
×:サテライトが有った。具体的には、記録物の主滴とサテライトとの間隔が60μm以上であった。
[インクの長期安定性評価]
上記サテライトの確認評価においてキャリッジ速度0.9m/secで印字した記録物をプリンターPX−B500(セイコーエプソン社製商品名)のインクカートリッジに入れ、1ヶ月、6ヶ月、及び1年放置した後の、サテライトの変化をそれぞれ観察した。なお、評価基準は、上記サテライトの確認評価のものと同様である。結果を表2に示す。
表2より、アセチレングリコールと不飽和脂肪酸を添加したインクは、実施例1〜5、比較例5〜10のように、サテライトの発生が抑制されることが分かった。また、不飽和脂肪酸、アミノ酸、アルカリ金属水酸化物、及びアミンの4種類を含む場合、実施例1〜5のようにサテライトの発生を長期に亘り安定して抑制できることも分かった。
1…プリンター、2…インクジェットヘッド、3…インクカートリッジ、4…キャリッジ、5…プラテン、6…被記録媒体、7…キャリッジ移動機構、8…媒体送り機構、9…ガイドロッド、10…リニアエンコーダ、11…メンテナンスユニット、12…キャップ部材、13…ワイプ部材、16…ノズル列、16(Bk)…ノズル列(ブラック)、16(M)…ノズル列(マゼンタ)、16(C)…ノズル列(シアン)、16(Y)…ノズル列(イエロー)、17…ノズル、18…ヘッド本体、19…振動板、20…流路基板、21…ノズル基板、21A…ノズル形成面、22…流路形成ユニット、23…収容空間、24…駆動ユニット、25…圧電素子、26…固定部材、27…ケーブル、28…内部流路、29…共通インク室、30…インク供給口、31…圧力室、32…島部、33…コンプライアンス部、CONT…制御装置、Y…イエロー、M…マゼンタ、C…シアン、Bk…ブラック。

Claims (9)

  1. アセチレングリコールと、不飽和脂肪酸と、アミノ酸と、アルカリ金属水酸化物と、アミンと、を含む、顔料インク。
  2. 前記不飽和脂肪酸がオレイン酸を含む、請求項1に記載の顔料インク。
  3. 前記アミノ酸がトリメチルグリシン及びジメチルグリシンのうち少なくともいずれかを含む、請求項1又は2に記載の顔料インク。
  4. 前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、及び水酸化リチウム(LiOH)からなる群より選択される一種以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の顔料インク。
  5. 前記アミンがトリエタノールアミン及びトリプロパノールアミンのうち少なくともいずれかを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の顔料インク。
  6. 前記不飽和脂肪酸及び前記アミノ酸のうち少なくともいずれかと、前記アルカリ金属水酸化物及び前記アミンのうち少なくともいずれかと、からなる酸アルカリ塩を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の顔料インク。
  7. 前記酸アルカリ塩が、オレイン酸カリウム、オレイン酸トリプロパノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン、及びアミノ酸カリウムからなる群より選択される一種以上である、請求項6に記載の顔料インク。
  8. 被記録媒体に対して0.5m/s以上の相対速度で移動しながら請求項1〜7のいずれか1項に記載の顔料インクを吐出するインクジェットヘッドを備えた、インクジェット記録装置。
  9. 被記録媒体に対して0.5m/s以上の相対速度で移動するインクジェットヘッドから請求項1〜7のいずれか1項に記載の顔料インクを吐出する吐出工程を含む、インクジェット記録方法。
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