JP5546779B2 - 搬送用シャフト - Google Patents

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Description

本発明は、液晶パネル等の搬送をする際に使用される搬送用シャフトに係り、特に、強化繊維として炭素繊維を用い、軽量で耐撓み性に優れた、中空引抜成形品からなる搬送用シャフトに関する。
従来の搬送用シャフトは、剛性の高い金属を用いることが一般的であったが、被搬送物が大型化し、搬送装置自体も大型化する傾向にあるため、搬送用シャフトの撓みが問題となってきている。荷重時の撓みの抑制には搬送用シャフトの肉厚を上げることで対応できるが、肉厚を上げると搬送用シャフトの自重の増加による撓みが問題となる。
そこで搬送用シャフトを軽量化する目的で炭素繊維基材とエポキシ樹脂により成形した中空引抜成形製品が多く使用されるようになってきており、このような中空引抜成形品からなる搬送用シャフトは、プリント基板、液晶、シャドーマスク等の電子部品の搬送装置で用いる搬送用シャフト等に幅広く使用されている。
ところで、これまで、炭素繊維基材やガラス繊維基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸硬化して得られる中空引抜成形品は、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法により製造されていたが、ハンドレイアップ法は、手作業であるため、また、フィラメントワインディング法は工程が複雑なため、いずれの方法も生産性が劣り成形コストが高く、品質面でも、反り、ねじれ等も生じ易いという問題があった。
そこで、金型が、成形品の外形を形成する外型と、冷却媒体が通過可能な中空部分を有する中子治具とからなり、該中子治具を外型温度よりも低温にして成形を行うことにより均等な肉厚製品を得、高真円度を有し、反り、ねじれに優れたシャフト製品を得る簡便な製造方法を本出願人は提案した(例えば、特許文献1参照。)。
また、ロボットハンドの荷重撓みを抑制する方法として、ロボットハンドのアーム部や基板カセットの片持ち梁状に設けられるサポートバーなどの支持部材において、ベースパイプの断面の上下方向のみに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の補強層を形成する方法(例えば、特許文献2参照。)や、引張り弾性率490〜950GPaの高弾性炭素繊維を体積比率で30%以上使用したロボットハンド部材(例えば、特許文献3参照。)も提案されている。
特開2008−200933号公報 特開2007−196615号公報 国際公開第2005/102618号パンフレット
液晶パネル等の製造装置は、パネルサイズの大型化への対応や搬送速度の高速化の対応が進められており、このため搬送用シャフトは、上記のように反り、ねじれに加えて搬送時の撓み量の低減が大きな課題となっていた。シャフトの撓み量が大きいと、基板をまっすぐ搬送することが出来なかったり、ガラス基板等は割れたりするおそれがある。
上記の特許文献1に記載された搬送用シャフトは、自重による撓みに関しては問題ないが、荷重時の耐撓み性が充分ではない可能性があり、荷重時にも撓みが極めて小さく、安定して搬送することができる搬送用シャフトが求められている。
また、特許文献2及び3のロボットハンドでは片持ち梁の撓み性に対してのみ考慮されており、基板を連続的に搬送するための搬送用シャフトに要求される真円度や反り、ねじれ等の形状安定性を含めて考慮されたものではなかった。
そこで、本発明は、従来の搬送用シャフトでは解決できなかった、自重による撓み、荷重による撓みの両方共に優れた耐性を有し、軽量で形状安定性にも優れた搬送用シャフト製品を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、搬送用シャフトの外周側に高引張り弾性率であるピッチ系炭素繊維を配し、内周側に引張り強度に優れたPAN系炭素繊維を配して、熱硬化性樹脂組成物を含浸させながら、引き抜き成形により一方向炭素繊維強化プラスチックを成形することで、自重による耐撓み性にも荷重時の耐撓み性にも優れた、軽量の搬送用シャフトを製造することができることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明の搬送用シャフトは、複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させて得られる中空引抜成形品からなる搬送用シャフトであって、繊維糸として、中空引抜成型品の外周側に、主として引張り弾性率が400GPa以上のピッチ系炭素繊維を配し、中空引抜成型品の内周側に、主として引張り強度が3〜6GPaのPAN系炭素繊維を配したことを特徴とするものである。なお、ここで外周側とは、外周面から全体の厚さの50%までの領域をいい、内周側とはその内側をいう。
また、ここで使用するピッチ系炭素繊維は、その引張り弾性率が400〜1000GPaであり、全繊維のうち、その使用比率が中空引抜成型品に使用される全繊維使用量の10体積%以上50体積%以下であることが好ましい。
本発明の搬送用シャフトによれば、軽量で、自重によっても、荷重時においても撓み量が小さく、搬送用シャフトの反りやねじれも小さいため、電子部品等の搬送を安定して行うことができる。
また、このような搬送用シャフトを用いると、搬送装置が大型化した場合でも中間軸受けの設置等の必要がなく、部品点数を低減することができることから、装置本体の低コスト化、清浄化に寄与することもできる。
本発明の一実施形態である搬送用シャフトの断面図である。 図1の断面図における外周側及び内周側の領域を説明する図である。 本発明の一実施形態である搬送用シャフトの製造方法を説明する概略構成図である。 本発明の搬送用シャフトの製造に用いるガイド治具の一形態を示した正面図である。 本発明の搬送用シャフトの製造に用いるガイド治具の他の形態を示した正面図である。
以下、本発明の搬送用シャフトについて詳細に説明する。
本発明の搬送用シャフトは、従来の中空引抜成型品と同様に、繊維基材を熱硬化性樹脂組成物に含浸し、これを金型に通過させながら硬化させ引抜成型品とするものであるが、繊維基材として炭素繊維を用い、さらに特定の炭素繊維を組合せて用いることで、荷重時にもより撓みの少ない搬送用シャフトとすることを可能としたものである。
図1に、本発明の搬送用シャフトの軸に対して垂直に切断した際の断面図を示したが、この搬送用シャフト1は、ピッチ系炭素繊維2と、PAN系炭素繊維3と、熱硬化性樹脂組成物4と、から構成されるものである。
なお、本発明において、搬送用シャフトは中空引抜成型により製造される円筒形状のものである。ここで、搬送用シャフトの外周側とは、円筒の炭素繊維引抜成型品の厚さに対して、外周面からその厚さの50%の領域をいい、内周側とはそれより内側の領域をいう。すなわち、引抜成形品の厚さの中間点を境界とし、外周面寄りを外周側、内周面寄りを内周側とするものである。
これを図面により説明すれば、図2に示したように、図1の断面図において、炭素繊維引抜成型品の厚みをT、その中間点をTcで表わしたとき、この断面においてTcを全て繋いだ線を境界として、その内周面寄りの領域を内周側領域5、外周面寄りの領域を外周側領域6とするものであり、簡単に言えば、その炭素繊維の存在箇所が外周面と内周面のどちらに近いかによって、より近い側に存在するものとして区分けするものである。
本発明で用いる炭素繊維としては、従来公知の炭素繊維であれば特に限定されずに用いることができるが、搬送用シャフトの外周側に用いる炭素繊維と、内周側に用いる炭素繊維とを、その性質によって使い分けて用いるものである。
まず、外周側に主として用いる炭素繊維は、比較的高い引張り弾性率を有するものであり、具体的には、引張り弾性率が400GPa以上、好ましくは400〜1000GPa、のピッチ系炭素繊維2が用いられる。このような高い引張り弾性率を有するピッチ系炭素繊維2としては、具体的には、日本グラファイト工業株式会社製のGRANOCヤーンのYSH−Aシリーズ、YS−Aシリーズ、XNシリーズ(いずれも商品名)や三菱化学産資株式会社製のダイアリード(商品名)から選択したものが好適に使用できる。
また、内周側に主として使用する炭素繊維は、引張り強度が3〜6GPaのPAN系炭素繊維3が用いられる。このような高強度を特徴とするPAN系炭素繊維3としては、具体的には、東邦テナックス株式会社製のベスファイトHTAシリーズ(商品名)や三菱レイヨン株式会社製のパイロフィル(商品名)が挙げられる。一般に、PAN系炭素繊維はピッチ系炭素繊維よりも引張り弾性率が低く、本発明においても内周側の炭素繊維は、通常、外周側に用いられたピッチ系炭素繊維よりも引張り弾性率が低いものであり、100〜600GPa程度のものであることが好ましい。
外周側に使用する炭素繊維は、既に述べたように所定の引張り弾性率を有するピッチ系炭素繊維2を必須成分とするものであるが、外周側の全ての炭素繊維をこの特定のピッチ系炭素繊維2とする必要はなく、それ以外の炭素繊維が含まれていてもよい。すなわち、上記所定の範囲にない引張り弾性率を有するピッチ系炭素繊維や、PAN系炭素繊維、それ以外の炭素繊維を使用してもよい。
このとき、引張り弾性率が400GPa以上のピッチ系炭素繊維2は、全繊維使用量の5体積%以上75体積%以下で用いることが好ましく、全繊維使用量の10体積%以上50体積%以下であることが、耐撓み性に優れた引抜成形品が得られる点で特に好ましい。ピッチ系炭素繊維が5体積%未満では、充分な耐荷重撓み特性が得られなくなる虞があり、また、ピッチ系炭素繊維が75体積%を超えると、耐撓み性は良好となるが高価なピッチ系炭素繊維の使用比率が増えるためコスト増を招いたり、作業性が低下したりしてしまう。
また、本発明に用いる炭素繊維は、外周側、内周側を問わず、表面にシランカップリング剤によりサイジング処理を行い、耐薬品性を維持するようにすることが好ましく、このサイジング処理を行うサイジング剤としては、アルカリ成分との反応性が低く、マトリックス樹脂に対するぬれ性が良い薬剤が挙げられ、具体的には、メタクリルシランやウレイドシラン等のシランカップリング剤又はそれらの混合品であることが好ましい。
次に、本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物4は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をベース樹脂として用いたものを用いるものであり、ビニルエステル樹脂であることが好ましい。
この熱硬化性樹脂組成物4について、ビニルエステル樹脂をベース樹脂として用いた場合を例に、以下、具体的に説明する。ここで熱硬化性樹脂組成物4の具体的構成は、例えば、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物とを必須成分として含有するものが好ましい。
本発明に用いる(A)ビニルエステル樹脂は、成形材料として一般に使用されているものであれば特に限定されずに使用することができ、例えば、D−953(大日本インキ工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。このような(A)ビニルエステル樹脂は、(a)酸性分と(b)エポキシ樹脂成分を反応させて得られるものである。
ここで(a)酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸が挙げられ、さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の二塩基酸を2種類以上混合して使用することもできる。
また、(b)エポキシ樹脂成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができ、具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸がグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種類以上を混合して使用することができる。さらに、エポキシ樹脂成分としては、これらの他に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂を併用成分として使用することができる。
この(A)ビニルエステル樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に72.5〜85質量%の範囲であることが好ましい。
本発明に用いる(B)架橋剤としては、(A)ビニルエステル樹脂と重合可能な二重結合を有するものであれば使用可能であり、例えば、スチレンモノマー、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートモノマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。この(B)架橋剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
本発明に用いる(C)低収縮材としては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ゴム、ポリエチレン等が使用可能であるが、耐薬品性、軽量性、低収縮性の観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。このうちガラス転移点が70〜120℃のポリエチレン樹脂粉末が耐薬品性及び成形収縮率の向上のために特に好ましい。
この(C)低収縮材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。
本発明に用いる(D)無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化ヒアルミニウム、シリカ、ガラスバルーン等の通常用いられているものが挙げられ、特に限定されるものではない。この(D)無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に10〜20質量%の範囲であることが好ましい。
本発明に用いる(E)離型剤は、成形材料として通常使用される離型剤であればよく、例えば、市販のシリコーンオイルが挙げられ、中でもエポキシ変性シリコーンオイルが好ましい。この(E)離型剤の配合量は熱硬化性樹脂組成物中に0.01〜2質量%であることが好ましい。
本発明に用いる(F)有機過酸化物としては、ビニルエステル樹脂の硬化剤として通常用いられる化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化イソブチリル等が挙げられる。この(F)有機過酸化物の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、これら(A)〜(F)成分、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で配合されるその他の成分を混合、撹拌することで得られる。
次に、本発明の搬送用シャフトに用いる中空引抜成形品の製造方法を図3により説明する。図3には、図3(a)として搬送用シャフトの外周側の炭素繊維を表わした搬送用シャフトの製造装置11a(内周側の炭素繊維を省略)を示し、図3(b)として搬送用シャフトの内周側の炭素繊維を表わした搬送用シャフトの製造装置11b(外周側の炭素繊維を省略)を示している。この搬送用シャフトの製造装置は、炭素繊維以外は共通の装置を示しており、ピッチ系炭素繊維ロービング12とPAN系炭素繊維ロービング13とは、本来同時に示すべきものであるが、説明のために別々の図にして示している。
まず、図3(a)について説明するが、この搬送用シャフトの製造装置11aは、ピッチ系炭素繊維ロービング12と、このピッチ系炭素繊維ロービング12から引き出されたピッチ系炭素繊維糸を含浸槽15に収容された熱硬化性樹脂組成物に含浸させ、この樹脂含浸炭素繊維を、ガイド治具16を通して加熱金型内に引き込んで熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、金型形状により成型して形を整えて引抜き、成形品とするものである。
次に、図3(b)について説明するが、この搬送用シャフトの製造装置11bは、PAN系炭素繊維ロービング13と、このPAN系炭素繊維ロービング13から引き出されたPAN系炭素繊維糸を含浸槽15に収容された熱硬化性樹脂組成物に含浸させ、この樹脂含浸炭素繊維を、ガイド治具16を通して加熱金型内に引き込んで熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、金型形状により成型して形を整えて引抜き、成形品とするものである。
上記した図3(a)と図3(b)とは、その操作を同時に行うものであり、引抜成型品の外周側を形成する炭素繊維と内周側を形成する炭素繊維とは、加熱金型に同時に引き込まれ、これらは一体となって中空引抜成型品を形成するものである。このとき加熱金型は、中子治具17と外型18とから構成されるものであり、この金型に引き込む際に、中子治具17により内周面の形状を、外型18により外周面の形状を整え、中空引抜成型品とし、これを引取手段19により引抜ながら、その後、所定の長さに切断して搬送用シャフトとするものである。
このとき、それぞれ上記説明したような所定の特性を有する炭素繊維を用いることで引抜成型品を製造し、この図では、外周側と内周側とで使用する炭素繊維の種類を変えて説明しているが、これらは使用割合により外周側でもPAN系炭素繊維を用いたり、内周側でもピッチ系炭素繊維を用いたり、その使用形態は適宜変更することができる。このとき、使用する炭素繊維は、搬送用シャフトの軸を中心に点対象に、均一に配置することが、偏りのない搬送用シャフトとすることができる観点から好ましく、このようにすることでシャフトの反り、ねじれ等も防止することができる。
ここで、上記した繊維糸は、複数本の繊維、例えば500〜24000本の繊維を収束して得られた糸である。引抜成形用の熱硬化性樹脂組成物と炭素繊維糸との混合は、炭素繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、熱硬化性樹脂組成物が炭素繊維に付着した状態とすることが好ましく、炭素繊維糸が引抜成形時の引抜力に耐え得ることが必要であるので、炭素繊維糸の構成を、炭素繊維のロービングを引抜方向に配向させて使用することが好ましい。
なお、この炭素繊維の引抜成型品全体における含有量は、成形品中の繊維基材の平均体積含有率(体積比率)で、50〜80%とすることが好ましい。50%未満であると成形品の剛性が乏しくなってしまい、80%を越えると繊維強化材に樹脂組成物が含浸していない部分ができ、引抜成形品の物性低下を引き起こしてしまう。
また、引抜速度は10〜120cm/分の範囲であることが好ましく、引抜速度が10cm/分未満であると、成形金型中での硬化が早い時点で完了してしまい、引き抜く際の抵抗が大きくなり安定的に連続成形できなくなってしまい、一方、引抜速度が120cm/分を超えると、繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれ易くなってしまう。したがって、引抜時間(金型中を通過する時間)は0.5〜3.0分の範囲内となるようにすることが好ましい。なお、この引抜成形においては、用いる熱硬化性樹脂組成物に応じて、加熱温度及び引抜速度を適宜選択して行うものであり、上記製造条件に限定されるものではない。
さらに、中子治具17は、外型18と同じ温度として成形品を製造してもよいが、中子治具本体に中空部分を設け、そこに冷却媒体を通過させることによって、加熱された中子治具17の温度を下げ、外型18と温度差を設けて成形品を製造することが、均等肉厚で高真円度、反りねじれが少なく、軽量性、成形収縮率に優れた引抜成形品を得られる点で好ましい。
例えば、外型18の温度を、120〜200℃として加熱硬化させ、中子治具17の温度を、外型18の温度よりも低温である80〜170℃程度とすることが好ましい。さらに、中子治具17の温度は、外型18の温度よりも20℃以上低い温度であることが好ましく、20〜25℃の低温であることが特に好ましい。中子治具17の温度が低いと成形品の内部硬化が不十分となり、また高いと反りが大きくなってしまう。
この中子治具17は、材質を鉄とし、中芯が鉄パイプとなっており、そのパイプ形状はφ5〜20mmのものを使用することが好ましい。また、中芯の長さは製品径にもよるが、一般的には400〜800mmの範囲であることが好ましく、外型入口よりも早く樹脂含浸炭素繊維と接し、外型出口より早く引抜成型品と離れるように配置されることが好ましい。
本発明の引抜成形では、繊維強化樹脂組成物を、加熱された金型内に連続的に引き込み、金型内通過中に樹脂を所定の温度にして硬化させると共に、金型出口から所定の時間で引き抜くものである。この引抜成形方法で用いられる装置は、何ら特別のものではなく、通常用いられている引抜成形装置であれば、特に限定されずに使用することができる。
これによって、熱硬化性樹脂組成物を効率的に硬化させることができ、操作性良く成形することができる。このようにして得られた成形品は、低収縮剤を混合することにより、体積収縮が小さく、反り、ねじれ等の物性及び外観にも優れた成形品とすることができる。
本発明の引抜成形の製造方法では、熱硬化性樹脂組成物を含浸した炭素繊維を、加熱金型の手前に設置した、放射状に割付のための穴を開けたガイド冶具16を通すことによって、高弾性率のピッチ系炭素繊維を外周部に配置し、高強度のPAN系炭素繊維を内周部に配置する。さらに、このようにガイドを用いることによって、これら炭素繊維が搬送用シャフト内部で均一に配置されるようにすることができ、反り、ねじれの少ない搬送用シャフトを得ることができ、ピッチ系炭素繊維を搬送用シャフトの外周に均一に配置することにより、反りやねじれをより少ないものとすることができる。
図4は、本発明の搬送用シャフトの製造に用いるガイド治具の一形態を示したものであるが、炭素繊維糸を引き入れる面方向から見た正面図である。この図に示したように、ガイド治具16に設けられたガイド穴16a,16bは、外周側の繊維糸と内周側の繊維糸が通過するガイド穴が放射状に配列するように、かつ、外周側の繊維糸が通過するガイド穴と内周側の繊維糸が通過するガイド穴が、それぞれ円状に形成されていることが好ましい。これらのガイド穴は繊維方向に沿って傾きをつけると、繊維の断裂防止にも効果がある。この図4のガイド治具16を用いて、各繊維糸をまっすぐに金型に引き入れることにより図1の断面の搬送用シャフトが得られる。
また、図5には他の形態であるガイド治具26を示したが、この図5のガイド治具のように外周側のガイド穴26aと内周側のガイド穴26bが放射状に揃って並んでいるようなものでもよい。ただし、図4のように外周側と内周側とでずらして配置しておいた方が、得られる搬送用シャフトの反り、ねじれが生じにくく、強度も高くなるため好ましい。なお、図示したガイド治具16,26はガイド穴を説明し易いように開略化して記載しており、実際にはガイド穴を全部で25〜50個形成したものを用いることが好ましい。
このようなガイド冶具の他の作用は、炭素繊維に含浸された余分な樹脂を除去することであり、これにより加熱金型入り口での炭素繊維の蛇行を防止し、ねじれの少ない搬送用シャフトとするのに効果的である。
さらに、ピッチ系炭素繊維のフィラメント(繊維)集束数をPAN系炭素繊維のフィラメント(繊維)集束数の50%以下とすると、搬送用シャフトの外周にピッチ系炭素繊維を均一に配置するのに効果的である。
本発明に使用される搬送用シャフトの製造においては、熱硬化性樹脂組成物を収容した1つの含浸槽を有していればよいが、2以上の含浸槽を設けてもよく、その場合、第1の含浸槽で搬送用シャフトの内周側の炭素繊維を含浸し、第2の含浸槽で搬送用シャフトの外周側の炭素繊維を含浸することが好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
熱硬化性樹脂成分として、ビニルエステル樹脂(大日本インキ工業株式会社製、商品名:UE3505) 22質量部、スチレンモノマー(日本ユピカ株式会社製、商品名:スチレンモノマー) 0.35質量部、ポリエチレン(住友精化株式会社製、商品名:フローセンUF−1.5) 0.25質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、商品名:沈降性硫酸バリウム−100) 3.7質量部、有機過酸化物1(日本油脂株式会社製、商品名:パーブチルO) 0.06質量部、有機過酸化物2(日本油脂株式会社製、商品名:パーヘキサHC) 0.35質量部、離型材(小桜商会株式会社製、商品名:INT−1850HT〔有機酸、グリセリド、合成樹脂縮合体〕) 0.35質量部を混練機(ディスパー)にいれ、約20分間混練し、熱硬化性成形材料を得た。
次に、基材としてピッチ系炭素繊維糸 K63712(三菱産資株式会社製、商品名;フィラメント集束数12,000本〔繊維径 11μm〕;引張り弾性率 640GPa、引張り強度 2.6GPa)を32本、PAN系炭素繊維糸 HTA−W24K(東邦テナックス株式会社製、商品名;フィラメント集束数24,000本〔繊維径 7μm〕;引張り弾性率 235GPa、引張り強度 3.9GPa)を64本を用い、それぞれの繊維糸を含浸槽に収容された上記熱硬化性成形材料に含浸させ、樹脂組成物を含浸させた炭素繊維をガイド治具に通して、炭素繊維が引抜成型品中で所定の配置となる(ピッチ系炭素繊維が外周側に均一に配置される)ようにしながら成形治具に通した後、連続的に160℃に加熱した、中子付き金型(長さ:800mm、内径:20mm)に送り込み十分に硬化させ、20cm/分の速度で引抜き、連続的に得られる中空引抜成型品を切断装置で3mの長さに切断し、炭素繊維の体積含有率が70%の搬送用シャフトを得た。このとき、中子治具(長さ:500mm、外径:15mm、設定温度 140℃)は、金型の10cm手前から繊維に接触するように設置した。
得られた搬送用シャフトの引張り弾性率、自重撓み、荷重撓み、真円度、振れをそれぞれ測定し、その結果を表1に示した。
(実施例2〜4、比較例1)
ピッチ形炭素繊維とPAN系炭素繊稚の使用する本数を変え、ピッチ比率を表1に示した条件とした以外は、実施例1と同様の操作により、搬送用シャフトを製造し、得られた搬送用シャフトの引張り弾性率、自重撓み、荷重撓み、真円度、振れをそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。
なお、このとき、ピッチ系炭素繊維がPAN系炭素繊維よりも少ないため、内周側は全てPAN系炭素繊維とし、外周側はピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維とがそれぞれ均一に混在するようにした。
(比較例2)
ステンレス製シャフト(SUS304 外形φ20mm、内径φ16mm〕)についても、実施例と同様のサイズのものを製造し、その引張り弾性率、自重撓み、荷重撓みを測定し、その結果を表1に併せて示した。
Figure 0005546779
*1 ピッチ比率:「ピッチ系炭素繊維の体積÷全繊維の体積」により算出した。
*2 引っ張り弾性率:得られた搬送用シャフトについて、JIS K 6911に準じて測定した。
*3 自重撓み:搬送用シャフトの両端を支持したときの撓み量を測定(支持間距離3000mm)した。
*4 荷重撓み:搬送用シャフトの両端を支持し、中央部に20Nの負荷荷重をかけたときの撓み量を測定した。
*5 真円度:TALYROND300(ランク・テーラーホブソン社製、商品名)にて測定した。
*6 反り、ねじれ:長さ1600mmの搬送用シャフトをVブロック(スパン1500mm)にのせ、中央部にダイヤルゲージをあてて、無負荷で製品を回転させたときの芯振れを測定した。
1…搬送用シャフト、2…ピッチ系炭素繊維、3…PAN系炭素繊維、4…熱硬化性樹脂組成物、5…内周側領域、6…外周側領域、11a…搬送用シャフトの製造装置の一部(外周側)、11b…搬送用シャフトの製造装置の一部(内周側)、12…ピッチ系炭素繊維からなるロービング、13…PAN系炭素繊維からなるロービング、14a,14b…、15…含浸槽、16…ガイド治具、17…中子治具、18…外型、19…引取手段

Claims (5)

  1. 複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、金型を通過させながら硬化させて得られる中空引抜成形品からなる搬送用シャフトであって、
    前記繊維糸として、前記中空引抜成型品の外周側に、主として引張り弾性率が400GPa以上のピッチ系炭素繊維を配し、前記中空引抜成型品の内周側に、主として引張り強度が3〜6GPaのPAN系炭素繊維を配したことを特徴とする搬送用シャフト。
  2. 前記外周側に使用するピッチ系炭素繊維の引張り弾性率が400〜1000GPaであり、前記内周側に使用するPAN系炭素繊維の引張り弾性率が100〜600GPaであることを特徴とする請求項1記載の搬送用シャフト。
  3. 前記ピッチ系炭素繊維の使用量が、使用する全炭素繊維の10〜50体積%であることを特徴とする請求項1又は2記載の搬送用シャフト。
  4. 前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物と、を必須成分とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の搬送用シャフト。
  5. 前記(C)低収縮材が、70〜120℃のガラス転移点を有するポリエチレンであることを特徴とする請求項4記載の搬送用シャフト。
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