JP5534578B2 - 正極電極用活物質 - Google Patents

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本発明は、正極電極用活物質および該活物質を含む正極電極、さらには該正極電極を用いた電池を提供する。
従来、リチウム(Li)イオン二次電池は、4Vを超える高電位と比較的高い容量を有することから数多く研究され、携帯電話をはじめ様々な携帯電子機器に応用されている。
携帯電子機器の高性能化に伴い、画像処理や情報転送に要する電力が増大する傾向にあり、リチウムイオン二次電池に対する更なる高エネルギー密度化の要請が高まっている。また近年、環境負荷の低減や輸送エネルギー効率を重視した、ハイブリッド自動車や電気自動車の開発が活発になっている。
この様な、高容量化への方策として、電荷が一価であるLiに対し、二価のマグネシウムやカルシウム(Mg,Ca)などのアルカリ土類金属を用いた正極電極の開発が期待されている。
特許文献1によると、Caイオンを用いた二次電池を作製している。従来のリチウムイオン二次電池よりも大きい放電容量を示しているものの、作動電圧は約1Vと極めて低い。
一方、特許文献2によると、Mgイオンを用いた二次電池では、リチウムイオン二次電池以下の放電容量と、約1Vの低い動作電圧しか示していない。
さらに、従来リチウムイオン二次電池で用いられていたLiCoO、LiNiOなどの層状岩塩型構造を有する正極材料の場合、50%以上Liイオンを放出すると母骨格の積層配置にずれが生じて不可逆の構造変化が起こることが問題となっていた。
非特許文献1によると、Caイオンを含むCaCoなどの単結晶合成の報告はなされているものの、これらの材料を正極電極用活物質として応用した例はなかった。
特許第3587791号 特開2005−228589号
Fjellvagら、Journal of Solid State Chemistry、vol.124、pp.190−194(1996)
本発明は、上記のようなCaイオンを用いた正極電極用活物質を用いて、高容量かつ高電位な正極電極および高容量かつ高電圧の二次電池を提供する。
前記の課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討した結果、正極電極用活物質に下式(1)で表される活物質を用いた。
CaM1M2(2−y) (1)
(式中、0<x≦3,1≦y≦2、M1、M2は各々独立にMn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Al,Zr,Nb,Moから選ばれるいずれか一つの元素である。)
さらに、該活物質は、その母骨格であるM1M2(2−y)の結晶構造がCoO型のカラム状構造を有し、該カラム状構造を有する該活物質のX線回折パターンが、2θ=15.0〜25.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に回折ピークを有することを特徴とする。
前記CoO型のカラム状構造について、その一例としてCaCoの結晶構造を図1に示す。この結晶構造では、結晶単位セル内に、CoOの組成からなる一次元的なカラム状構造を備えており、そのカラム状構造の周囲にCaイオンが配置されていることを特徴とする。
このように、CoO型のカラム状構造では、該カラム状構造の近傍にCaイオンが配置されるため、従来の層状あるいは格子状構造を有する正極電極用活物質と比較して本質的に高容量を示す。また、充放電に伴う前記Caイオンの脱離および挿入反応に対して、該カラム状構造は充放電における電気化学反応に対して安定である。そのため、本発明者らは、該活物質を正極電極として用いることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の正極電極用活物質および該活物質を含む正極電極および該正極電極を備えてなる二次電池を提供するものである。
1.前記の式(1)で表される正極電極用活物質であって、該活物質の母骨格であるM1M2(2−y)の結晶構造がCoO型のカラム状構造を有し、該カラム状構造を有する該活物質のX線回折の回折パターンが2θ=15.0〜25.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に回折ピークを有することを特徴とする正極電極用活物質。
2.正極電極用活物質の粒径が50μm以下であることを特徴とする上記1項に記載の正極電極用活物質。
3.上記1または2項に記載の正極電極用活物質を含むことを特徴とする正極電極。
4.上記3項に記載の正極電極と、負極電極と、Caイオンを溶質とする電解質とを有することを特徴とする電池。
本発明では、CaM1M2(2−y)(0<x≦3,1≦y≦2、M1、M2は各々独立にMn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Al,Zr,Nb,Moから選ばれるいずれか一つの元素。)を活物質とする正極電極を用いることにより、従来用いられていた正極材料の結晶構造とは全く異なる、前記CoO型のカラム状構造を有する結晶構造を実現し、それにより、Caイオンの吸蔵量を著しく増大させることを達成せしめた。本発明者はこの様な結晶構造を丹念に調べた結果、ブラッグ−ブレンターノ光学系におけるCu−Kα線を用いたX線回折による回折パターンが2θ=15.0〜25.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に、回折ピークを有していることを見出した。本発明によれば、前記Caイオンの挿入・脱離反応において、100%充電状態であるM1M2(2−y)と100%放電状態であるCaM1M2(2−y)との間の結晶構造変化が可逆的で小さく、充放電に伴う電気化学反応に対して結晶相安定性が高くなるために、より多くの吸蔵イオン(Caイオン)を放出できる。さらに、本発明によれば、母骨格であるM1M2(2−y)が前記カラム状構造を取っているため、それらの近傍により多くのCaイオンが配置されることになり、本質的に吸蔵イオン(Caイオン)の吸蔵量が大きいという特徴を併せ持つことになる。よって、本発明によれば、従来よりも高容量かつ高電位な正極電極、および高容量かつ高電圧の二次電池を提供することが可能になる。
CaCoの結晶構造。 参考例1で得られたCaCoのX線回折。 実施例で得られたCaCoMnOのX線回折。 本発明の実施例及び参考例における電池の概念図。 参考例1で得られたCaCoを用いて参考の条件で充放電をした時のCaが90%抜けた状態の母骨格であるCa0.3CoのX線回折。 実施例で得られたCaCoMnOを用いて実施例の条件で充放電をした時のCaが90%抜けた状態のX線回折母骨格であるCa0.3CoMnOのX線回折。
本発明の一実施態様においては、下式(1)で表される正極電極用活物質であって
CaM1M2(2−y) (1)
(式中、0<x≦3,1≦y≦2、M1、M2は各々独立にMn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Al,Zr,Nb,Moから選ばれるいずれか一つの元素である。)、
該活物質の母骨格であるM1M2(2−y)の結晶構造がCoO型のカラム状構造を有し、該カラム状構造を有する該活物質のブラッグ−ブレンターノ光学系におけるCu−Kα線を用いたX線回折の回折パターンが2θ=15.0〜25.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に回折ピークを有することを特徴とする正極電極用活物質であることが好ましい。より好ましくは、2θ=17.0〜22.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に、回折ピークを有することが好ましい。
尚、本発明におけるCoO型のカラム状構造は、特にCaイオンの出入りによって、2θ=30−35°の2本のピークのピーク強度がそれぞれ90%以上変化することを特徴とする。
該活物質を構成する遷移金属M1は、Coが好ましい。また、結晶構造中Coサイトに他の遷移金属M2を固溶させることが可能であり、電位や結晶相安定性、充放電容量などの二次電池電極性能を向上させることができる。前記遷移金属M2としては、Mn,Fe,Ni,Alが好ましい。
本発明の活物質は、目的とする元素成分比率と同様の比率となるように原料を混合して、焼成することによって得ることができる。原料物質としては、焼成により酸化物を形成するものであれば特に限定はされない。元素単体、酸化物、その他の化合物であっても構わない。例えば、カルシウム源としては、Ca単体、CaCO、CaO、CaOなどを用いることが可能であり、コバルト源としては金属Co、CoO、Co、Coなどが例示される。その他の元素については、鉄源にはFe、ニッケル源にはNiO、銅源にはCuO、亜鉛源にはZnO、アルミニウム源にはAlなどを用いて、多元系の混合酸化物についても、所望の比率で原材料を混合して焼成すればよい。また、生成した酸化物の組成比を確認するためには、ICP質量分析法などの分析方法を用いればよい。
焼成温度および焼成時間については、950〜1200℃程度の温度で20〜40時間ほど焼成すればよい。原材料を混合した粉末を加圧形成し、第一段階として950℃程度の温度で約30時間焼成し、さらに第二段階として、目的物質によっては多少の調整が必要であるが、1000〜1200℃程度の温度で約24時間焼成して、酸化物を得ることが好ましい。以上のように、温度変化をつけた二段階焼成方法によって、前述したCoO型のカラム状構造を形成することが可能になる。なお、最終的には前記で得られた酸化物を、酸素雰囲気下で、1000℃程度の温度で約4時間焼成し、その後、徐々に冷却することで目的の酸化物を得ることが好ましい。
また、本発明の一実施態様においては、前記正極電極用活物質の粒径は50μm以下であることが好ましい。前記活物質の粒径が小さいほど、正極材料としては電気化学反応に関わる反応面積が大きくなるために好ましい。しかし、粒径が小さすぎると活物質表面の欠陥密度が増大するため、表面における電気化学反応が活発になり活物質が劣化し易くなる。従って、正極電極に用いられる活物質の粒径はより好ましくは500nm以上20μm以下である。
さらに、本発明の一実施態様においては、本発明の前記実施態様の正極電極用活物質を備えた正極電極であることが好ましい。粒状に粉砕された正極電極用活物質は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの導電性材料とポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤と混合されていることが好ましい。これらの高分子材料は正極電極用活物質と導電材料を結着させ、本発明の効果を奏する限りにおいて制限されるものではない。
次に、本発明の一実施態様においては、前記活物質を正極電極として備え、Ca、CaとシリコンとからなるCa合金、炭素、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属とシリコンからなるアルカリ土類金属合金のいずれかから選択される負極電極と、電気化学反応を媒介するためのイオン伝導を可能とするCaイオンを溶質とする電解質とを有することを特徴とする電池であることが好ましい。上記負極電極の中でも、Caからなる負極電極が好ましい。
本発明における二次電池に使用される電解質は、電解液あるいは固体電解質からなることが好ましい。具体的に例示すれば、Caイオンを供する非水溶媒の電解液であればよく、電解質としては、Ca(BF,Ca(CFSO,Ca(PF,Ca(ClO,Ca(AsF,Ca(SbF,Ca[N(CFSO,Ca[N(CFSOなど公知の材料を用いることができ、溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどを用いることができる。電解質とすれば、Caイオン伝導性が高ければよく、これらの材料に限られるものではない。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、これらにより記載された本発明の請求項の範囲を制限するものではない。
[参考例1]
カルシウム源としてCaCO、コバルト源としてCoを用い、元素比がCa:Co=3:2となるように原料を十分混合した後、坩堝に入れて電気炉で、空気中950℃で30時間焼成した。ここで得られた焼成物を粉砕し加圧成形した後、空気中1000℃で24時間焼成してCaCoの組成からなる母骨格がCoO型のカラム状構造を有する酸化物を得た。得られた活物質のX線回折パターンを図2に示した。
[実施例]
2元系の活物質を合成するため、参考例1と同様の合成法を用いるが、コバルト源以外の原料として、マンガン源を使用し、具体的にはMnOを用いた。CaM1M2(2−y)(0<x≦3,1≦y≦2)の組成として、yについて所望の組成比にして各元素源を混合して焼成すればよい。ここでは一例としてCa:Co:Mn=3:1:1となるように原料を混合し、坩堝で焼成してCaCoMnOの組成からなる母骨格がCoO型のカラム状構造を有する酸化物を得た。その際、焼成温度としては、第一段階の加熱焼成については、950℃で30時間、第二段階の加熱焼成では、酸素雰囲気下で1200℃、24時間焼成した。得られた活物質のX線回折パターンを図3に示した。
[参考]
本発明による電極を評価するため円筒形セルを使用し、駆動イオンとしてはカルシウムを用いた。本発明の参考例1の活物質CaCoを正極電極として配置し、負極電極としては金属カルシウム箔を使用した。参考例2に用いた電池の模式図を図4に示した。電解液は濃度1mol/Lの過塩素酸カルシウムのアセトニトリル溶液を用いた。電流密度0.05mA/cmで充放電試験を行ったところ、従来のLiCoOと同程度の作動電圧で充電可能であるとともに、本発明の参考例にかかる可逆的な放電容量は2倍以上と極めて高い値を示した。尚、本実験の充放電試験にともなう駆動イオン(カルシウムイオン)の出入りにより、カラム状構造の母骨格Coに特徴的な2θ=30.0〜35.0°の2本のピークのピーク強度はそれぞれ99%、90%変化した。得られた活物質のX線回折パターンを図5に示した。
[実施例]
本発明の活物質の例としてCaCoMnOを正極電極として用い、参考と同様の円筒形セルを用意して充放電試験を行った。2元素系の正極電極についても、参考と同程度の作動電圧で充電可能であるとともに、可逆的な放電容量は従来のLiCoOの2倍以上の極めて高い値を示した。尚、本実験の充放電試験にともなう駆動イオン(カルシウムイオン)の出入りにより、カラム状構造の母骨格CoMnOに特徴的な2θ=30.0〜35.0°の2本のピークのピーク強度はそれぞれ95%、93%変化した。得られた活物質のX線回折パターンを図6に示した。
[比較例1]
正極活物質としてLiCoO、負極電極に金属リチウム箔を用いて、参考と同様の方法でリチウム電池を作製して、本発明によるカルシウム電池との比較を行った。尚、本比較例の充放電試験にともなう駆動イオン(リチウムイオン)の出入りにより、CoOに特徴的な層状岩塩型構造由来のピーク強度はほとんど変化がみられなかった。
それぞれの電池を定性的に比較した結果を表1にまとめた。その結果、本発明によるカルシウム電池の作動電圧は従来のLiCoOを正極に用いた電池と同等であることが分かった。これは、負極電極の電位としてのLi/LiとCa2+/Caの標準電極電位がいずれも約−3V程度であることを考えれば、本発明の正極電極の電位が従来のLiCoOと同程度の高電位を有することを意味する。さらに、本発明によるカルシウム電池は、従来のLiCoOを正極に用いた電池の放電容量の2倍以上と著しく大きな値を示すことが分かった。このように、最終的に本発明にかかるカルシウム電池を用いれば、従来のリチウムイオンを用いた二次電池と比較して、2倍以上のエネルギー密度を示すことを確認した。
表1では、正極電極が従来のリチウムイオン二次電池(比較例1)の正極電極と同程度の高電位を与える場合を○、正極電極が従来のリチウムイオン二次電池(比較例1)の放電容量を与える場合を△、正極電極が従来のリチウムイオン二次電池(比較例1)の2倍以上の放電容量を与える場合を◎で示した。
本発明によれば、安定性が高く、高エネルギー密度を有する正極電極用活物質および正極電極、更にはそれを用いた二次電池として利用することが可能になる。そのため、携帯電話やパソコン等の電子機器、ハイブリッド自動車や電気自動車等の輸送機器、蓄電装置等の電力貯蔵機器等の様々な分野での利用が可能になる。
1:リード線
2:ゴム栓
3:負極電極
4:正極電極
5:円筒形セル

Claims (5)

  1. 下式(1)で表される正極電極用活物質であって
    CaM1M2(2−y)(1)
    (式中、0<x≦3、1≦y2、M1、M2は各々独立にMn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Nb、Moから選ばれるいずれか一つの元素であるが、M1の元素とM2の元素は互いに異なる。)、
    該活物質の母骨格であるM1M2(2−y)がCoO型のカラム状構造を有し、該カラム状構造を有する該活物質のX線回折の回折パターンが2θ=15.0〜25.0°かつ30.0〜35.0°の範囲に回折ピークを有することを特徴とする正極電極用活物質。
  2. 正極電極用活物質の粒径が50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の正極電極用活物質。
  3. 請求項1又は2に記載の正極電極用活物質を含むことを特徴とする正極電極。
  4. 請求項3に記載の正極電極と、負極電極と、カルシウムイオンを溶質とする電解質とを有することを特徴とする電池。
  5. M1がCoであって、M2がMn、Fe、Ni、Alから選ばれるいずれか一つの元素である、請求項1又は2に記載の正極電極用活物質。
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