JP5602824B2 - 低糖質性清酒、及びその製造法 - Google Patents
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Description
一方、日本酒の消費量は、1973年をピークに減少傾向にあり、その原因の一つに、清酒は糖分が多いという消費者のイメージがある。健康増進法の栄養表示基準(厚生労働省告示第(176)号)における糖質とは、食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、及び水分の重量を控除して算定したものなので、グルコースなどの単糖類以外にも、二糖類、多糖類、糖エステル、糖アルコール、有機酸などが糖質に含まれる。
清酒の成分濃度を調整する手法として、特許文献1には、液化仕込み清酒の製造法において、醪の仕込み時に、α−グルコシダーゼを有効成分として含有する酵素剤を添加することにより、醪の発酵を促進させることが開示されている。
また、特許文献2には、清酒製造に際して、α-アミラーゼ、トランスグルコシダーゼ、及び酸性プロテアーゼを配合してなる酵素剤を、添加して仕込むことにより、アルコール濃度が10〜14%に抑えられた低アルコール清酒が得られることが記載されている。
しかし、特許文献1に記載の方法で得られた清酒の糖濃度は3〜4%であり、特許文献2に記載の方法で得られた清酒の糖濃度は5〜7%である。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の低糖質性清酒、及びその製造方法を提供する。
項1. 糖質濃度が0.5重量%以下であることを特徴とする清酒。
項2. アルコール分濃度12〜15%(v/v)、日本酒度+15.5〜+30、酸度0.5〜1.5、かつアミノ酸度0.5〜1.5である項1に記載の清酒。
項3. 液化仕込みによる清酒の製造方法において、仕込み時に、原料白米1g当たり、50〜100Uのトランスグルコシダーゼを添加する、項1に記載の清酒の製造方法。
項4. 仕込み後10〜25℃で糖化、発酵させる項3に記載の方法。
項5. 三段仕込みを行い、留添後10〜30日間糖化、発酵させた後に上槽する項3又は4に記載の方法。
(I)清酒の製造方法
本発明の清酒の製造方法は、液化仕込みを行い、仕込み時にトランスグルコシダーゼを添加する方法である。
米
米は、清酒製造に通常使用される米を制限なく使用することができる。好ましくは、通常の食用米や一般米とは区別される酒造好適米と呼ばれるものを用いればよい。酒造好適米としては、例えば、山田錦、五百万石、美山錦、雄町、日本晴、祝などが挙げられる。精米歩合は、通常約30〜80%とすればよく、約65〜75%が好ましい。
酒母は酵母を大量に増殖させたものである。
酵母は、通常使用される清酒酵母を制限なく使用できる。清酒酵母は、殆どが出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeである。Saccharomyces cerevisiaeの中でも、特に醸造特性の高い株として、協会系酵母であるきょうかい1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15号、尿素非生産酵母である「KArg7号」「KArg9号」「KArg10号」、泡なし酵母であるきょうかい601、701、901、1001、1401、1501、1601、1701などが挙げられる。酵母の種類は、清酒の香味を大きく左右する要因の一つとなる。
米麹は蒸した米に麹菌(アスペルギルス・オリゼ)を繁殖させたものである。清酒に用いる米麹は、平成元年11月22日 国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準を定める件[1]」において、「米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。以下同じ)が、15%以上のものに限るものとする。」と定められている。
麹菌は、清酒製造に通常使用される麹菌を制限なく使用できる。例えば、株式会社ビオックの吟醸、酒母用、醪用、機械製麹用、純米吟醸用、純米酒用、本醸造用、経済酒用、良い香り、液化仕込み用や、樋口松之助商店のひかみ吟醸用、ハイ・G、ダイヤモンド印、もと立用、醪用、ひかみ醪用20号、ひかみ醪用30号、ひかみ特選粉状A、エースヒグチ、ヒグチ粉状菌、白峯、かおり、強力糖化菌、液化仕込み用などが挙げられる。
トランスグルコシダーゼ(EC3.2.1.20)はα-グルコシダーゼであり、基質の非還元末端から加水分解によりグルコースを遊離する作用を有し、基質濃度が高いときは、グルコースを転移させる作用を有する。トランスグルコシダーゼの起源は、植物、動物、及び微生物の何れであってもよい。好ましくは糸状菌由来、より好ましくはアスペルギルス属糸状菌由来、さらにより好ましくはアスペルギルス・ニガー由来のトランスグルコシダーゼを使用すればよい。
通常の清酒の製造方法では、蒸米に、米麹、酒母、及び仕込み水を添加して醪を仕込み、これを糖化、発酵させた後、上槽(もろみから清酒を絞る工程)、濾過を行う。
本発明では液化仕込みを行う。液化仕込みは、蒸米に代えて液化した融米を用いる方法である。通常、掛け米に相当する粒白米や粉砕白米を、仕込み水、及び耐熱性α-アミラーゼとともに液化装置に投入して、昇温しながら液化した後、液化物を米麹と共に、酒母を入れた発酵タンクに仕込む。
具体的条件の1例を挙げれば、白米に、それに対して約150〜170重量%の水をゆっくり攪拌しながら投入し、次に、白米の約5000分の1重量の耐熱性α−アミラーゼ剤を添加して、常温で約30〜40分間保持し、吸水を進める。次に、攪拌速度を上げて米を砕きながら約70〜75℃まで昇温して、約10〜15分間保持し、更に約85〜90℃まで昇温、約10〜15分間保持して液化を図り、液化終了後、約15℃付近まで冷却して、発酵タンクへ仕込む。また、液化だけでなく糖化まで行う場合には、液化終了後60℃付近まで冷却した時点で、白米の3000分の1重量の糖化酵素剤(グルコアミラーゼ)を添加して約50〜55℃付近で約4〜6時間糖化させた後に、冷却して仕込む。
また、酵母濃度が薄まらないように、三段仕込みが行われることもある。三段仕込みは、醪造りにおいて、酒母に米麹及び蒸米を三段階に分けて加えていくことによって、酵母に対して適応可能なゆるやかな環境変化を与え、その活性を損なわないようにする方法である。この三段階を、初めから初添、仲添、留添と呼ぶ。
本発明方法では、液化仕込みにおいて、仕込み時にトランスグルコシダーゼを添加する。また、三段仕込みを行う場合は、初添時、仲添時、及び留添時にそれぞれトランスグルコシダーゼを添加するのが好ましい。
トランスグルコシダーゼの使用量は、白米1g当たり、約50U以上が好ましく、約60U以上がより好ましく、約70U以上がさらにより好ましい。また、上限は約100Uとすればよい。上記範囲であれば、得られる清酒の糖質濃度を0.5重量%以下にすることができる。また、上記範囲を超えても構わないが、それ以上に糖質濃度は向上しない。
この場合の白米量は、掛け米や麹米などに含まれる、使用した白米の全量を指す。また、トランスグルコシダーゼを何回かに分けて添加する場合のトランスグルコシダーゼの使用量は、総使用量である。トランスグルコシダーゼの活性測定方法は、実施例の項目に記載した通りである。
仕込み後は、通常約10〜25℃で、留添後約10〜30日間、好ましくは約12〜20日間かけて糖化、発酵を行う。
次いで、上槽、濾過、加熱により清酒が得られる。
(II)清酒
以下に説明する糖質濃度、アルコール分濃度、日本酒度、酸度、アミノ酸度は、上槽後、濾過および加熱して得られる清酒についての値であるが、上槽後の清酒の値と通常同じである。
上記説明した方法により得られる本発明の清酒は、糖質濃度が、清酒全体に対して、約0.5重量%以下の清酒である。糖質濃度は、約0.45重量%以下がより好ましく、約0.4重量%以下がさらにより好ましい。糖質濃度の下限値は、通常約0.1重量%である。
本発明における糖質は、健康増進法の栄養表示基準(厚生労働省告示第300号)に規定される糖質であり、糖質重量は、食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、及び水分の各重量を控除した値である。タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、及び水分の各測定方法は、健康増進法の栄養表示基準に従う。水分は加熱乾燥法、脂質はソックスレー抽出法、タンパク質はケルダール法、灰分は直接灰化法、食物繊維は酵素-重量法を採用して測定する。
本発明の清酒は、アルコール分濃度、即ちアルコール度数が約12〜15%(V/V)であることが好ましく、約12.5〜14であることがより好ましい。本発明の清酒は、トランスグルコシダーゼを使用しないで製造する従来の清酒に比べて、アルコール分濃度がやや高い。
アルコール分濃度(アルコール度数)は、アルコール飲料の全量に対するアルコール(エタノール)の体積濃度を百分率で表示した割合である。本発明において体積濃度の測定温度は、日本の酒税法が定める通り、15℃とする。
本発明の清酒は、日本酒度が約+15.5〜+30であることが好ましく、約+20〜25であることがより好ましく、約+22〜25であることがさらにより好ましい。本発明の清酒は、トランスグルコシダーゼを使用しないで製造する従来の清酒に比べて、日本酒度が高い。
日本酒度は、水に対する酒の比重を日本酒度計で計った値である。具体的には、15℃の清酒に日本酒度計と呼ばれる浮秤を浮かべて測定し、4℃の水と同じ重さの清酒の日本酒度を0とし、それより軽いものを+、重いものの−とする。+の度合が高い清酒は糖分が少なく辛口であり、+の度合が低い清酒は糖分が多く甘口である。
本発明の清酒は、酸度が約0.5〜1.5であることが好ましく、約0.6〜1.3であることがより好ましい。本発明の清酒は、トランスグルコシダーゼを使用しないで製造する従来の清酒に比べて、酸度がやや低い。
酸度は、清酒に含まれる、有機酸(乳酸、リンゴ酸、コハク酸など)の総量を示した値である。具体的には、酸度は、10mLの清酒を中和するのに要する、水酸化ナトリウム溶液のmLを指す。酸度が高い清酒は、酸味や旨味が強い。日本酒度が同じ場合、酸度が高い方が辛く、味は濃く感じられる。
本発明の清酒は、アミノ酸度が約0.5〜1.5であることが好ましく、約0.6〜1.3であることがより好ましい。本発明の清酒は、トランスグルコシダーゼを使用しないで製造する従来の清酒に比べて、アミノ酸度がやや低い。
アミノ酸度は、清酒10mLを0.1Nの水酸化ナトリウムで中和した後、中性ホルマリン液を5mL加え、再度0.1Nの水酸化ナトリウムで中和するのに要する0.1Nの水酸化ナトリウムの滴定mL数を指す。日本酒にはアルギニン、チロシン、セリン、ロイシン、グルタミン酸など約20種類のアミノ酸が含まれており、アミノ酸度として測定される成分は、主にごく味や旨味に寄与する。
試験例1
下記の表1に示す仕込み配合で、汲み水150%、総米2kgの液化液の三段仕込みにより清酒を醸造した。
酒母を入れた発酵タンクに、上記の液化米及び米麹を、初添、仲添、留添の3回に分けて添加した。仕込み温度(仕込み後の糖化、発酵温度)は15℃又は20℃とした。醪中のピルビン酸濃度が50ppm以下になった時に上槽した(約18日間)。
麹菌は、樋口松之助商店の液化仕込み用を使用した。
初添時、仲添時、及び留添時のそれぞれの時期にアスペルギルス・ニガー由来のトランスグルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社)を添加した。トランスグルコシダーゼの総使用量は、白米の総使用量(掛け米、麹米)1gに対して50U又は100Uとした。また、対照として、トランスグルコシダーゼを添加しない他は、上記と同様の工程により清酒を醸造した。
0.01N酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に溶解した0.3%(w/v)イソマルトース溶液2mLを基質溶液として用い、酵素液0.5mLを加え、40℃で60分間反応させた後、0.3Mトリス−リン酸緩衝液(pH8.0)2.5mLを加えて振り混ぜ、反応を止める。この液の0.2mLを試験管にとり、4−アミノアンチピリンフェノール発色試薬3mLを加え、よく振り混ぜた後、40℃、20分間放置した後、波長500nmの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース溶液で波長500nmの吸光度の検量線を作成しておき、試料の測定値を検量線に当てはめて、グルコース濃度を測定する。60分間に反応液2.5mL中に1mgのグルコースを生成する酵素活性を1U(単位)とする。
Claims (1)
- 糖質濃度が0.5重量%以下、アルコール分濃度12〜15%(v/v)、日本酒度+15.5〜+30、酸度0.5〜1.5、かつアミノ酸度0.5〜1.5であり、アルコールが米及び米麹のみに由来するものであることを特徴とする清酒。
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