JP5515960B2 - 多層塗工膜の製造方法及び多層塗工膜 - Google Patents
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Description
多層塗工膜の形成方法としては、複数の塗工液を用いて、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式が知られている。該タンデム塗工方式では、下層塗工液が上層塗工液によって流されることのないよう、上層塗工液を塗布する前に下層を定着させておく必要がある。特に、水系塗工液を用いた多層塗工膜の製造では、1つの乾燥工程に非常に多くの時間及びエネルギーを要するため、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式では極めて多くの時間及びエネルギーが必要となり、該タンデム塗工方式は水系塗工液を用いた多層塗工膜の製造には適さない。また、タンデム塗工方式では、塗布と乾燥処理を繰り返すために、層間に必然的に空気が入り込むため、層間密着性が不十分となる傾向にある。さらには、層数を増やすほど異物混入の確立が高まるため、このことが歩留まりの低下につながる。
一方、上記問題を解決する方法として、走行する基材上に1回の塗布プロセスにより多層を形成する多層塗工方式が知られており、該多層塗工方式は、写真フィルム等の塗工プロセスに広く利用されている。多層塗工方式は、例えば図1に示すように、塗布ヘッド1における複数の狭いスリットから塗工液A及びBを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、重なりあった塗工液A及びBをロール3によって、走行する基材4上に転移させて多層塗工膜を形成するものである。
水系塗工液を用いた方法であって、このような多層塗工方式を採用した方法としては、ゼラチンをバインダーとするハロゲン化乳化剤を同時多層塗布し、その後冷却する方法(特許文献1参照)が知られている。この方法は、ゼラチンのゾル−ゲル変換特性を利用して多層膜をゲル化させて超高粘状態にし、層間の混合を起こり難くした上で熱風乾燥等により塗膜(塗工膜)を形成するものである。
本発明は、このような状況下になされたものであり、1回の塗布プロセスにより多層を形成する多層塗工方式であり、ゼラチン等のゲル化剤を用いる必要が無く、例えばハードコート性や透明性等の各種機能を付与し得る多層塗工膜の製造方法であって、複数の水系塗工液を一括で塗布することにより、層間の密着性に極めて優れる多層塗工膜を、簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該方法により得られる多層塗工膜を提供することを課題とする。
[1]複数の水系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した水系塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法において、積層しようとする2種の水系塗工液間に、該2種の水系塗工液のそれぞれに含まれる被膜形成成分の両方を含み、かつその合計濃度が、前記2種の水系塗工液の各濃度よりも高い水系塗工液を中間層として挿入することにより、多層化することを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。
[2]中間層として用いる水系塗工液における被膜形成成分の濃度が、積層しようとする2種の水系塗工液における各被膜形成成分の濃度よりも、少なくとも5質量%高い、上記[1]に記載の多層塗工膜の製造方法。
[3]積層しようとする2種の水系塗工液における各被膜形成成分の濃度がそれぞれ20〜50質量%である、上記[1]又は[2]に記載の多層塗工膜の製造方法。
[4]複数の水系塗工液をあらかじめ多層化する際に傾斜したスライド面を使用し、該スライド面の傾斜角度が、水平方向に対して5〜40度である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により得られた多層塗工膜。
本発明では、上記の通り、ゲル化剤等の添加剤を用いなくて済むため、添加剤による悪影響を排除でき、製造コストを低減することができる。
本発明の多層塗工膜の製造方法は、上記の通り、上層水系塗工液A及び下層水系塗工液Bをあらかじめ多層化し、多層化した水系塗工液を、基材上に転移させて多層塗工膜を製造する工程を含む。
上層水系塗工液A及び下層水系塗工液Bをあらかじめ多層化する方法に特に制限は無いが、例えば(1)傾斜したスライド面上にて多層化させる方法、(2)水平な平面状にて多層化させる方法、(3)円形シリンダー上にて多層化させる方法、(4)傾斜した放物面上にて多層化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、通常、方法(1)が好ましく利用される。
本発明は、積層しようとする2種の水系塗工液間に、該2種の水系塗工液A及びBのそれぞれに含まれる被膜形成成分の両方を含み、かつその合計濃度が、前記2種の水系塗工液の各濃度よりも高い「混合水系塗工液A/B」を中間層として挿入することで、明確な境界面は形成されないものの、全体としては層分離構造が確保された多層塗工膜を形成するものである。なお、該中間層を挿入しない場合、水系塗工液AとBは混ざり合ってしまい、層分離構造を保つことはできない。
水系塗工液A、水系塗工液B、及び混合水系塗工液A/Bは、媒体として水を含有する水系塗工液である。水系塗工液が含有する水としては、特に制限はなく、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。水系塗工液中の媒体としては、水以外に、アセトン、メタノール、メチルエチルケトン等の水溶性の有機溶剤が併用されていてもよい。媒体中における水の含有量は、本発明を工業的に実施する場合における環境保全の観点及び被膜形成成分の溶解性の観点から、媒体全量に対して80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%である。
(被膜形成成分)
水系塗工液A、B、及び混合水系塗工液A/Bに含有させる被膜形成成分としては、親水性であり、かつ被膜を形成し得る成分であれば特に制限はなく、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、けん化度50モル%以上のポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体、スルホン化度50モル%以上のポリスチレンスルホン酸、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩類等が挙げられる。
なお、前記PVA及びその誘導体のけん化度は、水溶性を高める観点から、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。また、ポリスチレンスルホン酸及びその誘導体のスルホン化度は、水溶性を高める観点から、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
被膜形成成分の重量平均分子量は、好ましくは5千〜100万、より好ましくは1万〜50万、さらに好ましくは5万〜20万である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である。
なお、ポリビニルアルコールの誘導体の具体例としては、カルボキシル化ポリビニルアルコール、スルホン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物等が挙げられる。
(その他の成分)
前記の各水系塗工液には、さらに必要に応じて、各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤、潤滑剤、滑剤等を含有させることができる。
なお、本発明における塗工液の固形分濃度及び粘度については、塗工可能な濃度及び粘度であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。
また、積層しようとする2種の水系塗工液A及びBにおける被膜形成成分の濃度に特に制限は無いが、水系塗工液の粘度、多層塗工膜形成性及び生産性等のバランスの観点から、通常、それぞれ好ましくは20〜50質量%、より好ましくは25〜45質量%である。積層しようとする2種の水系塗工液A及びBにおける被膜形成成分の濃度の比率(水系塗工液Aにおける被膜形成成分濃度/水系塗工液Bにおける被膜形成成分濃度)は、通常、2/1〜1/2が好ましく、3/2〜2/3がより好ましい。
さらに、中間層として用いる混合水系塗工液A/B中における水系塗工液Aの被膜形成成分濃度と水系塗工液Bの被膜形成成分濃度との割合は、積層しようとする上層水系塗工液Aにおける被膜形成成分濃度と下層水系塗工液Bにおける被膜形成成分濃度との比率に近いことが好ましく、具体的には、好ましくは2/1〜1/2、より好ましくは3/2〜2/3の範囲であればよく、この範囲であれば、積層しようとする2種の水系塗工液の混合を効率的に抑制できる。
挿入された前記中間層は、はじめは完全な混合状態であるが、2種の水系塗工液と接触後、中間層中の被膜形成成分の濃度が高いため、より濃度の低い部分へと移動すると考えられる。特に、親和性の高い同質材料、即ち、上下2種の水系塗工液に向かってそれぞれ移動しようとして分離を始めるため、上下の2種の水系塗工液同士が混合するのを抑制できたものと推測される。中間層と上下層との濃度勾配がある程度緩和された段階で、前記移動及び分離が停止するため、各層の境界面近傍から界面が消失している。そのため、層間の密着性が極めて高くなっている。
多層化した塗工液を転移させる基材に特に制限はなく、多層塗工膜を有する部材の用途によって適宜選択することができる。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム等のセルロース系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の塩化ビニル系フィルム;ポリビニルアルコールフィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム等のビニル系共重合体フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリメチルペンテンフィルム;ポリスルホンフィルム;ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム等のポリエーテル系フィルム;ポリイミドフィルム;フッ素樹脂フィルム;ポリアミドフィルム;アクリル樹脂フィルム;ノルボルネン系樹脂フィルム;シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられる。
これらの基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から、好ましく用いられる。
本発明においては、前述の通り、複数の水系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した水系塗工液を基材上に転移させる方法が採られる。
多層化する際に傾斜したスライド面を利用する場合、水系塗工液を流動させるための、傾斜したスライド面を有するものとしては、例えば図1に示すようなスライドコーターが好ましく挙げられる。なお、本発明においては、スライド面2上の水系塗工液A及びB用スリット間に、混合水系塗工液A/B用のスリットを設ける。
効率的に多層塗工膜を形成する観点から、スライド面の傾斜角度は、水平方向に対して5〜40度が好ましく、10〜35度がより好ましく、15〜35度がさらに好ましい。また、効率的に多層塗工膜を形成する観点から、スライド面上への水系塗工液の吐出口の中心と、隣り合う水系塗工液の吐出口の中心との距離は、8〜30cmが好ましく、10〜28cmがより好ましく、12〜26cmがさらに好ましい。さらに、効率的に多層塗工膜を形成する観点から、複数のスライド面上への水系塗工液の吐出口の内、水系塗工液を基材へ転移する部位に最も近い吐出口の中心と、基材との距離は、2〜14cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、4〜11cmがさらに好ましい。特に、このように設計されたスライドコーターを使用した場合に、本発明の効果が顕著に現れる傾向にある。
以下に、図1のスライドコーターを参照して、水系塗工液を多層化する方法の一例を詳細に説明する。
少なくとも3つのスリット状の吐出口を有する塗布ヘッド1における各吐出口から、それぞれ水系塗工液A、混合水系塗工液A/B及び水系塗工液Bを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、水系塗工液A及びBを混合水系塗工液A/Bを介して多層化する。多層化した水系塗工液(塗工膜)は、ロール3によって走行する基材4上に転移させる。
このようにして形成された乾燥後の多層塗工膜の厚さは、通常、0.1μm〜10μm程度、好ましくは1μm〜5μmであり、各水系塗工液からなる層が分離している。この層分離構造は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
ポリビニルアルコール(関東化学(株)製、重量平均分子量=約10万、けん化度=約80mol%)30g、純水(関東化学(株)製)70g、及び識別用着色剤としてインジゴ(関東化学(株)製)0.5gを室温で混合及び攪拌し、青色の水系塗工液1(ポリビニルアルコールの濃度:約30質量%)を得た。
ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業(株)製)35g、純水(関東化学(株)製)65g、及び識別用着色剤としてアントラキノン(関東化学(株)製)0.5gを室温で混合及び攪拌し、赤色の水系塗工液2(ヒドロキシエチルセルロースの濃度:約35質量%)を得た。
ポリビニルアルコール(関東化学(株)製、重量平均分子量=約10万、けん化度=約80mol%)45g、ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業(株)製)45g、及び純水(関東化学(株)製)70gを室温で混合及び攪拌し、水系塗工液3(ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールの合計濃度:約56質量%)を得た。
上記製造例1〜3で得た水系塗工液1〜3中の被膜形成成分の濃度について、表1にまとめる。
上層水系塗工液として製造例1で製造した水系塗工液1を用い、下層水系塗工液として製造例2で製造した水系塗工液2を用い、さらに中間層として製造例3で製造した水系塗工液3を用い、図1に示すような装置(ただし、スライド面2上の水系塗工液A及びB用スリット間に、混合水系塗工液A/B用のスリットを設けた装置を使用。スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、水系塗工液を基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と基材との距離;10cm)を用いて、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム「コスモシャインA4100」(東洋紡績(株)製)上に塗工した後、70℃のオーブン中で2分間乾燥し、塗工膜を得た。
該塗工膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、識別用着色剤を加えた上層及び下層の2層において、識別用着色剤の大幅な混合は見られず、良好な多層塗工膜の形成が確認できた。
実施例1において、中間層を挿入しなかったこと以外は同様にして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工膜を形成した。該塗工膜の断面をSEMで観察したところ、識別用着色剤が混合していて、層分離構造の形成を確認できなかった。
2:スライド面
3:ロール
4:基材
A:上層水系塗工液
B:下層水系塗工液
Claims (5)
- 複数の水系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した水系塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法において、異なる被膜形成成分を含有する2種の水系塗工液であって、積層しようとする2種の水系塗工液間に、該2種の水系塗工液のそれぞれに含まれる異なる被膜形成成分の両方を含み、かつその合計濃度が、前記2種の水系塗工液の各濃度よりも高い水系塗工液を中間層として挿入することにより、多層化することを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。
- 中間層として用いる水系塗工液における被膜形成成分の濃度が、積層しようとする2種の水系塗工液における各被膜形成成分の濃度よりも、少なくとも5質量%高い、請求項1に記載の多層塗工膜の製造方法。
- 積層しようとする2種の水系塗工液における各被膜形成成分の濃度がそれぞれ20〜50質量%である、請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
- 複数の水系塗工液をあらかじめ多層化する際に傾斜したスライド面を使用し、該スライド面の傾斜角度が、水平方向に対して5〜40度である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた多層塗工膜。
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