<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、シフト位置センサ14及びハイブリッド駆動装置10を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するガタ詰め制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「ガタ詰め実行手段」、「抑制手段」及び「推定手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する、ハイブリッド車両1のパワートレインユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。尚、各車軸は、最終減速機構としてのデファレンシャルD/Gを介してハイブリッド駆動装置10の動力出力軸である出力軸700に連結されている。
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御することが可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
バッテリ12は、複数のリチウムイオン電池セルを直列接続した構成を有し、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な電池ユニットである。尚、バッテリ12は、本発明に係る回転電機に対し電力を供給可能な蓄電手段の一例に過ぎず、例えば、ハイブリッド車両1は、バッテリ12に代えて、ニッケル水素電池を構成要素とする電池ユニットを搭載していてもよい。或いは、例えば電気二重層キャパシタ等の各種キャパシタ装置を搭載していてもよい。
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
シフト位置センサ14は、後述するECT400の動作モードを規定するシフト位置を検出可能に構成されたセンサである。シフト位置センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたシフト位置は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
次に、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、機関出力軸SFT、ECT400、駆動軸500、入力軸600及び出力軸700を備える。
エンジン200は、ハイブリッド車両1の一動力源として機能するように構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンである。エンジン200の出力動力たるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の機関入力軸SFTに連結されている。尚、エンジン200は、燃料の燃焼に伴う熱エネルギを運動エネルギとして取り出す機関を包括する概念としての本発明に係る内燃機関の実践的態様の一であり、ここでは、その詳細な構成を割愛することとする。エンジン200は、その実践的態様として、例えば燃料種別、気筒数、気筒配列、吸排気系の構成、燃料供給装置の態様及び動弁装置の態様等によらない各種の態様を採ることができる。
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機であり、本発明に係る「他の回転電機」の一例である。
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。
尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、無論他の構成を有していてもよい。
動力分割機構300は、本発明に係る「差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギアSg0と、サンギアSg0の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるリングギアRg0と、サンギアSg0とリングギアRg0との間に配置されてサンギアSg0の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるキャリアCr0とを備える。
サンギアSg0は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転速度はMG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1と等価である。
一方、リングギアRg0は、駆動軸500に連結されており、この駆動軸500は、モータジェネレータMG2のロータに、その回転軸を共有する形で連結されている。従って、MG2は、駆動軸500との間でトルクの入出力が可能である。尚、駆動軸500を介してトルクが入力された場合、モータジェネレータMG2は、負トルクたる回生トルクを出力することによって、その入力トルクを回収し、電力回生、即ち発電を行うことが可能である。
また、この駆動軸500は、ECT400の動力入力軸たる入力軸600に接続されている。従って、モータジェネレータMG2から、その出力トルクたるMG2トルクTmg2が駆動軸500に対し供給された場合、この供給されたMG2トルクTmg2は、ハイブリッド駆動装置10の出力軸トルクToutの少なくとも一部として利用される。ハイブリッド車両1は、このMG2トルクTmg2のみによって所謂EV(Electric Vehicle)走行を行うことも、このMG2トルクTmg2をエンジントルクTeの不足分をアシストするアシストトルクとして利用して所謂HV(Hybrid Vehicle)走行を行うことも可能である。
他方、キャリアCr0は、エンジン200のクランク軸に連結された機関入力軸SFTと連結されている。キャリアCr0の回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。
ECT400は、複数の油圧駆動式の摩擦係合装置(即ち、各々が本発明に係る「係合装置」の一例である)を備え、各係合装置の係合状態に応じて変速比γの異なる複数の変速段を構築可能に構成された、本発明に係る「トルク伝達機構」の一例たる電子制御式有段変速装置である。
尚、変速比γとは、入力軸600の回転速度たる入力軸回転速度Ninと出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutとの比(γ=Nin/Nout)である。先に述べたように、入力軸600は、動力分割機構300の動力出力軸たる駆動軸500に接続されているから、入力軸回転速度Ninは、駆動軸500の回転速度、即ち、モータジェネレータMG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2と等価である。また、同様に入力軸600に作用するトルクである入力軸トルクTinは、駆動軸500に作用するトルクと等価である。
ECT400は、二種類の差動機構を組み合わせて得られる複合型プラネタリギアユニットと、CL1、CL2及びCL3の各湿式多板型クラッチ機構と、ワンウェイクラッチF1と、BR1及びBR2の各湿式多板型ブレーキ機構とから構成されている。このうち、係合装置たる各湿式多板型クラッチ機構、ワンウェイクラッチF1及び各湿式多板型ブレーキ機構は、各々における係合要素同士が、不図示の油圧アクチュエータ(不図示)の作用により、締結状態と解放状態との間で係合状態が選択的に切り替えられる構成となっている。
ここで、これら摩擦係合装置たるクラッチ機構及びブレーキ機構の係合力を規定する係合油圧を制御する油圧アクチュエータは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、油圧アクチュエータの動作制御を介して、ECT400の変速段を自由に切り替えることができる構成となっている。ECT400による変速の詳細については後述する。
ECT400において、入力軸600は、クラッチCL1、CL2及びCL3の夫々における一方の係合要素(即ち、クラッチ板である)に固定されている。
一方、クラッチCL1の他方の係合要素(これもまたクラッチ板である)は、差動機構を構成する一方のプラネタリギアユニット(図右側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第2差動機構」と称する)の一回転要素であるサンギアSg2に連結されている。また、クラッチCL2の他方の係合要素は、差動機構を構成する他方のプラネタリギアユニット(図左側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第1差動機構」と称する)の一回転要素であるキャリアCr1に連結されている。更に、クラッチCL3の他方の係合要素は、第1差動機構の他の回転要素であるサンギアSg1と、ブレーキBR1の一方の係合要素とに連結されている。尚、ブレーキBR1の他方の係合要素は、固定要素である。
ブレーキBR2は、一方の係合要素が、第2差動機構のリングギアRg2と第1差動機構のキャリアCr1とに連結されており、他方の係合要素が固定要素となっている。
ワンウェイクラッチF1は、正回転方向の動力のみ伝達し、負回転方向の動力に対しては空転する一方向クラッチである。ワンウェイクラッチF1の一方の係合要素は、第1差動機構のキャリアCr1に連結されている。
第1差動機構は、サンギアSg1と、サンギアSg1の外周に同心円状に設けられたリングギアRg1と、サンギアSg1とリングギアRg1との間に配置されてサンギアSg1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr1とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
第2差動機構は、サンギアSg2と、サンギアSg2の外周に同心円状に設けられたリングギアRg2と、サンギアSg2とリングギアRg2との間に配置されてサンギアSg2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr2とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
第1及び第2差動機構は、第1差動機構のキャリアCr1が第2差動機構のリングギアRg2に連結され、また第2差動機構のキャリアCr2が第2差動機構のリングギアRg1に連結されることによって、複合型プラネタリギアユニットを構成している。また第2差動機構のキャリアCr2は、ECT400の出力軸たる出力軸700に連結されている。
このような構成において、ECT400は、各係合装置の係合状態を切り替えることにより、変速段として変速比γ1(γ1≒3.2)の1速段、変速比γ2(γ2≒1.7)の2速段、変速比γ3(γ3≒1.0)の3速段及び変速比γ4(γ4≒0.67)の4速段(即ち、オーバードライブ段である)の合計四種類の前進用変速段を構築することが可能である。
尚、ECT400には動作モードが各種設定されており、不図示のシフトレバーを介して運転者により一の動作モードが選択される構成となっている。ここで、動作モードには、「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」及び「1」の各シフトレンジ(シフト位置)が対応しており、例えば、Dレンジが選択されている場合、ECU100は、上記4種類の変速段のうちその時点のハイブリッド車両1の運転条件に最適な一の変速段を選択し、適宜変速段を切り替えつつハイブリッド車両1を走行させる構成となっている。尚、各シフトレンジに対応するECT400の動作モードについては、公知であり、説明の煩雑化を防ぐ目的から、ここでは、その詳細については触れないこととする。
ここで、図3を参照し、ECT400の各係合装置の係合状態と構築される変速段との関係について説明する。ここに、図3は、ECT400における係合装置の係合状態と変速段との関係を例示する表である。
図3において、「○」は締結状態を、無印は解放状態を意味し、「◎」は、電気的無段変速状態を作り出す際には解放状態、固定段走行を行う場合には締結状態を採ることを意味する。
図3において、前進用変速段についてのみ簡略的に説明すると、クラッチCL1は低速用クラッチ、クラッチCL2が高速用のクラッチとなっている。クラッチCL1が締結状態を採り、クラッチCL2が解放状態を採ると、変速段は相対的に変速比の大きい低速用変速段たる1速段又は2速段となる。この際、ブレーキBR1を解放状態とすれば1速段、締結状態とすれば2速段となる。
一方、クラッチCL1を解放状態とし、クラッチCL2を締結状態とすると共にブレーキBR2を締結状態とすると、変速段は相対的に変速比の小さい高速用の4速段となる。
また、クラッチCL1及びクラッチCL2を両方締結状態とすると、第1差動機構のキャリアCr1に連結された第2差動機構のリングギアRg2の回転速度と、第2差動機構のサンギアSg2の回転速度とが、共に入力軸回転速度Ninで等しくなる。第1及び第2差動機構は、各々を構成する回転要素のうち2要素の回転速度が定まれた残余の回転速度が決定される回転二自由度の差動機構であるから、リングギアRg2の回転速度とサンギアSg2の回転速度とが一致すると、必然的にキャリアCr2の回転速度もこれらと一致する。その結果、キャリアCr2の回転速度と等価な出力軸回転速度Noutが、入力軸回転速度Ninと等しくなり、変速比γ3(≒1)の三速段が構築される。
尚、ECT400を構成する各回転要素のギア比は、得ようとする変速段の変速比に応じて適宜変更される性質のものであり、本発明の本質部分から外れるため、本実施形態においては、その詳細な値については触れないこととする。但し、各変速段の変速比については、上述の如くに例示されており、図2の構成において、各変速段の変速比を実現するための各回転要素のギア比は、自ずと明らかであろう。
また、ECT400を構成する各回転要素は、夫々その回転方向にガタを有する構成となっており、正回転方向又は負回転方向の何れか一方のガタが詰まったガタ詰まり状態において、入力軸600と出力軸700との間のトルク伝達が可能となる構成となっている。
図2に戻り、ハイブリッド駆動装置10は、レゾルバRV1、RV2及びRV3を備える。
レゾルバRV1は、MG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV1は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG1回転速度Nmg1は、ECU100により、適宜参照される構成となっている。
レゾルバRV2は、MG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV2は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG2回転速度Nmg2は、ECU100により、適宜参照される構成となっている。尚、MG2回転速度Nmg2は、既に述べたように、ECT400の入力軸回転速度Ninと等価である。
レゾルバRV3は、出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutを検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV3は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力軸回転速度Noutは、ECU100により、適宜参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
<動力分割機構300による無段変速機能>
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から機関出力軸SFTに供給されるエンジントルクTeを、キャリアCr0によってサンギアSg0及びリングギアRg0に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアRg0の歯数に対するサンギアSg0の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアCr0に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギアSg0に作用するトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるエンジン直達トルクTepは下記(2)式により、夫々表される。
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
ここで、図4を参照し、動力分割機構300による電気的無段変速機能について説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアSg0)、エンジン200(一義的にキャリアCr0)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアRg0)が表されている。
ここで、先に述べたECT400の各差動機構と同様、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素により構成された回転二自由度のプラネタリギアユニットであり、サンギアSg0、キャリアCr0及びリングギアRg0のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。
図4において、駆動軸500及び入力軸600と一義的な回転関係にあるモータジェネレータMG2の動作点が、図示動作点m1であるとする。この場合、モータジェネレータMG1の動作点が図示動作点m2であれば、残余の一回転要素たるキャリアCr0に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m3となる。ここで、例えば、分かり易く駆動軸500の回転速度たる入力軸回転速度Ninが維持された状態でモータジェネレータMG1の動作点を図示動作点m4及び図示動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は、夫々図示動作点m6及び図示動作点m7へと変化する。
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。このように、動力分割機構300は、ハイブリッド駆動装置10において電気的無段変速機能を実現する部分となっている。尚、このような電気的無段変速機能の下では、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度NEとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
<ECT400による変速>
次に、図5を参照し、ECT400による有段変速機能について説明する。ここに、図5は、ハイブリッド駆動装置10の他の動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図5において、左側は図2に例示した動力分割機構300の動作に係る動作共線図であり、右側はECT400の動作に係る動作共線図である。
図5において、動力分割機構300の動作状態が、MG1回転速度Nmg1=0且つMG2回転速度Nmg2=Aに対応する一動作共線L_PG1によって表される状況であるとする。ECT400の変速作用によれば、この動力分割機構300の一動作状態に対し、変速段の数だけ異なる動作共線を描くことができる。
例えば、変速段として1速段が選択されている場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、1速段においては、ワンウェイクラッチF1の作用によってキャリアCr1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、1速段における動作共線は、図示L_ECT1となる。既に述べたように、1速段の変速比γ1は1より大きいから、1速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなる。
また、変速段として2速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、2速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、2速段における動作共線は、図示L_ECT2となる。既に述べたように、2速段の変速比γ2は1より大きくγ1より小さいから、2速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなり、且つ1速段選択時の回転速度よりも高くなる。
また、変速段として3速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、3速段においては、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)もまたリングギアRg0と固定される。従って、3速段における動作共線は、図示L_ECT3となる。即ち、入力軸回転速度Ninは出力回転速度Nouと等しくなり、既に述べたように変速比γ3=1の3速段が構築されるのである。
更に、変速段として4速段が選択された場合、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)とリングギアRg0とが固定されるため、リングギアRg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、4速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、4速段における動作共線は、図示L_ECT4となる。既に述べたように、4速段の変速比γ4は1より小さいから、4速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも高くなり、所謂オーバードライブ状態が実現される。
動力分割機構300の電気的な伝達効率ηeは、MG1回転速度Nmg1=0である場合に最大となる。従って、動力分割機構300は、理想的には、Nmg1=0の状態で駆動されるのが望ましい。ここで、ECT400の作用によれば、上述のように、動力分割機構300の一動作状態に対して、出力軸回転速度Noutを4段階に変化させることができる。従って、ECT400によれば、電気的な伝達効率ηeを最大とし得る動作点でエンジン200を動作させる機会を増やすことが可能となり、ハイブリッド駆動装置10全体としてのシステム伝達効率ηsysを良好に維持することができる。尚、実践的運用面においては、システム伝達効率ηsysは、電気的な伝達効率ηeと機械的伝達効率ηtとの積に相当し、ECT400のように、複数の係合要素を備える構成においては、これらによる機械的伝達効率の低下が、電気的伝達効率の増加によるシステム伝達効率の向上を妨げ得る。従って、ECT400による効果は、比較的大容量のエンジンを動力源として備えるハイブリッド駆動装置において顕著に奏される。
<ガタ詰め制御の詳細>
ハイブリッド車両1では、ECT400がトルク伝達機構として機能することによって、動力分割機構300並びに動力分割機構300に連結されるエンジン200、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2の各動力源を含む動力源側(入力軸600側)と、駆動輪側(出力軸700側)との間でトルク伝達が実現される。この際、トルクフローが切り替わらない限りは、ECT400の各回転要素のガタは、一方のガタ詰まり方向に詰まったままであるが、トルクフローが切り替わると、ガタ詰まり方向が反転するため、ガタ詰まり方向反転後に対応するガタ詰まり状態への移行時点近傍における物理衝撃を緩和するための措置を講じる必要がある。本実施形態では、ECU100により実行されるガタ詰め制御が係る措置に該当する。尚、ガタ詰まり方向の反転は、例えば下記(A)、(B)、(C)及び(D)の場合に発生する。
(A)動力源側の出力トルクが負側から正側に増加した場合(ガタ詰まり方向が負回転方向から正回転方向へ反転する)。
(B)動力源側の出力トルクが正側から負側に増加した場合(ガタ詰まり方向が正回転方向から負回転方向へ反転する)。
(C)駆動輪側の出力トルクが負側から正側に増加した場合(ガタ詰まり方向が正回転方向から負回転方向へ反転する)。
(D)駆動輪側の出力トルクが正側から負側に増加した場合(ガタ詰まり方向が負回転方向から正回転方向へ反転する)。
上記(A)乃至(D)は、いずれもハイブリッド車両1が前進走行をしている場合に生じ得るトルクフローであり、(A)及び(D)は、ECT400に対するトルクの入力要素が駆動輪側から動力源側に切り替わる場合を意味し、(B)及び(C)は、ECT400に対するトルクの入力要素が動力源側から駆動輪側に切り替わる場合を意味する。本実施形態では、(A)及び(D)に該当する場合として、コーストダウン走行中においてアクセルオン操作がなされた場合について説明することとする。
ここで、図6を参照し、ガタ詰め制御の詳細について説明する。ここに、図6は、ガタ詰め制御のフローチャートである。
図6において、ECU100は、ECT400の動作状態を規定するシフト位置が、Dレンジであるか否かを判別する。Dレンジは、ECT400に備わる変速段をECU100側が自動的に切り替えることによって、ドライバ側に変速を意識させないモードであるから、ガタ詰まり時における物理衝撃がドライバビリティに与える影響が相対的に大きくなる。即ち、ガタ詰まり時の衝撃緩和が要求される条件の一つとなる。シフト位置がDレンジでない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、ステップS101を繰り返して実質的に処理を待機状態に制御する。
シフト位置がDレンジである場合(ステップS101:YES)、ECU100は、ハイブリッド車両1がコーストダウン中であるか否かを判別する(ステップS102)。コーストダウンとは、アクセルオフ状態での惰性減速走行であり、駆動輪側からECT400にトルクを入力している走行状態を意味する。コーストダウン中においては、ECT400による変速段の切り替え(即ち、変速)やモータジェネレータMG2からの回生トルクの付与を伴う電力回生(回生制動)等が適宜実行され得るが、ここでは、説明の煩雑化を防ぐ目的からそれらについては触れないこととする。ハイブリッド車両1がコーストダウン中でない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
ハイブリッド車両1がコーストダウン中である場合(ステップS102:YES)、ECU100はアクセル開度センサ13を介して得られるアクセル開度Taを参照し、アクセルオン操作が有るか否かを判別する(ステップS103)。尚、アクセルオン操作とは、必ずしもアクセル開度Taを0(%)よりも大きい値に変化させる操作のみを意味せず、予め適当に定められた基準値を超えるアクセルペダル操作を意味してもよい。本実施形態では、ECT400においてガタ詰まり時の衝撃緩和を顕著に図るべき条件として、アクセル開度をTa=0%から増加側に変化させる操作の全てをアクセルオン操作と定義することとする。アクセルオン操作がない場合(ステップS103:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
アクセルオン操作が発生した場合(ステップS103:YES)、ガタ詰め制御は、相互に並列処理される二系統の処理に分岐する。即ち、ステップS201乃至ステップS207により規定される第1制御と、ステップS301乃至ステップS305により規定される第2制御である。
始めに、第2制御について説明する。
第2制御において、ECU100は、ガタ詰め完了フラグFg1を初期化し、OFF値に設定する(ステップS301)。ガタ詰め完了フラグFg1は、ECT400が、コーストダウン状態に対応する一方のガタ詰まり状態から、ガタ詰まり方向の反転を伴う他方のガタ詰まり状態へ移行したか否かを表すフラグであり、移行が未完了である場合にOFF値に、移行が完了した場合にON値に設定される。
ガタ詰め完了フラグFg1を初期化すると、ECU100は、ガタ詰め処理を開始する(ステップS302)。ガタ詰め処理とは、モータジェネレータMG2のMG2トルクTmg2によって、ECT400を、現在のガタ詰まり状態から、ガタ詰まり方向反転後のガタ詰まり状態へと移行させる過渡的処理を意味する。即ち、ここでは、駆動輪側からの入力トルク(負トルク)によって受動的回転状態にある動力源側にトルクを付与してECT400におけるトルクの入力要素を出力軸700から入力軸600へ切り替える処理を意味する。ガタ詰め処理は、本発明に係る「ガタ詰め制御」の一例である。
ガタ詰め処理が開始されると、ECU100は、ガタ詰まり量gの計測を開始する(ステップS303)。ガタ詰まり量gとは、ガタ詰め処理開始以後に詰められたガタの量であり、初期値をゼロ、且つ最大値を最大ガタ量とする制御量である。尚、ガタ詰まり量gは、詰めるべきガタの残量と一対一に対応する、本発明に係る「ガタの残量」の一例であり、ステップS302に係る動作は、本発明に係る「推定手段」の動作の一例である。
尚、補足すると、ECT400における各回転要素のガタは、予め設計段階で求められており、ROMに固定値として格納されている。厳密には、各回転要素の最大ガタ量は、回転要素毎に異なり得るが、ここでは、ECT400に備わる各回転要素の最大ガタ量は、略等しいものとする。尚、「略等しい」とは、各々の差異が、等しいものとして扱って実践上問題無い旨が予め規定されてなる誤差範囲内であることを意味する。
ガタ詰まり量gを計測するにあたって、ECU100は、レゾルバRV2により計測されるMG2回転速度Nmg2を参照する。より具体的には、ECU100は、MG2回転速度Nmg2を時間積分処理することによって、MG2の回転角変化量を算出し、それらを積算して、ガタ詰め処理開始時点以降の回転角変化量を常時更新する。MG2の回転角変化量は、即ち入力軸600の回転角変化量と等価であり、最終的に、入力軸600と連結されたECT400の各回転要素のガタ詰まり量gと一義的である。このようにMG2によるガタ詰め処理がなされる場合、予め把握される最大ガタ量と、レゾルバにより高精度に検出される回転速度とにより、正確なガタ詰め処理が可能となる。
ECU100は、ガタ詰まり量gの計測を開始すると、計測され更新される最新のガタ詰まり量gと、最大ガタ量との偏差に基づいて、MG2トルクTmg2をフィードバック制御する。この種のフィードバック制御の実践的態様は特に限定されるものではないが、ここでは、P項(比例項)、I項(積分項)及びD項(微分項)をフィードバック制御項として含む公知のPID制御が実行されるものとする。このフィードバック制御により、当該偏差が相対的に小さいガタ詰め終期において、MG2トルクTmg2の勾配は緩やかとなり、ガタ詰まり状態移行完了時における物理衝撃が好適に緩和される。
尚、フィードバック制御の態様は、このようなPID制御に限らず、例えば、P項のみを制御項とするP制御、P項とI項のみを制御項とするPI制御、或いはP項とD項のみを制御項とするPD制御等であってもよい。また、ガタ詰め処理は、このようなフィードバック制御に限らず、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいてガタ詰まり状態移行完了時における物理衝撃の発生を抑制しつつ可及的に迅速にガタ詰め処理が終了し得るように定められたフィードフォワード制御項に基づいてフィードフォワード制御として実行されてもよい。このようなフィードフォワード制御を行う場合、ガタ詰まり量gに応じてMG2トルクの変化率を可変としてもよい。この種のフィードフォワード制御がなされる場合、フィードバック制御と較べてECU100の演算負荷が軽減される。
ガタ詰まり量gの計測が開始されると、ECU100は、最新のガタ詰まり量gが、ガタ詰まり判定値gth以上となったか否かを判別する(ステップS304)。ガタ詰まり判定値gthは、先に述べた最大ガタ量であってもよいが、ここでは最大ガタ量未満、且つ最大ガタ量との偏差が所定値以下となる事前適合値であるとする。
ガタ詰まり量gがガタ詰まり判定値gth未満である場合(ステップS304:NO)、ECU100は、ガタ詰め処理を継続し、ガタ詰まり量gがガタ詰まり判定値gth以上になると(ステップS304:YES)、ECU100はガタ詰め完了フラグFg1をON値に設定する(ステップS305)。ガタ詰め完了フラグFg1がON値に設定されると、第2制御の一制御ループが終了し、処理はステップS101に戻される。
次に、第1制御について説明する。
第1制御において、ECU100は、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上であるか否かを判別する(ステップS201)。エンジン要求出力Pneは、アクセル開度Taの関数であり、本実施形態では、車速V(図示せぬ車速センサにより検出される)とアクセル開度Taとに基づいて取得されるハイブリッド車両1の要求駆動力Ftに基づいて算出される。
エンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上である場合(ステップS201:YES)、ECU100は、エンジン200を始動させる(ステップS202)。また、エンジン始動後は、エンジン出力Peが、エンジン要求出力Pneを制御目標として制御される。
ここで、基準値Pnethは、本発明に係る「基準値」の一例であり、エンジン始動のタイミングを規定する判断指標である。即ち、エンジン要求出力Pneは、ハイブリッド車両1において出力軸トルクToutの応答性に係る必要性の大小を規定する。より具体的には、エンジン要求出力Pneが大きい程、出力軸Toutには応答性が求められる傾向がある。反対に、エンジン要求出力Pneが小さい場合、出力軸トルクToutの応答性よりもガタ詰まり状態移行時の物理衝撃の緩和を優先すべき旨の判断を下し得る。基準値Pnethとは、このように衝撃緩和を応答性に優先させる旨の判断を下すべきものとして定められた適合値である。
尚、本実施形態では、コーストダウン中においてエンジン200が機関停止状態にあるとしたが、例えば、バッテリ12のSOC(State Of Charge:充電状態)が低下している場合や、補機類の要求電力が大きい場合等には、モータジェネレータMG1による発電を行う目的からエンジン200が稼動状態である場合もある。そのような場合には、エンジン始動プロセスはスキップされ、エンジン要求出力Pneへ向けたエンジン出力制御のみが実行される。
ECU100は、エンジン200の始動に係る一連の処理を実行するのと同期して、好適には、エンジン始動後、エンジン要求出力Pnethへ向けた出力上昇措置が講じられるよりも前に、エンジントルク伝達抑制処理を実行する(ステップS203)。エンジントルク伝達抑制処理は、エンジントルクTeのうち動力分割機構300を介してECT400の入力軸600に供給されるエンジン直達トルクTepの、入力軸600への伝達を抑制する処理であり、即ち、本発明に係る「抑制手段」の動作の一例である。
エンジントルク伝達抑制処理において、ECU100は、モータジェネレータMG1の出力トルクであるMG1トルクTmg1をゼロトルク(即ち、本発明に係る「ゼロ相当値」の一例)まで減少させる。先述したように、MG1トルクTmg1は、エンジン200にとっては、エンジントルクTeに反力を与える反力トルクとして作用する。反力トルクが減少すれば、サンギアSg0に供給される、先述したエンジントルクTeの一成分トルクたるトルクTesのうち、この反力トルクと拮抗するトルク(即ち、エンジン直達トルクTepの基礎となるトルク)を除く残余のトルクは、エンジン200及びモータジェネレータMG1の回転上昇に消費されるため、エンジン直達トルクTepが入力軸600に作用することを抑制することができるのである。
エンジントルク伝達抑制処理が実行されると、ECU100は、ガタ詰め完了フラグFg1がON値であるか否かを判別する(ステップS204)。先の第2制御の進行過程において、未だガタ詰め完了フラグFg1がON値に設定されていない場合(ステップS204:NO)、ECU100は、エンジントルク伝達抑制処理を継続して、第2制御におけるガタ詰め処理の進捗を待つ。ガタ詰め処理によりECT400が反転後のガタ詰まり方向に対応するガタ詰まり状態へ移行し、ガタ詰め完了フラグFg1がON値に設定されると(ステップS204:YES)、ECU100は、通常処理を実行する(ステップS207)。尚、通常処理とは、ECT400の出力軸トルクToutを、エンジン直達トルクTepとモータジェネレータMG2によるMG2トルクTmg2とによって協調的に負担する処理であり、動力分割機構300による電気的CVT機能を利用した走行制御処理である。ステップS207が実行されると、処理はステップS101に戻される。
一方、ステップS201において、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth未満である場合(ステップS201:NO)、即ち、先述したように、ガタ詰まり状態移行時における物理衝撃の緩和を応答性に優先すべき旨の判断が成立する場合、ECU100は、エンジン200の機関停止状態を維持し、ガタ詰め完了フラグFg1がON値に変化したか否かを判別する(ステップS205)。ガタ詰め完了フラグFg1がOFF値であるうちは(ステップS205:NO)、ECU100は、処理を待機し、ガタ詰め完了フラグFg1がON値に変化した場合に(ステップS205:YES)、エンジン200を始動させる(ステップS206)。エンジン始動は、処理はステップS207に移行される。
尚、ステップS201に係る分岐について補足すると、エンジン200は、低出力側の動作領域において高出力側の動作領域よりもトルクの安定性が低下する傾向がある。従って、低出力側の動作領域においてエンジン直達トルクTepをガタ詰め処理に供すべきトルクの一部として利用すると、入力軸600のトルクが不安定になり、ガタ詰め処理が前提とする入力軸トルクTinの可制御性が担保され難くなる。入力軸トルクTinの可制御性の低下は、ガタ詰まり量gの推定精度を低下させることともあいまって、ガタ詰まり状態移行時における物理衝撃を増大させる懸念を増殖させる。エンジントルク伝達抑制処理は、エンジン200と入力軸600との物理的な結合を解消する処理ではないから、エンジン200のトルク変動が大きくなれば、少なからず入力軸トルクTinの変動を招き得る。従って、要求出力Pneが基準値Pneth未満である低要求出力領域においては、ECT400がガタ詰まり状態に移行した後にエンジン200を始動させる方が基本的に望ましいのである。
尚、ここでは、エンジン200が機関停止状態にあり、ガタ詰まり後にエンジン200を始動させるものとされたが、エンジン200が燃料カット状態やアイドリング状態(アイドリング回転速度で維持される状態)にある場合等においても、ガタ詰まり前の期間においてはその状態を維持し、ガタ詰まり後にエンジン200の状態を要求状態に移行させる等、基本的に同様の制御が適用可能であることは言うまでもない。
ガタ詰め制御は以上のように実行される。ここで更に、図面を参照し、ガタ詰め制御の効果を視覚的に説明する。始めに、図7を参照し、ステップS302に係るガタ詰め処理の効果について説明する。ここに、図7は、ガタ詰め制御の実行期間におけるハイブリッド駆動装置10の各部の状態の一時間推移を例示する図である。尚、同図において、従前の各図及びそれに付随する明細書の記載と重複する箇所については、同一の符号或いは記号を付してその説明を適宜省略することとする。尚、図7は、ガタ詰め制御におけるステップS302のガタ詰め処理の効果を説明するためのものであり、便宜的にエンジン200の動作状態については触れないこととする。
図7において、上段から順に、アクセル開度Ta、入力軸トルクTin、出力軸トルクTout、MG2回転速度Nmg2及び出力軸回転速度Nout、並びにガタ詰まり量gの各々について、ガタ詰め制御実行期間における時間推移が例示される。
即ち、時刻T1以前の時間領域において、ハイブリッド車両1はコーストダウン中であり、駆動輪から出力軸700を介して入力される入力トルクによって、ECT400の各回転要素、入力軸600及び動力分割機構300は夫々受動回転状態にあるとする。この場合、ECT400の入力軸トルクTin及び出力軸トルクToutは、外界からの入力トルクによって負トルク状態(Tin<0)にある(但し、出力軸700と入力軸600との関係で見れば、出力軸700が入力軸600を回転駆動している状態であるから、上記(D)の場合に相当する)。
ここで、時刻T1において、アクセル開度Taが0(%)から上昇し、基準値Tath以上となるアクセルオン操作が発生したとする(図示、L_Ta(実線)参照)。尚、アクセル開度Taは、図6の説明におけるエンジン要求出力Pneに相当する値であり、基準値Tathは、同様に基準値Pnethに相当する値であるとする。
一方、このようなアクセルオン操作の発生に伴い、時刻T1において先述したガタ詰め処理が開始され、MG2トルクTmg2の力行制御が開始される。エンジン200が非稼動停止状態にあれば、MG2トルクTmg2は、入力軸トルクTinと等しいから、入力軸トルクTinは、図示L_Tin(実線参照)に示されるように、時刻T1において上昇を開始する。
時刻T2において、出力軸トルクToutがゼロトルクまで上昇すると(図示L_Tout(実線)参照)、駆動輪側から負回転方向に作用する入力トルクと、入力軸600側から入力されECT400の回転要素に正回転方向に作用するトルクとが相殺し、回転要素は無負荷状態となる。この時刻T2以降の時間領域では、モータジェネレータMG2の回転角が変化した分だけ回転要素のガタが詰まることになる。即ち、時刻T2においてガタ詰まり量gの計測が開始される。
ガタ詰まり量gは、時刻T2以降、上述したPID制御(フィードバック制御)の作用により、安定して増加し、時刻T3において最大ガタ量に達して(図示L_g(実線)参照)、ECT400はガタ詰まり状態に移行する。ここで、ガタ詰まり量gが増加して最大ガタ量との偏差が小さくなるに連れて、PID制御の影響により入力軸トルクTinの傾きは緩やかとなる。即ち、ガタ詰め終期過程における入力軸トルクTinの変化が緩慢となる。その結果、MG2回転速度Nmg2の出力軸換算値(図示L_Nmg2(実線)参照)もまた、ガタ詰め終期過程において変化が緩慢となり、ECT400の出力軸回転速度Noutの変動も抑制される(図示L_Nout(実線)参照)。
ここで、このようなフィードバック制御を施さない場合(以下、適宜「比較例」とする)を図中破線又は鎖線で例示すると、ガタ詰まり開始以降、入力軸トルクTinが殆ど単調増加することから、MG2回転速度Nmg2の出力軸換算値も、実施形態に係るL_Nmg2と較べて時間変化率が大きいものとなる(鎖線参照)。その結果、ガタ詰まり量gの最大ガタ量への到達は早まり、時刻T3以前の時刻T3’において、ECT400はガタ詰まり状態へ移行する。
ところが、このように入力軸トルクTinの緩和措置を講じない場合、ECT400の回転要素における、ガタ詰まり状態移行時の回転速度は、実施形態と較べて高速となる。このため、ガタ詰まり状態移行時点以後、相応の期間にわたって、出力軸トルクToutが乱高下する。即ち、出力軸700のトルク変動が顕在化する。この出力軸700のトルク変動は、そのまま出力軸700の回転変動となり(破線参照)、ドライバビリティが低下してしまう。
本実施形態によれば、ガタ詰まり量g(一義的に、ガタの残量)に応じて入力軸トルクTin(MG2トルクTmg2)が制御されるため、このガタ詰まり状態移行時点近傍における同期ショックが未然に防がれ、ガタ詰まり方向反転時におけるドライバビリティの低下が好適に抑制されるのである。
尚、ECT400がガタ詰まり状態に移行した後は、入力軸トルクTinが、時間フィルタ処理等のなまし処理を経て速やかにベーストルク(即ち、比較例に係る入力軸トルクTin)に収束せしめられる。このため、出力軸トルクToutの応答性が顕著に低下することはない。
次に、図8及び図9を参照し、図6のステップS203に係るエンジントルク伝達抑制処理の効果について説明する。ここに、図8は、ガタ詰め制御の実行期間におけるハイブリッド駆動装置10の各部の状態の他の時間推移を例示する図であり、図9は、ガタ詰め制御の実行期間におけるハイブリッド駆動装置10の各部の状態の更に他の時間推移を例示する図である。尚、これら各図において図7と重複する箇所及びこれら各図相互間で重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
尚、図8は、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上である場合に対応しており、図9は、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth未満である場合に対応している。
図8において、上段から順に、アクセル開度Ta、動力源トルク(入力軸トルクTin、MG1トルクTmg1、MG2トルクTmg2及びエンジン直達トルクTep)、出力軸トルクTout、MG2回転速度Nmg2及び出力軸回転速度Nout、ガタ詰まり量g並びにエンジン出力Peの各々について、ガタ詰め制御実行期間における時間推移が例示される。
図8において、時刻T1にエンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上となるアクセルオン操作が発生すると、ECU100は、図示L_Pe(実線参照)に示されるように、エンジン出力Peを要求出力Pneまで速やかに上昇させる。
一方、このエンジン出力Peの上昇制御に同期する形でエンジントルク伝達抑制処理が実行されるため、エンジントルクTeの反力トルクを負担するMG1トルクTmg1は、ECT400がガタ詰まり状態に移行する時刻T3までゼロトルクに維持される(図示L_Tmg1(実線)参照)。このように反力トルクがゼロトルクであるため、エンジン直達トルクTepもまた、時刻T3までゼロトルクに維持される。即ち、時刻T3まで、入力軸トルクTin(図示L_Tin(鎖線)参照)とMG2トルクTmg2(図示L_Tmg2(実線)参照)とは一致し、制御性の高いMG2トルクTmg2を利用した好適なガタ詰め処理が遂行される。
ここで、エンジントルク伝達抑制処理は、差動機構としての動力分割機構300の差動作用を利用して、エンジン200を稼動状態に維持しつつそのトルク伝達を抑制(ここでは遮断)する処理である。従って、時刻T3においてECT400がガタ詰まり状態に移行した場合に、反力トルクとしてのMG1トルクを上昇(負トルクであるから厳密には減少)させることによって、迅速にエンジン直達トルクTepを入力軸600に作用させることができる。入力軸600にエンジン直達トルクTepが作用し始めると、エンジン直達トルクTepの分だけ入力軸トルクTinは上昇する。
このように、トルク伝達抑制処理によれば、図6及び図7で説明したガタ詰め処理の効果によって物理衝撃を十分に抑制しつつECT400のガタ詰まり方向を反転させつつ、ガタ詰まり状態への移行後に迅速に入力軸600のトルクを上昇させることができる。従って、ガタ詰まり方向をショックレスに反転させつつ、出力軸トルクToutの応答性を確保することが可能となるのである。
一方、図7と同様に比較例を破線として例示する。図8における比較例とは、出力軸トルクToutの応答性を確保するために、ガタ詰まり状態移行時点以前の時刻T3’’においてMG1トルクTmg1によるエンジン直達トルクTepの制御を開始した場合の時間推移である。
即ち、比較例によれば、時刻T3’’においてエンジン直達トルクTepが入力軸600に作用し始めるため、このエンジン直達トルクTepが、ガタ詰め処理に使用されることになる。このため、MG2トルクは、このエンジン直達トルクTepの分だけ減じられる(図示L_Tmg2’(破線)参照)。
ここで特に、エンジン直達トルクTepとMG2トルクとが一対一に対応すれば、ガタ詰まり量gの制御は、図7の場合と同様に良好に推移するが、実際には、エンジントルクTeをMG2トルクTmg2と同様の制御精度で制御することは不可能に近い。従って、ガタ詰め処理に供されるエンジン直達トルクTepの割合が大きい程、入力軸トルクTinの変動は大きくなる。その結果、出力軸トルクToutは、図示破線に例示される通り大きく変動してしまうのである。
次に、図9を参照し、エンジン要求トルクPneが基準値Pneth未満である場合について説明する。
図9において、図示L_Ta(実線参照)に例示されるように、時刻T1において、基準値Pneth未満のエンジン要求出力Pneに対応するアクセルオン操作が発生した場合、エンジン200は、ECT400がガタ詰まり状態へ移行した時刻T3において始動される(図示L_Pe(実線)参照)。
エンジン要求出力Pneが基準値Pneth未満である場合、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上である場合と較べると、エンジントルクTeのばらつきが大きくなり易い。一方で、このような場合、出力軸トルクToutに求められる応答性は、逆にエンジン要求出力Pneが基準値Pneth以上である場合よりも低くなる。従って、このような場合には、ガタ詰まり状態移行後にエンジン200を始動させたとしても応答性が低下することはなく、一方で、エンジントルクTeのばらつきがガタ詰め処理に与える影響を緩和することができるのである。エンジントルク伝達抑制処理は、エンジン200を入力軸600から物理的に切り離す処理ではないから、エンジントルクTeのばらつきが大きい場合には、入力軸600のトルク変動を完全に抑制することが難しい場合があるが、このようにエンジン200の始動自体を遅らせてしまえば、元より起振源が存在しなくなるから、ガタ詰まり方向をショックレスに反転させるためには好適となるのである。
尚、先述したように、このようなガタ詰まり状態移行後にエンジン出力Peをエンジン要求出力Pneに対応するトルク値まで上昇させる等の措置を講じることの効果は、エンジン200が燃料カット状態やアイドリング状態にある場合等においても同様に得ることができる。
尚、本実施形態では、エンジン要求出力Pneが基準値Pneth未満である場合について、このようなエンジン始動の遅延措置を講じたが、同様の措置は、エンジン要求出力Pneと一義的なアクセル開度Taの時間変化率が小さい場合に講じられてもよい。
<第2実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図10を参照し、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成について説明する。ここに、図10は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図10において、ハイブリッド駆動装置20は、モータジェネレータMG2と入力軸600との間に、MG2回転速度Nmg2を二段階に減速することが可能なMG2リダクション機構800を備える構成となっている。
MG2リダクション機構800は、湿式多板係合装置としてのブレーキ機構801及び802と、これらブレーキ機構に夫々連結された回転要素を含む差動機構803から構成される。MG2リダクション機構800は、ブレーキ機構としてブレーキ機構801が選択された場合とブレーキ機構802が選択された場合とで、MG2回転速度Nmg2の減速比が異なる構成を有しており、ECT400による変速に加え、MG2をその時点でより効率的な動作領域で動作させることが可能となっている。このような構成においても無論、上述の変速制御を適用することが可能である。
<第3実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図11を参照し、本発明の第3実施形態にハイブリッド駆動装置30の構成について説明する。ここに、図11は、ハイブリッド駆動装置30の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図11において、ハイブリッド駆動装置30は、無段変速部1000と有段変速部1100を有する。無段変速部1000は、ハイブリッド駆動装置10における動力分割機構300と概念的には同等のプラネタリギアユニットと、MG2回転速度Nmg2を減速する減速ギアとからなり、動力分割機構300と同様に回転二自由度の差動機構として機能する。
一方、有段変速部1100は、クラッチC1、C2、C3及びC4と二組の差動機構からなり、これらの係合状態に応じて複数の変速段を実現する構成となっている。
ここで、ハイブリッド駆動装置30によれば、この有段変速部1100の機能により、駆動要素と反力要素とを切り替えることが可能である。例えば、クラッチC1を締結状態とし、クラッチC2を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600aとなり、上記実施形態と同様に、MG2が駆動要素(出力軸700との間でトルクの入出力を行う要素)となり、MG1が反力要素となる。その逆に、クラッチC2を締結状態とし、クラッチC1を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600bとなり、上記実施形態とは異なり、MG1が駆動要素となり、MG2が反力要素となる。このように、変速部の係合状態によって、駆動要素と反力要素とを選択的に切り替えつつ走行可能なハイブリッド車両に対しても本発明は適用可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。