本発明者らは、圧延金属箔に孔開け加工したメッシュ部材(以下、圧延金属箔メッシュ部材ということがある。)とステンレス細線メッシュ織物(即ち、金属メッシュ織物)によって構成されるメッシュ部材を用いて、高粘度のペーストの吐出状況を観察した。その結果、圧延金属箔によって構成されるメッシュ部材では、金属メッシュ織物によって構成されるメッシュ部材に比べてペーストの吐出状況が均一であることが判明した。また、金属メッシュ織物によって構成されるメッシュ部材では、ペーストが残存している孔(開口)が観察されたが、圧延金属箔メッシュ部材では、ペーストが残存している孔(開口)は観察されなかった。従って、圧延金属箔メッシュ部材を用いると、ペーストの吐出が均一で、且つ開口部にペーストが残存しないために、高低差が少ない印刷が可能となる。
そして高粘度のペーストを用いてスクリーン印刷する場合においては、ペーストの吐出性を向上させるために圧延金属箔メッシュ部材の開口率を大きくすることが考えられる。しかし、開口率を大きくし過ぎるとメッシュ部材の強度が低下し、破断することがある。そのため、圧延金属箔メッシュ部材の強度を高めるには、印刷対象物の印刷領域に相当する部分(即ち、スクリーン印刷時にペーストが透過する部分であり、以下、印刷領域相当部分ということがある。)の周辺部(即ち、スクリーン印刷時にペーストが透過しない部分であり、以下、非印刷領域相当部分ということがある。)には、孔を開けず、圧延金属箔のままとすればよい。ところが、感光性乳剤の種類によっては、圧延金属箔との接着性が低くなるために、繰返し印刷する途中で感光性乳剤がメッシュ部材から剥離することが判明した。
そこで本発明者らは、圧延金属箔メッシュ部材の非印刷領域相当部分における開口率および開口幅に着目し、感光性乳剤の剥離状態との間に何らかの関係がないか、検討を重ねてきた。その結果、メッシュ部材を構成する圧延金属箔を、印刷対象物の印刷領域に相当する部分と、印刷対象物の非印刷領域に相当する部分とを有するものとし、前記非印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率は、前記印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率よりも小さく、しかも前記非印刷領域に相当する部分に設けられた孔の少なくとも一部の開口幅が、前記印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口幅よりも大きくすれば、硬化させた感光性乳化剤が圧延金属箔から剥離するのを防止できることを見出し、本発明を完成した。こうした知見は、本発明者らが行った予備実験によって得られたものである。まず、この予備実験について説明する。
厚さ21μmの市販のステンレス鋼圧延箔(東洋精箔株式会社製、規格SUS304−H)に、片側からエッチングで孔開け加工し、メッシュ部材を作製した。孔の形状は、円形とし、孔の開口幅(直径)と孔を開ける間隔を制御して、ステンレス鋼圧延箔の印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値と、印刷面側およびスキージ側における開口幅(直径)の平均値を適宜調整した。下記表1に、スキージ側の開口率と、開口幅(直径)の平均値を示す。なお、ステンレス鋼圧延箔に形成した孔の外観形状は、印刷面側に向かって(印刷対象物に向かって)開口が広がる形状になっていた。
孔開け加工したステンレス鋼圧延箔のうち、印刷面側(印刷対象物側)に感光性乳剤を厚さ15μmで塗布後、エポキシ系接着剤を用いて金属板に貼り付けた。接着剤硬化後、オートグラフ(株式会社島津製作所製、型式AGS−H)を用いて、引張速度10mm/分でピール試験を行い、硬化させた感光性乳剤の剥離強度を測定した。測定結果を下記表1に示す。また、下記表1に示したデータに基づき、開口率と剥離強度との関係を示すグラフを図3に示す。図3において、◆はNo.1〜6の結果、■はNo.7の結果を夫々示している。
なお、下記表1のNo.1は、孔開け加工していないステンレス鋼圧延箔の表面に、感光性乳剤を上記条件で塗布した例である。一方、下記表1のNo.7は、上記ステンレス鋼圧延箔の代わりにステンレス鋼細線を編んだメッシュ織物を用いた例である。
上記表1および図3から次のように考察できる。No.1とNo.2〜6を比べると、孔開け加工せずにステンレス鋼圧延箔のまま用いるよりも、ステンレス鋼圧延箔に孔開け加工を行った方が、硬化させた感光性乳剤の剥離強度が大きくなり、ステンレス鋼圧延箔と感光性乳剤との接着性が向上することが分かる。また、No.2〜5を比べると、開口幅が同じ場合は、開口率を大きくする方が、硬化させた感光性乳剤の剥離強度が大きくなり、ステンレス鋼圧延箔と感光性乳剤との接着性が向上することが分かる。また、No.3とNo.6を比べると、開口率が同じ場合は、開口幅を大きくする方が、硬化させた感光性乳剤の剥離強度が大きくなり、ステンレス鋼圧延箔と感光性乳剤との接着性が向上することが分かる。
以上の予備実験結果から、ステンレス鋼圧延箔に孔を設けると、感光性乳剤が、孔の内部に入り込み、孔の側面に付着して接着するために、アンカー効果によって感光性乳剤の剥離強度が大きくなると考えられる。また、開口率を大きくするほど、ステンレス鋼圧延箔と感光性乳剤との接触面積(即ち、印刷面側の線部の面積と孔の側面の面積の合計面積)が大きくなるため、感光性乳剤の剥離強度が大きくなると考えられる。また、開口幅を大きくするほど、感光性乳剤を塗布した側(即ち、印刷対象物側)からの乾燥に加えて、スキージ側からの乾燥も促進されるため、ステンレス鋼圧延箔に対する感光性乳剤の接着性が向上すると考えられる。よって、非印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率を、印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率よりも小さくし、且つ非印刷領域に相当する部分に設けられた孔の少なくとも一部の開口幅を、印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口幅よりも大きくすることによって、感光性乳剤の剥離強度を大きくすることができ、接着性を向上できる。
《開口率について》
本発明では、メッシュ部材の強度を確保するために、非印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率を、印刷領域に相当する部分に設けられた孔の開口率よりも小さくしている。
非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率は、具体的には、5〜50%とすることが好ましく、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率は、具体的には、50〜90%とすることが好ましい。
非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率は、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率よりも、例えば、50%以下の範囲で小さくすることが好ましい。非印刷領域相当部分における開口率と印刷領域相当部分における開口率との差が50%を超えると、非印刷領域相当部分と印刷領域相当部分との境界に応力が集中し、破断する恐れがある。印刷領域相当部分における開口率と非印刷領域相当部分における開口率の差は、より好ましくは40%以下である。なお、非印刷領域相当部分における開口率と印刷領域相当部分における開口率との差の下限は特に限定されないが、例えば、10%とすればよい。
非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率を、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率よりも小さくするにあたっては、非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率を段階的に変化させてもよく、例えば、印刷領域側から反対側に向かって開口率が小さくなるように孔を設ければよい。即ち、印刷領域相当部分における開口率が、例えば、60%以上と高い場合は、非印刷領域相当部分のうち、印刷領域相当部分に近い側の開口率を例えば20〜30%とし、その周辺の印刷領域相当部分とは離れた側の開口率を例えば5〜15%とすればよい。なお、印刷領域相当部分における開口率を段階的に変化させてもよい。
《開口幅について》
本発明では、非印刷領域相当部分に設けられた孔の少なくとも一部の開口幅を、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口幅よりも大きくすることによって、感光性乳剤を素早く乾燥できるため、ステンレス鋼圧延箔に対する感光性乳剤の接着性を高めることができる。非印刷領域相当部分に設けられた孔は、全部の開口幅が、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口幅よりも大きくてもよい。
非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口幅は、100μm以上とすることが好ましい。孔の開口幅を100μm以上とすることによって、メッシュ部材のメッシュ数を250本/インチ以上[線部の間隔(即ち、線幅と開口部の合計であり、線部の中心間距離である。以下、ピッチということがある。)は100μm以下]とすることができる。こうしたメッシュ数は、高精細なスクリーン印刷する場合に要求される。孔の開口幅は、より好ましくは300μm以上である。
なお、本明細書において、孔の開口幅とは、隣り合う孔の中心(重心)同士を結んだ直線を描いたときに、開口部における直線と孔の輪郭との交差点間の距離(即ち、線部間の距離)を意味する。
非印刷領域相当部分に設ける孔の形状と、印刷領域相当部分に設ける孔の形状は、特に限定されず、孔の開口形状は、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形(正方形または長方形)、多角形(例えば、五角形、六角形など)、菱形、平行四辺形、台形などが挙げられる。また、長方形については、辺の一部に丸みを持たせたものや、長方形を扇のように湾曲させてもよい。これらのなかでも、非印刷領域相当部分に設ける孔は、円形であることが好ましく、印刷領域相当部分に設ける孔は、長方形であることが好ましい。
即ち、印刷領域相当部分における孔(開口)の形状(開口形状)が正方形の場合には、印刷パターンを露光する際に、露光位置(即ち、感光性乳剤の塗布位置)が印刷領域からずれ、印刷パターンを設計どおり形成できない恐れがある。また、印刷パターンが非印刷領域に入ると、ペーストが吐出しないこととなる。そのため、印刷パターン幅よりも大きい開口幅としながら強度を維持するには、印刷領域相当部分では、図4[図4の(a)は平面図、(b)は感光性乳剤を塗布した状態を示す図]に示すように、孔の形状を長方形にすれば、印刷パターンを露光する位置が多少ずれても、図4(b)に示すように印刷領域に印刷パターンを形成できる(即ち、感光性乳剤を塗布できる)。
メッシュ部材をアルミニウム枠に張る際や印刷中のスキージによる印圧による応力集中を避けるには、図5[図5の(a)は孔の開口形状が長方形のもの、(b)はR形状を設けたもの]に示すように、印刷領域相当部分の孔の隅にR形状を付けることが好ましい。
印刷領域相当部分と非印刷領域相当部分の境界Dは、上記図5に点線で示したように、印刷領域相当部分における開口部の端部を基準に設定されるものであり、開口部の端部に沿うように描かれる。この境界Dが、印刷領域相当部分と非印刷領域相当部分の夫々の開口率を計算するときの基準となる。なお、印刷領域相当部分の開口率は、当該領域の中央部において、観察視野内の孔の開口幅とピッチから開口率を複数箇所(例えば、3箇所)について測定し、これを平均して算出すればよい。印刷領域相当部分に、形状および/または大きさが異なる孔が設けられている場合は、孔の形状および大きさが同じ領域ごとに開口率を算出すればよい。
印刷領域に相当する圧延金属箔の部分と、非印刷領域に相当する圧延金属箔の部分の境界の輪郭は、図6に境界Dで示すように、角をなくして少なくとも一部が丸みを帯びたものとしてもよい。なお、図6において、10はメッシュ部材、11は印刷領域に相当する圧延金属箔の部分、12は非印刷領域に相当する圧延金属箔の部分を夫々示している。
なお、印刷領域相当部分に設ける孔の開口形状は、上記図5に示した長方形を平行に配置したものに限定されるものではなく、例えば図7に示すように、(a)平行四辺形を一列に配置したもの、(b)長方形を傾斜させて一列に配置したもの、(c)台形を一列に配置したもの、(d)長方形に丸みを持たせたもの、等様々な形状を採用できる。これらの形状は、印刷パターンの形状および幅等を考慮して選定すれば良い。
印刷領域相当部分については、(A)線部の少なくとも一部が相互に交差していてもよいし、(B)線部が交差していなくてもよい。
(A)線部の少なくとも一部が相互に交差している場合は、交差する部分が略T字であることが好ましい。即ち、印刷パターンの幅が狭い(例えば、100μm未満)場合は、メッシュ部材の線部の交差部分の面積が大きくなるため、スクリーン印刷を行った際に線部の下部にペーストが回りこみにくく、印刷幅にばらつきが生じやすくなる。そこで、線部が交差する部分が、略T字型になるように孔開け加工し、交差部分の面積を小さくすることによって、ペーストの回り込みを良好にでき、印刷幅のばらつきを少なくできる。
図8は、孔の形状(開口形状)を示す説明図である。図8(a)は、線部1aが相互に交差する部分がT字型である形状、図8(b)は、線部1aが相互に交差する部分の形状がT字型であって、孔の隅部にR形状(丸み)を付与したものである。圧延金属箔に孔開け加工する際に、線部1aが相互に交差する部分が十字型である場合(図9)、線部1aが相互に交差する部分の面積が大きくなり、スクリーン印刷を行った際に線部1aの下部にペーストが回り込みにくく、印刷幅にばらつきが生じやすくなる。一方、線部1aが相互に交差する部分がT字型になるように孔開け加工することによって[図8(a)および(b)]、ペーストの回り込みを一層良好にし、印刷幅のばらつきを少なくできる。
本発明のメッシュ部材では、図8(a)および(b)に示したように、線部1aが相互に交差する部分がT字型になるような開口形状を想定したものであるが、例えば、図8(c)に示すように、線部1aが相互に交差する部分が「Y字」に近い状態になる場合をも含むものである。こうしたY字に近い形状であっても上記の効果を発揮できる。こうした観点から、本発明では線部1aが相互に交差する部分の形状を「略T字型」と表現した。以下では、Y字型に近い状態も含め、一括して「T字型」と呼ぶことがある。
(B)線部が交差していない場合とは、上記図5や上記図7に示すように、複数の孔を一列に配置した形態を意味する。
メッシュ部材をアルミニウム枠に張る場合は、メッシュ部材の線部の方向が、スキージの移動方向(即ち、印刷方向)に対して傾斜させた状態とすることが好ましい。メッシュ部材の線部の方向が、スキージの移動方向と並行もしくは垂直になっていると、メッシュ部材の線部の下部にペーストが回り込みにくく、印刷かすれが生じやすい。本明細書では、このように傾斜させた状態を「バイアス」と表現する。圧延金属箔に孔開け加工する際に、バイアスをかけて孔を設けることによって、メッシュ部材を使ってコンビネーションマスクを作成する工程を簡素化できる。
線部の方向が、印刷方向に対して傾斜している状態の一例を図10に示す。図10は、線部の少なくとも一部が相互に交差しており、線部の方向が、印刷方向に対してバイアス22.5度で傾斜している様子を示している。
印刷領域相当部分においては、印刷対象物に向かって広がる孔を形成することが好ましい。印刷対象物に向かって広がる孔を形成することによって、メッシュ部材内部でペーストが滞留することを防ぐことができる。そのため、高粘度のペーストを用いてもペーストの吐出性を向上させることができる。なお、印刷対象物に向かって広がる孔は、非印刷領域相当部分に設けてもよい。
図11は、こうした形状を説明するための図である。図11(a)は、孔9の側壁が印刷対象物に向かって(図11の下方に向かって)垂直となる通常の孔の外観形状を示したものであり、図11(b)〜(d)は線部1aの断面形状を様々に工夫することによって、孔の外観形状を印刷対象物に向かって広がるように形成したものである。このうち、図11(b)は線部1aの断面形状を逆台形状、図11(c)は線部1aの断面形状が半円形状、図11(d)は線部1aの断面形状が三角形状であることを夫々示している。
これらの形状のうち、通常の孔の形状[図11(a)]に比べて、印刷対象物に向かって広がるように形成されたものである場合には[図11(b)〜(d)]、ペーストの回り込みが良好なものとなるために、ペーストの粘度を高めることができ、印刷時の滲みをより少なくできる。こうした形状の孔を形成するには、例えば圧延金属箔の片面側にのみにレジストを塗布後、孔の開口パターンを露光・現像し、低濃度のエッチング液を使ってレジストを塗布した片面側のみからエッチングすることで、圧延金属箔の片面をより多く溶かすことにより、上記のような各種外観形状の孔9を形成できる。
非印刷領域または印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率および開口幅は、スキージ面側または印刷対象物面側のどちらか一方で測定すればよい。但し、孔の外観形状を印刷対象物に向かって広がるように形成した場合には、上記開口率は、スキージ面側における開口率と印刷対象物面側における開口率の平均値とする。また、上記開口幅についてもスキージ面側における開口幅と印刷対象物面側における開口幅の平均値とする。
本発明のメッシュ部材は、印刷領域相当部分のうち、開口率が最も大きい部分が標点距離の中央部となるように、幅:15mm、標点距離:100mmの試験片を切り出し、引張速度10mm/分で引張試験を行ったときの破断荷重(N)を引張試験片の幅1cmあたりに換算した引張強度が20N/cm以上であることが好ましい。メッシュ部材について、局所的に強度の低い部分があるとアルミニウム枠に紗張りする際や印刷時のスキージの圧力によって亀裂が入り、メッシュ部材が破断する恐れがある。メッシュ部材のうち最も強度が低くなるのは、開口率が最も大きい部分であり、印刷領域相当部分である。そこで、印刷領域相当部分の強度を、所定値以上とすることによって、メッシュ部材の破断を防止できる。
本発明のメッシュ部材において、印刷領域相当部分の配置は特に限定されず、例えば、図12に示すように、(a)中央部に1箇所の印刷領域相当部分11(開口率が大きくなる部分)を有し、その周囲に非印刷領域相当部分12(開口率が小さくなる部分)を有するもの、(b)中央部に複数個の印刷領域相当部分11(開口率が大きくなる部分)を有し、その周囲に非印刷領域相当部分12(開口率が小さくなる部分)を有するもの、(c)中央部に非印刷領域相当部分12(開口率が小さくなる部分)を有し、その周囲に印刷領域相当部分11(開口率が大きくなる部分)を有し、更にその周囲に非印刷領域相当部分12(開口率が小さくなる部分)を有するもの、等様々な形態が挙げられる。なお、図12において、10はメッシュ部材を示しており、図12では、非印刷領域相当部分に設ける孔は図示していない。本発明のメッシュ部材の具体例を図13に示す。
本発明のメッシュ部材の厚みは特に限定されないが、例えば、5〜100μmであることが好ましい。メッシュ部材が薄いほど、メッシュ痕が残りにくく、印刷高さを均一にすることが期待できるが、厚さが5μm未満の圧延金属箔を安定して入手することは、現在の圧延技術では困難である。また、圧延金属箔が薄過ぎると、メッシュ部材として要求される強度を備えつつ充分な開口率を確保することが困難となる。従ってメッシュ部材の厚みは5μm以上とすることが好ましく、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。しかしメッシュ部材が厚くなり過ぎると、微細で精度の高い孔開け加工を行うことが困難となる。従ってメッシュ部材の厚みは100μm以下とすることが好ましく、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
本発明のメッシュ部材は、圧延金属箔に上記のような多数の孔を形成したものであるが、こうしたメッシュ部材では、線部を構成する少なくとも片面が平坦なものとなる。図14に、本発明のメッシュ部材にペーストを充填させた状態の一例を示す。図14において、d2は印刷膜厚を示しており、上記図2と同じ箇所には同一の符号を付した。
図14に示すように、本発明のメッシュ部材は、上方の面が平坦になっているため、上記図2に示すように、表面に凹凸を有する細線を編んだメッシュを用いた場合に比べてスキージ6の移動がスムースになり[図14(a)]、ペースト7を均一に引き伸ばし易くなると共に[図14(b)]、印刷膜厚d2が比較的厚いパターンの印刷を行なうことができるので好ましい[図14(c)]。また、このような平坦な面を有することによって、コンビネーションマスク(周囲が樹脂メッシュで中央が金属メッシュのマスク)を作製するときに、樹脂メッシュとの接着が容易になるという利点もある。なお、図14では、下側が印刷面側、上側がスキージ側であり、孔2の外観形状が印刷面側に向かって広がるように形成されている状態を示している。
本発明のメッシュ部材は、圧延金属箔にエッチング、レーザー加工、ショットブラストにより孔開け加工をすることによって製造できるが、開口精度と開口速度の点から、エッチングによる方法が最適である。エッチングによって孔開け加工するに際して、両面からのエッチングにより孔開けした場合には、孔の一部に凸部が形成されるため、スクリーン印刷時にペーストが滞留する恐れがある。そこで、一方面からエッチングにより孔開け加工するのが良い。その結果、孔の形状(外観形状)は、一方側から他方側に向かって広がるような形状になるが、印刷対象物に向かって広がるように孔を形成することによって、ペーストが滞留する事態も回避できる。
本発明のメッシュ部材をエッチングによる孔開け加工によって圧延金属箔に多数の孔を形成して製造するときの手順は下記の通りである。
圧延金属箔は、ガラスなどの表面が平坦な固定板に圧延金属箔を張って貼り付けた状態、または圧延金属箔を巻きつけたロールを張った状態、即ち圧延金属箔に皺(しわ)がないように張った状態とする。そして、圧延金属箔に感光性レジストをなるべく薄く塗布した後、マスクに描画したメッシュの開口部のパターンを露光、現像して、開口部のパターンを圧延金属箔に形成する。
印刷領域相当部分と非印刷領域相当部分を有し、非印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率を、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口率よりも小さくし、非印刷領域相当部分に設けられた孔の少なくとも一部の開口幅が、印刷領域相当部分に設けられた孔の開口幅よりも大きいメッシュ部材を製造するに当っては、圧延金属箔に感光性レジストを塗布した後、印刷領域相当部分の開口パターンを描画したマスクの上に非印刷領域相当部分の開口パターンを描画したマスクを重ねて配置して露光・現像し、引き続きエッチングするようにすれば良く、これによって比較的簡単な手順にて、開口率が大きい部分と小さい部分を有するメッシュ部材を製造できる。
露光する印刷パターンに合わせて印刷領域を設定し、孔開け加工した場合、メッシュ部材をアルミニウム枠に張ると、メッシュ部材が伸びて、印刷領域の位置が印刷パターンからずれることがある。そのため、印刷パターンを露光する際に露光した印刷パターンが印刷領域から外れる恐れがある。その場合、印刷パターンの一部が非印刷領域に入り、ペーストが吐出しないため、印刷かすれや印刷幅のばらつきが生じる。そこで、孔開け加工する印刷領域の位置をあらかじめ中央部に偏らせておけば、アルミニウム枠に張った際にメッシュ部材が伸び、印刷パターンの位置を合わせやすくできる。
本発明で用いる圧延金属箔の素材としては、ステンレス鋼の他、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、アルミ合金等で箔状にできるものであれば良い。具体的には、ステンレス鋼であればSUS304−H等、チタン合金であればJISH4600 80種等、ニッケル合金であればJISCS2520(1986)NCHRW1等、銅合金であればJISH3130 C1720R−H等、アルミ合金であればJISH4000 5052等が挙げられる。また、このような圧延金属箔は、一般的に市販されており、容易に入手できる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
[実施例1]
厚さ21μmの市販のステンレス鋼圧延箔(東洋精箔株式会社製、規格SUS304−H)に、片側からエッチングで孔開け加工し、メッシュ部材を作製した。
得られたメッシュ部材を電子顕微鏡で写真撮影し、一部を拡大した写真(図面代用写真)を図15に示す。
ステンレス鋼圧延箔に形成した孔の外観形状は、印刷面側に向かって(印刷対象物に向かって)開口が広がる形状になっていた。
上記メッシュ部材は、印刷対象物の印刷領域に対応する印刷領域相当部分と、印刷対象物の非印刷領域に対応する非印刷領域相当部分を有しており、これらの領域のうち、印刷領域相当部分には、四角形の孔がバイアス45度で、孔のピッチが80μm[メッシュ数が320本/インチ]となるように連続して並ぶように形成した。印刷領域相当部分の中央部を電子顕微鏡で写真撮影し、写真内に存在する孔の開口幅とピッチを測定した。測定箇所は3箇所とし、孔の開口幅とピッチから開口率を算出し、平均値を求めた。印刷領域相当部分において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は52%であった。また、印刷領域相当部分において、四角形の孔の開口幅は、印刷面側が83μm、スキージ側が59μmで、両面の平均開口幅は71μmであった。なお、開口幅とは、隣り合う孔の中心同士を結んだときの線部間の距離を意味している。また、印刷領域相当部分において、線部は交差しており、線部が構成する面は平坦になっていた。
一方、非印刷領域相当部分には、円形の孔が連続して並ぶように形成した。非印刷領域相当部分において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は20%であった。また、非印刷領域相当部分において、円形の孔の開口幅(直径)は、印刷面側が112μm、スキージ側が88μmで、両面の平均開口幅は100μmであった。
次に、得られたメッシュ部材のうち、印刷領域相当部分から、幅:15mm、標点距離:100mmの試験片を切り出し、引張速度:10mm/分で引張試験を行った。このときの破断荷重(N)を引張試験片の幅1cmあたりに換算した引張強度は42N/cmであった。従って、強度が高く、メッシュ部材は破断しにくいと考えられる。
次に、得られたメッシュ部材をポリエステル細線メッシュと接合し、感光性乳剤を印刷面側(印刷対象物側)から厚さ:30μmで塗布後、フィンガー電極幅:80μm、バスバー幅:2mmの印刷パターンを露光・現像して印刷版を作製した。
得られた印刷版を用いて導電性銀ペースト(東洋インキ製造株式会社製:「RAFS」)を使った印刷を連続して1万回行った。その結果、非印刷領域相当部分における感光性乳剤は、圧延金属箔から剥離しなかった。
また、印刷領域相当部分における導電性銀ペーストの吐出性は良好であり、1万回印刷を繰り返しても印刷かすれは発生しなかった。
[実施例2]
厚さ21μmの市販のステンレス鋼圧延箔(東洋精箔株式会社製、規格SUS304−H)に、片側からエッチングで孔開け加工し、メッシュ部材を作製した。
得られたメッシュ部材を電子顕微鏡で写真撮影し、一部を拡大した写真(図面代用写真)を図16に示す。
ステンレス鋼圧延箔に形成した孔の外観形状は、印刷面側に向かって(印刷対象物に向かって)開口が広がる形状になっていた。
上記メッシュ部材は、印刷対象物の印刷領域に対応する印刷領域相当部分と、印刷対象物の非印刷領域に対応する非印刷領域相当部分を有しており、これらの領域のうち、印刷領域相当部分には、隅にR形状を付した略長方形の孔(約64μm×約500μmの長方形の隅にR形状を付した孔)を形成した。略長方形の孔は、孔のピッチが80μm[メッシュ数が320本/インチ]となるように、孔の長さ方向が揃い、連続して並ぶように形成した。印刷領域相当部分の中央部を電子顕微鏡で写真撮影し、写真内に存在する孔の開口幅とピッチを測定した。測定箇所は3箇所とし、孔の開口幅とピッチから開口率を算出し、平均値を求めた。印刷領域相当部分において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は78%であった。また、印刷領域相当部分において、略長方形の孔の開口幅は、印刷面側が74μm、スキージ側が54μmで、両面の平均開口幅は64μmであった。なお、開口幅とは、隣り合う孔の中心同士を結んだときの線部間の距離を意味している。また、印刷領域相当部分において、線部は交差しておらず、線部が構成する面は平坦になっていた。
一方、非印刷領域相当部分には、円形の孔が連続して並ぶように形成した。非印刷領域相当部分において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値20%であった。また、非印刷領域相当部分において、円形の孔の開口幅(直径)は、印刷面側が110μm、スキージ側が90μmで、両面の平均開口幅は100μmであった。
次に、得られたメッシュ部材のうち、印刷領域相当部分から、幅:15mm、標点距離:100mmの試験片を切り出し、引張速度:10mm/分で引張試験を行った。このときの破断荷重(N)を引張試験片の幅1cmあたりに換算した引張強度は29N/cmであった。従って、強度が高く、メッシュ部材は破断しにくいと考えられる。
次に、得られたメッシュ部材をポリエステル細線メッシュと接合し、感光性乳剤を印刷面側(印刷対象物側)から厚さ:30μmで塗布後、フィンガー電極幅:80μm、バスバー幅:2mmの印刷パターンを露光・現像して印刷版を作製した。
得られた印刷版を用いて導電性銀ペースト(東洋インキ製造株式会社製:「RAFS」)を使った印刷を連続して1万回行った。その結果、非印刷領域相当部分における感光性乳剤は、圧延金属箔から剥離しなかった。
また、印刷領域相当部分における導電性銀ペーストの吐出性は良好であり、1万回印刷を繰り返しても印刷かすれは発生しなかった。
[実施例3]
厚さ21μmの市販のステンレス鋼圧延箔(東洋精箔株式会社製、規格SUS304−H)に、片側からエッチングで孔開け加工し、メッシュ部材を作製した。
得られたメッシュ部材を電子顕微鏡で写真撮影し、一部を拡大した写真(図面代用写真)を図17に示す。
ステンレス鋼圧延箔に形成した孔の外観形状は、印刷面側に向かって(印刷対象物に向かって)開口が広がる形状になっていた。
上記メッシュ部材は、印刷対象物の印刷領域に対応する印刷領域相当部分と、印刷対象物の非印刷領域に対応する非印刷領域相当部分を有しており、これらの領域のうち、印刷領域相当部分には、隅にR形状を付した略長方形の孔(約64μm×約500μmの長方形の隅にR形状を付した孔)を形成した。略長方形の孔は、孔のピッチが100μm[メッシュ数が250本/インチ]となるように、孔の長さ方向が揃い、連続して並ぶように形成した。印刷領域相当部分の中央部を電子顕微鏡で写真撮影し、写真内に存在する孔の開口幅とピッチを測定した。測定箇所は3箇所とし、孔の開口幅とピッチから開口率を算出し、平均値を求めた。印刷領域相当部分において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は64%であった。また、印刷領域相当部分において、略長方形の孔の開口幅は、印刷面側が75μm、スキージ側が53μmで、両面の平均開口幅は64μmであった。なお、開口幅とは、隣り合う孔の中心同士を結んだときの線部間の距離を意味している。また、印刷領域相当部分において、線部は交差しておらず、線部が構成する面は平坦になっていた。
一方、非印刷領域相当部分は、円形の孔が連続して並ぶように形成した。但し、本実験例では、非印刷領域相当部分を、開口率が大きい領域と小さい領域の二つに分けており、上記印刷領域相当部分側から、開口率が大きい領域、開口率が小さい領域の順に並ぶように円形の孔を形成した。
非印刷領域相当部分のうち、開口率が大きい領域において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は20%であった。また、非印刷領域相当部分において、円形の孔の開口幅(直径)は、印刷面側が110μm、スキージ側が90μmで、両面の平均開口幅は100μmであった。
非印刷領域相当部分のうち、開口率が小さい領域において、印刷面側およびスキージ側における開口率の平均値は7%であった。また、非印刷領域相当部分において、円形の孔の開口幅(直径)は、印刷面側が310μm、スキージ側が290μmで、両面の平均開口幅は300μmであった。
次に、得られたメッシュ部材のうち、印刷領域相当部分から、幅:15mm、標点距離:100mmの試験片を切り出し、引張速度:10mm/分で引張試験を行った。このときの破断荷重(N)を引張試験片の幅1cmあたりに換算した引張強度は45N/cmであった。従って、強度が高く、メッシュ部材は破断しにくいと考えられる。
次に、得られたメッシュ部材をポリエステル細線メッシュと接合し、感光性乳剤を印刷面側(印刷対象物側)から厚さ:30μmで塗布後、フィンガー電極幅:80μm、バスバー幅:2mmの印刷パターンを露光・現像して印刷版を作製した。
得られた印刷版を用いて導電性銀ペースト(東洋インキ製造株式会社製:「RAFS」)を使った印刷を連続して1万回行った。その結果、非印刷領域相当部分における感光性乳剤は、圧延金属箔から剥離しなかった。
また、印刷領域相当部分における導電性銀ペーストの吐出性は良好であり、1万回印刷を繰り返しても印刷かすれは発生しなかった。