JP2022054022A - 正極及び非水電解液二次電池 - Google Patents

正極及び非水電解液二次電池 Download PDF

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Abstract

Figure 2022054022000001
【課題】放電レート特性に優れた正極及びこの正極を備えた非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】正極2は、酸素の酸化還元反応を利用して充電及び放電を行うことができるように構成された正極活物質と、Mn23と、Sr、Ca及びFeのうち2種以上の金属元素を含む酸化物とからなる群より選択され、酸素の酸化還元反応に対して触媒作用を有する1種以上の触媒と、を有している。正極2は、非水電解液二次電池1に用いられる。
【選択図】図8

Description

本発明は、正極及び非水電解液二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池は、エネルギー密度を容易に高くすることができる。かかる特性を活かし、近年では、携帯電話及びラップトップコンピュータ等の小型電子機器や、電気自動車及びハイブリッド自動車等の大型電気駆動装置等の幅広い用途に非水電解液二次電池が用いられている。
非水電解液二次電池の正極活物質としては、Li(リチウム)、Ni(ニッケル)、Mn(マンガン)及びCo(コバルト)を含むLiNi0.33Mn0.33Co0.332(いわゆるNMC111)や、Li、Ni、Co及びAl(アルミニウム)を含むLiNi0.8Co0.15Al0.052(いわゆるNCA)などが実用化されている。
また、近年では、Li、Ti(チタン)及びMnを含む、Li-Ti-Mn系正極活物質が提案されている。例えば特許文献1には、一般式:LiTi2x-1Mn2-3xO(0.50<x<0.67)で表記される岩塩型構造を有し、平均粒径が0.5μm以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質が記載されている。
国際公開第2017/122663号
しかし、特許文献1に記載された正極活物質を備えた正極は、放電レート特性に劣っており、高電流密度で放電した際の放電容量が低いという問題がある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、放電レート特性に優れた正極及びこの正極を備えた非水電解液二次電池を提供しようとするものである。
本発明者は、鋭意検討の結果、Li-Ti-Mn系正極活物質においては、充電時の化学反応及び放電時の化学反応において、電子の授受と共に酸素の酸化還元が行われており、酸素の酸化還元反応が律速段階となっていることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の一態様は、非水電解液二次電池に用いられる正極であって、
酸素の酸化還元反応を利用して充電及び放電を行うことができるように構成された正極活物質と、
Mn23と、Sr、Ca及びFeのうち2種以上の金属元素の酸化物とからなる群より選択され、酸素の酸化還元反応に対して触媒作用を有する1種以上の触媒と、を有する、正極にある。
本発明の他の態様は、前記の態様の正極と、
負極と、
非水電解液とを有する、非水電解液二次電池にある。
前記正極は、二次電池が充電された際や放電された際に、正極活物質において電子の授受と共に酸素の酸化還元反応が起きるように構成されている。前記正極には、前記正極活物質と共に前記特定の触媒が含まれているため、律速段階となる酸素の酸化還元反応の進行を促進することができる。それ故、前記正極によれば、充電時または放電時における化学反応全体の反応速度を向上させ、ひいては放電レート特性を向上させることができる。
また、前記非水電解液二次電池は、前記の態様の正極を有しているため、高い放電レート特性を有している。
以上のように、前記の態様によれば、放電レート特性に優れた正極及びこの正極を備えた非水電解液二次電池を提供することができる。
図1は、実施例において作製した正極活物質のX線回折パターンを示す図である。 図2は、実施例において作製した正極活物質のSEM像の一例である。 図3は、実施例において作製したSrFe系酸化物のX線回折パターンを示す図である。 図4は、実施例において作製したCaFeCo系酸化物のX線回折パターンを示す図である。 図5は、実施例における、850℃で焼成されたSrFe系酸化物のSEM像である。 図6は、実施例における、900℃で焼成されたSrFe系酸化物のSEM像である。 図7は、実施例における、CaFeCo系酸化物のSEM像である。 図8は、実施例における、評価用二次電池の内部構造を示す展開図である。
(正極)
前記正極には、正極活物質と、前記特定の触媒とが含まれている。また、正極は、正極活物質及び触媒を保持する正極集電体や、正極活物質、触媒及び正極集電体の間に介在する結着剤、電気伝導性を高めるための導電助剤等が含まれていてもよい。以下、正極を構成する各部材を詳説する。
[正極活物質]
正極活物質は、充電及び/または放電の際に、電子の授受と共に酸素の酸化還元反応が起きるように構成されていれば、特に限定されることはない。例えば、正極活物質は、LiaTibMncMgdeの組成式(ただし、前記組成式におけるa~eは、1<a<1.3、0<b<1、0<c<1、0≦d<0.25、1.8<e<2.2、d<b、b+c+d<aの関係を満たす。)で表される組成を有していてもよい。かかる組成を有する正極活物質中には、主相として、結晶構造が空間群Fm-3mに帰属可能な岩塩型結晶構造である結晶相が含まれている。
ここで、「主相」とは、正極活物質中に含まれる全ての結晶相のうち50質量%以上を占める結晶相をいう。すなわち、前記正極活物質は、前記特定の結晶相のみから構成されていてもよい。また、前記正極活物質中には、50質量%以上の前記特定の結晶相と、これ以外の結晶相とが含まれていてもよい。
なお、前述した正極活物質中の結晶相の含有率は、例えば、粉末X線回折法により得られたX線回折パターンに基づいて算出することができる。
前記組成式におけるaの値、つまりLi、Ti、Mn、Mg及びOのモル数の合計に対するLiのモル比は1より大きく1.3より小さい。これにより、充放電時に前記結晶相の結晶構造が維持されやすくなり、結晶構造の変化に伴う放電容量の低下を抑制することができる。また、前記正極活物質内にリチウムイオンの拡散経路を十分に形成し、前記正極活物質の放電容量を大きくすることができる。
前記組成式におけるaの値が1以下である場合には、前記正極活物質内にリチウムイオンの拡散経路を十分に形成することが難しくなり、放電容量の低下を招くおそれがある。また、前記組成式におけるaの値が1.3以上である場合には、前記結晶相中のTi、Mn及びMgの相対的な比率が低下するため、充電時にリチウムイオンが引き抜かれた際に、前記結晶相の結晶構造が前記特定の岩塩型結晶構造から変化しやすくなる。その結果、放電容量の低下を招くおそれがある。
前記組成式におけるdの値、つまり、Li、Ti、Mn、Mg及びOのモル数の合計に対するMgのモル比は0以上0.25未満である。前記組成式におけるdの値を0よりも大きくすることにより、高電流密度で放電した際の放電容量を大きくすることができる。Mgによる前述した作用効果をより高め、高電流密度で放電した際の放電容量をより大きくする観点からは、前記組成式におけるdの値は、0.01以上であることが好ましい。
一方、正極活物質中にMgが含まれている場合、正極活物質中に、Li-Ti-Mn系正極活物質のTiの一部がMgに置換された構造を有する結晶相が形成される。この結晶相においては、Ti4+の一部をMg2+に置換したことによって生じる電荷バランスの変動が、Mn3+の一部がMn4+に酸化されることによって補償されていると推測される。しかし、結晶相中のMn4+の含有率が過度に多くなると、充放電に寄与するMn3+の比率が相対的に低下するため、放電容量の低下を招くおそれがある。かかる問題の発生を回避し、正極活物質の放電容量を大きくする観点から、前記組成式におけるdの値は、0.25未満とする。同様の観点から、前記組成式におけるdの値は、0.20以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
前記組成式におけるb、c及びeの値、つまり、Li、Ti、Mn、Mg及びOのモル数の合計に対するTi、MnまたはOのモル比は、それぞれ前記の関係を満たす範囲とする。前記組成式におけるb、c及びeの値が前記の関係を満たさない場合には、正極活物質中に前記特定の岩塩型結晶構造以外の結晶構造を備えた結晶相が形成されやすくなり、放電レート特性を向上させる効果の低下を招くおそれがある。
前記正極活物質は、正極活物質中におけるリチウムイオンの拡散距離をより短くする観点から、通常、粉末の状態で使用される。前記正極活物質は、粒子径10μm以下の粒子から構成されていることが好ましい。すなわち、前記正極活物質は、例えば、最大粒子径が10μm以下となる粒径分布を有する粉末であってもよいし、粒子径10μm以下の一次粒子の凝集体であってもよい。この場合には、正極活物質中におけるリチウムイオンの拡散距離をより短くし、非水電解液二次電池における内部抵抗をより容易に低減することができる。正極活物質中におけるリチウムイオンの拡散距離をより短くする観点からは、正極活物質は、粒子径1μm以下の一次粒子から構成されていることが好ましい。
なお、前述した正極活物質の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて正極活物質を観察して得られる、拡大写真に基づいて測定することができる。より具体的には、SEMで観察した拡大写真から無作為に選択した50個以上の正極活物質の粒子について、個々の粒子に対する外接円を決定し、その直径を個々の粒子の粒子径とする。そして、これらの粒子径の最大値を正極活物質の粒子径とする。
[正極活物質の製造方法]
前記正極活物質の製造方法としては、例えば、固相法を採用することができる。具体的には、Li源となる化合物、Ti源となる化合物、Mn源となる化合物及びMg源となる化合物を含む混合物を作製した後、前記混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成すればよい。混合物中における各化合物の比率は、所望する正極活物質中の結晶相の組成式に応じて適宜設定すればよい。
Li源となる化合物としては、例えば、Li2CO3やLi2O、LiOH・H2O、C23LiO2、LiNO3、Li3657・4H2O等を使用することができる。Ti源となる化合物としては、例えば、TiO2等を使用することができる。Mn源となる化合物としては、例えば、Mn23等を使用することができる。Mg源となる化合物としては、例えば、MgOやMg(OH)2、MgCO3等を使用することができる。
前記混合物は、粉末であることが好ましい。混合物を粉末とすることにより、混合物中において、各原料化合物を均一に分散させることができる。その結果、焼成後における焼結体の組成の偏りをより低減し、前記結晶相の含有率をより高くすることができる。
粉末状の混合物を作製するにあたっては、必要に応じて原料化合物を粉砕してもよい。粉砕方法としては、乳鉢による手粉砕、ボールミル等による機械式粉砕等が採用できる。
また、粉末状の混合物を作製するにあたっては、篩などを用いて原料化合物を分級することにより、混合物の粒度調整をおこなってもよい。これらの手法によって混合物の粒度をできるだけ小さくすることにより、原料化合物をより均一に分散させることができる。その結果、焼成後における焼結体の組成の偏りをより低減し、前記結晶相の含有率をより高くすることができる。
混合物を作製した後、不活性ガス雰囲気下で混合物を焼成することにより、前記特定の結晶相を含む正極活物質の焼結体を得ることができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン等を使用することができる。焼成時の焼成温度は800~1100℃の範囲から適宜設定することができる。焼成時の保持時間は0.5~50時間の範囲から適宜設定することができる。
焼成が完了した後、得られた焼結体を解砕することにより、粉末状の正極活物質を得ることができる。焼結体の解砕方法は特に限定されることはない。例えば、粉砕方法としては、乳鉢による手粉砕、ボールミル等による機械式粉砕等の種々の方法を採用することができる。また、焼結体を解砕した後、必要に応じて粉末を分級し、正極活物質の粒度を調整してもよい。
[触媒]
前記正極には、Mn23と、Sr、Ca及びFeのうち2種以上の金属元素を含む酸化物とからなる群より選択され、酸素の酸化還元反応に対して触媒作用を有する1種以上の触媒が含まれている。かかる触媒は、二次電池の充電または放電の際に、前記正極活物質上の化学反応において律速段階となる酸素の酸化還元反応を促進することができる。これにより、充電時または放電時における正極活物質上の化学反応全体の反応速度を向上させ、電子の授受を促進することができる。その結果、放電レート特性を向上させることができる。
正極中に含まれる前述した酸化物としては、例えば、SrとFeとを含むSrFe系酸化物やCaとFeとCoとを含むCaFeCo系酸化物が挙げられる。すなわち、正極には、Mn23と、SrFe系酸化物と、CaFeCo系酸化物とからなる群より選択され、酸素の酸化還元反応に対して触媒作用を有する1種以上の触媒が含まれていてもよい。
SrFe系化合物としては、例えば、SrFeO3、SrFeO2.73等のペロブスカイト型SrFe系酸化物、Sr3Fe26.75等の層状ペロブスカイト型SrFe系酸化物及びSr2Fe25等のブラウンミラーライト型SrFe系酸化物などが例示される。また、CaFeCo系酸化物としては、例えば、Ca2FeCoO5、Ca2Fe1.0436Co0.9544.939等のブラウンミラーライト型CaFeCo系酸化物などが例示される。
正極には、触媒としてのRuO2がさらに含まれていることが好ましい。正極中に、Mn23と、Sr、Ca及びFeのうち2種以上の金属元素を含む酸化物とからなる群より選択される1種以上の触媒とRuO2とを共存させることにより、充電時または放電時における正極活物質上の化学反応全体の反応速度をより向上させることができる。その結果、放電レート特性をより向上させることができる。放電レート特性をさらに向上させる観点からは、正極には、Mn23とRuO2との両方が含まれていることがより好ましい。
正極中の触媒の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の範囲から適宜設定することができる。
[正極集電体]
正極は、正極活物質及び触媒を保持する正極集電体を有していてもよい。正極集電体としては、例えば、銅箔、ステンレス鋼メッシュ、アルミニウム箔、ニッケル箔等の金属箔、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル及び金属メッシュ等の種々の導体を使用することができる。
[結着剤]
正極には、正極活物質、触媒及び正極集電体の間に介在する結着剤が含まれていてもよい。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
[導電助剤]
正極には、電気伝導性を高めるための導電剤や導電助剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、コークス類等を用いることができる。
[正極の製造方法]
正極は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、正極活物質及び触媒を含むペースト状の正極合材を作製する。正極合材には、必要に応じて、正極活物質等の固形分を分散または溶解させるための有機溶媒が含まれていてもよい。次に、正極合材を正極集電体の表面に塗布した後、乾燥させることにより、正極集電体の表面に正極活物質層を形成する。正極活物質層を形成した後、必要に応じて正極活物質層をプレスし、正極活物質層の密度を高めてもよい。以上により正極を得ることができる。
(非水電解液二次電池)
前記正極は、非水電解液二次電池に用いられ、特にリチウムイオン二次電池に好適である。二次電池は、前記正極活物質及び触媒を含有する正極、負極、セパレータ、非水電解液、添加剤、及びこれらを収容するケース等を主要な構成部材として備えることができる。二次電池の形状としては、例えばコイン型、円筒型、積層型、角型等がある。
二次電池の負極は、負極活物質と、負極活物質を保持する負極集電体とを有している。負極活物質としては、例えば、グラファイトやハードカーボン等のグラファイト構造を有する炭素材料や、チタン酸リチウム(Li4Ti512)等のリチウム系酸化物を用いることができる。また、負極集電体としては、前述した正極集電体と同様の導体を使用することができる。
負極は、正極と同様に、結着剤や導電剤、導電助剤を含んでいてもよい。負極に使用し得る結着剤、導電剤及び導電助剤は、正極と同様である。
負極の作製方法は、正極と同様である。すなわち、まず、負極活物質を含むペースト状の負極合材を作製する。負極合材には、必要に応じて、負極活物質等の固形分を分散または溶解させるための有機溶媒が含まれていてもよい。次に、負極合材を負極集電体の表面に塗布した後、乾燥させることにより、負極集電体の表面に負極活物質層を形成する。負極活物質層を形成した後、必要に応じて負極活物質層をプレスし、負極活物質層の密度を高めてもよい。以上により負極を得ることができる。
非水電解液は、有機溶媒と、リチウム塩からなる電解質とを含有することができる。リチウム塩としては、例えばLiPF6等が挙げられる。また、有機溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートからなるグループから選ばれる少なくとも1種とすることができる。これらの有機溶媒は、極性が高く、電解質を大量に溶解することができる。そのため、これらの有機溶媒を非水電解液として使用することにより、二次電池における例えばリチウムイオン等の電荷担体の輸率を容易に高くすることができる。
前記正極及び前記正極を備えた非水電解液二次電池の実施例を説明する。まず、本例において使用する正極活物質及び触媒について説明する。
[正極活物質]
正極活物質としては、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質及びLi1.2Ti0.38Mn0.4Mg0.022の組成式で表される正極活物質を準備した。これらの正極活物質の作製方法は以下の通りである。まず、Li源としてのLi2CO3、Ti源としてのTiO2、Mn源としてのMn23及びMg源としてのMgOを、Li原子、Ti原子、Mn原子及びMg原子の比率が前記組成式におけるモル比率となるように混合し、混合物を作製した。この混合物をアルゴン雰囲気中において900℃の温度で10時間加熱することにより、正極活物質を含む焼結体を得た。得られた焼結体を、焼結体に対して10質量%のアセチレンブラックとともに遊星ボールミルを用いて解砕した。以上により、前述した組成式で表される正極活物質と、アセチレンブラックとの混合粉末を得た。
粉末X線回折により前述した2種の正極活物質に含まれる結晶相の同定を行った。図1に、これらの正極活物質のX線回折パターンを示す。なお、図1の縦軸は回折強度であり、横軸は回折角(単位:°)である。X線回折装置としては、株式会社リガク製「SmartLab(登録商標)」を使用し、照射した特性X線はCuKα線とした。
X線回折パターンに基づいて正極活物質に含まれる結晶相を同定したところ、前述した2種の正極活物質の主相は、いずれも空間群Fm-3mに帰属可能な岩塩型結晶構造を有する結晶相であることが確認された。
また、前述した2種類の正極活物質を走査型電子顕微鏡(つまり、SEM)で観察した。図2に、一例として、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質のSEM像を示す。SEM像に基づいて正極活物質の粒子径を測定したところ、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質の粒子径は約10μmであり、Li1.2Ti0.38Mn0.4Mg0.022の組成式で表される正極活物質の粒子径は約20μmであることが確認された。
[触媒]
触媒としては、Mn23、RuO2、SrFe系酸化物及びCaFeCo系酸化物を準備した。SrFe系酸化物及びCaFeCo系酸化物の作製方法は以下の通りである。
・SrFe系酸化物
SrFe系酸化物は、クエン酸錯体重合法により作製した。まず、酢酸ストロンチウム0.5水和物、クエン酸鉄(III)n水和物及びクエン酸一水和物を蒸留水中に溶解させて水溶液を得た。ホットスターラーを用いて水溶液を120℃の温度で加熱しつつ攪拌することにより、蒸留水を蒸発させ、前駆体を得た。この前駆体を150℃の恒温槽内で一晩乾燥させた後、大気雰囲気中において850℃または900℃のいずれかの温度で10時間加熱することにより、SrFe系酸化物を得た。
・CaFeCo系酸化物
CaFeCo系酸化物は、クエン酸錯体重合法により作製した。まず、酸化カルシウム、クエン酸鉄(III)n水和物、酢酸コバルト(II)四水和物及びクエン酸一水和物を蒸留水中に溶解させて水溶液を得た。ホットスターラーを用いて水溶液を120℃の温度で加熱しつつ攪拌することにより、蒸留水を蒸発させ、前駆体を得た。この前駆体を150℃の恒温槽内で一晩乾燥させた後、大気雰囲気中において900℃の温度で10時間加熱することにより、CaFeCo系酸化物を得た。
粉末X線回折により前述したSrFe系酸化物及びCaFeCo系酸化物に含まれる結晶相の同定を行った。図3にSrFe系酸化物のX線回折パターン、図4にCaFeCo系酸化物のX線回折パターンをそれぞれ示す。なお、図3及び図4の縦軸は回折強度であり、横軸は回折角(単位:°)である。X線回折装置としては、株式会社リガク製「SmartLab(登録商標)」を使用し、照射した特性X線はCuKα線とした。
X線回折パターンに基づいてこれらの酸化物に含まれる結晶相を同定したところ、850℃で焼成されたSrFe系酸化物及び900℃で焼成されたSrFe系酸化物は、いずれも、組成式がSrFeO2.743であり、ペロブスカイト型の結晶構造を有する結晶相と、組成式がSr3Fe26.75であり、層状ペロブスカイト型の結晶構造を有する結晶相とから構成されていることが確認された。また、900℃で焼成されたSrFe系酸化物は、850℃で焼成されたSrFe系酸化物に比べて、SrFeO2.743の組成式で表されるペロブスカイト型構造の結晶相の回折ピークの強度が高くなった。
CaFeCo系酸化物は、組成式がCa2Fe1.0436Co0.9544.939であり、ブラウンミラーライト型の結晶構造を有する結晶相から構成されていることが確認された。
また、SrFe系酸化物及びCaFeCo系酸化物を走査型電子顕微鏡で観察したところ、850℃で焼成されたSrFe系酸化物は、図5に示すように鱗片状を呈する粒子であり、その粒子径は概ね5μm以上10μm以下であった。また、850℃で焼成されたSrFe系酸化物の粒子表面には、一次粒子に由来する粒界が確認された。この観察結果によれば、850℃で焼成されたSrFe系酸化物は、焼成中に一次粒子同士が結合し、一体化することにより形成されていると推定される。SrFe系酸化物の粒界に基づけば、SrFe系酸化物の一次粒子の粒径は約300nmであると考えられる。
900℃で焼成されたSrFe系酸化物は、図6に示すように鱗片状を呈する粒子であり、その粒子径は概ね5μm以上10μm以下であった。なお、900℃で焼成されたSrFe系酸化物には一次粒子に由来する粒界が確認されなかった。
また、図7に示すように、CaFeCo系酸化物の粒子径は概ね300nm以上500nm以下であった。
次に、前述した正極活物質及び触媒を用いた正極の構成及びその製造方法を説明する。
(実施例1)
実施例1の正極は、表1に示すように、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質と、Mn23からなる触媒とを有している。
実施例1の正極の具体的な作製方法は以下の通りである。まず、正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末と、アセチレンブラックと、Mn23と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比において、正極活物質:アセチレンブラック:Mn23:結着剤=60:27.45:2.55:10となるように混合した。この混合物にN-メチル-2-ピロリドンを加え、ペースト状の正極合材を得た。
この正極合材を厚みが約105μmとなるように正極集電体21上に塗布した後、100℃の温度で正極合材を乾燥させることにより、正極集電体21上に正極活物質層22を形成した(図8参照)。次いで、正極集電体21上の正極活物質層22を約100MPaの圧力でプレスし、正極活物質層22の密度を上昇させた。その後、正極活物質層22を正極集電体21とともに直径16mmの円盤状に打ち抜くことにより、正極2を得た。なお、正極集電体21は、アルミニウム箔から構成されている。
(実施例2~4)
実施例2~4の正極は、表1に示すように、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質と、850℃で焼成されたSrFe系酸化物、900℃で焼成されたSrFe系酸化物及びCaFeCo系酸化物のうちいずれか1種の触媒とを有している。なお、本実施例以降の実施例において用いる符号のうち、既出の例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の例における構成要素と同様の構成要素等を示す。また、表1においては、850℃で焼成されたSrFe系酸化物を「SrFe系酸化物(850℃)」、900℃で焼成されたSrFe系酸化物を「SrFe系酸化物(900℃)」と記載した。
実施例2~4の正極の作製方法は、正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末、アセチレンブラック、触媒及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデンが、質量比において、正極活物質:アセチレンブラック:触媒:結着剤=60:27:3:10となるように混合されてなる正極合材を用いた以外は、実施例1の正極の製造方法と同様である。
(実施例5~6)
実施例5~6の正極は、表1に示すように、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質及びLi1.2Ti0.38Mn0.4Mg0.022の組成式で表される正極活物質のうちいずれか一方の正極活物質と、Mn23及びRuO2の2種の触媒とを有している。
実施例5~6の正極の作製方法は、正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末、アセチレンブラック、触媒及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデンが、質量比において、正極活物質:アセチレンブラック:Mn23:RuO2:結着剤=60:27:2.55:0.45:10となるように混合されてなる正極合材を用いた以外は、実施例1の正極の製造方法と同様である。
(比較例1~2)
比較例1の正極は、表1に示すように、Li1.2Ti0.4Mn0.42の組成式で表される正極活物質及びLi1.2Ti0.38Mn0.4Mg0.022の組成式で表される正極活物質のうちいずれか一方の正極活物質を有している。比較例1~2の正極には触媒が含まれていない。
比較例1~2の正極の作製方法は、正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末、アセチレンブラック及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデンが、質量比において、正極活物質:アセチレンブラック:結着剤=60:30:10となるように混合されてなる正極合材を用いた以外は、実施例1の正極の製造方法と同様である。
[評価用二次電池の構成及び作製方法]
放電レート特性の評価を行うに当たっては、まず、実施例及び比較例の正極を用いて非水電解液二次電池(テストセル)を作製した。図8に示すごとく、本例の非水電解液二次電池1は、正極2、対極3、セパレータ4及び非水電解液5を備えたCR2032型コイン電池である。
より具体的には、二次電池1は、図8に示す如く、高さの比較的小さな有底円筒形状であるケース11と、ケース11の開口を閉鎖する上蓋12とを有している。ケース11と上蓋12との間には空間が形成されている。上蓋12は、かしめ加工によりケース11に接合されている。
ケース11と上蓋12との間の空間内には、正極2、対極3、セパレータ4、非水電解液5が収容されている。正極2とセパレータ4との間には、ゴム製のパッキン15が配置されている。また、上蓋12と正極2との間には、スペーサ13及びワッシャ14が設けられている。スペーサ13は、正極2と当接するように配置されている。ワッシャ14は、スペーサ13と上蓋12との間に配置されている。本例のスペーサ13は、具体的には、円盤状のステンレス鋼板である。
正極2の構成は前述した通りである。対極3は、具体的には、円盤状の金属リチウム箔である。
セパレータ4は、ポリプロピレンからなり、正極2と対極3との間に介在している。非水電解液5は、二次電池1内における少なくとも正極2と対極3との間に充填されている。本例の非水電解液5は、具体的には濃度1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネート系の有機溶媒からなる。
[レート特性試験]
次に、得られた電池を用い、レート特性試験を行った。なお、レート特性試験は、充放電装置(Bio-Logic社製「BCS-815」)を用いて行った。
まず、25℃の温度において、各二次電池を30mA/g、100mA/g、300mA/gまたは900mA/gのうちいずれかの電流密度の定電流で4.8Vまで充電した。次いで、充電時と同じ電流密度の定電流で1.5Vまで放電させ、このときの放電曲線を取得した。なお、本例においては、300mA/gの電流密度は、1C、つまり、1時間で充電率が100%となる充放電レートに相当する。同様に、30mA/g、100mA/g、900mA/gの電流密度は、それぞれ、C/10、C/3、3Cの充放電レートに相当する。
このようにして得られた放電曲線に基づいて、各電流密度における放電容量を算出した。これらの値は、それぞれ、表1に示した通りであった。表1の「放電容量比」欄には、30mA/gの電流密度における放電容量に対する900mA/gにおける放電容量の比率を記載した。表1の「初回平均放電電圧」欄には、30mA/gの電流密度で充放電を行った際の、初回の放電曲線における電圧の平均値を記載した。表1の「初回クーロン効率」欄には、30mA/gの電流密度で充放電を行った際の、初回の充電容量に対する初回の放電容量の比率を百分率で表した値を記載した。
Figure 2022054022000002
表1に示したように、実施例1~5の正極は、触媒を含まない以外は同様の構成を有する比較例1の正極に比べて、高い放電容量比を有している。同様に、実施例6の正極は、触媒を含まない以外は同様の構成を有する比較例2の正極に比べて高い放電容量比を有している。
これらの結果から、酸素の酸化還元反応を利用して充電及び放電を行うことができるように構成された正極活物質と、前記特定の触媒との両方を含む正極は、放電レート特性に優れていることが理解できる。実施例1~6の正極の中でも、特に、Mn23とRuO2とからなる触媒が含まれている実施例5~6の正極は、実施例1~4の正極よりもさらに放電レート特性に優れている。
また、実施例2~4の正極を比較すると、SrFe系酸化物からなる触媒が含まれている実施例2~3の正極は、CaFeCo系酸化物からなる触媒が含まれている実施例4の正極に比べて低い電流密度での放電における放電容量が大きい。これらの結果から、SrFe系酸化物からなる触媒は、CaFeCo系酸化物からなる触媒に比べて充放電時の化学反応に対する触媒活性が高いと考えられる。
本発明に係る正極活物質及び非水電解液二次電池の具体的な構成は、前述した実施例の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。上述の実施例においては、対極を金属リチウムとするテストセルに関するデータを示したが、これらの実施例の結果から、上述の正極活物質が非水電解液二次電池の正極に好適であることがわかる。実際の非水電解液二次電池の構築にあたっては、実施例1~6の正極活物質を含有する正極と、カーボンやリチウム系酸化物等からなる負極活物質を含有する負極とを組み合わせることができる。
1 非水電解液二次電池
2 正極
3 対極
4 セパレータ
5 非水電解液

Claims (5)

  1. 非水電解液二次電池に用いられる正極であって、
    酸素の酸化還元反応を利用して充電及び放電を行うことができるように構成された正極活物質と、
    Mn23と、Sr、Ca及びFeのうち2種以上の金属元素を含む酸化物とからなる群より選択され、酸素の酸化還元反応に対して触媒作用を有する1種以上の触媒と、を有する、正極。
  2. 前記正極活物質は、LiaTibMncMgdeの組成式(ただし、前記組成式におけるa~eは、1<a<1.3、0<b<1、0<c<1、0≦d<0.25、1.8<e<2.2、d<b、b+c+d<aの関係を満たす。)で表される組成を有している、請求項1に記載の正極。
  3. 前記酸化物は、SrとFeとを含むSrFe系酸化物またはCaとFeとCoとを含むCaFeCo系酸化物である、請求項1または2に記載の正極。
  4. 前記正極には、前記触媒としてのRuO2がさらに含まれている、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の正極と、
    負極と、
    非水電解液とを有する、非水電解液二次電池。
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