JP5552763B2 - 末梢静脈投与用輸液製剤 - Google Patents

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Description

本発明は、常温下で安定保存可能であって、ビタミンB1やビタミンC等のビタミンの栄養状態が低下することが予想される又は低下している患者の栄養状態を維持・改善でき、更には抗酸化ストレス作用をも有効に発揮できる、安定な末梢静脈投与用輸液製剤に関する。
従来、経口的に栄養補給が困難な患者の生命維持に必要な栄養素を補給するために、輸液療法が広く行われている。投与される栄養素には、糖、アミノ酸、電解質、ミネラル等の生命維持に必要な栄養素が含まれている。
輸液療法には大きく分けて「中心静脈輸液療法」と「末梢静脈輸液療法」の2つがあるが、ビタミンの使用方法はこの2つの間で大きく異なる。中心静脈栄養療法の場合、ビタミンを投与しなければ種々のビタミン欠乏症(代表的な欠乏症はビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症や乳酸アシドーシス)が起こることが知られており、各種ビタミンの投与は必須である。このため、高カロリー輸液用総合ビタミン剤や予めビタミンを配合した中心静脈栄養療法用輸液製剤が開発・上市されている。
末梢静脈栄養療法の場合、一般的に使用期間が短いことからビタミンについてはあまり関心が持たれてこなかった。唯一ビタミンB1については非投与によってビタミンB1欠乏症のリスクがあることが明らかとなっており、ビタミンB1を予め配合したキット製剤が上市されるに至っている。しかし、それ以外のビタミンについては投与する意義や投与しないことによるリスクが明確でなかったことから、必ずしも使用されていないのが現状である。事実、日本の医療現場で使用できる全ての注射用総合ビタミン剤は中心静脈栄養療法(高カロリー輸液)用のみにしか適応を持たず、末梢静脈栄養療法時には効能外となる。
しかし、最近になって、短期間の末梢静脈栄養療法時においても、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンCについても、投与しなければ血中濃度や尿中排泄量が低下することが明らかとなった。つまり、補給される栄養輸液中のブドウ糖やアミノ酸が代謝利用されるためには、ビタミンB群が必須不可欠であり、これらが欠乏あるいは不足した場合には代謝障害が起こることは一般的に知られている。また、ビタミンB2欠乏でビタミンB6の利用障害、ビタミンB6欠乏で血中ビタミンC濃度低下、ビタミンC欠乏で尿中ビタミンB6排泄量増加を引き起こす等、ビタミンには相互作用の関係があり(非特許文献2参照)、これらのビタミンについては末梢静脈栄養療法時においても積極的な投与が必要である。
前述のように、静脈栄養療法におけるビタミンの維持・補給には総合ビタミン剤が用いられるが、各ビタミンの投与量としてはAMA(American Medical Asociation)のガイドラインに準拠またはこれに類似した総合ビタミン剤が汎用されている。これらの製剤を用いた静脈栄養療法を実施した場合、ビタミンCは100mg/日が投与されることになる。しかしながら、消化器疾患患者に対してこの総合ビタミン剤を使用した場合、ビタミンCの血中濃度および尿中排泄量を正常値まで回復させることが困難であることが明らかとなった。また、消化器手術後の患者に対して末梢静脈栄養療法を行う際にビタミンCを100mg/日併用した場合でも、ビタミンCの血中濃度および尿中排泄量を正常値まで回復させることは困難であり、更に体内の酸化ストレス状態に対する軽減効果も不十分であることが明らかとなった。
また、ビタミンCの用量が500mg/日に設定されている高カロリー輸液用混合ビタミン剤(商品名「M.V.I注アイロム」、アイロム製薬株式会社)も市販されているが、前述の通り「M.V.I注アイロム」を含めた全ての総合ビタミン剤の適応は高カロリー輸液用(中心静脈投与用輸液)のみであり、末梢静脈投与用輸液には適応が無い。更に遮光・冷所保存が必須とされているため、保存条件の点でも欠点がある。
更に、輸液におけるビタミンCの用量を単に500mg/日に設定して、術後患者に投与しても、体内のビタミンC濃度を正常値に回復できなかったことが報告されている(非特許文献1参照)。ビタミンCは短時間で静脈投与した場合、急激に尿中へ排泄されることが知られており、投与量のみならず、投与方法も改善することで効率的に体内に供給する必要がある。
このように、従来、末梢静脈栄養療法における体内ビタミンの栄養状態を有効に維持・改善させ、更には酸化ストレスを十分に軽減できる輸液については、未だ開発されていないのが現状である。
また、ビタミンは輸液製剤に混合した場合に安定性を失うことがある。特にビタミンCは輸液製剤の容器材質によって急激に含量が低下することが知られており(非特許文献3−4参照)、ビタミンを安定に含有させることも極めて肝要である。
Hiroyuki Ozasa et al., Kurume Medical Journal , Vol. 53, p. 79-87, 2006 藤山二郎等、絶食患者におけるビタミン非添加末梢静脈栄養時の血中水溶性ビタミン濃度の変化、静脈経腸栄養、Vol. 22、No. 2、p. 73-79、2007年 Dupertuis YM, Ramseyer S, Fathi M, Pichard C., Assessment of ascorbic acid stability in different multilayered parenteral nutrition bags: critical influence of the bag wall material. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2005 Mar-Apr;29(2):125-30. Dupertuis YM, Morch A, Fathi M, Sierro C, Genton L, Kyle UG, Pichard C., Physical characteristics of total parenteral nutrition bags significantly affect the stability of vitamins C and B1: a controlled prospective study. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2002 Sep-Oct;26(5):310-6.
そこで、本発明は、常温下で安定保存可能であって、ビタミンB1やビタミンC等のビタミンの栄養状態が低下することが予想される又は低下している患者の栄養状態を維持・改善でき、更には抗酸化ストレス作用をも有効に発揮でき、安定な末梢静脈投与用輸液製剤を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、連通可能な仕切り手段で仕切られた容器に、糖を70〜150g/Lの濃度で含有する輸液(A)と、アミノ酸を50〜150g/Lの濃度で含有する輸液(B)が分別収容され、前記輸液(A)は、亜硫酸塩を含まず、ビタミンB1を含み、pHが3〜5であり、前記輸液(A)と輸液(B)のいずれか少なくとも一方にビタミンCを含み、更に前記輸液(A)と輸液(B)とを混合した混合液において、ビタミンCの濃度が200〜400mg/Lであり、且つビタミンCの1日当たりの投与量が400〜800mgとなるように設定して製剤化された末梢静脈投与用輸液製剤が、前記課題を解決できることを見出した。即ち、当該末梢静脈投与用輸液製剤によれば、常温下で保存してもビタミンを安定に維持可能であって、ビタミンCの要求量が増大している患者の体内のビタミンC濃度を正常値に回復させて栄養状態を改善でき、更に患者の体内で抗酸化ストレス作用も有効に発揮できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる末梢静脈投与用輸液製剤を提供する。
項1. 連通可能な仕切り手段で仕切られた容器に、糖を70〜150g/Lの濃度で含有する輸液(A)と、アミノ酸を50〜150g/Lの濃度で含有する輸液(B)が分別収容され、
前記輸液(A)は、亜硫酸塩を含まず、ビタミンB1を含み、pHが3〜5であり、
前記輸液(A)と輸液(B)のいずれか少なくとも一方にビタミンCを含み、
前記輸液(A)と輸液(B)とを混合した混合液において、ビタミンCの濃度が200〜400mg/Lになるように設定されており、且つ、ビタミンCの1日当たりの投与量が400〜800mgとなるように設定されている、ことを特徴とする末梢静脈投与用輸液製剤。
項2. 上記末梢静脈投与用輸液製剤は、24時間持続的に投与するものである、項1に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項3. 輸液(B)は500〜1200mg/Lの濃度範囲でビタミンCを含む項1又は2に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項4. 輸液(A)は250〜600mg/Lの濃度範囲でビタミンCを含む項1乃至3に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項5. 更に、輸液(A)又は輸液(B)にビタミンB6が含まれる、項1乃至4に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項6. 更に、輸液(B)にビタミンB2が含まれる、項5に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項7. 更に、輸液(A)にビタミンB6含まれ、輸液(B)にビタミンB2が含まれる、項1乃至4に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項8. 輸液(A)及び輸液(B)の双方若しくは一方に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンCの4種類のみからなる、項6又は7に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項9. 更に、輸液(A)にビタミンB2が含まれ、輸液(B)に葉酸が含まれる、項5に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項10. 輸液(A)及び輸液(B)の双方若しくは一方に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC及び葉酸の5種類のみからなる、項9に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項11. 高圧蒸気滅菌処理されている、項1乃至10のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項12. 該末梢静脈投与用輸液製剤のみで、侵襲期の栄養管理するために使用される、項1乃至11のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項13. 該末梢静脈投与用輸液製剤のみで、手術後1〜5日間栄養管理するために使用される、項12に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項14. 抗酸化ストレス剤である、項1乃至13のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
項15. 該末梢静脈投与用輸液製剤のみで、手術後1〜3日間投与される、項14に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
本発明の末梢静脈投与用輸液製剤によれば、ビタミンCの要求量が増大している患者の体内ビタミンC濃度を正常値に回復させて栄養状態を改善できる。また、本発明の末梢静脈投与用輸液製剤は、当該製剤のみでも適切な栄養管理を行えるので、消化器切除等の手術を受けて経口的に栄養補給が困難な患者の栄養管理に好適に使用される。更に、本発明の末梢静脈投与用輸液製剤は、体内の酸化ストレスを軽減する効果にも優れており、術後等の侵襲期にある患者の身体状態の回復促進に寄与できる。
更に、本発明の末梢静脈投与用輸液製剤は、保存安定性の点でも優れており、常温下でも含有成分を安定に保持させることができる。
試験例1において、ビタミンCの1日当たりの投与量を500mgに設定した輸液管理、及びビタミンCの1日当たりの投与量を100mgに設定した輸液管理を行った患者の血中ビタミンC濃度を測定した結果を示す。 試験例1において、ビタミンCの1日当たりの投与量を500mgに設定した輸液管理、及びビタミンCの1日当たりの投与量を100mgに設定した輸液管理を行った患者の尿中ビタミンC排泄量を測定した結果を示す。 試験例1において、ビタミンCの1日当たりの投与量を500mgに設定した輸液管理、及びビタミンCの1日当たりの投与量を100mgに設定した輸液管理を行った患者の尿中8−イソプロスタン排泄量を測定した結果を示す。
以下、本発明の末梢静脈投与用輸液製剤(以下、単に「輸液製剤」と表記することもある)について詳述する。
本発明の輸液製剤は、連通可能な仕切り手段で仕切られた容器に、糖を含有する輸液(A)と、アミノ酸を含有する輸液(B)が分別収容され、用時に輸液(A)と輸液(B)が混合されて、その混合液が末梢静脈に投与される製剤である。
輸液(A)
本発明で使用される輸液(A)は、糖及びビタミンB1を含有し、ビタミンB1の安定化を図るために亜硫酸塩を含有せず、pHが3〜5であることを基本組成とするものである。
輸液(A)に配合される糖としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、キシリトール、ソルビトール等の非還元糖等が挙げられる。これらの中でも、血糖値管理等の点から、好ましくは還元糖であり、更に好ましくはブドウ糖である。これらの糖は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
輸液(A)における糖の配合割合は、70〜150g/Lの範囲に設定される。また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液における糖の濃度は、50〜100g/L、好ましくは50〜75g/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
また、輸液(A)に配合されるビタミンB1としては、塩酸チアミン、硝酸チアミン、プロスルチアミン、オクトチアミン等を使用することができる。
輸液(A)におけるビタミンB1の配合割合は、チアミンとして2〜12mg/L、好ましくは2〜6mg/Lを充足する範囲が例示される。また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンB1の濃度は、チアミンとして1〜10mg/L、好ましくは1.5〜4mg/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
輸液(A)のpHについては、3〜5の範囲内であればよいが、好ましくは3.5〜4.5が例示される。このようなpH範囲内であれば、輸液(A)において、糖とビタミンB1の安定化を図ることができる。輸液(A)のpH調整には、塩酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のpH調整剤を使用して実施される。
また、輸液(A)にカルボン酸を配合する場合は、5mEq/L以下にすることが好ましい。
また、輸液(A)は、ビタミンB1の安定性を一層向上させるという観点から、滴定酸度が1以下とすることが望ましい。
輸液(A)の溶媒としては、通常、注射用蒸留水を使用することができる。
本発明の輸液製剤において、輸液(A)の液量については、該輸液製剤の総液量や輸液(B)の液量等に応じて適宜設定されるが、通常300〜800mL、好ましくは350〜700mLが例示される。
輸液(B)
本発明で使用される輸液(B)は、アミノ酸を含有することを基本組成とするものである。
輸液(B)に配合されるアミノ酸としては、生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に使用されているものであればよい。本発明において、アミノ酸は、通常、遊離アミノ酸の状態で用いられるが、薬学的に許容される塩、エステル体、N−アシル誘導体、ジペプチドの形態であってもよい。輸液(B)に配合される遊離アミノ酸の具体例としては、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−リジン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−システイン、L−チロシン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−アラニン、L−プロリン、L−セリン、グリシン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸等が例示される。また、アミノ酸の塩としては、具体的には、L−アルギニン塩酸塩、L−システイン塩酸塩、L−グルタミン酸塩酸塩、L−ヒスチジン塩酸塩、L−リジン塩酸塩などの無機酸塩;L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩等の有機酸塩等が例示される。アミノ酸のエステル体としては、具体的には、L−チロシンメチルエスエル、L−メチオノンメチルエスエル、L−メチオニンエチルエステル等が例示される。アミノ酸のN−アシル体としては、具体的には、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−プロリン等が例示される。アミノ酸のジペプチドとしては、具体的には、L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニン等が例示される。特に、L−システインについては、N−アセチル−L−システインとして配合されるのが安定性の点で好適である。これらのアミノ酸は、1種単独で使用してもよいが、栄養補給の観点からは、2種以上を組み合わせて使用することが望ましい。好ましくは、少なくとも全ての必須アミノ酸(即ち、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−リジン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−ヒスチジンの9種のアミノ酸)を含むものが例示される。
輸液(B)におけるアミノ酸の配合割合は、遊離アミノ酸の総量として、50〜150g/Lの範囲に設定される。輸液(B)におけるアミノ酸の配合割合の好適な例として、遊離アミノ酸の総量として、50〜150g/L、更に好ましくは65〜120g/Lが例示される。また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるアミノ酸の濃度は、遊離アミノ酸の総量として10〜50g/L、好ましくは20〜30g/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
また、輸液(B)に配合されるアミノ酸の組合せ及び配合割合の好適な一例は、以下の通りである。即ち、遊離アミノ酸換算で、L−ロイシン:10〜20g/L、L−イソロイシン:5〜15g/L、L−バリン:5〜15g/L、L−リジン:5〜15g/L、L−トレオニン:2〜10g/L、L−トリプトファン:0.5〜5g/L、L−メチオニン:1〜8g/L、L−フェニルアラニン:3〜15g/L、L−システイン:0.1〜3g/L、L−チロシン:0.1〜2g/L、L−アルギニン:5〜15g/L、L−ヒスチジン:2〜10g/L、L−アラニン:5〜15g/L、L−プロリン:2〜10g/L、L−セリン:1〜7g/L、グリシン:2〜10g/L、L−アスパラギン酸:0.2〜3g/L、及びL−グルタミン酸:0.2〜3g/L。
また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるアミノ酸の濃度の好適な一例は、以下の通りである。即ち、遊離アミノ酸換算で、L−ロイシン:3〜6g/L、L−イソロイシン:1.5〜4.5g/L、L−バリン:1.5〜4.5g/L、L−リジン:1.5〜4.5g/L、L−トレオニン:0.6〜3g/L、L−トリプトファン:0.15〜1.5g/L、L−メチオニン:0.3〜2.4g/L、L−フェニルアラニン:0.85〜4.5g/L、L−システイン:0.03〜0.9g/L、L−チロシン:0.3〜0.6g/L、L−アルギニン:1.5〜4.5g/L、L−ヒスチジン:0.6〜3g/L、L−アラニン:1.5〜4.5g/L、L−プロリン:0.6〜3g/L、L−セリン:0.3〜2.1g/L、グリシン:0.6〜3g/L、L−アスパラギン酸:0.06〜0.9g/L、及びL−グルタミン酸:0.06〜0.9g/L。
輸液(B)は、必要に応じて、pH調整剤を少量添加して、pHを6〜8、好ましくは6.5〜7.4に調整される。輸液(B)が上記pH範囲を満たすことにより、L−システイン、L−グルタミン酸等の化学変化を起こしやすいアミノ酸の安定化を図り、更には輸液(A)との混合後の混合液のpHを後述する至適範囲を維持させることが可能になる。
輸液(B)の溶媒についても、通常、注射用蒸留水を使用することができる。
本発明の輸液製剤において、輸液(B)の液量については、該輸液製剤の総液量や輸液(A)の液量等に応じて適宜設定されるが、通常100〜500mL、好ましくは150〜300mLが例示される。
ビタミンC
ビタミンCは、輸液(A)及び輸液(B)のいずれか一方、又は双方に配合される。ビタミンCとしては、アスコルビン酸、又はその薬学的に許容される塩を使用することができる。アスコルビン酸の塩としては、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が例示される。
輸液(B)に配合する場合、ビタミンCの配合割合は、アスコルビン酸の濃度として500〜1200mg/L、好ましくは700〜900mg/Lを充足する範囲が例示される。輸液(A)に配合する場合、ビタミンCの配合割合は、アスコルビン酸の濃度として250〜500mg/L、好ましくは300〜400mg/Lを充足する範囲が例示される。
また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンCの濃度は、アスコルビン酸の濃度として200〜400mg/L、好ましくは200〜300mg/Lの範囲を満たすように設定することが重要である。輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンCの濃度が上記範囲の濃度を充足し、且つ後述する用量を満たすことにより、ビタミンCの要求量が増大した患者の体内ビタミンC濃度を正常値まで改善し、体内の酸化ストレスを軽減することが可能になる。
その他の添加剤
本発明の輸液製剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、ビタミンB1及びビタミンC以外のビタミン、電解質、微量元素、安定化剤等の、輸液に配合可能な添加剤が含まれていてもよい。
<ビタミン>
本発明の輸液製剤に配合されるビタミン(ビタミンC以外)としては、具体的には、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ニコチン酸、ビオチン等が挙げられる。これらのビタミンの中でも、好ましくは、ビタミンB2、ビタミンB6、及び葉酸、更に好ましくはビタミンB2及びビタミンB6が例示される。
ビタミンB2としては、リボフラビン、そのナトリウム塩、フラビンモノヌクレオチド等を使用することができる。ビタミンB2を配合する場合、輸液(A)及び輸液(B)のいずれか一方又は双方に配合できるが、光による安定性を考慮して輸液(B)に配合するのが望ましい。但し、輸液(B)に葉酸を配合する場合には、葉酸とビタミンB2との反応による葉酸の不安定化を回避するために、ビタミンB2は輸液(A)に配合することが望ましい。ビタミンB2を輸液(A)に配合する場合、輸液(A)におけるビタミンB2の配合割合としては、通常リボフラビンとして1〜20mg/L、好ましくは2〜3mg/Lが例示される。また、ビタミンB2を輸液(B)に配合する場合、輸液(B)におけるビタミンB2の配合割合としては、通常リボフラビンとして2.5〜15mg/L、好ましくは4〜8mg/Lが例示される。更に、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンB2の濃度は、通常リボフラビンとして0.5〜10mg/L、好ましくは0.5〜3mg/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
ビタミンB6としては、ピリドキシン、塩酸ピリドキシン等のピリドキシンの塩等を使用することができる。ビタミンB6を配合する場合、輸液(A)及び輸液(B)のいずれか一方又は双方に配合できるが、ビタミンB2と共存することにより光に対して非常に不安定になるためビタミンB2とは異なる方に配合することが好ましい。ビタミンB6を輸液(A)に配合する場合、輸液(A)におけるビタミンB6の配合割合としては、通常ピリドキシンとして2〜10mg/L、好ましくは2.5〜5mg/Lが例示される。ビタミンB6を輸液(B)に配合する場合、輸液(B)におけるビタミンB6の配合割合としては、通常ピリドキシンとして4〜20mg/L、好ましくは4〜8mg/Lが例示される。また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンB6の濃度は、通常ピリドキシンとして1〜10mg/L、好ましくは2〜3mg/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
葉酸を配合する場合、輸液(A)及び輸液(B)のいずれか一方又は双方に配合できるが、安定性維持の観点から、輸液(B)に配合することが好ましい。葉酸を輸液(B)に配合する場合、輸液(B)における葉酸の配合割合としては、通常0.3〜1.5mg/L、好ましくは0.6〜1.2mg/Lが例示される。葉酸を輸液(A)に配合する場合、輸液(A)における葉酸の配合割合としては、通常0.1〜0.8mg/L、好ましくは0.2〜0.5mg/Lが例示される。また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合液における葉酸の濃度は、通常0.1〜0.7mg/L、好ましくは0.2〜0.3mg/Lの範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
本発明の輸液製剤に配合されるビタミンの好適な組合せ態様として、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、及びビタミンCの4種のみからなるもの、或いは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、及び葉酸の5種のみからなるものが例示される。
なお、本発明の輸液製剤において、配合されるビタミンの安定性を向上させるという観点から、以下の(i)〜(iv)に示すビタミンの組合せ態様が好適に例示される:
(i) 輸液(A)に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2及びビタミンB6のみからなり、且つ輸液(B)に含まれるビタミンが、ビタミンC及び葉酸のみからなる組合せ。
(ii) 輸液(A)に含まれるビタミンが、ビタミンB1及びビタミンB6のみからなり、且つ輸液(B)に含まれるビタミンが、ビタミンC及びビタミンB2のみからなる組合せ。
(iii) 輸液(A)に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンCのみからなり、且つ輸液(B)に含まれるビタミンが葉酸のみからなる組合せ。
(iv) 輸液(A)に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB6及びビタミンCのみからなり、且つ輸液(B)に含まれるビタミンが、ビタミンB2のみからなる組合せ。
<電解質>
本発明の輸液製剤に配合される電解質としては、カリウム、カルシウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、リン、亜鉛等が例示される。なお、輸液(A)に配合される電解質は、前述する滴定酸度の条件を充足するために、配合される電解質が全て強電解質であることが好ましい。また、電解質の供給源として、緩衝作用がある化合物を使用する場合には、輸液(B)に配合することが好ましい。
カリウムは、高濃度カリウムの投与による危険性を回避するために輸液(A)及び輸液(B)の双方に配合することが好ましい。輸液(A)に配合するカリウム供給源は、滴定酸度を1以下にするために、強電解質である塩化カリウム、硫酸カリウム等が好ましく、特に塩化カリウムは更に好ましい。一方、輸液(B)に配合するカリウム供給源としては、一般の電解質輸液等に用いられる化合物と同様のものを使用でき、例えば塩化カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、グリセロリン酸カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウム等が例示される。これらの中でも、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、グリセロリン酸カリウム等のリン酸塩は、リン供給源にもなるので好適である。これらのカリウム供給源は水和物形態であってもよい。カリウムの配合割合は、輸液(A)及び輸液(B)ともに40mEq/L以下にすることが望ましい。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液におけるカリウムの濃度は、5〜20mEq/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
カルシウムは、輸液(A)のみに配合することが好ましい。これは、カルシウムを輸液(B)に配合すると、輸液(B)にリン酸塩が含まれる場合に当該リン酸塩とカルシウムが反応して沈殿が発生するため、このような沈殿の発生を防止するためである。カルシウムの供給源としては、強電解質である塩化カルシウムを用いることが好ましい。また、カルシウム供給源は水和物形態であってもよい。カルシウムを輸液(A)に配合する場合、カルシウムの配合割合は、輸液(A)において2〜8mEq/Lが例示される。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液におけるカルシウムの濃度は、1〜5mEq/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
ナトリウムは、輸液(A)及び輸液(B)の一方又は双方に配合することができる。ナトリウムを輸液(A)に配合する場合には、強電解質である塩化ナトリウムを使用することが好ましい。また、ナトリウム供給源として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、乳酸ナトリウム等の緩衝性のあるナトリウム塩を用いる場合には、輸液(A)が前述する滴定酸度を満たすためにも、輸液(B)に配合することが好ましい。また、本発明の輸液製剤に、リンと、カルシウム及び/又はマグネシウムを配合する場合、これらが沈殿を生じるのを防止するために、ナトリウム供給源の一部としてクエン酸ナトリウムを用いることが望ましい。また、ナトリウム供給源は水和物形態であってもよい。ナトリウムは輸液(A)、輸液(B)に任意の割合で配合することができる。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液におけるナトリウムの濃度は、20〜50mEq/L、好ましくは(35〜50)mEq/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
マグネシウムは、輸液(A)及び輸液(B)の一方又は双方に配合することができる。マグネシウム供給源としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム等が例示される。マグネシウムを輸液(A)に配合する場合、輸液(A)が前述する滴定酸度を満たすために、硫酸マグネシウム及び塩化マグネシウムを使用することが望ましい。また、マグネシウム供給源は水和物形態であってもよい。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液におけるマグネシウムの濃度は、0.5〜10mEq/L、好ましくは1〜5mEq/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
リンは、輸液(B)に配合することが好ましい。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、グリセロリン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム等が例示される。また、リン供給源は水和物形態であってもよい。リンを輸液(B)に配合する場合、リンの配合割合は、輸液(B)において3〜67mmol/L、好ましくは10〜35mmol/Lが例示される。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液におけるリンの濃度は、1〜20mmol/L、好ましくは5〜10mEq/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
亜鉛は、輸液(A)に配合することが好ましい。亜鉛供給源としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等が例示される。また、亜鉛供給源は水和物形態であってもよい。亜鉛を輸液(A)に配合する場合、亜鉛の配合割合は、輸液(A)において2.5〜15μmol/Lが例示される。また、発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の混合溶液における亜鉛の濃度は、2〜10μmol/Lとなる範囲を満たすように設定されていることが望ましい。
<微量元素>
本発明の輸液製剤に配合される微量元素としては、具体的には、亜鉛、銅、鉄、マンガン、ヨウ素等が例示される。これらの微量元素の内、亜鉛については、前述する電解質をして供することができる。また、他の微量元素としては、一般的な輸液製剤において微量元素の供給源として配合されているものを使用することができる。具体的には、銅供給源としては、硫酸銅等;鉄供給源としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等;マンガン供給源としては、塩化マンガン、硫酸マンガン等;ヨウ素供給源としては、ヨウ化カリウム等が挙げられる。
これらの微量元素は、輸液(A)及び輸液(B)の一方又は双方に配合することができるが、ヨウ素は銅とは分別して配合されていることが望ましい。これらの微量元素の配合割合については、一般的な輸液製剤において採用されている範囲に適宜設定される。
<安定化剤>
本発明の輸液製剤に配合される安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩が例示される。亜硫酸塩は、輸液(A)に含まれるビタミンB1の分解を回避するために、輸液(B)に配合される。輸液(B)における亜硫酸塩の配合量としては、例えば20〜100mg/Lの範囲が例示される。
輸液(A)と輸液(B)の混合液
本発明の輸液製剤は、用時に、輸液(A)と輸液(B)を混合して使用される。輸液(A)と輸液(B)の混合液は、血管痛の発生を抑制して安全性を高めるために、pHが6〜7.5、好ましくは6.5〜7.0、滴定酸度が1〜10であることが望ましい。
また、本発明の輸液製剤において、輸液(A)と輸液(B)の体積比については、前述する輸液(A)と輸液(B)の液量等に応じて適宜設定されるが、例えば、輸液(A):輸液(B)が1〜4:1、好ましくは2〜3:1となる体積比が挙げられる。
輸液製剤の使用態様
本発明の輸液製剤は、経口摂取不十分で軽度の低蛋白血症又は軽度の低栄養状態にある場合や侵襲期の場合、手術前後の患者の栄養管理の目的で使用され、とりわけ手術後や消化器疾患等によるに経口的に栄養補給が困難な患者(好ましくは、消化器切除の手術を受けた患者)の栄養管理の目的で好適に使用される。本発明の輸液製剤を、手術後1〜5日間、好ましくは手術後1〜3日間、患者に投与することにより、患者の栄養状態を健全に保持させることができる。特に、本発明の輸液製剤は、上記投与期間、当該輸液製剤のみで、患者の栄養状態を健全に保持させることができるという利点がある。
本発明の輸液製剤の投与量は、ビタミンCの投与量に換算して、400〜800mg/日、好ましくは400〜650mg/日、更に好ましくは500mg/日に設定される。即ち、本発明の輸液製剤は、輸液(A)と輸液(B)の混合液が1日当たり1000〜2500mL、好ましくは1500〜2000mL、更に好ましくは2000mLの投与量で患者に投与される。これは、500mLの輸液製剤(袋)であれば4袋/日、1000mLの輸液製剤であれば2袋/日に相当する。このように、本発明の輸液製剤は、輸液(A)と輸液(B)の混合液におけるビタミンCが前述する所定濃度を充足し、且つ上記投与量に設定されることによって、ビタミンCの要求量が増大している患者であっても、体内のビタミンC濃度を正常値にまで回復させることができる。更に、本発明の輸液製剤は、体内で抗酸化ストレス作用をも有効に発揮させることが可能になる。従って、本発明の輸液製剤は、抗酸化ストレス剤として使用することもできる。このように、本発明の輸液製剤を抗酸化ストレス剤として使用する場合、具体的には、手術後1〜3日間、当該輸液製剤のみで患者の栄養状態を管理する方法が例示される。
また、本発明の輸液製剤は、血中ビタミンC濃度及び尿中排泄量を正常化するという観点、或いは抗酸化ストレス作用を効率的に発現させるという観点から、24時間持続的に投与されることが望ましい。
輸液容器
輸液(A)と輸液(B)を収容する容器としては、連通可能な2室を有するものであれば特に限定されないが、例えば易剥離シールにより隔壁が形成されたもの(特開平2−4671号公報、実開平5−5138号公報等)、室間をクリップで挟むことにより隔壁が形成されたもの(特開昭63−309263号公報等)、隔壁に開封可能な種々の連通手段を設けたもの(特公昭63−20550号公報等)等のように連通可能な隔壁で隔てられた2室容器(輸液バッグ)が挙げられる。これらの内、隔壁が易剥離シールにより形成された輸液バッグが、大量生産に適しており、また連通作業も容易であるので好ましい。また、上記容器の材質としては、医療用容器等に慣用されている各種のガス透過性プラスチック、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、架橋エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、これら各ポリマーのブレンドや積層体等の柔軟性プラスチックが挙げられる。
上記容器への輸液(A)及び輸液(B)の充填、収容は、常法に従って行うことができ、例えば、各輸液を各室に不活性ガス雰囲気下で充填後、施栓し、加熱滅菌する方法が挙げられる。ここで、加熱滅菌は、高圧蒸気滅菌、熱水シャワー滅菌等の公知の方法を採用することができ、必要に応じて二酸化炭素、窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
更に、上記容器に収容された輸液(A)及び輸液(B)は、変質、酸化等を確実に防止するために、該容器を脱酸素剤と共に酸素バリア性外装袋で包装するのが好ましい。とりわけ、容器として隔壁が易剥離シールにより形成された輸液バッグを採用する場合には、当該輸液バッグは、外圧により隔壁が連通しないように易剥離シール部分で折り畳まれた状態、例えば易剥離シール部分で二つ折りにされた状態で包装されているのが好ましい。また、必要に応じて不活性ガス充填包装等を行うこともできる。
上記包装に適した酸素バリア性外装袋の材質としては、一般に汎用されている各種材質のフィルム、シート等を使用できる。その具体例としては、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等、またはこれらの少なくとも1種を含む材質からなるフィルム、シート等が挙げられる。
また、脱酸素剤としては、公知の各種のもの、例えば水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄等の鉄化合物を有効成分とするものや、低分子フェノールと活性炭を用いたものを使用することができる。その代表的な市販品の商品名としては、「エージレス」(三菱ガス化学社製)、「モジュラン」(日本化薬社製)、「セキュール」(日本曹達社製)、「タモツ」(王子化工社製)、「キーピット」(ドレンシー社製)等が挙げられる。
以下、試験例、実施例等を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試験例1 ビタミンCの体内補給状態及び抗酸化ストレス作用の評価試験
胃切除又は大腸切除を行った手術後であって本試験に関する同意が得られた患者16名に対して、1日あたりの投与量として100mg若しくは500mgのビタミンCを併用した末梢静脈栄養療法(使用輸液としては、ビーフリード(株式会社塚製薬工場)等)を実施した際に、血中ビタミンC濃度、尿中ビタミンC排泄量(24時間)、及び尿中酸化ストレスマーカー(8−イソプロスタン)排泄量(24時間)の測定を行った。
本試験の詳細条件は、以下の通りである。
群構成:1日あたりのビタミンCの投与量を500mgと100mgに無作為に割り付けた。無作為割付けの結果、実施群[500mg群]:7例と比較群[100mg群]:9例となった。
投与方法:24時間持続的な末梢静脈栄養療法を実施する際に、ビタミンCを併用投与した。具体的には、実施群では、使用輸液にビタミンCを250mg/mLの濃度となるように混合した輸液の総量2000mLを24時間かけて持続的に投与した。即ち、実施群では、ビタミンCの投与速度は、約20mg/時間になる。一方、比較群では、使用輸液にビタミンCを50mg/mLの濃度となるように混合した輸液の総量2000mLを24時間かけて持続的に投与した。即ち、比較群では、ビタミンCの投与速度は、約4mg/時間になる。
投与期間:手術後2日目から5日間。
血中ビタミンC濃度の測定:手術前、手術後[手術後1日目(ビタミンCの投与開始前)]、投与開始3日目(3日間投与終了時点)に採血を行い、血中ビタミンC濃度を測定した。
尿中ビタミンC濃度の測定:投与開始3日目の24時間について氷冷・遮光下で蓄尿し、尿中ビタミンC濃度(mg/mL)の測定を行った。これに24時間蓄尿量(mL/日)を乗じて尿中排泄量(mg/日)を算出した。
尿中酸化ストレスマーカーの測定:投与開始3日目の24時間について氷冷・遮光下で蓄尿し、尿中8−イソプロスタン濃度の測定を行った。これに24時間蓄尿量(mL/日)を乗じて尿中排泄量(mg/日)を算出した。
結果を図1(血中ビタミンC濃度)、図2(尿中ビタミンC排泄量)及び図3(尿中8−イソプロスタン排泄量)に示す。血中ビタミンC濃度および尿中ビタミンC排泄量については、実施群では、正常値の範囲を示しており、健全な栄養状態に回復していたが、比較群では、正常値に到らず、ビタミンCの体内への補給が不十分であることが明らかとなった。また、酸化ストレスマーカーである尿中8−イソプロスタン排泄量については、比較群では実施群に比して、有意に高い値であった。このことから、患者の酸化ストレス状態を軽減するには1日あたりのビタミンC投与量として100mgでは不十分であり、500mgを投与することは効果的であることが示された。
即ち、本試験結果から、ビタミンCの投与量が500mg/日である場合には、血中ビタミンC濃度及び尿中排泄量を正常値するとともに、更には酸化ストレス状態も十分に軽減すること明らかとなった。
非特許文献1では、ビタミンCを比較的高濃度である1mg/mLで含む輸液(500mL)を投与し、その後はビタミンCを含まない輸液(1500mL程度)を投与する方法で実施されている。この結果からは、ビタミンCの投与量を単に500mg/日に設定しても、生体内におけるビタミンCを必ずしも正常値にまで回復させることができないことが示されている。つまり、ビタミンCの投与量が1日当たり500mgに設定されているのみならず、24時間持続的に投与することが血中ビタミンC濃度及び尿中排泄量を正常化、並びに抗酸化ストレス作用発現に対して効率的に寄与することが明らかとなった。
以上の結果から、本発明の如く、輸液(A)と輸液(B)の混合液のビタミンC濃度を200〜400mg/Lに設定し、且つビタミンCの1日当たりの投与量を400〜800mgとすることで、有効な量のビタミンCを効率的に投与することが可能となり、体内でのビタミンCの量を正常値に保つことが可能で、更には体内で抗酸化ストレス作用を享受できることが裏付けられた。
実施例1 輸液製剤の調製
1.輸液(A)の調製
注射用蒸留水に、ブドウ糖及び電解質(塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛)を溶解し、糖電解質液を調製した。更に、ビタミンB1(塩酸チアミン)及びビタミンB6(塩酸ピリドキシン)を注射用蒸留水に溶解し、これを上記糖電解質液と混合し、塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを4.0に調整した後に、無菌濾過して、表1に示す組成の輸液(A)を調製した。得られた溶液(A)の滴定酸度は0.1であった。
2.輸液(B)の調製
各結晶アミノ酸、電解質(リン酸二カリウム、リン酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム)及び安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム)を注射用蒸留水に溶解し、アミノ電解質酸液を調整した。更に、アミノ酸電解質液に、ビタミンC(アスコルビン酸)及びビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を加えて、氷酢酸でpHを6.8に調整した後に、無菌濾過して、表2に示す組成の輸液(B)を調製した。
3.充填・包装
上記で得られた輸液(A)350mL及び輸液(B)150mLを、各室が易剥離シールで仕切られたポリエチレン製2室容器の各室にそれぞれ充填し、輸液(B)については窒素置換を行い、密封した後、常法に従い高圧蒸気滅菌を行った。その後、容器を易剥離シール部で折り畳み、脱酸素剤(商品名「エージレス」;三菱ガス化学社製)と共に、多層バリアフィルム(商品名「ボブロン」;NSR社製)の外装袋(酸素バリア性外装袋)に封入し、輸液製剤を得た。なお、この輸液製剤の輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液(組成を表2に示す)は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
Figure 0005552763
Figure 0005552763
実施例2 輸液製剤の調製
輸液(A)にビタミンB12を3.57mg/mL配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。輸液(A)の滴定酸度は0.1であり、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例3 輸液製剤の調製
輸液(A)にビタミンB12を3.57mg/mL、輸液(B)に葉酸を666.67mg/mL配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。輸液(A)の滴定酸度は0.1であり、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例4 輸液製剤の調製
輸液(B)にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を配合せず、輸液(A)にビタミンB6(塩酸ピリドキシン)を配合せず、且つビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を1.408mg/L(リボフラビンとして1.102g/mL)配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。輸液(A)の滴定酸度は0.1であり、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例5 輸液製剤の調製
輸液(B)にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を配合せず、輸液(A)にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)を1.408mg/L(リボフラビンとして1.102mg/L)配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。輸液(A)の滴定酸度は0.1であり、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例6 輸液製剤の調製
輸液(B)にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)及びビタミンC(アスコルビン酸)を配合せず、輸液(A)にビタミンCを357.1mg/L配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。なお、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。輸液(A)の滴定酸度は0.4であり、pHが4.0であった。
実施例7 輸液製剤の調製
ビタミンC(アスコルビン酸)の量を、666.7mg/L配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。なお、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例8 輸液製剤の調製
ビタミンC(アスコルビン酸)の量を、1333.3mg/L配合した点以外は、実施例1と同様にして輸液製剤を得た。なお、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例9 輸液製剤の調製
ビタミンC(アスコルビン酸)の量を、285.7mg/L配合した点以外は、実施例6と同様にして輸液製剤を得た。なお、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
実施例10 輸液製剤の調製
ビタミンC(アスコルビン酸)の量を、571.4mg/L配合した点以外は、実施例6と同様にして輸液製剤を得た。なお、輸液(A)と輸液(B)を混合した後の混合液は、pHが6.7、滴定酸度が7であった。
試験例2 輸液製剤の安定性評価−1
上記実施例2及び3の各輸液製剤を108℃、20分間の蒸気滅菌した後、60℃で4週間又は40℃で3ヶ月間、暗所で保存し、経時的に輸液製剤中の輸液(A)及び輸液(B)に含まれる各ビタミンの濃度を測定し、残存率を算出した。なお、残存率は、調製時に配合した各ビタミン濃度を100%として、各配合成分の残存濃度の割合(%)を算出することのより求めた。
得られた結果を表3に示す。この結果から、実施例2及び3のいずれでも、輸液(A)中のビタミンB1及びビタミンB1、並びに輸液(B)中のビタミンB2及びビタミンCは、高い安定性を備えていることがわかった。一方、実施例3の輸液(B)中の葉酸は、経時的に分解される傾向が認められた。このような葉酸の不安定化は、輸液(B)に含まれるビタミンB2との反応に起因していると考えられるため、葉酸とビタミンB2を配合する場合には、安定性向上の観点から両者を分別して輸液に配合すべきであることが明らかとなった。
Figure 0005552763
試験例3 輸液製剤の安定性評価−2
上記実施例1及び5の各輸液製剤を108℃、20分間の蒸気滅菌した後、23℃、800lxで3時間静置した。滅菌直後、1.5時間後、及び3時間後に、各輸液製剤中のビタミンB6の濃度を測定し、残存率を算出した。残存率は、調製時に配合したビタミンB6を100%として、各配合成分の残存濃度の割合(%)を算出することのより求めた。
得られた結果を表4に示す。この結果から、実施例5ではビタミンB6の安定性が損なわれていることから、ビタミンB2とビタミンB6を共存させると、ビタミンB6の光に対する安定性が悪くなる傾向が認められた。
以上の結果から、ビタミンB2を配合する場合にはビタミンB2を輸液(B)に添加することが望ましく、特にビタミンB2とビタミンB6を配合する場合にはビタミンB6を輸液(A)に添加し、ビタミンB2を輸液(B)に添加することが望ましいこと分かった。
Figure 0005552763
試験例4 輸液製剤の安定性評価−3
上記実施例1及び6の各輸液製剤を108℃、20分間の蒸気滅菌した後、40℃又は60℃、800lxの条件下で静置した。保存期間中、経時的に各輸液製剤中の各種ビタミンの濃度を測定し、残存率を算出した。残存率は、調製時に配合した各ビタミン濃度を100%として、各配合成分の残存濃度の割合(%)を算出することのより求めた。
得られた結果を表5に示す。この結果から、ビタミンCは、輸液(A)及び輸液(B)のいずれに配合しても、安定であることが明らかとなった。
Figure 0005552763

Claims (12)

  1. 連通可能な仕切り手段で仕切られた容器に、糖を70〜150g/Lの濃度で含有する輸液(A)と、アミノ酸を50〜150g/Lの濃度で含有する輸液(B)が分別収容され、
    前記輸液(A)は、亜硫酸塩を含まず、ビタミンB1を含み、pHが3〜5であり、
    前記輸液(A)と輸液(B)のいずれか少なくとも一方にビタミンCを含み、
    前記輸液(A)と輸液(B)とを混合した混合液において、ビタミンCの濃度が200〜400mg/Lになるように設定されており、且つ、ビタミンCの1日当たりの投与量が400〜800mgとなるように設定されている、ことを特徴とする末梢静脈投与用輸液製剤。
  2. 上記末梢静脈投与用輸液製剤は、24時間持続的に投与するものである、請求項1に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  3. 輸液(B)は500〜1200mg/Lの濃度範囲でビタミンCを含む請求項1又は2に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  4. 輸液(A)は250〜600mg/Lの濃度範囲でビタミンCを含む請求項1乃至3に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  5. 更に、輸液(A)又は輸液(B)にビタミンB6が含まれる、請求項1乃至4に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  6. 更に、輸液(B)にビタミンB2が含まれる、請求項5に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  7. 更に、輸液(A)にビタミンB6含まれ、輸液(B)にビタミンB2が含まれる、請求項1乃至4に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  8. 輸液(A)及び輸液(B)の双方若しくは一方に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンCの4種類のみからなる、請求項6又は7に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  9. 更に、輸液(A)にビタミンB2が含まれ、輸液(B)に葉酸が含まれる、請求項5に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  10. 輸液(A)及び輸液(B)の双方若しくは一方に含まれるビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC及び葉酸の5種類のみからなる、請求項9に記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  11. 高圧蒸気滅菌処理されている、請求項1乃至10のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
  12. 該末梢静脈投与用輸液製剤のみで、侵襲期の栄養管理するために使用される、請求項1乃至11のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液製剤。
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