上記従来の施錠装置付きの現金輸送用のバッグを用いる場合においては、バッグ回収後に書類に記載された金額とバッグに入っている現金とを照合する。この場合、金額が現金と一致しなくてもバッグ内に硬貨が残っている場合があるなど、正確な照合作業を行うためにはバッグ内に硬貨が残存しないことを確認しなければならない。そこで、上記の確認作業を容易に行うために、バッグ内に硬貨があるか否かを金属探知機で調べるということが考えられる。しかしながら、この場合、上記施錠装置は金属製であるため、金属探知機を用いると施錠装置が反応することから、バッグ内の硬貨の有無を容易に知ることはできない。
一般に施錠装置が用いられる場面で金属探知機を使用可能にするには開閉用ファスナや施錠装置を全て非金属材料で構成することが考えられるが、従来構造の施錠装置の各部品を非金属材料である例えば樹脂材料で構成すると、剛性を確保するために摺動部品やバネを大きくする必要が生じるので錠本体が大型化するという問題点がある。
また、摺動部品を大きくしても部品の摩耗によって適正に動作しなくなったり部品の折損によって故障したりする虞があり、耐久性や信頼性が低下するという問題点もある。例えば、特許文献1に開示された構成では、ビラ3に係止する係合突起部13を備えた可動保持部材8が収容部601内において摺動可能に収容され且つスプリング11により付勢されているが、この並進移動をもたらす案内構造によって可動保持部材8の摺動抵抗が大きくなるので、可動保持部材8とロータ9との当接部に大きな抗力が加わり当該当接部が摩耗しやすくなって耐久性や信頼性が低下するという問題がある。
また、特許文献2には、係止片16を合成樹脂で成形するときに弾性片20を一体に形成すればよい旨の記載があるが、係止片16の爪部19が引手7の係止溝12に嵌合することで係止される一方で、ダイヤル錠を解錠位置に設定することで係止片16が揺動可能に構成されたときに、弾性片20による付勢に抗して引手7を強制的に抜き取ることで爪部19と係止溝12の嵌合を解除するようにしているので、その嵌合する部分の摩耗が激しくなる結果、耐久性や信頼性に欠ける虞があるという問題点がある。
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、構成材料の如何に拘わらずその大型化を回避し、また、耐久性や信頼性の低下を防止することの可能な錠構造を備えたシリンダー錠を実現することにある。
斯かる実情に鑑み、本発明のシリンダー錠は、外筒と、前記外筒内に回転可能に配置されるとともに、軸線方向に伸びるキー挿入孔及び前記キー挿入孔と交差し径方向に伸びるタンブラ収容孔を備えた内筒と、前記内筒に対して前記径方向に移動可能に収容されるタンブラと、前記タンブラに対して前記軸線方向にずれた位置において前記内筒に係合するとともに、前記内筒と前記タンブラとの間に少なくとも前記径方向の力成分を備えた弾性力を与える弾性体と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、タンブラに対して軸線方向にずれた位置において弾性体を内筒に係合させることにより、タンブラと弾性体の間の干渉を低減してタンブラ及び弾性体を内筒に対しコンパクトに装着することができるため、特に、弾性体の形状や寸法に関する制約が少なくなるので、構成材料の自由度を高めることができる。また、その結果、構成材料を限定しなくても、錠構造の大型化を抑制できるとともに、耐久性や信頼性の低下を防止することができる。
本発明において、前記タンブラは、前記タンブラ収容孔内に配置される本体部と、前記本体部から前記軸線方向に伸びて前記弾性体に係合する弾性体係合部と、を有し、本体部と弾性体とが軸線方向にずれた位置に配置される。タンブラの本体部から軸線方向の同じ側にずれた位置において弾性体を内筒と弾性体係合部とに係合させることにより、タンブラの本体部と弾性体との干渉をさらに軽減することができるため、錠構造の大型化をさらに抑制できる。
本発明において、前記弾性体は前記内筒と前記タンブラに架設された弾性リングで構成される。ここで、上記弾性体係合部は、弾性リングに係合する架設係合部となる。これにより、シリンダー錠において内筒とタンブラとの間に少なくとも径方向の力成分を備えた弾性力を与える弾性体として、内筒とタンブラに架設される弾性リングを用いることにより、タンブラを付勢する弾性体の機能を確保しつつ、弾性体の小型化を図ることができるため、錠構造の大型化を抑制できるとともに、耐久性や信頼性の低下を防止することができる。特に、構成材料に拘わらず、耐久性や信頼性を維持したままで錠構造の大型化を回避できるため、構成材料の自由度を高めることができる。したがって、全ての構成部分を容易に例えば非金属製とすることができる。なお、本発明において、弾性リングが内筒とタンブラに架設されるとは、弾性リングが内筒とタンブラの間にかけ渡されることを言う。また、本発明においては、前記内筒の外周面には、前記弾性体を架設したときに前記弾性体を全周にわたって前記外周面より内側に没した状態に収容するように構成された弾性体収容部が設けられ、該弾性体収容部は、前記外周面上において円弧状に伸びる収容溝と、該収容溝の反対側に設けられ、前記弾性リングの前記弾性体係合部に対する係合部分が直線状に通過し得るように構成された凹陥部とを有し、前記タンブラは、前記凹陥部内において前記弾性リングの前記係合部分に前記弾性体係合部が係合することにより前記弾性力を受けることを特徴とする。
本発明の別のシリンダー錠としては、次のものが挙げられる。すなわち、外筒と、前記外筒内に回転可能に配置されるとともに、軸線方向に伸びるキー挿入孔及び前記キー挿入孔と交差し径方向に伸びるタンブラ収容孔を備えた内筒と、前記内筒に対して前記径方向に移動可能に収容されるタンブラと、前記内筒と前記タンブラに架設されることにより前記内筒と前記タンブラとの間に少なくとも前記径方向の力成分を備えた弾性力を与える弾性リングと、を有することを特徴とする。この場合に、上記弾性リングの前記内筒に対する係合部分を前記タンブラに対して前記軸線方向にずれた位置に配置することが好ましい。これによって、内筒とタンブラとの間に弾性力を与える弾性リングがタンブラに干渉することを防止できるので、錠構造の簡易化やコンパクト化を図ることができる。
また、上記内筒は前記弾性リングを収容するリング収容部を有し、前記弾性リングは、前記リング収容部内に収容されることにより全周にわたり前記内筒の外周面下(径方向内側)に没することが好ましい。このようにすると、弾性リングが外筒の内面に接触しないため、外筒内における内筒の回転時においても弾性リングの内筒に対する取付状態が損なわれることがないなど、弾性リングの取付状態の安定性を高めることができる。また、同様の理由から、弾性リングと外筒の内面との摩擦によって内筒の回転が妨げられることも防止できる。この場合に、上記のリング収容部は、前記弾性リングのうちの前記内筒に対する係合部分が前記外周面に沿って円弧状に配置される円弧状の収容溝と、前記収容溝とは反対側に設けられ、前記弾性リングのうちの前記タンブラに対する係合部分が前記収容溝より曲率の小さい形状(例えば、直線形状)で通過し得る摺り割り状の凹陥部とを有することが望ましい。このようにすると、円弧状の収容溝内への収容により弾性リングの内筒に対する取付状態が安定するとともに、弾性リングの凹陥部内を通過する部分によりタンブラに与える弾性力の向きの安定化及び最適化が容易になる。
本発明の上記各シリンダー錠は、全て非金属製の部品で構成することができる。このような非金属としては、合成樹脂、セラミックス、ガラス、カーボンなどが挙げられるが、特に合成樹脂を用いることが好ましい。全ての部品を合成樹脂で構成することで、金属探知機に反応しないシリンダー錠を安価に製造できる。さらに、弾性体として弾性リングを用いる場合には、弾性リングをゴムや軟質合成樹脂などの樹脂素材で構成することにより、安価に、しかも、大型化を招かない態様でシリンダー錠を容易に構成できる。
本発明の施錠装置は、上記のいずれかに記載された前記シリンダー錠と、前記シリンダー錠の前記内筒の回動によって施錠状態と解錠状態に切り替えられる係止機構とを具備し、前記係止機構は、被係止部材を挿入する挿入口と、前記挿入口から挿入された前記被係止部材を係止する係止位置と前記被係止部材を解放する非係止位置に配置可能に設けられるとともに、前記内筒の回転に連動して前記係止位置若しくは前記非係止位置へ駆動される係止部と、を有する。この場合に、前記係止部を前記内筒による駆動の向きとは逆側(すなわち前記非係止位置若しくは前記係止位置)に向けて付勢する係止部付勢手段をさらに有することが好ましい。
上記各発明において、上記弾性リングは、閉じた形状の弾性変形可能な部材であれば如何なるものであってもよいが、例えば、ゴムや軟質樹脂で構成されることが好ましい。一般的にはシリンダー錠の弾性体としてコイルばねが用いられるが、コイルばねの構成素材は実質的に金属に限定されるとともに、仮に非金属で構成した場合には、好適な弾性率、復元性、耐久性を得るために大型化が避けられない。一方、弾性リングの場合には、好適な弾性率、復元性、耐久性を確保する際に、構成素材に関してほとんど制約がなく、しかも、大型化を招くことがない。特に、弾性リングは上記のように閉じた形状であればよいから、極めて簡易な構造とすることができるとともに、弾性リングの外形が取り囲む範囲は広い割に、弾性リングの実質的な占有容積は少ないため、錠構造のコンパクト化に大きく寄与し得る。
また、本発明の施錠装置においては、前記係止機構は、前記シリンダー錠に対して回動可能に軸支された被軸支部を有し、前記係止機構が前記被軸支部の回動軸線の周りに回動することにより前記係止部が前記係止位置と前記非係止位置との間を移動することが好ましい。このようにすると、係止機構が被軸支部で回動可能に軸支され、当該被軸支部の回動軸線の周りの回動により係止部が係止位置と非係止位置との間を移動するように構成されることにより、係止機構の動作抵抗を低減することができるため、構成材料の如何に拘わらず各部の摩耗を低減することができる。したがって、構成材料の自由度を高めることができるため、大型化を回避しつつ耐久性や信頼性の低下を防止することができる。
この場合において、係止機構に一対の支持脚部(スイングアーム)を設け、各支持脚部の先端にそれぞれ上記被軸支部を設けるとともに、上記被軸支部を前記内筒の両側に配置して前記外筒に対して回動可能に軸支することが望ましい。このようにすると、一対の被軸支部を設けることで係止部の動作を安定させることができるとともに、被軸支部を外筒に軸支するとともに内筒の両側に配置することで係止部の動作ストロークを確保しつつ施錠装置をコンパクトに構成できる。
さらに、本発明の施錠装置においては、前記係止機構は、前記挿入口の内側に配置されるとともに前記被係止部材の挿入により前記挿入口の側の第1の位置から前記挿入口とは反対側の第2の位置まで駆動され、前記第1の位置に配置されたときに前記係止部を前記非係止位置に保持し、前記第2の位置に配置されたときには前記係止部を解放して前記係止位置に配置可能とし、前記係止部が前記係止位置に配置されたときには前記被係止部材或いは前記係止機構により前記第2の位置に保持される可動保持部材と、前記可動保持部材を前記挿入口の側に付勢する可動保持部材付勢手段と、をさらに有することが好ましい。
上記のようにすると、係止部が非係止位置にあるときには、被係止部材が挿入口に挿入されていなければ可動保持部材が可動保持部材付勢手段により第1の位置に移動するので、可動保持部材により係止部は非係止位置に保持される。この状態で、被係止部材が挿入口から挿入されると、第1の位置に配置されていた可動保持部材は押し込まれて第2の位置に駆動されるため、可動保持部材による拘束が解除された係止部は係止位置に戻って被係止部材を係止することが可能になる。すなわち、予め係止部が可動保持部材により非係止位置に保持されていて、被係止部材により可動保持部材を押し込んで初めて係止部の非係止位置への保持状態が解除され、これによって被係止部材を係止部により係止することが可能になる。したがって、従来のように被係止部材の先端部によって直接に係止部を非係止位置に駆動する必要がなくなるので、係止部の挿入口側の面に、被係止部材の挿入により非係止位置に向けた駆動力を生じさせるための傾斜面や湾曲面よりなる摺動面を設ける必要がなくなる。このため、係止部の挿入口側の面を非係止位置へ移動させる不正操作が困難な形状とすることができるから、係止状態で被係止部材と挿入口の隙間から薄片等を挿入して不正に係止状態の解除が行われることなどを防止できる。
次に、添付図面を参照して本発明のシリンダー錠の実施形態(施錠装置)について詳細に説明する。なお、以下の説明において、特に明記しない限り、図1を基準にして前後左右の向きについて記述することとし、図示であることを示して向きに言及する場合には記述時に参照している図面を基準にして記述する。したがって、前後左右の向きは本願発明において説明の便宜上の理由で、或いは、相対的な向きの異同を明らかにする理由で示されるものであり、絶対的な向き如何は何ら本質的なものではない。図10に示すように、本実施形態の施錠装置10は、キー挿入孔12aを備えた錠構造を有するシリンダー錠10Aと、このシリンダー錠10Aと一体的に構成され、挿入口10bを有する係止機構10Bとを備えている。この施錠装置10は一体のケース11及びベース13(図1及び図3参照)によって構成される筐体を備え、この筐体とその内部に収容される構成部分が上記シリンダー錠10Aと上記係止機構10Bを構成している。
上記シリンダー錠10Aにおいては、キー挿入孔12aに正規の鍵30を挿入することにより、ケース11の一部によって構成される外筒11A内に収容された内筒12を回転させることができるようになっている。また、上記係止機構10Bは、例えば図示しない開閉用ファスナ(スライドファスナ)を開閉するためのスライダに取り付けられた被係止部材20が挿入可能に構成されるとともに、この被係止部材20を挿入口10b内に挿入したときに被係止部材20の被係止部(凹部若しくは開口部)21に係合することで被係止部材20を係止(抜け止め)できるように構成されている。
図1は施錠装置10の分解状態を斜め前方から見た様子を示す分解斜視図、図2は施錠装置10の縦断面図、図3は施錠装置10のケース11とそれ以外の部分とを分離し、これらを斜め後方から見た様子を示す分解斜視図、図4はケース11を取り外した構造を前面側から見た様子を示す前面図、図5はケース11を取り外した構造を、正規の鍵以外の鍵30′を挿入したときの係止状態にある場合において示す側面図、図6はケース11を取り外した構造を、正規の鍵30を挿入して内筒12を回転させることで非係止状態にした場合において示す側面図である。
ケース11は、上記内筒12を回転可能に収容し円筒面状の内面部11b(図3参照)を備えた外筒11Aと、上記係止機構10Bの内部構成部品を収容する係止ケース部11Bとを有する。図3に示すように、外筒11Aの内部には、内筒12を収容する空間の図示上方に配置され、上記内面部11bに対して径方向に窪み、軸線方向に伸びるタンブラ係合溝11cと、内筒12を収容する空間の図示下方に配置され、上記内面部11bの一部を開口することで形成され、軸線方向に伸びるタンブラ係合開口11dとが形成されている。なお、タンブラ係合溝11cの溝底部はケース11の外壁面を兼ねているために閉鎖され、タンブラ係合開口11dはケース11の内部に配置された仕切りに形成されているために単に開口しているが、いずれの係合構造11c、11dも後述するようにタンブラ14を内筒12の回転方向に係止可能とされていれば足り、例えば、溝構造と開口構造のいずれで構成されていても構わない。
また、外筒11Aの後方側の内面部分には、左右一対の軸支溝11e、11eが形成され、これらの軸支溝11e、11eはベース13に設けられた左右一対の軸支突起13a、13aとそれぞれ対応するように形成され、ケース11とベース13が組み立てられたときに、軸支溝11eと軸支突起13aが組み合わさって後述する被軸支部16cを回転可能に軸支する凹穴状の軸支部を構成するようになっている。
さらに、上記係止ケース部11Bの内部には、図示前面側の内面部分に設けられた突起状の内面当接部11f、11fと、図示前面側の内面部分から後方へ突出し、その先端がベース13の凹部13c(図2参照)に嵌合する支柱状の保持部11gと、が設けられている。なお、図示例では、内面当接部11fはそれぞれ一対の山形の突起部が間隔を有して隣接して並んだ突出構造を有し、この突出構造が左右にそれぞれ設けられている。ただし、図3では一方の突出構造のみが見えている。
施錠装置10のケース11とベース13で構成される筐体の内部には、上記シリンダー錠10Aを構成する内筒12、タンブラ14及び弾性リング15と、上記係止機構10Bを構成する係止レバー16、可動保持部材17及び弾性リング18とが収容されている。
上記シリンダー錠10Aでは、外筒11Aに内筒12が回転可能に収容されている。外筒11Aの前面部には開口部11aが設けられ、この開口部11aにより、内筒12の上記キー挿入孔12aが開口する前面部が露出するようになっている。内筒12は、その軸線方向に伸びる上記キー挿入孔12aと、このキー挿入孔12aと交差(図示例では直交)し、その径方向に伸びるように形成された、軸線方向に配列された複数のタンブラ収容孔12bと、を有している。なお、図示例の場合、キー挿入孔12aにおける複数のタンブラ収容孔12bの間の部分は、図2に示される断面(タンブラ収容孔12bの幅方向中央部)に沿って複数のタンブラ収容孔12bを連続させるように、径方向にも貫通したスリット状に構成されている。このような孔形状は、内筒12を合成樹脂の成形によって形成する際に、溶融樹脂の充填性を高めて樹脂成形を容易にする。また、内筒12は、その後端部から径方向(図示下方)に突出した突起で構成される駆動部12cと、上記タンブラ収容孔12bに対して軸線方向に隣接する位置において内筒12の外周面上の少なくとも上側部分において円弧状に伸びるように形成されたリング収容部12d、12g(図7(b)参照)と、を備えている。
上記複数のタンブラ収容孔12bにはそれぞれ軸線方向と直交する面に沿った板状のタンブラ14が径方向に移動可能に収容される。タンブラ収容孔12bは内筒12を径方向に貫通しているが、内筒12にはタンブラ収容孔12bに臨む内側面(図示例では対向する一対の内側面のそれぞれ)の径方向途中に段差部12e(図7参照)を有し、この段差部12eがタンブラ14の側面(図示例では左右の側面それぞれ)に設けられた突起14e(段差部であってもよい。)に係合する形でタンブラ14が径方向の一方側(図示例では上側)に抜け止めされる。したがって、図示例の場合にはタンブラ14を内筒12に対して図示下方から挿入することによりタンブラ収容孔12bに収容することができ、その収容状態においてタンブラ14は図示上方に抜け止めされる。
このとき、タンブラ14の図示上下の両端部14c、14dは、タンブラ14の内筒12に対する径方向の位置に応じて内筒12の外周面より突出したり当該外周面下に没したりできるようになっている。本実施形態では、両端部14cと14dのいずれか一方が交代的に内筒12の外周面より突出可能に構成されるとともに、両端部14cと14dの双方が共に内筒12の外周面下に没した状態が実現できるようになっている。ただし、外筒11A内で内筒12が回転可能な状態と回転規制される状態とが切り替え可能に構成されていればよく、したがって、タンブラ14の端部14c又は14dのいずれか一方のみを内筒12の外周面から出没可能に構成しても構わない。
タンブラ14には、上記キー挿入孔12aに対応する位置(図示例では略中央部)にキー係合孔14aが設けられる。このキー係合孔14aは、鍵30、30′を挿入していない状態でその少なくとも一部が内筒12の上記キー挿入孔12aと連通するように構成されるとともに、鍵30、30′を挿入したときにはその鍵山(鍵溝)の形状に応じて、タンブラ14の上記径方向の位置を規制するように構成されている。なお、各図においては、正規の鍵30の鍵山(鍵溝)に合わせて形成されるキー係合孔14aの具体的な開口縁形状を省略して単なる矩形状の開口として示してある。また、キー係合孔14aは、図示例ではタンブラ14のほぼ中央に設けられた開口部で構成されているが、結果として鍵30、30′に係合してタンブラ14の径方向の位置を規制できるキー係合部であればよい。このキー係合部は、例えば、タンブラ14に形成された切り欠き部やタンブラ14の周縁形状によって構成することも可能である。
タンブラ14には、上記キー係合孔14a、端部14c及び14dを有する板状の本体部14m(図1参照)から内筒12の軸線方向に突出する架設係合部(上記の弾性体係合部に相当する。)14bが形成されている。架設係合部14bは図示例の場合には上記突起14eから軸線方向後方へ突出するように設けられている。すなわち、タンブラ14の左右側部に設けられた左右一対の突起14eの突出部分から軸線方向にさらに突出する軸状の突起として、左右一対の架設係合部14bが設けられている。この架設係合部14bはタンブラ収容孔12bに連通する開口部12f(図7(b)参照)を通して収容溝12dの反対側(下側)に設けられた摺り割り状の凹陥部12g内に突出する。そして、この凹陥部12g内で架設係合部14bに弾性リング15の下部15bが係合する。このとき、弾性リング15の上部15aは上記内筒12の収容溝12dに係合している。ここで、図示のように、弾性リング15は上記の収容溝12dや上記の凹陥部12gといった円筒12の外周面に形成されたリング収容部12d、12g内に収容されることで内筒12の外周面から突出せず、全周に亘って内筒12内(外周面より内側)に没した状態となるように構成される。弾性リング15は軸線方向と直交する面に沿って配置されるとともに、周回方向に引き延ばされることで復元力を生じた状態で設置されている。
弾性リング15は閉じた形状を有するとともに弾性変形可能なものであれば如何なるものであってもよい。上記構成により、内筒12とタンブラ14の上記架設係合部14bとに架設された弾性リング15は、タンブラ14を内筒12に対して保持する機能を有する。すなわち、タンブラ14は、上記突起14eが段差部12eと干渉することで内筒12に対し図示上方に抜け止めされると同時に、弾性リング15に保持されることで内筒12に対し図示下方に抜け止めされる。なお、本実施形態ではタンブラ14に一体の弾性体係合部(架設係合部14b)を設け、これが弾性体(弾性リング)15に対して当接により係合しているが、弾性体15に軸線方向に突出するタンブラ係合部を設け、このタンブラ係合部をタンブラ14に当接により係合させるようにしてもよい。ここで、弾性体係合部やタンブラ係合部は、必ずしも弾性体15又はタンブラ14に一体に設けられる必要はなく、弾性体15とタンブラ14の少なくとも一方に取り付けられた別体の係合部材であってもよい。
また、タンブラ14は弾性リング15により図示上方へ付勢される。これにより、タンブラ14が後述する鍵30のキー挿入孔12aへの挿入により規制されない限り、図示上側の端部14cが内筒12の外周面より突出した状態(図7(a)の点線)に維持される。なお、このときに、内筒12が図示の施錠角度位置にあれば、タンブラ14の端部14cは外筒11Aの上記タンブラ係合溝11cに係合し、外筒11A内における内筒12の回転が規制される。
弾性リング15は、内筒12に装着された状態において、図7(b)に示すように、内筒12の円弧状の収容溝12dに対応して上部15aが円弧状に構成される。また、内筒12の摺り割り状の上記凹陥部12gに対応してタンブラ14の架設係合部14bに係合する下部15bが収容溝12d内の弾性リング15の円弧形状よりも曲率の小さい形状に構成される。図示例の場合、弾性リング15の凹陥部12g内を通過する部分は左右一対の架設係合部14bに架設されることによって少なくとも一対の架設係合部14bの間において直線状に構成され、弾性リング15は全体として弦を備えた部分円状(タンブラ14が図示上方に配置される際にはほぼ半円状)に構成される。このような弾性リング15の装着状態により、弾性リング15の円弧状部分15aにより内筒12に対する装着面積が確保されて内筒12に対する安定した取付態様を得ることができるとともに、弾性リング15のさらに曲率の小さい上記凹陥部12g内を通過する部分によりタンブラ14に与える弾性力の向きの安定性と最適化を図ることができる。基本的には、タンブラ14の移動可能な径方向が弾性リング15の上記凹陥部12gを通過する部分15bと直交する方向に設定されることで、タンブラ14がさらに効率的かつ安定的に径方向に付勢される。ただし、弾性リング15はタンブラ14を内筒12に対して径方向に付勢することができればよく、したがって、上記のような装着状態に限定されるものではない。
弾性リング15は、弾性変形可能な素材で、しかも閉じた形状に構成されたものであれば如何なるものであっても構わない。例えば、内筒12に取り付けられていない状態(如何なる拘束も受けていない自律状態)で円環状となっていてもよく、楕円リング状となっていてもよく、矩形状となっていてもよい。したがって、入手しやすいものとしては環状のOリングを用いてもよい。弾性リング15の構成素材は結果として必要な付勢力を得ることができるものであれば特に限定されないが、ゴムや軟質樹脂が最も好ましい。これらの素材は、非金属であるため、金属探知機により探知されないという点でも望ましい。
図1に示すように、係止レバー16は、本体部16aの図示上部から幅方向に間隔を有して図示上方へ伸びる(分岐する)一対の支持脚部16b、16bを有し、これらの支持脚部16bの先端部外側にそれぞれ円板状の頭部とそれより小径の首部とを備えた突起部分よりなる被軸支部16c、16cを備えている。これらの被軸支部16cは上記の軸支溝11eと軸支突起13aによって構成される軸支部に嵌合し、これによって係止レバー16はケース11とベース13で構成される筐体に対して一対の被軸支部16cを結ぶ線を中心に回転可能に取り付けられる。すなわち、一対の被軸支部16cは内筒12の両側にそれぞれ配置された状態で外筒11Aに対して回動可能に軸支される。
また、本体部16aにおける上記一対の支持脚部16b、16bの基部間にある部分の図示後方側の表面には傾斜面16dが形成されている。この傾斜面16dは上記内筒12の駆動部12cに係合する。そして、内筒12が図示の施錠角度位置から解錠角度位置へと回転したときに、駆動部12cの当接位置が当該傾斜面16d上を移動することで係止レバー16を図示前方へ押し上げる。また、係止レバー16には本体部16aの図示下部から図示後方へ突出する係止部16eが設けられている。この係止部16eは、係止時(上記被係止部材20が施錠装置10に係止されている時)において上記被係止部材20の上記被係止部21に係合(図示例では嵌合)し、非係止時(上記被係止部材20が施錠装置10に係止されていない時)においては係止レバー16が前方へ回動することで上記被係止部21を解放する。なお、本明細書においては、係止部16eの上記係止時における位置を係止位置と言い、上記非係止時における位置を非係止位置という。
さらに、係止レバー16は本体部16aの幅方向両側からそれぞれ斜め前方へ伸びる弾性脚部16f、16fを有している。この弾性脚部16f、16fは、ケース11の上記内面当接部11f、11fにそれぞれ弾性変形した状態で当接することによって、係止レバー16を図示後方(ベース13の側)に向けて、すなわち係止部12eを係止位置へ向けて付勢する。なお、図示例では、係止レバー16に一体に設けられた弾性脚部16fが係止ケース部11Bの内面に突設された内面当接部11fに当接しているが、係止部16eを係止位置へ向けて付勢するものであれば如何なるものでもよく、例えば、係止レバー16と別体に設けられたもの、内面当接部11fを不要とするもの、係止ケース部11Bと一体に設けられたものなど、種々の変形された構成を用いることができる。
一方、上記係止機構10Bにおいては、支柱状の保持部11gに係合する貫通孔17aを有する筒状(図示例では角筒状)に構成された可動保持部材17が配置されている。この可動保持部材17は、ベース13上に設けられたガイド枠13b、13bによって図示上下方向(被係止部材20の挿入口10bへの挿入方向に一致する。)に案内される。この可動保持部材17は、上記貫通孔17aが図示上下方向に見たときに保持部11gの同方向の幅よりも大きな内幅を有することにより、保持部11gに保持された状態でガイド枠13b、13bの案内方向に沿って図示上下方向に移動可能とされる。また、可動保持部材17の図示上側前端部には図示前方へ突出する係合突起17bが設けられている。
弾性リング18は、上記可動保持部材17の前記係合突起17bと前記保持部11gとに架設されることで可動保持部材17を常時図示下方(挿入口10bの側)へ付勢する。この弾性リング18は上記弾性リング15と同様の素材で構成できる。また、弾性リング18が閉じた形状であればよい点も上記弾性リング15と同様である。ただし、この弾性リング18の均等物としては、可動保持部材17を挿入口10bの側へ付勢する可動保持部材付勢手段を構成するものであれば如何なるものであってもよく、例えば、板ばね、コイルばね、トーションスプリングなどの種々の部材で構成することができるほか、可動保持部材17、ケース11、ベース13等の既存の部材と一体化された弾性部分で構成してもよい。
図2及び図9に示すように、可動保持部材17の上記挿入口10bに対向する対向面17dは、上記挿入口10bの上方において挿入口10bの開口範囲に対して内側から対面するように配置される。ここで、図9(b)に示すように、係止レバー16が後方に配置されているとき(係止部16eが係止位置にあるとき)には可動保持部材17はその本体部16aに設けられた開口部16h内に配置される。また、可動保持部材17は、被係止部材20が挿入されているときにはその先端部、或いは、被形成部材20が挿入されていないときには上記開口部16hの図示下側の開口縁(本体部16aの一部)に妨げられるために、上記弾性リング18により付勢されているにも拘わらず下方への移動を規制された状態(上記第2の位置に配置された状態)とされる。これに対して、被係止部材20が挿入口10bに挿入されていない状態で係止部材16が前方へ回動する(係止部16eが非係止位置に配置される)と、図9(a)に示すように、可動保持部材17は係止レバー16の本体部16aの上記開口縁に妨げられることがなくなるので、弾性リング18の付勢力により下方(挿入口10bの側)に移動する(上記第1の位置に配置される)。このとき、可動保持部材17の前端部17cは係止レバー16の本体部16aの後方に配置されるようになるため、係止レバー16は、可動保持部材17の前端部17cに妨げられて後方へ戻る(係止部16eが係止位置に戻る)ことができなくなる。すなわち、この状態では、可動保持部材17が第1の位置にあることで係止レバー16が非係止状態(係止部16eが非係止位置)に保持される。
図7(a)は施錠装置10における上記内筒12のタンブラ収容孔12bを通過する断面を示す断面図、図7(b)は施錠装置10における上記内筒12の収容溝12dを通過する断面を示す断面図である。
以上説明した本実施形態の施錠装置10においては、キー挿入孔12aに鍵30が挿入されていない場合においては、図4、図7(a)及び図7(b)に示すように、内筒12は施錠角度位置(図示例ではキー挿入孔12aの長手方向が上下方向に一致している角度位置)にあり、この内筒12に装着された複数のタンブラ14は、両端部14cと14dが共に内筒12の外周面下に没した基準位置(図7(a)において実線で示す。)から図示点線のように上記架設係合部14bが弾性リング15によって内筒12に対して図示上方へ押し上げられることでタンブラ14の図示上側の端部14cが内筒12の外周面より図示上方へ突出した状態にある。このため、端部14cは外筒11Aの上記タンブラ係合溝11cに係合(図示例では嵌合)して回転を規制することにより、内筒12は外筒11A内で回転不能とされる。
一方、キー挿入孔12aに正規の鍵30を挿入すると、鍵30の鍵山(或いは鍵溝)が複数のタンブラ14の上記キー係合孔14aにそれぞれ係合して、複数のタンブラ14の全ての径方向の位置を、それらの両端部14c、14dが共に内筒12の外周面下に没するか、或いは、同外周面に一致する、上記の基準位置となるように規制する。そして、これによって図6に示すように内筒12は外筒11A内で回転可能な状態とされる。図6は内筒12が解錠角度位置(係止部16eが非係止位置に配置されるように係止レバー16を押し上げる位置に駆動部12cが回動したときの内筒12の角度位置)にあるときを示している。
なお、キー挿入孔12aに正規の鍵30とは異なる鍵30′を挿入した場合には、図5に示すように、当該鍵30′の鍵山(鍵溝)が錠機構に整合しないので、複数のタンブラ14の少なくともいずれか一つにおいて端部14cと端部14dのいずれか一方が内筒12の外周面より径方向に突出し、外筒11Aの上記タンブラ係合溝11c又は上記タンブラ係合開口11dに係合(嵌合)して回転を規制するため、外筒11Aに対して内筒12は回転不能とされる。なお、図5には、図7(a)に破線で示すように、端部14dがタンブラ係合開口11dへ突出した状態を示してある。
なお、図5に示すように内筒12が施錠角度位置にあるときには、タンブラ収容孔12bの両端開口部及びこの中に収容されたタンブラ14の両端部14c、14dは上記タンブラ係合溝11c及び上記タンブラ係合開口11dの角度位置に整合しているために複数のタンブラ14が径方向に移動可能であることから、鍵30、30′を自由に抜き差しできるが、内筒12が施錠角度位置以外の角度位置にあるとき(例えば、図6に示す解錠角度位置にあるとき)には、上記の整合した状態が失われるためにタンブラ14の径方向の移動が規制されるので、鍵30、30′を抜き差しすることはできなくなる。
図8は内筒12の上記駆動部12cと係止レバー16の上記傾斜面16dとの係合箇所を示す縦断面図であり、図8(a)は係止時の断面図、図8(b)は非係止時の断面図である。内筒12が上記施錠角度位置にあるときには、図8(a)に示すように、上記駆動部12cも施錠位置(図示左側、図1の右側)にあり、駆動部12cが傾斜面16dのうちの低い領域に位置する表面部分に当接若しくは対面しているので、係止レバー16を前面側(図示上方)へ押し上げることはない。一方、内筒12が解錠角度位置へ向けて回転していくと、図8(b)に示すように、上記駆動部12cも解錠位置(図示右側、図1の左側)に移動(旋回)するので、駆動部12cは上記傾斜面16d上を高い領域の表面部分に向けて摺動しながら、係止レバー16を徐々に前方へ押し上げていく。
図9は、上記係止機構10Bの内部構造を示す縦断面図であり、図9(a)は非係止時(被係止部材20を挿入しかけた状態)の縦断面図、図9(b)は被係止部材20が挿入されて係止部16eに係止された状態を示す係止時の縦断面図である。
本実施形態では、上記シリンダー錠10Aが一旦解錠角度位置に設定されると、上記駆動部12cが上記解錠位置に移動するために、駆動部12cと傾斜面16dの当接によって、弾性脚部16f、16fによる後方への付勢力に抗して係止レバー16が前方へ押し上げられ、係止部16eは非係止位置に移動する。このとき、被係止部材20が挿入口10bに完全に挿入されていなければ、図9(a)に示すように、弾性リング18の弾性力により可動保持部材17は挿入口10bの側へ動作して挿入口10bの側にある第1の位置に移動し、その結果、係止レバー16はその本体部16aが可動保持部材17の前端部17cに阻まれて弾性脚部16f、16fの付勢力があっても後方へ回動できなくなるため、係止部16eは非係止位置に保持され、係止位置へ戻ることはできない。
次に、この状態で、図9(b)に示すように被係止部材20が挿入口10bから挿入されると、被係止部材20の先端は最初に可動保持部材17の対向面17dに当接する。そして、被係止部材20をさらに挿入していくと可動保持部材17も奥側の第2の位置に移動するので、可動保持部材17の前端部17cが本体部16aから外れることによって、係止部16eは係止位置へ復帰可能な状態とされる。この状態をより正確に述べれば、上記シリンダー錠10Aの内筒12が施錠角度位置に戻っていて駆動部12cが係止レバー16の傾斜面16dを規制しない状態になっていれば、係止レバー16は、係止部16eが係止位置に移動するまで回動可能な状態とされる。この状態で係止レバー16は上記弾性脚部16f、16fの弾性力によって付勢されているのでベース13の側へ回動し、やがて係止部16eが被係止部材20の被係止部21に係合し、これによって被係止部材20が係止され、図9(b)に示すように抜け止めされる。
なお、係止部12eが非係止位置にあるときには、弾性脚部16f(の先端部)は内面当接部11fの相対的に低い箇所(より前方上側にある表面部位)に当接し、係止部12eが係止位置にあるときには、弾性脚部16fは内面当接部11fのより相対的に高い箇所(より後方下側にある表面部位)に当接するため、係止部12eが非係止位置にあるときと係止位置にあるときとにおける弾性脚部16fの弾性変形量の差が少なくなるか、或いは、当該差がなくなるように構成される。これによって、係止レバー16の回動位置(姿勢)に拘わらず常に安定した弾性力が係止方向に加わるように構成できる。ここで、山形の内面当接部11fは上記低い箇所から上記高い箇所に向けて徐々に高さが増大するように構成されているので、弾性脚部16fの当接位置も徐々に後方側に移動することから、係止レバー16のスムーズな動作を妨げることのないように構成される。また、このような当接位置の移動をさらにスムーズにするために、弾性脚部16fの当接部分(図示例では先端部)は移動方向に沿って凸曲線状の輪郭を有している。
上述のように被係止部材20が施錠装置10により施錠されている状態で、正規の鍵30をキー挿入孔12aに挿入して内筒12を解錠角度位置へ回転させると、上述のように係止レバー16が駆動部12cにより押し上げられて回動し、被係止部材20に対する拘束が解除されるため、被係止部材20を引き抜くことが可能になる。被係止部材20を引き抜くと可動保持部材17は弾性リング18の付勢力により挿入口10bの側の第1の位置に移動し、その前端部17cによって係止レバー16が妨げられることにより、係止部16eが係止位置に戻ることが防止されて、図9(a)に示すように非係止位置に保持される。また、被係止部材20を引き抜いた後に鍵30により内筒12を解錠角度位置から施錠角度位置に戻すと、駆動部12cも解錠位置から元の施錠位置に復帰するが、係止部16eは上記のように非係止位置に保持されたままであるために、弾性脚部16fの弾性力が加わっていても係止位置に戻ることはない。
本実施形態では施錠装置10は全て非金属製の部品で構成される。このとき、例えば、ケース11、内筒12、ベース13、タンブラ14、係止レバー16、可動保持部材17は、或る程度の剛性が必要とされるので硬質樹脂により構成されることが好ましく、また、弾性リング15、18は、弾性及び可撓性が必要とされるので、ゴムや軟質樹脂により構成されることが好ましい。これによって、施錠装置10を取り付けたバッグその他の非金属製の物品を金属探知機により検査したときに、施錠装置10に妨げられることなく、当該物品の内部に金属製品が存在するか否かを確実に検出できる。ただし、本実施形態を非金属製の物品の開閉用ファスナの施錠装置として構成する場合には、上記被係止部材20及びこれを取り付けたスライダを含め開閉用ファスナの全てを非金属で構成する必要があることは言うまでもない。なお、非金属製とは、上記の樹脂(繊維強化樹脂を含む。)やゴムに限らず、セラミックス、ガラス、カーボン、金属酸化物などの、金属(純金属及び合金並びにそれらの焼結体等)以外の各種の素材で構成されたものを広く包含する。
本実施形態では、上記シリンダー錠10Aのシリンダー錠構造において、一般的にはコイルばねが用いられる、タンブラ14を付勢する弾性体として弾性リング15を用いたので、構造の複雑化や大型化を招くことなく、また、付勢力や耐久性の低下を招くことなく、上記のように非金属製の施錠装置10を容易に構成することができる。弾性リング15は、その外形寸法の割には実質的な占有容積が小さいので、シリンダー錠のコンパクト化に大きく寄与できる。また、弾性リング15は、内筒12にタンブラ14を収容した後に内筒12に対して外側から装着するだけでよいから、シリンダー錠の組み立てを極めて容易にする。
また、本実施形態では、弾性リング15は内筒12に対してタンブラ14とは軸線方向にずれた位置に装着されている。これによって、タンブラ14と弾性リング15とが干渉することがほとんどなくなるため、構造を複雑化したり、大型化したりすることなしに錠構造を形成することができる。従来は、共通のタンブラ孔12b内にタンブラ14とコイルばねが軸線方向の同じ位置に共に収容されていたので、コイルばねを小さくする必要があるとともに、錠構造も或る程度大型化せざるを得ないという問題点があった。しかし、本実施形態では、弾性リング15は架設係合部14bに対してのみタンブラ14と係合しているだけであり、その他の本体部14mとは軸線方向にずれて配置されている。換言すれば、弾性リング15の内筒12に対する係合位置は、タンブラ14の内筒12に対する収容位置から軸線方向にずれている。このため、軸線方向と交差する共通の平面内に両者を共に配置する必要がなくなるから、両者の干渉による構造的な制約を低減することができるので、内筒12の径寸法をそれほど増大させずに、或いは、弾性リング15などのタンブラ14を付勢する付勢手段をそれほど小型化しなくても、それぞれ錠構造を形成することが可能になる。
本実施形態では、係止レバー16を回動可能に軸支したことにより、被軸支部16cとその軸支部に摺動箇所を限定して必要な動作ストロークを確保できるので、係止レバー16の移動時の摺動抵抗を低減できるため、内筒12の駆動部12cと係止レバー16の傾斜面16dとの間の摩耗を低減することができる。したがって、上記のように非金属製の部品を用いた場合でも、摩耗による耐久性や信頼性の低下を抑制できる。また、係止レバー16の被軸支部16cが内筒12の両側において軸支されていることにより、被軸支部16cと係止部16eの距離を確保して係止位置と非係止位置の間の動作ストロークを確保しても、施錠装置10の上下方向の長さを抑制することができる。ここで、被軸支部16cが筐体を構成する外筒11Aとベース13の間に軸支されていることで、構造の複雑化や大型化をさらに抑制できる。
さらに、本実施形態では、挿入口10b内において可動保持部材17を被係止部材20の挿入方向に移動可能に配置するとともに、係止位置へ向けて弾性力が付与された係止レバー16を可動保持部材17により非係止位置に保持し、被係止部材20を挿入したときに可動保持部材17が第1の位置から第2の位置へ移動して係止レバー16に対する拘束が解除されるように構成することで、係止レバー16の係止部16eが被係止部材20を係止可能となるように構成している。その結果、係止時において挿入口10b側に対向配置される係止レバー16の係止部16eの外面16j(図2参照)を、被係止部材20によって係止レバー16を押し上げることができる向きの傾斜面や湾曲面にする必要がなくなる。これによって、当該外面16jを図示のように被係止部材20の挿入方向とほぼ直交する平面としたり、或いは、前記外面16jを従来とは逆向きに傾斜した、すなわち係止部16の非係止位置の側に向いた傾斜面(図6に点線で示す。)や湾曲面としたりすることが可能になる。
したがって、従来構造のようにビラ3をビラ挿入部602に挿入すると可動保持部材8の係合突起部13に設けられた摺動面部1302と摺動しつつ、可動保持部材8を上方へ押し上げることでビラ3が係合突起部13の係合面部1303に係止される場合に、ビラ3とビラ挿入部602との隙間から薄板を挿入して押し込むことで可動保持部材8を押し上げて係止状態を解除するなどの不正行為を防止することができる。
尚、本発明のシリンダー錠は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、タンブラ14として板タンブラを用いているが、タンブラとしてピンタンブラを用いる場合でも同様に本願発明を適用することができる。また、上記実施形態では、各タンブラが一体の部材で構成されているが、各タンブラが連結されて相対的に動作しうる複数の部分からなる場合でも、結果としていずれか一つの部分が内筒に対して径方向に移動可能に構成されるとともに径方向に弾性力を受けるものでさえあれば、複数の部分の間に弾性力が及ぼされるものであっても本願発明の範疇に包含される。