特許文献1では構造物全体を、地震力を負担する下層の構造体と、地震力を負担しない上層の構造体とに区分することで、上層の構造体を構成する柱と梁をピン接合することを可能にし、柱・梁間での曲げモーメントの伝達を不要にすることで、可動床を上層に配置している。しかしながら、可動床の設置層が上層寄りに限定される結果、地上1階から昇降させることできないため、例えば構造物構築時の資機材や備品等の目標階への搬入のために可動床の昇降を利用するようなことはできない。
特許文献2では構造物全体を、地震力を負担する構造体と、地震力を負担しない構造体とに平面内で区分しているため、可動床を資機材等の搬入のために利用することは可能である。
しかしながら、「可動床を支持する従構造体は主構造体が構成する空間内において主構造体に支持される」(請求項1)から、従構造体の全体、あるいは従構造体の主要部分は主構造体に包囲されるように内部に配置されるか(図1、図3)、主構造体を包囲するように水平二方向に均等に配置されることになる(図7、図9)。
特許文献2のいずれの例においても、可動床と主構造体を構成する鉛直部材は平面上、水平二方向に均等に配置される形になるため、短辺に対する長辺の比率の大きい平面形状の構造物への展開、あるいは対応(可動床の配置上の自由度)に限界がある。
一方、特許文献2では構造物の完成(竣工)後に可動床のレベルを変更することによって人の動線を変更することは可能である。例えば図7、図9の例ではコア壁等の複数の鉛直部材で構成される非可動床の領域を人の動線の経由地点として利用することで、人は層の相違する可動床間を移動することが可能である。図1、図3の例では鉛直部材が平面上の隅角部に位置するため、鉛直部材を人の動線が通過することはない。
但し、図7、図9の例における非可動床領域は平面上の中心に位置し、複数箇所に分散しないため、層の相違する可動床間を移動しようとすれば、必ず中心に位置する非可動床領域を通過しなければならず、他の経路を選択する余地がない。人が層の相違する可動床間を移動しようとするときに、平面上の中心に位置する非可動床領域を通過しなければならない意味で、動線の自由度が制限されている。
本発明は上記背景より、特許文献2の方法をより発展させ、特許文献2における非可動床領域を複数箇所に分散させ、可動床の配置上の自由度と動線の自由度を高めることを可能にする可動床内蔵構造物及びその構築・改装方法を提案するものである。
請求項1に記載の発明の可動床内蔵構造物は、平面上、一方向に間隔を置いて配列する複数の主架構と、隣接する主架構間に架設され、隣接する主架構を互いに連結する主桁を備え、少なくとも前記主架構以外の平面上の領域に、昇降自在な可動床が配置された可動床領域が形成された柱・梁の架構であり、
前記主架構は前記一方向に交差する方向に対向し、複数本の主柱から構成される組柱と、この対向する組柱間に架設される主梁を基本の構成要素とし、前記一方向に隣接する主架構間に間柱が配列し、
前記柱・梁の架構は平面上、前記主架構の配列方向には前記主架構の前記対向する組柱で区画された領域と、隣接する前記主架構間に挟まれた領域とに区分され、平常時には前記主架構の対向する前記組柱で区画された領域は前記可動床領域に変更可能な、前記可動床が配置されない非可動床領域になり、前記主架構間に挟まれた領域は前記可動床が配置された前記可動床領域になり、前記非可動床領域と前記可動床領域は前記主架構の配列方向に交互に配列し、
前記間柱に、もしくは前記主柱と前記間柱に前記可動床が昇降自在に支持されていることを構成要件とする。
主架構は構造物の基本の骨格となる架構であり、例えば構造物のスパン方向か桁行方向のいずれか一方向に間隔を置いて配列し、その配列方向である例えば桁行方向に隣接する主架構間に架設される主桁によって互いに連結される。各主架構内で主桁に交差する方向、例えば直交する方向には主梁が架設される。主梁は、主架構を構成し、主桁に交差する方向に対向する組柱間に架設され、その対向する組柱を互いに連結する。
請求項では主架構を構成する主梁と区別するために隣接する主架構間に架設される横架材を主桁と呼称しているが、主桁の架設方向が構造物の桁行方向であるか、スパン方向であるかは問われず、主架構の隣接方向に直交する方向等、交差する方向がスパン方向であるか、桁行方向であるかは問われない。主架構は構造物の骨格となり、後述のように人の動線の経由地点になり得るから、基本的(平面計画的)には主架構の対向する組柱間の空間に可動床は配置されず、組柱間の空間は非可動床領域になる。
但し、構造的には主架構に可動床を配置することは可能であり、その場合には主架構を含む構造物の全平面が複数の可動床から構成されることになり、レベル変更可能な複数の可動床の組み合わせ数が増加する。例えばある層(階)の全平面を一様に昇降させる場合から、主架構の領域を含め、可動床毎にレベルを相違させる場合まで、複数の可動床の配置パターンの選択肢が生じ、可動床のレベル変更の自由度が増すことになる。
構造物の平面(平面図)の形状、あるいは平面(平面図)が複数の図形の組み合わせからなる場合の基本の平面形状は方形とは限らず、多角形(凸多角形と凹多角形を含む)状の他、曲線を含む形状等である場合もある。このことから、構造物の平面内の方向が桁行方向とスパン方向のみでは特定されない場合もある関係で、明細書では主架構の配列方向を「主架構の隣接方向」と言い、主架構を構成する組柱の対向する方向を「主架構の隣接方向に交差する方向」と言っている。
主架構2はその隣接方向(例えば桁行方向)に直交する方向等、交差する方向である例えばスパン方向に対向する組柱3、3と、この対向する組柱3、3間に架設される主梁4から構成され、主架構2を隣接する方向に見たときには、主架構2は図3に示すように門形等のフレーム状に形成される。組柱3は複数本の主柱31の組み合わせからなり、2本の場合、主柱31は主架構2、2の隣接方向に並列し、4本以上の場合には主架構2、2の隣接方向とそれに交差する方向に並列する。組柱3は奇数本の主柱31から構成される場合もある。
例えばスパン方向(主架構の隣接方向に交差(直交)する方向)に対向する組柱の内、少なくとも一方の組柱が前記一方向(主架構の隣接方向)とそれに交差する方向(組柱が対向する方向)のそれぞれに配列する複数本の主柱から構成される場合には(請求項4)、各方向に隣接する主柱間の間隔(間隙)を、ブレース、耐震壁等の耐震要素を配置するための空間として利用可能になる。耐震要素にはダンパ、アクチュエータ等のエネルギ吸収装置の他、これらのエネルギ吸収装置を耐震壁と組み合わせた制震装置が含まれる。
この場合、少なくとも一方の組柱の、二方向のそれぞれに配列する複数本の主柱はそれぞれの方向に隣接する主柱間に配置される耐震要素によって水平二方向の耐震性能を確保する(請求項4)。二方向に配列する複数本の主柱間に耐震要素が配置される場合、二方向に耐震要素が配置される組柱は少なくとも4本の主柱から構成されることになる。各層(階)の耐震要素は高さ方向に連続すれば、連層耐震壁になる。
隣接する主柱間の耐震要素は主柱間に介在させられれば(配置されれば)よいため、耐震要素には主にブレース、耐震壁等が使用されるが、耐震要素10は図6に示すように上下に隣接する梁(つなぎ梁32、32)の、対向する側に固定される耐震壁10aと、この互いに分離し、対向する耐震壁10a、10a間に跨って設置されるダンパ10bから構成されることもある。ダンパには弾塑性ダンパ、摩擦ダンパ、粘性ダンパ、油圧シリンダ等、任意の形式のダンパ、アクチュエータ等の使用が可能であるが、図6に示す形式の弾塑性ダンパはエネルギ吸収の機能発揮後の交換がし易い利点がある。
主架構を構成し、対向する組柱の内、少なくとも一方の組柱が水平二方向の耐震性能を確保すれば、主架構の水平二方向の耐震性能を確保することになるから、他方の組柱内には必ずしも水平二方向に耐震要素が配置される必要はないが、その他方の組柱内にも水平二方向に耐震要素が配置されることもある。
組柱は少なくとも主架構の隣接方向に並列する2本の主柱から構成されるから、主柱は少なくともその方向(主架構の隣接方向、例えば桁行方向)に並列する。主柱は4本以上ある場合には主架構の隣接方向に交差する方向、例えばスパン方向にも並列する。
主梁は基本的に主架構を構成する組柱が対向する方向に、それぞれの組柱を構成する主柱間単位で架設される。例えば各組柱が主架構の隣接方向に並列する2本の主柱から構成される場合には、一方の組柱のいずれかの主柱と、それと組柱の対向方向に対になる他方の組柱の主柱との間に主梁が架設される。組柱の主柱が組柱の対向する方向に並列する場合、主梁はその主柱の並列方向に架設されるため、その並列する主柱は1本の主梁によって連結される。
主梁4、4は図3に示すように高さ方向(鉛直方向)に並列することもある。水平方向、あるいは高さ方向に並列する主梁4、4間には並列する主梁4、4の一体性を確保して梁としての剛性を高め、主架構2としての耐震性を向上させるためにブレース、あるいはトラス41が架設されることもある。主梁4は主架構2の隣接方向に交差する方向に架設されるから、主梁4、4間に架設されるブレースやトラス41は主架構2の耐震性を主梁4の架設方向に確保する役目を持つ。この場合、主架構2の耐震性はブレースやトラス41と請求項4の耐震要素10によって確保される。
主架構2、2の隣接方向の平面上の端部(縁部)には主架構2が配置される場合と、図1等に示すように配置されない場合があり、主架構2が配置されない場合には主架構2と共に構造物1の架構を構成し、主架構2と共に主として構造物1の鉛直荷重を負担する外周柱8が配置される(請求項2)。主架構2、2の隣接方向に配列する外周柱8は主桁5によって連結され、それに交差する方向に配列する外周柱8は主梁4によって連結されることにより主架構2と一体化する。
外周柱8が配置される場合(請求項2)、少なくとも隣接する主架構2、2間の空間、及び主架構2と外周柱8間の空間は可動床6が配置される可動床領域Bになるため、これらの空間には可動床6を支持する間柱7、あるいは間柱7と付加柱9が配置される。図7以下では「可動床領域B」を「可変階高空間」と表示している。隣接する「可変階高空間B、B」間の空間(領域)が「非可動床領域A」になる。
間柱7は主架構2、2の隣接方向には、主架構2の組柱3、3の内、組柱3、3が対向する側寄りに位置する主柱31と同一線上に配列し、主架構2の隣接方向(例えば桁行方向)に交差する方向(例えば直交する方向)に対向し、対になる。主架構2の隣接方向の平面上の端部(縁部)に主架構2が配置されない場合、その位置には外周柱8が配置されるから、その外周柱8の列の内、いずれかの外周柱8も、組柱3が対向する側寄りに位置する主柱31と同一線上に配列する。
主架構2の、組柱3が対向する側寄りに位置する主柱31と間柱7、及び外周柱8が主架構2の隣接方向に同一線上に配列することで、これら同一線上に位置する主柱31と間柱7、及び外周柱8は可動床6を昇降可能に支持する柱(床支持柱60)となる。
主架構2は主架構2内で対向する組柱3、3間距離をスパンとする空間を構成するため、隣接する主架構2、2間に配置される間柱3は主架構2の組柱3、3が対向する方向には、その対向する組柱3、3間距離に合わせた(等しい)距離を置いて対向する。
主架構2は前記のように基本的に平面上、非可動床領域Aになり、可動床6は主架構2の隣接方向には少なくとも隣接する主架構2、2間の領域に配置されるため、少なくとも隣接する主架構2、2間の領域が可動床領域Bになる。すなわち、主架構2が非可動床領域Aであるとしたとき、可動床領域Bは隣接する主架構2、2で挟まれた領域になるため、可動床領域Bは主架構2の主柱31、31と、主架構2の隣接方向に配列する間柱7、または間柱7と外周柱8とで区画される。
隣接する主架構間の領域(可動床領域B)内において、主架構2の隣接方向には鉛直部材として、主架構2を構成する主柱31と間柱7、及び外周柱8(床支持柱60)が配置されるから、1枚の可動床6は基本的に最小では主架構2の隣接方向に隣接する間柱7等(床支持柱60)と、それに交差する方向に対向する間柱7等(床支持柱60)とで区画された領域を平面積とする大きさになる。
この結果、可動床6の平面上の周囲には例えば2本の主柱31と2本の間柱7、または4本の間柱7、あるいは2本の間柱7と2本の外周柱8が位置するため、1枚の可動床6は少なくとも可動床6の隅角部(四隅)に配置される主柱31、もしくは間柱7、または主柱31と間柱7を含む、あるいは間柱7と外周柱8を含む4本の柱(床支持柱60)に分離(着脱)が自在な状態に連結されることによりこれらの柱(床支持柱60)に沿って昇降自在になる。
可動床6は基本的に最小で、主架構2の隣接方向には隣接する主柱31と間柱7間距離、または隣接する間柱7間距離、あるいは間柱7と外周柱8間距離の幅を持つが、この可動床6の(主架構隣接方向の)幅は隣接する主架構2、2の主柱31、31間距離、あるいは主柱31と外周柱8間距離の範囲内で自由に設定可能である。従って可動床6は最大では間柱7を飛ばし、隣接する主架構2、2の、間柱7寄りに位置する主柱31、31間距離、あるいは主柱31と外周柱8間距離に等しい幅を持つ。可動床6は最小と最大の中間では組柱3の主柱31と、1本の間柱7を飛ばした間柱7との間の距離に等しい幅を持つこともある。
以上のように1枚の可動床6は基本的に最小で、主架構2の組柱3を構成し、その組柱3の対向する側寄りに位置する2本の主柱31、31と、それに主架構2の隣接方向に隣接する2本の間柱7、7の、少なくとも計4本の柱(床支持柱60)で区画される大きさになる。または主架構2の隣接方向に隣接し、組柱3、3の対向する方向に対向する少なくとも4本の間柱7で区画される大きさ、あるいは組柱3、3の対向する方向に対向する2本の間柱7、7と、同一方向に対向する2本の外周柱8、8の、少なくとも計4本の柱(床支持柱60)で区画される大きさになる。
但し、図1において組柱3、3の対向する方向に対向する主柱31、31と、主架構2の隣接方向に隣接する主柱31、31、もしくは主柱31と外周柱8とで区画される可動床領域Bは破線で示すように間柱7を通る線で更に細かく区画され得るから、この破線の交点位置に上記した付加柱9が配置されることで、可動床領域Bが細分化されるため、その細分化された単位にまで可動床6を最小化することが可能である。この場合、図1の破線の交点位置に配置される付加柱9は床支持柱60に含まれる。
可動床6は直接、柱(床支持柱60)に昇降自在に支持される場合もあるが、可動床6の曲げ剛性を高めるために、あるいは柱(床支持柱60)との取り合いを容易にするために、図17〜図19に示すように小梁11を介して間接的に支持されることもある(請求項3)。
可動床6を支持する小梁11は主架構2が隣接する方向に隣接する前記いずれかの柱間、または前記主架構が隣接する方向に交差する方向に対向する前記いずれかの柱間に、可動床6と共に昇降可能に架設される(請求項3)。小梁11は主桁5架設方向(主架構2の隣接方向)に架設される場合と、主梁4架設方向に架設される場合の他、双方の二方向に架設される場合がある。よって図1における破線はまた、小梁11の架設(配置)位置も示している。
「主架構が隣接する方向に隣接するいずれかの柱間」とは、主桁5架設方向に隣接する主柱31と間柱7間、隣接する間柱7、7間、及び間柱7と外周柱8間を指し、「主架構が隣接する方向に交差する方向に対向するいずれかの柱間」とは、主桁5架設方向に交差する主梁4架設方向に隣接する主柱31、31間、間柱7、7間、外周柱8、8間を指す。隣接する間柱7、7間と対向する間柱7、7間には上記付加柱9が配置されることもあるが、これらの柱は可動床6を昇降自在に支持する意味から上記の通り、「床支持柱60」と総称できる。
可動床6が小梁11を介して柱(床支持柱60)に支持される場合、可動床6は小梁11に単純に支持されればよいため、可動床6自身に柱との接合(取り合い)のための、ブラケット(連結材13)等の接合部が形成される必要がないため、可動床6の構造が単純化される。小梁11は可動床6に一体化している場合と、別体である場合がある。
小梁11は可動床6を柱(床支持柱60)に支持させるために可動床6に付加されるから、可動床6を柱に支持させる上で必要な部分として、例えば可動床6の短辺方向両側に、もしくは長辺方向両側に、あるいは長辺方向と短辺方向の双方に配置される。
すなわち、小梁11は主架構2、2の隣接方向に隣接する間柱7、7間、もしくはそれに交差する方向に対向する間柱7、7間、または主柱31と間柱7間等(隣接する床支持柱60、60間)に、可動床6と共に昇降可能に架設される(請求項3)。「昇降可能」とは、可動床6の配置替えの機会や必要が生じたときに可動床6(小梁11)のレベルが変更可能であることを言う。可動床6、もしくは小梁11は可動床6の使用時には任意のレベルで停止した状態で柱(床支持柱60)に接合され、可動床6、もしくは小梁11の柱との接合が解除されたときに可動床6のレベルが変更可能になる。
可動床6、もしくは小梁11と柱(床支持柱60)とは、例えば図17〜図19に示すように可動床6(小梁11)から柱(床支持柱60)側へ、あるいは柱(床支持柱60)から可動床6(小梁11)側へ突設される、あるいは双方から突設されるブラケット(連結材13)が柱(床支持柱69)、もしくは可動床6(小梁11)に形成された挿通孔60a、13aを挿通するボルト12やピン等で接合されることにより互いに着脱自在な状態で取り合う。
平常時である可動床6の使用時には、可動床6(小梁11)に突設されたブラケット(連結材13)が柱(床支持柱60)に接合された状態に、あるいは柱に突設されたブラケット(連結材13)が可動床6(小梁11)に接合された状態に保たれることにより可動床6(小梁11)が柱に支持された状態を維持する。可動床6のレベルの変更時にはブラケット(連結材13)の接合状態を解除し、ブラケット(連結材13)を柱、あるいは可動床6(小梁11)から一時的に分離させることにより可動床6が昇降可能になる。
特許文献2では可動床のレベルを変更することによって人の動線を変更しようとする場合(図7、図9)、前記の通り、可動床は水平二方向に均等に配置される形になり、非可動床領域は平面上の中心に位置する。これに対し、本発明では非可動床領域Aになる主架構2が平面上の一方向(例えば桁行方向)に間隔を置いて配列し、隣接する主架構2、2間の領域に可動床6が配置される(可動床領域Bが形成される)ため、主架構2の配列方向に複数の非可動床領域Aを配置することが可能であり、平面上の一方向への可動床6の配置上の自由度が向上する。
構造物のある平面において主架構の配列方向に複数の非可動床領域Aが配置(形成)されることで、可動床のレベルの変更によって人の動線を変更する場合に、層の相違する可動床間を移動しようとするときに、複数の非可動床領域A、Aの内、いずれかを選択することができるため、経路選択の幅が広がり、動線の自由度が増すことになる。
可動床6が基本的に主架構2(非可動床領域A)以外の平面上の領域(可動床領域B)に配置されることで、複数の昇降自在な可動床6を、主架構2を飛ばして桁行方向に分散させて配列することができるため、いずれかの主架構2のいずれかの層(階)にいずれかの可動床6を停止(連続)させた状態を得ること、すなわち主架構2の任意の層に可動床6を停止(連続)させることが可能である。例えば主架構2の層数(階数)と可動床領域Bの数が等しければ、主架構2の全層に可動床6を停止(連続)させることができる。
主架構に隣接する可動床は外周柱を含め、間柱と、主架構を構成する主柱に昇降自在に支持されることにより主架構の任意の層で停止可能な状態になる。主架構に隣接しない可動床も同様に、四隅位置において間柱(間柱と外周柱)に任意のレベルで停止可能に支持されることにより任意のレベルで停止可能になる。
主架構の任意の層に可動床を停止させることができることで、可動床を構造物構築中のリフトとして利用した場合に、主架構の任意の層への構造部材や建設資機材、仮設部材等を効率的に搬入することが可能になる。構造物完成後には主架構の任意の層に可動床が停止できることで、可動床の配置替えの機会や必要が生じたときに、可動床のレベルの変更によって人の動線を自由に変更することが可能になる。
主架構2の層数(階数)と可動床領域Bの数が等しい場合を含め、可動床領域Bの数が主架構2の層数以上であれば、立面的には主架構2の全層(全階)にいずれかの可動床領域Bに配置された可動床6を停止(連続)させた状態を得ることができるため、最下層(最下階)の可動床6から最上層(最上階)の可動床6までいずれかの主架構2を経由して人が上昇し、降下する動線を描くことが可能になる。可動床6の昇降は構造物構築中の資機材等の搬入、構造物完成後の床(スラブ)の変更(配置替え)等の際に行われるため、人の上昇と降下はエレベータ、エスカレータ、階段等を通じて行われる。
主架構2、2(非可動床領域A、A)に挟まれた各可動床領域Bは前記の通り、基本的に可動床領域Bに位置する主架構2の主柱31とそれに隣接する間柱7、及び主架構2の隣接方向に隣接する間柱7、7で区画される領域単位に細分化され、この細分化された領域が可動床6の最小単位となる。主架構2の隣接方向の端部に外周柱8が配置される場合は、間柱7と外周柱8で区画される領域単位に細分化される。結局、可動床領域Bは少なくとも4本の床支持柱60で区画される領域単位に細分化され、その細分化された最小単位で可動床6のレベルの変更が可能になり、それだけ各可動床領域B内においてはレベルの変更パターン(変更の自由度)が増加する。
可動床内蔵構造物は図9、図10に示すようにその骨格となる請求項1における柱・梁の架構の構築終了後、請求項2における外周柱8の列とその外周に配列する補助柱91の列間の空間を利用して架構内部に建築資機材を搬入することにより完成させられる。また同様の手順によって可動床6の配置替えの機会や必要が生じたときの可動床6の配置替え(改装)が行われる(請求項5、請求項6)。建築資機材は仮設部材を含む。
請求項5は図9に示す手順で可動床内蔵構造物を完成させるか、完成後に可動床6の配置替えをする方法であり、請求項6は図10に示す手順で可動床内蔵構造物を完成させるか、完成後に可動床6の配置替えをする方法である。
請求項5、6のいずれの場合も、主架構2、2が隣接する方向の平面上の端部に配列する請求項2における外周柱8の外周側に、可動床6が配置された可動床領域Bから張り出す領域が形成され、その可動床領域Bから張り出した領域の縁の位置に補助柱91が配列させられており(図9、図10)、柱・梁の架構の構築終了後、補助柱91の列と外周柱8の列の間の空間を通じて柱・梁の架構の内部に建築資機材を搬入することが行われる。
請求項5では補助柱91の列と外周柱8の列の間の空間から柱・梁の架構内部(構造物内部)に建築資機材を搬入した後、柱・梁の架構内部に移行した領域である搬入領域の上空の空間を通じて建築資機材を地上階の各階へ搬送(上昇、もしくは垂直移動)することにより請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の構造物を完成させること、または請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の構造物における可動床の配置替えをすることが行われる。
搬入領域の上空の空間は少なくとも、建築資機材を搬送させるべき最上層までは吹抜けDの空間とされる。上記した「垂直移動」は上昇の他、降下を含むこともあるために併記している。降下を含む理由は、例えば地上1階から建築資機材を架構内部に搬入した後に地上2階以上の階に搬送(上昇)させる場合と、地上階への搬送と共に地下階への搬送(降下)が行われる場合があることによる。
搬入領域の上空の空間を通じて建築資機材を地上階の各階へ搬送した後には、可動床領域Bと非可動床領域Aを通ることにより、もしくは図9−(a)に3で示すように可動床領域Bと非可動床領域Aを迂回し、通路Cを通ることにより目的の可動床領域Bにまで建築資機材を搬送することが行われる。可動床領域Bと非可動床領域Aを通ることは主に両領域が共に未使用の状態にある構造物の完成前の段階で行われ、可動床領域Bと非可動床領域Aを迂回することは主に両領域が共に使用状態にある構造物完成後の可動床6の配置替えの際に行われる。
請求項6では補助柱91の列と外周柱8の列の間の空間から柱・梁の架構内部(構造物内部)に建築資機材を搬入した後、柱・梁の架構内部に移行した領域である搬入領域の上空の空間(吹抜けD)を通じて建築資機材を主架構の最上層まで一旦、上昇させることが行われる。
更に主架構の最上層の床を通じて前記いずれかの可動床領域まで建築資機材を水平移動させた後、いずれかの可動床領域において各可動床のレベルに応じて建築資機材を垂直移動させて請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の構造物を完成させること、または請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の構造物における可動床の配置替えをすることが行われる。ここでも「垂直移動」は上昇と降下を含む。
請求項5、6のいずれにおいても、請求項2における外周柱8の列とその外周に配列する補助柱91の列間の空間を利用して架構内部に建築資機材を搬入し、搬入領域の上空の空間を通じて建築資機材を地上階の各階へ搬送(上昇、もしくは垂直移動)することで、高さ方向の移動を効果的に遂行することができるため、搬入すべき目的階の可動床6の位置にまで迅速に建築資機材を搬入することが可能である。
また建築資機材の垂直移動の際には、不使用状態にある可動床6をリフトとして活用することができることで、エレベータの籠の内部に搬入できない規模の資機材の搬送も架構(構造物)の内部を通じて行うことができるため、天候に影響されず、また建物の周囲に作業空間がほとんどないような敷地においても搬入工事を遂行することが可能である。
加えて図9−(a)に示すように主架構2、2が隣接する方向に交差(直交)する方向に可動床領域Bと非可動床領域Aに並列する通路Cが確保されている場合には、可動床領域Bと非可動床領域Aの使用状態に応じ、経路を選択しながら、建築資機材を搬入することができるため、搬入の自由度が高い。
基本的に非可動床領域になる主架構が平面上の一方向(例えば桁行方向)に間隔を置いて配列し、少なくとも隣接する主架構間の領域に可動床を配置するため、主架構の配列方向に複数の非可動床領域を配置することができ、平面上の一方向への可動床の配置上の自由度が向上し、主架構の全層に可動床を停止(連続)させることもできる。
また主架構の配列方向に複数の非可動床の領域を配置することで、可動床のレベルの変更によって人の動線を変更する場合には、層の相違する可動床間を移動しようとするときに、複数の非可動床の領域の内、いずれかを選択することができるため、経路選択の幅が広がり、動線の自由度も増す。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は平面上、一方向に間隔を置いて配列する複数の主架構2と、隣接する主架構2、2間に架設され、隣接する主架構2、2を互いに連結する主桁5を備え、主架構2以外の平面上の領域に昇降自在な可動床6が配置された柱・梁の架構からなる可動床内蔵構造物(以下、構造物)1の具体例を示す。図1の立面を図2に、図2の側面を図3に示す。図4、図5は構造物1の架構を示している。
以下では図1に示す構造物1の平面形状から、便宜的に主架構2、2の隣接方向を桁行方向と言い、それに交差(直交)する方向をスパン方向と言うが、例えば構造物1の平面が長辺と短辺の差がないような形状をするような場合には、スパン方向に主架構2、2が隣接(配列)することもある。
主架構2は図1〜図3に示すようにその隣接方向に交差する方向に対向し、複数本の主柱31から構成される組柱3、3と、この対向する組柱3、3間に架設される主梁4を基本の構成要素とする。隣接する主架構2、2間には、最小単位の可動床6の範囲(領域)を区画し、可動床6の隅角部を支持する間柱7、あるいは間柱7と付加柱9が配列し、この間柱7に、もしくは主柱31と間柱7、あるいはこれらと付加柱9に可動床6が昇降自在に支持される。図6は組柱3を構成し、並列する主柱31、31間に配置される耐震要素10の例を示している。
スパン方向に対向する組柱3、3間には、主架構2、2の隣接方向(桁行方向)に配列する間柱7、あるいは間柱7と付加柱9と同じく、最小単位の可動床6の範囲(領域)を区画し、可動床6の隅角部を支持する役目を持つ間柱7が桁行方向の間柱7と同等程度の間隔を置いて配置される。対向する間柱7、7間には図1に二点鎖線で示すように付加柱9が配置される場合と配置されない場合がある。付加柱9が配置される場合、付加柱9は可動床領域B内の破線の交点位置に配置されるが、可動床6の平面積と平面形状の設定上の自由度が増す利点がある。
主架構2の対向する組柱3、3の内、少なくとも一方の組柱3は主架構2の隣接方向に並列する複数本の主柱31、31とその交差方向に並列する複数本の主柱31、31から構成される。少なくとも一方の組柱3を二方向に並列する主柱31から構成する理由は、並列する主柱31、31間の空間を耐震要素10の配置のために利用し、耐震要素10を水平二方向に向けて配置することで、主架構2の水平二方向の耐震性を確保するためである。この意味から、対向する組柱3、3の双方が二方向に並列する複数本の主柱31から構成される場合もある。
図1の下側に位置する組柱3のように組柱3が主架構2の隣接方向にのみ並列する主柱31、31から構成される場合には、その2本の主柱31、31は両主柱31、31間に耐震要素10が配置されることで、その組柱3においてその方向の耐震性を確保するために利用される。
組柱3が二方向に並列する複数本の主柱31から構成される場合、主架構2の隣接方向に交差する方向に並列する主柱31、31間の間隔(空間)は図1に示すように構造物1のコアとしてエレベータシャフト、階段室、パイプシャフト等を集約させることが可能である。この空間は主架構2が構成する平面上の非可動床領域Aに連続し、可動床6が配置される可動床領域Bと区画されるため、非可動床領域Aと共に人が構造物1内を水平方向に移動するための動線になる。
図面では主架構2の対向する組柱3、3の内、一方側(図1における上側)の組柱3を主架構2の隣接方向に並列する主柱31、31とその交差方向に並列する主柱31、31の計4本の主柱31から構成することで、その組柱3において主架構2の水平二方向の耐震性を確保することができているため、他方側(図1における下側)の組柱3を主架構2の隣接方向に並列する2本の主柱31、31のみから構成している。この他方側の組柱3は2本の主柱31、31から構成されながらも、その並列方向には耐震要素10の配置のために利用可能であるから、図面では並列する主柱31、31間に耐震要素10を配置している。
耐震要素10は並列する主柱31、31と、上下に並列する主桁5、5とで、もしくは図4、図5に示すように並列する主柱31、31間に、主柱31、31間単位で架設されるつなぎ梁32、32とで囲まれた領域単位で配置されるから、耐震要素10の形態は問われず、ブレース、耐震壁等が配置される。図面では主架構2が地震力を負担するときの振動エネルギ吸収効果を期待するために、図6に示すように並列する主桁5、5、もしくはつなぎ梁32、32の対向する面側に耐震壁10a、10aを固定し、両耐震壁10a、10aの対向する面間にエネルギ吸収装置としての鋼材(弾塑性)ダンパ10bを跨設している。
耐震要素10が耐震壁10aと鋼材ダンパ10bからなる場合、鋼材ダンパ10bは耐震壁10aがその面内方向の水平力を負担するときに、耐震壁10a側の固定端間で水平せん断力を負担し、このせん断力によって鋼材ダンパ10bの内部に生ずる曲げモーメントを受けて降伏することによりエネルギを吸収する。
対向する組柱3、3の各主柱31、31間には図3に示すように両柱を互いに連結する主梁4が架設され、組柱3、3が互いに主梁4によって繋がれることで、組柱3、3は主架構2として一体構造化する。主梁4は組柱3の構成(主柱31の配列状態)に応じ、水平方向、もしくは図示するように鉛直方向に並列する。
並列する主梁4、4間にはブレース、もしくはブレースが連続した形のトラス41が架設され、主架構2としての剛性と耐震性が確保される。図面では鉛直方向に並列する主梁4、4間に耐震要素としてのトラス41を架設することにより組柱3、3が対向する方向の耐震性を確保している。桁行方向に配列する主架構2、2の耐震性はその方向に架設される主桁5によって複数の主架構2が一体構造化し、水平力が複数の主架構2に分散される状態になることにより確保される。
図面では図3に示すように地上階の全層の内、1階から6階の床までに可動床6を配置し、1階から6階までの範囲を可変エリアにしているが、可動床6は地下階に配置されることも、地上階の最上層まで配置されることもある。図面では構造物1内の最上層に配置される可動床6が6階までであることに対応し、直上の7層に(階)の上層に主梁4とトラス41を架設している。
主架構2は基本的にスパン方向に対向する組柱3、3と、この組柱3、3間に架設される主梁4、及びトラス41から構成され、この主梁4とトラス41の架設層の下の層まで(可変エリア)に可動床6が配置される。主架構2は主梁4とトラス41の架設層までで完結するが、図面では主梁4とトラス41の架設層より上の層(11階)まで組柱3を連続させ、その可動床6の配置層(可変エリア)の上層の組柱3、3間に、複数層に亘って主梁4を架設している。それに伴い、主梁4架設層の桁行方向に主桁5を架設している。
主架構2が並列する主梁4、4間に架設されるトラス41等によってスパン方向の耐震性を確保し、主桁5によって桁行方向の耐震性を確保することで、主架構2と主桁5以外の架構構成要素である間柱7と付加柱9は主に自重と鉛直荷重を負担すればよく、地震力(水平力)の負担から解放される。後述の外周柱8は鉛直荷重に加え、地震力(水平力)を負担する。
主架構2の対向する組柱3、3間の空間は原則として平面上、可動床6が配置されない非可動床領域Aになり、隣接する主架構2、2の非可動床領域A、A間の空間は可動床6が配置される可動床領域Bになる。主架構2の組柱3、3間の空間には可動床6が配置されることもあり、非可動床領域Aが不在であることもある。
主架構2、2の隣接方向の平面上の端部(縁部)には主架構2が配置される場合もあるが、図面では構造物1の骨格である主架構2の構築が終了した段階での構造物1内への資機材等の搬入の便宜を考慮し、平面上の端部には搬入の障害になる可能性のある組柱3、3を有する主架構2を配置せず、代わりに主架構2と共に構造物1の架構を構成し、鉛直荷重を負担する外周柱8を配置している。主架構2の構築終了時からの構造物1内への資機材等の搬入は可動床領域Bに配置される可動床6をリフトとして利用することによっても行われる。
主架構2を構成し、主架構2の隣接方向に交差する方向に対向する組柱3、3の内、それぞれが対向する側に位置する主柱31、31と間柱7、及び外周柱8は主架構2、2の隣接方向(桁行方向)には同一直線上に配列し、この同一直線上に配列する各柱は主桁5によって繋がれる。
外周柱8は主架構2、2の隣接方向の平面上の端部に位置し、上記のように主架構2と共に可動床領域Bを区画するから、主架構2、2の隣接方向(桁行方向)に交差する方向(スパン方向)には間隔を置いて配列する。図1では平面上の右側に配列する外周柱8の外周側に、可動床領域Bから張り出す領域が形成されていることから、その可動床領域Bから張り出した領域の縁の位置に補助柱91を配置している。可動床領域Bを区画する主柱31、間柱7、外周柱8、付加柱9は可動床6を支持するから、これらの柱を「床支持柱60」と総称することもある。
可動床領域Bは図1に示すように桁行方向には主架構2の非可動床領域Aと外周柱8の列に挟まれるように配列し、主架構2の非可動床領域Aの両側に可動床領域B、Bが隣接する。可動床領域Bに配置される可動床6は鉛直方向には基本的に各層(階)に配置されるが、必ずしもその必要はなく、ある層の床を飛ばすこともある。
可動床6は可動床領域Bの全体を占める面積を持つ場合と、図1に破線で区画される一部の領域のみを占める面積を持つ場合があり、後者の場合、一可動床領域Bには一枚の可動床6、または複数枚の可動床6が配置される。複数枚の可動床6が配置される場合、その内の一枚の可動床6は一可動床領域B内の一部の領域を占めることになる。
一可動床領域B内に配置される最小単位の可動床6は桁行方向に隣接する床支持柱60と、スパン方向に対向する床支持柱60の4本の床支持柱60で区画される範囲の面積を持つ。よって最小単位の可動床6は桁行方向には隣接する間柱7、7間距離等、床支持柱60、60間距離に等しい幅を持ち、スパン方向には対向する床支持柱60、60間距離に等しい長さを持つことになる。
桁行方向に隣接する床支持柱60は主に主柱31とそれに隣接する間柱7、隣接する間柱7、7、または間柱7と外周柱8を指し、スパン方向に対向する床支持柱60は対向する主柱31、31、間柱7、7、または外周柱8、8を指すが、桁行方向に対向する主柱31と外周柱8間、及びスパン方向に対向する間柱7、7間には前記のように可動床6を細分化する付加柱9が配置されることもあるため、付加柱9も床支持柱60に含まれる。
可動床6は平面上の四隅位置において床支持柱60に直接、もしくは可動床6に一体化する小梁11を介して間接的に支持される。上記のように最小単位の可動床6は隣接する床支持柱60、60間距離の幅と、対向する床支持柱60、60間距離の長さを持ち、少なくともこれら4本の床支持柱60に支持されるから、可動床6に小梁11が一体化する場合、小梁11は隣接する床支持柱60、60間の方向、もしくは対向する床支持柱60、60間の方向の少なくともいずれかの方向に架設される。小梁11は可動床6の長辺方向に架設されることで、可動床6の曲げ剛性を確保する役目も果たすため、実際には長辺方向である床支持柱60の対向する方向に架設されることが合理的である。
可動床6に小梁11が一体化した場合の、小梁11を床支持柱60にレベル調整自在に接合されるための小梁11と床支持柱60との取り合いの例を図17〜図19に示す。可動床6が直接、床支持柱60に支持される場合も、レベル調整は同様に行われるため、可動床6と床支持柱60との取り合いは図17等の例と同様になる。
可動床6は少なくとも可動床6の隅角部に位置する4本の床支持柱60に昇降自在に支持されるよう、着脱自在に接合される。床支持柱60は前記の通り、主柱31、間柱7、外周柱8、及び可動床領域B内に配置される付加柱9を含む。可動床6は直接、もしくは小梁11を介して間接的に床支持柱60に接合される。「少なくとも4本の」とは、可動床6が隅角部において床支持柱60に支持されていれば、それに加えてその他の部分において床支持柱60に支持されていてもよい趣旨である。
図17〜図19は可動床6に接合されるか、埋め込まれる等により可動床6に一体化している小梁11と床支持柱60との接合例を示す。構造物1に作用する地震時の水平力は主架構2が負担することから、間柱7と外周柱8は主に鉛直荷重を負担すればよいため、これらの柱を含む床支持柱60と可動床6、あるいは小梁11は相対的に回転変形自在なピン接合されれば足りる。床支持柱60には主架構2を構成する主柱31も含まれるが、主柱31は可動床6に作用する水平力を負担できればよいため、可動床6とは間柱7や外周柱8と同様に接合されればよい。
可動床6、もしくは小梁11は床支持柱60の軸方向の任意の位置で床支持柱60に着脱自在に接合されるよう、接合には主にボルト12、もしくはピン等が使用される。これに対応し、床支持柱60には軸方向に間隔を隔ててボルト12等が挿通する挿通孔60aが形成される。挿通孔60a、60a間の間隔は可動床6のレベル調整の程度に応じて自由に設定され、間隔を小さくする程、細かい単位、例えば10数mm〜数10mm単位でレベル調整が行われる。
図17は床支持柱60と小梁11にH形鋼を使用した場合を示す。図面では1枚の可動床6に付き、小梁11を2本で一組として使用しているが、小梁11は1枚の可動床6に付き、1本、もしくは3本以上の場合もある。床支持柱60はそのフランジが小梁11の軸と平行になるように配置され、床支持柱60のフランジに小梁11のウェブが直接、または図示するように連結材13を介して間接的に接合される。小梁11に使用されるH形鋼が、ウェブがフランジの端面より突出する形で成型されている場合には小梁11のウェブを直接、床支持柱60のフランジに接合することもある。
図17の場合、床支持柱60のフランジと連結材13に、可動床6を床支持柱60に支持させるのに必要な複数本のボルト10が挿通するための挿通孔60a、13aが形成される。連結材13は小梁11のウェブに溶接されることもあるが、ボルト接合される場合には図示するように連結材13の、小梁11に重なる部分にも挿通孔13aが形成される。連結材13は小梁11を床支持柱60に接合したときの偏心を回避し、安定性を確保するために1本の小梁11に付き、ウェブを挟む形で並列して使用される。床支持柱60と連結材13の挿通孔60a、13aは構造物1の構築前に形成される他、可動床6のレベル変更時に形成される。
図18は床支持柱60に角形鋼管を使用した場合を示す。この場合、床支持柱60の本体に連結材13と取り合う部分がないことから、床支持柱60の幅方向(小梁11の幅方向)両側の、小梁11のウェブに対応した位置に、連結材13が接合されるためのフランジプレート61が溶接等により接合される。フランジプレート61への連結材13の接合要領は図10の場合と同じである。
床支持柱60は小梁11、または連結材13の連結により可動床6を支持することに加え、可動床6のレベル変更時に小梁11(可動床6)を昇降させるためのレールの機能を兼ねる。この関係で、図17、図18では床支持柱60に鉄骨部材を使用しているが、小梁11や連結材13との接合のためのブラケットを突設することができれば、床支持柱60を鉄筋コンクリート造(プレキャストを含む)で構築、もしくは製作することもある。
可動床6(小梁11)の昇降時、可動床6はその上方に位置する主桁5、または主梁4から懸垂するワイヤや鋼材により吊り支持されるか、下方においてジャッキやリフトにより支持され、その状態で可動床6の昇降が行われる。
可動床6の昇降時には床支持柱60を挿通しているボルト12が外され、小梁11、または連結材13が床支持柱60から分離させられる。床支持柱60を挿通しているボルト12が外されたとき、小梁11は床支持柱60に対して自由に昇降できる状態になるが、連結材13が床支持柱60に、その幅方向(小梁11の幅方向)のいずれの側にも係止するため、小梁11は連結材13をガイドとして昇降することができる。
図17、図18の場合、ボルト12が連結材13を床支持柱60に接合しているときに、床支持柱60のフランジと小梁11のフランジ端面との間にクリアランスが確保されているため、ボルト12を外し、可動床6を昇降させるときには、可動床6(小梁11)、または連結材13が床支持柱60に衝突する可能性がある。
クリアランスを小さくすることで、可動床6の昇降時に床支持柱60のフランジに沿って小梁11のフランジを摺動させることもできるが、衝突の可能性がある場合には、可動床6の昇降を円滑に行うために図19に示すように床支持柱60のフランジに接触し得るローラ14が連結材13に軸支される。ローラ14は連結材13に1箇所、もしくは図示するように鉛直方向に複数個配置される。
ローラ14は図19−(a)に示すように例えば2枚の連結材13、13に挟まれる位置の、床支持柱60のフランジに近い位置に軸支される。連結材13が1枚の場合にはその片面に軸支される。ローラ14は小梁11の軸方向両側に配置され、少なくともいずれか一方側のローラ14が床支持柱60に接触するように軸支位置が調整される。
図7−(a)は図1に示す平面図に対し、その桁行方向の一方側(右側)の端部の形状を矩形状に変更し、他方側(左側)の端部の可動床領域Bに桁行方向に2本の間柱7を配置した形状に変更した平面を持つ構造物1における可動床領域(可変階高空間)Bの配置状態(非可動床領域Aとの関係)を示している。(b)はスパン方向のトラス41の架設階、すなわち主架構2の最上部(図8−(a)の7階)における平面を示し、(a)における非可動床領域Aと可動床領域Bが同一平面で連続している様子を示している。
図7−(a)中、右下がりのハッチングを入れた領域が非可動床領域Aを示し、右上がりのハッチングを入れた領域は主架構2を構成する一方の、4本の主柱31からなる組柱3の領域を示している。組柱3の領域における各層の床面(各階)は非可動床領域Aに連続し、桁行方向にも連続することで、非可動床領域Aと可動床領域Bを結ぶ動線(通路C)の一部になる。
図7、図8ではまた、図7に示す平面における右側の端部に位置する外周柱8の列の更に外周側に補助柱91を配置し、この外周柱8の列と補助柱91の列間の空間を図8における8階まで吹抜けDにしている。この吹抜けDの空間は後述のように構造物1内への資機材搬入のための通路として利用される。
図7−(a)に示すように平面上、桁行方向に複数の主架構2、2が間隔を置いて配列することで、いずれかの主架構2(非可動床領域A)の桁行方向両側に可動床領域B、Bを配置することが可能であるため、ある任意の可動床領域Bに配置されている可動床6とそれに隣接するいずれかの非可動床領域Aのレベルを揃えたときに、立面上、レベルが統一された可動床6と非可動床領域Aを一段とすれば、可動床領域Bの数だけ、段差を形成することが可能である。
すなわち、いずれかの可動床6のレベルといずれかの非可動床Aのレベルを連続させながらも、複数の可動床領域Bの可動床6毎のレベルを相違させることが可能であるため、レベルの最も低いいずれかの可動床6からレベルの最も高いいずれかの可動床6まで複数の非可動床領域Aを通じて移動することが可能であり、非可動床領域Aを経由地点として利用する利用度(経由の自由度)が増大する。
例えば特許文献2の図7、図9の例では非可動床領域が平面上の中心部に位置する関係で、非可動床領域を経由地点として利用する場合に、必ずその非可動床領域を経由しなければならず、経路が一義的になるのに対し、本発明では主架構2の数分の複数の非可動床領域Aが可動床領域Bと交互に配列するため、経由地点が多くなり、経由地点の選択肢が増える利点がある。
図8−(a)は図7−(a)、(b)の平面を持つ構造物1の立面を示し、図7−(a)、(b)に対応し、(a)、(b)の関係を示している。図8−(b)は(a)の側面を示している。
図9−(a)、(b)は図7−(a)に示す平面の内、右側の端部に配置された外周柱8の列と補助柱91の列間の空間に形成されている吹抜けDを利用して構造物1の外部から建築資機材を搬入する場合の搬入経路の例を示している。資機材は例えば外周柱8と補助柱91間の間隔から構造物1内部に搬入され、吹抜けDを通じて地上階の各階へ搬送される。図9−(a)、(b)中の番号(1〜4)は移動の順番を示している。
ここでは、外周柱8と補助柱91間から資機材を構造物1内に搬入した後(1)、地上の各層単位で上昇(垂直移動)と水平移動により各層に搬入する場合の手順を示している。各層への垂直移動(2)は吹抜けDを利用して行われ、各層での水平移動(3)は上記した組柱3領域に連続する通路C、もしくは可動床領域(可変階高空間)Bを通じて行われる。各層で水平移動(3)させられた資機材は可動床領域(可変階高空間)Bにおいて更に可動床6のレベルに応じて垂直移動させられる(4)。図9−(a)では各層での水平移動(3)を組柱3領域に連続する通路Cを通って目的の可動床領域Bにまで資機材を搬送しているが、可動床領域Bと非可動床領域Aを通って搬送することもある。
図10−(a)〜(c)は図9とは異なる搬送経路と手順を示している。ここでは、(a)に示すように外周柱8と補助柱91間から資機材を構造物1内に搬入し(1)、(c)に示すように主架構2の最上層(図8−(a)の7階)まで上昇させた後(2)、(b)、(c)に示すようにその主架構2の最上層の床を通じて各可動床領域(可変階高空間)Bまで水平移動させ(3)、可動床領域(可変階高空間)Bにおいて更に可動床6のレベルに応じて垂直移動させている(4)。
図11−(a)は図7〜図10に示す平面と立面を持つ構造物1全体における、平面上の一部の可動床領域(可変階高空間)Bと主架構2(主柱31)の関係を示している。図11−(a)は隣接する主架構2、2(可動床領域A、A)に挟まれた可動床領域(可変階高空間)Bの全層を示し、(b)はその可動床領域(可変階高空間)Bの全層(6層)を抽出して示している。図12−(a)、(b)はそれぞれ図11−(a)の立面と平面を示している。図12−(a)、(b)では可動床領域(可変階高空間)Bを「可変エリア」と表示してある。
図11−(c)、(d)は(b)で抽出した可動床領域(可変階高空間)B内での可動床6の配置(組み合わせ)例を示している。(c)は一可動床領域B内を大きくスパン方向に2分割し、更にその2分割された、構造物1外周側(2本の主柱31からなる組柱3側)の一方の領域を桁行方向に2分割し、1層に付き、3枚の可動床6を配置した場合を示している。
各可動床領域B内に、桁行方向に、あるいはスパン方向に分割された複数枚の可動床6を配置し、その分割された最小単位の可動床6単位でレベルの調整を自在にする場合、各最小単位の可動床6の四隅位置には床支持柱60が配置される。
すなわち、可動床6の平面積に応じ、図1においてスパン方向に対向する間柱7、7間、あるいは桁行方向に対向する主柱31と外周柱8間に中間の間柱7、あるいは付加柱9(床支持柱60)が配置されることになる。その中間の間柱7、あるいは付加柱9(床支持柱60)の配置位置は図1においてスパン方向に対向する間柱7、7を結ぶ破線と、桁行方向に対向する主柱31と外周柱8を結ぶ破線の交点になる。
結局、図1において可動床領域B内に水平二方向を向く破線の交点位置に床支持柱60(付加柱9)を配置することで、その2方向の破線で区画される最小単位の領域毎に可動床6を配置し、昇降させることが可能であることになる。この場合の床支持柱60は区画された最小単位の可動床6の鉛直荷重を負担すればよいため、床と小梁11等に分離(着脱)自在に設置しておけば、可動床6の自由なサイズ変更と配置変更(配置替え)に追従することが可能である。
図11−(c)では構造物1外周側の2枚の可動床6のレベルを揃えながら、前記通路C側の可動床6との間に半階分の段差を付けて配置し、外周側の可動床6と通路C側の可動床6との間に階段、エスカレータ等を架設している。(c)では構造物1の外周側における最下層(地上1階)の直上に位置する可動床6は通路C側における地上2階の可動床6より半階分、下に位置し、外周側における最上階の可動床6は通路C側における最上階より半階分、上に位置し、構造物1の外周側における可動床6と通路C側における可動床6とでスキップフロアを構成している。
図11−(d)は(c)における構造物1外周側の可動床6の桁行方向の半分を不在にし、その領域に可動床領域Bの全層に亘る吹抜けの空間を形成した場合の、外周側可動床6と通路側可動床6の組み合わせ例を示している。
図13は図7〜図10に示す平面と立面を持つ構造物1全体を大きく下層側と上層側に3層ずつ2分割し、下層側と上層側とで異なる可動床6の組み合わせをした場合の可動床6の配置例を示している。
図7に示す平面は非可動床領域Aと可動床領域Bが桁行方向に交互に配列し、平面の桁行方向両側に可動床領域Bが配置され、その方向に非可動床領域Aが3箇所配置されているため、可動床領域Bは桁行方向には非可動床領域Aを挟んで4区画に区分される。図14は図13−(a)の立面を示しているが、図14に示すように構造物1全体を大きく下層側と上層側に2分割した場合には、その分割された層の境界にも主桁5が架設される。図15、図16の例も同様である。
図13の上層側では(b)に示すように図11−(d)と同様に可動床領域Bの可動床6をスパン方向に2分割し、外周側の可動床6のレベルと非可動床領域Aのレベルを半階分、相違させながらも、通路C側の可動床6のレベルと非可動床領域Aのレベルを揃えることで、非可動床領域Aと通路Cを連続した通路として利用し、外周側の可動床6を含めた構造物1の1層分の全体を連続した空間として利用している。
図13の下層側では(c)〜(f)に示すように上記した4区画に区分された3層の可動床領域Bのそれぞれを独立した空間として利用した様子を示しているが、ここに示すように構造物1全体を大きく下層側と上層側に分割した場合には、上層側と下層側を完全に独立させた空間として利用することも、平面上の一部の可動床領域Bを全層に亘って連続させ、上層と下層を関連付けすることも可能である。
図15は図7〜図10に示す平面と立面を持つ構造物1全体を大きく下層側と上層側に3層ずつ2分割した場合に、上層側、あるいは下層側の全体(全平面)での可動床6の配置例と変更例を示す。図15−(b)〜(d)は(a)に示すように上層側の3層全体を抽出した様子を示し、図16は図15に示す複数の可動床領域(可変階高空間)Bの立面を示している。図15も構造物1全体を大きく下層側と上層側に2分割していることから、下層側と上層側の境界に主桁5が架設される。
図15−(b)は各層単位で非可動床領域Aと可動床領域Bのレベルを揃えた様子を示す。(c)は(b)の状態からの可動床6の配置替えの一例を、(d)は(c)の状態からの可動床6の配置替えの一例を示す。
図15−(c)は各可動床領域Bをスパン方向に2分割し、外周側の可動床6と通路C側の可動床6のレベルを半階分、相違させた領域と、桁行方向に2分割し、それぞれの可動床6、6のレベルを半階分、相違させた領域を組み合わせた場合を示している。(d)は(c)の状態にある一部の可動床6を不在にし、3層分の吹抜けの空間を形成した様子を示している。図15−(c)、(d)ではレベルの相違する可動床6、6間は階段、エスカレータ等で結ばれる。