JP5553173B2 - 船外機用内燃機関の空燃比制御装置、空燃比制御方法及びプログラム - Google Patents

船外機用内燃機関の空燃比制御装置、空燃比制御方法及びプログラム Download PDF

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Description

本発明は、船外機用内燃機関の空燃比制御装置、空燃比制御方法及びプログラムに関するものである。特に、所定のリーン側空燃比で運転することができる船外機用内燃機関の空燃比制御に用いられて好適である。
従来から燃費向上のために低速・低負荷等の運転時に混合気の空燃比を所定のリーン側(希薄側)空燃比で運転し、ポンピングロス等の低減を図る船外機用内燃機関(エンジン)が知られている。リーン側空燃比での運転は、理論空燃比よりも薄い混合気による燃焼のため、エンジントルクは低下してしまう。
図9は空燃比とエンジントルクとの関係を示す図である。図9に示すように、空燃比が理論空燃比よりもリーン側に移行にするにしたがって、エンジントルクが低下する。更に、リーン側空燃比で運転する場合、出力空燃比や理論空燃比で運転する場合に比べて、空燃比の変化に対してエンジントルクの変動が大きくなってしまう。すなわち、所定のリーン側空燃比で運転する場合、インジェクタ等の構成部品のばらつきや燃料性状(燃料に含まれるアルコール含有量等)の変化によって、実際の空燃比がリーン側にずれたりリッチ側にずれたりすると、エンジントルクは大きく変動してしまう。
更に、船外機用内燃機関は、自動二輪車や自動車等の車両と異なり、搭載される船体は特定されておらず、様々な種類の船体に搭載することが可能である。船体は大きさ、重量、船体形状及び船底形状等が多様であり、搭載される船体に応じてエンジンに対する負荷特性が大きく変動してしまう。
すなわち、エンジンをリーン側空燃比で運転する場合、理論空燃比で運転する場合に比べて、搭載される船体の負荷特性、構成部品のばらつき及び燃料性状等の変動によって操船者の操作感に大きな影響を与えてしまう。
特に、所定のリーン側空燃比で運転している状態から、操船者がエンジン回転数を上昇させるようにスロットルレバーを上昇操作した場合、薄い混合気であるリーン側空燃比ではエンジン回転数を上昇させることができない出力領域がある。したがって、この領域では目標空燃比を所定のリーン側空燃比から理論空燃比になるように切り替え、燃料噴射量を制御することで操船者の操作に応じた出力が得られ、エンジン回転数が上昇する。
このとき、エンジン回転数に基づいて目標空燃比を所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替えていたとする。この場合、例えばエンジンを負荷が軽い船体に搭載した場合と、負荷が重い船体に搭載した場合とでは、所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替わるタイミングが相違する。
図10は、エンジンを異なる船体に搭載したときのスロットル開度とエンジン回転数との関係を示す図である。曲線a1は負荷(船体抵抗)が軽い船体に搭載した場合(負荷が小)であり、曲線b1は負荷が普通の船体に搭載した場合(負荷が中)であり、曲線c1は負荷が重い船体に搭載した場合(負荷が大)である。すなわち、負荷の関係はa1<b1<c1である。曲線a1、b1、c1上に示される円は、目標空燃比を所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替える切り替え点である。ここでは所定のエンジン回転数で切り替えているものとする。
負荷が小さい場合、曲線a1に示すように、所定のリーン側空燃比で運転している状態からスロットル開度を上昇させても、エンジン回転数は所定のエンジン回転数までスムーズに上昇するので、所定のリーン側空燃比から理論空燃比にスムーズに切り替えできる。すなわち、負荷が小さい場合、曲線a1に示すように、スロットル開度の上昇に応じてエンジン回転数も上昇する直線に近い線となるため、操船者はスロットル開度の上昇操作に応じた加速感(いわゆるリニア感をいう)を得ることができる。
一方、負荷が中や大きい場合、曲線b1及び曲線c1に示すように、所定のリーン側空燃比で運転している状態からスロットル開度を徐々に上昇させると所定のエンジン回転数の近傍で、エンジン回転数の上昇率が低下してしまう。その後、所定の条件(充填効率やエンジン回転数)に至ることで目標空燃比が理論空燃比に切り替えられるので、エンジン回転数が急に上昇してしまう。このような傾向は、負荷が大きい曲線c1では更に顕著になる。すなわち、負荷が中や大きい場合、曲線b1及び曲線c1に示すように、スロットル開度の上昇に応じてエンジン回転数が上昇する線にならないため、操船者はスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができない。
また、特許文献1の船舶推進機のエンジン制御装置に開示されているように、スロットル開度が全閉から吸気圧が略一定になるまではリーン側空燃比で運転して、吸気圧が略一定になってからスロットル開度が全開までの吸気圧が変化しない領域では、リッチ側空燃比で運転することも可能である。
特許第4019169号公報
しかしながら、吸気圧はスロットル開度が略中開度であっても、その際のエンジン回転数によっては上限付近の値になることがある。したがって、スロットル開度を中開度以上に上昇させても吸気圧の変化量は比較的小さい。図10は、エンジンを異なる船体に搭載したときのスロットル開度と吸気圧との関係を示す図である。曲線a2は負荷が軽い船体に搭載した場合(負荷が小)であり、曲線b2は負荷が普通の船体に搭載した場合(負荷が中)であり、曲線c2は負荷が重い船体に搭載した場合(負荷が大)である。図10に示すように、何れの曲線a2〜c2も吸気圧の上限付近ではスロットル開度に対する吸気圧の変動量が小さいため、吸気圧が略一定であるか否かの判定が困難であり、その判定によって所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替わるタイミングが左右されてしまう。
更に、船外機は船体に対するトリム角を調整することができ、トリム角を調整することによって吸気圧は変動してしまう。図10に示す曲線dは、トリム角度を調整したときのスロットル開度と吸気圧との関係を示す曲線である。曲線dに示すように、トリム角を調整すると船体等の負荷が変化し、スロットル開度と吸気圧との関係が変動する。
したがって、吸気圧が略一定であるか否かに基づいて目標空燃比をリーン側からリッチ側に制御する場合、吸気圧が略一定になるタイミングが一定ではないため、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができない問題を解決できない。
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、目標空燃比を所定のリーン側空燃比で運転することができる船外機用内燃機関において、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができる船外機用内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
本発明に係る船外機用内燃機関の空燃比制御装置は、吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを備えた船外機において、吸気圧、スロットル開度及びエンジン回転数に基づいて空燃比を制御する船外機用内燃機関の空燃比制御装置であって、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御する制御手段を有することを特徴とする。
本発明によれば、目標空燃比を所定のリーン側空燃比で運転することができる船外機用内燃機関において、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができる。
船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。 船舶に取り付けられる船外機の左側面図である。 船外機の内部構成を示すブロック図である。 スロットル開度を学習する処理を示すフローチャートである。 学習条件の成立を判定するための処理を示すフローチャートである。 スロットル開度を上昇させたときのエンジン回転数の変化を示す図である。 空燃比を制御するための処理を示すフローチャートである。 吸気圧−エンジン回転数による目標空燃比マップを示す図である。 スロットル開度−エンジン回転数による目標空燃比マップを示す図である。 空燃比とエンジントルクとの関係を示す図である。 エンジンを異なる船体に搭載したときのスロットル開度とエンジン回転数との関係およびスロットル開度と吸気圧との関係を示す図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、船舶を斜め後方から眺めた斜視図である。また、図2は、船舶に取り付けられる船外機の左側面図である。図1及び図2に示すように、船舶1の船体2後部に位置するトランサム2aに船外機3がブラケット装置4を介して装着される。
船体2の略中央部は操舵室5であり、操船者が着座する操舵席6が設置されると共に、操舵席6の前方には計器パネル7が配置される。計器パネル7にはタコメータ等の計器類、モニタ8、警告用のブザー9等が設けられると共に、操舵ハンドル10も設けられる。また、操舵席6の側方には例えばスロットルレバー11及びシフトレバー12を備えたリモコンボックス13が配置される。
図2に示すように、船外機3はエンジンホルダ14を備え、このエンジンホルダ14の上方にエンジン(船外機用内燃機関)15が設置される。また、エンジンホルダ14の下方にはオイルパン16が配置されると共に、この船外機3のエンジン15、エンジンホルダ14及びオイルパン16の周囲はエンジンカバー17によって覆われる。エンジン15は、例えばシリンダヘッド29、シリンダブロック30及びクランクケース31等を組み合わせて構成された水冷4サイクル四気筒エンジンであり、クランクシャフト18を略垂直に配置したバーティカル(縦)型のエンジンである。
オイルパン16の下部にはドライブシャフトハウジング19が設置される。エンジンホルダ14、オイルパン16及びドライブシャフトハウジング19内にはドライブシャフト20が略垂直に配置され、その上端部がクランクシャフト18の下端部に連結される。ドライブシャフト20はドライブシャフトハウジング19内を下方に向かって延び、ドライブシャフトハウジング19の下部に設けられたギヤケース21内のベベルギヤ22及びプロペラシャフト23を介してプロペラ24を駆動するように構成される。
ギヤケース21内には遠隔操作によってプロペラシャフト23の回転方向を正・逆(フォワード・リバース)又は中立状態(ニュートラル)に切り換えるシフト装置25が設けられる。このシフト装置25からはシフトロッド26が上方に向かって延び、リンク27を介して操作ロッド28(又はケーブル)によって上記リモコンボックス13のシフトレバー12に連結される。
エンジン15の最前部、図2においては最も左側に配置されるクランクケース31の後方(右側)にはシリンダブロック30が配置される。また、シリンダブロック30の後方にはシリンダヘッド29が配置される。
ブラケット装置4は主にスイベルブラケット32及びトランサムブラケット33から構成され、スイベルブラケット32は船外機3に、トランサムブラケット33は船体2のトランサム2aにそれぞれ固定される。
スイベルブラケット32は左右一対のトランサムブラケット33間に架設されたチルト軸34を介して上下方向に傾動可能に軸支され、このスイベルブラケット32内にパイロットシャフト35が鉛直方向に、且つ回動自在に軸支される。また、このパイロットシャフト35の上下端にアッパーマウントブラケット36及びロアーマウントブラケット37がそれぞれ回動一体に設けられる。そして、アッパーマウントブラケット36にはステアリングブラケット38が設けられ、図示しないケーブル等によって操舵ハンドル10に連結される。
一方、エンジンホルダ14の前部には左右一対のアッパーマウントユニット39が設けられ、アッパーマウントブラケット36に連結される。また、ドライブシャフトハウジング19の両側部には一対のロアーマウントユニット40が設けられ、ロアーマウントブラケット37に連結される。そして、以上により船外機3は、操舵ハンドル10の操作によって、ブラケット装置4に対しパイロットシャフト35を中心に左右に操舵可能になると共に、チルト軸34を中心に上下向方にチルト及びトリム操作が可能になる。
ここで、チルト操作とは停船中や船体2の陸揚げ時等に船外機3を水面上に上昇させるものである。また、トリム操作とは船外機3の角度(トリム角)を調整するものである。
次に、船外機3の主要な内部構成について図3に示すブロック図を参照して説明する。船外機3全体は、空燃比制御装置としての制御装置50によって制御されている。制御装置50は、CPU51、ROM52、RAM53、EEPROM54、入力回路55、出力回路56、点火装置57及び電源回路58を含んで構成されている。
CPU51は、いわゆるコンピュータであって、ROM52に格納されたプログラムを実行して、各種検出器等から出力される信号に基づいて、インジェクタ80等を介して空燃比を制御する。ROM52は、不揮発性メモリであって、CPU51が実行するプログラムやCPU51が各機器を制御するときの初期値等を格納している。RAM53は、揮発性メモリであって、CPU51が各機器を制御するときに算出した情報等を一時的に記憶する。EEPROM54は、書き換え可能な記憶部としての不揮発性メモリであって、CPU51が各機器を制御する場合の情報等、例えば後述する目標空燃比を切り替えるスロットル開度の学習値等を記憶する。
入力回路55は、図3に示すように船外機3内外の各種検出器等から信号が入力される。具体的には、カム軸信号検出器60は、エンジン15の図示しないカム軸の信号(カム角信号)を出力する。クランク角信号検出器(回転数検出器)61は、エンジン回転数検出手段の一例であって、エンジン15の回転数信号を出力する。
操船者によるスロットルレバー11の操作に応じて、図示しない吸気管に配置されたスロットバルブを閉閉し、エンジン15に供給される空気量を調整する。このとき、スロットル開度検出器62は、スロットバルブの開度に応じたスロットル開度の信号を出力する。スロットル開度検出器62は、スロットル開度検出手段の一例である。
吸気圧力検出器63は、吸気圧検出手段の一例であって、吸気管に配置され、吸気管内における吸気圧の信号を出力する。大気圧力検出器64は大気圧の信号を出力する。また、吸気温度検出器65、エンジン温度検出器66(冷却水温度検出器)及び排気通路温度検出器67は、それぞれ吸気の温度、エンジン15の温度(冷却水温度)及び排気通路の温度の信号を出力する。傾斜角検出器68は、船外機3の傾斜角の信号を出力する。シフト(ニュートラル)スイッチ69は、シフトレバー12のシフト位置の信号を出力する。ストップ(エマージェンシーストップ)スイッチ70は、エンジン15を緊急停止する信号を出力する。
学習モード選択スイッチ71は、後述するスロットル開度を学習するモードであることを示す信号を出力する。イグニッションスイッチ72は、操船者によりオンとオフとが選択できるように構成され、オンされることにより各機器に電力が供給され、オフされることにより各機器への電力が遮断される。なお、本実施形態の船外機3には、吸気量を直接測定する吸気量検出器を備えていないものとする。
出力回路56は、インジェクタ80、空気量調整アクチュエータ81、モニタ8、ブザー9及びイグニッションコイル82を制御するための信号を送信する。
制御装置50に入力された各機器からの信号はCPU51で適宜演算処理され、その演算結果が出力回路56を介して船外機3内外の各機器に出力される。具体的には、CPU51は、燃料噴射量の信号をインジェクタ80に出力する。また、CPU51は、吸気量の信号を空気量調整アクチュエータ81に出力する。また、CPU51は、表示する信号等をモニタ8に出力する。更に、CPU51は、出力回路56から点火装置57を介してイグニッションコイル82に点火信号を出力する。
また、本実施形態に係るエンジン15では、燃費を向上させるために空燃比を理論空燃比よりも所定のリーン側空燃比にして運転(希薄燃焼運転)したり、理論空燃比または出力空燃比にして運転したりすることができる。このとき、CPU51は、操船者によるスロットルレバー11を介したスロットル開度を上昇させる操作に応じて、低速域では空燃比をリーン側空燃比で制御し、エンジン出力が必要な高速域では理論空燃比で制御する。
さて、上述したように、従来の船外機では、搭載される船体の負荷特性、構成部品のばらつき及び燃料性状等の変動によって、所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替わるタイミングが相違する。そのため、操船者は、船外機を搭載する船体の負荷特性等によってはスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができなかった。
そこで、本実施形態では、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を、搭載される船体に応じて学習して、学習したスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に切り替える。このように、制御することで、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感が得られないと感じる前に空燃比がリッチ側に制御されるので、スロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができるようになる。
以下、本実施形態において、船外機3の制御装置50が行う処理について説明する。
まず、制御装置50が行うスロットル開度を学習する処理について図4〜図6を参照して具体的に説明する。
図4は、目標空燃比を切り替えるためのスロットル開度を学習する処理を示すフローチャートである。図5は、学習条件の成立を判定するための処理を示すフローチャートである。図6は、スロットル開度を上昇させたときのエンジン回転数の変化を示す図である。
図4に示すフローチャートでは、操船者によりイグニッションスイッチ72がオンにされると、CPU51は各機器に電力を供給するように制御し、エンジン15が始動されているものとする。また、操船者が学習モード選択スイッチ71をオンすることで、CPU51はROM52に格納されたプログラムをRAM53に読み出し、プログラムに基づいてスロット開度を学習する処理を開始する。なお、目標空燃比を切り替えるためのスロットル開度を学習する処理は、エンジン15を船体2に新規または代替えで搭載したときに行うのが好ましい。なお、学習モード選択スイッチ71をオンすることで、スロットル開度の学習を任意で行うことができる。
まず、操船者はスロットルレバー11を操作して低速域から高速域までスロットル開度をゆっくり上昇させる。このとき、CPU51は、低速域において目標空燃比を所定のリーン側空燃比で運転する。本実施形態では、所定のリーン側空燃比を18.0とする。
ステップS10では、CPU51は、スロットル開度の変化率が既定の範囲であるか否か、すなわち一定の変化率であるか否かを判定する。具体的には、CPU51は、スロットル開度検出器62から出力される信号に基づいてスロットル開度の変化率が既定値Aよりも大きく既定値Bよりも小さいかを判定する。スロットル開度の変化率が既定の範囲の場合、次にステップS12に処理を進め、スロットル開度の変化率が既定の範囲ではない場合、ステップS11に処理を進める。
ステップS11では、CPU51は、モニタ8に学習が未完了であることを表示したり、ブザー9を鳴らしたりすることで、操船者に学習が未完了である旨を通知し、学習の処理を終了する。このように、スロットル開度を学習する処理を終了するのは、ステップS10において、スロットル開度の変化率が一定でない場合、目標空燃比を切り替えるためのスロットル開度を学習することができないためである。
ステップS12では、CPU51は、目標空燃比を切り替えるスロットル開度を学習する前に、学習条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、CPU51は、RAM53に記憶されている学習条件成立フラグFを読み出して判定する。学習条件が成立し学習条件成立フラグFが1の場合、ステップS13に処理を進め、学習条件が成立せず学習条件成立フラグFが0の場合、ステップS11に処理を進める。
次に、上述したステップS12における学習条件成立の判定方法について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、ステップS21では、CPU51は、傾斜角検出器68を介して船外機3のトリム操作が行われていないかを判定する。トリム操作が行われていない場合、ステップS22に処理を進め、トリム操作が行われている場合、ステップS26に処理を進める。ステップS26では、学習条件成立フラグFを0にしてRAM53に記憶し、後述するように学習処理を終了する。ステップS21のような判定を行うのは、トリム操作が行われている場合、吸気圧やエンジン回転数が安定せず、正確なスロットル開度を学習することができないためである。
ステップS22では、CPU51は、クランク角信号検出器61が出力する信号に基づいて、エンジン回転数が既定値Cよりも大きく既定値Dよりも小さいか否かを判定する。エンジン回転数が既定の範囲の場合、ステップS23に処理を進め、エンジン回転数が既定の範囲ではない場合、ステップS26に処理を進める。ステップS22のような判定を行うのは、エンジン回転数が既定の範囲ではない場合、正確なスロットル開度を学習することができないためである。
ステップS23では、CPU51は、エンジン温度検出器66が出力する信号に基づいて、エンジン温度が既定値Eよりも大きく既定値Fよりも小さいか否かを判定する。エンジン温度が既定の範囲の場合、ステップS24に処理を進め、エンジン温度が既定の範囲ではない場合、ステップS26に処理を進める。ステップS23のような判定を行うのは、暖機運転中のようなエンジン温度が低い場合にはエンジン回転数が変化してしまい、正確なスロットル開度を学習することができないためである。
ステップS24では、CPU51は、エンジン15が定常時であるか否かを判定する。具体的には、CPU51は、各機器が出力する信号に基づいて、エンジン15が故障モードではないか、油圧が低下したり、オーバーヒート等をしたりしていないか等を判定する。エンジン15が定常時である場合、ステップS25に処理を進め、エンジン15が異常である場合、ステップS26に処理を進める。ステップS24のような判定を行うのは、エンジン15が異常の場合、正確なスロットル開度を学習することができないためである。
ステップS25では、上述した各ステップの所定の条件を満たし、正確なスロットル開度の学習を行うことができる状態であるため、CPU51は、学習条件成立フラグFを1にしてRAM53に記憶し、図4に示すステップS12の処理に戻る。
上述したように、ステップS12では、CPU51は、学習条件成立フラグFが1の場合、ステップS13に処理を進める。
ステップS13では、CPU51は、クランク角信号検出器61及びスロットル開度検出器62が出力する信号からエンジン回転数及びスロットル開度を取得する。CPU51は、取得したエンジン回転数及びスロットル開度に基づいてスロットル開度毎にエンジン回転数の上昇率(ΔN)を演算する。具体的に、図6を参照して、エンジン回転数の上昇
率について説明する。図6はスロットル開度を一定の変化率で上昇させた場合のエンジン回転数の変化を示す図である。エンジン回転数が小さい領域は低速域であり、上述したようにCPU51は目標空燃比をリーン側空燃比に制御して運転している。
曲線Lは、エンジン15を負荷が軽い船体に搭載した場合(負荷が小)のエンジン回転数の変化を示し、曲線Hは、エンジン15を負荷が重い船体に搭載した場合(負荷が大)のエンジン回転数の変化を示している。図6に示す曲線L及び曲線Hに示すように、所定のスロットル開度の変化毎(例えば、スロットル開度の角度1度毎)におけるエンジン回転数の上昇幅が、エンジン回転数の上昇率ΔNである。曲線Lでは、スロットル開度が上
昇するとエンジン回転数の上昇率ΔNが徐々に小さくなる。一方、曲線Hでは、スロット
ル開度が上昇するとエンジン回転数の上昇率ΔNが急に小さくなる。
ステップS14では、CPU51は、エンジン回転数の上昇率ΔNが閾値よりも小さい
か否かを判定する。閾値よりも小さい場合、ステップS15に処理を進め、閾値以上の場合、ステップS10に処理を戻す。この閾値は、ROM52等に格納された予め定められた所定値であって、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感が得られないと感じるまでには至らない上昇率の値が設定されている。
ステップS15では、CPU51は、エンジン回転数の上昇率ΔNが閾値よりも小さく
なったときのスロットル開度をEEPROM54に記憶する。この処理によって、目標空燃比を所定のリーン側空燃比から理論空燃比に切り替えるときのスロットル開度が学習される。
具体的に、図6を参照して、エンジン回転数の上昇率ΔNが閾値よりも小さくなるスロ
ットル開度について説明する。スロットル開度の上昇に応じて上昇率ΔNが徐々に小さく
なる曲線Lでは、上昇率ΔNはスロットル開度Th1まで上昇したときに閾値よりも小さ
くなる。一方、スロットル開度の上昇に応じて上昇率ΔNが急に小さくなる曲線Hでは、
上昇率ΔNはスロットル開度Th2まで上昇したときに閾値よりも小さくなる。したがっ
て、CPU51は、曲線Lの場合、スロットル開度Th1を記憶し、曲線Hの場合、スロットル開度Th2を記憶する。
ステップS16では、CPU51は、モニタ8に学習が完了したことを表示したり、ブザー9を鳴らしたりすることで、操船者に学習が完了した旨を通知し、学習の処理を終了する。
次に、学習したスロットル開度を切り替え点として目標空燃比をリーン側空燃比から理論空燃比に制御する処理について図7及び図8を参照して説明する。図7は、制御装置50が空燃比を制御する処理を示すフローチャートである。図8A及び図8Bは、目標空燃比が示されるマップを示す図である。図8Aは吸気圧−エンジン回転数による目標空燃比マップであり、図8Bはスロットル開度−エンジン回転数による目標空燃比マップである。図8A及び図8Bに示すマップは、例えばROM52に記憶されている。
まず、ステップS30では、操船者によりイグニッションスイッチ72がオンされることで、CPU51は各機器に電力を供給するように制御し、エンジン15が始動される。このとき、学習モード選択スイッチ71はオフにされた状態である。CPU51は、ROM52に格納されたプログラムをRAM53に読み出し、プログラムに基づいて空燃比制御の処理を開始する。また、CPU51は学習モードによってEEPROM54に記憶されているスロット開度の学習値やROM52に記憶されている図8A及び図8Bに示すマップを読み出し、RAM53に記憶する。
エンジン始動後、ステップS31では、CPU51は、吸気圧とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。具体的には、CPU51は、吸気圧力検出器63及びクランク角信号検出器61から、現在の吸気圧とエンジン回転数とを取得する。次に、CPU51は、図8Aに示すマップと照合し、取得した吸気圧とエンジン回転数とから定まる目標空燃比を取得する。CPU51は、取得した目標空燃比になるようにインジェクタ80を介して燃料噴射量を制御する。なお、燃料噴射量の制御は、吸気圧とエンジン回転数とを基本とするのであって、その他の検出器の信号に応じて燃料噴射量は補正される。
ここで、図8Aに示す吸気圧−エンジン回転数による目標空燃比マップの各枠内には目標空燃比が設定されている。図8Aに示すマップは、理論空燃比と所定のリーン側空燃比が混在している。具体的には、所定のエンジン回転数(R12)以下では、目標空燃比として理論空燃比が設定され、所定のエンジン回転数(R13)以上且つ吸気圧が高くない場合(図8Aに示す太枠内)では、目標空燃比としてリーン側空燃比が設定されている。したがって、吸気圧とエンジン回転数とから定まる目標空燃比がリーン側空燃比の場合、希薄燃焼によって運転される。
また、図8Aに示す低回転域のエンジン回転数で、目標空燃比が理論空燃比に設定されているのは、アイドリング状態等で安定したエンジン回転数にするためである。なお、所定のリーン側空燃比以外の空燃比は、理論空燃比に限られず、例えば理論空燃比から出力空燃比までの空燃比を自由に設定することができる。
次に、ステップS32では、CPU51は、スロットル開度が学習値よりも大きいか否かを判定する。具体的には、CPU51は、スロットル開度検出器62から、現在のスロットル開度を取得し、取得したスロットル開度と学習値とを比較する。スロットル開度が学習値よりも大きい場合、ステップS33に処理を進める。スロットル開度が学習値以下の場合、ステップS31に処理を戻し、CPU51は、継続して吸気圧とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。
ステップS33では、CPU51は、スロットル開度とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。具体的には、CPU51は、スロットル開度検出器62及びクランク角信号検出器61から、現在のスロットル開度とエンジン回転数とを取得する。次に、CPU51は、図8Bに示すマップと照合し、取得したスロットル開度とエンジン回転数とから定まる目標空燃比を取得する。CPU51は、取得した目標空燃比になるようにインジェクタ80を介して燃料噴射量を制御する。なお、燃料噴射量の制御は、スロットル開度とエンジン回転数とを基本とするのであって、その他の検出器の信号に応じて燃料噴射量は補正される。
図8Bに示すスロットル開度−エンジン回転数による目標空燃比マップの各枠内には目標空燃比が設定されている。図8Bに示すマップは、全て理論空燃比が設定されている。なお、目標空燃比は理論空燃比に限られず、例えば理論空燃比から出力空燃比までの空燃比を自由に設定することができる。
ここで、例えば、現時点での吸気圧がP17、エンジン回転数がR16とし、CPU51が、図8Aに示すマップに基づいて目標空燃比をリーン側空燃比で制御しているとする。この状態から、スロットル開度が上昇されて、スロットル開度が学習値(ここでは、学習値をスロットル開度T11とする)よりも大きくなるとする。すると、CPU51は、図8Aに示すマップから図8Bに示すマップに切り替えて、スロットル開度T11、エンジン回転数R16とで特定される目標空燃比、すなわち理論空燃比で燃料噴射量を制御する。ここで、学習値は、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感が得られないと感じる手前のスロットル開度である。したがって、学習値を境界として目標空燃比をリーン側空燃比から理論空燃比に切り替えることで、操船者はスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができる。なお、目標空燃比がリーン側空燃比から理論空燃比に切り替わるとき、空燃比がリーン側からリッチ側に移行するため、エンジントルクが上昇してしまう。そのため、CPU51は、点火時期を遅角する等して、エンジントルクの変動を抑制する制御を行っている。
ステップS34では、CPU51は、現在のスロットル開度が学習値から所定値減算した値よりも小さいか否かを判定する。大きい場合、ステップS33に処理を戻し、CPU51は、継続してスロットル開度とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。一方、小さい場合、ステップS31に処理を戻し、CPU51は、吸気圧とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。ステップS34のような処理を行うのは、例えば、操船者がスロットル開度を学習値近傍で前後させて運転している場合、CPU51は、リーン側空燃比と理論空燃比との切り替えを頻繁に行う必要が生じるためである。すなわち、理論空燃比からリーン側空燃比に移行する場合に、学習値から所定値減算した値を閾値にし、いわゆるヒステリシスにすることで、スロットル開度を学習値近傍にして運転している場合でも、リーン側空燃比と理論空燃比との切り替えを少なくでき、上述したエンジントルクの変動を抑制する制御を少なくすることができる。
このように、本実施形態の制御装置50は、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御する。したがって、制御装置50は、操船者がスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができないと感じる前に目標空燃比をリーン側空燃比からリッチ側に制御するため、操船者はスロットル開度の上昇操作に応じた加速感を得ることができる。
また、制御装置50は、船外機3が搭載される船体の負荷特性、構成部品のばらつき及び燃料性状等に応じて、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を学習する。したがって、制御装置50は、船外機3が搭載される船体等に応じたスロットル開度の切り替え点を取得することができ、船体等に応じてリーン側空燃比での運転を増やすことができるので燃費を向上させることができる。
また、制御装置50は、現在のスロットル開度が、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度以下の場合、吸気圧とエンジン回転数とを基本として燃料噴射量を制御する。したがって、吸気量を直接検出する吸気量検出器を備えていない船外機であっても、吸気圧検出器63に基づいて空燃比を精度よく制御することができる。
以上、本発明を上述した実施形態により説明したが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
例えば、上述した実施形態では、制御装置50は、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比から理論空燃比に制御する場合について説明したが、この場合に限られず、所定のリーン側空燃比よりもリッチ側である理論空燃比から出力空燃比までの空燃比に制御してもよい。
また、上述した実施形態では、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を学習する場合について説明したが、この場合に限られず、制御装置50が、切り替え点として学習値近傍に複数の切り替えスイッチを設定し、操船者が選択できるようにしてもよい。例えば、学習値を切り替え点として設定されている切り替えスイッチの場合、学習値が切り替え点となり、燃費を向上させるエコモードとして用いることができる。また、学習値になる前を切り替え点として設定されている切り替えスイッチの場合、学習値よりも前のスロットル開度が切り替え点となり、スロットル開度の上昇操作に応じた加速感をより得られるドライバビリティモードとして用いることができる。
3:船外機 2:船体 8:モニタ 9:ブザー 15:エンジン 50:制御装置 51:CPU 52:ROM 53:RAM 54:EEPROM 55:入力回路 56:出力回路 61:クランク角信号検出器 62:スロットル開度検出器 63:吸気圧力検出器 71:学習モード選択スイッチ 80:インジェクタ

Claims (8)

  1. 吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを備えた船外機において、吸気圧、スロットル開度及びエンジン回転数に基づいて空燃比を制御する船外機用内燃機関の空燃比制御装置であって、
    エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御する制御手段を有することを特徴とする船外機用内燃機関の空燃比制御装置。
  2. エンジン回転数とスロットル開度との関係に基づいて、エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を記憶する記憶処理手段を有し、
    前記制御手段は、前記記憶処理手段によって記憶されたスロットル開度に基づいて、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御することを特徴とする請求項1に記載の空燃比制御装置。
  3. 前記制御手段は、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御するとき、燃料噴射量制御の方式を切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の空燃比制御装置。
  4. 前記制御手段は、目標空燃比を所定のリーン側空燃比にする場合、吸気圧とエンジン回転数とを基本として取得される燃料噴射量で制御し、目標空燃比をリッチ側にする場合、スロットル開度とエンジン回転数とを基本として取得される燃料噴射量で制御することを特徴とする請求項3に記載の空燃比制御装置。
  5. 吸気圧とエンジン回転数とを基本して取得される燃料噴射量の制御とは、吸気圧とエンジン回転数とによって定まる目標空燃比が記憶されている吸気圧−エンジン回転数による目標空燃比マップに基づいて燃料噴射量を算出する燃料噴射量の制御であり、
    スロットル開度とエンジン回転数とを基本とする燃料噴射量の制御とは、スロットル開度−エンジン回転数による目標空燃比マップに基づいて燃料噴射量を算出する燃料噴射量の制御であることを特徴とする請求項4に記載の空燃比制御装置。
  6. 前記吸気圧−エンジン回転数による目標空燃比マップには、目標空燃比として所定のリーン側空燃比と所定のリーン側空燃比よりもリッチ側の空燃比とが混在していることを特徴とする請求項5に記載の空燃比制御装置。
  7. 吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを備えた船外機において、吸気圧、スロットル開度及びエンジン回転数に基づいて空燃比を制御する船外機用内燃機関の空燃比制御方法であって、
    エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御することを特徴とする船外機用内燃機関の空燃比制御方法。
  8. 吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段とを備えた船外機において、吸気圧、スロットル開度及びエンジン回転数に基づいて空燃比を制御するためのプログラムであって、
    エンジン回転数の上昇率が所定値よりも小さくなるスロットル開度を切り替え点として、目標空燃比を所定のリーン側空燃比からリッチ側に制御する工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
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