JP5557464B2 - 多段圧延機の張力制御方法及び多段圧延機の張力制御装置 - Google Patents
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Description
特許第3041155号公報(特許文献1)は、圧延スタンド間に設置されたルーパの高さを計測し、ルーパ高さと目標高さとの差に基づいてロール速度制御装置を操作し、スタンド間の圧延材張力と目標張力との差に基づいてルーパ電流制御装置を操作し、ルーパ制御系の共振周波数、減衰係数を複数の計測値から推定し、推定値に応じてロール速度制御装置の設定値に変更を加え、共振周波数、減衰係数を適正値に修正し、圧延設備を安定化する、ルーパ制御装置が開示されている。
さらに、特許文献2に開示された張力制御方法では、張力変動が引きおこす板厚変動発生を未然に抑制するのみで板厚偏差を抑制できないものとなっている。また、この技術は、圧延材の定常部での微少な張力変動を想定しており、圧延材の非定常部(先端部や後端部)での大きな張力変動には対処が困難なものとなっている。
すなわち、本発明に係る多段圧延機の張力制御方法は、多段圧延装置に備えられた圧延スタンドで圧延される圧延材の張力を制御する方法であって、前記圧延材の張力の時間変化を規定した目標軌道データを予め作成する目標軌道算出ステップと、前記圧延材の張力実績値と前記目標軌道データとの偏差に基づいて、前記圧延材の張力を制御する張力制御ステップとを含むことを特徴とする。
通常の張力制御方法として、制御目標値として目標張力値が設定されて、PI制御が行なわれることがあるが、この場合、圧延材の先端部が噛み込んだときに急激に張力測定値が上昇し制御操作量が大きく変化して制御性が著しく悪化する(たとえば大きくオーバーシュートする)ことがある。本発明の張力制御方法によると、圧延材の張力(圧延スタンド間張力)の時間変化を規定した目標軌道データ(張力についての好ましい時間変化を示すデータ)を予め演算しておいて、目標張力値に代えて目標軌道データを用いる。そして、張力実績値と目標軌道データとの偏差に基づいて、圧延材の張力を制御する。このため、張力値が大きくオーバーシュートするような不安定な制御が回避されて張力が安定してコントロールされる。ひいては、操業安定性(通板安定性)が向上し、製品精度を向上させることができる。
こうすることで、必要なとき(圧延材の張力実績値と張力目標値との偏差が大きい場合)のみ、本発明の技術を適用することができ、例えば、制御装置の計算負荷を低減できる。
さらに好ましくは、前記目標軌道算出ステップは、前記目標軌道データを前記制御操作量の変化量に制約条件を適用した上で算出するとよい。
前記制約条件は、圧延スタンドの特性値又は圧延材の張力値に基づいて設定されるとよい。
なお、本発明に係る多段圧延機の張力制御方法の最も好ましい形態は、多段圧延装置に備えられた圧延スタンドで圧延される圧延材の張力を制御する方法であって、前記圧延材の目標張力値に基づいて、前記目標張力値に到るまでの前記圧延材の張力の時間変化を予め規定した目標軌道データを作成する目標軌道算出ステップと、前記目標軌道データと前記圧延材の張力実績値との偏差に基づいて、前記圧延材の張力を制御する張力制御ステップとを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る多段圧延機の張力制御装置の最も好ましい形態は、多段圧延装置に備えられた圧延スタンドで圧延される圧延材の張力を制御する装置であって、前記圧延材の目標張力値に基づいて、前記目標張力値に到るまでの前記圧延材の張力の時間変化を予め規定した目標軌道データを作成する目標軌道算出部と、前記圧延材の張力実績値と前記目標軌道データとの偏差に基づいて、前記圧延材の張力を制御する張力制御部と、を含むことを特徴とする。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本実施形態の多段圧延装置(熱間連続圧延装置)を模式的に示した図であり、図2は、多段圧延装置の一部を示した図である。
図1,図2に示す通り、多段圧延装置1は、複数の圧延スタンド2(図2には上流側の第i番目の圧延スタンド2と下流側の第(i+1)番目の圧延スタンド2とを記載)と、コイル巻き取り機3と、圧延スタンド間張力(単に張力と呼ぶこともある)を適正にすべく圧延ロール4Aの速度を制御する制御部11を備える。この多段圧延装置1においては、圧延材6は、複数の圧延スタンド2を通ることで、所望の板厚、板幅、板クラウンの製品板へと圧延され、コイル巻き取り機3で巻き取られ次工程へと搬送される。
上下の圧延ロール4Aはそれぞれバックアップロール4Bを備える。最終の圧延スタンド2出側には、圧延材6の板厚を検出する板厚検出器(図示せず)が設けられる。また、各圧延スタンド2間の張力を検出するルーパ9が設けられる。
ロール速度制御部5は、ルーパ9で計測された圧延スタンド間張力と目標軌道算出部8の出力とに基づいて、前段(上流側のi番目の圧延スタンド2)のロール速度(制御操作量)を操作して、圧延スタンド間張力(制御量)を制御するものとなっている。
目標軌道算出部8は、ルーパ9から入力された張力計測値や板厚や板幅などの製品情報に基づいて、目標軌道データ(目標とする張力の時間変化曲線)を作成し、ロール速度制御部5に送るようになっている。また、軌道テーブル記憶部10に目標軌道データを書込んだり、軌道テーブル記憶部10から過去に算出した目標軌道データを読出したりすることができるようになっている。
図3は、制御部11において実行される張力制御処理を示したフローチャートである。このフローチャートを参照して、本実施形態に係る張力制御方法を説明する。なお、本実施形態に係るロール速度制御部5においては、PI制御によるフィードバック制御が実行されるものとする。
まず、圧延スタンド2の特性とロール速度制御部5の特性とが、式(2)で表わされるとする。
このような拘束システムに対して、式(3)の制約が満足されるように、この張力制御系を安定化させる制御操作量(ロール速度とルーパトルク)を演算する方法として、リファレンスガバナ設計手法を適用することにより、式(1)の目標軌道データを演算できる。
さらに、一般的な状況を想定して、ロール速度指令値の変化率に対する制約がある場合を考える。この制約を式(4)に示す。
一方で、変化率の制約としては、圧延スタンド2のハードウェア面の制約だけではなく、圧延状態に注目したものであってもよい。
たとえば、通板性を良好な状態で確保するとの観点からスタンド間張力への制約を考え、以下の式(6)を適用する。
S2にて、目標軌道算出部8は、S1にて得られた目標軌道データの値を、軌道テーブル記憶部10の軌道格納テーブルに格納する。なお、この際には、圧延材6品種、寸法又は張力偏差に対応したテーブルへ格納して目標軌道テーブルを更新する。以上述べたS1が目標軌道算出ステップである。
S5Aにて、目標軌道算出部8は、軌道テーブル記憶部10に記憶した目標軌道データを参照する。目標軌道データは式(10)で表わされ、サンプリング時間先までの目標軌道データが与えられていることを表している。
S8にて、ロール速度制御部5は、圧延終了であるか否かを判定する。このとき、目標軌道データ算出部1は、圧延終了を圧延材6の尾端部が該当する圧延スタンド2を通過したか否かにより判定する。圧延が終了したと判定されると(S8にてYES)、この処理は終了する。もしそうでないと(S8にてNO)、処理はS6へ戻されて、繰返して制御操作量を演算する。
以上のような構造及びフローチャートを備えた目標軌道算出部8による張力制御動作について従来技術と比較して説明する。
まず、従来技術では、圧延材6の先端部の噛み込み時にルーパ9が立ち上がる際には急激に張力測定値が上昇し、それに応じて張力制御装置によりロール速度指令値を低下させている。その際に、ロール速度の急激な変化により、大きくスタンド間マスフローが乱れるために、板厚偏差も大きく変化し、変化が大きな場合には目標張力値を下回り、それに応じて板厚制御系によりロールギャップが修正され、さらにマスフロー乱れを誘発する結果となる。このため、板厚偏差がしばらく目標板厚を挟んで振動的に変動した後に、目標板厚へ追従する結果となっている。
この目標軌道データへ張力値が追従するように制御を行なうため、上述した従来技術と比較すると、圧延材6の先端部での急激な張力変化が抑制されて、緩やかに変化するよう制御されることで目標軌道データに追従していることが確認できる。また、このとき張力値と目標軌道データとの偏差が従来技術と比較して小さいため、圧延材6の先端部でのロール速度指令値の急激な変更がなく、緩やかに変更されていることが確認できる。これらの影響により、板厚偏差およびロールギャップ修正量も緩やかに変化することで、従来技術に見られた板厚偏差の急激な変化は発生していない。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、制御操作量はロール速度に限定されるものではなく、ルーパ角度又はロールギャップ量であっても構わない。
2 圧延スタンド
3 コイル巻き取り機
4A 圧延ロール
4B バックアップロール
5 ロール速度制御部
6 圧延材
7 電動機
8 目標軌道算出部
9 ルーパ
10 軌道テーブル記憶部
11 制御部
Claims (6)
- 多段圧延装置に備えられた圧延スタンドで圧延される圧延材の張力を制御する方法であって、
前記圧延材の目標張力値に基づいて、前記目標張力値に到るまでの前記圧延材の張力の時間変化を予め規定した目標軌道データを作成する目標軌道算出ステップと、
前記目標軌道データと前記圧延材の張力実績値との偏差に基づいて、前記圧延材の張力を制御する張力制御ステップとを含むことを特徴とする多段圧延機の張力制御方法。 - 前記張力制御ステップは、前記圧延材の張力実績値と張力目標値との偏差が小さい場合には、当該偏差に基づいて圧延材の張力を制御し、前記圧延材の張力実績値と張力目標値との偏差が大きい場合には、張力実績値と前記目標軌道データとの偏差に基づいて、圧延材の張力を制御することを特徴とする請求項1に記載の多段圧延機の張力制御方法。
- 前記張力制御ステップは、制御操作量である圧延スタンドのロール速度、ロールギャップ量及びルーパ角度のいずれか1つを操作することで圧延材の張力を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多段圧延機の張力制御方法。
- 前記目標軌道算出ステップは、前記目標軌道データを前記制御操作量の変化量に制約条件を適用した上で算出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多段圧延機の張力制御方法。
- 前記制約条件は、圧延スタンドの特性値又は圧延材の張力値に基づいて設定されることを特徴とする請求項4に記載の多段圧延機の張力制御方法。
- 多段圧延装置に備えられた圧延スタンドで圧延される圧延材の張力を制御する装置であって、
前記圧延材の目標張力値に基づいて、前記目標張力値に到るまでの前記圧延材の張力の時間変化を予め規定した目標軌道データを作成する目標軌道算出部と、前記圧延材の張力実績値と前記目標軌道データとの偏差に基づいて、前記圧延材の張力を制御する張力制御部と、を含むことを特徴とする多段圧延機の張力制御装置。
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