以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。以下の説明では、本発明の量子ドット配列材料を、中間準位型太陽電池や、アップコンバージョン型太陽電池(波長変換素子も含む)に適用した形態を例示するが、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。本発明の量子ドット配列材料は、中間準位型光電変換素子やアップコンバージョン型光電変換素子(以下において、これらをまとめて単に「光電変換素子」ということがある。)のほか、レーザー等にも応用することが可能である。なお、図面では、Stranski-Kraxtanov(SK)モードで量子ドットを作製する際に形成されるwetting layerの記載を省略している。
図1は、第1実施形態にかかる本発明の太陽電池10を簡略化して示す断面図である。図1では、繰り返される一部符号の記載を省略している。図1に示したように、太陽電池10は、裏面電極1と、該裏面電極1の上面に配設されたn型基板2と、該n型基板2の上面に形成された光吸収層3と、該光吸収層3の上面に形成されたp層4と、該p層4の上面に形成された櫛形電極5と、を有している。光吸収層3は、第1障壁層3a、3a、…(以下において、単に「第1障壁層3a」ということがある。)と、第2障壁層3b、3b、…(以下において、単に「第2障壁層3b」ということがある。)と、複数の量子ドット3d、3d、…(以下において、単に「量子ドット3d」ということがある。)と、を有している。すべての量子ドット3d、3d、…の上面及び下面は第2障壁層3b、3b、…と接触しており、量子ドット3d、3d、…と第1障壁層3aとの間に、第2障壁層3bが配設されている。
図2は、光吸収層3を説明するバンド図である。図2において、「●」は電子であり、「○」は正孔である。図2の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図2の紙面左右方向は、図1の紙面上下方向と対応している。図2に示したように、量子ドット3dの価電子帯上端VBMDは第1障壁層3aの価電子帯上端VBM1よりも下方に位置し、量子ドット3dの伝導帯下端CBMDは第1障壁層3aの伝導帯下端CBM1よりも下方に位置しており、量子ドット3dの伝導帯には第1閉じ込め準位C1が形成されている。さらに、第2障壁層3bの価電子帯上端VBM2は第1障壁層3aの価電子帯上端VBM1よりも下方に位置し、VBM1−VBMD及びVBM1−VBM2が共に、正孔の熱エネルギー(kT)よりも大きいことが好ましい。また、第2障壁層3bの伝導帯下端CBM2は第1障壁層3aの伝導帯下端CBM1よりも上方に位置し、第2障壁層3bの価電子帯上端VBM2は量子ドット3dの価電子帯上端VBMDよりも下方に位置している。
太陽電池10に太陽光が入射すると、p層4を通過した光が光吸収層3で吸収される。より具体的には、p層4を通過した光のうち、第1障壁層3aのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光、第2障壁層3bのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光、及び、量子ドット3dのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光が吸収され、光吸収層3でキャリアが生成される。
第1障壁層3aで生成されたキャリアは、第1障壁層3a内をドリフト移動する。そして、図1に示した4つの第1障壁層3a、3a、3a、3aのうち、一番下に配置されている第1障壁層3aで生成された電子は、n型基板2を経て裏面電極1へと達する。また、第2障壁層3bで生成された電子の一部は、よりエネルギー的に安定な隣接する量子ドット3dに、残りの大部分は、よりエネルギー的に安定な隣接する第1障壁層3aに移動する。また、量子ドット3dで生成された電子、及び、隣接する第1障壁層3aや第2障壁層3bから量子ドット3dへと移動した電子は、量子ドット3dの量子準位(例えば、第1閉じ込め準位C1)に留まる。これらの電子は、さらなる光吸収により、二段階目の励起がなされて(又は、電子同士でエネルギーの授受を行って)エネルギーを高めることで、第1障壁層3aに移動することができる。このような過程を経て、第2障壁層3bや量子ドット3dの電子は、すべて第1障壁層3aに移動する。第1障壁層3aで生成された電子や、第1障壁層3aに移動した電子は、内部電界によるドリフトによって、量子ドット3dが存在しない領域の第2障壁層3bをトンネル伝導によって通過することにより、現在の第1障壁層3aよりも裏面電極1側に配置されている第1障壁層3aへと移動する。こうして、一番下に配置されている第1障壁層3aに達した電子は、n型基板2を経て、裏面電極1へと達する。
一方、第2障壁層3bで生成された正孔の一部は、よりエネルギー的に安定な隣接する量子ドット3dに、残りの大部分は、よりエネルギー的に安定な隣接する第1障壁層3aに移動する。また、量子ドット3dで生成された正孔は、当該量子ドット3dよりも櫛形電極5側に存在する第2障壁層3bをトンネル伝導によって通過し、よりエネルギー的に安定な第1障壁層3aに移動することができる。第1障壁層3aで生成された正孔、及び、第2障壁層3bや量子ドット3dから第1障壁層3aに移動してきた正孔は、内部電界によるドリフトによって、量子ドット3dが存在しない領域の第2障壁層3bをトンネル伝導によって通過することにより、現在の第1障壁層3aよりも櫛形電極5側に配置されているp層4や第1障壁層3aへと移動する。第1障壁層3aの正孔は、このようにしてp層4へと移動し、p層4を経て櫛形電極5へと達する。
このように、太陽電池10では、量子ドット3dで生成された正孔、又は、第2障壁層3bから量子ドット3dに流入した正孔は、トンネル伝導によって速やかに、エネルギー的に安定な第1障壁層3aに移動することができる。また、一旦第1障壁層3aに移動した正孔は、VBM1−VBMD、及び、VBM1−VBM2が共に正孔の熱エネルギー(kT)よりも大きいことにより、量子ドット3dや第2障壁層3bに再流入することは妨げられる。一方、量子ドット3dで生成された電子、又は、第1障壁層3aや第2障壁層3bから流入した電子は、光吸収(又は再落ち込みする電子とのエネルギー授受)によりエネルギーが励起されて第1障壁層3aに移動するまでは量子ドット3dに留まる必要がある。しかし、正孔は速やかに量子ドット3dより第1障壁層3aに移動し、量子ドット3dに対して第2障壁層3bにより隔離された第1障壁層3aに存在する。そのため、量子ドット3d内の電子は、再結合する正孔が同量子ドット3dに存在しないため、光吸収によって再励起されるまで長時間に亘ってエネルギーを失わずに、第1閉じ込め準位C1に留まることができる。これは、正孔が量子ドット3dに存在する電子と空間的に分離された位置に分布するため、量子ドット3d内の電子の波動関数と、第1障壁層3a内の正孔の波動関数との重なりが小さくなることで、輻射再結合の確率を低減することができる効果である。この効果により、太陽電池10では、変換効率を向上させることが可能になる。
太陽電池10は、例えば以下の工程を経て作製することができる。太陽電池10を作製する際には、GaAs基板、サファイア基板、ガラスやプラスチック基板上に、有機金属気相成長法(MOCVD)や、分子線エピタキシー法(MBE)等によって代表される気相成長法や、真空蒸着法等の公知の方法により、Si等のn型ドーパントをドープしたn−GaAsSb、n−AlP、n−ZnTe等によって構成されるn型基板2を作製する。続いて、同手法にてGaAsSb、AlP、ZnTe等によって構成される第1障壁層3aを、n型基板2の上面に形成する。次いで、同手法により、Ga(Al)As、ZnS、Ga(Al)N等によって構成される第2障壁層3bを、第1障壁層3aの上面に形成する。続いて、Stranski-Kraxtanov(SK)モード等の公知の方法により、InAs、InN、CdSe等によって構成される量子ドット3dを形成する。その後、以下同様にして、量子ドット3dの上面に第2障壁層3bを形成し、第2障壁層3bの上面に第1障壁層3aを形成する過程を繰り返すことにより、光吸収層3を形成する。こうして光吸収層3を形成したら、該光吸収層3の上面に、同手法により、Be等のp型ドーパントをドープしたp−GaAsSb、p−AlP、p−ZnTe等によって構成されるp層4を作製する。そして、p層4の上面に、蒸着法、リソグラフィ等の公知の方法により、Al、Au、Ag、In等によって構成される櫛形電極5を形成する。なお、裏面電極1は、使用する基板がn型基板であれば、基板をn型基板2としてみなすことができ、必要に応じて基板を剥離した後、n型基板2の下面に、蒸着法等の公知の方法により、Al、Au、Ag、In等によって構成される裏面電極1を形成する過程を経て、太陽電池10を作製することができる。なお、必要に応じて、裏面電極1は、ガラスやプラスチック基板上にn型基板2を形成する前に、蒸着等の公知の方法で形成することも可能である。また、p層4とn型基板2とが入れ替わる構造でも、同じように動作する太陽電池の作製が可能である。
太陽電池10において、(第1障壁層3a、第2障壁層3b、量子ドット3d)の材料の組み合わせが、(GaAsSb、GaAs、InAs)の場合、GaAs(1−x)SbxのSb組成xについては、例えば0.14以上0.2以下とすることができる。また、第1障壁層3aの厚さは、例えば15nm程度とすることができ、第2障壁層3bの厚さは、例えば0.5nm以上4nm以下とすることができる。また、量子ドット3dの厚さは、例えば10nm程度とすることができる。このほか、裏面電極1、n型基板2、p層4、及び、櫛形電極5の厚さは、他の太陽電池と同程度の厚さとすることができる。
本発明に関する上記説明では、CBM2がCBM1よりも上方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の中間準位型光電変換素子が、量子ドットの伝導帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の伝導帯下端は第1障壁層の伝導帯下端と同じ高さであっても良く、第2障壁層の伝導帯下端は第1障壁層の伝導帯下端よりも下方に位置していても良い。
また、本発明に関する上記説明では、VBM2がVBMDよりも下方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の中間準位型光電変換素子が、量子ドットの伝導帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の価電子帯上端は、第1障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との間に位置していても良い。かかる形態とする場合、量子ドット内の正孔は、トンネル伝導に依らなくても、第2障壁層を経由して第1障壁層へと達することができる。それゆえ、かかる形態の場合には、VBM2がVBMDよりも下方に位置している場合と比較して、第2障壁層の厚さを厚くすることができる。
本発明に関する上記説明では、量子ドットの伝導帯側に量子準位が形成される形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。そこで、本発明が採り得る他の形態について、以下に説明する。
図3は、第2実施形態にかかる本発明の太陽電池20を簡略化して示す断面図である。図3では、繰り返される一部符号の記載を省略しており、太陽電池10と同様の構成には、図1及び図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図3に示したように、太陽電池20は、裏面電極1と、該裏面電極1の上面に配設されたn型基板2と、該n型基板2の上面に形成された光吸収層23と、該光吸収層23の上面に形成されたp層4と、該p層4の上面に形成された櫛形電極5と、を有している。光吸収層23は、第1障壁層23a、23a、…(以下において、単に「第1障壁層23a」ということがある。)と、第2障壁層23b、23b、…(以下において、単に「第2障壁層23b」ということがある。)と、複数の量子ドット23d、23d、…(以下において、単に「量子ドット23d」ということがある。)と、を有している。すべての量子ドット23d、23d、…の上面及び下面は第2障壁層23b、23b、…と接触しており、量子ドット23d、23d、…と第1障壁層23aとの間に、第2障壁層23bが配設されている。
図4は、光吸収層23を説明するバンド図である。図4において、「●」は電子であり、「○」は正孔である。図4の紙面上側程電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図4の紙面左右方向は、図3の紙面上下方向と対応している。図4に示したように、量子ドット23dの伝導帯下端CBMD’は第1障壁層23aの伝導帯下端CBM1’よりも上方に位置し、量子ドット23dの価電子帯上端VBMD’は第1障壁層23aの価電子帯上端VBM1’よりも上方に位置しており、量子ドット23dの価電子帯には第1閉じ込め準位V1が形成されている。さらに、第2障壁層23bの伝導帯下端CBM2’は第1障壁層23aの伝導帯下端CBM1’よりも上方に位置しており、CBMD’−CBM1’及びCBM2’−CBM1’が共に、電子の熱エネルギー(kT)よりも大きいことが好ましい。また、第2障壁層23bの価電子帯上端VBM2’は第1障壁層23aの価電子帯上端VBM1’よりも下方に位置し、第2障壁層23bの伝導帯下端CBM2’は量子ドット23dの伝導帯下端CBMD’よりも上方に位置している
太陽電池20に太陽光が入射すると、p層4を通過した光が光吸収層23で吸収される。より具体的には、p層4を通過した光のうち、第1障壁層23aのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光、第2障壁層23bのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光、及び、量子ドット23dのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光が吸収され、光吸収層23でキャリアが生成される。
第2障壁層23bで生成された正孔の一部は、よりエネルギー的に安定な隣接する量子ドット23dに、残りの大部分は、よりエネルギー的に安定な隣接する第1障壁層23aに移動する。また、量子ドット23dで生成された正孔は、量子ドット23dの量子準位(例えば、第1閉じ込め準位V1)に留まる。これらの正孔は、さらなる光吸収により、二段階目の励起がなされて(又は、正孔同士でエネルギーの授受を行って)エネルギーを高めることで、第1障壁層23aに移動することができる。このような過程を経て、第2障壁層23bや量子ドット23dの正孔は、すべて第1障壁層23aに移動する。第1障壁層23aで生成された正孔や、第1障壁層23aに移動した正孔は、内部電界によるドリフトによって、量子ドット23dが存在しない領域の第2障壁層23bをトンネル伝導によって通過することにより、現在の第1障壁層23aよりも櫛形電極5側に配置されている第1障壁層23aへと移動する。そして、一番上の第1障壁層23aに達した正孔は、p層4を経て櫛形電極5へと達する。
一方、第2障壁層23bで生成された電子の一部は、よりエネルギー的に安定な隣接する量子ドット23dに、残りの大部分は、よりエネルギー的に安定な隣接する第1障壁層23aに移動する。また、量子ドット23dで生成された電子は、当該量子ドット23dよりも裏面電極1側に存在する第2障壁層23bをトンネル伝導によって通過し、よりエネルギー的に安定な第1障壁層23aに移動することができる。第1障壁層23aで生成された電子、及び、第2障壁層23bや量子ドット23dから第1障壁層23aに移動してきた電子は、内部電界によるドリフトによって、量子ドット23dが存在しない領域の第2障壁層23bをトンネル伝導によって通過することにより、現在の第1障壁層23aよりも裏面電極1側に配置されている第1障壁層23aへと移動する。こうして、一番下に配置されている第1障壁層23aに達した電子は、n型基板2を経て、裏面電極1へと達する。
このように、太陽電池20では、量子ドット23dで生成された電子、又は、第2障壁層23bから量子ドット23dに流入した電子は、トンネル伝導によって速やかに、エネルギー的に安定な第1障壁層23aに移動することができる。また、一旦第1障壁層23aに移動した電子は、CBMD’−CBM1’、及び、CBM2’−CBM1’が共に電子の熱エネルギー(kT)よりも大きいことにより、量子ドット23dや第2障壁層23bに再流入することは妨げられる。一方、量子ドット23dで生成された電子、又は、第1障壁層23aや第2障壁層23bから流入した正孔は、光吸収(又は再落ち込みする正孔とのエネルギー授受)によりエネルギーが励起されて第1障壁層23aに移動するまでは量子ドット23dに留まる必要がある。しかし、電子は速やかに量子ドット23dより第1障壁層23aに移動し、量子ドット23dに対して第2障壁層23bにより隔離された第1障壁層23aに存在する。そのため、量子ドット23d内の正孔は、再結合する電子が同量子ドット23dに存在しないため、光吸収によって再励起されるまで長時間に亘ってエネルギーを失わずに、第1閉じ込め準位V1に留まることができる。これは、電子が量子ドット23dに存在する正孔と空間的に分離された位置に分布するため、量子ドット23d内の正孔の波動関数と、第1障壁層23a内の電子の波動関数との重なりが小さくなることで、輻射再結合の確率を低減することができる効果である。この効果により、太陽電池20では、変換効率を向上させることが可能になる。
このような効果を奏する太陽電池20は、太陽電池10と同様の方法によって作製することができる。太陽電池20において、第1障壁層23aは例えばSi等によって構成することができ、第2障壁層23bは例えばGaPやGaAs等によって構成することができ、量子ドット23dは例えばGe等によって構成することができる。
太陽電池20に関する上記説明では、VBM2’がVBM1’よりも下方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の中間準位型光電変換素子が、量子ドットの価電子帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の価電子帯上端は第1障壁層の価電子帯上端と同じ高さであっても良く、第2障壁層の価電子帯上端は第1障壁層の価電子帯上端よりも上方に位置していても良い。
また、太陽電池20に関する上記説明では、CBM2’がCBMD’よりも上方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の光電変換素子が、量子ドットの価電子帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の伝導帯下端は、第1障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との間に位置していても良い。かかる形態とする場合、量子ドット内の電子は、トンネル伝導に依らなくても、第2障壁層を経由して第1障壁層へと達することができる。それゆえ、かかる形態の場合には、CBM2’がCBMD’よりも上方に位置している場合と比較して、第2障壁層の厚さを厚くすることができる。
本発明に関する上記説明では、第1障壁層、第2障壁層、及び、量子ドットが光吸収層に用いられる形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。そこで、本発明が採り得る他の形態について、以下に説明する。
図5は、第3実施形態にかかる本発明の太陽電池30を簡略化して示す断面図である。図5では、繰り返される一部符号の記載を省略しており、太陽電池10と同様の構成には、図1及び図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図5に示したように、太陽電池30は、反射板31と、該反射板31の上面に配設された波長変換層32と、該波長変換層32の上面に配設された透明電極33と、該透明電極33の上面に形成されたn層34と、該n層34の上面に形成されたi層35と、該i層35の上面に形成されたp層4と、該p層4の上面に形成された櫛形電極5と、を有している。太陽電池30は、アップコンバージョン型の太陽電池である。波長変換層32は、第1障壁層3a、3a、…と、第2障壁層3b、3bと、複数の量子ドット3d、3d、…と、第3障壁層32a、32a、32a(以下において、単に「第3障壁層32a」ということがある。)と、を有している。すべての量子ドット3d、3d、…の上面及び下面は第2障壁層3b、3bと接触しており、量子ドット3d、3d、…と第1障壁層3aとの間に、第2障壁層3bが配設されている。そして、第1障壁層3a、3a、…の、量子ドット3dに面する側(第2障壁層3b、3bが配設されている側)とは反対側に、第3障壁層32a、32a、32aが配設されている。
図6は、波長変換層32を説明するバンド図である。図6において、「●」は電子であり、「○」は正孔である。図6の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図6の紙面左右方向は、図5の紙面上下方向と対応している。図6に示したように、量子ドット3dの価電子帯上端VBMDは第1障壁層3aの価電子帯上端VBM1よりも下方に位置し、量子ドット3dの伝導帯下端CBMDは第1障壁層3aの伝導帯下端CBM1よりも下方に位置しており、量子ドット3dの伝導帯には第1閉じ込め準位C1が形成されている。また、第2障壁層3bの価電子帯上端VBM2は第1障壁層3aの価電子帯上端VBM1よりも下方に位置し、VBM1−VBMD及びVBM1−VBM2が共に、太陽電池30の使用時に正孔が受け取る熱エネルギー(kT)よりも大きいことが好ましい。さらに、第2障壁層3bの伝導帯下端CBM2は第1障壁層3aの伝導帯下端CBM1よりも上方に位置し、第2障壁層3bの価電子帯上端VBM2は量子ドット3dの価電子帯上端VBMDよりも下方に位置している。加えて、第3障壁層32aの伝導帯下端CBM3は第1障壁層3aの伝導帯下端CBM1よりも上方に位置し、第3障壁層32aの価電子帯上端VBM3は第1障壁層3aの価電子帯上端VBM1よりも下方に位置している。波長変換層32において、CBM3とCBM1とのエネルギー差は、太陽電池30の使用時に電子が受け取る熱エネルギー(kT)よりも大きく、VBM3とVBM1とのエネルギー差は、太陽電池30の使用時に正孔が受け取る熱エネルギー(kT)よりも大きい。
太陽電池30に太陽光が入射すると、p層4、i層35、及び、n層34(以下において、これらをまとめて「光電変換層」ということがある。)で光が吸収され、これらの層で吸収されなかった光(低エネルギーの光等)が透明電極33を通過して波長変換層32へと達する。p層4、i層35、及び、n層34で光が吸収されることにより生成された電子は透明電極33に収集され、生成された正孔は櫛形電極5の方へと移動する。
一方、波長変換層32に達した光は、第1障壁層3a、第2障壁層3b、及び、量子ドット3dで吸収される。これらの層で光が吸収されることにより生成された電子は、太陽電池10における光吸収層3の場合と同様にして第1障壁層3aへと移動することができ、生成された正孔は、太陽電池10における光吸収層3の場合と同様にして第1障壁層3aへと移動することができる。ここで、CBM3とCBM1とのエネルギー差は、太陽電池30の使用時に電子が受け取る熱エネルギーよりも大きく、VBM3とVBM1とのエネルギー差は、太陽電池30の使用時に正孔が受け取る熱エネルギーよりも大きい。そのため、第1障壁層3aへと移動した電子及び正孔は、第3障壁層32aを通過し難く、第1障壁層3aにおいて輻射再結合することにより、発光しやすい。こうして波長変換層32で生成された光のうち、透明電極33側へと進む光は、透明電極33を通過してn層34、i層35、及び、p層4へと達することができ、これらの層で吸収される。これに対し、波長変換層32で生成された光のうち、反射板31側へと進んだ光は、反射板31によって透明電極33側へと反射され、その後、透明電極33を通過してn層34、i層35、及び、p層4へと達し、これらの層で吸収される。太陽電池30では、このような過程を経て、電気エネルギーを取り出すことができる。
太陽電池30では、第1障壁層3a、第2障壁層3b、及び、量子ドット3dが、波長変換層32に用いられている。このような形態であっても、電子の波動関数と正孔の波動関数との重なりを小さくすることができ、量子ドット3dにおける輻射再結合の確率を低減して第1障壁層3aにおける輻射再結合の確率を増大することが可能になる。第1障壁層3aにおける輻射再結合の確率を増大することにより、i層35等で吸収される光を増大することが可能になるので、太陽電池30によれば、変換効率を向上させることが可能になる。
太陽電池30は、例えば以下の工程を経て作製することができる。太陽電池30における波長変換層32を作製する際には、GaAs基板、サファイア基板、ガラスやプラスチック基板上に、有機金属気相成長法(MOCVD)や、分子線エピタキシー法(MBE)等によって代表される気相成長法や、真空蒸着法等の公知の方法により、Ga(Al)As、ZnS、Ga(Al)N等によって構成される第3障壁層32aを形成する。続いて、同手法にてGaAsSb、AlP、ZnTe等によって構成される第1障壁層3aを、第3障壁層32aの上面に形成する。続いて、Stranski-Kraxtanov(SK)モード等の公知の方法により、InAs、InN、CdSe等によって構成される量子ドット3dを形成する。その後、以下同様にして、量子ドット3dの上面に第2障壁層3bを形成し、第2障壁層3bの上面に第1障壁層3aを形成し、第1障壁層3aの上面に第3障壁層32aを形成する過程を繰り返すことにより、波長変換層32を形成する。波長変換層32を形成した後、最下面の基板の裏に、金属蒸着等の公知の技術を用いて、反射板31を形成する。
一方、光電変換層である、n層34、i層35、及び、p層4は、公知の単接合太陽電池と同じ工程を経て作製することができる。例えば、n層34として、n型GaAs基板を用い、有機金属気相成長法(MOCVD)や、分子線エピタキシー法(MBE)等によって代表される気相成長法や、真空蒸着法等の公知の方法により、GaAs等の材料で構成されるi層35を形成する。さらに、i層35の上面にBeドープGaAs等の材料で構成されるp層4を形成することで、光電変換層を形成することができる。なお、光電変換層は他にも公知の技術で作製される、Si太陽電池、HIT太陽電池、CIGS太陽電池、色素増感太陽電池でも当然用いることができる。また、p層4とn層34とを入れ替えた構造であっても良い。
光電変換層作製後、p層4の上面に、蒸着法、リソグラフィ等の公知の方法により、Al、Au、Ag,In等によって構成される櫛型電極5を形成する。さらに、n層34の下面に、スパッタ蒸着等の公知の方法により、ITO(Indium Tin Oxide)等で構成される透明電極33を形成する。
以上で作製された光電変換層における透明電極33の下面と、波長変換層32における最上面の第3障壁層32aの上面を、公知の技術による樹脂接着剤によって接着し、以上の工程をもって太陽電池30を作製することができる。
太陽電池30において、n層34の厚さは、GaAs等の直接遷移型半導体の場合は波長変換された光がi層35まで到達できるように、100nm程度以下とすることができる。一方、Si等の間接遷移型半導体はその限りでなく、数百nmでも良い。また、特に、波長変換層32において第1障壁層3aがGaAsSbで構成され、第2障壁層3bがGaAsで構成され、第3障壁層32aがGaAsで構成され、量子ドット3dがInAsで構成される場合、第1障壁層3aの厚さは例えば10nm以上30nmとすることができ、第2障壁層3bの厚さは例えば0.5nm以上4nm以下とすることができ、第3障壁層32aの厚さは例えば10nm以上50nm以下とすることができる。このほか、反射板31、透明電極33、及び、i層35の厚さは、他のアップコンバージョン型の太陽電池と同程度の厚さとすることができる。
太陽電池30に関する上記説明では、CBM2がCBM1よりも上方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明にかかるアップコンバージョン型の光電変換素子が、量子ドットの伝導帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の伝導帯下端は第1障壁層の伝導帯下端と同じ高さであっても良く、第2障壁層の伝導帯下端は第1障壁層の伝導帯下端よりも下方に位置していても良い。
また、太陽電池30に関する上記説明では、VBM2がVBMDよりも下方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明にかかるアップコンバージョン型の光電変換素子が、量子ドットの伝導帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の価電子帯上端は、第1障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との間に位置していても良い。かかる形態とする場合、量子ドット内の正孔は、トンネル伝導に依らなくても、第2障壁層を経由して第1障壁層へと達することができる。それゆえ、かかる形態の場合には、VBM2がVBMDよりも下方に位置している場合と比較して、第2障壁層の厚さを厚くすることができる。
図7は、第4実施形態にかかる本発明の太陽電池40を簡略化して示す断面図である。図7では、繰り返される一部符号の記載を省略しており、太陽電池20や太陽電池30と同様の構成には、図3乃至図6で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
図7に示したように、太陽電池40は、反射板31と、該反射板31の上面に配設された波長変換層41と、該波長変換層41の上面に配設された透明電極33と、該透明電極33の上面に形成されたn層34と、該n層34の上面に形成されたi層35と、該i層35の上面に形成されたp層4と、該p層4の上面に形成された櫛形電極5と、を有している。太陽電池40は、アップコンバージョン型の太陽電池である。波長変換層41は、第1障壁層23a、23a、…と、第2障壁層23b、23bと、複数の量子ドット23d、23d、…と、第3障壁層41a、41a、41aと、を有している。すべての量子ドット23d、23d、…の上面及び下面は第2障壁層23b、23bと接触しており、量子ドット23d、23d、…と第1障壁層23aとの間に、第2障壁層23bが配設されている。そして、第1障壁層23a、23a、…の、量子ドット23dに面する側(第2障壁層23b、23bが配設されている側)とは反対側に、第3障壁層41a、41a、41aが配設されている。
図8は、波長変換層41を説明するバンド図である。図8において、「●」は電子であり、「○」は正孔である。図8の紙面上側ほど電子のエネルギーが高く、紙面下側ほど正孔のエネルギーが高い。図8の紙面左右方向は、図7の紙面上下方向と対応している。図8に示したように、量子ドット23dの伝導帯下端CBMD’は第1障壁層23aの伝導帯下端CBM1’よりも上方に位置し、量子ドット23dの価電子帯上端VBMD’は第1障壁層23aの価電子帯上端VBM1’よりも上方に位置しており、量子ドット23dの価電子帯には第1閉じ込め準位V1が形成されている。また、第2障壁層23bの伝導帯下端CBM2’は第1障壁層23aの伝導帯下端CBM1’よりも上方に位置し、また、第2障壁層23bの伝導帯下端CBM2’は量子ドット23dの伝導帯下端CBMD’よりも上方に位置しており、CBMD’−CBM1’及びCBM2’−CBM1’が共に、電子の熱エネルギー(kT)よりも大きいことが好ましい。さらに、第2障壁層23bの価電子帯上端VBM2’は第1障壁層23aの価電子帯上端VBM1’よりも下方に位置している。加えて、第3障壁層41aの伝導帯下端CBM3’は第1障壁層23aの伝導帯下端CBM1’よりも上方に位置し、第3障壁層41aの価電子帯上端VBM3’は第1障壁層23aの価電子帯上端VBM1’よりも下方に位置している。波長変換層41において、CBM3’とCBM1’とのエネルギー差は、太陽電池40の使用時に電子が受け取る熱エネルギー(kT)よりも大きく、VBM3’とVBM1’とのエネルギー差は、太陽電池40の使用時に正孔が受け取る熱エネルギー(kT)よりも大きい。
太陽電池40に太陽光が入射すると、p層4、i層35、及び、n層34で光が吸収され、これらの層で吸収されなかった光(低エネルギーの光等)が透明電極33を通過して波長変換層41へと達する。p層4、i層35、及び、n層34で光が吸収されることにより生成された電子は透明電極33に収集され、生成された正孔は櫛形電極5の方へと移動する。
一方、波長変換層41に達した光は、第1障壁層23a、第2障壁層23b、及び、量子ドット23dで吸収される。これらの層で光が吸収されることにより生成された電子は、太陽電池20における光吸収層23の場合と同様にして第1障壁層23aへと移動することができ、生成された正孔は、太陽電池20における光吸収層23の場合と同様にして第1障壁層23aへと移動することができる。ここで、CBM3’とCBM1’とのエネルギー差は、太陽電池40の使用時に電子が受け取る熱エネルギーよりも大きく、VBM3’とVBM1’とのエネルギー差は、太陽電池40の使用時に正孔が受け取る熱エネルギーよりも大きい。そのため、第1障壁層23aへと移動した電子及び正孔は、第3障壁層41a、41aを通過し難く、第1障壁層23aにおいて輻射再結合することにより、発光しやすい。こうして波長変換層41で生成された光のうち、透明電極33側へと進む光は、透明電極33を通過してn層34、i層35、及び、p層4へと達することができ、これらの層で吸収される。これに対し、波長変換層41で生成された光のうち、反射板31側へと進んだ光は、反射板31によって透明電極33側へと反射され、その後、透明電極33を通過してn層34、i層35、及び、p層4へと達し、これらの層で吸収される。太陽電池40では、このような過程を経て、電気エネルギーを取り出すことができる。
太陽電池40では、第1障壁層23a、第2障壁層23b、及び、量子ドット23dが、波長変換層41に用いられている。このような形態であっても、電子の波動関数と正孔の波動関数との重なりを小さくすることができ、量子ドット23dにおける輻射再結合の確率を低減して第1障壁層41aにおける輻射再結合の確率を増大することが可能になる。第1障壁層41aにおける輻射再結合の確率を増大することにより、i層35等で吸収される光を増大することが可能になるので、太陽電池40によれば、変換効率を向上させることが可能になる。
このような効果を奏する太陽電池40は、太陽電池30と同様の方法によって作製することができる。太陽電池40において、第3障壁層41aは、例えば第3障壁層32aと同様の材料によって構成することができ、第3障壁層41aの厚さは、第3障壁層32aの厚さと同程度にすることができる。
太陽電池40に関する上記説明では、VBM2’がVBM1’よりも下方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明にかかるアップコンバージョン型の光電変換素子が、量子ドットの価電子帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の価電子帯上端は第1障壁層の価電子帯上端と同じ高さであっても良く、第2障壁層の価電子帯上端は第1障壁層の価電子帯上端よりも上方に位置していても良い。
また、太陽電池40に関する上記説明では、CBM2’がCBMD’よりも上方に位置している形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明にかかるアップコンバージョン型の光電変換素子が、量子ドットの価電子帯側に量子準位が形成される形態である場合、第2障壁層の伝導帯下端は、第1障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との間に位置していても良い。かかる形態とする場合、量子ドット内の電子は、トンネル伝導に依らなくても、第2障壁層を経由して第1障壁層へと達することができる。それゆえ、かかる形態の場合には、CBM2’がCBMD’よりも上方に位置している場合と比較して、第2障壁層の厚さを厚くすることができる。
本発明に関する上記説明では、Stranski-Kraxtanov(SK)モード等で量子ドットが作製され、且つ、第2障壁層が薄膜によって構成されている形態を例示したが、本発明の光電変換素子は当該形態に限定されない。本発明に用いられる量子ドットは、コアシェル型の構造であっても良い。
図9Aは、コアシェル型量子ドットを用いた光電変換層93を説明する断面図である。図9Aでは繰り返される一部符号の記載を省略している。粒子状物質50dは、中心部(コア部)に粒状の量子ドット50xを有し、この量子ドット50xの表面が第2障壁層50bによって覆われている。この粒子状物質50d、50d、…は、第1障壁層50aに埋め込まれている。このような形態の光電変換層93は、太陽電池10の光電変換層3や太陽電池20の光電変換層23と置換することで、太陽電池10や太陽電池20と同等の機能を有し、変換効率を向上させることが可能な光電変換素子を提供することができる。
図9Bは、コアシェル型量子ドットを用いた波長変換素子92を説明する断面図である。粒子状物質51dは、中心部(コア部)に粒状の量子ドット50xを有し、この量子ドット50xの表面が第2障壁層50bによって覆われ、この第2障壁層50bの表面が第1障壁層50aによって覆われ、さらに第1障壁層50aの表面が第3障壁層51aによって覆われている。この粒子状物質51d、51d、…は、公知の樹脂、半導体で構成される母材51bに埋め込まれている。このような形態の波長変換素子92は、太陽電池30の波長変換層32や太陽電池40の波長変換層41と置換することで、太陽電池30や太陽電池40と同等の機能を有し、変換効率を向上させることが可能な光電変換素子を提供することができる。
本発明の光電変換素子に粒子状物質50dや粒子状物質51dを用いる場合、複数の粒子状物質50d、50d、…を分散させた光吸収層や複数の粒子状物質51d、51d、…を分散させた波長変換層は、公知の液相合成法を用いて作製することができる。すなわち、真空設備を用いることなく、光吸収層や波長変換層を作製することができるので、製造コストを低減することが可能になる。また、粒子状物質50dや粒子状物質51dでは、量子ドット50xの大きさ(直径)を、量子ドットの合成時間により制御することができるほか、様々な母材(半導体や樹脂)に粒子状物質50dや粒子状物質51dを埋め込むことができるので、Stranski-Kraxtanov(SK)モード等によって作製した量子ドットが用いられる場合と比較して、設計の自由度を高めることができる。さらに、リガンド(量子ドットの周りに設けた分子)の種類や大きさ等を調整することにより、隣り合う量子ドットの間隔を制御することが容易になる。したがって、粒子状物質50dや粒子状物質51dを用いる形態とすることにより、光電変換素子の性能を容易に制御することが可能になる。
本発明に関する上記説明では、図2、図4、図6、及び、図8に示したように、量子ドットを中心にしてバンド構造が左右対称である形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。量子ドットの一方の側と他方の側とで、非対称なバンド構造にすることも可能であるほか、量子ドットとの距離に応じて組成を徐々に変更した第2障壁層や第1障壁層を用いることにより、伝導帯下端や価電子帯上端を傾斜させた形態とすることも可能である。
以下、実施例を参照しつつ、本発明についてさらに具体的に説明する。
本発明の構造による寿命向上効果を検証するための計算方法について、以下に説明する。この計算結果は、図10に示したバンド構造に依存するパラメータによって決まり、特定の材料には限定されないが、材料によって決まる電子・正孔の有効質量に依存して、寿命向上効果の大小は変化する。図10において、d(第1障壁層)は第1障壁層の厚さであり、d(第2障壁層)は第2障壁層の厚さであり、d(QD)は量子ドットの高さである。また、ΔCBMは第1障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差であり、Veは第2障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差であり、Vhは第2障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との差であり、ΔVBMは第1障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との差である。また、εe (m)は量子ドットの伝導帯側に形成された第m準位の量子準位エネルギーであり、εh (n)は第1障壁層の価電子帯側に形成された第n準位の量子準位エネルギーであり、εg (QD)は量子ドットのバンドギャップエネルギーである。
図10に示したバンド構造におけるポテンシャルV(r)と、各層における電子及び正孔の有効質量m*を用いて、有効質量近似により電子及び正孔の波動関数とエネルギーの計算を行う。この計算は、文献1(Chu-Wei Jiang and Martin A. Green, J. Appl. Phys., Vol.99, p.114902 (2006))を参考にして行った。
電子の波動関数は下記式(1)のように表され、正孔の波動関数は下記式(2)のように表される。
ここで、A(m)(r)は電子の包絡関数、φe(r−R)は電子のワニエ関数、B(n)(r)は正孔の包絡関数、φh(r−R)は正孔のワニエ関数、m及びnは準位の指数、Rは原子位置である。ワニエ関数は、用いる材料によって決まる、原子の周期的ポテンシャルにおける固有関数である。一方、包絡関数は、図10に示したエネルギーバンド構造におけるポテンシャル中の有効ハミルトニアンの固有関数である。有効ハミルトニアンは下記式(3)で表される。
ここで、m*は電子又は正孔の有効質量、V(r)はポテンシャルである。
以上で求めた電子及び正孔の波動関数とエネルギーを用いて、寿命の計算を行う。詳細な計算方法は、文献2(M. Califano, A. Franceschitti and A. Zunger, Nano Lett., Vol.5, p.2360 (2005))に開示されている。今回の計算では、包絡関数の微分変化量が、ワニエ関数の微分変化量に対して十分に緩やかであるという条件を近似として用いた。この条件下において、ある原子のワニエ関数が有限の値を持つ範囲内で、包絡関数の値は一定であるとみなすことができる。なお、光学遷移行列要素は、下記式(4)で表される。
ここで、pbulkはバルクの光学遷移行列要素である。
電子及び正孔がボルツマン分布に従うとすると、輻射再結合寿命は以下の式で表すことができる。
ここで、式(6)の4nF2α/3c2におけるnは屈折率、Fは局所場因子、αは微細構造因子、cは光速度であり、εe (m)は電子のエネルギー、εh (n)は正孔のエネルギー、εg (QD)は量子ドットのバンドギャップエネルギー、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
なお、図10に示した構造において、量子ドット内で発生した正孔は速やかに第2障壁層をトンネル効果によって透過して第1障壁層のVBMに移動しなければならない。本性能に関しては、文献3(N. Harada and S. Kuroda, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.25, p.L871-L873 (1986))に記載されている方法を用いて、透過にかかる時間がキャリア寿命より十分短い必要がある。以上から、第2障壁層の厚さdには、寿命向上効果を十分に得ることができ、且つ、速やかにトンネル効果による透過で正孔が移動できるような最適の厚さが存在する。
上記計算方法による計算結果及び実験結果を以下に示す。
<ケース1:量子ドットが用いられる形態(計算)>
InAs量子ドットがGaAs(第2障壁層及び第3障壁層)やGaAs1−xSbx(第1障壁層)に埋め込まれた構造の電子状態を計算し、その結果を用いて輻射再結合寿命及びトンネル伝導所要時間(透過にかかる時間)を求めた。計算で用いたモデルを図11に、計算で用いたモデルのエネルギーバンド構造を図12に、それぞれ示す。
ケース1の計算では、簡単化のために、図11に示したように量子ドットの形状を直方体とし、隣接する量子ドット間での相互作用はないと仮定した。この場合、図12に示したようなエネルギーバンド構造での電子状態を計算することで、輻射再結合寿命を導出できる。ケース1の計算では、第1障壁層(GaAs1−xSbx)の厚さを15nm、隣り合う量子ドットの中心の距離を31.6nm、図11の紙面左右方向の量子ドットの幅を20nm、図11の紙面上下方向の量子ドットの高さを5nmとした。また、図12に示した第2障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差Veを0.34eV、第2障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との差Vhを0.2eV、量子ドットのバンドギャップεg (QD)を0.97eV、第1障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差ΔCBMを0.34eV、InAsにおける電子の有効質量me *を0.04、InAsにおける正孔の有効質量mhh *を0.59、GaAs及びGaAs1−xSbxにおける電子の有効質量me *を0.0665、GaAs及びGaAs1−xSbxにおける正孔の有効質量mhh *を0.3774として、波動関数とεe (m)及びεh (n)とを求め、輻射再結合寿命を計算した。なお、パラメータは、第2障壁層の厚さd(第2障壁層)、及び、価電子帯オフセット量ΔVBM=VBM(量子ドット)−VBM(第1障壁層)とした。
室温(T=300K)条件下で、d(第2障壁層)を変えた時の輻射再結合寿命の計算結果を図13に示す。図13の縦軸は、InAs量子ドット及びGaAs障壁層のtypeI量子ドットにおける輻射再結合寿命の計算結果で規格化した輻射再結合寿命であり、横軸はd(第2障壁層)[nm]である。
図13に示したように、ΔVBMが0meV以下、つまりtypeIIのエネルギーバンドになっているケース1では、第2障壁層によって正孔の波動関数と電子の波動関数とが分離された結果、typeIのエネルギーバンドの場合と比較して、輻射再結合寿命を長くすることができた。また、価電子帯オフセット量の絶対値が大きくなるほど、輻射再結合寿命の向上効果が大きくなった。
また、図13に示したように、第2障壁層の厚さが厚いほど、輻射再結合寿命が長くなった。第2障壁層をGaAsで構成したケース1では、作製精度も考慮して、第2障壁層の厚さは0.5nm以上にすることが好ましい。
一方、第2障壁層の厚さが厚くなると、正孔が第2障壁層をトンネル効果によって通過することができなくなり、その結果、第1障壁層へ移動できなくなる。室温(T=300K)条件下で、d(第2障壁層)を変えた時に、量子ドットで生成された正孔がトンネル効果によって第2障壁層を通過する際の所要時間の計算結果を図14に示す。図14の縦軸は所要時間[ps]であり、横軸はd(第2障壁層)[nm]である。
量子ドットにおける輻射再結合を低減するためには、電子の寿命よりも十分早く、量子ドットで生成された正孔が第1障壁層へと移動する必要がある。文献4(M. Ono, K. Matsuda, T. Saiki, K. Nishi, T. Mukaiyama and M. Kuwata-Gonokami, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.38, p.L1460-L1462 (1999))によれば、電子の寿命は数nsであるので、第2障壁層をGaAsで構成したケース1では、第2障壁層の厚さは4nm以下にすることが好ましい。
以上より、ケース1の計算から、量子ドットと第1障壁層との間に第2障壁層を介在させる本発明によれば、輻射再結合寿命を増大させることが可能であった。また、第2障壁層をGaAsで構成する場合、第2障壁層の厚さを0.5nm以上4nm以下にするのが好ましいとの知見が得られた。
<ケース2:量子ドットが用いられる形態(実験)>
分子線エピタキシー装置(以下において、「MBE装置」という。)を用いて、GaAs基板の上面に、厚さ15nmの第1障壁層(GaAs0.82Sb0.18)を作製した。次いで、この第1障壁層の上面に、MBE装置を用いて、厚さ2nmの第2障壁層(GaAs)を作製した。次いで、この第2障壁層の上面に、MBE装置を用いて、面密度5×1010cm−2且つ高さ10nmの量子ドット(InAs)を、Stranski-Kraxtanov(SK)モードによって作製した。次いで、この量子ドットの上面に、MBE装置を用いて、量子ドットの頂点の上に作製される第2障壁層の厚さが2nmとなるように、第2障壁層(GaAs)を作製した。次いで、この第2障壁層の上面に、MBE装置を用いて、厚さ15nmの第1障壁層(GaAs0.82Sb0.18)を作製した。次いで、この第1障壁層の上面に、MBE装置を用いて、厚さ50nmのGaAs層を形成した。以上の工程により、第2障壁層を有するサンプル1を作製した。また、第2障壁層を形成しないほかは上記工程と同様の工程により、第2障壁層を有しないサンプル2を作製した。サンプル1の断面図を図15に、サンプル2の断面図を図16に、それぞれ示す。
作製したサンプル1及びサンプル2について、時間分解フォトルミネッセンス法を用いて電子の寿命を測定した。サンプル1の測定結果を図17に、サンプル2の測定結果を図18に、それぞれ示す。図17及び図18の縦軸はカウント数であり、図17及び図18の横軸は時間[ns]である。
図17に示した結果は、下記式(7)によって表すことができる。また、図18に示した結果は、下記式(8)によって表すことができる。
式(7)及び式(8)の右辺第1項は電子の短寿命成分と関連し、右辺第2項は電子の長寿命成分と関連している。光電変換素子においては、長寿命成分が変換効率に大きく影響する。
式(7)より、サンプル1では、電子の長寿命成分の寿命が330nsであったのに対し、サンプル2では、電子の長寿命成分の寿命が108nsであった。すなわち、量子ドットと第1障壁層との間に第2障壁層を設けることにより、電子の寿命を大幅に増大させることが可能であった。
<ケース3:コアシェル型の構造が用いられる場合(計算)>
表面が第2障壁層(GaAs)によって覆われた粒状のInAs量子ドットが第1障壁層(GaAs1−xSbx)に埋め込まれ、さらに当該第1障壁層が第3障壁層(GaAs)に埋め込まれた場合を仮定した構造の電子状態を計算し、その結果を用いて輻射再結合寿命を求めた。計算で用いたモデルを図19に、計算で用いたモデルのエネルギーバンド構造を図20に、それぞれ示す。
ケース3の計算では、簡単化のために、図19に示したように量子ドットの形状を立方体とし、隣接する量子ドット間での相互作用はないと仮定した。この場合、図20に示したようなエネルギーバンド構造での電子状態を計算することで、輻射再結合寿命を導出できる。ケース3の計算では、第1障壁層の厚さを17.1nmとし、立方体と仮定した量子ドットの一辺の長さを10nmとした。また、図20に示した第2障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差Veを0.34eV、第2障壁層の価電子帯上端と量子ドットの価電子帯上端との差Vhを0.2eV、量子ドットのバンドギャップεg (QD)を0.97eV、第1障壁層の伝導帯下端と量子ドットの伝導帯下端との差ΔCBMを0.34eV、InAsにおける電子の有効質量me *を0.04、InAsにおける正孔の有効質量mhh *を0.59、GaAs及びGaAs1−xSbxにおける電子の有効質量me *を0.0665、GaAs及びGaAs1−xSbxにおける正孔の有効質量mhh *を0.3774として、波動関数とεe (m)及びεh (n)とを求め、輻射再結合寿命を計算した。なお、パラメータは、第2障壁層の厚さd(第2障壁層)、及び、価電子帯オフセット量ΔVBM=VBM(量子ドット)−VBM(第1障壁層)とした。
室温(T=300K)条件下で、d(第2障壁層)を変えた時の輻射再結合寿命の計算結果を図21に示す。図21の縦軸は、InAs量子ドット及びGaAs障壁層のtypeI量子ドットにおける輻射再結合寿命の計算結果で規格化した輻射再結合寿命であり、横軸はd(第2障壁層)[nm]である。
図21に示したように、ΔVBMが0meV以下、つまりtypeIIのエネルギーバンドになっているケース3では、第2障壁層によって正孔の波動関数と電子の波動関数とが分離された結果、typeIのエネルギーバンドの場合と比較して、輻射再結合寿命を長くすることができた。また、価電子帯オフセット量の絶対値が大きくなるほど、輻射再結合寿命の向上効果が大きくなった。
また、図21に示したように、第2障壁層の厚さが厚いほど、輻射再結合寿命が長くなった。すなわち、コアシェル型の構造とする場合も、第2障壁層の厚さを厚くするほど、輻射再結合寿命を長くすることが可能であった。
<ケース4:キャリア寿命向上による光電変換効率向上を示す計算>
光電変換効率の計算には、文献5(A. Luque and A. Marti, Phys. Rev. lett., Vol.78, p.5014-5017 (1997))による方法を基本として用い、量子ドット内での二段階励起効率について計算した。文献5によると、すべての光を吸収する場合は、量子ドット内へのキャリア生成レートG0 1st、量子ドット内のキャリアがさらに励起される二段階目励起レートG0 2ndは次式で示される。
式(9)及び式(10)において、hはプランク定数、cは光速度、kはボルツマン定数、TSは太陽温度、fwは太陽・地球の直径や距離で決まる係数で2.16×10−5である。また、Eはエネルギー、E1stは量子ドット内準位と価電子帯端とのエネルギー差、E2ndは伝導帯端と量子ドット内準位とのエネルギー差、Egは量子ドットに接触している材料のバンドギャップエネルギーである。
上記式(9)及び式(10)に、公知であるランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)によって有限の吸収厚さl、公知である光吸収量を決定するフェルミ因子を考慮するため量子ドット内準位の占有率z、及び、量子ドットの有効吸収断面積を考慮するためにAQDを導入して、実際のキャリア生成レートG1st及び二段階目励起レートG2ndを次式のように導出した。
式(11)及び式(12)において、Xは集光倍率、α1stは価電子帯から量子ドット内準位へ励起される場合の吸収係数、α2ndは量子ドット内準位から伝導帯へ励起される場合の吸収係数である。
また、量子ドット内準位のキャリア寿命をτとするとき、量子ドット内準位に存在するキャリアが再結合により消滅する、再結合レートRτは、次式で表すことができる。
式(13)において、NQDは、単位面積当たりの量子ドットに存在できるキャリア状態密度である。寿命の逆数は、1つの準位において常にキャリアが存在する場合、単位時間にいくつのキャリアが再結合するかを示す。さらに、zNQDは単位時間当たりに存在するキャリア数を示す。この両者を掛け合わせることで単位時間、単位面積当たりで再結合するキャリアの数、つまり再結合レートが求められる。
占有率zは、中間準位のキャリア収支が定常状態になることから、以下の式を解けばよい。
今回の計算では、TS=5760K、E1st=1.5eV、E2nd=0.9eV、Eg=2.4eV、l=5nm、AQD=0.46とした。キャリア状態密度NQDは1.3×1011cm−2とし、α1st=α2nd=1×104cm−1と仮定した。以上の式、条件を用いて、量子ドット内準位のキャリア寿命τ=1ms、1μs、100ns、1nsの場合について、二段階励起効率η2nd=G2nd/G1stを計算した。η2ndと集光倍率Xとの関係を図22に示す。図22の縦軸は二段階励起効率η2nd、横軸は集光倍率Xである。
図22に示したように、キャリア寿命τが長いほど、量子ドット内で二段階目に励起することができる効率(二段階励起効率η2nd)が向上した。
次に、二段階励起効率η2ndと、中間準位型光電変換素子の光電変換効率との相関について示す。光電変換効率の計算は、文献5による方法に準じたが、二段階励起効率η2ndを考慮に入れるため、量子ドット内準位におけるキャリア収支バランスの式に代えて、下記式(15)を用いて計算した。
以上の方法で計算した中間準位型光電変換素子の電流−電圧特性曲線(I−Vカーブ)、及び、光電変換効率を図23に示す。図23の縦軸は電流密度[A/m2]、横軸は電圧[V]である。
図23に示したように、キャリア寿命τが向上して二段階励起効率η2ndが高まると、光電変換効率が向上した。なお、本計算は中間準位型光電変換素子に基づく計算であるが、アップコンバージョン型光電変換素子においても同様に、二段階励起効率が向上することによる光電変換効率向上は当然可能である。