JP5522723B2 - 新規ポリペプチド,アフィニティークロマトグラフィー用材,及びイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、イムノグロブリンの相補性決定領域以外の領域に結合するポリペプチドに関するものであり、より詳しくは、分離・精製対象であるイムノグロブリンが安定した立体構造を持ち、かつ損傷、機能の喪失などの不具合を引き起こさない条件下(pH5〜9,60℃未満)で、分離・精製リガンドであるプロテインAの、天然の立体構造の喪失と形成の制御が可能になるように、アミノ酸変異が導入されたプロテインA,又はそのイムノグロブリン結合ドメインに関する。
また本発明は、前述した性質を持つプロテインAのイムノグロブリン結合ドメインの変異体を用いたアフィニティークロマトグラフィー用材とその利用に関する。
イムノグロブリンは、動物などの生体内に侵入した異物などを認識して、免疫反応を引き起こす抗体,及びこれと構造又は機能的に類似したポリペプチドの総称であり、IgG,IgM,IgA,IgD,IgEなどの種類がある。純度の高いイムノグロブリンは、ライフサイエンス研究,製薬,及び臨床検査分野等においてその需要が増加している。
不純物を除去して純度の高いイムノグロブリンを製造する方法としてアフィニティークロマトグラフィーが中心技術として使用されている。
アフィニティークロマトグラフィーにおいては、下記(A)〜(C)の工程を経て、純度および濃度の高いポリペプチドが精製される。
(A)不純物の混じった試料をカラムに負荷する工程(負荷工程)
(B)負荷したカラムから精製対象とするポリペプチド以外の不純物を取り除く工程(洗浄工程)
(C)精製対象とするポリペプチドをカラムから回収する工程(溶出工程)
その際、負荷工程と洗浄工程においては、精製対象とするポリペプチドがアフィニティーリガンドに強く結合するように、カラム内の環境を設定する一方で、溶出工程では両者が分離するようにカラム内の環境を変化させることが必須であり、この環境変化には、通常pHの変化が利用されている。
イムノグロブリンの精製に用いるアフィニティークロマトグラフィーのリガンドとしては、イムノグロブリンの共通領域に極めて高い特異性と親和性を持つ、スタフィロコッカス(Staphylococcus)由来のプロテインA(以下プロテインAと記す),及びそのイムノグロブリン結合ドメインが知られており、産業規模でのイムノグロブリン製造工程で広く使用されている。
しかしながら、プロテインA又はその一部をリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーには、イムノグロブリンの性質に起因する問題があり、その製造が制約を受けている。
その問題とは、pH変化によってカラムからイムノグロブリンを溶出させるには、イムノグロブリンとプロテインAの親和性が高いpH6〜8の中性域(負荷・洗浄工程のpH)から、親和性が極端に低下するpH3〜4の酸性域(溶出工程のpH)に変化させる必要があるが、この酸性pH域では、イムノグロブリンに立体構造の変化、会合凝集などが起こり、その機能に不具合をきたすため(特開2005‐206602号公報参照)、“本来の性質を保持したイムノグロブリン”の分離・精製の歩留まりが、極端に悪くなる事である。
特に、モノクローナル抗体医薬品として使用され、産業上最も有用なヒト化又はヒト型IgGは、プロテインAとの親和性が他のイムノグロブリンより高く、溶出時に特に強い酸性度の緩衝液が要求されているため、会合・凝集が発生しやすく、それらIgGの失活が、広く業界で問題となっている。
例えば、現在、アフィニティーリガンドとしてプロテインA又はそのイムノグロブリン結合ドメインが固定された、工業的規模で使用されている支持体は、GEヘルスケアバイオサイエンス社、ミリポア社などが販売しているが、これらの支持体を使用したイムノグロブリンの製造においても、溶出時に酸性(pH3〜4)の溶出用緩衝液が使用されている。
従って、高純度のイムノグロブリンを効率よく製造するためには、酸性pHを使用しない精製方法を開発することが望まれている。
この課題を解決するため、従来様々な技術が検討されてきたが、それらには下記の様な問題点があり、実現性に乏しかった。
[添加物を加える方法]
プロテインA使用に際し、各種の添加物を加え、pH5からpH7での溶出を可能にする方法は、回収率の低さ,添加物自体の悪影響,電荷を持つ添加物除去の必要性(工業的精製のイオン交換クロマトグラフィー使用時に障害となる為),溶出pH5付近でのイムノグロブリン損傷の懸念の残存,等の問題があり、実用的では無かった。
[人工リガンドをプロテインAの代わりに用いる方法]
有機化学的に合成された人工リガンドを、プロテインAの代替品として使用する方法には、a)溶出スピードが遅いため濃縮率が著しく低く、精製効率としては非常に悪い,b)添加物の併用が必要(精製の目的に逆行),c)不純物除去能力が低いなどの欠点がある。
[酸性溶液に接触する時間を短くする方法]
抗体と酸性溶液の接触時間を短くする方法,溶出液に直ちに高濃度の中性緩衝液を混合する方法等もあるが、これらは抗体の会合・凝集の根本的な解決方法とは言えない。
[プロテインAの変異体をリガンドに使用する方法]
イムノグロブリンの結合領域にある疎水性アミノ酸をヒスチジンに変異させたプロテインA変異体を用い、pH5での溶出を可能にする方法(非特許文献1)は、天然型より中性に近いとはいえpHを酸性にすることには代わりがなく、イムノグロブリンの損傷の懸念は残る。また、溶出スピードが遅すぎて、産業用工程には向かない。
[プロテインAの立体構造を不安定化する方法(1)]
一方、イムノグロブリンとリガンドの結合を解除するには、リガンドであるポリペプチドの立体構造を喪失させることが考えられるが、一般的にポリペプチドの立体構造を喪失させるには、尿素や塩化グアニジンなどの変性剤を添加する,温度を上昇させる,コファクターを除去する,又は塩濃度を変化させるなどが行われ、特に変性剤及び温度は多くのポリペプチドの変性に有効である。
しかしながら前述の方法はいずれも、プロテインAとそのドメインだけでなく、精製の対象であるイムノグロブリンの立体構造も喪失させてしまい、不可逆的にその生物学的な機能を失わせてしまう。
従って、精製の対象とするイムノグロブリンの立体構造や機能を保ったまま、リガンド用ポリペプチドの立体構造だけを喪失させる条件を見つけるのは、リガンド用ポリペプチドが野生型のままでは困難である。
[プロテインAの立体構造を不安定化する方法(2)]
プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインのひとつであるBドメインのアミノ酸配列の一部を変異させたZドメインにおいて、ループ2部分にグリシンを6個挿入又はループ2の配列をグリシンに置換した変異体は、立体構造がZドメインより不安定になった。この変異体を用いると、pH4.5でイムノグロブリンの溶出が可能である(非特許文献2)。しかしながら、天然型より中性に近いとはいえpHを酸性にすることには代わりがなく、イムノグロブリンの損傷の懸念は残る。
[プロテインAの立体構造を不安定化する方法(3)]
プロテインAは、E,D,A,B,及びCドメインと呼ばれるそれぞれ約60のアミノ酸から構成され、互いに高い相同性を示すこれらのドメインは、それぞれが単独でイムノグロブリンの共通領域(Fc領域)に結合できることが知られている。
上述の変異体Zドメインとは、Bドメイン(配列番号1)からポリペプチド制限酵素の認識配列を取り除くために第1位のAlaをValに、第29位のGlyをAlaに置換したものである。Zドメインも、単独あるいは複数のZドメインを連結した状態で、イムノグロブリンの共通領域(Fc領域)に結合することが知られている。
ところが、これらB及びZドメインの立体構造はきわめて安定しており、イムノグロブリンが不安定になるpH4以下、60℃以上の高温でもその立体構造は安定している。従って、温度変化によって、イムノグロブリンの立体構造は変化させずに、リガンドであるこれらドメインの立体構造のみを選択的に不安定にすることは、困難である。
該プロテインAの各イムノグロブリン結合ドメインは、いずれも下記の(X)〜(Z)から構成されている。
(X)3個のヘリックス(N末端から、ヘリックス1,ヘリックス2,ヘリックス3)
(Y)ヘリックス1とヘリックス2を連結するループ1
(Z)ヘリックス2とヘリックス3を連結するループ2
そして、イムノグロブリンとの結合に直接関係するアミノ酸は、全てヘリックス1とヘリックス2の表面に露出しており、これらのアミノ酸を置換すると結合の特異性等が変化することが予想される。
その一方で、イムノグロブリン結合ドメインの内部にある疎水性のアミノ酸は、イムノグロブリンと直接接触せず、結合の特異性には直接関係しない代わりに、空間的に接近している他の疎水性側鎖と疎水結合を形成し、ポリペプチドの立体構造の安定性に大きく寄与していることが知られている。
その寄与の度合いは、一般的に疎水性アミノ酸側鎖の大きさと一定の相関関係があるとされており、側鎖の大きな内部アミノ酸を側鎖の小さいアミノ酸に置換すると、疎水結合が失われ、ポリペプチドの天然の立体構造を不安定化することができるとも考えられる。
しかしながら、ポリペプチドの立体構造の安定性は、疎水性アミノ酸の大きさだけでは無く、個々のポリペプチド自身の特性にも強く依存しており、具体的にどの部位の疎水アミノ酸をどのように置換すれば、期待したように構造を不安定化できるのかは、容易には特定し得ない。
本発明者は、既に、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインにおいて、露出表面積の少ない疎水性アミノ酸の、より小さい疎水性側鎖を持つアミノ酸への置換を種々検討し、ループ1周辺の疎水性アミノ酸を置換させた変異体が、該ドメインの立体構造の安定にもっとも大きな影響があることが明らかにしたが、これは単に、一定の温度条件下(室温)でアミノ酸の置換と立体構造の安定性の相関関係をある程度解明したに過ぎず、イムノグロブリンに関する記載は一切無い(非特許文献3)。
一方、プロテインAの立体構造があまりに不安定化すると、そもそも負荷・洗浄工程において、イムノグロブリンとの結合が難しくなる問題が生じる。
従って、上記の研究は、イムノグロブリンの精製にそのまま応用できるものでは無かった。
つまり、イムノグロブリンの精製には、精製用ポリペプチドの、立体構造が安定した状態と、不安定化した状態を、pH変化以外の条件で、自在にコントロールし得ることが必要なのである。
また、ポリペプチドの立体構造の安定性の指標として、変性ギブス自由エネルギーと言う概念が知られており、非特許文献3や4に、プロテインAのBドメインに関する記載がある。
Mol. Biotechnol. Vol.10(1998), P.9-16 J. Biotechnol. Vol.76(2000), P.233-244 Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.101(2004), P.6952-6956 J. Mol. Biol. Vol.372 (2007), P.254-267
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、あるプロテインA変異体が、温度変化に伴う立体構造の変化等によって、イムノグロブリンとの結合性に変化を示し、しかもこれが、イムノグロブリンの構造には影響を与えない温度領域で可能であることを見出し、本発明を完成するに至ったものであって、その目的とするところは、精製の対象たるイムノグロブリンの立体構造の安定性が確保され、かつ損傷、機能の喪失、又は意図しない機能などの不具合が引き起こされないような条件下(pH5〜9,60℃未満)で、それ自身の天然の立体構造の喪失と形成のコントロールが可能な、新規イムノグロブリン結合用ポリペプチドを開発し、これをアフィニティークロマトグラフィー用支持体に固定するリガンドとして使用することによって、pHの変化や、精製の方向性に逆行するような添加物使用を必要としない、新たな精製方法を提供するにある。
上述の目的は、下記第一の発明から第十四の発明によって、達成される。
<第一の発明>
配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得るものであることを特徴とするポリペプチド。
<第二の発明>
第一の発明記載のポリペプチドであって、ポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすものであることを特徴とするポリペプチド。
ΔΔG X-BWT≦-3.3 kcal/mol (I)
ΔΔG X-PWT≦-4.2kcal/mol (II)
ΔΔG X-BGG≦4.2kcal/mol (III)
(式中、ΔΔG X-BWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差ΔGX -ΔG BWT を表し、
ΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差ΔGX -ΔGPWT を表し、
ΔΔG X-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
第一の発明記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差ΔGX -ΔGBGGを表す。)
<第三の発明>
配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とする第一の発明又は第二の発明に記載のポリペプチド。
<第四の発明>
第一乃至第三の発明のいずれかに記載のポリペプチドであって、アミノ酸配列において、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと60%以上の相同性を有するものであることを特徴とする、ポリペプチド。
<第五の発明>
第一乃至第四の発明のいずれかに記載のポリペプチドであって、0℃〜10℃におけるイムノグロブリンとの結合割合が、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合の30%以上有するものであることを特徴とする、ポリペプチド。
<第六の発明>
配列番号9及び10〜21,46のいずれかで表される、第一の発明乃至第五の発明のいずれかに記載のポリペプチド。
<第七の発明>
一分子内に、第一乃至第六の発明のいずれかに記載のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチド。
<第八の発明>
プロテインAの変異体であって、第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチドを分子内に含むことを特徴とする、プロテインA変異体。
<第九の発明>
第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチド,又は第八の発明に記載のプロテインA変異体から選択される少なくとも1つ以上を含むことを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用材。
<第十の発明>
アフィニティークロマトグラフィーを用いた、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させることを特徴とする、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
<第十一の発明>
イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、第九の発明に記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いることを特徴とする、第十の発明に記載のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
<第十二の発明>
第一乃至第七の発明のいずれかに記載のポリペプチド,又は第八の発明に記載のプロテインA変異体から選択されるポリペプチドをコードする遺伝子。
<第十三の発明>
下記(1),(2)の工程を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法。
(1)プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体を選択する工程。
(2)pH5〜9,60℃未満の条件下、温度変化に応じてイムノグロブリンとの結合性が変化するものを選択する工程。
<第十四の発明>
下記(M),(N)を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用装置。
(M) 第九の発明記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いたアフィニティークロマトグラフィー用カラム
(N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
本発明のポリペプチドは、イムノグロブリン(以下代表して「IgG」と記載することがある。)の立体構造の安定性が確保され、かつ損傷、機能の喪失、又は意図しない機能などの不具合が引き起こされないような条件下(pH5〜9,60℃未満)で、天然の立体構造の喪失と形成をコントロールすること等によって、イムノグロブリンとの結合性を変化させることができる。
従って、これらをアフィニティークロマトグラフィー等のリガンドに用いる本発明のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法は、すべての工程を中性pHでおこなうことが可能であり、酸性溶液との接触によるイムノグロブリンの会合・凝集は一切発生しない。このため、失活していないイムノグロブリンを高純度で容易に回収することができる。更に、本発明の分離及び/又は精製方法は、従来のpH変化による方法に劣らないイムノグロブリンの溶出スピードを有し、産業用途においても、十分利用可能である。
[本発明のポリペプチド]
本発明のポリペプチドは、下記の配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得るものである。
本発明のポリペプチドの配列の雛形となる配列番号1のポリペプチドとは、スタフィロコッカス(Staphylococcus)由来のプロテインAの、Bドメインと同じアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、野生型Bドメインの意で、BWTと記載することがある。)であり、イムノグロブリンに共通する領域に、極めて高い特異性と親和性を持つポリペプチドである。このポリペプチドにおいて、糖鎖の有無や種類は、特に問わない。
また、本発明のポリペプチドは、それ自体、単独のポリペプチドとして存在している場合の他、後述するような、
本発明の「一分子内に、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体を少なくとも2つ以上含むポリペプチド」や
本発明の「プロテインA変異体」
等の一部として存在する等、当該ポリペプチドをイムノグロブリン結合ドメインとして有する、他のプロテインの一部であっても良い。
本発明のポリペプチドの配列の雛形となる配列番号2のポリペプチドとは、配列番号1のポリペプチドの、29位をAlaに変異させたポリペプチド(以下、PWTと記載することがある。)であり、イムノグロブリンに共通する領域に、極めて高い特異性と親和性を持つポリペプチドである。
本発明において、「変異体」とは、変異前のポリペプチドの配列に、置換,欠失,付加,あるいは挿入体等の変異を1カ所以上導入したものを意味する。
本発明において、「pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」とは、イムノグロブリンの立体構造に影響を及ぼさないpH5〜9,60℃未満の条件下で、温度によって、イムノグロブリンとの間の「結合力」や結合の「特異性」等が変化し、この性質によって、イムノグロブリンを精製することができることを言い、より具体的には、例えば、低温領域で、本発明のポリペプチドのカラム充填・IgGのカラムへの負荷・カラム洗浄を行った際に、イムノグロブリンを結合することができ、その後、高温領域にすることによって、それ自身(ポリペプチド)の構造等が変化することによって、低温領域で結合したイムノグロブリンを放出し得ることを意味し、具体的には、例えば0〜15℃,好ましくは0〜8℃,より好ましくは5℃付近の低温領域と、例えば、25〜60℃,好ましくは30〜45℃,より好ましくは32〜38℃,特に好ましくは35℃付近の高温領域で、ポリペプチドとイムノグロブリンとの結合性に、差があることを意味する。
尚、本発明のポリペプチドは、イムノグロブリンのうち、精製需要の高い「ヒトIgG」に関しては、ほぼpH7で結合・溶出可能であるが、ヒト以外のIgGについても、pH5〜9,場合によっては、pH5.9〜8.1という条件下で、結合と放出が可能である。
また、-0.5kcal/mol≦ΔΔGX-BGG≦1.5kcal/molのポリペプチドについては、「ヒトIgG」の回収率が、pH8.0〜8.4(特にpH8.2程度)で、むしろ回収率が、5〜6%程度向上することが分かった。
このような変異体を用いることで、実験系のpHを中性に保ったまま、イムノグロブリンを抽出できることが初めて可能となったものであるが、この分野においては、pH変化を利用して抽出・精製することがいわば、従来の大原則であり、それを避けるために、pHでは無く温度変化により、イムノグロブリンとの結合性が変化するものを用いることに着目した点で、本発明は画期的なものである。
温度によってイムノグロブリンとの結合性が変化し得る変異体であるか否かは、候補となる変異体を、カラムクロマトグラフィー等のリガンドとして用い、実際にイムノグロブリンを精製してみることで容易に確認することができるが、具体的には、例えば、下記に示したような指標を用いて選定することが可能である。
《第一の指標:変性ギブス自由エネルギーの差》
「pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」変異体の指標としては、変異ポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすもの等が、好ましいものとして挙げられる。
ΔΔG X-BWTは、下記式(I)-1に挙げる範囲であることが好ましく、より好ましくは、式(I)-2,特に好ましくは、式(I)-3である。
ΔΔG X-BWT≦-3.3 kcal/mol (I)-1
-13.0 kcal/mol≦ΔΔG X-BWT≦-5.6 kcal/mol (I)-2
-11.7kcal/mol≦ΔΔG X-BWT≦-6.9kcal/mol (I)-3
式(I)-1で、イムノグロブリンの回収率10%以上,式(I)-2で30%以上,式(I)-3で55%以上を達成できるからである。
ΔΔG X-PWTは、下記式(II)-1に挙げる範囲であることが好ましく、より好ましくは、式(II)-2,特に好ましくは、式(II)-3である。
ΔΔG X-PWT≦-4.2kcal/mol (II)-1
-13.9 kcal/mol≦ΔΔG X-PWT≦-6.5 kcal/mol (II)-2
-12.6 kcal/mol≦ΔΔG X-PWT≦-7.8kcal/mol (II)-3
式(II)-1で、イムノグロブリンの回収率10%以上,式(II)-2で30%以上,式(II)-3で55%以上を達成できるからである。
ΔΔG X-BGG は、下記式(III)-1に挙げる範囲であることが好ましく、より好ましくは、式(III)-2,特に好ましくは、式(III)-3である。
ΔΔG X-BGG≦4.2kcal/mol (III)-1
-1 kcal/mol≦ΔΔG X-BGG ≦1.5 kcal/mol (III)-2
-0.5kcal/mol≦ΔΔG X-BGG ≦1.5 kcal/mol (III)-3
式(III)-1で、イムノグロブリンの回収率38%以上,式(III)-2で70%以上,式(III)-3で72%以上を達成できるからである。
(式中、(I)のΔΔG X-BWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差を表し、
(II)のΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差を表し、
(III)のΔΔG X-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
本発明のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差を表す。)
(変性ギブス自由エネルギー)
本発明において、変性ギブス自由エネルギーとは、ポリペプチドが、ある条件下で、天然状態から変性状態へと遷移する反応に必要なエネルギーを、天然状態・変性状態各々に係るギブス自由エネルギーの差を用いて表したものであり、「ポリペプチドXのΔG」あるいは「ΔGX」等と表現する。
この値が大きい程、変性に多くのエネルギーを要する,すなわち、ポリペプチドが変性し難いことを意味する。
ギブス自由エネルギーとは、ポリペプチドの、ある条件下での、熱力学的な状態を示す指標として利用可能なものである。
変性状態のギブス自由エネルギーGJと、天然状態のギブス自由エネルギーGIの差ΔGJ-Iによって、変性状態への移行の難しさによって表された、該ポリペプチドXの立体構造の安定性,つまり上記のΔGXを表すことができる。
ΔGJ-I=GJ−GI=ΔGX
本発明においては、本発明の各変異体(X)のΔGXを、更に配列番号1(BWT),配列番号2(PWT),或いは配列番号9(BGG)のΔGと比較した、ΔΔG(ΔΔG X-BWT,ΔΔG X-PWT,ΔΔG X-BGG)を、イムノグロブリン回収に適した変異体の、一つの指標として用いたものである。
タンパク質分子、特に100アミノ酸以下の小さいタンパク質分子は、天然状態と変性状態との平衡状態を保ちながら、生物学的に機能していることが知られている。
特に、プロテインAのBドメイン及びその変異体の多くは、安定した中間体を形成することなく、天然状態と変性状態とを可逆的に遷移していることが知られている。その場合、プロテインAの立体構造の安定性は、天然状態と変性状態のギブス自由エネルギーの差(ΔG)を利用して、数値化することが出来る。
そして更に、“ある変異体同士の立体構造の安定性の差”は、それぞれのΔGの差(以下、ΔΔGと記載する。)によって、評価することができる。
例えば、BドメインのY14W変異体(14位のYをWに変異させた変異体)の変性に係るΔGの値は、ΔGY14W=5.0kcal/mol(25℃,1気圧,pH5.5)であると報告されている(非特許文献3 P.6953「Result」等参照)。
(但し、この非特許文献3や、非特許文献4中では、本発明で言う「Y14W」が、「Y15W」と表現されている。
これは、ポリペプチドの開始位置の認識の違いによるものである。プロテインA中の、どのアミノ酸位置からどのアミノ酸位置までを「Bドメイン」と捉えるかは、人によって若干の相違がある。非特許文献3や4では、本発明で言うBドメインのN末端のアミノ酸(A)よりも、1つ前のアミノ酸(T)からをBドメインと定義していたため、この変異位置を表す数字が、本発明よりも、1つ多くなっている。
尚、ギブス自由エネルギーの計算において、BドメインのN末端の違い(ポリペプチドが有するアミノ酸の数が1つ異なる事)は、考慮に入れなくて良い。ギブス自由エネルギーの値は、立体構造によって決まるため、立体構造の形成への関与が薄いN末端は、この値に殆ど影響しないからである。)
従って、仮に、そのY14Wを基にした更なる変異体AのΔGの値が、同じ条件下でΔGA=4.0kcal/molであれば、ΔGAからΔGY14Wを減算した値(ΔΔGA-Y14W)は-1.0kcal/molとなり、その変異体Aは、1.0kcal/molだけY14W変異体よりその立体構造が不安定であると評価することができる。
また、Y14Wを基にした別の変異体BのΔGの値が、同じ条件下でΔGB=6.0kcal/molであれば、ΔΔGB-Y14Wは+1.0kcal/molとなり、その変異体Bの立体構造は、1.0kcal/molだけY14W変異体より安定していることを示す。
(変性ギブス自由エネルギーの決定)
本発明のプロテインA及びその変異体のΔGの値は、超高感度示差走査カロリメトリー(DSC)等を用いた、公知の実験的手法によって測定可能であり(Fersht, A., Structure and Mechanism in Protein Science: A Guide to Enzyme Catalysis and Protein Folding, W. H. Freeman and Company, New York)、その数値からΔΔGを算出できる。
あるいは、すでに報告されているプロテインAのBドメインの変異体のΔGの値等(非特許文献3及び4)を用いても、ΔΔGを容易に算出可能である。
つまり、非特許文献3には、F30G(30位のFをGに置換)等の変異を加える場合のΔGが記載されている一方、非特許文献4には、Bドメインにおける各種変異の、変異体のΔGに与える影響は、各種変異によるΔGの足し算で、計算可能であることが示唆されているからである。
このため、ΔΔGの値は、比較するポリペプチド間で、異なる変異におけるΔGの積算で、算出できることとなる。
[(II)のΔΔG X-PWTの計算方法]
本発明における式(II)で使用するΔΔG X-PWTは、具体的には、非特許文献4のP.262に記載されたTable4中の、ΔGD-Nで表される値を用いて、上記の「ΔΔGの値は、比較するポリペプチド間で、異なる変異におけるΔG(Table4のΔGD-N)の積算で、算出できる」との考えに従って算出することができる。
但し、このTable4の値は、Table4のΔGD-Nを利用するには、以下の2点で注意が必要である。
(注意点1)
各々の「変異自体」のΔGD-Nを算出するには、非特許文献4のTable4に記載されたΔGD-Nから、「Y15W変異体」のΔGD-N(これはY15W変異自体の値でもある。/Table4の最上段の値(4.99))を減算する必要がある。
何故なら、Table4のΔGD-Nの値は、プロテインAのBドメインに相当するポリペプチドの、「Y15W変異体」や、「Y15Wに加えて更に変異を加えた各種の変異体(全体)」についての値だからである。
(注意点2)
Table4を利用する際には、本発明における変異位置の数字に、「1」を加えたものを利用する必要がある(例:本発明のL19Aの場合、Table4のL20Aの値を用いる。)。
何故なら、上述した様に、非特許文献4と本発明とでは、Bドメインの開始位置の認識に違いがあるからである。
〔具体的な計算例〕
上述の注意点1及び2を踏まえて、ΔΔGの具体的な計算方法を例示する。
(アミノ酸変異が1つの場合)
例えば、後述する実施例12(BGG14)の変異体とPWTとの間のアミノ酸変異は、PWTの19位のLが、BGG14ではGになっている点のみである。
従って、BGG14についてのΔΔG X-PWTは、下記の様にして計算可能である。
ΔΔG BGG14-PWT
=L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N
=Tabele4のL20Gの値(0.78)-Y15Wの値(4.99)
≒-4.2
(アミノ酸変異が複数の場合)
上述した様に、ΔΔG X-PWTの値は、変異体Xと変異体PWTの間の「アミノ酸変異自体のΔG」の積算によって算出できる。
例えば、実施例11(BGG13)の変異体とPWTとの間のアミノ酸変異は、PWTの19位のLが、BGG13ではGに、そしてPWTの22位のLが、BGG13ではAになっている点である(変異は2箇所)。
従って、BGG13についてのΔΔG X-PWTは、下記の様にして計算可能である。
ΔΔG BGG13-PWT
={L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N}+{L23A(本発明でのL22A)変異自体のΔGD-N
={Tabele4のL20Gの値(0.78)-Y15Wの値(4.99)}+{Tabele4のL23Aの値(-0.01)-Y15Wの値(4.99)}
=(0.78-4.99)+(-0.01-4.99)
≒-9.2
尚、式(II)は、後述する実施例から、一定のIgG回収率(精製率)を達成する、ΔΔG X-PWTの範囲として導き出したものである。
[(I)のΔΔG X- BWT の計算方法]
BドメインおよびZドメイン等のヘリックスを形成する小型のポリペプチドにおいて、ヘリックス中央付近に位置するAlaをGlyに置換する変異は、それらのポリペプチドのΔG(変性ギブス自由エネルギー)を約0.9kcal/mol減少、すなわち立体構造をその分だけ不安定化させることが分かっている(Fersht, A., Structure and mechanism in protein science: A guide to enzyme catalysis and protein folding. W. H. Freeman and Company, New York (1998), Table 17.3, p528.)。
従って、配列番号1は、配列番号2に比べて、変性ギブス自由エネルギーが0.9kcal/mol低いということもできる。
式(I)は、このことから、式(II)をもとに、計算によって導き出した範囲である。
[(III)のΔΔG X- BGG の計算方法]
また、式(III)は、例えば22位のLeuのGlyへの置換を含む変異体の場合、立体構造の不安定度が高く、変性ギブス自由エネルギーを正確に特定できないため、式(I)や式(II)が計測不能である。
従って、このような場合、イムノグロブリンの温度差による回収率が高いことが最初に確認された配列番号9のポリペプチド(実施例5のBGG)を基準に、相対的な変性ギブス自由エネルギーの差を求め、イムノグロブリンの回収率が高かった範囲を式(III)として規定した。
尚、この差は、(II)と同様に、非特許文献3,4等にある数値から算出したものである。
例えば、後述する実施例9(BGG11)の変異体とBGGとの間のアミノ酸変異は、BGGの19位のGが、BGG14ではAになっている点のみである。
ここで、Table4には、直接G20A(本件でのG19A)の値は存在しないので、かかる場合には、L20A変異の値からL20G変異の値を減算する方法によって、算出することが可能である。
従って、BGG11に ついてのΔΔG X-BGGは、下記の様にして計算可能である。
ΔΔG BGG11-BGG
=G20A(本発明でのG19A)変異自体のΔGD-N
={L20A(本発明でのL19A)変異自体のΔGD-N}−{L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N
=(Table4のL20Aの値-Y15Wの値)−(Table4のL20Gの値-Y15Wの値)
=(2.32-4.99)-(0.78-4.99)
=2.32-0.78
≒1.5
また、例えば、後述する実施例10(BGG12)の変異体とBGGとの間のアミノ酸変異は、BGGの19位のGが、BGG14ではLになっている点のみである。
ここで、Table4には、直接G20L(本件でのG19L)の値は存在しないので、かかる場合には、L20Lの値からL20Gの値を減算する方法によって、算出することが可能である。
尚、L20Lの値は、Table4には無いが、変異が無いことを意味するので、0となる。
従って、BGG12に ついてのΔΔG X-BGGは、下記の様にして計算可能である。
ΔΔG BGG12-BGG
=G20L(本発明でのG19L)変異自体のΔGD-N
={L20L(本発明でのL19L)変異自体のΔGD-N}−{L20G(本発明でのL19G)変異自体のΔGD-N
=0-(Table4のL20Gの値-Y15Wの値)
=0-(0.78-4.99)
=+4.2
因みに、配列番号1(BWT)をもとに設計したポリペプチド変異体なら、配列番号1の変性ギブス自由エネルギーΔΔG X-BWTを用いた式(I)で評価しなければならない訳では無く、本発明の各ポリペプチドは、全て、式(I)〜(III)のいずれで評価しても構わない。
《第二の指標:アミノ酸配置》
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されている、本発明のポリペプチド]
変性ギブス自由エネルギーとは違った観点から、「pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」変異体を得る際の指標としては、「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とするポリペプチド」という条件等が挙げられる。
具体的な「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されていることを特徴とするポリペプチド」としては、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの、少なくとも19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに置換されている16種類のポリペプチドの他、この変異を変更することなく、更に他のアミノ酸の置換,欠失,付加,あるいは挿入が導入された変異体をも含むものである。
19位のLeu及び/又は22位のLeuの、Ala又はGlyへの置換は、配列番号1又は2のポリペプチドの立体構造的な安定性を低下させることによって、温度変化によって立体構造が変化し得るようになることを企図している。
19位や22位の変異以外の変異としては、例えば、タンパク質内部の疎水性アミノ酸を、他の疎水性アミノ酸に変異させるほか、側鎖による水素結合を欠失させる変異等が挙げられる。
水素結合を欠失させる変異としては、例えば、Gln(特に、タンパク質表面に露出している、例えば26位のGln)のGlyへの置換等が挙げられる。
Gln側鎖のアミド基が水素結合に関わっている場合に、そのアミド基を欠失させると水素結合が失われ、該ポリペプチドの立体構造を不安定にさせると考えられるからである。
このような変異の一例としては、後述の実施例17のBLG28等が挙げられる。
さらに、親水性のアミノ酸であっても、その側鎖に著しく疎水性を有する部分がある場合、その部分を欠失させる変異であれば、タンパク質立体構造の安定性を低下させることができる。たとえば、中性溶液中で電荷を有する親水性のArgを例えばGly等の疎水性の強いメチレン基を有しない(又は少ない)アミノ酸等に置換すると、そのポリペプチドの天然立体構造が不安定になる傾向にある。
このような変異の一例としては、後述の実施例18等が挙げられる。
但し、これらの変異体は、pH5〜9の範囲で、イムノグロブリンとの結合性が、温度変化に応じて変化し得るものであることが必要である。
尚、この温度変化は、好ましくは5℃以上,より好ましくは10℃以上,更に好ましくは20℃以上の幅があると、イムノグロブリンの精製に用いる際に、温度管理が容易となるため好ましい。
《第三の指標:ポリペプチドの相同性》
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと60%以上の相同性を有する、本発明のポリペプチド]
本発明の変異体は、配列番号1又は2のポリペプチドとアミノ酸配列において、一定の相同性を有していることが好ましい。
なぜなら配列番号1であるBドメイン(配列番号2は、この1アミノ酸置換体である)は、イムノグロブリンとの結合性が立証されているからである。
しかし、これは、本発明において、イムノグロブリンとの結合性を保持する変異体を得る際の、一つの指標であって、配列番号1や2との相同性が低いものを排除する趣旨では無い。
相同性とは、アミノ酸配列が類似していることを意味し、例えば、アミノ酸配列の60%以上が一致しているものが好ましいと考えられるが、より好ましくは70%以上,更に好ましくは80%以上,特に好ましくは90%以上が一致していることを意味する。
不一致のアミノ酸も、化学的性状または構造的に類似のアミノ酸同士の置換であれば、イムノグロブリンとの結合性が保持される可能性が高いので好ましい。
このような、化学的性状または構造的に類似したアミノ酸の置換、すなわち一般的に保存性の高いアミノ酸置換の具体的な態様は公知であるが、具体的に例示すると、
グリシン(Gly)は、プロリン(Pro)、アラニン(Ala)およびバリン(Val)と、
ロイシン(Leu)は、イソロイシン(Ile)と
グルタミン酸(Glu)は、グルタミン(Gln)と
アスパラギン酸(Asp)はアスパラギン(Asn)と
システイン(Cys)はスレオニン(Thr)と
Thrはセリン(Ser)およびAlaと
リジン(Lys)はアルギニン(Arg)と置換することが好ましい。
但し、化学的性状または構造的に類似のアミノ酸の組み合わせは、必ずしもこれに限定されるものではない。
《第四の指標:イムノグロブリンとの結合性》
[配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合の30%以上である、本発明のポリペプチド]
本発明の変異体は、0℃〜15℃におけるイムノグロブリンとの結合割合において、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと同等であることが好ましい。「同等」とは、変異前のポリペプチドのイムノグロブリン結合割合の、例えば30%以上の結合割合を有しているものが好ましいと考えられるが、より好ましくは40%以上,更に好ましくは50%以上,特に好ましくは70%以上の結合割合を有することを意味する。
尚、このイムノグロブリンとの結合割合は、実際に、これらの変異体をリガンドとして用いた支持体をカラム等に充填し、イムノグロブリンを含む溶液を流し、リガンドに吸着したイムノグロブリンと吸着せずに流れてしまったイムノグロブリンの量を測定することによって、確認することができる。
リガンドに吸着したイムノグロブリンの量は、pHや温度を変化させて、イムノグロブリンを溶出させることによって、測定することができる。
例えばプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン(E,D,A,Cドメイン)や、Bドメインの公知の変異体であるZドメイン等も、もともとBドメインと相同性が高いため、これらの少なくとも19位に相当するLeu及び/又は22位に相当するLeuが、Ala又はGlyに置換されている変異体も、本発明のポリペプチドに含まれる。
本発明のポリペプチドとしては、Bドメインの19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに,更に、29位のGlyがAlaに変異しているものが好ましく、特に、実施例で示したようなものが好ましい。
尚、このような変異ポリペプチドは、Bドメインと相同性を有する、他のイムノグロブリン結合ドメインの遺伝子から製造することもでき、その由来を問わない。
例えば、Bドメインの1位がValに,29位がAlaに置換されたZドメインは、Bドメインとかなり配列が類似しているため、Zドメインの1位のValがAlaに,19位のLeu及び/又は22位のLeuが、Ala又はGlyに変異するように、遺伝子を変異させれば、同様の変異ポリペプチドを製造できる。
尚、上記の本発明のポリペプチドには、上述の各種変異に加えて、更に、US2005/14356A1に記載されたような変異を施すことによって、ポリペプチドのアルカリ耐性を向上させることができる。
具体的には、上述したような各種変異に加えて、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの少なくともひとつのAsnを、それ以外のアミノ酸に変異させること等によって、アルカリ耐性を向上させることができる。
本発明のポリペプチドは、イムノグロブリンの精製を中性で行うことを前提としているという観点からは、耐アルカリ性は特に必要では無いが、精製工程に繰り返し用いる場合、ポリペプチドに吸着している可能性のある汚染物質を完全に取り除くため、精製サイクル毎に、アルカリ洗浄を行う場合があるからである。
Asnを変異させる他のアミノ酸としては、非荷電のアミノ酸が好ましく、例えば、Thr,Gln,Ala,Ser等が挙げられるが、特に、Thr等が好ましい。
アルカリ耐性の低下は、主に、Asnが、アルカリによって、マイナスに荷電したAspに変化することに起因することが、上記文献によって知られているからである。
また、上記の置換を行うAsnとしては、例えば、本発明の各種ポリペプチドの、3,6,11,21,23,28,43,52位のAsnが候補として挙げられ、これらのうち1又は2以上のAsnを、上述したような他のアミノ酸に置換することが考えられるが、特に、23位のAsnを置換することが好ましい。
上記の文献(US2005/14356A1)において、23位の変異が、アルカリ耐性の向上率が高いことが、知られているからである。
[本発明の精製対象であるイムノグロブリン]
本発明において、精製の対象となるイムノグロブリンとは、動物の生体,あるいは動物の培養細胞等に由来するものの他、それらの構造を模して人工的に合成されたものであっても良く、モノクローナル抗体の他、ポリクローナル抗体であっても良い。
その動物とは、ヒトの他、マウス,ラット,ウサギ,ブタ,ウマ,イヌ,ネコなどの非ヒト動物であっても良く、また、イムノグロブリンは、非ヒト動物由来のイムノグロブリンを、バイオテクノロジー手法等によって、ヒト化等のキメラ化,あるいはヒト型化(完全ヒト化)したものであっても良い。
また、精製の対象であるイムノグロブリンには、モノクローナル抗体の重鎖可変領域であるVH鎖と軽鎖可変領域であるVL鎖のみからなる、いわゆるファージ抗体も含まれる。
本発明は、ヒト化又はヒト型IgGの精製においてもっともその価値が発揮される。
[本発明のポリペプチドの生産方法]
本発明のポリペプチドは、常法に従い、化学的・あるいは酵素的に、ポリペプチド合成装置等を用いて、一から合成することもできるが、まず対応する遺伝子を作製した後に、それを用いて発現させることもできる。
そして、この変異ポリペプチドの遺伝子は、後述する本発明の遺伝子の作製方法にも記載されている通り、公知の遺伝子組換え技術を使用して生産することができる。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAを含むベクターで宿主細胞を形質転換し、その宿主を培養することによって、本発明のポリペプチドを大量にかつ経済的に製造することができる。
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAは、部分的に重複する数十塩基の合成オリゴヌクレオチドに分割して準備し、それらをポリメレーゼチェーンリアクション(PCR)法等を応用して完成させる事もできる。または、同様の方法で作成した天然型のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNA(プラズミドDNAも含まれる。)をテンプレートにして、ミスマッチ塩基対を組み込んだ合成オリゴヌクレオチドをPCRのプライマーとして用い、意図した部位にアミノ酸の変異を導入し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAを完成させることもできる。
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAは、発現用ベクターに挿入する。発現用ベクターは、商業的に入手可能な各種のプラズミドが利用でき、特に限定されるものでは無いが、例えば、pET系ベクター(メルク社製,日本)又は、pRSET系ベクター(インビトロジェン社製,日本)が、使用実績も有り、宿主である大腸菌との組み合わせでポリペプチドを大量に発現し得るため好ましい。
発現用ベクターのクローニングサイトには、数種類のDNA制限酵素の認識配列が組み込まれており、特定の制限酵素を使用することで所定の場所で発現用ベクターを切断することができる。例えば、BamHIやNdelなどの制限酵素が市販されている(NEB社製など)。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAを、その切断場所に接合するには、市販のT4DNAライゲーゼが使用できる(NEB社製など)。
発現用ベクターと宿主細胞は適切に組み合わせて使用することが重要であるが、例えば、pET系ベクター及びpRSET系ベクターには、大腸菌のBL21(DE3)、又はC41(DE3)などの菌体を宿主細胞として使用することが好ましい。既に、プロテインAのドメインの発現に使用されており、上記のベクターとの組み合わせによってプロテインAの大量発現の実績もあるからである。
尚、予め融合タグとしてHisタグ遺伝子が組み込まれたpET15bプラズミド(メルク社製,日本)や、GSTタグ遺伝子が組込まれた、pET-41a-c(+)又はpET-42a-c(+)プラズミド(ともにメルク社製,日本)等を用いると、本発明のポリペプチドの精製に便利なため、好ましい。
発現用ベクターを導入して宿主細胞を形質転換するには、発現用ベクターと宿主細胞の混合溶液を数十秒間およそ42℃で処理するヒートショック法が使用できる。その他、混合液に電気パルスを適用するエレクトロポレーション法も同様に好ましい。
本発明のポリペプチドをコードするDNAを含む発現用ベクターが導入され、形質転換した宿主細胞は、適切な培地を使用して、常法により培養することができる。例えば、宿主細胞が大腸菌の場合には、(Luris-Bertani medium)LB培地又は2×TY培地などの液体培地が好ましい。
培養は、通常15℃から40℃の範囲で行うが、特に30℃から37℃が好ましい。培地を振とう、又は攪拌し、必要によっては通気やpHの調整を行うことが好ましい。ポリペプチドの発現誘導は、イソプロピル-1-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)等を培地に添加して行うことができる。
本発明のポリペプチドを発現した宿主細胞は、遠心分離又はフィルター分離等により培地から分離される。この宿主細胞を適切な緩衝液に懸濁して細胞破砕を行う。細胞破砕には、凍結と解凍を数回繰り返す凍結解凍法が使用できるが、より効率的に宿主細胞を破砕するには、超音波処理又は圧力処理を行うことが好ましい。さらに細胞破砕後に遠心分離を行うことで、本発明のポリペプチドを可溶性分画に回収することができる。
[一分子内に、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体を少なくとも2つ以上含む、本発明のポリペプチド]
「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体」(以下、「GG」と記載することがある。)を、一分子内に少なくとも2つ以上含む本発明のポリペプチドとは、一分子内に、イムノグロブリン結合ドメインとして、上述した本発明のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチドであるが、具体例としては、
「GG」を二つ含有するポリペプチド(以下、「2GG含有ポリペプチド」と記載することがある。),
「GG」を三つ含有するポリペプチド(以下、「3GG含有ポリペプチド」と記載することがある。),
「GG」を四つ含有するポリペプチド(以下、「4GG含有ポリペプチド」と記載することがある。)
等が挙げられる。
以下、これらを総称して、「nGG含有ポリペプチド」(GGを一分子内にn個含むポリペプチド:nは2以上の整数)と記載することがある。
nの数に特に上限は無いが、アフィニティークロマトグラフィー用リガンドとして用いる場合には、アフィニティークロマトグラフィー用支持体等やアフィニティークロマトグラフィー用カラムの大きさや種類等との相性から、「GG」の数nは、6つ以下であることが好ましく、更に好ましくは5つ以下,特に好ましくは、4つ以下である。
また、本発明の変異体である「GG」は複数種存在するが、この一分子内に複数含まれる「GG」は、必ずしも同一の「GG」である必要は無く、異なる種類のものであっても良いが、イムノグロブリンの分離・精製の精度を上げるには、“pH5〜9,60℃未満の条件下でのイムノグロブリンとの結合性の変化の傾向”が、類似しているものを選択することが好ましく、同一の「GG」を含むものが好ましい。
尚、この「nGG含有ポリペプチド」は、「GG」の他、「GG」同士を結合させるためのアミノ酸,その他のアミノ酸を含んでいても良い。
本発明の「一分子内に、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体を少なくとも2つ以上含むことを特徴とするポリペプチド」は、このような「nGG含有ポリペプチド」をコードする遺伝子を、予め製造して、プラズミドベクターに導入する方法も考えられるが、例えば次のようにすると、比較的容易に製造することができる。
例えば、本発明の「2GG含有ポリペプチド」は、上述の、本発明のポリペプチド「GG」の製造に用いたプラズミドベクターにおいて、「GG」遺伝子の下流に、更に当該ポリペプチド「GG」の遺伝子を導入することで製造できる。
導入に際しては、プラズミドに組み込まれた複数の制限酵素認識部位から、始めに導入したポリペプチド遺伝子が脱離することのないような組み合わせを選択する。
本発明の「3GG含有ポリペプチド」は、上述の、本発明のポリペプチド「GG」の製造に用いたプラズミドベクターに、「2GG含有ポリペプチド」遺伝子を導入する等して、製造することができる。
「2GG含有ポリペプチド」遺伝子は、「2GG含有ポリペプチド」の製造に用いたプラズミドから得られるが、このとき、適当なプライマーを用いて、PCR法等で増幅することにより、「2GG含有ポリペプチド」遺伝子の両端の制限酵素切断位置を自由に設計することもできる。
本発明の他の「nGG含有ポリペプチド」も、上述の様にして、容易に製造することができる。
尚、「nGG含有ポリペプチド」の製造に際しては、「GG」の製造用プラズミドに、後から導入する「(n-1)GG含有ポリペプチド」遺伝子内の「GG」同士の連結部位が、導入するプラズミドの開列部位と、同じ制限酵素で認識されるような組み合わせの場合、導入に際して「(n-1)GG含有ポリペプチド」が分解することも考えられる。従って、このような場合、「(n-1)GG含有ポリペプチド」内の「GG」連結部位である制限酵素認識部位を、部位指定変異法等を用いて改変し、プラズミドの開裂時に、「GG」同士の間で切断されないように処理しておくことが好ましい。
部位指定変異法を使用してXhoIの認識部位を改変するには、SerやAla等のアミノ酸1個に対応するDNAの配列を、XhoIの認識部位中に挿入することでも行える。この場合はポリペプチドの連結部位の少なくともに1箇所にSerやAlaなどのアミノ酸が1個挿入された融合ポリペプチドが生産される。
[本発明のプロテインA変異体]
本発明のプロテインA変異体は、上述の本発明のポリペプチドを分子内に含むプロテインA変異体である。
これは、プロテインAの遺伝子を用い、部位指定変異法等の公知の変異方法を用いて実施することができるが、プロテインA遺伝子中の、イムノグロブリン結合性ドメイン遺伝子を、それに対応する、本発明のポリペプチド遺伝子又はポリペプチド「nGG含有ポリペプチド」遺伝子と、相同組み換え等を用いて変換し、プロテインを発現させる等の方法も可能である。
[本発明のポリペプチド(「GG」,「nGG含有ポリペプチド」)及び変異プロテインAの精製]
可溶性分画から本発明のポリペプチド(「GG」,「nGGポリペプチド」)及び変異プロテインA等(以下、総称して「(本発明の)ポリペプチド等」と記載することがある。)を精製するには、公知のポリペプチド精製方法を用いることができ、例えば、塩析法とイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせること等で行える。アンモニア塩等を可溶性分画に加えることによって「本発明のポリペプチド等」を析出させた後、遠心分離で析出した「本発明のポリペプチド等」を回収し、適切な緩衝液に再び溶解させる。この段階での「本発明のポリペプチド等」の純度は70%から80%である。その後、陽イオン交換クロマトグラフィー又は/及び陰イオン交換クロマトグラフィーにより、「本発明のポリペプチド等」の純度を95%以上にすることができる。陽イオンクロマトグラフィー及び陽イオンクロマトグラフィーには、ResourceS、ResourceQ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製,日本)等の商業的に入手可能な支持体がそれぞれ使用可能である。
また、目的によっては、「本発明のポリペプチド等」のN末端又は/及びC末端に相当する遺伝子に、タグ遺伝子を導入したうえで発現させ、発現したタグを指標として、精製することもできる。
タグとしては、例えば2から6個のヒスチジンから構成されるタグ(以下、Hisタグ又は6×His等と記載することがある)や、グルタチオン-S-トランスフェラーゼから構成されるタグ(GST)タグ,マルトース結合ポリペプチド(MBP)タグ,カルモジュリン,Myc-タグ(c-mycタグ),FLAG-タグまたは緑色蛍光タンパク(GFP)等の公知のタグが挙げられるが、中でもHisタグやGSTタグ等が好ましい。
Hisタグは、サイズが小さいために免疫原性が低く、精製された「本発明のポリペプチド等」からタグを除去せずに精製に使用でき、「本発明のポリペプチド等」のN末端およびC末端のどちらにも配置でき、またHisタグ遺伝子を予め導入したプラズミドが、既に数多く市販されており、入手が容易である点で、最も好ましい。
タグの導入には、上述したように、予め融合タグとしてHisタグ遺伝子やGSTタグ遺伝子が組込まれたプラズミド等を用いる方法等が挙げられる。
タグが導入されたポリペプチドは、各々のタグに応じた公知の方法で精製することができるが、例えばHisタグの場合には、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー,GSTタグの場合には、グルタチオンを結合した親和性樹脂を利用した精製方法等を用いることができる。
金属キレートアフィニティークロマトグラフィーには、ニッケルチャージアガロースゲルであるNi-NTA(株式会社キアゲン製,日本)等の商業的に入手可能な支持体が使用できる。
タグの融合したポリペプチドは、そのままでも使用できるが、精製後、必要に応じて、タグを切り離して用いても良い。
タグの切り離しには、スロンビンやエンテロキナーゼ等を用いることができる。
従って、精製後にタグの切り離しを予定している場合には、例えばpET15bプラズミド(メルク社製,日本)等のように、スロンビン等の認識部位が予め導入されたプラズミドベクター等を用いることが好ましい。
[本発明のアフィニティークロマトグラフィー用材]
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用材としては、「本発明のポリペプチド等」を含むリガンド,当該リガンドを含むアフィニティークロマトグラフィー用支持体,当該支持体を含むアフィニティークロマトグラフィー用カラム等が挙げられる。
(本発明のリガンド)
「本発明のポリペプチド等」は、そのままでアフィニティークロマトグラフィー等に用いるリガンドとして使用可能であるが、アフィニティークロマトグラフィーによるイムノグロブリンの精製効率を上げるには、リガンド自体の純度が高い方が好ましく、例えば純度が95%以上のものが好ましく、更に好ましくは99%以上である。
(本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体)
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用リガンドを、アフィニティークロマトグラフィー用支持体としてアフィニティークロマトグラフィーに使用するには、当該技術分野で公知の適切な支持体に固定して行うことができる。支持体としては、プレート,試験管,チューブ,ボール,高分子やガラス製のビーズ,ゲル等のマトリックス,高分子等からなるフィルター膜,及びメンブレン等の、不溶性担体等が挙げられる。材質としては、例えば、アガロース、ポリアクリルアミド、デキストラン又は他の高分子ポリマー等多数が、商業的に入手可能であり、それらの固体支持体が任意に使用できる。
(本発明のリガンドの支持体への固定化方法)
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用リガンドを、アフィニティークロマトグラフィー用に、固体支持体に固定する方法としては、当該技術分野において周知であり文献に記載されている多様な技術が任意に使用できる(特許公開2006‐304633、及びPCT/SE03/00475に詳しく記載されている)。例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド等のカップリング剤、又はカルボキシル基又はチオール基等による固体支持体の活性化による固定化が好ましく挙げられる。
尚、リガンドとしては、上述の本発明のポリペプチドとして、pH5〜9,60℃未満の条件下、温度によって変化し得るイムノグロブリンとの結合性が同種のものを選択すれば、複数種類のポリペプチドを用いることができるが、イムノグロブリンの分離・精製の精度を向上し、かつ安定させるためには、主として単一種類の「GG」を含むリガンドを用いることが好ましい。
主として単一種の「GG」を含むリガンドとは、例えば、下記(1),(2),又は「(1)及び(1)と同種の「GG」を含む(2)との組み合わせ」等を言う。
(1)「GG」を含むリガンド
(2)「一分子内に、主としてと同一の「GG」を複数含むポリペプチド(nGG含有ポリペプチド)」を含むリガンド
(本発明のアフィニティークロマトグラフィー用カラム)
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用カラムは、充填するアフィニティークロマトグラフィー用支持体の少なくとも一部に、上述の本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体を用いることで、製造することができる。
[本発明のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法]
本発明のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法は、pH5〜9,60℃未満の条件下、アフィニティークロマトグラフィーを用い、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させる方法である。
(温度コントロール)
本発明の方法においては、温度のコントロールが重要となるが、温度をコントロールする方法としては、例えばアフィニティークロマトグラフィー用カラムの周囲に、循環する水等が直接接触するように循環用ジャケットを配置し、循環水等の温度を調節することにより該カラムの内部の温度を制御する方法等が挙げられる。
カラム内部の温度の確認は、カラム内に、例えば温度センサー等の微少な温度計等を内蔵させることによって測定するのが確実であるが、カラムからの溶出液の温度を、溶出後直ちに測定することでも可能である。
まず、該ジャケットを循環する水等の熱媒体の温度を、0〜15℃,好ましくは0〜10℃,より好ましくは5℃に調節することにより、該カラム内の温度を同様の温度にする。そして中性pHの適切な緩衝液で平衡化された該カラムにイムノグロブリンを含む試料溶液を注入した後、洗浄用の緩衝液(中性pH)を用いて該カラムに結合しない物質を完全に除去する。平衡化緩衝液及び注入する試料溶液及び洗浄用緩衝液の温度も目的とする温度に保っておくことが好ましい。
アフィニティーリガンドに結合しているイムノグロブリンは、前述同様に、該カラム内の温度を30〜45℃,好ましくは32〜38℃,より好ましくは37℃前後に安定させた後、同温度に保たれた溶出用の中性緩衝液を該カラムに注入することで、回収することができる。
この37℃という温度は、イムノグロブリンの由来である動物,特に産業上最も有用なヒトの体温に相当し、イムノグロブリンが、生物学的に安定して機能する温度である。しかも本発明の分離及び/又は精製は、血液と同じ中性条件下でイムノグロブリンの分離及び/又は精製ができるため、イムノグロブリンの会合・凝集・失活が問題とならないのみならず、イムノグロブリンが本来有している機能を、既知及び未知の機能を含めて、極力損なわずに回収することができ、その産業的意義は、極めて大きい。
緩衝液の温度を目的とする温度に保つには、当該温度に設定された恒温水槽に、緩衝液の容器又は緩衝液を該カラムに輸送する輸液チューブを接触させることで可能になる。恒温水槽の温度は、目的温度が室温よりも低いときはそれより数度低めに、目的温度が室温よりも高いときはそれより数度高めに設定することが、状況によっては好ましい場合がある。該カラムの温度調整の場合も同様に循環熱媒体の温度を設定することが、状況により好ましい場合がある。
(緩衝液)
上記で用いられる緩衝液としては、たとえば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液などが好まれる。
(支持体)
上記のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法においては、「本発明のポリペプチド等」を、少なくとも一部のアフィニティーリガンドとして用い、上記の方法で作成した、本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体を充填したアフィニティーカラムを用いて行うのが好ましい。
[「本発明のポリペプチド等」をコードする遺伝子]
本発明の「本発明のポリペプチド等」をコードする遺伝子は、本発明のポリペプチド(「GG」,「nGG含有ポリペプチド」),プロテインA変異体等を産生するために、具体的には、これらを産生し得るベクター等の構築等において、有用である。
本発明において「遺伝子」とは、アデニン(A),グアニン(G)等のプリン塩基や、チミン(T),ウラシル(U),シトシン(C)等のピリミジン塩基やそれらの修飾塩基を構成要素として含むポリヌクレオチドを意味し、一本鎖又は二本鎖のDNA,一本鎖又は二本鎖のRNA,一本鎖DNAと一本鎖RNAからなるハイブリッド体,RNAとDNAが結合して一本鎖となったキメラ体をも含むものである。
つまり、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子とは、バイオテクノロジー手法によって、直接又は間接的に、本発明のポリペプチド(イムノグロブリン結合ドメイン変異体やプロテインA変異体)を発現し得るものであれば、DNAでなくとも、RNA,DNAとRNAのキメラ等であっても良い。
具体的には、配列表において一本鎖として表示されているもののほか、これらと相補的な配列を有するものであっても良く、またこのような相補的な配列とともに、二本鎖として用いる場合もあり、これにはDNAとRNAのハイブリッドも含まれる。
本発明の「遺伝子」は、本発明のポリペプチド(「GG」,「nGG含有ポリペプチド」),又はプロテインA変異体等のアミノ酸配列から、容易にそのポリヌクレオチド配列を決定し、公知の手法で製造することができる。
具体的には、本発明の「遺伝子」は、常法に従いDNA合成装置等を用いて人工的に合成する,天然のプロテインAやイムノグロブリン結合ドメインの遺伝子をひな形として、それらの配列中、「本発明のポリペプチド等」において変異している部位に相当するヌクレオチド部分について、欠失,置換,付加,挿入等の方法で変異を導入する,目的とする配列と相補的な配列を用い、逆転写酵素やDNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ等によって目的の配列のものを合成させる等の方法によって製造することができる。
[本発明の、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法]
本発明の、イムノグロブリン精製用の、プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体の製造方法は、下記(1),(2)の工程を含むことを特徴とするものである。
(1)プロテインA変異体又はプロテインAのイムノグロブリン結合ドメイン変異体を選択する工程。
(2)pH5〜9,60℃未満の条件下、温度変化に応じてイムノグロブリンとの結合性が変化するものを選択する工程。
(1)及び(2)の実施順は、特に問わないが、(1)を行ってから、(2)を行うのが効率的であるため好ましい。
(1)において、変異体は、各種の新規変異体,又は公知の変異体から選択することができる。
(2)において、温度変化に応じてイムノグロブリンとの結合性が変化するものを選択する方法としては、例えば、(1)で製造した、候補となるプロテインA変異体とイムノグロブリンを、ある温度条件下で結合させ、イムノグロブリンの構造が不安定となる60℃よりも低い温度まで昇温し、緩衝液等で洗うことによって、イムノグロブリンが溶出するか否か等の方法が挙げられる。
具体的には、例えば0〜15℃,好ましくは0〜8℃,より好ましくは5℃付近の低温領域でのイムノグロブリン結合量に比べて、30〜45℃,好ましくは32〜38℃,より好ましくは37℃付近の高温領域でのイムノグロブリン結合量が少ないものを、選択することが好ましい。
「本発明のイムノグロブリン精製用装置」
本発明のイムノグロブリン精製用装置は、下記の(M),(N)を構成要件として含むものである。
(M)本発明のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いたアフィニティークロマトグラフィー用カラム
(N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
(N)のうちの、「カラム内の温度を制御しうる手段」としては、カラムに内蔵又は連結された温度自動調節器(サーモスタット)その他の温度調節器等の温度制御手段のほか、温度制御された循環溶液が直接又は間接的にカラムに接触するように配置された、循環用ジャケット等が挙げられる。
また、このほか、温度制御手段は、カラムに流す、分離・精製用試料,洗浄用溶液,溶出用溶液の為の容器に内蔵又は連結されたものであっても良い。
(N)のうちの、「カラム内の温度を測定し得る手段」としては、カラム内の温度を直接測定する手段のほか、カラムに適用する分離・精製のための試料,洗浄用溶液,溶出用溶液や、カラムから溶出した溶出液の温度を測定することにより、カラム内の温度を間接的に測定する手段をも意味するものである。
カラム内の温度を直接測定する手段としては、例えばカラム内に内蔵させた、温度センサー等の微少な温度計等に例示される各種の温度計,その他の温度測定手段等が挙げられる。
カラム内の温度を間接的に測定する手段としては、具体的には、カラムに流す、分離・精製のための試料,洗浄用溶液,溶出用溶液等を入れる容器や、カラムからの溶出液を回収する容器等の内部を測定するための、温度センサー等の微少な温度計等に例示される各種の温度計,その他の温度測定手段等が挙げられるが、この温度測定手段は、必ずしも、容器等に、物理的に結合されている必要は無い。
[実施例1:Bドメインをもとにした本発明のポリペプチド]
(本発明のポリペプチドのDNA作成)
本発明のイムノグロブリン結合Bドメイン変異体の、アミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを構築する過程を図1にあらわした。
大腸菌を宿主として発現させるために最適化した、Bドメイン(配列番号1)の19位及び22位のLeuをそれぞれGlyに置換し、かつ29位のGlyをAlaに置換した「本発明のポリペプチド(配列番号9)」のアミノ酸配列に対応するDNAの配列等を、下記表1に示す配列番号3から8のオリゴヌクレオチドに分けて合成した。オリゴヌクレオチド配列番号3,5,7は該DNA配列のセンス側をコードし、オリゴヌクレオチド配列番号4,6,8は該DNA配列のアンチセンス側をコードしている。
Figure 0005522723
実施例1のポリペプチドのアミノ酸配列に対応するDNAの配列において、配列番号の隣接しているオリゴヌクレオチドは、表1及び図1に示すように、互いに補完的な塩基対を21個から27個を含んでおり、適切な温度条件により図のようにアニーリングするように設計されている。
該合成オリゴヌクレオチド混合溶液にDNAポリメレーゼ等を添加した試料溶液に対して、PCRと同様の変性・アニーリング・エクステンションの温度サイクルを15〜20サイクル行うことで、オリゴヌクレオチドのギャップを埋めて、相互補完的な2本鎖DNAを完成させ、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応する配列を含む全長2本鎖DNAを完成させた。
該ポリペプチドのDNA配列は、N末端側がNdeIの認識部位、C末端側がXhoIの認識部位となるように設計した。
該DNAの両末端を、制限酵素(NdeI及びXhoI)を用いて切断した後、アガロースゲル電気泳動を行い、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製,日本)を用いて本発明のイムノグロブリン結合Bドメイン変異体に対応する全長2本鎖DNAを精製した。
(本発明のポリペプチドを発現するベクターの作成)
本発明のイムノグロブリン結合ドメインのアミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを含む発現用ベクターpET-GGを構築する手順を図2に表した。制限酵素(NdeI及びXhoI)を用いて、pET15bプラズミド(メルク社製,日本)のクローニングサイトを切断した。該プラズミドをQIAquick DNA cleanup system(キアゲン社製,日本)を用いて精製した後、T4DNAリガーゼを用いて、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に対応する全長2本鎖DNAを該プラズミドのクローニングサイトに接合するライゲーション反応を行い、本発明のポリペプチド(以下「GG」と記載することがある。)を発現し得るプラズミドベクターを得、「pET-GG」と名付けた。
pET-GGのクローニングサイトの図を、図3に示した。
(形質導入とプラズミドの増殖)
上記で得られたプラズミドベクターを用いて、ヒートショック法により、XL1-Blueコンピテントセル(日本ジーン社製,日本)の形質転換を行った。その反応物を50mg/lのアンピシリンを含むLB(以下、Amp-LBと略記する)培地プレートで18時間増殖させた。該プレート上に出現したコロニーをAmp-LB液体培地に接種し、18時間増殖させて本発明のプラズミドで形質転換された大腸菌クローンを選択した。
(プラズミドベクターの精製)
この大腸菌株から、QIAprep Spin miniprep kit(キアゲン社製,日本)を使用して、本発明のポリペプチドの発現用ベクターpET-GGを精製した。
この発現用ベクターを用いれば、下記の用にして、本発明のポリペプチドを発現させることができる。
(ポリペプチドの発現と、タグの切断)
pET15bプラズミドを用いて製造したpET-GGを用いて、例えば、下記実施例2で用いたBL21(DE3)等のような適当な発現用大腸菌を形質転換することによって、本発明のポリペプチドが生産される。この際、N末端側にHisタグ(6×His)とタンパク質制限酵素スロンビンの認識配列等が接合された融合ポリペプチドとして生産される。
尚、Hisタグは必要に応じて、スロンビンを用いて該ポリペプチドから切り離すことができる。その場合該ポリペプチドのN末端側にGly及びSerが付加される。
[実施例2:「2GG含有ポリペプチド」]
ポリペプチドを2つ連結した融合ポリペプチドの生産は、下記の方法で行うことができる。
(ポリペプチドを2つ連結した融合ポリペプチドを生産するプラズミド)
本発明の「2GG含有ポリペプチド」を製造するため、「GG」を製造し得る実施例1のプラズミドに、本発明のポリペプチド遺伝子を追加導入する。
実施例1において作成されたポリペプチドのDNA配列は、N末端側がNdeIの認識部位、C末端側がXhoIの認識部位となるように設計したが、pET-GGには、XhoIの認識部位の下流にBamHIの認識部位がある。そこで、pET-GGをXhoIとBamHIを用いて切断する一方、追加導入するポリペプチドのDNA配列のN末端側が、XhoIの認識部位、C末端側がBamHIの認識部位となるように設計しなおす。そして、当該ポリペプチドのDNAを、既存のポリペプチドのDNAのC末端側に挿入したpET-2GGを作成する。切断されたプラズミドと本発明のポリペプチドのDNAの接合には、T4DNAリガーゼが使用できる。
pET-2GGにより生産される融合ポリペプチドは、Hisタグ(6×His)−スロンビン認識部位−ポリペプチド−ポリペプチドとなる。
[実施例3:「3GG含有ポリペプチド」]
3個のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを作成するには、下記の様にすれば、容易に実施することができる。
pET-2GGの2つのポリペプチド遺伝子の間にあるXhoIの認識部位を、部位指定変異法を使用して改変することで、ここで切断されないように処理する。この「2GG含有ポリペプチド」遺伝子を、N末端側がXhoIの認識部位、C末端側がBamHIの認識部位となるように設計したプライマーを使用して、通常のPCR法で増幅する。
これを、XhoIとBamHIを用いて切断したpET-GGに挿入する。これにより作成されるプラズミドは、pET-3GGであり、生産される融合ポリペプチドは、Hisタグ−スロンビン認識部位−ポリペプチド−ポリペプチド−ポリペプチドとなる。
[実施例4:「4GG含有ポリペプチド」]
4個のポリペプチドを含む融合ポリペプチドを作成するには、pET-3GGを用いて「3GG含有ポリペプチド」遺伝子を作成する等して、実施例3と同様の手順で行える。
[実施例5:目的タンパク質の発現及び精製]
構築したプラズミドpET-GGを用いて、BL21(DE3)コンピテントセル(日本ジーン社製,日本)をヒートショック法を用いて形質転換し、その反応物をAmp-LB培地プレートで18時間増殖させた。該プレート上に出現したコロニーをAmp-LB液体培地に接種し18時間増殖させて、本発明のポリペプチドを発現する大腸菌株を得た。この大腸菌株を50mg/lのアンピシリンを含む2×TY液体培地に接種し、600nmにおける吸光度が0.7から0.8程度に達するまで、37℃で振とう培養をした。その後、最終濃度が1mMになるようにIPTGを加え、さらに30℃で18時間振とう培養を続けて、本発明のポリペプチド(以下、「BGG」と記載する。)を含む融合ポリペプチドを発現させた。
[実施例6:本発明のポリペプチドの精製]
本発明のポリペプチドを発現させた大腸菌を遠心分離によって回収し、20mMイミダゾール、0.5M NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に懸濁した。この懸濁液に懸濁された大腸菌を凍結解凍法で破砕し、遠心分離によって目的の融合ポリペプチドを上澄みに回収した。この上澄みをNi-NTA(キアゲン社製,日本)に負荷し、40mMイミダゾール及び500mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でNi-NTAを十分洗浄した後、250mMイミダゾール及び500mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)を用いて本発明のポリペプチドを溶出させて回収した。本発明のポリペプチドの純度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、SDS-PAGEと略記する)によって確認した。ポリペプチドの濃度はTyrの276nmにおける吸光度で決定した。
[実施例7:本発明のアフィニティークロマトグラフィー用支持体]
本発明のポリペプチドからなるリガンドのアフィニティークロマトグラフィー用支持体への固定化は、HiTrap NHS-activated HP(GEヘルスケアバイオサイエンス社製,日本)を用いて行った。該カラムにはアガロースを固体支持体とし、6原子からなるスペーサーを挟んで活性化されたN-ヒドロキシスクシンイミドが結合された支持体が充填されている。カップリング剤としては、200mM NaClを含むNHCO3緩衝液(pH8.3)を用いて、本発明のポリペプチドを該カラムに固定化した。
[実施例8:本発明のポリペプチドを固定化したカラムを使用したIgGの精製]
5℃に調整した恒温水槽に入れて十分な時間をおくことにより、該カラムの内部の温度を5℃に調整した。同じく恒温水槽に入れて5℃に調整した100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に5.0mg(280nmの吸光度により決定)のヒトIgGを溶解させ、その試料溶液を該カラムに負荷した。該カラムを5℃の100mM Naclを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で十分に洗浄した後、該カラムを37℃の恒温水槽に移し、37℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でヒトIgGを溶出させた。溶出した試料溶液の280nmの吸光度を測定することにより、4.8mgのヒトIgGを回収できたことが判明した。
尚、溶出した試料溶液においてIgGの会合・凝集の発生は認められなかった。つまり、本発明の分離及び/又は精製方法で、活性を有したIgGの状態で、96%の収率が達成できた。
これは、従来の、プロテインAやBドメイン等を用いた場合の、活性IgGの回収率から考えると、驚異的な値である。
図4において、そのクロマトグラフを示した。
また、この分離及び/又は精製速度は、従来のpH変化による方法に劣らないイムノグロブリンの溶出スピードを有しており、産業用途においても、十分利用可能であることが分かった。
[実施例9〜20:各種の本発明のポリペプチド]
下記表2に示したテンプレートプラズミドとプライマーを用いて、表3に示す、各種の本発明のポリペプチドを作成した。
尚、変異部分の表現は、配列番号2のポリペプチドとの差の部位を示している。
具体的には、以下の通りにして行った。
(配列番号2のポリペプチド(PWT)を発現するベクターの作成)
実施例1で作成したpET-GGを用いて、部位指定変異法を使用して、配列番号2のポリペプチド(PWT)を発現するベクター(pET-PWT)を作成した。
このベクターは、本発明のポリペプチドの基礎となる、配列番号2のポリペプチドをコードするベクターであり、これをもとに、所望の変異を導入したプライマーを用いて複製することによって、他の、各種の本発明のポリペプチドを作成することができる。
尚、このベクターを作成するにあたり、実施例1で作成したpET-GGを基準にしたのは、単に便宜的な理由からであり、他の製法で作成しても、勿論構わない。
pET-GGをテンプレートとし、表2に示した2本のプライマーを使用して、PCRと同様の変性・アニーリング・エクステンションの温度サイクルを15から20サイクル行った。
この反応に使用した溶液は、テンプレート及びプライマーに加えて、pfu turbo DNAポリマレーゼ(キアゲン社,日本)等のDNA増幅に必要な成分を含む。
この反応の結果、pET-GGにおいて19位及び22位のGlyが共にLeuに置換された配列番号2のポリペプチドの発現用ベクターを得た。以下、このベクターをpET-PWTと記すことがある。
その後、pET-PWTを用いて、ヒートショック法により、XL1-Blueコンピテントセル(日本ジーン社,日本)を形質転換した。その反応物をAmp-LB培地プレート上で、37℃で約18時間培養した。
該プレート上に出現したコロニーをAmp-LB液体培地に接種し、37℃で約18時間振とう培養し、pET-PWTで形質転換された菌体を選択及び増殖した。
(pET-PWTの精製、PWTの発現、及びPWTの精製)
pET-PWTの精製は、pET-GGの精製と同様の方法で行った。pET-PWTにコードされたポリペプチドの発現及び精製等は、[実施例5]及び[実施例6]に記述されている、pET-GGと同様の方法を用いて行った。この発現したポリペプチドは、pET-GGを用いて発現したポリペプチド(BGG)と同様の融合ペプチドである。
(実施例9〜20のポリペプチド用のプラズミドベクターの作成、ポリペプチドの発現及び精製)
実施例9〜20ポリペプチドを発現するプラズミドは、表2に示しように、各テンプレートプラズミドと所望の変異を含むプライマーとを組み合わせて、pET-PWTと同様の方法で作成した。それらの増幅および精製は、pET-GGと同様の方法で行った。それらのプラズミドベクターを用いたポリペプチドの発現及び精製は、pET-GGと同様に行った。これらの発現した実施例9〜20のポリペプチドは、pET-GGを用いて発現したポリペプチド(BGG)と同様に融合ペプチドである。
(PWTおよび実施例9〜20のポリペプチドのアフィニティークロマトグラフィー支持体)
PWTおよび上記の変異体のアフィニティークロマトグラフィー支持体への固定化は、実施例7と同様に行った。
(PWTおよび実施例9〜20のポリペプチドを固定化したカラムを使用したIgGの精製)
2〜5℃に調整した恒温水槽に入れて十分な時間をおくことにより、該カラムの内部の温度を1〜5℃に調整した。同じく恒温水槽に入れて1〜5℃に調整した100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)に1.6mgのヒトIgG(フルカ社)を溶解させ、その試料溶液を該カラムに負荷した。該カラムを1〜5℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で十分に洗浄した後、該カラムを37℃の恒温水槽に移し、37℃の100mM NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)でヒトIgGを溶出させた。溶出した試料溶液の容量と280nmの吸光度とを測定することにより、ヒトIgGの回収率(精製率)を決定した。
各実施例9〜20のポリペプチドの、IgG回収率を表4に示す。また、比較のために、実施例5のポリペプチドのIgG回収率も、表4に併せて表した。
更に、変性ギブス自由エネルギーの差と、IgGの回収率の関係を図5,6に示した。
(BGG(L19G+L22G)の回収率について)
尚、実施例8(IgGの精製)において、実施例5のBGGを用いてヒトIgGを精製した時、BGGは96%のIgG回収率を示した。今回、実施例9〜20のポリペプチドと同じ条件で、再度、実施例5のBGGを用いたIgGの回収実験を行ったところ、表4に記載した通り、その回収率は、何度確認しても、一定して約75%であった。
この原因を確認するために、先に実施例8で使用したヒトIgGをゲル濾過カラムで分析した結果、この試験において用いたヒトIgG(異なるパッケージの製品)には見られない、不純物が混入していたことが判明した。
従って、このBGGを用いた際の回収率の違いは、単に、精製対象であるイムノグロブリン中の不純物の有無によるものと考えられる。
(プロテインの各変異体のΔΔGPWT の値とIgGの回収率)
実施例5及び実施例9〜20のポリペプチドそれぞれの、ΔΔGX-PWT (対象の変異体XのΔGX からPWTのΔGPWT を減算した値)を、IgGの回収率等と共に表4に示す。
尚、これらの値は、上述した通り、公知のプロテインAのBドメインの変異体のΔG等(非特許文献3及び4)を用いて算出した。
この表4から明らかなとおり、該条件下で55%以上のIgG回収率を得るためには、ΔΔG X-PWT が、約-12.6kcal/mol(BGA21)から約-7.8kcal/mol(BGG17)の範囲にあることが必要であると突き止めた。さらに、ΔΔG X-PWTが約-9.2kcal/molの時(BGG13)、回収率91%を達成しているとこを突き止めた。
尚、図5によれば、おそらく、ΔΔG X-PWTが、約-11〜-10kcal/mol,特に、-10.2kcal/mol前後で、回収率がピークになると予測される。
(本発明のポリペプチドのΔΔG X-BGG の値とIgGの回収率)
BGG(実施例5),BGG11(実施例9),BLG18(実施例14),BLG19(実施例15),BLG21(実施例16),BLG28(実施例17),及びBLG32(実施例18)は、72〜78%の回収率を有する。
これらのポリペプチドは、すべて22位のLeuがGlyに置換された変異を含む。
このような、22位のLeuがGlyに置換された本発明のポリペプチドのΔGは、PWTと比較して著しく不安定であるため、現在の標準的技術レベルでは、それらのΔGを正確に決定することが困難である。したがって、該変異を含む本発明のポリペプチドのΔΔG X-PWTを決定することは難しい。しかしながら、それらのポリペプチドのひとつを基準として、相対的なΔGの差を算出することは可能である。
たとえば、実施例5のBGGを基準とした相対的なΔGの差、すなわちΔΔGX-BGG は、非特許文献3及び4にある数値より算出可能である。その算出の結果、上記変異体(BGG11(実施例9),BLG18(実施例14),BLG19(実施例15),BLG21(実施例16),BLG28(実施例17),及びBLG32(実施例18))のΔΔG X-BGGは、-0.5〜+1.5kcal/molの範囲内であることを突き止めた(表4参照)。
したがって、ΔΔG X-PWTを決定することが難しい場合であっても、その安定性がBGGの安定性と比較して、-0.5〜+1.5kcal/molの範囲内であれば、同等の回収率を得られることが分かった。
また、表4の結果を図示した図6からは、-1 kcal/mol≦ΔΔG X- BGG ≦1.5 kcal/molでも、同等の回収率を期待できることが判明した。
(高回収率を得られるΔΔG X-PWTの範囲)
また、ΔΔG X-PWTが-9.2kcal/molであるBGG13が回収率91%を有することから、ΔΔG X-PWTがこの近辺の値であれば、BGG13以外の変異体であっても、同様の高い回収率を期待できる。
各々のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーと、当該ポリペプチドを用いて、IgGの精製を行った結果を、表4に示す。
(溶出した抗体の会合・凝集試験)
尚、溶出した試料溶液をゲル濾過カラム(Superdex 200 10/300GL、GEヘルスケアバイオサイエンス社,日本)を用いて分析した結果、溶出した試料溶液において、IgGの会合・凝集の発生は認められなかった。
上記の結果をもとに、図5,6に、変性ギブス自由エネルギーとイムノグロブリン精製率の関係を示した。
尚、上述した通り、配列番号1のポリペプチドと配列番号2のポリペプチドの差は、配列番号1の29位のGlyが、配列番号2ではAlaになっている点のみである。そして、配列番号1は、配列番号2に比べて、変性ギブス自由エネルギーが0.9kcal/mol低いだけである。
従って、配列番号2を基準にした上記の変異体が、後述する実施例でイムノグロブリンの温度変化による回収率が高かったことに照らせば、実施例の変異体の29位をGlyにした配列番号1基準の変異体も、同様に、上述した好ましい変性ギブス自由エネルギーを有している筈であり、同等の性能を有すると考えられる。
[実施例21:本発明の他のポリペプチド]
実施例11のBGG13の23位のAsnをThrに、上述の部位指定変異法を用いて、置換したポリペプチドを作製した。
具体的には、表2に示したように、pET-GG13をテンプレートプラズミド,配列番号44,及び配列番号45のポリペプチドをプライマーとして用い、実施例9〜21のポリペプチドと同様に作製した。
得られたポリペプチドを、NT23BGG13(配列番号46)とする(表3参照)。
[試験例1:本発明のポリペプチドの耐アルカリ性試験]
実施例11のBGG13及び実施例21のNT23BGG13の各々を用い、イムノグロブリンの精製の複数回精製と、その間の、カラムのアルカリ洗浄を行い、アルカリ洗浄による、精製効率の変化(ポリペプチドの耐アルカリ性)を比べた。
BGG13またはNT23BGG13をカップリングさせたカラム(容量1ml)に、毎回、同一量のヒトIgG(1.0mg)(Fuluka社)を添加し、4℃で結合と洗浄をし、37℃で溶出したIgGの量を決定した。
決定の方法は以下で説明する。緩衝液は20mM Phospahte, 150mM NaCl,pH7.0の緩衝液を使用した。流速は、1.0ml/minであった。まず、NaOH処理前の溶出IgG量を決定した。その後所定の時間だけ0.1MのNaOHを該カラムに接触させた。次に前回と同一量のIgGを該カラムに添加し、同様に37℃で溶出したIgG量を決定した後、0.1MのNaOHを該カラムに所定の時間、接触させた。NaOH処理は室温で行った。
IgGの溶出量は、クロマトグラフ分析ソフト、Primeview Evaluation(GEヘルスケアバイオサイエンス社,日本)の機能を用いて、クロマトグラフ上の溶出IgGのピーク面積を計算して算出した。この溶出量を、対応する条件下での該カラムの精製能力とする。
そして、BGG13及びNT23BGG13それぞれについての、「NaOH処理後のIgG精製能力が、NaOH処理前の半分になるまでに要した、NaOHとの接触時間」(精製能力の半減期)を比較したところ、NT23BGG13の半減期は、BGG13の半減期の1.4倍に向上していることが分かった。
また、NT23BGG13の、NaOH処理前のイムノグロブリン回収率は、90%であり、BGG13と殆ど変わらなかった。
つまり、上記の結果から、ポリペプチド中のAsnをThrへ置換することによって、上述した様な、本発明の「イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化し得る」ことに加えて、当該ポリペプチドの、耐アルカリ性をも向上させ得ることが確認できた。
Figure 0005522723
Figure 0005522723
Figure 0005522723
尚、上記の実施例のポリペプチドは、いずれも、IgGの回収率が30%以上であることから、溶出前の、イムノグロブリンとの結合割合は、少なくとも30%以上有していることになる。
つまり、少なくとも、「配列番号1又は配列番号2のポリペプチドのイムノグロブリンとの結合割合」の30%以上であることが確認された。
何故なら、配列番号1や2のイムノグロブリンとの結合割合が、仮に100%であったとしても、その30%以上に、該当することになるからである。
純度の高いイムノグロブリンを、効率良く精製できる「本発明のポリペプチド等」は、ライフサイエンス研究,製薬,及び臨床検査分野等において極めて有用なものである。
本発明のポリペプチドの全長に対応する2本鎖DNAを構築する手順を表した図である。 本発明のポリペプチドの全長に対応する2本鎖DNAを含む発現用プラズミドを作成する手順を表した図である。 pET-GGのクローニングサイトの図である。 本発明のポリペプチドを使用して、実際にイムノグロブリンの精製を行った実験データをあらわした図である。使用された緩衝液は全て中性であり、負荷及び洗浄には5℃の、溶出には37℃の中性緩衝液を使用した。 変性ギブス自由エネルギーの差(ΔΔGX-PWT)とIgG回収率(イムノグロブリン精製率)の関係を示す図である。 変性ギブス自由エネルギーの差(ΔΔGX-BGG)とIgG回収率(イムノグロブリン精製率)の関係を示す図である。 配列番号1(Bドメイン),配列番号2(PWT),配列番号9(BGG)の配列を表す図である。

Claims (9)

  1. アフィニティークロマトグラフィーを用いた、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインの、下記(1)乃至(3)の全ての性質を有する変異体を含むアフィニティークロマトグラフィー用材を用い、温度変化によって、イムノグロブリンを溶出させることを特徴とする、イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
    (1)イムノグロブリンとの結合性が温度によって変化することにより、イムノグロブリンの結合と放出を行い得る。
    (2)ループ1の疎水性アミノ酸の置換を有する。
    (3)アミノ酸配列が、野生型プロテインAのイムノグロブリン結合ドメインと、90%以上の同一性を有する。
  2. イムノグロブリンの分離及び/又は精製方法であって、変異体が、pH5〜9,60℃未満の条件下、当該条件下でイムノグロブリンとの結合性が温度によって変化し得るポリペプチドであることを特徴とする、請求項1記載のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
  3. 配列番号1又は配列番号2のポリペプチドの変異体であって、下記(i)乃至iii)の全ての性質を有することを特徴とする、ポリペプチド。
    (i)pH5〜9,60℃未満の条件下、イムノグロブリンとの結合性が、温度によって変化することにより、イムノグロブリンの結合と放出を行い得る。
    (ii)少なくとも下記(ii-1)及び(ii-2)の置換を有する。
    (ii-1)19位のLeu及び/又は22位のLeuの、Ala又はGlyへの置換。
    (ii-2)29位のGlyの、Alaへの置換。
    (iii)アミノ酸配列が、配列番号1又は配列番号2のポリペプチドと、90%以上の同一性を有する。
  4. 請求項3記載のポリペプチドであって、ポリペプチドのギブス自由エネルギーが、下記式(I)乃至(III)の少なくともいずれかの条件を満たすものであることを特徴とするポリペプチド。
    ΔΔG X-BWT≦-3.3 kcal/mol (I)
    ΔΔG X-PWT≦-4.2kcal/mol (II)
    ΔΔG X-BGG≦4.2kcal/mol (III)
    (式中、ΔΔG X-BWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
    請求項3記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、BWT(配列番号1)の変性ギブス自由エネルギーΔG BWT の差ΔGX -ΔG BWT を表し、
    ΔΔG X-PWT とは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
    請求項3記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、PWT(配列番号2)の変性ギブス自由エネルギーΔGPWT の差ΔGX -ΔGPWT を表し、
    ΔΔGX-BGGとは、25℃,1気圧,pH5.5の条件下での
    請求項3記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGX と、配列番号9記載のポリペプチドの変性ギブス自由エネルギーΔGBGGの差ΔGX -ΔGBGGを表す。)
  5. 配列番号9及び10〜21,46のいずれかで表される、請求項3乃至4のいずれかに記載のポリペプチド。
  6. 一分子内に、請求項3乃至5のいずれかに記載のポリペプチドを少なくとも2つ以上含むことを特徴とする、ポリペプチド。
  7. 請求項3乃至6のいずれかに記載のポリペプチドから選択される少なくとも1つ以上を含むことを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用材。
  8. 下記(M)及び(N)を含むことを特徴とする、イムノグロブリン精製用装置。
    (M)請求項7記載のアフィニティークロマトグラフィー用材を用いたアフィニティークロマトグラフィー用カラム
    (N)カラム内の温度を制御しうる手段及び/又はカラム内の温度を測定し得る手段
  9. アフィニティークロマトグラフィー用材が、請求項7記載のアフィニティークロマトグラフィー用材であることを特徴とする、請求項1又は2記載のイムノグロブリンの分離及び/又は精製方法。
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