JP5545923B2 - 適応制御システム - Google Patents

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Description

本発明は、騒音や振動を低減させることを目的としたアクティブ制御を行うための適応制御システムに関する。
適応制御を三角関数の合成によって行う場合、制御対象信号を例えば120Hzの単一周波数の正弦波に限定する。このようにすれば、適応フィルタの計算が容易になるため安価なハードウェアで適応制御が実現できる。また、単一周波数に限ることによって、その他の周波数には反応しなくなるため、外乱に強いシステムを構築することができる。その際、三角関数の合成により適応制御を行うには信号が単一周波数の正弦波でないと正常に動作しないため、入力信号を単一周波数の正弦波に整形するために正弦波抽出バンドパスフィルタをかける必要がある。
そうしたバンドパスフィルタはバンド幅が狭いため、その特性が鋭いほど単一周波数の正弦波の抽出特性が良くなり、適応制御システムの性能も向上する。しかし、FIR型(有限インパルス応答型)適応フィルタを使用した適応制御システムでは、その問題として、正弦波を抽出するバンドパスフィルタの特性を鋭くすればするほど位相変化が激しくなり、制御信号の周波数揺らぎに弱い適応制御システムとなってしまう。この点、下記特許文献1では、騒音中から抽出した消音対象音波の180度逆位相音波を生成し、音波相殺により消音を行う適応制御システムが開示されている。図8は、同文献に開示された適応制御システムを示すブロック図である。
その適応制御システムでは、検出された消音対象音波の周期長に対応して、データテーブル101から抽出した正弦波データ201と90度の位相がずれた余弦波データ202がデータテーブル101から抽出され、適応フィルタ111に入力される。適応フィルタ111では、正弦波データ201及び余弦波データ202を入力データとして、正弦波データ201に対して180度逆位相の波形が生成される。当該処理によって消音対象音波とは逆位相の能動消音音波が生成され、これがアナログ増幅器121で増幅され、音波出力手段122から送出される。その能動消音音波は、消音対象音波と干渉して互いに音波相殺する消音現象を起こす。
しかし、周波数揺らぎによって能動消音音波と消音対象音波との位相が一致しないような場合には、音波干渉で相殺しきれずに干渉誤差音波が発生するため、適応フィルタ111の2タップ係数が調整され、生成する逆位相波形の較正が行われる。そこで、干渉誤差音波入力部130では、第2の音波入力手段131から入力される干渉誤差音波がアナログ増幅器132で増幅され、特定狭帯域周波数のみを通過させるバンドバスフィルタ133によって干渉誤差音波だけが抽出され、干渉誤差音波の振幅や位相の変動が明確になる。抽出された干渉誤差音波はADコンバータ134でデジタル化され、係数更新アルゴリズムの実行手段であるLMSアルゴリズム112に入力される。この係数更新アルゴリズムにより、適応フィルタ111の2タップ係数を更新して位相変動に応じた能動消音用波形が較正される。
特開平6−236188号公報
従来の適応制御システムでは、制御対象信号の振幅が変化すると、それに対応するためにその都度適応制御による係数更新が必要となり、制御性能を悪化させる要因となってしまう。また、係数更新が頻繁になると制御性能維持のためには適応フィルタの反応を速くする必要があるが、反応を速くするとそれだけノイズに対する感度も上がってしまうため、ノイズ対策も必要になってきてしまう。更に、入力正弦波の周波数が揺らいで変化しても出力正弦波の周波数は設定値のままで一定のため、周波数の揺らぎ分の周波数誤差が生じる。揺らぎが高周波側に継続すると、入出力正弦波の位相ずれが増加していき、この場合も適応制御による係数更新が継続的に必要となり、制御性能を悪化させる要因となってしまう。
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、入力信号の振幅や周波数に変化が生じる場合であっても、それに応じた適切な適応制御を実現する適応制御システムを提供することを目的とする。
本発明に係る適応制御システムは、振動や騒音である制御対象波を低減させるための制御波を出力するアクチュエータと、その制御波の伝播先に配置された評価センサと、その評価センサが受けた入力波から正弦波を抽出した入力信号を得る正弦波抽出バンドパスフィルタと、前記アクチュエータの制御波の出力を制御する適応フィルタと、前記入力信号と前記制御対象波から得られる正弦波の信号とを比較して前記適応フィルタの演算係数を算出する適応フィルタ係数演算器とを有し、前記適応フィルタ係数演算器では、前記評価センサに接続された正弦波抽出バンドフィルタからの入力信号と、第1の伝達特性同定フィルタを有し、それによって前記制御対象波から得られる正弦波の同定信号とを比較演算し、その演算結果に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数の更新を行うものであって、前記第1の伝達特性同定フィルタに送られる前記制御対象波の正弦波を、前記適応フィルタから前記アクチュエータへ送信される制御信号に第2の伝達特性同定フィルタを介して得られた同定信号と、前記正弦波抽出バンドパスフィルタからの入力信号とを比較演算して得るフィードバック方式であり、前記第1及び第2の伝達特性同定フィルタには、周波数揺らぎによる影響をなくすため、前記評価センサに接続された前記正弦波抽出バンドパスフィルタ前記制御対象波に関して同じバンド幅を有し、同じ周波数揺らぎを生じる正弦波抽出バンドパスフィルタが、それぞれに接続されたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る適応制御システムは、振動や騒音である制御対象波を低減させるための制御波を出力するアクチュエータと、その制御波の伝播先に配置された評価センサと、その評価センサが受けた入力波から正弦波を抽出した入力信号を得る正弦波抽出バンドパスフィルタと、前記アクチュエータの制御波の出力を制御する適応フィルタと、前記入力信号と前記制御対象波から得られる正弦波の信号とを比較して前記適応フィルタの演算係数を算出する適応フィルタ係数演算器とを有し、前記適応フィルタ係数演算器では、前記評価センサに接続された正弦波抽出バンドフィルタからの入力信号と、伝達特性同定フ
ィルタを有し、それによって前記制御対象波から得られる正弦波の同定信号とを比較演算し、その演算結果に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数の更新を行うものであって、前記伝達特性同定フィルタに送られる前記制御対象波の正弦波を、前記制御対象波を検出する検出用センサで得られた制御対象波から、正弦波抽出バンドパスフィルタを介して得るようにしたフィードフォワード方式であり、前記伝達特性同定フィルタに、周波数揺らぎによる影響をなくすため、前記評価センサに接続された前記正弦波抽出バンドパスフィルタ前記制御対象波に関して同じバンド幅を有し、同じ周波数揺らぎを生じる正弦波抽出バンドパスフィルタが接続されたものであることを特徴とする。
本発明は、三角関数の合成によって適応制御をかけるものであるが、伝達特性同定フィルタに接続した正弦波抽出バンドパスフィルタを通すことにより、評価マイクから正弦波抽出バンドパスフィルタを通して得られる正弦波の周波数揺らぎの影響を排除した適正な適応制御ができる。
次に、本発明に係る適応制御システムの一実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。ここで、図1は、適応制御システムの第1実施形態を示すブロック図である。
この適応制御システム10は、騒音や振動に対して制御音や制御振動を発生させて能動的に騒音や振動を低減させるアクティブ・ノイズ・コントロール装置に適応するものであり、従来例でも示したように適応制御を三角関数の合成によって行うものである。本実施形態では、鉄道車両内の騒音低減装置として構成した場合の適応制御システムについて以下に説明する。車内に設置されるものであって、車両に搭載した回転機器が発する120Hz周波数の騒音をターゲットにした騒音低減のための装置である。
この適応制御システム10は、騒音を打ち消すための制御音(干渉音)を発生させるアクチュエータである制御音発生の制御音発生スピーカ11と、制御音による消音効果を確認するための評価マイク12を有し、評価マイク12が取り付けられた位置に向けて制御音発生スピーカ11から制御音が発せられる。そうした評価マイク12には、その評価マイク12で収集した入力音から所定の単一周波数(例えば120Hz)の正弦波を抽出する正弦波抽出バンドパスフィルタ13が接続されている。
また、その正弦波抽出バンドパスフィルタ13には、正弦波抽出バンドパスフィルタ13を介して抽出された入力信号の正弦波と逆位相で同振幅の制御波となるように、アルゴリズムに基づいて演算係数を調整する適応フィルタ係数演算器14が接続されている。
そして、その適応フィルタ係数演算器14には更に、制御対象波である騒音の単一周波数の正弦波から同定信号を生成する第1の伝達特性同定フィルタ15が接続されている。適応制御システム10はフィードバック方式であり、入力信号から得られた元騒音が伝達特性同定フィルタ15へ送られる。「元騒音」とは、評価マイク12で検出された音のうち、制御音発生スピーカ11から出力された制御音を差し引いた空間内の騒音そのものをいう。
そのため、適応制御システム10には、適応フィルタ17から制御音発生スピーカ11へ送られる制御信号y(n)を受け、制御音発生スピーカ11から評価マイク12に至る伝達空間の伝達特性S(n)に応じて同定する第2の伝達特性同定フィルタ19が設けられている。そして、この制御信号から同定信号を生成する伝達特性同定フィルタ19と、評価マイク12を通して正弦波を抽出する正弦波抽出バンドパスフィルタ13とが、その両信号から元騒音の単一周波数正弦波を算出する演算器20が接続されている。その際、本実施形態では、第2の伝達特性同定フィルタ19には正弦波抽出バンドパスフィルタ22が接続され、更に、前述した第1の伝達特性同定フィルタ15にも正弦波抽出バンドパスフィルタ21が直列接続されている。
ここで、図2は、伝達特性の同定法を示したブロック図であり、図1に示すシステムのものと同じ構成要素については同じ符号を付している。
正弦波発生器31を有し、その制御信号によって制御音発生スピーカ11から制御音の出力正弦波が発振される。その音が評価マイク12を通して入力し、正弦波抽出バンドパスフィルタ13を介して正弦波の入力信号が得られる。一方、正弦波発生器31からの制御信号は、伝達特性同定フィルタ32(図1の第1及び第2の伝達特性同定フィルタ15,19に相当するもの)と同定フィルタ係数演算器33にも送られる。
伝達特性同定フィルタ32で生成された信号は演算器35に送られ、評価マイク12を通して得られた入力信号と比較される。このとき、伝達特性同定フィルタ32に対して正弦波抽出バンドパスフィルタ13と同じ性能の正弦波抽出バンドパスフィルタ34(図1の正弦波抽出バンドパスフィルタ21,22に相当するもの)が接続されている。
次に同定フィルタ係数演算器33では、演算器35で求められた比較信号と、正弦波発生器31からの制御信号に基づいて同定フィルタの係数調整が行われる。その同定フィルタ係数演算器33と伝達特性同定フィルタ32には90度移相器36が接続され、制御信号(サイン波)に対して位相が90度ずれたコサイン波が生成され、適応フィルタ17や適応フィルタ係数演算器14の三角関数の合成関数に入力される。
ところで、こうして伝達特性同定フィルタ32に正弦波抽出バンドパスフィルタ34を接続したのは、他方の正弦波抽出バンドパスフィルタ13で抽出される単一周波数の正弦波に周波数揺らぎが生じ、図3に示すように、数Hzのずれに応じて振幅と位相がずれて誤差が生じてしまうことを考慮したものである。すなわち、伝達特性同定フィルタ32による同定だけでは、正弦波抽出バンドパスフィルタ13の周波数揺らぎによる誤差を吸収できないため、同じ周波数揺らぎを生じる正弦波抽出バンドパスフィルタ34を接続することで、周波数揺らぎによる影響を相殺して誤差をなくすようにしている。なお、図3は、正弦波抽出バンドパスフィルタの特性例を示した図であり、横軸に周波数をとり、縦軸に振幅と位相のそれぞれを示している。
評価マイク12で収集した音から単一周波数の正弦波を抽出する場合、正弦波抽出バンドパスフィルタ13で行う当該抽出では、周波数揺らぎが生じ得る。そうした周波数揺らぎは、図3に示すグラフから分かるように、周波数のずれによって振幅と位相にもずれが生じ、特に位相は、数Hzのずれによって100度程度の大幅なずれを生じさせる問題がある。そこで、本実施形態では、同じ正弦波抽出バンドパスフィルタ34を伝達特性同定フィルタ32に対して直列に接続し、正弦波抽出バンドパスフィルタ13と同じ揺らぎを生じさせることで、演算器35に送られる信号の整合性が取れるようになった。こうして、揺らぎの影響を受けずに第1及び第2伝達特性同定フィルタ15,19の伝達係数の設定が行われる。
図1に戻り、適応制御システム10でも、前述したように伝達特性が設定された第1及び第2の伝達特性同定フィルタ15,19に対し、正弦波抽出バンドパスフィルタ21,22がそれぞれ接続される。本実施形態では、こうして伝達特性同定フィルタ15(19)と、正弦波抽出バンドパスフィルタ21(22)がそれぞれセットになって構成されている。従って、本システムでは、正弦波抽出バンドパスフィルタ13で揺らぎが生じても、正弦波抽出バンドパスフィルタ21,22でも、同じように周波数揺らぎが生じるように構成されている。
これにより、制御音発生スピーカ11から評価マイク12までの空間の伝達特性を同定する際、伝達特性同定フィルタ15,19は、正弦波抽出バンドパスフィルタ13の特性から分離させることができ、その位相変化特性に関係なく空間の伝達特性S(n)だけを模擬するフィルタとして機能させることができる。そして、正弦波抽出バンドパスフィルタ13に応じて係数の更新を行う必要がないようになっている。また、伝達特性同定フィルタ15では、適応フィルタ係数演算器14で入力信号との比較によって演算を行う際、その入力信号に生じる周波数揺らぎに対する性能劣化を防止することができるようになっている。
更に、適応制御システム10では、適応フィルタ17や適応フィルタ係数演算器14には、90度移相器23,24が接続されている。そのため、制御信号(サイン波)に対して位相が90度ずれたコサイン波が生成され、適応フィルタ17や適応フィルタ係数演算器14の三角関数の合成関数に入力される。
続いて、本実施形態の適応制御システム10の作用について説明する。適応制御システム10では、評価マイク12で収集した音に対して位相反転演算が行われ、制御音発生スピーカ11から制御音が出力される。その際、評価マイク12には、空間内に生じる制御対象音である騒音と、位相反転演算によって制御音発生スピーカ11から出力された制御音との加算された音が入力される。そして、次の正弦波抽出バンドパスフィルタ13では、その入力波から単一周波数が抽出され、その抽出された入力信号が適応フィルタ係数演算器14と演算器20へ送られる。
入力信号が適応フィルタ係数演算器14へ送られた場合、それだけでは自ら出力した制御音に対しても演算を行うことになってしまい、この繰り返しがハウリングにつながって、システムを不安定にすることになってしまう。そこで、本実施形態ではこの状態を避けるためにシステム同定が行われる。
先ず、適応フィルタ17からの制御信号は、制御音発生スピーカ11に与えられると共に、伝達特性同定フィルタ19へ送られ、正弦波抽出バンドパスフィルタ22を介して同定信号が演算器20へ与えられる。伝達特性同定フィルタ19の伝達特性は、制御音発生スピーカ11から評価マイク12に至る空間の音響伝達特性と同じ伝達特性であり、正弦波抽出バンドパスフィルタ22も入力信号を抽出する正弦波抽出バンドパスフィルタ13と同じ性能をもったものである。従って、演算器20では、こうした評価マイク12からの入力信号と、適応フィルタ17からの伝達特性同定フィルタ19を通した同定信号とを比較し、減算することによって空間内に存在する騒音を得ることができる。そして、こうして得られた元騒音についてのみ制御演算(位相反転演算)を実行することでハウリングの発生機会を減らし、システムの安定を高めている。
ここで、図4(a)〜(d)は、本実施形態で実行する元騒音の算出イメージを波形で示した図であり、このうち図(a)は、制御音発生スピーカ11から出力される出力波形、図(b)は評価マイク12から得られた入力波形、図(c)は伝達特性同定フィルタ19を通して得られた波形、そして図(d)は元騒音の波形を示している。
制御音発生スピーカ11から所定周波数の制御音が出力された場合、評価マイク12に至るまでの間に、その空間特性によって、図4(a)に示す波形が図4(c)に示すように振幅が0.5倍、位相−90度の遅れを示す波形になっている。そこで、図4(b)に示す実際に評価マイク12で検出した音と、制御音発生スピーカ11で出力した音との差をとることで、図4(d)に示す騒音そのものの波形を検出することができる。
演算器20を介して送られる元騒音は、伝達特性同定フィルタ15と適応フィルタ17とに入力される。この伝達特性同定フィルタ15も、制御音発生スピーカ11から評価マイク12に至る空間の音響伝達特性と同じ伝達特性が設定されている。従って、元騒音に関しても、第1の伝達特性同定フィルタ15を通すことによって音響伝達特性を考慮するようにしている。このとき、正弦波抽出バンドパスフィルタ21を介して同定信号が送られるため、正弦波抽出フィルタ13を通った入力信号に生じる周波数揺らぎに対する性能劣化を防止することができる。
適応フィルタ係数演算器14には、伝達特性同定フィルタ15から元騒音の信号が与えられると共に、評価マイク12からの入力信号が与えられ、そこでは、アルゴリズムに基づいて、評価マイク12から与えられる入力信号がゼロになるように、適応フィルタ17に対するフィルタ係数の更新が行われる。そして、その適応フィルタ17では、その演算係数に基づいて騒音と干渉を起こさせて消音するための制御信号が演算される。適応フィルタ17からは、その制御信号が送られ、制御音発生スピーカ11からは、それに基づいた制御音が出力される。評価マイク12の設置された位置では、制御音が騒音の振幅と同振幅で且つ逆位相となって干渉を起こし、打ち消し合いによって消音する。
こうした本実施形態の適応制御システム10は、周波数120Hzの正弦波を制御対象とし、三角関数の合成によって適応制御をかけるものであるが、特に伝達特性同定フィルタ19に接続した正弦波抽出バンドパスフィルタ22を通すことにより、正弦波抽出バンドパスフィルタ13による周波数揺らぎの影響を排除した適正な適応制御ができるようになった。
すなわち、正弦波抽出のバンドパスフィルタとしてバンド幅5Hzの4次バンドパスフィルタを使用した場合、その周波数特性が例えば図3に示すようであり、123Hzでは120Hzと比べて位相が100度程もずれてしまう。そのため、適応フィルタ係数演算器14での位相反転処理に位相100度もの誤差が生じてしまい、制御がうまくいかなくなる。特に、適応制御を三角関数の合成によって行うシステムでは、正弦波抽出バンドパスフィルタ13にバンド幅の狭い高次のフィルタを使用するため、少しの周波数揺らぎも許されないこととなってしまう。
この点、従来の適応制御システムでは、例えば図5に示すように、入力信号と同定信号との位相が整合せず、適応制御をかけて0.1秒付近から制御波形の振幅が増加していき、0.15秒付近で制御が破綻してしまっていた。
しかし、本実施形態の適応制御システム10によれば、入力信号が周波数の揺らいだ正弦波であっても、同定信号がそれに整合するため、図6に示すように有効に制御できるようになった。
ところで、適応制御システムには、こうしたフィードバック方式の他にも、検出センサで検出した音や振動から対象となる位置での音や振動を予測し、そこで同振幅で逆位相となる波形を演算して制御信号を出力し、評価センサで収集した騒音などからその残差成分(低減しきれなかった騒音)を演算して、評価センサ位置での音圧などを最小にするよう予測演算を行うフィードフォワード方式(予測演算方式)を採用したものもある。図7は、そうしたフィードフォワード型の適応制御システムを示した第2実施形態のブロック図であり、ここでも前記実施形態と同様、鉄道車両内の騒音低減装置として構成した場合について説明する。
フィードフォワード方式を採用したこの適応制御システム50では、先ず、図1に示したフィードバック型の適応制御システム10にはない、騒音源に設置された騒音検出マイク51が設けられている。そして、その騒音検出マイク51が単一周波数(例えば120Hz)の正弦波を抽出する正弦波抽出バンドパスフィルタ52を介して、伝達特性同定フィルタ53や適応フィルタ54に接続されている。
一方、評価位置に設置された評価マイク55には、同じ120Hzの単一周波数の正弦波を抽出する正弦波抽出バンドパスフィルタ56が接続されている。そして、適応フィルタ係数演算器57が設けられ、それに正弦波抽出バンドパスフィルタ56や伝達特性同定フィルタ53が接続されている。そして、本実施形態でも、伝達特性同定フィルタ53に対して直列に接続された正弦波抽出バンドパスフィルタ58が設けられている。
そして、こうしたフィードフォワード方式の適応制御システム50では、騒音検出マイク51で検出した音から消音を行う位置での音を予測し、そこで同振幅で逆位相となる音を演算し、制御音発生スピーカ59から制御音を出力する。一方、評価マイク55で収集された音は、次の正弦波抽出バンドパスフィルタ56によってその入力波から単一周波数が抽出され、その抽出された入力信号が適応フィルタ係数演算器57へ送られる。適応フィルタ係数演算器57では、入力信号について、その残差成分(低減しきれなかった騒音)を演算し、評価マイク55の位置での音圧を最小にするよう適応制御による予測演算が行われる。その際、伝達特性同定フィルタ53によって生成された同定信号は、正弦波抽出バンドパスフィルタ58を通ることで、正弦波抽出バンドパスフィルタ52,56を通った入力信号に生じる周波数揺らぎに対する性能劣化を防止することができる。
そして、適応フィルタ54や適応フィルタ係数演算器57には、90度移相器61,62が接続されており、騒音検出マイク51からの制御信号(サイン波)に対して位相が90度ずれたコサイン波が生成され、適応フィルタ54や適応フィルタ係数演算器57の三角関数の合成関数に入力される。
従って、こうしたフィードフォワード方式のシステムでも、入力信号や制御信号が周波数の揺らいだ正弦波であっても、同定信号がそれに整合するため、位相のずれによって破綻してしまうことなく適切に消音させることができる。
以上、本発明に係る適応制御システムの実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなくその趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、鉄道車両内の騒音について消音する場合を想定して説明したが、この適応制御システムは、そうしたものに限定されることなく、また音だけではなく振動に対しても利用できるものである。
フィードバック方式を採用した適応制御システムの第1実施形態を示すブロック図である。 伝達特性の同定法を示したブロック図である。 正弦波抽出バンドパスフィルタの特性例を示した図である。 第1実施形態で実行するシステム同定のイメージを波形で示した図である。 従来のシステムで周波数の揺らいだ正弦波を適応制御した場合の制御波形を示した図である。 第1実施形態のシステムで周波数の揺らいだ正弦波を適応制御した場合の制御波形を示した図である。 フィードフォワード方式を採用した適応制御システムの第2実施形態を示すブロック図である。 従来の適応制御システムを示すブロック図である。
符号の説明
10 適応制御システム
11 制御音発生スピーカ
12 評価マイク
13,21,22 正弦波抽出バンドパスフィルタ
14 適応フィルタ係数演算器
15 第1の伝達特性同定フィルタ
17 適応フィルタ
19 第2の伝達特性同定フィルタ
20 演算器

Claims (2)

  1. 振動や騒音である制御対象波を低減させるための制御波を出力するアクチュエータと、その制御波の伝播先に配置された評価センサと、その評価センサが受けた入力波から正弦波を抽出した入力信号を得る正弦波抽出バンドパスフィルタと、前記アクチュエータの制御波の出力を制御する適応フィルタと、前記入力信号と前記制御対象波から得られる正弦波の信号とを比較して前記適応フィルタの演算係数を算出する適応フィルタ係数演算器とを有し、
    前記適応フィルタ係数演算器では、前記評価センサに接続された正弦波抽出バンドフィルタからの入力信号と、第1の伝達特性同定フィルタを有し、それによって前記制御対象波から得られる正弦波の同定信号とを比較演算し、その演算結果に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数の更新を行う適応制御システムにおいて、
    前記第1の伝達特性同定フィルタに送られる前記制御対象波の正弦波を、前記適応フィルタから前記アクチュエータへ送信される制御信号に第2の伝達特性同定フィルタを介して得られた同定信号と、前記正弦波抽出バンドパスフィルタからの入力信号とを比較演算して得るフィードバック方式であり、
    前記第1及び第2の伝達特性同定フィルタには、周波数揺らぎによる影響をなくすため、前記評価センサに接続された前記正弦波抽出バンドパスフィルタ前記制御対象波に関して同じバンド幅を有し、同じ周波数揺らぎを生じる正弦波抽出バンドパスフィルタが、それぞれに接続されたものであることを特徴とする適応制御システム。
  2. 振動や騒音である制御対象波を低減させるための制御波を出力するアクチュエータと、その制御波の伝播先に配置された評価センサと、その評価センサが受けた入力波から正弦波を抽出した入力信号を得る正弦波抽出バンドパスフィルタと、前記アクチュエータの制御波の出力を制御する適応フィルタと、前記入力信号と前記制御対象波から得られる正弦波の信号とを比較して前記適応フィルタの演算係数を算出する適応フィルタ係数演算器とを有し、
    前記適応フィルタ係数演算器では、前記評価センサに接続された正弦波抽出バンドフィルタからの入力信号と、伝達特性同定フィルタを有し、それによって前記制御対象波から得られる正弦波の同定信号とを比較演算し、その演算結果に基づいて前記適応フィルタのフィルタ係数の更新を行う適応制御システムにおいて、
    前記伝達特性同定フィルタに送られる前記制御対象波の正弦波を、前記制御対象波を検出する検出用センサで得られた制御対象波から、正弦波抽出バンドパスフィルタを介して得るようにしたフィードフォワード方式であり、
    前記伝達特性同定フィルタに、周波数揺らぎによる影響をなくすため、前記評価センサに接続された前記正弦波抽出バンドパスフィルタ前記制御対象波に関して同じバンド幅を有し、同じ周波数揺らぎを生じる正弦波抽出バンドパスフィルタが接続されたものであることを特徴とする適応制御システム。
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