以下、本実施の形態による気圧式倍力装置として、例えばシングル式(パワーピストン1個型)の気圧式倍力装置を例に挙げ、図1ないし図5を参照しつつ詳細に説明する。
図中、1は気圧式倍力装置のハウジングで、ハウジング1は、フロントシェル2とリアシェル3とにより大略構成され、フロントシェル2とリアシェル3とは外周側で互いに気密状態で固着されている。
フロントシェル2には、前壁2Aの中央部にマスタシリンダ(図示せず)の一部を収納するための筒部2Bが形成されている。この筒部2Bの端縁と例えば後述する出力ロッド20の外周面との間には、全周にわたってシール部材(図示せず)を設けることにより、出力ロッド20の軸方向変位に拘わらず後述の負圧室Aを気密状態に保持できるようにしている。
リアシェル3には車両(図示せず)への取付面となる後壁3Aから軸方向外向きに後方筒部3Bが突出されている。この後方筒部3Bの端縁と後述のバルブボディ6の外周面との間には、全周にわたってシール部材4を設けることにより、バルブボディ6の変位に拘わらず後述の変圧室Bを気密状態に保持できるようにしている。また、後方筒部3Bには、例えば図2に示すように、後述のストップキー19が当接する段部3Cが設けられている。
5はハウジング1内に設けられたダイヤフラム等からなるパワーピストンで、パワーピストン5は、外周側がフロントシェル2とリアシェル3との間に固着され、ハウジング1内を負圧室(定圧室)Aと変圧室Bとに画成している。
6はリアシェル3の後方筒部3Bに挿通され、ハウジング1内を軸方向に変位可能に設けられたバルブボディで、バルブボディ6は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂材料により形成されている。バルブボディ6は、例えば図2に示すように、外周側がハウジング1内でパワーピストン5の内周側に連結(固着)された傾斜円筒状の拡径部6Aと、拡径部6Aと一体に形成されリアシェル3の後方筒部3Bからハウジング1の外部に延出された円筒状の小径筒部6Bとを含んで構成されている。バルブボディ6は、パワーピストン5の変位に連動してハウジング1内を軸方向に変位する構成となっている。
バルブボディ6には、拡径部6Aの内径側に位置して後述の出力ロッド20側へと軸方向に突出する筒状突出部6Cが一体形成されている。また、拡径部6Aの内径側で筒状突出部6Cが突出する部分の外径側部位には、小径筒部6B側に向けて軸方向に延びる連通路7が形成されている。
連通路7は、後述のポペット弁体11、プランジャ16等と共に変圧室Bを負圧室Aに連通、遮断させるための弁手段を構成するものである。このためにバルブボディ6の小径筒部6Bには、連通路7の開口端側に位置して環状の弁座部6Dが形成され、弁座部6Dにはポペット弁体11が離着座する構成となっている。
バルブボディ6には、弁座部6Dの位置から筒状突出部6Cに向けて軸方向に延びる挿通孔8が形成され、挿通孔8内には後述のプランジャ16が摺動可能に挿通されている。挿通孔8の内周面には、例えば図3および図4に示すように、ガイド穴部8A、小径穴部8B、及び大径穴部8Cが設けられている。ガイド穴部8Aは、挿通孔8の軸方向の一端側(右端側)に位置して後述のプランジャ16の弁部材17が摺動可能に挿嵌されるようになっている。小径穴部8Bは、上記ガイド穴部8Aよりも軸方向の他端側(左端側)に位置してプランジャ16のピストン部材18に対面するように形成されている。大径穴部8Cは、上記小径穴部8Bよりも軸方向の他端側に位置して後述のスリーブ24が挿嵌されるようになっている。
小径穴部8Bと大径穴部8Cとは段差面8Dによって連続して形成されている。段差面8Dは、後述のリアクションディスク23と対向する対向面、より具体的には、リアクションディスク23のうちバルブボディ6へ反力を伝達する面部位23Aと対向する対向面として形成され、段差面8Dにはスリーブ24の一側端面(右側端面)24Bが当接する構成となっている。
バルブボディ6には、小径筒部6Bの基端側に位置して径方向に延びる他の連通路9が形成されている。この連通路9は、挿通孔8と変圧室Bとを常時連通させるものである。連通路9は、キー挿入穴としても機能するものであり、連通路9内には後述のストップキー19が挿入されている。
10はバルブボディ6の小径筒部6B内に挿入して設けられた入力ロッドで、入力ロッド10は、小径筒部6Bから外部に突出した一端側が車両のブレーキペダル(図示せず)に連結され、ブレーキ操作時には図1および図2中の矢示E1方向に押込まれる。また、入力ロッド10の他端側には球形部10Aが一体形成され、球形部10Aは後述するプランジャ16の弁部材17にカシメ等の手段を用いて連結されている。
11はバルブボディ6の小径筒部6B内に設けられたポペット弁体で、ポペット弁体11は、弾性材料によって略筒状に形成され、その一端側は後述の戻しばね13等を介して小径筒部6Bの内周壁に固着されている。そして、ポペット弁体11の他端側は、弁ばね12によりバルブボディ6の弁座部6Dに向けて常時付勢されている。これにより、ポペット弁体11は、後述するプランジャ16の当接部17Bとバルブボディ6の弁座部6Dとに離着座する構成となっている。
13はバルブボディ6の小径筒部6Bと入力ロッド10との間に配設された戻しばねで、戻しばね13は、バルブボディ6に対して入力ロッド10を図1および図2中の矢示E2方向に向けて常時付勢し、ブレーキペダルの戻し時にはバルブボディ6がハウジング1内を図1および図2に示す初期位置(後述のストップキー19により規制された位置)に戻るまで、バルブボディ6に対して入力ロッド10を矢示E2方向に押圧する。これにより、ブレーキペダルの戻し時に戻しばね13は、入力ロッド10とプランジャ16とを介してポペット弁体11をバルブボディ6の弁座部6Dから離座させるようになっている。
14はバルブボディ6の小径筒部6B内に装着されたフィルタで、フィルタ14は、ハウジング1の外部から小径筒部6B内に導入される作動気体としての空気を清浄化し、ハウジング1内にダスト等が侵入するのを防止するものである。
15はバルブボディ6の小径筒部6Bの突出端側を保護するためのブーツで、ブーツ15は、弾性材料により蛇腹状の筒体として形成され、その一端側は入力ロッド10の中間部に取付けられている。ブーツ15の他端側は、リアシェル3の後方筒部3Bの先端側に取付けられ、後方筒部3B内を摺動する小径筒部6Bの外周面をダスト等から保護する構成となっている。
16はバルブボディ6内に配置されたプランジャで、プランジャ16は、後述の弁部材17と、ピストン部材18とにより大略構成されている。プランジャ16は、弁部材17とピストン部材18とを凹凸嵌合により同心に連結された状態で、バルブボディ6の挿通孔8内に摺動可能に挿嵌されている。
17は挿通孔8のガイド穴部8Aに挿嵌された弁部材で、弁部材17の一端側は小径筒部6B側ヘと突出し、その突出端側の内径側には、入力ロッド10の球形部10Aが、かしめ等の手段を用いて固着されている。一方、弁部材17の他端側には、後述のピストン部材18に向けて突出する凸部17Aが設けられ、凸部17Aは、後述するピストン部材18の凹部18Cに締嵌め等の手段を用いて固着されている。これにより、プランジャ16は、入力ロッド10と一体に図1および図2中の矢示E1,E2方向に変位する構成となっている。
弁部材17の一端側には、バルブボディ6の弁座部6Dよりも小径に形成された環状弁座としての当接部17Bが設けられ、当接部17Bはポペット弁体11に離着座することにより小径筒部6B内の大気圧を連通路9側に導入,遮断するものである。これにより、弁部材17の当接部17Bは、バルブボディ6の弁座部6Dおよびポペット弁体11と共に弁手段を構成している。
即ち、弁部材17の当接部17Bは、バルブボディ6の弁座部6Dとの位置関係に応じて、当接部17Bとポペット弁体11との間の連通,遮断を行うと共に、弁座部6Dとポペット弁体11との間の連通,遮断を行う。これにより、プランジャ16を入力ロッド10によって移動させることにより、例えば変圧室Bに作動気体としての空気を導入して、定圧室Aと変圧室Bとの圧力差を発生させることができる。
弁部材17の外周側には、バルブボディ6の他の連通路9と対応する位置に環状溝17Cが形成され、環状溝17Cには後述のストップキー19が係合状態で取付けられている。
18は弁部材17と共にプランジャ16を構成するピストン部材で、ビストン部材18は、弁部材17に対向して設けられた本体部18Aと、本体部18Aから軸方向の他側に突出して設けられた受圧凸部18Bとにより大略構成され、全体として段付き円筒状に形成されている。本体部18Aの一側端面には、弁部材17の凸部17Aと対応する位置に凹部18Cが設けられ、凹部18Cには、弁部材17の凸部17Aが締り嵌め等の手段を用いて固着されている。受圧凸部18Bの先端面と後述のリアクションディスク23との間には、図2に示すように、予め決められた一定寸法の隙間Sが形成されている。
19はプランジャ16の戻り位置を規制するストップキーで、ストップキー19は略長方形状の平板として形成され、先端側がバルブボディ6内に連通路9を介して径方向に挿入されている。ストップキー19の先端側は、プランジャ16の環状溝17Cに遊嵌状態で係合されている。一方、ストップキー19の基端側は、バルブボディ6から径方向外側に突出し、その突出端側がリアシェル3側の段部3Cに当接している。これにより、ストップキー19は、入力ロッド10の戻し時におけるバルブボディ6及びプランジャ16の戻り位置を図1および図2に示すように規制する構成となっている。
20は入力ロッド10の押込み力を倍力した状態で外部に出力するための出力ロッドで、出力ロッド20は、その一端側に大径のフランジ部20Aが設けられ、このフランジ部20Aは、後述のリアクションディスク23を介してバルブボディ6の筒状突出部6Cに外側から嵌合されている。出力ロッド20は、入力ロッド10の押込み時に、図1中の矢示F1方向に大きな出力(図5参照)をもって押動され、これにより、前記マスタシリンダのピストン(図示せず)を押圧するようになっている。なお、本実施形態において、出力ロッド20は、フランジ部20Aがバルブボディ6の筒状突出部6Cに外側から嵌合されるようになっているが、これに限らず、筒状突出部6Cにリアクションディスクを挿入し、筒状突出部6Cの内側に出力ロッド20の一端側が嵌合するようなものとしてもよい。
21はバルブボディ6の拡径部6Aの開口端に取付けられたロッドホルダで、ロッドホルダ21は、出力ロッド20の中間部を支持することにより、出力ロッド20がバルブボディ6に対して傾斜するのを防止するものである。
22はロッドホルダ21とフロントシェル2の前壁2Aとの間に配設された戻しばねで、戻しばね22は、バルブボディ6を図1および図2中の矢示F2方向に常時付勢するものである。
23はバルブボディ6の筒状突出部6Cと出力ロッド20のフランジ部20Aとの間に配設されたリアクション部材としてのリアクションディスクで、リアクションディスク23は、ゴム等の弾性樹脂材料からなる円板として形成され、後述の如く負圧室Aと変圧室Bとの間の圧力差によってパワーピストン5に発生する推力をバルブボディ6と後述のスリーブ24とを介して出力ロッド20に伝達する。
このとき、リアクションディスク23は、図2に示す状態から図3に示すように弾性変形し、バルブボディ6の筒状突出部6Cと対向する側の面部位23Aの一部(中央部)がプランジャ16の受圧凸部18Bに当接する位置まで寸法L1分だけ膨出する。そして、この状態でリアクションディスク23は、出力ロッド20からの反力をフランジ部20Aを介して受承すると共に、反力の一部を受圧凸部18Bを介して入力ロッド10側に伝え、ブレーキペダル側に踏み応えを発生させる。
24はバルブボディ8の挿通孔8の大径穴部8Cに挿嵌された伝達部材としてのスリーブで、スリーブ24は、リアクションディスク23のうちバルブボディ6の筒状突出部6Cと対向する側の面部位23Aと挿通孔8の段差面8Dとの間に設けられている。スリーブ24は、入力ロッド10を押込むときにパワーピストン5に発生する推力(の一部)をバルブボディ6からリアクションディスク23に伝達し、入力ロッド10を戻すときはリアクションディスク23からの反力(の一部)をバルブボディ6に伝達するものである。
スリーブ24は、リアクションディスク23と対向する軸方向他側に径方向内向きに突出した厚肉筒部24Aを有し、半径方向断面が略L字状となった円筒部材として形成されている。スリーブ24の軸方向寸法X1は、図2に示す初期状態のように外力が加えられない自由状態で、大径穴部8Cの軸方向寸法X1と等しく形成されている。これにより、スリーブ24を大径穴部8Cに挿嵌し、スリーブ24の一側端面24Bを段差面8Dに当接させた状態では、スリーブ24の他側端面(厚肉筒部24Aの端面)24Cとバルブボディ6の筒状突出部6Cの端面6C1とが同一平面上に位置するようにしている。
スリーブ24の軸方向寸法X1は、例えばリアクションディスク23の軸方向寸法X2の2倍以上としている。換言すれば、スリーブ24の軸方向寸法X1は、バルブボディ6の筒状突出部6Cの軸方向寸法X3の0.3〜0.9(より好ましくは0.5〜0.9)倍程度としている。
そして、スリーブ24は、バルブボディ6を形成する材料とは縦弾性係数(ヤング率)が異なる材料、例えばバルブボディ6を形成するPET樹脂よりも縦弾性係数が小さいフェノール樹脂等の樹脂材料により形成されている。即ち、バルブボディ6は、PET樹脂で形成することにより、縦弾性係数が14GPa程度となっている。これに対して、スリーブ24は、フェノール樹脂により形成されることにより、縦弾性係数を500MPa程度となり、スリーブ24の縦弾性係数はバルブボディ6の縦弾性係数よりも大幅に小さく(1/28程度に)なっている。これにより、バルブボディ6とスリーブ24とを同じ縦弾性係数とした(同じ材料で形成した)場合に比べ、入力ロッド10と出力ロッド20との間の入出力のヒステリシス特性が、後述するように小さくなる。
25はフロントシェル2に設けられた負圧導入管で、負圧導入管25は、L字状に屈曲したパイプ等からなり、自動車用エンジンの吸気マニホールドに逆止弁(いずれも図示せず)等を介して接続されている。負圧導入管25は、エンジンの作動時に吸気マニホールド内で発生した負圧を負圧室A内へと導くことにより、負圧室A内を大気圧よりも低い圧力に保持するものである。
26は前記マスタシリンダをフロントシェル2に固定するための固定ボルトであり、さらに、27はリアシェル3を含めてハウジング1全体を車両のエンジンルーム内壁等に取付ける取付けボルトである。ここで、固定ボルト26と取付けボルト27とは連結ロッド28を介して一体に形成されており、連結ロッド28は、パワーピストン5にシール部材29を介して摺動可能に貫通している。
本実施の形態による気圧式倍力装置は上述の如き構成を有するもので、まず、車両の運転者がブレーキペダルを踏込み操作すると、これにより入力ロッド10が矢示E1方向に押込まれ、プランジャ16も図2に示す隙間Sにおいて入力ロッド10と一体に変位する。そして、プランジャ16の変位により環状の当接部17Bが、バルブボディ6の弁座部6Dとの当接によって追従を規制されたポペット弁体11から離座すると、バルブボディ6の小径筒部6B内から連通路9を介して変圧室B内に大気圧が導入され、負圧室Aと変圧室Bとの間に圧力差が発生する。
即ち、図5に示す特性線30の如く、入力ロッド10への入力(押込み力)が入力値faに達した段階でプランジャ16の当接部17Bがポペット弁体11から離座し、負圧室Aと変圧室Bとの間に圧力差が発生する。これによってバルブボディ6が前進し、このときの推力がリアクションディスク23を介して出力ロッド20に伝達される。出力ロッド20からの出力は出力値Faまで急上昇して、所謂ジャンプインが生じることになる。そして、その後は、図5に示す特性線30の如く、入力ロッド10への入力(ペダル踏力)が増大するに応じて出力も一定の倍力比で増大することになる。
入力ロッド10への踏力(押込み力)が入力値faを越えた状態では、負圧室Aと変圧室Bとの間の圧力差に応じてバルブボディ6がパワーピストン5と共に矢示F1方向に変位し、ポペット弁体11は弁座部6Dに着座した状態でバルブボディ6と共に同方向に変位する。そして、この間にプランジャ16の当接部17Bはポペット弁体11に対する離着座を繰返す。
また、入力ロッド10への踏力(押込み力)を任意の値に保持した状態では、入力ロッド10に対する矢示E1方向の入力とリアクションディスク23を介した矢示F2方向の反力とが釣合った(均衡)状態を保つことにより、プランジャ16の当接部17Bはポペット弁体11に対して着座することになる。
さらに、ペダルを大きく踏込む(入力ロッド10を押込む)ことにより、図5に示す最大負荷点入力値fbまで入力が増大したときには、負圧室Aと変圧室Bとの間の圧力差が最大となり、これ以上に入力ロッド10を踏込み操作しても圧力差による倍力作用は発揮できなくなる。そして、出力ロッド20は出力値Fb以上の領域では入力ロッド10と実質的に一体(倍力比が1)となって軸方向に変位し、その後にストロークエンドに達する。
一方、ブレーキペダルの戻し時には、入力ロッド10が戻しばね13により矢示E2方向に押戻され、これに伴ってプランジャ16も同方向に引っ張られる。このため、プランジャ16の当接部17Bはポペット弁体11に着座し、変圧室Bを大気に対して遮断することになる。また、このときにプランジャ16は当接部17Bを介してポペット弁体11を弁ばね12に抗して矢示E2方向に押圧し、バルブボディ6の弁座部6Dからポペット弁体11を強制的に離座させる。
この結果、変圧室Bが大気側から遮断された状態で、負圧室Aと変圧室Bとが連通路7,9を介して互いに連通することになり、負圧室Aと変圧室Bとがブレーキペダルの戻し前の圧力差よりも低い圧力差になる。このとき、図5に示す特性線31の如く、入力ロッド10の入力(ペダル踏力)が減少するに応じて出力も一定の倍力比で減少する。そして、出力ロッド20はバルブボディ6と共に戻しばね22により矢示F2方向に押戻され、最終的にはストップキー19の突出端側が図2に示す如くリアシェル3の段部3Cに当接し、戻し側のストロークエンドとなる。
そして、ストップキー19が段部3Cに当接した状態で、プランジャ16の最終戻り位置が規制され、パワーピストン5、バルブボディ6、入力ロッド10および出力ロッド20等が図2に示す初期位置に復帰する。また、ポペット弁体11は、このときにバルブボディ6の弁座部6Dとプランジャ16の当接部17Bとに着座し、変圧室Bを負圧室Aと同様の負圧状態に保ったまま次なるブレーキ操作に備えることになる。
次に、入力ロッド10と出力ロッド20との間の入出力のヒステリシス特性を調整(設定)するため、スリーブ24の縦弾性係数とバルブボディ6の縦弾性係数とを異ならせる理由について、図3ないし図5を参照しつつ説明する。
図3は、入力ロッド10の押込み行程(ブレーキペダルの踏込み時)の均衡状態を示しており、図4は、入力ロッド10の戻し行程(ブレーキペダルの戻し時)の均衡状態を示している。ここで、押込み行程と戻し行程とで同じ大きさの入力を考えた場合、スリーブ24に加わる圧力は戻し行程の方が大きくなるから、図3に示すように押込み行程のスリーブ24の軸方向のひずみをΔ1とし、図4に示すように戻し行程のスリーブ24の軸方向のひずみをΔ2とすると、押込み行程のひずみΔ1よりも戻し行程のひずみΔ2が大きくなる(Δ2>Δ1)。
一方、図3に示すように押込み行程でのバルブボディ6の筒状突出部6Cの端面6C1とプランジャ16の受圧凸部18Bの先端面との間隔をL1とし、図4に示すように戻し行程でのバルブボディ6の筒状突出部6Cの端面6C1とプランジャ16の受圧凸部18Bの先端面との間隔をL2とした場合、ヒステリシス特性を決定する受圧凸部18Bの先端面とリアクションディスク23とのクリアランスの差Kは、下記の式で表すことができる。
ここで、例えばスリーブ24の縦弾性係数がバルブボディ6の縦弾性係数と差がない場合、即ち、スリーブ24とバルブボディ6とが同じ縦弾性係数(同じ材料)の場合、ひずみの差(Δ2−Δ1)は0になり、ヒステリシス特性を決定するクリアランスの差Kは(L2−L1)となる。
一方、スリーブ24の縦弾性係数をバルブボディ6の縦弾性係数に比べて小さくした場合を考えると、スリーブ24の縦弾性係数が小さくなる程(スリーブ24が軟らかくなる程)、ひずみの差(Δ2−Δ1)が大きくなる。そして、ひずみの差(Δ2−Δ1)が大きくなる程、ヒステリシス特性を決定するクリアランスの差Kは(L2−L1)から小さくなり、ヒステリシス特性を小さくすることができる。
即ち、図5に示すように、スリーブ24とバルブボディ6とを同じ縦弾性係数とした場合に、戻し行程の特性は二点鎖線で示す特性線32として得られる。これに対して、スリーブ24の縦弾性係数をバルブボディ6よりも大幅に小さくし、クリアランスの差Kを小さくした場合には、戻し行程の特性は、特性線32よりもヒステリシスの小さい(特性線30との差が小さい)特性線31として得ることができる。
要するに、スリーブ24の縦弾性係数を小さくする程、ヒステリシスの特性を決定するクリアランスの差Kは小さくなり、ヒステリシス特性を小さくすることができる。一方、スリーブ24の縦弾性係数を、バルブボディ6よりも一層大きくした場合には、ヒステリシスの特性を決定するクリアランスの差Kは大きくなり、ヒステリシス特性を大きくすることができる。
このように、スリーブ24の縦弾性係数をバルブボディ6に対して大きく変える(小さくしたり大きくしたりする)ことにより、ヒステリシス特性の調整を行う場合には、この調整の作業性を向上することができる。即ち、例えば特許文献2に記載の従来技術のように、無効ストロークの調整や無効入力の調整が必要なくなる。このため、ヒステリシス特性を調整するときに、ヒステリシス特性の調整作業をスリーブ24の縦弾性係数を変えるだけで容易に行うことができる。
以上のように、本実施の形態によれば、リアクションディスク23のうちバルブボディ6と対向する面部位23Aとバルブボディ6の段差面8Dとの間に、縦弾性係数を変更可能なスリーブ24を設ける構成としたので、スリーブ24の縦弾性係数をバルブボディ6との関係で調整することにより、入力ロッド10と出力ロッド20との間の入出力のヒステリシス特性を容易に調整することができる。
このとき、特許文献2による従来技術のように、無効ストロークの増減や無効入力の増減等を伴わずにヒステリシス特性の調整を行うことができる。即ち、例えば従来技術のように、ポペット弁体の硬度を調整することによりヒステリシス特性を所望値に調整する場合には、ポペット弁体の硬度の調整の他、無効ストロークの調整や無効入力の調整が必要になる。これに対して、本実施の形態によれば、スリーブ24の縦弾性係数を選択的に変えるだけで、ヒステリシス特性を所望値に調整することができる。このため、ヒステリシス調整に関係する部材をスリーブ24のみに限ることができ、ヒステリシス特性の調整作業を容易に行うことができる。
また、本実施の形態によれば、スリーブ24の軸方向寸法X1を長くしている、即ち、スリーブ24の軸方向寸法X1を、リアクションディスク23の軸方向寸法X2の2倍以上(バルブボディ6の筒状突出部6Cの軸方向寸法X3の0.3〜0.9倍程度)としている。このため、スリーブ24に力が加わった場合のこのスリーブ24の軸方向変形量を大きくすることができ、スリーブ24の縦弾性係数を小さくすることと相まって、ヒステリシス特性をより小さくし易くできる。
なお、上述した実施の形態では、1個のスリーブ24を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば図6に示す第1の変形例のように、2個のスリーブ41,42を軸方向に直列に設ける構成としてもよい。この場合には、少なくとも一方のスリーブ41,42をバルブボディ6と縦弾性係数が異なる材料で形成するができる。また、2個のスリーブ41,42を互いに縦弾性係数が異なる材料で形成することもできる。
要するに、リアクション部材のうちバルブボディと対向する面部位とバルブボディの対向面との間には、複数の伝達部材を設け、これら各伝達部材の少なくとも何れかの伝達部材をバルブボディと縦弾性係数が異なる材料で形成する構成とすることができる。この場合には、複数の伝達部材の縦弾性係数を調整することができるため、ヒステリシス特性をより細かく調整することができる。
また、上述した実施の形態では、バルブボディ6の筒状突出部6Cの端面6C1とスリーブ24の他側端面24Cとの両方の端面をリアクションディスク23の面部位23Aに当接させる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば図7に示す第2の変形例のように、バルブボディ6の筒状突出部6C′の端面6C1′をリアクションディスク23に当接させずにスリーブ51の他側端面51Aのみをリアクションディスク23の面部位23Aに当接させる構成としてもよい。
即ち、スリーブ51を大径部51Bと小径部51Cとを有する段付き円筒状に形成し、小径部51Cを筒状突出部6C′の貫通孔8′に挿嵌すると共に、大径部51Bと小径部51Cとを連続する段差部51Dにバルブボディ6の筒状突出部6C′の端面6C1′を当接させ、スリーブ51の大径部51Bの他側端面51Aをリアクションディスク23の面部位23Aに当接させる構成としてもよい。
この場合、スリーブ51の小径部51Cの外周面には、全周にわたってシール溝51Eを設け、シール溝51Eには、Oリング等により構成されるシール部材52を設けることができる。また、スリーブ51の内周面は単一円筒面とし、これに合わせてプランジャ16のピストン部材18′の外周面も、スリーブ51に挿通される部位を単一円筒面とすることができる。
また、上述した実施の形態では、バルブボディ6を縦弾性係数が14GPa程度のPET樹脂により形成すると共に、スリーブ24を縦弾性係数が500MPa程度のフェノール樹脂により形成した場合を例に挙げて説明した。すなわち、スリーブ24の縦弾性係数を、バルブボディ6の縦弾性係数の1/28程度にした場合を例に挙げて説明した。
しかし、これに限らず、例えばスリーブの縦弾性係数がバルブボディの縦弾性係数に対して1/10ないし1/100、より好ましくは、1/20ないし1/40となるように、スリーブを形成する材料とバルブボディを形成する材料とを選択的に変えることができる。
また、上述した実施の形態では、スリーブ24の縦弾性係数をバルブボディ6の縦弾性係数よりも小さくする構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、スリーブの縦弾性係数をバルブボディの縦弾性係数よりも大きくする構成としてもよい。
例えば、バルブボディを縦弾性係数が14GPa程度のPET樹脂により形成すると共に、スリーブを縦弾性係数が210GPa程度のS45C(機械構造用中炭素鋼)により形成することにより、スリーブの縦弾性係数をバルブボディの縦弾性係数の15倍程度にすることができる。より具体的には、スリーブの縦弾性係数がバルブボディの縦弾性係数に対して5倍ないし50倍、より好ましくは、10倍ないし20倍となるように、スリーブを形成する材料とバルブボディを形成する材料とを選択的に変えることができる。
さらに、本実施の形態では、1個の負圧室(定圧室)Aと1個の変圧室Bとを有するシングル式の気圧式倍力装置を例に挙げて説明したが、これに限らず、2個の負圧室(定圧室)と2個の変圧室とを有するタンデム式の気圧式倍力装置に適用してもよいものである。
以上の実施の形態によれば、リアクション部材のうちバルブボディと対向する面部位とバルブボディの対向面との間に伝達部材を設ける構成としたので、この伝達部材の縦弾性係数をバルブボディとの関係で調整することにより、入力ロッドと出力ロッドとの間の入出力のヒステリシス特性を所望値に調整することができる。このとき、無効ストロークの増減や無効入力の増減等を伴わずにヒステリシス特性の調整を行うことができるため、調整すべき部材が増加することがなく、ヒステリシス特性の調整作業を容易に行うことができる。
また、伝達部材の縦弾性係数をバルブボディの縦弾性係数よりも小さくする構成としたので、伝達部材の縦弾性係数とバルブボディの縦弾性係数とを同じにした場合に比べて、入力ロッドと出力ロッドとの間の入出力のヒステリシス特性を小さくすることができる。