JP5634732B2 - 締結金物 - Google Patents

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Description

本発明は、各種の木構造において、柱と梁などの二部材を丁字状に締結する際に用いる締結金物に関する。
住宅などの建築方法として広く普及している木造軸組工法は、土台や柱や梁などの部材を組み合わせて建物の骨格を構築している。この工法は、骨格の強度を確保するため、部材同士を強固に締結する必要があり、古くから部材の端面にホゾを加工するなどの対策を講じているが、近年はプレカット技術などの導入に伴い、各種締結金物の利用が進んでいる。
柱と梁などの二部材を丁字状に締結する際に用いる締結金物の形状例を図12に示す。この締結金物は、鋼板を二箇所で折り曲げた「コ」の字状で、中央に位置する前面板と、その左右両端から突出する側面板と、で構成され、前面板には、円柱状に突出した二個の凸部が上下に並んで形成してある。なお凸部の内部は、ボルトの頭部などを収容するため中空になっており、また凸部の中心には、ボルトを挿通するための前孔が形成してある。そのほか、側面板は二枚とも同一形状で、上面にはV字状に切り欠かれたピン溝が形成してあり、その下には二組のピン孔が上下に並んで形成してある。
この締結金物を取り付けるため、柱の側面には、あらかじめ受け穴とキリ孔と座グリ穴を加工しておく。受け穴は、締結金物の凸部を嵌め込むためのもので、キリ孔は、締結金物を固定するボルトを挿通するためのもので、座グリ穴は、ボルトに螺合するナットを収容するためのものである。施工の際は、柱の受け穴に締結金物の凸部を嵌め込んだ上、二枚の側面板の間から凸部に向けてボルトを差し込み、その先端をキリ孔から座グリ穴に到達させる。そしてボルトの先端に座金を差し込んだ後、ナットを螺合して締め上げると、柱の側面に締結金物が密着する。
梁の端部には、前面板を収容する段差部と、側面板を差し込む二列のスリットを加工して、さらに梁の側面には、ドリフトピンを打ち込むための横孔を加工しておく。なお一番上の横孔には、あらかじめドリフトピンを打ち込んでおく。施工の際は、柱の側面に締結金物を取り付けてから梁を吊り上げて、締結金物の真上に梁を移動する。そして梁を徐々に下降させると、締結金物の側面板がスリットに差し込まれていき、やがて打ち込み済みのドリフトピンがピン溝で受け止められ、梁の仮置きが完了する。その後、残りの横孔にドリフトピンを打ち込むと、柱と梁が締結金物を介して締結される。なおドリフトピンの代わりとして、ボルトを用いることもある。
本願発明に関連のある技術として、次の特許文献1などが挙げられる。この文献には、小形化を図りながらも一定の強度を有する連結金物が開示されている。また各非特許文献(意匠公報)には、軽量化や美感の向上などを目的として、側面の一部を切り抜いた建築部材固定金具が開示されている。
特開2007−278027号公報 意匠登録第1212158号公報 意匠登録第1218754号公報
図12のような締結部に過大な荷重が作用すると、まずドリフトピンの周囲で木材にヒビ割れが発生して、これが次第に成長して梁が破壊されることが多い。したがって締結金物単体の強度を向上するだけでは、締結部の強度向上には結び付かない場合がある。しかも木材は、節の有無や含水率などの様々な要因で強度に個体差があり、破壊に至るまでの過程も不規則である。そこで締結部の安全性や安定性を確保するには、締結金物を意図的に変形させてエネルギーを吸収して、部材のヒビ割れの発生や成長をできるだけ遅くすることが好ましい。
図12のような締結金物は、需要者の経済的負担を軽減するため、できるだけ安価に提供することが好ましい。また締結金物は既に広く普及しており、取り付けのためのボルトやドリフトピンなどの配置は定形化されている。そのため新しい締結金物についても、従来の物と互換性を確保できるよう、ピン孔やピン溝の位置は変更しないことが好ましい。
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、梁などの部材に過大な荷重が作用した際、部材の破壊をできるだけ遅くすることができ、安全性や安定性に優れた締結金物の提供を目的としている。
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、支持部材の側面に結合部材の端面を丁字状に締結するための締結金物であって、支持部材の側面に接触し且つボルトや釘等で支持部材に固定される前面部と、結合部材の端部に加工されたスリットに差し込まれ且つドリフトピン等の棒材で結合部材に固定される後縁部と、を有し、該前面部と該後縁部は離れて配置され、前記前面部には、ボルトや釘等を挿通するための前孔を設け、前記後縁部には、ドリフトピン等を挿通するためのピン孔またはドリフトピン等を受け止めるピン溝を設け、前記前面部と前記後縁部は、過大な荷重が作用した際に変形を誘発させるため、帯状に延びる複数の枝状部を介して一体化していることを特徴とする締結金物である。
本発明による締結金物は、各種の木構造において、棒状の木材を丁字状に締結するために使用され、前記の従来技術と同様、柱などの支持部材の側面に接触する前面部と、梁などの結合部材のスリットに差し込まれる後縁部と、で構成される。前面部は、支持部材の側面に面接触して、ボルトや釘やビスなどを介して支持部材に固定される部位であり、位置決めのための凸部は必須ではない。ただしボルトや釘やビスなどを挿通できるよう、前孔は必ず設けるものとする。
締結金物の形状は、前面部の両側部から一対の後縁部が突出する「コ」の字状のほか、前面部の中央から一枚の後縁部が突出する丁字状も存在する。「コ」の字状のものは、後縁部が左右二箇所に存在するが、左右とも同一形状である。そのため後縁部などの形状は、左右二箇所のうち片方だけをピックアップした状態で記載する。また丁字状のものは、後縁部が一枚だけであり、結合部材の端部に加工するスリットも必然的に一列となる。
後縁部は、ドリフトピンやボルトなどの棒材を介して結合部材に固定される部位であり、全体が結合部材に加工したスリットの中に差し込まれる。また後縁部には、ドリフトピン等を挿通するためのピン孔と、半円形に削り取られてドリフトピン等を受け止めるピン溝と、が形成してある。ただしピン溝は必須ではなく、用途によっては形成しないこともある。なおピン孔やピン溝は、全てが後縁部に形成してあり、他の部位に形成することはない。そして本発明は、前面部と後縁部が単純につながっているのではなく、前面部と後縁部は空間的に分離しており、双方は枝状部を介して一体化していることを特徴とする。
枝状部は、前面部と後縁部を一体化する機能を担っており、文字通り前面部を根元として枝状に突出する部位である。枝状とは、有限の幅(延在方向に対して直交する方向)を有しており、前面部の外縁から局地的に突き出た半島状であることを意味している。また枝状部は、必ず二本以上設けることを前提とするが、個々の枝状部の形状を統一する必要はなく、自在に決めることができる。なお枝状部は、一定幅の単純な帯状とする必要はなく、端部にフィレットを設けて応力集中を緩和してもよい。そのほか枝状部の最小幅は、締結金物の形状や荷重条件などに応じて都度決定する。
前面部は、単純な平面状とすることもできるが、枝状部との兼ね合いで「コ」の字状または丁字状とすることもある。この場合、前面部は、支持部材に面接触する板状の前面板と、前面板から直角に突出して枝状部につながる前縁板と、で構成される。
このように、前面部と後縁部を複数の枝状部で一体化することで、ドリフトピン等に過大な荷重が作用した際、枝状部の根元付近を支点として、枝状部が押し下げられるように塑性変形していく。これによってエネルギーが吸収され、部材に作用する負荷が軽減して、部材のヒビ割れの発生や成長をできるだけ遅くすることができる。
請求項2記載の発明は、後縁部の形状を特定するもので、後縁部は、個々の枝状部の先端に設けた島状部であり、個々の島状部にピン孔またはピン溝を設けていることを特徴とする。枝状部の先端とは、枝状部のうち前面部から最も遠い位置を意味する。また島状部は、ピン孔やピン溝を形成するための部位であり、通常は、枝状部の先端部分を円盤状に拡張した形状になる。ただし、帯状の枝状部を単純に延長しただけの部位を便宜上、島状部とすることもある。このように島状部を設けることで、枝状部の幅を自在に調整可能で、過大な荷重が作用した際の塑性変形が容易になる。なお枝状部と島状部は、一対一の関係で設けられる。
請求項3記載の発明は、島状部の形状を特定するもので、上下に並ぶ島状部は、継板によって一体化していることを特徴とする。上下に隣接する島状部同士は分離しているが、この発明のように、隣接する島状部を結ぶ継板を設けて、全ての島状部を一体化することもできる。なお継板は、後縁部に含まれるものとする。さらに後縁部の強度を確保するため、継板と前面部を直接結ぶ枝状部を設けてもよい。このように継板を設けることで、個々の枝状部に作用する荷重が均等化して、枝状部全体がバランスよく塑性変形していく。
請求項4記載の発明は、後縁部の形状を特定するもので、後縁部は、上下に延びる帯状の縦板であり、該縦板にピン孔とピン溝を設けていることを特徴とする。縦板は、上下方向に延びる矩形状の一枚の板で、その内部にピン孔が形成してあり、さらに必要に応じて上下面の一方または両方にピン溝が形成してある。このように縦板を用いることで、枝状部の配置に依存することなくピン孔やピン溝を形成でき、締結金物の形状の柔軟性が向上する。
請求項5記載の発明は、枝状部の形状を特定するもので、枝状部は、前面部から後縁部に向けて、上向きに傾斜していることを特徴とする。枝状部は、前面部から水平方向に突出させても構わないが、上向きに傾斜させることで、後縁部に水平荷重が作用した際、枝状部に曲げモーメントが発生して、枝状部の塑性変形が発生しやすくなる。しかも後縁部に下向きの荷重が作用した際は、枝状部の根元(前面部との境界)付近を支点として、枝状部が回転するように塑性変形していく。そのため無理なく塑性変形できる区間を長く確保でき、粘り強さを発揮しやすい。なお上向きに傾斜とは、枝状部の上下両面が上向きであることを意味する。
請求項6記載の発明は、枝状部の形状を特定するもので、枝状部は、中央部が上下いずれかに突き出ており、「く」の字状または円弧状であることを特徴とする。枝状部は、前面部から水平方向に突出させても構わないが、このように変形させることで、後縁部に水平荷重が作用した際、枝状部に曲げモーメントが発生して、枝状部の塑性変形が発生しやすくなる。なおこの形態は、上下反転して使用することを想定している締結金物に適している。
請求項1記載の発明のように、二部材を丁字状に締結する締結金物について、支持部材の側面に固定される前面部と、結合部材のスリットに差し込まれてドリフトピン等で固定される後縁部と、を空間的に分離して、前面部と後縁部を複数の枝状部だけで一体化することで、支持部材と結合部材との間に過大な荷重が作用した際、枝状部の応力が高くなる。その結果、枝状部は、部材のヒビ割れが成長する前に塑性変形していき、エネルギーが吸収され、部材の破壊をできるだけ遅くすることができる。さらに枝状部の形状や本数を調整することで、あらゆる条件に対して理想的な塑性変形を実現でき、汎用性の確保も容易である。なお本発明は、鋼板の切断形状を変える以外、従来と同様の製造工程で対応でき、製品価格も抑制可能である。
請求項2記載の発明のように、個々の枝状部の先端に島状部を設けて、さらに個々の島状部にピン孔またはピン溝を設けることで、枝状部の幅を自在に調整可能で、過大な荷重が作用した際の塑性変形が容易になる。また請求項3記載の発明のように、全ての島状部を継板で一体化することで、継板の塑性変形でもエネルギーを吸収でき、部材の破壊をできるだけ遅くすることに寄与する。そのほか締結金物の製造過程で鋼板を曲げ加工する際、全ての枝状部が段差なく同一平面に並ぶため、品質にも優れる。
請求項4記載の発明のように、後縁部を帯状の縦板とすることで、枝状部の配置に依存することなく、ピン孔やピン溝を自在に形成でき、汎用性が向上する。そのため製造コストを抑制できるほか、従来の締結金物との互換性も容易に確保でき、利便性にも優れる。
請求項5記載の発明のように、枝状部を上向きに傾斜させることで、後縁部に水平荷重が作用した際、枝状部に曲げモーメントが発生して、枝状部の塑性変形が発生しやすくなる。そのためエネルギーを効率よく吸収でき、部材の破壊をできるだけ遅くすることができる。また過大な荷重が作用した際は、枝状部の根元付近を支点として、枝状部が回転するように塑性変形していく。この過程において、枝状部がやや下向きになるまでは、前面部と後縁部との距離が大きく変化しないため、塑性変形が無理なく進行して粘り強さを発揮しやすい。
請求項6記載の発明のように、枝状部を「く」の字状または円弧状として、上下いずれかに突き出すことで、後縁部に水平荷重が作用した際、枝状部に曲げモーメントが発生して、枝状部が広がるように塑性変形していく。そのためエネルギーを効率よく吸収でき、接合部の破壊をできるだけ遅くすることができる。また塑性変形によって枝状部がやや下向きになるまでは、前面部と後縁部との距離が大きく変化しないため、塑性変形が無理なく進行して粘り強さを発揮しやすい。
本発明による締結金物の形状例とその使用状態を示す斜視図である。 図1に示す締結金物の詳細を示す斜視図と側面図である。 継板を設けていない締結金物の詳細を示す斜視図と側面図である。 枝状部の本数を増加した締結金物の詳細を示す斜視図と側面図である。 後縁部として縦板を用いた締結金物を示す斜視図と側面図である。 締結金物の他の形状例を示す斜視図で、図の上方は前面部を板状としたもので、下方は後縁部を一枚だけとした丁字状のものである。 締結金物の他の形状例を示す側面図で、いずれも図5の形態をベースとしている。 締結金物の強度を評価する際の試験方法を示す側面図である。 図8による試験結果の評価方法を示している。 図8による方法で得られた試験結果を示している。 図2に示す締結金物に過大な荷重が作用して塑性変形した状態を示す側面図である。 一般的な締結金物の形状例を示す斜視図と断面図である。
図1は、本発明による締結金物の形状例とその使用状態を示している。締結金物は、垂直に敷設された柱の側面に梁の端面を固定して、丁字状の締結部を構築するために使用する。なお締結される二部材は、柱と梁に限定されるものではなく、汎用性を持たせるため、柱は支持部材51、梁は結合部材61と称するものとする。そして締結金物は大別して、前面部11と後縁部31と枝状部23、25、27の三要素で構成され、前面部11と後縁部31は、空間的に分離していることを特徴とする。
前面部11は、締結金物を支持部材51に固定するための部位であり、上から見て「コ」の字状で、中心の前面板12と、その両側部の前縁板13と、前面板12から突出する凸部18と、で構成されている。そのうち前面板12は縦長の平面状で、支持部材51の側面に面接触する。また凸部18は、前面板12から円柱状に突出する部位であり、その機能は従来と変わりがなく、中心にはボルト41を挿通するため前孔19が形成してある。そして前縁板13は、前面板12の左右両側を直角に折り曲げた部位であり、枝状部23、25、27に接続している。なお支持部材51には、凸部18を嵌め込むための受け穴52や、ボルト41を挿通するためのキリ孔53や、ナット43を収容するための座グリ穴54を加工している。
後縁部31は、締結金物を結合部材61に固定するための部位であり、枝状部23、27の先端に形成してある島状部33、37と、島状部33、37同士を結ぶ継板35と、で構成されている。島状部33、37は、ドリフトピン47を挿通するためのピン孔36やドリフトピン47を受け止めるピン溝34を形成するために設けてあり、また継板35は、全ての島状部33、37を一体化するために設けている。なお結合部材61の端部には、後縁部31を差し込むための二列のスリット62や、前面板12を収容する段差部64を加工してあり、さらに結合部材61の側面には、ピン孔36やピン溝34と同心となる位置に横孔63を加工している。
枝状部23、25、27は、前縁板13から突き出た部位であり、有限幅の枝状で、前面部11と後縁部31を一体化している。枝状部23、25、27は、上下に五個が並んでおり、一番上の枝状部27は、斜め上方に突き出ており、ピン溝34が形成してある島状部37につながっている。また一番下の枝状部25は、水平に突き出ており、継板35につながっており、島状部33、37が存在しない。そのほか中間の三本の枝状部23は、斜め上方に突き出ており、ほぼ円盤状の島状部33につながっている。
枝状部23、25、27は、後縁部31に作用する荷重を前面部11に伝達する機能を担うが、枝状部23、25、27の断面積は有限であり、必然的に強度が劣る。そのため結合部材61に過大な荷重が作用すると、枝状部23、25、27は屈曲するように塑性変形していく。この際、荷重によるエネルギーを吸収して、部材の破壊をできるだけ遅くすることができる。
図2は、図1に示す締結金物の詳細を示している。一番上に位置する島状部37は、対になる枝状部27と一体的に形成してあり、双方の厳密な境界は存在しないが、図の網掛けで示すように、ピン溝34よりも前面部11寄りを枝状部27として、その先を島状部37とする。また全ての島状部33、37は、継板35を介して一体化してあり、この継板35の最下部は、水平に延びる枝状部25を介して前縁板13と一体化している。この最下部の枝状部25に限り、島状部33、37が存在しない。なお枝状部23、25、27の両端は、極端な応力集中を防止するため、フィレットを設けて他の部位と滑らかに接続している。
図3は、継板35を設けていない締結金物を示している。継板35は、個々の島状部33、37に作用する荷重を均等化する効果があるが、むしろ早い段階で塑性変形を発生させたい場合などは、この図のように継板35を省略することもできる。この形態は、個々の枝状部23、27の先端に一箇所の島状部33、37を設けており、個々の島状部33、37には、一個のピン孔36または一個のピン溝34が形成してある。なお、この図の枝状部23、27の幅は、ピン孔36の直径の二倍程度としている。
図4は、枝状部23、25、27の本数を増加した締結金物を示している。枝状部23、25、27は、締結金物の許容耐力を決める重要な要素であり、過大な荷重に対する塑性変形を抑制気味にしたい場合には、この図のように枝状部23、25、27を多くすることもできる。上下に隣接する島状部33、37の間には、前縁板13と継板35を直結する枝状部25を設けており、後縁部31の剛性が向上する。ただし、前面部11と後縁部31は、枝状部23、25、27を介して一体化いることに変わりはなく、限度を超えると枝状部23、25、27は塑性変形していく。
図5は、後縁部31として縦板38を用いた締結金物を示している。縦板38は、上下に延びる矩形状の板であり、その内部にはピン孔36が形成してあり、さらに上下両面にはピン溝34が形成してある。ピン溝34を上下両面に形成してあるため、締結金物を上下反転して使用することもできる。また枝状部23は、前縁板13と縦板38を一体化しており、三本のいずれも、中央部が上方に突き出た「く」の字状である。枝状部23をこのような形状とすることで、後縁部31に水平荷重が作用した際、枝状部23に曲げモーメントが発生して、塑性変形が発生しやすくなる。
図6は、締結金物の他の形状例を示している。他の形状例1は、図3に示すものをベースとしており、枝状部23、27の先端に島状部33、37を設けているが、個々の島状部33、37を一体化する継板35は設けていない。また前面部11は、前面板12だけで構成され、凸部18や前縁板13は省略している。なお前孔19を省略することはできず、前面板12の中央に設けている。そして枝状部23、27は、前面板12の左右両側部から突出しており、途中で直角に折れ曲がって後縁部31につながっている。このように前面部11と枝状部23、27との接続構造も、必要に応じて自在に変更することができる。
他の形状例2は、図2に示すものをベースとしているが、後縁部31が一列で、上から見て丁字状である。したがって結合部材61に加工するスリット62は、一列だけである。また前面部11は、矩形状の前面板12と、その中央から突出する前縁板13と、で構成され、前面板12の表面に前孔19を設けている。施工の際は、支持部材51の側面に前面板12を接触させた後、前孔19から釘45を打ち込む。なお釘45の代わりとしてビスなども使用できる。
図7も、締結金物の他の形状例を示している。この図の各締結金物は、いずれも図5の形態をベースとしており、上下に延びる縦板38を後縁部31としている点は同様だが、枝状部23の形状などが異なる。他の形状例3は、枝状部23の形状を上方または下方に突出した円弧状としている。このような円弧状とすることで、後縁部31に水平荷重が作用した際、枝状部23に曲げモーメントが発生して、塑性変形が発生しやすくなる。なおピン溝34は、縦板38の上下両面に設けてあり、締結金物を上下反転して使用することもできる。そのため枝状部23は、水平線を基準とした線対称形に配置してあり、上下反転して使用した場合でも、枝状部23の変形性などに差が生じない。
他の形状例4は、縦板38の上面だけにピン溝34を設けてあり、上下反転して使用することを想定していない。したがって全ての枝状部23は、前面部11から後縁部31に向けて、上向きに傾斜している。また他の形状例5は、縦板38の上下両面にピン溝を設けており、上下反転して使用することもできる。さらに枝状部23は、中央部が上方または下方に突出した「く」の字状としている。そのため後縁部31に荷重が作用した際は、枝状部23の両端のほか中央部にも応力が集中して、塑性変形が発生しやすくなる。
図8は、締結金物の強度を評価する際の試験方法を示す側面図である。これまでに記載したように、本発明による締結金物は、過大な荷重が作用した際、枝状部23、25、27が塑性変形することでエネルギーを吸収して、部材の破壊をできるだけ遅くすることを特徴としている。これを確認するため、図8に示す方法でせん断試験を行った。この試験は、財団法人日本住宅・木材技術センターが定めた方法に基づいている。
試験は図8に示すように、一本の梁を二本の柱で支えた門形の試験体を用いており、柱と梁が丁字状に接する二箇所の締結部に、同一の締結金物を組み込んでいる。そして梁の上面に鋼製の加圧板を敷設して、その中心に集中荷重を作用させる。また梁の変位を測定するため、梁の端部近傍の下面に変位計を取り付けている。変位計は、木材のヒビ割れなどの影響を抑制するため、梁の手前側と奥側の二箇所に取り付けており、計四箇所の測定値の平均を変位量とする。
図8に示す方法で試験を行うと、図9のような変位−荷重のグラフが作成でき、これに基づいて、締結金物の短期許容耐力(せん断荷重に対する)を算出することができる。短期許容耐力とは、何らの破壊も生じることなく耐えることのできる荷重の上限値であり、短期とあるのは、腐食などの長期的要因を考慮していないためである。なおグラフの横軸は変位を示しているが、この値は四箇所の平均である。また縦軸は、梁の中央に作用させた荷重であり、最大荷重(Pmax)は、グラフの最も高い位置である。さらに降伏耐力(Py)は、グラフの線形から幾何学的に算出した値であり、金属材料における降伏点に相当している。
木材は天然由来であり、集成材を含めて様々な要因で強度に個体差があることは避けられない。そのため試験に際しては、最低でも六個の試験体を用いて、個別にグラフを作成して、都度、最大荷重と降伏耐力を読み取るものとする。
短期許容耐力は、図9の下方に示す方法で算出する。具体的には、Pmaxに2/3を乗じた値の平均値とそのバラツキ係数を算出する。さらにPyの平均値とそのバラツキ係数を算出する。そして両者(Pmax×2/3と、Py)とも、平均値にそのバラツキ係数を乗じた値を算出して、そのうち、値の小さい方を短期許容耐力とする。なおバラツキ係数は、図9の最下方に示す式で算出され、1以下の値となる。したがって短期許容耐力を向上するには、PmaxやPyの標準偏差を小さくして、バラツキ係数を1に近づけて、安定性を高める必要がある。
図10は、図8による方法で得られた試験結果である。試験は、図2に示す締結金物のほか、比較のため従来の締結金物でも行った。いずれの締結金物も、凸部やピン孔などの配置や形状は同じである。本発明による締結金物は、従来のものに比べて降伏耐力(Py)の平均値が劣っている。これは、枝状部を設けたことで、早い段階で塑性変形が発生したことを示しており、部材の破壊を遅らせる効果がある。枝状部を含む締結金物は、鋼板を所定の形状に仕上げており、塑性変形などの特性に個体差がほとんどない。そのため本発明による締結金物は、最終段階を除いてグラフ毎の差が小さく、降伏耐力と最大荷重のいずれもバラツキ係数が1に近くなる。その結果、試験結果の太枠内に示すように、本願発明によるものは、従来のものに比べて短期許容耐力が向上している。
本発明による締結金物の試験結果に基づいて変位−荷重のグラフを作成すると、試験開始から終了までの間で、グラフとX軸で囲まれる面積(試験結果の積分値)が、従来のものに比べて大きくなった。つまり締結金物の塑性変形によって、より多くのエネルギーが吸収されていることが判明した。
図11は、図2に示す締結金物に過大な荷重が作用して塑性変形した状態を示している。変形前の枝状部23、27は、前面部11から後縁部31に向けて、上向きに傾斜している。しかし後縁部31に過大な垂直荷重が作用すると、前縁板13と枝状部23、25、27との接続部分を中心として、枝状部23、25、27が回転するように変形して、右側の図のように、枝状部23、25、27が下向きになる。さらにピン孔36やピン溝34は、下側に押し込まれるように変形して、ピン孔34は楕円形になり大径化する。
このように、枝状部23、27を上向きに形成することで、枝状部23、27は、水平を向く状態の前後で塑性変形することになる。そのため前面部11と後縁部31との距離が長くなり、必然的に枝状部23、27に作用する曲げモーメントも大きくなり、塑性変形が発生しやすくなる。また枝状部23、27が上向きから下向きに塑性変形する際は、前面部11と後縁部31の距離が大きく変化しない。そのため後縁部31は、ほぼ垂直に下がっていくため、後縁部31に固定される梁61も、無理なく沈み込んでいく。仮に枝状部23、27が当初から下向きであれば、変形に伴い後縁部31が前面部11に接近していき、梁61の円滑な沈み込みが困難になる。
11 前面部
12 前面板
13 前縁板
18 凸部
19 前孔
23 枝状部
25 枝状部(前縁板と継板を直接結ぶもの)
27 枝状部(前縁板とピン溝が形成してある島状部を結ぶもの)
31 後縁部
33 島状部(ピン孔が形成してあるもの)
34 ピン溝
35 継板
36 ピン孔
37 島状部(ピン溝が形成してあるもの)
38 縦板
41 ボルト
43 ナット
45 釘
47 ドリフトピン
51 支持部材(柱など)
52 受け穴
53 キリ孔
54 座グリ穴
61 結合部材(梁など)
62 スリット
63 横孔
64 段差部

Claims (6)

  1. 支持部材(51)の側面に結合部材(61)の端面を丁字状に締結するための締結金物であって、
    支持部材(51)の側面に接触し且つボルト(41)や釘(45)等で支持部材(51)に固定される前面部(11)と、結合部材(61)の端部に加工されたスリット(62)に差し込まれ且つドリフトピン(47)等の棒材で結合部材(61)に固定される後縁部(31)と、を有し、該前面部(11)と該後縁部(31)は離れて配置され、
    前記前面部(11)には、ボルト(41)や釘(45)等を挿通するための前孔(19)を設け、前記後縁部(31)には、ドリフトピン(47)等を挿通するためのピン孔(36)またはドリフトピン(47)等を受け止めるピン溝(34)を設け、
    前記前面部(11)と前記後縁部(31)は、過大な荷重が作用した際に変形を誘発させるため、帯状に延びる複数の枝状部(23、25、27)を介して一体化していることを特徴とする締結金物。
  2. 前記後縁部(31)は、個々の枝状部(23、27)の先端に設けた島状部(33、37)であり、個々の島状部(33、37)にピン孔(36)またはピン溝(34)を設けていることを特徴とする請求項1記載の締結金物。
  3. 上下に並ぶ前記島状部(33、37)は、継板(35)によって一体化していることを特徴とする請求項2記載の締結金物。
  4. 前記後縁部(31)は、上下に延びる帯状の縦板(38)であり、該縦板(38)にピン孔(36)とピン溝(34)を設けていることを特徴とする請求項1記載の締結金物。
  5. 前記枝状部(23、27)は、前記前面部(11)から前記後縁部(31)に向けて、上向きに傾斜していることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の締結金物。
  6. 前記枝状部(23)は、中央部が上下いずれかに突き出ており、「く」の字状または円弧状であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の締結金物。
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