図17は駆動用等速推進軸を示し、この駆動用等速推進軸は、中間軸(シャフト)1と、このシャフト1の一方の端部に連結される固定式等速自在継手2と、シャフト1の他方の端部に連結される摺動式等速自在継手3とを備える。
固定式等速自在継手2は、図18に示すように、内径面5に複数の転動溝6を形成した外側継手部材7と、外径面8に複数の転動溝9を形成した内側継手部材10と、外側継手部材7の転動溝6と内側継手部材10の転動溝9との間に介在してトルクを伝達するボール11と、外側継手部材7の内径面5と内側継手部材10の外径面8との間に介在してボール11を保持するケージ12とを備える。
外側継手部材7は、転動溝6がその内径面5に形成されたマウス部7aと、このマウス部7aの底壁から突設されるステム部7bとからなる。また、内側継手部材10の孔部13の内径面には雌スプライン14が形成され、内側継手部材10の孔部13にシャフト1の一方の端部の雄スプライン15が嵌入され、この雄スプライン15が雌スプライン14に嵌合する。なお、雄スプライン15には周方向溝16が設けられ、この周方向溝16に止め輪17が装着され、シャフト1の抜け止めが構成される。
また、外側継手部材7のマウス部7aの開口部はブーツ20にて塞がれる。ブーツ20は、大径部20aと、小径部20bと、大径部20aと小径部20bとを連結する蛇腹部20cとからなる。大径部20aが外側継手部材7のマウス部7aの開口部に外嵌される。そして、その外嵌された状態でブーツバンド21が締め付けられて、大径部20aがマウス部7aに装着される。また、小径部20bがシャフト1の装着部22に外嵌される。そして、その外嵌された状態でブーツバンド23が締め付けられて、小径部20bがシャフト1に装着される。
摺動式等速自在継手3はダブルオフセットタイプであって、図19に示すように、円筒状の内径面25に複数の直線状の転動溝26を軸方向に形成した外側継手部材27と、球面状の外径面28に複数の直線状の転動溝29を軸方向に形成した内側継手部材30と、外側継手部材27の転動溝26と内側継手部材30の転動溝29との間に介在してトルクを伝達するボール31と、外側継手部材27の内径面25と内側継手部材30の外径面28との間に介在してボール31を保持するケージ32とを備える。
外側継手部材27は、転動溝26がその内径面25に形成されたマウス部27aと、このマウス部27aの底壁から突設されるステム部27bとからなる。また、内側継手部材30の孔部33の内径面には雌スプライン34が形成され、内側継手部材30の孔部13にシャフト1の他方の端部の雄スプライン35が嵌入され、この雄スプライン35が雌スプライン34に嵌合する。なお、雄スプライン35には周方向溝36が設けられ、この周方向溝36に止め輪37が装着され、シャフト1の抜け止めが構成される。
外側継手部材27のマウス部27aの開口部はブーツ40にて塞がれる。ブーツ20は、大径部40aと、小径部40bと、大径部40aと小径部40bとを連結する蛇腹部40cとからなる。大径部40aが外側継手部材27のマウス部27aの開口部に外嵌される。そして、その外嵌された状態でブーツバンド41が締め付けられて、大径部40aがマウス部27aに装着される。また、小径部40bがシャフト1の装着部42に外嵌される。そして、その外嵌された状態でブーツバンド43が締め付けられて、小径部40bがシャフト1に装着される。
このように、等速自在継手は産業機械や自動車などで図17のような固定式等速自在継手2と摺動式等速自在継手3を中間の軸1で分解可能な構造として連結され、転動部が滑らかに作動するため潤滑剤(多くはグリースで油の場合もある)を封入しブーツ(ゴムや樹脂が多い)でシールされ、ブーツはバンドなどで固定され使用される。
固定式等速自在継手であっても摺動式等速自在継手であっても、外側継手部材は、素材から鍛造により前成形された後、機械加工(旋盤加工、転造、ドリル加工)されて熱処理工程に入る。熱処理は、浸炭(肌焼鋼SCM420等)や高周波焼入れ(炭素鋼S50C等)が使用されている。その後必要な部位を研削加工により仕上げされる。また、鍛造は、熱間鍛造や温間鍛造また冷間鍛造更には、温間鍛造後冷間鍛造しネットシェープする場合もある。生産個数が少ない場合、大きな素材から削り出し、熱処理、仕上げ加工されることが多く、熱処理は、浸炭焼入れ処理が多い。この理由は、高周波焼入れは、製品を加熱するのに製品に合ったコイルを作製するため、コイルの製作時間が多く必要なことと製作費用が高くなるためである。
また内側継手部材は、肌焼鋼(SCr420等)の浸炭焼入れが多い。例えば、炉内の雰囲気を調整し、960℃に加熱し5h浸炭・8h拡散処理後850℃から130℃の油中に焼入れされる。ケージは、肌焼鋼(SCr415等)の浸炭焼入れが多く、炭素鋼(S50C等)を焼入れする場合もある。ボールは、軸受鋼を焼入れされることが多い。各部材は、焼入れ後低温焼戻しされる。
産業機械向け等のトルク伝達容量の大きな等速自在継手は、外径(例えば、直径が300mm〜500mm程度)が大きく、重量も数十kgを超え、百kg近くに及ぶ場合もある。このため、耐久性を確保するため焼入れ硬化して硬化層を設ける。特に、摺動式等速自在継手は、転動体を有し高い面圧と滑り速度で摺動し、同時に各部品は球や円筒で待遇しているため摺動部が多い。そのため、各摺動部は必要な耐久性を確保するため焼入れ硬化する。
硬化層は、特許文献1に記載のように浸炭焼入れにて構成したり、特許文献2に記載のように高周波焼入れにて構成したりできる。ここで、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う処理である。鋼の場合、炭素濃度の高い表面付近は硬く耐摩耗性と耐荷重に優れた高炭素マルテンサイト、また炭素濃度の低い内部は、じん性の高い低炭素マルテンサイトとなる。これにより、強靭で耐摩耗の高い特性を与えることができる。また、高周波焼入れとは、高周波誘導加熱を利用して被加熱物の表面を焼入れ温度まで急速加熱し、さらに急速冷却することにより表面層に焼入れ硬化層を作る処理である。耐摩耗性を向上させ、大きな圧縮残留応力の付与により機械的性質を高めることができる。
図20と図21は、外側継手部材50の内径面51に焼入れ硬化処理(高周波焼入れ処理)を施している状態を示している。すなわち、コイル52を外側継手部材50の内径面51の全周に対応するように配設し、このコイル52に高周波を印加するものである。これによって、内径面51の転動溝53の溝底及び内側継手部材摺接面54に硬化層Sを形成するものである。この場合、例えば、材料はS50Cで高周波焼入れは、周波数60kHzで出力250kwの装置を用いて円形で数巻したコイル52を用いて加熱し焼入れすることになる。
また、産業機械部品は、生産個数が少ないため、既存の類似した製品を機械加工し溶接構造として使用する場合が多い。このような場合等速自在継手(大型の摺動式等速自在継手(DOJ))は類似の製品からカップ部のみを切り出し、溶接される部分を防炭し熱処理後、機械加工されたフランジ部を溶接される。浸炭時にボルト穴等も防炭する必要があるため、浸炭処理も人工数を多く必要とする場合がる。また、浸炭は、防炭しない表面は全て、高炭素(約1.0wt%前後)でHV600以上の高い硬さになるため、亀裂敏感性が高くなる課題がある。
浸炭焼入れは、多くの製品を同時に加熱炉の中で製品全体を高温(900℃以上)に加熱するのに対し、高周波焼入れは、1個または数個を同時に焼入れ硬化する部分に加熱用の銅製コイルに高周波発振装置で高周波電流を流し表層を局部的に加熱する処理である。
以上のように、浸炭焼入れは、炉の容量により処理できる個数が決まり、小型で軽量な程、一回の処理で多くの製品を処理できるため、処理コストは低減する。また、更に、焼入れ硬化層の深さが薄い程、処理時間が短くなるためコストは下がる。
したがって、等速自在継手のトルク容量が大きくなるほど、等速自在継手は、大型化するため処理個数が少なくなり処理時間が増加するため熱処理コストは増加する。また、浸炭深さも増加するため、更にコストが増加する課題がある。また、浸炭は、高温で長時間加熱保持後油焼入れされるので、形状が大型化すると製品の焼入れ時の冷却が不均一となり、焼入れ後の寸法変化とばらつきが増加する場合があり、課題となっていた。
前記特許文献2に記載のように、高周波焼入れでは、必要なところをコイルで加熱し水などの冷却液を直接噴射し冷却する。そして、大きな製品を処理する場合、大きな出力を必要とするため大きな出力を出す高周波発振装置が必要となり、更にコイルも大型化し処理コストが大幅に増加する課題がある。また、より大きな出力が必要となり、既存の設備では加熱できなく、新規設備の設計・開発が必要な場合もあり、開発工数の大幅な増加をきたす場合もある。
本発明は、前記課題に鑑みて、製品が大型化しても、高出力で新たな設備の開発・新設を不要とし、既存の設備で処理可能とし、タイムリーな試作と熱処理コストを大幅に低減可能な等速自在継手の外側継手部材、等速自在継手、および継手アッセンブリを提供する。
本発明の第1の等速自在継手における外側継手部材は、内径面にトルク伝達部材である転動体が転動する転動溝を周方向に沿って所定ピッチで複数個形成し、転動溝間の内径面をケージの外径面が摺接する摺接面とした等速自在継手の外側継手部材であって、
転動溝および摺接面に焼入れ硬化層を設けるとともに、各摺接面の周方向中間部位に、前記硬化層よりも硬度が低い焼入れによる軟化部を設けたものである。
本発明の第2の等速自在継手における外側継手部材は、内径面にトルク伝達部材である転動体が転動する転動溝を周方向に沿って所定ピッチで複数個形成し、転動溝間の内径面をケージの外径面が摺接する摺接面とした等速自在継手の外側継手部材であって、転動溝および摺接面に焼入れ硬化層を設けるとともに、複数の摺接面のいずれかの摺接面には、周方向中間部位に硬化層よりも硬度が低い焼入れによる軟化部を設けたものである。
本発明の第1及び第2の等速自在継手の外側継手部材によれば、摺接面での軟化部は、硬化層よりも面圧が低くなり、面圧が高い部位の面積を減少させることができる。また、このように軟化部を設けることによって、内径面の全周にわたって硬化層を設ける必要がない。すなわち、硬化層を高周波焼入れにて形成する場合、全周巻きのコイルを必要としない。
軟化部の表面硬さは、前記硬化層の熱処理前の硬さ以上であり、硬化層の表面硬さより
も300HV以上低くすることができる。差が300HV未満となると軟化部の加熱温
度を300℃以下の低温に抑える必要があり、焼入れ硬化させたい部分の必要硬さ(具体
的には、炭素量0.48〜0.60wt%の炭素鋼の焼入れ最大硬さ600〜750HV
が好ましい)が得られない。
摺接面の周方向中間部位には凹部が形成され、この凹部の表面が前記軟化部とされる。すなわち、軟化部は、焼入れ硬化部より熱処理後の膨張量が小さいため、僅かに凹んだ状態となる。このため、内側継手部材と直接接触しない。また、凹部には高周波焼入れにより微細なポーラスを有する酸化スケールが生成され、このポーラスがグリース(潤滑剤)の保持作用を高め、摩耗の進行が増加することを抑制することになる。
ところで、浸炭処理して外側継手部材を焼入れ硬化した場合、炉内で製品の全体が加熱されるため、一般的に表面が全て焼入れ硬化する。このため膨張による寸法変化が大きくなる問題がある。そのため、焼入れ硬化層は、必要な箇所に限定することが望まれる。また、加工時や使用時に不可避的に生じる微細な表面傷や打痕傷または鋭角部は、硬さが増加すればする程、破壊の起点として敏感に作用するようになり、製品の加工時や装置への組み付け時または実使用時に干渉の確率の高い外周部は焼入れ硬化しないことが、破壊に対する安全性を向上させる。そのため、高周波焼入れで転動溝と摺接面を焼入れ硬化する場合、外周面への加熱を避けることが重要である。また、外周面部まで焼入れ硬化させると軟化部の範囲が増加するため問題となる。そのため、転動溝の底での硬化深さは、肉厚の15%〜70%以下が好ましい。70%を超えると内部からの熱伝導で外周面が高温になり外周面が硬化し始め、軟化部の範囲が摺接面の広範囲に亘る問題が発生する。したがって、外径面は焼入れ処理が施されていない未硬化処理面であるのが好ましい。
外部へのトルク伝達部が前記転動溝及び摺接面が形成されたマウス部の外径面よりも外径側に配置するようにできる。これによって、作用するねじり応力の低減を図ることができる。
転動溝の幅寸法よりも摺接面の幅寸法が大きいように設定できる。転動溝の幅より摺接面の幅が小さくなると、内側継手部材の外側継手部材との摺接面の幅が減少する。このため、内側継手部材の強度が低下することになる。
各硬化層は軸方向両端部に達しない範囲とされるのが好ましい。軸方向両端部は、不連続部のため、応力集中しやすく冷却速度が早く、焼入れ時に焼割れが生じ易くなる。このため、このような軸方向端部において、焼入れによる硬化層を形成しないことによって、焼割れが生じないように設定できる。
内径面を円筒状とした場合、焼入れによる硬化層の厚さを軸方向に沿って均一とすることができ、しかも焼入れに用いるコイル等の焼入れ時の軸方向の移動が容易となる。
軸方向両端部が開口され、内径面において、軸方向端部の径が軸方向端部以外の部位の径と同一乃至軸方向端部以外の部位よりも大きいように設定できる。これによって、焼入れに用いるコイル等の出し入れが容易であるとともに、焼入れ時に使用する冷却水の排出がし易くなる。転動溝の溝底は、焼入れ硬化処理後の仕上げ加工が施されてなるのが好ましい。
本発明の等速自在継手は、前記外側継手部材を用いたものであり、また、前記外側継手
部材を用い、転動体を電気絶縁性高硬度材にて構成したものある。電気絶縁性高硬度材と
してセラミックを採用することができる。
等速自在継手の潤滑剤に、少なくとも層状結晶構造を持つ固体潤滑剤を添加剤として添加するのが好ましい。層状結晶構造をもつことによって、層と層にせん断力が加わることによって容易に層間がすべる。このため、摩耗係数は低くなり、潤滑性を発揮する固体潤滑剤を添加することによって潤滑特性に優れた等速自在継手となる。
転動体を保持するケージの窓は、転動体を等速二等分面に保持するためケージの窓と転動体間にスキマが無い事が望まれる。しかし、加工には寸法のバラツキが必ず生じる。その際、ボールがケージの窓に圧入状態で保持されれば転動体が等速二等分面に確実に保持できるが半面圧入状態で転動体が窓内で摺動するため発熱と摩耗が顕在化する。特に、転動体がセラッミックの場合、硬質のためケージ窓部の摩耗が顕著となる。
本発明の継手アッセンブリは、前記等速自在継手にて構成したダブルオフセットタイプの一対の摺動式等速自在継手と、これらの摺動式等速自在継手を連結するシャフトとを備えたものである。各摺動式等速自在継手の外側継手部材はトルク伝達用フランジを有し、前記シャフトの軸方向のストッパを反トルク伝達用フランジ側に設けるとともに、トルク伝達用フランジ側には非ケージ干渉構造とし、一対の摺動式等速自在継手を、転動体の軸方向の駆動力を相互に打ち消すようにシャフトを介して連結するのが好ましい。
本発明の等速自在継手の外側継手部材の製造方法は、内径面にトルク伝達部材である転動体が転動する転動溝を周方向に沿って所定ピッチで複数個形成し、転動溝間の内径面をケージの外径面が摺接する摺接面とし、転動溝および摺接面に焼入れ硬化層を形成した等速自在継手の外側継手部材の製造方法であって、転動溝に対応させた位置で周方向に隣り合う摺接面に跨る程度の小径のコイルと外側継手部材の転動溝とを対応させて高周波焼き入れを行い、周方向に沿って所定角度でずらし、コイルと別の転動溝とを対応させて高周波焼き入れを行い、当該工程を順次行って、すべての転動溝および摺接面に高周波焼入れを行い摺接面の周方向中央部を2度加熱するものである。
本発明の等速自在継手の外側継手部材によれば、摺接面での軟化部は、硬化層よりも面圧が低くなり、面圧が高い部位の面積を減少させることができ、耐摩耗性に優れる。また、硬化層を高周波焼入れにて形成する場合、全周巻きのコイルを必要としない。すなわち、小型のコイルを用い、このコイルを周方向に沿って移動させればよい。このため、コイルの製作費用や製作日数の大幅な削減が可能となって、熱処理コストの削減を達成できる。しかも、一度に全周加熱する必要がないので、大出力の設備(高周波設備)を必要とせず、設備費の低減を達成できる。その結果、タイムリーな処理が可能となり、大幅な熱処理コストの削減に繋がる。
軟化部の表面硬さは、前記硬化層の熱処理前の硬さ以上であり、硬化層の表面硬さよりも300HVよりも低くすることによって、焼入れ硬化させた部位の必要硬さを得ることができ、また、必要な硬化深さを得ることができる。
摺接面の周方向中間部位に凹部が設けられたものでは、軟化部とゲージの外径面との接触を回避することができるとともに、凹部にポーラスを有する酸化スケールが生成されて摩耗の進行を抑制できる。このため、耐摩耗性に優れる。
外径面は焼入れ硬化処理が施されていない未硬化処理面とすることによって、破壊に対する安全性に優れた高品質の外側継手部材を提供できる。
外部へのトルク伝達部が前記転動溝及び摺接面が形成されたカップ部の外径面よりも外径側に配置することによって、作用するねじり応力の低減を図ることができ、耐用性に優れた外側継手部材となる。
転動溝の幅寸法よりも摺接面の幅寸法が大きいように設定することによって、内側継手部材の強度低下を防止できるとともに、内径面の耐摩耗性の向上を図ることができる。軸方向端部において、焼入れによる硬化層を形成しないことによって、焼割れが生じないように設定でき、焼入れ後の品質の向上と焼き割れを防止でき、強度低下を防止できる。
内径面が円筒状とした場合、焼入れによる硬化層の厚さを軸方向に沿ってより均一とすることができ、しかも焼入れに用いるコイル等の焼入れ時の軸方向の移動が容易となり、次ぎの焼入れ部位への移動の際に、簡易な装置で短時間に作業が完了できる。
軸方向端部の径が軸方向端部以外の部位の径と同一乃至軸方向端部以外の部位よりも大きいように設定したものでは、焼入れに用いるコイル等の出し入れが容易であるとともに、焼入れ時に使用する冷却水を排出し易くなり、外側継手部材への冷却水の溜りを防止し、より均一な冷却を可能とでき、焼入れ硬化組織の品質の向上を図ることができる。また、転動溝の溝底の仕上げ加工が施されたものでは、高品質の製品を提供できる。
転動体を電気絶縁性高硬度材にて構成したものでは、使用時におけるモータ等からの漏電や電食を防止でき、装置の安全性の向上や電食による継手寿命の低下を防止できる。ところで、電気絶縁性高硬度材の転動体としてセラミックボールがある。セラミックボールは、極めて潤滑剤との反応性が低いため、摩耗を抑制する反応膜の生成が困難と成り潤滑特性が低下する場合がある。このため、グリースの添加剤として少なくとも層状構造を有した固体潤滑剤を添加することにより潤滑特性に優れた継手アッセンブリを提供することが可能となる。CaCuO2やCa2CuO3などの複合酸化物やMoS2(二硫化モリブデン)・WS2・SnS2などの硫黄系や樹脂系のMCA(メラミンシアヌレート)が好ましく、少なくとも2種類の添加総量は0.5%〜20%が好ましい。0.5%未満では、効果がなく、20%を超えるとグリースの流動性が著しく低下し、封入時の作業性の悪化や接触面への介入性の低下並びにコストが増加するため好ましくない。二硫化モリブデンは、一般に極圧添加剤として広く用いられている。その潤滑機構としては、層状格子構造を持ち、すべり運動により薄層状に容易にせん断し、摩擦係数を低下させることが知られている。また、継手の焼け付き防止にも効果がある。メラミンシアヌレートは、例えば、メラミン水溶液とシアヌル酸又はイソシアヌル酸水溶液を混合すると容易に白色の沈殿として析出してくる。メラミンシアヌレートは、通常平均粒径1〜2μmの白色微粉末として市販されており、6員環構造のメラミン分子とシアヌル酸分子が水素結合で強力に結合して平面状に配列し、その平面が互いに弱い結合力で層状に重なりあって、二硫化モリブデンと同様にへき開性を有すると推定され、優れた潤滑性を与えるものと考えられる。
ケージの窓寸法が転動体寸法より2μmより大きな締代になると発熱と摩耗が顕在化し、また、80μmを超えるとボールが等速二等分面の正規の位置から外れ、作動性を著しく阻害し、異音が発生することがある。このため、ポケットが転動体に対して−2μm〜80μmに設定することが好ましい。
ストッパ及び非ケージ干渉構造を設けた継手アッセンブリでは、左右の等速自在継手のケージの組み込み方向を同一とし、左右の等速自在継手を互いに対面するよう組み付け、ボールの軸方向の駆動力を互いに極力打ち消しあう状態にし、不釣合いによる軸の移動のストッパを継手アッセンブリの中央方向(カップのトルク伝達用フランジがあるカップ端面と反対側)カップ端面側に配し、且つ軸の移動によりトルク伝達用フランジがあるカップ端面側のシールとケージが干渉しないように軸の長さを調整することにより、ケージがシールを貫通し外側継手部材が固定されている相手部品の損傷を防止し、且つシール構造が簡易な構造とすることが可能となり、コストを低減できる。
以下本発明の実施の形態を図1〜図16に基づいて説明する。
図1と図2は本発明にかかる継手アッセンブリを示し、継手アッセンブリは、一対の等速自在継手(ダブルオフセットタイプの摺動式等速自在継手)61、62と、これらの摺動式等速自在継手61、62を連結するシャフト60とを備える。摺動式等速自在継手61、62は同一構成である。
等速自在継手61、62は、円筒状の内径面63に複数の直線状の転動溝(トラック溝)64を軸方向に形成した外側継手部材65と、球面状の外径面66に複数の直線状の転動溝(トラック溝)67を軸方向に形成した内側継手部材68と、外側継手部材65の転動溝64と内側継手部材68の転動溝67との間に介在してトルクを伝達するボール69と、外側継手部材65の内径面63と内側継手部材68の外径面66との間に介在してボール69を保持するケージ70とを備える。ケージ70には、周方向に沿って所定ピッチで窓78が設けられ、この窓78にボール69が保持されている。
外側継手部材65は、転動溝64が形成される短円筒状の本体部71と、この本体部71に一体状に連結されるフランジ部72とからなる。フランジ部72は、短円筒状部72aと、外鍔部72bとからなる。また、短円筒状部72aは、その内径面が大径部74aと、小径部74bと、大径部74aと大径部74bとを連結するテーパ部74cとを備える。また、大径部74aの開口部にはチャンファ74dが設けられている。そして、このチャンファ74d側の端部が、本体部71のフランジ部側の端部内径面に設けられた周方向切欠部に嵌合され、この状態で、本体部71とフランジ部72とが溶接一体化される。
また、フランジ部72が装置固定用中間軸75に連結される。装置固定用中間軸75は、円筒体75aと外鍔部75bとからなり、外鍔部75bがフランジ部72の外鍔部72bとが突き合わされて、固着具(ボルト・ナット結合)76にて装置固定用中間軸75と外側継手部材65とが連結される。装置固定用中間軸75の円筒体75aの内径面には、キー溝77が設けられている。このため、外部へのトルクの伝達部(固着具76)は外側継手部材のカップ部(本体部71)の外周よりも外周側に配設することになる。すなわち、装置固定用中間軸75の外鍔部75bとフランジ部72の外鍔部72とにそれぞれ貫通孔91,92が設けられ、各貫通孔91,92に固着具76のボルト76aが挿入され、貫通孔92から突出したボルト76aの先端部にナット部材76bが螺着される。
外側継手部材65の装置固定用中間軸75の反対側の開口部は、密封装置80にて塞がれている。密封装置80は、ゴム材料又は樹脂材料等の可撓性材料にて構成されるブーツ81と、金属製のアダプタ82とからなる。ブーツ81は、大径部81aと、小径部81bと、大径部81aと小径部81bとを連結する断面略U字形の屈曲部81cとを備える。
アダプタ82は、外側継手部材65の開口端部に装着される装着部82aと、この装着部82aから他方の継手側に伸びる短円筒部82bとからなる。装着部82aは、反円筒部側に周方向の嵌合凹部83が設けられ、この嵌合凹部83に外側継手部材65の本体部71の開口部が嵌合する。そして、外側継手部材65に螺着するボルト部材84を介してこのアダプタ82が外側継手部材65に取り付けられる。短円筒部82bに、ブーツ81の大径部81aが外嵌され、この大径部81aにブーツバント85を締め付ける。これによって、アダプタ82とブーツ81とが固着される。また、ブーツ81の小径部81bがシャフト60のブーツ装着部60a(60b)に外嵌され、この小径部81bにブーツバント85を締め付ける。これによって、シャフト60とブーツ81とが固着される。
内側継手部材68の孔部86に雌スプライン87が形成され、シャフト60の端部の雄スプライン88がこの孔部86に嵌入される。そして、内側継手部材68の雌スプライン87と雄スプライン88とが嵌合する。また、シャフト60の端面には、内側継手部材68の継手奥側の端面に当接するストッパ90が、シャフト60の端面に螺着されるボルト部材89を介して装着されている。
ところで、フランジ部72のチャンファ74dは、継手内部部品(内側継手部材68とボール69とケージ70等で構成される)が装置固定用中間軸75側へ移動した際のストッパとなる。すなわち、ボール69がチャンファ74dに当接することによって、装置固定用中間軸75側へ移動が規制される。また、このようにボール69がチャンファ74dに当接した状態では、ケージ70の継手奥部がフランジ部72の大径部74aに嵌入状となる。この際、ケージ70の継手奥部がフランジ部72のテーパ部74cに接触しない。
また、継手内部部品が継手開口側に引き出された場合、ボール69が密封装置80のアダプタ82の装着部82aの内径側のテーパ面79に当接することによって、反装置固定用中間軸側へ移動が規制される。この際、ケージ70や内側継手部材68が密封装置80に接触しないように設定される。テーパ面79は継手内部部品が継手開口側に引き出された際のストッパとなる。
このように、継手内部部品が継手奥側へ移動しても継手内部部品が継手開口側へ移動してもストッパにより所定量以上に移動することがない。しかも、ケージ70が他の部材に接触しない非ケージ干渉構造となっており、他の部材(外側継手部材が固定されている相手部品等)の損傷を防止できる。
転動体としてもボール69の材質としては、電気絶縁性が高く、高硬度なものを選択するのが好ましい。具体的には、セラミックボールを用いるのが好ましい。
また、等速自在継手には潤滑剤が充填されるが、潤滑剤としては、次の表1の発明品1又は発明品2を用いた。また、表1において従来品は、従来のこの種の等速自在継手に用いられている潤滑剤(グリース)を示している。従来品も発明品も、基油としてパラフィン(P)基鉱物油や合成潤滑油更に鉱物油と合成潤滑油を混合した複合油を用い、増ちょう剤として石鹸系のリチウム石鹸や非石鹸系のウレア化合物(脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン等の各種イソシアネート化合物の反応によって得られるウレア化合物)、添加剤として有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメート:MoDTC)やジチオリン酸亜鉛(ZnDTP))と二硫化モリブデン(MoS
2)並びに硫黄(S)系の極圧剤をそれぞれ適量(単独で数mass%以下)添加している。
摺動式等速自在継手(DOJ)と摺動式等速自在継手(DOJ)のフロートタイプの継手アッセンブリは、軸部が左右に微動に移動するため各部品の接触部は微動摩耗(フレッチング)が進行しやすくなるため、グリース(潤滑剤)の添加剤として少なくとも層状結晶構造を持ち、層と層にせん断力が加わると容易に層間がすべる。このため摩擦係数が低くなり、潤滑性を発揮する固体潤滑剤を添加することにより潤滑特性に優れた継手アッセンブリを提供することが可能となる。
また、セラミックボールは、極めて潤滑剤との反応性が低いため、摩耗を抑制する反応膜の生成が困難と成り潤滑特性を低下する場合があるため、グリースの添加剤として少なくとも層状構造を有した固体潤滑剤を添加することにより潤滑特性に優れた継手アッセンブリを提供することが可能となる。固体潤滑剤としては、CaCuO2やCa2CuO3などの複合酸化物やMoS2・WS2・SnS2などの硫黄系や樹脂系のMCA(メラミンシアヌレート)が好ましく、少なくとも2種類の添加総量は0.5%〜20%が好ましい。0.5%未満では、効果がなく、20%を超えるとグリースの流動性が著しく低下し、封入時の作業性の悪化や接触面への介入性の低下並びにコストが増加するため好ましくない。上記成分に加えて、油性剤(動植物油等)、防錆剤(アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩等)を含有させることができる。
ところで、図3と図4に示すように、外側継手部材65の本体部71の内径面63には硬化層Sが形成される。すなわち、本体部71の内径面63には前記したように転動溝64が周方向に沿って所定ピッチで配設されており、この周方向に隣り合う転動溝64間がケージ70の外径面が摺接する摺接面95となる。このため、硬化層Sが転動溝64の溝底及び摺接面95に形成される。
この場合、摺接面95においては、その周方向中央部には、焼入れ硬化処理にて硬化された硬化層よりも硬度が低い軟化部96が形成されている。この軟化部96は、図5に示すように、摺接面95の周方向中央部に凹部97を設け、この凹部97の表面に軟化部96を設けている。
次に、硬化層Sを形成する方法を説明する。この硬化層Sの形成には、図6と図7に示すように、周方向に隣り合う摺接面95、95に跨る程度の小径のコイル100を用いた高周波焼入れが行われる。この際、このコイル100に高周波電流を印加して、このコイル100に近接する部位を加熱しつつ、軸方向に沿って移動させて焼き入れ(1回目の焼き入れ)を行う。次に、コイル100の周方向に沿って所定角度だけずらせ、この位置でコイル100を軸方向に沿って移動させて焼き入れ(2回目の焼き入れ)を行う。すなわち、1回目の焼き入れが図6の実線で示す位置である場合、図6の仮想線で示す位置にずらせる。図6の実線で示す位置とは、一つの転動溝64(64a)の中心線La上にコイル100が配設され、図6の仮想線で示す位置とは、転動溝64aに対して反時計廻りに隣り合う転動溝64(64b)の中心線Lb上にコイル100が配設される位置である。
このため、1回目の加熱範囲と2回目の加熱範囲とが、摺接面95の周方向中央部で重なることになる。このため、重なり部において、1回目の加熱焼き入れ硬化層が2回目の加熱により軟化部96となる。以下順次コイル100の周方向に沿って反時計廻り所定角度だけずらせ、各転動溝64c、64d、64e、64fにコイル100を対応させて、コイル100を軸方向に沿って移動させて焼き入れを行っていくことになる。これによって、各摺接面95の周方向中央部に軟化部96が形成される。この場合、コイル100に印加する高周波電流の周波数、コイル100の移動速度、コイル100と内径面63との間のギャップ等を調整することによって、軟化部96の範囲を調整することができる。
ところで、軟化部96は、硬化層Sより熱処理後の膨張量が小さいため、摺接面95よりも凹んだ状態となる。このため、摺接面95の凹部97の表面に軟化部96が設けられることになる。この凹部97の凹み量(深さ)は、硬化層Sの硬化深さと関係し、深くなれば増加する。凹み量(深さ)としては約5〜50μm程度となる。このような凹部97が設けられることによって、凹部97は内側継手部材と直接接触しない。また、凹部97には高周波焼入れにより微細なポーラスを有する酸化スケールが生成され、このポーラスがグリース(潤滑剤)の保持作用を高め、摩耗の進行が増加することを抑制することになる。
この凹部97は、このような高周波焼き入れ前に機械加工等にて形成できる。また、予め鍛造加工やブローチ加工で転動溝64や摺接面95を加工する際にまたはその後に成形してもよい。
また、軟化部96の表面の最低硬さは、焼き入れ前の硬さと同じとし、最大の硬さは硬化層の表面硬さより300HV以上低くする。差が300HV未満となると軟化部Sの加熱温度を300℃以下の低温に抑える必要があり、焼入れ硬化させたい部分の必要硬さ(炭素量0.48〜0.60wt%の炭素鋼の焼入れ最大硬さ600HV〜750HVが好ましい)が得られず、また、必要な硬化深さが得られなくなる。
また、熱処理後においては、少なくとも転動溝64の溝底を仕上げ加工するのが好ましい。仕上げ加工は、切削工具による仕上げかワイヤ加工仕上げが望ましい。使用条件によって過酷な状況で使用される場合、仕上げ加工後、更に表面のベルビー層や白層等の変質層を除去することが望ましい。
本発明では、摺接面での軟化部96は、硬化層Sよりも面圧が低くなり、面圧が高い部位の面積を減少させることができ、耐摩耗性に優れる。また、硬化層Sを高周波焼入れにて形成する場合、全周巻きのコイルを必要としない。すなわち、小型のコイル100を用い、このコイル100を周方向に沿って移動させればよい。このため、コイルの製作費用や製作日数の大幅な削減が可能となって、熱処理コストの削減を達成できる。しかも、一度に全周加熱する必要がないので、大出力の設備(高周波設備)を必要とせず、設備費の低減を達成できる。その結果、タイムリーな処理が可能となり、大幅な熱処理コストに削減に繋がる。
軟化部96の表面硬さは、硬化層Sの熱処理前の硬さ以上であり、硬化層Sの表面硬さよりも300HVよりも低くすることによって、焼入れ硬化させた部位の必要硬さを得ることができ、また、必要な硬化深さを得ることができる。
摺接面95の周方向中間部位に凹部97が設けられたものでは、軟化部96とケージ70の外径面との接触を回避することができて、耐摩耗性に優れる。
内径面63が円筒状とした場合、焼入れによる硬化層Sの厚さを軸方向に沿ってより均一とすることができ、しかも焼入れに用いるコイル100等の焼入れ時の軸方向の移動が容易となり、次ぎの焼入れ部位への移動の際に、簡易な装置で短時間に作業が完了できる。なお、このようなコイル100を用いた焼入れの場合、内径面が円筒状としたワーク(外側継手部材)である場合、コイル100側を停止してワーク(外側継手部材)を移動させてもよい。
また、軸方向端部の径が軸方向端部以外の部位の径と同一乃至軸方向端部以外の部位よりも大きいように設定できる。このように設定することによって、焼入れに用いるコイル100等の出し入れが容易であるとともに、焼入れ時に使用する冷却水を排出し易くなり、外側継手部材65への冷却水の溜りを防止し、均一な冷却を可能とでき、焼入れ硬化組織の品質の向上を図ることができる。転動溝の溝底に仕上げ加工が施されたものでは、高品質の製品を提供できる。
外部へのトルクの伝達部(固着具76)は外側継手部材のカップ部(本体部71)の外周よりも外周側に配設したことによって、作用するねじり応力を低減でき、フランジ部72に対して焼き入れ硬化処理を施さなくてもよく、熱処理コストの低減を図ることができる。また、転動溝64や摺接面95の加工の容易性の向上を図ることができる。
転動体としてセラミックボールを用いているので、使用時におけるモータ等からの漏電や電食を防止でき、装置の安全性の向上や電食による継手寿命の低下を防止できる。
転動体(ボール)69を保持するケージ70の窓78は、転動体69を等速二等分面に保持するためケージ70の窓78と転動体69間にスキマが無い事が望まれる。しかし、加工には寸法のバラツキが必ず生じる。その際、ボール60がケージ70の窓に圧入状態で保持されれば転動体が等速二等分面に確実に保持できるが反面圧入状態で転動体が窓内で摺動するため発熱と摩耗が顕在化する。特に、転動体69がセラミックの場合、硬質のためケージ70窓部78の摩耗が顕著となる。そこで、ケージ70の窓寸法をセラミックボールの寸法より−2μm〜80μmに設定することが好ましい。2μmより大きな締代になると発熱と摩耗が顕在化し、80μmを超えるとボールが等速二等分面の正規の位置から外れ、作動性を著しく阻害し、異音が発生することがある。
摺接面の周方向中間部位に凹部が設けられたものでは、軟化部とケージの外径面との接触を回避することができるとともに、凹部にポーラスを有する酸化スケールが生成されて摩耗の進行を抑制できる。このため、耐摩耗性に優れる。
図8と図9とはフランジ部65Bを有する外側継手部材65を示す。この外側継手部材65は、円筒状の本体65Aと、この本体65Aの一方の開口部側に設けられる外鍔状のフランジ部65Bとを備える。そして、本体65Aの内径面には硬化層Sが形成されている。
すなわち、本体65Aの内径面に、周方向に沿って所定ピッチ(45度ピッチ)で転動溝64が形成され、周方向に沿って隣り合う転動溝64,64間に摺接面95が形成されている。この転動溝64の溝底および摺接面95に硬化層Sが形成されている。なお、フランジ部65Bには、他部材(例えば、図1に示すような装置固定用中間軸75)に連結するための貫通孔94が周方向に沿って所定ピッチで複数配設されている。
この場合、転動溝64の溝底の硬化層S及び摺接面95の硬化層Sは、軸方向全長に渡って設けられているものではなく、軸方向端部には設けられていない。
軸方向端部においては、不連続部なため応力集中し易く冷却速度が早い。このため、焼き入れ時に焼割れが生じやすくなる。そこで、焼入れによる硬化層を形成しないことによって、焼割れが生じないように設定でき、焼入れ後の品質の向上と焼き割れを防止できて、強度低下を防止できる。
図10は前記図8に示す外側継手部材65の摺接面95の硬化層Sの表面の硬さ分布を示すグラフ図である。このグラフ図からわかるように、摺接面95の周方向中央部に硬さが350HV程度の軟化部96が設けられている。また、図11は、前記図8に示す外側継手部材65の転動溝64の溝底の硬化層の硬さ分布を示すグラフ図である。このグラフ図からわかるように、転動溝64の溝底に軟化部96が設けられず、転動溝64の溝底に硬さが700HV程度の硬化層Sが設けられている。
次の図12では、摺接面95に凹部97を形成しないようにしたものである。このため、摺接面95における周方向中間部が熱処理後において凹んだ状態とならないようにしている。すなわち、コイル100に印加する高周波電流の周波数、コイル100の移動速度、コイル100と内径面63との間のギャップ等を調整すればよい。
図13は、軟化部96を全摺接面95に形成していない。すなわち、全摺接面95a、95b、95c、95d、95e、95f、95g、95hのうち、摺接面95b、95c、95e、95gに軟化部96が形成されている。なお、この図例では、凹部97が形成されていないものであるが、このように全摺接面95に軟化部96を形成していない場合であっても、凹部97を設けてもよい。
軟化部96が少ないほうが軟化部96の面積が減少するため、耐摩耗性が向上する。このため、使用条件が厳しい場合、軟化部96の数を摺接面95の数よりも少なくするのが好ましい。
ところで、ボール69の数が増加した場合、図14に示すように、摺接面95の幅寸法W2が転動溝64の幅寸法W1よりも小さくなる。このように摺接面95の幅寸法W2が小さくなれば、この摺接面95に形成される軟化部が転動溝64の溝底に及ぶことになる。これによって、転動溝64の溝底が軟化する。
したがって、転動溝64の幅寸法W1よりも摺接面95の幅寸法W2を大きく設定するのが好ましい。摺接面95の円周方向の長さは、長ければ長い程好ましいが、転動溝64の幅と本数の関係で決まる。また、転動溝64の幅寸法W1よりも摺接面95の幅寸法W2が小さくなると内側継手部材の外周面の凸部の幅が減少し内側継手部材の強度が低下する。転動溝64の幅寸法W1よりも摺接面95の幅寸法W2が大きいように設定することによって、内側継手部材の強度低下を防止できるとともに、内径面63の耐摩耗性の向上を図ることができる。
次に、図15と図16は、固定式等速自在継手の外側継手部材104を示す。転動溝106がその内径面(内球面)105に形成されたマウス部107aと、このマウス部107aの底壁から突設されるステム部107bとからなる。すなわち、内径面105に、この転動溝106と、周方向に隣合う転動溝間に摺接面108とが形成されて、この転動溝106の溝底および摺接面108に硬化層Sが設けられている。なお、この場合、転動溝106が周方向に60度ピッチで6個設けられている。
また、摺接面108の周方向中央部には軟化部109が設けられている。このため、このような外側継手部材104であっても、前記図3等に示す外側継手部材65と同様に作用効果を奏する。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、各外側継手部材における転動溝の数としては、6個や8個に限るものではなく、その数の増減は任意である。また、図13に示すように、全摺接面95に軟化部96を形成しない場合、前記実施形態では、全摺接面96の半数であったが、このように半数に限るものではない。また、摺接面95(108)に設けられる軟化部96(109)の範囲としては、転動溝64(106)が軟化せず、かつ摺接面95(108)の面圧を転動溝64(106)よりも低下できる範囲で種々変更できる。