アクセルペダルの全閉操作或いはそれに類する操作を伴う惰性減速がなされる期間としてのコーストダウン期間においては、車両が減速するのに伴って、変速比(尚、この場合の変速比とは、入力側の回転速度/出力側の回転速度を意味する)が大きくなる側への変速段の切り替え(尚、変速段の切り替えを、これ以降、適宜「変速」と称することとする)、即ち、コーストダウン変速が生じ得る。
一方、このコーストダウン変速の進捗の有無と、ドライバの意思とは必ずしもリンクしないから、コーストダウン変速がなされる期間としてのコーストダウン変速期間において、主としてドライバの操作等によるアクセルオン操作が生じる可能性は低くない。アクセルオン操作は、車両の駆動力要求に相当する操作であるから、アクセルオン操作が生じた場合、アクセルオン操作に係る操作量(端的には、アクセル開度相当値)の大小に対応する大小の差異はあっても、基本的に変速装置の入力トルクは増大側に制御される。
ところで、このようなアクセルオン操作の発生に伴う変速装置の入力トルクの増加は、変速装置の入力回転速度の上昇を招く。
ここで特に、コーストダウン変速期間においては、その時点の変速装置の出力回転速度と変速後の変速段とによって、入力回転速度の目標値は決まっており、このような入力回転速度の上昇が無秩序に発生すると、入力回転速度が目標回転速度に同期するに際して、無視出来ない同期ショックが発生し得る。このような同期ショックは、出力軸の過渡的なトルク変動に繋がり、ドライバビリティを低下させる要因となる。
翻って、特許文献1に開示される装置では、このようなコーストダウン変速期間におけるアクセルオン操作に関する記述はなく、またそれが生じた場合に起こり得る上述した問題点に関する示唆もない。従って、特許文献1に開示される装置では、コーストダウン変速期間にアクセルオン操作が生じた場合に、出力軸のトルク変動が生じる可能性が排除され難い。即ち、特許文献1に開示される装置には、コーストダウン変速期間にアクセルオン操作が生じた場合に、ドライバビリティが低下しかねないという技術的問題点がある。
翻って、特許文献2に開示される装置においては、コーストダウン中にアクセル操作が生じた場合について言及されるものの、変速装置の入力トルクはエンジンから与えられるエンジントルクであって、回転電機により変速装置の入力トルクを制御する車両構成に適用することはできない。また、例えばモータジェネレータ等の回転電機と較べると、内燃機関は、回転速度及びトルクの双方において、その制御精度が著しく低い。従って、補足すれば、特許文献2に開示される装置では、変速装置の出力トルクの変動を十分に抑制することが難しい。或いは、この種の変動を十分に抑制しようとすれば、トルク又は回転速度の変化を大きく制限するよりなく、駆動力の低下と変速期間の長大化とが同時に顕在化する結果を招き易い。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、コーストダウン変速期間においてアクセルオン操作が生じた場合に生じ得る出力軸のトルク変動を抑制可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、入力軸に対しトルクを供給可能な回転電機と、前記入力軸と車軸に連結された出力軸との間に複数の係合装置を備えて設置され、前記入力軸と前記出力軸との間でトルクを伝達すると共に、前記複数の係合装置の各々の係合状態に応じて前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比たる変速比が相互に異なる複数の変速段を構築可能な変速装置とを備えた車両を制御する車両の制御装置であって、アクセル操作を検出可能な検出手段と、前記車両のコーストダウン変速期間において前記アクセル操作としてアクセルオン操作が検出された場合に、前記入力軸の実回転速度と前記入力軸の目標回転速度との差に基づいて前記入力軸のトルクを制御する制御手段とを具備し、前記制御手段による前記入力軸のトルクの制御は、前記入力軸の実回転速度と前記入力軸の目標回転速度との差に基づく前記回転電機を介した前記入力軸のトルクのフィードバック制御を少なくとも含み、前記制御手段は、前記コーストダウン変速期間における前記変速段の切り替えパターンに応じて変化する前記アクセルオン操作に伴う前記回転電機のトルクの変化量の大小に応じて、前記フィードバック制御に係るフィードバックゲインを夫々大小に変化させることを特徴とする。
本発明に係る変速装置は、入力軸と出力軸との間のトルク伝達経路に、複数の係合装置(例えば、油圧係合湿式多板型のクラッチ機構やブレーキ機構等)を備えて設置された、例えば、各種ECT(Electronic Controlled Transmission:電子制御式変速装置)等の実践的態様を採り得る装置である。変速装置は、これら複数対の係合装置の各々の係合状態に応じて、変速比を複数段階に或いは連続的に変化させることが可能である。
本発明に係る回転電機とは、例えばモータ等、変速装置の入力軸に対しトルクを供給可能な状態としての力行状態を少なくとも採り得る電気駆動型の回転機であり、好適な一形態として、このような力行状態に加えて入力軸からのトルク入力により発電を行う状態としての回生状態を採り得る所謂モータジェネレータ等を意味する。
本発明に係る車両は、これら変速装置及び回転電機を備える限りにおいて、その実践的態様は多様である。例えば、本発明に係る車両は、その動力源として、上記回転電機としてのモータ或いはモータジェネレータのみを動力源として備える所謂EV(Electric Vehicle:電気自動車)であってもよいし、上記回転電機に加えて他の動力源(例えば、内燃機関)を備えたHV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車両)であってもよい。また、車両が、内燃機関と上記回転電機を含む複数の回転電機とを備えたハイブリッド車両として構成される場合、上記回転電機と異なる他の回転電機から内燃機関に反力を与えるための差動機構を備えていてもよい。この場合、この差動機構が一種の電気的CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速装置)として機能するように構成されていてもよい。
本発明に係る車両の制御装置は、このような車両を制御するための、検出手段と制御手段とを備える装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、ECU(Electronic Controlled Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等の実践的態様を採り得る。尚、これらには必要に応じて更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が内蔵又は付帯されていてもよい。
本発明に係る車両の制御装置において、検出手段は、車両におけるアクセル操作を検出可能に構成される。
ここで、本発明に係る「アクセル操作」とは、車両の要求駆動力と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応付けられた操作であり、端的な一例としては、アクセルペダルの操作を意味する。検出手段に係るアクセル操作の検出は、直接的になされても(即ち、一次的な検出がなされても)、間接的になされても(即ち、二次的な検出がなされても)よい。尚、直接的な検出とは、例えば、アクセルペダルのストローク量の検出等を意味し、検出手段の実践的態様として、例えば、アクセル開度センサ等の形態を採ることを意味する。また、間接的な検出とは、アクセル開度と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応するアクセル開度相当値を各種信号、情報又はデータ等として各種伝達経路(制御バス等)を介して取得すること、或いはこのように取得された信号、情報又はデータ等に基づいて、演算処理を伴う推定又はマップ等を介した数値選択を行うこと等を意味する。
本発明に係る車両の制御装置において、制御手段は、車両のコーストダウン変速期間においてアクセルオン操作が検出された場合に、変速装置の出力軸のトルク変動を抑制するためのショック緩和制御を実行可能に構成される。
コーストダウン変速期間とは、上述したように、アクセルオフ相当の操作を伴う車両の惰性減速期間としてのコーストダウン期間であって、且つ例えば予め設定された変速条件(例えば、車速及び出力軸のトルク(以下、適宜「出力軸トルク」と称する)等に対応付けられる)が満たされること等により生じる変速要求に伴って変速がなされる期間である。尚、コーストダウン期間における変速とは、実質的には変速比が大きくなる側の所謂ダウンシフトを意味する。
アクセルオン操作とは、上述アクセル操作の一種であり、車両の要求駆動力が少なくともゼロでないことを意味する操作である。アクセルオン操作の実践的態様は、好適には、アクセルペダルの操作量がゼロより大きい又は不感帯領域の境界値よりも大きいことを意味するが、必ずしもこれらに限定されることはなく、例えば、出力軸のトルク変動が実践上無視出来ない程度に生じ得るものとして規定された値以上のアクセルペダルの操作がなされたことを意味してもよい。
ここで、アクセルオン操作に伴って入力軸のトルク(以下、適宜「入力軸トルク」と称する)を増大させる場合、出力軸のトルク変動が招くドライバビリティの低下を抑制する措置を講じる必要がある。即ち、入力軸トルクの増大は、入力軸の回転速度(以下、適宜「入力軸回転速度」と称する)を招くが、変速前後で出力軸のトルク変動が実践上無視し得る程度の小さいレベルに抑制されたショックレスな変速を実現するためには、入力軸回転速度を目標入力軸回転速度に円滑に移行させる必要がある。
一方、目標入力軸回転速度とは、即ち、変速後の変速段に対応する同期回転速度であり、その時点の出力軸の回転速度と変速後の変速段に対応する変速比とによって一義に規定される値である。従って、入力軸トルクを無秩序に或いは要求トルクのみを勘案して増大させ、入力軸回転速度の無秩序な(少なくとも回転速度の観点から言って無秩序な)上昇を招いてしまえば、必然的に同期回転速度への到達前後における同期ショックを回避することは難しくなる。また、入力軸トルクの増加量に時間的な制約を設けて一種のなまし処理を施せば、変速期間は長くなり、出力軸へのトルク伝達が遅れて動力性能に影響する。
ここで特に、アクセルオン操作に伴う出力軸のトルク変動が、変速完了前後において顕著に生じる点に鑑みると、例えば、目標回転速度への入力軸回転速度の到達の度合い等に基づいて規定される変速終期に相当する期間において、入力軸トルクの制御精度を上昇させることは有効な手立てとなり得る。ところが、出願人が長きにわたって当該分野の研究を継続した結果として得られた知見としては、アクセルオン操作の発生タイミング及びアクセルオン操作に係る操作量が夫々殆ど同一であっても、動力源側のトルク推移に影響される入力軸トルクの時間推移の微妙な差によって、同期ショックの度合いは大きく異なり得る。従って、事前に如何なる適合をなそうとも、フィードフォワード制御(以下、適宜「FF制御」によって出力軸のトルク変動を抑制する旨の技術思想には限界がある。
そこで、本発明に係る制御手段は、入力軸の実回転速度と目標回転速度との差に基づいて入力軸トルクを制御する構成となっている。
実回転速度と目標回転速度との差(回転速度偏差)は、実際の変速の進捗度合いを規定する実現象相当値であるから、一方で変速の進捗を無用に遅らせることなく、他方で同期ショックを確実に回避するための指標値として有効である。このため、制御手段は、コーストダウン変速期間においてアクセルオン操作が生じた場合であっても、変速の進捗に影響を与えることなく、同期ショックに起因する出力軸のトルク変動を好適に抑制することが可能となるのである。
尚、このような回転速度偏差に基づいた入力軸トルクの制御は、入力軸トルクの制御精度が十分に担保されない装置構成においては実践上十分に機能し難い。従って、入力軸トルクを与える動力源が、トルクの制御精度が比較的低い、例えば内燃機関である場合等には、この種の制御は必ずしも有効でない場合がある。即ち、EVであれHVであれ、少なくとも入力軸に回転電機が連結された構成を想定しない限り、この種の変速期間にアクセルオン操作が生じた場合における同期ショックの緩和に、制御負荷の大きい回転速度偏差に基づいた制御を用いる旨の技術思想には想達し得ない。
即ち、トルクの制御精度が内燃機関よりも高い、また相対的にみてもトルクの制御精度が高い、モータ或いはモータジェネレータ等の回転電機を用いることによって、この種の同期ショックの緩和をなすにあたって回転速度偏差に基づいた制御を有効に機能させ得る点において、本発明は、旧来の如何なる技術思想に対しても進歩的である。
ここで、本発明に係る車両の制御装置において、制御手段による入力軸のトルクの制御は、入力軸の実回転速度と入力軸の目標回転速度との差に基づく、回転電機を介した入力軸のトルクのフィードバック制御を少なくとも含む。
即ち、本発明によれば、制御手段による、入力軸の実回転速度と目標回転速度との差に基づいた入力軸のトルク制御に、回転電機を介した入力軸トルクのフィードバック制御(以下、適宜「FB制御」と称する)が少なくとも含まれる。従って、入力軸トルクを効率的且つ効果的に制御することが可能である。
このFB制御は、入力軸の実回転速度と目標回転速度との差に基づいた所謂回転速度FB制御として構築されるが、その詳細な構築態様は、各種存在し得る。例えば、速度偏差及び比例ゲインから導かれる比例項(P項)、速度偏差の時間積分値及び積分ゲインから導かれる積分項(I項)並びに速度偏差の時間微分値及び微分ゲインから導かれる微分項(D項)を含む、所謂PID制御として構築されていてもよいし、これらの一部を含む制御であってもよい。
また、本発明に係る車両の制御装置において、制御手段は、コーストダウン変速期間における変速段の切り替えパターンに応じて変化するアクセルオン操作に伴う回転電機のトルクの変化量の大小に応じて、フィードバック制御に係るフィードバックゲインを夫々大小に変化させる。
コーストダウン変速期間における、アクセルオン操作発生に伴って回転電機に要求されるトルクの変化量は一律ではなく、変速段の切り替えパターンに応じて適宜変化し得る。例えば、車両のコーストダウン時に、回転電機からの回生トルク(負トルク)の供給による電力回生(以下、適宜「回生」と称する)が伴う場合と、伴わない場合とでは、係るトルクの変化量が変化し得る。
例えば、回生が伴うコーストダウン変速期間においては、回生効率を可及的に担保する観点から、無論全てではないにせよ、変速装置の入力軸回転速度を変速装置に備わる係合装置の係合油圧によって上昇させる場合が多い。このように係合装置の係合油圧を使用する場合、アクセルオン操作発生時に回転電機に要求されるトルクは、この係合油圧に比例する係合トルクによって小さくなる傾向がある。反対に、回生が伴わないコーストダウン変速期間においては、変速装置の係合装置に係合トルクを殆ど生じさせることなく、回転電機のトルクをこの係合トルクに代替させることがあり、当然ながらこのような場合に回転電機に要求されるトルクは、比較的大きいものとなり易い。
ここで、FB制御に係るフィードバックゲイン(以下、適宜「FBゲイン」と称する)が、この種の変速パターンに対し一律である場合、例えば上記回生がなされる場合においては入力軸トルクの変動が大きくなって入力軸回転速度の変動が大きくなり同期ショックを生じる遠因となり、上記回生がなされない場合においては変速期間の長大化を招く可能性がある。
本発明によれば、制御手段が、このアクセルオン操作発生時の要求トルクに対応付けられた変速装置の各種変速パターンに応じて、FB制御に係るFBゲインを適宜に変化させる。より具体的には、回転電機のトルクの変化量の大小が、FBゲインの大小に夫々対応するようにFB制御を実行する。従って、多様な変速パターンに応じて最適なFBゲインを得ることが可能となり、出力軸のトルク変動を抑制しつつ良好な変速応答性を獲得することが可能となる。
ところで、このようなコースト時の回生の要否を規定する要件は、例えば車両の要求性能又は仕様若しくは仕向け等に応じて最適化される性質のもので、特に限定されるものでない。例えば、ドライバの制動操作(端的には、ブレーキペダルの操作)に係る操作量の大小と、その回生トルクとが一対一、一対多、多対一又は多対多に対応付けられてもよいし、特定の変速段(例えば、最も変速比の大きい前進用変速段等)へのダウンシフト時に禁止されてもよい。
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記制御手段は、前記コーストダウン変速期間における前記アクセルオン操作の時期によって、前記フィードバック制御に係るフィードバックゲインの大きさを変化させる。
コーストダウン変速期間における変速の進捗とアクセルオン操作の時期(尚、アクセルオン操作の検出時期を一例として含み得る)とは、本来的には無関係であるが、その一方で、コーストダウン変速期間におけるアクセルオン操作の時期が変速装置の入力軸トルクに与える影響は、一律でない場合が多い。
例えば、変速装置における、解放側の係合装置から締結側の係合装置へのトルク移譲(端的にはトルク相である)が進行する過程において、実際に入力軸回転速度の変化が生じる期間としてのイナーシャ相が開始される以前においては、解放側の係合装置の係合油圧(ドレイン油圧とも称する)が未だ無視出来ぬ程度に残存している。このような時点でアクセルオン操作が発生し、回転電機による入力軸トルクの上昇が始まると、ドレイン油圧が十分に低下していないことに起因して、出力軸トルクの急上昇を生じ易い。
一方で、イナーシャ相においてアクセルオン操作が発生した場合には、上述したような入力軸トルクの急上昇は発生し難いため、入力軸トルクの急上昇を防ぐべくFBゲインを小さく設定していると、必要以上に変速応答性を悪化する可能性がある。
この態様によれば、制御手段が、アクセルオン操作の時期によって、FBゲインの大きさを変化させるため、出力軸のトルクの変動を抑制しつつ良好な変速応答性を獲得することが可能となる。
尚、この態様では、前記制御手段は、前記時期が前記コーストダウン変速期間におけるイナーシャ相前である場合に、前記時期が前記イナーシャ相中である場合と較べて前記フィードバックゲインを小さくしてもよい。
このようにすれば、上述したように、出力軸のトルク変動を招き得る入力軸トルクの急変化を防止することが可能となる。
また、この態様では、前記制御手段は、前記時期が前記コーストダウン変速期間におけるイナーシャ相中である場合に、前記時期が前記イナーシャ相前である場合と較べて前記フィードバックゲインを大きくしてもよい。
このようにすれば、上述したように、良好な変速応答性を確保することが可能となる。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記制御手段による前記入力軸のトルクの制御は、フィードフォワード項に基づいた前記入力軸のトルクのフィードフォワード制御を含み、前記制御手段は、前記複数の係合装置の係合状態を規定する作動油の油温の高低に応じて、前記フィードフォワード項を夫々小大に変化させる。
本発明に係る制御手段による入力軸トルクの制御は、上述した回転速度偏差に基づいた制御を含むが、必ずしも当該制御のみにより構築される必要はない。例えば、オープンループ制御としてのフィードフォワード制御(以下、適宜「FF制御」と称する)が含まれる場合、変速期間を短縮化することが可能となり有益である。FF制御は、実際の入力軸トルクの変化に応じた、入力軸トルクの精細な増減制御には不向きであるものの、一方で、変速装置の実運用上発生する各種の外乱要素の補正に対しては有効である場合がある。
ここで、本発明に係る変速装置に備わる係合装置が、例えばATF(Automatic Transmission Fluid)等、各種の作動油の油圧が利用した油圧駆動型の係合装置として構成される場合、入力軸と出力軸との間のトルク伝達経路には、この作動油の流体抵抗に起因する引き摺り損失が発生する。
ここで特に、この引き摺り損失は、作動油の油温が高ければ小さく、また低ければ大きくなるから、実践的運用面において、回転速度偏差に基づいた入力軸トルクの制御に影響を及ぼす。従って、この種の油温に対する措置が何ら講じられない場合、コーストダウン変速期間における変速応答性が、この作動油の油温に応じて変化してしまい、安定した変速応答性を得ることが難しくなる。
この態様によれば、制御手段が、FF制御に係るフィードフォワード項(以下、適宜「FF項」と称する)を、作動油の油温の高低に応じて夫々小大に変化させる。従って、外乱要素としての作動油の油温の変化は、このFF項に基づいたFF制御によって相殺され、回転速度偏差に基づいた制御へ影響を及ぼす事態が回避される。例えば、上述したFB制御に係るFBゲインを当該油温に応じて一律とした場合等においても、常時安定した変速応答性を獲得することが可能となるのである。
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両は、内燃機関と、前記内燃機関に反力トルクを付与可能な反力要素としての前記回転電機とは異なる他の回転電機と、前記内燃機関、前記回転電機及び前記他の回転電機に夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備え、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との比を無段階に変化させることが可能な差動機構とを具備する。
この態様によれば、車両は、所謂ハイブリッド車両を構成することとなり、差動機構による無段変速機能により、内燃機関を、例えば燃料消費率が最小となる最適燃費動作線に沿って駆動すること等が可能となるため、車両全体のエネルギ効率が良好に担保され得る。
尚、無段変速機能に係る「回転電機の回転速度」とは、変速装置の入力回転速度と一義的であるが、変速装置の入力軸と回転電機の出力軸とが直結されている必要はなく、両者の間に回転電機の回転速度を適宜減速可能な減速機構が介在していてもよい。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、ブレーキペダルセンサ15、シフト位置センサ16、SOCセンサ17及び制動装置18並びにハイブリッド駆動装置10を備えた、本発明に係る「車両」の一例たるハイブリッド車両である。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するショック緩和制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「検出手段」及び「制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する、ハイブリッド車両1のパワートレインユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。尚、各車軸は、最終減速機構としてのデファレンシャルD/Gを介してハイブリッド駆動装置10の動力出力軸である出力軸700に連結されている。
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
バッテリ12は、複数のリチウムイオン電池セルを直列接続した構成を有し、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な電池ユニットである。尚、バッテリ12は、本発明に係る回転電機に対し電力を供給可能な蓄電手段の一例に過ぎず、例えば、ハイブリッド車両1は、バッテリ12に代えて、ニッケル水素電池を構成要素とする電池ユニットを搭載していてもよい。或いは、例えば電気二重層キャパシタ等の各種キャパシタ装置を搭載していてもよい。
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vhを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vhは、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
ブレーキペダルセンサ15は、ハイブリッド車両1の各車輪に対し個別に制動力を付与可能なECB(Electronic Controlled Braking system:電子制御式制動装置)の作動、或いはモータジェネレータMG2を利用した回生制動の作動を促す運転者の制動操作量を検出可能に構成されたセンサである。この制動操作は、不図示のブレーキペダルを介して与えられる構成となっており、ブレーキペダルセンサ15は、このブレーキペダルの踏下量Tbを係る制動操作量として検出する構成となっている。ブレーキペダルセンサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたブレーキペダル踏下量Tbは、ECU100により、適宜参照される構成となっている。
シフト位置センサ16は、後述するECT400の動作モードを規定するシフト位置を検出可能に構成されたセンサである。シフト位置センサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたシフト位置は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。
SOCセンサ17は、バッテリ12のSOC(State Of Charge:充電状態)を検出可能に構成されたセンサである。SOCセンサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたバッテリ12のSOCは、ECU100により適宜参照される構成となっている。尚、本実施形態では、「SOC」なる文言を、バッテリ12の充電状態を表す定量的指標値としても使用することとする。
制動装置18は、ECBアクチュエータ18A及びホイールシリンダ18Bを備え、車輪FL及びFRを含むハイブリッド車両1の各車輪に対し、物理的な制動力たる摩擦制動力を付与可能に構成された公知のECB(電子制御式制動装置)である。
ECBアクチュエータ18Aは、各輪に備わるホールシリンダ18Bに作動油を供給するための油路と、当該油路に設置された複数のソレノイドバルブと、当該油路への作動油の供給圧を制御する電動オイルポンプとを備えた、制動力制御装置である。当該油路に供給される油圧は、各ソレノイドバルブの開閉状態と、電動オイルポンプの駆動状態とに応じて可変に制御される。ECBアクチュエータ18Aは、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により制御される構成となっている。
ホイールシリンダ18Bは、車両1の車輪各々に対し設置され、各車輪に制動力としての摩擦力を付与する制動部材に対し駆動力を付与可能な油圧駆動装置である。ホイールシリンダ18Bには、先述したように、ECBアクチュエータ18Aを介して適切な油圧が供給されており、各制動部材は、ホイールシリンダ18Bを介して供給される駆動力に応じた摩擦力を対象車輪に付与することによって、車両1を制動することが可能である。
次に、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、機関出力軸SFTeg、ECT400、駆動軸500、入力軸600及び出力軸700を備える。
エンジン200は、ハイブリッド車両1の一動力源として機能するように構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たる公知の各種自動車用エンジンである。エンジン200の出力動力たるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の機関入力軸SFTegに連結されている。
尚、エンジン200の詳細な構成は、本発明の技術的本質との相関が低いため、ここでは割愛するが、本発明に係る「内燃機関」とは、燃料の燃焼に伴う熱エネルギを運動エネルギとして取り出し可能な機関を包括する概念であって、例えば、燃料種別、燃料の供給態様、吸排気系の構成、動弁系の構成、気筒数及び気筒配列等、その構成及び構造は如何様にも限定されない趣旨である。
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた、本発明に係る「他の回転電機」の一例たる電動発電機である。
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。
尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、無論他の構成を有していてもよい。
動力分割機構300は、本発明に係る「差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「回転要素」の一例たるサンギアSg0と、サンギアSg0の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「回転要素」の他の一例たるリングギアRg0と、サンギアSg0とリングギアRg0との間に配置されてサンギアSg0の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「回転要素」の更に他の一例たるキャリアCr0とを備える。
サンギアSg0は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転速度はMG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1と等価である。
一方、リングギアRg0は、駆動軸500に連結されており、この駆動軸500は、モータジェネレータMG2のロータに、その回転軸を共有する形で連結されている。従って、MG2は、駆動軸500との間でトルクの入出力が可能である。尚、駆動軸500を介してトルクが入力された場合、モータジェネレータMG2は、負トルクたる回生トルクを出力することによって、その入力トルクを回収し、電力回生、即ち発電を行うことが可能である。
また、この駆動軸500は、ECT400の動力入力軸たる入力軸600に接続されている。従って、モータジェネレータMG2から、その出力トルクたるMG2トルクTmg2が駆動軸500に対し供給された場合、この供給されたMG2トルクTmg2は、ハイブリッド駆動装置10の出力軸トルクToutの少なくとも一部として利用される。ハイブリッド車両1は、このMG2トルクTmg2のみによって所謂EV走行を行うことも、このMG2トルクTmg2をエンジントルクTeの不足分をアシストするアシストトルクとして利用して所謂HV走行を行うことも可能である。
他方、キャリアCr0は、エンジン200のクランク軸に連結された機関入力軸SFTegと連結されている。キャリアCr0の回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。
ECT400は、複数の油圧駆動式の摩擦係合装置(即ち、各々が本発明に係る「係合装置」の一例である)を備え、各係合装置の係合状態に応じて変速比γの異なる複数の変速段を構築可能に構成された、本発明に係る「変速装置」の一例たる電子制御式有段変速装置である。
尚、変速比γとは、入力軸600の回転速度たる入力軸回転速度Ninと出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutとの比(γ=Nin/Nout)である。先に述べたように、入力軸600は、動力分割機構300の動力出力軸たる駆動軸500に接続されているから、入力軸回転速度Ninは、駆動軸500の回転速度、即ち、モータジェネレータMG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2と等価である。また、同様に入力軸600に作用するトルクである入力軸トルクTinは、駆動軸500に作用するトルクと等価である。
ECT400は、二種類の差動機構を組み合わせて得られる複合型プラネタリギアユニットと、CL1、CL2及びCL3の各湿式多板型クラッチ機構と、ワンウェイクラッチF1と、BR1及びBR2の各湿式多板型ブレーキ機構とから構成されている。このうち、係合装置たる各湿式多板型クラッチ機構、ワンウェイクラッチF1及び各湿式多板型ブレーキ機構は、各々における係合要素同士が、不図示の油圧アクチュエータ(不図示)の作用により、締結状態と解放状態との間で係合状態が選択的に切り替えられる構成となっている。
ここで、これら摩擦係合装置たるクラッチ機構及びブレーキ機構の係合力を規定する係合油圧を制御する油圧アクチュエータは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、油圧アクチュエータの動作制御を介して、ECT400の変速段を自由に切り替えることができる構成となっている。ECT400による変速の詳細については後述する。
ECT400において、入力軸600は、クラッチCL1、CL2及びCL3の夫々における一方の係合要素(即ち、クラッチ板である)に固定されている。
一方、クラッチCL1の他方の係合要素(これもまたクラッチ板である)は、差動機構を構成する一方のプラネタリギアユニット(図右側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第2差動機構」と称する)の一回転要素であるサンギアSg2に連結されている。また、クラッチCL2の他方の係合要素は、差動機構を構成する他方のプラネタリギアユニット(図左側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第1差動機構」と称する)の一回転要素であるキャリアCr1に連結されている。更に、クラッチCL3の他方の係合要素は、第1差動機構の他の回転要素であるサンギアSg1と、ブレーキBR1の一方の係合要素とに連結されている。尚、ブレーキBR1の他方の係合要素は、固定要素である。
ブレーキBR2は、一方の係合要素が、第2差動機構のリングギアRg2と第1差動機構のキャリアCr1とに連結されており、他方の係合要素が固定要素となっている。
ワンウェイクラッチF1は、正回転方向の動力のみ伝達し、負回転方向の動力に対しては空転する一方向クラッチである。ワンウェイクラッチF1の一方の係合要素は、第1差動機構のキャリアCr1に連結されている。
第1差動機構は、サンギアSg1と、サンギアSg1の外周に同心円状に設けられたリングギアRg1と、サンギアSg1とリングギアRg1との間に配置されてサンギアSg1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr1とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
第2差動機構は、サンギアSg2と、サンギアSg2の外周に同心円状に設けられたリングギアRg2と、サンギアSg2とリングギアRg2との間に配置されてサンギアSg2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr2とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
第1及び第2差動機構は、第1差動機構のキャリアCr1が第2差動機構のリングギアRg2に連結され、また第2差動機構のキャリアCr2が第2差動機構のリングギアRg1に連結されることによって、複合型プラネタリギアユニットを構成している。また第2差動機構のキャリアCr2は、ECT400の出力軸たる出力軸700に連結されている。
このような構成において、ECT400は、各係合装置の係合状態を切り替えることにより、変速段として変速比γ1(γ1≒3.2)の1速段、変速比γ2(γ2≒1.7)の2速段、変速比γ3(γ3≒1.0)の3速段及び変速比γ4(γ4≒0.67)の4速段(即ち、オーバードライブ段である)の合計四種類の前進用変速段を構築することが可能である。
尚、ECT400には動作モードが各種設定されており、不図示のシフトレバーを介して運転者により一の動作モードが選択される構成となっている。ここで、動作モードには、「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」及び「1」の各シフトレンジ(シフト位置)が対応しており、例えば、Dレンジが選択されている場合、ECU100は、上記4種類の変速段のうちその時点のハイブリッド車両1の運転条件に最適な一の変速段を選択し、適宜変速段を切り替えつつハイブリッド車両1を走行させる構成となっている。尚、各シフトレンジに対応するECT400の動作モードについては、公知であり、説明の煩雑化を防ぐ目的から、ここでは、その詳細については触れないこととする。
ここで、図3を参照し、ECT400の各係合装置の係合状態と構築される変速段との関係について説明する。ここに、図3は、ECT400における係合装置の係合状態と変速段との関係を例示する表である。
図3において、「○」は締結状態を、無印は解放状態を意味し、「◎」は、電気的無段変速状態を作り出す際には解放状態、固定段走行を行う場合には締結状態を採ることを意味する。
図3において、前進用変速段についてのみ簡略的に説明すると、クラッチCL1は低速用クラッチ、クラッチCL2が高速用のクラッチとなっている。クラッチCL1が締結状態を採り、クラッチCL2が解放状態を採ると、変速段は相対的に変速比の大きい低速用変速段たる1速段又は2速段となる。この際、ブレーキBR1を解放状態とすれば1速段、締結状態とすれば2速段となる。
一方、クラッチCL1を解放状態とし、クラッチCL2を締結状態とすると共にブレーキBR2を締結状態とすると、変速段は相対的に変速比の小さい高速用の4速段となる。
また、クラッチCL1及びクラッチCL2を両方締結状態とすると、第1差動機構のキャリアCr1に連結された第2差動機構のリングギアRg2の回転速度と、第2差動機構のサンギアSg2の回転速度とが、共に入力軸回転速度Ninで等しくなる。第1及び第2差動機構は、各々を構成する回転要素のうち2要素の回転速度が定まれた残余の回転要素の回転速度が決定される回転二自由度の差動機構であるから、リングギアRg2の回転速度とサンギアSg2の回転速度とが一致すると、必然的にキャリアCr2の回転速度もこれらと一致する。その結果、キャリアCr2の回転速度と等価な出力軸回転速度Noutが、入力軸回転速度Ninと等しくなり、変速比γ3(≒1)の三速段が構築される。
尚、ECT400を構成する各回転要素のギア比は、得ようとする変速段の変速比に応じて適宜変更される性質のものであり、本発明の本質部分から外れるため、本実施形態においては、その詳細な値については触れないこととする。但し、各変速段の変速比については、上述の如くに例示されており、図2の構成において、各変速段の変速比を実現するための各回転要素のギア比は、自ずと明らかであろう。
図2に戻り、ハイブリッド駆動装置10は、レゾルバRV1、RV2及びRV3を備える。
レゾルバRV1は、MG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV1は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG1回転速度Nmg1は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
レゾルバRV2は、MG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV2は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG2回転速度Nmg2は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、MG2回転速度Nmg2は、既に述べたように、ECT400の入力軸回転速度Ninと等価である。
レゾルバRV3は、出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutを検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV3は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力軸回転速度Noutは、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
<動力分割機構300による無段変速機能>
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から機関出力軸SFTegに供給されるエンジントルクTeを、キャリアCr0によってサンギアSg0及びリングギアRg0に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアRg0の歯数に対するサンギアSg0の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアCr0に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギアSg0に作用するトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるエンジン直達トルクTerは下記(2)式により、夫々表される。
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
ここで、図4を参照し、動力分割機構300による電気的無段変速機能について説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアSg0)、エンジン200(一義的にキャリアCr0)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアRg0)が表されている。
ここで、先に述べたECT400の各差動機構と同様、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素により構成された回転二自由度のプラネタリギアユニットであり、サンギアSg0、キャリアCr0及びリングギアRg0のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。
図4において、駆動軸500及び入力軸600と一義的な回転関係にあるモータジェネレータMG2の動作点が、図示動作点m1であるとする。この場合、モータジェネレータMG1の動作点が図示動作点m2であれば、残余の一回転要素たるキャリアCr0に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m3となる。ここで、例えば、分かり易く駆動軸500の回転速度たる入力軸回転速度Ninが維持された状態でモータジェネレータMG1の動作点を図示動作点m4及び図示動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は、夫々図示動作点m6及び図示動作点m7へと変化する。
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。このように、動力分割機構300は、ハイブリッド駆動装置10において電気的無段変速機能を実現する部分となっており、本発明に係る「差動機構」の一例を構成している。
尚、このような電気的無段変速機能の下では、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度NEとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
<ECT400による変速>
次に、図5を参照し、ECT400による有段変速機能について説明する。ここに、図5は、ハイブリッド駆動装置10の他の動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図5において、左側は図2に例示した動力分割機構300の動作に係る動作共線図であり、右側はECT400の動作に係る動作共線図である。
図5において、動力分割機構300の動作状態が、MG1回転速度Nmg1=0且つMG2回転速度Nmg2=Aに対応する一動作共線L_PG1によって表される状況であるとする。ECT400の変速作用によれば、この動力分割機構300の一動作状態に対し、変速段の数だけ異なる動作共線を描くことができる。
例えば、変速段として1速段が選択されている場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、1速段においては、ワンウェイクラッチF1の作用によってキャリアCr1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、1速段における動作共線は、図示L_ECT1となる。既に述べたように、1速段の変速比γ1は1より大きいから、1速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなる。
また、変速段として2速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、2速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、2速段における動作共線は、図示L_ECT2となる。既に述べたように、2速段の変速比γ2は1より大きくγ1より小さいから、2速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなり、且つ1速段選択時の回転速度よりも高くなる。
また、変速段として3速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、3速段においては、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)もまたリングギアRg0と固定される。従って、3速段における動作共線は、図示L_ECT3となる。即ち、入力軸回転速度Ninは出力回転速度Nouと等しくなり、既に述べたように変速比γ3=1の3速段が構築されるのである。
更に、変速段として4速段が選択された場合、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)とリングギアRg0とが固定されるため、リングギアRg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、4速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、4速段における動作共線は、図示L_ECT4となる。既に述べたように、4速段の変速比γ4は1より小さいから、4速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも高くなり、所謂オーバードライブ状態が実現される。
動力分割機構300の電気的な伝達効率ηeは、MG1回転速度Nmg1=0である場合に最大となる。従って、動力分割機構300は、理想的には、Nmg1=0の状態で駆動されるのが望ましい。ここで、ECT400の作用によれば、上述のように、動力分割機構300の一動作状態に対して、出力軸回転速度Noutを4段階に変化させることができる。従って、ECT400によれば、電気的な伝達効率ηeを最大とし得る動作点でエンジン200を動作させる機会を増やすことが可能となり、ハイブリッド駆動装置10全体としてのシステム伝達効率ηsysを良好に維持することができる。尚、実践的運用面においては、システム伝達効率ηsysは、電気的な伝達効率ηeと機械的伝達効率ηtとの積に相当し、ECT400のように、複数の係合要素を備える構成においては、これらによる機械的伝達効率の低下が、電気的伝達効率の増加によるシステム伝達効率の向上を妨げ得る。従って、ECT400による効果は、比較的大容量のエンジンを動力源として備えるハイブリッド駆動装置において顕著である。
<ショック緩和制御の詳細>
ハイブリッド車両1では、コーストダウン変速期間中における出力軸700のトルク変動を抑制するために、ECU100によりショック緩和制御が実行される。ここで、図6を参照し、ショック緩和制御の詳細について説明する。ここに、図6は、ショック緩和制御のフローチャートである。
図6において、ECU100は、ハイブリッド車両1がDレンジ走行中であるか否かを判別する(ステップS101)。
ここで、「Dレンジ走行」とは、ECT400の動作モードを規定するシフトレバーのシフト位置が、上述したDレンジである状態での走行を意味し、ECU100は、シフト位置センサ16により検出されるシフトレバーのシフト位置に基づいて、ステップS101に係る判別処理を実行する。ハイブリッド車両1がDレンジ走行中でない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、ステップS101を繰り返し実行し、実質的に処理を待機状態に制御する。
ハイブリッド車両1がDレンジ走行中である場合(ステップS101:YES)、ECU100は、ハイブリッド車両1がコーストダウン変速中であるか否かを判別する(ステップS102)。
ハイブリッド車両1がコーストダウン変速中である場合とは、次の三要件を満たす場合を意味する。即ち、(ア)ハイブリッド車両1の車速Vhが基準値より高い(基準値がゼロであれば、即ち、車両が走行中であるか否かの判別と等価である)こと、(イ)アクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Taが基準値以下である(基準値がゼロであれば、アクセルペダルが操作されていないことを意味する)こと、及び(ウ)ECT400において変速が進行中であることの三要件である。
ここで、上記(ウ)の要件について補足すると、ECT400における変速は、変速比が小さくなる側の変速たるアップシフトも、変速比が大きくなる側の変速たるダウンシフトも、予め設定された変速マップに基づいて実行される。ここで、図7を参照し、ECT400の変速条件について説明する。ここに、図7は、ECT400の変速条件を規定する変速マップの模式図である。
図7において、縦軸及び横軸には、夫々出力軸トルクTout及び車速Vhが表されている。係るマップ中において、ECT400の変速条件は、図示する21ダウン変速線L_21、12アップ変速線L_12、32ダウン変速線L_32、23アップ変速線L_23、43ダウン変速線L_43及び34アップ変速線L_34によって規定される。より具体的には、その時点のハイブリッド車両1の運転条件が、アップシフトについては各アップ変速線を跨ぐ際に、ダウンシフトについては各ダウンシフト変速線を跨ぐ際に、各変速線によって規定される変速が実現される。
例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、32ダウン変速線の右側の運転領域から32ダウン変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、3速段から2速段への変速(ダウンシフト)を実行する。或いは、例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、12アップ変速線の左側の運転領域から12アップ変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、1速段から2速段への変速(アップシフト)を実行する。ECU100のROMには、予め図7に例示される変速マップを数値的に規定してなる変速マップが格納されており、ECU100は、必要に応じて適宜変速を実行する構成となっている。尚、惰性減速期間としてのコーストダウン期間において生じる変速とは、即ち、ダウンシフトである。
尚、コーストダウン変速中であるか否かに係る判別要件は、ここに例示されたものに限定されない。ハイブリッド車両1がコーストダウン変速中でない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻す。
ハイブリッド車両1がコーストダウン変速中である場合(ステップS102:YES)、ECU100は、アクセルオン操作が発生したか否かを判別する(ステップS103)。
アクセルオン操作とは、アクセル開度Taが、先に述べたコーストダウン状態を規定する基準値よりも大きくなるアクセルペダルの操作を意味し、ハイブリッド車両1の駆動要求に相当する操作である。尚、ここでは、アクセル開度Taが基準値以上であるか否かに応じてアクセルオン操作の有無が二値的に判別される構成となっているが、これは一例に過ぎず、アクセルオン操作は、アクセル開度Taを多段階に区分することによって、その度合いを伴って検出されてもよい。
アクセルオン操作が検出されない場合(ステップS103:NO)、ECU100は、通常のコーストダウン変速を実行する(ステップS104)。一方、アクセルオン操作が検出された場合(ステップS103:YES)、ECU100は、ショック緩和処理を実行する(ステップS105)。通常のコーストダウン変速及びショック緩和処理については後述する。
通常のコーストダウン変速が実行されるか、ショック緩和処理が実行されると、処理はステップS101に戻される。ショック緩和制御は以上のように実行される。
<ショック緩和制御の効果>
次に、ショック緩和制御の効果について説明する。
<通常のコーストダウン変速>
始めに、図8及び図9を参照し、図6のステップS104に係る通常のコーストダウン変速について説明する。ここに、図8は、電力回生を伴い且つアクセルオン操作を伴わないコーストダウン変速期間におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。また、図9は、電力回生及びアクセルオン操作を伴わないコーストダウン変速期間におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
尚、ここで、電力回生について補足する。ここで述べられる電力回生とは、モータジェネレータMG2を利用したコーストダウン中の電力回生を意味する。電力回生時には、モータジェネレータMG2から、MG2トルクTmg2として負トルクたる回生トルクが出力され、車軸、出力軸700、入力軸600及び駆動軸500を介して入力される駆動輪の運動エネルギの一部が電力として回生される。回生電力は、バッテリ12へ適宜充電される。この回生トルクは、その大小がハイブリッド車両1の減速度の大小に夫々対応する一種の制動力であるから、コーストダウン中においては、この電力回生による所謂回生制動が実現される。
電力回生時の回生トルクは、ブレーキペダル踏下量Tbに応じて大きく変化する。即ち、ブレーキペダルの踏下量Tbが予め設定された基準値よりも大きいブレーキオン時においては、ドライバの積極的な制動意思を反映して、回生トルクが、ブレーキペダル踏下量Tbの大小に応じて夫々連続的に又は段階的に大小に制御され、ドライバに違和感を与えない回生制動が実現される構成となっている。
一方、通常、アクセルペダルの操作を停止すれば、車両にエンジンブレーキ相当の制動力が生じるのが自然である。従って、ハイブリッド車両1では、基本的にコーストダウン状態においても電力回生が実行される。但し、コーストダウン中では、ドライバに積極的な制動意思がある訳ではないから、回生トルクは、上記制動操作が生じている場合と較べて小さい値に抑制される。
ところで、図7に例示した変速マップを参照すれば、コーストダウン中の変速には、車速の低下が伴い得る。このように車速が低下した状況では、電力回生により回収可能な電気エネルギは相対的に小さくなるため、電力回生の必要性が低くなる。従って、ハイブリッド車両1では、最も低車速側の変速段たる1速段への変速に際しては、ブレーキペダルの操作量の有無大小に関係なく電力回生は禁止される。即ち、図9に例示されるタイミングチャートは、2速段から1速段への変速がなされる場合のものである。尚、電力回生を伴う場合としての図8に例示されるタイミングチャートは、3速段から2速段への変速がなされる場合のものとする。
図8において、縦軸は、上段から順に、入力軸回転速度Nin、入力軸トルクTin、出力軸トルクTout、アクセルフラグF_acc及びECT400における締結側係合装置及び解放側係合装置の各係合油圧が表されており、横軸は時刻で統一されている。尚、アクセルフラグF_accは、アクセルオン操作時に「1」に、それ以外の場合に「0」に設定されるフラグであり、アクセルオン操作を伴わない場合に相当する図8及び図9については、一律にゼロのままである。
図8において、時刻T1にコーストダウン変速に係る変速条件が満たされたとする。この場合、ECU100は、時刻T1において、解放側係合装置(即ち、ここではクラッチCL2である)の係合油圧を図示破線の如くに低下させ、且つ締結側係合装置(即ち、ここではブレーキBR1である)の係合油圧を図示実線の如くに増加させる。変速が終了した時刻T5の時点において、締結側係合装置であるブレーキBR1の係合油圧は、係合状態保持用の所定値に到達する。
図示時刻T2において、トルク相が開始される。トルク相とは、締結側係合装置の係合油圧を上昇させることによって、入力軸回転速度Nin(即ち、MG2回転速度Nmg2)を、2速同期回転速度N2nd(図示鎖線参照)まで上昇させるためのトルク移譲を行う期間を意味する。更に、時刻T3において、この係合装置の係合トルクによって実際に入力軸回転速度Ninが上昇し始めるイナーシャ相が開始される。入力軸回転速度Ninが、2速同期回転速度N2ndに対し所定の割合にまで達した時刻T4において、ECU100は変速終了の判定を行い、イナーシャ相は、それより後の時刻T5において終了する。
一方、ECT400の変速は、所謂等パワー変速であり、その時点の車速Vh(即ち、ハイブリッド駆動装置10に要求される要求出力)が変速前後で維持されるように実行される。従って、変速がなされるにあたっては、入力軸回転速度Ninを変速後の変速段に対応する同期回転速度まで上昇(ダウンシフトの場合)させる必要がある。一方で、出力軸トルクToutは、出力回転速度Noutが維持されるため、従前の値に維持される。
ここで、入力軸トルクTinは、入力軸回転速度Ninが2速同期回転速度2ndまで上昇することに伴って減少する(尚、電力回生中は、MG2トルクTmg2は負トルク(回生トルク)であるから、実応答としてはゼロに近付くことになる)。その特性が、図示PRF_Tin_base1(破線)に表される。
ところが、このような入力軸トルクTinの時間推移に対し、実際の出力軸トルクToutは、トルク相及びイナーシャ相においてMG2の回転速度変化にその一部が消費されることによって、一時的に低下する(図示PRF_Tout_base1(破線)参照)。その結果、変速中において出力軸700のトルク変動がドライバビリティの低下として顕在化する可能性がある。
そこで、ECU100は、入力軸トルクTinたるMG2の回生トルクが減少側に補正される(図示PRF_Tin1(実線)参照)。その結果、実際の出力軸トルクToutの応答は、図示PRF_Tout1(実線参照)のようになり、減少させた回生トルクの分だけ出力軸トルクToutの減少が抑制され、トルクショックを緩和させることが可能となる。
次に、電力回生及びアクセルオン操作を伴わない場合について、図9を参照して説明する。
電力回生を伴わないコーストダウン変速時(ここでは、1速段への変速時である)には、回生効率を優先する必要がないために、出力軸700のトルク変動抑制を重視する観点から、ECT400の係合装置はクラッチフリー状態に維持される。即ち、解放側係合装置の係合油圧は変速開始時においてゼロに、締結側係合装置についても、変速終期判定が下される時刻T4まで、殆ど係合トルクが作用しない値に維持される。
このため、入力軸回転速度Ninを2速同期回転速度2ndから1速同期回転速度1stまで上昇させるために、モータジェネレータMG2からMG2トルクTmg2を作用させる必要が生じる。その結果、入力軸トルクTinは、ベース値であるPRF_Tin_base2(破線参照)に対し図示PRF_Tin2(実線参照)の如くに補正される。一方、出力軸トルクToutは、図示PRF_Tout2(実線参照)のように、変速前後においてほぼ一定に維持される。
<ショック緩和処理の詳細>
次に、図10及び図11を参照し、アクセルオン操作が発生した場合、即ち、図6のステップS105に係るショック緩和処理について説明する。ここに、図10は、電力回生及びアクセルオン操作を伴うコーストダウン変速期間におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。また、図11は、電力回生を伴わず且つアクセルオン操作を伴うコーストダウン変速期間におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。尚、これら各図において既出の各図と重複する箇所については同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。また、補足すると、図10は、電力回生を伴う点において図8と相関する図であり、図11は、電力回生を伴わない点において図9と相関する図である。
図10において、時刻T3におけるイナーシャ相の開始以後且つ時刻T4における変速終期判定以前の時刻T6において、即ち、イナーシャ相中においてアクセルオン操作が発生した(即ち、アクセルフラグF_accが0から1に切り替わった)とする。
アクセルオン操作が検出されると、ECU100は、ECT400の入力軸トルクTinを、ショック緩和トルクTに従って制御する。尚、この際、ECT400の入力軸回転速度Nin(即ち、本発明に係る「入力軸の実回転速度」の一例)の、変速後の同期回転速度N2nd(即ち、本発明に係る「入力軸の目標回転速度」の一例)への収束は、MG2トルクTmg2の制御により実現される。従って、ECT400の係合油圧は、その時点の値に維持されるか、或いは低減される(図10では、維持される様子が示される)。係合油圧に応じて変化する締結側係合装置の係合トルクは、MG2トルクTmg2と較べて制御精度が低い。このため、アクセルオン操作発生時には、出力軸700のトルク変動を抑制するため、このような措置が講じられるのである。
ECU100は、ショック緩和トルクTを、入力軸回転速度Ninと変速後の同期回転速度(ここでは、N2nd)との偏差ΔNに基づいて設定される下記(3)式に従って算出し、算出されたショック緩和トルクTが出力されるようにモータジェネレータMG2を駆動制御する。
T=Tfb+Tff・・・(3)
ここで、Tfbは、フィードバック制御項としてのFB制御トルクであり、Tffは、フィードフォワード制御項としてのFF制御トルクである。FB制御トルクTfbは、下記(4)式に従って算出される。
Tfb=Kp×ΔN+Ki×∫ΔNdt+Kd×d(ΔN)/dt・・・(4)
上記(4)式において、Kpは比例ゲインであり、Kdは積分ゲインであり、Kdは微分ゲインである。即ち、本実施形態においてFB制御トルクは、所謂PID制御を実行するためのトルクである。尚、各ゲインの値は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、ハイブリッド駆動装置10の構成に最適な値(即ち、トルク変動の抑制と変速応答性の確保とが可及的に両立され得る値)が決定されている。
一方、FF制御トルクTffは、ECT400の作動油の油温に応じて決定される値である。より具体的には、ECT400の作動油の油温は、ECT400におけるトルク伝達時の引き摺り損失に影響する。この引き摺り損失は、入力軸トルクTinに影響を与えるため、何らの対策も講じられない場合には、その時点の作動油の油温によって、ショック緩和トルクTの制御精度が変化し、出力軸700のトルク変動にばらつきが生じてしまう。このため、予め実験的に、この作動油の油温の変化による入力軸トルクTinの変化がキャンセルされるようにFF制御トルクTffが策定されているのである。このFF制御トルクTffによって、回転速度偏差ΔNに応じた入力軸トルクTinの制御精度が、ECT400の状態によらず安定に確保される。
このように算出されるショック緩和トルクTにより、入力軸トルクTinは、ベースとなる入力軸トルクの特性を表す図示PRF_Tin_base3(破線参照)に対し、図示PRF_Tin3(実線参照)の如くに変化し、入力軸回転速度Ninは、目標回転速度たる2速同期回転速度N2ndへ円滑に収束する。このため、出力軸トルクToutは、図示PRF_Tout3(実線参照)のように、その変動が抑制され円滑な時間推移を描く。
一方、このようなショック緩和処理の効果は、図11に例示される、電力回生が伴わない1速段への変速においても同様に担保される。即ち、時刻T6においてアクセルオン操作が生じると、上記(3)式に従って算出されるショック緩和トルクTにより、入力軸トルクTinは、ベースとなる入力軸トルクの特性を表す図示PRF_Tin_base4(実線参照)に対し、図示PRF_Tin4(実線参照)の如くに変化し、入力軸回転速度Ninは、目標回転速度たる1速同期回転速度N1stへ円滑に収束する。このため、出力軸トルクToutは、図示PRF_Tout4(実線参照)のように、その変動が抑制され円滑な時間推移を描く。
このように、本実施形態によれば、入力軸回転速度Ninと目標回転速度との差たる回転速度偏差ΔNに基づいて算出されるFB制御トルクTfbを含むショック緩和トルクTにより、コーストダウン変速期間においてアクセルオン操作が生じた場合であっても、出力軸トルクToutの変動を抑制することができる。
具体的には、このように回転速度偏差が考慮されない場合、アクセルオン操作に伴う入力軸トルクTin(MG2トルクTmg2)の増加制御により惹起される入力軸回転速度Ninの上昇特性が、目標回転速度としての変速後の同期回転速度に必ずしも適さなくなる。従って、場合によっては、同期回転速度到達時点付近の入力軸回転速度Ninの時間変化率が過大である或いは過度に変動する等の事態が生じて、同期回転到達に相前後して同期ショックが生じる可能性を排除できない。このような入力軸側で生じる同期ショックは、トルク伝達経路が開通している出力軸700側にも伝達されることとなって、出力軸700のトルク変動となってドライバビリティを低下させてしまうのである。
尚、ここに例示したFB制御は、「入力軸の実回転速度と入力軸の目標回転速度との差に基づいて入力軸のトルクを制御する」旨の本発明に係る制御手段の動作の一例であり、この種の回転速度偏差に基づいて入力軸トルクが制御される限りにおいて、その実践的態様は様々であってよい。
ここで、上記FB制御トルクに係る比例ゲインKp、積分ゲインKi及び微分ゲインPdは、夫々、コーストダウン変速期間における電力回生の有無(即ち、本発明に係る「変速段の切り替えパターン」の一例である)と、アクセルオン操作の時期とに応じて可変である。
より具体的には、各ゲインは、電力回生の有無に応じて夫々小大に補正される。即ち、電力回生時には、ECT400の係合油圧により入力軸回転速度Ninの上昇が図られるため、アクセルオン操作時に必要となるMG2側のトルク増加量が相対的に小さくなる。従って、FBゲインが小さくても問題がない。一方、電力回生がなされない場合、入力軸回転速度Ninは、MG2トルクTmg2によってその上昇を促されるため、必然的にMG2側のトルク増加量は相対的に大きくなる。従って、電力回生非実行時に適合されたFBゲインでは、入力軸回転速度Ninの収束が遅れて変速期間が長大化しかねないのである。
一方、各ゲインは、アクセルオン操作の時期に対しては、当該発生時期がイナーシャ相前であるかイナーシャ相中であるかによって変化する。より具体的には、イナーシャ相前においてアクセルオン操作が生じた場合、各ゲインは相対的に小さく設定される。これは、ECT400の解放側係合装置の係合油圧(即ち、ドレイン側の係合油圧)が残存しており、この段階でFBゲインを大きくすると、FB制御トルクがそのまま出力軸700に伝達されかねないためである。
一方、イナーシャ相中に生じたアクセルオン操作に対しては、ドレイン側の係合油圧が既にゼロとなっており、出力軸トルクToutの変動を懸念する必要がないが、変速終期に近いため、FBゲインが小さいままでは、入力軸回転速度Ninの同期回転速度への収束が緩慢となる。従って、各FBゲインは大きい方がよいのである。
尚、本実施形態においては、出力軸700におけるトルクショックをより好適に防止する目的から、変速の収束性を低下させない時間領域、例えば、変速終期或いは変速終了時点近傍の期間等において、各FBゲインは相対的に減少側に設定される。このため、変速終了間際の出力軸700のトルク変動が好適に抑制され、円滑な変速が完遂される。
<第2実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図10を参照し、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成について説明する。ここに、図10は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図10において、ハイブリッド駆動装置20は、駆動軸500と入力軸600とがクラッチ900によって選択的に係合又は解放状態に制御される構成となっている。また、モータジェネレータMG2と入力軸600との間には、MG2回転速度Nmg2を二段階に減速することが可能なMG2リダクション機構800が介装されている。
MG2リダクション機構800は、湿式多板係合装置としてのブレーキ機構801及び802と、これらブレーキ機構に夫々連結された回転要素を含む差動機構803から構成される。MG2リダクション機構800は、ブレーキ機構としてブレーキ機構801が選択された場合とブレーキ機構802が選択された場合とで、MG2回転速度Nmg2の減速比が異なる構成を有しており、ECT400による変速に加え、MG2をその時点でより効率的な動作領域で動作させることが可能となっている。このような構成においても無論、上述の変速制御を適用することが可能である。
また、クラッチ900が解放側に制御された状態においては、ハイブリッド駆動装置20の動力源はMG2のみとなる。この状態は、所謂電気自動車と同等である。即ち、本発明が適用対象とする車両は、ハイブリッド車両に限定されず、モータのみを動力源とする電気自動車も含まれる。
<第3実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図11を参照し、本発明の第3実施形態にハイブリッド駆動装置30の構成について説明する。ここに、図11は、ハイブリッド駆動装置30の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
図11において、ハイブリッド駆動装置30は、無段変速部1000と有段変速部1100を有する。無段変速部1000は、ハイブリッド駆動装置10における動力分割機構300と概念的には同等のプラネタリギアユニットと、MG2回転速度Nmg2を減速する減速ギアとからなり、動力分割機構300と同様に回転二自由度の差動機構として機能する。
一方、有段変速部1100は、クラッチC1、C2、C3及びC4と二組の差動機構からなり、これらの係合状態に応じて複数の変速段を実現する構成となっている。
ここで、ハイブリッド駆動装置30によれば、この有段変速部1100の機能により、駆動要素と反力要素とを切り替えることが可能である。例えば、クラッチC1を締結状態とし、クラッチC2を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600aとなり、上記実施形態と同様に、MG2が駆動要素(出力軸700との間でトルクの入出力を行う要素)となり、MG1が反力要素となる。その逆に、クラッチC2を締結状態とし、クラッチC1を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600bとなり、上記実施形態とは異なり、MG1が駆動要素(この場合、MG1が本発明に係る「回転電機」として機能する)となり、MG2が反力要素となる。このように、変速部の係合状態によって、駆動要素と反力要素とを選択的に切り替えつつ走行可能なハイブリッド車両に対しても本発明は適用可能である。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。