以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態に先行する形態ですでに説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略す場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。またそれぞれの実施形態は、本発明における技術を具体化するために例示するものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明における技術内容は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である無線通信改善シート体1の断面図である。図2は、本発明の第1実施形態である無線通信改善シート体1の平面図である。無線通信改善シート体1は、厚み方向に垂直な面が長方形に形成される。図1は、図2に示す切断面線A−Aで無線通信改善シート体1を切断した断面図である。図1に示した無線通信改善シート体1は、後述する「空孔」または「切り欠き」19を図示しておらず、後に示す他の断面図においても同様に切り欠き19は図示しない。
無線タグは、識別情報を記憶する集積回路と、識別情報を無線通信によって送受信するためのアンテナ素子とを備える。以下、無線タグを「無線ICタグ」と称し、集積回路を「ICチップ」と称する。無線ICタグは、様々な物品に貼り付けられて、物流管理などに利用されている。識別情報とは、商品を識別するための情報である。無線ICタグは、予め定める周波数の電波によって通信を行う。無線通信改善シート体1は、無線ICタグと物品との間に介在して、無線ICタグの通信特性を改善する。本実施形態において、無線ICタグは、UHF(Ultra High Frequency)帯の周波数の電波によって、無線通信を行う。
無線通信改善シート体1は、無線ICタグを配置することによって、無線ICタグの通信に用いられる電波と同じ周波数の電波に共振して補助アンテナとして機能する。無線通信改善シート体1は、物品に取り付け可能で、かつシート状の複数の層が積層して形成される。無線通信改善シート体1は、前記複数の層として、補助アンテナ層11と、誘電体層12と、遮蔽層13とを含んで構成される。
補助アンテナ層11は、少なくとも1層の導電性の導体層17を有する。誘電体層12は、少なくとも1層からなり、絶縁性を有する。遮蔽層13は、少なくとも1層の誘電体層12を介して補助アンテナ層11に対向して配置される。遮蔽層13は、補助アンテナ層11よりも物品側に配置される。前記複数の層11,12,13は、互いに完全に分離することが阻止される。前記複数の層11,12,13のうちの少なくとも一部の層には、厚み方向に垂直な各表面の一部に、厚み方向に隣接する他の層に対して摺動可能な領域が形成される。
無線通信改善シート体1は、板状に形成される。無線通信改善シート体1は、厚み方向に垂直な面が長方形に形成される。無線通信改善シート体1の厚み方向を「厚み方向」Zと称する。厚み方向Zのうち、遮蔽層13から補助アンテナ層11に向かう向きを「厚み方向一方」Z1と称し、補助アンテナ層11から遮蔽層13に向かう向きを「厚み方向他方」Z2と称す。無線通信改善シート体1の長辺方向を「長辺方向」Xと称し、短辺方向を「短辺方向」Yと称す。
無線通信改善シート体1は、前記複数の層11,12,13が互いに分離することを阻止する保持手段16をさらに含む。保持手段16は、前記複数の層11,12,13の一部または全部を外囲する被覆膜15を含む。保持手段16は、前記複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する接合部を含む。接合部は、前記複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する接合層14である。
接合部のうちの少なくとも一部は、厚み方向に垂直な一表面の面積が、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに垂直ないずれの面の面積よりも小さく形成され、接合部以外の領域おいて摺動可能領域が形成される。接合層14は、接着性または粘着性を有する材料により構成される。接合層14は、厚み方向Zに垂直な一表面の面積が、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに垂直ないずれの面の面積よりも小さく形成される。無線ICタグは、補助アンテナ層11に関して物品とは反対側に配置される。
誘電体層12は、補助アンテナ層11よりも物品側に、補助アンテナ層11と平行に配置される。誘電体層12は、絶縁性の材料からなる。遮蔽層13は、誘電体層12に関して補助アンテナ層11と反対側に、補助アンテナ層11および誘電体層12に平行に配置される。遮蔽層13は、導電性の材料からなり、電磁的な遮蔽を行なう。
接合層14は、たとえば接着剤によって形成される接着層、または粘着剤によって形成される粘着層である。接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13を含む複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する。さらに接合層14は、遮蔽層13と被覆膜15とを互いに接合する。接合層14は、厚み方向Zに垂直な一表面の面積が、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の、厚み方向Zに垂直ないずれの面の面積よりも小さく形成される。本実施形態では、被覆膜15は、補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14を外囲して一体に保持する。
補助アンテナ層11は、導体層17と、絶縁体層18とから構成される。導体層17は、補助アンテナ層11の厚み方向他方Z2に形成され、絶縁体層18は、補助アンテナ層11の厚み方向一方Z1に形成される。導体層17は、金属などの導電体によって形成され、板状に形成される。導体層17は、厚み方向Zに垂直な面が長方形に形成される。
絶縁体層18は、厚み方向Zに垂直な面が、補助アンテナ層11と同一の寸法の長方形に形成される。絶縁体層18の厚み方向一方Z1に臨む面は、無線ICタグが配置される。絶縁体層18は、絶縁材料によって形成され、無線ICタグと補助アンテナ層11との間を絶縁する。導体層17と絶縁体層18とは、接着剤または粘着剤のいずれかによって接合される。無線ICタグは、補助アンテナ層11の厚み方向一方Z1に臨む面のほぼ中央の位置に、被覆膜15を介して配置される。
補助アンテナ層11は、導体層17に少なくとも1つの空孔または切り欠きを有する。補助アンテナ層11は、中央に空孔または切り欠き19が形成される。空孔または切り欠き19は、長方形に形成される。空孔または切り欠き19の長手方向と、無線通信改善シート体1の短辺方向Yとは一致する。空孔または切り欠き19は、補助アンテナ層11の長辺のうち一方の長辺の中央の端部から他方の長辺の中央に向かって形成される。空孔または切り欠き19は、補助アンテナ層11のうち、無線ICタグ22が無線通信改善シート体1に配置される状態で無線通信改善シート体1の厚み方向Zに見てICチップおよびアンテナ素子が配置される位置に形成される。
無線通信改善シート体1の厚み方向Zの厚み寸法はたとえば1〜10ミリメートル(
millimeters:略号「mm」)である。補助アンテナ層11は、長辺方向Xおよび短辺方向Yの寸法が、無線通信改善シート体1の長辺方向Xおよび短辺方向Yの寸法と同じかそれ以下である。たとえば補助アンテナ層11の寸法は、長辺方向Xが40〜200mmであり、短辺方向Yが10〜100mmである。切り欠き19の厚み方向Zの厚み寸法は、補助アンテナ層11の厚み寸法と同じであり、たとえば01〜2mmである。切り欠き19の長辺の寸法は、無線通信改善シート体1の短辺方向Yの寸法に対して、30〜95%となる寸法に形成され、たとえば10〜80mmである。切り欠き19の長手方向の寸法は、配置される無線ICタグによって異なるけれども、たとえば2〜80mmである。
他の実施の形態においては、補助アンテナ層11に切り欠き19を形成するのではなく、補助アンテナ層11に空孔を形成してもよい。空孔または切り欠き19は、補助アンテナ層11の導体板の内側に導体部分が存在しない部分があればよく、空孔や切り欠き19のみに限定されることない。また、空孔または切り欠き19は、形状に制限はなく、少なくともICチップと無線通信改善シート体1とが電磁結合できるものであれば、どのような形状であってもよい。空孔または切り欠き19は、たとえば多角形状、曲線形状、直線および曲線からなるもの、不定形などでもよい。
また、空孔または切り欠き19は、複数の補助アンテナの間隙部分やメッシュ部分、文字や記号の打ち抜き部分などでもよく、空孔または切り欠き19の寸法や無線ICタグとの位置関係によって補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13から構成されるマイクロストリップアンテナとの結合強度を調節することができ、空孔または切り欠き19自体の形状および大きさとICタグとの位置関係も電気特性に寄与している。したがって、これらの寸法をうまく調整することによって、無線ICタグと無線通信改善シート体1とを組み合わせるときのICチップやアンテナ素子が配置される位置のインピーダンスを制御することができ、アンテナの通信特性を改善することができる。
誘電体層12は、補助アンテナ層11に関して物品側に、補助アンテナ層11と平行に配置される。誘電体層12は、絶縁材料によって形成され、補助アンテナ層11と遮蔽層13との間を絶縁する。誘電体層12は、厚み方向Zに垂直な面が、補助アンテナ層11と同一の寸法の長方形に形成される。
遮蔽層13は、金属などの導電体によって形成される。遮蔽層13は、厚み方向Zに垂直な面が、補助アンテナ層11および誘電体層12と同一の寸法の長方形に形成される。遮蔽層13は、グラウンドとして機能し、通信妨害部材から無線ICタグおよび無線通信改善シート体1への電磁的な影響を遮断する。
接合層14は、補助アンテナ層11と誘電体層12との間、および誘電体層12と遮蔽層13との間に配置される。接合層14は、粘着性または接着性による接合力を有する材料で形成される。接合層14の材料は、柔軟性を有するものが好ましい。
接合層14は、前記複数の層11,12,13の厚み方向に垂直ないずれかの方向を長手方向とする帯状に形成される。接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の厚み方向Zに垂直ないずれかの方向を長手方向とする帯状に形成される。接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層に平行な予め定める方向に長い形状に形成される。接合層14の長手方向は、予め定める方向に垂直に設定される。帯状の接合層14は、各層のほぼ中央に形成され、無線通信改善シート体1の短辺方向Yに長く形成される。
接合層14は、前記複数の層11,12,13のうち互いに隣り合う2つの層の間に1箇所設けられる。接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13を含む複数の層11,12,13のうち互いに隣り合う2つの層の間に1箇所設けられる。接合層14は、補助アンテナ層11と誘電体層12との間に1箇所設けられ、誘電体層12と遮蔽層13との間に1箇所設けられる。
被覆膜15は、ポリ塩化ビニルなどの樹脂によって形成される。被覆膜15の材料は、柔軟性および伸縮性を有するものが好ましい。さらに被覆膜15の材料は、高誘電率の材料など無線ICタグの通信特性の悪化を防止するものが好ましい。被覆膜15は、接合層14によって接合された補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13を、すべて方向から外囲する。被覆膜15は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13のいずれの面にも、接着または粘着されずに摺動可能に形成される。
被覆膜15は、たとえば複数の層11,12,13のいずれの層よりも面積の広い2枚の樹脂シートで複数の層を挟み、複数の層11,12,13からはみ出した周囲部分を導電性の金型で上下から挟んで、金型間に高周波電流を流して被覆膜15となる樹脂シート界面を発熱させて溶着させるといった高周波ウェルダー加工によって形成される。
無線通信改善シート体1の長辺方向Xおよび短辺方向Yの寸法は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の寸法とほぼ同じであり、被覆膜15の厚み分だけ僅かに大きい。無線通信改善シート体1の厚み寸法は、約0.5〜10mmである。本実施形態において、無線通信改善シート体1は、長辺を2等分する仮想面に対して対称となる形状である。
無線ICタグは、無線通信改善シート体1の厚み方向一方Z1に臨む面に被覆膜15を介して配置される。無線ICタグは、接着剤または粘着剤のいずれかによって、被覆膜15に固定される。無線通信改善シート体1は、厚み方向一方Z1に臨む面が、物品に貼り付けられる。無線通信改善シート体1は、接着剤または粘着剤のいずれかによって、物品に固定される。
絶縁体からなる誘電体層12は、補助アンテナ層11および遮蔽層13と組み合わせてマイクロストリップアンテナとして動作する。誘電体層12の絶縁体に誘電率の大きな材料を用いると誘電体として波長を短縮する効果を有し、補助アンテナ層11を小型化することができる。絶縁体層18および誘電体層12は、無線ICタグと補助アンテナ層11との位置関係、および補助アンテナ層11と遮蔽層13との位置関係を保つことができれば、電磁エネルギの損失の低い、すなわち通信周波数帯域で誘電正接または磁性正接の低い材料を用いることが好ましい。絶縁体層18および誘電体層12は、下記に例示するような有機材料を用いる。
有機材料としては、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料などの多孔質体が挙げられる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ポリイミド樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体、さらには共重合体やリサイクル樹脂などが挙げられる。
絶縁体層18および誘電体層12は、以上の材料をそのままか、複合化、変性化して用いることができ、発泡することが好ましい。典型的な低密度の誘電体材料は、発泡スチロール樹脂などの発泡樹脂である。絶縁体層18および誘電体層12を形成する誘電体材料は、たとえば密度が1.0g/cm3未満であることが好ましい。
このような低密度の誘電体材料としては、多孔質有機材料、多孔質無機材料から選ばれる1または複数の材料を使用する。発泡しない材料を用いてもよいし、発泡しない材料と発泡材料を組み合わせてもよい。
発泡方法として手段は問わないが、発泡剤添加、または熱膨張性微粒子添加などに分類される。発泡剤は有機系発泡剤と無機系発泡剤がある。有機系発泡剤としては、たとえばジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラジドジカルボンアミド(HDCA)などが添加されるが、それに限られたものではない。
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムなどが添加されるがそれに限られたものではなく、材料に応じて適宜選択して添加してもよい。また熱膨張性微粒子としては、マイクロカプセル化した熱膨張性微粒子小球などが添加される。
発泡倍率も特に限定されるものではないが、吸収体の厚み変化が少なく、強度が保持され、かつ軽量化ができるような形態にする必要がある。これらから好ましくは、発泡倍率は2〜30倍程度が好ましい。発泡構造については特に限定されるものではないが、圧縮方向に強い構成、たとえば厚み方向Zに扁平発泡された発泡形態が好ましい。
絶縁体層18および誘電体層12は、受信した電波エネルギを損失無く送信エネルギに変える必要があるので、材料によるエネルギ損失が少ない材料を選定する必要がある。そのためには無線ICタグが無線通信に利用する電磁波の周波数において誘電正接が0.2以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下である。
絶縁体層18および誘電体層12を形成する誘電体は、低密度と低誘電正接とを兼ねているものがよいけれども、より重要なのはUHF帯などの通信周波数帯域で低い誘電正接を示すことである。
補助アンテナ層11および遮蔽層13は、導電性を有する導電材料から構成される。導電材料は、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、クロム、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボンブラックの混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルムなどであってもよい。上記金属などを、箔状、板状、シート状、フィルム状などに加工されたものであってもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600オングストローム(angstrom:略号「Å」)の金属薄層が形成された構成を有してもよい。金属箔をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。
接合層14は、主に有機系接着剤を用いられ、たとえばアクリル系粘着テープである。有機系接着剤としては熱可塑性樹脂系、熱硬化性樹脂系、エラストマー系などが挙げられ、熱可塑性樹脂系としては、酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルアセタール系、エチレン・酢酸ビニル系、塩化ビニル系、アクリル系、ポリアミド系、セルロース系、α-オレフィン系などが挙げられ、熱硬化性樹脂系としてはユリア樹脂系、メラミ
ン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、構造用アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアロマティック系などがあり、エラストマー系にはクロロブレンゴム系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ポリサルサイド系、ブチルゴム系、シリコーンゴム系、アクリルゴム系、変性シリコーンゴム系、ウレタンゴム系などが挙げられる。
被覆膜15は、誘電体層12と同様の材料によって構成される。被覆膜15の材料は、有機材料としては、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材などの高分子有機材料等の多孔質体が挙げられる。本実施形態では、被覆膜15は、塩化ビニル樹脂によって構成される。
一般に無線ICタグは、識別番号などのデータを記録するICチップと、電波を送受信するためのアンテナ素子とからなる。無線ICタグは、RFID技術の一翼を担う製品として広く知られ、物流管理などの分野にも応用されている。無線ICタグは、安価な情報記憶媒体であり、物流管理など用途が多岐にわたることから、様々な使用環境に置かれることになる。
無線ICタグは、薄型、軽量で実現できることが大きな利点となっている。このような利点を十分に生かすためには、タグの貼り付け位置に制限がなく、どこにどのように貼り付けても、通信可能に構成されていることが好ましい。しかしながら、無線ICタグは、通信妨害部材の近傍に配置されると、通信特性が悪化し、通信可能な距離が短くなるという問題がある。
無線ICタグの通信を妨害する通信妨害部材は、たとえば金属などの導電性部材、ガラスなどの誘電体、および磁性部材などがある。通信妨害部材の誘電性部材としては、ガラス以外にも、紙および液体などが挙げられる。
無線通信改善シート体1は、無線ICタグを配置したときに、無線ICタグが無線通信を行う周波数の電波に補助アンテナ層11が共振する構成である。補助アンテナ層11は、無線ICタグが通信する周波数の電波の波長をλとすると、少なくとも一つの辺長がλ/8〜3λ/4の範囲に入る共振寸法に形成される。
ここで、本発明でいう無線ICタグを無線通信改善シート体1に配置するときの「配置」とは、無線ICタグのアンテナ素子と無線通信改善シート体1とを結線などで電気的に接触することなく、無線ICタグのアンテナ素子と無線通信改善シート体1とが、導体周りの電磁界を介して互いに電磁結合を行える状態にすることをいう。
無線ICタグを無線通信改善シート体1に配置した状態、すなわち無線ICタグと無線通信改善シート体1とを組み合わせた状態で補助アンテナ層11の導体層17と誘電体層12と遮蔽層13は、無線ICタグによる通信に用いられる電波の周波数で共振するマイクロストリップアンテナを構成し、無線ICタグの通信を補助する補助アンテナとして機能する。マイクロストリップアンテナでは補助アンテナ層11と遮蔽層13との間の誘電体層12が共振し、共振周波数において誘電体層12内の電磁界が強められる。遮蔽層13は、仮に無線ICタグが通信妨害部材に無線通信改善シート体1を介して貼り付けられたときに、通信妨害部材と無線通信改善シート体1とを電磁的に遮蔽し、通信妨害部材から無線通信改善シート体1に与える影響を小さくする。
無線ICタグのアンテナ素子と補助アンテナとは、無線ICタグのICチップまたはアンテナ素子が対向する位置にある空孔または切り欠き19を通じて電磁結合を行う。また、この空孔または切り欠き19によって、無線ICタグと無線通信改善シート体1とを組み合わせたときのICチップ位置から見たアンテナのインピーダンスを調節でき、ICチップのインピーダンスと共役整合させることにより、チップとアンテナ間の電力伝達を効率化させることができる。したがって、無線ICタグは、補助アンテナ層11によって無線通信を行うことが可能となる。これによって、無線通信改善シート体1は、無線ICタグの通信特性を改善し、通信可能な距離を延ばすことができる。
(比較例)
図3は、比較例の無線通信改善シート体1の断面図である。図3に示した無線通信改善シート体1は、図1および図2に示した無線通信改善シート体1と接合層14および被覆膜15が異なる構成である。
無線通信改善シート体1は、接合層14が補助アンテナ層11と誘電体層12との間、および誘電体層12と遮蔽層13との間に形成される。無線通信改善シート体1は、各層11,12,13の厚み方向Zに垂直な面の全体が、接合層14によって互いに接合される。無線通信改善シート体1は、被覆膜15を有さず、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13が、無線通信改善シート体1の外表面として露出する。
図4は、比較例の無線通信改善シート体1および無線ICタグ22の断面図である。無線ICタグ22は、厚み方向Zに垂直な面が長方形に形成される。無線ICタグ22は、無線通信改善シート体1の厚み方向一方Z1に臨む面に配置される。無線ICタグ22は、厚み方向Zに垂直な面の全体が、接合層14によって無線通信改善シート体1に接合される。無線ICタグ22の長手方向と無線通信改善シート体1の長辺方向Xとは、一致する。
図5は、比較例の無線通信改善シート体1を曲げた状態の断面図である。図5に示した無線通信改善シート体1は、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが付与されている状態を示す。
補助アンテナ層11および遮蔽層13は、ポリエチレンテレフタラート(polyethylene
terephthalate:以下「PET」と称す)などの縦弾性係数の高い基材とともに形成されるので、ゴム、熱可塑性エラストマーなどの材料によって形成される誘電体層12と比べて、剛性が大きい。無線通信改善シート体1は、曲率半径の最も外側に位置する補助アンテナ層11において、最も大きな引張応力が与えられ、曲率半径の最も内側に位置する補助アンテナ層11において、最も大きな圧縮応力が与えられる。図5において、引張応力を矢符31で示し、圧縮応力を矢符32で示す。また、一点鎖線は、引張応力および圧縮応力が付与されない中立面34を示す。
無線通信改善シート体1は、各層が全面で接合されているので、無線通信改善シート体1全体の厚み寸法は、補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14の各厚み寸法の和となる。また、中立面34から離れた位置に縦弾性係数の高い補助アンテナ層11および遮蔽層13が位置している。したがって、無線通信改善シート体1は、曲げ剛性が大きくなり、柔軟性に欠けるので、曲面に貼ることが困難であるという問題を有している。
また、無線通信改善シート体1の厚み寸法を大きくすると無線ICタグ22の通信特性を向上させることが可能である。また誘電体層12に誘電率の高い材料を用いると無線通信改善シート体1を小型化することが可能であるけれども、誘電率の高い材料には剛性の高いものが多い。いずれも無線通信改善シート体1の曲げ剛性が大きくなるという問題を有している。
図6は、本発明の第1実施形態である補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の断面図である。図7は、本発明の第1実施形態である補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13を曲げた状態の断面図である。図6および図7に示した補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、曲げ剛性の説明をするために図1に示した無線通信改善シート体1から被覆膜15を取り除いている。
図6に示した補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、曲げモーメントが付与されていない状態を示す。したがって、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、厚み方向Zに垂直な面が、平面状となっている。
図7に示した補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが付与されている状態を示す。補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層は、曲率半径を半径とする仮想円の中心を軸線として、曲げモーメントが付与される。補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の曲げ剛性は、両端が支持される「はり」である両端支持ばりの曲げ剛性に近似するとして、次のように計算できる。
補助アンテナ層11は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の外側の面、すなわち厚み方向一方Z1に臨む面において、最も大きい引張応力が付与される。補助アンテナ層11は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の内側の面、すなわち厚み方向他方Z2に臨む面において、最も大きい圧縮応力が付与される。図7において、引張応力を矢符31で示し、圧縮応力を矢符32で示す。補助アンテナ層11は、接合層14が形成されていない領域において、引張応力と圧縮応力とがいずれも付与されない面である中立面34が形成される。補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層のうち、接合層14によって接合されていない領域を、以後「摺動可能領域」とも称す。
補助アンテナ層11と同様に、誘電体層12は、引張圧力と圧縮応力とが付与され、摺動可能領域において中立面34が形成される。遮蔽層13は、引張圧力と圧縮応力とが付与され、摺動可能領域において中立面34が形成される。図7では、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の摺動可能領域に形成される中立面34は、同時に各層の中立軸35をも示している。各中立軸35は、曲率半径を半径とする仮想円の円弧を表す。誘電体層12および遮蔽層13の厚み方向Zに垂直なそれぞれの面に付与される引張応力を矢符31で示し、圧縮応力を矢符32で示す。
補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層が接合層14によって互いに接合されている領域において一体となり、各層全体の中に1つの中立面34および中立軸35が形成される。
曲げ剛性は、曲げ剛性を「D」、ヤング率を「E」、断面2次モーメントを「I」として、数式(1)で表わされる。
また、断面が長方形に形成される補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の曲げの中立軸に対する断面2次モーメントIは、はりの軸方向であるX軸に直交するYZ方向の断面「A」について、断面上の微小面積部分の中立軸からの距離「z」の2乗と面積「dA」との積を断面全体で積分する値をとり、数式(2)で表わされる。
補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の断面が長方形に形成され、中立軸が長方形の中央に位置する場合の断面2次モーメントIは、厚み方向Z、すなわち曲率半径と等しい方向の断面の寸法を「h」、短辺方向Yの断面の寸法を「b」として、数式(3),(4)で表わされる。
数式(1)〜(4)より、断面2次モーメントは、各層の断面の厚み寸法の3乗に比例して大きくなり、曲げ剛性も各層の断面の厚み寸法の3乗に比例して大きくなる。補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層は、断面が長方形に形成されるので、数式(2)を用いて、各層の断面2次モーメントを求めることができる。
補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層は、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが付与されると、各層が接着されていない領域において互いに摺動しながら曲がることが可能である。したがって、各層は、各層の厚み寸法に応じた断面2次モーメントを各層ごとに計算できる。接着層が配置されていない領域での無線通信改善シート体1全体の断面2次モーメントは、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13のそれぞれの断面2次モーメントの和となる。
無線通信改善シート体1は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の各層が接着接合されて互いに摺動可能な構成の方が、各層の全面が接合されて各層が一体に形成される構成と比べて、断面2次モーメントの値が小さくなり、曲げ剛性が小さくなる。
無線通信改善シート体1の補助アンテナ層、誘電体層、遮蔽層によって金属面で動作可能なマイクロストリップアンテナが構成される。無線ICタグのアンテナはダイポールアンテナを基本としたアンテナであることが多く、ダイポールアンテナは貼る物品の影響を受けやすいので導電率や誘電率が大きい物品に貼ると放射特性が低下する。それに対し、無線通信改善シート体のマイクロストリップアンテナは貼り付ける物品の影響を受けにくいという特徴がある。無線通信改善シート体のマイクロストリップアンテナは、無線ICタグ配置した状態において無線ICタグの通信周波数の電波に共振するよう調整されており、無線ICタグのアンテナと無線通信改善シートのマイクロストリップアンテナとがそれぞれ無線ICタグの通信周波数で共振する。無線通信改善シート体に無線ICタグを配置する場合、無線ICタグのアンテナと無線通信改善シートのマイクロストリップアンテナは電磁的に結合しており、無線ICタグからの電波の送受信は無線通信改善シートのマイクロストリップアンテナを介して行われる。したがって、本発明の無線通信改善シート体は貼る物品の影響を受けにくく、無線ICタグに対して補助アンテナとして機能する。本発明を用いることにより、無線ICタグを導電率や誘電率の高い物品に貼る場合の通信を改善することができる。
このように、無線通信改善シート体1は、前記複数の層11,12,13が、互いに分離することが阻止される。また、前記複数の層11,12,13のうちの少なくとも一部の層には、厚み方向Zに垂直な各表面の一部に、厚み方向Zに隣接する他の層に対して摺動可能な領域が形成される。
無線通信改善シート体1が曲面を成す物品の表面に貼付された状態において、無線通信改善シート体1は、物品の曲面に沿った形状に変形される。このとき、無線通信改善シート体1の片面は圧縮され、もう片面は伸長される。無線通信改善シート体1が弾性変形するならば、無線通信改善シート体1には弾性復元力が生じ、弾性復元力は無線通信改善シート体1の曲げ剛性が大きいほど大きくなる。弾性復元力が大きくなると無線通信改善シート体1を曲げづらくなり、曲面の物品面に貼ることが困難になる。仮に、物品面に貼ることができたとしても、無線通信改善シート体1に長期的な弾性復元力が生じ、無線通信改善シート体1が、貼付された物品から剥離するおそれがある。特に無線通信改善シート体1と物品とを粘着剤によって貼り付けた場合、長期的な弾性復元力の発生によってクリープ現象が発生して粘着剤自体が分離する可能性がある。
これに対し、前記複数の層11,12,13の一部の層に摺動可能領域が形成される無線通信改善シート体1においては、摺動可能領域にてひずみが開放されるので、無線通信改善シート体を曲げたときに生じるひずみを小さくすることができる。したがって、無線通信改善シート体1を曲げたときに生じる弾性復元力を可及的に小さくすることができる。また複数の層11,12,13は、互いに分離することが阻止されるので、無線通信改善シート体1の各層が摺動可能な領域において互いに分離することを防止することができる。
また、曲げた状態の無線通信改善シート体1には、曲げモーメントが付与されている。曲げモーメントが大きいと無線通信改善シート体1を曲げたときに生じる弾性復元力が大きくなり、無線通信改善シート体1の曲げ剛性が大きな場合や曲率半径が小さい条件では、曲げモーメントはより大きくなる。曲げた状態の無線通信改善シート体では、曲げの内側には圧縮力によるひずみが生じ、外側では引張力によるひずみが生じる。また、曲げた状態の無線通信改善シート体では、曲げの内側には圧縮応力が付与され、外側では引張応力が付与され、この両者の間に圧縮応力および引張応力が付与されない中立軸が存在する。
本発明が対象とする無線通信改善シート体1には、導電性材料からなる層を含む補助アンテナ層11と遮蔽層13との間に絶縁体からなる1層以上の誘電体層12が位置する構成が含まれている。無線ICタグ22のアンテナ部分、無線通信改善シート体1の補助アンテナ層11および遮蔽層13は、導電材料から構成されており、過重負荷によるアンテナパターン配線の形状変形や断線、チップ接合部の破壊を防止するために、これらの導体層17は、通常、縦弾性係数の大きな基材とともに配置される。仮に、厚みのある誘電体層12に補助アンテナ層11や遮蔽層13などの導体層17の面の全体が接合された状態では、誘電体層12内に曲げ応力の中立軸ができるため、導体層17の断面は中立軸から離れた場所に位置することとなり、導体層17の断面2次モーメントおよび曲げ剛性が大きくなって、無線通信改善シート体1全体の曲げ剛性も大きくなる。誘電体層12の片側のみに導体層17を貼り付けた場合は、誘電体層12内でも導体層17に近い位置に曲げ応力の中立軸ができるけれども、両側に貼り付けた場合は、曲げ応力の中立軸が誘電体の中央付近に位置してしまうので、導体層17の断面2次モーメントおよび曲げ剛性がさらに大きくなってしまう。
これに対し、本無線通信改善シート体1では、各層11,12,13が他の層に対して摺動可能な領域である摺動可能領域が形成されているので、無線通信改善シート体1を曲げたとき、摺動可能領域において各層が互いに摺動することによって、各層が単独で曲がるようになり、各層の断面内部に曲げの中心軸ができる。断面外部に曲げの中心軸がある場合と比べて、断面内部に曲げの中心軸がある場合は断面2次モーメントが小さくなる。縦弾性係数の大きな基材とともに配置される導体層17の断面2次モーメントを小さくさせることによって、導体層17部分の曲げ剛性を小さくすることができる。したがって、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントを、無線通信改善シート体1に付与したときの、無線通信改善シート体1の曲げ剛性を小さくすることができる。
また、無線通信改善シート体1に曲げモーメントを付与したときには、各層11,12,13は、摺動可能領域において互いに摺動しながら曲げられる。これによって、各層が互いに摺動できない場合に比べて、無線通信改善シート体1を変形させやすくなる。無線通信改善シート体1を曲面に追従させるように貼り付けたときの各層に付与される引張応力および圧縮応力の最大値を、小さくすることができる。したがって、無線通信改善シート体1の損傷を防止することができ、曲げ剛性も小さいので、無線通信改善シート体1を、物品の曲面部分に容易に貼り付けることができる。
無線ICタグが配置された無線通信改善シート体1は、無線通信改善シート体1の曲げ剛性が小さいので、曲げやすく、湾曲した物品の表面にも追従しやすくて、貼った後も剥がれにくいので、物品の曲面部分に容易に貼り付けることができる。したがって、無線ICタグが配置された無線通信改善シート体1は、様々な形状の面に貼り付けて、様々な物品の管理を行うことが可能となり、無線ICタグの用途を拡大することができる。
また、前記複数の層の熱膨張率の差によって温度変化時の生じるひずみについても摺動可能領域によって低減することができる。前記複数の層は樹脂材料と金属材料からなっており、一般に樹脂材料は金属材料よりも線膨張係数が大きい。たとえば、シートの温度を上げていくと線膨張係数の大きな樹脂材料によって金属材料は伸張され、シートの温度を下げると圧縮される。温度変化が繰り返し行われると、シートにそりやしわやクラックなどが発生する可能性がある。本発明では、材料の異なる層の間に摺動可能領域があり、熱によるひずみを低減することができる。したがって、温度変化に強い金属対応シートを提供することができる。
また本発明によれば、無線通信改善シート体1は、前記複数の層11,12,13が互いに分離することを阻止する保持手段16をさらに含む。したがって、保持手段16は、無線通信改善シート体1が物品の曲面部分に貼付されたときに、各層11,12,13が分離することを阻止して、無線通信改善シート体1の取扱いを容易にすることができる。
また、保持手段16は、各層11,12,13が分離することを阻止しつつ、各層の摺動可能領域を確保することによって、各層の曲げ剛性が大きくなることを抑制することができる。これによって、無線通信改善シート体1は、曲げ剛性が大きくならないので、物品の曲面部分に容易に貼付することができる。
また本発明によれば、保持手段16は、前記複数の層11,12,13,14の一部または全部を外囲する被覆膜15を含む。したがって、被覆膜15は、前記複数の層11,12,13,14を外囲して一体に保持することができる。これによって、無線通信改善シート体1を曲げたときの厚み方向Zの寸法変化が小さくなるので、無線通信改善シート体1を曲げたときの補助アンテナの性能変化が小さくなる。したがって、本発明によれば貼り付ける物品の材質や場所を選ばずに使用できる無線通信改善シート体1を提供することができる。
また被覆膜15は、各層11,12,13,14を外囲して保持することによって互いの分離を阻止するので、無線通信改善シート体1の各層が摺動可能領域において互いに分離することを防止することができる。また、無線通信改善シート体1は、被覆膜15によって各層11,12,13,14を保護し、各層の耐久性、耐候性、耐衝撃性などを高めることができる。
また本発明によれば、保持手段16は、前記複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する接合層14を含む。接合層14は、厚み方向Zに垂直な一表面の面積が、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに垂直ないずれの面の面積よりも小さく形成される。
したがって、本無線通信改善シート体1では、厚み方向Zに隣接する層間が接合されない領域を形成することができる。これによって、各層11,12,13を拘束する面積が少なくなり、各層の変形自由度が増す。無線通信改善シート体1を曲げると各層が独立して曲がるので、各層の全面を接合する場合と比べて、無線通信改善シート体の曲げ剛性を低下させることができる。
接合層14は、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに垂直ないずれかの方向を長手方向とする帯状に形成される。したがって、接合層14を可及的に小さい点として形成する場合に比べて、接合層14が配置される領域の面積を大きくすることができる。中立軸が、接合層14の長手方向に垂直な面内に設定される曲げモーメントが付与されたときに、接合層14が配置されない領域における各層の互いの摺動を、許容することができる。これによって、無線通信改善シート体1が、接合層14の長手方向に延びる軸線まわりに、容易に曲げられることを許容することができる。
接合層14は、前記複数の層11,12,13のうち互いに隣り合う2つの層の間に1箇所設けられる。したがって、接合層14によって接合される領域を除く残余の領域において、互いに隣り合う2つの層が摺動することを、容易にすることができる。
補助アンテナ層11は、導体層17に少なくとも1つの空孔または切り欠き19を有する。したがって、無線通信改善シート体1は、導体層17の空孔または切り欠き19を介して、無線ICタグとの間で、電磁的に結合することができる。また、導体層の空孔または切り欠きの寸法および無線ICタグとの位置関係を調整することにより、電磁結合強度を調整でき、無線ICタグおよび無線通信改善シート体のアンテナインピーダンスを制御することが可能である。これによって、無線通信改善シート体1は、より効率の良い無線ICタグの補助アンテナとして機能することができる。
無線ICタグは、補助アンテナ層11に関して物品とは反対側に配置される。したがって、無線通信改善シート体1は、無線ICタグが配置されたとき、遮蔽層13によって物品から無線ICタグへの電磁的な影響を遮蔽し、無線ICタグの補助アンテナとして機能することができる。また、無線ICタグを無線通信改善シート体1に容易に配置することができる。
また本発明によれば、保持手段16は、前記複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する接合部を含む。したがって、前記複数の隣り合う2つの層は互いに接合され、無線通信改善シート体1が互いに分離されることを阻止することができる。
また本発明によれば、接合部は、前記複数の層11,12,13のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を互いに接合する接合層14であることを特徴とする。したがって、前記複数の隣り合う2つの層がともに直接接合できない材料同士であったとしても接合層14を介して接合することができ、無線通信改善シート体1が互いに分離されることを阻止することができる。
また本発明によれば、接合層14は、接着性または粘着性を有する材料により構成されることを特徴とする。したがって、前記接着性または粘着性を有する材料を介して前記複数の隣り合う2つの層を接合することができ、無線通信改善シート体1が互いに分離されることを阻止することができる。
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、前記無線ICタグ22と、前記無線通信改善シート体1とを含んで構成される。無線ICタグ22は、補助アンテナ層11の厚み方向一方Z1に臨む面に配置される。被覆膜15は、無線ICタグ22、補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14を外囲して一体に保持する。
無線ICタグ22は、ICチップ23とアンテナ素子24とからなる。各接合層14は、前記複数の層11,12,13のうち互いに隣り合う2つの層の間において、無線ICタグ22が配置されるときに、各層の厚み方向Zに見てICチップ23が配置される位置と同じ位置に形成される。
ICチップ23は、識別番号などのデータを記録する。アンテナ素子24は、ICチップ23に電気的に接続され、リーダからの電波を受信するとともに、リーダへ電波を送信する。ICチップ23は、アンテナ素子24を介して、リーダとの間でデータの送受信を行う。リーダは、無線ICタグ22と予め定める周波数、たとえばUHF帯の電波を放射して、無線ICタグ22と通信を行い、無線ICタグ22との間でデータを送受信する。
無線ICタグ22は、たとえばUPM Raflatac社製のShort Dipoleタグやbeltタグである。Short Dipoleタグの寸法は92mm×11mmであり、beltタグは702mm×15mmである。ICチップ23は、たとえばNXP社製のUCODE G2XMである。
無線ICタグ22は、厚み方向Zに見て長方形に形成される。無線ICタグ22は、絶縁体層18の厚み方向一方Z1に臨む面のほぼ中央に配置される。無線ICタグ22は、接合層14よって、絶縁体層18に固定される。無線ICタグ22と被覆膜15との間は、接合剤または粘着剤によって接合されず、摺動可能である。ICチップ23は、矩形に形成される。ICチップ23は、無線通信改善シート体1の厚み方向一方Z1に臨む面のほぼ中央、すなわち厚み方向Zに見て接合層14が形成される位置に配置される。
接合層14は、厚み方向Zに見て矩形に形成される。接合層14は、厚み方向Zに見て各辺の寸法がICチップ23よりも大きく形成される。また接合層14は、他の実施形態において、厚み方向Zに見て矩形の形状に限らず、たとえば円、楕円などで形成されてもよい。円は、これに内接しかつICチップ23の外形に対して相似である四角形が、ICチップ23よりも大きくなる大きさとして設定される。
このように、無線ICタグ22は、ICチップ23とアンテナ素子24とからなる。各接合層14は、前記複数の層11,12,13のうち互いに隣り合う2つの層の間において、無線ICタグ22が配置されるときに、各層の厚み方向Zに見てICチップ23が配置される位置と同じ位置に形成される。接合層14によって無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が一体に接合された部分は、曲げ剛性が高くなっているのに対し、接合されていない部分は、曲げ剛性が低くなっている。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、全体的な無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の曲げ剛性が低く、かつICチップ23が配置される領域については、最も曲げ剛性が高い。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、曲げられたときに、ICチップ23部分に曲げモーメントが付与されることを抑制することができる。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、無線ICタグ22が動作不良を起こすことを防止することができる。
無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、前記無線ICタグ22と前記無線通信改善シート体1とを含んで構成される。したがって、無線通信改善シート体1は、各層11,12,13が互いに分離することを防止することができるので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の取扱いを容易にすることができる。
また、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が曲面を成す物品の表面に貼付された状態において、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、物品の曲面に沿った形状に変形される。このとき、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が弾性変形するならば、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6には弾性復元力が生じる。各層が互いに摺動可能に一体化される無線通信改善シート体付き無線ICタグ6において、各層が互いに摺動するので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6をフレキシブルに変形させることができる。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に生じる弾性復元力を可及的に小さくすることができる。また被覆膜15は各層を外囲して保持することによって互いの分離を阻止するので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の各層が摺動可能領域において互いに分離することを防止することができる。
また、仮に各層の面の全体が接合された状態では、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントを、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に付与すると、各層全体の厚み寸法が、断面2次モーメントに寄与する。これに対し、接合層14の面積を、各層11,12,13の厚み方向Zに垂直な面の面積よりも小さく形成することによって、本無線通信改善シート体付き無線ICタグ6では、厚み方向Zに隣接する層間が接合されない領域を形成することができる。
これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6全体の断面2次モーメントを、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の厚み寸法全体で決定される値ではなく、各層11,12,13の断面2次モーメントの合計とすることができる。断面2次モーメントは、厚み方向Zの寸法の3乗に比例するので、各層の断面2次モーメントの合計は、各層の面全体が接合された場合に比べて小さくなる。したがって、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントを、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に付与したときの、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の曲げ剛性を小さくすることができる。
また、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に曲げモーメントを付与したときには、各層11,12,13は、接合層14によって接合されていない領域において互いに摺動しながら曲げられる。これによって、各層が互いに摺動できない場合に比べて、各層に付与される引張応力および圧縮応力の最大値を、小さくすることができる。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の損傷を防止することができる。また、曲げ剛性を小さくすることができるので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を、物品の曲面部分に容易に貼り付けることができる。
無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、曲げ剛性が小さいので、物品の曲面部分に容易に貼り付けることができる。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、様々な形状の面に貼り付けて、様々な物品の管理を行うことが可能となり、無線ICタグの用途を拡大することができる。
(実施例1)
図9は、本発明の実施例1の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。図10は、本発明の実施例1の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を分解した平面図である。
図10(f)は、遮蔽層13を厚み方向一方Z1から見た状態を示す。図10(e)は、図10(f)の遮蔽層13の厚み方向一方Z1に接合層14を配置した状態を示す。図10(d)は、図10(e)の遮蔽層13および接合層14の厚み方向一方Z1に誘電体層12を配置した状態を示す。図10(c)は、図10(d)の誘電体層12の厚み方向一方Z1に接合層14を配置した状態を示す。図10(b)は、図10(c)の誘電体層12および接合層14の厚み方向一方Z1に補助アンテナ層11を配置した状態を示す。図10(a)は、図10(b)の補助アンテナ層11および接合層14の厚み方向一方Z1に無線ICタグ22を配置した状態を示す。
実施例1では、第2実施形態の構成で、無線ICタグ22と無線通信改善シート体1とを組み合わせて、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を形成した。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を物品に取り付けるときの物品側から、厚み寸法が120マイクロメートル(micrometers:略号「μm」)のアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が420μmのエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(Ethylence-Vinyl
Acetate:略称「EVA」)含有ポリエチレンからなる被覆膜15、厚み寸法が30μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が50μmのアルミ箔とからなる遮蔽層13、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が2mmの発泡ポリエチレンからなる誘電体層12、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、アルミ箔テープからなる補助アンテナ層11の導体層17、厚み寸法が100μmのPETからなる補助アンテナ層11の絶縁体層18、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、Raflatac社製のShort Dipoleタグからなる無線ICタグ22、厚み寸法が420μm EVA含有ポリエチレンからなる被覆膜15を積層した。前面側と背面側の被覆膜15の外周部分を高周波ウェルダーによって融着した。
補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、長辺方向Xおよび短辺方向Yの寸法がそれぞれ同じであり、長辺方向Xの寸法を100mm、短辺方向Yの寸法を28mmとした。補助アンテナ層11には、中央部分に長辺方向Xの寸法が42mm、短辺方向Yの寸法が22mmの空孔19を設けた。
遮蔽層13と誘電体層12との間の接合層14は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の中央部分に長辺方向Xの寸法が10mm、短辺方向Yの寸法が28mmの帯状に設けた。誘電体層12と補助アンテナ層11の導体層17との間の接合層14は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の中央部分の長辺方向Xの寸法が10mm、短辺方向Yの寸法が28mmの帯状領域のうち空孔19以外の部分に設けた。補助アンテナ層11の絶縁体層18と無線ICタグ22との間の接合層14は、無線ICタグ22の中央部分に長辺方向Xの寸法が10mm、短辺方向Yの寸法が11mmの領域と、補助アンテナ層11の空孔19部分を介して誘電体層12の中央部分との間に設けた。
被覆膜15の融着部分は、長辺方向Xの寸法が2mmである。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6全体の外形寸法は、長辺方向Xが107mm、短辺方向Yが35mm、厚み方向Zが352mmとなった。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の裏面の接合層14、すなわち被覆膜15と物品とを接合する接合層14は、全面に設けた。
RFIDリーダ(オムロン社製V750 - BA50C04-JP、円偏波アンテナV750 - HS01CA-JP)を用いて出力225dBmEIRP実効輻射電力約1Wにて、このタグを金属板に貼って通信距離を測定したところ23mであった。「dBm」とは、1mWを0dBmとして対数表記したものである。
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と、誘電体層12が異なる構成である。
誘電体層12は、複数設けられる。誘電体層12は、各誘電体層12の誘電率が、全て同じでもよいし、互いに異なる複数種類の誘電率のうちのいずれか1つに設定されてもよい。誘電体層12は、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28とからなる。第1の誘電体層27と第2の誘電体層28とは、同一または異なる材料によって形成される。第1の誘電体層27の厚み寸法、および第2の誘電体層28の厚み寸法は、各誘電体層27,28の材料の誘電率に応じて、無線ICタグ22の通信特性を高める最適な寸法に設定される。以後、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28とを合わせて、単に「誘電体層」12とも称す。
接合層14は、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに見て円形状に形成される。接合層14は、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層の厚み方向Zに見て円形状に形成される。接合層14は、無線ICタグ22と補助アンテナ層11との間、補助アンテナ層11と第1の誘電体層27との間、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28との間、第2の誘電体層28と遮蔽層13との間、および遮蔽層13と被覆膜15との間にそれぞれ1箇所ずつ形成される。
このように、接合層14は、前記複数の層11,12,13の厚み方向Zに見て円形状に形成されるので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が、いずれの方向に曲げモーメントが付与される状態で配置された場合にも、各層11,12,13間の摺動を許容することができる。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、等方性を確保して曲げ剛性を低下させることができる。
誘電体層12は、複数設けられる。したがって、補助アンテナ層11および遮蔽層13の間に、同一の厚みの誘電体層12を設けるときには、単一の誘電体層12を設ける場合に比べて、複数の誘電体層12を設け、接合層14によって互いに接合されていない領域を誘電体層12に形成することができる。誘電体層12を単一の層として設ける場合には、誘電体層12全体の厚み寸法が、誘電体層12の断面2次モーメントに寄与する。これに対し、誘電体層12を複数の層とすることによって、誘電体層12全体の断面2次モーメントを、誘電体層12の厚み方向Zの合計寸法によって決定される値ではなく、各誘電体層12の断面2次モーメントの合計とすることができる。断面形状が長方形の場合の断面2次モーメントは、厚み方向Zの寸法の3乗に比例するので、各誘電体層12の断面2次モーメントの合計は、誘電体層12が単一の層として形成される場合に比べて、小さくなる。
したがって、曲率半径が各誘電体層12の厚み方向Zに定められる曲げモーメントを、誘電体層12に付与したときの、誘電体層12の曲げ剛性を小さくすることができる。また、誘電体層12に曲げモーメントを付与したときには、複数の誘電体層12が互いに摺動して変位することができる。これによって、各誘電体層12が互いに摺動できない場合に比べて、各誘電体層12に付与される引張応力および圧縮応力の最大値を、小さくすることができる。したがって、誘電体層12の損傷を防止することができる。また誘電体層12の曲げ剛性を小さくすることができるので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6全体の曲げ剛性を小さくすることができる。
誘電体層12は複数設けられ、各誘電体層12の誘電率が、互いに異なる複数種類の誘電率のうちのいずれか1つに設定される。したがって、複数の誘電体層12は、誘電体層12を単一の絶縁材料で形成するときに比べて、誘電体層12全体の誘電率を細かく調整することができる。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、無線ICタグ22の通信特性が悪化して通信距離が短くなることを確実に防止することができる。
円形状に形成される接合層14は、可及的に小さく形成される。したがって、各層11,12,13の接合されていない部分は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が曲げられた際に、円形状の接合層14が可及的に小さく形成されていないときに比べて、接合層14の短手方向に大きく摺動することができる。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、接合層14の長手方向を軸線として、さらに容易に曲げることが可能になる。
(実施例2)
図12は、本発明の実施例2の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。図13は、本発明の実施例2の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を分解した平面図である。
図13(g)は、遮蔽層13を厚み方向一方Z1から見た状態を示す。図13(f)は、図13(g)の遮蔽層13の厚み方向一方Z1に接合層14を配置した状態を示す。図13(e)は、図13(f)の遮蔽層13および接合層14の厚み方向一方Z1に誘電体層12を配置した状態を示す。図13(d)は、図13(e)の誘電体層12の厚み方向一方Z1に接合層14を配置した状態を示す。図13(c)は、図13(d)の誘電体層12および接合層14の厚み方向一方Z1に補助アンテナ層11を配置した状態を示す。図13(b)は、図13(c)の補助アンテナ層11および接合層14の厚み方向一方Z1に接合層14を配置した状態を示す。図13(a)は、図13(b)の補助アンテナ層11および接合層14の厚み方向一方Z1に無線ICタグ22を配置した状態を示す。
実施例2では、第3実施形態の構成で、無線ICタグ22と無線通信改善シート体1とを組み合わせて、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を形成した。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を物品に取り付けるときの物品側から、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が200μm 塩化ビニルシート
からなる被覆膜15、厚み寸法が30μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が50μmのアルミ箔からなる遮蔽層13、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が1mmの軟質ポリエチレンからなる誘電体層12、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、厚み寸法が1mmの軟質ポリエチレンからなる誘電体層12、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、アルミ箔テープからなる補助アンテナ層11の導体層17、厚み寸法が100μmのPETからなる補助アンテナ層11の絶縁体層18、厚み寸法が120μmのアクリル系粘着テープからなる接合層14、Raflatac社製のbeltタグからなる無線ICタグ22、厚み寸法が200μm 塩化ビニルシートからなる被覆膜15を積層した。前面側と背面側の被覆膜15を高周波ウェルダーによって融着した。
補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、長辺方向Xおよび短辺方向Yの寸法がそれぞれ同じであり、長辺方向Xの寸法を80mm、短辺方向Yの寸法を20mmとした。補助アンテナ層11には、中央部分に長辺方向Xの寸法が16mm、短辺方向Yの寸法が4mmの切り欠き19を設けた。
遮蔽層13と誘電体層12との間の接合層14は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の中央部分に長辺方向Xの寸法が10mm、短辺方向Yの寸法が20mmの帯状に設けた。2層の誘電体層12の間の接合層14は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の中央部分に長辺方向Xが10mm、短辺方向Yの寸法が20mmの帯状に設けた。誘電体層12と補助アンテナ層11の導体層17との間の接合層14は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の中央部分に長辺方向Xが10mm、短辺方向Yの寸法が20mmの帯状領域のうち切り欠き19以外の部分に設けた。
補助アンテナ層11の絶縁体層18と無線ICタグ22との間の接合層14は、無線ICタグ22の中央部分に長辺方向Xが10mm、短辺方向Yの寸法が15mmの領域に設けた。絶縁体層18と無線ICタグ22との間の接合層14は、補助アンテナ層11の中央部分に設け、切り欠き19については切り欠き19を介して誘電体層12に貼りつける形で設けた。
被覆膜15の融着部分は、長辺方向Xの寸法が1mmである。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6全体の外形寸法は、長辺方向Xが85mm、短辺方向Yが25mm、厚み方向Zが352mmとなった。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の裏面の接合層14、すなわち被覆膜15と物品とを接合する接合層14は、全面に設けた。
前述のRFIDリーダを用いて出力225dBmEIRP実効輻射電力約1Wにて、このタグを金属板に貼って通信距離を測定したところ15mであった。
(第4実施形態)
図14は、本発明の第4実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図11に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と、接合層14の位置および接合層14の形状が異なる構成である。
接合層14は、補助アンテナ層11と第1の誘電体層27との間、および第2の誘電体層28と遮蔽層13との間において、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の長辺方向一方X1の端部に形成される。接合層14は、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28との間において、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の長辺方向他方X2の端部に形成される。
接合層14は、図1に示した無線通信改善シート体1と同様に、帯状に形成される。接合層14は、可及的に細い帯状に形成される。したがって、各層11,12,13の接合されていない部分は、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6が曲げられた際に、接合層14が可及的に細い帯状に形成されていない場合に比べて、接合層14の短手方向に大きく摺動することができる。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、接合層14の長手方向を軸線として、さらに容易に曲げることが可能になる。
(第5実施形態)
図15は、本発明の第5実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図11に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と、接合層14の位置が異なる構成である。
接合層14は、補助アンテナ層11と第1の誘電体層27との間、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28との間および第2の誘電体層28と遮蔽層13との間において、それぞれ長辺方向一方X1の端部に形成される。
無線通信改善シート体付き無線ICタグ6のうち、接合層14が形成される長辺方向一方X1の端部を物品に最初に接触させる部位と定め、この部位を明示する表記を無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に付す。無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を物品に貼付するときには、前記表記によって明示された部位を最初に接触させ、長辺方向一方X1から長辺方向他方X2に順次、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を物品に貼付することによって、接合層14に外力が付与されることを防止することができる。したがって、接合層14によって互いに接合される各層11,12,13は、その面方向に関して互いにずれる向きには外力が付与されず、摺動可能領域においては、必要な摺動が貼付のときに行われる。これによって、一旦貼付した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に、物品から剥離しようとする応力が発生することを防止することができる。
したがって、接合層14は無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の長辺方向一方X1のみに形成されるので、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を物品の曲面部に貼り付けるとき、接合層14が形成される長辺方向一方X1の端部から容易に貼り付けることができる。
(第6実施形態)
図16は、本発明の第6実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と、被覆膜15の形状が異なる構成である。
保持手段16は、前記複数の層11,12,13,14の一部または全部を外囲する被覆膜15を含む。被覆膜15は、無線ICタグ22、補助アンテナ層11、誘電体層12、無線ICタグ22と補助アンテナ層11との間の接合層14、補助アンテナ層11と誘電体層12との間の接合層14、および誘電体層12と被覆膜15との間の接合層14を外囲して一体に保持する。遮蔽層13は、被覆膜15よりも物品側に配置され、接合層14によって被覆膜15と接合されている。無線ICタグ22と補助アンテナ層11との間の接合層14、補助アンテナ層11と誘電体層12との間の接合層14、および誘電体層12と被覆膜15との間の接合層14については接合層14の面積を、各層11,12,13の厚み方向Zに垂直な面の面積よりも小さく形成されるので、無線ICタグ22,補助アンテナ層11,誘電体層12,において摺動可能領域が形成される。遮蔽層13と被覆膜15については全体が接合層14よって接合されるが、厚みが薄いため曲げ剛性への影響は小さいと考えられる。
他の実施形態において、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、被覆膜15が、無線ICタグ22、補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13のうち少なくとも1つを外囲する構成にしてもよい。
(第7実施形態)
図17は、本発明の第7実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図11に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と比べて、第1の誘電体層27と第2の誘電体層28との接合の方法が異なる構成である。
接合部は、前記複数の層のうち、少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層を溶着または融着させ、互いに接合されている。複数の誘電体層12のうち少なくともいずれかの互いに隣り合う2つの層は、厚み方向Zに見て一部の領域において、互いに融着されている。この誘電体層12が融着されている領域を、「融着領域」36と称す。したがって、複数の誘電体層12は、融着領域36において、各誘電体層12が互いに分離することを阻止することができる。また、各誘電体層12は、誘電体層12の融着されていない領域において、摺動することができる。
(第8実施形態)
図18は、本発明の第8実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に類似する構成である。
誘電体層12は、誘電体層12を厚み方向Zに垂直に見たときの一部の領域が、厚み方向Zに分離可能に切り込み37が形成されている。切り込み37は、誘電体層12を厚み方向Zに見たときの一部の領域において、厚み方向Zに垂直に形成される。したがって、誘電体層12の切り込み37が形成されている領域において、誘電体層12は、摺動することができる。これによって、誘電体層12に切り込み37が形成されていないときに比べて、切り込み37が形成される誘電体層12は、曲げ剛性を小さくすることができる。
(第9実施形態)
図19は、本発明の第9実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図11に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と比べて、無線ICタグ6を配置する位置が異なる構成である。
無線ICタグ22は、補助アンテナ層11と遮蔽層13との間に配置される。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、遮蔽層13によって物品から無線ICタグ22への電磁的な影響を遮蔽し、無線ICタグ22の補助アンテナとして機能することができる。また、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、補助アンテナ層11および遮蔽層13によって、無線ICタグ22を挟んで配置するので、無線ICタグ22を衝撃などから保護することができる。
(第10実施形態)
図20は、本発明の第10実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と比べて、誘電体層12の形状が異なる構成である。
誘電体層12は、無線ICタグ22が配置されるときに、厚み方向Zに見てICチップ23が配置される位置と同じ位置に、凹所41または空孔が形成される。凹所41および空孔は、ICチップ23の長辺方向Xおよび短辺方向Yのそれぞれの寸法よりも大きく形成される。
凹所41とは、誘電体層12の厚み方向一方Z1に臨む表面に形成される有底の穴である。凹所41は、円柱状および角柱状などの柱体や円錐および四角錐などの錐体や半球などの形状に形成される。たとえば凹所41は、厚み方向Zの軸線を有する四角柱状に形成され、長辺方向Xの寸法が8mmに形成され、短辺方向Yの寸法が8mmに形成され、厚み方向Zの寸法が3mmに形成される。
また、誘電体層12は、空孔が形成される構成でもよい。この空孔とは、誘電体層12を厚み方向Zに貫通する孔である。空孔は、円柱状および角柱状などの形状に形成される。
図21は、本発明の第10実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に外力が付与されている状態を示す断面図である。厚み方向他方Z2に向かう外力が、被覆膜15を介してICチップ23に付与されると、ICチップ23の厚み方向他方Z2側に位置するアンテナ素子24、補助アンテナ層11、および接合層14は、弾性変形して凹所41内に突出する。
本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した凹所41が形成されない無線通信改善シート体付き無線ICタグ6に比べて、外力がICチップ23に付与された場合、ICチップ23が凹所41内に収まることにより外力を凹所41以外の部分に分散することができる。これによって、ICチップ23に付与される外力を低減させ、この外力に対する反力を低減させることができる。したがって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、ICチップ23に付与される厚み方向一方Z1へ向かう反力を小さくすることができる。
このように、誘電体層12は、無線ICタグ22が配置されるときに、厚み方向Zに見てICチップ23が配置される位置と同じ位置に、凹所41または空孔が形成される。したがって、無線ICタグ22が無線通信改善シート体1に配置されている状態において、各層の厚み方向Zの外方からICチップ23に外力が付与されたときに、ICチップ23に付与される反力を小さくすることができる。これによって、無線通信改善シート体1は、ICチップ23が破損することを防止することができる。したがって、無線通信改善シート体1は、無線ICタグ22の耐衝撃性を高めることができる。
(第11実施形態)
図22は、本発明の第11実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と比べて、誘電体層12の形状が異なる構成である。
誘電体層12には、長辺方向Xに垂直な方向に、切り込み37a,37bが形成される。切り込み37aは、平面状でもV字状でも良く、誘電体層12の厚み方向一方Z1に臨む表面から厚み方向他方Z2へ向けて形成され、切り込み37bは、誘電体層12の厚み方向他方Z2に臨む表面から厚み方向一方Z1へ向けて形成される。切り込み37a,37bは、短辺方向Yの寸法が、誘電体層12の短辺方向Yの寸法と一致し、厚み方向Zの寸法が、たとえば
7.5mmに形成される。
誘電体層12の厚み方向Zに垂直な2つの端面部のいずれか一方の端面部は、厚み方向Zに交差する1または複数の方向に分離可能な複数の領域を含む。端面部とは、厚み方向Zに臨む表面のことをいう。複数の領域は、一方の端面部から厚み方向Zに平行に形成される切り込み37a,37bによって、分離可能に形成される。この複数の領域は、誘電体層12のうちの一方の端面部を除く部分によって連なって形成される。複数の領域は、一方の端面部とは反対側の他方の端面部によって連なって形成される。
本実施形態では、前記分離可能な複数の領域は、第1分離可能領域38a,38bおよび第2分離可能領域39a,39bを含んで実現される。第1分離可能領域38aと第2分離可能領域39aとは、切り込み37aによって分離される。第1分離可能領域38bと第2分離可能領域39bとは、切り込み37bによって分離される。第1分離可能領域38a,38bおよび第2分離可能領域39a,39bは、摺動可能領域内に形成される。
誘電体層12において、第1分離可能領域38a,38bは、切り込み37a,37bよりも長辺方向Xの一方側、すなわち図22で示す切り込み37a,37bの左側の領域であり、第2分離可能領域39a,39bは、切り込み37a,37bよりも長辺方向Xの他方側、すなわち図22で示す切り込み37a,37bの右側の領域である。
誘電体層12は、第1分離可能領域38a,38bおよび第2分離可能領域39a,39bを含んで、一体に形成される。37a,37b第1分離可能領域38aおよび第2分離可能領域39aは、厚み方向他方Z2側の端面部を含む領域によって、接続されている。第1分離可能領域38bおよび第2分離可能領域39bは、厚み方向一方Z1側の端面部を含む領域によって、接続されている。
図23は、本発明の第11実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の曲げ剛性を説明するための断面図である。図23では、本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6から無線ICタグ22および被覆膜15を取り除き、補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14を示している。図23に示す補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14は、図7に示した補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14と比べて、誘電体層12の形状が異なる構成である。
補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13は、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが付与されている状態を示す。補助アンテナ層11、誘電体層12および遮蔽層13の各層は、曲率半径を半径とする仮想円の中心を軸線として、曲げモーメントが付与される。
図23(a)は、仮想円の中心が誘電体層12よりも厚み方向他方Z2側に位置するときの補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14を示す。誘電体層12は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の外側の面、すなわち厚み方向一方Z1に臨む面において、最も大きい引張応力31が付与される。この引張応力31の付与によって、厚み方向一方Z1に臨む面では、第1分離可能領域38aと第2分離可能領域39aとが、仮想円の円周方向のうちの互いに離間する向きに分離する。
第1分離可能領域38aおよび第2分離可能領域39aが摺動可能領域に形成されているので、第1分離可能領域38aおよび第2分離可能領域39aの厚み方向一方Z1側が互いに分離するときに、補助アンテナ層11と誘電体層12とが摺動することができる。これによって、第1分離可能領域38aと第2分離可能領域39aとの間での分離が容易になり、誘電体層12の曲げ剛性を低下させることができる。
誘電体層12は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の内側の面、すなわち厚み方向他方Z2に臨む面において、最も大きい圧縮応力32が付与される。厚み方向他方Z2に臨む面では、圧縮応力32が付与されるので、第1分離可能領域38bと第2分離可能領域39bとが、分離することはない。
図23(b)は、仮想円の中心が誘電体層12よりも厚み方向一方Z1側に位置するときの補助アンテナ層11、誘電体層12、遮蔽層13および接合層14を示す。誘電体層12は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の外側の面、すなわち厚み方向他方Z2に臨む面において、最も大きい引張応力31が付与される。この引張応力31の付与によって、厚み方向他方Z2に臨む面では、第1分離可能領域38bと第2分離可能領域39bとが、仮想円の円周方向のうちの互いに離間する向きに分離する。
第1分離可能領域38bおよび第2分離可能領域39bが摺動可能領域に形成されているので、第1分離可能領域38bおよび第2分離可能領域39bの厚み方向他方Z2側が互いに分離するときに、誘電体層12と遮蔽層13とが摺動することができる。これによって、第1分離可能領域38bと第2分離可能領域39bとの間での分離が容易になり、誘電体層12の曲げ剛性を低下させることができる。
誘電体層12は、厚み方向Zに垂直な面のうち曲率半径の内側の面、すなわち厚み方向一方Z1に臨む面において、最も大きい圧縮応力32が付与される。厚み方向一方Z1に臨む面では、圧縮応力32が付与されるので、第1分離可能領域38aと第2分離可能領域39aとが、分離することはない。
このように、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6では、第1分離可能領域38a,38bおよび第2分離可能領域39a,39bが形成されるので、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが無線通信改善シート体1に付与されるとき、曲げの外側の端面部では、引張応力31が与えられて前記複数の領域が分離することができる。これによって、無線通信改善シート体1は、曲げの外側の端面部に付与される引張応力31を低下させることができるので、曲げ剛性が飛躍的に低下し、容易に折り曲げることができる。
また、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6では、複数の領域は、一方の端面部から厚み方向Zに平行に形成される切り込み37a,37bによって、分離可能に形成される。したがって、分離可能な複数の領域を、切り込み37a,37bを形成するなどの簡易な加工によって形成することができる。これによって、無線通信改善シート体1は、切り込み37a,37bの数、誘電体層12の厚み寸法に対する切り込み37a,37bの厚み方向Zの寸法の比率、および切り込み37a,37bを形成する位置などを変化させることによって、曲げ剛性を自由に設定することができる。
(第12実施形態)
図24は、本発明の第12実施形態である無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の断面図である。図25は、図24に示す誘電体層12を切断面線B−Bで切断した部分断面図である。本実施形態の無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、図8に示した無線通信改善シート体付き無線ICタグ6と比べて、誘電体層12の形状が異なる構成である。
誘電体層12は、複合体46を含んで構成される。複合体46は、中空構造体47と板状体48との複合構造によって構成される。複合体46は、中空構造体47と2つの板状体48とを含む。中空構造体47は、板状体48と面の向きが異なる板状の壁で、中空構造体47の壁面が厚み方向Zに平行に形成される場合に誘電体層12の圧縮強度がより強くなる。中空構造体47の材料は、絶縁体であれば何でも良いが、たとえば熱可塑性樹脂材料のポリプロピレンである。
本実施形態では、誘電体層12は、ハニカム構造によって構成され、中空構造体47の空間部分は、正六角柱状に形成される。中空構造体47の空間部分は、軸線が厚み方向Zに一致する。2つの板状体48は、中空構造体47を厚み方向Zに挟んで配置される。中空構造体47および各板状体48は、一体に形成される。たとえば板状体48は、厚み寸法が0.4mmであり、中空構造体47は、厚み寸法が0.3mmであり、高さ寸法が6.7mmである。
このように、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6は、誘電体層12が、2つ以上の板状体と板状体の間に設けられる中空構造体とによって構成される複合構造をとる。したがって、無線通信改善シート体1は、誘電体層12が均一なシート状に形成される場合よりも、誘電体層12を構成する部材の量を減少させ、誘電体層12を軽量化させることができる。また、誘電体層12は、外力が付与されて厚み寸法が変化すると、無線ICタグ22の通信特性が変化することになる。無線通信改善シート体1では、誘電体層12に含まれる中空構造体47の形状および厚み寸法を変化させることによって、圧縮強度を設定することができる。これによって、無線通信改善シート体1は、無線ICタグ22の通信特性を変化させることのない圧縮強度を有し、かつ軽量化を図ることができる。
本実施形態では、中空構造体47の空間部分47が、正六角柱状に形成されるけれども、他の実施形態では、中空構造体47の空間部分47は、正三角柱、正四角柱などの正六角柱以外の角柱状、および円柱状に形成されてもよい。
また他の実施形態では、中空構造体47は、厚み方向Zに垂直な1または複数の方向に並ぶ、厚み方向Zを軸線とする複数の筒状体を含んで構成されてもよい。各筒状体は、中空の正六角柱状に形成され、また、正三角柱、正四角柱などの正六角柱以外の角柱状、および円柱状に形成されてもよい。これによって、無線通信改善シート体付き無線ICタグ6の圧縮強度をさらに高めることができ、圧縮荷重による性能変化を減らせることができる。
また他の実施形態では、複合体46は、厚み方向一方Z1および厚み方向他方Z2の少なくともいずれか一方から、切り込みが形成される構成であってもよい。これによって、前述の第11実施形態と同様に、曲率半径が各層の厚み方向Zに定められる曲げモーメントが誘電体層12に付与されるとき、曲げの外側の端面部では、引張応力31が与えられて前記複数の領域が分離することができる。したがって、無線通信改善シート体1は、曲げ剛性が低下し、容易に折り曲げることができる。
(第13実施形態)
図26は、本発明の第13実施形態である無線タグ通信システム8の構成を示すブロック図である。無線タグ通信システム8は、無線タグ装置51と、読取り部52と、制御部53と、データベース54とを含んで構成される。
無線タグ装置51は、無線ICタグ22と無線通信改善シート体1とを組み合わせて構成されるタグ、または無線通信改善シート体付き無線ICタグ6からなる。無線通信改善シート体1、および無線通信改善シート体付き無線ICタグ6を用いることによって、管理する対象となる被着物質の表面が曲面の導電体であっても容易に無線ICタグ22を取り付けることができる。
読取り部52は、無線ICタグ22のICチップ23に記憶される情報を読取る読取装置であり、たとえば無線タグリーダによって実現される。読取り部52は、無線ICタグ22および無線通信改善シート体付き無線ICタグ6から、識別情報を読出し、読出した識別情報を制御部53に送信する。他の実施形態では、読取り部52は、読取り機能および書込み機能を有するリーダライタによって実現されてもよい。
制御部53およびデータベース54は、コンピュータによって実現される。コンピュータは、図示しない中央処理装置(Central Processing Unit:略称「CPU」)および記憶装置を含む。制御部53と読取り部52とは、無線または有線によって通信可能に構成される。制御部53は、読取り部52から送信された識別情報を受信し、受信した識別所法と、データベース54内の管理情報とを照合して必要なデータを呼び出し、画面表示や管理情報の更新などの処理を行う。管理情報は、内容について制限はなく、たとえば被着物質の情報管理、位置管理、状態把握、在庫管理、電子決済などいずれでもよい。