JP5558041B2 - Fe系焼結金属製軸受およびその製造方法 - Google Patents

Fe系焼結金属製軸受およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、金属粉末を圧縮成形した後、焼結して得られるFe系焼結金属製軸受、および、その製造方法に関する。
焼結金属製軸受は、例えば内部気孔に潤滑油等を含浸させた焼結含油軸受として好適に使用されるものであり、自動車用軸受部品や情報機器用のモータスピンドル等、優れた軸受性能や耐久性が要求される箇所に使用されている。
通常、この種の軸受は、例えば下記特許文献1に開示のように、Cu粉末又はFe粉末、あるいはその両者を主成分とする金属粉末を所定の形状(多くは円筒状)に圧縮成形した後、焼結して得られた多孔質体に、潤滑油又は潤滑グリース等の流体を含浸させることで形成される。
また、下記特許文献2には、Fe系を主成分とする焼結金属製軸受の一例が開示されている。具体的には、Cu系合金粉末とCu粉末と炭素粉末とFe粉末とからなるFe系焼結摺動部材であって、Cu成分15〜25wt%、Si成分1〜5wt%、Sn成分1〜5wt%、炭素成分3〜10wt%、残部Fe成分(55〜80wt%)からなるFe系焼結摺動部材が提案されている。また、この焼結摺動部材を、上記重量比となるように配合した混合粉末を圧粉成形し、この圧粉体を1100〜1150℃で焼結することにより製造する旨が開示されている。
特開平11−182551号公報 特開2001−123253号公報
ところで、最近では、例えばHDDの高容量化に代表されるように、各種情報機器用モータにおいては、情報処理量の増大を目的としてスピンドルの高速回転化あるいは情報記憶媒体を含むスピンドルの重量が増加する傾向にある。そのため、この種の情報機器用モータに組み込んで使用される上記焼結金属製軸受にはこれまで以上に優れた耐摩耗性が要求されている。その一方で、コストダウンの要請に応じるべく、上記軸受の原料粉末に関し、比較的高価なCu粉末から比較的安価なFe粉末への置換が検討されている。
しかしながら、Fe粉末の割合を高めていくにつれて、以下の弊害が生じるおそれがある。すなわち、軸との間で良好な摺動性を得るためにはCu成分が不可欠であるところ、Fe成分の割合を高めることで相対的にCu成分の割合が減少し、所期の摺動性を確保することが難しい。また、良好な摺動性を得るためには相手材との摺動面(軸受面)にも高い面精度が必要となるが、Fe成分が軸受の大部分を占めるようになると、Cu成分のもつ加工性の良さが反映されず、所定の面精度を得ることができないおそれがある。
また、上記特許文献2にも記載されているように、通常、Fe系の焼結金属製軸受においては、主成分となるFeの融点に比較的近い温度(1100℃〜1150℃)を焼結温度に設定するため、Cuの融点を超えた温度で焼結することになる。これでは、Cu粉末は溶けて内部気孔へ入り込んでしまい、Fe成分と同等に軸受面を構成することは難しい。よって、この場合には、Cu成分のもつ摺動性や加工性が反映され難い。
以上の事情に鑑み、低コストに製造可能としつつも、高い耐摩耗性および摺動性を発揮することのできる焼結金属製軸受を提供することを解決すべき技術的課題とする。
本発明は、前記課題の解決を図るためになされたものである。すなわち、本発明に係る焼結金属製軸受は、Fe系組織中にCu組織が分散した形態をなし、かつCu組織はFe系組織よりも微細な組織であるFe系焼結金属製軸受であって、Fe系組織が重量比でCu組織の10倍以上含まれると共に、Fe系組織の含有割合が重量比で70%以上で、Cu組織の含有割合が重量比で1.0%以上かつ9.0%以下であって、Cuの融点未満の温度で焼結することでCu組織が粒状組織として残っており、かつ粒状組織として残っているCu組織がFe組織と共に相手材との摺動面を含む軸受表面を構成している点をもって特徴づけられる。ここで、「Fe系組織」には、Feのみからなる組織が含まれる他、例えばSUSなどFeを主成分とする組成をなすものも含まれる。また、Cu組織に関し、全てのCu組織が粒状をなしている必要はなく、その一部が焼結により非粒状の形状を有するものであっても構わない。
このように、Fe系組織の割合をCu組織に比べて大幅に高めることで、耐摩耗性の向上と共に製造コストの低減化が図られる。加えて、Cu組織を粒状組織として残すことで、Cu組織がFe系組織と共に摺動面を含む軸受表面を構成することになるので、相手材(軸など)との間で良好な摺動性を得ることができる。また、Fe成分の割合を高めつつも摺動面の加工性を確保して摺動面の面精度を維持することができる。また、上記Fe系組織とCu組織との含有割合(10倍)としたのは、当該割合でFe系組織とCu組織とを含有させることで、耐摩耗性、摺動性、コスト面の上記3特性全てを満足する、との本発明者らの知見に基づく。
ここで、具体的には、Fe系組織の含有割合は重量比で90%以上とすることができる。また、この場合、Fe系組織の含有割合は重量比で最大98%まで高めることが可能である。Fe系組織の含有割合が上記範囲内にある焼結金属製軸受であれば、耐摩耗性と摺動性とを実施レベルで満足しつつも、低コスト化の実効を図ることが可能となる。
また、Fe系組織は、例えばFe組織とSUS組織の一方又は双方で構成されるものであってもよい。この場合、強度あるいはコスト面を重視するのであればFe組織が好ましく、耐食性を重視するのであればSUS組織が好ましい。
また、上記構成に係る焼結金属製軸受は、回転支持すべき軸との間に流体の動圧作用を生じさせるための動圧発生部を設けたものであってもよい。具体的には、軸受面となる内周面や軸方向端面に動圧発生部を設けたものであってもよい。本発明に係る軸受はCu組織を粒状組織として残す構成を採っていることから、軸受面を有する軸受表層部にもCu組織が存在しており、例えば動圧溝等の凹凸形状も精度良く成形することができる。
以上の構成に係る焼結金属製軸受は、上述の如く、耐摩耗性や摺動性に優れていることから、この軸受を備えた流体動圧軸受装置として好適に使用できる。
また、前記課題の解決は、Fe系組織中にCu組織が分散したFe系焼結金属製軸受を製造する方法であって、原料粉末中に重量比で1.0%以上かつ9.0%以下含まれるCu粉末と、原料粉末中に重量比でCu粉末の10倍以上かつ70%以上含まれるFe系粉末とを少なくとも含み、Cu粉末がFe系粉末に比べて微細な粒径を有する原料粉末を圧縮成形し、然る後、この圧縮成形体をCuの融点未満の温度で焼結することでCu組織を粒状組織として残し、かつ粒状組織として残したCu組織とFe系組織とで相手材との摺動面を含む軸受表面を構成することを特徴とする焼結金属製軸受の製造方法によっても達成される。
この方法によれば、圧縮成形体中のCu粉末が全て溶けることなく粒状のままで残るため、上記と同様、摺動性(相手材とのなじみ性)や加工性を高レベルで確保することができる。また、焼結時に溶けずに済むため、新たな内部気孔が形成されるのを防ぐことができ、あるいは、隣接する内部気孔の拡大を防ぐことができる。何れにしても、後述する潤滑油の流通が可能な程度の大きさを有する内部気孔の増加を防ぐことができる。
Fe系粉末としては、Fe粉末や、SUS粉末などのFe系合金粉末が使用可能である。また、Fe系粉末とCu粉末との相互の分散性を高めるために、Fe系粉末とCu粉末とを、部分的な合金化により一体化した状態で原料粉末に供給するようにしてもよい。このようにすれば、原則、何れのFe系粉末もCu粉末と一体的に原料粉末に供給されるため、Fe系粉末あるいはCu粉末が偏析する事態を防いで、均質な焼結体を得ることができる。
また、上記原料粉末の一として使用されるCu粉末が、Fe系粉末に比べて微細な粒径を有するものであってもよい。ここで、「Cu粉末がFe系粉末に比べて微細な粒径を有する」か否かは、双方の粉末の最大粒径、平均粒径、粒径中央値の何れで比較評価しても構わない。あるいは、これらの値のうち2つ以上の評価基準で示された数値の大小関係をもって、双方の粉末粒径の大小関係を定めるようにしても構わない。このようにFe系粉末に比べて微細なCu粉を使用することで、例えばFe系粉末と同等の粒径を有するCu粉末と比べてFe系粉末との接触面積(あるいは接触箇所)が増える。そのため、Fe粉末の配合割合を大幅に高めても(90wt%以上にしても)軸受の強度を確保することができる。また、粉末が微細になるにつれて流動性の低下が懸念されるところ、本発明であれば、Fe系粉末の配合割合に比べてCu粉末の配合割合が低く抑えられているので、この種の問題が懸念される心配もない。
以上のように、本発明によれば、高い耐摩耗性および摺動性を発揮することのできる焼結金属製軸受を低コストに製造することができる。
本発明の一実施形態に係る焼結金属製軸受を組み込んだ流体動圧軸受装置、およびこの流体動圧軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図である。 流体動圧軸受装置の断面図である。 本発明に係る焼結金属製軸受の断面図である。 焼結金属製軸受の一平面図である。 他の形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。 他の形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。 一実施形態に係る焼結金属製軸受の断面写真である。 他の実施形態に係る焼結金属製軸受の断面写真である。 他の実施形態に係る焼結金属製軸受の断面写真である。 摩耗試験の測定結果を示すグラフである。 圧環試験の測定結果を示すグラフである。 透過油量の測定結果を示すグラフである。
本発明に係る焼結金属製軸受は、Fe系組織と、Fe系組織中に分散したCu組織とで、あるいはこれらの組織を主として構成される。ここで、Fe系組織が全体に占める割合は、重量比でCu組織の10倍以上であり、例えば、Fe系組織が90wt%以上含まれる場合、Cu組織が9wt%以下含まれるように軸受中におけるFe系組織とCu組織それぞれの含有割合が設定される。ここでは、例えば、SEMとして(株)日立ハイテクノロジーズ製のX3000、および、EDSとして株式会社堀場製作所製のEMAX7021Hを使用し、元素分析によりFeおよびCuの定量分析を行い、質量濃度の比率で判断した。
Fe系組織は、Fe組織あるいはSUS等のFe系合金組織の何れであってもよく、また、両者を共に含むものであってもよい。また、上述の如く、Fe系組織の全体に占める割合を大幅に高める場合(例えば90wt%以上とする場合)には、SUS等に比べて比較的融点の低いFeでFe系組織を構成するのがよい。焼結時、原料粉末間(例えばFe粉末とCu粉末との間)で十分な焼結作用を得ることができ、焼結強度を確保し易いためである。
Fe系組織と共に焼結金属組織を構成するCu組織は主に粒状をなしている。ここで、個々のCu組織のサイズ(粒状組織の長寸幅あるいは面積など)はFe系組織のそれと比べて全体的に小さいものであってもよい。かかる組織は、例えばFe系粉末に比べて微細な粒径を有するCu粉末を原料粉末の一に使用することで得ることができる。このようにFe系組織に比べて微細なCu組織が含まれることで、Fe系組織との接触面積(あるいは接触箇所)が増える。そのため、Fe粉末の配合割合を大幅に高めても(90wt%以上にしても)軸受の強度を確保することができる。また、Fe系組織と同サイズのCu組織を有するものと比べて、軸受面など軸受表面に露出するCu組織の割合(面積あるいは露出箇所)も増大するため、Cu組織の割合が少なくても摺動性を確保し易い。
また、軸受面の摺動性を高め、又は、焼結体の加工性を確保する観点からは、Cu組織の全体に占める割合はなるべく高いに越したことはないが、上述の如く、Cu組織がFe系組織に比べて小サイズである場合には、比較的小さめに設定することも可能である。具体的には、Cu組織の全体に占める割合を、1.0wt%以上9.0wt%以下に設定することも可能である。Cu組織の含有割合が1.0wt%未満だと、軸受面上にCu組織を露出させることが難しく、また、たとえ露出したとしても相手材との間で良好な摺動性(なじみ性)を十分に発揮することは難しいためである。また、9.0wt%を超えてCu組織を含有させた場合には、Fe系組織の全体に占める割合をCu組織の10倍(90wt%)以上に維持することが難しい。通常、この種の軸受には、後述のように、主となるFe系組織やCu組織以外にもSn組織や黒鉛など、他の組織が所定量含まれることになるためである。
また、以上の組織に加えて、他の組織が含まれてもよく、例えばCu組織よりもさらに融点の低い金属組織(例えばSnなどの低融点金属からなる組織)が含まれていてもよい。すなわち、上記焼結金属製軸受は、Fe系組織とCu組織、および低融点金属組織とからなるものであってもよい。このような金属組織は、焼結時には溶融(液相化)し、Fe系粉末間、あるいは、Cu粉末とFe系粉末の間のバインダとして作用する。そのため、Fe系粉末間の焼結作用が不十分な場合であっても当該粉末間の結合力を補強して、焼結体(焼結金属製軸受)の強度を向上させることができる。低融点金属としては、所定の焼結温度(ここでは、Cuの融点未満の温度)で溶融する金属であればよく、例えばSn、Zn、Al、P等の金属、あるいはこれらを2種以上含む合金が使用可能である。
また、圧縮成形時の成形性や離型性、あるいは完成品の摺動特性を改善する目的で、上記金属組織に、さらに黒鉛(グラファイト)組織が含まれていてもよい。この場合、上記焼結金属製軸受は、Fe系組織とCu組織と低融点金属組織、および黒鉛組織とで構成される。
上記構成の組織からなる焼結金属製軸受の体積率(100−気孔率[%])は、実際の用途に合わせて設定するのがよく、例えば75%以上95%以下(気孔率で言えば、5%以上25%以下)の範囲で設定される。例えば、後述する流体動圧軸受装置に組み込んで使用する場合のように、内部気孔に潤滑油を含浸させて使用する場合には、軸受面(軸受すき間)への潤滑油の供給が滞りなく行えるように、また、温度変化に伴い油量が減少した場合にも軸受すき間に潤滑油が供給できる程度の量の潤滑油を内部気孔に保持できるように、比較的大きめ(例えば15%以上25%以下)に設定するのがよい。なお、ここで、「気孔率」とは、焼結金属製軸受の単位体積当たりに占める各内部空孔の容積の総和の割合をいい、具体的には以下の式によって算出される。
気孔率[%]=100−密度比[%]=[1−(ρ1/ρ0)]×100
ρ1:焼結金属製軸受の密度(測定方法は、JIS Z 2501 乾燥密度の欄を参照)
ρ0:焼結金属製軸受と同一組成の物質の真の密度
気孔率は密度比の増加に伴いほぼ線形的に低下することが分かっており、従って、密度比を求めることで気孔率を得ることができる。
表面開孔率に関しても、実際の用途に合わせて設定すればよく、例えば流体動圧軸受装置用途の場合であれば、2%以上15%以下に設定するのがよい。特に、後述するように、焼結金属製軸受の内周面等に、潤滑油の動圧作用を発生させるための動圧発生部(図3では動圧溝8a1,8a2の配列領域)を設ける場合には、油圧の逃げを防ぐ目的で、当該内周面の表面開孔率は比較的小さめ(例えば2%以上10%以下)に設定するのがよい。ここで、「表面開孔」とは、多孔質組織である焼結金属製軸受中に含まれる気孔が外表面に開口した部分をいう。また、「表面開孔率」とは、外表面の単位面積に占める表面開孔の面積割合をいい、以下の条件で測定、評価されるものをいう。
[測定器具]
金属顕微鏡:Nikon ECLIPSS ME600
デジタルカメラ:Nikon DXM1200
写真撮影ソフト:Nikon ACT−1 ver.1
画像処理ソフト:イノテック製 QUICK GRAIN
[測定条件]
写真撮影:シャッタースピード0.5秒
2値化しきい値:235
以上の組織形態に係る焼結金属製軸受は、例えば以下に示す方法で製造される。すなわち、Fe系粉末とCu粉末とを含む原料粉末を所定の形状に圧縮成形する工程(a)、圧粉成形体を焼結する工程(b)、焼結体に対してサイジングを施す工程(c)の少なくとも3工程を経て製造される。
まず、圧粉成形工程(a)に関し、V型混合器等でFe系粉末(例えばFe粉末)にCu粉末を混合した原料粉末を作成する。ここでは、例えばFe粉末として平均粒径150μm以下のものが、Cu粉末として平均粒径75μm以下のものがそれぞれ使用される。また、上記粉末混合に際し、各粉末の混合比率は、上述した完成品における各組織の含有割合に準じて設定される。例えば、Fe系粉末(複数種類のFe系粉末が混合される場合にはそれらの総量)が重量比でCu粉末の10倍以上となるように、各粉末を混合する。もちろん、必要に応じてSn粉末や黒鉛粉末など他種の粉末を上記金属粉末にさらに混合したものを原料粉末として使用しても構わない。
なお、この際、Cu粉末の分散性を高めるため、予め、Fe粉末の表面にCu粉末を部分的に当接させ、この当接部分を合金化したもの(Fe粉末とCu粉末との一部合金体)を原料粉末として使用することも可能である。かかる手法は、特に分散性に乏しい微細Cu粉(例えば上記例示の粒径を有するCu粉末)を使用する場合に有効である。
次に、完成品に準じた形状(例えば円筒形状)の粉末充填空間を有する成形用金型を用意し、この金型内の充填空間に上記原料粉末を供給し、所定圧力でプレスすることで、上記金型に対応する形状の圧粉成形体を得る。この際、圧粉成形体の密度が例えば6.0g/cm3以上6.8g/cm3以下となるように、プレス条件が設定される。
次に、上記圧粉成形体を、Cuの融点(1083℃)未満の温度で所定時間加熱する。これにより、少なくともCu粉末とFe系粉末とが相互に焼結され、これにより、Fe系組織とCu組織とを有する焼結金属組織からなる焼結体を得ることができる(焼結工程(b))。ここで、焼結温度に関し、あまりにCuの融点に近い温度で焼結を行うと、実際には溶融するCu粉末の割合が増え、完成品においてCuの粒状組織を維持することが難しくなる。また、あまりにCuの融点から離れた(低い)温度で焼結を行うと、そもそも十分な焼結作用が期待できない。かかる観点から、焼結温度は例えば850℃以上1050℃以下の範囲内に設定するのがよい。
このようにして得られた焼結体の寸法ないし形状を矯正する目的で焼結体に対してサイジングを実施することで(サイジング工程(c))、焼結金属製軸受が完成する。このサイジングにより、焼結体が完成品に準じた寸法ないし形状に整形されると共に、軸受表面の表面開孔率が所定の大きさに調整される。なお、さらに内周面における表面開孔の個数や個々の開口面積を小さくする目的で、上記サイジングと併せて、あるいは上記サイジングに代えて回転サイジングを施すことも可能である。このサイジングによれば、内周面の表面開孔率がさらに小さく(例えば10%以下に)調整される。そのため、後述する流体動圧軸受装置に組み込んで使用する場合であっても、軸受面上に所定膜厚の油膜を形成することが可能となる。
ここで、図7〜図9は、本発明の一例に係る焼結金属製軸受の断面写真である。これらの断面写真は何れも、株式会社キーエンス製のVE9800を用いて撮影した。観察倍率は200倍とした。また、上記焼結金属製軸受を軸方向に切断し、切断面にラップ仕上げを行ったものを撮影対象として観察した。図7が、Fe組織:70wt%の場合、図8が、Fe組織:80wt%の場合、そして図9が、Fe組織:90wt%の場合の断面写真をそれぞれ示している。各図中、最も明るい灰色が「Cu組織」を表しており、中程度の灰色が「Fe組織」を、そして、最も暗い灰色(黒に近い色)が「内部気孔」をそれぞれ表している。これらの図(写真)から、Fe組織:70wt%の場合には、それほど明確ではないものの、Fe組織:90wt%の場合には、Cu組織が粒状組織として適度に分散して残っている様子が見て取れる。また、何れの図からも、各金属組織に比べて微細な気孔が比較的多く存在していることが見て取れる。
以上の説明に係る焼結金属製軸受は、耐摩耗性や摺動性に優れていることから、例えば、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等におけるスピンドルモータ用の軸受装置として、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、ファンモータなどのモータ用軸受装置として好適に使用される。
図1は、上記用途の一例を示すもので、本発明に係る焼結金属製軸受8を組み込んだ流体動圧軸受装置1の断面図、さらにはこの流体動圧軸受装置1を備えたHDDのディスク駆動用モータの要部断面図を示す。このモータは、ハブ3を取り付けた軸部材2を回転支持する流体動圧軸受装置1と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に固定され、ロータマグネット5はハブ3に固定される。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に固定される。また、同図に示すように、ハブ3には1又は複数枚のディスクD(図1では2枚)が保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する励磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
図2は、流体動圧軸受装置1の縦断面図を示している。この流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7に固定され、内周に軸部材2を配設した焼結金属製軸受8と、ハウジング7の一端を閉塞する蓋部材9と、ハウジングの他端開口側に配設されるシール部材10とを備える。
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとで構成される。軸部2aの外周には、後述する焼結金属製軸受8の内周面8aに設けられた動圧溝8a1,8a2配列領域とラジアル方向に対向するラジアル軸受面2a1が形成される。この実施形態では、ラジアル軸受面2a1は軸方向に離隔して2ヶ所に設けられており、軸部2aを焼結金属製軸受8の内周に挿通した状態では、ラジアル軸受面2a1,2a1と内周面8aとの間に後述するラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間を形成する(図2を参照)。上記構造の軸部材2は、種々の金属材料で形成可能であり、例えば、強度や剛性、耐摩耗性等を考慮してステンレス鋼などの鉄鋼材料で形成される。
ハウジング7は、例えば真ちゅう等の金属材料や樹脂材料で略筒状に形成され、その軸方向両端を開口した形態をなす。ハウジング7の内周面7aには、焼結金属製軸受8の外周面8dが、例えば接着(ルーズ接着や圧入接着を含む)、圧入、溶着(超音波溶着やレーザ溶着を含む)など適宜の手段で固定される。また、内周面7aの下端側には、内周面7aよりも大径であって、後述する蓋部材9を固定するための固定面7bが形成される。なお、樹脂材料でハウジング7を形成する場合、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の何れもが使用可能であり、例えば熱可塑性樹脂であれば、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)等に代表される結晶性樹脂や、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)等に代表される非晶性樹脂が使用可能である。これら樹脂材料は単独で、あるいは2種以上を混合した状態でも使用可能である。
また、上記樹脂材料には、必要に応じて、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンブラック、黒鉛、金属粉末、有機粉末等の粉末状充填材などを1種又は複数種混合して充填(添加)することもできる。もちろん、ハウジング7の材質は樹脂に限るものではなく、例えば銅系合金などをはじめとする金属や他の材質を採用することができる。また、その形成方法も特に問わず、例えば切削加工の他、鍛造やプレス等の塑性加工、あるいはMIM等の金属射出成形を採用することができる。
焼結金属製軸受8は、この実施形態では多孔質構造を有する円筒形状をなし、その内周面8aの全面又は一部には、ラジアル動圧発生部として複数の動圧溝を配列した領域が形成される。この実施形態では、例えば図3に示すように、互いに傾斜角の異なる複数の動圧溝8a1,8a2をヘリングボーン形状に配列した領域が、軸方向に離隔して2ヶ所に形成される。また、この実施形態では、軸受内部における潤滑油の循環を意図的に作り出す目的で、一方側(ここでは上側)の動圧溝8a1,8a2配列領域を軸方向非対称に形成している。図3に例示の形態で説明すると、軸方向に隣接する動圧溝8a1,8a2間の領域(いわゆる帯部8a3)の軸方向中心mより上側(シール部材10の側)の動圧溝8a1配列領域の軸方向寸法X1が、下側の動圧溝8a2配列領域の軸方向寸法X2よりも大きくなるように形成されている。なお、内周面8aの下側(後述するスラスト軸受隙間に近い側)に位置する動圧溝8a1,8a2配列領域は、軸方向中央の帯部8a3を境に軸方向対称に形成されている。
焼結金属製軸受8の下端面8bの全面または一部の領域には、図4に示すように、スラスト動圧発生部として、複数の動圧溝8b1をスパイラル形状に配列した領域が形成される。この動圧溝8b1配列領域は、完成品の状態ではフランジ部2bの上端面2b1と対向し、軸部材2の回転時、上端面2b1との間に後述する第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。
焼結金属製軸受8の上端面8cの半径方向中央位置には、図3に示すように、断面楔状の環状溝8c1が形成される。また、上端面8cの環状溝8c1より内周側には、環状溝8c1と内周面8aとをつなぐ半径方向溝8c2が円周方向複数箇所に形成される。これら環状溝8c1や半径方向溝8c2は後述の軸方向溝8d1と相まって軸受内部空間における潤滑油の循環路を形成し、これにより円滑な潤滑油の供給状態が確保される。
焼結金属製軸受8の外周面8dには、軸方向に伸びる複数本(例えば3本)の軸方向溝8d1が形成される。これら軸方向溝8d1は、相互に円周方向で等間隔だけ離れた位置に形成されている。
このように、内周面8aの動圧溝8a1,8a2配列領域は、既述のサイジング工程(c)にて寸法サイジング、回転サイジングに続いて、溝サイジング加工を施すことにより焼結体(焼結金属製軸受8)の内周面8aに成形される。具体的には、円筒状の焼結体を径方向に圧迫して、その内周面に、動圧溝8a1,8a2に対応する複数の凸部を有する成形型(成形ロッド)の外周面を押し当てて内周面を当該型に倣って塑性変形させることにより、動圧溝8a1,8a2が転写成形される。この場合、焼結体の内周面にはCuの粒状組織が多数残っていることから、溝サイジング加工の成形性も良好であり、上記動圧溝8a1,8a2あるいはこの動圧溝8a1,8a2配列領域を高精度に成形することができる。特に、図3に示す形状の動圧溝8a1,8a2配列領域は、サイジング前の焼結体の内周面のうち、円周方向に沿って配列される動圧溝8a1,8a1間の領域と、軸方向に配列される動圧溝8a1,8a2間の領域である帯部8a3(何れも図3中クロスハッチングで示す領域)を周囲に対して相対的に盛り上がらせることで動圧溝8a1,8a2を成形するものである。そのため、焼結体の内周面にCuの粒状組織が残っている構造は、動圧溝8a1,8a2の成形性あるいは成形精度に対して有効に作用する。なお、同様の方法で、下端面8bの動圧溝8b1配列領域も、上記溝サイジング加工時に、あるいは、寸法サイジング時に成形可能である。
ハウジング7の下端側を閉塞する蓋部材9は、例えば金属材料あるいは樹脂材料で形成され、ハウジング7の内周下端に設けられた固定面7bに固定される。この際、蓋部材9の固定には、接着、圧入、溶着、溶接など既知の固定手段を用いることができる。
蓋部材9の上端面9aの全面又は一部の領域には、例えば図4と同様の配列態様(スパイラルの方向は逆)をなす動圧溝配列領域が形成される。この動圧溝配列領域、完成品の状態ではフランジ部2bの下端面2b2と対向し、軸部材2の回転時、下端面2b2との間に後述する第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。
シール手段としてのシール部材10は、この実施形態ではハウジング7と別体に形成され、ハウジング7の上端内周に圧入、接着、溶着、溶接等任意の手段で固定される。ここでは、シール部材10の下端面を焼結金属製軸受8の上端面8cに当接させた状態でハウジング7に固定される。なお、シール部材10の材質は特に問わず、多孔質材のように油漏れが生じるおそれのある材料でない限り、種々の金属材料もしくは樹脂材料等を使用することができる。あるいは、多孔質材であっても、外気と接触する表面をコーティング等により封孔しておくことで、シール部材10として使用することができる。もちろん、シール部材10および蓋部材9の何れか一方をハウジング7と同材料で一体に形成することも可能である。
シール部材10の内周にはテーパ形状をなすシール面10aが形成されており、このシール面10aと、軸部2aの上部外周面との間にシール空間Sが形成される。潤滑油を流体動圧軸受装置1の内部に充填した状態では、潤滑油の油面は常にシール空間Sの内部に維持される。
上述の構成部品を、所定の手順および図2に準じる形態に組立てた後、軸受内部空間(図2中、散点模様で示す領域)に潤滑油を充填することで焼結金属製軸受8の内部気孔に潤滑油が含浸されると共に、その他の空間(ラジアル軸受隙間など)に潤滑油が満たされる。これにより、完成品としての流体動圧軸受装置1を得る。流体動圧軸受装置1の内部に充満される潤滑油としては、種々の油が使用可能であるが、HDD等のディスク駆動装置用の流体動圧軸受装置1に提供される潤滑油には、その使用時あるいは輸送時における温度変化を考慮して、低蒸発率及び低粘度性に優れたエステル系潤滑油、例えばジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)等が好適に使用可能である。
上記構成の流体動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、焼結金属製軸受8の双方の動圧溝8a1,8a2配列領域は、軸部2aのラジアル軸受面2a1,2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上下何れの動圧溝8a1,8a2配列領域においても潤滑油が動圧溝8a1,8a2の軸方向中心に向けて押し込まれ、その圧力が上昇する。このような動圧溝8a1,8a2の動圧作用によって、軸部材2を回転自在にラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とがそれぞれ軸方向に離隔して2ヶ所に構成される(何れも図2を参照)。
また、焼結金属製軸受8の下端面8bに設けた動圧溝8b1配列領域とこれに対向するフランジ部2bの上端面2b1との間のスラスト軸受隙間、および、蓋部材9の上端面9aに設けた動圧溝配列領域とこれに対向するフランジ部2bの下端面2b2との間のスラスト軸受隙間に、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜がそれぞれ形成される。そして、これら油膜の圧力によって、軸部材2をスラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とがそれぞれ構成される(何れも図2を参照)。
この場合、焼結金属製軸受8は、Fe系組織を非常に多く含む組織構造を有するため、ラジアル軸受面となる内周面8aの硬度が高められる。そのため、例えばSUS製の軸部材2の回転開始直後、あるいは回転停止直前に、軸部2aの外周面2a1とこれに対向する焼結金属製軸受8の内周面8aとの間で接触摺動が生じた場合でも、両面2a1、8a間の硬度差は小さくて済み、焼結金属製軸受8と軸部2aとの間の摩耗を抑制することができる。特に、この実施形態のように、軸部材2の上部にハブ3および複数枚のディスクDを装着した状態では、軸部材2を含む回転体の重心が上側に移動し、かつモーメント荷重も大きくなるため、軸部材2と焼結金属製軸受8とが軸受上部で接触摺動し易いが、上述のように両部材2a、8の硬度差(両摺動面2a1、8aの硬度差)を小さくすることで、かかる摺動摩耗を極力小さく抑えることができる。
また、焼結金属製軸受8の内周面8aに設けた上側の動圧溝8a1,8a2配列領域は、その帯部8a3の軸方向中心に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心より上側領域の軸方向寸法X1は下側領域の軸方向寸法X2よりも大きい。そのため、軸部材2の回転時、上側領域における潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は下側領域におけるそれに比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差によって、ラジアル軸受隙間からその下方に向けて流出した潤滑油は、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間からその外径側に位置する焼結金属製軸受8の軸方向溝8d1、そして、上端面8cとシール部材10の下端面との軸方向隙間から環状溝8c1および半径方向溝8c2という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がラジアル軸受隙間を含む軸受内部空間を流動循環するように構成することで、当該内部空間内の潤滑油の圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや軸受性能の劣化、振動の発生等の問題を解消することができる。また、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合、気泡が潤滑油に伴って上記循環経路内を循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出されるので、気泡による悪影響が効果的に防止される。
以上、本発明に係る焼結金属製軸受の一用途例につき説明したが、この軸受を適用可能な流体動圧軸受装置1がこの例のみに限定されないことはもちろんである。
例えば、焼結金属製軸受8を備えた流体動圧軸受装置として、上記用途例では、軸部2aの一端に設けたフランジ部2bの両端面2b1,2b2側にスラスト軸受部T1,T2を形成した形態を有する場合を説明したが、これらスラスト軸受部T1,T2の軸方向離間距離を異ならせることも可能である。図5はその一例を示すもので、同図に係る流体動圧軸受装置11は、主に、ハウジング17の両端に2つのシール空間S1,S2を配置した点、およびスラスト軸受部T1,T2を焼結金属製軸受18の両端に形成した点で図2に示す流体動圧軸受装置1と異なる形態を有する。
この図示例では、本発明に係る焼結金属製軸受18は、その下端面18bだけでなく上端面18cにも図4に示す形状の動圧溝配列領域(スパイラルの向きは図3と逆)を有する。そのため、第1スラスト軸受部T1は、第1シール部材19の下端面19aと焼結金属製軸受18の上端面18cとの間に設けられ、第2スラスト軸受部T2は、第2シール部材20の上端面20aと焼結金属製軸受18の下端面18bとの間に設けられる。また、第1シール空間S1は、軸部材12に固定された第1シール部材19の外周面19bとこの面に向かい合うハウジング17上端の内周面17aとの間に形成されると共に、第2シール空間S2は、第2シール部材20の外周面20bとこの面に向かい合うハウジング17下端の内周面17aとの間に形成される。なお、ラジアル軸受部R1,R2が、図3に例示のラジアル動圧発生部を設けた内周面18aと、内周面18aと対向する軸部材12の外周面12aとの間にそれぞれ形成される点は、図2に示す流体動圧軸受装置1の場合と同様である。
本形態に係る流体動圧軸受装置11は、図2に示す流体動圧軸受装置1と比べ、両スラスト軸受部T1,T2間の離間距離が大きくなっているため、軸受全体としてのモーメント荷重に対する負荷能力を向上させることができる。そのため、HDDをはじめとする情報機器の高容量化に伴い、ディスク枚数の増加など回転体重量が増加した場合であっても、軸部材2との接触による焼結金属製軸受18の摺動摩耗を低減(抑制)することができる。
図6は、さらに他の形態に係る流体動圧軸受装置21の断面図を示す。同図に係る流体動圧軸受装置21では、焼結金属製軸受8を軸方向に2個重ねて配設しており、これら焼結金属製軸受8,8が、筒部27aと底部27bとからなる有底筒状のハウジング27の内周面27a1に固定される。軸方向に重ねて配設された2個の焼結金属製軸受8のうち、上側の焼結金属製軸受8には、シール部材10の側のみに図3で例示の非対称動圧溝8a1,8a2配列領域が設けられ、下側の焼結金属製軸受8には、フランジ部2bの側のみに図3で例示の対称な動圧溝8a1,8a2配列領域が設けられる。そのため、双方の焼結金属製軸受8,8間で最も軸方向に離隔した位置でラジアル軸受部R1,R2が形成される。
このように、図6に係る流体動圧軸受装置21は、図2や図5に示す流体動圧軸受装置1,11に比べてラジアル軸受部R1,R2間の離間距離を大きくすることで、軸受全体としてのモーメント荷重に対する負荷能力を向上させている。そのため、回転体重量の増加や、回転速度の増加に対しても、焼結金属製軸受8,8の摺動摩耗を低減して、長期にわたって優れた軸受性能を発揮することができる。
また、以上の説明では、ラジアル軸受部R1,R2およびスラスト軸受部T1,T2として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明を適用可能な構成はこれに限定されるものではない。
例えば、ラジアル軸受部R1,R2として、図示は省略するが、軸方向の溝を円周方向の複数箇所に形成した、いわゆるステップ状の動圧発生部、あるいは、円周方向に複数の円弧面を配列し、対向する軸部材2,12の外周面2a1,12aとの間に、くさび状の半径方向隙間(軸受隙間)を形成した、いわゆる多円弧軸受を採用してもよい。
あるいは、ラジアル軸受面となる焼結金属製軸受8,18の内周面8a,18aを、動圧発生部としての動圧溝や円弧面等を設けない真円状内周面とし、この内周面と対向する真円状の外周面とで、いわゆる真円軸受を構成することができる。
また、スラスト軸受部T1,T2の一方又は双方は、同じく図示は省略するが、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、あるいは波型軸受(端面が調和波形などの波型になったもの)等で構成することもできる。
また、以上の実施形態では、動圧発生部を何れも固定側(ハウジング27や焼結金属製軸受8、蓋部材9など)に設けた場合を説明したが、その一部あるいは全てを回転側(軸部材2,12やフランジ部2b、シール部材19,20など)に設けることも可能である。具体的には、軸部材2,12の外周面2a1,12aやフランジ部2bの両端面2b1,2b2、あるいはシール部材19,20の下端面19aや上端面20aのうち、1ヶ所以上に既述の動圧発生部を設けることが可能である。
また、以上の実施形態では、軸部材2,12が回転して、それを焼結金属製軸受8,18で支持する構成を説明したが、これとは逆に、焼結金属製軸受8,18の側が回転して、それを軸部材2,12の側で支持する構成に対しても本発明を適用することが可能である。この場合、図示は省略するが、焼結金属製軸受8,18はその外側に配設される部材に接着固定され、当該外側部材と一体に回転し、固定側の軸部によって支持される。
また、以上の実施形態では、流体動圧軸受装置1,11,21の内部に充満し、ラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間に流体膜を形成するための流体として潤滑油を例示したが、これ以外にも流体膜を形成可能な流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。もちろん、本発明に係る焼結金属製軸受は、耐摩耗性に優れたものであることから、何らの潤滑流体を使用することなく通常の滑り軸受として使用することも可能である。
本発明の効果を実証するため、Fe系粉末とCu粉末とを所定の割合で含む原料粉末で形成された焼結金属製軸受(実施例)と、従来組成の原料粉末で形成された焼結金属製軸受(比較例)とについて、それぞれ摩耗試験、圧環試験、および透過油量測定試験を行い、各特性につき比較評価を行った。
ここで、試験材料には、Fe粉末としてヘガネス(株)製のNC100.24を、Cu粉末として福田金属箔粉工業(株)製のCE−15を、また、SUS粉末として大同特殊鋼(株)製のDAP410Lをそれぞれ用いた。また、この実験では、低融点金属としてのSn粉末および黒鉛粉末を原料粉末に使用し、Sn粉末には福田金属箔粉工業(株)製のSn-At-W350を、黒鉛粉末には日本黒鉛工業(株)製のECB−250をそれぞれ用いた。圧粉成形体の密度が6.5〜6.9[g/cm3]となるように成形条件を設
定した。実施例の焼結温度は1050℃、比較例の焼結温度は870℃とした。比較例と実施例、各々の原料粉末の組成は表1に示す通りである。また、各粉末の粒度分布は表2〜表6に示す通りである。
完成品としての試験片の完成品寸法は、後述する摩耗試験の場合、実施例、比較例共にφ(外径)7.5mm×t(軸方向幅)10mmとした。また、圧環試験および透過油量の測定試験の場合、実施例、比較例共にφ(外径)7.5mm×φ(内径)4mm×t(軸方向幅)10mmとした。また、試験片の数は各実施例、比較例共に5とした。

ここで、摩耗試験は、上記試験片を用いて以下の試験条件で行った。
相手試験片
材質 :SUS420J2
寸法 :φ(外径)40mm×t(軸方向幅)4mm
周速 :50m/min
面圧 :1.3MPa
潤滑油 :エステル油(粘度:12mm2/s)
試験時間:3hrs
圧環強度の測定試験は、上記試験片を用いて実施例、比較例共にJIS Z 2507に準拠して行った。
透過油量の測定試験は、潤滑油を含浸させていない状態の試験片(焼結金属製軸受)の内周にタンクから潤滑油を供給すると共に、試験片の内周に適当なエア圧を所定時間付与して(4気圧、10分間)、試験片の外周面から外部に漏れ出した潤滑油の量を測定することで行った。また、潤滑油にはエステル系油(12mm2/s)を使用した。
図10に摩耗試験の測定結果を、図11に圧環試験の測定結果を、図12に透過油量の測定結果をそれぞれ示す。図10に示すように、Fe系組織が全体に占める割合を、重量比でCu組織の10倍以上とした場合(実施例)、従前の組成(比較例)と比べて摩耗量の大幅な減少効果が見られた。また、図11に示す結果から、Fe系組織の割合をCu組織のそれに比べて大幅に増加した場合(実施例)であっても、従前の組成(比較例)と同等レベルの圧環強度を示すことがわかる。さらに、図12に示す結果から、上記のように耐摩耗性、圧環強度に優れた組成(実施例)でありながら、透過油量(潤滑油の透過性)についても、従前の組成(比較例)と同等レベルの性能を発揮することがわかる。
1,11,21 流体動圧軸受装置
2,12 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
3 ハブ
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7,17,27 ハウジング
8,18 焼結金属製軸受
8a,18a 内周面
8a1,8a2 動圧溝
8b,18b 下端面
8b1 動圧溝
8c,18c 上端面
8d 外周面
8d1 軸方向溝
9 蓋部材
10,19,20 シール部材
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S1,S2 シール空間

Claims (8)

  1. Fe系組織中にCu組織が分散した形態をなし、かつCu組織はFe系組織よりも微細な組織であるFe系焼結金属製軸受であって、
    Fe系組織が重量比でCu組織の10倍以上含まれると共に、Fe系組織の含有割合が重量比で70%以上で、Cu組織の含有割合が重量比で1.0%以上かつ9.0%以下であって、
    Cuの融点未満の温度で焼結することでCu組織が粒状組織として残っており、かつ粒状組織として残っているCu組織がFe組織と共に相手材との摺動面を含む軸受表面を構成していることを特徴とするFe系焼結金属製軸受。
  2. Fe系組織の含有割合が重量比で90%以上である請求項1に記載のFe系焼結金属製軸受。
  3. Fe系組織の含有割合が重量比で98%以下である請求項2に記載のFe系焼結金属製軸受。
  4. Fe系組織が、Fe組織とSUS組織の一方又は双方で構成される請求項1に記載のFe系焼結金属製軸受。
  5. 回転支持すべき軸との間に流体の動圧作用を生じさせるための動圧発生部を設けた請求項1に記載のFe系焼結金属製軸受。
  6. 請求項1〜5の何れかに記載のFe系焼結金属製軸受を備えた流体動圧軸受装置。
  7. Fe系組織中にCu組織が分散したFe系焼結金属製軸受を製造する方法であって、
    原料粉末中に重量比で1.0%以上かつ9.0%以下含まれるCu粉末と、原料粉末中に重量比でCu粉末の10倍以上かつ70%以上含まれるFe系粉末とを少なくとも含み、Cu粉末がFe系粉末に比べて微細な粒径を有する原料粉末を圧縮成形し、然る後、この圧縮成形体をCuの融点未満の温度で焼結することでCu組織を粒状組織として残し、かつ粒状組織として残したCu組織とFe系組織とで相手材との摺動面を含む軸受表面を構成することを特徴とするFe系焼結金属製軸受の製造方法。
  8. Fe系粉末とCu粉末とを、部分的な合金化により一体化した状態で原料粉末に使用する請求項7に記載のFe系焼結金属製軸受の製造方法。
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